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2024-10-26

花とゆめ」史上最も重要マンガ10

10/27 27時ごろまでにいただいたブコメトラバをまとめました! お寄せいただいた知見に助けられております。ご興味のある方はぜひ。

anond:20241028032312

<以下本文>

集英社別冊マーガレット」の名編集長・小長井信昌が74年「花とゆめ」創刊編集長就任(のちに「LaLa」「ヤングアニマル」でも創刊編集長を務める)。氏が別マから引き抜いてきた漫画家が、最初期の「花とゆめ」を支えた。

美内すずえガラスの仮面』(1975~)

和田慎二スケバン刑事』(1975~82)

 2作まとめて、令和の今でも作品が生きているな、と思わせる説明不要の名作(前者は「連載中」ではありますが)。月刊誌→月2回刊化の目玉として2作同時に連載スタートコンテンツの息の長さに、編集長の慧眼が察せられる。

魔夜峰央パタリロ!』(1978~)

 主人公マリネラ王国国王パタリロに次いで2番手キャラクターはMI6少佐バンコラン。彼は主に美少年を愛好する同性愛者で、本作はギャグマンガだが 「同性愛であることそのもの」を揶揄していない点に、作者の品格を見る。

 作中に「ドイツギムナジウムで一緒だったんです」「11月ごろ?」というやり取りを挟むなど萩尾望都ファンであることがわかる。82年アニメ化。「花とゆめ」というより白泉社として最初アニメ化

(ここまでが集英社移籍組)

川原泉甲子園の空に笑え!』(1984

 どの作品を推すかが分かれる。世間的には『笑う大天使』(1987~88)が有名で傑作集を出す際のアンケートでも番外編の『オペラ座の怪人』(1988)が2位だが

 ・作者ご本人はまったくスポ根の人ではないのに、スポーツものに傑作がある

 ・甲子園という制度批評視点を投入 と、一歩踏み込んでいる本作をリストアップ個人的には『月夜のドレス』(1984)が好き。

日渡早紀ぼくの地球を守って』(198692)

 メディアミックスとしてはOVAのみであるが「前世ブーム」の火付け役として爆発的な人気を誇った。※ラジオドラマあり。ブコメご指摘感謝

 『スケバン刑事』のような「悪に対する憎悪」ではなく「優秀だが他人を寄せ付けない戦災孤児と品行方正な優等生との、互いに相反する感情」など愛憎の陰影が濃い大人びた作風に、当時の読者(主に10少女)は魅了された。

 「久しぶり 君には心底会いたかったよ 秋海棠」以上にインパクトのある「ひき」を未だに知らない。

佐々木倫子動物のお医者さん』(1987~93)

 こちらも説明不要の名作。菊池規子『わが輩はノラ公』(1973~78)以来人語を話すペットが出てくる作品はたびたび登場したが 「人語は解するけどしゃべれない(しかし主張はする)動物たち」が出てきたところが新機軸。よくない形で「ハスキーブーム」がありました…。

 ※飯森広一『ぼくの動物日記』(1972~75)はノンフィクションなので除外してます

(このあたりで「男性読者も多い花とゆめ時代終焉したと思っている)

羅川真里茂赤ちゃんと僕』(1991~97)

 続く『ニューヨーク・ニューヨーク』(1997~98)、『しゃにむにGO』(1998~2009)と第一線で花ゆめ本誌を支えた大功労者。『赤僕』は白泉社では初めて他社の漫画賞(小学館漫画賞・1994)を受賞。ヤングケアラー立場に置かれた小学5年生が主人公90年代父子家庭活写した作品となった。熱量のあるドラマ巧者。

中条比紗也花ざかりの君たちへ』(1996~2004)

 2006年台湾ドラマ化、2007・2011に日本、2012に韓国ドラマ化。そして今年、初のアニメ化が発表されている。日本ではプライム枠連ドラ案件で『ガラかめ』『スケバン刑事』とは違う、読者ターゲットを広く取れるラブコメが、あの「花ゆめ」から出たのだなぁと感慨。

高屋奈月フルーツバスケット』(1998~2006)

 アラサーアラフォーですかね)のオタク女子から作品名が挙がることが多い。

 2007年に「もっとも売れている少女マンガ」として、ギネスブック認定されているそうで2001年アニメ化・2019~21の再アニメ化・2022の劇場上映の実績は立派。十二支を背景にしたキャラ設定等、往年の「花ゆめ」らしさが光る(私見)。

(ここから00年代デビュー漫画家が飛んでしまます申し訳なし…)

師走ゆき多聞くん、今どっち!?』(2021~)

 連載中のラインナップで、今一番勢いがあると思われる作品アニメ化も決定。男性アイドルキャラ)・推し活…と、イマドキの設定は鈴木ジュリエッタ推し甘噛み」(2022~)でも同様で、ここが今の「花とゆめ」の現在地である

 ※「創刊50周年記念 花とゆめ展」ブックレットでは2人の対談が掲載されている

三原順はみだしっ子』(1975~81)

 選外ってありえないですよね。すみません…。

高口里純『久美と森男のラブメロディ』シリーズ(1979~82)

 『花のあすか組』(1987~95)が代表作でありつつ『グランマの憂鬱』(2015~)が昨年萬田久子主演でドラマ化もされている、息の長い漫画家

 1985年角川書店(当時)がコミック進出して地殻変動が起きた年で、そのタイミングで白泉専属ではなくなってしまった。 「別冊花とゆめ」連載「赤鼻のアズナブル」(1982~83)、別花短編だと「優しい瞳」(1984)が好き。

酒井美羽『マンハッタンサンセット』(1980)

 この方も白泉社を離れ角川へ。『ミミと州青さんシリーズ』(1979~85)が人気&今はなき「シルキー」でレディースたくさん描いてましたが、一瞬ミステリーサスペンスものも手掛けていました。こっち路線もよかったのになぁ。増刊号掲載『異国にて』(1984)がベストですが本誌掲載作ということで『マンハッタン』を。

柴田昌弘『第三の娘』(1980)

 別マ移籍組、和田慎二の盟友。『紅い牙 ブルーソネット』(1981~86)ですよね。とはいえこのシリーズ別マから移籍なので、あえて本誌掲載短編を選んでみました。綾波レイみたいなタイトルですが、まさに綾波のようなお話です(ネタバレ回避)。

河惣益巳ツーリングエクスプレス』(1981~87)

 ヨーロッパ舞台にした華やかな作風。ほかの作品海外モノ多し。

野間由紀パズルゲームはいすくーる』(1983~90)

 制服高校生ミステリもの嚆矢といってよいのでは。近い年次のデビューだと佐々木倫子よりずっと早くブレイクメディアミックスに縁がなかったのが不思議表題作では『消えた肖像画』が大変な秀作。1巻所収。

星野架名『緑野原学園シリーズ』(1983~92

 「花とゆめ」の「80年代後半のSFもの」のストーリーや絵柄の象徴キャラ造形についてはフォロワーがたくさんいた記憶

那須雪絵『ここはグリーン・ウッド』(1986~91)

 代表作はこれだってわかってるけど、白泉社作品なら私は『フラワーデストロイヤー』シリーズ最終編 『ダーク・エイジ』(1991)が好き。

山口美由紀プリンセス症候群』(1988)

 1巻完結の表題作かわいい短編集。所収の『月光夜曲ムーンライトセレナーデ−』がすごくよかったの、思い出しました。ビッグヒットがないの、なんでなんだ…。

山内直実なんて素敵にジャパネスク』(1988~93)

 氷室冴子原作ものの中で、長く支持されたコミカライズ成功例かと。

由貴香織里天使禁猟区』(1994~2000)

 すごく売れてた! 世界観が魅惑的で熱いファンが多く、「ぼく球」以来のビッグタイトルが出たと思いました。絵のタッチも今見ても素晴らしい。

山田南平紅茶王子』(1996~2004)

 代表作はこれだってわかってるけど「赤僕」より少し前にスタートした『久美子&信吾シリーズ』(1990~97)が好き。女子高生小学男子カップル物語大人になった坂田小沢にはハッピーエンドになってほしかったなー。

鈴木ジュリエッタ神様はじめました』(2008~16)

 いずれ『推し甘噛み』の人になるかもですが、まだこちらの方が有名かと。2012・15のアニメ化聖地巡礼企画も出ていました。

安斎かりん『顔だけじゃ好きになりません』(2020~)

 こちらも「推しもので、実写映画化が決定しています

<番外・別冊花とゆめ枠>

都戸利津『嘘解きレトリック』(2012~18)

オリジナルコミックス「環状白馬車掌の英さん」(2009)からずっと、ハートフルストーリーを展開。恋愛重視の作風ではない、往年(年配)の読者が考える「花ゆめらしさ」は別花に残っていたのかも。それがまさか月9原作。やはり時代は変わった。

明智抄サンプル・キティ』(1993~95)

ここまで挙げた白泉社作品の中では一番好き。とはいえ代表作は『始末人シリーズ』(1983~91)かと。このパターン多い。大大大好きな明智抄で(同人誌単行本未収録作品集」全5巻はコンプリート10選にも入れたかったのですが、作品リストを振り返ると『始末人』ですら本誌・別冊を行ったり来たり(後半は別花)、かと思うと「チツケイレン」の「アフロディーテはきずつかない」(1988)が単発で本誌に載ったりして、編集部運用どうしてたん…と。これからも読み続けることには変わりないのですが。

近作に抜け漏れ多くてすみません。明らかな抜けは増田知識アンテナが欠落している箇所です。とはいえ総論として、ガラかめ動物のお医者さんまでは不動かな、と。

もしよかったらブコメでいろいろと教えてください。

※著者名誤り、表記等一部修正しました。ご指摘ありがとうございました(深謝)。

2024-10-24

コミック花いちもんめ史上重要マンガ、というかマンガ10

https://anond.hatelabo.jp/20241012181121

https://anond.hatelabo.jp/20241023115157コミックジャンボ筆者がこっちにも手を出す。ブクマでは「ペンギンクラブ」のリクエストが多かったけど個人的にあの雑誌は汎用エロマンガ誌のイメージが高すぎて特定10人を選べない。買ってまで読んでないので書けない、というのもあるので、もう1つ知っているこちらの雑誌10選を考える。

で、コミック花いちもんめだが、メディアックスから出ていたコンビニエロマンガ誌。1991年から1995年まで存在し、なぜか名前コミックゲイザーに変わり、その数号後にコミックライズに変わった。変わったのは名前だけでほとんど内容は変わらなかったが、たぶん何か大人の事情があったんだと思わなくもない。

たぶん「コミックジャンボ」よりは新しい時期だし、他誌で活躍している人もけっこう含まれている。

美衣 暁「LUNATIC NIGHT」

雑誌時代前半で同誌を一番引っ張っていたのがおそらくこの人。そして同時にこの雑誌が発刊されていた時期はあの「有害コミック騒動」真っ只中の時期に一致しており、おそらく雑誌で最も影響を受けた人だと思う。マンガは「バビル2世」を彷彿とさせる眷属女性3人に主人公が振り回されるエロコメSFで、正直内容よりもそのへんの元ネタからパロディのほうが面白い状態だった。いずれにせよ絡みのシーンで大股開きするとその周辺が修正で全部白消しされたのは買ってる方としても可愛そうだった。まさか消される前提で最初から描いてなかったなんてことないよね?(当該シーンだと半分くらい真っ白もあった)

カズマ G-Versionエルフの若奥様」

メディアミックスとして考えると前述よりもこっちのほうがヒットしたかもしれない。掲載作はRPGファンタジーベース夫婦エロコメ種族の差のせいで交わえない夫婦と、それを解決するための冒険譚というのはまあアイデアで(これが初出かどうかは知らないけれど)同誌内にアイデアフォロワーすらいた(後述)。

陽気婢「古くて新しい関係

別にこの雑誌が彼のデビューではないが、存在感を見せつけていた。表題作は連載ではなく読み切りだが、おそらく当時の彼の作風を最も表していると思えるのでここに挙げた。

猫島礼通りすがりの猫」

個人的には役に立たなかったが、おそらく一般的には人気だった作家勘違いしがちだが表題作別に猫耳ものではないし獣姦ものでもない。実のところ印象としてはコミックライズ以降タイ移住して現地の邦字雑誌に連載を持っていたことのほうが印象が強い。

がぁさん「シィナのファブリオ」

正直な話、彼を紹介するためにこのエントリを書いたと言ってもいい。この人もデビューがこの雑誌ではないけれど、長い事この雑誌を中心に活躍していた。竹本泉を思わせる画風であまりエロくない(コメディ寄りの)作品を連発した。表題作は森の中に1人住んでいる女魔法使いが本人の希望とは全く関係なくエロ絡みの依頼ばかり受けてその解決のために活躍しまくるという話で、R-18制限ながらマンガ図書館Zで読むことが可能。同サイトにある「恋の活造り」「なんぎな恋の物語」「愛の妙薬・恋の化学」もだいたいがコミック花いちもんめ(後継含む)が初出。

くら☆りっさ放課後には魔道師」

こういう雑誌でたいてい1つ2つはある非エロ作品枠を長い事務めていた。表題作学校召喚部という精霊召喚目的とした部活動で起きるゴタゴタを描いた作品で、途中から異世界でのファンタジー的展開を見せる。

江川広実

レズものマンガで有名、と思ったら女性だった。この人に限らず、コミック花いちもんめ作家女性であることが確認できる人が多い。昔からエロ関係女性作家は多かったという説はあったが、それが明確になっていったのがこの頃からなのかもしれない。

いとう直

コミック花いちもんめ出身というとこの人を入れないわけにはいかない。いちおうこの雑誌近辺の新人賞受賞作家で、不定期だが継続的に単発を掲載していた。

はら さける「さくら天女」

こういう名前だが女性表題作はそこそこの人気で、単行本化されたが、発売の直前に本人が肺炎で死亡してしまった。

林家ぱー(志弦)「表紙」

花いちもんめ」「ゲイザー」「ライズ」の表紙を長い事務めていた。ペンネームは途中で「ぱー」から「志弦」に変更になった。本編は描いていないのでここに挙げるべきではないのかもしれないが、ここを足がかりにして出世、という意味では代表格なので挙げた(正直小林かずみ和田エリカのどちらを10人目にするか迷って決められなくなって彼女が入った)。

2024-10-23

コミックジャンボ史上重要マンガ、というかマンガ10

どうせ「コミックジャンボ」って知らない人も多いと思うので冒頭で説明しておく。

1988年4月(号)から2002年12月(号)まで存在していた月刊誌月刊誌といっても中綴じで、まあ典型的コンビニエロマンガ誌。存在と言ってもこの時期に発刊、休刊したわけではなく、1988年3月号まではコミックJUMBO、2003年1月からはCOMICジャンボという名称存在している。ただまあ名称変更の前後で少し編集方針が変わっているらしいので前後誌は今回対象にしない。発行は桃園書房

で、まあエロマンガ誌なので大抵の作品読み切りor単話。そんなわけで紹介するのは重要マンガ、というよりはマンガ家ということになる。ここは了承してほしい。

河本ひろし「表紙」

たぶん「コミックジャンボ」で画像検索すると画質がみんな似ていることに気がつくと思う。これは、コミックLOの表紙をずっとたかみち担当しているように、コミックジャンボの表紙はずっと河本ひろし担当していたから。おそらく自分より少し若い人はこの絵柄に馴染みがある人もいるかもしれない。この後彼はボンボンあたりの児童誌で活躍しているので。ただ、エロマンガ誌でありながら表紙がせいぜい控えめなパンチラくらいしかない絵は慣れていない若者レジに持ち込むための言い訳として非常にありがたかった。下手したら裏表紙ダイヤルQ2広告のほうがエロかったかもしれない絵なので(コミックジャンボ裏表紙ダイヤルQ2広告があったかははっきりとは覚えていない。他の雑誌混同しているかもしれない)。

時々掲載されているマンガ作風巨乳前提にしつつコメディタッチが多くて読みやすかった。

ものたりぬももだっち」

こちらも河本ひろし同様、児童誌でも活躍している。ただこちらは児童誌が先、というか、ゲームコミカライズで知られているかもしれない。一言で言って「みなづき由宇」と同一人物である。画風も巨乳前提ながら読みやすい。ちなみに星里もちるものたりぬアシスタントをしていたことがある。

ねぐら☆なお

正直、この人はコミックジャンボが主戦場ではなかったはず。それ以外の雑誌単行本で見ることのほうが多かった。少女マンガと思えるくらいの目の中の星が特徴的な人で、さらに彼を特徴づけていたのが「エロは和姦しか描かない」ということだった。しかコメディ的に逃げるのではなく徹底して和姦ということは実は当時けっこう特筆すべき特徴だったのだ。コミックジャンボ時期の絵はけっこうデッサンが崩れている(それはそれで味がある)のだけど、現在サイトを見るとかなり整っていて、続けるということの大事さを感じさせる。

有村しのぶ「てぃーんず・パラダイス

有間しのぶでも西村しのぶでもない。たぶん男性モデル体型のスラッとした女性を描く特徴のあるマンガ家で、リアルさはないのだけど周辺掲載巨乳マンガのためにむしろリアルに見えるという特徴があった。表題作高校新聞部舞台にした♂️1vs♀️2(or3)のエロコメで、エロシーンを除けば当時のラブコメとそれほど違いがないが、そのために「ラブコメにありそうでないこんな描写が」という意味で役に立った。「てぃーんず・パラダイス」そのものKindle Unlimitedで全て読むことが可能だが、何らかの事情再構成+タイトル変更されているので追いかけるのが難しい。「はいすくーる・スキャンダル」「てぃーんず・パラダイス」「あいつとスキャンダル」「放課後ランデブー」と読むと連載順に読める。なお作品大人気だったので続編として登場人物社会人にした「ぼくのアイジン」も連載された。これもKindle Unlimitedに収録されている。

わたなべわたる美奈子先生

巨乳で有名な人。あまり巨乳デフォルメが過ぎてむしろエロくないという画風かもしれないがやってることはエロである。おそらくコミックジャンボ方向性を最もわかっていた作家で、アニメ風のオタク絵でやることはちゃんとやるという展開は安心して使えた。おそらくコミックジャンボ掲載していたのが一番長い人。

つくしの真琴セクシャルバラエティ

かつて「サルでも描けるまんが教室」で「男向けのエロコメは回転寿司だ」と喝破されていたが、おそらく表題作がこの言葉念頭にあったかもしれないくらいに内容を表している。とは言えエロものエロい。ただ色シーンに少し前の劇画での描き方の残滓が見えるところを見ると、この雑誌エロ劇画誌とエロマンガ誌の橋渡しをしたと言えるのかもしれない。

てらおかみちお

陰影の少ない画風で、無理やり例えるなら浦沢直樹わたせせいぞう風に描いた感じ。古く見えるかもしれないが、バブル80年代後半にはこういう画風が一番オシャレだった。そういう意味では外せない人。

狼太郎

うるふ・たろう」と読む。画風としてはよく言えば当時の主流、わるく言えばありがちな絵で、ただ大事なのはそういうありがちな絵で他誌にはない絡みが描かれるのがコミックジャンボ醍醐味であったということだ。本人はバイク趣味があって、レーサータイプバイクを持ってよく夜中にツーリングしていたということを近況報告で描いていたが、今から思うとあれは宮崎勤のあれから来るオタクバッシングから逃避行動だったのかもしれない。

しのざき嶺「NIGHTMARE」

いちおう画風(特にデフォルメ時)としてはジャンボにありがちではあるのだけれど、ストーリーの陰惨さでは最もコミックジャンボ向きでない作家表題作逆恨みから始まる強姦からスタートする作品で、この後誘拐監禁ピアッシング奴隷契約、野外露出強制排泄、肛姦、獣姦近親相姦、多人数プレイSM雑誌ありがちなプレイをひと通り全てこなすというおすすめしないマンガ。作者はこのあとそっち系雑誌でいくつも同系統、もしくはさらに発展した作品を描いている。そもそもこの連載も途中で他誌に移籍している。

浅井裕Lovin'you

夫婦での共同ペンネーム。夫のほうはあさいもとゆき、と言えば思い出す人もいるかもしれない。「スパルタンX24周目では助けられる役のシルヴィアが襲ってくる」という情報マンガに描いた人だ。コロコロコミックでの連載のあと、共同名義にしてエロ進出した。正直、今回これを書くにあたって今年妻のほうが交通事故で亡くなったことを思い出さずにはいられない。Lovin’youマンガ図書館Zで無料で見られるのでそっちを見てほしい。

https://anond.hatelabo.jp/20241012181121

2024-10-18

月刊コロコロコミック史上、最も重要漫画10

週刊少年ジャンプ史上最も重要マンガ20選  https://anond.hatelabo.jp/20241012181121

週刊ビッグコミックスピリッツ史上最も重要マンガ5選 https://anond.hatelabo.jp/20241014232424

週刊ヤングマガジン史上、最重要漫画10選 https://anond.hatelabo.jp/20241016182953

月刊アフタヌーン史上、最重要漫画10選 https://anond.hatelabo.jp/20241017235116

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上記シリーズが好きなので、コロコロ大好きっ子の自分も書いてみた。

コロコロ小学生ターゲットとしているため、「自分子供の時に読んだ時代作品が一番で、それ以外の作品そもそもほとんどor全く知らない」となりがちと思われる。そのために「なぜこの作品が入っていないんだ!」という感想を抱かれやす可能性はあるかもしれない。なるべく公平に選んだつもりだが、あくま独断偏見による10であることをお断りしておく。

掲載年代順で、数字順位ではありません。

先達にならい、1作家最大1作品のみとしています

殿堂入りドラえもん/藤子・F・不二雄 連載期間1977年

いきなりの番外扱いで申し訳ないが、コロコロコミック自体が『ドラえもん』の総集編本として創刊された歴史があり、以降現在に至るまでコロコロコミックにとって『ドラえもんはいつの時代特別存在である。他の雑誌にこのようなスペシャルofスペシャル作品存在している例ってあるのだろうか? その存在感と功績は他と比肩できるものではなく、殿堂入りという形で別枠とさせていただく。

ちなみにコロコロコミックに掲載された『ドラえもん』は基本的に「小学一(~六)年生」といった学年誌などで発表された作品の“再録”で、藤子Fの生前コロコロ向けに新作が描かれたのは実は数話のみである。(『大長編ドラえもん』についてはコロコロコミック描き下ろし)

1 ゲームセンターあらし/すがやみつる 連載期間1979年1983年

コロコロコミック史だけでなく、マンガ史に燦然と輝く画期的な「ビデオゲーム漫画の始祖。

単に「ビデオゲーム」を題材とした作品というだけでなく、その後コロコロコミックは「ラジコン(RCカー)」や「ファミコン」「ミニ四駆」といった子供向けホビーを題材としたヒット作品を多数生み出すが、その礎を作った記念碑作品である企画コロコロ編集部発案によるものだが、この題材をすがやに描かせた慧眼も光る。

2 つるピカハゲ丸/のむらしんぼ 連載期間1985年1995年

「つるセコ」などの名台詞を生み出し、アニメ化もされたのむらしんぼ最大のヒット作。元よりギャグ作品の多かったコロコロの中でも当時際立ったヒット作となったが、この作品画期的ポイントとして「4コマ漫画」という点も見逃せない。当時でも4コマ漫画は“古典的”な形式と見られており、当時では新聞はじめ大人向けマンガ以外で見かけることは意外と少なかったが、児童誌にこのフォーマットを定着させた功績は大きい。

3 おぼっちゃまくん/小林よしのり 連載期間1986年1994年

後に『ゴーマニズム宣言』などの大人向け作品で名を馳せる小林よしのりだが、言うまでもなく元はギャグ漫画である常識外れに大金持ちのおぼっちゃま主人公で、ち○こやウ○コなど下ネタも多く小学生男子ハートをガッシリと掴む。「ともだちんこ」「こんにチワワ」などの茶魔語子どもたちの間でブームとなり、平成初頭のコロコロコミックを牽引する大ヒット作品となった。

4 ダッシュ!四駆郎/徳田ザウルス 連載期間1987年1992年

ホビー漫画に力を入れるコロコロ田宮模型タミヤ)とのつながりは深く、同社とのタイアップによるメディアミックス戦略は『ラジコンボーイ』(大林かおる/1983~1989年)を嚆矢とするが、その戦略が大きく花開いたと言えるのがこの作品田宮模型の「ミニ四駆」も、そしてこの作品もお互いの相乗効果で大ヒットを果たした。当時のミニ四駆ブームを牽引。

5 炎の闘球児 ドッジ弾平/こしたてつひろ 連載期間1989年1995年

熱血主人公の多いコロコロコミックだが、シンプルスポーツを題材とする漫画は意外と少ない。

その中で、スポーツ漫画といえば「野球」「サッカー」が多くを占めていた時代に、小学生には非常に馴染み深い「ドッジボール」をテーマにした新規性は、意表を突かれながらも「なるほど!」と唸らせられる。アニメ化のほか、ファミコンスーファミゲームボーイPCエンジンメガドラゲームギアと、当時発売されていたありとあらゆるゲーム機ゲーム化もされている(すげえ)。

6 スーパーマリオくん/沢田ユキオ 連載期間1990年~連載中

コロコロコミックにゲームコミカライズ作品は非常に多い。ヒット作も数多いが、その中でコロコロ代表する作品をどれか一作を選べと言われたら、これしか無いだろう。

任天堂の人気キャラスーパーマリオを題材とした沢田ユキオの超ロングランギャグ作品。連載開始は1990年で、なんと現在も連載中である昭和末期~平成以降に生まれ子どもなら、きっと誰もが一度は読んだことや目にしたことがあるであろう。

7 コロッケ!/樫本学ヴ 連載期間2001年~2006年

コロコロ歴史を語るうえで、80年代から活躍し『江戸っ子ボーイ がってん太助』『学級王ヤマザキ』などアニメ化されたヒット作も数多い樫本学ヴ作品を外すわけにはいくまいが、その中からコロッケ!』をセレクト。一話完結ギャグタイアップ作品の多いコロコロコミックとしては珍しい、連続冒険ストーリー漫画である。2年にわたるアニメ化、そして樫本学ヴはこの作品小学漫画児童部門を受賞した。

8 絶体絶命でんぢゃらすじーさん/曽山一寿 連載期間2001年~2010年(続編連載中)

21世紀コロコロコミックの『顔』である。じーさんと孫が織りなす子供向け不条理ギャグの大ヒット作品表題作2010年で連載終了しているが、続けざまに『でんぢゃらすじーさん邪』『なんと!でんぢゃらすじーさん』と20年以上に渡りコロコロ看板作品として現在も続編が描き続けられている。

9 ケシカスくん/村瀬範行 連載期間2004年~連載中

強烈で個性的文房具キャラクターが繰り広げるギャグ作品2004年連載開始、現在も続く超絶ロングラン作品であるでんぢゃらすじーさんと並び、長らくコロコロの2大ギャグマンガとして君臨。一話が短めでサクッと読める。SNSを見ると、コロコロコミックは卒業しても、このマンガだけは読み続けているという声もちらほら見られる。

10 怪盗ジョーカー/たかはしひでやす 連載期間2008年~2017年

どんなものでも盗み出す怪盗ジョーカー主人公としたたかはしひでやすのヒット作。魅力的なキャラクターたち、一部では強引とも評される(?)トリックも含め子どもたちの大きな支持を得た。

別冊コロコロに連載開始され、その後月刊コロコロ移籍。根強い人気でアニメシーズン4まで続く。別コロ時代を含めると10年以上という長期連載で、連載開始時に小学校高学年だった子どもは連載終了時にはもう大人だが、最終話は見届けられたのだろうかと気になる。

次点

作家作品縛りのため選外としたものも含め、次点作品を挙げておく。他の方の意見も聞いてみたい。

・とどろけ!一番(のむらしんぼ)1980-1983

ラジコンボーイ(大林かおる)1983-1989

がんばれ!キッカーズながいのりあき1984-1989

ファミコンロッキー(あさいもとゆき)1985-1987

あまいぞ!男吾Moo.念平)1986-1992

かっとばせ!キヨハラくん河合じゅんじ)1987-1994

ビックリマン竹村よしひこ)1987-1990

おれは男だ!くにおくん穴久保幸作)1991-1996

・爆走兄弟レッツ&ゴー!!(こしたてつひろ)1994-1999

爆球連発!!スーパービーダマン今賀俊)1995-2001

学級王ヤマザキ樫本学ヴ)1995-2001

ポケットモンスター穴久保幸作)1996-2002

超速スピナー橋口隆志)1997-2000

・うちゅう人 田中太郎ながとしやすなり) 1998-2004

ドラベース ドラえもん野球外伝むぎわらしんたろう2000-2011

ペンギンの問題永井ゆうじ2006-2013

2024-07-05

百年の孤独関係なくただ逆張りがしたい奴に薦める海外文学5冊+α

https://anond.hatelabo.jp/20240703191053

https://anond.hatelabo.jp/20240704181200

岡田知子&調邦行 訳「現代カンボジア短編集2」(カンボジア)

早速だが大同生命がやってる“アジア現代文芸”シリーズマジですげえよ。インドネシアとかスリランカラオスイランみたいな東南アジアから南アジアくらいまでの、日本じゃ見過ごされがちな国の文学しか訳してねえんだからしか電子書籍として無料で読めるしな (https://www.daido-life-fd.or.jp/business/publication/ebook) この「現代カンボジア短編集2」なんかクメール・ルージュ以前から90年代まれまで、ガチ現代作家短編しか入ってねえ。マジでこんなん読んだことねえわ。将来、浪漫主義とかフランス現代思想とかじゃなくて「アジア現代文芸に影響を受けました!」って新世代の小説家、現れねえかなあ。

キンキントゥー/斎藤紋子「短編集 買い物かご」(ミャンマー)

同じく大同生命の“アジア現代文芸”シリーズからなんやが、今も大変な状況にあるミャンマー文学もこのシリーズでは10冊くらい読める。特にオムニバス短編集がかなり出てて「ミャンマー現代女性短編集」やら「二十一世紀ミャンマー作品集」やらオススメなんだけども、より読みやすくかつ俺が一番最初に読んだって意味思い入れあるこの「買い物かご」薦めたいね市場って空間と買い物って行為を通じて、ミャンマーに生きる市井の人々の息遣いを知れるんだ。ニュース報道見ると同時に、こういう文学を読むのも重要やね。

カルロスフランス/富田広樹「僕の目で君自身を見ることができたなら」(チリ)

これはアレや、男と男のチンコ比べ本や。そしてその男と男ってのがドイツ人画家のヨハン・モーリッツ・ルゲンダスとイギリス人生物学者チャールズ・ダーウィンで、それだけでもスゲーのに、そのチンコ比べでチリ大地震まで起こるから超壮大や。体長の何倍もデカペニスを持つっていうフジツボまで出てきて、近年稀に見るほどのチンコ本だよ、コイツは。正直ミソジニーキツくてそういう意味じゃアカンけども、流麗華麗な文体で男たちのチンコ比べが描かれる様は一読の価値ありや。読んでどんな思いを抱いても責任は持たんけどな。

ジェス・ウォルター/上岡伸雄「ザ・ゼロ」(アメリカ)

この人はどっちか言うと、サスペンス小説方向性で受容されてるんだが、俺はこの本を“ドン・デリーロが書かなかった最良のドン・デリーロ作品”みたいに思ってる。テロリズムパラノイア不条理……訳者上岡伸雄、実際デリーロ訳者だしね。デリーロの「墜ちてゆく男」とエイミー・ウォルドマンの「サブミッション」と、この「ザ・ゼロ」で上岡9.11三部作や。中でも娯楽作に舵切ってるからこれがいっちゃん読みやすい、分厚いのにリーダビティ満載や。だが「美しき廃墟」以降、ウォルター作品が訳されてねえ。

レーナ・クルーン/末延弘子「スフィンクスか、ロボットか」(フィンランド)

レーナ・クルーンの本はね、読んでると涙ちょちょぎれちまうのよ、これが。この子供たちに向けて書かれた本なんかは少年少女の瑞々しい姿を描いていて微笑ましい一方で、俺ら大人が読むと、こう大人になるってこと、成熟するってことで失われる何かについて思いを馳せざるを得なくなってさ、それで俺、涙ちょちょぎれるんや。3つの短めな中篇が入ってるんだが、中でも表題作の「スフィンクスか、ロボットか」が一番いい。ラスト、マジ残酷すぎやろ。読んで言葉失っちゃったよ。

にしても児童文学ってのは扱いがムズいよ。児童文学ってのは何よりも子供たちに真摯に向きあうからこそ生まれる素晴らしい存在だが、その児童文学って括りが大人にとって読むに値しないように思わせる。かといって、例外的大人がその素晴らしさを語る際に「これは児童文学以上に“文学”だ!」とか言いそうになるが、こりゃ結局児童文学を下位のカテゴリーに入れてるからこその物言いだよな。児童文学出版に関わる全ての人々、そして何よりも子供たちに礼を欠く態度や。俺はこういうのに陥らんように、児童文学オススメしていきたいよな。

http://iuraichiro.com/perkthim.htm

あとイスマイル・カダレ、とうとう死んじまってこれまた泣けたよ。そんな今だからこそぜひともアルバニア文学翻訳者の井浦伊知郎のサイトを見てくれ。カダレの自伝小説「石の町の記録」や代表作「大いなる孤独の冬」の翻訳がこっから読める。他にもカダレに並ぶ大小説家ドリテロアゴリの「裸の騎士」とかアルバニア文学の名著がめちゃ置いてある。マジで信じられねえよ、これは。

2024-01-04

[]2023年後半に読んだ本

7月

読書11冊、ただし一部拾い読み)

山室信一キメラ 満州国肖像 増補版」★★

鈴木貞美満洲国 交錯するナショナリズム」★

ジャン=アンリファーブル「完訳 ファーブル昆虫記 第8巻 上」

渡邊大門宇喜多秀家と豊臣政権

福田千鶴「江の生涯 徳川将軍家台所役割

ジャン=アンリファーブル「完訳 ファーブル昆虫記 第8巻 下」

諏訪勝則黒田官兵衛 「天下を狙った軍師」の実像

坂野徳隆「風刺漫画で読み解く 日本統治下の台湾

地球の歩き方 E03 イスタンブールトルコの大地 2019-2020 【分冊】 1 イスタンブールとその近郊」

「A20 地球の歩き方 スペイン 2024~2025 (地球の歩き方A ヨーロッパ) 」

宮下遼物語 イスタンブール歴史-「世界帝都」の1600年』★★★

漫画

田中圭一うつヌケ」

ヤマザキマリとり・みきプリニウス12

美術

今月はなし。旅行の準備で忙しかった。

先月たくさん行ったしこれでOK

満州国については通史でしか知らなかったので、こうして改めて本で読み返すと得るものが多い。

8月

読書(14冊)

小笠原弘幸「オスマン帝国 繁栄衰亡の600年史」★★★

釘貫亨『日本語の発音はどう変わってきたか 「てふてふ」からちょうちょう」へ、音声史の旅』

今井宏平「トルコ現代史 オスマン帝国崩壊からエルドアン時代まで」★★

Jam「多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ」

維羽裕介、北國ばらっど、宮本深礼、吉上 亮「岸辺露伴は叫ばない」 

北國ばらっど、宮本深礼、吉上 亮「岸辺露伴は戯れない」

Jam「続 多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。 孤独も悪くない編」

田澤 耕「物語 カタルーニャ歴史 増補版-知られざる地中海帝国の興亡」★

今井むつみ秋田喜美「言語本質: ことばはどう生まれ進化たか

安藤 寿康 『能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ』

ジャン=アンリファーブル「完訳 ファーブル昆虫記 第9巻 上」

杉本智俊「【図説】旧約聖書考古学

杉本智俊「【図説】新約聖書考古学

ジャン=アンリファーブル「完訳 ファーブル昆虫記 第9巻 下」

美術

「デイヴィッド・ホックニー展」

イスタンブールバルセロナ旅行

旅先の歴史についての本や、旅先でも読めるくらいの軽さの本を読んでいる。岸部露伴地中海を飛び越える飛行機の中で楽しんだ。

言語学の本を少し含んでいる。

なお、イスタンブールドルマバフチェ宮殿には美術館が併設されており、そこにも行ったのだが流し見だった。今回の旅行テーマ絵画ではなく建築だったからだし、軍事博物館のイェニチェリの演奏を聞きたかたからだ。

9月

読書17冊+α)

長谷川修一「聖書考古学 遺跡が語る史実

福田 千鶴御家騒動大名家を揺るがした権力闘争

北國ばらっど「岸辺露伴は倒れない 短編小説集」

エマヘップバーン「心の容量が増えるメンタルの取扱説明書

ジャン=アンリファーブル「完訳 ファーブル昆虫10巻 上」

柞刈湯葉人間たちの話」★★

柴田勝家アメリカンブッダ

ジャン=アンリファーブル「完訳 ファーブル昆虫記 第10巻 下」★★★

柴田勝家走馬灯セトリは考えておいて」

下村智恵理「AN-BALANCE:日本非科学紀行 第S4話 露出狂時代

柞刈湯葉「まず牛を球とします。」

飯村周平『HSP心理学: 科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』

きい著、ゆうきゆう監修「しんどい心にさようなら 生きやすくなる55の考え方」。

堀晃 他「Genesis されど星は流れる元日SFアンソロジー

小川楽喜「標本作家」★

ブアレム・サンサル「2084 世界の終わり」

小川一水 他「Genesis 時間飼ってみた 創元日SFアンソロジー

人間六度スター・シェイカー」

漫画

荒木飛呂彦岸辺露伴 ルーヴルへ行く」

美術

トルコ共和国建国100周年記念 山田寅次郎展 茶人、トルコ日本をつなぐ」

柞刈湯葉柴田勝家も一度読んでから「しばらくは読まなくていいかな」と思ってしばらくしてから読みだした。柞刈湯葉表題作普段クールというか知的アイディアを軽やかに扱う感じではなく、意外な側面に驚かされた。柴田勝家Vtuber文化と死後のアーカイブ肯定的表現していたのが大変面白い

ブアレム・サンサルはもう何年も前にWIERD誌が紹介していたので読書メモに載せていたので読んだ。数歩遅れて読むことなどよくあることだ。僕は最先端を追うことにそこまで興味がない。

10

読書11冊)

十三不塔「ヴィンダウス・エンジン

フレドリック・ブラウンフレドリック・ブラウンSF短編全集1 星ねずみ

塩崎ツトム「ダイダロス

柴田勝家「ヒト夜の永い夢」

フランチェスコ・ヴァルソ (著), フランチェスカ・T・バルビニ (編集)「ギリシャSF傑作選 ノヴァヘラス」

オラフ・ステープルドンスターメイカー」★★

宮澤伊織 他「Genesis この光が落ちないように」

高水裕一「時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて」

奥本大三郎ランボーはなぜ詩を棄てたのか」★

フレドリック・ブラウンフレドリック・ブラウンSF短編全集2 すべての善きベムが」

トーマス・S・マラニー「チャイニーズタイプライター 漢字技術近代史」★★

SFが多くを占めた。面白いが徐々に飽きてくる。新人賞作品は読んでいるそのとき面白いんだけど、新しい思考の枠組みや発想に触れて、それが後まで自分に影響を与え続ける作品ってのは少ないのかも。

逆に星新一の源流の一つ、フレドリック・ブラウンなんかは、古びたアイディアと今でも色褪せないアイディアの両方がある。

タイプライター歴史面白く感じられた。あとは、純文学が少し恋しい。

他に読みたいのは歴史の本かなあ。それか、第二次世界大戦舞台とした小説か。「火垂るの墓」とか「野火」とかいい加減に読まないとと思っている。

美術

「第75回正倉院展」於・奈良国立博物館

11

読書(9冊)

池田利夫訳・注「堤中納言物語 (笠間文庫―原文&現代語訳シリーズ) 」

フレドリック・ブラウンフレドリック・ブラウンSF短編全集3 最後火星人

成美堂出版編集部いちばんわかりやす家事のきほん大事典」

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10巻「能・狂言説経節曾根崎心中女殺油地獄菅原伝授手習鑑/義経千本桜仮名手本忠臣蔵」★

フレドリック・ブラウンフレドリック・ブラウンSF短編全集4 最初タイムマシン

森万佑子「韓国併合-大韓帝国の成立から崩壊まで」★★

紀田順一郎日本語大博物館悪魔文字と闘った人々」★★★

木村光彦「日本統治下の朝鮮 - 統計実証研究は何を語るか」☆

エリック・H・クライン「B.C. 1177 古代グローバル文明崩壊」☆

美術

特別展やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」。

永遠の都ローマ展」。

冊数が少ないのは池澤夏樹日本文学全集がぶ厚かったためだ。

日本語の活字についてや、日本植民地政策について読み始めたのは、先月の中国語タイプライターの本に、日本製の中国語タイプライターについての記述があったためだ。

12

読書(14冊)

ジョン・ウィルズ「1688年 バロック世界史像」

伊高浩昭 「チェ・ゲバラ 旅、キューバ革命ボリビア

後藤謙次10代に語る平成史」

麻田雅文シベリア出兵 近代日本の忘れられた七年戦争

楊海英「日本陸軍とモンゴル 興安軍学校の知られざる戦い」☆

塚本康浩「ダチョウはアホだが役に立つ」

重松伸司「海のアルメニア商人 アジア離散交易歴史

小倉孝保中世ラテン語辞書を編む 100年かけてやる仕事」★★

澤宮優、平野恵理子「イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑」☆

カムラクニオ「こじらせ美術館」★

宗美玄(ソン・ミヒョン)「女医が教える 本当に気持ちのいいセックス」★★★

泉健太郎「ウンチ化石学入門」

土屋健「こっそり楽しむうんこ化石世界

木村泰司「人騒がせな名画たち」

美術

なし

読んだのは全体的に近現代史が多い。

第二次世界大戦についての本は通史を何度か読んだが、テーマごとに読むとまた面白い歴史技術史とか思想史とか文学史とかの別の軸で見直さないと立体的に見えてこない。とはいえ、少しは立体的に見えたとしても、知らないことが無数にあり、出来事すべてを頭の中に残しておくのは難しい。歴史は誰と誰が知り合いかとか、活躍した時代以降にどう生きたかがわかってくると更に面白くなるんだろうが、あいくそこまで行っていない。

ダチョウの本は父親に薦められた。

12月は当たりが多く、上位3冊を選ぶのに悩んだ。ほぼすべてがオススメ

来年から方針を変えて、すべての本を★1つから5つまでの段階で評価してもいいかもしれない。

まとめ

一年を通してみると、「昆虫記」のウェイトが大きく、それから第二次世界大戦の本を多く読んでいる。それに並んで平安時代江戸時代などを扱った新書が多い。外国歴史の本は少ないが、旅先のイスタンブールバルセロナ歴史を扱った本が印象深い。

SF新人賞を数年分まとめて追いかけるのが習慣なのだが、もう少し純文学を読みたい。学生岩波新潮古典ばかり読んでいたのにどうしてだろう。

人権関係で読みたい本が多数ある。とはいえ、悲しい気持ちになるので元気のある時にしか読めないし、いつ元気になるかは予測ができない。

詩集は少ない。「智恵子抄」くらい。

ここ最近美術展に行っていないなと思いきや、振り返るとほぼ毎週行っている月があったので、まとめてみるのは大事だ。秋以降は少なかったが、これは理由がわかっている。

以上。

面倒なので来年も書くかはわからない。


2022年に読んだ本

[読書]2023年前半に読んだ本

2023-11-03

的外れレビュー晒す

限りなく気持ち悪いです 後半はタイトルと、関係のないものばかりでエログロどころか、ただのグロでした 非現実的なことが多く、エロでなく、グロを求める人にはいいかもしれませんが、基本的にはオススメできるものではない

信じられるか?これ氏賀y太作品へのレビューなんだぜ?

エログロないしただのグロ読みたくなきゃ最初から読むなよって言いたくなるだろ?ラーメン屋来てアイス出なくて駄々こねてるやつに近い。

後半が表題作じゃなくなるのはエロ漫画単行本常識でこれまた的外れ馬鹿レビューすんな

2023-09-29

今さだらけれどセンスない認定されたSF作品を弁護したい

三大「好きなSFで挙げられたらセンスない認定する作品」

時機を逸したけど。

星を継ぐもの

かっちりとしたロジック物語を進めているから好き。

最近SFも割と好きで、それこそ伊藤計劃みたいに現実社会問題を扱う作品のおかげで「社会学社会学SFなんてつまんない」って気持ちをひっくり返してくれたし、最近キャラクターかわいいSFが多いんだけど、古典SFキャラ社会問題よりも、核にある純粋論理を重んじる姿勢はやっぱり時折読み返したくなる(僕の友人はダンチェッカーツンデレかわいいとか言ってるけど、それはさておいて)。

かにこの作品というかシリーズには欠点もあって、特に第3作は陰謀論っぽくてあまりきじゃないし(人類の愚かさを人類以外のせいにするのはダサいってのが僕の感覚)、ホーガンは途中でトンデモ宇宙論にハマっちゃうんだけど、ロジカル作品世界が僕はとにかく好き。

たったひとつの冴えたやりかた

かにこの作品ベストじゃないけど、やっぱりティプトリージュニアは好きだ。「愛は定め、定めは死」がお気に入り

ある編集者が「最近SFはつまらん、男らしい作品を書くのはティプトリージュニアくらいだ!」と嘆いていたら実は女性だったって結構笑える。

古い作品って、いろんな作品元ネタになったりしているから、ダサいと考えるよりも、そこから派生した作品をそっと差し出すと、この作品が好きだって言った人にも喜んでもらえるんじゃないかな? もしかしたら派生作品も含めて好きといったのかもしれない。

インターステラー

ノーランだったら「TENET」のほうが確かにSF度が高くて好き。背景の地球の滅亡の理由もよくわからないし、何となく宇宙に行かずに大地に縛り付けられた農家バカにしているところあるし。SF設定がザルな個所もかなりあるのは認めないといけない。でも、SF映画の場合リアリティレベル小説と同水準に持っていくのは無理があるし、科学的な論理で驚かせるのは小説のほうが向いている。時間旅行SFでは感傷的にして泣かせてなんぼでしょう。そりゃあSF慣れしてたらこ伏線だろうなとか最後は年齢差で泣かせる気だなとか読めちゃうけど、それが作者が悪いというより僕ら受け手スレてるんじゃないかって疑うべき。

僕はSF映画に関しては科学的正確さよりも、どれだけ絵になる風景が出てくるかと、作中の機械装置デザインがどれ程優れているか評価している。

それにロボットかわいいじゃん。加速する宇宙船の中であんな角張ったロボット危ないに決まってるけど、人間離れした姿に善意を持つロボット萌え

基本的に僕は加点評価方針、そうじゃないとSFに限らず古い作品って読めなくない? 実際、創作してみると科学的厳密性とキャラ立てとわかりやすさとその他色々、トレードオフ関係にあって、理想作品って滅多に会えるもんじゃないってわかる。

最後にして最初アイドル

「暗黒声優」とか面白かったじゃない。作中でエーテル存在するとしたらどのような物理学現実のものになるかを、虹色に輝く地球の表面として美しく描写してくれている。

手塚治虫関連

好きなんだけどなあ、手塚治虫SF短編。確かに今読み返すと、当時は最先端だったけど今は陳腐化したネタとか、科学的正確さがいいかげんなのはあるんだけど、それでもつまんないSF映画よりもずっと面白い。ストーリーの語り方・盛り上げ方がすごい。話が面白いと、すでに否定された科学理論に基づいた話でも読みごたえがある。

というかどんなジャンルも書けて、しかも常に一定以上のレベル作品を出力していた手塚治虫って化け物だよ。創作しててそう思ったよ。

関係ないけど「W3」のプッコ中尉ドタバタドナルドダックに似てるし、星真一の父ってディズニーピノキオのゼペットじいさんに似てる。

横浜駅SF

作者が弐瓶勉椎名誠が好きなのがひしひしと伝わってきて楽しい

あと、この人は一発屋ではなくて、「人間たちの話」だとかいろいろSF短編集を書いてて、とくにこの表題作を読んで「この人こんなウェットなストーリーも書けるんだ」ってすっごく驚いた。ひょいひょいとアイディアがわいてきて、それをスマート調理するもんだから、頭が良くていけ好かないと感じていたんだけど、この一作で評価が変わった。

沈黙リトルボーイ」って短編原爆SFとしてオススメ。宮西健礼「もしもぼくらが生まれていたら」と一緒に読むと楽しい

「猫のゆりかご」

タイタンの妖女」や「スローターハウス5」のほうが好きなんだけど、最初に読んだので思い出深い。村上春樹の初期の短編とかブローティガンとか好きだし。

まりにも悲惨現実を相対化するのは、一歩間違えば現実逃避の冷笑主義になるんだけれど、狂気世界を別の狂気批判する方に踏みとどまっているから好き。

以上。ごめん、アニメはあまり見てなかった。

気が向いたら「三体」の好きなところとツッコミを入れたいところについても書くかも。

2022-11-17

「すずめの戸締まり」を観たら要石で後ろから頭を殴られた

新海誠の新作映画、「すずめの戸締まり」を観てきた。これがどうにも周囲の人間に話がしづらいというか、未視聴の人に「どうだった?」と聞かれたときに応えづらい、しかし観た所感、体験だけは誰かと共有したい気持ちがすごくあるので書く。

この作品について語る上では、この映画が何を主軸に据えているかは避けて通れない。なので多少のネタバレ有りということは承知の上で一読されたい。

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この文章現在30代、11年前は20代前半だった人物が書いている。

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本作のあらすじを簡潔に書く。

九州に住む主人公少女すずめが旅の青年草太と出会う。草太は日本中廃墟にある「後ろ戸」と呼ばれる扉を締めて回る「締め師」だ。すずめはその草太との出会いをきっかけに後ろ戸の脇に埋めてある「要石(かなめいし)」と呼ばれる石を抜いてしまい、その結果後ろ戸が開き、中から現れる巨大なミミズ地震を起こしてしまう。(椅子になる呪いなどについてはここで書きたいことではないので省く。)

抜かれた要石は「ダイジン」という名前の猫になり、登場人物たちはダイジンを追う過程東北被災地を訪れることになる。

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これは2011年3月11日日本列島を襲った未曾有の災害東日本大震災を主軸に据えた映画だ。

いきなりテーマについて述べるが、「この映画が何を描いているか」は本作エピローグで草太の口からわかりやすい形で語られている。

「人々が失ったものへの無念、悲しみが忘れられ軽くなったところに後ろ戸は開く。」

一度しか観ていないので正確なセリフではないが、このような趣旨言葉が語られる。

「後ろ戸」とは現し世(現実)と常世(とこよ・霊界のような場所)を繋ぐ扉であり、そこが開くと扉から巨大なミミズが現れ(このミミズは締め師である草太、主人公のすずめにしか視認できない)、空から地上に落ちることで地震を起こす。

後ろ戸は廃墟にあるものだが、廃墟であるが故に、その地での災厄の記憶、失われたものへの想いは風化していく。そこには要石という石が埋めてあり、再び扉が開き災害が起こらないよう守っているのだ。

この映画は我々が体験してきた被災記憶が風化されないよう、呼び起こすような映画だ。そして未視聴の人に説明をするのが難しいのもそのためだ。

映画館に足を運んだとき自分は事前情報を全く入れずに行った。そして何となく映画を観始め、巨大ミミズ地震を起こし、物語舞台神戸へ移ったところで「おや」と思い、オープンカー首都高を経由して東北道へ向かい始めたところで確信に変わり、そして気付かされた。「忘れていた」と。

忘れていたわけではない。事実としてはまだ記憶に新しい。ただし映画の中で鳴り響く緊急放送津波で一掃された土地、そういったもの映画の中での情報感触は、普段触れる情報とは全く異なったレベル自分記憶を呼び起こすものだった。その点に関しては映画スタッフ美術演出の面々に感服させられた。

からこそ、「東日本大震災のその後の物語だ」ということすら知らずに観るべきだ。なのにここにこんなことを書いていることについては矛盾にもほどがあるのだが。それでも、あのはっとする体験は代えがたいものだったように思う。

その点からまずこの映画の良かったのは、テイザーや物語冒頭でわかりやす過ぎる形でテーマを明かさない点だ(それでも屋根の上に船が乗っているのだけれど)。これも意図した演出なのだろう。

これが少しでも YouTube予告編で明かされていようものなら、こんなに「観てよかった」と思うことはなかっただろう。

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この作品について語る上で、村上春樹短編集「神の子どもたちはみな踊る」、特にその中の一編「かえるくん、東京を救う」を避けては通れない。

こんな話だ。

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東京で働くうだつの上がらない銀行員中年男性が、ある日かえる出会い(「かえるくん」、とかえるくんは指を立てて訂正した)、かえるくんと共に地下に眠る巨大ミミズと闘い巨大地震を阻止する。その後男性は病室のベッドで目を覚ますが、傍らには闘いでボロボロになったかえるくんがいる。ふと気がつくとかえるくんの身体からボトボトミミズが現れ、男性身体ミミズに飲み込まれたところで、男性はその夢から覚める。

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こんなに似通えば嫌でも取り挙げたくなる。

この小説1995年日本で起きた阪神淡路大震災を柱に据えた小説である

1995年オウム真理教による地下鉄サリン事件と立て続けに起こり、日本安全神話が崩れた年だ。

作者である村上春樹は、この年を経て、地下鉄サリン事件関係者被害者へのインタビューを行い、「アンダーグラウンド」という書籍をまとめ、普段我々が当たり前と感じて暮らしているこの社会他者との関係性、足元の地面ですら、ありとあらゆるものが決して確かなものではないという危うさを看破し、小説への考え方について「デタッチメントからコミットメントへの転換があった」と語っている。簡潔に述べるが様々な関係性を一旦切り離して書くのではなく、コミット、深く関わっていく姿勢への移行だ。

氏はこのコミットメントについては、「日の光も届かない深い井戸の底へ降りていき、その中で手を取り合うような行為」というような言葉表現している。光の一切届かない暗闇、自身身体と周囲の空気現実と非現実境界曖昧になる。死に近い場所だ。

人の日常生活では感知し得ない深い場所心理、そういった部分で他者と手を取り合うこと。自分は氏の言うコミットメントをそのように捉えている。村上春樹はそのような時を経て2000年にこの小説を描き下ろした。

翻って本題の映画はどうだろう。いつも地の底に潜んでいる「地震を起こすミミズ」というモチーフ、すずめが自身ルーツである過去と向き合い、草太と再開を果たした、井戸の底のように現実霊界境界が危うくなる「常世」。何から何までが一対一対応というわけではないものの、通ずる部分があるように思えてならない。

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神の子どもたちはみな踊る」は善悪二元論ではなく陰陽論の物語集だ。

太極図、という白と黒勾玉が互いに合わさって円を作っている図を見たことがあるだろうか。

こんなのだ

白黒互いの勾玉の中心に、相反する色の小さな点が存在する。

善悪明暗などの世の中の事象は二分に切り分けられるわけでなく、互いにグラデーションにように折り重なり、それぞれが互いに内在し合うものである、という考え方であり、太極図はそれを表しているように読み取れる。

太極図について、ちょうど三角関数を学んだとき単位円の中で動径をθに合わせて回したように、円を描くように眺めると良い。

日が暮れるように、徐々に陽に陰が重なっていく。やがて陽がすべて陰に飲み込まれるが、その陰の中心には陽が内在する。

かえるくん、東京を救う」の最後のシーンはまさにそれだ。主人公ミミズを飲み込み、それを夢として目を覚ますが、ちょうど「夢でしかない」くらいの点となって主人公の中に静かに存在する。

この小説中の作品に関して言えば「かえるくん、東京を救う」に限ったことではない。

宗教二世を描いた表題作神の子どもたちはみな踊る」にせよ、バンコクホテル神戸に住む男の存在を思う研究者女性にせよ、海辺焚き火にあたる男女にせよ、自身の中には消して割り切ることのできないもの存在し、それですら目を背けることはできない自分自身なのだ

その点でいえば、主人公すずめを育て上げながらも苦悩を抱えたまま中年期を迎えた叔母や、キャラクターが極端に振れるダイジンのあの姿に、どうしても自分勾玉の形を照らし合わせたくなってしまう。

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映画自体の話に戻す。

我々が当たり前のように立っているこの足元、地面というのは確かなものではない。しかし一方でそれをある程度信頼した上で営んでいかなければならない生活がある。するとその表層上の信頼感によってその奥底にはら危険性をつい忘れてしまう。

東京都心の上空を巨大ミミズが覆い、今にも落ちて地震を起こそうとする。そこで一瞬ミミズ描写が消える。ミミズはすずめと草太にしか見えていないのだ。ずごごごご、と地震前兆のような地鳴りが響いてきそうな予感を、スクリーン越しに観ている我々は感じるが、作中の街ゆく人々はそれに気付かず日常生活を送っている。

そこの描写が本当に良かった。地震はいつもこうやって突然にしかやってこないんだ。そう思わされる。知ってはいるがいつも忘れている。今日この映画館に足を運んだ俺だってそうだった。そう思い知らされる。

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少し自分語りをする。ここは読み飛ばされても差し支えない。

東日本大震災の発災当時、自分東北地方からは離れた実家の部屋で揺れを感じていた。

2回目の大学4年生だったと思う。その年度も卒業の見通しは立たず、試しにやってみた就職活動も上手くいかず(リーマンショック直後の年だ)、大学にも足が向かず、鬱々とした日を過ごしていた。

インターネットに張り付いて、東北地方や東京情報をひたすら追っていた。津波が町の何もかもを薙ぎ払っていく様子が全国に衝撃を与え、日が暮れるに差し掛かり日本全体が絶望に飲まれていくような空気を感じたように記憶している。

当時地元から離れた東京で働いている友人が数名いた。幸いにも彼らに大きな怪我はなく、交通機関による帰宅が困難となり、渋谷から半日かけて家まで歩いた、などという話を聞いた。

日本は強かった。余裕がない中でもそれぞれが自助共助に取り組み、生きながらえようとしていた。各大手企業にしても、サントリー被災地飲料水を発送し、ソフトバンク公衆 Wi-Fi無償開放した。当時流行っていた Ustream では日本若者NHK による被災状況の中継をカメラ撮影して流し、その行為の是非について当時の NHK Twitter 担当者自身責任判断でそれを認め、情報共有を助けた。Evernote有償の容量無制限サービス日本人に向け一時無償提供を行った。

今ではウクライナ戦争真っ只中のロシアプーチン大統領の「ありったけの物資を今すぐ日本に送れ」の大号令のもとに支援を行い、アメリカ軍作戦名 Operation TOMODACHI を実行し日本に対し援助活動を行った。

しかった。社会の一員として何かを為せている人たちが立派に見えて仕方なかったし、事実立派であった。大混乱で帰宅避難がやっとという友人たちでさえ、懸命に行動している姿が眩しく、自分が情けなくなった。俺は何をやっているんだ、と。

あれが人生の転機になった。転んでばかりの青年期、気持ちも前を向かず、ただただわがままばかりでいつも誰かのせいにしてばかりだった生活と、ようやく決別することができた。まずは目の前の事を片付けて四の五の言わずに働けと、アレがしたいコレはしたくないではなくどんなに小さく些細でも社会の中の一コマとして人のために出来ることをせよ、と自分に言い聞かせた。

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東日本大震災から11年。

働き始め、転居をし、新しい人間関係を築き、仕事もも若さでは乗り切れない年になりつつもやり甲斐を感じながら生活をしている。

10年間生きていると色々なことがある。見聞きしたもの体験した記憶は、古いものから後ろに流され色褪せていく。

あの頃自分が感じた、鮮明ではなくなった様々を、しかし、劇場唐突に思い出させられた。「お前はあの時どうだった、今はどうだ」と。

そこに前述の草太のセリフだ。2011年東北地方に向けて自分が抱いた思い。それが忘れられ軽くなっていたところに、この映画は重さを再度伝える石となって自分にのし掛かったのだった。

あの時あの日本社会全体の空気感を体験した人が、今観るのに本当に良い映画だった。難解すぎず、わかりやすく、無駄がない。

新海誠の新作となれば中高生大勢観るのだろう。ただ時間が経つのも早いもので、今の高校生でも発災当時は5,6歳だ。そういった世代災害の恐怖を知る目的ならば「東京マグニチュード8.0」辺りを見ればよい。良い作品だ。

もしあなたが「君の名は。」や「天気の子」のような純度の高い恋愛ファンタジーを、あるいは「秒速5センチメートル」のようないじらしい恋愛アニメを期待するならば、この映画は応じない。

この映画はあの時を生き、その後を生きてきた人へ向けた作品だ。そしてそういう人たちとこんな風に、観た後の感想を共有したい。

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これで最後だ。

東北地方に差し掛かったところで、ドライバーの「綺麗なところだ」というセリフに対し被災であるすずめは「綺麗?ここが?」と無感情な様子で返す。

遠くで震災を感じていただけの自分のような人間と、実際に被害に見舞われ大切な人や物、土地を失った人との間には、やはり件に対する感じ方にはどうしようもなく深い断絶があると思う。

やり切れない想いに対しては哀悼の意を持たざるを得ない。その上で、外野から眺めていただけの立場に立ったこ文章不快に感じる部分があれば、そのような人がいれば、謝罪したい。しかしながら今のところこれが、11年経った今、この映画を観て自分の感じた率直なところだ。

またしばらく経ったら観に行ってみようと思う。

2022-11-08

マンガオススメを教えて欲しい

好きな漫画を挙げるので、適当に傾向を読み取っておすすめをしてほしい。



Thisコミュニケーション

SFアクションホラーサスペンス(又はそのパロディ)、ハーレムラブコメ(?)など色んな要素を持ったマンガ

主人公感情移入できる時もあれば、主人公を殺そうとする側に感情移入できる時もあるのがよい。

「第1話で、腹ペコ主人公が、食事をくれたコミュニティを守るため、能力を発揮して化物退治」とか、主人公世界を救うと叫ぶとか、少女たちの問題解決しつつ仲良くなっていくとか、どれもありがちなシーンやセリフなのだけど、それが異常な文脈に置かれているのがよい。


不死の猟犬

「復活」が存在する世界でのガンアクション

こんな大風呂敷畳めるのかと疑問だったけど、一応畳めていてスゴい。

逃がし屋の衣装コスプレ)とか物語上の必然性は全くないんだけど、作者が楽しそうでよい。

ワールドトリガーバタフライストレージもそうなんだけど、刀と銃が共存するSFアクションはよい。


竜女戦記

主婦が天下を取る物語、らしい。

戦国時代日本っぽいけど、鬼や竜がいたりするし、カタカナ語普通に出てくる。

どのキャラ人間的に強いところも弱いところがもあり、善玉・悪玉にはっきり分かれているのでもなく、感情移入できたりできなかったりするのが良い。

日本オマージュが多そうだけど、自分は詳しくないので拾いきれないのが残念。


宙に参る

遠隔焼香とか「つけもの」とか背広の裏地(?)がディスプレイになってるとか小ネタもよいし、魔女Tsueee要素もよい。

夫婦エピソードももっと読みたい。


かげきしょうじょ!!

宝塚音楽学校的な学校もの

脇役のスピンオフが軒並みよい。

特に詩織編。

かげきしょうじょ!!はちゃんシーズンゼロから読もう!(念のための注意書き)


ニセモノの錬金術師

呪術周りの設定がよい。

キャラがそれぞれ独自の信念や行動原理を貫いているのもよい。

続編も面白かった。


有害無罪玩具

哲学的思考実験の並ぶ表題作と「虚数時間の遊び」が好き。


図書館の大魔術師

王道を丁寧に進んでいるイメージ

自分の好みからすると、少し主人公が善人すぎるのだけど、周りに性格に難のあるキャラもたくさんいるので、よい。


峠鬼

古代日本神話SFファンタジー

「墨を飲む者」初登場回がすごく好き。


リュウマのガゴウ

「偽物と本物」とか「嘘と真実」みたいなのは、わりと好きなテーマ

群像劇っぽいのも好き。


第七女子会彷徨

ほのぼのとSFバランスがよい。


ーーー

ここから追記

(最終更新11/11


たくさんオススメありがとうございました。


オススメいただいた中で既読のもの

(ざっくり好きな順で並べようとしたけど、途中から適当です)

HUNTER×HUNTER

スピリットサークル

ヒストリエ

火の鳥

うしおととら

嘘喰い

最果てのソルテ

AI遺伝子

天国大魔境

亜人

刻刻

皇国の守護者

胎界主

水は海に向かって流れる

子供はわかってあげない

金魚王国崩壊

ゴールデンゴールド

イムリ

百万畳ラビリンス

ぼくらのよあけ

二月の勝者

チェンソーマン

虚構推理

ドキュンサーガ

三国志

ドラえもん

彼方のアストラ

双亡邸壊すべし

本田鹿の子本棚

ヴィンランドサガ

それでも町は廻っている

ヨコハマ買い出し紀行

寿司 虚空編

偽史山人

バトルグラウンドワーカーズ

町でうわさの天狗の子

賢い犬リリエンタール

タテの国

ドロヘドロ

PHYREN

EDEN

銀河の死なない子供たちへ

アリスと蔵六

オールドボーイ

そのへんのアクタ

ヨコハマ買い出し紀行

紅殻のパンドラ

GANTZ

ダーウィンゲーム

ONE PIECE

銃夢

メダリスト

ディスコミュニケーション

バーナード嬢いわく

死刑囚042

青野くんに触りたいから死にたい

うちのクラス女子ヤバい

ソフトメタルヴァンパイア

キングダム

四月は君の嘘

へうげもの

メイドインアビス

怪獣8号

辺獄のシュヴェスタ

銃夢

違国日記

久正人作品

志村貴子作品

萩原望都作品

竹内恵子作品

川原泉作品

とんがり帽子アトリエ

あかね

太臓モテサーガ

楳図かずお作品

キャプテン

劇光仮面

堕天作戦

マップス

蟲師

男爵にふさわしい銀河旅行

アルティス

お茶にごす

ストラヴァガンツ

ホーリーランド

フラジャイル

テレプシコーラ

ムーンライトマイル

九龍ジェネリックロマンス

メランコリア

エリア51

予告犯

1000円ヒーロー

パンプキンシザーズ

OL進化論

ヘテロギニアリンギティ

シオリエクスペリエンス

大丈夫倶楽部

宝石の国

懲役339年

ヴォイニッチホテル

蒼天のソウラ

珍遊記

セクシーボイスアンドロボ

茄子

PPPPPP

オススメいただいた中で未読のもの

複数あがっているものには☆)

panpanya作品全般 ☆

瞽女

栞と紙魚子の怪奇事件簿

富沢ひとし

キヌ六

西遊妖猿伝 諸星大二郎作品 ☆

フールナイト

竜と勇者配達

世界の終わりに柴犬

ヴァンパイア十字界

七都市物語

ORIGIN

PEACE MAKER

並愛混の独り言 (?)

数学ゴールデン

税金で買った本

虎鶫

ベアゲルター ☆

任侠転生

バイト

不死身のパイセン

煩悩西遊記

三丁目防衛軍

佐藤史生作品

みちかとまり

ふたつのスピカ

パーム ☆

カルバニア物語

月に吠えらんねぇ

あやつき

殺し屋やめたい!

フールナイト ☆

ニトリ

ブレッドウィザード

第七惑星用心棒

変幻退魔夜行 カルラ舞う!

華と修羅

ピンサロスナイパー

RIDEX

用心棒稼業

セキガハラ

真夏の夜のユキオンナ

ワールドエンブリオ

生と死のキョウカイ

もろびとこぞりて

令和のダラさん

東京カラス

瑠璃宝石

せんせいのお人形

望郷太郎

明日の敵と今日握手

股間無双

スキップ・ビート!

絢爛たるグランドセーヌ

星使いセレナ

バビロンまで何光年

Not Simple

SOUL CATCHER(S)

プリンタニアニッポン

螺旋じかけの海

ハルシオン・ランチ

カムライド

成恵の世界

うめモモさくら

シュトヘル ☆

八百森のエリー

魔女と野獣

いじめヤバイ

アルテ ☆

友達として大好き

マチネソワレ

ソアラ魔物の家

おひさま世界地図

リサの食べられない食卓

八木ナガハル作品 ☆

がらくたストリート

チキタ★GuGu

東京入星管理

ヘルク

潮が舞い子が舞い

一変世界

果ての星通信 ☆

古代戦士ハニワット

八百森のエリー

シマ・シンヤ作品

ブスに花束

エルフ狩猟士のアイテム工房

WOMBS ☆

未来人サイジョー

ビルドワールド ☆

ラグナクリムゾン ☆

ランドリオール

魔導の系譜

ボクラノキセキ

残機×99

惑星クローゼット

三文未来の家庭訪問

白馬のお嫁様

ヤコポコ

ライジング

モーメント

みあげた玉三郎

佐々木淳子作品

絶対安全剃刀

ゾンビ屋れい子

エクソシストを堕とせない

白暮のクロニクル

神さまがまちガえる

迷宮クソたわけ

土星マンション

転生貴族、鑑定スキルで成り上がる~弱小領地を受け継いだので、優秀な人材を増やしていたら、最強領地になってた~

往生際の意味を知れ!

バクちゃん

モリミテ

星をつくる兵器満天の星

鯨庭

魔女

はなしっぱなし

度胸星

きつねとたぬきいいなずけ

つれないほど青くて あざといくらいに赤い

そのあたり読んでる人ってちゃん自分で探せる人なんだよな

自分なりの探し方で見つからないようなのも知りたいのですよ。

未読作品の一覧でも分かるように、そこまで片っ端から読んでるわけでもないですし。

2022-08-03

最近買って読んだBL

 数ヶ月前に予約した小説『天官賜福』(墨香銅臭)が届いたし、Kindleポイント50%還元セールがあったり竹書房の日があったりしたので、いつになく多くのBL作品を手にした7月末~8月冒頭だった。ほっこり。そんな訳で、読んだ本とその感想を少し。あ、『天官賜福』を発売月内に読んでレビューポイントを稼ごうと思って忘れてたなあ!

『天官賜福(1)』(墨香銅臭)※まだ読み途中。




あらすじ

 謝憐(シェ・リェン)は仙楽国の元王太子で、17歳若さ天界に飛翔し武神となった天才神官であった。ところが数々のやらかしにより人間界に落とされ、今では貧乏神ガラクタの神と蔑まれ、彼を信仰する人ももはやいない。

 そんな謝憐だが、このたび三度目の飛翔を遂げ神官に返り咲いたものの、天界に着くなり飛翔の衝撃で他の神官の館等をぶっ壊してしまい、多額の負債を作ってしまうのだった。

 そして彼は、返済のために功徳を稼ぎに人間界に降り、人々を苦しめる怪異事件解決に乗り出した。

増田感想

 すごい厚みなのだが、まるで話上手な人による噂話を聴いているかのような軽快で臨場感のある文体と、面白いストーリーのため、ひと度読み始めるとページを捲る手がなかなか止まらなくなるやつ(といっても、私は歳のせいかすっかり集中力がなくなってしまい、しかも他の本と掛け持ちで読んでいるので、なかなか読み進まないのだがw)。

 同作者の『魔道祖師』よりはストーリーが分かり易いと思う。人界の民草に信仰されることによって「功徳ポイントを稼ぐという設定がゲームみたいで面白い。何年か前にアニメになった『霊剣山』(国王陛下)をちょっと思い出したんだが、こういう古代中国舞台ゲームっぽい設定って、中国Web小説界隈で流行ってるのだろうか?

 けっこう早い段階で攻めの花城(ホワチョン)が登場し、謝隣が彼に惹かれていく描写もなされるので、BLとしても『魔道祖師』より分かりやす萌えが多いかもしれない。

 問題は、第2巻以降の発売の目処が立っていなさげなことだろうか。読んだ内容を忘れないうちに発売してほしい……。

逃避行じゃあるまいし』(タクアン)



概要

 短編集。恋愛に対して臆病過ぎてすぐ行方くらます男とストーカー行為を楽しむ男の話と、遠恋中の若者達の話と、体毛がすごいおっさんの話の三編。

増田感想

 『Canna』のBLサブカル系で癖が強いって誰かがどこかに書き込んでいたけど、これもかなり癖の強い短編集。筋肉! 体毛! ムンワァァ……! な、におい立つような劇画調ラッコ鍋絵柄で描かれるのは、おじさん・お兄さん達の複雑な乙女心だった!!

 表題作だけ『Canna』本誌で読んだことがあったんだけど、連載が飛び飛びだったせいかまり面白いと感じなかったのだが、単行本にまとまったのを続けて読んでみたら、案外悪くない感じだった。

 私は2話目の『恋しさ募って』がお気に入り。初々しくてかわいい

『アキはハルごはんを食べたい』(たじまこと



あらすじ

 ルームシェアをしている大学生のアキとハル。見た目がもろにワンコ系で実は心配性なのがアキ、クール系に見えるけれど食いしん坊で楽天家なのがハルだ。そんな二人の好きなのは、お料理する事食べること。今日も美味しい料理を作って食べて、無自覚0距離でたのし暮らしています

 

増田感想

 めちゃめちゃ腹減ったーー!! 『きのう何食べた?』(よしながふみ)に負けず劣らずな飯テロBL漫画だった。とにかくアキの作る料理が美味しそう。各話の末尾にレシピがついているから、後で作ってみようかな。ただ、若者向けのガッツリメニューが多いので、中年以降にはきついかもしれないが。

 BLなんだけど、エロがないどころか恋愛描写もほぼない。アキがハルのことを好いているというのがちょっと描写されるくらいかな。ハル女子との交際歴があるとか、脇役の女子二人組が登場してグループ交際っぽい絵面になったりとかもして、BL感はかなり薄い。

 でもアキとハル幸せそうにご飯を食べてかなり密着状態で楽しそうに過ごしている様の和み度・癒し度が高く、それだけで満足感がたっぷりある。


あと他に三冊買ったけどそれはまた後ほど。

2022-06-08

anond:20220606161919

日本SF
上田早夕里 〈オーシャンクロニクルシリーズ

『天冥の標』が好きならこれもどうでしょう

気候変動後の地球舞台に、陸上民と、遺伝子改造された海上民との確執などを描くシリーズ

長編『華竜の宮』→長編深紅の碑文』という順番

それから短編がいくつかあるけれど、短編は同じ世界舞台にしたスピンオフ作品なので、どれから読んでも大丈夫

長編の方を読んで気に入ったなら、短編の方にも手を出す感じになるかと思います

  • 短編集『魚舟・獣舟』

表題作の1篇が、オーシャンクロニクルシリーズ。ほかの収録作は、ややホラー怪奇系の作品が多い

表題作の1篇が、オーシャンクロニクルシリーズ。ほかの収録作も、ハードSFとまでは言わんかもしれないけど、しっかり目のSF

  • 短編集『獣たちの海』

収録されている4作全てオーシャンクロニクルシリーズ

藤井太洋

アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を挙げていたけれど、日本SFでアンディ・ウィアーに近いのは藤井太洋とかなのではないかなあ、と

ブクマでも藤井の『オービタルクラウド』が挙がっていたし

藤崎慎吾

科学ノンフィクションも手掛けるSF小説家

実は自分藤崎作品をあまり多く読んでいないので、これ! というのを出せないのだけれど、現実科学に近い感じのSFという意味

『宙を数える』

2010年以降にデビューしているSF作家による書き下ろし宇宙SFアンソロジー

アンソロジーなので、収録作の方向はそれぞれ違っていて、増田の好みではない作品あるかなと思うのだけれど、

宇宙SFが好きなのであれば、全般的クオリティの高い作品がそろっているアンソロジーだと思います

海外SF
グレッグ・イーガン

既に多数推薦の声が挙がっているけれど、改めて。

イーガンは、初期は「アイデンティティものと言われたりする、自己同一性とか意識とかがテーマになっているような作品が多く、この時期の作品の人気が高い。また、読みやすいので、とりあえず初期短編からという薦め方がされやすい。

ある時期から物理学分かってないと分からんみたいな、かなりハードめなSF長編を書くようになっている。でも、分からんなりに楽しめたりするし、ハードSF宇宙SFが好きなら、最近作品から読んでいくのも悪くないのかもと思う。

また、わりと一貫して、科学的探求に価値を置く主人公が出てくる作品が多い気がする。

長編宇宙ものアイデンティティものの両方をもった作品データ化された人類宇宙進出していく話

ハードSF短編集。宇宙舞台にした作品多め。

  • 『白熱光』

ハードSF長編そもそも主人公地球人類じゃない。とある天体知的生命体が作りあげていく物理学をみていく作品

いわゆる「直交三部作」これもまた超ハード

我々の宇宙とは異なる物理法則支配する宇宙舞台。なので、当然登場人物たちはみな地球人類ではない。

自分たちの住んでいる星に危機が訪れることがわかったので、それを回避するために世代宇宙船を作って飛ばして、また戻ってくるという話

これまた、地球人ではない彼らの物理学進歩を見ていく話だけれど、一方で、ジェンダーSFにもなっていて、地球人とは全然異なる生態の彼らの社会問題を扱った作品でもある。

イーガンは、この作品に限らず、結構社会派テーマも扱っている。

アンディ・ウィアー

プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んだみたいなので、わざわざ改めて挙げる必要はないのだけど、『火星の人』『アルテミス』も面白いと思う。

キム・スタンリーロビンスン マーズ三部作

レッドマーズ』『グリーンマーズ』『ブルーマーズ』の三部作

2026年から2225年までの200年間にわたる火星植民歴史を描く物語

なお、90年代に書かれた作品なのだけど、当時あった火星探査計画ベースにしていると思われるところがあったり、かなりリアリティを追及している作品

火星独立にあたって、政治体制経済についての話も多い。

登場人物たちにクセが強いので、最初読み始めた時はそれに慣れるまできついかもしれない。

個人的には真ん中の『グリーンマーズ』が一番面白かった。

ジョン・ヴァーリィ 八世界シリーズ

長編へびつかい座ホットライン』、短編集『汝、コンピュータの夢』『さようならロビンソン・クルーソー

ハードSFというわけでは必ずしもないのかもしれないけれど、太陽系の各惑星人類が拡がった世界舞台にした諸作品

性転換などの身体改造自在にできるようになっている世界で、そうしたことテーマにした作品が多いが、

とにかく色々な惑星などを舞台にしていて、それらの風景が印象に残る

チャールズ・ストロス『アッチェレランド

シンギュラリティSF

ワイオミングまれ宇宙飛行士』

宇宙開発SFアンソロジー

もしアポロ計画が終わらず続いていたら、という歴史改変ものなど、現実世界と地続きの宇宙開発SF短編が収録されている

2022-05-26

今日読んだ全くエロのないBL、とあと一つ。

『じじいの恋 命短し恋せよ老人』(黒田S介)




あらすじ。

 昔々、あるところに拓郎という名の少年がいた。拓郎はいじめられている所を源太に助けられ、彼に一目惚れしてしまう。以来、拓郎は源太を追いかけ続け、追いかけ続け、追いかけ続け! じじいになった現在も、追いかけ続けているのだった……。

増田感想

 BLというかギャグ。老人二人がベンチトークしている場面がメインで、時々過去話があったり、拓郎のイケメン過ぎる孫や源太の家の癖の強い家政婦さんが登場する。

 BLなんだけれども全くエロがない。積年の片想い成就してすらいない。登場人物達の関西弁の掛け合いがテンポよくてめちゃ楽しい。何も小難しいこともないし、頭を空っぽにして笑って読めた。愛しさ5割、切なさ1割、残りは心強さ(折れないという意味で)ってところかな。

 各話とも短いので、お休み前の憂さ晴らしに布団の中で読むのにいいかも。

 高校時代の源太がとても可愛い。これは拓郎が初恋を拗らせ続けてしまうのも已む無しだが、その源太が現在はなかなか切れ味の鋭い毒舌を吐くじいさんに成長してしまっているのは何故なのか……その過程ちょっと知りたかったけど、拓郎の語る若かりし頃の源太は全盛期の高校時代ばっかりなのが歯痒い。まあ初恋エターナルラブになっちゃったのだから仕方ないか

 クソ重感情を抱えた拓郎の方がサクッと家庭を持って子孫を拵えているという設定好き。(長野まゆみオタの血がさわぐ)

 なお、本作は短編集『じじいの恋』の続編なのだけれど、短編集の方は表題作の分量がそんなに多くないらしい上に、Renta! とかの試し読みでその多くを読めてしまうので、とりま表題作のみに興味があった私は丸ごと『じじいの恋』な本作を買った。短編集の方を読まなくても差し支えなく楽しめる。

 ところで今日増田の人気エントリにおばあちゃんに勧めたい漫画募集のやつがあったから、早速リプでこれをおすすめしようかなと思ったけど、副題が「命短し恋せよ老人」ってリアル高齢者には酷な気がしたので、やめた。


初恋カタルシス。』(鳩川ぬこ



 こっちは少々エロあり。

あらすじ

 一騎風邪で寝込んでいるところへ、別れたばかりの元彼唐木田が押し掛けてきた。まるで別れ話などなかったかのように、唐木田一騎の世話を焼く。

 実は一騎ノンセクシャルで、誰に対しても性欲を感じる事がない。そんな一騎唐木田は惜しみ無く愛情を注ぐが、一騎性愛でそれに応えることが出来ないことに負い目を感じていた……。


増田感想

 たしかミッドナイトレイン』(CTK)をKindleで買って読んだら関連本としてゴリゴリおすすめされて、気になってはいた(ゴリラ系繋りなのか、体毛繋りなのか……)。が、表紙をひと目見ただけでわかるほどにやたら個性的な画風だったので躊躇し、いつしか忘れ去っていたのだが、ふと思い出してKindleレビューを読んでみたところ、体毛について熱く書き散らしている素敵なレビューに心惹かれてしまい、つい衝動買い

 レーベルビーボーイだからエロ8割でストーリー2割かなあと思ったら、そうでもなかった。エロが読みたい人は他を当たるべきな、エロ少具合。

 性的指向の違いにより、お互いに相手を別の生物視している所のある二人の出会いと別れと再会の、心の揺らぎが丁寧に描かれている。実をいうとあまり期待していなかったのだけど、けっこう好き。

 ちょっと気になったのは、ノンセクシャル一騎が恋したてでまだ片想いの頃に、唐木田の体毛わさわさな腕を見て「いいな、あの腕。抱きしめられたい」って思う場面。そういう所に性欲含みでなく惹かれる事ってあるのかなあ……と思うのは、私がノンセクシャルではないからだろうか。うーん、まあ体毛にエロスを感じるなどパブロフ条件反射のような気もするし……きっと性的経験0だと単純に頼もしそうな腕に抱かれて安らぎたいなと思ったりもするのだろう、たぶん?

 唐木田が性欲を剥き出しにした場面は、一騎目線では唐木田得体の知れないモンスターのように描かれているのが怖かった。別に何も痛いことをしたりとか異常性癖を無理強いとかする訳ではないのだが、一方的にそういう目で見られるということ自体気持ち悪さとか理解不能さがビンビンに伝わる描写だ。

 最後までお互いに相手性的指向理解することはなく、別次元の生き物だと割りきって恋人関係を続けていくというのがよかった。理想を追求し過ぎない感じで……、いや、むしろ現実ではただ性的指向が合わないっていうたった一つの問題でもカップルの仲は決裂しがちだから、これこそ理想的な落としどころなのかな。

2022-05-04

表現規制をする女性たちって昔は「PTA」じゃなかったっけ?

昭和フェミニスト

筒井康隆短編集「くたばれPTA」には表題作「くたばれPTA(昭和41年)」と「女権国家の繫栄と崩壊昭和45年)」がある。

女権国家の方はミサンドリーを拗らせた女性革命を起こし、女性中心の社会を作る話だ。

一方くたばれPTAの方はSF作家教育上不健全漫画ということで出版規制される話である

どちらもフェミニストPTA否定的かつ攻撃的で、インターネットが当時あったら叩かれるだろうなぁといった内容だ。(当時もバッシング受けたのかな?)

さてさて、私が気になったのは現在フェミニストの主戦場「不健全表現を控えるべき」というのはPTAの役目じゃなかったっけ?ということ。

昔のフェミニスト女性地位向上、社会進出あたりのことを主戦場にして戦っていたようである

女権国家においても権力に見栄と権力に執着する女性という書き方でフェミニスト表現していた。

筒井氏はフェミニスト当事者ではないため、認識不適切という批判は受け付ける。ただ小説としてデフォルメした際に強調した点が権力の話だったというのは一考に値する)

令和のフェミニスト

対して今のフェミニスト表現規制が主な活動のように見受けられる。

最近活動でも目立っているのは新聞広告に関する表現への批判献血でのキャラクター利用などだ。

フェミニスト昭和フェミニストより、昭和PTAの方が近いのではないか

ここで「PTA漫画ゲームといったもの全般に不健全としたが、フェミニスト女性性的搾取した媒体のみを不健全定義しているため異なる」といわれるかもしれない。

しかし、不健全定義事態によって異なる。

明治自体においては小説は不健全コンテンツであったが、昭和平成では高尚な芸術だ。

漫画ゲーム昭和には不健全だったが、受け入れられた令和では日本代表するカルチャーになっている。

そして未だに不健全の枠にとどまっているコンテンツが「エロ」または拡大解釈によってエロ解釈された「萌え」ということになる。

フェミニストPTA思想の違い

フェミニストPTAも両方女性だし、思想が似ていても当然じゃないかと言われると思うが、建前上はそうではない。

PTA家族(主に子供)の健全な営みを行うための主張として表現規制を訴えている。

近い思想青少年健全育成条例などで、こちらを支持している石原都知事右派人間だ。

まり国家社会のために不適切コンテンツ抑制するというのがPTA的な表現規制の建前である

一方フェミニズム女性社会的な抑圧から解放するための左派的な側面が強い思想だ。

どちらかというと真逆であるという思想が、いつも間にかすり替わっている。

表現規制派の活動

ややこしいので、以下では昔PTA表現規制をしていた人と現在フェミニストとして表現規制をしている人を「表現規制派」と呼ぶことにする。

まり何が言いたいのかというと、表現規制派の人たちは「健全育成」や「フェミニズム」という思想に基づいて表現規制をしているのではなく、

表現規制」という思想社会に実現するために「PTA」や「フェミニズム」といった建前を利用しているのではないだろうか。

こうすると現在表現規制派の人たちが全くフェミニストらしい活動をしていないのに説明がつく。

ウクライナでの強姦を取り上げず温泉娘に憤り、映画監督性的搾取に目を反らしつつ新聞広告を敵とする。

表現規制派にとっては表現規制が最も大切な主義であり、フェミニズムは建前を尤もらしくするための道具なのだ

というわけでフェミニズムを叩いても、論理的矛盾をついても、ゴールポストは動かされる。

表現規制派は女性のためでも社会のためでもなく、表現規制のために表現規制を行っている。

なぜ表現規制をしているのかというところまでは個人問題なので分からないが、

自分が好ましくないと思う表現があったときに、多かれ少なかれ人は不愉快になる。

その不愉快社会正義見出しバッシングするかしないかの違いである。

表現規制派がフェミニストを名乗るまで

ではなぜ表現規制派がPTAからフェミニストにかわっていったのだろうか。

これに関しては全く不明だが、おそらく「PTAになれなかった層を取り込むため」ではないだろうか。

未婚率が上昇している。昔は誰でも結婚出来た時代だが、今はそうではなくなった。

PTAになれるのは結婚し、子供がいる女性だけだ。

このハードルを越えられなかった表現規制派の女性親和性が高かったのがフェミニズムだ。

フェミニズムはもとより結婚をしない女性を救うような思想だった。

地位向上で女性が一人でも生きていければ、結婚出産もしなくても幸福になれると考えられるからだ。

そこでPTAになれなかった女性たちが表現規制を行うためにフェミニズムと結び付けた。

フェミニズムは誰でも参加可能なのでPTAよりも参加しやすい。

よって現在思想がちぐはぐのフェミニズムが生まれしまったと考えられる。


表現規制に関してはフェミニズムを叩いても仕方がない

こうして表現規制派が無理筋批判をした際、フェミニズムが叩かれるようになった。

しかし、これはあまり無意味なような気がしないでもない。

昔は悪の権化だったPTAは、今では面倒な無賃労働としてママさんからしか文句を言われていない。

このままフェミニズムの印象が悪くなって社会的な発言力を失った場合

表現規制派がフェミニズムから出ていって、また新たな宿主を乗っ取って批判を繰り返すようになる。

表現規制派は特定思想を持つ者ではないので、現在寄生している思想や団体を批判するより、

疑似科学陰謀論に対する免疫のようにリテラシーを高めて対処をしなければならない。

2022-02-11

最近読んだBLと非BL

 数年に一度は自分に襲い来る長野まゆみ作品ブームはまっている最中のため、あまり商業BLを読めていない今日この頃。残り少ないお小遣いも、長野先生新刊(非BL)を買うために温存中。

 ちなみに、長野まゆみ先生の書くものの多くには男×男の恋愛要素があるのだが、「非BL作品扱いなのは何故なのかというと、BLレーベル以外から出版されており、商業BL定義にあてはまるようなBLではないからというだけ。商業BLには面倒臭いルールがあるのだ。例えば、基本的ハッピーエンドとか、攻めの浮気厳禁とか、無駄に女を登場させてはいけないとか。

 まずは久しぶりにちゃんと「商業BL」の漫画から

極夜』(文善やよひ)

あらすじ

 世界は人の住まう「現世」と人ならざる者の住まう「常世」に別れている。主人公天野は、常世から来た者たちが利用する人里離れた旅寓(旅館)で働いている。

 ある日、常世の王・ツクヨミが旅寓に骨休めにやって来た。傍若無人ツクヨミ天野は振り回されるが、ツクヨミにかつて自ら命を断った友人の面影を感じ、気になってしまうのだった。

増田感想

 これはある特定の層にピンポイントでぶっ刺さるやつなのだろうと思うが、生憎私自身はこういう系を好きこのんで漁って読む方ではないので、せいぜいハジ先生の『坊主蜘蛛』を読んだくらい。BL外の作品ではたとえば『千と千尋の神隠し』とか『しゃばけ』とか『蟲師』とか『夏目友人帳』とか『モノノ怪』とか『家守綺譚』とかそこら辺が好きな人向けなんじゃないか。あ、私の好きな『左近の桜シリーズ』(長野まゆみ)もこういう系だな、そういえば。

 特定の層にピンポイントでぶっ刺さる系なので、『極夜』のレビューを某BLレビューサイトで見るとけっこう良さげなのだが、泣いたとか感動したは言い過ぎなのではないかと、私は思う。そこまですごくはない。まあまあ良い話だとは思うけど。

 事前調査なし・試し読みなしで買って読んだら、表紙めくって出てきたカラーイラストが『鴆――ジェン――』のフェイ将軍とツァイホンの絵だったので、私は買う本を間違えたのか? と一瞬慌てた。調べたら、この『極夜』というタイトル単行本、文善やよひ先生が『鴆』の大ヒットで人気作家になったために、絶版になっていた過去作品を『極夜』と改題して復活させたものだった。表題作の他に『鴆』の番外編も同人誌から再掲。なるほど、今の文善先生はかなり手練なプロ作家という印象だが、『極夜』は確かに若いなって印象だ。『鴆』はpixivコミックで2話まで無料で読める模様。

 文善先生の大ファンの人で過去作品全部コンプしたい人向け。文善作品ちょっと興味があるくらいなら、回り道せずに『鴆』シリーズか『蟻の帝国』を読むといいのでは。

 エロシーンがしめやかでいいな。私はあまりこれ見よがしな感じのエロシーンは好まないので。それと、ベタスクリーントーンが少ない為にエロシーンの白抜きが煩く見えなくていい。

 しかし、シンプルめな画風でもごっそりと白抜きのかかるのって。以前、某お気に入り作家さんのBL作品シーモア無料になっていたので読んでみたところ、修正レベルシーモアだったのでKindleでは輝く白さに消されるべき所が薄ぼんやり見えていたのだが、薄ぼんやり越しにもそこがかなり生々しい描かれ様なので驚いてしまった。な……BL作家さんって、キャラの顔はめっちゃ漫画でもおちんだけはこんなにリアルに描くもんなのか……なんでここまでおちん描写に執心してるのかわからない……と、電子書籍Kindle使いな私は愕然とした。そんな所どうでもいいと言い切ってしまうのも何か違う気もすると思いつつ、正直どうでもいいよなあ、どうせ消される所なんだし……と思わずはいられない。


『綿柎開(わたのはなしべひらく)』(長野まゆみ



概要

 16ページしかない掌編なので、あらすじは省く。掌編アンソロジー『掌編歳時記 秋冬』に収録された作品サラリーマンのほんのりオフィスラブ。現代現代的な話だから幻想なし。エロもなし。しかし非BLなので安定のインモラル上等ぶり。


増田感想

 普通に現代ものなのでビビった。登場人物ちゃんと今時のサラリーマンだなんてすごい! 漢字字形にやたら拘るところはいもの長野先生だけれども。

 こんな短い文章ボーイズがラブしているのすごい。文章は簡潔だけど、短いなかに情報量が多く、なのに情緒風景描写が死んでいないとは。熟練プロ作家恐るべし。と、これを読んだ時にちょうど小説投稿サイトフジョッシーで開催されていた掌編コンテストに応募すべく四苦八苦していた私は、震え上がり畏れ平伏叩頭したのだった。プロすごい。


ところでBLとも長野先生とも関係ないけど、『掌編歳時記 秋冬』のトップバッターが先週亡くなった西村賢太先生訃報を知ったあとに読むとほろりとしてしまう、切ない掌編だった。


『チマチマ記』(長野まゆみ




あらすじ

 猫のチマキは飼い主のマダム・ロコとはぐれてしまい、まだ赤ちゃん同然の弟・ノリマキを連れての放浪生活ののち、小巻おかあさんの家に流れ着いた。小巻おかあさんの家・宝来家は大所帯。おかあさんの息子でありまかない担当カガミさんの他、おかあさんの亡夫の前妻・マダム日奈子、日奈子の娘の暦さん、暦さんの兄・樹の娘のだんご姫、だんご姫の叔父桜川くん、そしてジャン・ポールが住んでいる。

 そんな複雑な家庭でクセのある人々と共に暮らすチマキは、小巻おかあさんのエッセイコマコマ記』を真似て『チマチマ記』を書くことにした。これはチマキが宝来家にたどり着いてから一年間の記録。

増田感想

 だいぶ極まった感じのロハス生活を描いた作品だが、長野まゆみ先生らしく背景には桜川くん×カガミさんのほんのり(悪魔的な)BLがある。

 長野先生がこんなにふんわりした感じの森ガール死語)が喜びそうな文章を書くなんて意外な気がする。しかも「にゃん語」とか「萌え」とかい単語長野作品に登場するとは、その事自体萌え萌えしい。

 だが、文体はふんわりしているのに、ことあるごとに美味しい食べ物カロリーが高くしか健康に悪いという現実ビシバシ突き付けてくる。なんなの長野先生サドなの? そんなに言わなくてもいいじゃないカロリーことなんて! 普段現実離れした作風なのになんでそこだけリアルシビアなのか謎。極力カロリー塩分を抑えてしかも美味しい料理を作ろうとなった時にまずは極上の食材調達してきてそれを干す、という異様な難易度の高さ。救いなどなかった! しょうがない、貧乏人はポテチ食ってデブしか……。

 昔、向田邦子か誰かの随筆で、戦中にこっそり隠れて読んでいた婦人雑誌に「シュウクレエムのいただき方」という記事が載っていて腹を空かせながら読んだが、結びに「淑女はシュウクレエムなど食べてはいけません」と書かれていてがっかりした、とかいう内容のがあったと思うのだが、きっとその時の向田邦子か誰かの気分が『チマチマ記』のお料理場面を読んだ時の私の気分に近いんじゃないかなと思う。

 難易度高過ぎロハス暮らし描写勝手に心折られてしまったが、桜川くん←カガミさんのBLは良さげに納まったっぽいのでいいや。

2021-08-10

商業BL漫画読み始めて一年半時点でのおすすめ作品

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ごみんね! じゃあ書くよ。

ただし、私の商業BL漫画読書範囲はそうとう偏っているので、万人ウケはしない(特に商業BLを現に読んでいる人には……)と思う。

ワンルームエンジェルはらだ)

あらすじ

 クソみたいな人生を送ってきたヤカラ系コンビニ店員の幸紀は、仕事中にチンピラ喧嘩して刺されてしまう。彼は意識を喪う寸前、空から美しい少年天使が舞い降りて来るのを目撃するが……。

カップリングエロ

幸紀(主人公)+天使

 カップルというよりはコンビ。性描写0。キスすらしない。エロ度は限りなく無に近い。主人公のチン毛がチラリズムする程度の下ネタはあり。登場人物言葉遣い問題とかで、エロなしだけど小学生以下に見せられるものではない。

増田コメント

 エロがまるでないという点では非BL読者には取っつき易いと思うのだけど、そういう作品に限って商業BLの中では極上に面白いやつなので、それで味をしめて他の作品に手を出すとガッカリすると思う。

 コマ割りで魅せる。コマ割で涙を搾り取る。会話のテンポが良い。

どんな人におすすめ

Dear, MY GOD朝田ねむい)

 ロース神父が買い出しに行った先の店に強盗が入った。ロース強盗犯を追跡し発見したが、強盗犯の正体は年端のいかない少年リブだった。怪しい新興宗教を盲信しているリブを、ロースは救出しようとするが……。(他一編)

カップリングエロ

リブ×ロース

 性描写ガッツリあるものの、俗にいう「シコい表現ではないと思う、たぶん。レイプ表現あり。

 同時収録の『はなばなし』はキスまり

 

増田コメント

 表題作舞台アメリカ田舎町っぽい雰囲気キリスト教同性愛という、宗教的ギリギリアウトくらいをせめてる感じ。日本国外では発禁になりそう。

 拉致監禁からレイプからの絆され系?)という性表現としてはヤバめのやつだけど、性的な誇張表現はないので、物語必要なのかなーくらいに読めると思う。それだけに、BLエロを求めてる人には満足いただけないかもしれない。

 宗教的博愛個人的感情欲望の間で揺れるロース神父の心情の表現がいい。

 リアル寄りの作風&画風だけど、id:hisa_ino 氏にはブーイングされそうだなぁー(おっさん度の低さ、顔面トカゲレベル※の高さで)

※女の好きなイケメンの顔はトカゲみたいに見える、という、いつかのid:hisa_ino 氏の発言から

どんな人におすすめ


ミッドナイトレイン(CTK)

 父親が遺した借金の返済を長年続けてきたイーサン。何の意味もない人生に嫌気が差し、生きる気力が尽きそうになっていた夜、彼の部屋に重症を負ったチンピラマイクが転がり込んでくる。

カップリングエロ

イーサン×マイク

 おっさん×お兄さんのカップリングエロ度はとても高いものの、BL漫画広告によくあるような逸脱系ド派手危険エロではない。

増田コメント

 舞台アメリカデトロイトっぽい渋い世界観だけど、ストーリーは案外少女漫画に近い。

 腐向けには珍しく、攻め受け両者ともガチムチ筋肉質で髭あり、攻めはラッコ鍋ムワァである

 絵が上手いが、私の中の法則「絵が上手い人は話を作るのも上手い」にはちょっと当てはまらない……。ごく普通少女漫画かな。

 BL入門書としては『ワンルームエンジェル』よりもむしろこっちな気がする。ガチムチ男祭りという点で、読者を選びまくるものの。

 作者が日本語話者ではないようで、台詞回しがほんもの翻訳調である

 絵面はゴリゴリの男同士のエロ表現だが、やろうと思ったらゴムなしで即ハメれるというファンタスティックエロでもある。

 商業BLは案外萌えが少ない気がするのだけど、本作はわりと萌え表現が多いと思う。キャラがピチピチ美少年でないだけに萌える。

 id:hisa_ino 氏のお眼鏡ギリギリ叶いそうな叶わなそうなかんじ。

どんな人におすすめ


シャングリラの鳥(座裏屋蘭丸

あらすじ

 とある事情でまとまったお金必要になったアポロは、男性向けの高級娼館シャングリラ」のスタッフとして働くことにした。

 アポロに与えられた仕事は「試情夫」といって、娼夫が客の相手をする前の下準備をお手伝いする仕事新人ノンケアポロのために、ベテランの娼夫フィーが専属で試情夫仕事いろはを教え込むことになる。

カップリングエロ

アポロ×フィー

 私にはエロ度非常に高く見えるのだが、某BLレビューサイトでは「エロ度少なめ」として紹介されている。腐の人たちエロセンサー麻痺ってない?

 しかし確かに、メインの二人はキスすらしてないけど……キスはしないのに穴は掘るぞ。

 エロ表現エッチもの危険プレイはあまりなく、物語の設定上やさしいプレイが主。

 背景レベルで男女の性行為児童売春描写が出てくる。

増田コメント

 うわーっ、ポルノ春画春宮図だーーー! 目がぁ、目がーーーーっ!! って感じの、ゴージャスでラグジュアリーな絵の眩さに目が潰れそうになるが、腐の人に言わせれば「エロ少なめ」だそうだ。マジかよ。そう言われてみればメインカプの二人はセックスも恋もできないことになっているけど、いや、エロいのはエロいだろ。

 エロい絵柄だけど、なかなかじれったい感じのラブストーリーである現在2巻まで出てるけど、攻めと受けがまだくっつかない。単話で3巻収録予定ぶんも読んだけど、まだくっついてない。

 南の島の楽園感、娼館の中の素敵な調度と美しくて陽気な小鳥(娼夫)たちが目の保養。

 個人的に細かいキャラ造形が興味深くて好き。フィーの、オンモードの時の優雅な立ち居振る舞いや、アポロちょっかいをかける時の妖艶さと、オフモードの時の若い男の子らしい仕草の描き分けがすごい。街をぶらぶらしてる時、がに股で頭を左右に振ってそうでいからせた肩で風きって歩いてる様子は、東南アジア系の男の子にこんな歩き方してる子いるよねー☆ってリアルさがある。

 そんなフィーも魅力的でありつつ、攻めのアポロがなかなか興味深いキャラをしている。本人はトゥルーフォーエバーラブ希望だが、行動にはドン・ファンの素質が見え隠れする。

 物語も何やら事件が起こりそうで、次回が待ち遠しい。

どんな人におすすめ

2021-06-04

腐女子大学学生諸君に捧ぐ「ホーリーランド」のすすめ

anond:20210601211409

腐女子大学クソデカ感情学部ブロマンス学科増田です。

本日ネカフェ何気なく読んだ表題作情緒破壊された勢いでこんなものを書いています


ホーリーランドってなに?

現在「創世のタイガ」「無法島」を連載中の、森恒二先生によるストリートファイト漫画だよ! 2000年から2008年まで「ヤングアニマル」で連載されていたよ!

どういう話なの?

いじめが原因で引きこもった少年が『居場所を奪われない為』に徹底して自己修練し続けたボクシングのワンツーで絡んできた街の不良を叩きのめししまたこから、町中のヤバイ不良たちや格闘の達人などに目をつけられまくるが、親友や訳ありの過去を持つ強くて頼れる先輩やかつての敵であった人たちと絆を育みながら街に居場所見出していく王道物語だよ!

腐女子的におすすめキャラいる?

神代ユウ主人公

主人公だよ! 中性的容姿が原因で酷いいじめを受け引きこもりになっていたが「強くなればこれ以上居場所を奪われずに済む」という宗教にたどり着いて一心に強さを求めていくよ! 普段は穏やかで腰が低く弱気少年に見えるけど、スイッチが入ると文字通りバケモンみたいな強さを発揮するよ! 頻繁に曇るけど周囲の人がだいたい聖人で必ず助けてくれるし本人もいい子なので見ていて安心感があるよ!

金田シンイチ(主人公親友聖人

いじめのせいで人間不信になっていた主人公に人懐こく話しかけて友達になってくれた主人公の心の支えだよ! 喧嘩はてんでダメだけどどんな危険や痛手を受けてもずっと主人公そばにいてくれて、主人公が落ち込むたびにすかさず距離を詰めてきて「なにがあったってお前の味方だよ!」と叱咤激励してくれるコミュ力お化け人間の鑑だよ! 推しです!!

伊沢マサキ主人公の憧れの存在聖人

街のカリスマと恐れられているめちゃくちゃに強い不良の人だよ! 街と暴力しか場所を見出せない主人公に昔の自分面影を見て、格闘の助言やピンチの時の手助けやストリートファイト時の後方彼氏面をしてくれるよ! めっちゃイケメンで訳ありの過去もあるカップリング大手って感じの人だよ!

緑川ショウゴ(主人公ライバル。意地っ張り系ツンデレ

主人公ストリートファイトきっかけに知り合った空手の達人だよ! 初期は「お、オレはお前らなんかと友達になった覚えねーよ!」と言いながら主人公空手の手ほどきをしてくれる心強い友人だったけど、強さ第一主義なせいで主人公ガチ勝負を挑み敗れてしまたことに傷ついて悪堕ちしてしまうんだ! でも森恒二先生漫画なので大丈夫だよ!

土屋さん(聖人

主人公ストリートファイトを(略)レスリングの達人で高校番長をしているよ! レスリング路上格闘に向かない格闘技なので実力を発揮できることは少ないが、19歳とは思えない人生3周目の貫禄と人間性で皆から一目置かれているよ! 主人公マサキさんの傷ついた心をお父さんのように受け止めてくれる滅茶苦茶にいい人だよ! 推しです!!

他にも主人公との戦いがきっかけで恩人枠になって戦いの手ほどきをしてくれたり仲間になってくれる人が色々出てくるよ!

でもようは不良の喧嘩漫画でしょ? ググったけど絵もダサいしつまんなそう

腐女子経験のある読者は思うかもしれない。だがこの漫画の恐ろしいところは自ら格闘技を愛好する作者の丁寧でわかりやす格闘技解説に挟まれた男同士のクソデカ感情ブロマンスなのである最初の1巻を読んで熟練した腐女子ならばその威力を瞬時にして理解するであろう!(森先生節)

筆者も森恒二先生の他の作品は愛読済だったけど「ホーリーランドは不良と喧嘩ばっかりの話みたいだしそういうのは興味ないから合わなさそうだなぁ」なんて思っていたのに読んでみたらとんでもなかったよ!!!!!! とりあえずブロマンス大好きなみんなは1巻だけでも読んで!!!!!!!!!! お願い!!!!!!!!!!!!!!!

森恒二先生作品テーマがどれもクソ重くてけっこうひどい描写も多いけど主人公がひたむきで仲間がだいたい頼れる気のいい奴らなので読んでいて安心感があるよ!(だいたい最後の方でしゃれにならんレベル凶悪ラスボスが出てきて「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」となるけど森恒二先生漫画なので大丈夫だよ!) あと先生実体験を含めた格闘技サバイバル解説がわかりやすくて面白いので興味がない人でも抵抗なく読めるよ!

他の作品面白いので腐女子のみんなも腐女子じゃない人も興味があったら読んでみてね!

2021-03-01

必読書コピペマジレスしてみる・自分オススメ41冊編(2)

戻る→anond:20210301080105

倉橋由美子聖少女

まり男性女性がとは言いたくないのだが、女性作家の描く知的早熟少年たちというのは、エルサ・モランテの「アルトゥーロの島」なんかでもそうなんだが、男性が描くときはまた違った魅力を発する。サリンジャー知的論理的自分を追い詰める子供たちとはまた別の硬さがあってよい。新城カズマサマータイムトラベラー」の高度に知的でありながら情緒は年相応な少年少女もいい。

さておき、これは近親相姦お話なのだが、印象に残っている描写は次の通り。主人公たちの仲間に大食漢の男がいて、しばしば生肉弁当の代わりに食らっている。回りの女子生徒たちも面白がって彼に餌付け(?)していたのだが、ある女子生徒がブルマーを入れていた袋の中に隠していたウサギを、生きたままで彼に与えた。血まみれで凄惨な場面でありながらも、大食漢は実においしそうに平らげていた。

例の文学少女から薦められて読んだことでも思い出深い一篇。

ミラン・クンデラ存在の耐えられない軽さ」

頭が良くてモテる男が主人公なのでいけ好かないモテること、たくさんセックスすることこそが人生の目的になっているような奴は理解できない。なんか知らないやつにいきなり人の部屋をのぞきまれ、「お前の人生にはエロスが足りない!」と叫んで出ていかれるような気分がする。しかし、これもまた祖国を追われた人間が、知性と皮肉現実適応しようとした姿なのかもしれないのだ。

それと、この本で感謝しているのは、さまざまな政治的活動に対して感じていた居心地の悪さを、「キッチュ」をはじめとしたさまざまな言葉言語化してくれたことだ。ポリコレを正しいと信じているのに、そこにあるどうにも解消できない居心地の悪さが気になる人が読むといいんじゃないかな。

あとは頭が良すぎて、多くの人が無視したり忘れていたりしていることが見えてしまい、幸せになれない著者みたいなタイプが読むと幸せになれそう。イワンカラマーゾフとか御冷ミァハみたいに、頭が良すぎて不幸になるというか、自分の知性をどこか持て余してしまタイプキャラクターが好きだ。

メアリーシェリーフランケンシュタイン

死体から作られた怪物がただただかわいそう。容貌醜悪なだけで化け物として追われ、創造主からも拒絶された彼の孤独を考えるだけで悲しくなる。まったく同じ理由で「オペラ座の怪人」も好きだ。どちらも間違いなく殺人者ではあるのだけれども、容姿馬鹿にされたことがあるのなら共感せずにはいられないだろう。関係ないけど、オペラ座の怪人ヒロインから振られたことを受け入れられたのって、やっぱり正面から振ってもらったからだよな、と思う。音信不通フェードアウトされたら怨念はなかなか成仏しない。

それと、これはSF的な感覚かもしれないが、人間離れした(時としてグロテスクな)姿を持つ存在が、非常に知的であるというシチュエーションがとても好きで、その理由から後述の「時間からの影」や「狂気山脈にて」も愛好している。

ロード・ダンセイニ「ぺガーナの神々」

架空神話ショートショート形式で述べられていく。ただそれだけなのにこんなに魅力的なのはなぜだろう。彼の作品基本的に短く、しょうもないオチ作品も割とあるのだけれども、時に偉大で時に卑小な神々の物語は、壮大な架空世界に連れて行ってくれるし、すぐ隣に隠れているかもしれない小さな妖精魔法も見せてくれる。

テッド・チャン「息吹」

あなたの人生の物語」とどっちにするかやっぱり迷った。映画メッセージ」の原作が入ってるし、増田で盛り上がってるルッキズムテーマ作品だってある。だが、寡作な人なのでこの2冊しか出していないし、片方が気に入ったらきっともう片方も読みたくなる。

表題作は、意識を持ったロボットのような存在がいる宇宙お話なのだけれども、そのロボット自分の脳をのぞき込んでその複雑な仕組みに心を打たれる。そして、世界を観察することで、何万年も経てばこの世界は滅んでしまうことを悟る。人間とは全く似ても似つかないロボットたちだが、やっていることは人間サイエンス、真理の追求という営みと本質的には同じだ。何かを知ろうとする営為の尊さについて語っている。得られた知恵で、自分たちも世界もいつかは終わってしまうと知ることになろうとも、知識を求める崇高さは変わらないのだ。

イワンセルゲーヴィチ・ツルゲーネフ「初恋」

学生時代自分女性に冷たくされる文学が好きだった。からかわれたりもてあそばされたり馬鹿にされたりする作品のほうが好きだ。そのほうがリアリティがあったから。寝取られ文学が好きなのもそれが理由だし、谷崎潤一郎作品も同様の理由で好きだ。

自分馬鹿にしていた少女が突然しおらしくなり、自分に近づいてくる。いったいどうしたことか、と思って期待しながら読んで、絶望に叩き落されるがいい。

イサク・ディネセン「アフリカの日々」

ライ麦畑」でホールデン少年が感動した本。アフリカ植民地で暮らす女性視点からその生活を書いている。友人のイギリス人が亡くなったとき、まるで故郷をしのぶかのように墓が深い霧に包まれたシーンがとても美しい。

個人的には、当時の基準からすればアフリカの人々に対して丁寧に接しており、評価も概して公平であるように感じた。ところどころ「有色人種特有の」といった表現があったり、アフリカ前近代社会とみなしたり、古い進歩史観は見られるし、植民地支配者側から視点批判的に読まなければならないが、色眼鏡比較的少ない観点に心を動かされてしまったのは事実だ。

植民地時代アフリカって、宗主国以外の人もたくさんいたこともわかって面白い。当時は英領東アフリカだが、そこにはスウェーデン人もいればノルウェー人もいる。古くから貿易相手としてのインド人だっている。独立後、彼らは日本人満州朝鮮半島台湾などから引き揚げたように、撤退したのだろう。植民地について理解するためにもおすすめ

J・R・R・トールキン指輪物語

はまった。十代の頃にとにかくどっぷりとはまった。今でも表紙のエルフ文字を使って誰にも読まれたくないことをメモするレベルではまった。

かに話の展開は遅い。重厚に過ぎる。設定を語るためのページも多い。しかし、この長大小説を読むことで、開始数ページで読者をひきつけなければならない現代小説からは得られない、長い旅をしたという実感を得られるのは確かだ。小説家には良き編集者の助言は必要だが、今のように急ぐ必要のなかった時代もあったことは忘れたくない。

中島敦「狼疾記」

李陵」や「弟子」や「山月記」じゃなくてなんでこれなのか、という声もするのだけれど、自意識過剰文学少年の思っていることをすべて言語化してくれているので推さずにはいられなかった。十代の頃の感受性は、何よりもこうしたものを求めていた。親の本棚にこれが積んであったのは幸運だった。

これは「三造もの」と呼ばれる中島敦私小説的の一つであり、世界の滅亡や文明無意味さに対する形而上学的な恐れや不安意識の片隅にある人間なら確実に刺さる内容だ。最後説教パートもさほどうっとうしくない。なぜなら、きっと文学少年文学少女たちは、その言葉無意識のうちに自分に投げかけてきたからだ。

ウラジーミル・ナボコフロリータ

膨大な知識と華麗な文体を背景にして、あらゆる性的な乱行を正当化してしまうのがナボコフ作品の一つの特徴である。語り手ハンバート・ハンバートは十代前半の少女を性の対象とする中年だ。自分初恋の思い出がどうこうとか述べているが、それだって言い訳だ。

しかし、この作品はただの小児性愛者の物語ではない点が油断ならない。少女ロリータはただ性的搾取されるだけの存在ではなく、自ら性の冒険に乗り出す。清純で清楚な少女という幻想は、最初からハンバート夢想の中にしか存在しない。ハンバートにはロリータ内面や考えなど最初から見えていなかったし、見ようともしてこなかった。

ただのスキャンダラスな本ではない。これは一人の身勝手男性心理の解剖である

新美南吉「屁」

ごんぎつね」の作者として知られるが、こんなふざけたタイトルの話も書いている。しかし、これは「自分は常に正しい、正しく道徳的であらねばならない」としてきた子供挫折を描いた小説であり、この社会弱者にあらゆる責任を擦り付けている様子を全く卑近話題から告発した話なのだ自分がした屁の責任かぶらされた、いつも屁をこいている少年への同情と軽蔑は、僕らの弱者への姿勢のものじゃなかろうか。

短いし、青空文庫で読めるのでオススメ

https://www.aozora.gr.jp/cards/000121/files/3040_47823.html

仁木稔「グアルディア」

遺伝学の発展が少し早かったパラレルワールド未来舞台にした愛憎劇であり、変身ヒーローものでもある。ただのSFと違うのは、さまざまな文化が変容を受け、再解釈を受けて受容されることまでもプロットの一部として組み込んでいるところだ。さらには疑似科学陰謀論社会関係も描いている。今、読まれてほしい作家の一人だ。

仁木稔作品は僕の好み、ストライクど真ん中なんだけど、世界史や文化史、自然科学物語論の素養がないと(かじるレベルでいい)作者の構想を味わい尽くすのが難しいので、滅茶苦茶売れる作品にはならなそうだというのは認めざるを得ない。現に舞台ラテンアメリカ日本人になじみが薄いし、シリーズの別の作品中央アジアだ。それでも、伊藤計劃と並んで、社会学なんてつまらないって誤解を解いてくれた大きな恩がある作家だ。早くこのシリーズ最新刊が出ないか、今か今かと待っている。

イザベラ・バードイザベラ・バード日本紀行」

明治一年日本都市から農村を実際に歩いて見聞した手記である。率直に衛生状態の悪さやはびこる迷信批判している箇所はあるものの、その率直さが当時の日本がどんなだったか身びいきなしに教えてくれる。現代日本人が近隣の、例えば東南アジア諸国を見聞して不満がる、偽ブランドの横行や衛生状態の悪さ、家畜との同居や騒々しさなどが明治日本ではごく普通だったってことは知っておいていいと思う。

著者は北海道にも足を延ばした。アイヌ民族について日本人よりも好意的に描いている場面もある。しかし、当時の西欧人の感覚でよくわからないのだが、「粗野な外見だけどとても優しい目をしている」と褒めた民族のことを、別のところでは「将来の可能性を閉ざされ民族である」と書く点だ。もしかして、かつての人々が持っていた、文明と野蛮の間にある壁・差異イメージは、僕らが直観するよりもはるかに深刻な差別意識内包した、強固な偏見に根差しものだったのかもしれない。単純な軽蔑どころではない、もっとひどい無理解に基づいた恐ろしい何か。同じように、キリスト教によってこそ日本の悪習は絶えるという発想がどこから来たのか。そういうことを考える意味でもおススメしたい。

ハン・ガン菜食主義者」。

とても面白かった。父の暴力を遠因として、あらゆる動物的なもの嫌悪するようになった妹と、ただやり過ごすことで生きてきた姉を軸に描かれた三連作。壊れた夫婦描写に優れる。

妹は最後には精神を完全に病んで、何も食べられなくなるのだけれども、彼女が持つ植物になりたいという妄念が、本当に精神病の患者さんを観察したんじゃないかってくらい、細部にリアリティがある。

姉はおとなしいのだが、自分はただ忍従し、やり過ごしてきただけで、自分人生を全く生きていなかったのだと、夫の裏切りによってやっと気づく。夫は夫で、そのおとなしい妻に対して息苦しさを感じている。他の家庭のように、怒鳴り散らしてくれたらどれほど楽か、と嘆くのだ。

韓国ってよく叩かれているけど、日本と同じように家族のしがらみとかとかで苦しむ描写が多いので、意外とわかりやすい気がする。

進む→anond:20210301080225

2021-02-22

必読書コピペマジレスしてみる・日本文学

方針

森鴎外舞姫

留学先で女性妊娠させて見捨ててしまう話なので、近頃は評判が非常によろしくない。そのくせ、この文体のせいで美しいと感じてしま自分がいて、実はこれ、レトリック文体によって騙されることに注意しろっていう警告なんじゃないかって気もする。「自分おすすめ編」にも書くつもりなんだけど、ナボコフロリータ」もそういう自己正当化がとにかくうまい

余談だが、鴎外自身東洋人だったこともあり、留学先では写真を撮らせてくれと頼まれたことがあったという。それに対して、構わないけどもあなた写真も逆に撮らせてくれ、と言って、相手も満足させつつ日本人としての尊厳も守ったことがあって、これは割と好きなエピソードの一つ。まあ、漱石よりは世渡りうまいよな。

樋口一葉にごりえ

古風な文体挫折しかかるも何とか読破。これよりは幼馴染系の「たけくらべ」のほうが好きだったなあ。増田では古文いるかどうかで議論になったことがあったらしいが、古文がすらすら読めるほうがこういう趣味というか楽しみが増える気もするし、純粋実用面だけでいえば法律用語や古い公文書を読む必要がまだあるんじゃないのかな。

舞姫」の話の続きだけど、古典文学にもやっぱりクズエピソード結構あり、じゃあどれを教えてどれを教えないかは割と難しい。

泉鏡花高野聖

僧侶山間で美しい妖怪出会う話。文庫ちくま日本文学全集で読んだ。全集と銘打っているけど、このシリーズ日本の近現代文学作家ベスト盤みたいな感じで、チョイスはいいのだけれどときどき抄、つまりダイジェスト版みたいなのが紛れていて、コンプリートしようとは思わなかった。

話としては幻想的ですごく好き。幻想譚が好きな自分がどうして泉鏡花にどっぷりはまるまでいかなかったのかが不思議なほどだ。当時は、著名な作品をどんどん消化しようと思って乱読していたからかもしれない。そういう意味でも、課題図書読破することが自己目的化した読書には幾分害がある。

国木田独歩武蔵野

とても好き。小説が読めなくなったときには、文豪の書いたこうした随筆というか、風景描写の豊かな文章を読むことで、自分リズムを整えたくなる。外出の難しい昨今、こうして空想世界でだけでも豊かな自然のなかで過ごしたいものだ。五感が刺激される文章というのはなかなかない。

夏目漱石吾輩は猫である

我輩を吾輩に修正

ここ最近漱石の評判はあまりよろしくないと聞く。所詮は当時の欧米文学の輸入に過ぎないとか、結局は男社会文学だとか。言われてみれば確かにその通りなのだけれども、日本近代文学開拓者にそこまで求めちゃうのも酷でしょうと思わないでもないし、この作品からたったの十年で「明暗」にまでたどり着いたのだから、やっぱりすごい人ではないかと思う。五十になる前に亡くなったのが惜しまれる。

で、肝心の内容だが。基本的おっさんおっさんの家をたまり場にしてわいわいやる日常ものなので、当時の人にしか面白くないギャグを除けば、普通に笑える。最終回は突然後ろ向きになるが、もしかしたら漱石の本分はユーモアにあるのかもしれない。

余談だが漱石留学時代日記に付き合いのお茶会について「行カネバナラヌ。厭ダナー」とのコメントを残している。

島崎藤村破戒

素直に面白かった。若干のプロパガンダっぽさがなくはないが、読んだ当時は差別する側のねちっこさや意地の悪さが良く書けているように思われた。とはいえ、昨今は善意から来る差別についても考える時代であり、問題はより複雑になった。

被差別部落問題については気になっているのだがなかなか追えていない。日本史について読んでさまざまな地域実例について断片的にかじった程度だ。それでも、地域によって温度差やあったり、差別対象が全く異なっていたりすることがわかり、どこかで日本全体の実情について知りたく思っている。

田山花袋蒲団

女中の布団の残り香を嗅いで悶々とする話だってことは覚えているんだけれども、読んだときにはあまり印象に残らなかった。なぜだろう。自分が読んできた近代文学は、基本的ダメな奴がダメなままうだうだする話ばかりだったからかもしれない。その多くの一つとして処理してしまたか

で、自分が好きなのは飢え死にするほど悲惨じゃないくらいのダメさであり、親戚のちょっと困ったおじさんくらいのダメさなんだろうと思う。

有島武郎或る女

読んだことがない。ただ、ドナルド・キーンの「百代の過客〈続〉 日記に見る日本人」によればこんなことを書き残しているそうだ。「僕ハ是レカラ日記ハ僕ノ身ニ大事件ガ起ツタ時ノミ記ケルコトニ仕様ト思ツタガ、矢張夫レハ駄目な様デアル。日記ヲ記ケ慣レタ身ニハ日記ヲ一日惰ルコトハ一日ヲ全生涯カラ控除シタ様子ナ気ガスル。夫レ故是レカラ再ビ毎日日記ヲ始メ様ト思フ」(意訳。日記書かないとその日が無かったみたいで落ち着かない)。ここでツイッターに常駐している自分としては大いに共感したのである。そのうち読もう。

志賀直哉小僧の神様

読んだはずだが記憶にない。「暗夜行路」で娼婦の胸をもみながら「豊年だ! 豊年だ!」と叫ぶよくわからないシーンがあったが、そこばかり記憶に残っている。これを読んだ当時は、この小説のように自分がどれほど理想を抱いていたとしても、モテいからいつかソープランドに行くのだろうな、とぼんやり思ったことを覚えている。

ちなみに、自分が初めて関係を持った女性貧乳だった。だがそれがいい

お父さんとうまくいっていない人は子供の才能をつぶす話である清兵衛と瓢箪」が刺さるんじゃないかな。あとは少女誘拐視点の「児を盗む話」もよかった。

内田百閒『冥途・旅順入城式』

大学時代知り合った文学少女から薦められて読んだはずなのだが、覚えているのは「阿房列車」の何編かだけだ。それと、いつも金に困っていて給料を前借りしていて、そのことのまつわるドタバタを描いた作品日記もあって、そうした印象ばかり残っている。

関係ないけど就職活動中に、この文学少女から二次関数を教えてくれと言われ、片想いしていた自分はそのためだけに都内にまで足を延ばしたことがある。いいように使われていたなあ、自分あいつには二度と会いたくないが、元気にしているかどうかだけは気になる。

宮澤賢治銀河鉄道の夜

めんどくさいファンがいることで有名な作家全集には第三稿や第四原稿が収録されており、比較するのも楽しい。俺は〇〇は好きだが〇〇が好きだと言ってるやつは嫌いだ、の○○に入れたくなる作家の一人。○○には「ライ麦畑で捕まえて」「村上春樹」「新世紀エヴァンゲリオン」「東京事変」などが入る(註:この四つのものとその愛好家に対する歪んだ愛情から来る発言です。僕も全部好きです。すみません)。サブカル系にはこれがモチーフになっているものが数多くあり、その点では「不思議の国のアリス」と並ぶ。

思想に偏りはあるが、独特の言語感覚や観察眼は今でもすごく好きだ。余談だが新書の「童貞としての宮沢賢治」は面白い。

江戸川乱歩押絵と旅する男

知り合いにいつもぬいぐるみキーホルダーを持ち歩いてかわいがっていた男がいたが、それで本人が落ち着くのならいいと思う。不安の多い世の中で、人が何か具体的に触れるものにすがるってどういうことなんだろう、って、ってことをこの作品を思い出すといつも考える。どこで読んだか思い出せなかったが、これもちくま文庫全集でだった。

横光利一機械

狭いコミュニティの中でこじれていく人間関係の話ではあるけれども、新潮文庫場合表題作よりも他の話のほうが気に入った。印象に残っているのは十二人の旅芸人夜逃げする「時間」と、ナポレオンヨーロッパ征服に乗り出したのはタムシのせいだったという「ナポレオンと田虫」。

谷崎潤一郎春琴抄

実はこの作品は読めていない。谷崎作品は割と好きで、「痴人の愛」「刺青秘密」「猫と庄造と二人のおんな」「細雪」は読んだ。「痴人の愛」という美少女を育てようと思ったら逆に飼育される話は自分人生観に多大な影響を与えたし(例の文学少女気持ちをもてあそばれても怒らなくなってしまったのもこれが遠因だろう)、「細雪」はただ文章リズムにぷかぷかと浮くだけで心底気持ちがいい。ついでに、戦時中生活爆弾が実際に降ってくるまでは震災コロナでただよう自粛雰囲気そっくりだったこととよくわかる。

ところで、最近久しぶりに谷崎作品を読もうと思ったら、ヒロイン名前が母と同じだったのですっかり萎えしまった。というか、ここ最近趣味が「健全」になり始めていて、谷崎作品に魅力を感じられなくなっている。感覚がどんどん保守的になっていく。これはいかん。

夢野久作ドグラ・マグラ

ミステリ編参照。anond:20210215101500

川端康成雪国

高校生の頃に読んだのは確かに記憶に残っているのだけれど、高校生川端康成エロティシズムが理解できたかどうかはよくわからない。たぶんわかっていない。せいぜい伊豆の踊子の裸の少女を読んで、ロリコン発症させたことくらいだろう。

太宰治斜陽

太宰はいいぞ。自分は愛される値打ちがあるんだろうか、というテーマを本人の育った境遇パーソナリティの偏りや性的虐待疑惑に求める説は多いが、そういう心理普遍的ものでもあり、だから多感な時期に読むとわかったつもりになる。芸術に何歳までに読むべきという賞味期限原則としてないが、これもできるだけ若いうちに読んでおくといい。太宰の理解者ぶるつもりはないが。

もっとも、本ばかり読んで他の活動をないがしろにしていいものだとは全く思わない。あまりにもドマイナーな本を読んでマウンティングするくらいならバンジージャンプでもやったほうが話の種にもなるし人間的な厚みも出るというものだ。たぶん。

三島由紀夫仮面の告白

天才的。男性のあらゆる種類のコンプレックスとその拗らせ方を書かせたら彼の右に出るものは少なかろう。ただ、大学卒業してから突然読めなくなってしまった作家でもある。息苦しくなるまで端正に磨きこまれ文章のせいかもしれない。

武田泰淳ひかりごけ

極限状況下でのカニバリズムテーマにした小説なんだけれども、途中から戯曲になって、「食べちまう葬式ってえのは、あっかなあ」などとやけにのんびりした台詞が出てくるなんともユニーク小説。ただし、これは単なるブラックジョークではない。物語は序章、戯曲第一部、第二部と別れているのだけれども、その構成にきちんとした意味がある。

人類全体の原罪を問うようなラストは必見。あなたは、本当に人を食べたことがないと言えますか?

安部公房砂の女

祖父母の家から貰ってきた作品で、愛蔵版らしくカバーに入っていた。カフカにはまっていた時期だから楽しんだ。カフカ父親の影から逃れられない主人公とは別の種類の渦巻にとらわれてしまった主人公がだらだら、ぐだぐだしてしまうのだが、カフカ男性によって抑圧されているとしたら、こちらは女性に飲み込まれている文章だ。

大西巨人神聖喜劇

未読。不条理陸軍の中で、最強の記憶力を頼りにサバイブする話だと聞いて面白そうだと思い購入したのだが、ずっと積んだままだ。これに限らず、自分戦争もの小説漫画をあまり読んでない。戦争に関しては文学よりも歴史書からアプローチすることが多い。

これは自分の悪癖だが、戦争ものになると庶民よりも知識人にばかり感情移入してしまう。

大江健三郎万延元年のフットボール

大江健三郎は初期の作品をいくつかと、「燃え上がる緑の木」三部作を読んだきりで、どういう態度を取ればいいのかよくわかっていない作家の一人だ。狭い人間関係の中のいじめだとかそうした描写に病的に関心のあった時期に読んだせいで適切な評価ができていない。

燃え上がる緑の木」は新興宗教原子力発電といった(結果的には)非常に予言的であった作品であったが、癖が強くカトリック宗教教育を受けた自分であっても世界観に入り込むのに時間がかかった。「1Q84」よりもきつい。面白いが。

萩原朔太郎『月に吠える』

大学時代の友人に薦められて読んだ。「この家の主人は病気です」と、飢えて自分を食ってしまったタコの詩ばかりを覚えている。覚えているのはこれだけだが、この二つが読めたからいいか、と考えている。大体、詩集ってのはピンとくる表現ひとつでもあれば当たりなのだ。そして、それはあらゆる書物にも当てはまることである

福沢諭吉福翁自伝

祖父学生時代に送ってくれたのだけれども、ぱらぱらとしか読んでいない。

子供向けのものだった気もするし、近々原文にチャレンジするべきか。自助論西国立志編)なんかと合わせて、自己啓発書の歴史を知る意味でも興味深いかもしれない。

正岡子規歌よみに与ふる書

読もうと思って読めていないけれども、これまたドナルド・キーンの本で面白記述を見つけた。「墨汁一滴」の中に、つまらない俳句乱造しているやつの作品にはどうせ碌なもんなんてありゃしないんだから、そういう連中は糸瓜でも作ってるほうがマシだ、という趣旨のくだりがあるそうだ。創作する上でのこういう厳しさは、いい。

石川啄木時代閉塞の現状』

ローマ字日記しか読んだことがない。たぶん日本最初フィストファックが描写された文学かもしれない。春画はどうか知らないけど。

小林秀雄『様々なる意匠

詩集翻訳しか読んだことがない……。

坂口安吾堕落論

堕落と言いつつもある種の誠実さについて語った本だった気がするが、それよりも新潮文庫で同時に収録されていた、天智天皇天武天皇家系にまつわる謎についてのほうが印象に残っている。

哲学編に続く→anond:20210222080300

関係ないけど芥川が載ってないのは納得できないぞ。

2020-07-03

anond:20200701175011

あの2冊の表紙と、2冊の編者(この記事にある「当該する編集者」ではなくアンソロを組んだ作家さん)の人の表題作の表紙のことを言っているのなら、正直に意見するとその作家とこの記事にある編集者個人のの趣味に走りすぎているきらいは感じられます。確かに日本SF地位を押し上げた若い作家たちと多く触れ合った編集者と、有名なラブコメ漫画かぐや様は告らせたい』の漫画家のイラストを表紙絵にした表題作が有名になったばかりの作家のお二人によるものではあるけど、今度出す新刊アンソロジーの題目は『日本SF臨界点』なんですよね。

編集者仕事に関する告知以外にも趣味ソシャゲシャニマスやメギド72、明日方舟・アークナイツ?他にもあるようですが確認できたのはこの3つ)にも言及する運用の仕方でTwitterを使っているから、そういうソシャゲが大好きな人たちにとっては親しみやすいんだろうけど。(それらゲームをある程度認識はしていますが)それらにSFルーツを感じたことがない者としては、そういう趣味に引っ張られてる部分がやっぱりあんのかなあ…嫌だなあ…と純粋に思っていました。後「イラストレーターが傷つく」という反論は少し失笑してしまいました。装丁を頼んだデザイナーイラストレーターから届いたもの含めて作品に誇りを持って売り出すべきで、もし装丁場違い批判されるならただ仕事を引き受けただけのイラストレーターよりも、意図を持って装丁を依頼した編集者などが批判されるだけではないのか??2冊のアンソロジーに起用されたイラストレーター自身はおそらく日本人ではあるんでしょうけど、その編集者さんも大好きなTwitterで調べてみる限り、アークナイツっていう中国近代都市ソシャゲの絵のようだと評価されている絵描きらしくて、尚のことよくわからなくなった。(さらに調べてみたら、この絵描きの人は実際に中国ソシャゲアークナイツに携わっていたという。では日本SFらしさとは…?)

まるで自分含めた現代日本人の若者たち想像する「SF」というものが全て中国ソシャゲアークナイツ的な、彩度が低くて機械的都市背景にカッコいいファッションの若くて可愛いキャラクターたちが活躍するもの、と思われているみたいですが、それこそ結局アークナイツ中国ソシャゲ中国SFに付随するイメージしかなく、もし本当にそんな考えで採用しているのだとしたら『日本SF臨界点』なんてタイトルアンソロジーに相応しいとまでは個人的には思えないです。SFは好きなので結局買って読むとは思いますが、「百合SF」を盾に市場を雑に切り拓こうとしている様子が見られた時期から怒りは感じているので、層を広げるにしてももう少し深く考慮した上で装丁を考えてほしいと強く思っています

個人的に自分も、『なめらかな世界と、その敵』も『日本SF臨界点』の表紙の2冊とも依頼時は性別指定なしとしていたとありますが「女の子ではない」は無理があると思う。

オタク絵にある程度慣れた目でも少女性が強く見えて化粧っ気のない童顔の女子しか見えないし、おそらく慣れてない目の人は少女しか見えないのではないか?そういえば中国オタク絵で「美少女といえば銀髪に赤目、それが一番売れる」という面白い話を聞いたことがありますがそれすら思い起こされました。総合的な要素を見れば中国若者ウケする表紙にはなったのでしょう、日本SF臨界点らしいけど。ディレクションが悪いと思います個人的に

2019-10-02

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2019-06-15

目玉焼きの黄身いつつぶす?の原作マンガで、表題作劇中劇にするくだりがあって、連日満員だったってなってるけど、

ぶっちゃけこれ演劇だと面白さが伝わらんやろ・・・

せめて演技しながら手元をカメラうつして前方のスクリーンに同時に映すとかしないと・・・

2019-03-20

[]和風SFを作って欲しい。

なぜ、日本人は”東洋ファンタジーゲームを作らないのかみたいな話題があったけどさ。

そういうのも良いけど和風SFも作って欲しい。

着物を着た人が銃を持って戦うとか、サムライVSロボットとか見てみたい。

サムライVSロボットはあったな。SAMURAI 7というアニメだ。

ツタヤで借りて観ていたけど仕事が忙しくなってそれっきりだ。

面白かったけど。

[追記]

コメントありがとう

面白そうな作品が色々挙がっていてワクワクしてきた。

ところで「美琴姫様騒動始末」という小説があったのを思い出した。これも面白かったな。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784101151113

昭和64年、江戸の春。日本の起爆装置を仕込んだ水戸光圀の印籠が行方不明になってさあ大変!江戸城中枢水爆スーパーバイズ・システムコンピュータリンクするこの印籠には、日本中の城の水爆を起爆する力がある。銭形平次、伝七等の必死の捜索にもかかわらず、印籠の行方は杳として知れない。じゃじゃ馬美琴姫の活躍はいかに?第1回小説新潮新人賞に輝く表題作ほか3編。

2019-01-19

みんな時代劇観ないの?

時代劇」は衰退するだけのコンテンツなのか

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190119-00260918-toyo-soci

武士の家計簿とか面白かった。

時代劇といえば、英語版ウィキペディアにもJidaigekiという項目が立っている。

https://en.wikipedia.org/wiki/Jidaigeki

時代劇の復活はなるのか?!

思ったんだけど美琴姫様騒動始末を実写化したらどうだろうか?

https://books.rakuten.co.jp/rb/9269969/

昭和64年、江戸の春。日本の起爆装置を仕込んだ水戸光圀の印篭が行方不明になってさあ大変!江戸城中枢水爆スーパーバイズ・システムコンピュータリンクするこの印篭には、日本中の城の水爆を起爆する力がある。銭形平次、伝七等の必死の捜索にもかかわらず、印篭の行方は杳として知れない。じゃじゃ馬美琴姫の活躍はいかに?第1回小説新潮新人賞に輝く表題作ほか3編。



追記

タイトルの「自害劇」の件。

タイプミスだったので、気づいたときにすぐに修正したのですが。遅かったですね。

恥ずかしい限りです。

さらに追加

タイトルを直した時、ブックマークトラックバックゼロだ、間に合ったと思ったのだけど、間に合っていなかった。

気のせいだったのでしょうか。

さらに追加

超高速参勤交代は私も見ましたよ。少人数で村を通った時の誤魔化し方が面白かったです。

英語版ウィキペディアではSamurai Hustleになっています

でも、MISSION IMPOSSIBLE  SAMURAIみたいな名前で昔は立っていた気がする。

さらに追加

ふと「おんな城主 直虎」を一話だけ見る機会があった。面白かった。

2018-11-22

anond:20181121140118

ブクマでも書いたけど、飛浩隆

美しい物語が好きなら、読んでびっくりしてくれ。伊藤計劃神林長平がでてるのに何で入っていないのか……。長久遅筆型作家だが出す度SF大賞かっさらう、日本文系SF極北

ぜひ、グランヴァカンス読んで「まあまあ普通だな」とおもってからラギッドガール読んでほしい。

短編集「自生の夢」は、進化しすぎたGoogleATOKの中で生きる人類がある日いきついてしまった底を描くSFしか読めない表題作が素晴らしい。

今年16年ぶり長編新作の零號琴は、どうせなにかでかい賞をとるので今読んどくとでかい顔ができる。

ある宇宙一角特殊楽器を扱う専門家主人公強化人間美少年相方冒険もの……。というプロットなのはまちがいないんだけど、そうおもって読み始めるととんでもない目にあう。

音楽小説で表す、というアプローチをここまで圧巻の描写で繰り出してしまうの、本当に体験型小説白眉。ここだけでも書籍代以上の価値ある。

しかし、それだけで終わらない……。ちょっとネタバレするとクライマックスは、この世で最も美しくグロテスクで豪華絢爛なオタク悪ふざけ小説、になります

ゴレンジャーとかまどマギとかプリキュアとか女体化とか男の娘とか出てきて、最終的に更地になる。

SFしかない、へんな本だよ。テーマはおそらく「ジャンル小説が生まれてくるとき動機」。

もう少し気軽なのだと、「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」三方行成。

トランスヒューマン強化人間がいる世界で、ガンマ線バーストがでてくる、シンデレラとか竹取物語とか白雪姫とかがよめる。

おとぎ話文体からめちゃくちゃ読みやすい。

みんなが好きな甲殻機動隊もでてくる(誤字じゃないよ)

Kindle無料おためしがある。

https://www.amazon.co.jp/dp/B07K8GYTNM?ref_=k4w_ss_dp_lp


はー増田ネタ最近の好きな本の話をしてすっきりした!ありがとう

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