はてなキーワード: 妙齢とは
「ベニスでしょう」
これは三四郎にもわかった。なんだかベニスらしい。ゴンドラにでも乗ってみたい心持ちがする。三四郎は高等学校にいる時分ゴンドラという字を覚えた。それからこの字が好きになった。ゴンドラというと、女といっしょに乗らなければすまないような気がする。黙って青い水と、水と左右の高い家と、さかさに映る家の影と、影の中にちらちらする赤い片とをながめていた。すると、
「兄さんのほうがよほどうまいようですね」と美禰子が言った。三四郎にはこの意味が通じなかった。
「兄さんとは……」
「この絵は兄さんのほうでしょう」
「だれの?」
「だって、あっちのほうが妹さんので、こっちのほうが兄さんのじゃありませんか」
三四郎は一歩退いて、今通って来た道の片側を振り返って見た。同じように外国の景色をかいたものが幾点となくかかっている。
「違うんですか」
「一人と思っていらしったの」
「ええ」と言って、ぼんやりしている。やがて二人が顔を見合わした。そうして一度に笑いだした。美禰子は、驚いたように、わざと大きな目をして、しかもいちだんと調子を落とした小声になって、
「ずいぶんね」と言いながら、一間ばかり、ずんずん先へ行ってしまった。三四郎は立ちどまったまま、もう一ぺんベニスの掘割りをながめだした。先へ抜けた女は、この時振り返った。三四郎は自分の方を見ていない。女は先へ行く足をぴたりと留めた。向こうから三四郎の横顔を熟視していた。
「里見さん」
だしぬけにだれか大きな声で呼んだ者がある。
美禰子も三四郎も等しく顔を向け直した。事務室と書いた入口を一間ばかり離れて、原口さんが立っている。原口さんのうしろに、少し重なり合って、野々宮さんが立っている。美禰子は呼ばれた原口よりは、原口より遠くの野々宮を見た。見るやいなや、二、三歩あともどりをして三四郎のそばへ来た。人に目立たぬくらいに、自分の口を三四郎の耳へ近寄せた。そうして何かささやいた。三四郎には何を言ったのか、少しもわからない。聞き直そうとするうちに、美禰子は二人の方へ引き返していった。もう挨拶をしている。野々宮は三四郎に向かって、
「妙な連と来ましたね」と言った。三四郎が何か答えようとするうちに、美禰子が、
「似合うでしょう」と言った。野々宮さんはなんとも言わなかった。くるりとうしろを向いた。うしろには畳一枚ほどの大きな絵がある。その絵は肖像画である。そうしていちめんに黒い。着物も帽子も背景から区別のできないほど光線を受けていないなかに、顔ばかり白い。顔はやせて、頬の肉が落ちている。
「模写ですね」と野々宮さんが原口さんに言った。原口は今しきりに美禰子に何か話している。――もう閉会である。来観者もだいぶ減った。開会の初めには毎日事務所へ来ていたが、このごろはめったに顔を出さない。きょうはひさしぶりに、こっちへ用があって、野々宮さんを引っ張って来たところだ。うまく出っくわしたものだ。この会をしまうと、すぐ来年の準備にかからなければならないから、非常に忙しい。いつもは花の時分に開くのだが、来年は少し会員のつごうで早くするつもりだから、ちょうど会を二つ続けて開くと同じことになる。必死の勉強をやらなければならない。それまでにぜひ美禰子の肖像をかきあげてしまうつもりである。迷惑だろうが大晦日でもかかしてくれ。
「その代りここん所へかけるつもりです」
原口さんはこの時はじめて、黒い絵の方を向いた。野々宮さんはそのあいだぽかんとして同じ絵をながめていた。
「どうです。ベラスケスは。もっとも模写ですがね。しかもあまり上できではない」と原口がはじめて説明する。野々宮さんはなんにも言う必要がなくなった。
「どなたがお写しになったの」と女が聞いた。
「三井です。三井はもっとうまいんですがね。この絵はあまり感服できない」と一、二歩さがって見た。「どうも、原画が技巧の極点に達した人のものだから、うまくいかないね」
原口は首を曲げた。三四郎は原口の首を曲げたところを見ていた。
「もう、みんな見たんですか」と画工が美禰子に聞いた。原口は美禰子にばかり話しかける。
「まだ」
「どうです。もうよして、いっしょに出ちゃ。精養軒でお茶でもあげます。なにわたしは用があるから、どうせちょっと行かなければならない。――会の事でね、マネジャーに相談しておきたい事がある。懇意の男だから。――今ちょうどお茶にいい時分です。もう少しするとね、お茶にはおそし晩餐には早し、中途はんぱになる。どうです。いっしょにいらっしゃいな」
美禰子は三四郎を見た。三四郎はどうでもいい顔をしている。野々宮は立ったまま関係しない。
「せっかく来たものだから、みんな見てゆきましょう。ねえ、小川さん」
「じゃ、こうなさい。この奥の別室にね。深見さんの遺画があるから、それだけ見て、帰りに精養軒へいらっしゃい。先へ行って待っていますから」
「深見さんの水彩は普通の水彩のつもりで見ちゃいけませんよ。どこまでも深見さんの水彩なんだから。実物を見る気にならないで、深見さんの気韻を見る気になっていると、なかなかおもしろいところが出てきます」と注意して、原口は野々宮と出て行った。美禰子は礼を言ってその後影を見送った。二人は振り返らなかった。
女は歩をめぐらして、別室へはいった。男は一足あとから続いた。光線の乏しい暗い部屋である。細長い壁に一列にかかっている深見先生の遺画を見ると、なるほど原口さんの注意したごとくほとんど水彩ばかりである。三四郎が著しく感じたのは、その水彩の色が、どれもこれも薄くて、数が少なくって、対照に乏しくって、日向へでも出さないと引き立たないと思うほど地味にかいてあるという事である。その代り筆がちっとも滞っていない。ほとんど一気呵成に仕上げた趣がある。絵の具の下に鉛筆の輪郭が明らかに透いて見えるのでも、洒落な画風がわかる。人間などになると、細くて長くて、まるで殻竿のようである。ここにもベニスが一枚ある。
「これもベニスですね」と女が寄って来た。
「ええ」と言ったが、ベニスで急に思い出した。
「さっき何を言ったんですか」
女は「さっき?」と聞き返した。
「さっき、ぼくが立って、あっちのベニスを見ている時です」
女はまたまっ白な歯をあらわした。けれどもなんとも言わない。
「用でなければ聞かなくってもいいです」
「用じゃないのよ」
三四郎はまだ変な顔をしている。曇った秋の日はもう四時を越した。部屋は薄暗くなってくる。観覧人はきわめて少ない。別室のうちには、ただ男女二人の影があるのみである。女は絵を離れて、三四郎の真正面に立った。
「野々宮さん。ね、ね」
「野々宮さん……」
「わかったでしょう」
美禰子の意味は、大波のくずれるごとく一度に三四郎の胸を浸した。
「野々宮さんを愚弄したのですか」
「なんで?」
女の語気はまったく無邪気である。三四郎は忽然として、あとを言う勇気がなくなった。無言のまま二、三歩動きだした。女はすがるようについて来た。
「あなたを愚弄したんじゃないのよ」
三四郎はまた立ちどまった。三四郎は背の高い男である。上から美禰子を見おろした。
「それでいいです」
「なぜ悪いの?」
「だからいいです」
女は顔をそむけた。二人とも戸口の方へ歩いて来た。戸口を出る拍子に互いの肩が触れた。男は急に汽車で乗り合わした女を思い出した。美禰子の肉に触れたところが、夢にうずくような心持ちがした。
「ほんとうにいいの?」と美禰子が小さい声で聞いた。向こうから二、三人連の観覧者が来る。
「ともかく出ましょう」と三四郎が言った。下足を受け取って、出ると戸外は雨だ。
「精養軒へ行きますか」
美禰子は答えなかった。雨のなかをぬれながら、博物館前の広い原のなかに立った。さいわい雨は今降りだしたばかりである。そのうえ激しくはない。女は雨のなかに立って、見回しながら、向こうの森をさした。
「あの木の陰へはいりましょう」
少し待てばやみそうである。二人は大きな杉の下にはいった。雨を防ぐにはつごうのよくない木である。けれども二人とも動かない。ぬれても立っている。二人とも寒くなった。女が「小川さん」と言う。男は八の字を寄せて、空を見ていた顔を女の方へ向けた。
「悪くって? さっきのこと」
「いいです」
「だって」と言いながら、寄って来た。「私、なぜだか、ああしたかったんですもの。野々宮さんに失礼するつもりじゃないんですけれども」
女は瞳を定めて、三四郎を見た。三四郎はその瞳のなかに言葉よりも深き訴えを認めた。――必竟あなたのためにした事じゃありませんかと、二重瞼の奥で訴えている。三四郎は、もう一ぺん、
「だから、いいです」と答えた。
雨はだんだん濃くなった。雫の落ちない場所はわずかしかない。二人はだんだん一つ所へかたまってきた。肩と肩とすれ合うくらいにして立ちすくんでいた。雨の音のなかで、美禰子が、
「さっきのお金をお使いなさい」と言った。
「借りましょう。要るだけ」と答えた。
「みんな、お使いなさい」と言った。
なんか話題になってるね。
弟に関する大事な話があると言われて地方の実家に帰省したら時代錯誤な結婚話の説得要請だった「令和のホラー話かな?」「うちもそうだった」
https://togetter.com/li/2413389
いやこのお爺ちゃんの考えは現代の価値観だとありえないと思うんだよ、私も。周りの人達の態度にもモヤッとする。女性を将棋の駒か銃の弾か何かだと思ってるのかと。
でも見方を変えればこれってめっちゃいい慣習じゃん。いい歳して独り者でいる男女、自分で結婚相手を決めれない男女に周りが世話を焼いて見合い相手を探してくれるんだよ?こんな恵まれた話なかなかないよ。
うちの実家は地方の都市でさ。本家とか分家とか言っているような男尊女卑の地域ではない。今現在、地元に若いのがどのくらいいるかはわからないけど徒歩圏内に小学校〜高校はある。私もそこに通ってた。学校以外に出会いは少ないと思う。地元の小中学校も統廃合がされつつある。
私は地元にいることに特に不満はなかったけど、就職を機に東京に出て、東京でいい人が見つかって結婚して子どももいる。コロナ前は毎年帰省してたけどコロナからは帰らない年もあるくらい。東京に定住していて地元に戻ることは考えてない。家族の意向もあるしね。
ここで弟の話になるんだけど、弟はというと地元の高校を出て、実家から通学圏内の大学。そのあと地元にとどまって実家暮らし。フルタイムで働いてるけど非正規で収入は多くない。(実際の給料は知らない)おそらく実家にお金は入れてない。そろそろアラフォーになる。
正直条件面だと結婚相手としてはきびしい。私も仮に婚活とかで相手が弟と同じ条件だったら断る。
でも弟は気のいいやつなんだよ。経済面以外は頼りにもなる。過去に悪いこともしてない。会って話をすれば気に入ってくれる人はいると思う。でも婚活だとお見合いで条件でお断りになることは目に見えている。いや、そもそも結婚相談所の入会条件を満たさないかもしれない。
私にとって冒頭のまとめは気持ち悪い価値観と思うと同時に、羨ましい、弟の希望の光になる話だとも思った。(もちろん当人の意思を無視するお爺ちゃんの考えが受け入れられない点は改めて言っておく)
まとめの地域がどこかは存じ上げないが、そこに移住して何年か地域の中で生きていれば妙齢の女性があてがわれるのか?それなら全然選択肢として有りだと思った。うちの家系の跡取りの希望も生まれる。
もしうちの地元がそんな地域で、弟の説得のために帰ってこいって言うんだったら私は全然一肌脱ぐよ。なんなら同年代の同性として、お相手の娘さんのとの仲を取り持つよ。小中学校も一緒かもしれない。
いやまとめの縁談は断る話ではないと思うんだけどな〜。まずお見合いしてみればいいのに。お見合い自体を断るなんて贅沢な話だと思うよ。なんならうちの弟にその縁談を回してほしいくらいだよ。うちの地元でもこんな話が持ち上がってこないかな〜。
まあたぶん「授業で習ったけどそれ故事成語だとは思ってない」って人が大半だとは思う。いちおう先従隗始という四字熟語にもなっているのだが、手元のIMEでは登録されていない。まあその程度の認識だったと思う。
とはいうものの、四字熟語辞典に載っている、ということはまあ故事成語ではあるのだ。たぶん、これも「妙齢」と同じように、人によって意味を違って取るために使われなくなった言葉だろうと自分は思っている。
「戦国策」「史記」「十八史略」といろいろあるらしい。まあ十八史略はあとからの切り抜き編集まとめみたいなものだしね。
ここにその原文の1つが載せられている。
今王必欲致士、先従隗始。況賢於隗者、豈遠千里哉。
読んで見れば分かる通り、この故事はもともと「隗」って人の自己PRなのだ。しかも、自分の有能さをPRするのではなく、自分が大した人じゃない、ってことを前提に、自分を雇わせるための言い訳、そしてそれをやる戦略について語っているわけだ。
ところが、この故事成語、現在では「まず自分がやれよ」という意味、もしくは「身近なことから始めよう」という意味になっている。まあ「隗」は一番身近な人の1人だったわけだから、後者の意味はとれなくもないのだけど、前者ちょっと意味を取り違えているんじゃないかという意味になっている。
まあたぶん「授業で習ったけどそれ故事成語だとは思ってない」って人が大半だとは思う。いちおう先従隗始という四字熟語にもなっているのだが、手元のIMEでは登録されていない。まあその程度の認識だったと思う。
とはいうものの、四字熟語辞典に載っている、ということはまあ故事成語ではあるのだ。たぶん、これも「妙齢」と同じように、人によって意味を違って取るために使われなくなった言葉だろうと自分は思っている。
「戦国策」「史記」「十八史略」といろいろあるらしい。まあ十八史略はあとからの切り抜き編集まとめみたいなものだしね。
ここにその原文の1つが載せられている。
今王必欲致士、先従隗始。況賢於隗者、豈遠千里哉。
読んで見れば分かる通り、この故事はもともと「隗」って人の自己PRなのだ。しかも、自分の有能さをPRするのではなく、自分が大した人じゃない、ってことを前提に、自分を雇わせるための言い訳、そしてそれをやる戦略について語っているわけだ。
ところが、この故事成語、現在では「まず自分がやれよ」という意味、もしくは「身近なことから始めよう」という意味になっている。まあ「隗」は一番身近な人の1人だったわけだから、後者の意味はとれなくもないのだけど、前者ちょっと意味を取り違えているんじゃないかという意味になっている。
本文中に「妙齢」という言葉を使うと、次々に「それは正しい意味で使っているのか」と難詰される。
誤って使われている確かな形跡がなくてさえ、である。
つまり見識高い妙齢警察官たちは「妙齢は常に間違った意味で使われ、正しく使う者はいない」という原則のもと職務質問を行っている。
妙齢は相対的な形容なので「弱冠=二十歳」のような客観的定量的な定義がなく、それがゆえに、どんな場面で用いても誤りと解釈できる余地がある。いわば、好きな場所に動かせるゴールポストだ。したがって、どんな意味で使っていても使った瞬間に有罪が確定するのである。
間違いを指摘して知識マウントをとりたくてしょうがないんでしょ
これなんか間違ってるか正しいか判別できないシュレディンガー妙齢だから、言ったもん勝ちの見切り警察だよね
まあ4、50代でも妙齢って使えるしな