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2024-10-03

パワハラ意識して治せるのか?

パワハラ意識して治せるものではないと、個人的に思う。

理由は、過去2人、パワハラ野郎上司に持ったことがあるが、結局奴らが油断するとパワハラ野郎に戻っていたからだ。

その2人はどちらも、残業が少なく、余裕がある時は紳士的な態度であった。おそらく過去パワハラに似た振る舞いをして、注意を受けたのだろう。

しかし、残業が続いたりすると、心の余裕がなくなるのか、パワハラをやり出す。

パワハラというもの平均値で出されるものではない。機嫌がいい日と、悪い日とが交互に来たとしたら、平均してパワハラ0になるわけではなく、機嫌が悪い日だけを見てパワハラ認定するのだ。

同様に、体調が良い日にどれだけ気を遣って紳士を装ったとしても、体調が悪い日にパワハラをしていたら、もはやソイツはパワハラ野郎なのだ

もちろん体調が悪い日でも、紳士を装える人はいるだろう。しかし、多くの(過去パワハラをしていた)人間は体調が悪い日には、つい本性が出てしまって、パワハラをするのだ。しかも一度でも本性を出してしまえば、その人はパワハラ上司として恐れられることになる。

本性はパワハラ野郎な人は、残念ながら、治ることはないのではなかろうか。

(なお、残業が多くなると、どんな善人でも性格が捻じ曲がっていき、パワハラをやり得る、と聞いたことがある。こういう本性は善人だが、環境で仕方なくパワハラをしてしまう人もいてしまうわけなので、パワハラ=治らない、というわけではないのだろう。正確には、本性がパワハラの人は治らない、と考える。)

女性増田に聞きたいんだけど、俺からかわれてたのかな?それとも誘われてた?

高校卒業後すぐに出会い系で会った年上の男と結婚してた女友達が数年ぶりに「離婚して暇だから遊ぼう」って連絡してきて

当時ふたりとも上京してたのでそのへんでカラオケ行って適当に飲むかって話になったの

で、まあ昔話なんかをしながらカラオケ普通に楽しんだわけだけど、

それが終わったら「ウチすぐそこだから家飲みにしよう」って言うんでお言葉に甘えてついて行ったわけ

高校時代はすごい仲良くてさ

お互い別に好きな人がいたりもしたんで、恋愛感情抜きにかけがえのない友達だと思ってた

から無警戒というか無遠慮というか、何も考えずに家について行っちゃったんだけど

家についたら彼女はすぐさまシャワー浴びてノーブラペラペラの部屋着に着替えてさ

狭いワンルームで密着するような感じでガブガブお酒飲み始めて

あれ?この感じちょっと変かな?って思ったんだけど、話が結構ディープというか、

別れた旦那のひでー話とか、別れたあと自傷行為に走っちゃった話とかになってきて

なんかそこから一人にさせるのも危なっかしい感じになってきて、その夜は泊まっていくことになったんだよね

最初俺は床に寝てたんだけど「こっちに来てキスしてくれたら頑張れるから」ってベッドの上から袖を引っ張ってくるわけですよ

俺も酔ってたし、その時はこれ完全に誘われてるなって思って、まあ一緒に寝たし、キスもしたんですよ

そしたらもう「そういう感じ」なのかなって思うじゃん?

でもね、「私いま生理なんだ」って言うの

じゃあそういう感じじゃないのかぁってなるじゃん?

でも俺のガチガチになった股間をさすってくるんだよね

えっやっぱりそういう感じなの?いやでも生理なんだよなってすげえ混乱して

そもそも懐かしい高校時代友達と再会したエモさと目の前の淫らな様子のバツイチ女が全然頭の中で噛み合ってなくてなんか耐えられなくて

女友達寝落ちしそうになってふにゃふにゃしてるところで抜け出して帰ってきちゃった

ってことがあったんだよね

これがもう何年も前の話で、彼女とはそれっきりなんだけど

どうするのが正解だったのか未だにふと考えちゃう

いやまあ朝まで紳士的に見守って帰り、その後も定期的に様子を確認するくらいがベストかなとは思うのだが

あのとき女友達的にはいっそ「ゴムないけど生理ならいいよな」つって抱かれてた方が後腐れのない自傷行為としてスッキリしてたのかとか

流石にそれはひどいというか、そもそもキスなんてすべきじゃなかったよなーとか

ちゃんと向き合ってれば今頃恋人同士になってたのかも?とか…

結果的には今の俺は他のまともな女と結婚して子どももいるので、メンヘラバツイチ女に引っかからなくてよかったとも言えるのだが

当方非モテもの女性経験が今の妻としかないんだよね

その他の唯一のチャンスがこの女友達との家飲みの夜だったこともあって「あれは誘われてたんじゃないのか」ってずっと考えちゃうんだよな

キモいよね

2024-10-02

 原口さんはそこでちょっと絵を離れて、画筆の結果をながめていたが、今度は、美禰子に向かって、 「里見さん。あなた単衣を着てくれないものから着物がかきにくくって困る。まるでいいかげんにやるんだから、少し大胆すぎますね」 「お気の毒さま」と美禰子が言った。  原口さんは返事もせずにまた画面へ近寄った。「それでね、細君のお尻が離縁するにはあまり重くあったものから、友人が細君に向かって、こう言ったんだとさ。出るのがいやなら、出ないでもいい。いつまでも家にいるがいい。その代りおれのほうが出るから。――里見さんちょっと立ってみてください。団扇はどうでもいい。ただ立てば。そう。ありがとう。――細君が、私が家におっても、あなたが出ておしまいになれば、後が困るじゃありませんかと言うと、なにかまわないさ、お前はかってに入夫でもしたらよかろうと答えたんだって」 「それから、どうなりました」と三四郎が聞いた。原口さんは、語るに足りないと思ったものか、まだあとをつけた。 「どうもならないのさ。だから結婚は考え物だよ。離合集散、ともに自由にならない。広田先生を見たまえ、野々宮さんを見たまえ、里見恭助君を見たまえ、ついでにぼくを見たまえ。みんな結婚をしていない。女が偉くなると、こういう独身ものがたくさんできてくる。だから社会原則は、独身ものが、できえない程度内において、女が偉くならなくっちゃだめだね」 「でも兄は近々結婚いたしますよ」 「おや、そうですか。するとあなたはどうなります」 「存じません」  三四郎は美禰子を見た。美禰子も三四郎を見て笑った。原口さんだけは絵に向いている。「存じません。存じません――じゃ」と画筆を動かした。  三四郎はこの機会を利用して、丸テーブルの側を離れて、美禰子の傍へ近寄った。美禰子は椅子の背に、油気のない頭を、無造作に持たせて、疲れた人の、身繕いに心なきなげやりの姿である。あからさまに襦袢の襟から咽喉首が出ている。椅子には脱ぎ捨てた羽織をかけた。廂髪の上にきれいな裏が見える。  三四郎は懐に三十円入れている。この三十円が二人の間にある、説明しにくいもの代表している。――と三四郎は信じた。返そうと思って、返さなかったのもこれがためである。思いきって、今返そうとするのもこれがためである。返すと用がなくなって、遠ざかるか、用がなくなっても、いっそう近づいて来るか、――普通の人から見ると、三四郎は少し迷信家の調子を帯びている。 「里見さん」と言った。 「なに」と答えた。仰向いて下から三四郎を見た。顔をもとのごとくにおちつけている。目だけは動いた。それも三四郎真正面で穏やかにとまった。三四郎は女を多少疲れていると判じた。 「ちょうどついでだから、ここで返しましょう」と言いながら、ボタンを一つはずして、内懐へ手を入れた。  女はまた、 「なに」と繰り返した。もとのとおり、刺激のない調子である。内懐へ手を入れながら、三四郎はどうしようと考えた。やがて思いきった。 「このあいだの金です」 「今くだすってもしかたがないわ」  女は下から見上げたままである。手も出さない。からだも動かさない。顔も元のところにおちつけている。男は女の返事さえよくは解しかねた。その時、 「もう少しだから、どうです」と言う声がうしろで聞こえた。見ると、原口さんがこっちを向いて立っている。画筆を指の股にはさんだまま、三角に刈り込んだ髯の先を引っ張って笑った。美禰子は両手を椅子の肘にかけて、腰をおろしたなり、頭と背をまっすぐにのばした。三四郎は小さな声で、 「まだよほどかかりますか」と聞いた。 「もう一時間ばかり」と美禰子も小さな声で答えた。三四郎はまた丸テーブルに帰った。女はもう描かるべき姿勢を取った。原口さんはまたパイプをつけた。画筆はまた動きだす。背を向けながら、原口さんがこう言った。 「小川さん。里見さんの目を見てごらん」  三四郎は言われたとおりにした。美禰子は突然額から団扇を放して、静かな姿勢を崩した。横を向いてガラス越しに庭をながめている。 「いけない。横を向いてしまっちゃ、いけない。今かきだしたばかりだのに」 「なぜよけいな事をおっしゃる」と女は正面に帰った。原口さんは弁解をする。 「ひやかしたんじゃない。小川さんに話す事があったんです」 「何を」 「これから話すから、まあ元のとおりの姿勢に復してください。そう。もう少し肱を前へ出して。それで小川さん、ぼくの描いた目が、実物の表情どおりできているかね」 「どうもよくわからんですが。いったいこうやって、毎日毎日描いているのに、描かれる人の目の表情がいつも変らずにいるものでしょうか」 「それは変るだろう。本人が変るばかりじゃない、画工のほうの気分も毎日変るんだから、本当を言うと、肖像画が何枚でもできあがらなくっちゃならないわけだが、そうはいかない。またたった一枚でかなりまとまったものができるから不思議だ。なぜといって見たまえ……」  原口さんはこのあいだしじゅう筆を使っている。美禰子の方も見ている。三四郎原口さんの諸機関が一度に働くのを目撃して恐れ入った。 「こうやって毎日描いていると、毎日の量が積もり積もって、しばらくするうちに、描いている絵に一定の気分ができてくる。だから、たといほかの気分で戸外から帰って来ても、画室へはいって、絵に向かいさえすれば、じきに一種一定の気分になれる。つまり絵の中の気分が、こっちへ乗り移るのだね。里見さんだって同じ事だ。しぜんのままにほうっておけばいろいろの刺激でいろいろの表情になるにきまっているんだが、それがじっさい絵のうえへ大した影響を及ぼさないのは、ああい姿勢や、こういう乱雑な鼓だとか、鎧だとか、虎の皮だとかいう周囲のものが、しぜんに一種一定の表情を引き起こすようになってきて、その習慣が次第にほかの表情を圧迫するほど強くなるから、まあたいていなら、この目つきをこのままで仕上げていけばいいんだね。それに表情といったって……」  原口さんは突然黙った。どこかむずかしいところへきたとみえる。二足ばかり立ちのいて、美禰子と絵をしきりに見比べている。 「里見さん、どうかしましたか」と聞いた。 「いいえ」  この答は美禰子の口から出たとは思えなかった。美禰子はそれほど静かに姿勢をくずさずにいる。 「それに表情といったって」と原口さんがまた始めた。「画工はね、心を描くんじゃない。心が外へ見世を出しているところを描くんだから見世さえ手落ちなく観察すれば、身代はおのずからわかるものと、まあ、そうしておくんだね。見世でうかがえない身代は画工の担任区域以外とあきらめべきものだよ。だから我々は肉ばかり描いている。どんな肉を描いたって、霊がこもらなければ、死肉だから、絵として通用しないだけだ。そこでこの里見さんの目もね。里見さんの心を写すつもりで描いているんじゃない。ただ目として描いている。この目が気に入ったから描いている。この目の恰好だの、二重瞼の影だの、眸の深さだの、なんでもぼくに見えるところだけを残りなく描いてゆく。すると偶然の結果として、一種の表情が出てくる。もし出てこなければ、ぼくの色の出しぐあいが悪かったか恰好の取り方がまちがっていたか、どっちかになる。現にあの色あの形そのもの一種の表情なんだからしかたがない」  原口さんは、この時また二足ばかりあとへさがって、美禰子と絵とを見比べた。 「どうも、きょうはどうかしているね。疲れたんでしょう。疲れたら、もうよしましょう。――疲れましたか」 「いいえ」  原口さんはまた絵へ近寄った。 「それで、ぼくがなぜ里見さんの目を選んだかというとね。まあ話すから聞きたまえ。西洋画の女の顔を見ると、だれのかい美人でも、きっと大きな目をしている。おかしいくらい大きな目ばかりだ。ところが日本では観音様をはじめとして、お多福、能の面、もっとも著しいのは浮世絵にあらわれた美人、ことごとく細い。みんな象に似ている。なぜ東西で美の標準がこれほど違うかと思うと、ちょっと不思議だろう。ところがじつはなんでもない。西洋には目の大きいやつばかりいるから、大きい目のうちで、美的淘汰が行なわれる。日本は鯨の系統ばかりだから――ピエルロチーという男は、日本人の目は、あれでどうしてあけるだろうなんてひやかしている。――そら、そういう国柄から、どうしたって材料の少ない大きな目に対する審美眼が発達しようがない。そこで選択の自由のきく細い目のうちで、理想ができてしまったのが、歌麿になったり、祐信になったりして珍重がられている。しかいくら日本的でも、西洋画には、ああ細いのは盲目かいたようでみっともなくっていけない。といって、ラファエル聖母のようなのは、てんでありゃしないし、あったところが日本人とは言われないから、そこで里見さんを煩わすことになったのさ。里見さんもう少しですよ」  答はなかった。美禰子はじっとしている。  三四郎はこの画家の話をはなはだおもしろく感じた。とくに話だけ聞きに来たのならばなお幾倍の興味を添えたろうにと思った。三四郎の注意の焦点は、今、原口さんの話のうえにもない、原口さんの絵のうえにもない。むろん向こうに立っている美禰子に集まっている。三四郎画家の話に耳を傾けながら、目だけはついに美禰子を離れなかった。彼の目に映じた女の姿勢は、自然の経過を、もっとも美しい刹那に、捕虜にして動けなくしたようである。変らないところに、長い慰謝がある。しかるに原口さんが突然首をひねって、女にどうかしましたかと聞いた。その時三四郎は、少し恐ろしくなったくらいである。移りやすい美しさを、移さずにすえておく手段が、もう尽きたと画家から注意されたように聞こえたかである。  なるほどそう思って見ると、どうかしているらしくもある。色光沢がよくない。目尻にたえがたいものうさが見える。三四郎はこの活人画から受ける安慰の念を失った。同時にもしや自分がこの変化の原因ではなかろうかと考えついた。たちまち強烈な個性的の刺激が三四郎の心をおそってきた。移り行く美をはかなむという共通性情緒はまるで影をひそめてしまった。――自分はそれほどの影響をこの女のうえに有しておる。――三四郎はこの自覚のもとにいっさいの己を意識した。けれどもその影響が自分にとって、利益不利益かは未決の問題である。  その時原口さんが、とうとう筆をおいて、 「もうよそう。きょうはどうしてもだめだ」と言いだした。美禰子は持っていた団扇を、立ちながら床の上に落とした。椅子にかけた羽織を取って着ながら、こちらへ寄って来た。 「きょうは疲れていますね」 「私?」と羽織の裄をそろえて、紐を結んだ。 「いやじつはぼくも疲れた。またあした天気のいい時にやりましょう。まあお茶でも飲んでゆっくりなさい」  夕暮れには、まだ間があった。けれども美禰子は少し用があるから帰るという。三四郎も留められたが、わざと断って、美禰子といっしょに表へ出た。日本社会状態で、こういう機会を、随意に造ることは、三四郎にとって困難である三四郎はなるべくこの機会を長く引き延ばして利用しようと試みた。それで比較的人の通らない、閑静な曙町を一回り散歩しようじゃないかと女をいざなってみた。ところが相手は案外にも応じなかった。一直線に生垣の間を横切って、大通りへ出た。三四郎は、並んで歩きながら、 「原口さんもそう言っていたが、本当にどうかしたんですか」と聞いた。 「私?」と美禰子がまた言った。原口さんに答えたと同じことである三四郎が美禰子を知ってから、美禰子はかつて、長い言葉を使ったことがない。たいていの応対は一句か二句で済ましている。しかもはなはだ簡単ものにすぎない。それでいて、三四郎の耳には一種の深い響を与える。ほとんど他の人からは、聞きうることのできない色が出る。三四郎はそれに敬服した。それを不思議がった。 「私?」と言った時、女は顔を半分ほど三四郎の方へ向けた。そうして二重瞼の切れ目から男を見た。その目には暈がかかっているように思われた。いつになく感じがなまぬるくきた。頬の色も少し青い。 「色が少し悪いようです」 「そうですか」  二人は五、六歩無言で歩いた。三四郎はどうともして、二人のあいだにかかった薄い幕のようなものを裂き破りたくなった。しかしなんといったら破れるか、まるで分別が出なかった。小説などにある甘い言葉は使いたくない。趣味のうえからいっても、社交上若い男女の習慣としても、使いたくない。三四郎事実上不可能の事を望んでいる。望んでいるばかりではない。歩きながら工夫している。  やがて、女のほうから口をききだした。 「きょう何か原口さんに御用がおありだったの」 「いいえ、用事はなかったです」 「じゃ、ただ遊びにいらしったの」 「いいえ、遊びに行ったんじゃありません」 「じゃ、なんでいらしったの」  三四郎はこの瞬間を捕えた。 「あなたに会いに行ったんです」  三四郎はこれで言えるだけの事をことごとく言ったつもりである。すると、女はすこしも刺激に感じない、しかも、いつものごとく男を酔わせる調子で、 「お金は、あすこじゃいただけないのよ」と言った。三四郎がっかりした。  二人はまた無言で五、六間来た。三四郎は突然口を開いた。 「本当は金を返しに行ったのじゃありません」  美禰子はしばらく返事をしなかった。やがて、静かに言った。 「お金は私もいりません。持っていらっしゃい」  三四郎は堪えられなくなった。急に、 「ただ、あなたに会いたいから行ったのです」と言って、横に女の顔をのぞきこんだ。女は三四郎を見なかった。その時三四郎の耳に、女の口をもれたかすかなため息が聞こえた。 「お金は……」 「金なんぞ……」  二人の会話は双方とも意味をなさないで、途中で切れた。それなりで、また小半町ほど来た。今度は女からしかけた。 「原口さんの絵を御覧になって、どうお思いなすって」  答え方がいろいろあるので、三四郎は返事をせずに少しのあいだ歩いた。 「あんまりでき方が早いのでお驚きなさりゃしなくって」 「ええ」と言ったが、じつははじめて気がついた。考えると、原口広田先生の所へ来て、美禰子の肖像をかく意志をもらしてから、まだ一か月ぐらいにしかならない。展覧会で直接に美禰子に依頼していたのは、それよりのちのことである三四郎は絵の道に暗いから、あんな大きな額が、どのくらいな速度で仕上げられるものか、ほとんど想像のほかにあったが、美禰子から注意されてみると、あまり早くできすぎているように思われる。 「いつから取りかかったんです」 「本当に取りかかったのは、ついこのあいだですけれども、そのまえから少しずつ描いていただいていたんです」 「そのまえって、いつごろからですか」 「あの服装でわかるでしょう」  三四郎は突然として、はじめて池の周囲で美禰子に会った暑い昔を思い出した。 「そら、あなた、椎の木の下にしゃがんでいらしったじゃありませんか」 「あなた団扇をかざして、高い所に立っていた」 「あの絵のとおりでしょう」 「ええ。あのとおりです」  二人は顔を見合わした。もう少しで白山の坂の上へ出る。  向こうから車がかけて来た。黒い帽子かぶって、金縁の眼鏡を掛けて、遠くから見ても色光沢のいい男が乗っている。この車が三四郎の目にはいった時から、車の上の若い紳士は美禰子の方を見つめているらしく思われた。二、三間先へ来ると、車を急にとめた。前掛けを器用にはねのけて、蹴込みから飛び降りたところを見ると、背のすらりと高い細面のりっぱな人であった。髪をきれいにすっている。それでいて、まったく男らしい。 「今まで待っていたけれども、あんまりおそいから迎えに来た」と美禰子のまん前に立った。見おろして笑っている。 「そう、ありがとう」と美禰子も笑って、男の顔を見返したが、その目をすぐ三四郎の方へ向けた。 「どなた」と男が聞いた。 「大学小川さん」と美禰子が答えた。  男は軽く帽子を取って、向こうから挨拶をした。 「はやく行こう。にいさんも待っている」  いいぐあい三四郎追分へ曲がるべき横町の角に立っていた。金はとうとう返さずに別れた。

https://anond.hatelabo.jp/20241002005552

一一

 このごろ与次郎学校文芸協会切符を売って回っている。二、三日かかって、知った者へはほぼ売りつけた様子である与次郎それから知らない者をつかまえることにした。たいていは廊下でつかまえる。するとなかなか放さない。どうかこうか、買わせてしまう。時には談判中にベルが鳴って取り逃すこともある。与次郎はこれを時利あらずと号している。時には相手が笑っていて、いつまでも要領を得ないことがある。与次郎はこれを人利あらずと号している。ある時便所から出て来た教授をつかまえた。その教授ハンケチで手をふきながら、今ちょっとと言ったまま急いで図書館はいってしまった。それぎりけっして出て来ない。与次郎はこれを――なんとも号しなかった。後影を見送って、あれは腸カタルに違いないと三四郎に教えてくれた。

 与次郎切符販売方を何枚頼まれたのかと聞くと、何枚でも売れるだけ頼まれたのだと言う。あまり売れすぎて演芸場はいりきれない恐れはないかと聞くと、少しはあると言う。それでは売ったあとで困るだろうと念をおすと、なに大丈夫だ、なかに義理で買う者もあるし、事故で来ないのもあるし、それからカタルも少しはできるだろうと言って、すましている。

 与次郎切符を売るところを見ていると、引きかえに金を渡す者からはむろん即座に受け取るが、そうでない学生にはただ切符だけ渡している。気の小さい三四郎が見ると、心配になるくらい渡して歩く。あとから思うとおりお金が寄るかと聞いてみると、むろん寄らないという答だ。几帳面わずか売るよりも、だらしなくたくさん売るほうが、大体のうえにおいて利益からこうすると言っている。与次郎はこれをタイムス社が日本百科全書を売った方法比較している。比較だけはりっぱに聞こえたが、三四郎はなんだか心もとなく思った。そこで一応与次郎に注意した時に、与次郎の返事はおもしろかった。

相手東京帝国大学学生だよ」

いくら学生だって、君のように金にかけるとのん気なのが多いだろう」

「なに善意に払わないのは、文芸協会のほうでもやかましくは言わないはずだ。どうせいくら切符が売れたって、とどのつまり協会借金になることは明らかだから

 三四郎は念のため、それは君の意見か、協会意見かとただしてみた。与次郎は、むろんぼくの意見であって、協会意見であるとつごうのいいことを答えた。

 与次郎の説を聞くと、今度は演芸会を見ない者は、まるでばかのような気がする。ばかのような気がするまで与次郎講釈をする。それが切符を売るためだか、じっさい演芸会を信仰しているためだか、あるいはただ自分の景気をつけて、かねて相手の景気をつけ、次いでは演芸会の景気をつけて、世上一般空気をできるだけにぎやかにするためだか、そこのところがちょっと明晰に区別が立たないものから相手はばかのような気がするにもかかわらず、あまり与次郎の感化をこうむらない。

 与次郎第一に会員の練習に骨を折っている話をする。話どおりに聞いていると、会員の多数は、練習の結果として、当日前に役に立たなくなりそうだ。それから背景の話をする。その背景が大したもので、東京にいる有為青年画家をことごとく引き上げて、ことごとく応分の技倆を振るわしたようなことになる。次に服装の話をする。その服装が頭から足の先まで故実ずくめにでき上がっている。次に脚本の話をする。それが、みんな新作で、みんなおもしろい。そのほかいくらでもある。

 与次郎広田先生原口さんに招待券を送ったと言っている。野々宮兄妹と里見兄妹には上等の切符を買わせたと言っている。万事が好都合だと言っている。三四郎与次郎のために演芸万歳を唱えた。

 万歳を唱える晩、与次郎三四郎下宿へ来た。昼間とはうって変っている。堅くなって火鉢そばへすわって寒い寒いと言う。その顔がただ寒いのではないらしい。はじめは火鉢へ乗りかかるように手をかざしていたが、やがて懐手になった。三四郎与次郎の顔を陽気にするために、机の上のランプを端から端へ移した。ところが与次郎は顎をがっくり落して、大きな坊主頭だけを黒く灯に照らしている。いっこうさえない。どうかしたかと聞いた時に、首をあげてランプを見た。

「この家ではまだ電気を引かないのか」と顔つきにはまったく縁のないことを聞いた。

「まだ引かない。そのうち電気にするつもりだそうだ。ランプは暗くていかんね」と答えていると、急に、ランプのことは忘れたとみえて、

「おい、小川、たいへんな事ができてしまった」と言いだした。

 一応理由を聞いてみる。与次郎は懐から皺だらけの新聞を出した。二枚重なっている。その一枚をはがして、新しく畳み直して、ここを読んでみろと差しつけた。読むところを指の頭で押えている。三四郎は目をランプのそばへ寄せた。見出し大学の純文科とある

 大学外国文学科は従来西洋人担当で、当事者はいっさいの授業を外国教師に依頼していたが、時勢の進歩と多数学生の希望に促されて、今度いよいよ本邦人講義必須課目として認めるに至った。そこでこのあいだじゅうから適当人物を人選中であったが、ようやく某氏に決定して、近々発表になるそうだ。某氏は近き過去において、海外留学の命を受けたことのある秀才から至極適任だろうという内容である

広田先生じゃなかったんだな」と三四郎与次郎を顧みた。与次郎はやっぱり新聞の上を見ている。

「これはたしかなのか」と三四郎がまた聞いた。

「どうも」と首を曲げたが、「たいてい大丈夫だろうと思っていたんだがな。やりそくなった。もっともこの男がだいぶ運動をしているという話は聞いたこともあるが」と言う。

しかしこれだけじゃ、まだ風説じゃないか。いよいよ発表になってみなければわからないのだから

「いや、それだけならむろんかまわない。先生関係したことじゃないから、しかし」と言って、また残りの新聞を畳み直して、標題を指の頭で押えて、三四郎の目の下へ出した。

 今度の新聞にもほぼ同様の事が載っている。そこだけはべつだんに新しい印象を起こしようもないが、そのあとへ来て、三四郎は驚かされた。広田先生がたいへんな不徳義漢のように書いてある。十年間語学教師をして、世間には杳として聞こえない凡材のくせに、大学で本邦人外国文学講師を入れると聞くやいなや、急にこそこそ運動を始めて、自分の評判記を学生間に流布した。のみならずその門下生をして「偉大なる暗闇」などという論文を小雑誌に草せしめた。この論文零余子なる匿名のもとにあらわれたが、じつは広田の家に出入する文科大学小川三四郎なるものの筆であることまでわかっている。と、とうとう三四郎名前が出て来た。

 三四郎は妙な顔をして与次郎を見た。与次郎はまえから三四郎の顔を見ている。二人ともしばらく黙っていた。やがて、三四郎が、

「困るなあ」と言った。少し与次郎を恨んでいる。与次郎は、そこはあまりかまっていない。

「君、これをどう思う」と言う。

「どう思うとは」

「投書をそのまま出したに違いない。けっして社のほうで調べたものじゃない。文芸時評の六号活字の投書にこんなのが、いくらでも来る。六号活字ほとんど罪悪のかたまりだ。よくよく探ってみると嘘が多い。目に見えた嘘をついているのもある。なぜそんな愚な事をやるかというとね、君。みんな利害問題動機になっているらしい。それでぼくが六号活字を受持っている時には、性質のよくないのは、たいてい屑籠へ放り込んだ。この記事もまったくそれだね。反対運動の結果だ」

「なぜ、君の名が出ないで、ぼくの名が出たものだろうな」

 与次郎は「そうさ」と言っている。しばらくしてから

「やっぱり、なんだろう。君は本科生でぼくは選科生だからだろう」と説明した。けれども三四郎には、これが説明にもなんにもならなかった。三四郎は依然として迷惑である

「ぜんたいぼくが零余子なんてけちな号を使わずに、堂々と佐々木与次郎署名しておけばよかった。じっさいあの論文佐々木与次郎以外に書ける者は一人もないんだからなあ」

 与次郎はまじめである三四郎に「偉大なる暗闇」の著作権を奪われて、かえって迷惑しているのかもしれない。三四郎はばかばかしくなった。

「君、先生に話したか」と聞いた。

「さあ、そこだ。偉大なる暗闇の作者なんか、君だって、ぼくだって、どちらだってかまわないが、こと先生人格関係してくる以上は、話さずにはいられない。ああい先生から、いっこう知りません、何か間違いでしょう、偉大なる暗闇という論文雑誌に出ましたが、匿名です、先生の崇拝者が書いたものですから安心なさいくらいに言っておけば、そうかで、すぐ済んでしまうわけだが、このさいそうはいかん。どうしたってぼくが責任を明らかにしなくっちゃ。事がうまくいって、知らん顔をしているのは、心持ちがいいが、やりそくなって黙っているのは不愉快でたまらない。第一自分が事を起こしておいて、ああいう善良な人を迷惑状態に陥らして、それで平気に見物がしておられるものじゃない。正邪曲直なんてむずかしい問題は別として、ただ気の毒で、いたわしくっていけない」

 三四郎ははじめて与次郎を感心な男だと思った。

先生新聞を読んだんだろうか」

「家へ来る新聞にゃない。だからぼくも知らなかった。しか先生学校へ行っていろいろな新聞を見るからね。よし先生が見なくってもだれか話すだろう」

「すると、もう知ってるな」

「むろん知ってるだろう」

「君にはなんとも言わないか

「言わない。もっともろくに話をする暇もないんだから、言わないはずだが。このあいから演芸会の事でしじゅう奔走しているものから――ああ演芸会も、もういやになった。やめてしまおうかしらん。おしろいをつけて、芝居なんかやったって、何がおもしろものか」

先生に話したら、君、しかられるだろう」

しかられるだろう。しかられるのはしかたがないが、いかにも気の毒でね。よけいな事をして迷惑をかけてるんだから。――先生道楽のない人でね。酒は飲まず、煙草は」と言いかけたが途中でやめてしまった。先生哲学を鼻から煙にして吹き出す量は月に積もると、莫大なものである

煙草だけはかなりのむが、そのほかになんにもないぜ。釣りをするじゃなし、碁を打つじゃなし、家庭の楽しみがあるじゃなし。あれがいちばんいけない。子供でもあるといいんだけれども。じつに枯淡だからなあ」

 与次郎はそれで腕組をした。

「たまに、慰めようと思って、少し奔走すると、こんなことになるし。君も先生の所へ行ってやれ」

「行ってやるどころじゃない。ぼくにも多少責任があるから、あやまってくる」

「君はあやまる必要はない」

「じゃ弁解してくる」

 与次郎はそれで帰った。三四郎は床にはいってからたびたび寝返りを打った。国にいるほうが寝やす心持ちがする。偽りの記事――広田先生――美禰子――美禰子を迎えに来て連れていったりっぱな男――いろいろの刺激がある。

 夜中からぐっすり寝た。いつものように起きるのが、ひどくつらかった。顔を洗う所で、同じ文科の学生に会った。顔だけは互いに見知り合いである。失敬という挨拶のうちに、この男は例の記事を読んでいるらしく推した。しかし先方ではむろん話頭を避けた。三四郎も弁解を試みなかった。

 暖かい汁の香をかいでいる時に、また故里の母から書信に接した。また例のごとく、長かりそうだ。洋服を着換えるのがめんどうだから、着たままの上へ袴をはいて、懐へ手紙を入れて、出る。戸外は薄い霜で光った。

 通りへ出ると、ほとんど学生ばかり歩いている。それが、みな同じ方向へ行く。ことごとく急いで行く。寒い往来は若い男の活気でいっぱいになる。そのなかに霜降り外套を着た広田先生の長い影が見えた。この青年の隊伍に紛れ込んだ先生は、歩調においてすでに時代錯誤である。左右前後比較するとすこぶる緩漫に見える。先生の影は校門のうちに隠れた。門内に大きな松がある。巨大の傘のように枝を広げて玄関をふさいでいる。三四郎の足が門前まで来た時は、先生の影がすでに消えて、正面に見えるものは、松と、松の上にある時計台ばかりであった。この時計台時計は常に狂っている。もしくは留まっている。

 門内をちょっとのぞきこんだ三四郎は、口の中で「ハイドリオタフヒア」という字を二度繰り返した。この字は三四郎の覚えた外国語のうちで、もっとも長い、またもっともむずかしい言葉の一つであった。意味はまだわからない。広田先生に聞いてみるつもりでいる。かつて与次郎に尋ねたら、おそらくダーターファブラのたぐいだろうと言っていた。けれども三四郎からみると二つのあいだにはたいへんな違いがある。ダーターファブラはおどるべき性質のものと思える。ハイドリオタフヒアは覚えるのにさえ暇がいる。二へん繰り返すと歩調がおのずから緩漫になる。広田先生の使うために古人が作っておいたような音がする。

 学校へ行ったら、「偉大なる暗闇」の作者として、衆人の注意を一身に集めている気色がした。戸外へ出ようとしたが、戸外は存外寒いから廊下にいた。そうして講義あいだに懐から母の手紙を出して読んだ。

 この冬休みには帰って来いと、まるで熊本にいた当時と同様な命令がある。じつは熊本にいた時分にこんなことがあった。学校休みになるか、ならないのに、帰れという電報が掛かった。母の病気に違いないと思い込んで、驚いて飛んで帰ると、母のほうではこっちに変がなくって、まあ結構だったといわぬばかりに喜んでいる。訳を聞くと、いつまで待っていても帰らないから、お稲荷様へ伺いを立てたら、こりゃ、もう熊本をたっているという御託宣であったので、途中でどうかしはせぬだろうかと非常に心配していたのだと言う。三四郎はその当時を思いだして、今度もまた伺いを立てられることかと思った。しか手紙にはお稲荷様のことは書いてない。ただ三輪田のお光さんも待っていると割注みたようなものがついている。お光さんは豊津の女学校をやめて、家へ帰ったそうだ。またお光さんに縫ってもらった綿入れが小包で来るそうだ。大工の角三が山で賭博を打って九十八円取られたそうだ。――そのてんまつが詳しく書いてある。めんどうだからいかげんに読んだ。なんでも山を買いたいという男が三人連で入り込んで来たのを、角三が案内をして、山を回って歩いているあいだに取られてしまったのだそうだ。角三は家へ帰って、女房にいつのまに取られたかからないと弁解した。すると、女房がそれじゃお前さん眠り薬でもかがされたんだろうと言ったら、角三が、うんそういえばなんだかかいだようだと答えたそうだ。けれども村の者はみんな賭博をして巻き上げられたと評判している。いなかでもこうだから東京にいるお前なぞは、本当によく気をつけなくてはいけないという訓誡がついている。

 長い手紙を巻き収めていると、与次郎そばへ来て、「やあ女の手紙だな」と言った。ゆうべよりは冗談をいうだけ元気がいい。三四郎は、

「なに母からだ」と、少しつまらなそうに答えて、封筒ごと懐へ入れた。

里見お嬢さんからじゃないのか」

「いいや」

「君、里見お嬢さんのことを聞いたか

「何を」と問い返しているところへ、一人の学生が、与次郎に、演芸会の切符をほしいという人が階下に待っていると教えに来てくれた。与次郎はすぐ降りて行った。

 与次郎はそれなり消えてなくなった。いくらつらまえようと思っても出て来ない。三四郎はやむをえず精出して講義を筆記していた。講義が済んでから、ゆうべの約束どおり広田先生の家へ寄る。相変らず静かである先生茶の間に長くなって寝ていた。ばあさんに、どうかなすったのかと聞くと、そうじゃないのでしょう、ゆうべあまりおそくなったので、眠いと言って、さっきお帰りになると、すぐに横におなりなすったのだと言う。長いからだの上に小夜着が掛けてある。三四郎は小さな声で、またばあさんに、どうして、そうおそくなったのかと聞いた。なにいつでもおそいのだが、ゆうべのは勉強じゃなくって、佐々木さんと久しくお話をしておいでだったという答である勉強佐々木に代ったから、昼寝をする説明にはならないが、与次郎が、ゆうべ先生に例の話をした事だけはこれで明瞭になった。ついでに与次郎が、どうしかられたかを聞いておきたいのだが、それはばあさんが知ろうはずがないし、肝心の与次郎学校で取り逃してしまたかしかたがない。きょうの元気のいいところをみると、大した事件にはならずに済んだのだろう。もっと与次郎心理現象はとうてい三四郎にはわからないのだから、じっさいどんなことがあったか想像はできない。

 三四郎は長火鉢の前へすわった。鉄瓶がちんちん鳴っている。ばあさんは遠慮をして下女部屋へ引き取った。三四郎はあぐらをかいて、鉄瓶に手をかざして、先生の起きるのを待っている。先生は熟睡している。三四郎は静かでいい心持ちになった。爪で鉄瓶をたたいてみた。熱い湯を茶碗についでふうふう吹いて飲んだ。先生は向こうをむいて寝ている。二、三日まえに頭を刈ったとみえて、髪がはなはだ短かい。髭のはじが濃く出ている。鼻も向こうを向いている。鼻の穴がすうすう言う。安眠だ。

 三四郎は返そうと思って、持って来たハイドリオタフヒアを出して読みはじめた。ぽつぽつ拾い読みをする。なかなかわからない。墓の中に花を投げることが書いてある。ローマ人薔薇を affect すると書いてある。なんの意味だかよく知らないが、おおかた好むとでも訳するんだろうと思った。ギリシア人は Amaranth を用いると書いてある。これも明瞭でない。しか花の名には違いない。それから少しさきへ行くと、まるでわからなくなった。ページから目を離して先生を見た。まだ寝ている。なんでこんなむずかしい書物自分に貸したものだろうと思った。それから、このむずかしい書物が、なぜわからないながらも、自分の興味をひくのだろうと思った。最後広田先生は必竟ハイドリオタフヒアだと思った。

2024-10-01

与次郎用事というのはこうである。――今夜の会自分たちの科の不振の事をしきりに慨嘆するから三四郎もいっしょに慨嘆しなくってはいけないんだそうだ。不振事実であるからほかの者も慨嘆するにきまっている。それから、おおぜいいっしょに挽回策を講ずることとなる。なにしろ適当日本人を一人大学に入れるのが急務だと言い出す。みんなが賛成する。当然だから賛成するのはむろんだ。次にだれがよかろうという相談に移る。その時広田先生の名を持ち出す。その時三四郎与次郎に口を添えて極力先生賞賛しろという話である。そうしないと、与次郎広田食客だということを知っている者が疑いを起こさないともかぎらない。自分は現に食客なんだから、どう思われてもかまわないが、万一煩い広田先生に及ぶようではすまんことになる。もっともほかに同志が三、四人はいから大丈夫だが、一人でも味方は多いほうが便利だから三四郎もなるべくしゃべるにしくはないとの意見である。さていよいよ衆議一決の暁は、総代を選んで学長の所へ行く、また総長の所へ行く。もっとも今夜中にそこまでは運ばないかもしれない。また運ぶ必要もない。そのへんは臨機応変である。……  与次郎はすこぶる能弁である。惜しいことにその能弁がつるつるしているので重みがない。あるところへゆくと冗談をまじめに講義しているかと疑われる。けれども本来性質のいい運動から三四郎もだいたいのうえにおいて賛成の意を表した。ただその方法が少しく細工に落ちておもしろくないと言った。その時与次郎は往来のまん中へ立ち留まった。二人はちょうど森川町神社鳥居の前にいる。 「細工に落ちるというが、ぼくのやる事は自然の手順が狂わないようにあらかじめ人力で装置するだけだ。自然にそむいた没分暁の事を企てるのとは質が違う。細工だってかまわん。細工が悪いのではない。悪い細工が悪いのだ」  三四郎はぐうの音も出なかった。なんだか文句があるようだけれども、口へ出てこない。与次郎の言いぐさのうちで、自分がまだ考えていなかった部分だけがはっきり頭へ映っている。三四郎はむしろそのほうに感服した。 「それもそうだ」とすこぶる曖昧な返事をして、また肩を並べて歩きだした。正門をはいると、急に目の前が広くなる。大きな建物が所々に黒く立っている。その屋根がはっきり尽きる所から明らかな空になる。星がおびただしく多い。 「美しい空だ」と三四郎が言った。与次郎も空を見ながら、一間ばかり歩いた。突然、 「おい、君」と三四郎を呼んだ。三四郎はまたさっきの話の続きかと思って「なんだ」と答えた。 「君、こういう空を見てどんな感じを起こす」  与次郎に似合わぬことを言った。無限とか永久かいう持ち合わせの答はいくらでもあるが、そんなことを言うと与次郎に笑われると思って三四郎は黙っていた。 「つまらんなあ我々は。あしたから、こんな運動をするのはもうやめにしようかしら。偉大なる暗闇を書いてもなんの役にも立ちそうにもない」 「なぜ急にそんな事を言いだしたのか」 「この空を見ると、そういう考えになる。――君、女にほれたことがあるか」  三四郎は即答ができなかった。 「女は恐ろしいものだよ」と与次郎が言った。 「恐ろしいものだ、ぼくも知っている」と三四郎も言った。すると与次郎が大きな声で笑いだした。静かな夜の中でたいへん高く聞こえる。 「知りもしないくせに。知りもしないくせに」  三四郎憮然としていた。 「あすもよい天気だ。運動会はしあわせだ。きれいな女がたくさん来る。ぜひ見にくるがいい」  暗い中を二人は学生集会所の前まで来た。中には電燈が輝いている。  木造廊下を回って、部屋へはいると、そうそう来た者は、もうかたまっている。そのかたまりが大きいのと小さいのと合わせて三つほどある。なかには無言で備え付けの雑誌新聞を見ながら、わざと列を離れているのもある。話は方々に聞こえる。話の数はかたまりの数より多いように思われる。しかしわあいにおちついて静かである煙草の煙のほうが猛烈に立ち上る。  そのうちだんだん寄って来る。黒い影が闇の中から吹きさらしの廊下の上へ、ぽつりと現われると、それが一人一人に明るくなって、部屋の中へはいって来る。時には五、六人続けて、明るくなることもある。が、やがて人数はほぼそろった。  与次郎は、さっきから煙草の煙の中を、しきりにあちこちと往来していた。行く所で何か小声に話している。三四郎は、そろそろ運動を始めたなと思ってながめていた。  しばらくすると幹事が大きな声で、みんなに席へ着けと言う。食卓はむろん前から用意ができていた。みんな、ごたごたに席へ着いた。順序もなにもない。食事は始まった。  三四郎熊本赤酒ばかり飲んでいた。赤酒というのは、所でできる下等な酒である熊本学生はみんな赤酒を飲む。それが当然と心得ている。たまたま飲食店へ上がれば牛肉である。その牛肉屋の牛が馬肉かもしれないという嫌疑がある。学生は皿に盛った肉を手づかみにして、座敷の壁へたたきつける。落ちれば牛肉で、ひっつけば馬肉だという。まるで呪みたような事をしていた。その三四郎にとって、こういう紳士的な学生親睦会は珍しい。喜んでナイフフォークを動かしていた。そのあいだにはビールをさかんに飲んだ。 「学生集会所の料理はまずいですね」と三四郎に隣にすわった男が話しかけた。この男は頭を坊主に刈って、金縁の眼鏡をかけたおとなしい学生であった。 「そうですな」と三四郎は生返事をした。相手与次郎なら、ぼくのようないなか者には非常にうまいと正直なところをいうはずであったが、その正直がかえって皮肉に聞こえると悪いと思ってやめにした。するとその男が、 「君はどこの高等学校ですか」と聞きだした。 「熊本です」 「熊本ですか。熊本にはぼくの従弟もいたが、ずいぶんひどい所だそうですね」 「野蛮な所です」  二人が話していると、向こうの方で、急に高い声がしだした。見ると与次郎が隣席の二、三人を相手に、しきりに何か弁じている。時々ダーターファブラと言う。なんの事だかわからない。しか与次郎相手は、この言葉を聞くたびに笑いだす。与次郎ますます得意になって、ダーターファブラ我々新時代青年は……とやっている。三四郎の筋向こうにすわっていた色の白い品のいい学生が、しばらくナイフの手を休めて、与次郎の連中をながめていたが、やがて笑いながら Il a le diable au corps(悪魔が乗り移っている)と冗談半分にフランス語を使った。向こうの連中にはまったく聞こえなかったとみえて、この時ビールのコップが四つばかり一度に高く上がった。得意そうに祝盃をあげている。 「あの人はたいへんにぎやかな人ですね」と三四郎の隣の金縁眼鏡をかけた学生が言った。 「ええ。よくしゃべります」 「ぼくはいつか、あの人に淀見軒でライスカレーをごちそうになった。まるで知らないのに、突然来て、君淀見軒へ行こうって、とうとう引っ張っていって……」  学生ハハハと笑った。三四郎は、淀見軒で与次郎からライスカレーをごちそうになったもの自分ばかりではないんだなと悟った。  やがてコーヒーが出る。一人が椅子を離れて立った。与次郎が激しく手をたたくと、ほかの者もたちまち調子を合わせた。  立った者は、新しい黒の制服を着て、鼻の下にもう髭をはやしている。背がすこぶる高い。立つには恰好のよい男である演説いたことを始めた。  我々が今夜ここへ寄って、懇親のために、一夕の歓をつくすのは、それ自身において愉快な事であるが、この懇親が単に社交上の意味ばかりでなく、それ以外に一種重要な影響を生じうると偶然ながら気がついたら自分は立ちたくなった。この会合ビールに始まってコーヒーに終っている。まったく普通会合であるしかしこのビールを飲んでコーヒーを飲んだ四十人近くの人間普通人間ではない。しかもそのビールを飲み始めてからコーヒーを飲み終るまでのあいだに、すでに自己運命の膨脹を自覚しえた。  政治自由を説いたのは昔の事である言論の自由を説いたのも過去の事である自由とは単にこれらの表面にあらわれやす事実のために専有されべき言葉ではない。我ら新時代青年は偉大なる心の自由を説かねばならぬ時運に際会したと信ずる。  我々は古き日本の圧迫に堪ええぬ青年である。同時に新しき西洋の圧迫にも堪ええぬ青年であるということを、世間に発表せねばいられぬ状況のもとに生きている。新しき西洋の圧迫は社会の上においても文芸の上においても、我ら新時代青年にとっては古き日本の圧迫と同じく、苦痛である。  我々は西洋文芸研究する者であるしか研究はどこまでも研究である。その文芸のもとに屈従するのとは根本的に相違がある。我々は西洋文芸にとらわれんがために、これを研究するのではない。とらわれたる心を解脱せしめんがために、これを研究しているのである。この方便に合せざる文芸はいかなる威圧のもとにしいらるるとも学ぶ事をあえてせざるの自信と決心とを有している。  我々はこの自信と決心とを有するの点において普通人間とは異なっている。文芸技術でもない、事務でもない。より多く人生根本義に触れた社会原動力である。我々はこの意味において文芸研究し、この意味において如上の自信と決心とを有し、この意味において今夕の会合一般以上の重大なる影響を想見するのである。  社会は激しく動きつつある。社会産物たる文芸もまた動きつつある。動く勢いに乗じて、我々の理想どおりに文芸を導くためには、零細なる個人を団結して、自己運命を充実し発展し膨脹しなくてはならぬ。今夕のビールコーヒーは、かかる隠れたる目的を、一歩前に進めた点において、普通ビールコーヒーよりも百倍以上の価ある尊きビールコーヒーである。  演説意味ざっとこんなものである演説が済んだ時、席にあった学生はことごとく喝采した。三四郎もっとも熱心なる喝采者の一人であった。すると与次郎が突然立った。 「ダーターファブラ、シェクスピヤの使った字数が何万字だの、イブセンの白髪の数が何千本だのと言ってたってしかたがない。もっともそんなばかげた講義を聞いたってとらわれる気づかいはないか大丈夫だが、大学に気の毒でいけない。どうしても新時代青年を満足させるような人間を引っ張って来なくっちゃ。西洋人じゃだめだ。第一幅がきかない。……」  満堂はまたことごとく喝采した。そうしてことごとく笑った。与次郎の隣にいた者が、 「ダーターファブラのために祝盃をあげよう」と言いだした。さっき演説をした学生がすぐに賛成した。あいにくビールがみな空である。よろしいと言って与次郎はすぐ台所の方へかけて行った。給仕が酒を持って出る。祝盃をあげるやいなや、 「もう一つ。今度は偉大なる暗闇のために」と言った者がある。与次郎の周囲にいた者は声を合して、アハハと笑った。与次郎は頭をかいている。  散会の時刻が来て、若い男がみな暗い夜の中に散った時に、三四郎与次郎に聞いた。 「ダーターファブラとはなんの事だ」 「ギリシア語だ」  与次郎はそれよりほかに答えなかった。三四郎もそれよりほかに聞かなかった。二人は美しい空をいただいて家に帰った。  あくる日は予想のごとく好天気である。今年は例年より気候がずっとゆるんでいる。ことさらきょうは暖かい三四郎は朝のうち湯に行った。閑人の少ない世の中だから、午前はすこぶるすいている。三四郎は板の間にかけてある三越呉服店看板を見た。きれいな女がかいてある。その女の顔がどこか美禰子に似ている。よく見ると目つきが違っている。歯並がわからない。美禰子の顔でもっと三四郎を驚かしたものは目つきと歯並である与次郎の説によると、あの女は反っ歯の気味だから、ああしじゅう歯が出るんだそうだが、三四郎にはけっしてそうは思えない。……  三四郎は湯につかってこんな事を考えていたので、からだのほうはあまりわずに出た。ゆうべから急に新時代青年という自覚が強くなったけれども、強いのは自覚だけで、からだのほうはもとのままである休みになるとほかの者よりずっと楽にしている。きょうは昼から大学陸上運動会を見に行く気である。  三四郎は元来あまり運動好きではない。国にいるとき兎狩りを二、三度したことがある。それから高等学校の端艇競漕の時に旗振りの役を勤めたことがある。その時青と赤と間違えて振ってたいへん苦情が出た。もっとも決勝の鉄砲を打つ係りの教授鉄砲を打ちそくなった。打つには打ったが音がしなかった。これが三四郎のあわてた原因である。それより以来三四郎運動会へ近づかなかった。しかしきょうは上京以来はじめての競技会だから、ぜひ行ってみるつもりである与次郎もぜひ行ってみろと勧めた。与次郎の言うところによると競技より女のほうが見にゆ価値があるのだそうだ。女のうちには野々宮さんの妹がいるだろう。野々宮さんの妹といっしょに美禰子もいるだろう。そこへ行って、こんちわとかなんとか挨拶をしてみたい。  昼過ぎになったから出かけた。会場の入口運動場の南のすみにある。大きな日の丸イギリス国旗が交差してある。日の丸は合点がいくが、イギリス国旗はなんのためだかからない。三四郎日英同盟のせいかとも考えた。けれども日英同盟大学陸上運動会とは、どういう関係があるか、とんと見当がつかなかった。  運動場は長方形の芝生である。秋が深いので芝の色がだいぶさめている。競技を見る所は西側にある。後に大きな築山をいっぱいに控えて、前は運動場の柵で仕切られた中へ、みんなを追い込むしかけになっている。狭いわりに見物人が多いのではなはだ窮屈である。さいわい日和がよいので寒くはない。しか外套を着ている者がだいぶある。その代り傘をさして来た女もある。  三四郎失望したのは婦人席が別になっていて、普通人間には近寄れないことであった。それからフロックコートや何か着た偉そうな男がたくさん集って、自分が存外幅のきかないようにみえたことであった。新時代青年をもってみずからおる三四郎は少し小さくなっていた。それでも人と人との間から婦人席の方を見渡すことは忘れなかった。横からからよく見えないが、ここはさすがにきれいである。ことごとく着飾っている。そのうえ遠距離から顔がみんな美しい。その代りだれが目立って美しいということもない。ただ総体総体として美しい。女が男を征服する色である。甲の女が乙の女に打ち勝つ色ではなかった。そこで三四郎はまた失望した。しかし注意したら、どこかにいるだろうと思って、よく見渡すと、はたして前列のいちばん柵に近い所に二人並んでいた。  三四郎は目のつけ所がようやくわかったので、まず一段落告げたような気で、安心していると、たちまち五、六人の男が目の前に飛んで出た。二百メートルの競走が済んだのである決勝点は美禰子とよし子がすわっている真正面で、しかも鼻の先だから、二人を見つめていた三四郎視線のうちにはぜひともこれらの壮漢がはいってくる。五、六人はやがて一二、三人にふえた。みんな呼吸をはずませているようにみえる。三四郎はこれらの学生の態度と自分の態度とを比べてみて、その相違に驚いた。どうして、ああ無分別にかける気になれたものだろうと思った。しか婦人連はことごとく熱心に見ている。そのうちでも美禰子とよし子はもっとも熱心らしい。三四郎自分無分別にかけてみたくなった。一番に到着した者が、紫の猿股をはい婦人席の方を向いて立っている。よく見ると昨夜の親睦会で演説をした学生に似ている。ああ背が高くては一番になるはずである。計測係りが黒板に二十五秒七四と書いた。書き終って、余りの白墨を向こうへなげて、こっちを向いたところを見ると野々宮さんであった。野々宮さんはいつになくまっ黒なフロックを着て、胸に係り員の徽章をつけて、だいぶ人品がいい。ハンケチを出して、洋服の袖を二、三度はたいたが、やがて黒板を離れて、芝生の上を横切って来た。ちょうど美禰子とよし子のすわっているまん前の所へ出た。低い柵の向こう側から首を婦人席の中へ延ばして、何か言っている。美禰子は立った。野々宮さんの所まで歩いてゆく。柵の向こうとこちらで話を始めたように見える。美禰子は急に振り返った。うれしそうな笑いにみちた顔である三四郎は遠くから一生懸命に二人を見守っていた。すると、よし子が立った。また柵のそばへ寄って行く。二人が三人になった。芝生の中では砲丸投げが始まった。

砲丸投げほど力のいるものはなかろう。力のいるわりにこれほどおもしろくないものもたんとない。ただ文字どおり砲丸を投げるのである。芸でもなんでもない。野々宮さんは柵の所で、ちょっとこの様子を見て笑っていた。けれども見物のじゃまになると悪いと思ったのであろう。柵を離れて芝生の中へ引き取った。二人の女も、もとの席へ復した。砲丸は時々投げられている。第一どのくらい遠くまでゆくんだか、ほとんど三四郎にはわからない。三四郎はばかばかしくなった。それでも我慢して立っていた。ようやくのことで片がついたとみえて、野々宮さんはまた黒板へ十一メートル三八と書いた。

 それからまた競走があって、長飛びがあって、その次には槌投げが始まった。三四郎はこの槌投げにいたって、とうとう辛抱がしきれなくなった。運動会めいめいかってに開くべきものである。人に見せべきものではない。あんものを熱心に見物する女はことごとく間違っているとまで思い込んで、会場を抜け出して、裏の築山の所まで来た。幕が張ってあって通れない。引き返して砂利の敷いてある所を少し来ると、会場から逃げた人がちらほら歩いている。盛装した婦人も見える。三四郎はまた右へ折れて、爪先上りを丘のてっぺんまで来た。道はてっぺんで尽きている。大きな石がある。三四郎はその上へ腰をかけて、高い崖の下にある池をながめた。下の運動会場でわあというおおぜいの声がする。

 三四郎はおよそ五分ばかり石へ腰をかけたままぼんやりしていた。やがてまた動く気になったので腰を上げて、立ちながら靴の踵を向け直すと、丘の上りぎわの、薄く色づいた紅葉の間に、さっきの女の影が見えた。並んで丘の裾を通る。

 三四郎は上から、二人を見おろしていた。二人は枝の隙から明らかな日向へ出て来た。黙っていると、前を通り抜けてしまう。三四郎は声をかけようかと考えた。距離があまり遠すぎる。急いで二、三歩芝の上を裾の方へ降りた。降り出すといいぐあいに女の一人がこっちを向いてくれた。三四郎はそれでとまった。じつはこちからまりごきげんをとりたくない。運動会が少し癪にさわっている。

あんな所に……」とよし子が言いだした。驚いて笑っている。この女はどんな陳腐ものを見ても珍しそうな目つきをするように思われる。その代り、いかな珍しいもの出会っても、やはり待ち受けていたような目つきで迎えるかと想像される。だからこの女に会うと重苦しいところが少しもなくって、しかもおちついた感じが起こる。三四郎は立ったまま、これはまったく、この大きな、常にぬれている、黒い眸のおかげだと考えた。

 美禰子も留まった。三四郎を見た。しかしその目はこの時にかぎって何物をも訴えていなかった。まるで高い木をながめるような目であった。三四郎は心のうちで、火の消えたランプを見る心持ちがした。もとの所に立ちすくんでいる。美禰子も動かない。

「なぜ競技を御覧にならないの」とよし子が下から聞いた。

「今まで見ていたんですが、つまらいからやめて来たのです」

 よし子は美禰子を顧みた。美禰子はやはり顔色を動かさない。三四郎は、

「それより、あなたたこそなぜ出て来たんです。たいへん熱心に見ていたじゃありませんか」と当てたような当てないようなことを大きな声で言った。美禰子はこの時はじめて、少し笑った。三四郎にはその笑いの意味がよくわからない。二歩ばかり女の方に近づいた。

「もう宅へ帰るんですか」

 女は二人とも答えなかった。三四郎はまた二歩ばかり女の方へ近づいた。

「どこかへ行くんですか」

「ええ、ちょっと」と美禰子が小さな声で言う。よく聞こえない。三四郎はとうとう女の前まで降りて来た。しかしどこへ行くとも追窮もしないで立っている。会場の方で喝采の声が聞こえる。

高飛びよ」とよし子が言う。「今度は何メートルになったでしょう」

 美禰子は軽く笑ったばかりである三四郎も黙っている。三四郎高飛びに口を出すのをいさぎよしとしないつもりである。すると美禰子が聞いた。

「この上には何かおもしろものがあって?」

 この上には石があって、崖があるばかりであるおもしろものがありようはずがない。

「なんにもないです」

「そう」と疑いを残したように言った。

「ちょいと上がってみましょうか」よし子が、快く言う。

あなた、まだここを御存じないの」と相手の女はおちついて出た。

「いいからいらっしゃいよ」

 よし子は先へ上る。二人はまたついて行った。よし子は足を芝生のはしまで出して、振り向きながら、

「絶壁ね」と大げさな言葉を使った。「サッフォーでも飛び込みそうな所じゃありませんか」

 美禰子と三四郎は声を出して笑った。そのくせ三四郎はサッフォーがどんな所から飛び込んだかよくわからなかった。

あなたも飛び込んでごらんなさい」と美禰子が言う。

「私? 飛び込みましょうか。でもあんまり水がきたないわね」と言いながら、こっちへ帰って来た。

 やがて女二人のあいだに用談が始まった。

あなた、いらしって」と美禰子が言う。

「ええ。あなたは」とよし子が言う。

「どうしましょう」

「どうでも。なんならわたしちょっと行ってくるから、ここに待っていらっしゃい」

「そうね」

 なかなか片づかない。三四郎が聞いてみると、よし子が病院看護婦のところへ、ついでだからちょっと礼に行ってくるんだと言う。美禰子はこの夏自分の親戚が入院していた時近づきになった看護婦を尋ねれば尋ねるのだが、これは必要でもなんでもないのだそうだ。

 よし子は、すなおに気の軽い女だからしまいに、すぐ帰って来ますと言い捨てて、早足に一人丘を降りて行った。止めるほどの必要もなし、いっしょに行くほどの事件でもないので、二人はしぜん後にのこるわけになった。二人の消極な態度からいえば、のこるというより、のこされたかたちにもなる。

 三四郎はまた石に腰をかけた。女は立っている。秋の日は鏡のように濁った池の上に落ちた。中に小さな島がある。島にはただ二本の木がはえている。青い松と薄い紅葉がぐあいよく枝をかわし合って、箱庭の趣がある。島を越して向こう側の突き当りがこんもりとどす黒く光っている。女は丘の上からその暗い木陰を指さした。

「あの木を知っていらしって」と言う。

「あれは椎」

 女は笑い出した。

「よく覚えていらっしゃること」

「あの時の看護婦ですか、あなたが今尋ねようと言ったのは」

「ええ」

「よし子さんの看護婦とは違うんですか」

「違います。これは椎――といった看護婦です」

 今度は三四郎が笑い出した。

「あすこですね。あなたがあの看護婦といっしょに団扇を持って立っていたのは」

 二人のいる所は高く池の中に突き出している。この丘とはまるで縁のない小山が一段低く、右側を走っている。大きな松と御殿一角と、運動会の幕の一部と、なだらかな芝生が見える。

「熱い日でしたね。病院あんまり暑いものから、とうとうこらえきれないで出てきたの。――あなたはまたなんであんな所にしゃがんでいらしったんです」

「熱いからです。あの日ははじめて野々宮さんに会って、それから、あすこへ来てぼんやりしていたのです。なんだか心細くなって」

「野々宮さんにお会いになってから、心細くおなりになったの」

「いいえ、そういうわけじゃない」と言いかけて、美禰子の顔を見たが、急に話頭を転じた。

「野々宮さんといえば、きょうはたいへん働いていますね」

「ええ、珍しくフロックコートをお着になって――ずいぶん御迷惑でしょう。朝から晩までですから

だってだいぶ得意のようじゃありませんか」

「だれが、野々宮さんが。――あなたもずいぶんね」

「なぜですか」

だってまさか運動会の計測係りになって得意になるようなかたでもないでしょう」

 三四郎はまた話頭を転じた。

「さっきあなたの所へ来て何か話していましたね」

「会場で?」

「ええ、運動会の柵の所で」と言ったが、三四郎はこの問を急に撤回したくなった。女は「ええ」と言ったまま男の顔をじっと見ている。少し下唇をそらして笑いかけている。三四郎はたまらなくなった。何か言ってまぎらそうとした時に、女は口を開いた。

あなたはまだこのあいだの絵はがきの返事をくださらないのね」

 三四郎はまごつきながら「あげます」と答えた。女はくれともなんとも言わない。

あなた原口さんという画工を御存じ?」と聞き直した。

「知りません」

「そう」

「どうかしましたか

「なに、その原口さんが、きょう見に来ていらしってね、みんなを写生しているから、私たちも用心しないと、ポンチにかかれるからって、野々宮さんがわざわざ注意してくだすったんです」

 美禰子はそばへ来て腰をかけた。三四郎自分いかにも愚物のような気がした。

「よし子さんはにいさんといっしょに帰らないんですか」

「いっしょに帰ろうったって帰れないわ。よし子さんは、きのうから私の家にいるんですもの

 三四郎はその時はじめて美禰子から野々宮のおっかさんが国へ帰ったということを聞いた。おっかさんが帰ると同時に、大久保を引き払って、野々宮さんは下宿をする、よし子は当分美禰子の家から学校へ通うことに、相談がきまったんだそうである

 三四郎はむしろ野々宮さんの気楽なのに驚いた。そうたやす下宿生活にもどるくらいなら、はじめから家を持たないほうがよかろう。第一鍋、釜、手桶などという世帯道具の始末はどうつけたろうと、よけいなことまで考えたが、口に出して言うほどのことでもないから、べつだんの批評は加えなかった。そのうえ、野々宮さんが一家の主人から、あともどりをして、ふたたび純書生と同様な生活状態に復するのは、とりもなおさず家族制から一歩遠のいたと同じことで、自分にとっては、目前の迷惑を少し長距離へ引き移したような好都合にもなる。その代りよし子が美禰子の家へ同居してしまった。この兄妹は絶えず往来していないと治まらないようにできあがっている。絶えず往来しているうちには野々宮さんと美禰子との関係も次第次第に移ってくる。すると野々宮さんがまたいつなんどき下宿生活永久にやめる時機がこないともかぎらない。

 三四郎は頭のなかに、こういう疑いある未来を、描きながら、美禰子と応対をしている。いっこうに気が乗らない。それを外部の態度だけでも普通のごとくつくろおうとすると苦痛になってくる。そこへうまいあいによし子が帰ってきてくれた。女同志のあいだには、もう一ぺん競技を見に行こうかという相談があったが、短くなりかけた秋の日がだいぶ回ったのと、回るにつれて、広い戸外の肌寒がようやく増してくるので、帰ることに話がきまる。

 三四郎も女連に別れて下宿へもどろうと思ったが、三人が話しながら、ずるずるべったりに歩き出したものから、きわだった挨拶をする機会がない。二人は自分を引っ張ってゆくようにみえる。自分もまた引っ張られてゆきたいような気がする。それで二人にくっついて池の端を図書館の横から、方角違いの赤門の方へ向いてきた。そのとき三四郎は、よし子に向かって、

「お兄いさんは下宿なすったそうですね」と聞いたら、よし子は、すぐ、

「ええ。とうとう。ひとを美禰子さんの所へ押しつけておいて。ひどいでしょう」と同意を求めるように言った。三四郎は何か返事をしようとした。そのまえに美禰子が口を開いた。

「宗八さんのようなかたは、我々の考えじゃわかりませんよ。ずっと高い所にいて、大きな事を考えていらっしゃるんだから」と大いに野々宮さんをほめだした。よし子は黙って聞いている。

 学問をする人がうるさい俗用を避けて、なるべく単純な生活にがまんするのは、みんな研究のためやむをえないんだからしかたがない。野々宮のような外国にまで聞こえるほどの仕事をする人が、普通学生同様な下宿はいっているのも必竟野々宮が偉いからのことで、下宿がきたなければきたないほど尊敬しなくってはならない。――美禰子の野々宮に対する賛辞のつづきは、ざっとこうである

 三四郎赤門の所で二人に別れた。追分の方へ足を向けながら考えだした。――なるほど美禰子の言ったとおりである自分と野々宮を比較してみるとだいぶ段が違う。自分田舎から出て大学はいったばかりである学問という学問もなければ、見識という見識もない。自分が、野々宮に対するほどな尊敬を美禰子から受けえないのは当然である。そういえばなんだか、あの女からかにされているようでもある。さっき、運動会はつまらいから、ここにいると、丘の上で答えた時に、美禰子はまじめな顔をして、この上には何かおもしろものがありますかと聞いた。あの時は気がつかなかったが、いま解釈してみると、故意自分を愚弄した言葉かもしれない。――三四郎は気がついて、きょうまで美禰子の自分に対する態度や言語を一々繰り返してみると、どれもこれもみんな悪い意味がつけられる。三四郎は往来のまん中でまっ赤になってうつむいた。ふと、顔を上げると向こうから与次郎とゆうべの会で演説をした学生が並んで来た。与次郎は首を縦に振ったぎり黙っている。学生帽子をとって礼をしながら、

「昨夜は。どうですか。とらわれちゃいけませんよ」と笑って行き過ぎた。

anond:20241001201601

2024-09-28

貧乳Eカップというものもある

免責

性的不快表現が含まれます

とくに女性は読むときに注意してください。もしくは読まないでください。

貧乳Eカップ?????

貧乳Eカップと言われても理解がおいつかない人間は多いはずだ。

これは女性であってもそうだ。とくにCカップ以下の女性にとってはそうだろう。Eカップ貧乳?なめてんのか??????と。

そう思いたい気持ちもわかる。だが説明する。

俺について

俺は男だ。だが胸についてはいろいろ知っている。少なくとも手を添えたらだいたいわかってしまう。

おっぱいを包んで「D」とか「C」とか言って当てるということをする。ブラホックも片手でサッと外す。まあこれは紳士の嗜みだ。

(ちなみにEカップ以上はホックが3つついていることが多いので、CやDと比べて少しはずしにくい。これで「もしかしてEカップ?」と聞くと目を見開かれることが多い)

俺はたぶん他の女性のことをそんなに知らない女性よりは女性に詳しい(特に性的な部分)。生理あんまり知らない。だが胸に軽いこりを見つけて生理っぽいなと感じ実際正解なことは多々ある。

ちなみにブラのカップを当てても何もいいことはないのであまりやらないほうがいい。

ブラのカップサイズについて

ブラのカップトップバストの長さとアンダーバストの長さの差で決まる。トップというのは乳首からぐるっと体を一周したときの長さで、アンダーは下乳からぐるっと体を一周したときの長さだ。

この「差」でブラのカップが決まる。ここで重要だが、トップバストおっぱい部分だけではない。微小ながら背中や脇まわりの肉まですべて含めてトップバストなのだ。アンダーもそれはそうなのだが。

また、おっぱいはそのトップバストとアンダーバストの差だけで決まるものではない。乳首周り以外の体積のデカさ、それから形の綺麗さなどもある。

トップバストの長さとおっぱいの体積はそりゃ正比例するが、カップが大きければ必ず巨乳というわけではない。

いかおっぱいは体積だ。

太るとおっぱいの体積は増えるし、痩せるおっぱいの体積は減る(だがカップは同じ)

おっぱい理想は「スタイルよく痩せていて、おっぱいデカい」という奇跡のものだ。

だが、理想はなかなかいいか理想なのである

悲劇的なトレードオフだが、太るとおっぱいの体積は増えるし、痩せるおっぱいの体積は減る。

しか痩せるときおっぱいから痩せて、太るときおっぱい最後に太る。なんだぁ????なめてんのか??????

それで、ここで体積と言っているが、体積というのは何もトップバストばかり増えるのではなくアンダーバストの体積も増えるのだ。したがってカップ数は増えないこともある。

カップは変わらないがトップもアンダーも変わるのでブラのサイズは変わる。C65からC70といった具合だ。

太っているとおっぱいデカいが体もデカくなってしまう。カップがすばらしくてもウェストヒップ連携がとれていなければ、おっぱいが大きいと考えにくいのだ。

これはヴェーバー‐フェヒナーの法則だろうか?

服の上から見る胸の大きさは見積もり実態と異なる

見積もりと実際は違う。

これは当たり前の話だ。これが同じだと思っている人はおそらく仕事もできないだろう。何もかも全部だめだ。

パッド。これは人によってどういうものをつけているのか完全に異なる。

巨乳から別に入れてない人、巨乳じゃないから入れてる人、巨乳だけど入れてる人みたいな感じだ。

パッドもパッドで種類があり見せ方が違う。

まり経験のない男は、おそらくAVを見たり、服の上から見て考えているのだろう。あの子Eカップぐらいあるのではないかと。

だが服の上からはむずかしい。本当に。

それにはっきり言ってAVは超デカい。普通に生きていたらあまりいないだろう。俺もGまでしか経験はない。

実際の推定は非常に難しい。着痩せする人もいる。脱いだらデカいのに脱ぐまでわからないという魔法おっぱいだ。

そういうわけで、デカいと思ってたけどそうでもない、そうでもないと思ってたけどデカいというふうになることがある。

まあ、おっぱいというものは奥深い。

あと俺は貧乳には興味はないのでAカップ以下のことは知らない。悪しからず。

ナンパが悪いことみたいな風潮なんなん?

迷惑かけなければいいだけの話なんよ

しかけて断られたりしたら大人しく身を引く

なんなら、断られるにしても応えてくれてありがとうと言って、紳士に去る

それだけの話なんよ

家帰って一人で飯食うよりも、外で人と食って帰ってもいいと思ってる女なんて普通にいるし

それが楽しければ遊びに行ってもいい

男はそうやって経験値積まないと、女の扱い方なんて覚えていかないんだから

経験積まさないまま良い男の振る舞いしろなんて絵空事求めちゃあかん

そんなんだからホストやら金持ちやら経験値積める男に騙されて散々遊ばれて捨てられてさ

男嫌いになって男の悪口ばっかり言ってネット共感得ようとする怪異が生まれちゃうんだよ

もっと寛容になれ

2024-09-23

青山理氏の発言について、解いておかないといけない誤解

「劣等民族」以降、ネット右翼青山理氏の過去暴言を掘り出すムーブを行っているが

コレは端的に言って間違いであり、言論封殺しかないと思うんですよ。

左派リベラルというのは、得てして「現体制への憤り」「体制革新」が原動力になっているんですよ?

常人なら焼き尽くされてしまう程の憤怒を体の奥底に宿し、苦痛に歯を食いしばりながら生きているんですよ。 

彼らリベラルはね

対して、保守右翼というのは「現体制の満足」「現体制継続させる事」が原動力ですからね 

口を開けたら餌が落ちてくる家畜が、怒りを感じる筈がない。 ここまでは皆わかりますよね?

から右派暴言左派暴言は、別物として処理をするべきなんですよ。

背負っているものが全く違うんだから、口から出る言葉の質が違うのは当たり前でしょう。

泣き叫んでいる女性に、まず寄り添って一緒に肩を抱いてあげる紳士になれと言ってるんですよ。

ゴチャゴチャと理屈っぽく「かいけつさく」を提案するような、気色悪い瓶底眼鏡になるなって言う話です。

簡単な話でしょう?

あんな奴らがcolaboや黒人差別して、汚染水中国の人たちを苦しめてるのかと思うと

暗澹たる気持ちになります第二次世界大戦大戦時の併合国への保障が、歴史上一度も無いのは驚くべき事だ。

ナイキやブルアカみたく、性的消費が無く女性安心して遊べる健全ゲーム

今の日本には作ることができないのか? ホント溜息しか出ない

2024-09-19

anond:20240919080437

女の子電車に乗らなくてもいいようにタクシーを拾ってあげてタクシー代として一万円渡してあげるのが正解なんだよね

紳士的な気づかいができる男はモテる

ぶつかってキレる男は非モテ

2024-09-17

風俗行ったら20万ぼられた話

確か2010年くらいの出来事

地方高校卒業してなんとなく地元農業法人就職するも、仕事がきつすぎて1週間で腰を壊して就業困難になり退職。その後数年間は実家寄生し、申し訳程度の日雇いバイトをこなしてなんとなく生活を維持していた頃。東京に進学した仲の良い同級が成人したのを記念にささやかな同級会を開くというので、なけなしの貯金を叩いて東京に向かった。

初めての東京ゴミゴミしていて、人ごみをかき分けて進むだけで気分が悪くなりそうだった。日付の変わる前に同級会は解散し、俺はあてもなく新宿歌舞伎町をひとり歩いていた。その日の宿は決めてなかった。計画性がなく、なんとなくひとりで東京を歩いて感じてみたいと思ったのだ。

当時の歌舞伎町路上で様々なキャッチが横行しており、風俗キャバクラ、怪しげなバー、陽気に突然握手を求めてくるやたらとガタイのいい黒人。今となっては怖いし近寄る気持ちも起きないが、当時の俺には全てが新鮮だった。酒も入って陽気になっていたし、ひとりで大都会しかも深夜に歩いているという田舎者特有の謎の高揚感もあった。次々と声をかけてくるキャッチに逐一応対し、世間話なんかもした。

「お兄さん、AV女優とヤりたくない?」とひとりの紳士が言う。

どんな娘がいるのか聞きただすと、様々な女優名前を挙げ、ここだけの話売り出し中の◯倉まなちゃんも在籍しているのだとか。

親切で礼儀正しい紳士は、俺に3万円ポッキリでAV女優とヤれて、そのまま泊まって行ってもいいと言った。

俺はなかなか良い話だと思った。そう、俺は馬鹿だったのだ。そしてあまり世間知らずで、童貞だった。

気前よく紳士にその場で3万円を渡し、程なく歩いた雑居ビルに案内され、どうみてもヤクザしか見えない受付の男に場所代請求された。キャッチ人間にすでに支払ったことを伝えたが、何かと理由をつけて支払わなければ部屋に通さないと言う。すでに3万円支払って引けなくなっていた俺は、まあそういうこともあるのかなと思い渋々現金を支払った。何より早くヤりたかった。

通された部屋は、二畳分くらいのスペースにネカフェ同然の仕切りにシャワーが付いているだけの構造で、部屋というにはあまりに粗末であった。無論寝具は無くとても泊まれ場所には思えなかった。その時点でだいぶ不安を覚えたが、AV女優とヤれるという一筋の希望を胸にドキドキしながら嬢を待った。

程なくなかなかに年期の入った嬢が登場した。化粧が濃くて部屋の暗さも相待ってよくわからない。少なくともその時点で自分の思い描いていた理想とはほど遠い状況に置かれているのは疑いようが無かった。

言われるままに服を脱がされ、シャワーを浴びさせられる。女性の裸を見ることもおっぱいを触ることも初めての経験だったが、自分の置かれた状況が不安すぎてよく覚えていない。嬢は床にストレッチに使うマットのようなものを敷き、プレイを始める前にとんでもない金額請求してきた。確か15万円(税別)くらいだったような気がする。

俺は混乱し、キャッチ人間にも受付の人間にもお金を支払ったこと、入店する前にキャッチに払った金額プレイ代も宿泊代も含まれているとの説明を受けたこと、そしてそんな金は持っていないことを全裸のまま半泣きで話した。嬢は、しょーがねーなという感じで「うちは高級店なんです。お兄さんも悪いのに捕まっちゃったね。」といったニュアンスのことを言ったと思う。

初めての東京で、暗い雑居ビルの一室で、全裸で床に正座しながらマット越しに全裸の女から法外な金額請求される。部屋の外にはどうみてもヤクザの男が受付にいて、ゴネたら何をされるかわからない恐怖。俺は自分運命を呪った。

田舎最低賃金で地道に働き、初めて得た自分の金。プー太郎自分を気遣って、育苗ハウスビニール掛けのバイトを紹介してくれたおっさん、畑の草刈りで3,000円くれた近所の爺さんの顔が走馬灯のように頭を巡り、彼らが汗水垂らしてコツコツと働いた金が最悪の体験と共に泡となって消えていく現実。暗い雑居ビルの一室で、全裸で涙を流し、どうすることもできない自分が悔しく、たまらなく情け無かった。

その後のことはよく覚えていない。プレイは口でしてもらったはずで、セックスはできなかった。プレイの後は一刻も早くこの地獄のような部屋から脱出したい一心で、帰り際の受付のヤクザクレカできっちりと請求された金額を支払った。

キャッチについていってはいけないこと

風俗は怖い。東京も怖い

全裸は人の判断力を奪う

という教訓を得たが、高すぎる授業料だった。

この一件で懲りたと思いきや、セックスへの憧れを捨てきれない俺は性懲りなく上京するタイミングで何度か試みた。しかし、総じてあまり良い思い出がない。事前によく調べて優良店を選択していれば、もう少しマシな体験ができたのだろうか。

数日前に童貞ソープに行け増田が言っていたので、これを機に誰にも言えない黒歴史放出してみた。童貞は事前によく調べて、この教訓を生かしてほしいと切に願う。ついでに以前書いて、全然まれなかった風俗体験記を晒す。どうか俺の後悔と行き場のない童貞の魂を供養してやってほしい。

出張先でデリヘル呼んだ話

https://anond.hatelabo.jp/20200218090643

anond:20240917002051

でもそれ、ジジィがやられて嬉しいのだろうかっていうね。「ババァ黙れよ」ってならんか?

接客に於ける老婆の役割は「威勢の良さ」くらいなもんだと思うんだけど

まあ、上品に店で上品な老婆が居ると嬉しいけどね。優しい老婆とかね(でもそれは女性若い人が見てそう思うんであって、ジジィはどうなんだろ?)

つーか、ジジィはジジィが居る店に行けばいいと思う。それが出来るのは渋いジジィだと思う

(昔の西洋でも、なんなら日の本でも、紳士は男同士でつるんでいるイメージだ。おっぱい殆ど出ている女子が居る店に行く男はヤサグレ系というイメージ)

でも、現代日本のジジィに「紳士たれ」と言うのは無茶振りが過ぎるか

2024-09-16

好きな人写真コンテンツ力が高すぎる

好きな人から昨日自撮り写真をもらった。ネットで知り合って声と遠目から見た動画だけの情報量だった人が、また一段と私の中でリアル存在になった。

かわいくて優しそうな顔をしている。のに、肩とかはちゃんと男の人だなあと思う。写真を眺めていたら平気で1時間以上経ってて焦った。

顔をちゃんと見たのは初めてな訳だけど、嫌な感じは全くしない。というか多分私はすでに恋愛に脳を焼かれているのでどういう写真が出てきたところで好き♡となってしまうだろうと思う。

最近ほんとに好きな人のことばっかり考えている。やらなきゃいけないことをめちゃくちゃ時短するようになってしまった。

好きな人はきっと今頃資格勉強を頑張ってるだろうにとか、私だけが一方的に好きなのかもなあとか、昨日の会話で嫌われたりしてないだろうかとか、彼から好きですと言ってもらえるのが毎回嬉しすぎるとか、住んでるところが遠すぎるから実際に会うのも難しいよなとか、でも会う前に痩せないといかんとか、会ったとして彼は非常に紳士なのでそういう接触をしようと思わないんじゃなかろうかとか、いやでも私は手とか繋ぎたいですけどとか、そういうことを一生考え続けてしまう。

とりあえず、頑張ってる私が好きですよと好きな人は言ってくれるので、これから作業を頑張ってこようと思う。遅くなったけど。

2024-09-15

令和の都会の暴走族

なんか2年前くらいからやけに夜中うるさく走るバイク集団がいるなと思ってたら最近は毎晩どころか昼間も走ってるし人数も増えているみたい

ここは北関東か?と思うが、そうではない人口ほぼ200万政令指定都市平和住宅街なんだよな

どうしてこうなった

もちろん我が自治体は実質都会などではない田舎であるが、しかしこんなことでそれを証明しなくてもいいだろ

警察署の前も昭和ポップスで回る盆踊りみたいなリズムつけて何回も通り過ぎてるんだけど、おさまるどころかエスカレートしてる

もしかして誰も通報したり苦情を言ったりしてないだけなのかな

くそうるせー、今も走ってる

昨日の昼間初めてその人らとおぼしき姿を見たが、シートの後ろ側をシャチホコみたいに伸ばした改造しててびっくりした

令和にもいるんやな

北関東か?いうか北関東ももうこんな人らいないんじゃないの?

爆音集団タンデムしてエンジンを鳴らしながら走り去って行ったのでまああの人らやろな…とわかった

そのうちの一人はめちゃくちゃ近所に住んでるのが最近わかって、休日どころか平日も1時間半に一回アパートガレージに休憩?に戻ってくるんだけど、どうやら街中の周回コースを決めて何回も何回もぐるぐる回ってるみたい

ガレージにとめてる間もエンジンリズムつけて吹かしてるんだよ、やめてほしい

あれは音を聞くのが楽しいわけ?それとも暴走行為に伴う爆音他人に聞かせて威圧や威嚇が成立してると思い込むことによる愉悦を味わってるわけ?両方か?

そもそもなにしてる人らなんだろう

音には慣れてしまったものの他の街でやるか捕まるか自損事故に遭っていずれ解散してくれと思って家で仕事している

近くにもう一人70年代スタイルが好きなのかな?という感じのバイクライダースーツもすごくクラシックなレーサースタイルバイカーがいるんだけど、その人のバイクはでかくてもすごく静かだ

たまに朝挨拶するが、本人も至って穏やかな紳士である

その人は休みの日に人のいない郊外や山奥に走りに行くんだって

終われば街中には静かに戻ってくるだけ

こういう人とか、安藤なつさんのハーレーみたいなのには嫌悪感ないしむしろかっこいいなと思うのにね

行為に対する主眼の違いか

両者は同じライダーでも目的趣味も違っていて相容れなさそう

あの人もきっと夜中の暴走行為に気づいてると思うけど、どう思ってるんだろうな

マナーのいい喫煙者歩きタバコポイ捨て者を憎むみたいな同族嫌悪事象ってあるのかな

暴走してる人らもぱっと見は普通で、どう見ても25才は超えてそうなんだけどしかあん珍妙暴走行為をしていて、それが令和のいま初めて現れるなんてなんだかもう不思議すぎる

本当にこの辺も治安悪くなったよな

2024-09-12

性犯罪刑罰殺人より重かったとして、何が悪いのか?

10円の窃盗100円の窃盗で前者のほうが重い刑であってはならない。

なぜなら、これらは量的に比較可能から

一方で、人命よりも性的自由貞操価値を重く量ることは全く問題ない。

例えばイランサウジでは涜神を死刑としている。

信仰が命より重いという価値観を否定する合理的根拠は、実は存在しないのだ。

同様に、西側意識硬い系国が人命第一主義を取ることにも、合理性はない。

人命重視といい信仰重視といい、単なる価値信条に過ぎない。

純潔を至上の価値とし、女性保護し、それに命をかけるという神聖義務を男に課して何が悪いのか?

レイプ犯に対して男的価値と女的価値を守るために死刑リンチという聖戦を行って何が悪いのか?

実は、男らしさを失った西側諸国こそが野蛮であり堕落であり、レイプ犯を私刑にするインドナイジェリアこそが高貴であり理性であり紳士なのではないか

男的価値を失った国の極致が、牛角イチャモンつける非モテの腐れチー牛ではないのか?

日本男児堕落から救うためには、過剰人権西側意識高い思想を捨てなければならない。

2024-09-11

anond:20240906193338

とりあえずRPGみたいに自分レベルアップを考えましょう。

あなた交際Lv1の雑魚キャラです。好みをつらつら言ってますが望みなんか一つも叶うはずがありません。

女子モンスターに遭遇もできず出会ってもボコボコにされるか逃走されるだけです。

 

ではどうするかというと初手レンタル彼女パパ活お金を払い女子モンスター相手して頂きましょう。

金払ってるから傲慢になってはいけません。相手をおだて、喜んでもらう事が目標です。

ここでは身だしなみを整える、女性機微に気付く、相手不快にさせないを身につけましょう。

4〜5名の女子モンスター出会い、会話に慣れた所でLv10到達です。

2〜3ヶ月ぐらいかかりますが、イケてる小学生男子レベルになりました!

 

次の手は性交渉です。ハードルが高く感じますが全く逆で、女子モンスターとの交際必須スキルです。

正直大した事はありませんが、激しい運動メンタルに左右される難しい技術にはなります

満たされてる感じは最高なので、最愛の人と楽しんでほしいです。

が、低レベル貴方強敵と合いまみえるために必要スキル習得ですので

素人童貞となってもいいので是非習得してください。

最低10回はこなして雰囲気の作り方、女性の体の扱い方を身につけてくださいね

くれぐれも自分本意にならず相手を思いやり紳士的に行いましょう。

こうなればLv20のリア充男子高校生と同じレベルです。

 

ここから先は自分で道を切り拓きましょう。

相手のことを考えた行動と男らしさを身につけた貴方を多くの女性モンスターは魅力的に感じ心を開きやすくなっています

 

ちなみに月10万ぐらいを1年間ぐらいかけるつもりで挑んでください。

お金をかけないとレベルも装備も整えられず、高レベル女子モンスター出会うことは不可能です。

財布の紐を絞めることも大事ですがケチな男はほぼ嫌われるので悪手と心得てくださいね

2024-09-10

風俗体験記_ピンサロW回転_激安店ver

結論を述べさせて頂く。

激安店のW回転なんて「何が出てくるかわからんぞ」

だ。

諸君も肝に銘じて欲しい

+++++


金があった。

野暮用を済ませた夕方、このまま帰宅してもすることが無いので吸い込まれるようにパチンコ屋に入店

つっても2万持っていないくらいだし、時間時間だし、専業でもなんでもないので台に詳しくないし、

ちと時間が潰せて、ちとお金が増えたらラッキーてなもんでハッピージャグラー勝負することに。

これがとんだ選択ミスで、最高で差枚+2000位の台がプラマイゼロまでモミモミしてしまった。

現行ジャグラーで2万負けたら取り返すのキツイ

諦めて帰ろうか、でも隣のチラ見してくるにーちゃんハイエナされんのは嫌だな。

なんて思いながらダラダラ打ってたら、そこから捲って+1万3千。

これはもう、ピンサロにいくしかないだろうって思ったのです。

時間は22時前、

降って湧いた金、

夕食は済ませてある、

家帰っても攻殻機動隊をhuluで見るだけ。

ならばその前に快楽享受してもいいじゃないか

誰かへの言い訳じゃなく、ごく自然に頭の中へ湧いてでたピュアな思い。

歓楽街ピンサロ直行しました。

W回転とは、女の子が2回転すること。

1プレイ+1プレイハピネス

きったねぇ階段を上って受け付けに鼻息荒くW回転を伝えると1時間待ちとの回答。

まじかー帰りますーって退店。

1時間は待てねぇよ。俺待つの苦手なんだよ。

しっかし移動すんのも怠いなー思ってたら、

そういやこのビルは別階にもピンサロある!突然の閃き。

無意識の俺は辞めろって言ってた。

もう一つの店は激安店だぞ。

すげぇのくるぞ。

辞めとけよ。

しかに言ってた。

だけども俺は理性のある人間から

無意識の声なんて非科学的なやつは信じないから。

頭でごちゃごちゃ考えながら、別階のピンサロで。W回転おなしゃす。

1人目。

知り合いのお母さんそっくりさんが出てきた。

わず目をつぶるくらい似てた。

ある?こんなことある

まあまあおばさんよ。

いいよ脱がなくて。触らない。大丈夫。俺紳士から

裸になった俺はうすぼんやり天井を仰ぐ。

嬢?婆?はめちゃくちゃフレンドリー

聞いてないのにセックスのすばらしさや、自分介護であること、

旦那とのなれそめを話しかけてきた。

OKかにしてくれ。俺は昇天に集中したいんだ。

イクとき声かけろっつーんで、そろそろっすーと合図したら、

オッケー♪みたいな返事が返ってきて笑った。

2人目

こいつがすげぇブスだった。

対応がブス。

W回転?すごいですねー短時間で2回もできるなんて

私は2回お願いされてもフリーの人だと断りますねー

などとのたまう。

こっちはなんも話しかけてないのになんてこった対応ブス。顔は馬。

もうなんも期待してない。

黙って天井ライトを見つめる。

いいよ脱がなくて大丈夫触らない。

馬の撫で方わかんないもん。

しかしかなりのテクニックをお持ちだった。

人参とか飼葉とか咀嚼してっからかな?

初めて位のテクニック出された。

すげぇゆっくりしてくんの。混乱。馬なのに?うまくね?

W回転、お金に余裕があるとチャレンジしては2人目の嬢とはおしゃべりタイムになって

夜の経済を低コストで回している俺が、

いけたのよ。相手馬で対応ブスなのに。

いったあと驚きのあまりめちゃくちゃ上手っすねっつて社交辞令ぶっぱなしたら、

私は私を必要として指名してくれる人の言葉しか信じないんです、だと。

は?何こいつ馬の癖に信念まであんのめんどくさってなった。


ここで冒頭の結論だ。

激安店で何が出てくるかわからないっつーのは、

知り合いのお母さん激似のおしゃべり旦那ありおばさんや

対応ブス顔馬テクニシャンなどが出てくることもあるぞってことだ。

悪いことはいわねぇ。

たくさん金稼いで、

カワイイ彼女作ってくれよな。

2024-09-08

丁寧な態度のアリさんだねえ

紳士だね

紳士アリ(sincerely)

なんつって

ぷぷ

2024-09-07

anond:20240906104134

→これを自分で言う男性を、実際お会いして”紳士的”だと感じたことがありません。経験上一度も。

「言われた」って書いてるやん…

自分で言ってないやん…

2024-09-05

anond:20240905103735

不平不満だらけのメンヘラ女って女の中でもちょっと浮く感じの問題児なんだが

そういう女にばっか惹かれる見る目ない男が結構いるんだよな

支配願望があるモラハラ男なら破れ鍋に綴じ蓋でまあいっかって思うけど、純朴で紳士的だけどちょっと気弱みたいな男に限ってメンヘラ地雷女にのめりこんで潰されてる

かよわくて守ってあげたくなるような女に見えるのかもしれないけど、付き合ってもない男に涙目で甘えてくるような女は自己モンスターだよ

弱そうな女は付き合うまではイージーモードだけどまともなパートナーシップを維持する上ではスーパーハードモードだということに気づいてほしい

ヤリ捨てしない倫理観がある男にはそう簡単に扱いきれるものじゃない

善良でスペックも悪くないのに地雷女ばっか選んで女嫌いになる男見てるとやるせないね

2024-09-02

貴様!が敬語なのもそうだけど

昭和の不良の髪型ってイギリス紳士マネだったんだ。

なんでそうなった

2024-08-29

飼い猫の断脚をした話

タイトルを見た段階で「ゾッ」とした人は多いと思う。すみません

しかしながら、わたし文言を打ち込んで、改めて「ゾッ」とした。

この「ゾッ」という感覚にどうしようもなく支配され、打ちのめされていた時期を、わたしは忘れることができない。

「ゾッ」とした感覚を忘れることはできないが、今、わたし精神的に健康に、明るく過ごせている。

今、わたし精神的に健康で、明るく過ごすことができているのは九分九厘、飼い猫が元気に過ごしてくれているおかげである

そう、飼い猫は現在、とても健康的に過ごしているのだ。

「飼い猫の断脚」から約四か月が経過し、現在の猫の様子も加味して、ようやく「飼い猫の断脚」に対する重圧が軽くなってきた。

そこで、「飼い猫の断脚」についてのあれこれ(事の顛末、断脚前後の猫の様子、それに伴う人間情動の変化、現在の猫の様子など)を、ここに記しておく。

このような活動は、とてもじゃないが精神的な負荷が軽くなければできない。現在とても健康的に暮らしている飼い猫に感謝しながら、この日記を書きたいと思う。

今年十五歳になる飼い猫を、仮に「じじ」と呼ぶことにしよう。

じじは約三年前、様々な理由から実家で面倒を見る人間がいなくなった猫だった。そこで、引き取り手として名乗りを上げたのがわたしの家庭だった。

同居している家族や先住猫は、じじとは殆ど面識がなかった。だが、幸いにも我が家の住人とじじは打ち解けるのが早かった。

じじは我が家にやってきてすぐ、他の猫に交わってリビング中央に横たわり、堂々と眠るようになった。その眠っている横を通りすがるとき、じじの頭をひと撫ですると、尻尾をぱたん、と床に打ち付けて返事をする。

人間に対しての愛想は良い。人間とのコミュニケーションを恐れず、友好的に人間に接する紳士的な態度は客人から気に入られることも多かった。

じじは十歳を過ぎたおじいちゃん、且つニューフェイスにして、瞬く間に我が家アイドルとなった。

だが昨年、十年以上病気知らずのじじに変化が訪れた。

ある日、わたしがじじの歩く後姿を眺めているとき、気がついた。左後脚の関節が、コブができたように腫れ上がっていたのである

町の動物病院へ連れて行ったところ、「うちでは原因を究明できません」と断言され、腫瘍科のある医療センター紹介状を書いてもらった。

医療センター受診した結果、病名はすぐに明らかになった。

じじの体を蝕んでいる病は、悪性リンパ腫だった。所謂リンパ腺のガンである。この病気罹患して一年以上生存するケースは稀らしく、脚の関節に腫瘍ができるケースは更に稀だという。

獣医療の中でもケースが稀ということは、適切な対処がまだ正確に確立されていないということだ。

脚の関節にできている腫瘍は関節を取り囲むようにして癒着しているため、腫瘍のみを切除することは難しいという。

対処としては薬物療法か、放射線治療か、断脚か。前者二つの治療法を実行したとしても、副作用は重い。

いずれにせよ、肥大化した腫瘍を完全に消滅させる見込みはなく、そのままではいずれ歩けなくなることは明らかである。断脚を行うなら早めに。

というのが、主治医見解だった。

※かなり要約したが、主治医徹頭徹尾、いずれかの治療法を強く勧めるようなことは言わなかった。どの治療法にもメリットデメリットがあることをわたしたちにきちんと説明した上で、飼い主がどの治療法を選択するか、丁寧に寄り添い、真摯に向き合ってくれた。

つらい時期だった。

こういった、重い決断が目先に迫った場合に採りがちな「様子見」という選択が、このときばかりはできなかった。

猫の脚を切るか、重い副作用がある治療を猫に受けさせるか、病に蝕まれるままに猫の命が尽きるのを待つか。

いずれも、人間エゴイズムによる選択であることには変わりない。

結局、タイトルにも記した通りの選択をした。断脚を選んだのだ。

主治医から猫ちゃんは三本脚になっても元気な場合が多いです。じじちゃん場合年齢の割に元気ですし、手術を乗り越えれば生存する確率は高いと思います」と告げられたのも、救いの光のように感じられたからだ。

「残りの命を少しでも健康に、楽しく生きてくれるなら」という祈りのような、賭けのような思いで、断脚手術を決断した。

断脚手術を経て、変わり果てたじじが我が家へ戻ってきた。

以前からやせ細っていたじじが、脚が無くなって更に軽くなった3kgの体重を、三本脚で支えながらよぼよぼと歩いている。

便意尿意を催すと真っ直ぐ猫用トイレに行く。とても賢い。だが、ぎこちなく動かすしかない一本の後脚をトイレの中に入れられず、トイレの外で何度も粗相をした。

泣かずには、落ち込まずにはおれなかった。ああ、自分選択を誤ったのかもしれないと、粗相の後片付けをする度に思った。

もちろん、家族も泣いていた。一緒に泣いて、悲しんだ。じじの脚を、自分たちの意志ひとつ無くしてしまたことを、心の底から後悔した。

人間エゴイズムで、愛する猫を不幸にしてしまたかもしれないという現実に「ゾッ」として、それがどうしようもなく全身にこびりついたまま、しばらく剥がれなかった。

ところが、手術から一か月ほど経つと風向きが変わってきた。

じじが、二階にある寝室まで階段を駆け上がってきたのだ。しかも、ジャンプしてベッドの上に乗ってきた。

ニャン!と啼いてベッドに乗り、喉から轟音を鳴らして甘えてきたとき、感動でわたしの体は震えた。

更に、喜ばしいことは日に日に増えていった。

これまで使っていたトイレを、より広く、段差が小さいものに変えたところ、トイレが使いやすくなったらしく粗相の回数が激減した。

痩せたじじの体重を増やすために朝晩猫缶を与えるようになったのだが、味を占めたのか昼夜問わず催促し、三本脚でチョコチョコ人間の後ろを着いて回るようになった。

そして、まんまと体重も増えた。手術前よりもふくふくとしたボディラインになり、猫缶をモリモリ食べる姿が様になってきている。

また今現在、幸いなことに転移なども見つかっていない。

じじが個体として凄かったのか、そもそも猫が凄いのか分からないが、ともあれ、途轍もない適応能力に感心しきりだ。

三本脚にする選択を採り、今までよりも不便な生活にしてしまった後悔や、「断脚」という野蛮な言葉が齎す「ゾッ」という感覚はまだ存在する。

だが、じじは健康に生き延びてくれた。

猫缶をモリモリ食べ、うんちもおしっこ毎日ジャンジャンして、家中を駆け回り、ごはんを催促してニャンニャン大声を出し、寝る前は寝室まで甘えにきて喉をゴロゴロ鳴らす。

じじは十五年間生き延びて、現在でも毎日毎日、元気で健康的な姿を人間に見せてくれている。

その姿は美しく、勇敢で、立派だ。そんな猫の姿を見られていることに、わたしは心から感動している。

今はただ、こんなに嬉しいことはないと、切に思う。

2024-08-28

僕はチー牛

この世のありとあらゆる男の業を背負った悲しいモンスターだよ

まず心得てほしい

僕は全ての女性の敵なんだ

童貞ヤリチンレイプ常習犯だよ

僕は十代かもしれないしもしかしたら六十代の可能性もあるよ

女が大嫌いでモテないし女が大好きでヤリチンだし女に触ったこともないし毎晩女をとっかえひっかえしているよ

コンドームなんて知らないね使う相手がいないし相手がいるけど使わないよ

セックスしてもセックスしたことなくても妊娠させるしビッチにも聖母マリアにも養育費は払わないよ

基本的にヒョロガリか腹が出てるけど言及されなければ普通体型でもマッチョでもあらゆる可能性を内在しているよ

もちろんDV大好きで暴力とは無縁なんだ

なんの才能もないし無能だしお金もないけど女を売春させて稼ぐのはお手の物

趣味なんてなにもないけどもちろんオタク趣味に没頭して家庭を疎かにするよ

結婚できないけど離婚するし養育費は払わないよ

女には縁のないブサイクだけど紳士風のイケメンでたくさんの女と浮気もできるしセフレも作りたい放題なんだ

僕はロリコンだけどあらゆる世代の女に欲情するよ

僕は部屋からたことがない引きこもりだけど存在するだけで性加害できてしまうよ

精神疾患もあるよキミが僕を叩くのに都合の良い病名がついているよ

もちろんアンフェさ僕がどういう思想であれキミがそう言うんだから

もうわかっただろう

僕がどんな人か

どんな姿か

さあ教えてくれ

2024-08-25

日韓百合の良さは女の子のいちゃつきじゃないんだよ 追記

トゲのまとめが日韓百合の絵や漫画を中心に押し出していた上に、「韓国女子×日本女子百合漫画を所望するツイートによって流れが変わる」とか書いてるけど、ツイート時間見ればわかるようにきっかけはこれじゃなくて、日本女子が「韓国女子に好き会いたいって言われて恋した」って書いてるやつで、そこから引リツで次々に日本女子による「韓国女子はこんなに紳士的で優しくて可愛いって言ってくれる」エピソード披露され、韓国女子が「そんなの当然、可愛い女の子は褒めるし守るもの」って反応する流れができた。

一番バズってよく引用されてたのは 「韓国女の子デートした時、私がミニスカ履いて行ったら自分ジャケット脱いで膝にかけてくれた、恋」というツイート

要は、完全に文字主体のバズだった。

バズった要因は韓国女子日本女子への気障な甘さと、敵と見なしたもの(女の子不細工という奴やナンパ野郎)へのキレッキレの悪口ギャップおもしろかったのと、単純に女性陣みんなが「女の子って女の子にこんなに気を遣ってくれるんだ! やっぱり女の子が最高!」って感動したから。

絵や漫画はおまけみたいなもので、確かに素敵な絵を見て萌えはしたけどそれが本質ではないというか、下心なく大事にされるのって嬉しいよね、ストレート愛情表現ときめくよね、褒めてくれる人を好きになるよね、という当たり前のことを噛みしめて、は~こんな人とつきあいたい……メロ……ってなってたんだよ。

から外野が「可愛い女の子のいちゃつき絵いいよね」ってなるのはなんか違う気がする。

いや個々で萌えるのはいいんだけど、一連の流れをそう捉えてほしくないというか……あそこで発生したものは「女の子のいちゃつき」じゃなくてシスターフッドに近いものだった。

ていうかそもそもこの流れの源流に近いツイが「もう日韓の女同士で付き合うしかないよ普通に」→「これでいいと思う 女同士だから力の差もあんまなくてDV妊娠出産関係被害可能性も低いし」なんだよ。根本にあるのが男性への警戒と失望で、そこに「韓国女子がほどけた靴紐を結んでくれて、結び終わったら『okお姫様』』って言われた」とかいツイートが流れてくるんだよ。そりゃときめくわ。

男性って「性欲がなければ女に優しくする意味なんてない」みたいなこと言う人が一定数いて、こういう人たちはその理屈で「奢ったんだから」「優しくしたんだから」見返りを寄越すのが当然、って主張するんだけど、女は性欲なんかなくても女に優しくするし、奢るし、可愛いって言うし、楽しく過ごしてほしいと思うんだよね。

もちろん男性の中にも良識的な人はいて、女性の中にも陰険な人はいるけど、女性として生きてると危険度が高いのは圧倒的に男性なので、男性アイドルは好きでも生身の男性から距離を取りたいし、素敵な女の子の隣で安心したいんだよ。

から、『女の子がいちゃつく百合コンテンツ』というオタクが見知った簡単に消費できる形にされると、そうじゃないんだよな~って思っちゃうというか……なんにも文脈わかってないなコイツ……ってなる。

ていうか韓国女子の切れ味が凄すぎてちょっと笑っちゃう発言ほとんどまとめに入れてない時点で別物なんだよな。

「やはり男たちを海に落として韓国の女と日本の女が会える橋を作らなければならない」「〇ちゃんダイエットなくてもいい!!!!あなた不細工と言う人は全部私が殺す」「(悪質なナンパに対して)お前の将来は科学去勢だ」」「ごみたちから私の女を守らなければならない」「日本はまだ暑いですよね? 私は私のかわいい子供が暑さで苦しむのを我慢できない。太陽を殺すぞ」

韓国女子の語彙力どうなってるんだ。

追記

日本女子側は王子様を待ってるだけじゃねーかよというツッコミはごもっともで、日本女子からも「でもうちら何もあげられるものがないな……」とか「親切にしてもらったらこっちもお返ししようね!」みたいなツイート普通に出てたしバズってたよ。

それはそうとしてかっこいいお姉さんが甘やかしてくれる夢小説みたいなシチュ最高じゃない!?ってなる気持ちもある。

結構人によってスタンスが違うので一概には言えないのだ。

日本女子側として韓国女子のイケムーブときめく

女の子同士が平和だよねという仲間意識

あたりから派生

・かっこいいお姉さん×天然女子百合萌える(コンテンツエンジョイ勢)

・つきあいたいとか言うけど結局ノンケごっこ遊びなんでしょ(レズビアン勢)

コンテンツ化されると違うんだよな~日韓女子のやりとりだけでいい(交流勢)

・なんでも恋愛に結び付けないで欲しい、友情の愛が大きくてもいいじゃん(友情最高勢)

・私が韓国女子を守るぜ!(イケ女勢)

などなど、さまざまな層が入り乱れている。

人それぞれどんな感想を持つのかは自由なんだけど、まとめるときコンテンツエンジョイ勢自分たちが消費できる形に押し込めたのが嫌だったんだよね。

日本鬼子ちゃんとかVIPPER801板突撃したら掛け算されるみたいなノリがあんまりきじゃなくて。

相手コンテンツ化することによって「消費できる自分の方が上だぞ」ってマウントとろうとする人いるじゃん。

今回の流れのコンテンツ化は内から出てきたものから最初は気にならなかったんだけど、そこを主眼としてまとめられて「女の子のいちゃつき萌えるよね」にされると、女子連帯無効化されるようで抵抗感がある。あれは「女の子といちゃつきたい」で始まった流れではない。

日韓女子バズとちょうど同じ時期に、日本フェス痴漢されたDJSODAさんが自分を題材にAV作られて嫌だったって表明してて、有名なフェミニストの人とかも明らかにモデルにしたAV作られてて、ちょっと近いものを感じてしまった。

生身の人間やその感情コンテンツ化することはもっと慎重に扱われるべきだと思う。

2024-08-24

anond:20240824004233

こういうのってホントは良くないんだろうけど、流石に頭に来たからもう書く。

こんばんは。はじめまして

30手前で〇ープ嬢やってる増田です。

この時期って、というか今週も先週に引き続いて繁忙期。

お店としてはけっこうな稼ぎ時で、お盆って地域によって日にちが少し違ったり、業種によっては休みがずれ込んだりするでしょ?

それで先週に引き続いて今週も忙しかった。

でも稼げるときに稼ごうって思って、今日も頑張って働いてたんだ。

今日夕方指名が入ってさ、相手体重100kgの精神障害者身体障害者デブのおじさん。

歳は多分50前後だと思う。

明らかに非モテだなって、一目で分かった。

けど仕事からね。こっちだって一応はプロからさ、表情にはおくびにも出さずに笑顔で接したんだ。

もちろん、仕事から甘い言葉だって囁きます

お兄さんカッコいいね、って言いながら体を洗ってあげて、勃起したお〇ん〇んを見て、わぁ…大きい…!なんてテンプレみたいなことも言うよ!

で、こういうおじさんに限って、紳士みたいな素振りを装って、すぐ本番環境デプロイ性的な意味で)してやろうとするのに必死で、それでああなるほどね…って思うわけ。

でも仕事からね!

プロとして、お客さんを気持ちよくさせようって気概はある。

からあんまり濡れてもいないし感じてなくても大きな声でいっぱい喘いでみたり、とにかく頑張った。

問題はおじさんが〇精して、ピロートークみたいになったときのことだ。

おじさんが不意に「どうしてこんなところで働いてるの?」って聞いてきた。マジで

いやいやいや、それアウトでしょって心の中で思いながらも、けど今でもたまにいるから仕方ない。実際こういうこと聞いてくるおじは死ぬほどウザい。

一応は客である以上、邪険にもできないしさ、ああもうめんどくせぇってなって、実は父の事業が失敗して破産して借金がたくさんあるんです、それを返すためにここで働いてて…みたいなことを、お父さんのことが大好きだから、私が頑張ってその借金を返そうと思っているんです、みたいなことを話したんだ。

もちろん嘘。噓八百なんだけど、おじさんそれを聞いてしんみりしはじめた。そうなんだ…て言ってて本気で信じてるみたいで、なんだか妙な雰囲気になってしまった。

ももうすぐ時間だし、別にいいや。あ、そうだ名刺って思い出して、別れ際に渡す名刺を用意しようと思ってバッグを漁ってたら後ろからボソボソ歌声が聞こえてきた。

え?って思って振り返るとおじさんが泣いてるみたいに手で目元を抑えて、

we shall fight on the beaches

we shall fight on the landing grounds

we shall fight in the fields and in the streets

we shall fight in the hills

we shall never surrender!

ってボソボソ歌ってんの。

え?は?って思っておじさん見てたらおじさんも私の視線に気づいてこっちを見て目が合った瞬間「Aces High!!」って歌うんだよ。うぜぇええええええっ!!!

はぁ?って思った。何なん!?唐突なIron Maiden何なん!?チャーチル演説何なん!?

それでもおじさん、目をウルウルさせながら

Run, live to fly

Fly to live, do or die

Won't you run, live to fly

Fly to live, aces high!

って私を見ながら微笑んで歌うんだよ。

もうね、勘弁してくれって心から思った。

勝手に浸って気持ちよくなってんじゃねぇよ。

ここはHard Rock Cafeじゃないから。

腹立ったし、完全に引いてたけど何とか最後まで笑顔を作って、最後には儀礼的なハグ

名刺も渡して、やっと終わりだって思ったけどおじさん別れ際に振り返って「Aces High!!」って言うんだよ。

もうマジ無理...

参考文献:https://www.youtube.com/watch?v=Xg9aQvjMS60

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