はてなキーワード: 短編小説とは
短編小説、って、知らないの?
まず初めに、お気持ちでもなんでも、意味の通る長文を書けるだけでそれは「能力」である。内容がいくら恥ずかしいものでも、長文を書くことは決して恥ずかしいことではない。そして長文を「書ける」能力があることは、「書けない」自分の上位互換である。大富豪で超有名なローカルルールに8切りがある。殆どの場合場を流したほうがお得だが、「流さない選択もできる8切り」があったら、「絶対に流す8切り」の上位互換であることは間違いない。使い所はわからないが。書けるという選択肢は、あって損はない。得はわからないが。
第一に、お気持ちの種がないとお気持ち長文は生えてこない。種があれば2000字くらいはサクッと書ける私でも、種無しでなんか書けって言われてもパンティーって5文字書いて終わりだ。なんでも良い。好きな作品の心にひっかかった展開でも、嫌いな作品の嫌いな一コマでも、どうにかしてぶちのめしてやりたいノロケ増田でも、なんでもいい。何かしらの種を拾ってこよう。やる気があるなら、日々それを貯めておこう。いつかそれが、面白い短編小説になることがあるかもしれない。
お気持ち長文に必須なのが自分語りだ。自分に全く興味のない生きてるのか死んでるのかよーわからん人間でも、「自分がなぜこんな考えを持ってるのか」くらいのことは語れるのだ。ちゃんとした秀才か天才でもない限り、人は何かを「自分が体験したこと」に全てをなぞらえがちな傾向がある。恥ずかしいことではない。そういった類推ができることも、立派な能力だ。わりと誰でも持っている能力であることも事実だが。その誰でも持っている能力が、実は結構他人にとって価値があったりもする。なぜなら、当人が「しょーもない自分のしょーもない体験」と思っていることでも、他人にとっては「その人として生きていないのに、その人の追体験ができる種」になるからだ。自分語りはどんどんしていけ。ここはアノニマスダイアリ、匿名の掃き溜めだ。お気持ち自分語り長文がかければ、お気持ち長文初級編の免許皆伝だ。
ここから中級編。好きなもの、嫌いなものに関して言いたいことは皆様多々あるだろう。全部書くと、ほんとに散漫なお気持ち長"駄"文になる。1つにトピックスを絞ろう。一番好きなところ、一番気に食わないところが良い。それを言いたいがために自分語りも引用もする、ということができると、ビシッと焦点の合ったいいお気持ちが書ける。そして重大なポイントだが、これをタイトルにするんだ。タイトルっていうのは、読み手が「これどういう意味だ?」ってなったときの手助けになる。この暗喩伝わるかな、って思ってもタイトルにヒントがあると意外と読めるし、それを読めた人は文章をちょっとだけ好意的に読んでくれる。読み解けた俺スゲー、が続きを読む原動力になる。これが出来ると、「長文なのにスッと読めた」とか、「この比喩までこだわってるのイイね」みたいなコメントが付き始める。意図して出来たら中級免許皆伝だ。
上級は?と聞かれるかもしれんが、私もまだまだ修行中の身。中級も頑張っているところだ。世界に広がるお気持ち長文の文化、みんなも試していいんじゃないか。
ところで、この文章の書き方は、読書感想文コンクールで無双できる書き方でもあるのだ。本の中でひかかったワンフレーズに対して、あーでもないこーでもないと持論と自分語りをペタペタくっつけていけば、国語教師が花丸をくれるようなものが書ける。そこに社会問題とかでも絡めておけば、ナントカ賞みたいなゴミも貰えたりする。少なくとも、2ページと1行のイヤイヤ書かされた悲惨なものにはならない。何でも良いから書いていこう。
物書きになりたいと思っていた。
と言っても将来の夢だとかそんな大げさなものじゃない。俺は今まで短編小説やエッセイの一つも書き上げたことがないし、それについて勉強したこともない。ただたまにこうしてネットの片隅に下らない文章をアップロードしているだけだ。何故物書きになりたかったのか、それは思春期の頃文学少年気取りだったからかもしれないし、テキストサイト世代だったからかもしれない。あるいは文章を書くことで何かに辿り着こうとしているのかもしれない。一つだけ確かなことは、こうして文章を書く時は大抵ひどく精神的に不安定な時だということだ。
こういう時に文章を書くと何だか落ち着ける気がする。経験上それは気がするだけであって何の効果も生まないのだけれど、それでも書いている間だけはそのことに集中できる。きっと生まれる時代が20年遅かったら、俺はとてつもなく恥ずかしいラブレターを量産していたことだろう。そういう意味では手紙という文化のすたれたこのネット社会に感謝しなくてはならない。
ここまで読んでくれた奇特な人がいれば、俺に物書きの才能がないことはわかると思う。それは俺もとっくに理解している。でも今でもたまにそういう人生があったらいいなと思うのだ。一人で都内の1LDKくらいの部屋に住み、適当な時間に起き、音楽を聞き、小説でも書いて、飽きたら酒を飲んで、気が向いたら女を抱く、そんな世間とはある種切り離された生活を送ることも、もし俺に才能があればできたかもしれない。
多分一種の逃避なのだろう。俺はひどく矮小で、つまらない人間で、つまらない生活を送っている。そう、つまらないのだ。つらくすらない。だから誰にでもできる書くという行為によって、自分が特別な存在になれる可能性を夢見ている。何も望まず、何者にもなれず、何も残せない俺の、最後の逃避なのだ。
「またやっちゃった…」
ヒロコは苛立ちと罪悪感でいっぱいになった胸を抑えて深く溜め息を付いた。
間も無く3歳になる娘のユウが赤くなったあどけない頬をめいっぱい歪ませて泣きじゃくっている。
片付けても片付けてもおもちゃを散らかし、いたずらばかりするユウをきつく叱りつけたのだ。
同じことを何度繰り返せばいいのか、また抑えきれない怒りを発してしまった。
掌がヒリヒリと痺れている。
我に返った時には遅く、ユウは火が付いたように泣き出した。
それでもヒロコはすぐには動けなかった。
その様子を他人事のように見詰め、抱き寄せる事も出来ず、これを宥めるのも自分の仕事かとうんざりし、またそう考えてしまう自分が嫌だった。
夫の帰りは今日も遅いのだろう。
激務の為、終電になることがほとんどだ。最後に娘が起きている時間に帰ってきたのはいつの事だったろうか。
日が傾き始めた窓の外に目をやり、逃れられない娘の泣き声と孤独感にヒロコはまた溜め息をついた。
──
「こんなはずじゃなかったのに」
「イヤイヤ期は大変よね」
サキは応じる。
ヒロコの学生時代の友人だ。
サキの子供はユウの2つ上の男の子で、サキは企業勤めのいわゆるワーママである。
最近は忙しくて会う機会も減っていたがサキが2人目の出産を間近にして産休に入った為、久しぶりにお茶でもどうかと招待を受けたのだ。
「可愛くない訳じゃないんだけどね、時々イライラが止まらないの。本当にひどいんだよ。なんで何回言ってもわからないんだろう」
自分の家にはない、物珍しいおもちゃの数々に目を輝かせているユウを横目に、ヒロコはまた溜め息をつく。
「片付けは出来ないし、気付いたらすぐ散らかすし、昨日もリビングに水をぶちまけるし、トイレットペーパーは全部出しちゃうし…。毎日毎日片付けに追われてる…!すぐにビービー泣いてうるさくて頭おかしくなりそう。この子、私のこと嫌いなのかなって本気で思う事がある」
サキは時折自身の体験を交えながらヒロコの言葉にうんうんと耳を傾ける。
ヒロコがアドバイスなどを求めていないことはよくわかっている。
まだ意思の疎通もままならない子供と一日過ごしているだけでどれだけ気力と体力が削られるかサキもよく覚えている。
久しぶりに人と話をしている高揚感と充実感に夢中になるヒロコの気持ちはよくわかった。
「…そろそろ保育園のお迎えに行かないと」
時間が過ぎるのはあっという間だ。
「長居してごめんね」
ヒロコも席を立ち、ユウの散らかしたおもちゃを片付ける。
「帰るよ」
その一言でユウの顔がぷうと膨れた。
「やだ」
ヒロコの目が吊り上がった。
「また始まった…!ワガママ言わないで!!」
「やあぁー!あそぶ!あそぶの!!」
小さな手から乱暴におもちゃを取り上げると、ユウはわぁっと泣き声を上げた。
「はぁ…。もううるさい!泣かないでよ!行くよ!」
ヒロコはユウを抱き上げようとしたが、ユウは泣いて暴れ、その手から逃がれようとする。
カァッと目の前が赤くなるような感覚に襲われ、反射的にヒロコの右手にグッと力が入ったが視界にサキの姿が入り、ヒロコは震わせた拳を抑えた。
その分声はヒートアップする。
強引にユウを引き寄せ、そのまま引きずるようにして玄関へ向かう。
「みっともない所見せてごめんね。いつもこんなで…ホントごめん」
辛そうに頭を下げるヒロコにサキは困ったような笑顔を返すと、本棚から一冊の本を取り出してヒロコに渡した。
「ね、良かったらこれ、読んでみて」
──
ヒロコは疲れていた。
「こんなはずじゃなかったのに」
お母さんだからメイクもお洒落もちゃんと出来なくて、髪を振り乱して鬼の形相で子供に怒鳴り、お母さんだから子供の為に我慢ばかりで辛い事ばかり。
ユウの寝顔を見て愛しいと思っても、朝になればまたあの1日が始まると思うと恐怖すら感じた。
この子を産んでいなければ…考えても仕方のないifが頭の中を駆け巡る。
恨めしい。子供の事など考えず、仕事だけしていればいい夫が恨めしかった。
独りの時間はとても長く、虚無で満たされていた。
(絵本か…)
本屋へは何度か行ったが子供に何を選べばいいのかわからず、無難そうな物を数冊買ったきりだ。
読み聞かせをしてもユウはすぐに飽きてしまい最後まで読み切れた事もなく、読んでいる最中に絵本を破かれて怒って以来、開くのをやめた。
鞄から取り出し、表紙を撫ぜた。
「えぇ…どういうこと?」
口の端に自然と笑みが浮かんだ。
静かなリビングにページをめくる乾いた音が響く。
いたずらで母親を困らせる可愛くない子供が、デフォルメされた絵柄で描かれていた。
嫌な感情が胸を巡る。
気分が悪くなり、一度は絵本を閉じようかと思った。
しかし、めくるごとにヒロコの手が震えだした。
(あ、このママ…)
(私だ…私がいる…)
あたしがあんたをうんだんだもん!
大好きすぎるからおこるのよ!あんたにはママよりしあわせになってほしいの!!
それがおこるってことなのよ!』
ヒロコの目から知らずに涙がこぼれた。
(うん、私、怒りたいんじゃない。ユウが大好き。大好きだから怒ってしまうんだ…!私、間違ってなかったんだ…!)
胸が、身体中がカァッと熱くなった。
堰を切ったようにとめどなく涙が溢れてくる。
ヒロコは絵本を抱き締めて嗚咽を上げた。
ヒロコは昨夜泣き腫らしてむくんだ瞼をこすりながらも、穏やかな気持ちでいた。
今朝も早くからユウは冷蔵庫の野菜室に積み木を放り込むいたずらをしていた。
いつものように怒鳴り付けたヒロコだったが、泣いているユウを自然に抱き締める事が出来た。
「あのね、ママはユウが好きだから怒ったんだよ。わかる?ユウの事がどうでもよかったら、怒ったりもしないの。だからユウが悪い事をしたら怒るのよ」
今はまだ全ては伝わらないかも知れない、けれどきっとわかってくれるはず。
心持ちが違うだけでこんなにも余裕を持っていられるなんて。ヒロコは晴れやかさすら感じていた。
──
追い詰められていた自分の気持ちを理解し、黙って絵本を渡してくれたサキに感謝を伝えようとヒロコは電話を掛けた。
「何て言うか、助けられた気持ち。私、いっぱいいっぱいだったんだと思う…」
「私もそうだよ」
サキの声は安堵したような響きがあった。
「いい絵本だったでしょう?私も辛いときに読んでるんだ。怒るのは悪いことじゃない、子供の為だって思えると気が楽になるよね」
「うん。ユウにちゃんと向き合えた気がする」
しばらく話を続けたあと、あぁそうだとサキは言った。
「あの絵本を書いた作家さんの講演会が再来週あるんだけど行ってみない?」
「講演会?」
「ユウも騒ぐしそんな所に連れていけない…」
「大丈夫!子供連れでも安心して行ける講演会なの。作家さんが子供と遊んでくれたり、絵本の読み聞かせをしてくれたりするんだ。親も子供も楽しめていい息抜きになるよ」
本を一冊読んだだけ、どんな人かもわからない絵本作家の講演会に3000円も出すのは専業主婦のヒロコにとっては少し高いなと思う金額だった。
だが、子供も沢山来ると言う話だし、ユウにもいい刺激になるかも知れない。
熱心に勧めてくれるサキに押され、せっかくだからと参加を決めた。
講演会と聞いて構えていたが、会場に入って拍子抜けした。
椅子も置かれていないホールにブルーシートが敷かれているだけ。
「なんなの、これ?」
「知らないとちょっと驚くよね。まぁ座って座って」
「ユウちゃん、これから楽しいお兄さんが来て遊んでくれるよ。ご本も読んで貰おうね」
サキの息子ケンタは場馴れしているのか、サキに寄り掛かるようにして静かに座っていた。
「そんなことないよ。全っ然ダメな子なんだから!今日はユウちゃんがいるから良い子のフリしてるだけ。もうすぐ赤ちゃんも産まれるんだからもっとお兄ちゃんらしくして貰わないと困っちゃう。ね?ケンタ?…あ、ほら始まるよ!」
それはヒロコが想像していた作家の講演会とは全くかけ離れたものだった。
絵本作家と聞いてかなり年配なのだろうと勝手に思っていたヒロコは、40半ばに見える気取らない格好をしたこの男性が絵本作家その人であることも驚いた。
作家本人が壇上を降りて子供と触れ合い、子供達が楽しめるように趣向を凝らした様々な遊びが繰り広げられた。
時には大人も一緒に歓声をあげるような賑やかなもので、気付けばユウもキャッキャと声を上げて遊びの輪の中で満面の笑みを浮かべていた。
(凄い…)
「この人は特別だよ。こんなに子供の為に自分からやってくれる作家さんなんて聞いたことないもの。生の意見を聞きたいって日本中回って年に何本も講演会開くんだよ。絵本も発売前に講演会で読み聞かせして、感想を聞いて手直しするの。凄いでしょ?」
「前にね、仕事でこの人のイベントに関わった事があって。妥協しないでこだわりを貫く姿勢とか、誰に対してもフランクで、作家なのに偉ぶらない所とか、凄く温かみがあって純粋な人だからファンになっちゃったんだ。しかも、ちょっとかっこいいじゃない?」
子供達は食い入るように作家の手元を見詰め、声を上げて笑っている。
(これがプロの読み聞かせ…!ユウなんて私が読んでも最後まで聞かないのに、こんなに子供の心を掴むなんて。やっぱりプロは違うのね。私もあんな風に感情を込めて読んでみたらいいのかな)
作家は、二冊の本を読み終わり、次が最後の読み聞かせだと告げた。
もう終わってしまうのか…と残念な気持ちになるヒロコは気付かないうちにもうこの作家のファンになっているのだ。
新作だと言うその黄色い表紙の絵本は、作家が渾身の思いを注いで全国のママ達の為に描き上げたのだそうだ。
この明るくて楽しい、優しさに溢れた人が私達ママの為に描いてくれた絵本とは一体どんなものなのだろう。
ヒロコの胸は期待に掻き立てられた。
読み上げられた一文にヒロコは頭を殴られたような気がした。
周りを見れば大人しい子供もいるのに何故ユウのようないたずらばかりする子だったのかと妬ましい気持ちになることもあった。
子供が親を選んで産まれてきただなんて考えたこともなかったのだ。
作家は感情を溢れさせた独特の声音で絵本を読み進め、ページを捲っていく。
ひとりぼっちで寂しそうなママを喜ばせたいんだと飛び込んでいく魂。
ヒロコの心は激しく揺さぶられた。
気付けば茫沱たる涙が頬を濡らしていく。
母に喜びを与える為に産まれるのだ。
ヒロコは肩を震わせしゃくり上げて泣いた。
作家を中心に会場の空気が一つになったような感覚をヒロコとサキは味わった。
同じように感じる来場者は他にもいたのではないだろうか。
(自分の絵本を読みながら泣くなんて、とても繊細な人なんだ…)
作家が自分に寄り添ってくれるような気持ちになり、ヒロコはその涙が温かく感じた。
「ママ…?」
ヒロコが泣いている事に気付いたユウが、どうしたの?と母の頬に手を伸ばす。
ヒロコは反射的にその小さな体をギュウと抱き締めた。
「ユウ、ありがとう」
講演後に開かれた即売会でヒロコは迷わずに黄色い表紙の絵本を買った。
感動と感謝を伝えているとまた涙が溢れてきた。
作家はにこにこしながら『ユウひめ、ヒロコひめへ』と言う宛名の下に2人の似顔絵を描いて手渡してくれた。
──
翌日からヒロコはユウに、そのサインの入った絵本を積極的に読み聞かせた。
講演会で見た絵本作家の姿を脳裏に思い浮かべ、それと同じように読み聞かせをしたのだ。
冗談を言うシーンでユウは笑う。
もう一度ここを読んでとヒロコにせがむ。
こんなこと今まで一度だってなかったのに。
「ユウもこんな風にお空の上からママを選んだんだって。覚えてる?」
「うん。おじいちゃん」
「このおじいちゃんにユウも会ったの?」
「うん」
幾人もの子供たちから聞いた話を元に絵本を描いたとあの作家は言っていた。
本当だ、ユウも産まれる前の記憶を持っているんだ、とヒロコは確信した。
「どこが良くてママを選んだの?」
照れたように小首を傾げながら舌足らずに答えるユウをヒロコはきゅっと抱き締める。
「ママ嬉しい~!ユウも可愛いよ!可愛いママを選んだんだからユウが可愛いのも当たり前だよね~!」
子供からこんなにも愛を貰えると気付かせてくれたこの絵本は、ヒロコにとって正にバイブルとなったのだ。
後半はこちら↓
幼児の面会が禁止されている産院だった為、お見舞いに行けなかったヒロコは、サキの退院を心待ちにしていた。
お祝いを手に、ヒロコはサキの家を訪ねた。
「ありがとう。片付いてなくて悪いけど上がって」
サキはほんの少し疲れの見える、けれど元気な笑顔で迎えてくれた。
「わぁ可愛い。ほら、赤ちゃんだよ、ユウ。寝てるから静かにね」
「あとで起きたら抱っこしてあげて。ユウちゃん、お菓子どうぞ」
部屋の隅でミニカーを走らせていたケンタにも声を掛けるが、ケンタは小さく首を振るだけだった。
「ケンタくん。一緒に食べない?」
ヒロコも声を掛けたがケンタは反応しない。
サキは苦笑いしながらコーヒーの入ったカップをヒロコの前に置いた。
ユウにはリンゴジュースだ。
ヒロコが制する間もなく、ユウはお菓子を口に運んでニコニコしている。
「ユウちゃん、慌てて食べると喉に詰まるよ。沢山あるからゆっくり食べてね。…ケンタの事は気にしないで。赤ちゃん返りしちゃったみたいでね、構って欲しいくせにずっとああやって拗ねてるの。ねー?赤ちゃんケンタちゃーん?」
サキがからかうように声を投げるとケンタは口をへの字に曲げてテーブルにお尻を向けた。
「ね?退院してからずっとこう。もうお兄ちゃんになったんだからそんなに甘えられても困るんだよねぇ。私だって赤ちゃんで手一杯なのに。放っておいていいよ。お腹が空いたら勝手に食べるから」
ふぇぇ…と新生児独特の小さな、けれども弱々しくはない泣き声が耳に届く。
ユウが反応して振り向いた。
「あかちゃ!ないてう!」
「赤ちゃんて泣き声も可愛いね。もうユウなんて泣いてもうるさいだけだもん」
抱っこしていい?とサキに確認して、ヒロコは赤ん坊を抱き上げた。
軽い。
ヒロコが頬をつつくと赤ん坊はきゅっと目を瞑り、口が緩やかに開いた。
生理的微笑だ。
ヒロコの頬も緩む。
「じゃあもう1人産めばいいじゃない」
サキがヒロコの脇を小突く。
「欲しいけどこればっかりはね」
ヒロコは苦笑いして上を見上げた。
「私の事を選んでくれる赤ちゃんいないかな~。降りてきて~!なんちゃって」
「今、空から見てるかもよ~」
その時ケンタがポツリと言った。
「赤ちゃんなんて嫌い」
サキが溜め息を吐いた。
「またそんな事言って…。ケンタ、ママが大変なのは見てわかるでしょう?お兄ちゃんらしくして欲しいな。ね?ママを困らせないで」
「まぁまぁ、ケンタくんも寂しいんだよ」
リビングの気まずくなった空気を和ませようとヒロコは明るい声を上げた。
「ケンタくん、知ってる?赤ちゃんて、ママを選んで産まれて来るんだよ。きっとこの赤ちゃんもケンタくんとケンタくんのママに会いたくて産まれて来たんだよ。ケンタくんだってそうだったでしょう?」
「そんなのしらない」
ケンタはふてくされた顔で横を向いた。
「忘れちゃってるだけなんだよ。ケンタくんだって赤ちゃんが産まれることまで空の上でわかってて今のママの所に来たんだよ。ユウはちゃんとママを選んで来たって覚えてるもんね?」
ヒロコがユウを振り向くとユウは急に自分に話を向けられた事にきょとんとしていた。
「ユウ、ママを選んで来たの、覚えてるよね?」
ヒロコに重ねて問われ、ユウはやっと頷いた。
「おそらのおじいちゃん」
「ええ?ユウちゃん覚えてるの?」
サキが驚きの声を上げた。
「そうなのよ」
「あの絵本を読んでたらね、ユウもここにいたって言い出したの。空の上から見てたって…」
サキが感嘆の息を吐いた。
「凄い…。本当に覚えてる子っているのね」
「私も驚いちゃって」
ヒロコも深く頷く。
「いいなぁ。ケンタなんか全然知らないって言うし、さっきもあんな事言うでしょ?この子には産まれる前の事を覚えておいて欲しいなぁ」
ケンタはそんな会話など聞こえないかのように部屋の隅でまた1人遊びに戻っている。
──
ひとしきり話した後、新生児のいる家に長居しては悪いと、ヒロコは腰を上げた。
「さ、ユウ、行こうか」
辺りに散らかったおもちゃを片付けながら声をかけると、ユウは口をへの字に曲げて手にしたおもちゃに力を込めた。
帰りたくないと言う意思表示だ。
ヒロコはつかつかとユウの側へ寄り、おもちゃを取り上げると箱へ戻す。
「やぁだぁ~!!」
ユウがわぁんと声を上げた瞬間、ヒロコはその頬を迷いなく叩いた。
パチンッと言う乾いた音が響き、ケンタがハッと顔を上げた。
サキも「え…」と声を漏らす。
叩かれた痛みに更に泣き声を大きくするユウをヒロコはぎゅっと抱き上げる。
「ユウ。痛かったよね。ごめんね。でもママの手も痛かったんだよ。ママだって嫌だけどユウがワガママ言うから仕方なく叩いてるの。わかるよね?ユウも叩かれたくないでしょう?」
ゆっくりと低く、含むように諭すヒロコ。ユウは涙目を開いて、うん、と頷いた。
「わかったね。じゃあ帰ろうか。」
「うん」
掛ける言葉が見付からず目を泳がせているサキににこりと笑うヒロコ。
「驚かせてごめん。最近は私も我慢しないで正直に怒ることにしてるの。叩くのはよくないけどちゃんと理由もあるし、説明すればユウも今みたいわかってくれるから」
「そ、そっか。うん、いきなりだからびっくりしたよ…」
「ちゃんと愛を持ってやることは子供にも伝わってるんだよってあの作家さんも言ってたから大丈夫」
ヒロコの自信に溢れた顔を見て、サキはふっと息を抜いた。
「ヒロコ、変わったね。この前来たときは凄く疲れてたから心配だったけど、ちょっと安心した。しっかり考えて育児出来てるの偉いよ!私も頑張らないとって思った」
「色々ありがとうね。サキが話聞いてくれたおかげだよ。また辛いときは頼っていい?」
サキは「もちろん」と応じた。
ヒロコはユウの手をギュッと握り、その暖かさを噛み締めながら帰路に着いた。
──
それから数ヶ月、目に見えてユウのイタズラは減っていた。
いや、ヒロコの意識が変わった事でイタズラが以前ほど気にならなくなったのかも知れない。
自分は背負い過ぎていたのだと気付いて、ユウへの接し方を変えてから育児がうまくいっていると感じていた。
ヒロコがそんな物思いに耽っていると洗面所の方から不穏な物音が聞こえた。
ふと見るとさっきまで目の前にいたはずのユウの姿が消えている。
ヒロコは溜め息を吐きながら洗面所へと向かった。
一体何をどうしたのか、ユウは洗面台の前に出来た水溜まりにびしょ濡れで座り込んでいたのだ。
「ユウは本当に悪い子だね…」
ヒロコが声を掛けるとユウはびくりと体を震わせた。
ヒロコは躊躇いなくその頬に手をあげる。
ヒィン…と小さな声を漏らしたユウの瞳から涙がポロポロと零れた。
「ユウはママに叩かれたくて生まれてきたのかな。ユウのせいでママの手が痛くなっちゃった」
「ママ…ごめんしゃい…」
か細い声でしゃくりあげながらユウはヒロコを見上げる。
ヒロコはため息を吐いてユウの前にしゃがみこんだ。
「ママは、ユウがママを選んでくれた事、本当に嬉しいんだよ。だからがっかりさせないで。ちゃんとママの事喜ばせてっていつも言ってるでしょう?」
ヒロコが諭すように言うとユウはこくりと頷いた。
ほら、怒鳴る必要なんかない。心で話せば子供に伝わるんだ、とヒロコは実感していた。
「ユウはママの事嫌いなの?」
「すき…ママのこと、すき…」
ユウは絞り上げるように言葉を紡ぐ。
ヒロコはにっこりと微笑んだ。
「よかった。ママもユウが大好きよ。じゃあ一緒にお片付けしようか」
ヒロコはユウの肩を抱き寄せた。
手が触れる瞬間、ユウの体が硬直したように感じたのは水に濡れた寒さからだろう。
ヒロコはいそいそとユウの着替えを用意した。
このくらいの悪戯なんて何でもない。子供のしたことをいちいち怒鳴っても仕方無いんだから。
ヒロコは余裕を持ってそう思える自分に満足していた。
子供に愛され、子供を愛する事はなんて素晴らしいんだろうと満ち足りていた。
ヒロコは幸せだった。
~完~
前半はこちら↓
油断していただけなのに。
それでですね、書いた直後は少しは粘ってみましたよ。
コメントを書いてくださる有難い増田に返信したりしましたけど。
半日以上たっても動かなかったから、まあ釣れないでしょうね、と思っていたわけですよ。
話題性で攻めたけど文章が凡百なら伸びないのが分かっただけでも大きい、精進しようって。
ちょうどエントリからも消えていたタイミングでアクセスしていたらしく全く認知してませんでした。
何をどうしたら750ブクマまで行くんだ。こんなにコメントが付くんだ。どちらもあえなく自己ベスト達成ですよ。
何故ここまで炎上したのか、誰か教えてくださるのであれば幸いです。
いや本当に理解できないので。
追伸.同様の題材を扱った作品など皆さん挙げて下さっているので興味がわきました。
・マクロス
・『ラブ・シンクロイド』
これに関しては感謝しかありません。今度読んでみます。本当にありがとうございます。
創作活動はしていないが、あれやこれやと設定や企画を考えるのが好きだ。
それはゲームとか漫画とかのコンセプトだったり、世界観を想像したり、古代文明の失われた機械だの霊能力だのと、介護保険を払う年齢になっても空想が好きなのだ。
漫画家のゆうきまさみ氏は、架空のアニメを企画するという遊びを仲間内でやってたらしい。そしてそこからパトレイバーが生まれたのは有名な話。
まさにそれ。気の合う仲間と、ありもしない世界をつくりたい。語りたい。
短編小説を書き上げる程の根性もなければ、味のある絵も描けるわけでもない。努力を惜しまない姿勢も含めて、自分にはそういう一種の才能が欠けているのは、専門学校生の時に気づかされた。夢から醒める瞬間だった。
それはもういい。ふるいにかけられ、クリエイターになれなくとも、年甲斐もなく創造するのが愉しみなのだ。
どこかにないのだろうか。そういう設定とかをシェアするようなサイトとかサークルは。
次第に著作権とかの問題も出てくるだろうが、ピュアに、もう一度、あの頃のように夢をみたいんだ.....!
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って、書き殴りしたが、ほんと、どこかにないですかねー。
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トラバ付けて頂いたりコメ頂きありがとうございます。はばかりながらも、追記します。
あれから、もし自分でサイトを立ち上げるなら、何が必要か、何が起こりそうか考えてます。もう既に想像中w
例えば男性キャラAの設定を投稿、それについてディスカッションが始まる。
みんなが色々考えるなか、誰かが「実は女にだらしないってのはどう?」と提案する。
でもその提案、ストーリーの作り次第では意外とイケるのでは?破棄はもったいない。
それならば、「標準」という設定から枝分かれさせたらどうだろう。プログラム開発でいうブランチを作る感じで。
また誰かが「それは生温い。ペドフィリアで行為の最中に『孕め、孕め』と叫ぶゲス野郎だ」と提案したら、どうしよう。
いくら投票で決める「標準」から枝分かれできるシステムでも、自分のポリシーに背く内容だ。
ある程度は公序良俗に沿うよう利用規約をつけても、逆に表現の自由を奪ってないだろうか?
そこでゾーニングだろうか。
※小説といっても投稿サイトに投稿したり同人誌作ったりの趣味レベル
短編小説を数本書いて、身内に見せたらそこそこの評価だったので調子に乗って長編書いて公募に出しました。
当時はまだガラケーでパソコンやネットの普及率も低かったとは思うけど、誰でも原稿用紙3枚とかの課題を嫌々でもこなしたり、大学行ったらレポートとか卒論とかで文章書く機会はあると思う。(私は大学行ってないのでそうでもないのかもしれないが)
星新一さんとかみたいなオチのしっかりしたSSを書けと強いられているわけではない。
自分の思うままに空想の世界をそのまま文字に起こすだけでそれっぽい小説は書けると思う、誰でも。
なのに、ちょっと書いてみたんだか書きもせずに自分は小説が書けないと信じ込んでいる人が多い。
別に書こうと思ってない、創作活動やる気もない人はまだわかるんだけれども、漫画は描けるけど小説が書けないっていう人の存在が特に不思議でならない。
「会話」描写「会話」描写を繰り返していけばそれはクオリティはともかく小説であるはずで、漫画描ける人は会話の部分は完全に書けているし、地の文だって高望みしなければなんとでもなるはずだ。
現に自分自身は公募の評価シートの文章力は良くてBだったり下手すりゃD判定とか食らうけれど、書けないとは思ったことがない。
絵を描くのが好きで漫画描いている人は理解できるが、会話もストーリーも思いつくのに小説は無理っていう人は何をもって小説だと思ってるんだろうか。
白のパンダに黒を書き足したら~
もうパンダじゃないって!パフィーさんの曲って何だったかしら?
あのさ、
みんな大好き文房具!
謎の達成感が発生して
その日に飲むルービーの美味さたるや格々別々なんだけど、
その謎の達成感とともに、
使い切るのに1千万回、
日数にして1日10回使うとしても3500年も使わなくちゃいけないのよね。
ピラミッド建設するか修正テープ使うかってどっちがロマンなんだよ!
それにこれは銀河系史上誰も成し遂げられない長さじゃなくて光年?
ついについに使い切ってエンドを迎えたの。
べ、べ別に映画観て泣いてんじゃないんだからね!と言わんばかりの長さだけど、
エンディング曲が「恋しさとせつなさと心強さと」だって言うことは
もはやそれはネタバレレヴェルであり
そこでこの曲流すか!?むしろこれがオチだったんじゃなかろうか?とも思えるほどで、
でもそれは
この時が来てしまったのよね。
私は24時間テレビで走ってる人の歌の曲と言えば
そしてさらに着ているTシャツが黄色くなってしまいそうなほど。
でサライって結局何なの?と思いつつ
一大大スペクタクルSF短編小説に匹敵する使い切りっぷりだと思うのよ。
これってもうSFよね!
エンディング曲はスティングさんの「シェイプオブマイハート」!
もう泣けるっしょ!
うふふ。
ちょっと多かったかしらと思いつつやっぱり多くて朝からうげっ!ってなっちゃいそうだけど、
珍しくサンドイッチ!って決めた日には
ゆ!許せないっ!
サンドイッチだけに仏の顔も、
って言わないわよ!
黄色のピーマン赤いニンジンにそして緑のたぬきは入らないけど、
タヌキはさすがに入らないわ。
すいすいすいようび~
今日も頑張りましょう!
ぽまいら何か買った?
漏れはいくつか買って、そのうちいくつかはプレイしたのでファーストインプレッションを書くお。
https://store.steampowered.com/app/481510/Night_in_the_Woods/
2DADVであるということ以外どういうゲームなのかまだよく分かっていないが、「大学を中退して地元に戻ってきた主人公」というイントロダクションだけでかなりぐっときてしまった。
ざっくり調べた感じモラトリアム期のヒューマンドラマにフォーカスしたADVなのかな。
こういうテーマのADVでここまで高い評価を得るタイトルはあまり見かけない気がする。まあLife is Strangeとかあるけども。
日本語版はローカライズに定評のあるPLAYISMが担当というのもあって期待が大きい。
https://store.steampowered.com/app/367520/Hollow_Knight/
インディーゲーム史に残る名作として名高いやつ、ついに買っちった。
アートスタイルがかなり好きでアニメーションの質も高そうなのでずっとチェックしてたんだけど、いわゆるメトロイドヴァニアがあまり得意ではないので若干尻込みしてた感は否めない。
でも頑張ってみたいと思う。絵とアニメーションでしか知らないこの主人公を最後まで導いてみたくなったから。
あ、今度Silksongっていう続編も出るらしいっすよ。タイトルがいちいちカッコいいな。
https://store.steampowered.com/app/966330/Flower/
PS3で好評を博した名作が発売10年目にしてSteamに登場してたので購入。
邦題「Flowery」と言えば思い当たる人もいると思う。(日本だと商標か何かの関係でタイトル変わっちゃったらしい)
この作品と同開発元の「Journey(邦題:風ノ旅ビト)」は、この手の「インタラクティブメディアとしてのビデオゲーム」というジャンルを確立したなと個人的に思っている。
「一枚の花びらになってフィールドを舞いながらたくさんの花を咲かせて進むゲーム」という説明で伝わるだろうか。
プレイヤーが花を咲かせる度に花びらも増え、花びらが増える度に音楽も重なりを増し、そして花びらは最終的に一列の連なりとなり、世界に彩りを加えていく。
いわゆるゲーム的な難しさは殆どないので、生活に疲れた人におすすめ。
そういえばPS3ではモーションコントロールに対応してたけどSteam版はどうなんだろう。
https://store.steampowered.com/app/1046030/ISLANDERS/
これは前から気になってたやつ。
一見SimCityやCities: Skylinesみたいな街作りシムを想起させるけど、中身は全くの別物なので注意。
限られた土地に建物を配置してスコアを稼ぐ、というのが基本的な進行。
例えば、畑を置くとポイントが貰える。でも畑を風車小屋の近くに置くとシナジー効果が発生してより多くのポイントが貰える。
そういう法則に従ってポイントを一定値稼ぐと新たな建物がアンロックされるのでまた同じことを繰り返し、置ける建物がなくなるか次の島(ステージ)がアンロックされたら終わり。
まだ始めたばかりだから分からない部分も多いけど、常に工夫の余地があってなかなか面白い。シミュレーションじゃなくてパズルゲームだね。
時間制限もないのでゆったりできるし、資源管理とか住民からのクレームとかも一切ないので安心してポイント稼ぎに特化した街を作って眺めよう!
https://store.steampowered.com/app/774171/Muse_Dash/
中国発の音ゲーで、iOS/Androidアプリとして昨年リリースして好評を博していたらしい。スマホアプリ界隈はあまりチェックしてないので知らなかった…。
Twitterで動画を見かけて何だこのkawaiiアニメヰシヨンは!?と驚愕したのでSteam版を購入。
アニメヰシヨンが本当によくできていて、キャラ選択画面をくるくる切り替えるだけで無限に時間が過ぎていく。
音ゲーとしてはわりとシンプルでガチ勢にはやや薄味かもしれないが、キャラデザもアニメヰシヨンもコミカルでkawaiiのでとても楽しい。
音ゲーには明るくないからよく分からないけど、曲はボカロの流れを汲んだものからナードコアっぽいものまで、歌詞も中国語日本語英語インストと国際色豊か。本体収録曲は40曲で、DLCで曲追加という感じらしい。
正直定価ワンコイン以下でこの内容はかなりいいんじゃないか…?音ゲー界隈の相場観が分からんから疑問形だけど。
https://store.steampowered.com/app/206190/Gunpoint/
スニーク要素のある2Dパズルアクション?っぽい。レビューがかなり良かったので購入。
主人公はスパイなので当然施設に潜入して機密情報を盗みだすし、
スパイなので当然電気配線をいじって照明やドアを操ったりできる。
どうやらそういうゲームらしい。
攻略ルートの自由度が高くリプレイ性がありそう。ステージエディットもあって次作ステージを共有できるらしい。
https://store.steampowered.com/app/476360/Strike_Vector_EX/
なんかキューでおすすめされたのでPV見たらなんかギューンブォーンバキューンってやっててカッコよかったしちょうど身体が闘争を求めていたので購入。
マルチは人が少なそうだけど、レビューではシングルキャンペーンも好評っぽいのでこういう系が好きな人にはいいかも。
https://store.steampowered.com/app/864550/Radiant_One/
全体的にスマホアプリっぽいのでたぶん移植かな、と思ったらやっぱり元がiOSアプリだった。
うまく説明できないけどこういうグラフィック好きなんだよね。有名どころだとINSIDEとかRiMEみたいなの好き。こういうの何て言うの。
開発元CEOが「インセプション」や「パプリカ」からの影響を公言していて、確かに主人公が夢と現実を行き来するというストーリーはそれっぽい。
夢の中での出来事が現実に影響を与えたり、明らかにオマージュっぽいホテルの廊下とか出てきたりするし。
あとStardew Valley要素もちょっとあるとも言ってたけどこれはやれば分かる。畑は耕さない。
インタビューを読むと前作の失敗でスタジオが存続の危機に陥る中リリースした勝負の一作らしい。そう思うとなんか気合い入っちゃうな。
ゲームとしてはいわゆるポイントアンドクリックのADVで、ボリュームは控えめで普通にじっくりやって1周1時間弱くらい。実績コンプも面倒なのは会話集めくらいでさほど難しくなさそう。
丁寧な日本語訳と小綺麗なグラフィックが好印象。難しいアクションも要求されないので、プレイアブルな短編小説を読むくらいの気持ちでプレイするといいと思う。読後感は爽やか。
https://store.steampowered.com/bundle/8133/Borderlands_The_Handsome_Collection/
どう見ても元値と割引率がバグってる。この間Portalシリーズ各60円が話題になってたけどそんなん目じゃないな。
これは「Borderlands 2」と、無印と2の間を補完する「Borderlands: The Pre-Sequel」の本編2作+それぞれのDLC全部入りのバンドル。自分の場合2を元々持ってたのでその分更に安くなってた。まあ2は積んでるんですけどね。
いや、違うんです、言い訳をさせてください。
Borderlands無印とBorderlands 2は以前セールで買ったんすよ。で、せっかくのシリーズものなんだから無印からやろう!って思うじゃないすか。でもPC版無印は日本語非対応なんすよ。
日本語化しようにも若干グレーっぽいし不具合出たらとか思うとめんどくさくて、かといって2から崩す気にもなれず…って感じで仕方なくここまで来ちゃったんすよ。
積みゲーは2つで十分ですよ。分かってくださいよ。
とか何とか言ってたら今年の4月にBorderlands Game of the Year Enhancedが発売されたんすよ。
これは無印GOTY版のリマスターで、驚くべきことに新規の日本語吹替も収録された全日本語話者PCゲーマー待望のバンドルなんすよ。
で、SteamでPC版無印のオリジナル版を所有しているユーザー、つまり俺に対しては無料でライブラリに追加してくれるという神対応付き。
はい、Borderlands 3がEpicで時限独占やってる間に頑張って崩します。
いや、むしろ「3の時限独占終わるまでこれやって待っててね」という開発からのメッセージでは…?
ぽまいらも頑張ってゲームを自分で積んで自分で崩す自己完結活動に精を出していこうな。
旅行でもいきてえなあ~と思って、星野リゾートのページみてたら、
また潰れたところから施設買ったんだろうなぁ~と思って調べたら、元「二期倶楽部」だってんだよね。
へぇ~二期倶楽部ってどんなとこだったんだろ、と思って調べたらまだホームーページが残ってて、
ホテルの写真とかみてたらここ、どっかで見たことあるなぁ~って既視感がもりもり湧いてきたんだよね。
しばらくどこで見たんだっけなぁ~ともやもやしてたけど、ハッと気づいたんだよ。
そう、おれの好きな吉田修一の短編小説「初恋温泉」の一篇で舞台で出てくるんだ。
って思ったんだよね。まあ俺が初めて読んだときに二期倶楽部を既に調べてて、
それを忘れてるだけって可能性もなくはない。
控え ホテル迎賓館(川崎)、ホテル竹峰(新宿)、湯島御苑(秋葉原)
1 今年の冬に改装。改装前はどこの廃墟?という風情だったが現在は日本で一番大人なラブホテルに。地下にBARがあったりしてさすが六本木。本年度における利用回数No.1ホテル
2 ラブホではないがデイユースの設定がある。バスビューのあるマチュアダブルが至高。ようやくWeb予約対応になり使いやすくなった(以前はカウンターで直接受付)
3 折鶴がアイコンのモダンジャパニーズラブホテル。広さ清潔さインテリアのおしゃれさ全てが満足度高い。新宿No.1ラブホ
4 文句なし日本一。ラブホテル星人が攻めてきたら任せるのはこやつしかいない。ギャラリーのような外観。落ち着いたインテリア、六本木というロケーション全てがおされ
5 コスプレ楽しむならここは外せない。診察室、電車部屋、社長室など面白い部屋があって選ぶ楽しみがありすぎる。予約できたら神ホテルになれる
6 SENSEが出来るまで新宿No.1の座を守っいた。もちろん今でもハイレベルなのは間違いない。土曜のお昼に整理券を貰って並ぶのがかなり照れくさいので付き合いの浅いカップルは時間を選べ
7 ネタとしてここ以上のものはない。あまりのエキセントリックさに村上龍の短編小説に紛れ込んだかのような感覚に陥る
8 鉄板。迷ったらここ。新宿の本店は混むので、スマートに行きたいときは東新宿店の方に行こう
9 インテリアが本物感ありおそらくオーナーの趣味なんだろう。本気でパリのアパルトマンに住んでる気分になる。一室だけ猫足バスタブがあってさらに気分が上がる
思い返せば学校生活から、人とうまくやるのが苦手だった。育った環境は特に劣悪でもなく、23区のあまり裕福ではないほうで、いじめを受けながらも、それなりに義務教育を終えた。ただし、いじめを受けると、それなりに人付き合いが苦手になるが、現在そのことが影響を深く与えているとは考えにくい。
その後勉強のできる都立高校に進んだ。校則が一つもない学校で、当然服装やら髪型の規則もない。しいて言えば、ちゃんと学校にある程度来ることと、補導されないこと、それと校内では下履きに履き替えることくらい。友達とさぼって映画を見に行ったり、年齢制限をゆるく見てくれるお好み焼き屋に行ったり、近所の公園で浪人生に逆ナンパされたりと、人生初のリフレッシュができた。図書館で山ほど本を読んで、週3回剣道をして、ようやく人生が軌道に乗り始めた。
それほど頭は悪くなかったようで、そこそこの大学の英文科に入ることができた。映画サークルに入り、何本か映画を撮ったり出演したり、地味だったがそれなりに楽しく生活できていた。
兄弟が4人もいたので、アルバイトも高校生のころからちょくちょくしていた。多少を家計の足しに、それと自分の物欲のために。高校生のころコンビニで2年弱、大学生からはファミレスで1年、塾講師で3年。
多分、今に至るきっかけはファミレスのころにうまくいかなかったことに起因している。そして大学生活にも一因がある。
ファミレスでは、厨房でドリンクやデザートを出す仕事をしていた。厨房内では仲良く働いていたが、何となくウエイター/ウエイトレスの人とうまく話ができないまま1年が経ち、そこから人と話すのが苦手になっていた。同じくらいの女性とどんな話題を共有すればよいのか、向こうも話しかけてはくれないし、こちらも話すきっかけがない。
厨房の人がとても優しかったのは今でもいい思い出だ。一緒にワカサギ釣りに旅行に行ったのが懐かしい。釣ったワカサギを持って、お店で揚げて食べたのもいい思い出。
大学1年生の性欲やらが多感な時期に、自分の口下手と話題のなさが鬱屈を与えたのだろうか。
カート・ヴォネガットの短編小説やチャールズ・ブコウスキー、初めて英語で読めた小説の「クール・ミリオン」、高校生から好きで読み漁っていたアメリカ文学、自分やサークルで作った映画、鉄男や小沢健二やNumber Girlやマイケルジャクソン、クラブでかかっていたNirvanaやStrokes、軽自動車で行ったフジロック、そんなものは誰の興味にもならないと決め込んでしまった自分がよくなかったのだろう。
1年経って結局そのファミレスが潰れてしまったが、「あの人の日とか失敗、つまんないし」といったようなことをぼそっと聞こえるように言われたのが今でもフラッシュバックする。
その後、3年弱塾講師のアルバイトをした。個人指導塾で、入って3日目に、「この研修に行くと5000円がもらえる」と言われて行った研修。一言も発言できなかったことを思い出す。
自分が抱える生徒の多くは、本指名から外れてきた子が多かった。成績もみんなそれほど良くなく、自分にも人を教えるスキルが足りなかった。結局浪人させてしまった生徒のことを時々思い出す。本当に悪いことをした。一人で赤本を解いて、わからないことを聞きに来るというスタンスを取らせればよかったのに、自分が無駄に介入してしまったことが悔やまれる。
そのバイト先で覚えたのが、お酒に頼ることだった。安い居酒屋で終電まで飲んで、げらげら時間を共有できる。それが社会人になってもコミュニケーションの核となってしまう。
文学部ながらも、BBSや簡単なアプリを作ることができたので、ソフトハウスに就職できた。2年半いたが、デスマーチで体調を崩してうつになり、結局辞める。
新人研修のころやその後の付き合いもお酒が基本だった。キックオフ、とりあえずリリース、最終FIX、とかのタイミングでようやっと胸襟を開いた話ができる。それまでは、ほうれんそう以外の会話もなく、とにかくメールに頼るようになっていた。
時々生意気な意見を言ったり、人のプログラムを勝手にリファクタリングしたこともあった。
記憶がないなか、帰巣本能で家に帰るのもよくあった。タクシー代を貯めていれば相当の金額になっていたのではないかと思う。
少し休んで、プログラマとして別会社に復帰した。総務と経理以外はほぼ男性の会社で、よく飲んだ。
その会社でようやっとまともな生活を取り戻すことができ、結婚もできた。
3年ほどプログラマをしていたが、目の前に座っているおじさんプログラマの1/10しか生産性がないことがわかり、社内異動で説明書のライターに転職する。
車好きやキャンプ好き、バイク好き、元ミュージシャンが異様に多い会社で、よく泊まりで出かけていた。自分よりも年上が多いから、みんな自分の事を話してくれる。お酒どうこうもなくその人を知ることができる、いい機会だった。ある人が定期購読していた、日経ソフトウェア数年分を借りてJava以外のスクリプト言語(自分はPython)を学ぶBoot Strapとして使わせてもらったり、ほんとうに幸せな日々を送ることができた。
その会社は、株式公開に伴う人員削減で、半数以上人がいなくなった。自分も窮屈なライターを続けるのが辛くなって辞めて、割増の退職金をもらった。以降半年近く、妻以外の人と話すことなく、引きこもりながら割増退職金に付随する給料をもらっていた。働かずに給料をもらえるのがこんなに苦痛だったのか。
いい加減引きこもりにも飽きて大会社に転職するチャンスをもらった。その間に障碍者手帳をもらい、障碍者枠での就職活動をすることにした。
大会社は大会社だった。エリートはエリートで、二級以下の低級労働者の自分は、その程度の扱いしか受けない。大学のランキングを引きずる社内で、
自分はまず
・学歴劣る
・それまでの成果は劣る
・白髪ばっかり目立つ
・とにかくあいつは劣る
という状態になった。
新卒の指導をしても、まるで彼が改善しない。自分を責め続け、ぎっくり腰になった。みんなが、「彼はそうだから」と言ったが、彼をある程度に育てることができず、結局リリースした。リリースしたらとたんにぎっくり腰がよくなった自分の無責任さにびっくりした。
あと、それほど多く飲み会がない。飲んでも自分のような飲み方は誰もしない。場をわきまえ、何となく優しくやっている。
なんで、しらふで天気の話ができないんだろうとか、自分の好きなことを少しでも話せないんだろうとか、毎日悲しくなる。
行動をしないと、周囲も変わらない。一か月以上、挨拶と仕事の最低限のやりとり以外はしていない。たかだか席替えでこんなに弱ってしまうとは。派遣の期限がきてしまう子がいなくなってしまうことにこんなに心が揺さぶられてしまうとは。
ごめん。こんな人間は、やまゆり園の加害者の気持ちでは必要のない人間だったんだろうね。でも、家族と過ごす時々の時間を過ごしてもいいのかな。
増田文学の個人的な楽しみ方として、甘酸っぱい恋愛エピソードを掘り起こすというものがある。
アカウントが紐づけされてしまうSNSやブログでは小っ恥ずかしくて開陳できないようなエピソードでも、増田であれば気兼ねなく書くことができる。そのためか、何度も読み返したくなるような、読んでいてこちらまで胸が切なくなってくるような増田文学が眠っていることがある。
そこで、ブクマはそこそこ付いているもののもっと広く読まれてほしい、恋愛エピソード系の増田文学を5つ紹介したい。
中学生時代の切ない恋心と別れ。アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」と絡めて示される、まさかのラストエピソード。当時好きだった人をSNSを介して確認できてしまうのが現代社会。
書道教室に通う小学生の少年と、少し年上のお姉さんたちの関係を綴った増田文学。個人的にはこういうテイストの増田文学は大好物なのだが、ブコメを読んでいると色々な感想があるのだなと思う。
古典作品の影響もあって「足フェチ」になってしまった高校生。彼が夏祭りで偶然出会った同級生は、草履の鼻緒が切れており……。一風変わった形のボーイミーツガール。普段直接目にすることが稀だからこそ、素足の魅力は一層輝く。
できるだけ増田文学100選には載っていない比較的マイナーな増田文学を取り上げる方針だったが、これは特に気に入っている作品なので敢えて紹介したい。
人生のふとした局面に現れる黒ギャルとの淡い思い出。個人的には2つ目のエピソードがとりわけ好み。この空気感を味わうことができる増田文学をもっと読んでみたい。
ここで取り上げた他の増田文学は主人公(書き手)が少年(男性)だが、この増田は大人の女性側の視点で書かれている。そして他の増田文学がキスもしないようなプラトニックな関係に終始するのに対して、この増田ではセックスまで描かれる。でもどういうわけか、不思議と童貞・処女心を擽られる構成になっている。質の高い短編小説を読んでいるかのような感覚。
『劇場版 はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~』を見てきたので感想。いつものごとくネタバレ気にしてないのでネタバレ嫌な人は回避推奨です。あらすじ解説とかもやる気ないので見た人向け。
なんと100点。点数の基準は「上映時間+映画料金を払ったコストに対して満足であるなら100点」。とは言え、これ、評価難しい。良いところと悪いところと混在しつつ、今の自分だからこの点数なんだけど、ちょっと違う自分だったらこの点数は著しく下がっていたんじゃないかと思う。いつにもまして主観的な点数であり他の人におすすめする自信がない。
アニメとしての出来は良かった。演出や音楽なんかも水準以上の仕事をしてたんだけど、キャラデザと脚本と声優の3点がそれ以上の出来だった。しかしそもそもの企画で疑問な点も多々ある。
大体の話原作マンガ『はいからさんが通る』からして相当ボリュームが大きい作品なのだ。TVアニメ42話やっても完結できてないのがその証拠で、その原作を100分ちょいx2の前後編にまとめるということが最初から無理難題。
だから素直に作れば駆け足どころかダイジェスト気味になり、点数なんて30点前後になるのが当たり前だと思うのだ。今回の劇場版は、その問題に対して、脚本とか演出技術とかをぶっこんで善戦してたことは確かなんだけど、それってつまり「ハンデを克服するための戦力投入」に他ならないわけで、100点から先に積み上げていく役に立ったかと言えば難しい。
原作ジャンルは一応ラブコメということになると思うのだけど、原作『はいからさんが通る』には実は様々な要素が詰め込まれている。主人公紅緒と伊集院少尉の間のラブロマンスを中心としつつも、大正期うんちくマンガの側面、スラップスティックなギャグの要素、膨大な登場人物の群像劇、そして女性の自立というテーマももちろん重い。
今回の映画企画では、これを前後編で本当にうまくまとめてある。駆け足感は否めないものの違和感は感じない。このへん優れた原作→映画脚本の特徴でもあって、印象は原作に忠実なものの、実を言えば改変は結構大胆にはいってる。
今回映画で例を上げれば、大震災後の炎上する廃墟をさまようのは映画では紅緒、少尉、編集長という3人なのだが、原作ではさらに鬼島を入れた四人だ。三角関係の描写とその解消をクライマックスの中心に持ってくる構成をシンプルに伝えるため、鬼島は退場させてあり当然セリフも再構成で圧縮されている。
しかし一方でそういう技術的な圧縮だけでは全く追いつかないわけで、群像劇的なキャラクターを絞り、ギャグパートもほとんど捨て去って、映画で残すのは「主人公紅緒を中心とした(はっきり言っちゃえば伊集院少尉と青江編集長との三角関係)ラブロマンス」と「大正ロマン期の女性の自立」というふたつの大きなテーマに絞った。その判断は正解だと思う。
正解だと思うんだけど、じゃあそのふたつが現代的な視点で見て満足な出来に達しているかといえば――この部分が評価に迷った原因だ。
『はいからさんが通る』の原作からそうなので、映画(だけ)の問題点というわけではないのだけれど、個人的な見解で言うと登場人物のメインどころのうち三人がダメんピープルだ。
初っ端から最大戦犯のラリサ=ミハイロフ。ロシア貴族である彼女は、満州出征中に部下を救うために突出して倒れた伊集院少尉を見つけ、その命を救う。しかし戦争の傷跡で記憶を失った伊集院少尉に、自分の旦那(死亡済み)の面影を見出し、都合よく嘘記憶を刷り込みして、自分の夫として病気の自分の世話をさせるのだった。
いやあ、ないでしょ。どんだけよ。しかも病弱な自分を盾にして伊集院が記憶を取り戻したあとも関係を強要するのだ。クズでしょ(言った)。一応言葉を丸めてダメんピープル(女性なのでダメンズではない)と呼んでおく。
じゃあ、そのラリサの嘘の被害者たる伊集院少尉(主人公紅緒の想い人)はどうなのかと言えば、彼もまたダメんピープルなのだった。記憶を失っていた間はまあいいとしても、記憶を取り戻し紅緒と再会したあとも、病弱なラリサの面倒を見るために彼女のもとにとどまり続ける。命の恩人だと言えばそりゃそうなのかもしれないが、周囲の誤解をとくでもなく、未来への展望を示すのでもなく、状況に流されて、紅緒のことが大好きなくせに「他の女性を偽りとはいえ面倒見ている関係」を続ける。続けた上でそれに罪悪感を覚えて、紅緒から身を引こうとする。
それだけなら海底二千マイルゆずってもいいけれど、ラリサが死んだあとは紅緒のもとに駆けつけるあたり、手のひら返しの恥知らずと言われても仕方ない罪人である(言った)。っていうか伊集院少尉とラリサの関係は明らかに共依存でしょ。カウンセリング必要だよ。
とはいえ、主人公紅緒もけして潔白とはいえない。病気のラリサに遠慮をして、二人の間の愛情を誤解して別れを告げられ、告げたあと、心がフラフラしている時期に、少尉の実家を助けてくれた編集長にほだされて交際を宣言。他の男性(伊集院少尉のこと)を心に宿したまま、編集長と結婚式まで行ってしまう。それは伊集院少尉に対してもそうだけど、青江編集長に対してはより罪深い。その嘘はやっぱり問題だと言わざるをえない。
――こういう恋のダメピープルトライアングルが炸裂して、映画の前半は結構ストレスが溜まった(この辺個人差はあると思う)。このダメんピープル共が。問題を解決しろ。
両思いの恋人がいい雰囲気になって決定的にくっつきかけたところで、理不尽なトラブルが起こり二人は引き裂かれる! どうなっちゃうの二人!? 以下次週!! で、次週になってトラブルを乗り越えて、またいい雰囲気になると今度は二人が(独りよがりの)善意から身を引くとか、ずっとお幸せにとかいい出して、誤解のすれ違い。神の見えざる手によってやっぱり二人は結ばれない!
「北川悦吏子だ!」といったけどそれは北川悦吏子女史の発明品というわけではなく、自分の中での代名詞が彼女だと言うだけなのだけど。もっと言うのならば、年代的にみても北川悦吏子が『はいからさんが通る』やら『キャンディ・キャンディ』に影響を受けた可能性は高く、むしろ原点はこちらだ。イライラは軽減されないが。
そんなイライララブロマンス時空において癒やしは青江編集長である。
光のプラスワンこと青江冬星はまっとうで良い人なのだ。登場時は女性アレルギー(と大正時代的な女性蔑視)があったものの、雇用主として新人編集者である主人公紅緒を導き、支え続ける。その人柄に触れて、紅緒に対する愛情を自覚したなら、変にこじれぬように即座に自分の口から誤解の余地のない告白を行う。これ以上イライララブロマの炎症を防ぐその手腕。良いね。
しかも「お前の心に伊集院がいるうちは土足で踏み込まない」「いつかその気になったとき思い出してくれれば良い」といって加護者の立場に戻る。見返りを求めず、高潔で、慈悲深い。癒やしのキャラだ。
読めば分かる通り自分は編集長推し(原作当時からだ)なので、そのへんは差し引いてほしいのだが、ダメんピープルの中にあった彼が一服の清涼剤であったのは確かなのだ。
この映画のおそらく二大テーマである「紅緒を中心としたラブロマンス」はダメ人間どもの間違った自己犠牲でイライラするし(加えて言えば、何の罪科もない編集長の貧乏くじも納得し難いし)、「大正ロマン期の女性の自立」については、無邪気と言えば聞こえはいいが無軌道で体当たり主義の紅緒の迷惑を編集長が尻拭いし続けるという構造なので、本当に自立しているのか怪しく、どっちもそういう意味ではスカッとしない。
でも、そうじゃないのだ。そうじゃなかったのだ。
上映終了後、イライラ&60点だと思っていたら、意外なことに結構穏やかな満足感があったのだ。この気持ちはなんだろう? 不思議な気持ちで、言語化に時間がかかった。
なぜなのか考えた。
やったことや構造を追いかけていく限りイライラキャラではあるはずなのに、可愛い。
現代的に変更したキャラクターデザインと、作画と、なによりその声が印象的なのだ。
作中、紅緒は本当によく「少尉」という言葉を口にする。二言目にはそれだ。
このおてんば娘は作中のセリフの大半が「少尉!」なくらい連呼なのである。伊集院少尉のいるシーンでは脳内その声でいっぱいなのだ。声の表情というか、演技が本当に良かった。
少尉の事で頭がいっぱいで、東京から満州に行き、馬賊の親玉に体当たりで話を聞き、少尉を探して駆け巡る。東京に戻ったあとも諦めきれず、その面影を探して、亡命ロシア貴族にまで突撃を掛ける。紅緒は、たしかに、周囲を顧みない行動主義で、無鉄砲なおてんば娘で、そこにはイライラさせられる要素があるにせよ、少尉を求めてさまよう姿は、涙を一杯にたたえた幼子のように見える。
それでようやくわかったのだけれど、結局紅緒は子供だったのだ。
愛する伊集院少尉とはぐれて、彼を探すために声の限りにその名を呼ぶ子供だった。
それが胸を打ったし魅力的だった。スクリーンのこちらからも彼女を助けたいと思った。
『劇場版 はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~』は迷子の紅緒をハラハラドキドキしながら見守り、応援する映画なのだ。
「大正ロマン期の女性の自立」というテーマに対してイライラするのも当たり前だ。彼女は行動力だけは溢れていて、家を出てしまうわ、死んだ(と思いこんでいた)婚約者の実家に行って支える手伝いをするわ、女性ながら出版社に就職するわするのだが、どれも力が足りずに周囲に迷惑を掛けてばかりで、そういう意味では「自立」はしきれていない。むしろトラブルメーカーだ。でもそんなのは、子供だから当たり前なのだ。
彼女はその実力不足から失敗してしまうけれど、チャレンジをするのだ。失敗はチャレンジの結果であり、チャレンジをするという一点で彼女の幼さは正しい。
前述したとおり自分の推しは青江編集長なのだけれど、彼は作中、何らミスらしきことをしていない。つまり罪がない。罪がない彼が、恋愛において自分の望んだ愛を手に入れられない(紅緒は最終的に伊集院少尉とくっつく)のが納得がいかなかった。その理不尽さにたいして原作読了時は腹がたったのだけれど、今回映画を見終わってしばらく考えたあと、仕方ないのかもと、やっと思うことができた。
なぜなら紅緒は(この映画の物語の期間では)未熟な子供だからだ。その子供である紅緒が、青江編集長という加護者とくっついてしまうと、その保護力のお陰で自立できない。青江編集長は全く悪意はなく、むしろ大きな愛情で紅緒を守るだろうし、その実力がある人だろうけれど、その愛情は空を羽ばたく紅緒にとっては重すぎる。
『はいからさんが通る』は紅緒が自立していく物語ではなくて、未熟な子供である紅緒が、自立のスタートラインに立つまでの物語なのだ。だから作中で自立してないのは当たり前なのだ。
無鉄砲で子供で、何かあればすぐべそべそと泣き、でも次の瞬間笑顔で立ち上がり再び駆け出す紅緒は、この映画の中でとても可愛らしく魅力的だった。
その紅緒は自分の心に嘘をつくという罪を犯し、同じく自分の心に嘘をつくという罪を犯した伊集院少尉と結ばれる。伊集院少尉も少女漫画の約束として「頼りになる加護者」として登場したが、罪を犯して紅緒と同じ未熟者のレイヤーに降りてきた。降りてきたからこそ「これから自立するいまは不完全な紅緒の同志」としての資格を得た。
青江編集長は同志ではなくてやはり保護者だから、どんなに良い人でも、「これから一緒に成長していく同志」にはなれない。
考えてみれば、紅緒が少尉を好きになった理由は「優しい目で見てくれたから」だった。けっして「助けてくれたから」ではない。彼女にとって助けてくれる(実利)は重要ではなく、ただ単にそのとき自分を見ていてくれれば十分だったのだ。
そういう意味で、青江編集長はスパダリであり、伊集院少尉はスパダリから降りて結婚相手になったといえる。宮野Win。「立川オワタぁ!」とか「ちゃんかちゃんかちゃんかちゃんか♪」とか言い出さないんで、格好いい主要キャラみたいな演技だったからな。
そういうふうに言語化が落ち着くに連れて、紅緒の親友・環がしみじみと良かったな。と思えた。
「殿方に選ぶのではなく自らが殿方を選ぶ女になるのですわ!」と女学生時代気炎を上げていた彼女。大正デモクラシーにおいて「女性の自立」を掲げて紅緒とともに時を過ごした親友である彼女。
でも、彼女と紅緒の間にあるのは思想の共鳴なんかではなかったと思う。
「女性の自立」と言葉にしてしまえばそれはどうしてもイデオロギー的な色彩を帯びざるをえないけれど、本作においてそれは、そこまで頭でっかちな教条的なものでもなかったのだろう。
劇場版サブタイトルの元ネタはおそらく菊池寛の短編小説「花の東京」から来ているのだろうけれど、そこで描かれた女性(の自立と言っていいのかなあ)も、現代のフェミニズム的な意味でのそれではなかった。どちらかと言えば「どんな環境でもめげずに生き抜いてゆく」という、ただそれだけのことだった。
それはもしかしたら、現代の価値観ではむしろ非難される態度かもしれない。なぜなら、男性が支配的な社会で「めげずに生きる」というのは、ときにその男性支配社会に迎合しているようにも見えて、原理主義者には利敵行為とされるかもしれないからだ。
でも人間は結局与えられた環境でベストを尽くすしか無い。まだまだ男権社会的な大正期社会も、作中クライマックスで描かれる関東大震災で崩壊した東京も「与えられた環境」だ。
その与えられた環境の中で酔っ払って肩を組み、愚痴を言い合いながらも諦めずに笑い合う同志として、紅緒と環のコンビは尊い。
ことによると、紅緒と伊集院少尉のそれよりも確かな絆があったのではなかろうか?
いつどんなときでも、どんな環境でも、うつむかず、意気軒昂と拳を突き上げて、笑顔で生きていこう! 女学生時代の無鉄砲な友情のそのままに、二人は大正という時代に自分の人生を描いた。
「女性の自立」と主語をおけば、それは成功したり失敗したりしてしまう。でも彼女たちが持っていたのは、成功したり失敗したりするようなものではない。どんな環境でもくじけうず、へこたれず、転んでも立ち上がって歌を歌いだす。それはイデオロギーではなく心意気の問題なのだ。彼女たち二人のあいだにあったのはモダンガールとして時代を先駆ける思想などではない。ただ単に、お互いがかけがえのない友達で、楽しかったのだ。
「女の子は元気よく未来に向かって生きる!」。紅緒が愛しく思えたのは、多分その一点だったし、伊集院少尉が彼女を愛したのもその一点だった。本作では描写が欠如していた伊集院少尉も、そのテーマに沿うなら、大震災後の東京で意気軒昂と未来をつくるべきだ。紅緒同様「未熟者の仲間」になった彼はそれが出来るし、その義務もある(でないと編集長はほんとうの意味で道化者になってしまう)。