名前を隠して楽しく日記。
耳の先から尻尾の先まで真っ白で、右目の目頭にだけ小さな黒い斑がある猫だった。右は薄い水色、左は黄色のオッドアイ。
猫のことあんまり知らんから分かんないけど、金玉がついてるように見えたしオスだったんじゃないかな。さくら耳じゃなかったし。でも子猫ではない大きさだった。
この近くに猫を飼ってる家なんて無いし首輪も無いけど、明らかに人馴れした個体だった。人間を見つけると近づいてきて、靴の上で寝転がりながらニャアニャア鳴いた。 歩くと少し後ろを付いてきたけど、こっちが走ると途中で諦めてこちらを見ていた。
それだけなら無視できたのに、足元すり抜けたり自動ドアを抜けたりして建物内に入ってきたから、その度抱えて外に出した。両脇を抱えると薄い肉越しのあばらに手が触れて、めちゃくちゃ軽かった。
終いには食料品を扱っている場所に入ろうとしたから、誰かがどうにかしなくちゃいけなくなった。
「別のとこ行ってくれたら良いんですけどね」
「猫好きだけど今触れないから」
小さくて古い職場ゆえに、立場とか以前に一番若い自分がどうにかしろっていう無言の圧力があった。こっちだって業務あるんだが??割ける時間は限られる。飼える住居も給金も無い。
一応「(地域名) 迷い猫」で検索するも該当なし。保護団体もちょっと調べたけど、まず自宅で保護できないとサポートしてもらえなそうだった。遠くに棄てに行くのは論外。外来種だし家畜だし。
結局、保健所に行き着いた。もしかしたら殺処分以外の可能性もあるかもしれないし……
持ち込んでからはあっという間で、保護した状況をサッと書面に書いて、猫の特徴を書いて、段ボールごと猫を渡して、おしまい。
自分にできる最善の選択をしたつもりだけど、しばらく気分は晴れない。あの猫を誑かして最後まで面倒見ずに外に離した奴に腹が立つ。あと対応を押し付けておきながら「保健所連れてったの?かわいそうだね~」とか言う奴もムカつく。
家の前で水道工事工事が行われているのだけど、交通整理の人がガンガンおこられている声が聞こえて辛い。聞こえてくる内容的に本当に安全に関わるミスぽいしそのミスを何度も繰り返してるらしいのでそりゃあ思わず怒鳴るよね、と理解はできるが罵声怒声が聞こえてくるのはしんどい。
こどもがゆーかくゆーかく言うてるんだが!
初めての一人暮らし、遠く離れた場所での生活、そして新社会人としての生活に親として不安を抱えつつ、
新社会人として最初の壁に当たっているのかな?位に思っていたが、
帰りに駅まで送った妻から、息子が『俺、会社辞めるかも』と言っていたと聞いて心配にはなっていた。
妻は『いつでも帰っておいで、こっちでゆっくり仕事するのもいいよ』と返したとのことだった。
連日続く上司からのパワハラに心が悲鳴を上げ、適応障害の診断を受けたとのことだった。
生気の失せた顔で帰ってきた息子を見て、ふつふつと怒りと悲しみが込み上げてきた。
親として息子の仇を打ちたいという気持ちもあったが、
一か月、二か月と経って行くうちに少しづつ元気を取り戻す息子を見ていく中で、
もし仮に元通りとなっても彼はその過去を背負って生きていかなくてはいけない、
自分の人生に語りたくない部分を持ち、誰かを恨む人生を送ることになるかもしれない、
そうさせないためにも何らかの『儀式』が必要なのではと思うようになった。
そして某月某日、私は息子の勤務先であった営業所へ向かった。
『上司は昼にはランチを食べに外に出て1時前には帰ってくる』と息子に聞いていたので、
営業所の前で待つことにした。
そこへ上司と若い部下と思われる4名が営業所のあるビルに入ろうとするのを見つけた。
私は彼らに近寄り、上司と思われる人間におもむろに声を掛けた。
『〇〇さんですよね?私、〇〇の父親です。お話があって伺いました。』
『ちょっと準備がありますので、ここでお待ち頂いて宜しいでしょうか』
待つこと5分。
おそらく彼の上司、または人事に連絡をして指示を受けているだろう。
暴力を振るわれる可能性も考え、録音もされているはずだ、と予測した。
再び現れた彼は私を営業所内の一室に案内した。
私はストレートに『あなたは息子にパワハラをしましたね?』と質問した。
彼は『いえ、そのようなことは一切…確かに厳しい言葉を使ったことはあるかもしれませんが』と言ったまま、押し黙った。
私は、『なるほど。分かりました。私は今回の件で御社がパワハラの扱いをせず、自己都合で息子を退職させた理由を知りたかったのです。
あなたは自分はパワハラをしていないと言った。会社にもそのように報告しているはずです。つまり、嘘をついたのはあなたですね。
もしあなたがパワハラの事実を会社に素直に報告していたのなら私は会社を訴えるつもりでした。でもそうではないと分かった。
原因は嘘を報告したあなただ。ですので、私はあなたを訴えます。賠償金は1000万。では裁判所でお会いしましょう』
彼はそれまでの、不遜とも極度の緊張とも取れない表情から、明らかに極度の緊張へと変わった。
私はここで話を終わらせるような物言いをしたが、そのつもりはなかった。
ここで席を立ってしまっては実際に裁判を起こさなければいけない。
それは息子にも新たな負担を強いることになる。
例え裁判に勝っても、それは息子が知っている事実が認められただけのことだ。
私はどこかにあるはずの録音中である彼のスマートフォンに向かって、続けた。
『もし少しでも会社に責任があるのなら、私は株を買って株主総会に出るつもりでした。
そこで議長に対し、このような事実があることを知っているか聞くつもりで。
メンタルを患って退職する新入社員が彼だけではないことも聞いておりますので。
もし議長が知らないのなら、私はSNS及びメディアにこの事実を一週間後に明らかにすることを株主の皆様に伝えます。
と言って、席を立った。
こちらが驚くほどあっさりと、事実関係の再確認と全責任を持って対処することを約束してくれた。
そこから2週間後、その調査結果の報告と謝罪を兼ねて私と息子は彼らと再会した。
帰りの車の中で私は息子に言った。
『お前の上司のこれからは、おそらくお前が受けたパワハラよりも厳しいものになるだろう。
だからもう彼を恨まなくて良い。これで終わりだ。お前は自分の人生を考えるきっかけを掴んだ。
仕事ってなんだろう、これから先どんな風に生きていくのが幸せだろう、そんなことを考えるきっかけだ。
給与が良いとか上場してるとかしてないとかじゃなく、自分の幸せを基準に次の道を見つけていこう』
親としてほんの少しのことかもしれないが力になれたのかもしれないと安堵している。
壊れた蓄音機のように
壊れたサンプラーのように(きつねが使ってるやつ)
もっと丁寧な口調で言って
性別がわかる前から、なんとなく女の子かなぁ…と勝手に思ってて、検診に行っても、男の子のあれが見えずにいたのもあるし。
女の子名前辞典を見て、どんな名前にしようかとか見てたりして期待してたんだよね。
こういうのは良くないのはわかってるんだけど、テンションだだ下がり。
女の子なら、友達みたいに買い物に行ったりできたらなあって思ってたのに。
子供の頃に見た印象的な悪夢によって、人格ってある程度決まっちゃう気がする。
俺自身が当時どんな夢を見たのかを言うつもりはないけれど、二十年以上経っても未だにそういう夢は記憶に焼き付いていて、俺の行動を規定している気がするんだよな。純粋な悪夢は、人の心の中で石のように固まって、そこから常に人の行動に影響を与え続ける気がする。ある意味、人は悪夢によって調教され、悪夢の曳航に従うことになる。
我々は時に、そんな純粋な悪夢の影響によって、やってはいけないこと、やるべきこと、そういうものを学ぶことになる。
純粋な悪夢を見て、それを分かりやすく理解して、次の行動に役立てること。そういう営みが人を人たらしめる気がするんだよな。気合の入った悪夢見ろよ。