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2024-10-02

そうすると、広田先生がむくりと起きた。首だけ持ち上げて、三四郎を見た。 「いつ来たの」と聞いた。三四郎もっと寝ておいでなさいと勧めた。じっさい退屈ではなかったのである先生は、 「いや起きる」と言って起きた。それから例のごとく哲学の煙を吹きはじめた。煙が沈黙あいだに、棒になって出る。 「ありがとう書物を返します」 「ああ。――読んだの」 「読んだけれどもよくわからんです。第一標題わからんです」 「ハイドリオタフヒア」 「なんのことですか」 「なんのことかぼくにもわからない。とにかくギリシア語らしいね」  三四郎はあとを尋ねる勇気が抜けてしまった。先生あくびを一つした。 「ああ眠かった。いい心持ちに寝た。おもしろい夢を見てね」  先生は女の夢だと言っている。それを話すのかと思ったら、湯に行かないかと言いだした。二人は手ぬぐいをさげて出かけた。  湯から上がって、二人が板の間にすえてある器械の上に乗って、身長を測ってみた。広田先生は五尺六寸ある。三四郎は四寸五分しかない。 「まだのびるかもしれない」と広田先生三四郎に言った。 「もうだめです。三年来このとおりです」と三四郎が答えた。 「そうかな」と先生が言った。自分をよっぽど子供のように考えているのだと三四郎は思った。家へ帰った時、先生が、用がなければ話していってもかまわないと、書斎の戸をあけて、自分がさきへはいった。三四郎はとにかく、例の用事を片づける義務があるから、続いてはいった。 「佐々木は、まだ帰らないようですな」 「きょうはおそくなるとか言って断わっていた。このあいから演芸会のことでだいぶん奔走しているようだが、世話好きなんだか、駆け回ることが好きなんだか、いっこう要領を得ない男だ」 「親切なんですよ」 「目的だけは親切なところも少しあるんだが、なにしろ、頭のできがはなはだ不親切なものから、ろくなことはしでかさない。ちょっと見ると、要領を得ている。むしろ得すぎている。けれども終局へゆくと、なんのために要領を得てきたのだか、まるでめちゃくちゃになってしまう。いくら言っても直さないからほうっておく。あれは悪戯をしに世の中へ生まれて来た男だね」  三四郎はなんとか弁護の道がありそうなものだと思ったが、現に結果の悪い実例があるんだから、しようがない。話を転じた。 「あの新聞記事を御覧でしたか」 「ええ、見た」 「新聞に出るまではちっとも御存じなかったのですか」 「いいえ」 「お驚きなすったでしょう」 「驚くって――それはまったく驚かないこともない。けれども世の中の事はみんな、あんものだと思ってるから若い人ほど正直に驚きはしない」 「御迷惑でしょう」 「迷惑でないこともない。けれどもぼくくらい世の中に住み古した年配の人間なら、あの記事を見て、すぐ事実だと思い込む人ばかりもないから、やっぱり若い人ほど正直に迷惑とは感じない。与次郎社員に知った者があるからその男に頼んで真相を書いてもらうの、あの投書の出所を捜して制裁を加えるの、自分雑誌で十分反駁をいたしますのと、善後策の了見でくだらない事をいろいろ言うが、そんな手数をするならば、はじめからよけいな事を起こさないほうが、いくらいかわかりゃしない」 「まったく先生のためを思ったからです。悪気じゃないです」 「悪気でやられてたまるものか。第一ぼくのために運動をするものがさ、ぼくの意向も聞かないで、かってな方法を講じたりかってな方針を立てたひには、最初からぼくの存在を愚弄していると同じことじゃないか存在無視されているほうが、どのくらい体面を保つにつごうがいいかしれやしない」  三四郎はしかたなしに黙っていた。 「そうして、偉大なる暗闇なんて愚にもつかないものを書いて。――新聞には君が書いたとしてあるが実際は佐々木が書いたんだってね」 「そうです」 「ゆうべ佐々木自白した。君こそ迷惑だろう。あんなばかな文章佐々木よりほかに書く者はありゃしない。ぼくも読んでみた。実質もなければ、品位もない、まるで救世軍太鼓のようなものだ。読者の悪感情を引き起こすために、書いてるとしか思われやしない。徹頭徹尾故意だけで成り立っている。常識のある者が見れば、どうしてもためにするところがあって起稿したものだと判定がつく。あれじゃぼくが門下生に書かしたと言われるはずだ。あれを読んだ時には、なるほど新聞記事もっともだと思った」  広田先生はそれで話を切った。鼻から例によって煙をはく。与次郎はこの煙の出方で、先生の気分をうかがうことができると言っている。濃くまっすぐにほとばしる時は、哲学の絶好頂に達したさいで、ゆるくくずれる時は、心気平穏、ことによるとひやかされる恐れがある。煙が、鼻の下に※(「彳+低のつくり」、第3水準1-84-31)徊して、髭に未練があるように見える時は、瞑想に入る。もしくは詩的感興がある。もっとも恐るべきは穴の先の渦である。渦が出ると、たいへんにしかられる。与次郎の言うことだから三四郎はむろんあてにはしない。しかしこのさいだから気をつけて煙の形状をながめていた。すると与次郎の言ったような判然たる煙はちっとも出て来ない。その代り出るものは、たいていな資格をみんなそなえている。  三四郎がいつまでたっても、恐れ入ったように控えているので、先生はまた話しはじめた。 「済んだ事は、もうやめよう。佐々木も昨夜ことごとくあやまってしまたから、きょうあたりはまた晴々して例のごとく飛んで歩いているだろう。いくら陰で不心得を責めたって、当人が平気で切符なんぞ売って歩いていてはしかたがない。それよりもっとおもしろい話をしよう」 「ええ」 「ぼくがさっき昼寝をしている時、おもしろい夢を見た。それはね、ぼくが生涯にたった一ぺん会った女に、突然夢の中で再会したという小説じみたお話だが[#「お話だが」は底本では「お話だか」]、そのほうが、新聞記事より聞いていても愉快だよ」 「ええ。どんな女ですか」 「十二、三のきれいな女だ。顔に黒子がある」  三四郎は十二、三と聞いて少し失望した。 「いつごろお会いになったのですか」 「二十年ばかりまえ」  三四郎はまた驚いた。 「よくその女ということがわかりましたね」 「夢だよ。夢だからわかるさ。そうして夢だから不思議でいい。ぼくがなんでも大きな森の中を歩いている。あの色のさめた夏の洋服を着てね、あの古い帽子かぶって。――そうその時はなんでも、むずかしい事を考えていた。すべて宇宙法則は変らないが、法則支配されるすべて宇宙のものは必ず変る。するとその法則は、物のほかに存在していなくてはならない。――さめてみるとつまらないが夢の中だからまじめにそんな事を考えて森の下を通って行くと、突然その女に会った。行き会ったのではない。向こうはじっと立っていた。見ると、昔のとおりの顔をしている。昔のとおりの服装をしている。髪も昔の髪である黒子もむろんあった。つまり二十年まえ見た時と少しも変らない十二、三の女である。ぼくがその女に、あなたは少しも変らないというと、その女はぼくにたいへん年をお取りなすったという。次にぼくが、あなたはどうして、そう変らずにいるのかと聞くと、この顔の年、この服装の月、この髪の日がいちばん好きだから、こうしていると言う。それはいつの事かと聞くと、二十年まえ、あなたにお目にかかった時だという。それならぼくはなぜこう年を取ったんだろうと、自分不思議がると、女が、あなたは、その時よりも、もっと美しいほうへほうへとお移りなさりたがるからだと教えてくれた。その時ぼくが女に、あなたは絵だと言うと、女がぼくに、あなたは詩だと言った」 「それからどうしました」と三四郎が聞いた。 「それから君が来たのさ」と言う。 「二十年まえに会ったというのは夢じゃない、本当の事実なんですか」 「本当の事実なんだからおもしろい」 「どこでお会いになったんですか」  先生の鼻はまた煙を吹き出した。その煙をながめて、当分黙っている。やがてこう言った。 「憲法発布は明治二十二年だったね。その時森文部大臣が殺された。君は覚えていまい。いくつかな君は。そう、それじゃ、まだ赤ん坊の時分だ。ぼくは高等学校の生徒であった。大臣葬式に参列するのだと言って、おおぜい鉄砲をかついで出た。墓地へ行くのだと思ったら、そうではない。体操教師竹橋内へ引っ張って行って、道ばたへ整列さした。我々はそこへ立ったなり、大臣の柩を送ることになった。名は送るのだけれども、じつは見物したのも同然だった。その日は寒い日でね、今でも覚えている。動かずに立っていると、靴の下で足が痛む。隣の男がぼくの鼻を見ては赤い赤いと言った。やがて行列が来た。なんでも長いものだった。寒い目の前を静かな馬車や俥が何台となく通る。そのうちに今話した小さな娘がいた。今、その時の模様を思い出そうとしても、ぼうとしてとても明瞭に浮かんで来ない。ただこの女だけは覚えている。それも年をたつにしたがってだんだん薄らいで来た、今では思い出すこともめったにない。きょう夢を見るまえまでは、まるで忘れていた、けれどもその当時は頭の中へ焼きつけられたように熱い印象を持っていた。――妙なものだ」 「それからその女にはまるで会わないんですか」 「まるで会わない」 「じゃ、どこのだれだかまったくわからないんですか」 「むろんわからない」 「尋ねてみなかったですか」 「いいや」 「先生はそれで……」と言ったが急につかえた。 「それで?」 「それで結婚をなさらないんですか」  先生は笑いだした。 「それほど浪漫的な人間じゃない。ぼくは君よりもはるかに散文的にできている」 「しかし、もしその女が来たらおもらいになったでしょう」 「そうさね」と一度考えたうえで、「もらったろうね」と言った。三四郎は気の毒なような顔をしている。すると先生がまた話し出した。 「そのために独身余儀なくされたというと、ぼくがその女のために不具にされたと同じ事になる。けれども人間には生まれついて、結婚のできない不具もあるし。そのほかいろいろ結婚のしにくい事情を持っている者がある」 「そんなに結婚を妨げる事情が世の中にたくさんあるでしょうか」  先生は煙の間から、じっと三四郎を見ていた。 「ハムレット結婚したくなかったんだろう。ハムレットは一人しかいないかもしれないが、あれに似た人はたくさんいる」 「たとえばどんな人です」 「たとえば」と言って、先生は黙った。煙がしきりに出る。「たとえば、ここに一人の男がいる。父は早く死んで、母一人を頼りに育ったとする。その母がまた病気にかかって、いよいよ息を引き取るという、まぎわに、自分が死んだら誰某の世話になれという。子供が会ったこともない、知りもしない人を指名する。理由を聞くと、母がなんとも答えない。しいて聞くとじつは誰某がお前の本当のおとっさんだとかすかな声で言った。――まあ話だが、そういう母を持った子がいるとする。すると、その子結婚信仰を置かなくなるのはむろんだろう」 「そんな人はめったにないでしょう」 「めったには無いだろうが、いることはいる」 「しか先生のは、そんなのじゃないでしょう」  先生ハハハハと笑った。 「君はたしかおっかさんがいたね」 「ええ」 「おとっさんは」 「死にました」 「ぼくの母は憲法発布の翌年に死んだ」

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一二

 演芸会は比較寒い時に開かれた。年はようやく押し詰まってくる。人は二十日足らずの目のさきに春を控えた。市に生きるものは、忙しからんとしている。越年の計は貧者の頭に落ちた。演芸会はこのあいだにあって、すべてののどかなるものと、余裕あるものと、春と暮の差別を知らぬものとを迎えた。

 それが、いくらでもいる。たいていは若い男女である。一日目に与次郎が、三四郎に向かって大成功と叫んだ。三四郎は二日目の切符を持っていた。与次郎広田先生を誘って行けと言う。切符が違うだろうと聞けば、むろん違うと言う。しかし一人でほうっておくと、けっして行く気づかいがないから、君が寄って引っ張り出すのだと理由説明して聞かせた。三四郎承知した。

 夕刻に行ってみると、先生は明るいランプの下に大きな本を広げていた。

「おいでになりませんか」と聞くと、先生は少し笑いながら、無言のまま首を横に振った。子供のような所作をする。しか三四郎には、それが学者らしく思われた。口をきかないところがゆかしく思われたのだろう。三四郎は中腰になって、ぼんやりしていた。先生は断わったのが気の毒になった。

「君行くなら、いっしょに出よう。ぼくも散歩ながら、そこまで行くから

 先生は黒い回套を着て出た。懐手らしいがわからない。空が低くたれている。星の見えない寒さである

「雨になるかもしれない」

「降ると困るでしょう」

「出入りにね。日本芝居小屋は下足があるから、天気のいい時ですらたいへんな不便だ。それで小屋の中は、空気が通わなくって、煙草が煙って、頭痛がして、――よく、みんな、あれで我慢ができるものだ」

「ですけれども、まさか戸外でやるわけにもいかいからでしょう」

「お神楽はいつでも外でやっている。寒い時でも外でやる」

 三四郎は、こりゃ議論にならないと思って、答を見合わせてしまった。

「ぼくは戸外がいい。暑くも寒くもない、きれいな空の下で、美しい空気を呼吸して、美しい芝居が見たい。透明な空気のような、純粋簡単な芝居ができそうなものだ」

先生の御覧になった夢でも、芝居にしたらそんなものができるでしょう」

「君ギリシアの芝居を知っているか

「よく知りません。たしか戸外でやったんですね」

「戸外。まっ昼間。さぞいい心持ちだったろうと思う。席は天然の石だ。堂々としている。与次郎のようなものは、そういう所へ連れて行って、少し見せてやるといい」

 また与次郎悪口が出た。その与次郎は今ごろ窮屈な会場のなかで、一生懸命に、奔走しか斡旋して大得意なのだからおもしろい。もし先生を連れて行かなかろうものなら、先生はたして来ない。たまにはこういう所へ来て見るのが、先生のためにはどのくらいいいかからないのだのに、いくらぼくが言っても聞かない。困ったものだなあ。と嘆息するにきまっているからなおおもしろい。

 先生それからギリシア劇場構造を詳しく話してくれた。三四郎はこの時先生から、Theatron, Orch※(サーカムフレックスアクセント付きE小文字)stra, Sk※(サーカムフレックスアクセント付きE小文字)n※(サーカムフレックスアクセント付きE小文字), Prosk※(サーカムフレックスアクセント付きE小文字)nion などという字の講釈を聞いた。なんとかいドイツ人の説によるとアテン劇場は一万七千人をいれる席があったということも聞いた。それは小さいほうであるもっとも大きいのは、五万人をいれたということも聞いた。入場券は象牙と鉛と二通りあって、いずれも賞牌みたような恰好で、表に模様が打ち出してあったり、彫刻が施してあるということも聞いた。先生はその入場券の価まで知っていた。一日だけの小芝居は十二銭で、三日続きの大芝居は三十五銭だと言った。三四郎がへえ、へえと感心しているうちに、演芸会場の前へ出た。

 さかんに電燈がついている。入場者は続々寄って来る。与次郎の言ったよりも以上の景気である

「どうです、せっかくだからはいりになりませんか」

「いやはいらない」

 先生はまた暗い方へ向いて行った。

 三四郎は、しばらく先生の後影を見送っていたが、あとから、車で乗りつける人が、下足札を受け取る手間も惜しそうに、急いではいって行くのを見て、自分も足早に入場した。前へ押されたと同じことである

 入口に四、五人用のない人が立っている。そのうちの袴を着けた男が入場券を受け取った。その男の肩の上から場内をのぞいて見ると、中は急に広くなっている。かつはなはだ明るい。三四郎は眉に手を加えないばかりにして、導かれた席に着いた。狭い所に割り込みながら、四方を見回すと、人間の持って来た色で目がちらちらする自分の目を動かすからばかりではない。無数の人間に付着した色が、広い空間で、たえずめいめいに、かつかってに、動くからである

 舞台ではもう始まっている。出てくる人物が、みんな冠をかむって、沓をはいていた。そこへ長い輿をかついで来た。それを舞台のまん中でとめた者がある。輿をおろすと、中からまた一人あらわれた。その男が刀を抜いて、輿を突き返したのと斬り合いを始めた。――三四郎にはなんのことかまるでわからない。もっと与次郎から梗概を聞いたことはある。けれどもいいかげんに聞いていた。見ればわかるだろうと考えて、うんなるほどと言っていた。ところが見れば毫もその意を得ない。三四郎記憶にはただ入鹿の大臣という名前が残っている。三四郎はどれが入鹿だろうかと考えた。それはとうてい見込みがつかない。そこで舞台全体を入鹿のつもりでながめていた。すると冠でも、沓でも、筒袖の衣服でも、使う言葉でも、なんとなく入鹿臭くなってきた。実をいうと三四郎には確然たる入鹿の観念がない。日本歴史を習ったのが、あまりに遠い過去であるから、古い入鹿の事もつい忘れてしまった。推古天皇の時のようでもある。欽明天皇の御代でもさしつかえない気がする。応神天皇聖武天皇ではけっしてないと思う。三四郎はただ入鹿じみた心持ちを持っているだけである。芝居を見るにはそれでたくさんだと考えて、唐めいた装束や背景をながめていた。しかし筋はちっともわからなかった。そのうち幕になった。

 幕になる少しまえに、隣の男が、そのまた隣の男に、登場人物の声が、六畳敷で、親子差向かい談話のようだ。まるで訓練がないと非難していた。そっち隣の男は登場人物の腰が据わらない。ことごとくひょろひょろしていると訴えていた。二人は登場人物本名をみんな暗んじている。三四郎は耳を傾けて二人の談話を聞いていた。二人ともりっぱな服装をしている。おおかた有名な人だろうと思った。けれどもも与次郎にこの談話を聞かせたらさだめし反対するだろうと思った。その時うしろの方でうまいうまいなかなかうまいと大きな声を出した者がある。隣の男は二人ともうしろを振り返った。それぎり話をやめてしまった。そこで幕がおりた。

 あすこ、ここに席を立つ者がある。花道から出口へかけて、人の影がすこぶる忙しい。三四郎は中腰になって、四方をぐるりと見回した。来ているはずの人はどこにも見えない。本当をいうと演芸中にもできるだけは気をつけていた。それで知れないから、幕になったらばと内々心あてにしていたのである三四郎は少し失望した。やむをえず目を正面に帰した。

 隣の連中はよほど世間が広い男たちとみえて、左右を顧みて、あすこにはだれがいる。ここにはだれがいるとしきりに知名の人の名を口にする。なかには離れながら、互いに挨拶をしたのも、一、二人ある。三四郎はおかげでこれら知名な人の細君を少し覚えた。そのなかには新婚したばかりの者もあった。これは隣の一人にも珍しかったとみえて、その男はわざわざ眼鏡をふき直して、なるほどなるほどと言って見ていた。

 すると、幕のおりた舞台の前を、向こうの端からこっちへ向けて、小走りに与次郎がかけて来た。三分の二ほどの所で留まった。少し及び腰になって、土間の中をのぞき込みながら、何か話している。三四郎はそれを見当にねらいをつけた。――舞台の端に立った与次郎から一直線に、二、三間隔てて美禰子の横顔が見えた。

 そのそばにいる男は背中三四郎に向けている。三四郎は心のうちに、この男が何かの拍子に、どうかしてこっちを向いてくれればいいと念じていた。うまいあいその男は立った。すわりくたびれたとみえて、枡の仕切りに腰をかけて、場内を見回しはじめた。その時三四郎は明らかに野々宮さんの広い額と大きな目を認めることができた。野々宮さんが立つとともに、美禰子のうしろにいたよし子の姿も見えた。三四郎はこの三人のほかに、まだ連がいるかいないかを確かめようとした。けれども遠くから見ると、ただ人がぎっしり詰まっているだけで、連といえば土間全体が連とみえるまでだからしかたがない。美禰子と与次郎あいだには、時々談話が交換されつつあるらしい。野々宮さんもおりおり口を出すと思われる。

 すると突然原口さんが幕の間から出て来た。与次郎と並んでしきりに土間の中をのぞきこむ。口はむろん動かしているのだろう。野々宮さんは合い図のような首を縦に振った。その時原口さんはうしろから、平手で、与次郎背中をたたいた。与次郎くるりと引っ繰り返って、幕の裾をもぐってどこかへ消えうせた。原口さんは、舞台を降りて、人と人との間を伝わって、野々宮さんのそばまで来た。野々宮さんは、腰を立てて原口さんを通した。原口さんはぽかりと人の中へ飛び込んだ。美禰子とよし子のいるあたりで見えなくなった。

 この連中の一挙一動演芸以上の興味をもって注意していた三四郎は、この時急に原口流の所作がうらやましくなった。ああいう便利な方法で人のそばへ寄ることができようとは毫も思いつかなかった。自分ひとつまねてみようかしらと思った。しかしまねるという自覚が、すでに実行の勇気をくじいたうえに、もうはいる席は、いくら詰めても、むずかしかろうという遠慮が手伝って、三四郎の尻は依然として、もとの席を去りえなかった。

 そのうち幕があいて、ハムレットが始まった。三四郎広田先生のうちで西洋のなんとかいう名優のふんしたハムレット写真を見たことがある。今三四郎の目の前にあらわれたハムレットは、これとほぼ同様の服装をしている。服装ばかりではない。顔まで似ている。両方とも八の字を寄せている。

 このハムレット動作がまったく軽快で、心持ちがいい。舞台の上を大いに動いて、また大いに動かせる。能掛りの入鹿とはたいへん趣を異にしている。ことに、ある時、ある場合に、舞台のまん中に立って、手を広げてみたり、空をにらんでみたりするときは、観客の眼中にほかのものはいっさい入り込む余地のないくらい強烈な刺激を与える。

 その代り台詞日本である西洋語を日本語に訳した日本である。口調には抑揚がある。節奏もある。あるところは能弁すぎると思われるくらい流暢に出る。文章もりっぱである。それでいて、気が乗らない。三四郎ハムレットがもう少し日本人じみたことを言ってくれればいいと思った。おっかさん、それじゃおとっさんにすまないじゃありませんかと言いそうなところで、急にアポロなどを引合いに出して、のん気にやってしまう。それでいて顔つきは親子とも泣きだしそうであるしか三四郎はこの矛盾をただ朧気に感じたのみである。けっしてつまらないと思いきるほどの勇気は出なかった。

 したがって、ハムレットに飽きた時は、美禰子の方を見ていた。美禰子が人の影に隠れて見えなくなる時は、ハムレットを見ていた。

 ハムレットオフェリヤに向かって、尼寺へ行け尼寺へ行けと言うところへきた時、三四郎はふと広田先生のことを考え出した。広田先生は言った。――ハムレットのようなもの結婚ができるか。――なるほど本で読むとそうらしい。けれども、芝居では結婚してもよさそうである。よく思案してみると、尼寺へ行けとの言い方が悪いのだろう。その証拠には尼寺へ行けと言われたオフェリヤがちっとも気の毒にならない。

 幕がまたおりた。美禰子とよし子が席を立った。三四郎もつづいて立った。廊下まで来てみると、二人は廊下の中ほどで、男と話をしている。男は廊下からはいりのできる左側の席の戸口に半分からだを出した。男の横顔を見た時、三四郎はあとへ引き返した。席へ返らずに下足を取って表へ出た。

 本来は暗い夜である人の力で明るくした所を通り越すと、雨が落ちているように思う。風が枝を鳴らす。三四郎は急いで下宿に帰った。

 夜半から降りだした。三四郎は床の中で、雨の音を聞きながら、尼寺へ行けという一句を柱にして、その周囲にぐるぐる※(「彳+低のつくり」、第3水準1-84-31)徊した。広田先生も起きているかもしれない。先生はどんな柱を抱いているだろう。与次郎は偉大なる暗闇の中に正体なく埋まっているに違いない。……

 あくる日は少し熱がする。頭が重いから寝ていた。昼飯は床の上に起き直って食った。また一寝入りすると今度は汗が出た。気がうとくなる。そこへ威勢よく与次郎はいって来た。ゆうべも見えず、けさも講義に出ないようだからどうしたかと思って尋ねたと言う。三四郎は礼を述べた。

「なに、ゆうべは行ったんだ。行ったんだ。君が舞台の上に出てきて、美禰子さんと、遠くで話をしていたのも、ちゃんと知っている」

 三四郎は少し酔ったような心持ちである。口をききだすと、つるつると出る。与次郎は手を出して、三四郎の額をおさえた。

「だいぶ熱がある。薬を飲まなくっちゃいけない。風邪を引いたんだ」

演芸場があまり暑すぎて、明るすぎて、そうして外へ出ると、急に寒すぎて、暗すぎるからだ。あれはよくない」

「いけないたって、しかたがないじゃないか

しかたがないったって、いけない」

 三四郎言葉だんだん短くなる、与次郎がいいかげんにあしらっているうちに、すうすう寝てしまった。一時間ほどしてまた目をあけた。与次郎を見て、

「君、そこにいるのか」と言う。今度は平生の三四郎のようである。気分はどうかと聞くと、頭が重いと答えただけである

風邪だろう」

風邪だろう」

 両方で同じ事を言った。しばらくしてから三四郎与次郎に聞いた。

「君、このあいだ美禰子さんの事を知ってるかとぼくに尋ねたね」

「美禰子さんの事を? どこで?」

学校で」

学校で? いつ」

 与次郎はまだ思い出せない様子である三四郎はやむをえずその前後の当時を詳しく説明した。与次郎は、

「なるほどそんな事があったかもしれない」と言っている。三四郎はずいぶん無責任だと思った。与次郎も少し気の毒になって、考え出そうとした。やがてこう言った。

「じゃ、なんじゃないか。美禰子さんが嫁に行くという話じゃないか

「きまったのか」

「きまったように聞いたが、よくわからない」

「野々宮さんの所か」

「いや、野々宮さんじゃない」

「じゃ……」と言いかけてやめた。

「君、知ってるのか」

「知らない」と言い切った。すると与次郎が少し前へ乗り出してきた。

「どうもよくわからない。不思議な事があるんだが。もう少したたないと、どうなるんだか見当がつかない」

2024-09-30

下女が茶を持って来るあいだ二人はぼんやりかい合ってすわっていた。下女が茶を持って来て、お風呂をと言った時は、もうこの婦人自分の連れではないと断るだけの勇気が出なかった。そこで手ぬぐいをぶら下げて、お先へと挨拶をして、風呂場へ出て行った。風呂場は廊下の突き当りで便所の隣にあった。薄暗くって、だいぶ不潔のようである三四郎着物を脱いで、風呂桶の中へ飛び込んで、少し考えた。こいつはやっかいだとじゃぶじゃぶやっていると、廊下足音がする。だれか便所はいった様子である。やがて出て来た。手を洗う。それが済んだら、ぎいと風呂場の戸を半分あけた。例の女が入口から、「ちいと流しましょうか」と聞いた。三四郎は大きな声で、 「いえ、たくさんです」と断った。しかし女は出ていかない。かえってはいって来た。そうして帯を解きだした。三四郎といっしょに湯を使う気とみえる。べつに恥かしい様子も見えない。三四郎はたちまち湯槽を飛び出した。そこそこにからだをふいて座敷へ帰って、座蒲団の上にすわって、少なからず驚いていると、下女が宿帳を持って来た。  三四郎は宿帳を取り上げて、福岡県京都郡真崎村小川三四郎二十三学生と正直に書いたが、女のところへいってまったく困ってしまった。湯から出るまで待っていればよかったと思ったが、しかたがない。下女ちゃんと控えている。やむをえず同県同郡同村同姓花二十三年とでたらめを書いて渡した。そうしてしきりに団扇を使っていた。  やがて女は帰って来た。「どうも、失礼いたしました」と言っている。三四郎は「いいや」と答えた。  三四郎は鞄の中から帳面を取り出して日記をつけだした。書く事も何もない。女がいなければ書く事がたくさんあるように思われた。すると女は「ちょいと出てまいります」と言って部屋を出ていった。三四郎ますます日記が書けなくなった。どこへ行ったんだろうと考え出した。  そこへ下女が床をのべに来る。広い蒲団を一枚しか持って来ないから、床は二つ敷かなくてはいけないと言うと、部屋が狭いとか、蚊帳が狭いとか言ってらちがあかない。めんどうがるようにもみえる。しまいにはただいま番頭ちょっと出ましたから、帰ったら聞いて持ってまいりましょうと言って、頑固に一枚の蒲団を蚊帳いっぱいに敷いて出て行った。  それから、しばらくすると女が帰って来た。どうもおそくなりましてと言う。蚊帳の影で何かしているうちに、がらんがらんという音がした。子供にみやげの玩具が鳴ったに違いない。女はやがて風呂敷包みをもとのとおりに結んだとみえる。蚊帳の向こうで「お先へ」と言う声がした。三四郎はただ「はあ」と答えたままで、敷居に尻を乗せて、団扇を使っていた。いっそこのままで夜を明かしてしまおうかとも思った。けれども蚊がぶんぶん来る。外ではとてもしのぎきれない。三四郎はついと立って、鞄の中からキャラコのシャツズボン下を出して、それを素肌へ着けて、その上から紺の兵児帯を締めた。それから西洋手拭を二筋持ったまま蚊帳の中へはいった。女は蒲団の向こうのすみでまだ団扇を動かしている。 「失礼ですが、私は癇症でひとの蒲団に寝るのがいやだから……少し蚤よけの工夫をやるから御免なさい」  三四郎はこんなことを言って、あらかじめ、敷いてある敷布の余っている端を女の寝ている方へ向けてぐるぐる巻きだした。そうして蒲団のまん中に白い長い仕切りをこしらえた。女は向こうへ寝返りを打った。三四郎西洋手拭を広げて、これを自分領分に二枚続きに長く敷いて、その上に細長く寝た。その晩は三四郎の手も足もこの幅の狭い西洋手拭の外には一寸も出なかった。女は一言も口をきかなかった。女も壁を向いたままじっとして動かなかった。  夜はようよう明けた。顔を洗って膳に向かった時、女はにこりと笑って、「ゆうべは蚤は出ませんでしたか」と聞いた。三四郎は「ええ、ありがとう、おかげさまで」というようなことをまじめに答えながら、下を向いて、お猪口の葡萄豆をしきりに突っつきだした。  勘定をして宿を出て、停車場へ着いた時、女ははじめて関西線四日市の方へ行くのだということを三四郎に話した。三四郎汽車はまもなく来た。時間のつごうで女は少し待ち合わせることとなった。改札場のきわまで送って来た女は、 「いろいろごやっかいになりまして、……ではごきげんよう」と丁寧にお辞儀をした。三四郎は鞄と傘を片手に持ったまま、あいた手で例の古帽子を取って、ただ一言、 「さよなら」と言った。女はその顔をじっとながめていた、が、やがておちついた調子で、 「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言って、にやりと笑った。三四郎プラットフォームの上へはじき出されたような心持ちがした。車の中へはいったら両方の耳がいっそうほてりだした。しばらくはじっと小さくなっていた。やがて車掌の鳴らす口笛が長い列車の果から果まで響き渡った。列車は動きだす。三四郎はそっと窓から首を出した。女はとくの昔にどこかへ行ってしまった。大きな時計ばかりが目についた。三四郎はまたそっと自分の席に帰った。乗合いはだいぶいる。けれども三四郎挙動に注意するような者は一人もない。ただ筋向こうにすわった男が、自分の席に帰る三四郎ちょっと見た。  三四郎はこの男に見られた時、なんとなくきまりが悪かった。本でも読んで気をまぎらかそうと思って、鞄をあけてみると、昨夜の西洋手拭が、上のところにぎっしり詰まっている。そいつそばへかき寄せて、底のほうから、手にさわったやつをなんでもかまわず引き出すと、読んでもわからないベーコン論文集が出た。ベーコンには気の毒なくらい薄っぺらな粗末な仮綴である。元来汽車の中で読む了見もないものを、大きな行李に入れそくなったから、片づけるついでに提鞄の底へ、ほかの二、三冊といっしょにほうり込んでおいたのが、運悪く当選したのである三四郎ベーコン二十三ページを開いた。他の本でも読めそうにはない。ましてベーコンなどはむろん読む気にならない。けれども三四郎はうやうやしく二十三ページを開いて、万遍なくページ全体を見回していた。三四郎二十三ページの前で一応昨夜のおさらいをする気である

anond:20240930164504

2024-03-06

anond:20240305175742

他人の好み見るの楽しいな! せっかくだから私も書いちゃお

【大喜び】

デパ地下お菓子

食いしん坊なので高めの餌をもらうと喜ぶ。ヨックモックとかグーデロワとかなんぼあっても困りませんわ

ちょっといいおつまみ

酒飲まないけどおつまみ大好き

・高めの出汁

そのままお湯に溶くだけで美味しいやつ。料理にも使える

場合による】

・花

一本だけもらう方がうれしい。花束は後処理の大変さが喜びを上回る

・酒

ワインビール日本酒も飲まない

牛乳で割るとおいしいリキュールをくれる友達がいて最高

食器

セットをもらっても困る(そんなシチュエーションあるのか?)

作家物の食器を「これ好きそうだから」ともらったのはめっちゃしかった。今も使ってる

・布物

ハンカチ靴下もいらない

可愛い手ぬぐいは欲しい。コレクターなので

【いらない】

ゴディバチョコ

チョコよりクッキーがいい!

紅茶コーヒー

飲まない

・デパコスロクシタン入浴剤

食べられない

キャラ

持って帰ってくれ

やはり好みを知った上でくれる物が嬉しいな

一般解なんてない。本人に聞け

2024-03-02

毎日バスタオル変えたいけど洗うのめんどくさい勢に向けたライフハック

anond:20240302084227

anond:20240302122640

本題とほぼ関係ないバスタオル毎回変えるか問題で盛り上がってるので便乗。

結論は「セームタオルいいよセームタオル」なので知ってる人は読まなくて済むよ!

私は毎回新しいタオル使いたい派。玄人質問尊大ですが、バスタオル干す場所ある?毎日洗濯回して干すような生活ができないくらいに正しくない労働時間で働いてるので、どうしても週1とか、多くても週2くらいになってしまうので、バスタオル干す場所がない。フェイスタオル使うことを検討するんだが、体を洗うとき手ぬぐいじゃなくてナイロンタオル派なので1枚だとビタビタになって拭ききれない。

そんなあなたセームタオル水泳部が使ってるアレ。PVAスポンジっていうめちゃめちゃ吸水性がよくて、絞ったらまた水を吸う素材でできてる。完全なドライ状態にはならないが、これで9割の水気を切ってあとはフェイスタオルで。お手入れは使った後にお湯で揉み洗いだけして、週1の洗濯ときネットに入れて洗濯柔軟剤はなし。

副次効果があって、干すとき直射日光タンブラー乾燥NGなので洗濯機の横(うちの場合風呂場の眼の前)にかけとくんだけど、タオルの準備を忘れたときセームタオルだけで9割乾燥まで拭ける。ゆうゆうタオルを取りに行ける。

おすすめセームタオルは?って聞かれたらミズノアイオンミズノスポーツ用としてトップシェア(多分)なだけあって丈夫。ただサイズ展開が微妙で、背中が拭きにくい小サイズ(34*44)と結構高い大サイズ(44*68)しかない。セームタオルは絞れば吸水性が復活するので、サイズ物理的な使いやすさだけ気にすれば良い。アイオンはPVA材に関しては一日の長があるメーカーで、なんと21.5*69という、背中が拭けるのを売りに作ったとしか思えないサイズの展開がある。最近買ってみたので、今使ってるミズノ(3年目、さすがに弱ってきてる)が駄目になったらつかってみる。

で、実際買ってみて自分には合わなかった、ってなる人も絶対にいると思う。PVAが皮膚に合わない人もいるだろう。そんなあなたダイソーのPVA吸水クロスで一度お試しを。ミズノに慣れてるとさすがにふにゃふにゃ過ぎるが、性能としては十分だった。当然100円。気に入ったらちゃんとしたの買うといい。気に入らなくても、PVAクロスは水こぼしたときとか、風呂掃除の水気とりにめっちゃ便利なので1枚持ってて損はない。

買ってみ!

2024-01-23

anond:20240122174846

水滴チェックは元々は自宅に風呂が無いことが当たり前の昭和前期に生まれもの

毎日風呂に入るという習慣すら世帯によってムラがあった。

風呂上がりに手ぬぐいで水滴を拭かずに着衣して風邪をひく生徒もいた。

なので、修学旅行という機会に教師マナーを教えるという意義は無くもなかった。

しかし各家庭に風呂があって幼少から毎日風呂に入って入浴作法が当たり前に身につく時代になってからは全く意味が無い。

なぜそんな奇習が合理性を失っても半世紀近く残ってるかって?

教育学部界隈が、指導教員感謝とご奉祀して当たり前で新しい意見は吊し上げにあう世界からだよ。

他に理由あるか?いうてみい。なあ。

おいそこの教師。おまえの娘は集団浴場で大勢に裸をみられた上に教師の前でクルクルさせられとるぞ。

なんか言うことあるか?うれしいか

2023-09-27

貴方はもう忘れたかしら」

なにをなにを?

「赤い手ぬぐいマフラーにして」

エモい

「二人で行った横町風呂屋

いいじゃん

「一緒に出ようねって言ったのに」

一緒に出なよ

「いつも私が待たされた」

マジかよ最悪じゃん

「洗い髪が芯まで冷えて小さな石鹸タカタ鳴った」

えーかわいそう

貴方は私の身体を抱いて」

暖めてやれや

「冷たいねって言ったのよ」

?????カスすぎんか?????ちゃん彼氏に怒った?怒りなよマジで

「若かったあの頃何も怖くなかった」

怖くなくても寒くね?

「ただ貴方の優しさが怖かった」

優しいとこ一個もなかったけど!?そいつマジやめとき???

2023-08-08

anond:20230807180915

そもそも一眼レフ持ってないオタクはその格好しないんだよな。

オタクコーデにもそれぞれ文脈があって、バンダナチェックシャツインジーパンコーデは「カメラ小僧コーデ」。

バンダナしているのは汗が目に入らないようにするためのもので、ぶっちゃけこれは手ぬぐい代用してもいいけど、重要なのは「汗が目に入らないようにするという目的を忘れてない」こと。

チェックシャツをインするのにも二つの文脈があって、「アイドルカメ子」の場合はオシャレ目的だけど、「鉄道オタク」の場合はお母さんや先生シャツはインしろと言ったのを人類の掟として守っているから。

ジーパンについて絶対に忘れちゃいけないのが「動きやすい格好である」という部分で、もしもここがピチピチ系でしゃがむのに邪魔になるようなジーパンだと本質を見抜けてないのがバレバレ

あとなにげに大事なのがリュックデカさ。

とにかくバカみたいにリュックデカくしないと駄目。

なぜなら椅子三脚・交換用フィルム・予備カメラ等を入れる必要があるから

そしてトドメとして指出しグローブ

アイドル追っかけをするなら推しにカッコイイと思ってもらうために必須になるし、鉄道オタクをする場合は野をかき分けて撮影スポットを確保する場合があるのでこれまた必須

アキバは本番じゃないんだから装備軽くて良いとかそういう発想はない。

オタクは極端なオンオフ思考の生き物だからオタクモードになった時点で装備品はいつも一緒。

この辺をちゃんと分かって無さそうなオタクコーデは見てられないね

このオタクコーデが「昭和カメラ小僧コーデ」であって最近の「チー牛都市迷彩コーデ」とも違うし平成流行った「ダークネスブラックナードコーデ」ともまた別だってことも分かってないとどこに寄せているのか曖昧になりがちよね。

2023-08-04

公的安楽死?サービス?なのか?

自分が通っていた中学校体育館に入ると、すでに催しは始まっていた。20人ほどの参加者、PA業者参加者を世話するスタッフなど。中でも、色とりどりの浴衣を着込み踊りの準備をする女性たちが、無彩色な体育館でひときわ目立っていた。

うろ覚えだが、この催しは難病などで将来を悲観した人びとが集団安楽死を行うものだったと思う。公的サービスの一環なので、このように公立中学校施設が使われる。安楽死手段がどのようなものなのかは分からない。

自分ケーブルテレビ撮影スタッフとしてここに来た筈なのだが、現時点でカメラ三脚も無い。機材バッグは片隅にあるが、その中は空っぽで私のカメラは見当たらない。誰かがすでに持ち出したのだろうか。

会場では参加者が朝礼のような横長3列に並び、スタッフ説明を聞いている。内容は「大丈夫」とか「スケジュール通りに」といった事務的もので、宗教的ニュアンスは感じられない。聞いている参加者の表情も平静で、これから死という大事を迎えるように見えない。

浴衣女性たちが会場の端で金魚のように踊っている。これから死ぬ参加者たちの気持ちをせめて安らかにしようとしているのだな、と感じた。

一旦説明が終わり休憩となった。参加者の一部は外の空気を吸うために体育館出口に向かう。私の居る場所はその出口付近なので、彼らとバッティングしないよう、左右に避けようとするのだが、向こうもこちらと同方向に避けるのでぶつかりそうになってしまう。私はこのような不吉な人たちとは接触したくないので、靴を履かないまま出口から校庭に出た。靴下の足裏に濡れた砂の水分がしみて不愉快だ。

近くを歩いている役場職場と話す。この催しは担当する職員心理的負担が大きいそうで「俺も、これやった後に入ってる会議とか全然集中できなくてさあ」などという。私は内心このような集団自殺が、その程度の負担感で済むとは役場職員は凄いな、と思う。

体育館と校舎をつなぐ渡り廊下自分の靴を見つけ、ああここに置いたんだな、と安心し会場に戻る。

参加者は俯いてシクシク泣いていたり手で顔を覆ったりと、悲観的な様相だ。自ら死を選び覚悟を決めていても、やはり直前になると動揺するようだ。私の三脚は傍らにあるが、乗せるカメラは無い。そもそもこんなもの撮影しても使えないだろう、と思ったし、人が大量に死ぬ場面を見る勇気もないので、ここを退散することにした。

さっきとは別の小さい扉から出て、両開きの引き戸を閉める。体育館なのに、すりガラスがはまった木製の扉であった。

横のおばさんに「どうして撮影しないの?」と聞かれ「カメラが無いし気味が悪いから」とこたえるが、おばさんはなにやらしつこく話しかけてくる。

おばさんと連れ立って体育館脇の緩い坂道を下っていると、中からたくさんの人間嘔吐する音が聞こえてきた。音だけではなく、扉の下の隙間から飛沫が私の首に飛んだ。手ぬぐいで拭うと、人参や肉など食物の破片が混じった粘液状の吐瀉物だった。

直前に迫った死の恐怖参加者嘔吐したのだ。やはり、誰でも死が怖いのだ。

私はその後、行きつけのバイク屋に行ったがいつのまにか夜になっていたようで、店は既に閉まっていた。

バイク屋が一階に入っているビルから自転車で誰かが出てきた。顔見知りの女性だがなぜ?と声をかけると、「私ここでホステスやってるの」という。確かにバイク屋の二階は「キャバレーロンドン」だ。彼女バニーガール姿を見たい、と強く思った。

2023-04-11

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アーサナプラーナヤーマを意識しつつ)

陸上クンバカ 60秒

ダルリー・シッディ 20回2セット

水中クンバカ 40秒(安全第一で)

ガウティ 手ぬぐい

決意の修行 こっぱずかしい官能小説朗読

ガージャガラニー 10リットル1セット

サウナクンバカ 50秒+40秒+30秒(安全第一で)

ダルリー・シッディ 2回(フォームチェックが目的なので回数は少なめ)

ムドラ​ー

経行(きんひん) 1.8km

今日は新しい修行を取り入れてみました。

潮来より愛を込めてーーーーー

2023-03-12

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アーサナプラーナヤーマを意識しつつ)

陸上クンバカ 150秒

ダルリー・シッディ 30回2セット

水中クンバカ 120秒(安全第一で)

ガウティ 手ぬぐい

ガージャガラニー 15リットル1セット

サウナクンバカ 120秒+90秒(安全第一で)

ムドラ​ー

経行(きんひん) 1.8km

大自然の中でやる水中クンバカ気持ちいいですね。

大子から愛をこめてーーーーー

2023-03-05

本日のワークの成果

アーサナプラーナヤーマを意識しつつ)

陸上クンバカ 90秒

ダルリー・シッディ 20回3セット

水中クンバカ 90秒(安全第一で)

ガウティ 手ぬぐい

ガージャガラニー 12リットル1セット

サウナクンバカ 60秒2セット(安全第一で)

ダルリー・シッディ 20回2セット

ムドラ​ー

経行(きんひん) 2km

おはようございます

鉾田より愛を込めてーーーーー

2023-03-03

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アーサナプラーナヤーマを意識しつつ)

陸上クンバカ 60秒

ダルリー・シッディ 10回4セット

水中クンバカ 90秒(安全第一で)

ガウティ 手ぬぐい

ガージャガラニー 12リットル1セット

サウナクンバカ 75秒2セット(安全第一で)

ダルリー・シッディ 20回2セット

ムドラ​ー

経行(きんひん) 2km

千代川より愛を込めてーーーーー

2023-02-27

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アーサナプラーナヤーマを意識しつつ)

陸上クンバカ 60秒

ダルリー・シッディ 10回4セット

水中クンバカ 90秒(安全第一で)

ガウティ 手ぬぐい

ガージャガラニー 12リットル1セット

サウナクンバカ 75秒2セット(安全第一で)

ダルリー・シッディ 20回2セット

ムドラ​ー

経行(きんひん) 5km

在家信者なので不殺の教えは守っていません。ヤサイニンニクアブラシマシ大好き

谷和原より愛を込めてーーーーー

2023-02-23

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アーサナプラーナヤーマを意識しつつ)

陸上クンバカ 120

ダルリー・シッディ 20回2セット

水中クンバカ 60秒2セット(安全第一で)

ガウティ 手ぬぐい1セット

ガージャガラニー 10リットル1セット

サウナクンバカ 60秒2セット(安全第一で)

ダルリー・シッディ 10回3セット

ムドラ​ー

ナーディーポンプ(力を抜くためにまぬけな顔を作りながら)


龍ケ崎より愛を込めてーーーーー

2022-10-22

○○染ってさ…

友禅とも記載されてない、落款すら存在しないような着物地方で染めたから○○染です!なんて言って3桁万円で売るのはボッタクリだからね。

3桁万行くならどんなに安い作家でも落款つくし、友禅と認められなくても生地もしっかりしてるよ。

手ぬぐいレベルペラペラに3桁万円とかありえん話。

2022-09-19

なぜ日本人日本のものから遠ざかってしまうのか

日舞を始めたくて調べていたら師匠お中元お歳暮を送らないといけない?月謝の1ヶ月から2ヶ月ぶん?とかでてきて「ムリムリムリムリ!!」って思った。

日舞界隈って他のダンス習い事よりお金かかるじゃないですかー??

日本人若者そんなにお金持ってないので無理ですよ。こんななら他のダンス習い事やります

日本画油絵とか水彩画に比べたらたっかいお金がかかるじゃないですかー??日本画を本気でやったらクルマが買えちゃう!!

着物だって洋装よりもはるかお金がかかる。子供入学式卒業式着物を着ようとしたら旦那に「目立って恥ずかしいか着物はやめて」と止められた話しもある。恥ずかしいってねえ。着物って私たち民族衣裳なのに恥ずかしいって……

まぁ私もお金をそんなに使いたくないか子供行事洋装ですね。

お金問題以外にも日本のものから遠ざかるこんなことが

私は今、手ぬぐいにハマっているのだけれども

みんな知っての通り手ぬぐいよりもハンカチタオルスカーフのほうがお店で売ってるしよく売れているのよ!!

手ぬぐいを持ってる人は手ぬぐいが好きだから持ってるんだけど、ハンカチタオル別にハンカチタオルが好きじゃない人でも誰でも持っているのよ。手拭いを好きでもないのに持っているって人は剣道をやっている人とかごく限られた人なのよ。

手ぬぐいって日本のほこるべき伝統工芸品なのになんででしょうねえ?それは幼児手拭いよりもハンカチタオルのほうが使いやすくて手ぬぐいはでかすぎて子供には扱いづらいからじゃないかな?って思ってる

せっかく日本に住んでるのに日本っぽいことから遠ざかっていくのはもったいない

2022-09-15

元気な人は濃い味の粥増田巣間床慈愛子は都雛金下(回文

おはようございます

お粥研究を日々行っていて気付いたことは、

元気な人はお粥は味の濃いものがいい!って新しいファイナルアンサーを導き出したの。

その味の濃い具材の私の今のファイナルアンサー

冷凍餃子

篠原涼子さんの

愛しさと切なさと心強さと

お粥表現するならば、

手軽さと簡単さと食べ応え強さと

になるの。

から私はお粥研究界の篠原涼子と言っても言い過ぎではない過言だわ。

その手軽さと簡単さと食べ応え強さを兼ね備えた

冷凍餃子お粥具材にしていただくってのが最適解!

まり

美味しく頂けるってわけなのよ。

私のいわば!

お粥方程式が解けたかのようで、

次点では鮭ね。

こないだは焼き鮭をぶっ込んでみて大成功だったので、

こんどは生の塩鮭を!って思ったけど、

鮭って結構いから長中期的に躊躇してしまいそうな価格なので、

割引の焼き魚コーナーの鮭を狙うに限るわ。

からそう言った鮭に関しては

手軽さとっていう条件を満たせないのよね。

その点では今のところ冷凍餃子は100点に近い満点を叩き出しているわ。

元気な人は味の濃いお粥

から全般的に濃い味に仕上げてもいいのかも知れないわ。

ポン酢かけて食べるのでもいいんだけど、

いつまでもかぎりなくポン酢100パーセントじゃない。

ずっとポン酢の味よ。

逆にシンプル玉子粥ってのも

玉子の旨味とお粥の旨味がシンプルに舌にダイレクトに伝わるから

それはそれで玉子粥も逆の意味では

ファイナルアンサーに値するわ。

でね、

レトルト玉子粥とか試して食べてみると

なんか出汁の他になんか美味しい味がするのはアミノ酸的なのなのかしら?って思いつつ、

もっとコク深く味わい高くって

出汁世界も極めるとまた出汁沼にはまってしまいそうだわ。

私を出し抜かないでね!って出汁だけにって思うけど

味わい深いコク深い出汁スープストックを作れば、

またお粥にも奥行きが広がって行くような気がするわ。

私が一回やってみたい気になっている食材出汁を取るってのがあるんだけど、

それは白菜よ。

あれ一玉丸々大きな鍋にぶち込んで煮てさ焼いてさ食ってさってそれは漁師が食べるヤツだけど、

煮て白菜の甘い美味しいスープストックができると私は目論んでいるのよ。

一回やってみたいわ。

白菜での出汁ってのをね。

美味しんぼであるフグ鍋を作り続けて育てた土鍋お粥作ったらフグ雑炊になる!って

ドラえもん秘密道具で出てきて欲しいレヴェルの土鍋よね!

ててててっててー

お米だけでフグ雑炊ができる土鍋!!!

ってそれただのもう四次元ポケット収納していただけってことになるじゃない。

そんな感じよ。

から

お粥の基本フォーマットが出来たら

具もしかり、

次は出汁世界になるのね?って

わずはいられないのよ。

豆絞りの手ぬぐいねじハチマキして

鰹節とか削り出して

鰹節研とかやってたら笑うわ。

逆にもうあそこまで行ったら手間暇がかかるので

私の目指すお粥理想形は手軽さと簡単さと食べ応え強さとなので

出汁も言わば簡単に引けるようなものがいいわ。

タコさんとイカさんが綱引きをして

イカさんの手が2つ余るぐらい引く手あまたよ!

私のお粥方向性としては

手軽さと簡単さと食べ応え強さと

ってことで確立させられたわ!

うふふ。


今日朝ご飯

粥でーす。

木綿豆腐と鶏挽肉ムネでやったんだけど、

木綿豆腐が思ったより美味しくなかったのが研究課題ね。

豆腐の方がまだ滑らかでお粥はいいのかしら?

豆腐の違いでこれで感じが違うからからないものね。

デトックスウォーター

珍しくというか、

パイナップル1つ買ってきて

あれなんて数え方なの?ふさじゃないわよね。

1つまるまるのやつ。

ちょっとを切ってパインナップルウォーラーにしてみました。

パイナップル1つさばくの大変なので、

やっぱり私はパインナップルの缶でいっかなーって思ったわ。


すいすいすいようび~

今日も頑張りましょう!

2022-06-28

朝。ワンピースルフィと同じ格好したばあちゃんが家の前の草むしりしてた。

今日通勤時のことである

  

赤いタンクトップ(?)に青い半ズボン

腰に黄色タオル手ぬぐい)を下げ、

もちろん麦わら帽子かぶっていた。

  

通勤時だったので、遠くから「……え? ……ルフィ??」ってなって、

近づいたらおばあちゃんだったのでびっくりした。

  

熱中症には気を付けて欲しい。

2022-02-24

尺八についてもうちょっとだけ書かせてほしい(追記あり

anond:20220222220135

これを書いた尺八増田です。

ホルン元増田さんが追記で「ディスったつもりはない」と仰っておりますので、この議論に関してはこれ以上反論も補足もいたしません。

ただ一点、元増田さんには「あのような書き方をすれば尺八(またはマイナー民族楽器全般)がディスられたと感じる読み手が私を含め一定数居る」ということだけはご認識いただきたいです。

それより私が驚いたのは、はてなの中でどのようなきっかけであれ尺八という楽器にここまで注目していただいたということです。

特に面白い」「勉強になった」「尺八吹いてみたくなった」等のコメントは予想外で本当に涙が出るほど嬉しく、励みになりました。

これが元増田さんへのツッコミという形ではなく単発のエントリだったとしたら、たとえ同じ内容でもここまで反響を頂けなかったと思うのです。

こんなチャンスはもう二度と来ないと思うので、今回の件をきっかけに尺八に興味を持っていただいた方に向けて、もう少し書かせてください。

尺八マイナー楽器であることは十分承知していますが、少しでも楽器としての魅力をお伝えしたく、なるべく専門用語を使わずお伝えさせていただきます

尺八楽譜はどうなっているのか?

流派によって多少の違いがありますが、基本的カタカナ縦書き表記されます

基本となる音は5種類で、順に「ロ、ツ、レ、チ、ハ(リ)」となっています

このカタカナ音程ではなく指使いを表していますギターでいうところのTAB譜に近い表記です。ですので同じ音程でも指使いが違えば表記も変わりますし、逆に表記が同じでも尺八の長さが変われば出てくる音の高さも変わります

音の種類は替え指や特殊奏法を全部カウントするとおよそ30種類です。殆ど全ての音が西洋音楽12音に対応していますが、中には五線譜では表現できない替え指や特殊奏法もあります

足を使わないと出せない音がある

尺八の音域はおよそ2オクターブ半ですが、ホルンと同じく音域の高い音は正確に当てるのが難しいです。

しかも、高い音の中にたった一つだけ、なんと足(正確には太もも)を使わないと演奏できない音が存在するのです!足を使わなくても音自体は鳴ることは鳴るのですが、ピッチが上ずってしまい使い物にならないのです。

指使いや首振りだけではこのピッチのずれをカバーしきれないので、太もも尺八最下部の息の出る穴を塞いでしまい、首振りのくだりでご説明した「開口端補正」を利用してピッチを適正な所まで下げているのです!

指孔が5個以上の尺八もある

繰り返しになりますが、基本の尺八は指孔が5個しかありません。これによる最大のデメリットは「細かいパッセージが吹けない」ということです。

基本の音だけで構成されたパッセージなら吹けなくもないですが、半音特殊音が混じってくると、かなり厳しいです。そう考えると5孔で平然とジャズを吹きこなすZac Zinger氏はマジで化け物です。

このデメリットを克服するために、指孔を増やした尺八存在します。まとめて「多孔尺八」と呼んでいますが、メジャーものは6孔と7孔で、多いもので9孔があります

指孔が増えることで、本来であれば「首振り」や「指孔を少しだけ開ける」などの細かい動作必要とする音も指孔の開閉だけで出すことが可能になります

この多孔尺八を「邪道だ」と毛嫌いする奏者もいますが、私はこれにより尺八音楽表現の幅が広がるのであれば良いのではないかと考えます

プロ尺八奏者はどれくらいいるのか?

プロ定義曖昧なので何とも言えませんが、メディア複数回登場したり、CDを出したり、定期的にリサイタルを開催している奏者に限定すれば、国内で100~150人くらいではないでしょうか。

最近活躍している若手プロはその多くが東京藝大の尺八邦楽尺八専攻出身です。https://hougaku.geidai.ac.jp/

そんな中、メディアへの登場頻度が図抜けて高い現役プロ尺八奏者が2人存在します。一人は「和楽器貴公子」こと藤原道山氏、もう一人は「美人すぎる尺八奏者」こと辻本好美氏です。

辻本好美氏の演奏は、実は某テレビ番組で毎週必ず、それも何回も使われています。正解は以下の動画の1:55あたりから

https://www.youtube.com/watch?v=2NfBpCQ5VYQ

お二人とも人気実力ともに申し分ないですが、私が個人的に一番好きなプロ尺八奏者は小湊昭尚氏です。彼の演奏きっかけで尺八世界に興味を持ったと言っても過言ではありません。

小湊さんがYOASOBIの「夜に駆ける」を尺八カバーした動画は超絶オススメなので是非皆さんにご覧いただきたいです。先ほど紹介した「足を使わないと出せない音」や「首振り」も速いパッセージの中でバンバン使っていて、言葉がありません。

https://www.youtube.com/watch?v=LI0nzOKtTuk

ブヒョ〜」という尺八独特の荒々しい音はどうやって鳴らしているのか?

尺八と聞いて多くの方がイメージされる「ブヒョ〜」という荒々しい音ですが、あれは口腔内や唇の形状を変えることで敢えて乱気流を発生させ雑音を含ませていて、専門用語で「ムラ息」と呼んでいます

やり方は奏者によって様々ですが、基本的には舌の先端を下の歯の付け根あたりに巻き込んで通常より強めの息で吹き込むことで鳴らすことができます

このムラ息、曲中であまり多用しすぎるとうるさい演奏になってしまますので、ベースは綺麗な音で演奏し、ここぞという時に使用しています。ちなみに上記紹介の「夜に駆ける」動画の中では3:06あたりで使用されています

最後

本当はもっともっとお伝えしたいことがあるのですが、長すぎると逆に興ざめになってしまいそうなのでここまでにします。

ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました

尺八に関する質問があればトラバブコメにお寄せください!可能な限り追記で回答いたしますので。

尺八の魅力、もっと広がってくれ!

2/26 追記

皆様ありがとうござます。これまでに頂いたブコメからいくつか回答いたします。

尺八を始める時に必要な物は?

兎にも角にもまず楽器が無いと始まらないのですが、これには明確な回答がございます

ズバリ、「プラスチック尺八 悠」の一択です。初心者用の尺八としてはこれ以外の選択肢は無いと言っていいでしょう。価格は約16,000円です(昔はもうちょっと安かったんだけどなぁ…)。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00P2FXKRS/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_VR20JYRNZ0YEQJ2QWS28

ヤフオクメルカリなどで中古竹製尺八が売られていますが、初心者には高確率地雷となりますので絶対に手を出さないでください。実家の押入れに眠っていた尺八も避けた方が無難です。

理由として、竹製は太さがまちまちで本人の口に合わない場合があること、手入れがされておらず割れていたり調律されていない場合があること、作者がわからないのでクオリティ玉石混淆なこと、などが挙げられます

その点「プラスチック尺八 悠」はその名の通りプラスチック製なので太さ、仕上がりが均一で、乾燥などによって割れ心配がなく、プロ尺八奏者による監修もされております

もし竹製尺八が欲しくなっても絶対に一人判断して買わず、信頼できる師匠尺八奏者、製管師と一緒に選んでください。

尺八選びを間違えたために最初の段階でつまづき、「私には無理だ」「やっぱり尺八は難しい」と思い込んでリタイヤする人の何と多いことか。残念でなりません。

楽器以外に必要なのは譜面台、チューナー、露切り(管楽器でいうところのスワブ)、テキストくらいでしょうか。

譜面台は尺八用をお勧めします。蛇腹式で横に広がるので主に縦書き尺八楽譜を置くのに適しています

https://www.amazon.co.jp/dp/B000WMCB94/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_HKHG69Q886CJS94SFZAP

チューナー一般的ものであれば何でも構いません。スマホアプリでも大丈夫です。

露切りは購入すれば間違いないですが、自作手ぬぐいハンカチに紐とおもりを結びつけた物でも大丈夫です。

テキストについては後述します。

プラスチック尺八であれば楽器メンテナンス不要です。

練習後に露切りで尺八内部に付着した水分を拭き取って終わりです。簡単ですね。これも尺八の魅力です。

尺八の独学は可能なのか?

不可能とは言いませんが、できれば信頼できる尺八奏者から直に教わってほしいですね。

オンラインレッスンを開講しているプロ奏者も何人かいらっしゃいます。レッスン料は講師によって千差万別です。

流派師範などの肩書を持った方もいらっしゃいますが、師範プロではないので注意して下さい。実際にその人の演奏を聴いたり体験レッスンを受けたうえで決めた方が良いでしょう。

最近プロ奏者がYoutube解説してくれている動画もありますので参考になるかと思います

https://www.youtube.com/channel/UCzD1bRWJ6o9ECnHRUVGctMw/videos

初心者用のテキストですが、個人的オススメは「鳴るほどザ尺八」です。

https://www.amazon.co.jp/dp/4991014433/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_Q2V39NSKQTAXAGBANXCG

著者の菅原仁義氏は現役のトッププロ奏者で、多くの若手プロ奏者を育成した実績もお持ちです。

もしあなた大学生であれば、「和楽器サークル」または「尺八サークル」に入会してください。懇切丁寧に教えてくれるはずです。

もし自分の通う大学にそうしたサークル存在しない場合、近所の大学サークル相談するのも手です。

社会人になってから尺八出会った私としては、同年代が集まって切磋琢磨できる環境練習時間がある大学生が羨ましくて羨ましくて仕方ありません。

一緒に練習できる仲間って、本当にかけがえのない存在です。小中高の吹奏楽部での経験があるからこそ、尚更そう思います

尺八人口はどれくらいなのか?

ホルン知名度のくだりでも少し話題になりましたが、国内唯一の和楽器専門誌「邦楽ジャーナル」によれば、現在尺八人口国内におよそ2万人とのことです。

他の楽器人口がわからないので、この数字が多いのか少ないのか、私には判断できません。詳しい方いらっしゃいましたら教えてください。

「夜に駆ける」動画尺八を持ち替えているのは何故か?

想像の通り、曲の調や音域に合わせて随時最適な尺八選択しているからです。そのため、曲の中で転調があると動画のような持ち替えが発生します。

尺八は一寸刻みで長さの違うものがあり、一寸長くなると出る音が全体的に半音低くなります

最も一般的な長さは一尺八寸(D管)で、次いで良く使われるのは一尺六寸(E管)、二尺三寸(A管)となります

ちなみにこの「一尺八寸」が「尺八」という名の由来になっているといわれています(諸説あり)。

足で塞ぐのは大甲のツの音であってるかな?

そうです。大甲のツです。

「夜に駆ける」動画では結構な頻度で使われていましたがこれは極めてレアケースで、通常の曲で使われることはほぼ無いのでご安心ください。

なんで和声とか発達せんかったのだろ?

尺八合奏用の「楽器」として使われ始めたのは明治時代以降で、それまでは禅宗の一派である普化宗虚無僧修行の一環として使う「法器」でした。

そのため、他の楽器合奏することが禁じられていたのが原因と思われます事実虚無僧が吹いていた曲はそのほぼ全てが独奏曲となっております

箏と三味線尺八合奏する曲がありますが、あの編成が成立したのも明治以降で、それ以前は胡弓という楽器が今の尺八パートを担っておりました。

さらに、当時の尺八現代尺八とは違い管の内部が漆で整えられておらず細かい凹凸があったため、音程や音量が不安定そもそも合奏に不向きだったことも原因かもしれません。

2021-11-13

ドカタ   第一

ドカタが数珠繋ぎアナルにチンポを捻じ込んで、よいせよいせと綱引きをしている。

夏によく見る光景、この辺りの風物である

ぼくはそれをキンキンに冷えたコーラを飲みながら遠くから眺めていた、何百人もの男がアナルにチンポを捻じ込んで、よいせよいせと綱を引いている。汗だくで、こちらまでぷんと匂いが香ってきそうなほどだ。

男たちは手ぬぐい自分の汗をぬぐうとギューと搾る。それと同時にアナルも締め付けられたようで、こちらに声は聞こえぬがうっという声もあげたようだった。

このドカタの恍惚にも似た表情が、僕を熱くさせていた。この夏の暑さに負けんじと、病弱な僕でさえ思わせられた。

そんな風に思っていたところ、綱引きの列から離れた一人の男が体を拭いながらこちらへやってきた。

「ふぅ、熱い熱い。」

まさかぼくが立派なドカタになる日が来るなんて、まだこのときは知る由もなかった。

ドカタ一章-終-

2021-09-16

スイカロックの外し方

1. 少し掘った砂浜にレジャーシートを敷いてスイカを置きます

2. 手ぬぐいで目隠しをしま

3. 右に2回転したあと左に3回転しま

4. 周囲の応援を聞きながらスイカに向かって歩きます

5. ヒノキの棒でスイカを叩きましょう

いかがでしたか?参考になりましたら幸いです

2021-07-26

anond:20200603181732

玄米さんは暇な時一人で(①壁打ち ②ジグソーパズル ③AI将棋)してそう。

ふぅ。とかいって手ぬぐいで汗を拭いて、ガリガリ君たべてそう。

2021-06-09

手洗い洗車の基本を解説するよ

/* 2021-06-10 追記蛇足を書いたよ https://anond.hatelabo.jp/20210610200709 ) */

 

「洗車くらい自分でしたいけど、何から何までわからない」という人向け。

ちなみに私は洗車業界関係者ではなくただの一般人。そんな私が「だいたい失敗がない」と思う方法を書いていきます

これ読んで「めんどくさ!」と思った人は素直に洗車機に突っ込むかガソスタで手洗いを頼んでください。

とても大まかな流れ

  1. 水で流す
  2. カーシャンプーで洗う
  3. すすぐ
  4. 拭き上げる

人間がお風呂入るときと同じだね? 車だけの特別なことって実はそんなにないんだ。でも、人間のお風呂とは違うだいじなポイントがふたつあるよ。

だいじなポイント

乾かさな

ボディの上で水滴や洗剤が蒸発して乾くと、こびりついて落としにくい跡になってしまうよ。特にアカが厄介。なので洗車している間はなるべく車をウェットにたもっておく必要があるよ。

傷をつけない

ボディをよく見ると細か~い傷がたくさんついている。この傷は全部、洗車する時についた傷だよ。洗車すると汚れは落ちるけど傷は増えてしまうんだ。だから、なるべく傷をつけないように洗車する方法を語っていくよ。

洗車のTPO

Time

洗車には涼しい時間帯を選ぼう。涼しい曇りの日がベスト暑い作業しんどいというのもあるけど、とにかく乾かしたくないというのが一番。

Place

洗車する場所は、車の周りにある程度のスペースがあって、水道から水をとれるところ。まあわかるよねと。

あと、なるべく日陰を選ぼう。屋内や屋根があればベスト理由は上と同じ、洗車中は車を乾かしたくないから。

Occasion

汚れてきたなと思った時が洗車どき(ボーダーラインは人によって違うだろうけど)。その日の夜から雨が降ることがわかっていても、洗える時に洗ったほうがいいよ。

用意するもの

ホース

ふつうガーデニング用のリール式でよいよ。手元でON/OFFや水量調整ができる散水ノズルがついたもの(だいたいついてる)。ホースの長さは20mくらいあるとよい。

バケツ

 7L~20L(車の大きさなりで)。四角い箱型バケツは洗車用具を収納しておくのに便利だよ。2個あると便利だけど、まずは1個でいい。

スポンジ(安物)2個以上

 ○個で○○○円とかの安物。奮発して高いもの買ってはいけない理由は後述)。安物スポンジはたいてい売り場の目立たない場所に置かれているので、床に近いところを探すといいよ。

タオル2、3枚

家にあるふつうの使い古しタオルでいいけど、少し厚手でよく水を吸うものがよい(旅館手ぬぐいみたいなのは向かない)。洗車用品売り場で売ってるマイクロファイバータオルを買うなら60x30cmくらいのサイズがよい。バスタオルサイズのもあるけど、絞りにくいのでおすすめしない。

カーシャンプー

安物でよい。お店に行くとコーティング車用!とか○色の車用!とか色んな付加価値のついたカーシャンプーがたくさん売ってるけど、大した違いはない。その売場でいちばん安くて質素な容器のやつでよい。液剤が無色のやつよりは青とか緑とかの色がついてるやつのほうが量がわかりやすいよ。

ホイール洗浄

本来「洗車は上から」が鉄則なのだけれど、ホイールはとりわけ汚れている場所なのでまず先に済ませちゃいます

ホイールっていうのは車輪を横から見て内周の金属のところね。ゴムじゃないところ。黒いゴムのところはタイヤ

水洗い

まずシャワーを当ててざっくり汚れを落とす。シャワーはできるだけ水圧を上げよう!

ついでにタイヤハウスタイヤが収まっている空間)も流しておくとよい。タイヤとボディのすき間の奥にノズルを向けて、タイヤハウスの壁や天井、裏側の部品などをぐるりと水で洗い流す。水がかかっちゃいけない部品はないから景気よくやっていいよ。

シャンプー作り

バケツにカーシャンプーをドボドボッと入れ(底から1cmくらい)、強めのシャワーを浴びせかけてよく泡立たせながら、泡がバケツからあふれてくるま希釈する。希釈率とかは気にしないで目分量でいい。泡を落ち着かせてシャワーを繰り返すと、きめの細かい泡になるよ。

本洗い(シャンプー

スポンジに泡をたっぷり含ませてホイールを洗う。特別テクニックとかはなくて、目が届く&手が届く範囲の汚れを落とす。

ホイールはとても汚れているのである程度ごしごしやる必要があるけど、あんまりしゃかりきに洗わなくてもいい。簡単に落ちる汚れだけを落とすと割り切ろう。ホイールのしつこい汚れはどっちみちシャンプー+スポンジ程度では落ちないんだよね。

シャンプーの泡立ちがよくなかったら原液を足してね。

タイヤは、うーん、タイヤは好きずきかなー。シャワー当てて落ちる汚れだけ落ちてればまずは十分だと思う。

すすぎ

4本とも洗ったら水でよくすすいで終わり。拭かなくていい。濡れたままでOK(どうせこの後ボディを洗うときに水がかかりまくるから)。

ボディ洗浄

ボディの洗浄手順もホイールと同じだよ。ざっと水洗い、シャンプーで本洗い、すすぎ。最後に拭き上げという工程が加わります

水洗い

車全体にすみずみまで強いシャワーを当てて、砂埃などを流してしまおう。これらを残しておくとスポンジで洗う時に小キズの原因になるよ。

シャワーの水圧はできるだけ上げてね。遠くから広い範囲にサワサワかけるんじゃなくて、シャワーのノズルをできるだけ相手に近づけて、なんだろ、スプレー塗料で色を塗るような感じ? ゆっくりとノズルを移動させながら、ボディ表面の汚れを高水圧でていねいに吹き飛ばしていくようなイメージ

基本的にはルーフ屋根からだんだん下に降りてくる要領で流すんだけど、シャワーのノズルを上や横に向けないと水が届かない場所もあるよ。

シャンプー作り

ホイールに使ったシャンプーはめちゃくちゃ汚れているので捨てて、バケツをすすいでもう一度シャンプーを作る。作り方は上と同じだよ。

スポンジもホイール用とボディ用を必ず分けること! ホイールを洗ったスポンジは異物まみれだから、それでボディを洗うと傷だらけになるよ!

本洗い(シャンプー

シャンプーの泡をスポンジにたっぷり含ませて、ルーフから順に洗っていこう。

こまめにスポンジに泡をとって、ボディが潤沢な泡まみれ状態になるようにキープしてね。スポンジは力をこめてゴシゴシこすらずに、表面を滑らせるような力加減でよいよ。なでて落ちない汚れはこすっても落ちません。傷を増やすだけだよ。

洗っていく順番はおおむね上→下になっていればあとは好みでよいよ。車の形も様々だしね。

スポンジを走らせる方向は、水平往復がいいよ。「の」の字を描くようにぐるぐると洗うと気分的には洗ってる感が出るけど、ボディラインに沿ってスポンジを動かしたほうが実は効率的。それに、洗い傷がついても一方向なら目立たないんだ。あと、スポンジは何度もゆすいでください。ルーフを洗ったらゆすぐ。ボンネットを洗ったらゆすぐ。ドア一枚洗ったらゆすぐ。こうしてやることで、スポンジに噛み込んだ異物を落としたいからだよ。

異物について

ここまで何度も洗えば洗うほど傷がつくと言ってきた。これは、スポンジやタオルが異物(砂や鉄粉)を噛むからだよ。そんなもので洗車を続けると、異物をだいじなボディにこすりつけているのと同じだ。

これはもう宿命的なことで、まったく傷をつけずに洗車する方法なんてない。そして、一度ついてしまった傷は専門業者に研磨してしもらわないと根本的に消す方法はない(逆に言えば、金を積めば消せる)。なので、スポンジとタオルは事あるごとにこまめに真水でゆすいで異物を落としながら作業を進めるしかない。

しかし、ゆすいでもゆすいでも居座り続ける異物はいる。洗車を繰り返せばそうした異物は増えていく。これは高級ムートンだろうが安物スポンジだろうが同じだよ。つまり古いスポンジ=ヤバいスポンジなのだ。なので、安物のスポンジを短いスパンばんばん取り替えるのが最適解だと私は思っている。

お払い箱のスポンジはホイール洗い用に降格するとか、家で別な用途に使うとかしてちょんまげ

高いムートン買っちゃった人。残念だけどしまっといてください。やわらかくてフサフサで高級感もあるけど、あんなに毛が多くて毛足が長かったら「異物さんお入り下さ~い」って言ってるみたいなもんよ?

すすぎ

水で泡を洗い流す。隅々までね。

拭き上げ

洗車中はなるべくボディの水分を切らさないようにと言ってきたけれど、いよいよ水分を拭き取るよ。

タオルを2枚用意したほうが効率がいい。水拭き用と、乾拭き用。

水拭き用のタオルは一度濡らしてから固く絞り、こいつでどんどん水滴を拭き取っていこう。屋根から順に、ホイール最後タオルは拭き取った水分ですぐにジュクジュクになるので、こまめによく絞る。あと、こまめにゆすぐ(異物対策)。

水拭きしたらすかさず乾いたタオルで乾拭き。どのくらい「すかさず」かというと、両手にタオルを持って、左手で水拭きしたら右手で乾拭き、というくらいのタイム感。とにかく水道水に蒸発するスキを与えない。ここは手際の良さが勝負だよ。

終わりに

ホイールまで拭き上げたら洗車は終わりだ。洗って流して拭く、要約すればこれだけのことだけど、作業イメージがしやすいようにちょっと詳しく書いた。慣れない人だと小一時間はかかると思う。

仕上がった車を眺めてみると、まだあちこち汚れているところが見つかると思う。それは洗い残しかもしれないし、日常の洗車では本質的に洗い落とせない汚れなのかもしれない。それは次の洗車で確認してみてほしい。

2021-03-22

又三郎

風の又三郎

宮沢賢治


どっどど どどうど どどうど どどう

青いくるみも吹きとばせ

すっぱいかりんも吹きとばせ

どっどど どどうど どどうど どどう

 谷川の岸に小さな学校がありました。

 教室はたった一つでしたが生徒は三年生がないだけで、あとは一年から六年までみんなありました。運動場もテニスコートのくらいでしたが、すぐうしろは栗くりの木のあるきれいな草の山でしたし、運動場のすみにはごぼごぼつめたい水を噴ふく岩穴もあったのです。

 さわやかな九月一日の朝でした。青ぞらで風がどうと鳴り、日光運動場いっぱいでした。黒い雪袴ゆきばかまをはいた二人の一年の子がどてをまわって運動場にはいって来て、まだほかにだれも来ていないのを見て、「ほう、おら一等だぞ。一等だぞ。」とかわるがわる叫びながら大よろこびで門をはいって来たのでしたが、ちょっと教室の中を見ますと、二人ふたりともまるでびっくりして棒立ちになり、それから顔を見合わせてぶるぶるふるえましたが、ひとりはとうとう泣き出してしまいました。というわけは、そのしんとした朝の教室なかにどこから来たのか、まるで顔も知らないおかしな赤い髪の子供がひとり、いちばん前の机にちゃんとすわっていたのです。そしてその机といったらまったくこの泣いた子の自分の机だったのです。

 もひとりの子ももう半分泣きかけていましたが、それでもむりやり目をりんと張って、そっちのほうをにらめていましたら、ちょうどそのとき川上から

「ちょうはあ かぐり ちょうはあ かぐり。」と高く叫ぶ声がして、それからまるで大きなからすのように、嘉助かすけがかばんをかかえてわらって運動場へかけて来ました。と思ったらすぐそのあとから太郎さたろうだの耕助こうすけだのどやどややってきました。

「なして泣いでら、うなかもたのが。」嘉助が泣かないこどもの肩をつかまえて言いました。するとその子もわあと泣いてしまいました。おかしいとおもってみんながあたりを見ると、教室の中にあの赤毛おかしな子がすまして、しゃんとすわっているのが目につきました。

 みんなはしんとなってしまいました。だんだんみんな女の子たちも集まって来ましたが、だれもなんとも言えませんでした。

 赤毛の子どもはいっこうこわがるふうもなくやっぱりちゃんとすわって、じっと黒板を見ています。すると六年生の一郎いちろうが来ました。一郎はまるでおとなのようにゆっくり大またにやってきて、みんなを見て、

「何なにした。」とききました。

 みんなははじめてがやがや声をたててその教室の中の変な子を指さしました。一郎はしばらくそっちを見ていましたが、やがて鞄かばんをしっかりかかえて、さっさと窓の下へ行きました。

 みんなもすっかり元気になってついて行きました。

「だれだ、時間にならないに教室はいってるのは。」一郎は窓へはいのぼって教室の中へ顔をつき出して言いました。

「お天気のいい時教室はいってるづど先生にうんとしからえるぞ。」窓の下の耕助が言いました。

しからえでもおら知らないよ。」嘉助が言いました。

「早ぐ出はって来こ、出はって来。」一郎が言いました。けれどもそのこどもはきょろきょろ室へやの中やみんなのほうを見るばかりで、やっぱりちゃんとひざに手をおいて腰掛けにすわっていました。

 ぜんたいその形からが実におかしいのでした。変てこなねずみいろのだぶだぶの上着を着て、白い半ずぼんをはいて、それに赤い革かわの半靴はんぐつをはいていたのです。

 それに顔といったらまるで熟したりんごのよう、ことに目はまん丸でまっくろなのでした。いっこう言葉が通じないようなので一郎も全く困ってしまいました。

あいづは外国人だな。」

学校はいるのだな。」みんなはがやがやがやがや言いました。ところが五年生の嘉助がいきなり、

「ああ三年生さはいるのだ。」と叫びましたので、

「ああそうだ。」と小さいこどもらは思いましたが、一郎はだまってくびをまげました。

 変なこどもはやはりきょろきょろこっちを見るだけ、きちんと腰掛けています

 そのとき風がどうと吹いて来て教室ガラス戸はみんながたがた鳴り、学校のうしろの山の萱かやや栗くりの木はみんな変に青じろくなってゆれ、教室のなかのこどもはなんだかにやっとわらってすこしうごいたようでした。

 すると嘉助がすぐ叫びました。

「ああわかった。あいつは風の又三郎またさぶろうだぞ。」

 そうだっとみんなもおもったときにわかにうしろのほうで五郎が、

「わあ、痛いぢゃあ。」と叫びました。

 みんなそっちへ振り向きますと、五郎が耕助に足のゆびをふまれて、まるでおこって耕助をなぐりつけていたのです。すると耕助もおこって、

「わあ、われ悪くてでひと撲はだいだなあ。」と言ってまた五郎をなぐろうとしました。

 五郎はまるで顔じゅう涙だらけにして耕助に組み付こうとしました。そこで一郎が間へはいって嘉助が耕助を押えてしまいました。

「わあい、けんかするなったら、先生ちゃん職員室に来てらぞ。」と一郎が言いながらまた教室のほうを見ましたら、一郎はにわかにまるでぽかんとしてしまいました。

 たったいままで教室にいたあの変な子が影もかたちもないのです。みんなもまるでせっかく友だちになった子うまが遠くへやられたよう、せっかく捕とった山雀やまがらに逃げられたように思いました。

 風がまたどうと吹いて来て窓ガラスをがたがた言わせ、うしろの山の萱かやをだんだん上流のほうへ青じろく波だてて行きました。

「わあ、うなだけんかしたんだがら又三郎いなぐなったな。」嘉助がおこって言いました。

 みんなもほんとうにそう思いました。五郎はじつに申しわけないと思って、足の痛いのも忘れてしょんぼり肩をすぼめて立ったのです。

「やっぱりあいつは風の又三郎だったな。」

二百十日で来たのだな。」

「靴くつはいでだたぞ。」

「服も着でだたぞ。」

「髪赤くておかしやづだったな。」

「ありゃありゃ、又三郎おれの机の上さ石かけ乗せでったぞ。」二年生の子が言いました。見るとその子の机の上にはきたない石かけが乗っていたのです。

「そうだ、ありゃ。あそごのガラスもぶっかしたぞ。」

「そだないでああいづあ休み前に嘉助石ぶっつけだのだな。」

「わあい。そだないであ。」と言っていたとき、これはまたなんというわけでしょう。先生玄関から出て来たのです。先生はぴかぴか光る呼び子を右手にもって、もう集まれのしたくをしているのでしたが、そのすぐうしろから、さっきの赤い髪の子が、まるで権現ごんげんさまの尾おっぱ持ちのようにすまし込んで、白いシャッポかぶって、先生についてすぱすぱとあるいて来たのです。

 みんなはしいんとなってしまいました。やっと一郎が「先生お早うございます。」と言いましたのでみんなもついて、

先生お早うございます。」と言っただけでした。

「みなさん。お早う。どなたも元気ですね。では並んで。」先生は呼び子をビルルと吹きました。それはすぐ谷の向こうの山へひびいてまたビルルルと低く戻もどってきました。

 すっかりやすみの前のとおりだとみんなが思いながら六年生は一人、五年生は七人、四年生は六人、一二年生は十二人、組ごとに一列に縦にならびました。

 二年は八人、一年生は四人前へならえをしてならんだのです。

 するとその間あのおかしな子は、何かおかしいのかおもしろいのか奥歯で横っちょに舌をかむようにして、じろじろみんなを見ながら先生のうしろに立っていたのです。すると先生は、高田たかださんこっちへおはいりなさいと言いながら五年生の列のところへ連れて行って、丈たけを嘉助とくらべてから嘉助とそのうしろのきよの間へ立たせました。

 みんなはふりかえってじっとそれを見ていました。

 先生はまた玄関の前に戻って、

「前へならえ。」と号令をかけました。

 みんなはもう一ぺん前へならえをしてすっかり列をつくりましたが、じつはあの変な子がどういうふうにしているのか見たくて、かわるがわるそっちをふりむいたり横目でにらんだりしたのでした。するとその子ちゃんと前へならえでもなんでも知ってるらしく平気で両腕を前へ出して、指さきを嘉助のせなかへやっと届くくらいにしていたものですから、嘉助はなんだかせなかがかゆく、くすぐったいというふうにもじもじしていました。

「直れ。」先生がまた号令をかけました。

一年から順に前へおい。」そこで一年生はあるき出し、まもなく二年生もあるき出してみんなの前をぐるっと通って、右手下駄箱げたばこのある入り口はいって行きました。四年生があるき出すとさっきの子も嘉助のあとへついて大威張りであるいて行きました。前へ行った子もときどきふりかえって見、あとの者もじっと見ていたのです。

 まもなくみんなははきもの下駄箱げたばこに入れて教室はいって、ちょうど外へならんだときのように組ごとに一列に机にすわりました。さっきの子もすまし込んで嘉助のうしろにすわりました。ところがもう大さわぎです。

「わあ、おらの机さ石かけはいってるぞ。」

「わあ、おらの机代わってるぞ。」

「キッコ、キッコ、うな通信簿持って来たが。おら忘れで来たぢゃあ。」

「わあい、さの、木ペン借せ、木ペン借せったら。」

「わあがない。ひとの雑記帳とってって。」

 そのとき先生はいって来ましたのでみんなもさわぎながらとにかく立ちあがり、一郎がいちばんしろで、

「礼。」と言いました。

 みんなはおじぎをする間はちょっとしんとなりましたが、それからまたがやがやがやがや言いました。

「しずかに、みなさん。しずかにするのです。」先生が言いました。

「しっ、悦治えつじ、やがましったら、嘉助え、喜きっこう。わあい。」と一郎がいちばんしろからまりさわぐものを一人ずつしかりました。

 みんなはしんとなりました。

 先生が言いました。

「みなさん、長い夏のお休みおもしろかったですね。みなさんは朝から水泳ぎもできたし、林の中で鷹たかにも負けないくらい高く叫んだり、またにいさんの草刈りについて上うえの野原へ行ったりしたでしょう。けれどももうきのうで休みは終わりました。これからは第二学期で秋です。むかしから秋はいちばんからだもこころもひきしまって、勉強のできる時だといってあるのです。ですから、みなさんもきょうからまたいっしょにしっかり勉強しましょう。それからこのお休みの間にみなさんのお友だちが一人ふえました。それはそこにいる高田さんです。そのかたのおとうさんはこんど会社のご用で上の野原の入り口へおいでになっていられるのです。高田さんはいままでは北海道学校におられたのですが、きょうからみなさんのお友だちになるのですから、みなさんは学校勉強ときも、また栗拾くりひろいや魚さかなとりに行くときも、高田さんをさそうようにしなければなりません。わかりましたか。わかった人は手をあげてごらんなさい。」

 すぐみんなは手をあげました。その高田とよばれた子も勢いよく手をあげましたので、ちょっと先生はわらいましたが、すぐ、

「わかりましたね、ではよし。」と言いましたので、みんなは火の消えたように一ぺんに手をおろしました。

 ところが嘉助がすぐ、

先生。」といってまた手をあげました。

はい。」先生は嘉助を指さしました。

高田さん名はなんて言うべな。」

高田三郎さぶろうさんです。」

「わあ、うまい、そりゃ、やっぱり又三郎だな。」嘉助はまるで手をたたいて机の中で踊るようにしましたので、大きなほうの子どもらはどっと笑いましたが、下の子どもらは何かこわいというふうにしいんとして三郎のほうを見ていたのです。

 先生はまた言いました。

「きょうはみなさんは通信簿宿題をもってくるのでしたね。持って来た人は机の上へ出してください。私がいま集めに行きますから。」

 みんなはばたばた鞄かばんをあけたりふろしきをといたりして、通信簿宿題を机の上に出しました。そして先生一年生のほうから順にそれを集めはじめました。そのときみんなはぎょっとしました。というわけはみんなのうしろのところにいつか一人の大人おとなが立っていたのです。その人は白いだぶだぶの麻服を着て黒いてかてかしたはんけちをネクタイの代わりに首に巻いて、手には白い扇をもって軽くじぶんの顔を扇あおぎながら少し笑ってみんなを見おろしていたのです。さあみんなはだんだんしいんとなって、まるで堅くなってしまいました。

 ところが先生別にその人を気にかけるふうもなく、順々に通信簿を集めて三郎の席まで行きますと、三郎は通信簿宿題帳もないかわりに両手をにぎりこぶしにして二つ机の上にのせていたのです。先生はだまってそこを通りすぎ、みんなのを集めてしまうとそれを両手でそろえながらまた教壇に戻りました。

「では宿題帳はこの次の土曜日に直して渡しまから、きょう持って来なかった人は、あしたきっと忘れないで持って来てください。それは悦治さんと勇治ゆうじさんと良作りょうさくさんとですね。ではきょうはここまでです。あしたかちゃんといつものとおりのしたくをしておいでなさい。それから四年生と六年生の人は、先生といっしょに教室のお掃除そうじをしましょう。ではここまで。」

 一郎が気をつけ、と言いみんなは一ぺんに立ちました。うしろ大人おとなも扇を下にさげて立ちました。

「礼。」先生もみんなも礼をしました。うしろ大人も軽く頭を下げました。それからずうっと下の組の子どもらは一目散に教室を飛び出しましたが、四年生の子どもらはまだもじもじしていました。

 すると三郎はさっきのだぶだぶの白い服の人のところへ行きました。先生も教壇をおりてその人のところへ行きました。

「いやどうもご苦労さまでございます。」その大人はていねいに先生に礼をしました。

「じきみんなとお友だちになりますから。」先生も礼を返しながら言いました。

「何ぶんどうかよろしくねがいいたします。それでは。」その人はまたていねいに礼をして目で三郎に合図すると、自分玄関のほうへまわって外へ出て待っていますと、三郎はみんなの見ている中を目をりんとはってだまって昇降口から出て行って追いつき、二人は運動場を通って川下のほうへ歩いて行きました。

 運動場を出るときの子はこっちをふりむいて、じっと学校やみんなのほうをにらむようにすると、またすたすた白服の大人おとなについて歩いて行きました。

先生、あの人は高田さんのとうさんですか。」一郎が箒ほうきをもちながら先生にききました。

「そうです。」

「なんの用で来たべ。」

「上の野原の入り口モリブデンという鉱石ができるので、それをだんだん掘るようにするためだそうです。」

「どこらあだりだべな。」

「私もまだよくわかりませんが、いつもみなさんが馬をつれて行くみちから、少し川下へ寄ったほうなようです。」

モリブデン何にするべな。」

「それは鉄とまぜたり、薬をつくったりするのだそうです。」

「そだら又三郎も掘るべが。」嘉助が言いました。

又三郎だない。高田三郎だぢゃ。」佐太郎が言いました。

又三郎又三郎だ。」嘉助が顔をまっ赤かにしてがん張りました。

「嘉助、うなも残ってらば掃除そうじしてすけろ。」一郎が言いました。

「わあい。やんたぢゃ。きょう四年生ど六年生だな。」

 嘉助は大急ぎで教室をはねだして逃げてしまいました。

 風がまた吹いて来て窓ガラスはまたがたがた鳴り、ぞうきんを入れたバケツにも小さな黒い波をたてました。

 次の日一郎はあのおかし子供が、きょうからほんとうに学校へ来て本を読んだりするかどうか早く見たいような気がして、いつもより早く嘉助をさそいました。ところが嘉助のほうは一郎よりもっとそう考えていたと見えて、とうにごはんもたべ、ふろしきに包んだ本ももって家の前へ出て一郎を待っていたのでした。二人は途中もいろいろその子のことを話しながら学校へ来ました。すると運動場には小さな子供らがもう七八人集まっていて、棒かくしをしていましたが、その子はまだ来ていませんでした。またきのうのように教室の中にいるのかと思って中をのぞいて見ましたが、教室の中はしいんとしてだれもいず、黒板の上にはきのう掃除ときぞうきんでふいた跡がかわいてぼんやり白い縞しまになっていました。

「きのうのやつまだ来てないな。」一郎が言いました。

「うん。」嘉助も言ってそこらを見まわしました。

 一郎はそこで鉄棒の下へ行って、じゃみ上がりというやり方で、無理やりに鉄棒の上にのぼり両腕をだんだん寄せて右の腕木に行くと、そこへ腰掛けてきのう三郎の行ったほうをじっと見おろして待っていました。谷川はそっちのほうへきらきら光ってながれて行き、その下の山の上のほうでは風も吹いているらしく、ときどき萱かやが白く波立っていました。

 嘉助もやっぱりその柱の下でじっとそっちを見て待っていました。ところが二人はそんなに長く待つこともありませんでした。それは突然三郎がその下手のみちから灰いろの鞄かばんを右手にかかえて走るようにして出て来たのです。

「来たぞ。」と一郎が思わず下にいる嘉助へ叫ぼうとしていますと、早くも三郎はどてをぐるっとまわって、どんどん正門をはいって来ると、

お早う。」とはっきり言いました。みんなはいっしょにそっちをふり向きましたが、一人も返事をしたものがありませんでした。

 それは返事をしないのではなくて、みんなは先生はいつでも「お早うございます。」というように習っていたのですが、お互いに「お早う。」なんて言ったことがなかったのに三郎にそう言われても、一郎や嘉助はあんまりにわかで、また勢いがいいのでとうとう臆おくしてしまって一郎も嘉助も口の中でお早うというかわりに、もにゃもにゃっと言ってしまったのでした。

 ところが三郎のほうはべつだんそれを苦にするふうもなく、二三歩また前へ進むとじっと立って、そのまっ黒な目でぐるっと運動場じゅうを見まわしました。そしてしばらくだれか遊ぶ相手がないかさがしているようでした。けれどもみんなきょろきょろ三郎のほうはみていても、やはり忙しそうに棒かくしをしたり三郎のほうへ行くものがありませんでした。三郎はちょっと具合が悪いようにそこにつっ立っていましたが、また運動場をもう一度見まわしました。

 それからぜんたいこの運動場は何間なんげんあるかというように、正門から玄関まで大またに歩数を数えながら歩きはじめました。一郎は急いで鉄棒をはねおりて嘉助とならんで、息をこらしてそれを見ていました。

 そのうち三郎は向こうの玄関の前まで行ってしまうと、こっちへ向いてしばらく暗算をするように少し首をまげて立っていました。

 みんなはやはりきろきろそっちを見ています。三郎は少し困ったように両手をうしろへ組むと向こう側の土手のほうへ職員室の前を通って歩きだしました。

 その時風がざあっと吹いて来て土手の草はざわざわ波になり、運動場のまん中でさあっと塵ちりがあがり、それが玄関の前まで行くと、きりきりとまわって小さなつむじ風になって、黄いろな塵は瓶びんをさかさまにしたような形になって屋根より高くのぼりました。

 すると嘉助が突然高く言いました。

「そうだ。やっぱりあい又三郎だぞ。あいづ何かするときっと風吹いてくるぞ。」

「うん。」一郎はどうだかわからないと思いながらもだまってそっちを見ていました。三郎はそんなことにはかまわず土手のほうへやはりすたすた歩いて行きます

 そのとき先生がいつものように呼び子をもって玄関を出て来たのです。

お早うございます。」小さな子どもらはみんな集まりました。

お早う。」先生はちらっと運動場を見まわしてから、「ではならんで。」と言いながらビルルッと笛を吹きました。

 みんなは集まってきてきのうのとおりきちんとならびました。三郎もきのう言われた所へちゃんと立っています

 先生はお日さまがまっ正面なのですこしまぶしそうにしながら号令をだんだんかけて、とうとうみんなは昇降口から教室はいりました。そして礼がすむと先生は、

「ではみなさんきょうから勉強をはじめましょう。みなさんはちゃんとお道具をもってきましたね。では一年生(と二年生)の人はお習字のお手本と硯すずりと紙を出して、二年生と四年生の人は算術帳と雑記帳と鉛筆を出して、五年生と六年生の人は国語の本を出してください。」

 さあするとあっちでもこっちでも大さわぎがはじまりました。中にも三郎のすぐ横の四年生の机の佐太郎が、いきなり手をのばして二年生のかよの鉛筆ひらりととってしまったのです。かよは佐太郎の妹でした。するとかよは、

「うわあ、兄あいな、木ペン取とてわかんないな。」と言いながら取り返そうとしますと佐太郎が、

「わあ、こいつおれのだなあ。」と言いながら鉛筆をふところの中へ入れて、あとはシナ人がおじぎするときのように両手を袖そでへ入れて、机へぴったり胸をくっつけました。するとかよは立って来て、

「兄あいな、兄なの木ペンはきのう小屋でなくしてしまったけなあ。よこせったら。」と言いながら一生けん命とり返そうとしましたが、どうしてももう佐太郎は机にくっついた大きな蟹かに化石みたいになっているので、とうとうかよは立ったまま口を大きくまげて泣きだしそうになりました。

 すると三郎は国語の本をちゃんと机にのせて困ったようにしてこれを見ていましたが、かよがとうとうぼろぼろ涙をこぼしたのを見ると、だまって右手に持っていた半分ばかりになった鉛筆を佐太郎の目の前の机に置きました。

 すると佐太郎はにわかに元気になって、むっくり起き上がりました。そして、

「くれる?」と三郎にききました。三郎はちょっとまごついたようでしたが覚悟したように、「うん。」と言いました。すると佐太郎はいきなりわらい出してふところの鉛筆をかよの小さな赤い手に持たせました。

 先生は向こうで一年の子の硯すずりに水をついでやったりしていましたし、嘉助は三郎の前ですから知りませんでしたが、一郎はこれをいちばんしろちゃんと見ていました。そしてまるでなんと言ったらいいかからない、変な気持ちがして歯をきりきり言わせました。

「では二年生のひとはお休みの前にならった引き算をもう一ぺん習ってみましょう。これを勘定してごらんなさい。」先生は黒板に25-12=の数式と書きました。二年生のこどもらはみんな一生

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