はてなキーワード: シャンパンとは
俺はホストやってたけど、人間的に騙しまくるのは無理だったので辞めた。
まずホストに来る女は全員病んでる。必ず病んでいる。初回というのがあって金額が安いので「物は試しに」などと言う輩もいるが、基本的に何かしら心に闇を抱えていることが多い。それを「ホストに来さえすれば解決する。こっちは客だぞ」と思っていることが多い。
色んなホストで初回ばかり来るやつは初回荒らしと言われる。こういうやつは基本わかる。まず金を持っていない。金を持っていないのにも関わらず頼み慣れている。観光のような形で来るやつらだ。こういう相手には基本的にホスト側も全力で行かない。ゴミ客のような扱いでとりあえず義務的にやる。
ホストは女の金を見ている。服装から風俗嬢か、一般人かなどを見ている。一般人で1人で来るヤツは比較的狙い目だ。普通は1人でホストになんか来るわけがないからだ。友達がいない・繋がりがないことを証明している。
ホストは、ブサイクな女の方が心置きなく騙せる。なぜかというと「お前みたいな女をまともに相手してやってるだけ感謝しやがれ。鏡見たことあるのか?」という感情が湧くからだ。だから金は等価交換だと認識する。したがって、悪いことをしているという感覚が無くなる。また、相手の性格が悪ければ悪いほどそれを感じやすくなる。良い女(良い女などホストには来ないが)に近いほど、罪悪感が湧く。
基本的にホストも全員病んでいる。まともな男はホストなどしない。ゲラゲラ笑っているように見えていても、1人で家でずーんとなっていることがある。これは結構な人たちがそうなる。平気そうにふるまっていても、自分の感情と真逆のことを言うのはストレスなのである。「好きだ」「愛してるよ」「本気だよ」とずっと言わなければいけない。「お金がたまったら辞めるよ」と、ずっと真逆のことを言わなければならない。ずっと一緒にいれば家庭環境や辛かったことなどもわかって情も湧いてくる。それを覚えてなければ客ではなくなるから正確に覚える。つらい、つらい、こんなにつらい、あなたのためにつらい思いをしてるんだよ、わたしを助けて、というサインを黙殺して、自分が生きるために女の人生を搾取する。
「俺はこんな酷いことをした」「俺なんてこんな酷いことをしたよ」というのが武勇伝のように語られる。武勇伝のようでいて、ストレスを発散している。客がクズだからだ。俺たちがこんな酷いことをするのは客がクズだからである。金はその対価だ。ありがたく思え。どうして俺が悪いと言われなければならないんだ。俺は救ってやってるんだぞ。
どれだけ言葉を取り繕っても現実は変わらない。「本当は好きじゃないんでしょ」と言う言葉に「好きだって言ってんだろ!!!」というキレ気味の言葉で返す。自分でも本当はどうなのかわからない。生活のすべては女のために尽くすためだけに存在することになる。月曜日はこいつ、火曜日はこいつ、水曜の午前はこいつ、水曜の夜はこいつ、木曜はこいつ、金曜はこいつ、土曜はこいつ、日曜はこいつ……
誰がどうなっているか覚えなければならない。間違えることはできない。絶えず監視されている。メモる。しかしメモも見られる。携帯は必ず漁られる。女はずっと自分が本当に愛されているかどうか不安なのである。女は女で「私が一番愛されてる」と言う。私が一番彼のことをわかっていると言う。誰も本当のところはそのホストをわかってはいない。ホストはただの集金マシンで、客は金蔓である。旬も短い。若さを搾取されている。生きるために仕方なくやっている。ホストは、ホスト自身が幸せになるためにやっているのだ。女を幸せにするためではない。女性不信になる。まともな恋愛をしようとしても、ホストのテクニックがちらつく。こうすればなびくというのがわかる。モテようと思えばモテるが、真にモテているわけではなく、ただ言い寄って来られ、無尽蔵の愛を要求されているだけだ。そんなものはない。
胃も壊れる。酒ばかり飲むからだ。酒は、飲まなければいけない。客が高い金を出して買った酒だ。こぼせば最悪になる。
キラキラした世界ではない。順位を上げるために売掛金とかいうのを作る。要はあとで自腹を切るということだ。ナンバーワンなどになると箔がつく。「ナンバーワン出して」という、ナンバーワンばかり狩る女がいるからだ。こういう女は金を持っていることが多い。痛客ほど金を持っている。初回なのに意味不明に酔っ払った状態で来るガキほど、意味不明に風俗で働いて精神状態がマッハになっていることがある。
俺は性病は2回なった。店に来る女だけじゃなく、自分で開拓しなければいけない。死ぬほどヤッた。ナンパしてそのまま路上でヤるとか、ナンパしてネカフェに行ってヤるとか、声掛けしていけそうだと思ったらキスするとか、そういうことを別にやっても問題ないような感覚になってくる。自分でもなぜモテていたかわからないが、とにかく俺はモテるのだという謎の自信があった。一般人になった今は誰にも言っていない。ホストをやっていたことすら伝えない。
金を多く得ている人々は、風俗に行かせることに慣れていた。風俗に行かせるのは「風俗に行ってくれ」と言うわけではない。ホストが困っているのを暗に示す。だんだん気軽に会えなくなってくるのだ。これはわざとやっている。それでもホストは必死に "時間を作って" 会いに来てくれる。ホストは「ほんとごめんね…会いたかった……」と言う。女は寂しくなる。ホストはそうやって頑張って会いに来てくれるのだから、少しならお店に行ってもいいかなと会いに行く。「来ちゃった」と言う言葉に、ホストは「ごめんね。 "ありがとう"。でも無理はしないでね」と言う。これは "無理をしろ" という意味だ。客は、店に行ってもお金を払わなければまともに相手をされない。そして別の女がシャンパンを頼む。「◯◯さんからシャンパンいただきましたー!!!」などと言われコールが始まる。そうすると担当がそちらの客のところに行く。
「あいつか。あいつが苦しめているのか…!!!!!! 私の彼を苦しめているのはあいつか!!!!!!!!!」
そして金を作らなければならないと思い始める。客は最初は風俗に行くことなど考えない。一生懸命働く。足りなくなる。貯金も底をつく。風俗ぐらいしかないと考え始める。冗談めかせてホストに言うのだ。「お店にあんまりいけないし風俗に行こうかなー……なんて」と。ホストは怒り狂う。「お金は確かに助かるけど、風俗になんていかなくていい!!!ごめんね…俺がちゃんと会いにこれれば…」と。これは "風俗に行け" という意味だ。
だんだん本当に会えなくなっていく。私の彼が、苦しめているあの女のものになっていきそうに感じる。風俗に行く。しかしひとたび風俗に行けば、もう取り返しがつかない。
「なんのために私は風俗にまで行ったのか」
あとはひたすらコンコルド効果である。金を貢げば貢ぐほど、あとに引けなくなる。誰に何を言われようが辞めることはできない。もう「辞めなよそんなホストなんて」という友人の言葉は耳に入らない。むしろ友人は敵になる。「この有象無象らは私のことを理解してはくれない。どれだけ私が苦しんでいるのかわかっていない」となる。もはや愛がほしいのではない。意地である。止められない。ホストもホストで、止められない。
ホストは客に別の客の悪口を言う。「愛してる」と言ったその次の日に「まじであのブスのせいで最悪」などと別の女に愚痴り、その女にも「愛してる」と言う。それを全員にやる。「俺は苦しめられているのだ」と思っている。事実苦しんでいる。女は「私と一緒にいるときぐらい休んでなよ」と言う。これは決して「休んでいい」という意味ではない。いい女・優しい女でありたいのだ。ホストは「いや、せっかく会えたんだから一緒にいたいよ」と言う。「休ませろ」という意味だ。こういうやり取りが限界まで続き、「私のためにこんなに無理してくれるなんて、私は本当に "愛されている" んだなあ」ということを実感する。そして携帯を確認するのだ。無尽蔵の愛を要求し、確認する。
タダで女を獲得するのは比較的容易だ。しかしお金が絡むと段違いに難しくなる。実証するには、彼女に「ほしいものがあるから5万円ちょうだい」などと要求してみればよい。相当な抵抗をされる。「なんでそんなことをしなければいけないの」「はあ?結局金目的ってこと?」というようになる。お金で買えるすべてのものがライバルになる。セックスというのは安いものだ。
こんな状態で大量に稼げるホストというのはどこか割り切っている。客の人生を抱える気でもいる。どちらかといえば嫌ってほしいのだ。ホストは辞めておけ。愛がわからなくなる。そして、クズの仕事である。
約半年前、結婚後初めてホストクラブに行き、2度と行くかと思ったのにまた行ってしまった。記憶の整理のために書き残す。
※前回の増田(anond:20221109192213)を読まなくても分かるように書いたが読んだ方がより楽しめると思う。なお、話自体は前回の方が起伏があり、今回の話はさほど面白くない。
TL;DR
【あらすじ】約半年前、YouTubeでガワが超タイプのホストを見つけ会いに行った。ホストクラブ自体は楽しめたが指名したホストはかなり押しが強く逆に萎え、閉店後のデートでキスされて気持ち悪かった。LINEをブロックして2度とホストクラブに行くまいと誓ったが、わりとあっさり誓いを破り今に至る。
【忙しい人のために】支払い総額は店頭約26万+配信時の投げ銭約12万円。お店では、「前回酔いすぎて色々やらかしてごめんね」と謝ってもらい気が済んだ。高額の酒を入れてシャンパンコール(=マイクパフォーマンス)をしてもらい、まあまあ楽しい時間を過ごした。担当(=指名しているホスト)は今回は酔いが浅くそこそこ紳士的な態度で、閉店とともにタクシーに乗せられて宿に戻った。全体的にあっさりした接客でほっとした。
【スペック】結婚10年目、子なしだが夫と仲は良い、アラフォー、普通体型、不美人、田舎在住、オンラインその他で小銭を稼いでいる。性欲はあまりないがときめき欲? はある。
【本文】ある日東京へ用事を済ませた後、ホストクラブへ行った。二回目の来店だが、担当との連絡自体は数ヶ月前から取り合っている。
前回の来店では、担当からのボディータッチが多く逆に萎え、アフター(=閉店後のデート)で色々と罵られ、別れた後すぐLINEをブロックした。しかし来店翌日に帰ったためか非現実的な気分を引きずり、空腹なのに胸がいっぱいで何も食べられず、体重が減るなどの影響があった(もう戻った)。
前回の来店から約1か月後、もしかしたら連絡が来たりするのだろうかと思ってついLINEのブロックを解除したら、暫くして「今年指名してくれてありがとう、次東京来たら一緒に(店で)飲もう」とLINEが来たので「はいぜひ反省会しましょう」と返信し、そこからやりとりをするようになった。頻度は、1日数往復の時もあれば3日くらい空けることもある。
そのうち担当は集客等のため、SNSの投稿やライブ配信をするようになった。投げ銭もできるので、折を見て何度か投げた。初めて5桁の投げ銭をした時は緊張したし、担当からも感謝のLINEが来たりしたが、それが何度かあるとお互い慣れてきて担当からの感謝LINEも来たり来なかったりした。初めは腹が立ったが、だんだん「そんなものか」「じゃあ店行く時にお金使ったほうがいいな」と店に行く日を決めてからはあまり投げなくなった。
高額の投げ銭をした時は自分の気持ちに折り合いをつけるためLINEで「ボイスメッセージをください」とか「実は先日誕生日だったのでお祝いメッセージ動画をください」などといった要望を伝えて叶えて貰った。手数料込みで合計12万の投げ銭をしたが後悔はない。
そのようにして約半年過ごした後、東京での用事を済ませ漸く来店した。今回はいわゆるシャンパンコールをしたかったので、軍資金として独身時代の貯金から30万円用意した。担当やヘルプ(=担当以外に席についてくれるホスト)に思い出してもらいやすいよう、前回とだいたい似たような格好で店に足を踏み入れた。久しぶりすぎたためか、初めて行った時以上に緊張し、ずっと震えが止まらなかった。
自分と担当にホットウーロン茶、ヘルプに発泡酒を注文、それから配信で知った別のホストを場内指名(=その日に優先的に席についてもらうこと。4000円くらいかかる)する。注文内容を確認されているところに担当が「久しぶり!」と登場。思わず立ち上がって「[担当]さん、本当にお久しゅう……」などとキモいセリフを発しお辞儀すると担当は笑って、2人で席についた。相変わらず距離は近く、膝の先を触れ合わせてきて少しドキドキするが、2回目だからか前回のように脳内麻薬が過剰分泌されるような感覚はない。「ねえ痩せた?」「えっどうかな、変わらないかも」「そう? 俺太ったわ〜スーツのベストがやばい」みたいな会話から入り、そのまま担当の本日のスーツの話になる。当日の夕方に「SNSに投稿していたあのスーツを着てきてほしい」という要望を予め伝えていた。
注文した飲み物が来て、若手ヘルプを交えて乾杯する。持ち込んだ地元のお土産と、花粉症で喉がやられていると言っていたので予め買っておいた龍角散ダイレクト(タブレット)を渡す。担当は「ありがとう〜」と早速龍角散ダイレクトを開封し、「ねえこれコンドームみたいじゃね?」といきなり下ネタを発していた。
場内指名したホストも「初めまして!」とやって来る。彼の配信でもコメントしていたので、「実は私、[ハンドルネーム]です……」「えっ!? あの伝説の!? [インドアな趣味]が好きって言ってましたよね!」「で、伝説!? 私何か悪いことしましたか!?」といった会話で盛り上がる。店はまだ空いていたが、担当は「お土産置いて来るね」と言って一度席を外す。
ホストはヘルプ周りと言って、指名客がいても他の卓のヘルプをお互いにする必要があるため、担当やヘルプ達は席を外したり戻ったりと慌しかった。担当がずっと席にいたほうが顧客満足度は上がりそうだが、担当への愚痴など担当には言えない情報の共有、担当から言うと角の立つ煽り(=より高額の酒を入れるよう促すこと)、常連客だと話す内容がなくなってくるなどの対策なのだと思われる。
若手ヘルプも何回か入れ替わったが、前回もついたヘルプからは、「前は日本酒飲んでましたよね」「半年前なのによく覚えてますね」「日本酒あまり出ないからね」といった話をした。ヘルプや場内指名ホストが入れ替わるように席を外したり戻ったりする間、幹部(=売れっ子ホスト)も少し席に着く。幹部は若手より話し方がフランクなのだが、距離感の取り方がうまく初めから仲が良い友達のような感覚になり、さすが売れっ子だなと思った。「前回は[担当]さんがすごく酔っちゃって……でも、絶対ノンアルは飲まれなかったんですよ」「あ〜男ってほんとバカだからね! 酒強い方がかっこいいみたいな価値観なんだよね〜」云々……会話自体に特筆すべきことはないが、豪華な内装、美麗な顔をしたホストたち、ハイブランドなスーツや私服、彼らの香水のいい匂い……等々に囲まれていることで、なんだかとても特別な時間を過ごしているような錯覚に陥る。ヘルプや場内指名ホストは「服が素敵ですね」「落ち着いてて品がありますね」「ホットウーロン茶飲んでるのカッコいいですね」等々、座って息をしているだけなのに褒めを浴びせてくるので自己肯定感が上がる。
担当には予めLINEで話していたのだが、『担当のマイソムリエナイフを使っているところが見たい』『担当本人にコールしてほしい(※通常シャンパンコールは担当でないホストがする)』ため、シャンパンではなくワインでコールをしたいと言うと、ワインあまり出ないから値段確認してもらうね、とのこと。予算は全部で20万だけど多少超えても大丈夫、と伝えた。
ヘルプ達が席を外したので前回の反省会をする。前回は終わり頃に日本酒を入れたが、「あれは俺のエゴだったよね、すごく酔っ払ったし」「そうそうアフターで何度も罵られましたしね」「www 罵ったってヤバいねwww」「ウザいって10回は言われましたよ」「笑うwww ……その節は大変申し訳ございませんでした」というような会話をして担当に深々と頭を下げられた。この時に、LINEをしばらくブロックしていた時期があったことや、前回担当が自分のグラスに入った酒を私の空いたグラスに注いだことなども話す。担当はそうだったんだねごめんねと素直に謝ってくる。前回の禍根をだいたい吐き出してすっきりし、気が済む。店に来ていない期間に担当は名刺を2回更新したので2枚の名刺を貰う。
ワインの値段確認にやたらと時間がかかり、仕方ないので発泡酒を何度か、あとは自分のチェイサーがわりのジャスミン茶を注文。「まだ[私の名前]ちゃんお茶しか飲んでないよね」「炭酸が苦手だから酎ハイとかあまり飲みたくなくて……」みたいな会話をしたり、あとは地元の方言の話だとか、店の他のホストのYouTubeチャンネルを見てるかという話など、他愛もない話をして時間を過ごす。なかなか酒の値段が確認できず、「時間かかるなら(値段のはっきりしている)シャンパンにしようか?」と提案すると「いや大丈夫、だって俺がワイン開けてるところ見たいから注文してくれたんでしょ? 待たせてごめんね」と言われる。こういうやりとりは地味に嬉しい。田舎暮らしで会話に飢えてるせいかもしれない。
内勤に呼ばれた担当がまた席を外すと、目の覚めるような美丈夫な若手ホストと場内指名ホストが入れ替わりで席に着いた。前回も今回もホスト達の席の入れ替わりで数分間席に1人になることが何回かあったのだが、前回はヘルプは1人だけだったので、会計が高額になると待遇がよくなるのかなと思った。さっき少し席に着いた幹部がやってきて話に加わり、そして漸く担当とワイン2本がやってきた。『小計』と呼ばれるメニュー上の税別表記では9万円の赤ワインと4万円の白ワインだが、消費税10%とTAXという名目の法外なサービス料約40%を入れた『総計』だと2本で20万円近くする。
担当がマイソムリエナイフで白ワインを無事開栓すると「記念に持って帰りなよ」と抜いたばかりのコルクをテーブルに置く。手に取って聞くといい香りがする。コルクを鞄にしまう。グラスが人数分やってきて乾杯する。グラスメーカーの話やワインの話などで盛り上がったところで担当はまた席を外してヘルプ周りへ。視界に入るところにいるので気にはなるのだが、前回と違って被り(=同じ担当の指名客)ではないのと、幹部を含めたヘルプが自分の席にいるのでそれほど不満はない。が、一度こういう体験をしてしまうと、次回以降使う金額を大幅に下げるのは難しいだろうなとは思った。
別の卓でシャンパンコールが始まりヘルプ達が席を外す。席に一人で暇なのでKindleを開くがコールがあまりにうるさいので1行も読めない。締めの音頭らしきものが流れて少しの間店内が無音になり、通常のBGMに戻ったところで席を外したヘルプ達や担当が戻ってくる。担当の手にはマイクが握られており、次は自分の席の番みたいだった(コールは入れたお酒の金額順に行われる)。
BGMが切り替わり、担当の入場曲的なBGMが流れる。自分のリクエストで担当にコールをお願いしているので、担当は私の隣に座ったまま乾杯の音頭のマイクパフォーマンスをする。ホスト達が10人くらい集まってきて合いの手を入れる。ヘルプは担当のiPhoneで私と担当の様子を撮影している。幹部がコールを続ける担当の隣に座り、白ワインが入ったグラスを私に手渡してきて乾杯し、そのまま一緒に白ワインを飲み干す。
マイクが渡されて当たり障りのない一言を述べると、担当のマイクの番になる。「姫様、(オフラインでは)明けましておめでとうございまーす!」という挨拶に続いて感謝の言葉を述べた後に「姫様、先日誕生日だと言ってましたので、ささやかながらご用意させていただきました」と述べて席に集まったホスト達に目線を交わすと、ホストの1人から美容系ブランドの紙袋を渡される。ホスト達からおめでとうと祝福を受け、締めの音頭に入ってシャンパンコールが終了する。
コール終了後、赤ワインも開封してもらい、そのコルクも鞄にしまう。この時点で23時をとうに過ぎていて終電で帰るのは絶望的である。プレゼントの紙袋の中には(相対的に)大きな包みと小さな包みが入っていて、小さな包みの方を開けるとマニキュアが入っていた。「これはノベルティーで貰ったやつなんだけど、使わないからあげる。本命はこっち(大きい方)ね!」「ではお宿に帰ったら開けますね」といった会話をする。また別の席でシャンパンコールがかかりヘルプや担当や幹部が行ったり戻ったりを繰り返したり、「[ホスト名]の素敵なお姫様より[超高額の酒名]頂きました〜!」という放送が何度か入ったりする。ホスト本人の希望などで高額の酒が入ってもシャンパンコールをしない場合があるらしい。すさまじい世界だ。
この時間帯なのに店はほぼ満席で、担当がヘルプ周りで席を外している間、自席のヘルプと海外旅行や海外移住、英語習得の話をしたり、内勤が伝票を持ってきて会計を済ませたりした。締めて25万9千円。法外な値段だが、非現実な空間にいるからなのか高いという実感があまりない。半年間の配信による投げ銭で金銭感覚が壊されているせいもあるかもしれない。
別の幹部がやってきて「お隣いいですか?」と言って座り(幹部なら担当でない姫の隣に座ってもいいらしい)、赤ワインを飲みつつ海外旅行や海外のマリンスポーツの話などをした。担当が再び戻ってきた時には赤ワインのボトルは空いていて、いつの間に空いたんだっけ? と少し驚く。
担当は席に残っていた発泡酒を氷で割ったものを飲みつつ、「写真撮って!」と言って自分のiPhoneを私に寄越し、空いたボトルを両手に持ってポーズを取る。私の撮影センスがないのか5回くらいリテイクを食らう。iPhoneを渡して担当が写真を確認する一瞬、女の人の名前の通話が来ていたのが見える。「次は2人で写真撮ろうよ!」と言って担当はヘルプにiPhoneを渡し、ボトルを1人1本ずつ持って身体を寄せ合い写真を撮る。自分のこめかみのあたりに担当の体温と香水のいい匂いが纏わりつく。前回のように変にべたべた触ってくることもなく、これくらいの方が適度にドキドキしつつも気楽でいいと思った。
残った発泡酒を飲みながら担当は親父ギャグのようなセリフを繰り出し、「こういう接客がよかったんでしょ?」と確認するように聞いてくる。「そう! YouTubeで見た時はそういう(友達同士のような)接客だと思ってたから、前回の時はもうゴリッゴリのホストっぽい接客されて、本当にびっくりしちゃって……」と、こちらも念押しのように言う。ひとしきり笑い合った後、「やっぱり目標としてはNo.1になりたい(だからもっと金出して)」「うーん、そっか、そうだよね(無理です)」という旨の話をした。半分以上担当の言葉を聞き流しながら、今回はずいぶんあっさりした接客だなと考えていた。前回はまだホストクラブはほぼ未知の世界だったしな、今日の接客が前回の接客だったらさぞ楽しかったろうにな、でもそうしたらほどほどの満足感を抱えて行きたい気持ちがフェードアウトしていたかもしれないから、きっと初来店の接客はあれくらい激しくて正解だったのかもしれないな、現に今日私はここに来ているのだし……なら今後は? 私は何を求めてここにいるのだっけ? ……というようなことをひたすら考えていた。気がついたら蛍の光が流れていて、店内放送で今日の売り上げNO.1のホストの名前が挙げられていた。アフターも誘われなさそうだし帰ろう、と思い「もう帰るね」と伝える。担当は「今日はほんとにありがとね!」と言って私の鞄とプレゼントの紙袋を持ちエレベーターまでエスコートする。エレベーターに一緒に乗り、はじめ誤って上の階に行ってしまうが再び扉が閉まって下降する。驚いた顔をしていたのでどうしたのと聞くと「さっき扉開いた時になんかホストが客のおっぱい揉んでたのが見えた!」と言っていて、何というか、色んな意味で素直な人なんだなと思った。
店の外に出て担当にエスコートされるままタクシーに乗る。担当は「ホテル着いたらLINEちょうだい!」と言って手を振る。タクシーは慣れたようにスムーズに出発し、担当から、お店の入ったビルから、繁華街から、速やかに離れてゆく。
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宿に着いた時は深夜1時少し過ぎだった。鞄の中からコルク2つと名刺2枚を取り出してゴミ箱に捨てる。さすがに空腹だったので、頂き物のお菓子を食べつつ冷蔵庫に残っていた水を飲み、空けていなかったほうのプレゼントの包みを開封する。包みの中にはヘアミストが入っていた。そちらは捨てずにマニキュアや紙袋や包装紙ごとスーツケースの中に入れる。
担当にLINEでプレゼントのお礼を述べ、ランドリーに行き洗濯物を放り込む。洗濯機が稼働している間に部屋に戻ってシャワーをざっと浴びる。部屋を片付けていると担当からお礼の言葉と共に今日の写真やシャンパンコールの動画が来る。洗い終わった洗濯物を取りに行ったり浴室に干したり返事をしたりして、眠いのか眠くないのかよくわからない身体と心をベッドに沈めて無理やり寝た。
再び目覚めたのは朝の6時すぎで明らかに寝不足だったが眠れそうにもなかったので、瑣末な用事と作業でひたすら時間を埋め、身体を動かし続けた。その間も担当とスローテンポなLINEのラリーを続けていて、何とも形容しがたい充足感のような何かを抱えながら帰りの交通機関に乗った。
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今回は前回と違ってあっさりした接客だったからか心を乱されることもなく、楽しかったという思い出だけが残った。このまま担当が態度を変えず、こちらも変な見栄を張らず、同じ接客、同じ価格帯、同じ頻度で通えるのなら、飽きるまで通うのもいいかな、と考えている。なお、夫への罪悪感は悲しくなるほどない。
また店に行ったらレポートしようと思う。できればそんな日が二度と来ないことをもう一度強く願ってはいるけれど、たぶん無理だ。だからせめて自分の心が乱れないことを切実に祈っている。
10代女子がメン地下とかコンカフェの男に水商売やパパ活をして貢ぐ危険性が最近取り上げられてるけど、貢ぐ先として、推しのコスプレイヤー(男装)もあって、こちらもなかなかえげつないのも知られてほしい
未成年に限らないし、こっちは流石に水商売の紹介とかまではしてないとは思うんだけど、生誕イベとか1日コンカフェみたいなのでメニューに数万のシャンパンがあったりまぁ好きで払ってるんだろうけども、好意を利用する形で、特に未成年に大金を使わせる大人って側から見たらふつうにやばいはずなのに、同じ界隈で表立ってそんなこと言う人いないんだよな
当たり前にほしい物リストにそこそこな値段のもの追加して公開したりとかも、送らなきゃ良いだけではあるんだがそもそもそれを公開すること自体なんか……何?と思ってしまう
そこの学生君!年収100万なら贅沢で優雅な暮らしをしていると勘違いしていないか?
今日はそんな誤ったイメージを正し、実際にどれくらいの生活レベルか教えよう。
36歳男、独身、関西田舎在住、年収100万ほど。100万と120万ではだいぶ変わるのでこれは誤差じゃない。
なおマウンティングなどと言われるかもしれないが、そんなつもりは全く無く、
家賃は1万、3DK、破棄された古民家をリフォーム。別に広くもない普通のボロ家。
古民家がある地域の治安はたまにヤンキーが多いが、部屋自体はボロい。
窓から綺麗な田園風景が見れるとかも無い。クーラーとかももちろん無い。
自家栽培の野菜と実家から送られてくる玄米、蕎麦など。ザ・肉がなつかしい。
安いスーパーの売れ残った激安弁当とかは買えないが、それ意外は普通。
さすがに学生価格帯の居酒屋は行かないし居酒屋自体に行けない。
ワイワイ飲む時は自宅で500円くらい。
たまにスーパー総菜などで一人あたり800円を超えると、
その代わり行った店では値段を気にしまくりながら飲む。
自宅で安いウイスキーやワインを飲むようなことがすべてである。
800円のワイン買ったら奮発したな、という程度。
でも88円の1カップ焼酎と98円のチューハイを悩まず買うくらいで、
豪勢な生活と呼ぶには程遠い。
しまむら。
「カネ目当ての女性がやってくる」というのは婚活パーティーとかだけの話で、普段は全くそんなことはない。
モテないということはあるが、よりどりみどり選べるなどと言うことも全く無い。
さすがに年収100万程度でこれをイメージしている人は少ないと思うが、
女性との飲食代はすべて女性持ち。価格帯は色々で、タコ焼き屋行くこともあれば180円居酒屋に行くこともある。
というわけであまりに普通すぎて、やま無しオチ無しになってしまった。
普通というと「もっと貧しい人がたくさんいる、わかってない」と言われそうだが、
学生が抱いているような豪華なイメージとは程遠いということをお伝えしたかったのです。
昨日さ、アニメジャパンに行ってきたんだよね。
アニメジャパンっていうのは年一で開かれてる日本一デカいアニメの展示会。
業界各社がブース作って展示したりグッズ売ったり声優のトークショーしたりしてんの。
朝一のビッグサイト、霧雨に包まれながら、ゾロゾロと並んで、強風に吹き付けられて。
過酷な状況を耐え忍んだわけだけど、実はそのアニメ、来期始まる春アニメで、告知・宣伝しまくってるんだけど全然話題になってない。言葉悪いけど空気アニメ。
だから朝早くから並ぶ必要なかったかも。実際ステージ始まる直前になってもスカスカだった。
で、そのステージは5人の声優がアニメの内容を紹介するというものだったんだよね。
それが割と虚無で、まあ番宣イベントに面白さを期待するのが無理あるし、声優さんはしゃべりのプロじゃないし、5人とも新人だしでまあ無理がある。
で、本題はここからで。
そのステージイベントが終わってしまったので、どうしようかなーやることないなーでもせっかく来たんだから何か他にも面白いものないかなーと思いながらブラブラしてたのね。
一通り展示を見ながら、そういやそのアニメのノベルティ配ってるって告知されてたなと思い出して。
それをもらえるブースにいってみたわけ。
高さ10mくらいの巨大ガシャポンがあってさ。タダで回せて、景品がもらえる。それの一番スカな賞がそのアニメのノベルティで。
すんげー人が並んでたの。ガシャポンの周りを蛇がとぐろを巻くようにグルグルうねうね縦横無尽に並んでた。
ステージはスカスカだったのにここは大盛況だな、なんて思いながら俺も並んだわけ。
そしたらさ、俺が並んだ数人先に、さっき登壇してた声優さんがおるやんけ。
おるやんけ。
え?そんな普通に並んでんの?ステージ衣装と同じ格好じゃん。上着羽織ってるけどそれ以外まんまじゃん。
列がうねうねしてるからさ、場所によっては手を伸ばせば届くような距離まで近づくこともあって。
ずっとスマホいじってて、多分エゴサしてて、さっきのステージとかイベント諸々の反応とか話してたっぽい。
決して聞き耳を立ててたわけでもないけど50㎝の距離で話してたら聞こえちゃうこともある。
なんかヤバい興奮した。ファンでもないのに。いやだって、まだファンになれるほど詳しく知らないし、アニメまだ始まってないし。
でもなってしまいそう。ファンになってしまいそう。こわい。いい年して声優の追っかけを始めてしまったら人生すぐに過ぎ去ってしまう。
さっき調べたらアニメジャパンではわりと声優がそこら辺をウロウロしてるらしい。
普通の人だったら、芸能人だったり、Youtuberだったりがウロウロしてたら、すぐに声かけて、あっという間に黒山の人だかりができて、収集つかなくなるよ。
まだファンでもないのに、さっきのステージ見てました!応援してます!とか声かけたいなと一瞬でも思ってしまった自分が恥ずかしくなったよ。
余談だけどアニメジャパンのブース、見ごたえあるものが増えた気がする。
ステージの方も声優に喋らせるだけじゃなくて、プロレスやったり、シャンパンコールやったり、スタチューパフォーマンスやったり、バラエティに富んでる気がする。
あと客層変わった?外国人がいっぱいいた。ファミリーが結構いた。
6年ぶり二度目なので最近はずっとそうだったのかもしれないけど。
前来たときはチー牛6割腐女子3割レイヤー1割だったような記憶。
今もメインはチー牛だけど他の層が増えて相対的に薄まった、ような気が。
ほろ酔いでガチ酔いどころか嘔吐する。いやほろ酔いは飲んだことないんだけど、ビール一缶でそうなる。ちゃんとつまみも合わせてても、フラついて頭痛くなる悪い酔い方する。吐いちゃうというよりは、もっと悪化する前に手突っ込んで吐くんだけど。それでスッキリする。
弱いというか、飲めないと言って良い部類なんだと思う。アルコールの味も好きじゃないし。ガキの頃飲んでまっずと思ったのと全く同じ感想を今でも抱く。よく言われるフルーティーって表現も訳分からん。セブンスターを甘いと言うようなもんなのか。
上善如水とか、水みたいとか言われるようなのも飲んでみたけど、普通にダメだった。大嘘をつくな。水みたいなのが良いなら水飲めよ。
人生の楽しみの選択肢が一つ少ないのは諦めたけど、付き合い程度には飲めた方が良いんだろうなって思う。結婚式でシャンパン出された時も顔真っ赤になって気持ち悪くなっちゃったし。こんなんでも継続的に飲んでれば多少は慣れるものなのだろうか。肝臓は鍛えられないとか言うけどそれは別に良くて、気持ち悪くならない程度になれたら良いのだけど。
男の人のメンタリティはわからないんだけど「この女は金を払えばヤレる(性欲を発散させてもらえる)女だ」って言う人を求めて風俗に行くんだとしたら、その上で高いシャンパンを入れる男の人ってそんなにいない気がする
はてブの方の人気エントリに時期外れな「うなぎ断ち」の記事が上がっていた。
うなぎ断ちとその背景にあるうなぎの絶滅危機や漁獲量の話になると、大抵、水産庁の管理が甘さや流通ルートに関わる反社、そしてなにより無駄に大量に仕入れて安く売りさばくスーパーや外食チェーンへの批判になる。
それで強めに主張する人は、もっと流通を締め上げて、薄利多売の小売や外食では取り扱えなくして、専門店に供給を絞るべきという風に主張をする。
この考えはうなぎの保護という観点ではまあ基本的に正論だと思うよ。
正しく水産資源管理がなされて、その状態で市場原理が働けば必然そういう風になるし、そうあるべきなのだろう。
でも俺はそれが正しいと認めた上で、この考えが反吐が出るほど嫌いだ。
結局これって、ちょっとお高い専門店で食える上流共は「うなぎを食べられない」という不利益を小金で回避して、そうでない庶民だけがうなぎを取りあげられることになるわけじゃねぇか。
俯瞰的な「正しさ」のために下々ばかりが犠牲を強いられる、あまりにも典型的なバラモン左翼仕草だ。
俺はそれが気に入らねぇ。
別に個人でうなぎ断ちする分にはどうぞご勝手にだが、それを少しでも押し付けてきたり、上から目線で啓蒙とかほざいてくるなら、そこから先はもう正しさとは別軸の階級闘争だよ馬鹿野郎、って気持ちになる。
それでも、うなぎの保護が大事だってんなら、バラモン様も一切捕らない一切食わないくらいの覚悟を見せてほしいね。
いや、実際に一切捕らなかったらそれはそれで別問題が起きそうだけど。
あんまり下に合わせてなんでも規制規制って考え方は好きじゃないけど、正しさを謳うならそのくらいの姿勢を見せろやって話だ。
(俺はうなぎ好きでもないからそれで全然構わないわ、って人もたくさんいるだろうけど)
【追記】
俺の知識不足で、はてなでしばしば見る「バラモン左翼」というワードを使ってしまったが、「ゴーシュキャビア」とか似た感じの表現が色々あるんだね。
「リムジンリベラル」とか「シャンパン社会主義」とか調べたら出るわ出るわ。
「シャンパン社会主義」はWikipediaの記事まであって、そこに「世田谷自然左翼」も書かれててワロタ。
この手の他人に負担を強いて自分達は正義に酔う傲慢なクソ野郎共が、こうやって地域や時代を問わず正しく嫌われて、侮蔑の名付けをされているという事実はそれだけで少しだけ胸がすく思いがするな。
あと、それ左翼か? みたいなコメントもあったけど、侮蔑的なニュアンスのスラングとしての「バラモン左翼」って言葉で言い表される奴等は、正義を振りかざして気持ち良くなれれば本来の左派としての在り方とか無視できる一貫性のないクズ共だと思ってるんで、本当にそれが左派かはあまり気にしてなかったわ。
あと、ブコメにあった
庶民にも食わせろというのが左翼っぽいというのはなるほどと思う一方で、近年は左翼の方が全体最適を唱え、ウルセー好きにさせろ!なタイプが右翼に行く傾向もあるか
に同意。
この世にありふれている悲劇とわかっている出来事でも、いざ自分の身に降りかかると、気持ちの整理に時間がかかるもので。
先日、自分が推していたコンカフェキャストが卒業した。コンカフェというものに初めて訪れて、初対面で気に入ったキャストだったので、今後その娘以上に特別な存在は現れないだろうと思えるほど、素敵なキャストだった。自分にとってのコンカフェとは、その娘のいる空間のことだった。
喪失の悲しみと向き合うために、今の自分の感情を整理する必要があると思い、コンカフェに通う中であった悲喜交々を文章としてアウトプットすることにした。取るにたらないオタクの身辺雑記でしかないが、今コンカフェに推しがいるヒト、推しの卒業が迫っているヒトにとっての一つの導になれば良いなと思う。
元々コンカフェというものに興味があって、職場の同僚と飲んだ後に、「一度寄ってみたいんだ」と誘い、とりあえず最寄りの評価が高そうな店を訪れたのがきっかけだった。前提知識がない状態で入店し、そこでたくさんお話をしてくれたのが推しだった。
推しの魅力はなんといっても人間離れした美しい顔立ちとプロポーション、そしてコンカフェ嬢らしからぬ素朴さにあるのだが、これは万の言葉を尽くしても伝え切れるものではないので置いておく。
推しと出会ってから卒業までの1年と数ヶ月、ほとんど欠かすことなく通い続け、多い時では週に4〜5回行っていたこともあった。店が帰路の途上にあるのでアクセスが良く、推しの出勤日は帰宅時に必ず寄るようにしていた。
仕事の疲れや日々の嫌気は、推しと接することで解消され、明日への活力になった。推しと出会ってから仕事のパフォーマンスも向上した実感がある。職場でも、コンカフェに通っていてこんなに可愛い推しがいるんだと喧伝していたので、良いイジられのネタにもなって、コミュニケーションも活性化した。「今日は推しの出勤日なので」といえば、残業も切り上げられ、飲みに誘われることもなかった。コンカフェに通っている間は、私生活にも良い影響が多分に出ていて、「推しは精神安定剤」とはよく言ったものだと実感した。
それくらい、自分の日常の中に推しは溶け込み、なくてはならない存在になっていた。一年という期間は、推し活としては恐らく長いものではないのだろうが、ヒト一人の生活を変えるには充分な期間といえる。
推しのおかげで、自分の人生は間違いなく好転した。そのことについては、ただただ感謝したい。
ここからは少し愚痴っぽい話になる。推しは素晴らしいという前提は当然のものとして、コンカフェというシステム上、どうしてもつきまとう歯痒さというものがあって、これはいくらか共感を得られるのではなかろうかと思っている。
前述の通り、自分は推しの出勤日には必ず店に行くようにしていて、所謂全通オタク状態だった。滞在時間も大体2時間程度で、顔出しだけして帰るということは極力ないようにしていた。それは推しへの目配せとかではなく、単純に自分が少しでも長く多く、推しを見ていたかっただけだから、必然そうなってしまったのだ。
自分の知る限り、他に全通している推しのオタクはいなかったように思う。他のキャストからも「推しちゃんのお客さんと言えば貴方ですよね」という話をされて、嬉しかった記憶がある。店自体が、あまり単価の安いところではないので、足繁く通うことにたしかに抵抗はあったのだが、それを差し置いてでも通いたくなるほど、推しは魅力的だった。
しかし、会う頻度が高いほど、話す時間が長いほど、注ぎ込む金額が多いほど、推しの中での自分の存在は希釈されていく。これが避けようのないジレンマだった。
毎日顔を見る人間と、月に一度しか会わない人間、どちらとの時間を優先するかと言われると、それは後者だろう。1ヶ月ぶりにコンカフェに行ったのに、常連ばかりを相手にして自分は放置となれば、店や推しに愛想を尽かされてしまう。なので、毎日居て、いつでも話ができる自分のような存在はどうしても後回しになってしまう。
推しは客に対して非常にフラットな接し方をするタイプで、誰か一人を贔屓することはなかった。自分に会いに来る客は皆等しく対応し、新規の客にも積極的にアプローチしていた。これは自分が都合のいい解釈をしているだけで、ただ単に相手をするのが厄介だから干されていたという可能性も決してなくはないのだが、それを想定するのはあまりにも辛いので、見えないふりをしておく。
ともかく、通えば通うほど推しからの優先度が上がるというわけでもないので、実のところ、金額に対する満足感というのは求めるべくもなかった。他に全く客がいない、あるいは他キャストの担当しかいない状況であれば、推しと長く話すことはできたが、そうでない場合は、推しが自分のところにいてくれた時間というのは、決して長くはなかった。
それを不満と思うのであれば、コンカフェという、キャストにある程度接客の裁量が委ねられている業態の店に行くべきではないので、不満ではないのだという自己欺瞞は絶やさずにいた。
言い得て妙な話だが、キャバクラやガールズバーはお金を払って女性にチヤホヤされに行くところだが、コンカフェはお金を払って女の子をチヤホヤしに行くところなのだ。そこに気付くと、自分の立場が俯瞰できる。そういう業態の店をわざわざ選んで行っているのだから、甘んじて受け入れるべきだ。そう自身に言い聞かせることで、ジレンマと向き合っていた。
そんな、迂遠な理屈を介してでも行きたくなるほどに、推しは魅力的だったのだ。
推しは学生なので、学業及び就職活動に専念するために卒業する、というのが名目だ。
最終日、自分はオープン前から店前に待機し、一番乗りで入店し、ラストまでの8時間店に居続けた。
店で最高額のシャンパンと推しのオリシャンを一本ずつ入れ、フラワースタンドも発注し、細やかな誕生日プレゼントを渡し、物販のグッズは全て買い占め、ランダムのアイテムも全てゲットした。結果的に冬のボーナスを全て注ぎ込んでも足りない程の会計となったが、最後の花火なので、後悔はない。
シャンパンを開ける時も、フラワースタンドが搬入された時も、推しは喜んでくれた。推しのコンカフェ人生の集大成に、多少の花が添えられたなら、これに勝る喜びない。
最終日の8時間の内、推しと会話ができた時間はおそらく30分にも満たなかった。対面で5分以上連続で話したタイミングは一度もなかった。
推しほどのポテンシャルがあるキャストの生誕卒なので、当然ながら店は盛況を極めた。推しは絶えず各席を回り、オタク達に別れを告げ、思い出話に花を咲かせ、これからの人生の展望を語っていた。
それを横目で追いながら、机上に増えていくグッズを眺めることしかできなかったことが、とても寂しかった。
ほんの10分程度でも積もり積もった思い出を語らう時間があれば、この寂しさを覚えることはなかっただろう、ということはきっとなく、ヒトの欲に際限はないので、10分あったならばもう5分、さらに5分と、より長い語らいを求めていただろう。なので、この寂しさは決して埋まることはなかったのだ。最終日を迎える時点で、抱えるべくして抱えた当然の帰結だった。
ただ、しかしただ、ほんの少しでも、この一年と少しの期間の思い出が報われる時間が欲しかったと思うのは、贅沢なのだろうか。推しのために誰よりもお金を使った。自分は高給取りではないので、決して平然と出せる金額ではなかった。当日も、誰よりもイベントを盛り上げるべく尽力したつもりだって。誰よりも推しと長い時間を過ごしてきた。そんな自分が、多少でも特別扱いを求めるのは、傲慢だったのか。
推しのオリシャンは、閉店1時間前に急遽下ろしたものだった。店長には「せめて、推しのコンカフェ人生最後のポンは、自分にさせて欲しい」と頼んだ。自分のオリシャンが空いた数分後に、別卓でも軽快な破裂音が鳴っていた。自分は、横に座っていた会社の同僚の肩を叩きながら、腹を抱えて笑った。周りにいたキャストが引き気味に目線を寄越すくらいには、大声で笑った。おかしくて仕方がなかった。
その後、店長が気を遣ってか、「一番最後に退店してもらうので、席に残っててください」と声をかけてくれた。
自分と、会社の同僚と、地元の友人の3人で店を出る間際、もうここしかタイミングがないと思い、「少しだけ語らせてほしい」と推しに声をかけた。とにかく何かしら思い出を語ろうと思ったが、酔いが回っていて、うまく言葉が出てこなかった。ヘラヘラ笑いながら「これからも頑張ってね」的なニュアンスを伝えた気がする。みっともない限りだった。
それで、終了だった。
こうして文章にしてみて、自分は結局最終日に構ってもらえなかったことが悔しかったという、それだけが言いたかったのだと気付いた。
お金と時間を費やせばそれだけ推しにとって特別な存在になれるのだと勘違いしていたその結果の醜態だった。
当然、そんなわけはない。コンカフェとは、支払った分の見返りを求めて通うところではないのだと、自分は最後の日まで気付くことが出来なかった。理屈としてはわかっているつもりだったが、その日まで実感を得ることができなかった。
あるいは自分がもっと、ヒトとして魅力があって、喋りも達者で、推しを楽しませることができる人間だったら結末は違っていたのだろうかと、詮無いことを考えてしまう。ただ座って会話もままならない状態で金だけ注ぎ込んでいたら、それは養分になって当然だ。
自分の非を治そうともせず、そんなところで延々愚痴を垂れ流すことしかできない下らない人間なのだから、相応の結果だったのだろう。
推しが居ない生活に戻って、自分はこれからどうなるのか、今はまだよくわからない。
願わくば、推しの今後の人生で、ほんの一瞬でも自分のことを思い出す時間があれば良いなと思う。それが少しでも良い思い出としてだったなら、多少は報われるだろうかと思う。
ちょっと聞いてくれ。
数年前のことだ。うちは日中~夜まで飲食店をやってるんだが、とあるお客さんがいた。今でも記憶にこびり付いている。話させてほしい。気持ちの整理をつけるためにも。お客さんの立場である増田民のあなたも感じることがあるかもしれない。
当時、とある田舎の一級河川沿いのエリアで食事メインのお店をやっていた。おでんに、蕎麦に、刺身に、唐揚げとかポテトサラダとか、野菜のお浸しとか、居酒屋に近い。コの字型のカウンターと、座敷がふたつだけある。
いつもは俺と、アルバイト(男2、女2)のうち最低1人が一緒に働いている。平日は暇なんだが、週末になると忙しい。北にある政令指定都市の方から、会社や学校帰りの人が流れてくる。
それで、店内が八割方埋まって、スーツ姿のリーマンとか、会社名入りの作業服を着てる人とか、数人連れの大学生とか専門学生でわいわいとした雰囲気になる。
うちの料金は安い。はっきりいって安い。鳥貴族に毛が生えた程度だ。元実家の土地でやってるからな。
そんな中で、ひときわ目立つお客さんがいた。最初に会ったのは平日の夜だった。その時間帯は、アルバイトの女子大生に接客を任せて追加分のおでんを仕込んでいた。
格子枠の扉をガラガラと開けて、その人が入ってきた。外身は白っぽい作業服だったかな。時期は初秋で、作業服の下にはシャツとネクタイが覗いていた。銀色のネクタイピンも。
「ん!?」と思って顔を見ると、アァと納得がいった。あなたも人生で何度か見たことがあるのではないか。圧倒的なオーラの持ち主を。その人の目を見ただけでわかった。
ぎらぎらとしているようで、どこかあどけない感じもして、しかし落ち着いている。只者じゃない。修羅の目だ。多くの物事と戦ってきたに違いない。人生の重みは表情に出る。
見た目は30過ぎかなと思ったが、こういうのに年齢は関係ない。繰り返すが、苦難の日々は顔に刻まれる。
アルバイトの女子大生(Nさん)が彼のところに向かっていた。見たことのない笑顔で「いらっしゃいませ」と言っている。屈託のない様子で「初めてですか?」とも。
当時、コロナは流行っていない。その人(S氏)は「どこに座ったらいいですか」と言ってたっけ。Nさんに「お好きな席にどうぞ」と言われて、俺がおでんの仕込みをしているカウンターの前に座った。ほかの客はほぼいなかったと記憶している。
唐突に会話が始まった。
「涼しくなってきましたね」からスタートして、好きなお酒から、好きなアテに、この周辺でおススメの居酒屋に、S氏の仕事の話など。盛り上がった記憶がある。暇な日だったのでNさんも会話に入っていた。ルンルン(死語)な気分でS氏と話をしていた。
やがて、S氏は自分とNさんにそれぞれ1杯おごって、約一時間ほどいて帰って行った。その時はいい人だなぁと思っていたけど、Nさんがいつまでも嬉しがっている様子を眺めていて、ちょっと思うところがあった。
その日の営業が終わって現金を数えている時も、Nさんは心なしか嬉しそうだった。気のせいかとも思ったけど、やはりそんな気がした。
「なあ、今日はうちに寄っていくか」とNさんに聞いたら、「朝から講義がある。ごめん」とだけ返ってきた。
Nさんとは付き合ってまだ半年で、気持ちが通いきっていないのもあった。何かに負けたような気がして悔しい思いがした。
実際、いいお客さんだった。小一時間もしないうちに帰るのだが、その間に最低でも三~四千円は落としてくれる。自分の酒肴以外にも、店員がいたらみんなにジュースやお酒をおごってくれる。
短い時間ではあったが、いろいろ話をして盛り上がったのを覚えている。店の十周年記念の時はシャンパンを空けてくれたっけな。
金持ってるだけじゃなくて、人柄もよかった。今でも思い出す。懐かしい記憶だ。
ある時だった。S氏が初めて来店して三ヶ月くらいか。夜九時頃の店内で、残業帰りのS氏と俺とNさんで話が盛り上がって、S氏のグラスが空いたところだった。「じゃあもう帰ります」ということで、クレジットカードを受け取った。それで、コの字のカウンター卓の奥でクレカを機械に読み込ませていた。
ふと声がして、お客さんの注文かなと思ってホールを見ると、S氏がNさんと携帯電話の番号を交換しているところだった。
「今度、ご飯行こうな」「はい!」という声が調理スペースの方まで響いてきた。そのタイミングで俺は、決済処理を終わらせてふたりのところに向かった。何事もなかったようにしてS氏は、Nさんからコートを着せてもらって入り口に向かった。
普段はスタッフに見送らせているのだが、俺も一緒に入り口へと向かった。S氏を見送ると、彼は歩いて自宅の方に向かった。姿が消えたのを確認した。
「電話番号、交換したんか」とNさんに聞くと、「うん。何度もしつこくって」という返答があった。ご飯、行くのか」と聞くと、「多分いかない」と返ってきた。
訝しい感じがして、でも問い詰めることもできずに、そのまま調理スペースに入ろうとしたところで、ほかのお客さんから注文の呼び出しがあった。
ここまで言ったらわかるだろ。ある程度は。
核心的なところを言うと、それから二ヶ月後だった。S氏とNさんが、お店からおよそ10km離れた政令市にある百貨店の休憩所で一緒にメシを食っているのを見た。ちょうど食べ終わるところだった。
ハンバーガーか、クレープか、たこ焼きか。よく見えなかったが、百貨店内のどこかでテイクアウトしたものだろう。Nさんは綺麗な恰好をしていた。華美ではないけど、暖かそうな秋冬用のワンピース風……あれはなんというのだろうか、女のファッションはわからない。
清潔感のある装いだった。茶色の小さい鞄を肩から下げている。どちらも、俺とのデートで付けているのを観たことはない。いや、鞄の方は多分ある。
それで、ふたりが立ち上がって、時計や宝石を売ってるエリアへと階段を降りて行ったところで、俺はそのまま地下街に向かった。当初の予定どおり、常連さんにサービスする用の特別な食材を買って帰った。
俺がNさんとデートする頻度は、2~3週間に一度だった。あの子は看護の大学に通っていたから忙しかったのもあるし、俺自身がお金を貯めている最中で金欠だったのもある。
セックスはしたりしなかったりだ。割合までは覚えていないが。あの光景を見てから、次にNさんと会ったのは二日後だった。あのワンピースみたいなのは着てなかった。簡素な恰好だ。部屋着というわけではないが。
あの百貨店の近くの河原町通りやアーケードを一緒に歩いて、食事をして、猫カフェに行って、映画を見て、近くにあるホテルに入った。
あの時の俺は必至だったと思う。いや、必死だった。「愛してる」とベッドの中で何度も言った。伝えた。本当は、叫んでいたかもしれない。Nさんもベッドの上でいろんな動きをしたり、いろんなことを言っていた。
でも、Nさんは行為の最中に特別な何かをするでもなく、普通の調子だった。普通のセックスだった。30分で終わった。いや、なんかもうわかっていた。そんな気がしていた。
「別れよう」と言われてはいなかったが、Nさんと会う頻度が落ちていった。次にデートするまでに一ヵ月以上かかることもあった。
S氏がお店に来る頻度も落ちていった。さすがに計測はしてないが。S氏は素直に凄い奴だと思っていた。いい大学を出てるし、いい会社で働いてるし、偉ぶったところもないし、自己中に感じることは稀にあったが、よくいえば決してブレない。
俺は高校を出てない。子どもの頃から勉強が嫌で嫌でしょうがなくて、それで進学から逃げて、17才の頃までは完全なるプー太郎で、親に叱咤激励されて伏見の小料理屋でアルバイトを始めて、滅茶苦茶に厳しい毎日で、それでも料理作るのが楽しくなっていって、中年に差し掛かった頃に両親が死んで、相続した土地と家屋を改装して今の店にした。長かった。
でも、やっぱり真の人格ってものがあるよな。S氏は、スタッフに飲み物をおごってくれなかった日は一度としてない。店員が男だろうが女だろうが、必ず一杯は出してくれた。俺はほかの店に飲みに行っても、可愛げのある女の子の店員にしかお酒は出さない。
S氏は、はっきりいって『上』の人だと思う。Nさんの件さえなければ。これで俺より五つ以上も年下なんだから笑えてくる。
そんなこんなで、半年も経つ頃には諦めがついた。ある日、お店でS氏と話していた。それで、ふいに聞かされてしまった。
「先日、Nさんのお父さんに会ったんですよ」
だってさ。キツイ。当時の俺にはキツかった。Nさんへのデートの打診を3回続けて断られていた。そういうことだったんだな。
俺の中で何かが切れた音がした。少年時代に読んでいた漫画(ジョジョだったと思う)で、「切れた。僕の中の大事なものが……」といった台詞があった。当時は、そんなわけねーだろと苦笑していたが、ジョナサンの気持ちがわかったかもしれなかった。本当に、心や体の『糸』が切れると、抵抗する気すら起きなくなる。ただ、沈んでいくだけ。
Nさんのことは諦めた。
それから二ヵ月くらいか。鬱々とした気持ちで過ごした。どうしようか。悔しい。畜生。どうすることもできない。でも、やっぱり悔しい。畜生だな、本当に。いや、くっそ。悔しいんだよ。でも、感じない。心がマヒしているみたいだ。本当は悔しいって思いたい。
俺の大事な女を取りやがって。くそ、くそ、くそ!! あいつさえ、あいつさえいなければ。畜生!! ○してやりたい。
暗い気分にさせてごめんよ。もうちょっとで終わる。あれは四年と少し前のことだ。初夏の頃だった。大きい台風が迫っていて、すごい雨だったな。うちの店はそれでも営業していた。開店当初から決まっているのだ。どんな雨風が来ても絶対に店を開けてやると。
そういう時にうちに来るのは、決まって大雨対応で疲れ切った近所の人か、ほかの店が閉まっているために流れてきた飲み客だったりする。
土曜日の深夜だった。S氏が疲れ切った様子で店に来た。スタッフはみんな上がらせていて、俺しか店に残っていない。彼は「いや、疲れましたよ。何時間か寝たら、また職場まで出発です~」といったことを告げて、メニューを手に取ろうとしていた。
「増田さん。外の雨、すごいですよ」
「ええ、すごいですね」
「二十年前もこんなんがあったんですよ」
「本当に? 自分、このへんの生まれじゃないんで詳しくなくて」
「大雨の対応って。樋門(※排水ゲートのようなもの)の面倒でもされてはるの?」
「そんなものです。そうだ、せっかくですから一緒に外に出てみませんか。ある意味記念です」
「ほな行ってみましょ」
そんな具合で、店から歩いて一分ほどのところにある鴨川(のさらに南の支流)のほとりまで来た。家屋と家屋の間に雑草だらけの小道が通っていて、そこから川の方を向いた崖地に辿り着いた。
真下を見ると、葦やら雑木やら上流からの堆積土やら、いろんなものが流れ着いている。見た目の悪い場所だった。今は河川の底を拡げる工事が進んで、もっと綺麗になっている。
俺は傘を差していて、S氏は簡易なヤッケを装備している。真っ暗な世界の中で、唯一の明かりが頭上の頼りない水銀ランプひとつだけだった。今は、2人で濁流を真上から見ている。ここから飛び降りたとしたら、数秒もかからないうちにドボンだろう。それほど水嵩が増している。水の色は見えない。
「下流はとんでもないですね」
「ここよりはマシですね。護岸が整備されてるんで」
「こないな時期に大雨の対応はしたくないでしょ」
「はははは。まあそうですね。でもね、しっかりしないといけないんでね。結婚もするんで」
俺は何も言わずに、彼の方に寄った。
「危ないよSさん。下がって」
その時、殴りつけるような雨が降ってきた。風も強い。S氏は、身を屈めるようにして風雨から身を守っていた。すると、ふいに彼が鴨川の方を向いたっけ。しみじみとした寂しい背中だった。
「Sさん」と声をかけると、いまだに彼は増水した河川を見下ろしていた。風がまた吹いてきた。強い風だった。
……数分が経って、俺は雑草だらけの小道の途中にいた。後ろをサッと振り返った。誰もいなかった。雨の音がうるさい。
そのまま、雑草だらけの小道をザクザクと踏み分けて行って、店の方まで戻った。お客さんが来ていないことを確認して、ラジオで大雨情報を聞いて、誰も来ないだろうという個人的な確信が強まっていった。
特にオチがなくて申し訳ない。誰かが悲しい思いをしてるとか、嬉しい思いをしてるとか、そういうことでもない。
お店は今も普通に営業している。あれからすぐにNさんは店をやめてしまったが、そこは腐っても京都府内だ。別のアルバイトに「いい子いない?」と聞いたら、新しい子が面接に来た。幸いにも、Nさんと同じくらい朗らかで明るい雰囲気の子だった。今でもお店で働いていて、辞められたら困る人材に成長している。
ずっと思っていた。苦しかった時期のことを話したいと。あの日を境に肩の荷が下りて、心と体が軽くなって、ゆっくり眠れるようになった。すっきりした気分だった。今ではのびのびと働くことができている。
結婚して初めてホストクラブに行ったので、記憶の整理のために書いた。同じ空間にいた人なら一発で誰か分かる内容だが、果たしてあの空間にはてな匿名ダイアリーを読む人はいるのだろうか?
Too Long; Didn't Read.
【忙しい人のために】支払総額10万。閉店後のデートで同衾を誘われて逆に萎えた。キスはされたがセックスはしていない。既婚者が行ってはならない場所だと痛感した。
【スペック】結婚約10年目、子なし、レスだが仲は良い、アラフォー、田舎在住、普通体型、不美人。性欲はあまりないがときめき欲(?)はある。田舎すぎて職がないのでオンラインで小銭を稼いでいる。
【本文】
ある日東京に行き、用事を済ませた後一人でホストクラブに行った。結婚前は都内在住で、メンズキャバクラ(今は廃れつつある時間制ホストクラブ)に1年ほど惰性で通った苦い経験がある。最近はホストクラブやホスト個人がYouTubeチャンネルやSNSアカウントを開設しているので、店に行く前からホストクラブの雰囲気やホスト個人のことを知ることができる。あるチャンネルを通じ某大手グループ所属のホストXを知り、声と顔が好みすぎて会ってみたくなった。配信で「既婚者がお店に行ってもいいですか?」という質問に、「全然OK! 人のものっていいよね」とあしらっていたのも決め手になった。
行く日の夜、インスタのDMで「Xさん初回指名で今日お店に入れますか?」と連絡すると、しばらくして「ありがとうございます!顔写真付の身分証明書が必要なので持ってきてくださいね」という旨の返事。初回指名とは指名するホストを予め決めて初入店すること。普通、初入店時は指名ホストを決めるために1人5~10分くらいでホストが入れ替わり立ち替わりやってきて、これを初回と呼び、1時間3千円〜と安い。初回指名は2回目以降の来店と同じ扱いで、予め指名したホストが接客し、だいたい2万〜。
上品そうに見える服にハイブランドのスカーフ、金持ちを装った小さい鞄をひっさげ、軍資金として独身時代の貯金から15万おろす。店の付近で迷ってしまい、恐怖と緊張が高まる中、なんとか店を見つけてエレベーターで昇り、震える手で店の扉を開ける。YouTubeやTikTokで見たままの店内、見たままの美丈夫たちが目に入り、テンションと緊張と恐怖が最大値になる。受付で身分証明書を見せる。コピーはとられなかった(たぶん)。書き物もなし。ホストに呼んでもらう下の名前(偽名可)を聞かれて本名で答えると、若手ホストに席へと案内された。
21時少しすぎに行ったが店内はまだガラガラ。ホストクラブは通常19時開店だが幹部(売り上げの多いホストたちの呼称。毎月売り上げ上位をキープするなど、条件がある)は21時に出勤するところが多く、同伴(出勤前に姫(=客)とデートすること)してから来るためと思われる。
若手ホストにメニューを見せてもらう。発泡酒や缶酎ハイは2本セットで2000円。水商売では明記された値段に消費税と、TAXという名目の法外なサービス料約25~45%が加算される。グラスワイン1杯3000円、有名日本酒4合瓶3万円〜、スパークリングワインボトル5万円〜など。すでに高い。この店の場合、消費税とTAX入れて支払額は書かれてある値段に×1.5しなければならない。
飲み物を迷っていたら担当(指名したホストのこと)となるXが登場。わー! ばり好みの顔! YouTubeでの印象より背が高い! 身体つきが思ったより男らしい! 超好みの顔! いい声! 上品な色味の上等なスーツ! ほのかないい匂い! 感極まって思わず立ち上がりペコペコするキモいムーブをかますと「その反応めっちゃ嬉しい!」とリップサービス。並んで座ると膝の先を触れ合わせてくる。既に刺激が強すぎる。
「来てくれて本当にありがとう! SNSとかで『行きます!』って連絡来ても9割来ないからさ〜」といった会話を至近距離でする。顔が近い! すごく目を合わせて会話してくる! カラコンで目がちょっと充血してる! リップが淡いピンクでぷるぷる! マットなお肌! 化粧品または香水のいい匂い! 脳内麻薬が瀑布のように分泌され、体がじんわりと変な風に麻痺してくる感覚に陥る。
担当から店の料金システムを説明される。席料は固定であとは飲み物代が加算されるだけ、とのこと。予算は5万円と伝え、とりあえず自分と担当に白ワイングラス、ヘルプ(指名ホスト以外で席につきお喋りしてくれるホスト)に缶酎ハイを注文。時々膝に手を置かれつつ、「どうして俺指名なの?」「YouTubeを見て……」「いつから?」「初めてYouTubeチャンネルができたときから……」「えーすごい! 古参じゃんw」みたいな会話から入るが、一杯目を飲み切らないうちに内勤(ホストをどの席につかせるか等を指示する裏方)に呼ばれていなくなった。
ホストクラブは売れっ子になればなるほど自分以外の指名客(被りと呼ぶ)も来るため、高いお金を払っているのに自分の席についてくれる時間が少なくなるので、席についてもらうためにはより高額の酒を入れなければならない、という鬼畜な商売である。高額な酒を入れると、「[ホスト名]の姫様より[酒名]が入りました〜!」と被りを煽るようなクソデカ店内放送が入り、シャンパンコールとなる。
担当がいない間は卓を挟んだ向かいに他のホストがヘルプについてくれる。主に若手や新人がついてくれるが、数分だけ幹部もついてくれた。「隣座ってもいい?」と聞かれるも「あなたの姫に悪いから大丈夫です」といい人ぶって断ると「優しいんだね」とにこり。幹部は纏う空気が柔らかく、ドキドキするというより癒される感じがして話しやすく、なるほどこれが売れっ子なのかと思った。
3人くらい新人ホストが入れ代わりヘルプについた。そのうちに他の席も埋まり出し満席になる。他の席に担当がいるのが普通に見えるし声が通ってよく聞こえる。被りの姫がエレベーターに乗るときに肩を組んでいるのがちょっと見えて気になってしまう。姫たちは水商売風の人もそうでなさそうな人もいて年齢は20〜40代くらいだろうか。可愛い人や綺麗な人ばかりで背筋が伸びる。
新人ヘルプでも会話に困って気まずい、ということはないが、店には他の席の会話を聞かれないために大音量の音楽が常に流れており、大声で喋り続けるので喉が枯れてくる。龍角散ダイレクトを持参すればよかったな、とこぼしたら、ヘルプの一人が龍角散のど飴をくれた。いい子~!
やたら長く感じて正確には分からないがたぶん40分くらいすると担当が戻ってきた。酒が進み、白ワイン2杯目を自分と担当に追加。スカーフを巻いてもらうなど戯れあう。この辺りからボディタッチがあからさまに増えてゆく。膝に手を置くほかには腕を回したり肩や頭を寄せ合ったりふくらはぎをスカート越しに揉むなど。小中高と容姿で虐められていた私のような不美人にもけっこう触れてくるんだなと思ったが、手慣れているというか、勢いがありすぎるというか、誰にでも同じようにやっていそうな雑な感じがした。確かこの辺りでLINEの交換をしたと思う。最新型のiPhoneの画面は少し割れていて、LINEはウケ狙いのような画面で萎えた。非現実的な空間で現実に引き戻させないでおくれ。
グラスが空いたものの、「そろそろ予算に達しそうだけどどうする?」と言われ、「1、2万なら超えても大丈夫」と答える。赤ワインを担当と自分に追加。チェイサーがわりにジャスミン茶も追加。
赤ワインが来たあたりで担当に仕掛けられている感覚があった。抱きつかれたりキスされそうになったり、今後通わせるためか艶めいた色を滲ませるような会話内容になってくる。今日初めて会ったのに早すぎないか? 田舎在住で頻繁には通えないから最初からフルスロットルなのだろうか。「いつ東京出るの?」「明日」「えっ、じゃあ今夜がラストナイトじゃん! そうしたらさ、……店が終わったら、一緒にどこかへ行こうよ」閉店後にホストとデートすることをアフターと呼び、これがあの聞きしに勝るアフター……! とちょっと感動。しかし既に23時を回っており、眠気と疲れでそろそろ宿に戻りたかった。けっこう渋ったのだが全く諦めてくれる気配がなかったので「じゃあ[歌舞伎町にある一部に有名なスポット]に行きたい」と言ってアフターを約束した。いま思うとここで無理にでも帰っておけば、よい思い出だけが残っただろう。しかし、店に着くまでの緊張や恐怖、美丈夫たちに囲まれてちやほやされる高揚感、薄暗い店内、馬鹿みたいにうるさい音楽と店内放送、美しい姫たち、昏く煌びやかな装飾、服越しに伝わる担当の体温と質感に飲まれて断れなかった。そのままずるずると奈落の底へ導かれてゆくような心地だった。
赤ワインが空いてラストオーダーの時間が迫ってきて、どうしようか……となり、つい雰囲気に負けて「10万円までなら出せて、それ以上は物理的に無理」と言ってしまう。「じゃあ俺の好きな日本酒頼んでいい!?」と担当の目と纏う空気が突然ぱっと明るくなる。10万円という額は一般人からすると大金だが、ホストクラブにしてみれば雀の涙。そんな額に対してこのぱっと嬉しそうな表情になったのが演技なら、けっこうすごいなと思った。
日本酒の4合瓶が来る。ジャスミン茶を飲み干す。幹部が数分席についてくれたり、日本酒の話などをしたりして2合くらい飲んだあたりでシャンパンコールをする時間になり、天井からスモークが出たり赤や青のライトが点滅したり始める。まぶしい。担当とヘルプがコールのために席を外す。私の席の左側には壁があって、その壁を挟んだ反対側でコールしていた。様子は見えなかったが、オールコール、ホスト全員でコールするレベルのとても高額の酒が入ったようだった。席で一人になり、ここぞとばかりにアイスペールに入った氷をひたすら食べながらコールを聞いていた。酔っているのに頭の中はだいぶ醒めていて、帰りたいなあ、アフター行きたくないなあ、明日何時に起きなきゃ、こんなにボディタッチされるとかえって萎えるな、などと考えていた。内勤が伝票を持ってくる。会計99000円也。ちゃんと10万に収まってよかった。バインダーに現金10万円を挟んでおく。
シャンパンコールが終わって担当が戻ってきた時には、動いたせいなのかすっかりベロベロで、やたらと抱き着いたり抱き寄せたり私の頬に鼻や唇をつけてきたりする。もはやホストというよりもいい匂いのするばか犬に懐かれているような気分だった。ばか犬に失礼か。ただあまり酒の匂いはせず、抱き着かれるたびにいい香りがした。その秘訣は知りたい。お会計でおつりの千円が返ってくる。
閉店時間が近づいてきて、初めのうちは「余ったお酒持って帰っていい?」と言っていたのが何かスイッチが入ったのか飲み干そうとしていて、ヘルプも呼んで飲ませようとしていたがなかなか減らず、残り一合くらいになったあたりで母校の下校時刻に流れていたのと同じ曲がかかり始めた。ホストクラブでもこういう曲ってかかるんだねと笑いながら、仕方ないのでテキーラを飲むような飲み方で日本酒を片付けた。ごめんよ。担当は私のグラスが空くたびに自分のグラスに入った日本酒をそっくり私のグラスに入れることで自分も飲んでいるようなふりをしていた。汚いわんこそばスタイルはやめろ。
閉店時間間際になってやっと飲み干せたので店を出る。「エレベーターの前で待ってて!」と担当に言われて待つ。担当は千鳥足で、本当にアフターに行ける状態なんだろうかと不安になる。早く帰りたい。担当が戻ってきて(吐いたのかな?)エレベーターで一緒に降りて外に出る。風が冷たくて寒く、少し酔いが醒める。
歩きながらそれとなくホテルに誘われる。これがあの「初回枕」……! (初めて来店した客とセックスすること)本当にあるんだ! と思いつつ「いや結婚してるから無理」と答える。「えっ、結婚してるんだ! いいなー」「いいだろー、結婚はよいぞ」などと大変ふざけた会話をしつつ担当に自販機の水をねだる。アフターは基本的に全額担当持ちである。担当も水を飲めばいいのに矜持があるようで、この日見る限り一滴のノンアルコールもとっていなかった(裏では飲んでいたかもしれないが)。歩きながら500mlを飲み干す。ゴミ箱がない。道路が汚い。担当は寒い寒いと言って首元に手を突っ込んでくる。冷たい。やめろ。
[歌舞伎町にある一部に有名なスポット]に着いて少し戯れたあと、一軒目の居酒屋に入るが色々あってすぐに出る。この時の担当のセリフ(店員への不満)にドン引きして逃げたくなる。走って振り切れるか? と思ったがヒールだし転ぶかもと思って諦める。歌舞伎町から出てしまうと、25時過ぎという時間のためか新宿の街には本当に誰もいない。担当はとても酔っていて突然大声を出したり歌いだしたりする。人がいなくて本当によかった。「今日が最後の日なんでしょ」「旦那さん家なんでしょ」と色々な言い回しで何度もホテルに誘われるので行く気がないことをセリフと態度で示すと「は? うざ」と何度も言われつつ、誰もいないのに妙に明るいビルの中へ入ってゆき妙に大きなエレベーターに乗る。
エレベーターが開いた先はアクアリウムダイニングで、これ見よがしに淫靡な雰囲気が漂っていた。かなり広い店内だったが時間が時間なためか客は数組しかおらず、わかりやすくいかがわしいカップル席に通される。店内はホストクラブよりもやや暗く、蛍光がかった瑠璃色の水槽の中で熱帯魚がけだるく泳いでいた。グラスビールを二杯注文する。眠さのピークは越えたが倦怠感がひどく、早く帰らせてくれと心から思った。
担当も意地になっているのかなおも枕に誘ってくるので、そんなに飲んでたら起つものも勃たないだろと思いつつ、なんとか諦めてもらえる話題を……と性病の話などをする。「いや実は昔クラミジアをうつされて……(嘘)」「えー、小陰唇見なきゃ信じない。小陰唇見せろ(嘘つくな)」今日初めて会った人間同士でする会話ってこんなだっけ? 結婚前知り合いにレイプされてそのせいかは不明だが後日HPV高リスク型と診断された話、その知り合いが肺がんになって死んだ話などをする。意外と否定せず聞いてくれる。梅毒が流行っているから絶対に夫以外の人とセックスしたくない、会ってちょっとときめきたかっただけでセックスがしたいわけではない、刺激が強すぎる、もう充分楽しんだからもう帰りたい、ということをひたすら言い続けたら、さすがに担当も嫌になってきたのか目を見ながら「はいはい梅毒梅毒」とか「ガキが」とか言ってくるようになる。一回りくらい年下の男子にガキがと罵られてもかえって滑稽である。それでも抱き寄せられて頭を大きな手で優しく撫でられる。どの客にも同じことをしているんだろうなと思って全く嬉しくなく、もはや触られすぎて全くドキドキもしない。終電前に帰ればよかったな、でもそれだとかえっていい思い出しか残らなくてまた行きたくなってたかもしれないから逆に最悪な場面が見られてよかったかもな、それにしても色々ドン引きだな、こんな接客される被りの姫たちがかわいそうだな、ホストクラブなんぞ二度と行かないな、私みたいな人間が行く場所じゃなかったな、早く終わらないかな、宿に帰って風呂に入りたいな、と色々なことを考えながら撫でるに任せていたらマスクを外されてキスされた。気持ち悪かった。顔と声は本当に好みなのだが、本当に好みでも気持ち悪いと感じたことにほっとした。独身時代だったら、あるいは夫と仲が悪かったら、あるいは自分の性欲がもっとあったら、ここまで行きつく前にすっかりやられて身も心も崩れ爛れ落ちて二度と引き返せないところまで一瞬で行ってしまっていたかもしれない。担当の顔は暗い店内で定かではないが能面のような顔をして笑っていた……ような気がする。
もう行こうか、と担当が言って、ビールを飲み干し(担当はやはり汚いわんこそばスタイルで自分のビールを私のグラスに注いでいた)店を出た。そのまま新宿駅のタクシー乗り場まで一緒に歩く。「次いつ東京来るの?」「LINE返信してね」みたいな会話をしたような気もするし、「はーうざ」と言われたような気もするがあまり覚えていない。タクシーに乗る前に最後にハグされたのでハグし返す。酔って匂いが全然分からない。これでやっと帰れる! と開放感でいっぱいだった。
タクシーの中ですぐLINEをブロックし、インスタの捨てアカウントを削除する。部屋に帰った時には27時だった。水を700mlくらい飲み風呂に入ってさっさと寝た。(幸いなことに二日酔いにはならなかった)
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振り返ると、なんだか夢か幻かのような朧気な記憶しかなく、つらつら書いてみたが本当にあったことなのか少し不安になる。写真も撮っていないし、連絡手段も断っている。不美人だし、何十、何百万も使うような客には見えないだろうから色恋営業かけられることもなかろう、楽しく飲んで帰れるだろうと思っていたらこんな目に遭うとは思わなかった(昔通っていたメンズキャバクラの担当とは、艶めいたこともなければアフターや同伴をしたこともなかった、というのもある)。至極当たり前なのだが既婚者が行く場所ではなかった。なお夫への罪悪感は悲しくなるほどない。もしもセックスしていたらあったかもしれない。
次に東京へ行く機会があるとすれば半年以上後なので、物理的に距離を取れる環境でよかった。もしも都内在住だったら、通ってしまっていたかもしれない(逆に、田舎在住で通えないからこそ一度店に行ってみようと思ったのはある)。中村うさぎの著書やネットに転がるホスト体験談、ねほりんぱほりんのホスト回などは履修済だったが認識が甘すぎたようだ。
担当が酔うまでは、べたべた触りだす前までは、本当に楽しくてドキドキして理想的なホスト遊びだった。あんなにひどい目に遭ったのに、店内でのよい思い出が脳みそのどこかに楔を打ち付けたみたいだった。薬物中毒者の気持ちがわかる気がした。もしも万が一、もう一度担当に会いたくなったら、遅めの時間帯に何か大事な予定を入れて早い時間に入店するか、財布の中に免許証と現金3万円だけ入れて入店して酎ハイだけ頼むか、とにかく自分の意志を信じないで行動するしかないと思った。こんなことを考えている時点でもうだめかもしれない。もしもまた店に行くことがあればまたレポートしようと思う。その時は嘲笑ってほしい。そんな日が二度と来ないことを祈っている。