2021-03-01

必読書コピペマジレスしてみる・自分オススメ41冊編(1)

日本文学編(anond:20210222080124)があまり注目されなかったけれども、記憶を頼りに続きを書く。

芥川龍之介河童

どの作品を入れるべきか迷った。古典翻案に見られる知性とユーモア晩年作品にみられる迫害的な不安、どちらの傾向を持つ作品であっても、元文学少年の心をひきつけてやまない。特に歯車」などの持つ、すべてのものが関連付けられて迫ってくる凄味は、学生時代に再読したとき、行き詰まりかけていた学生生活不安と重なり、ただただ恐ろしく、読み終わってからしばらくは寝床で横にならされた。

河童」を選んだのは中高生の頃で、河童の国を旅する要素に心を惹かれたことを思い出したからだ。それは、大学生の頃よりも不安が弱かったからなのか、この作品に潜む女性への憧れと恐れが自分に響いたのか、あるいは架空世界架空言語に魅せられたのか、その理由はわからない。

ハンス・クリスチャン・アンデルセン雪の女王

アンデルセン小説を読んでいると、きっとこの人モテなかったんだろうなあ、ってのがひしひしと伝わってきて、何だったら今晩一杯つきあうよ、的な気分にさせられる。一人寂しいときへの痛みと、女性への復讐心が入り混じっていて、読んでいて心がきりきりとする。

で、この作品の中でひたすら「いいなあ」と思うのは、悪魔の鏡のかけらが心の中に入ると、どんな良いものもその欠点ばかりが大きく見えてしまうという設定だ。

ところで、ディズニー作品価値貶めるつもりはないけれど、原作とは全然違う話に似たタイトルをつけて世界中に広げるのってどうなんだろう。デンマーク人は怒らないんだろうか(「人魚姫だって原作改変をやってるし……。いや、ディズニー普通に好きなんですけど、最近こうした異文化の扱いって難しいですし……)

グレッグ・イーガン祈りの海」

「白熱光」にしようかと思ったのだが、これはエイリアンニュートンアインシュタイン物理学自力発見していく過程が延々述べられるだけの話で、燃えるけれども物理学の基礎をかじっていないとちっとも面白くないのでやめた。ついでに、彼の欠点として「科学者エンジニア最高、政治家宗教家文学者は役立たずのクズ」という態度を隠そうともしないところがある。要するに理系の俺TUEEE小説なのだ。それに、しょっちゅうヒロインから説教されるし、作者はいったいどういう恋愛経験をしてきたか非常に心配になる。

そうしたえぐみ比較的少ないのがこの短篇集で、最初に読んだ本だから愛着がある。それに、上の隠しきれない欠点にも関わらずイーガンが嫌いになれないのは、科学的な真理に向き合う姿勢と果てしのない好奇心がかっこよく、さらに己に課した厳しい倫理に身が引き締まるからだ。

カズオ・イシグロ日の名残り

友人と富士山に登るときに持っていったこともあり、これも自分にとって思い出深い小説だ。これは、大戦後の新しい時代適応できない英国執事物語である

彼の小説の語り手は基本的には何かを隠していることが多いので、いつも歯に物の挟まった言い方をする。そのうえ、誰もが自分の信念にしがみついているものから登場人物同士の会話は勝手な主張のぶつけ合いになり、実のところ会話になっていない。

カズオ・イシグロはそうした気持ちの悪さを楽しむ作家だ。そして、「日の名残り」は自分の本当の気持ちに蓋をして生きている人、やりたいことよりもやるべきことを優先してしまう人に、刺さる作品であるに違いない。

ミシェル・ウエルベック素粒子

彼の作品不快だ。主人公のボヤキは原則として次の通り。俺は非モテから思春期の頃には思いっきセックスできなかった。中年になって女を金で買えるようになったが、ちっとも楽しくない。子供も老人もみんな大っ嫌いだ、バーカ! これはひどい

作中に出てくる西欧文明の衰退だのなんだの宗教への逃避だの一見知的に見える議論も、すべて上記の嘆きを補強するためのダシに過ぎない。それでもなお、なぜオススメに入れたのかというと、人をエゴ抜きで愛することの難しさを逆説的に語っているからだ。そして、自分が愛されておらず、必要ともされていないと感じたとき人間がどれほど孤独とみじめさを感じるかを緻密に描いている。皮肉なことに、これは性と愛について真摯思考した書物である

ただ、どの作品も言っていることが大体同じなので何冊も読んではいない。

ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人

僕がウルフのことが好きなのは、単純に文章が美しいというだけじゃなくて、迷っている人間の頭の中で浮かぶ複雑な段階が細かいところまでよく見えているからだ。例えば親しい人への憎悪が浮かび、言葉ではそれを否定して見せるが、態度にふとこぼれ出てしまう。そうした過程子供が貝殻を見つけたときのように、ひとつひとつ並べている。

そして、意識の流れとでもいうのか、ある人物意識から別の人物意識へと、外界の描写連想を経てシームレスに移行していく感じが、本当に巧みな脚本映画みたいで、やっぱり映画って文学から相当影響を受けてるんじゃないかって勘ぐったりするのだけれど、本当のところどうなのかは知らない。眠る前の自分意識もふと過去に飛び、すぐに現代に戻り、夢想し、眠りに落ちていく。

灯台へ」とどっちにするかこれも迷った。

ミヒャエル・エンデはてしない物語

さえない少年万引きした小説を読んでいると、いつしかその物語の中に取り込まれしまう。これは主人公異世界に行き、そこでなりたい自分になるが(まさに公式チートだ)、その報いとして自分自身が本当は何者であったかをどんどん忘れてしまう。何よりも面白小説なのに、その小説現実に向きあう力からではなく現実逃避の手段となることの危険性を訴えている。主人公が万能チート野郎になってになってどんどん嫌な奴になっていく様子は必見。また、後半で主人公を優しく包み込む人物が、私の与えたものは愛でなく、単に私が与えたかったものに過ぎない、という趣旨台詞を言うシーンがあり、これが作品の中で一番自分の心に残っている台詞だ。

ちなみに子どものころ映画版を見て、原作とは真逆メッセージストーリーになっているのにショックを受け、初めて原作破壊行為に対する怒りを覚えた。僕が大人商業主義を信用しなくなったのはこれ以来かもしれない。

円城塔文字渦」

基本的自分は何かを知ることが好きで、だから知識の物量で殴ってくるタイプの彼の作品も好きである。それでいてユーモアも忘れないところが憎い。フィクションとは何だろう、言葉文字物語を語るってそもそもどういうことだろう、そうしたことをちらりと考えたことがあるのなら楽しく読めるはず。「Self reference Engine」で抽象的に触れられていたアイディアが、漢字という具体的な文字によって、具体的な形を与えられている。

元々SFの人だけれども、最近日本古典にも守備範囲を広げ始めていて、SFが苦手な人も楽しいと思うし、慣れたらSFにも手を出してほしいとこっそり思っている。

遠藤周作沈黙

どうしてこれほどあなた信仰しているのに、手を差し伸べてくれないのですか。せめてささやか奇跡あなたがいらっしゃるということだけでも示してください。そういう人類が何千年、何万年も悩んできたことについて。神に関しての抽象的な疑問は、具体的な舞台設定を与えないと机上の空論になる。

以前も述べたが、ここに出てくる仲間を裏切ったりすぐに転向したりしてしまう情けないキチジローという人物がとても好きで、彼の「迫害さえなければまっとうなキリシタンとして生きられたのに」という嘆きを、情けないと切り捨てることができない。

ただただ弱くて情けない人物遠藤周作作品にはたくさん出てくる。だから好きだ。僕が文学にすがらねばならなかったのは、それなしには自分の弱さ、愚かさ、卑怯さ、臆病さ、ひがみを許せなかったからで、強く正しい主人公たちからは救われなかった。

イタロ・カルヴィーノ「冬の夜一人の旅人が」。

男性読者」という名の作中人物が本を買うが、その本には落丁があった。続きを探すために彼は同じ本を手に取った別の読者である女性読者」を探し求める。彼はいろいろな本を手に取るが、目当ての本は結局見つからない。枠物語の内部に挿入されるつながらない小説の断片は、それだけでも完成度が高く、まるで本当に落丁のある文学全集を読んでいるような楽しみがある。

世界文学パロディー化した物語のページをつないで作った「鏡の中の鏡」かと思わされたが、それ以上のものだった。語りの文と物語関係とは、新作と偽作とは、そんなテーマ物語レベルメタレベルの二つの層の間で錯綜して語られている。

ダニエルキース「アルジャーノンに花束を

知的障害者チャーリーゴードンが脳手術で天才になるが、その知性は長続きしなかったという悲劇として知られている。けれども、僕はこれをただの悲劇として読まない。障害者セックスについて正面から向き合った最も早い作品の一つだからだ。

チャーリー女性の裸を考えるだけで罪悪感からパニックになってしまう。それは母からの過度な抑圧と体罰が原因だったが、それはチャーリーの妹を彼の性的好奇心から守ろうとするが故の行動だった(チャーリーの母が、周囲からもっと支援を得られていたら、あれほどチャーリーにつらく当たらなくて済んだんではないか、とも思う)。

天才になったチャーリーは恋をし、トラウマを乗り越え、苦労の末に愛する人と結ばれ、やがて元の知的障害者に戻ってしまう。一見すると悲劇だが、彼にはセックスに対する恐怖がもはやなくなっている。彼がただの障害者に戻ってしまったという感想は、その視点が抜けているのではあるまいか

ナタリア・ギンズブルグ「モンテ・フェルモの丘の家」

素晴らしかった。中年の仲良しグループというか、ツイッターでいうクラスタの間を行き交う書簡を通して話が進む。居場所をなくすこと、愛情を失うこと、自分の子供をうまく愛せないこと。そして、友人の死。テーマは深刻だ。なのに、読後感は良い。それは視点距離を取っているからか、登場人物を公平に扱っているからか、それとも愛を失う/奪われる過程だけじゃなくて、そのあともちゃんと書いているからなのか。長い時間の中で、家族や友人が近づいたり離れたりする感じ、これこそ人生だ、みたいな気持ちになる。

アーサー・C・クラーク幼年期の終わり

子供の頃、太陽が五十億年も経てば地球を飲み込んでしまうと知って、非常に恐ろしかったのだけれど、それ以来人類運命について書かれた物語がずっと好きだ(H・G・ウェルズの「タイムマシン」も何度も読んだ)。

人類は滅んでしまうかもしれない。生き延びるかもしれない。しかし、宇宙に出て行った結果、ヒトとは似ても似つかないものになってしまうかもしれない。彼らは人類の何を受け継ぐのだろうか。そして、今しか存在しない自分は、果たしてこの宇宙意味があるのか。

人類運命が気になるのと同じくらい、僕はきっと遠くへ行きたいと思っている。だから、ヒトという形から自由になってどこまでも進化していく話に魅了され続けるのだ。


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記事への反応 -
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    • 方針 すでに読んだか、著者の別の作品を読んだ場合にコメントを書く 海外文学ほど読んでない 元増田→anond:20210210225201 森鴎外『舞姫』 留学先で女性を妊娠させて見捨ててしまう話...

    • どうせルソーとかマルクスとか読むなら スミス『国富論』 J・S・ミル『自由論』 ケインズ『自由放任の終焉』 ハイエク『隷属への道』 あたりもついでに

      • そのへんの古典をイチから読まずに古人の問題意識から最新の学説に至るまでをコンパクトにまとめた本は無いのかしら。

        • それぞれの思想家?について研究してる人の書いた本を読めば、古典自体を読まずに思想を理解すること自体はできるだろうけど そういう本がどれぐらい「最新の研究」までカバーして...

          • いきなり古典そのものを読むより、専門家による入門解説書を読む方が良いと思う。時代背景などは解説なしでは把握できないでしょうし。

        • あるよ。たいていは定番の入門書・解説書がある。ちょっとググって調べれば見つかると思う。

    • どういう基準で選んだの? 文学は知らんのでスルーするが、哲学・思想に関して言えば、ヨーロッパと日本にえらく偏っている。かといって、何かしら思想史の体系や特定の価値観に則...

      • 検索して出てきたもので選んだだけやからそんなこと知らんわ マウンティングせんといて

        • 素直!

        • ズコー (先にマウンティングしといてソレ?!...)

        • どおりで.... 語学関連だと、ソシュールや時枝誠記は専門的すぎると思う。言語学専攻や国語学専攻なら必読だけど。 あと、ハイデッガーやヴィトゲンシュタインは大変だよ。それよ...

    • うっせー「ファインマンさん」と「グールド」と「ろうそくの科学」ぶつけるぞ

    • 以下、このリストに紛れ込ませるラノベタイトル大喜利

    • ルイズ入ってないんだけど

    • 本好きの主語デカすぎないか?

      • 日本文学の方向性がさっぱり分からんちん。 乱読家って感じがする。

    • これだけ読んでも数は数えられないのか

    • 坂口安吾『堕落論』は10〜20分で読み終えられるからオススメ

    • こーゆーのを、昔から、 『衒学者』、といーます。 (平成なら「ブッキッシュ」か)

    • こんなの100人中90人くらいは挫折するでしょ。 この辺の書籍を漫画にした、まんがで読破シリーズでざっくりよんどけばいいんじゃね。

    • ヘッセの「車輪の下」は中学受験終わった小学生に読んで欲しい そしてその時の気持ちを社会人になったときに思い出して欲しい

      • 『車輪の下』は良いね。僕も受験の頃に読んで非常に共感したよ。

    • デリダもフーコーもいらねえよゴミポモくそやろう

    • 特に若い間は。もしその古典が現代までの反駁に耐えうる素晴らしい内容を含んでいるのだったら、そのエッセンスはもっと磨き上げられた上で現代の本にも取り込まれている。無いな...

    • 残念だけど教養主義の時代はもう終わっちゃったんだよな。2chにこういうコピペが貼られていた頃、20年前頃だろうか、ではまだその残り香があったのだけれど。

      • 教養主義が崩壊したのは団塊世代と氷河期世代が馬鹿だから。 その二つの馬鹿が吹っ飛べば、教養主義はガラホやラズパイとともに復活する。 その復活の糸口は将棋や囲碁などに表れて...

    • 聖書全部読めとは言わんけど創世記だけってのはどうだろう。 出エジプト記くらいはセットで読みたい。聖書読むのにモーセが海を割る部分を読まないなんて嘘だろ。 欲を言えばカナン...

    • 方針 読んだ感想を思いついたままに、友達にだべるみたいに書く 高校卒業後に読んだ本も含める 読んだ人が「面白そう」と思ってくれたらうれしい 文学はいいぞ 古典はいいぞ 時...

    • anond:20210210225201 「100選」って書いたけど、多分50冊もないわ。トラバやブコメで埋めてくれ。順番とかは重要度とかではなくて、単に思いついた順。 外国人著者 スティーブン・ピンカ...

    • 現代詩マニアとして吉岡田村という入手性の良い二人を挙げているところに信頼はおけるが ただ近現代詩を俯瞰してまず読むべきは吉岡田村より賢治と谷川だろうよ 吉岡田村は自分が作...

    • https://anond.hatelabo.jp/20210210225201 エドガー・エラン・ポオ「モルグ街の殺人」 ウィルキー・コリンズ「月長石」 コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」 モーリス・ルブラン...

      • カポーティの「冷血」はノンフィクションノベルであってミステリではないんだが・・・

      • 来世の高校に賭ける!

      • 罪と罰はミステリーなのか あれが含まれるなら大抵はミステリー要素あるな

        • そらそうよ 謎があればミステリー 想像があればSF 不思議があればファンタジーだよ

      • 方針・目的 ミステリはほとんど読まないので読んだのだけ 最近のミステリは全然読んでない 少しでも多くの人を読書沼に引きずり込みたい 必読書を挙げるというより、自分の一押...

      • ここまではてな記法をつかいこなせるとはおまえ元は名のあるダイアラ―だな だがコピペに向かないのだよな 30%くらい読んだこと会ったけど最終的に北村薫と泡坂妻夫あたりでいい...

      • https://anond.hatelabo.jp/20210215101500 エドガー・エラン・ポオ「モルグ街の殺人」  ・しょうもない犯人、しょうもない気付き、しょうもないミステリの元祖。 ウィルキー・コリンズ「月長石...

        • コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズの冒険」は脳内でホームズのセリフを露口茂の声に変換すると最高な作品となるのは言うまでもない。

        • 売れ筋の東野圭吾は?

        • 館入れていいなら有栖川も入れてくれよ

      • 出でた〜老害の押し付け恩着せがまし〜 時代背景の違いが原因で読みづらいことが結構あるけどそれは考慮しない〜

      • 最近必読書を挙げる増田が流行っているけれど、その必読書にはなんで未来の書物は含まれていないんだろう。 過去の書物による必読書リストって、既知のリストからセレクトするだけ...

      • 79. 中井英夫「虚無への供物」 忘れていたので追記。ミステリをろくに読まずにアンチ・ミステリを読んで気取るのもどうかと思ったが、メタフィクション的なものにひかれる性分なも...

    • https://anond.hatelabo.jp/20210210225201 (便乗したいだけである) 令和にもなってるのに、いの一番にバブリーズやスチャラカ勧めている人は絶対読み返していないだろと。今読むと結構キツイ...

      • 書いたな!俺の前で!TRPGリプレイのことを!   なんて嘘嘘。 当方、リプレイの歴史を語る知識も能力もござーせん。 元増田と比べてかなり薄い人。 しかし、元増田に影響されて思い...

        • 菊池たけしのセブンフォートレスのやつはギャグにふっててよかったような つっても絵師の力も大きかったし、最初のやつだけかな

    • を書こうとしたが普通に頭数が足りなかった n>=100 本,読破,古典anond:20210210225201 ミステリ,読破,古典anond:20210215101500 2,読むべきではない,理由anond:20210215232802 ロック,聴く,古典anond:202102...

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