カテゴリー 「マスダとマスダの冒険」 RSS

2018-11-21

[] #65-4「短くて長い一日」

穴を通り抜け、最初に目に映ったのは同じ景色

いや、確信はないが同じだと思う。

決定的な違いはすぐに分かった。

俺たちが先ほどいた場所は、ガイド居候である家屋前。

人通りの少ない場所に古臭い一軒家がポツリとあるはずだが、それがなかった。

「シロクロの家がないね……」

シロクロってのは色の話じゃなくて、家主の名前のことだ。

そいつガイドとは別の意味不思議人間で、ひょんなことからこの町に住み着いている流れ者のはず、なのだが……。

「別の次元からね。可能性ってのは個々人の選択因果が複雑に結びついている。それらがどこかで少しでも変われば、こういうことになるのさ」

シロクロの人格は、有り体に言ってしまえば社会不適合者のソレに近い。

不憫に思った弟とその仲間たちは、そこで一計を案じる。

「シロクロは『アレコレ病』だ」と思いつきの精神病を吹聴したんだ。

それが巡り巡って嘘から出た真となり、シロクロは市民権を得ることができた。

そんなシロクロの住んでいるはずの家が、ここには、この世界にはない。

「シロクロのやつ、どこにいるんだろう……」

そう呟く弟の声が、どことなもの悲しく聴こえる。

いるはずの仲間がいないのだから当前だ。

「この世界では、そもそもシロクロはここに来ていないのかもな。或いは別のところに移り住んだか……」

可能性は色々と考えられるが、考えたところで意味がない。

そんなの分かりようがないし、分かったところで所詮は別次元での話だからだ。


…………

それから様々な場所を練り歩いた。

「向かいに住んでいるはずのムカイさんも、ここにはいないのか」

どこも見慣れた景色のようで、どこかが違うと感じさせる。

「ああ、近所のコンビニも違う。エイト・テンじゃなくて、サブファミリーマートになってる」

中華料理のところはケーキ屋になってる。なのに、その隣に建ってるケーキ屋は同じなのか……」

市長も違う人だね」

「まあ、それはどうでもいいんだが」

パッと見は自分たちのいる町と同じなのに、何ともいえない違和感

サイバーパンクというほど独特な世界ってわけでもなくて、なんというか……洋ゲーとかで出てくるニッポンみたいな感じだ。

今、まさに別次元世界を歩いているという実感と共に、居心地の悪さも俺たち兄弟に与えてくる。

「何か気持ち悪くなってきた……」

弟はそのせいで酔ってしまったらしく、足元がフラついている。

今にも倒れそうなほど弱っているように見えたので、俺は後ろから背中を支えてやった。

「あ、ありがとう……」

弟は申し訳なさそうに縮こまった。

何だか奇妙だ。

強い違和感が押し寄せてくる。

この世界もそうだが、弟もいつもと様子が違う。

ガイドに対しての態度もそうだが、何より俺に対して随分と殊勝だ。

まさか次元の弟なんじゃないかと疑ってしまうほどである

この次元突入する際は弟と一緒に入ったので、そんなわけがないのだが。

まあ恐らく、慣れない環境に緊張して疲れている、といったところなのだろう。

こいつは大雑把に見えて、変なところで繊細だからな。

ちょっと休むか」

「だ、大丈夫ありがとう、兄ちゃん

しかし俺の突拍子もない発想は、その一言でいきなり現実味を帯びてしまった。

「……“兄ちゃん”って言ったのか?」

弟は俺のことを「兄貴」と呼ぶ。

それは弟が物心つく頃から、ずっと変わっていない。

「お前、俺の弟じゃないな?」

(#65-5へ続く)

2018-11-20

[] #65-3「短くて長い一日」

まさかドタキャンじゃないよな。

今回は俺も一応モチベーションがあったのに、ここにきてそれが減少していくのを感じる。

これは、アレだ。

大した理由もないのに、無性に学校行きたくない時のヤツだ。

どうする。

から弟を迎えに行けば間に合うか。

いや、いま向かっている途中ですれ違ったらどうする。

もう今回の小旅行を断ったほうがいいだろうか。

ああ、くそ

寝起きの頭じゃあ考えがまとまらない。

「ごめん、にい……兄貴。遅くなった」

頭がグズりだしてきたとき、弟がやっと来てくれた。

それで失ったモチベーションが元通りになるほど俺は調子のいい人間ではないが、ひとまず安心といったところか。

「弟よお、荷物もないのに何をそんな時間をかけることがあるんだ」

「い……いやあ、寝癖が大暴れしてさあ」

「寝癖って。お前そういうの気にするタイプじゃないだろう」

「そ、そうかな……」

遅刻してきたのはともかく、何だか弟の様子がおかしい。

しかし、このときの俺は寝起きで判断力が鈍っていて、そのことを深く考えていなかったんだ。

「じゃあ集まったところで、別次元での行動についておさらいするよ」

ガイドが注意事項を説明し始めるが、内容はほとんど当然のことばかりだ。

次元に悪影響を与えないために目立つようなことはしないだとか、その次元の住人に迷惑をかけないようにだとか。

ところどころ小難しい横文字を並べている以外は、修学旅行学生しおりレベルのことしか言っていない。

「……というわけで、キミたちが注意すべきなのはそんなところかな。ちゃんと心がけてね」

「は~い」

からといって、本当に修学旅行中の生徒みたいな気のない返事をしてしまう弟も大概だが。

言ってからそのことに気づいたようで、気まずそうにモジモジしている。

こいつ、まだ寝ぼけているようだな。

「……ほら、キミも返事!」

はいはいハイショーハイショー」

なんだかこのあたりのやり取り、本当に修学旅行みたいなノリだな。

「じゃあ、今から“穴”を開けるよ。そこを通って別の次元を移動するんだ」

いわゆるワームホール的なやつか。

気取った横文字並べられるのも癪だが、“穴”っていう表現は風情がねえなあ。

「開いたらすぐに入るように。長く開けておくと次元警察煩いから、すぐに閉めないといけない」

そう言ってガイドは、謎のオブジェクトを放り投げた。

放り投げられたオブジェは空中で静止し、1秒と経たない内に“穴”を作り出した。

穴の先に見える景色は淀んでいて見えにくいが、自分たちが今いる世界とは明らかに違うと感じさせる。

「さあ、ボクについてきて! 早く入って!」

未だモジモジしている弟の手を引いて、俺はその空間に勢いよく入った。

(#65-4へ続く)

2018-11-19

[] #65-2「短くて長い一日」

「一緒に別の次元に行ってみよう! そうすればキミも、ボクの言っていることを信じるはずだ」

『別の次元

その言葉が俺の琴線に触れた。

「別の次元ってのはアレか。パラレルワールド、平行世界的なヤツか?」

わず興味本位質問を、食い気味にしてしまう。

今までにない俺の好反応に、ガイドもたじろいでいた。

「んー……まあ広義的には」

「そうか……やっと分かってきたようだな。そういうのでいいんだよ」

「どういうの?」

俺が知っている限り、こいつが今までやってきたことは尽く期待外れだった。

人の家の庭を焼き払う謎のオブジェクト

生身の俺に妨害されただけで、何もできなくなる程度の機能しかないダサいスーツ

色々なものを無理やり詰め込んで何がやりたいかからない、使い勝手の悪そうな多機能端末。

その他、俺の弟相手にも色々と披露していた。

将来生まれてくる子供人生シミュレーションできる装置だの、罪と罰を測ることができるメーターだの。

こいつにとっては未来科学力を証明しているつもりなのだろうが、いずれも胡散臭い感性がズレている。

もっと普遍的イメージに応えるようなものなら良いのに、どれも頭でっかちだったかコメントに困っていた。

シンプルに空を自由に飛べるだとか、玩具兵隊だとか、世界旅行に行けるようなものとかでいいのに。

いつもヒネたことばかりやってくるから、凄いかどうかイマイチからないし、興味も湧いてこない。

だが今回、やっとマトモなものが出てきてくれたようだ。

「じゃあ、その別次元について、話を聞こうか」

これでもジャリガキの頃はSFに慣れ親しんでいた。

今でこそ落ち着いてはいるが、ここにきてその頃の気持ちが再燃していく。


…………

そして出発当日、早朝。

待ち合わせ場所であるガイド居候先に来ていた。

次元に与える影響を最小限にするため、身に着けるものや、持ち物は最低限だ。

しみったれた小旅行である

それでも俺がOKしたのは、もちろんパラレルワールドというものに惹かれたのもあるが、“とある条件”を飲んでもらったからだ。

「後は弟くんが来るのを待つだけだね」

俺は同行者、つまり弟も共に連れて行くことを条件にした。

さすがに苦手な相手と二人っきりなんてのはツラすぎるからだ。

見知った身内でもいれば、多少はマシになるだろう。

……だが、弟が来るのが遅い。

から来ると言っていたが、まさか二度寝しているんじゃないだろうな。

あいつは俺以上に朝に弱いから、有り得そうで不安だ。

「うーん、弟くん来ないね。そろそろ出発なんだけど……」

次元を飛ぶんなら、今の時間とか気にしなくてもいいだろ」

「色々とこっちにも事情があるんだよ。好き勝手次元を跨ぐと厳罰になるからあんまり融通利かすわけにはいかないんだ」

「じゃあ、このままだとお前と二人で旅行ってか?」

「まあ、元から二人で行く予定だったんだし同じことでしょ」

勘弁してくれ。

こいつと長時間一緒とか、補正をかけてもロクな思い出にならないぞ。

(#65-3へ続く)

2018-11-18

[] #65-1「短くて長い一日」

今の自分人生に、自分自身に、これといって不満はない。

……と言い切ってしまうと嘘になる。

だけど現状を顧みて無いものねだりをしたり、管を巻くほどじゃない。

それでも、たまに今の自分とは違う“可能性”について想像することは誰にだってあるはずだ。

野球が好きでもないのにメジャーリーガー自分想像したり、テレビ雑誌インタビューでロクロを回したりしているのを思い浮かべる。

無益だが、苺の先端だけ食べるように甘美だ。

だが、実際の俺たちはそもそも苺を食べられない。

食べられたとしても、そこまで甘くない部分も食べきって、食べないヘタの部分の処理も要求される。

……といった例えをクラスメートしたことがあるが、評判は非常に悪かった。

いい例えだと思うんだけどなあ。

まあ、つまり……今回したい話ってのは、この苺の先端をチラつかされたこから始まる。


…………

から数ヶ月ほど前のことだ。

その日はガイドって名乗る奴が、性懲りもなく俺の家に乗り込んできた。

「やっぱり任務を円滑に行うためには、キミに協力してもらうのがいいんだよ」

こいつは自分が遥か未来から任務のためにやって来たとのたまっている変人だ。

現地の協力者として俺が適任らしく、以前からこうやって勧誘を迫ってくる。

何の根拠があって、こいつがそんなことを言っているのかは知らない。

あと任務とやらの具体的な内容も知らない。

興味もないが。

「いや、そんなこと俺は知ったこっちゃないんだが」

当然、俺はそれをハッキリと断り続けている。

だが残念なことに、微妙意思疎通がはかれていない。

「何度も言っているが、俺はお前を根本的に信頼してねえんだよ」

「そう言うと思ったよ。だから今回はボクを信じてもらうよう、未来アイテムを持って来たんだ」

「『今回は』って、いつもそうだろ」

「いや、全然違うよ。今までのは遠まわし気味だったかなあとは思っていたんだよね。だから今回は上層部相談して、飛びっきりのをやるから

こんな感じで、こいつは俺から信頼を勝ち取るために未来科学力に頼る。

俺が信じていないのは、こいつが本当に未来からきたのだとか、そういうことじゃないんだが。

それが伝わる相手なら、今もこんな押し問答をやっているわけもない。

で、仕方がないので俺は毎回こいつの紹介するアイテムを表面上レビューしている。

そして最終的に、信頼に値しないことを納得してもらった上で、丁重にお帰りいただくということを繰り返しているわけ。

未来がなんだのという話の規模に対して、やっていることは押し売りと客の戦いのようであり、時代錯誤も甚だしい。

今回もそうなる筈だったし、そのつもりだった。

(#65-2へ続く)

2018-11-04

[] #64-7「ヴァリランキン」

有るかどうかも分からない、あったとして巧妙に隠されている可能性が高い。

二人は数字の羅列を注意深く凝視した。

どこかに異常な数字はないか矛盾点はないかを探す。

「やっぱり23話の投票数が妙に多いが、投票の総数に間違いはなさそうだな……」

「……あ!」

意外にも、それはすぐに見つかった。

事実とは、いざ蓋を開けてみれば容易いものなのである

鍵が厳重にかけられた家は、部屋の中まで防犯対策をしているとは限らない。

「ここ、ここ見てください!23話ではなく、他のエピソード投票数です!」

フォンさんの指摘する箇所を見てみる。

「8話、16話、20話の投票総数が……3日後に減っている!?

明らかに不正だと分かる数値だった。

そこから操作履歴を辿っていくと、どうやら全体の投票総数と帳尻を合わせるため、他のエピソードの票を23話に回したことが分かった。

まり決定的な証拠である

父たちは、すぐさまマツウソさんとシューゴさんのもとへ報告に向かう。


…………

不正操作があったことは確かです。まだ犯人が誰か、どういった目的かまでは解っていませんが」

「そうか、オレの予感が的中したとはいえ複雑な感じだ……」

この事実にショックを隠せないようで、マツウソさんは沈黙している。

あるとは思わなかった不正操作だけではなく、それが内部の人間可能性が高いのだから尚更だろう。

「外部から侵入された形跡がない以上、今回の件に深く関わっているスタッフ可能性が高いでしょうね」

ここから犯人探し、といきたいが一応はマツウソさんの面子もある。

これ以上はでしゃばらず、マツウソさんに任せることにした。

「まあ、それはマツウソさんに任……」

だって……第23話『こんな感じの魔法書ありませんか?』が27位なんて、おかしいじゃないか!」

「……は?」

しか観念したのか、近くにいた犯人勝手に白状を始めた。

そして、その犯人こそマツウソさんだったのだ。

父たちにとっても、これは予想外だった。

だが、これまでの言動を見れば辻褄は合う。

こちらの主張に取り合わなかったのも、不正はないと言っていたのもマツウソさんだったからだ。

「第1位とまではいかなくても、少なくとも1ケタには入っていないとおかしい!」

「ええー……」

マツウソさんの変貌ぶりに、父たちは困惑するしかない。

どうやらマツウソさん、実はヴァリオリの熱烈なファンだったようだ。

これまでのアニメ制作に口出ししなかったのも、ファンとしての彼なりのポリシーからくるものだったのだろう。

だが今回の人気投票の結果は、彼の公私を混同させるほどの作用をもたらしたらしい。

「屈指の名エピソードなのにぃ!」

「おいおい、企画私物化かよ……」

蓋を開けてみれば、事実だけではなく真実まで容易かった。

まりにもお粗末な幕引きに呆れ果てたという。


…………

「……というわけで何やかんやあって、俺たちはランキング不正を発表までに未然防げたってわけだ」

だけど、そうやって公正な結果が出たとしても大衆の反応は賛否両論

何とも報われない、ご無体な結末である

「変な感じだよ。みんなで決めたランキングなのに、みんなが納得できる結果にならないなんて」

ランキング自体そんなもんだろ。個々人がどこまで納得できるかを弄んで楽しむゲームなんだから

いくら厳正に募ったとしても、それを全ての人間が納得できるわけがない。万人が納得できるランキングなんぞ存在しないんだよ」

ランキングとは、とにかく人を惑わすものらしい。

それでも求め続ける人は後を絶たないのだから、恐ろしい話だ。

(おわり)

2018-11-03

[] #64-6「ヴァリランキン」

「おいおい、まさかそんな……」

「だけど、辻褄は合います

実のところ、シューゴさんもその可能性はチラついていた。

しかし得意先を疑うなんてことは、できればやりたくない。

互いの信用問題に関わるし、どう転んでも関係に亀裂が生じるからだ。

「実際にデータの内部まで、私たちの目で確認したほうがいいかもしれません」

それでもその可能性を口にする以上、相応の覚悟必要だった。

「……よし、オレたちで“確認”しに行こう」


…………

父たちはアポなしで、人気投票運営している会社に出向いた。

しかけてサイトの中身を見せてもらわないと、隠される猶予を与えてしまうからだ。

「え、皆さんどうしたんですか。いきなり我が社にいらして……」

人気投票結果発表に合わせて映像を作るので、そのための打ち合わせをしておこうかと」

時間はとらせないので、適当な部屋で話しましょう」

シューゴさんにはマツウソさんを引き止めておいてもらう。

「すいません、ちょっとトイレに……」

その間に、父とフォンさんは探索を始める。

「では行きましょう」

「はあ……これで何もなかったら大変なことになりますよ」

「何かあったら、それはそれで大変なことだから似たようなもんでしょう」

「だからって、よくこんなことできますよね……」

と言いつつ協力するあたり、フォンさんも大概である


そうして数分後、アクセスできる権限を持つ人間を見つけ出すと、人気投票の中身を見せてもらうよう頼んだ。

「あ、ハテアニスジオのものです。人気投票確認作業のため、データを見せてください」

「ええ? マツウソさんから話は来ていませんが」

当然、担当者は警戒してくるが有無を言わせず要求を通す。

「直に来ますよ。こちらも時間がないので先に出してもらってもよろしいですか」

資料ではなく、投票サイト内のデータをそのまま見せてください」

「はあ、分かりました……」

薄氷を渡っているのに、父たちのやり口は何とも強引だ。

にも関わらず、なぜか割れないという絶妙手際だった。

それに加え、普通なら思いついてもやらないことを当然のように選択肢に入れ、そして実行する大胆さ。

父たちは以前から似たようなことをやった経験があるのかもしれない。

こちらになります

パソコン内に大量の数字が羅列された。

運命の瞬間である

(#64-7へ続く)

2018-11-02

[] #64-5「ヴァリランキン」

しかし、運営のマツウソさんから返ってきたのは、「不正だと思われる投票の動きはなかった」というものだった。

「お願いします。もっと調べてください。明らかに23話が5位というのには、何らかの“力”が働いている」

父はもっとちゃんと調べてもらうよう打診する。

「そんなこと言われても、不正操作されればすぐに分かりますし、データ投票の流れを見れば矛盾には気づきます。それがない以上、時間無駄しかなりませんよ」

だが、それでは辻褄が合わない。

百歩譲って不正がなかったとしても、ないなりの理由はあるものだ。

作り手目線で見ても、世間の反応を見ても、23話は5位になれる理由が見つからない。

にも関わらず何の不正もなかった、の一言では済ませられなかった。


いくら他社の運営している企画とはいえ、ヴァリオリのコンテンツに変なミソはつけたくない。

父たちは原因を探し続けた。

しかし進展はないまま、結果発表が刻々と近づいていった。

このまま人気投票の結果を公表すれば、間違いなくファンによって紛争が起きてしまう。

「結局、投票サイト不正な動きがなかったってのがネックですよね……」

運営の人たちが気づかないほど高度なサイバーテロがあった、とかでしょうか」

「それこそ有り得ないだろ。やることが地味すぎるし、テロだと分からないようなテロなんてテロじゃない」

「ん……待てよ」

その会話の時、父はあることに気づいた。

「あまり考えたくないですが。もしかしたら……」

「どうした、マスダさん。まさか本気でサイバーテロだとでも思ったわけじゃないだろ?」

「もちろん違います。この不正疑惑の原因を見つけられない最大の原因は、『投票サイト不正な動きがなかった』ことです」

「それは分かってますよ。だから他に不正方法がないか調べている最中なわけでしょ?」

「そこで躓いて、思考放棄したのが問題なんです。そして他の方法模索して、解明を困難にさせていたんです。だけどネット一般人組織票をするような動きはない。秘密裏サイバーテロを起こすとも考えにくい。なら現実問題として、原因はやっぱり“そこ”なんですよ」

「何が言いたいんだ、マスダさん」

父の説明に、シューゴさんは要領を得ることができない。

「……まさか!?

しかしフォンさんは気づいたようだ。

「あ? どういうことだ?」

フォンさんは恐る恐る、その“可能性”を口にした。

人気投票運営をしている会社、そのスタッフの中に不正操作をした人間がいる、ということですか」

(#64-6へ続く)

2018-11-01

[] #64-4「ヴァリランキン」

ヴァリオリ人気投票は、あえて面倒くさい手続き要求するシステムになっている。

1人につき1回のみで、アカウントとも紐づいているので連続投票は出来ない。

もしもそれを潜り抜けたとしても、まだ関門があった。

手続きの途中では、ヴァリオリに関する様々なクイズランダムで出題されるようになっているんだ。

それに正解しなければ投票することが出来ないってわけ。

クイズファンならば簡単だがニワカには分からない、絶妙難易度になっているらしい。

投票する人間をふるいにかけることができるし、自動化などで連続投票することも防げる。

まり、よほどの工作作業でもない限り、この人気投票の結果は誠実なものであるはずなんだ。

しかし、そんなことはシューゴさんだって分かっている。

十中八九杞憂だろうとも感じていた。

それを踏まえて、そう安心できる材料が欲しいってことなんだろう。



システム上、少数名による工作作業は難しい。

ならば可能性として考えられるのは、シューゴさんも言っていた通り組織票だ。

父は、人が多く集まりやすい有名なコミュニティサイトを一通り回ってみた。

しかし、第23話『こんな感じのスクロールありませんか?』について言及された、組織票を目論むようなやり取りは見つけられない。

というより「そもそもない」と結論づけるべきか。

父はそのことをシューゴさんに伝えた。

「うーん、腑に落ちないが、オレの気のせいってことなんだろうなあ」

どこか喉に引っかかりを覚えつつも、確信があるわけではない。

とどのつまり自分たちが思っているよりも評価されているエピソードってことなのだろう。

シューゴさんは、そう納得することにした。

「いや、ちょっと待ってください」

だがその時、今度はフォンさんが“ある違和感”に気づいた。

「むしろ変じゃないですか」

「『むしろ変』とは、どういうことです?」

「その23話は、各SNSであまり話題にあがっていなかったんですよね。なのに他のエピソード差しおいて、順位は5位ってことでしょ?」

フォンさんの指摘は核心をつき、そして確信へと近づいていく。

「……ああ、そうか!」

問題にしているもの順位である以上、その正否は相対的判断すべきだ。

それを考えると、他の高順位エピソードと比べて23話だけは明らかに自然だった。

その他のエピソードは、父の回ったコミュニティサイトでもよく話題にあがっている。

5位になるようなエピソードである以上、これも話題になっているようなものでないとおかしいんだ。

「やはり“何か”あるな」

企画運営に連絡を取りますちゃんと調べてもらいましょう」

(#64-5へ続く)

2018-10-31

[] #64-3「ヴァリランキン」

「どうしました?」

「このエピソードの方のランキングなんだが、第5位が『こんな感じのスクロールありませんか?』になってる」

23話『こんな感じのスクロールありませんか?』

ヴェノラの仲間であるリ・イチが、新しい巻物を求める話だ。

しか漠然とした要求をするため、それに付き合わされるヴェノラたちは悪戦苦闘

最終的に町の住人全てを巻き込んでオススメ魔法書談義になるというコメディ回だ。

「どうしました?」

同じく会議室にいたマツウソさんが、シューゴさんに尋ねてきた。

マツウソさんは今回の人気投票企画運営をしている人だ。

「思ったより順位が低かったとか?」

「いや、高すぎるんだよ」

なぜなら視聴者目線からみれば、この回は本筋とは関係のない話だからだ。

シューゴさんたち作り手目線から見ても、スケジュールの調整も兼ねてローコストで作られたものだ。

最低限の体裁こそ調っているものの、冒険活劇をメインにしている本作においては明らかな箸休め回。

メイン視聴者層に、ことさら評価されるようなエピソードではない。

「そういわれれば、そうですね」

「少なくとも、他のエピソードをさしおいてまで、これが5位になるというのは不自然かもしれないですね」

一部のファンはこれを推すこともあるらしいが、それが高い順位であるというのには違和感があった。

シューゴさんに指摘されて、父とフォンさんもその違和感に気づいたようだ。

ただ、マツウソさんだけはそう思っていなかった。

とはいえ投票しているのはシューゴさんたちではないですからねえ。割と評価の高いエピソードなんでしょう。そう結果は物語っています

マツウソさんの所属する会社は、ヴァリオリのシーズン1時代からスポンサーだった。

そして彼はその重役であり、スタジオに大した要求をするわけでもなく制作者本位で作らせることを方針としている。

父たちにとっては、いわば上客といえる存在だ。

だが、それ故に現場に立つ人間感覚理解しきれていないところがあった。

シューゴさんたちの違和感が、個人価値観レベルの話だとしか認識していない。

作品公表された時点で作者の手元から離れるといいますしね。今回の結果も、そういうものじゃないでしょうか」

最もらしいことは言ってはいものの、その実は無理解からくる正論だ。

しかし、強く否定できるほどの確信がもてないのもあって、父たちはその日の会議粛々と終わらせた。


…………

「ん~、やっぱりおかしいよなあ」

翌日も、シューゴさんはランキングの結果を納得できずにいた。

「どこかの掲示板で、組織票を募っていたりしていないか。マスダさん、片手間でいいかネット調べといてくれねー?」

父はシューゴさんほど、この件に強い違和感は覚えていなかった。

だが、このままシューゴさんに引きずられても仕事に影響が出るかもしれない。

後顧の憂いを絶つため、父は調査を始めることにした。

(#64-4へ続く)

2018-10-30

[] #64-2「ヴァリランキン」

俺がその一件の裏事情を知ることができたのは、父がヴァリオリのアニメスタジオで働いていたからだ。

人気投票結果発表から日経った頃、父は仕事仲間を連れて家に帰ってきた。

「あ、シューゴさん、フォンさん。いらっしゃい」

「よお、長男

「どうもどうも、お邪魔します」

シューゴさんは総監督、フォンさんはプロデューサーらしい。

父はこのように仕事仲間を家に連れてくることがあり、俺は彼らから業界よもやま話をよく聞いていた。

俺にとってはアニメの内容そのものより、むしろそういう話のほうが性に合ってたんだろう。

とはいえ、なんでもかんでも安易に話してくれるわけじゃない。

部外者に踏み込んだ話をペラペラと喋るわけにもいかいからな。

それでも隙のない人間なんていないし、なければ作ってやればいいんだ。

はいシューゴさん。どうぞ」

「お、あんがと」

俺はすすんで父たちの輪に入り、酌をする。

そしてこういうとき、「お客さん用」という名目で“いい値段の酒”を開けるようにしているんだ。

酔わせて吐かせるだけならストロング系の缶チューハイとかでもいいが、良い酒で喉元を潤したほうが口元も滑らかになりやすいからな。

そうして程よく酔わせたところで、父たちが話してくれるように誘導する。

今日は集まって酒飲み……ということは仕事が一段落を終えたんですか?」

「ん……ああ、まあな。アニメ制作自体はいつも通りだったんだが、予定外の仕事が増えたからキツかったぜ」

人気投票のことです?」

「そうです、そうです。特に結果発表が控えていたときに、ハプニングが起きましたからね……」


…………

発表の一週間前、父たちは事前に集計結果を確認していた。

人気投票企画運営をしていたのはスポンサー側だったが、監修のために立ち会う必要があったからだ。

キャラクター順位は概ね予想通りですね。主人公が1位で、それに仲間たちやライバルキャラが続いて、新シーズンボスが……て感じ」

「仲間でイセカだけはちょっと下がりますけど、キャラデザ的にウケが悪いのは仕方ないので1桁に入れただけ健闘した方でしょう」

「まあ、ネット投票する奴らはそこそこ年齢いってる奴らが多いだろうしな。イセカは子どもにはもっと人気あるだろうから十分だろう」

「イセカというより、イセカの使う武器が人気あるって言ったほうがよさそうですけどね」

死神よりも、死神の鎌のほうが好き、みたいな?」

「分かりにくい例えだが、何となく分かる」

とはいえ集計は終わり、結果が決まった段階。

その内容も予想通りだったため、雰囲気は穏やかなものだった。

「ん?……なんかコレ、おかしくねえか」

しかし、その中で一人、シューゴさんだけはすぐ“違和感”に気づいた。

(#64-3へ続く)

2018-10-29

[] #64-1「ヴァリランキン」

いま最も人気のあるアニメといえば『ヴァリアブルオリジナル』、通称『ヴァリオリ』だろう。

異世界で生まれ変わった主人公が仲間たちと共に冒険をしつつ暴虐共をぶちのめす、完全オリジナル王道ファンタジーだ。

個人別にファンではないが、それでも知っているのはそれだけヴァリオリが人気だということでもある。

今回は、そんなヴァリオリの人気にまつわる話をしよう。


『ヴァリオリ』が第4シーズンクライマックスを迎えようとしていた頃だ。

とうとう四天王の一人であるスコロペンドリドを打ち倒したことで、ファンの盛り上がりは最高潮だった。

上役はこのタイミングで、ヴァリオリの人気投票企画した。

次のシーズンまで間があるため、その熱を保ちたかったのだろう。

俺にとっても、投票中のファンたちの奮闘ぶりは記憶にも新しい。

身近な観測範囲内でも、弟やバイト仲間、クラスメートなどのファンたちの眼光は鋭かったからな。

まあ、そいつから聞かされるのはもっぱらロクでもないものだったが。

「ねえ、兄貴投票してよ」

「いや、ああいうのってファンがやるべきもんだろ。何で俺がそんなことしないといけないんだ」

「一理あるけど、実際のところファンたちの“度合い”なんて誰にも決められないだろ。広い意味では兄貴だってファンとすらいえるし、そうじゃなかったとしても兄貴には投票する権利があるんだ。だったら、やるだけやっても誰も責められない」

そう言われて頑なに断れるほどの理由もないため、仕方なくテキトー投票した。

そのことを何気なくバイト仲間のオサカに話したら、やたらと詰め寄られた。

「マスダ、そういうのって正直やめてほしい。作品のことを大して好きでもない人間安易投票することを容認すれば、そいつらが寄り集まってネタ投票とかする悪ノリにも繋がりやすいわけだから

同じ作品ファンでも、言っていることが全く違う。

まあ、当然といえば当然だ。

人気投票というのは、要は個々人の価値観の寄せ集め。

理由も違えば、認識の程度も違う。

から臨み方も違ってくる。


結果が発表された後もロクでもなかった。

ランキングの結果だけどさあ、そもそも投票方法イマイチなんだよなあ。ネット投票しかなくて、しかも1人1キャラ、1エピソードまでってのはなあ」

クラスメートタイナイの場合は、こんな感じで愚痴っていた。

「そうしないと集計が大変だろう。それに組織票とかが発生するだろうし」

「そんなの対策としては意味ないって、いくらでもズルなんて出来るんだからもっとシステムレベル最適化しつつ、フェアなやり方をすべきだよ」

まあ、大した理屈じゃない。

こいつの場合ランキングの結果に納得できなかったから、過程ケチをつけることで自分の中で帳尻を合わせているだけだ。

もし自分が納得できるような結果だったら、多少の粗があっても同じような主張はしなかっただろうからな。

「他のやり方ってどういうのだ? ことわっておくが、現実問題で十分可能方法にしてくれよ」

「……もう、その断りを入れたら僕が答えられないの分かって言ってるだろ」

そんな感じで、俺にとっては大した出来事じゃあない。

だが後に、この裏で凄まじい激闘があったことを俺は知ることになる。

(#64-2へ続く)

2018-10-15

[] #63-7「イタガリアン」

サッカーにおいてファウルアピールは1つのトリックプレーである。転倒時に大げさな痛がり方をすることを批難する者もいるが、それはその選手が下手くそからだ」

ジパング代表監督言葉らしい。

その言葉体現するように、転倒時の痛がりっぷりが抜きん出ていたのがイッタ・イマージだった。

彼のサッカー選手としての実力は決して華やかとはいえなかったが、痛がり方だけは圧倒的な存在感を放ち、その様子がカメラに映されることが多かった。

それを見た他の選手たちや観客の中には「見てるこっちまで痛くなる」と、痛みを錯覚する者もいたのだとか。

その割に、彼は現役時代に一度もケガが原因で交代したことがなく、故障したことがない恵体。

そうして15年間ずっと現役で居続けた、ある意味ですごい選手だったという。

「……で、引退後は自国観光大使として隣国を巡り、今に至るというわけっすね」

カジマの説明を話半分で聞いていたが、つまり痛がりのプロってわけだな。

ボーナスチャレンジの話を聞いたときは、ローカル番組にしては大盤振る舞いだなと思ったが、そういうことか。

これを企画したヤツ、どうやら俺たちを勝たせる気は毛頭ないらしい。

いわばプロモーションの一環だ。

テーマは“フリースタイル”です。お好きな方法で痛がってください。では先攻カジマ選手、どうぞ」

全国を魅了するほどのイタガリアンに、一般人の俺たちが勝てるわけがない。

これじゃあ勝負はやる前から決まっている。

「えー……どうしよう」

さすがのカジマも、この状況に相当なプレッシャーを感じているようだ。

この状態では、ちゃんと痛がることは難しいだろう。

これ以上、恥をかかせないためにギブアップさせるべきか。

半ば諦めていた、その時。

兄貴ー!」

弟の声が聞こえたので、その方向に視線を向ける。

すると、俺の目の前に「賞金2倍」の文字が書かれたフリップが目に入った。

諦念の相が出ていた俺を見かねて、どうやら弟が書いてくれたらしい。

そして、それは俺の思考を正常に戻すには十分なものだった。

……そうだ、つけ入る余地はあるはずだ。

いくら痛がることが上手いといっても、それは元サッカー選手としての副次的能力であり必須スキルではない。

リアクション芸人みたいに痛がりのプロというわけでも、面白いわけでもないだろう。

ならば俺たちが勝負すべきは、その“面白さ”だ。

そうと決まれば、まずはカジマの調子を取り戻させよう。

「カジマ、これはチャンスだ。痛がりのプロともいえるイッタ・イマージに、お前の痛がりを見てもらえるんだぞ」

「そ……そうか! これを機にオイラスターロードが……」

カジマの頭の中で、随分と前向きな解釈が行われているようだ。

あいいや、そっちのほうが都合がいい。

「よし、じゃあ1回戦でやった木の棒、その“応用編”で行くぞ!」

「おっす!」

「じゃあ、行きまーす!」

俺は1回戦と同じように木の棒を構える。

「くたばれ!」

そして、ほぼ同じ動作で木の棒を振りぬいた。

「あ``あ``!?

脛めがけて振りぬいた木の棒は、誤って狙いより上に当たってしまう。

股間にある“第三の足”にだ。

「ああ~っと! これは痛そうだ~~!」

「~~~~っっっ、ちょっとマスダぁ~!」

カジマは俺に怒りの声をあげるが、その姿と声量は情けない。

ハハハハハッ!」

そんなハプニングに会場は盛り上がる。

当然、これはワザだ。

同じテーマが出てきた時、二回目はコレで行こうと以前から決めていた。

同じことはやればやるほど退屈になりやすい。

だが変に奇をてらおうとするくらいなら、同じことをやったほうがいいのも確かだ。

期待はそう簡単に裏切れない。

だが予想は裏切れるんだ。


「ははは……さぁ~て、ちょっとしたハプニングはありましたが、気を取り直して後攻イッタ・イマージ氏、どうぞ!」

俺たちのやれることはやった。

後はイッタ・イマージ次第だ。

俺は彼の痛がりを知らないから分からないが、いくらサッカー選手とはいえ先ほどのカジマを超えるのは難しいはず。

ダイ……ジョブ……本気で」

イッタ・イマージがつたない日本語で、痛めつけ役のスタッフと喋っている。

今回のために覚えてきたのだろうか。

大げさに痛がるサッカー選手なんてロクなもんじゃないと勝手に思っていたが、意外と真面目な人なのかもしれない。

「じゃあ、行きます!」

どうやら俺たちと同じ木の棒で行くらしい。

カジマのを見た上で、あえての真っ向勝負か。

よほど自信があるとみえるが、さすがに見くびりすぎじゃないか

「おりゃあああ!」

「~~~~~~っっっ」

しかし、見くびっていたのは俺のほうだった。

それを思い知らせるかのように、その実力を見せ付けたんだ。

「お~~! さすがのイッタ・イマージ! 貫禄の痛がりっぷり!」

イッタ・イマージはその場に崩れ落ちると、殴られた足を押さえてもがき苦しむ。

生で見ているせいもあるのかもしれないが、圧倒的な迫力だ。

まるでサッカーグラウンドがそこにあるかのように錯覚させるほどに迫真の痛がり。

会場の盛り上がりも最高潮を迎える。

エンターテイメント性という意味では、カジマの痛がり方も負けてはいない。

だが臨場感の差は歴然といわざるをえなかった。

「ねえ、あれって本当に痛いんじゃないの?」

「確かに、そう思えるほどだ」

「いや、そうじゃなくてマジもんの……」

本当にあそこまで痛がるほどなのだと、俺たちまで思ってしまった。

その時点で、自ら敗北を認めているようなものだ。

「これは文句なしでしょう……イッタ・イマージ勝利です!」

完敗だ。

俺たちに悔しがる資格はない。

こちらの小細工を、単純な地力の差でねじ伏せてきやがった。

所詮リアクション芸人の真似事でしかない俺たちでは勝てるはずもなかったんだ。

「いや~、素晴らしいイタガリアンっす」

そう言いながらカジマは、握手目当てにイッタ・イマージに近づく。

だが彼の顔を見た途端、なぜかカジマの動きが止まった。

「ん? どうしたカジマ?」

「イッタ・イマージさん……き、気絶している」

…………

後に知ったことだけど、イッタ・イマージは痛みを感じやすい体質だったらしい。

彼の痛がり方にリアリティがあるのは必然というわけだ。

俺たちがそこまで痛いと思わないレベルでも、イッタにとってはリアルに痛かったんだから

あなたたちは痛みに慣れすぎて、鈍感になってるのよ……』

少し前に母が言っていたことを思い出す。

痛みってのは、さしずめ身体から発せられる救難信号だ。

その痛みに鈍感であることは、それ自体危険だと言える。

今回の一件で、俺たちは“痛みに鈍感”であることの意味、その危険性を改めなければならなかった。

「ねえ、いまさら気づいたんすけど……」

イッタ・イマージ救急室に運ばれていくのを眺めていると、ふとカジマが呟いた。

隣国観光大使をこんな目にあわせるのって国際問題になるんじゃ……」

こいつにしては珍しい、目配りのきいた意見である

だが生憎、俺はそれに答えられるようなものを持ち合わせていない。

「……どうだろうな。まあ少なくとも、それが国際問題になると思っている人たちの間では問題になるだろうとは思うが」

「え、どういう意味? なんかの言葉遊び?」

「違ぇよ。つまり俺たちが気にしたところで仕方ないってこと」

今回、痛くも痒くもなかった俺では、そう言うのが精一杯だった。

結局、痛みを知らなきゃ本当の意味では学べないのかもしれないな。

まあ、そのためにわざわざ痛みを知りたいとも思わないが。

(おわり)

2018-10-14

[] #63-6「イタガリアン」

そんな感じで俺たちは着々と勝利を重ねていく。

そして、あっという間に決勝戦を迎える。

「優勝は……カジマ選手!」

「うおおぉぉっ! やったっすー!」

そして優勝を決めた。

……随分な話の端折り方をしてしまったが、これには理由がある。

そもそも俺の計算では、優勝は予定調和に近いものだった。

まず地元一般人のみ参加という制約上、レベルがそこまで高くない。

俺の観測範囲内ではあるが、地元でこの番組に参加するような人間でイタガリアンの適正がある奴はほぼいないんだ。

だが、その中でもカジマは適正がそれなりにある人間だったと確信していた。

前も言ったが、こいつは自己顕示欲が強い。

まり目立ちたがりの素養を持っている。

一般人テレビになんて出たら大抵は緊張してしまい、普段パフォーマンスを発揮することは難しくなるだろう。

だが、カジマは「目立てる」という感覚を優先させるのでリアクションを躊躇しない。

それでも多少はプレッシャーを感じていると思うが、程よい緊張感はパフォーマンスをむしろ向上させる。

特にこの日のカジマは、プロアスリートでも珍しいと思えるほどに絶妙なコンディションだった。

更に身も蓋もないことをいうと、カジマは“絵になる容姿”を持っているのが何より大きい。

そんな奴がリアクション芸人さながらの痛がりっぷりを見せるのだからウケるに決まっている。

目立ち方の良し悪しを上手く判断できないのが弱点ではあったが、それは俺が手綱を握ればいい。

そして計算どおり、見事カジマはそれに応えてくれたってわけだ。


「さあ、今回から優勝者にはボーナスチャレンジ権利が与えられます!」

「何だよそれ、聞いてないぞ」

しかし、何事も計算どおりにはいかないものだ。

それが自分の落ち度ではなく、あずかり知らぬところで起きたことなら尚更である

スペシャルゲストと対戦していただき、買った場合はなんと賞金が倍!」

如何にも番組的な都合で捻じ込まれたような、思いつきの要素だ。

だが俺にとって嬉しい誤算ではあった。

これで山分けしてもかなりの金が手に入るぞ。

「加えて次回のイタガリアンにレジェンド枠として参戦もできます!」

と思ったが、やはりやめたほうがよさそうだ。

賞金が倍になるのは魅力的だが、次回もまた参戦しなきゃいけなくなったら憂鬱だ。

「あの、このボーナスチャレンジって絶対やらないとダメですか?」

「え……ああ、別にここで負けたとしても賞金が没収になったりとかはしませんよ」

「いや、そうじゃなくて、ボーナスチャレンジのものをやりたくないって意味なんですが」

「……えー」

俺はそう司会者に尋ねるが、あまりにも予想外の質問だったらしくて困った反応をしている。

まあ、そりゃそうだ。

そもそもこの番組に出て優勝するような人間が、このボーナスチャレンジを断る理由はないからだ。

俺の参加動機が不純なのが悪い。

それに出場選手あくまでカジマだ。

「いやいや、もちろんオイラはやりますよ!」

こいつがやる気な以上、いずれにしろ俺に拒否権はない。

観念して最後まで付き合おう。

賞金が増えるなら結構なことだし、次回の参戦権は俺だけ辞退すればいいだろう。


「さあ、今回のボーナスチャレンジで戦うスペシャルゲストはこの方でーす!」

司会者がそう告げると、会場の正面にある扉から煙が吹き上がった。

ちゃちな空砲の音と同時に、扉が開かれる。

そこからスペシャルゲストが登場した。

ジパング独立国観光大使、イッタ・イマージさんです!」

いや、誰だよ。

ローカル番組にそんな大層な有名人が来るなんて期待していないが、変にハードルを上げておいてこれは……

「ええ~!? イッタ・イマージじゃん!」

まさかイタガリアンに出てくれるなんて、あまりにも予想外!」

しかし会場は彼の登場に大盛り上がり。

まさか、俺が知らないだけなのか。

「なあ、あいつってそんなに有名人?」

「マスダ、知らないの? ネットでも一時期ミーム化した人なのに」

正直、カジマのいうネットミームは、かなり限定された範囲での話なことが多いか鵜呑みにできない。

だが、他の人の興奮ぶりを見る限り、実際に有名な人物のようだ。

そいつは何でそこまで有名なんだ?」

「元サッカー選手だよ! ジパング独立国代表だったんだ」

なるほど、サッカー選手だったのか。

サッカーにあまり関心のない俺が知らなかったのはそのせいだ。

しかし、あの国ってサッカーがそんなに強いわけでもないし、そこまで熱狂的なイメージもなかったと思うが。

その国の元サッカー選手が何でそんなに有名なんだ。

(#63-7へ続く)

2018-10-13

[] #63-5「イタガリアン」

いよいよ本番だが、さてどうしたものか。

渡された木の棒は野球バットほどの太さと長さがあるが、持ってみると予想外に軽くて柔い。

これだと殴ってもそこまで痛くないな。

「どこを殴る?」

出来る限り唇を動かさないようにして、カジマにそう尋ねた。

主役は痛がる方だとはいえ、俺も下手なことは出来ない。

攻撃が痛そうでなければ、いくらリアクションが良くても薄っぺらくなる。

「ここは王道でいこう。脛をバットフルスイングで」

カジマはそう言ってニュートラルに立つ。

いきなり直球勝負か。

リアクションによほど自信がなければ出てこない提案だ。

よし、やってやろう。

カジマを信頼し、小さく頷いて見せた。

「行きまーす!」

そう宣言をして、俺はパワーヒッターのような独特の構えをする。

当然これはハッタリだ。

全力で振りかぶることをアピールをする以上の意味は持たない。

「くたばれ!」

「がっ……!?

振りぬかれた木の棒は見事、カジマの脛にクリーンヒットした。

直立だったのもあり、両方の脛に当てることができた。

「あ``あ``あ``あ``~っ」

ダミ声を発しながら、カジマはその場に崩れ落ちる。

「お~っと、これは素晴らしい痛がりです! カジマ選手悲鳴が、観客たちの笑い声に負けていません!」

その完璧動作に、審査員も観客も魅了された。

痛めつけ役の俺ですら、分かっていたにも関わらず感心するほどだ。

カジマの実力を改めて痛感した。


「いや~、いきなりレベルの高いイタガリアンが出てきましたね。これはシロクロ選手やりにくいでしょうね~」

そしてシロクロの番がまわってくる。

ほぼ勝負は決まったようなものだが、まだ油断は出来ない。

なにせシロクロは性格上、プレッシャーなんてものとは無縁のヤツだ。

しか人間とは思えないほど丈夫な体を持っている。

多少の無茶は可能だろう。

「シロクロ、どこに攻撃すればいい? 相手と同じ場所だと分が悪そうだけど……」

「ヘッドバッティング! ヘドバン! ヘドバン!」

シロクロはそう言いながらガイドに頭を小突いて見せた。

なるほど頭か。

シロクロにしては考えたな。

カジマのターンで、木の棒の柔さに観客たちは気づいている。

だが頭なら衝撃が伝わることで痛さを演出できるだろう。

「じゃあ、行くよ~……そらっ!」

まるで剣道の面打ちように、ガイドはシロクロの頭に木の棒を当てた。

これはガイドの痛めつけ方が悪い。

そこは大根切りのように振りぬくべきだ。

「……効かぬぅ!」

そんな哀れな攻撃を受けて、シロクロはリアクション拒否した。

「おーっと、シロクロ選手。どうやら痛くないようです!」

「ええ!? シロクロ、痛がらないとダメじゃないか

ゲーム趣旨理解していないシロクロの反応に、ガイドは戸惑う。

「何で痛くないのに痛がらないとダメなんだ?」

それに対しシロクロは、番組趣旨のもの否定するようなことを言っている。

だが、この「痛くない」宣言、実はゲーム的に正しい。

この『イタガリアン』ではリアクション自分の中で納得できなかった場合に、痛くないことを宣言することで一度だけやり直しが可能となっている。

ガイドの痛めつけ方が半端なのは明らかだったので、ここでの「痛くない」宣言妥当だ。

意外とシロクロのやつ、このゲーム理解しているぞ。

「では改めてシロクロ選手のイタガリアン、どうぞ!」

だが俺たちが有利であることは何ら変わらない。

先ほどの攻撃を痛くないと言ってしまった以上、ガイドはあれよりも明らかに痛そうな攻撃をしないといけないからだ。

俺が先ほど推奨していた大根切りですら不十分だろう。

もっとだ! オレを殺すつもりで来い」

「いや、そんなことしたらダメだろ」

「オレは最強の男だ! 殺しても死なない!」

「もう、わかったよ……まずこのアーティファクトで木の棒を堅く。そして次にボクの身体能力を……」

どうやらガイドのやつ、自分たちの世界アイテムを使って強化を施しているようだ。

何だかインチキくさいが、物申すのも話がこじれそうなので黙って見ているしかない。

「頭はさすがにマズいから、肩から行くよ……でやあ!」

シロクロの肩めがけて棒が振りぬかれた。

バギャッァウ!

俺の知っている、あの柔い木の棒とは思えないほどの音が鳴り響いた。

「うぉっ!」

棒は半分に折れてしまい、その破片がこちらにまで飛んできた。

絵としてのインパクトは抜群だ。

しかし、それでも俺たちの勝利は確定した。

「あ~っと! なんとシロクロ選手が流血! ケガをしてしまうほどの攻撃は失格となります

仮にもこれは大衆向けの番組だ。

観客がヒいてしまうようなことは厳禁なのである

「ああ、やりすぎてしまった……シロクロが丈夫すぎるから、加減の仕方が分からないんだよ」

「なぜだ、全然痛くないぞ?」

そしてシロクロが痩せ我慢じみた負け惜しみを言っている。

「オレはまだ倒れていないぞ!」

いや、アレは単にゲームルール理解していないだけだな。

「……なんか、本気でリアクションしたオイラ馬鹿みたいなんすけど」

安心しろ

こんなことやってる時点で、いずれにしろ馬鹿みたいであることには変わらないから。

(#63-6へ続く)

2018-10-12

[] #63-4「イタガリアン」

第一回戦は早速、俺たちの出番だ。

ウォーミングアップを始める俺たちのもとに、見学に来ていた母は心配の声をかける。

あなたたち本当にやるつもり?」

「ここまできて『やっぱりやめる』って選択はないよ。だったら最初からやるなって話になるからね」

俺と同じく、母もこの番組面白いと思っている人間ではなかった。

だが、俺みたいな漠然としたものではなく、一応の“背景”があるから嫌悪感を露にしているのだと思う。

「“痛み”をエンターテイメントにするなんて低俗だし、それを楽しむのは不健全じゃないかしら……」

エンターテイメント自体、どこかが低俗で不健全なもんだよ」

同じく見学に来ていた弟が母をなだめる。

弟は『イタガリアン』のファンで、俺が参加するとなったときも大層喜んだ。

今回の件で一番盛り上がっているのが、傍観者の弟ってのも妙な話である

「諦めなって母さん。残念だけど、母さんみたいな繊細な人間相手にこの番組は作られていないし、そんな義務もないんだからさ」

あなたたちは痛みに慣れすぎて、鈍感になってるのよ……」

母が言うと中々に重みのある言葉だ。

と同時に空虚さも感じる。

母の体は機械で出来ているからだ。

昔は人間の体のほうが多く比率を占めていたが、今では脳と心臓のみ。

まり母は“痛み”に鈍感ですらなく、今では感じることすらできないわけだ。

からこそ、自分が感じることができないものに対して慎重にモノを考えようとしているのかもしれない。

ましてや息子がそんなものに参加するのだから尚更だろう。

まあ、実際のところどうかは知らないし、知ったところで俺がどうこうするってわけでもないんだが。

安心しろって。痛い思いをするのは俺じゃなくて、出場者のカジマのほうだからさ」

「そうそう」

「いや、それはそれでどうかと思うんだけど……」


…………

「第1回戦、カジマ選手、対シロクロ選手のイタガリアンです」

そして第1回戦が始まる。

相手はシロクロ、痛めつけ役はガイドだ。

地元から参加者を募るから分かってはいたが、いきなり知り合いとの戦いである。

「お前ら、何で出場したの」

生憎、キミたちに説明できる言葉を持ち合わせていない」

ぶっきらぼうガイドがそう答えた。

「オレはシロクロ! 最強の男!」

シロクロはそう言ってボディビルダーみたいなポージングをした。

どうやら大した理由ではないらしい。

恐らくシロクロの突発的な行動で、ガイドはそれに巻き込まれたってところだろう。

「さて、今回は“木の棒”です」

司会者がそう言うと、痛めつけ役の俺とガイドに棒が渡された。

「出場者の方々は理解しているでしょうが視聴者の方へ向けてルールを改めて説明をさせていただきます……」

数分かけて、司会者が丁寧すぎる説明を始めるが、ぶっちゃけ大したルールはない。

要はテーマ毎に決められた方法で痛めつけ、出場者はそれにいい感じのリアクションをすればいいだけだ。

それを3人の審査員、観戦に来た視聴者支持率勝敗を決める。

こうやってルール確認してみても、やっぱりこれゲームとして粗末すぎるな。

ルールを複雑化したら大衆ウケが悪くなるとはいえ、これだとテキトーすぎないか

人狼でも、もっとちゃんとしているぞ。

「それでは先攻、カジマ選手からどうぞ!」

(#63-5へ続く)

2018-10-11

[] #63-3「イタガリアン」

「オイラとしては出場したい気持ち強いんだけど、参加条件を満たせなくて……」

なるほど、あの優柔不断な態度の裏にはそういう理由があったか

「参加します」とのたまっておいて「参加できませんでした」では格好つかないからな。

いかにもカジマの考えそうな自己保身だ。

それにしても、あの番組の参加条件ってそんなに厳しかっただろうか。

それなりに健康で、年齢基準さえ満たしていれば参加できたはずだが。

「条件って、何がダメなんだ」

アシスタントパートナーがいるんす。出場者を痛めつけるための」

なんだそりゃ。

「今までそんなレギュレーションなんてなかったと思うが」

番組スタッフ一般人参加者を痛めつける行為はどうか、ってクレームが出てきたらしくて」

から痛めつける役も任意参加者から募る方式にした、ってことか。

ローカル番組でもそういう目配せをしなきゃいけないんだなあ。

……いや待てよ。

パートナーか。

「よし、分かった。俺がお前を痛めつけてやろう」

俺は演技派ではないし、痛いのも好きではないから乗り気じゃなかったが“そっち”ならアリかもしれない。

番組花形は痛がる方なのだから大してカメラに映らないだろう。

そして俺自身は痛くも痒くもない。

賞金を山分けすることを考慮しても、それならやってもいいと思えた。

「ええ~、マスダがあ?」

カジマが白々しい反応をする。

こういう無駄なやり取りを挟むのは嫌いってわけじゃないが、やらなくていいと思っている時までしてくるのは正直なところ癪だ。

「俺がそう切り出すことを期待したから、そんな話をしたんだろう」

「まあ、そうっちゃあ、そうなんすけど……マスダが痛めつけるのかあ……」


…………

こうしてカジマは『イタガリアン』への出場を決め、俺はそのパートナーとして出るってわけだ。

「参加しない」と言っておいて、実質的に参加していることに少し疑問を持たなくもなかったが、それは賞金の前では気にすることではない。

カウントダウン、3、3、2、2……」

「あー、なんだかんだいって緊張するっすねえ~」

収録が近づく中、カジマが俺にだけ聴こえるようにそう呟く。

なんとも中身のない、月並み言葉だ。

しかしそれを言えるってことは、カジマのコンディションは万全であることを意味する。

優勝は貰ったな。

「さあ、今回も人気コーナー『イタガリアン』のお時間が始まりました~」

司会のコールとともに、いよいよ収録が始まった。

すぐさま流れるように出場選手の紹介が始まる。

俺はカジマの影に立つようにして、カメラに極力映らないように、印象が残らないように努める。

どうせここら辺のくだりはダイジェスト流れるだけだろうとは思うが。

(#63-4へ続く)

2018-10-10

[] #63-2「イタガリアン」

収録の当日、俺はロケ場所に赴いてた。

この番組では賞金が出る。

俺の給料およそ1ヵ月分。

破格ではないが、俺にとっては大金だ。

というわけで『ライトクイズ』のときのように俺は参加……

しなかった。

理由は色々とある

まず、優勝を狙える気がしない。

結局、参加者がやることはリアクション芸人の真似事だ。

本職ならともかく、善良な一般市民しかない俺がそんなことをやるのは無理だ。

更に、そんな姿をテレビで流されるのもキツい。

金は俺にとって優先順位が高いのは確かだが、恥と外聞が天秤に乗っているんじゃあ分が悪すぎる。

後は、さっきも言ったが俺はこの番組をそこまで面白いと思っていない。

優勝を狙える気がしない上、賞金が恥と外聞に対して少なく、更に番組の参加を楽しめないというのなら、もはや俺が参加する理由がない。

じゃあ、なんでロケ場所に来ているのか、と思うだろう。

それは俺が賞金そのものは諦めていなかったからだ。


…………

数日前に話はさかのぼる。

街中を友人と連れ立っていたのだが、『イタガリアン』の番組ポスターがやたらと目につく。

これは俺が内心では気にしすぎていたせいもあるだろうけど、実際ポスターがいたるところに貼られていた。

まあ、人気番組がくるのだから町おこしにもなるし、、ちょっとした騒ぎになるのは当然だ。

だが、俺みたいな人間にとって、ちょっとした迷惑にもなるのも当然ではある。

この時、俺は既に『イタガリアン』の出場を断念していた。

だが、街中に貼られている番組ポスター(厳密には賞金の額)が視界に入る度に気持ちを燻らせるんだ。

我ながら未練がましい。

もう参加しないことは決めているのだから、俺のこの燻りは無いものねだりでしかないというのに。

「あー、『イタガリアン』の参加どうしようっかなあ」

そう呟いたのは、一緒にいた友人のカジマだ。

まあ、カジマならそう言ってくるだろうとは思った。

こいつは友人の中でも特に自己顕示欲が強く、その欲求を優先して行動しがちなキラいがある。

そして大抵の場合、それは良い結果を生まないことが多い。

「悩むくらいならやめたほうがいいんじゃないか?」

俺はそう返した。

まるで自分に言い聞かせるように。

「でもなあ」

「じゃあ、参加したらどうだ?」

「うーん」

カジマの反応はどっちつかずだ。

これも予想通り。

カジマは大して心にもないことを言ったりやったりすることに快感を覚えたり、更にはそれで他人の反応を窺いたがる悪癖がある。

今のこいつの優柔不断な態度は心から悩んでいるからではなく、ただのコミニケーションの一環ってわけだ。

まあ、いつものことである

この程度で、こいつとの友人関係に亀裂は入らない。

だが、その日の俺は番宣の件もあってウンザリしていたんだ。

さっさと家に帰ろうと考えていた。

「ならこの話はもう終わりだな。暇だからこうやって町を歩いてはいるが、不毛応酬をするほど持て余してはいない」

俺はそう言って、カジマを引き離すように歩みを速める。

「ちょ、ちょっと待ってマスダ! タンマタンマっす」

それで焦ったようで、カジマはすぐに俺に追いつくと話を次に進めた。

(#63-3へ続く)

2018-10-09

[] #63-1「イタガリアン」

信号無視して道を渡ったことはあるだろうか。

実際はどうあれ、パブリックな場ではノーと答えるのを俺たちは知っている。

そして、その答えが欺瞞であると反射的に思える程度には容認された、ありふれた光景であることも。

利己的に考えるなら、車にぶつからないと分かりきっている状態でも立ち止まるのは、実質的時間無駄からだ。

だが、その“車にぶつからないと分かりきっている状態”、その認識を俺たちは共有できているのだろうか。

……なんて話をしていると、今回は交通に関する話かと思うかもしれないが、生憎ハズレだ。

信号信号でも、それは俺たちの身体にあるもの

“痛み”だ。


…………

俺たちの地元には、人気のローカル番組がある。

少し前までは『ライトクイズ』っていう企画が目玉だった。

如何に簡単クイズを出題できるかで競うんだが、参加者たちの分析によって攻略法が編み出されていくと内容がマンネリ化。

それを避けるためにルールを複雑にしていくが、そのせいで大半の視聴者はついていけなくなった。

結局『ライトクイズ』は一年ほどでなくなり、番組側は新たな企画を作る必要に迫られる。

まずは『命の洗濯屋』という企画で、「疲れている人に様々な気晴らし方法提供する」という趣旨だった。

だが、その実は無名芸能人一般人による観光番組の延長でしかなく、明らかな低予算感も相まって打ち切り

もっと個性的な、誰もがやらない企画が求められた。

そこで次に出たのが『あえての粗探し』という、賞賛の声が多い作品に対して批判点もあげていこうという企画

他の番組ほとんど取り上げないようなレビューが見れるとして、これは割と好評だった。

だがある日、作品ファンによる抗議活動が行われ、その番組ファンとの間で争いが発生。

それが刑事事件にまで発展してしまい、番組は「不毛対立煽り助長した」として、已む無く打ち切りとなる。


その後は色々と迷走をするが、それを止めたのは『ライトクイズ』での成功体験だった。

「やはり一般人参加型のゲーム企画こそ花形

そうして出来たのが『イタガリアン』。

要はリアクション芸人がやっているようなことを、ゲーム形式一般人もやってみようという企画だ。

これが見事に当たった。

ライトクイズ』での反省も踏まえてルールシンプルにし、審査基準もあえてユルくすることで間口を広げた。

リアクション芸人たちのような体験が出来ることで番組は大盛り上がり。

更には、これがきっかけで俳優デビューする人まで出てきたことで一躍、有名企画となった。

ここまで話しといてナンだが、俺は正直この番組をそこまで面白いとは思っていない。

同級生の一部で盛り上がっているので、情報として知っているだけ。

じゃあ、俺はなんでこんな話をしたのか。

それは今回、その番組ロケ場所として、俺たちの住む町を選んだからだ。

(#63-2へ続く)

2018-09-22

[] #62-7「アノニマン」

次に俺は片方だけ足を上げ、クルリと回ってみせる。

「な、なんて機敏な!? まるで自分の足のように動いているぞ!」

緊張は解けていないが、練習したとおりに身体が動いてくれる。

『鍛錬は心を包み込む』

アノニマンの教訓その6の通りだった。

「弟くんに、あんな特技があっただなんて……」

「いや、練習したんだろうさ……俺たちの知らないところで」

俺は次々とカンポックリで軽快な動きを披露していく。

そうして一通り動きを見せていく頃には、俺はすっかり調子を取り戻していた。

今なら大技もできるという確信を持てるほどに。

「よし、次だ!」

俺は目の前にある階段を勢いよく駆け上る。

「あのスピード階段!?

その勢いを殺さず、次は駆け降りてみせる。

「マジかよ!? 技術だけじゃなくて、勇気がなきゃあんなの出来ないぞ」

「これで最後だ!」

最後の一段、俺は大きく跳んだ。

そしてバランスを崩さず、綺麗に着地する。

当然、ここまでの間、俺の足はカンポックリから一度も離れていない。

完全に一体化していた。

「うおおお!」

「すごいな! いつの間にあんなことが出来るようになったんだ」

みんなが俺のもとに駆け寄ってくる。

兄貴含めて、みんな心から称えてくれているようだった。

カンポックリで感心してくれるか不安だったけど、杞憂だったようだ。

アノニマンの教訓その10、『スゴイことに貴賎はない』ってことなんだろう。

間違いなく俺はここにいる。

そのときから、そう思えたんだ。


…………

「なるほど、マスダの積極的性格は、その時に出来たわけだ」

「それが今のマスダを形作ったルーツってわけね」

「あれ? でも今はカンポックリやってなくない?」

「そりゃあ学童に行かなくなってからは、わざわざそれをやる理由がなくなったからな。でも、あの時の経験無駄になったわけじゃない」

俺はそれからも、様々な場所自分表現することが自然に出来るようになった。

かに熱中して、上達する喜びも知ったんだ。

「へえ~、イイ話だねえ」

「いや、それそんなにイイ話じゃねえって」

同じ部屋にいた兄貴が水指すことを言ってくる。

兄貴はこの話を何度も聞かされていたので、ウンザリしていたんだろう。

アノニマ自体、昔の特撮ヒーローの真似事だったし」

「野暮ったいこと言うなよ兄貴

「え、どういうこと?」

兄貴の言うとおり、アノニマンというのは昔の特撮ヒーローが基となっている。

その映像を見たことがあるけど、見た目、言動といい、確かにそっくりだった。

彼はそれに強く影響されていたってことなんだろう。

それは、しばらく後になって分かったことだけど、別にショックじゃなかった。

そいつはこのアノニマンを真似ていただけ。ただのゴッコ遊びだったんだよ」

兄貴はああ言って茶化すが、そんなことは重要じゃないからだ。

「そんなの関係いね。俺と手を握ったのは“あのアノニマン”なんだ」

アノニマンの教訓その11、『私が尊敬されるような人間かどうかは関係ない、キミが私を尊敬できるかどうかが大事』。

それへの答えは決して変わらない。

「だったら、せめてその話は周りにはするなよ。お前はともかく、そいつにとっては黒歴史っつう可能性もあるんだからな」

「それっぽい理由を盾にしてケチつけんなよ。俺とアノニマンのことについて何も知らなかったくせに」

「……まあ正体なんて誰にも分からないだろうし、大丈夫……か」

====

エンディングテーマ:「アノニマンは俺だ俺だ俺だ」

歌:学童合唱団 作詞:川・広範囲 作曲小川・広すぎ

どこかで惨めに 泣く人あれば

横槍気味に やってきて

啓発じみた 教訓で

しっかりしろよと 叱咤する

好き嫌いは 分かれるけれど

自愛の心は 本物だ

アノニマンは 誰でしょう

アノニマンは 誰でしょう

(おわり)

2018-09-21

[] #62-6「アノニマン」

うろたえた俺は、あわてて彼を引き止めようとした。

「そ、そうだ、明日も見に来てよ。アノニマンがいないと不安で失敗しちゃうかも……」

だけど、そういった無意義な行為は彼が最も嫌うことだ。

アノニマンの教訓その15! 『頼れるときは頼れ、ただし甘えるな』!」

いつも芝居がかっていた声の調子が崩れるほどに、アノニマンは俺を怒鳴りつけた。

「キミはいつまでも、そうやって誰かに甘えて生きるつもりか? 母親がいなければ父親父親がいなければ兄か? 次は私か? そうしないと君は何もやらないのか? できないのか!?

だけど、その声に怒りのような感情はない。

『私はキミの親ではない』と言いながら、まるで親が子供に言って聞かせるように俺を叱りつけたんだ。

「キミには自分で考える頭と、自分で動かせる身体がある。そうしてキミは“ソレ”を選んだ。ならば私がいようがいまいが、やるべきことは変わらないはずだ」

「……うん、今まで、ありがとう

そう返すしかなかった。

もっと駄々をこねて引き止めることもできたかもしれない。

だけど、彼はいずれにしろ去っていくだろう。

なにより、そこまでして彼を困らせたくなかった。

さらばだ、少年よ。他にも、どこかで泣いている子供がきっといる。助けを求めていなくても助けなければ!」

そう言ってアノニマンは、いつものようにマントを翻しつつ俺の前から去っていった。


…………

そうして翌日。

俺がみんなの前で“成果”を見せる時だ。

「とりあえず広場に来いって言われたから来たけど、何が始まるんだ」

「知らねーよ。弟が『見せたいものがある』っていうからさ」

みんなが俺を見ていた。

今まで味わったことがないようなプレッシャーが押し寄せ、体が上手く動かない。

なにせ自分意志で人を集め、改まってこんなことをするのは始めてだったからだ。

どういう結果になるにしろ、その功罪は全て俺に降りかかる。

「おい、早くしろよ」

兄貴が急かしてくる。

みんなを呼んでくるよう頼んだから集めてくれたのに、俺は何もしないのだから当たり前だ。

何もしない人間を見ていられるほど、みんなは辛抱強くない。

別の日にしよう、という考えが何度もよぎった。

その度に俺はそれを振りほどく。

この日やらなかったら、一生できない気がしたからだ。

アノニマンの教訓その7、『やり続けた者の挫折こそ、挫折と呼べる』。

俺はまだ挫折の「ざ」の字すら見ていないし、やめる理由がない。

意を決し、俺はカバンの中から“ソレ”を取り出した。

「あれは……カンポックリ!」

「なにそれ?」

「えーと、つまり缶に紐を通して作ったゲタみたいなモンだよ」

「ふーん、それで何をするつもりなんだ、あいつ……」

俺は缶に足を乗せると、手で紐を真上に思いっきり引っ張る。

そうすると、自分気持ちも引き締まったような気がした。

「よし、いくぞ!」

俺はカンポックリで走り出した。

「うおっ、はやっ!?

それはまさに“走っている”と表現していいほどの速さだった。

「すごいな、しかも桃缶とかじゃなく、小さいコーヒー缶であそこまで……」

(#62-7へ続く)

2018-09-20

[] #62-5「アノニマン」

「さて、次のステップはその“頑張れること”を何にするかだ。もちろん好きなもの方が良い。アノニマンの教訓ではないが、『好きこそ物の上手なれ』という名セリフがあるからな」

「うーん……コンピューターゲームはよくやるけど」

「それは施設内にないだろう。あそこにある中で、可能ものを選ぶがよい」

そうは言っても、今まで手をつけてこなかったものだ。

興味が湧かないし、やってどうこうできるイメージも湧かなかった。

そこでアノニマンはまたも道を示してくれた。

「ならば、まずは施設内にある遊具を一通り嗜むのだ。そして、その中から“得意なこと”を見つけだせ」

「“得意なこと”……?」

アノニマンの教訓その4、『得意と努力家族ではない。しかし隣人ではある』。得意なものほど熱中しやすく、頑張ることは苦になりにくいのだ」


こうして俺は無作為に、色んな遊びに手を出してみた。

最初は気乗りしなかったけど、どれも遊んでみると意外な魅力を感じるものが多い。

アノニマンがいないときも、いつも何かで遊ぶことが増えたんだ。

「あ、弟くん。今日ケンダマかい

そんな俺の様子を見て、学童の皆もよく話しかけてくるようになった。

「うん……でも大皿にすら乗せられない」

「ああ、それは持ち方と構えが……」

徐々にだけど、俺も自分意見を言えるようになり、マトモなコミュニケーションをとれるようになっていく。

その時は気づいてなかったけど、俺は既に自分なりの居場所を手に入れつつあった。

得意なことも頑張れることもまだ分からなかったけど、多分それも考えた上でアノニマンは俺に色々やらせたんだと思う。


そうして一週間後。

俺はその日もアノニマンに成果を報告していた。

「……というわけで、どれもそこそこ出来るようになったけど、やっぱり俺は“コレ”にしようと思う」

「なるほど。“ソレ”は学童内でちゃんとやっている子もいないからな。個性を見せるという点でも良いチョイスだ」

アノニマンも最初の頃のような説教じみたことを言うことが減って、その代わりに俺を褒めてくれることが増えた。

「それに“コレ”で遊んでいる姿は、皆にはまだ見せたことがないんだ。今日はしっかり仕上げて、明日ビックリさせてやる」

「ふむ……では、もう私の助けも必要なさそうだな」

俺はその時、かなり充実感があった。

から油断してしまったんだと思う。

いや、忘れているフリをして、考えないようにしていたのかも。

アノニマンが何のために道を示したのかを。

「そんな……」

「『道は示す』と言った。そして『通るかはキミ次第』とも言ったはずだ。通れる道が見えているのに、移動まで私にやらせるつもりか?」

分かってはいたんだ。

アノニマンは道を示し、そこをどう歩けばいいか教えてくれた。

俺がその道を通れるようになった時点で、アノニマンの仕事は終わる。

それがこの時だった。

(#62-6へ続く)

2018-09-19

[] #62-4「アノニマン」

そして翌日。

まずアノニマンは、俺にその“道”がどういったものかを教えてくれた。

アノニマンの教訓その1、“居場所とは社会の縮図”である! その中で自分の居場所を見つけるためには、とどのつまり社会の一員になること。仲間になればいい!」

「どうすれば仲間になれるの?」

「少しは自分で考えろ!……と言いたいところだが、この段階で勿体つけても時間無駄なので答えてあげよう。せっかちな私に感謝したまえ」

「……ありがとう

「いいぞ、その調子だ。アノニマンの教訓その2、“感謝とは言動で示したとき、初めて感謝となる”のだ」

「その教訓、いま考えてない?」

アノニマンは偉そうで、強引だった。

だけど、あの頃の俺にとってはそれ位が丁度良かったのかもしれない。

彼の講釈を俺はいつも真面目に聞いていた。

「何度も言おう、私はせっかちだ。だから理屈はクドくとも、答えはシンプルにいく。キミは“一目置かれる”存在になれ!」

「それって……どういうこと?」

「例えばキミと同じ学童のウサク。彼はある日、学校の朝礼にて校長カツラを剥ぎ取った」

その場には俺もいたのでよく覚えている。

かにあれは衝撃だった。

「ウサクは後にこう語った。『ありのままの姿を隠すことは、否定することに繋がる。学園の長がそんなことでは教育以上よくない』……と。この主張の是非はともかく、それで彼が一目置かれる存在になったことは間違いない」

「ということは、俺も校長カツラを取ればいいってこと?」

「キミは応用力がなさすぎるな。今のはあくまで一例。他人のやり方を形だけ真似ても、ただ悪目立ちするだけだ」

「じゃあ、何のために今の例えを出したの?」

「ほんとキミは疑問系ばかりだな……あの話から学ぶべきこと、それは“個性を認めてもらう”ってことだ」

個性……。

アノニマンの言うことは理解できたけど、どうすればいいかはまだ分からない。

だって自分個性なんて、ちゃんと考えたことがなかったからだ。

「俺の……」

「みなまで言うな。自分個性が何なのか分からないのだろう。だが、それは大したことじゃない」

だけどアノニマンはそれを察した上で、その不安を一蹴してくれた。

アノニマンの教訓その3、“個性とは自称するものではない”。『自分はこういう人間から』と吹聴する人間はロクでもないからな」

アノニマンも似たようなことやってるような気がしたけど、そこはツッコまないようにした。

「だったら、どうするの? 自分個性が分からないのに、認めてもらうことって出来るの?」

「先ほどしたウサクの話を思い出してみろ。」

かにそうだ。

彼は個性自称たから認められたわけじゃない。

「他の人のことも思い浮かべてみろ。そしたら自ずと見えてくるはず」

他の人……。

その時に俺が真っ先に思い出したのは、今日兄貴のことだった。

「俺の兄貴なんだけど…コマ回しをやってた。難しそうな技が出来て、周りも驚いていた。本人も得意気で……」

「……そうか。どうやら“道”が見えてきたようだな」

「何か頑張れることを見つける……ってのはどう?」

俺がそう言うと、アノニマンは俺の背中を力強く叩いた。

「よかろう! では、次のステップだ!」

アノニマンの仮面しから、調子の良い声が聞こえる。

俺が自分で答えることができて、たぶん喜んでいたんだと思う。

話がそこまで進展したってわけでもないし、ましてや俺の問題なのに。

それでも自分のことのように喜んでいる様子を見て、俺はこの人に頼って良かったと思った。

(#62-5へ続く)

2018-09-18

[] #62-3「アノニマン」

少年よ、なぜこんなところで一人、泣いているのだ。助けは必要か?」

「な、泣いてないよ」

「ふぅん、強がる程度の気概はあるか。結構、血行、雨天決行!」

アノニマンの第一印象は、お世辞にも良いとは言えなかった。

大げさで意味不明言い回しで、初対面の子相手にズカズカと土足で入ってくるイラつく奴だ。

しかも見た目もカッコよくない。

身体全体を覆うマントは薄い布切れ。

顔に取り付けられた仮面は明らかに紙で出来ていて、声をくぐもらせている。

見た目は手作り感に溢れ安っぽく、飾ってはいるけど飾りきれていない感じ。

体格は俺より大きいけれど、一般的大人ほどではなかったと思う。

なんというか、子供ヒーローごっこみたいだった。

ただ、そのゴッコ遊びの延長みたいな風貌が、俺の警戒心をゆるめたのかもしれない。

俺は人見知りのはずなのに、すぐさま彼と話すことができた。

「よくここが分かったね。今まで誰にも気づかれなかったのに」

「私の超能力が一つ、“アノニマセンス”だ。キミのように孤独でみじめな人間が近くにいると血が騒ぐのだよ」

「言い方」


いま思えば、俺がああやって話すことができたのも、アノニマンの超能力の一つだったんだろう。

俺は少ないボキャブラリーで、アノニマンに精一杯の思いを吐き出した。

「ふぅむ、キミの悩みは一見すると複雑だ。しかし、その実、答えはシンプル

アノニマンは最初から答えを用意していたかのように、俺に言い放った。

「キミはその場所を居心地が悪いと思っている。そこに自分の居場所がないのだから当然だが」

もちろん、俺の抱えている問題はそれだけじゃない。

だけど今の状況だけでいえば、解決すべきはそこだったのは確かだ。

解決方法は主に二つ。一つ目は居場所を“自分で作る”こと。だが、これはキミにはオススメできない」

「なんで?」

「キミの場合、そうして作った居場所は“ココ”みたいになるだろう。一人で閉じこもるためだけの、孤独避難場所だ。それは最後の砦としてとっておくべきものではあるが、勝つためには進軍しなければならない」

これもアノニマンの超能力の一つなのだろうか。

会って間もないのに、既に色々と見透かされているようだった。

「じゃあ、もう一つの方法は?」

「“順応する”、つまりその場所に慣れることだ」

「慣れるって……それは分かるけど、どうやればいいかからないよ」

「なあに、そのために私がいるのだ」

そう言ってアノニマンは、俺に向けて手を差し出した。

「道は示そう、そこを通るためにどうするかはキミ次第だ」

俺はその手を恐る恐る、弱い力で握った。

「よろしい! 今、キミは自分意志で、私の手を握ったのだ。その気持ちを忘れるなかれ!」

するとアノニマンは俺の手を強く握り返した。

「さて、今日はこれにて御免。また明日ここで会おう!」

そう言ってアノニマンはマントを翻し、声だけを置き去りにしてどこかへ消えてしまった。

「忘れるな、アノニマンはキミが必要としなくても駆けつける!」

(#63-4へ続く)

2018-09-17

[] #62-2「アノニマン」

その当時、俺と兄貴学童保育のお世話になっていた。

臭い一階立ての家に、俺や兄貴くらいの歳の子達が数人。

正直、俺にとっては良い環境とはいえなかったな。

家の中にある遊び道具も古臭くて、コマケンダマとかがあった。

普段、俺が室内でやるゲームといえばコンピューターのやつだったけど、ここには旧世代のすらなかったんだ。

そのせいで、俺はいつも手持ち無沙汰だった。

「すごいなマスダ。もうコマを指のせできたのか」

「ああ、つなわたりも出来るぜ」

兄貴最初の内は戸惑っていたけど、すぐにその環境に慣れたようだった。

俺はというと、一週間たってもまだ馴染めない。

「弟くんも、どう?」

先生差し出したコマを俺は受け取ることも突き放すこともせず、ただ無言で見つめるだけ。

その頃は俺は人見知りが激しくて、どう反応すればいいかからなかったんだ。

「弟のことはほっといてやってください。無理してやらせもんじゃないでしょ」

俺は兄貴にいつも引っ付いてばかりだった。

まだ身内に甘えたい年頃だったけど、親と過ごせる時間ほとんどなかったから尚更だ。

「おい、もう少し離れてろ。俺はこれから新技を開発するんだから

兄貴の方はというと、あまり積極的に構ってくれるわけじゃない。

長男立場から気にかけてくれてはいたと思うけど、自分時間を優先したいときは邪険に扱われることも多かった。


そんな時、俺はいつも近場の空き地で身を潜めた。

誰も俺に気づかない隠れ場所だ。

だけど、あまりいい場所ってわけじゃない。

そこで一人でいると、大抵ネガティブ感情ばかりが湧き上がるからだ。

現在未来、親のこと、あることないこと全てが悪いほうへと考えを傾ける。

俺はそうやって、いつも小一時間ほどグズるのが日課になりつつあった。

だけどある日、それは終わりを告げた。

カカッと参上! 横槍アノニマン!」

よく分からないセリフと共に、彼は俺の前に現れた。

そう、これが俺とアノニマンの最初出会いだ。

「え……な、なに?」

最初の時は、俺はいきなりの状況に引くしかなかった。

まあ、おかげで涙も引いたけど。

====

オープニングテーマ:「アノニマンのテーマ

歌:バンバントロリー 作曲:ボブ・WEBスター

アノニマン アノニマン どこかの誰か

どこにもいるが どこにもいない

それこそ 彼の個性

奴の目的? 知ったところでどうする

奴はスゴイ? どちらともいえなくない

ただ そこにいるだけ

朝 昼 晩 テキストの海

ボットのよう 必ず言及

アノニマン アノニマン 野次馬根性

ブクマ 追記 やれることはやろう

所詮ただの余興 暇なら君もなれるさ

(#62-3へ続く)

2018-09-16

[] #62-1「アノニマン」

住んでいる町の治安はいいか

観光客っぽい人に、一度そう尋ねられたことがある。

その時、俺はどちらともとれる表現で返した。

治安が悪いから、そんな反応で濁したわけじゃない。

本当にどちらともいえるし、どちらともいえないからだ。

この町では、色んな自治体自警団がある。

警察だけじゃ手が回らないから……ってのが一応の理由だとか。

実際はそれらが幅を利かせているせいで、警察に何もさせていないって方が正解だと思うけど。

俺が生まれ大分からそんな感じだったらしい。

からなのか、俺たちの町ではシケイ行為ってのにとてもユルいんだ。

ちょっとした犯罪揉め事くらいなら、住人たちで勝手解決しようとする。

自治体自警団だけじゃなくて、一人で取り締まっている奴までいるんだ。

かくいう俺もこの町で生まれ育ったわけだから、そんな風景を当たり前だと思ってる。

しろ、そういう状況を楽しむ余裕すらあるくらい。


「やっぱり『魔法少女』が人気ではトップクラスかなあ」

今日も俺の家で、ミミセンやタオナケ、シロクロ、ドッペルというメンバーたちとシケイキャラ談義に花を咲かせていた。

私、女だけど魔法少女』より『サイボーグ少女』とかのほうがカッコよくて好きだわ」

タオナケ、それはちょっと古くないかなあ? 『サイボーグ少女』が活躍していた頃、僕たちはまだ生まれてないだろ。なあ、マスダ?」

「昔のなんて知らねえよ」

俺はぶっきらぼうに答える。

タオナケの言っていた『サイボーグ少女』ってのは、たぶん母さんの若い頃の呼び名だ。

俺は思春期真っ盛り。

ケイキャラの話で盛り上がりたいのに、身内の話なんて広げられたらたまったもんじゃない。

「確かに昔だけど、最近のなんて語り尽くしているんだもの。今回は趣向を変えてみてもいいんじゃない?」

ノスタルジー!」

シロクロはそう言って、手を大きく振り上げた。

タオナケの提案に賛成ってことらしい。

「んー、それもいいか

ミミセンもそれに乗った。

ドッペルは何も言わないが、聞き専なのでどっちにしろ関係ない。

まずいな。

このままでは『サイボーグ少女』の話になってしまうかも。

俺はそうさせないよう、真っ先に話を切り出した。

「じゃあ、俺から話す……みんな『アノニマン』って知ってる?」

みんな首を傾げる。

「やっぱり知らないか……」

色んな人に『アノニマン』について話したことがあるけど、大体みんな同じ反応だった。

そこまで有名じゃなかったんだろう。

でも俺にとっては、間違いなく最高のヒーローだ。

アノニマンに出会ったのは、俺が小学校に行き始めた頃……」

(#62-2へ続く)
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