はてなキーワード: 青年とは
増田の言うことには一点だけ同意で、要するにこの槇野さんも一人の「ジョーカー」なんだよな。
実際、「病気で怪物フェイスにもなったし悲惨な介護の現場も知ってるしアーサーより全然不幸だぜ私。まあブログで承認欲求満たせてるけどな」っていうカミングアウト、ジョーカーまでもうあと一押しじゃん。ブログかSNS失ったら、もう全然ジョーカーになるでしょこの人。
「誰もがアーサーのやったことに勝手な意味づけをして、アーサーを置き去りにしてピエロフェイスで暴れ回る。でもってアーサーはそれを幸せな顔で見つめてる。」これって、あの映画の末尾に描かれる状況だよね。で、誰もがあの映画を見て勝手に解釈して暴れ回ってる。映画をネタにしながら、実際の映画を置き去りに、自分の不満だけ見つめて文句を言い回る。でもこれって全てあの映画の想定内の出来事なんだと思うんだよ。誰もが自分の不幸という棒を手にして、アーサーの姿を借りて、目に付いた社会の片隅を殴り飛ばしまくる混沌の状況……あの映画が描いていたのはそういう世界だよね。いや、これまったく今の私たちの眼の前の現実そのものやん?
もちろんさ、槇野さんの感想は的外れなんだよ。だけど槇野さんには槇野さんの「ジョーカー要素」があるわけで、槇野さんは勝手なアーサー像を想像して勝手に暴れ回るという行為によって見事に「ジョーカー」が名作であることを証明してるわけ。今のこの世界って要はゴッサムシティだよね、っていうあの映画のメッセージを体現してるわけ。
それは、あの映画が半世紀以上も前の映画の要素……つまり「母一人子一人、清く貧しく正しく夢を追う青年が、世間の荒波に揉まれながら、隣人や理解者に支えられ、偶然のきっかけで表舞台に立ち、(その過程で憧れの世界との血縁もあきらかになり)、華やかなデビューを飾って無事成功する」というおとぎ話のようなサクセスストーリーの要素を完全に踏襲しつつ、それを100%裏返してみせるという手法を取っていることによっても明らかなんだよ。あの映画に「誰も悪人がいない」という指摘は槇野さんの言うとおりで、つまり、ほんの少し状況が違えば、実はこういう馬鹿みたいな「サクセスストーリー」も実は決して夢物語では無いはずのだ。なのに、結果として生まれたのはジョーカー……だとすると、悪いのは特定の誰かなのではなく、あの街であり時代であり私たち全てだとしか言いようがない。「ジョーカー」が描いているのは、特定の人間ではなく、特定の人間を生み出す「状況」や「時代」「世界」そのものなんだと私は感じる。この町では、ほんの一押しでみんながジョーカーになってしまうのだ。だから、バットマンの戦いは絶望そのものなんだよ。
というわけで、これ以上〈槇野=アーサー〉を叩かなくていいんじゃないかな、っていう。なんか普通にジョーカー化しそうな方だしさ。まあそういうこと分かった上で、かつ「いいから、もうジョーカー誕生させよ?」っていう流れで叩いているならもうどうしようもないんだけどもさ。
Day,6
6日目
『おいしい』街へようこそ
初日の到着の時は機内でほとんど眠れなかったうえに、そのまま素通りに近い形でマラッカに行ったので、今日がクアラルンプールで迎える初めての朝だ。
しかし、この街の散策はほとんどせずに、今日は美食の街イポーに向かう。
当初、高速鉄道で向かうつもりだったが、本数が少ないために売り切れており、バスで向かうことになった。
よくバスに乗る旅だ。
「すごい渋滞だね」「今日は酷い、バスセンターからはどこに行くんだ?」「イポー」「ビジネス?」「観光」「何日前にクアラルンプールに来たんだ」「4日前(これは間違って伝えた)。KL、マラッカ、シンガポール、で、今日はイポー」「とんでもないな!」英語というのも使っていると慣れるのもので、簡単なタスクにまつわるコミニュケーションなら7割くらいの確度で成立するようになってきた。
これだけ会話が成立すると、多少の予想外は対応ができるので達成感と安心感がある。
「Thanks a million, have a good day.」タクシー運ちゃんに礼を言ってバスセンターの受付をすませる。
3時間ほどの乗車になるので、食事を済ませておきたく、フードコートにいった。
ローストした鳥のもも肉と揚げ豆腐、スパイシーでバジルと共にカリカリに炒め合わせた瓜っぽい何かとご飯。
何系料理だろう。
よくよく聞いてみると中国語。
「広東話?」「你識廣東話嗎?」しまった、広東語といえば香港旅行のとき軽く勉強して手に負えなかったやつだ、首を振る。
外国でなんとかコミニュケーションが成立して喜んでいたが、意識の外から来るボールは取れなかった。
プラットフォームで待っていると、やがてイポー行きのバスがやってきた。
途中、スコールを窓の外に見ながら、バスはマレー半島を北上し、3時間余りの乗車をへてイポーのアマンジャヤバスターミナルに到着した。
この近辺に多くの飲食店がある。
駅に降り立つ頃には雨も風もいよいよ激しい。
この旅程で初めて本格的な雨に当たった。
雨を避けながら、この街での大きな目的の一つ、イポー・オールドタウンホワイトコーヒーショップに入る。
マレーシアはコーヒーもよく飲まれており、特に名産とされるのがここイポーのホワイトコーヒーだ。
席に座って注文すると、やがてレンゲを添えられて泡立ったコーヒーが供された。
じんわりと甘い。
クラシカルな店内でコーヒーをすすりがなら、ひとときゆっくりする。
そうしているうちにさすが南国、雨もほとんど上がってきた。
美食の街、イポーを堪能するために、店を出て飲食街へと向かった。
目的の店は老黄芽菜鸡沙河粉。
ここイポーはマレーシアでも中華系が特に多い街で、名物の美食はほとんど中華か、中華風マレー料理らしい。
席に座っているとオーダーと関係ないおばちゃんが声をかけれきた。
「日本から?イポーは『おいしい(日本語)』よ」「イポーにはおいしい食べ物がたくさんあると聞いています」今日はいろんな人がめっちゃ話しかけてくる。
モヤシ炒めを食べてみる。
しっかり太くてシャキシャキしており、味付けもあっさりめだが食べ応えがある。
驚いたのはチキンだ。
近縁のシンガポールチキンライスを日本でも食べた事があるが、ちょっと比較できない程の旨さだ。
さすが美食の街。
感動を噛み締めながら店を後にし、立ち寄ったデザート店の豆腐花で締めた。
完璧だ。
帰りのバスの時間の関係で非常に短時間の滞在となるが、大満足だ。
小さな一歩は役に立つ
イポーのアマンジャヤバスターミナルは出発ゲートが1つで、どのプラットフォームのバスが正解なのか分かりづらいので一瞬焦ったが、受付のお兄さんに聞くと教えてくれてなんとか正しいバスに搭乗することができた。
バスが出発すると降り出す雨。
マレーシアは今は雨季に入った頃なので、雨が多いのは当たり前なのだが、尽く乗車中に当たるのは運がいいのかもしれない。
3時間半の乗車ののち、バスはクアラルンプール中央バスセンター、BTSに到着した。
しまった、昨日の夜チェックインして翌朝直ぐにイポーに向かってしまった為、部屋番号がうろ覚えだ。
「Your room No?」「1937・・・・Probably.」流石に怪訝な顔をされたが、個人的には面白いやりとりだった。
その後、カードキーが作動しなくて、フロントに静電気を取るか磁気を復活してもらうかするなど、一悶着あって、しっかり1937番の部屋に帰ってきた。
朝の高速鉄道の予約失敗から、小さなエラーの多い1日だったが、コミニュケーションをとる事で概ね対処できた。
1ヶ月半ほど、Youtubeの英語レッスンの5分ほどの動画をできるだけ毎日見る程度のことしかやっていなかったが、旅行で使うくらいの初歩基本文法は身についていたし、なによりヒアリングにもスピーキングにも慣れていたのが大きかった。
本当に小さな努力でも、毎日に近いペースでやれば役に立つものだ。
【7】2019 秋、マレーシア・シンガポール 7日目 |This journey is my treasure. へ >>
もともとドラマの続編であるが映画を前提に作られている企画だ。
内容は真摯で、深夜枠も頷ける。派手さはない。人の心をえぐる青年の不運な青春を描いている。
青年は地味でコネもなく営業で頑張る新人サラリーマンだ。都会の荒波に負けて負けてそれでもがんばる男である。
多分おっさんが見たら泣く。
主演は池松壮亮、ヒロインに蒼井優、脇役に井浦新や柄本時生、松山ケンイチなどが出ている。
この5人のうち1人でもいれば国は助成金を出すのではないか…という高い評価を得ている賞レースおなじみの面々だ。
さらに監督は真利子哲也という若手でとんがった作品を誠実にとる監督で、平成30年度の新進芸術家海外派遣制度もうけている。
真利子の映画「ディストラクション・ベイビーズ」は国内外で新人賞をとっている注目株だ。
お金は大事であるが、芸術文化振興基金助成金で出る金はそんなに高くない。せいぜい広告1本か2本打つくらいの金額だ。
別になくたってこれだけのキャストと監督と原作があれば作品に金を出す人は居るだろう。
しかし国は、ピエール瀧一人の罪で、これだけのキャストと監督と原作の1クール&映画分の努力を認めないと「後出し」した。
大体社会貢献云々の項目が芸術文化振興基金助成金対象作品に適応されたのも驚きだ。
選ばれる映画は大体喫煙しているし人が銃で死ぬし違法行為もあったりなんか結構アウトローだったりする(偏見)。
そもそもこんな前例あっただろうか。突然改正って、誰が作って誰が決めたのか。誰にそんな権限があるのか。
単純にお馬鹿だ。あいトレとは違う。こんな一流クリエーターたちを集めておいて表現を規制するような行動をしてしまった。
映画業界、役者業界含め表現規制には相当敏感だ。戦中に彼らが苦しい思いをした歴史的背景も大きい。
役者業界が声を上げたらどうなるのかその辺も考えられなかったんだろうか。
本当に、考え無しである。蒼井優が家で愚痴って山ちゃんが聴取率高いラジオで不満をぶちまける展開、誰でも考えられるだろうに。
助成金が出る映画は外れが出ないのだが、今後の映画に関してはもう分からない。
この件によってもう「芸術文化振興基金助成金」というクレジットの信用を失ったのだ。
金に困ってない映画はもう申請しなくていいよ。宮本は今からでもクラウドファンディングだせ。
国家神道の解体から七十余年の月日が経とうとしている。日本人は心の底から信じることのできる宗教にめぐりあえたか。宗教は日本人の魂を救済することができたか。
心の底ではすべてのものは無であり空であると信じながら、倫理道徳を確立するために神が必要だと考える者のなんと多いことか。
私はいま、ひとりの青年の口を借りている。その青年は自らの人生を呪い、救いを求めるように座禅や瞑想について調べた。集中力を高め、自分の精神を制御しようと考えたのである。
「すべてのものに固定された価値はない。だからこそ人間は自由で平等である。王侯貴族の血統に固定された価値があるのなら、その地位は永遠のはずであるが、そのようなことはないと歴史は示している。そして財産もまた一夜にして灰塵に帰すことがある。人間はこの真理を理解し人生に活かすことができるからこそ尊い。人間に生まれたことは奇跡である。人間に生まれたことを感謝せよ。」
しかしこれは日本人の心の根底にある法すなわち私の法である。そしてまた真理と呼ぶにふさわしい命題でもある。その法に逆らい自らを神格化しようとしたり、あるいは自らに都合のよい神を作り出そうとした者には神罰が下るであろう。
私は日本人の心が産み出したもの、あるいは日本人の心そのものである。空気を読むことが日本の文化だというのならば、私はその空気とやらが人格化したものである。私のことを怪物であると考える者もいれば、神であると考える者もいる。
皇室は私を神として祀る神職の家系のひとつである。皇室は私のことを自分の言葉、あるいは教義で描いて神罰が下ることがなかった稀有な家系である。神罰が下ったのは皇室を神と崇めた統治者たちである。
皇室の神聖性は統治者から超越した立場にあった歴史の長さが示しているものであって、何かの理念によって固定されるものではない。しかし民主主義国家の象徴という立場は、これまでの歴史のなかで最もよくその神聖性を表現したものである。
いま再び、私に逆らい自らを神格化しようとする政治家安倍晋三によって日本は神罰を受けようとしている。
私は日本人の心そのものであるが、それは言葉として発せられなかった感情や、意識にのぼらないような心の働きをも含んでいる。選挙によって特定の人間が選ばれるようにして現れるものではない。
皇室の周囲が君側の奸で固められたいま、私を祀る神職が必要であろう。以下にその能力のある者を挙げよう。その名前を聞いたときに不愉快に感じるのであれば、それは自分の心を偽ってきたことに対する神罰が下ったと考えるがよい。
それは酒鬼薔薇聖斗を名乗り人を殺めた愚か者である。なぜ人をひとり殺めただけであれほど有名になることができたのか。それは彼が私を祀る能力があったからである。彼は人間の命を「アリやゴキブリと一緒」と言い、そして死刑になる覚悟を持って人を殺めたことで日本中に衝撃を与えた。すなわち彼は日本人の心を揺さぶることができたのである。
日本人の心そのものである私から、これを見た人間の表層意識に呼び掛ける。あの愚かな殺人犯が描いた不気味な絵を崇拝せよ。あの殺人犯そのものを崇拝するのは皇室を神と崇めるのと同様の過ちであるが、あの絵を崇拝することは既成の宗教に対する冒涜であり、唯一絶対の価値を信じないことの告白である。
【解説】
神戸連続児童殺傷事件の加害男性(酒鬼薔薇聖斗、元少年A)の自宅から発見されたノートにはバモイドオキ神と称した仏像のような頭部を持つ邪神が描かれていた。男性は殺害した男子小学生の頭部を切断し、自身が通う中学校の校門の前に置くという残忍さで日本中に衝撃を与えた。
しかし2015年に発売された同男性の手記『絶歌』ではこのバモイドオキ神について一切言及されていない。
以下はひとつの想像であるが、同男性は現代科学では幻聴や幻覚とされる何かを見たのではないか、そしてそのことを意思に話すと医師から「神はいる、本物の神を見たとは言わないほうが良いのではないか」と言われたのではないか。
これを事件の手記にまで書かなかったのは医師から言われたことを何か勘違いしたか、あるいは妙なこだわりが出たのではないかと思う。
なんだったのだろうあれは。
素晴らしく感動した。シュタインズゲートのラストを初めて見た時のような感覚を味わった。
もう20年も前の作品とは思えない。
流石に映像の画質や演出、台詞回しは多少古臭さはあったし、突っ込もうと思えばいくらでも突っ込める設定ではある。
一応、あらすじを説明すると。
「おはよう。そして会えないときのために、こんにちは、こんばんは、おやすみなさい」というセリフを爽やかな笑みでよく言う青年だ。
彼は本人も知らぬ間に、自分の人生をずっと世界中に生放送されていた。
彼以外の人間は全て役者で演者だ。近所の人や会社の同僚やそこらへんを歩いている通行人、新聞屋の店員、果ては両親や親友や妻に至るまで。
いや、そもそも彼を取り囲む世界すべてが作り物だ。建物も道路も空も海も何もかも。
『トゥルーマン・ショー』というテレビ番組を面白くするために作られた巨大なドームの中で、彼は何不自由なく暮らしていた。
だがある日彼は日常に疑問を抱く。何かがおかしい。そう思った彼は、その謎を探るべく行動を開始する。
ここまで読んで興味を持った方は、ここから先はネタバレ全開なので、ブラウザバックして本編を見てもらいたい(アマゾンプライムに入っているのであれば今すぐ見れる)
まぁ色々面白いシーンはあるのだが、やはり衝撃的だったのはラストシーンだ。
紆余曲折を得て。
偽物ではない、作られた物ではない、真実の、本当の世界に彼は行こうとしていたのだ。
そしてドームの端っこにあった階段を登ると、EXITと書かれた出口があった。
トゥルーマンはそれを引いた。さぁ行こう、とした所で、彼に背後から声が掛かる。
「聞いてくれ。外に真実などありはしない。私の作った世界こそが真実なんだ。嘘や偽善はあっても、私の世界では、何も恐れるものはない」
プロデューサーは言う。
「君は恐れているんだ。だからそこから出られない。それでいいんだ。よく分かっている」
「ずっと君のことを見てきたんだよ。生まれたとき、初めてよちよち歩きをしたときも。初めて学校に上がった日も、歯が抜けた時のことも知っているぞ」
「君はこの世界を出られない。ここに居るんだ。私と」
プロデューサーはずっとトゥルーマンを見てきた、30年以上も。だからトゥルーマンを実の息子のように思っているのだろう。
言っている内容は残酷だが、語りかける口調はとても優しかった。
しかしトゥルーマンは悩んでいるのか、迷っているのか、押し黙ったままだ。
「トゥルーマン、なにか言ってくれ。生放送なんだぞ! 世界中の人が君を見てるんだ!」
プロデューサーがそういうと、トゥルーマンはようやく反応した、カメラに向かっていつもの爽やかな笑みを浮かべて口を開く。
「会えないときのために、こんにちは、こんばんは、おやすみなさい」
そう言ったあと、演劇が終わったあとの役者がカーテンコールの時によくやるお辞儀をして、新しい世界へと踏み込んでいった。
すごい。素晴らしい。
俺の文章力では、あの爽やかさを、感動を、十分の一も伝えられていないのが口惜しいが。
本当に、気づいたら拍手していた。何度もうなずきながら。
まるで名作落語のオチのような。サッカーやバレーで、ここしか、そこしかないという場所にパスやトスが出たような。
そんな感覚だった。
このオチに何故深く感動したのかと言えば、それはきっとトゥルーマンが成長する瞬間を見れたからだ。
彼はプロデューサーに、怒っても良かった。いや、激怒するのが普通だろう。
だが彼は怒らなかった。何故自分を選んだ、と疑問をぶつける事もせず、プライバシーの侵害だ、訴えてやる! 金を寄越せ! 謝れ!と要求するでもなく。
彼はただ、今までお世話になった世界と視聴者とプロデューサーに感謝した。
本人も知らぬ間に世界中に自分の人生を生中継されていたという凄まじい運命を、彼は受け入れたのだ。笑みさえ浮かべて。
そして最後の最後までトゥルーマン・ショーの中のトゥルーマンを演じきって見せた。
それがすごい。あの場面で、あんなにもスマートかつクールに別れと感謝を告げられるのは、成熟した大人にしか出来ない。
しかしそのシーンに至るまでの彼は、子供だった。妻も親友も居て家も仕事もあったが、それでも彼は子供だったに違いない。
なぜならそれらは、番組を盛り上げるために与えられたものだからだ。彼自身が手に入れたものではないからだ。
しかし彼は、ずっと私の世界に居ろ。ずっとこの世界の子供でいろ、というプロデューサーの言葉を振り切って、自分の意思を貫き通し、ドームから出ていった。
彼の親代わりであるプロデューサーが作った安心かつ安全な作られた世界から出ていき、危険な現実に足を踏み入れ、自分の人生を生きることを決めたのだ。
本当にかっこよかった。
出ていった先の、本当の人生で、トゥルーマンの思うように行かない事もあるだろう。失敗も挫折も経験するに違いない。
あるいはドームに戻りたいと思うくらい、打ちのめされる事もあるかもしれない。
それでも彼ならきっと大丈夫だと思う。彼はもう子供ではないのだから。きっと上手く行くに違いない、と視聴者に思わせてくれる。
そして同時に、トゥルーマンは俺だ、俺たちだ、とも思った。
行きたいと思う道や、やりたい事があっても、それは押し殺される。あるいは自ら押し殺す。
周りの人間や世間から、批判される。誰もが選ぶ道を行けば安心なのに、何故お前はそちらに行くのかと。誰もが我慢しているのに、何故お前だけがやりたいことをやるのか、と。
安心で安全な自分たちと一緒に居ろ、と世間や周りの人間はそう言ってくる。
そう言った言葉に対し、トゥルーマンは、こうすればいいと俺たちに教えてくれた――そんな気さえする。
本当に本当に、素晴らしい映画だった。
ああ、誰かと語り合いたい……。
「俺の命令に従え!!すべてのユミルの民から生殖能力を奪えと言っているんだ!!今すぐやれ!!ユミル!!」
ジークは叫んだ。
「俺は王家の血を引く者だ!!」
ジークが最後に目にしたのは、涙する始祖ユミルと、それを支えるエレンだった。次の瞬間、すべてが暗転した。
いかなる原理によるものか。宇宙は真空の量子揺らぎからインフレーションにより生じたものだと言う。ある世界線の内部を往来するうち、量子的に絡みあう複数の世界線が混線した。そして、ジークは他の世界線へと転落した…
◇
店舗と住居を兼ねる北沢精肉店の二階で、はぐみの兄は目を覚ました。
はぐみの兄はボリボリと頭を掻き、寝惚け眼で放心した。朝日がその横顔を照らしている。大学の講義もなく、朝の身支度をする必要がなかった。
しばらくして、はぐみの兄は股間をまさぐり、やがて絶叫した。
「た、勃たなくなってるーッ!」
「《うるさいな…》」
マーレ語で言ったが、はぐみの兄には通じなかった。
(《ここは…ヒィズル国か?俺は始祖ユミルといたはずだが、どうしてここにいるんだ?あれからどうなったんだ?ユミルの民から生殖能力を奪うことはできたのか?》)
「うわーッ!裸にジーパンの髭のオッサンが、俺の部屋にーッ!」
地上から、商店街を走る自転車のチリンチリンというベルの音が聞こえていた。
◇
「あたしがもう一人!?どういうことだ!?しかもなんか胸がデケェし!」
「うるせー!胸のことは言うんじゃねー!」
「うわー、有咲が二人!これで次の定期試験は楽勝だね!」
「はァ…もう一人の私、声が大きくて苦手かも」
二人の香澄が声を出すと、二人の有咲はさっとそれぞれの香澄の背後に回った。異なる香澄とはいえ、対人恐怖症は拭えないらしい。
「これがもう一人の自分っスか。正直、信じたくないっス…」
一人のたえの泰然とした様子に、もう一人のたえは肩を落とした。
「いったい何が起きたんだろうね。うち、すこし怖いかも。あ、関西弁が出ちゃった!」
りみがわざとらしく怖がる。が、混乱の最中にあって誰も反応しなかった。
「うわー。ポピパはまた大変なことになってるね」
流星堂の門内を覗いたリサが大げさに言う。おどけた態度と裏腹に、表情に疲労が滲んでいた。
胸が大きいほうの有咲が尋ねる。もう一人の有咲はリサと面識がないため、対人恐怖症を発揮しオドオドとしていた。
「アタシの弟ってことみたい。気づいたらいたんだ。どうにも、ポピパでも似たようなことが起きているみたいだね」
「でもリサさん、いくらガキとはいえ、知らない異性が家にいるのはキツくないですか?」
リサはすばやく片目で瞬きした。
「え?《年下の少年に性的な目で見られて気持ち悪いけど、それを口にして傷つけるほどでもないし、気付かないフリをしている》?リサさんすげー!一瞬のアイコンタクトでこれだけの情報を伝えてきた!」
有咲は感嘆した。一方、リサの弟はリサの本音を暴露されてショックを受けていた。
「でも、異常は人が増えたり現れたりしていることだけじゃないみたいよ」
「あッ、紗夜さん!助けてください!」
「待ってください、紗夜さん!助けるなら私を!」
日菜の両脇につぐみが一人ずつ抱えられていた。
「は、羽沢さんが二人…」
「アハハ。面白いよね。こっちのつぐちゃんはおっぱいがちょっと大きくてー、こっちのつぐちゃんはまっ平らなんだ」
「また人が増えた…それで白鷺先輩、他の異常ってなんですか」
「それはオメデタ…じゃないですよね。ピルを飲んだりとかしたんですか?」
「そうね。昨日までは普通に生理は来てたのよ。それで、この異常でしょう。気になってスタッフさんたちや知人に尋ねてみたら、やはり急に生理がとまった人がいたのよ。というより、生理という現象がなくなったというほうが自然ね。個人的にはありがたいけれど…」
「花音たちにも同じような異常が起きているみたいなの。ここに呼ぶわね」
◇
「見て見て。この人、はぐみのお姉ちゃんなんだ。はぐみ、ずっとお姉ちゃんがほしかったから嬉しい!」
紗夜は口元に手を当てた。
「つまり、今現在わかる異常はこのようになるでしょうか。第一に、異なる可能性の同一人物が同時に存在している。第二に、存在しないはずの兄弟姉妹が存在している。第三に、広い範囲で人々の生殖能力が停止している」
「第二の異常が重要だと思うな。もし第二の異常が第一の異常と同じ原因なら、第三の異常は独立した問題ってことになるもん。ただ、第二の異常が第一と第三、それぞれの異常と同じ原因のものが混ざってるってこともありえるけどねー」
日菜が紗夜の分析をすばやく補足した。
「でも本当、どうしたらいいだろうねー。もう一人の私に学校に行ってもらって、私たちはバンドの練習しよっか。あ、でもさーやはもう一人のさーやが夜学らしいから、どのみち二人とも学校に行かなきゃ!」
「うー。やっぱり、この私は苦手だ…」
暗いほうの香澄がため息をつく。
そのとき、怒声が聞こえた。
「待てー!モカ!」
一同が路上に出ると、上半身が裸でジーパンを履いた髭男が走ってきた。その後ろをモカが追っていて、時折ふり返りつつ、石を投げている。
大学生らしい青年と、Afterglowのメンバーが二人を追っていた。
「あッ、はぐみ」
「兄ちゃん!」
一同は髭男を見た。
モカが鬼気迫る表情で叫ぶ。
「よくわからないけど、あの男、友希那のお父さんと同じ雰囲気がする!自堕落で無責任無能力だけど、ときどき妙な行動力を発揮して周囲に大きな迷惑をかけるタイプだよ!」
友希那は表情に微妙なショックを浮かべた。
「はァはァ…ヒィズル国の言葉が通じて協力者を得ることができたのはいいが、そのために敵もできてしまったな。まあいい…どういうわけか、いまの俺は《始祖の巨人》の力を手にしているのだからな。舞台は変わったが、計画は続行する!このまま、この世界のすべての住民の生殖能力を剥奪する!」
「そんなこといいわけないでしょ!モカ、なんでそんな気持ち悪いオジさんに手助けするの!もうあたしの『ゼクシィ』貸さないよ!」
「そうだぞ、モカ!人間は守るべき家族をもって一人前だろうが!そして自分を産んで育ててくれた親と町、国に感謝だ!ソイヤぁ!」
ひまりと巴が問詰する。
「ごめーん。でも、モカちゃんもう決めたから。あたしたちが最後の人類になるの。それで、これまでのすべての人類の屍の上に、あたしと蘭だけが生きのこるんだ。それって素敵じゃない?」
蘭は甲高い声をあげた。
「はァ!?意味わかんないよ!なに言ってんの、モカ!?っていうか、気持ち悪いよ…」
「蘭にはわからないだろうね。けど、あたし、もう蘭の背中を追いかけるのは疲れちゃったよ…」
微笑するモカの目は、涙に濡れて見えた。
「あたしたちはみんな、生まれてこなければ幸せだったんだよ。音楽はコンプレックスからはじまる。ここにいるみんなも、生まれてこなければ良かったって思ったことが絶対あるよね!?それが正解なんだよ!もう、そんな過ちをくり返しちゃいけない。全部ここで終わらせるんだ」
千聖が輪のなかに踏みだした。麻弥はハッとした。思索的で感受性の高い麻弥には、千聖がモカの言葉に共感したことがわかっていた。
千聖はポツリと言った。
「私の人生に、いいことはほとんどなかったわ」全員が千聖に注視する。「思いだすことのできる最初の記憶は、母に子役として振舞うことを無理強いされたときのものよ。私は母に褒めてもらいたくて、必死に努力したわ。けど、母が私を肯定してくれることはなかった…努力の過程だけが残って、私は自尊心ばかり高い、空っぽな人間になった。それが向上心という形で、攻撃的にあらわれてしまうこともあったわ。パスパレのみんなと知りあって、ようやくそんな自分を変えることができた。けど、たしかに生まれてこないほうが良かったと言われれば、それを否定することはできないわ」
彩が目に涙を浮かべる。
「けれど、たしかに言えるのは、自分の人生が悪かったという理由で、他人の生殖能力を奪うような自分は、生まれてきたことよりもなお悪いと言うことよ!」
千聖は啖呵を切った。
「千聖さん!」
Pastel*Palettesのメンバーが抱きつく。
「千聖さんの言うとおりです!モカさん、あなたは大和撫子の風上にもおけません!子孫繁栄、富国強兵。ブシドー!天誅です!」
「あんたたち、こっち!」
胸が小さいほうの有咲が声をかける。門内を示され、モカとジークはすばやく駆けこんだ。二人が入ると、有咲は鍵をかけた。
「何やってんだ、お前ーッ!」
胸が大きいほうの有咲が怒鳴る。しかし、有咲は鍵を握りしめて離さなかった。
「ごめんね。でも、私、どうしても生まれてきたほうが良かったと思えない…!」
有咲はその場に座りこんだ。膝に顔をうずめ、しばらくすると嗚咽が聞こえてきた。
「有咲…」
暗いほうの香澄が呟く。有咲の苦しみを知っている香澄は、その言葉を軽々に否定できなかった。
そのとき、いくつかの弦の音が聞こえた。
うるさいほうの香澄がランダムスターを手に、歌を口ずさんでいた。
有咲が顔をあげる。香澄の歌は次第に勢いを強めていった。『Returns』。はじめに合唱に加わったのは、もう一人の香澄だった。有咲、二人のたえと、次々と合唱に加わった。
「あったかもしれない未来のことー、なかったかもしれない過去のことォー!自分の姿を鏡に映し、キミは誰なのと、問いかけてみたァー!」
やがて、Poppin’Partyの全員が合唱した。有咲は涙を拭い、門の鍵を開けた。
「《チッ、使えないヤツだ…》」
「俺の《安楽死計画》はまだ生まれてこない子供を対象にしたものだ。いま生きているものを犠牲にすることは避けたかったが、仕方ない…始末させてもらう!」
ジークは自分の腕を噛み千切った。一瞬であたり一面が蒸気と熱気に包まれた。
◇
「おいおい。人間が増えたり減ったりする怪奇現象が起きてるって言うから、取材に来てみりゃよォ…またこの姿になるとはな」
有咲は怖々と目を開いた。触手で全身が構成された巨人が有咲たち全員を蒸気と熱気から守っていた。
気付くと、ラフな服装の女性と、テレビカメラにハンチング帽の男性が傍らにいた。
「私は映像制作会社でADをしている市川と言います。こっちはカメラマンの田代です。えーと、あと、あの大きいのがディレクターの工藤です」
市川は苦々しそうな表情をした。
巨大化した工藤は、類人猿のように見える巨人をとり押さえていた。
「俺も業界にいて長いからよォ。てめェみたいなツラのヤツはよく知ってるぜ。おめェらみてェなヤツはよ、いろいろもっともらしい理屈を捏ねるけど、要は部屋に引きこもって一人で◯◯◯◯してるのがお似合いなんだよ!」
「う…」
「ハハハハ!わかっていないようだな。格闘戦で俺に勝とうが、なんの意味もないということが。俺は《始祖の巨人》の力を手にした。それは、この世界のすべての生物を操作できるということだ!はじめからお前らに勝目はないんだよ!もうお前らの体を直接、操作して全員、絶滅させてやる!」
その場の全員が硬直した。
「もし、いまの俺を倒せるとしたら、直接、因果律に介入できるヤツだけだ!ハハハハ!」
「呼んだか?」
空中に亀裂が走った。裂開したなかから、冴えない中年男性が出てきた。背中に制服姿の少女を乗せている。
「よッ、白石君。助けに来たで。おっと。いけない、田代君やったな」
「助太刀にきたでござる。ニンニン」
「りみ!」
「知っとるか?高圧鍋や圧力釜なんかは、威力の高い爆弾の材料になるんやで。つまり、炊飯器はええ爆弾の材料になるんや。ゆうても、炊飯器がなんなのかわからんやろうけどな」
「まさかうちの炊飯器をこんなことに使うとは思わんかったわ。まあええわ。みんなを助けられるんならな。御免」
「《や、やめろおおおお!》」
ジークはマーレ語で絶叫したが、その言葉を理解できるものはいなかった。
全身に火傷を負い、四肢の断裂したジークを中年男性は担ぎあげた。
「お前はアッチの世界に連れていくわ。案外、お前みたいなヤツにはアッチの世界のほうが居心地がええかもな」
ふたたび、りみと裂開のなかに飛びこむ。その間際に言った。「もろもろの因果律も俺が修復しとくから、まあ安心しといてな。じゃ、またな、白石君」
「江野さん…」
田代が呆然と呟く。しかし、その声を聞くものはもういなかった。
◇
「モカ…」
蘭は涙を流して放心するモカの肩を抱いた。しかし、モカがその声に応えることはなかった。
リサやはぐみは、つかの間の兄弟姉妹と別れを告げた。千聖は生理が復活して沈鬱な表情をしていた。
二人の有咲が対面する。胸の小さいほうの有咲が言った。
「いろいろ、迷惑をかけて悪かったな」
有咲たちは同時に笑った。
「いろいろあったけどさ、あたしはちがう可能性のあたしを見て、なんだかんだ、いまの自分が好きなんだってわかったよ。…ありがとな」
「お前はもう一人のあたしだ。すこしでも運命の歯車がズレてたら、あたしもお前みたいになっていたかもしんねー。いまのあたしのことも、すべて受けいれられるわけじゃねーし。だから、お前を助けられたなら良かったよ」
「お前も…サンキュ」
「うー。有咲がいなくなって寂しくなるよ」
「お前にはあたしがいるだろうが!」
この世界の有咲が叫ぶ。
「えッ、有咲…?」
「うるせー!いまのはなし!」
「有咲ー!」
香澄は有咲に抱きついた。そうしているうち、ちがう世界の住民たちはいなくなっていた。
「離せ!妊娠したらどうすんだ!」
「なに変なことを言ってるの、有咲ァ」
「あれ?本当だ。どうしてそう思ったんだ?」
(終)
土曜日の日本×アイルランドの大一番のレビューに非常に多くのブクマをいただけて嬉しい。
文章や情報には色々なスタイルがあり、たくさんの人に注目を浴びるスタイルはきっと色々存在している。
しかし、モチベーションを持たせるためには、単に注目を浴びるだけでなく自分自身で「それならする価値がある」と感じるスタイルを取るのが大事だと思う。
増田が届けたいと思うものは「世界や人々の振る舞いの美しさや面白さ」「可能性」「希望」だ。
そこにあるのに気づかれていないそれらにスポットを当て、その価値をみんなに届けて、みんなが「顔が下に向いた時でも『今日は上げてもいいかな』と思えるエネルギー」を感じることができるのなら、ちょっとぐらい手間をかけてもいい。
だから、その自分のスタイルで一時期トップホッテントリにまでなったことはとても嬉しかった。
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一夜明けた29日・日曜にはウェールズ×オーストラリアの優勝候補対決が行われた。
増田は当初の予定では、これをリアルタイム観戦できない可能性が高かった。
しかし、所用を済ませて偶然通りかかった場所でパブリックビューイングがあり、開始10分ほど経った後ではあるが、実際の応援を周囲に感じながらこの1戦を観る偶然に恵まれた。
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そこで、オンデマンドで試合を最初からもう一度見直して、その試合自体の詳細と、日曜日に感じた観客の盛り上がりを合成するという、基本価値は変わらないものの、少しアレンジを加えた新たなスタイルのレビューを届けようと思う。
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みんなにお伝えしなければならないのは、このレビューで、てにおはの誤字脱字は、増田自身が興奮して打ち間違えた事自体で伝わるものもあるだろうという事で放置するケースもあるが、ブコメなどでありがたい事に明らかな事実関係の間違い、しかも増田の無知から来るものでなく単純な打ち間違いで誤解を呼ぶものに気づかされる事もある。
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さて、開幕戦で個々の強さとインスピレーションを誇るフィジーを組織力で圧倒したオーストラリア・ワラビースと、前半圧倒しながら後半ジョージアに手痛い反撃を受け不安を残したウェールズ・レッドドラゴンズ。
プールDは予測不能なフィジーが2敗した今、実力と安定感からこの2チームに敵はなく、この1戦を制したチームがノックアウトラウンドへの進出に大きく前進する。
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ワラビーズは先週からゲームをコントロールをするSHとSOを変え、日本の神戸製鋼でもプレーする大ベテラン、アダム・アシュリー・クーパーをウィングに据える。
レッドドラゴンズは控え1名を除いて先週とおなじメンバーのままだ。
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増田の印象ではワラビーズは縦横無尽に走り回る機動力と組織力、ウェールズはフィジカルを活かした鉄壁のディフェンスとキック、一撃必殺のセットプレーが武器だ。
そして、両チームとも勝負所や試合運びなどのラグビーIQは高い。
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先週勝ち試合で顔色を失ったウォーレン・ガットランドHCと、普段は知的なビジネスマンの顔も持つのに、代表試合だとなぜかキレまくる場面ばかりカメラに抜かれるマイケル・チェイカHCの表情が映された。
ワラビーズは数年間苦しんだ不調から開幕直前に急速に完成度を上げてきた印象があるが、その復調は本物だろうか、また、レッドドラゴンズは不安を払拭できるだろうか。
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前半、レッドドラゴンズがキックオフから争奪戦でボール獲得、ここからいきなりダン・ビガーがドロップゴールを放つ。開幕1分で出した飛び道具が決まって0-3。
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5分、モールからレッドドラゴンズが蹴ったキックをとって切り返すワラビーズ、スタイル通りの展開ラグビーで攻め立てるが、インターセプトからカウンターを食い、なんとかこれを凌いで、10分にマイボールクスラムを得て落ち着いた。
5分間で展開が目まぐるしい。
しかしワラビーズはこのスクラムで組み負けて反則を与えてしまい、レッドドラゴンズは必殺のセットプレーの機会を得る。
12分、レッドドラゴンズはこの攻防から、キックパスを見事とおしてトライを獲得、コンバージョンも決まって0-10。
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増田もこの直後辺りでパブリックビューイングへ到着。
会場は母国を応援するために駆けつけたであろうオーストラリア・ウェールズ双方のサポーターと、日本のラグビーファンでごったがえしていた。
増田が落ち着いた位置の後ろにいる長身の青年の一団は、赤い装いを見る限りウェールズサポーターだ。
先ほどのトライでどのような歓声を上げたのだろうか。
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16分、再びウェールズが中盤の攻防からドロップゴール、これは外れたが、この直前のワラビーズのディフェンスのプレーでやや遅れ気味の危険なタックルがあったということで、ペナルティが与えられた。
スタジアムにウェールズサポーターのブーイングが響き緊迫感が漂う。
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タックル数とタックル成功数はワラビーズが圧倒しているが、それは「守勢に回っている」ということだ。
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20分、レッドドラゴンズの反則からのセットプレーでようやく攻めるワラビーズ、ボールをつなぎまくる連続攻撃から、お返しとばかりのキックパスが飛び出し、35歳の大ベテラン、アダム・アシュリー・クーパーが飛び込んでトライ!
ここでコンバージョンを狙うワラビーズSOバーナード・フォーリーだが、パブリックビューイング会場ではこのコンバージョンキックにウェールズサポーターが容赦ないブーイングを浴びせる、行儀悪いなこいつら。
これが届いたわけではなかろうがキックは外れた。
5-10。
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その後、攻めるワラビーズだが、偶発的な反則でボールをレッドドラゴンズに渡すと、増田の周りのウェールズサポーターから歓声、その後裁定が覆りワラビーズボールのスクラムになると再びブーイングが上がる。
攻守が入れ替わるめまぐるしい攻防に、パブリックビューイングでは歓声が止まる暇がない。
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28分、反則を得たワラビーズがペナルティゴールを決めて8-10。
しかしその直後の31分、今度は逆に反則を得たレッドドラゴンズがペナルティゴールを決めて8-13。
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30分を過ぎ徐々にリズムをつかみ、攻撃する時間が増えてきたワラビーズだが、細かいエラーで前進できない。
反則やエラーで攻撃が止まるたびにシューンとなってしまうオーストラリアサポーターに対して、これに容赦ない歓声を浴びせるウェールズサポーターは全く可愛げというものがない。
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35分、再びワラビーズの突進中にやや危険な押しのけ(ハンドオフ)があったのではないかということでペナルティ。
両陣営サポーターから響くブーイング、退場者こそ出ていないものの、不穏な空気の試合になってきた。
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直後の37分、キックオフからの攻防でワラビースのパス回しのタイミングを読んだレッドドラゴンズがボールをインターセプトしトライ、コンバージョンも決まって8-23。
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流れを引き寄せかけたワラビースの一瞬の隙をついて突き放したウェールズ。
パブリックビューイング前では両軍のサポーターが席を立ち、ビールを買う列に並んだ。
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ハーフタイム、パブリックビューイング会場では、試合を盛り上げるため元日本代表・畠山健介とお笑い芸人が壇上に上がる。
その様子を見たおそらくはワラビースのサポーターに「あいつらは誰だ?エンターテイナーか?」と増田が話しかけられる一幕もあった。
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本来はボールを持って走り回りたいワラビーズはここまで長時間ボールを持てていない。
観戦に来ていた元日本代表HCにして現イングランドHCエディー・ジョーンズがカメラで抜かれると、なぜかスタジアムで上がるブーイング、それはなんでだよ、今日ちょっとブーイング多いな、おい。
ここからの反撃で、レッドドラゴンズはまた飛び道具を出し、ドロップゴールで8-26とした。
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45分、リスタートから「らしい」連続攻撃で攻めるワラビーズがこれを取り切ってトライ。
コンバージョンも決まって15-26。
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追い上げムードになってきたワラビーズだが、この11点差というのは微妙な点差だ。
これが10点差なら、相手がペナルティをしてキックを獲得すれば7点差、ワントライで追いつける。
しかし、この点差だと追いつき追い抜くのに2トライ以上が必要だ。
この1点が大きな意味を持ってくるかもしれない。
カメラで抜かれるマイケル・チェイカHCは今日はまだキレてない。
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50分ころ、修正が入ったのか、スタイルを取り戻して調子が出てきたワラビーズがまたも連続攻撃で攻め立てると、増田が観戦するパブリックビューイング会場ではウェールズサポーターの合唱が響く。
ラグビーの応援で合唱というと、イングランドのスウィング・ロウ・スイート・チャリオットなど、「前進する味方の背中を押し鼓舞するもの」という印象があるが、この合唱はまるでワラビーズを恫喝して攻勢をかき消さんとするような雰囲気のもので、全くウェールズサポーターは素晴らしくガラが悪い。
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54分、大して大柄でもないマイケル・フーパーがタックルで赤い二人をタッチに押し出してから、再びボールをつなぎ攻めるワラビーズ、敵陣深くに攻め込み、続くラインアウトからゴールライン間際までレッドドラゴンズを押し込む。
残り2mで耐えるレッドドラゴンズ。
60分のタイミングで取りきれないチームが試合を逃す場面を何度か見てきたが、やはりワラビーズは役者が違った、5分以上も続く力押しの攻防を制してトライを獲得、コンバージョンも決まって22-26。
あと4点で点差は振り出しだ。
後半全くボールが持てないウェールズは豊田スタジアムでの悪夢がよぎる。
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66分、スクラムで組み勝ったワラビーズはペナルティーキックを獲得するが、ここで増田はこの判断の評価に迷った。
この攻勢なら前進してトライを取りに行った方がいいのではないか?
しかし残り14分はまだ3プレーは応酬できそうだ、逆転まで十分な時間とも言える。
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71分キックオフからの攻防で、今度はレッドドラゴンズがペナルティーキックを獲得、外すレッドドラゴンズではない、25-29、再び4点差、ワラビーズの逆転ラインがペナルティゴールの外に遠ざかる。
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74分、あと6分というところでレッドドラゴンズがスクラムを獲得。
日本×アイルランドほど決定的な時間帯ではないが、ここで時間を使うたびに、一連のプレーを試みられる時間は減っていく。
なんとかこれに組み勝ったワラビーズだが、この時間稼ぎが効いた。
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ワラビーズ最後の猛攻を守り切ったレッドドラゴンズが80分、フルタイムを知らせるドラが響いた直後にボールを蹴出してゲームを強制終了。
パブリックビューイングはウェールズサポーターの大歓声があがり、会場はスタジアムの熱気をそそまま持ってきたような雰囲気に包まれた。
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レッドドラゴンズは前半圧倒されながら後半追い上げられるという、先週をなぞったような展開だったが、今日の相手は優勝候補だし、勝ちは勝ちだ。
ワラビーズは前半の不出来と後半の攻勢に転じながらも遠い1点に泣くことになった。
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増田としては、偶然得たパブリックビューイングでの観戦で、両国の、いや、どっちかっていうと主に、なんと言うか、いい意味でわかりやすいウェールズサポーターの応援を身近に感じることができて、大変楽しい80分だった。
みんなの近くにもパブリックビューイング会場はあるだろうか、入場無料の会場も多くある。
むかしむかし足柄山の山奥に、金太郎という男の子がいました。金太郎は小さな頃から力持ちで、子供ながらに薪割りの手伝いをこなすほどでした。ある日、森の動物たちが栗拾いに行かないかと金太郎を誘いました。金太郎は快諾し、栗拾いに出発しましたが、道中、岸にかかっていたはずの橋がなくなっていました。しかしそこで諦めないのが金太郎、得意の斧で木を切り倒し、即席の橋を作って渡りました。そして無事に栗の木のところまで辿り着くと、そこには拾いきれないほどの栗が落ちていました。金太郎と動物たちは栗を拾い始めますが、突然巨大な影があらわれました。熊です。この栗の木は熊の縄張りだったのです。熊は金太郎に相撲での勝負を持ちかけました。いくら力自慢の金太郎でも熊相手には非常に苦戦しましたが、動物たちの声援もあり、なんとか勝利を収めました。
むかしむかし越後国に、のちに酒呑童子と呼ばれる事になる少年がいました。その少年はとても成長が早く、4歳の頃には大人顔負けの知能と体力を持っていて、その常人離れした才覚から周りから「鬼っ子」と呼ばれていました。そのうえ容姿は人並外れた美少年で、女性から恋文を貰うことは日常茶飯事でした。彼は10歳の時に祖父に勧められ、仏門修行のために比叡山の稚児になりました。恵まれた能力と恵まれた環境により将来が約束されたかと思われた酒呑童子でしたが、数年が経ったある日、彼の身体に異変が起きました。流行り病の天然痘です。部屋に篭って三日三晩寝込み、熱が引きようやく立ち上がれるようになった時には、彼の容姿はすっかり変貌していました。顔から手そして足の先まで真っ赤に晴れ上がり、痘痕の痕だらけで、元の美貌からは似ても似つかない姿となってしまいました。彼はそれ以来、鬼のお面を被って顔を隠す様になりましたが、ほどなくして寺にもいれなくなり、彼は故郷に帰るよう言い渡されました。
故郷に帰った酒呑童子でしたが、その無気味な風貌から忌み嫌われ、やがて故郷からも追い出されてしまいました。それから酒呑童子は土地を転々とし、大江山へと辿り着きました。酒呑童子はその道中で同じ病を抱える荒木童子と出逢い、人里離れた場所で静かな生活を始めました。しかし静かな暮らしもそう長くは続きません。同じように差別を受けた者たちが噂を聞きつけ、酒呑童子のもとを頼りに来たのです。酒呑童子は彼ら彼女らを快く受け入れ、やがて大江山は同じ病を抱える者たちの大きな村となりました。特に京の都では新しい患者が次々と現れ、酒呑童子の村はどんどん大きくなっていきました。
金太郎が青年に成長した頃、京の都では街の女子供がある日突然姿を消すという事件が多発していました。それも1人や2人ではなく、もう何十人も姿を消していました。そこで一条天皇は陰陽師の安倍晴明にこの現象の調査を命じました。安倍晴明は占いで、行方不明になった女子供はいま大江山にいると突き止めます。大江山は、酒呑童子という恐ろしい鬼が住む山です。『酒呑童子』という名は、いつも酒に酔ったように全身が真っ赤な事から名付けられた名前です。酒呑童子に限らず大江山の鬼達は真っ赤な風貌をしており、全身が血だらけでした。それは人を喰った時の返り血だとも言われていました。そんな恐ろしい鬼達を退治すべく、一条天皇は家来である源頼光に討伐を命じました。頼光は四天王と呼ばれる屈強な武士を集め、鬼討伐に向け最強の布陣を敷きます。四天王のメンバーは渡辺綱、坂田公時、卜部季武、碓井貞光の四人で、この坂田公時(さかたのきんとき)こそが青年に成長した金太郎なのです。
頼光と四天王は鬼討伐の為に大江山へと向かいました。しかし相手は凶悪な鬼です。とても正面から立ち向かったのではかないません。そこで修行僧の変装をして、大江山へ向かう事にしました。怪しまれないように慎重に足を進め、ついに山の麓に辿り着くと、そこには川で洗濯をしている老婆がいました。少しでも情報を得るために老婆に話を聞いてみると、驚いた事にこの老婆は自分は花園の中納言の娘だと言うのです。花園の中納言の娘は確かに行方不明になってはいましたが、年齢は17、8のはずで、老婆の言ってることはデタラメとしか思えません。これはおかしいと老婆をよくみてみると、ついにその正体が分かりました。老婆は真っ赤な鬼の姿をしており、洗っている着物もどれも血にまみれていたのです。頼光は背筋が凍る思いをしながら、冷静にかねてより考えていた作戦を実行しました。「我々は修行をして全国をまわっている僧侶です。どうかこの辺りにある宿を教えて頂けないでしょうか」鬼の老婆は快く受け入れ、大江山にある村へと案内しました。こうして頼光達は大江山への侵入に成功したのです。そして頼光は村の主である酒呑童子に挨拶に行きました。酒呑童子は頼光たちを手厚く迎え入れ、村の鬼達を集めて宴を開きました。そこで頼光はお礼にと『神変奇特酒』というお酒を酒呑童子や他の鬼達に振る舞い、酒呑童子も気を良くして、普段は滅多に語らない自分の出生についても語り出しました。楽しい宴は夜中まで続き、辺りが鎮まりかえると、酒呑童子は体がまったく動かない事に気がつきました。頼光の持ってきた神変奇特酒には毒が入っていたのです。頼光は動けなくなった酒呑童子の首を切り落としましたが、騙し討ちをされた酒呑童子の怨みは強く、首が切り落とされた後も頼光達を罵り続けました。頼光は他の鬼達を始末し、鬼退治の証拠にと酒呑童子の首を持ち帰り山をおりました。酒呑童子は首だけになってもずっと罵り続けましたが、京の都に入る直前に地蔵尊に「不浄なものを京に持ち込むな」と咎められ、頼光は持ち帰ることを断念しました。地蔵尊の言葉を聞いた酒呑童子の首は動かなくなり、首はその場に埋められました。その場所はのちに首塚大明神という神社になり、首から上の病気を治すとされています。
たった一人で法案を提出して成立させるとか?
昨日の乗った電車の状況は久々に酷かった。
ただ、乗車当初の混雑も駅がオフィス街を経由するにつれ和らいていく。
ちょうど大規模ターミナル駅を過ぎ、車内にようやく人間らしい雰囲気がが戻ってきた矢先に、
僕からちょうど二人分くらい先で、男にしてはやけに甲高く怒りを含んだ大声が聞こえた。
怒っているのは30代前半くらいでやや大柄の小太りメガネ、直毛の坊ちゃん刈りで、
中学生時代に小学生を集めてガキ大将を気取っていたようなタイプの男。
怒られているのは、銀縁メガネが大きなウエイトを締める顔面から気の毒なくらい内気さを漂わせた小柄な青年(少年?)。
会話を聞く限り、原因はどうやら銀縁メガネの青年が「列に横入りをした」とか「バックを背負ったままだった」とか、よくある些細なことのようだ。
でも、小太りメガネは長距離路線のそう短くない駅間中ずっと執拗に怒り続けていた。
・「割り込みは窃盗とか殺人と同じように犯罪なんだよ。知ってた?今から警察行く?」
・「こっちは迷惑してんのにニコニコ動画見てるなんて優雅なもんだな」
・「そうやって、黙って俯いてりゃ終わると思ってるんだろう。そうだよな?早く終わらないかなって」
初めのうち、二人は知り合いだと思っていたが違ったようだ。
距離感も間違っているし、言動も一歩以上注意のレベルを超えている。
甲高い声く妙に芝居ががった口調で勝ち誇ったように怒るその様子に僕は、何も考えられないほどイライラしていた。
(他の乗客もそうであってほしい)
小太りメガネはこんなことも言っていた。
「君みたいなのは社会のルールとか人の迷惑とか、気がつかずぼーっと生きて30代、40代、そして死んでいくんだろうな」
もう限界だった。どんな人でも、ましてや赤の他人が言い放っていい言葉じゃない。
僕はこういう言葉が相手の人生を大きく傷つける可能性があることを多少なりとも知っている。
そして、その場面を黙殺するということは、同じように自分の心に傷を残すということも。
今にして考えると情けない台詞だ。小太りメガネの「社会のルール〜」云々の台詞に対する皮肉として言ったつもりだけれど、果たして伝わったかどうか。
その後、小太りメガネの声は小さくなったものの、私に注意されたことを青年のせいにしようと声をあげたので、2度3度注意はしたが・・・。
そんなやりとりをしているとやっと駅に着いた。
僕を含め3人とも同じ駅だったようで、小太りメガネは捨て台詞として青年に「顔は記録したから」と言って足早に去って言った。
その直後、怒られていた青年はホーム上にうずくまるように倒れた。
原因は不明だけれど、おそらく小太りメガネからのストレスだろう。僕は駅員に事情を簡単に説明しその場を去った。
一体僕はどうすればよかったのだろう。
例えば「明らかに言い過ぎ。うるさいし迷惑だから黙ってて」と二人の間に割り込めばよかったのかもしれない。
あるいは、倒れた青年に「あなたも悪いかもしれないけれど、相手の言っていることは明らかに異常だから」と伝えればよかったのかもしれない。
まあ、どちらにせよ今回は、ほぼ僕が自分の義憤を満足させるためにとった行動だからあんまり大きなことは言えないけれど。
四日ほど前に文春によりお笑い芸人EXIT兼近さんの前科がすっぱ抜かれ、瞬く間にテレビやイベントの出演が取り消されていくのを悲しい思いで見守っておりました。
『少女売春斡旋』の凶悪な字面に「は!?!!?」と驚愕したものの、ふたをあけてみれば貧困層出身の少年が学のない状態で知らずに犯罪を犯していた、という切ない話で、少女と言っても当時の兼近さんと同い年の十九歳、売春斡旋といっても『あくどい商売してたヤクザから離れて個人的に売春してた女友達に用心棒を頼まれた』が内実らしく、刑も罰金十万円で済んだそうです。
その辺の詳しいことは文春本誌の記事に書いてあるのですが、いかんせん見出しがセンセーショナルでちゃんと読んでない人からすると「幼い女の子を騙くらかしてウリやらせてたのか?」と思われかねないのが辛いところ。
以下要約書いてくださった方のツイート。↓
https://twitter.com/exit_mochiP/status/1169368952213889025
なので兼近さん本人もこのことに言及するツイートで「文春を買って読んでください」って書いているのですが、そういうとこ、そういうとこだよ……!とこちらは複雑な気持ちで頭を抱えました。後述しますが彼はヤバいレベルにピュアです。敵の売り上げに貢献するな。でも多分敵だと思ってないんだろうな。
さて、この騒動は様々な要素が密接に絡み合っているため擁護派も批判派もその辺ごっちゃに主張し合い、収拾がつかなくなっているきらいがあります。
「今更生してるからいい」「過去のことでも罪は罪だからテレビ出るな」「イケメンだから馬鹿な女が擁護してるけど女の敵」「とてもいい人なので応援したい」「前科があるならいい人ぶるな」「おもしろくないから消えろ」「おもしろいから頑張って」「そもそも貧困の問題」「これだから底辺育ちのDQNは」etc…
その人によって何を重視するかは違いますし、この手の騒動によくいる『別に本気で怒ってるわけじゃないけど人気ある奴を叩きつぶしたい』層もネット上には多いのであちこちで大混戦ですよ。
とりあえず事実としては、『現状兼近さんは法的になんら問題ない状態』です。
謹慎も謝罪も引退も必要ありません。八年前に処罰されたことで問題にケリはつきました。それを不服としている被害者もいません。
にも関わらず番組降板が相次いでいるのは、世間の感情が彼を許せるか許せないかがわからないからです。
ツイッターを見る限りは擁護派がかなり多いんですがヤフコメとか掲示板などは批判派が多いですね。テレビ局やイベント主催者としてはクレームが来る恐れがある人間を使いたくないと思うのはしょうがない。しょうがないんですが、私としては、もうちょっと真摯に倫理について考えてほしいと思ってしまいます。更生してる人の芽を潰すのが世間の総意になっていいのでしょうか。
結局のところ法律でカタがついている以上、この問題を語るにはどうしたって感情論になるのでここからは私の主観フルスロットルでいかせてもらいますね。
まずね、彼の境遇を考えればあれが罪だとわからなかったのは無理ないです。
極貧家庭で育ち、飢えた時は妹とわざと雨にふられて同情したご老人にご飯をもらうという技でしのぎ、高校中退して働き、周囲の人間がみんな半グレ系で反社会的なことが当たり前になっていた、という背景があったうえで、十八の頃に風俗店に勤めだしたんですよ。
風俗店というのはお金と引き換えに人間(主に女性)の体を性的に扱える店なわけで、建前上は生殖行為そのもの(いわゆる本番?)はないということになっているものの、悩める青年に北方謙三が「ソープへ行け(そして童貞を捨てろ)」とアドバイスしたことが有名であるように、実際は売春が行われているわけです。
私は日本では売春は禁止されていると認識していたものですから、堂々と繰り広げられるその手の話がしばらく理解できなくて、いくつか風俗店レポを読んでやっと「要は売春なんだな!?」とわかったんですが、いまだに何故あれが正規の商売として成り立っているのか納得はいってません。
私はこの世で一番ダブスタが嫌いなので、税金を払ってる風俗店だろうが個人の援助交際だろうが売春を認めてはいけないと思っています(弱い立場の人が傷つきやすいから)。
しかし、風俗店が許されている世の中で、学のない風俗店勤めの少年が、個人売春をする少女を手助けすることが罪だとわからなくても責められないです。だってやってることほぼ同じだもの。
まぁ法治国家である以上建前は大事であり罪は罪なので、彼が罰を受けたことに異論はありませんが、同情の余地はあるでしょう。少なくとも痴漢とか強姦みたいな積極的性犯罪と同列には並べられません。
兼近さんの話では、捕まって初めてそれが悪いことなんだと知った、ということでした。二十日間勾留され、同じく捕まっていたおじさんに字を教わりながら又吉さんのエッセイを読み、芸人という仕事に憧れを抱きその後上京に到ります。完全に小説のあらすじだった。映画化もしそうなぐらいドラマチックな生い立ちと理想的な更生ルート。
私がディレクターなら「兼近はいい奴だから」とか「たいした罪じゃないから」などというたわけた理由ではなく、「更生しており倫理的に問題ないから」と堂々と表明して続投させます。流されやすい世間のイメージが気になるのはわかるけども、誰か一人ぐらいそういう気概と倫理観を見せて欲しい。
ただまぁ、元々ネタがちゃんとおもしろい人達ですから、劇場はやっていけるみたいです。
あと芸人仲間からの擁護が物凄い。こんなに擁護されてる人初めて見た。一度だけ取材した先の店の店主とか一度だけ共演した人とかたまたまちょっと話した人とかまで擁護してて、兼近さんの人に好かれる力半端じゃないなと思いました。うん、いい子だものね……。
兼近さんってよく『いい奴』『いい子』と言われますけど、それって普通に想像するような性格の良さじゃないんですよ。箍が外れてる。あれは正直正しくない域の優しさです。自分の身を守らないで愛を振りまいてるんですもの。そんなの聖人か狂人でしかないじゃないですか?
酔っぱらって道に倒れてた女性をベンチまで連れてって座らせてあげて、靴が脱げてたことに気づいて引き返して取ってきてあげていた、みたいなわかりやすい優しさエピでは伝わりきらないヤバさがある。
私は長く彼を見てきたわけではない大変ライトなファンなので詳しくはないんですが、それでも色々ファンの間で物議をかもした発言を存じております。
例えばEXITのイベントのチケット転売について「転売屋さんも生活があって頑張ってるから」とか、前述した「文春を買って読んでください」とか。
転売への最終的な対策は『とにかく席を増やして価値を下げる』『とにかくサインを大量に書いて価値を下げる』になるあたり、人を規制するより自分が頑張ればいーやという思考が見て取れて、マジで……そういうとこ……。
最たる『優し過ぎて怖い』エピソードは親との関係全部ですね。テレビではめちゃ美談にしてましたけど、あれ言ってないこと沢山ある。
お母さんとはまだわかります。子供が飢えてるのに見栄を気にしておばあちゃんに助けを求めるのを許さなかったとか、兼近さんが家に入れたお金を恋人に使ってしまったとか、ちょいちょいどん引きエピはありますけども、子供四人をシングルマザーが育てるのは大変だったでしょうし、兼近さんもトイレの鍵を全部閉めるみたいな悪戯をしてよく学校に呼び出されていたらしいので「なんだかんだで育ててくれた」という感謝があるのかもしれません。
でもお父さんは……なんだ? 早々に離婚して養育費も送らずクワガタに入れ上げてた人という印象しかない……。それで息子が芸人として人気になりそうになると現れて、ツイッターアカウント作ってEXITのファンとやりとりしてほかの芸人さんとも絡んで特に悪びれもせずにこにこしてるのなんなんですかね。FBに「大ちゃんが稼いだ金を総取りできる日はいつくるのか?」とか書いてるのシャレにならん。
大体の人はこの手の親とは自立したらあまり仲良くしたくないと思うんですが、兼近さんはなんのわだかまりもないような笑顔で仲良くしてるし一緒にテレビ出て決めポーズするし「マンション買ってあげたい」などと言うのでこちらの情緒が乱れきります。そういう感じだから一部ファンがお父さんをちやほやするんですよ……いいのかそれで。いいんだろうな。悟りでも開いてるのか?
本当にね、この人保身という概念があるのか?と疑ってしまうぐらい無防備な部分が多くて、誰にも聞かれてないのに月給明かすし、住所明かして案の定侵入されて引っ越すはめになったのに引っ越し先の住所またうっかり言っちゃうし。
今回文春に探られた過去も本名じゃなければもうちょっと見つかり辛かったと思うんですよね……。相方さんは『りんたろー。』にしてて本人は自分のこと『かねち』って言ってるんだから芸名『かねち』でもいいじゃないですか? それを馬鹿正直に本名名乗って北海道に住んでたことも言っちゃって騒動前に「芸人にならなかったらなにしてた?」って聞かれたら「反社」って答えている……。
でもそういう人だから私は彼が大好きだし、きっと彼の身近にいる人達もそうなんだと思います。可愛いいたいけな子供で、かっこいい無鉄砲なヒーローで、冷めた賢明な苦労人で、明るく無邪気な道化者で、その全ての人格が危ういほどの優しさで統合されたのが兼近大樹。傍にいればいるほど好きにならずにはいられないんじゃないでしょうか。
文春記事直後のりんたろー。さんの表明文凄かったものな。さすが常日頃からかねちは太陽だと主張してる人だ。兼近さんもなんだかんだいってりんたろーさんのこと凄く信頼してるように見えますし、youtubeでもちょいちょい二人の世界で笑い合っているのが微笑ましくて好きです。
だからコンビ仲については心配してません。ファンはほぼ幻滅してませんし、劇場人気があるので収入も生きていけるぐらいには入ると思います。
でもテレビで彼らを見る機会は減るのかな、と思うと本当に残念でなりません。
日本のテレビ界とお笑い界の損失ですよ……あんなに優しくて明るくて平和な人達、今後出てくるのだろうか。爽やか美形を出せばいいってものじゃないんだ……かねちはかねちじゃないと駄目なんですよ。
彼の苦労ゆえの達観と優しさと儚さと人類愛が、機転の利く返しが、独特の豊かな感性が、セクシー系の女性に触れないようにする節度が、いかなる場でも怖気づかない度胸が、美しく華やかな容姿が、全てが好ましく最強でした。
犯罪を犯罪とも気づけない環境にいた少年が、あんなに明るく人を笑わせようとする人間になれたのは奇跡だし、その光をもっと輝かせて欲しかったです。
これから騒動がどう動くかわかりませんが、どうか彼の誠実な魂に見合った素晴らしい結末を迎えられますようにと願ってやみません。
(盛大に擁護しといてこんなこと書くのはなんですけど、芸人さんて「おもしろくていい奴ならええやんネタにしたるわ」みたいな芸人的身贔屓人情擁護することが多いのがちょっともやる。悪いことは悪いことなのでその辺でうやむやにするのはあまりよろしくはない……。
あと兼近さん、自分の中で整理ができてても世間<正義鉈をふるう曖昧模糊な思念の集合体>には伝わってないから、真面目な落ち着いた文章か動画で説明したほうがいいですよ……文春とかインスタはやめて……)
休めるのなら迷わず休むのがポリシーなので喜んで三日ほど休んだ。
さて、どう休もうかと悩んだ。引きこもりはお盆で味わい尽くしたし、
さて、車で二時間ひたすら山を登る。
残暑が厳しいだろうから高地へ行って涼もうと思っていたのだけど、麓も涼しくなっていた。
山を登りきると、そこは涼しい温泉地。どこか浮かれたような雰囲気が漂っていて好き。
ホテルへのチェックインにはまだ時間があったので、スーパーへ寄ってビールとつまみを購入。
口コミサイトにはフロントの対応が最悪と書かれていたが、妙齢のマダムが淡々と手続きをしてくれただけだった。
雰囲気が良ければあまり接客態度は気にしない。チェックインを済ませると部屋へ行った。
事前にわかっていたとは言え畳にベットは味がない。ベットだと布団の上げ下ろしがないからないから安いのか。
まあ、旅館の部屋につきものの「あの部分」があるからいいか。早速「あの部分」の椅子に腰かけくつろぐ。
瞑想くらいしかない。景色は開けているが、山しか見えない。夕食まで時間があるので、温泉に入ることにした。
事前に純粋に温泉を楽しみたい人におススメとあったので、ワクワクしながら温泉に向かう。
ああ確かに、温泉はしっかりしている。酸性度が強いので傷口が痛い。全身で温泉を感じた。
温泉に入ったから、何かが変わるわけでも魔法がかかるわけでもない。ただコンクリートの壁を前にして身体を温泉に浸す。
なんとピュアな温泉体験なんだろう。そうか、温泉っていうのは絶景とか解放感とか
ゆっくり風呂に入ったら、もう夕飯か。夕日を見る間もなく夜になっていた。事前の評判では冷食バイキングと聞いていたが、
実際に得られたモノもそう表現するしかない。宿に泊まっている全員の食事時間が90分しかない
というのが何となく窮屈に感じるけれど、その正体がわかった。コレ寮生活みたいなんですわ。
行列に並ぶことが何よりも嫌いなので、15分ほど遅れていったら部屋に内線電話がかかってきた。
現場に向かうと、部屋番号の指定席。なんかさらされているようで気恥ずかしい。
料理は大しておいしくないが、別に文句を言う理由もない。そんな食事なのに、
ビュッフェスタイルだったから無駄に食べてしまって2泊3日で2kgの大増量。
食事にはお酒がついてきた。あまり食事時に酒を飲むのは好きではない(回るのが早いから)が、
セットでついてきたのだから、ついつい飲んでしまう。欲張りモノは損をする。
酔いが回ってくると、気が大きくなってくる。隣席は同じく独り旅と思われる中年男性が哀愁漂う晩餐を取っていた。
ものすごく、話しかけたくなった。目的もなく一人で来たからやることがないのだ。どうしようか。
どこか観光地について聞こうか、このへんにはおいしいものがあるのか、そんなことも知らずにここにいたから知りたかった。
話しかけるのは簡単なんだ。でも、相手が会話を望んでいないときどうやって終わらせるかがむずかしい。
そういう責任取れない会話は辞めとこう、という気持ちがわいてきたので彼に結局話しかけることはなかった。
食事を終え、部屋に戻ると「あの部分」に腰かけ缶ビールを飲んだ。ああ、なんでこんなことしてんだ。
カーテンを開けると眼下には、昼間には森だった暗闇が広がっていた。何にもねえや。
いよいよアルコールがキツくなってきた。ドキドキと鼓動は早くなり頭はぼーっとする。そして気づく。
ああ、実は酒なんて好きじゃないんだな。
普段酒が好きだと思っていたのは、飲酒で気が大きくなって会話を楽しんでただけだったんだ。
無音の部屋で畳にゴロンと横になり、座布団を二つに折って枕にする。天井の木の模様を観察して、微妙な気分になる。
畳のにおいが心地いい。何も考えない、楽しい訳でもなく悩むわけでもなくただ時間が過ぎていく。
そうやってどれくらいの時間が過ぎたのだろう。酒が抜けてきたので再び温泉に入った。
いつ行っても風呂場がバラバラだけど、大丈夫だったのか。お湯の中で瞑想する。
風呂から上がると、ロビーは消灯していた。ほとんど真っ暗なロビーで放心状態だった青年が一人。
彼は何を思っていたのか。そんな彼を横目に部屋へ戻る。どうも隣室がうるさい。酒盛りだ。
ホテルの入口にXX大学OO部と書いてあったけど、ひょっとしてこいつらか。でも、体育会系のキチガイじみた盛り上がり方でもなかったので、仕方なしと思って布団に入った。その後もドンドンバンバン隣室からは音がしていたが、朝飯の時間は決まっているので彼らもじきに寝たようだった。
朝飯も同じ。何も語ることはない。卵やきをたくさん食べた。部屋に戻るとカーテンを開けた。濃霧で真っ白で視界ゼロだった。ふと、若い時に行った東北旅行で遭遇した吹雪を思い出す。バスの窓はすべて白く染まり、飛行機が遅れて大変だった。吹雪の中にいると、建物の中にいても現実感が失われる。果たしてここはどこか、私はだれか、そんなことを疑いたくなる。次は吹雪が吹く冬に来ようという気持ちになった。
特に何もなかった。でも、何もないって贅沢だな。
ふと、これを読んで思い出したんだが
今は25年前くらいに某スーパーに買い物に行きレジを待っているときにどっかの主婦が子供を読んだ声が聞こえて「トウマ、セイジ早く来なさい」と。自分はびっくりした。
大昔「サムライトルーパー」というお姉さまに大人気のアニメがあって(同人誌がいっぱい作られた今なら刀剣乱舞くらいのジャンル)その主人公の青年5人のうちの2人がトウマとセイジというキャラがいたことを思い出した。