カテゴリー 「マスダとマスダの冒険」 RSS

2018-09-18

[] #62-3「アノニマン」

少年よ、なぜこんなところで一人、泣いているのだ。助けは必要か?」

「な、泣いてないよ」

「ふぅん、強がる程度の気概はあるか。結構、血行、雨天決行!」

アノニマンの第一印象は、お世辞にも良いとは言えなかった。

大げさで意味不明言い回しで、初対面の子相手にズカズカと土足で入ってくるイラつく奴だ。

しかも見た目もカッコよくない。

身体全体を覆うマントは薄い布切れ。

顔に取り付けられた仮面は明らかに紙で出来ていて、声をくぐもらせている。

見た目は手作り感に溢れ安っぽく、飾ってはいるけど飾りきれていない感じ。

体格は俺より大きいけれど、一般的大人ほどではなかったと思う。

なんというか、子供ヒーローごっこみたいだった。

ただ、そのゴッコ遊びの延長みたいな風貌が、俺の警戒心をゆるめたのかもしれない。

俺は人見知りのはずなのに、すぐさま彼と話すことができた。

「よくここが分かったね。今まで誰にも気づかれなかったのに」

「私の超能力が一つ、“アノニマセンス”だ。キミのように孤独でみじめな人間が近くにいると血が騒ぐのだよ」

「言い方」


いま思えば、俺がああやって話すことができたのも、アノニマンの超能力の一つだったんだろう。

俺は少ないボキャブラリーで、アノニマンに精一杯の思いを吐き出した。

「ふぅむ、キミの悩みは一見すると複雑だ。しかし、その実、答えはシンプル

アノニマンは最初から答えを用意していたかのように、俺に言い放った。

「キミはその場所を居心地が悪いと思っている。そこに自分の居場所がないのだから当然だが」

もちろん、俺の抱えている問題はそれだけじゃない。

だけど今の状況だけでいえば、解決すべきはそこだったのは確かだ。

解決方法は主に二つ。一つ目は居場所を“自分で作る”こと。だけど、これはキミにはオススメできない」

「なんで?」

「キミの場合、そうして作った居場所は“ココ”みたいになるだろう。一人で閉じこもるためだけの、孤独避難場所だ。それは最後の砦としてとっておくべきものではあるが、勝つためには進軍しなければならない」

これもアノニマンの超能力の一つなのだろうか。

会って間もないのに、既に色々と見透かされているようだった。

「じゃあ、もう一つの方法は?」

「“順応する”、つまりその場所に慣れることだ」

「慣れるって……それは分かるけど、どうやればいいかからないよ」

「なあに、そのために私がいるのだ」

そう言ってアノニマンは、俺に向けて手を差し出した。

「道は示そう、そこを通るためにどうするかはキミ次第だ」

俺はその手を恐る恐る、弱い力で握った。

するとアノニマンは俺の手を強く握り返した。

「よろしい! 今、キミは自分意志で、私の手を握ったのだ。その気持ちを忘れるなかれ!」

(#63-4へ続く)

2018-09-17

[] #62-2「アノニマン」

その当時、俺と兄貴学童保育のお世話になっていた。

臭い一階立ての家に、俺や兄貴くらいの歳の子達が数人。

正直、俺にとっては良い環境とはいえなかったな。

家の中にある遊び道具も古臭くて、コマケンダマとかがあった。

普段、俺が室内でやるゲームといえばコンピューターのやつだったけど、ここには旧世代のすらなかったんだ。

そのせいで、俺はいつも手持ち無沙汰だった。

「すごいなマスダ。もうコマを指のせできたのか」

「ああ、つなわたりも出来るぜ」

兄貴最初の内は戸惑っていたけど、すぐにその環境に慣れたようだった。

俺はというと、一週間たってもまだ馴染めない。

「弟くんも、どう?」

先生差し出したコマを俺は受け取ることも突き放すこともせず、ただ無言で見つめるだけ。

その頃は俺は人見知りが激しくて、どう反応すればいいかからなかったんだ。

「弟のことはほっといてやってください。無理してやらせもんじゃないでしょ」

俺は兄貴にいつも引っ付いてばかりだった。

まだ身内に甘えたい年頃だったけど、親と過ごせる時間ほとんどなかったから尚更だ。

「おい、もう少し離れてろ。俺はこれから新技を開発するんだから

兄貴の方はというと、あまり積極的に構ってくれるわけじゃない。

長男立場から気にかけてくれてはいたと思うけど、自分時間を優先したいときは邪険に扱われることも多かった。


そんな時、俺はいつも近場の空き地で身を潜めた。

誰も俺に気づかない隠れ場所だ。

だけど、あまりいい場所ってわけじゃない。

そこで一人でいると、大抵ネガティブ感情ばかりが湧き上がるからだ。

現在未来、親のこと、あることないこと全てが悪いほうへと考えを傾ける。

俺はそうやって、いつも小一時間ほどグズるのが日課になりつつあった。

だけどある日、それは終わりを告げた。

カカッと参上! 横槍アノニマン!」

よく分からないセリフと共に、彼は俺の前に現れた。

そう、これが俺とアノニマンの最初出会いだ。

「え……な、なに?」

最初の時は、俺はいきなりの状況に引くしかなかった。

まあ、おかげで涙も引いたけど。

(#62-3へ続く)

2018-09-16

[] #62-1「アノニマン」

住んでいる町の治安はいいか

観光客っぽい人に、一度そう尋ねられたことがある。

その時、俺はどちらともとれる表現で返した。

治安が悪いから、そんな反応で濁したわけじゃない。

本当にどちらともいえるし、どちらともいえないからだ。

この町では、色んな自治体自警団がある。

警察だけじゃ手が回らないから……ってのが一応の理由だとか。

実際はそれらが幅を利かせているせいで、警察に何もさせていないって方が正解だと思うけど。

俺が生まれ大分からそんな感じだったらしい。

からなのか、俺たちの町ではシケイ行為ってのにとてもユルいんだ。

ちょっとした犯罪揉め事くらいなら、住人たちで勝手解決しようとする。

自治体自警団だけじゃなくて、一人で取り締まっている奴までいるんだ。

かくいう俺もこの町で生まれ育ったわけだから、そんな風景を当たり前だと思ってる。

しろ、そういう状況を楽しむ余裕すらあるくらい。


「やっぱり『魔法少女』が人気ではトップクラスかなあ」

今日もミミセン、タオナケ、シロクロ、ドッペルという、いつものメンバーでシケイキャラ談義に花を咲かせていた。

私、女だけど魔法少女』より『サイボーグ少女』とかのほうがカッコよくて好きだわ」

タオナケ、それはちょっと古くないかなあ? 『サイボーグ少女』が活躍していた頃、僕たちはまだ生まれてないだろ。なあ、マスダ?」

「昔のなんて知らねえよ」

俺はぶっきらぼうに答える。

タオナケの言っていた『サイボーグ少女』ってのは、たぶん母さんの若い頃の呼び名だ。

俺は思春期真っ盛り。

ケイキャラの話で盛り上がりたいのに、身内の話なんて広げられたらたまったもんじゃない。

「確かに昔だけど、最近のなんて語り尽くしているんだもの。今回は趣向を変えてみてもいいんじゃない?」

ノスタルジー!」

シロクロはそう言って、手を大きく振り上げた。

タオナケの提案に賛成ってことらしい。

「んー、それもいいか

ミミセンもそれに乗った。

ドッペルは何も言わないが、聞き専なのでどっちにしろ関係ない。

まずいな。

このままでは『サイボーグ少女』の話になってしまうかも。

俺はそうさせないよう、真っ先に話を切り出した。

「じゃあ、俺から話す……みんな『アノニマン』って知ってる?」

みんな首を傾げる。

「やっぱり知らないか……」

色んな人に『アノニマン』について話したことがあるけど、大体みんな同じ反応だった。

そこまで有名じゃなかったんだろう。

でも俺にとっては、間違いなく最高のヒーローだ。

アノニマンに出会ったのは、俺が小学校に行き始めた頃……」

(#62-2へ続く)

2018-09-02

[] #61-7「一人暮らしバイト

後日、俺はマンションで起きた怪奇現象を、大家に包み隠さず話す。

大家は疑うわけでもなく、あっさりと話を信じた。

そして、確認のために俺の部屋である104号室を見に行くことになった。

すみません、タケモトさん。今日休みだったのに」

「まあ、同意の上でとはいえ仕事を紹介したことに負い目はあったからな」

その場には、証人としてタケモトさんと弟も来ていた。

「じゃあ、104号室。入りますね」

大家が104号室の扉をあけようとした、その時ーー

俺は出鼻を挫くように一つの提案をした。

「その前に、103号室を見てもいいですか?」

「え、そっちは空き家ですよ」

やはり空き家だったか

だが、驚きはしない。

「ええ、でもそこから内線がかかってきたのが気がかりなので、確認のために」

「はあ、分かりました。でも何もないと思いますけどねえ」


103号室に入るが、大家の言うとおり空き家から何もない。

「ほら、何もないでしょ」

当然、そんなことは承知の上だ。

だが、この一見すると何もない場所で俺は“真相”を導き出す。

「俺は心霊現象だとか、そういうのを信じないタイプなんですよね。でも案外そうじゃなかった」

俺は唐突にそう語り始める。

大家は要領を得ず、生返事するしかない。

「はあ、そうなんですか」

「心のどこかではまだそういうのを信じていたから、そういう考えになってしまった。そんなものに気を取られず、もっと冷静に考えればいいだけだったのに」

勿体つけるように、迂遠言い回しをしながら室内をグルグルと回る。

「えーと、つまり何が言いたいので?」

とどのつまり“前提”なんですよ。今まで起きた出来事を“どういう前提”で考えるかが重要なんです。これまでの出来事は“心霊現象という前提”などではなく、“初めから人為的ものによって起きたという前提”で考えるべきだった」

俺がそう言った時、大家の顔が一瞬だけ引きつった。

「例えば、エレベーターの窓から人が見え続けていたのは、そういう形をした、裏表で絵柄の違うステッカーなどを貼っていたからでしょう。その後は見かけなかったので、すぐに剥がされたのでしょうけど」

畳み掛けるように、俺は自分推理披露する。

「103号室から来た内線は何てことはありません。実際にここ103号室からかけてきただけです。この部屋に堂々と入ってね」

その他、俺の身に起きた心霊体験も全て否定することは可能だが、長くなるのでこの辺で本題に入ろう。

さぶるなら今だ。

「そんなことが出来る人間、そんなことをしても咎められない立場人間……そうなると答えは自然と導かれます

俺は大家の方を強く睨みつける。

弟とタケモトさんの視線も、大家に集中した。

「な、何を……なぜわたしがそんなことをしないといけないんですか」

「それはこっちが聞きたい」

俺たちの視線を浴びて、大家は酷く狼狽している。

「そんな推測で疑われても困りますよ。わたしがここに入った証拠もないのに」

証拠ならありますよ。この部屋にあった青い布の切れ端。あなたが今着ているのと同じだ。つまりあなた最近ここに入ったということ」

「ち、違う! それは自分のじゃない。昨日だって赤い服で……あっ!」

当然、これはブラフだ。

俺が長々と喋っている間に、弟にこっそりと服を切らせた。

「語るに落ちたな」

相手自白してくれるよう他にも証拠をたくさん作っておいたのに、まさかここまで早く落ちるとは。

こんな間抜けなヤツに今まで踊らされていたかと思うと、我ながら情けない。

「まあ、とりあえず……社会的制裁は勘弁してやるから、俺の個人的制裁に付き合ってもらおう」

こうして俺の一人暮らしバイト夏休みの終わりと共に終結した。

夏休みボケを治す一環のバイトとしてはビミョーだったが、上等だと思い込もう。


…………

後にタケモトさんからいたことだが、どうやら俺の住んでいた部屋はかなり状態が悪かったらしい。

大家リフォーム代をケチたかったが、このままだと誰も借りてくれない。

そこで大家は、あえて事故物件として売り出そうと考えた。

案外そういうところに住みたがる物好きがいるらしい。

その自作自演に、俺は付き合わされたってわけだ。

「このテのパターンだと、怪奇現象の中の一つは本当の幽霊仕業だったとかいオチ鉄板だけど、ことごとく大家仕業だったなあ」

「アレだ。“人間が一番怖い”ってパターンだ」

「いや、そのパターンにしても今回のはくだらなさすぎるだろ」

とはいえ怪奇現象心霊現象なんて冷静に見れば大体くだらないものなのかもしれない。

「あ、ひょっとして、よくよく考えてみたら怖い話ってパターン?」

「お前は一体なにを期待しているんだ」

そして必要以上の期待をするものでもないってことなのだろう。

まあ、そもそも期待するようなものでもないんだが。

(おわり)

2018-09-01

[] #61-6「一人暮らしバイト

俺は部屋の中を注視する。

根拠のない直感をアテにするものではないが、気のせいなら気のせいで構わない。

今の精神状態では安眠が難しい以上、確認しなければ気が収まらない。

そうして調べること数十秒、意外にも早く変化に気づけた。

備え付けの電話、その留守電ランプが点灯しているんだ。

これは俺にとって珍しいことだった。

連絡する際はもっぱらケータイで、それだって基本はメールとかSNSからだ。

身内や知り合いもそれを分かっているため通話は滅多にしてこない。

というより、この家の電話番号は誰にも言ってないしな。

ここには短期間、住むだけなんだから言うだけ無駄だ。

そう、つまり珍しい以前に、そもそも電話がかかってくること自体おかしいんだ。

それに気づいた時、更に緊張感が高まった。

俺はゆっくり電話に近づくと、まずは留守電の番号を調べる。

103……そんな気はしたが、知らない番号だ。

知り合いの番号を全て正確に記憶しているわけではないが、これは桁が明らかに少ないので違いはすぐに分かる。

なるほど、マンションの内線か。

それなら納得がいく。

内線の番号は、そのまま部屋の番号となっている。

俺の部屋は104だから、つまり103は隣の部屋だ。

新しく住み始めた俺への挨拶か、或いは何らかのクレームだろうか。

後者だったら億劫だな。

こちらには覚えがないので、もしクレームだったら隣人はかなり厄介な奴ってことになる。

俺は留守電再生した。

「……」

だが録音内容は無言であり、周りの雑音が拾われているだけ。

「イタズラ電話か……隣人相手に随分なマネしてくるなあ」

まあ、だからといって、自分から進んでトラブルに首を突っ込むつもりはない。

売られたケンカは買う主義だが、こんなもの商品未満だ。

いずれにしろ、どうせあと数日の隣人関係なのだから不干渉に限る。

隣の……そういえば名前すら知らないな。

最低限、それくらいは覚えておくべきだろうか。

俺は部屋から出ると、隣の表札を見に行くことにした。


そうして扉前まで来たはいいが、度肝を抜かれた。

表札がないんだ。

そういうのをあまり立てたがらない奴もいるにはいるが……。

もしかして隣には、今は誰も住んでいないのではないか

なのに、隣からかかってきた内線。

まり……。

「いやいや……いやいや、ねーわ」

主語のない、否定言葉だけを口に出す。

しかし、ここまでくると俺の中で浮上した“可能性”は、そう簡単に沈んでくれなかった。


…………

その可能性を後押しするかのように、それからマンション内で奇妙な体験を何度もした。

ホラーものありがちな展開は大体網羅したと思う。

まあ、いくつかは俺の自意識過剰もあったと思うが、どちらでもいいことだ。

俺のやることは変わらない。

途中で投げ出すなんていう選択肢は初めからなかった。

自分で言うのもナンだが、俺の性根は割と図太いんだ。

最初の内は得体の知れなさから恐れを感じることもあったが、しばらくするとほぼ慣れてしまった。

本当に心霊現象だったとして、俺が気にしなければいい程度の問題

それに一応は仕事だし、金はやっぱり欲しいしな。

「いや、兄貴。何を馴染んでんだよ」

遊びに来ていた弟が、そう言うのも無理はない。

かに、この時の俺はかなり抜けていた。

「よしんば心霊現象だとかがあったとしてさあ。それに遭遇する確率はどれくらいなのさ。兄貴よくバス電車に乗ってるけど、大きな事故に遭ったのは一回だけだろ。それより低い確率が、今ここで何度も起きてるっておかしくない?」

「うーん……俺もにわかには信じがたいが、そういうのが起きやす場所なんだろう。俺の利用するバス電車運行が基本ちゃんとしているからであって、もし運転手とかが酔っ払いだったら事故は置きやすくなるだろうし」

兄貴意味不明な例えを出すなよ。このマンション酔っ払い運転手と同じだと思ってるわけ?」

「いや、例え的にはマンション乗り物で……」

俺は言葉を詰まらせた。

一見すると無意味な問答に、真相へと向かう道筋を見たからだ。

(#61-7へ続く)

2018-08-31

[] #61-5「一人暮らしバイト

翌日から、俺はエレベーターを使わないようにした。

10階まで行くのに階段というのは、かなり疲れる。

だが、あんな思いをするのは二度と御免だ。

もしも、またあんなことが起きたとして、あの空間では回避しようがないしな。

ただ、階段を使えば安心かといえばそんなわけもなく、登っている間も言い知れぬ不安が頭をもたげた。

あることないことに対して、あることないことを考える、無意味思考サイクル。

精神衛生上、あまり意味がなかったかもしれない。


…………

何はともあれ、滞りなく10階までたどり着き、自分の部屋に入ることができた。

「ただいまー……」

その安堵感から実家に住んでいた頃のクセが思わず出てしまう。

当然、一人暮らしの今は「おかえり」なんて返ってこない。

「……実家なら返ってくるんだけどな」

今の一人暮らしを寂しいとは思わないが、ふと以前の生活を憂いた。

自分でいうのもナンだが、いやはや感傷的かつ無意味機微である

「……はは、バカか俺は。もしも今ここで『おかえり』だとかが返ってきたら、むしろ怖いだろうに」

自嘲気味にそう呟くが、その後すぐに自分言葉にギクリとした。

バカの上塗り。

昨日の今日に、考えなくてもいいことを考えてしまった。

一度でも考えてしまったら、もうダメだ。

自分気持ち次第なのに、自分では制御ができない。

警戒心を強め、俺は変なモードに入ってしまっていた。

「……エレベーターときは忘れていたが、あの構えを使うべきか」

俺は独特の構えをとる。

上半身右は空手の構え、上半身左は柔道の構え。

下半身右は相撲下半身左は剣道

それをマーシャルアーツによって包み込むことで調和させる。

センセイから教わった、全方位どこから来ても対処できる“モリアミマンゾウの構え”である

客観的に見れば滑稽な姿だが、効果の程は確かだ。

高速移動の超能力者ケンカする羽目になったときに、これで勝負を制したことがある。

その時に観戦していた弟は「テキトーに腕を突き出したら偶然ヒットしただけじゃん」と言っていたが、そういうマグレ当たり込みでこの構えは強いんだ。

必然的にも、偶発的にも強い万能の構えである

強いて問題があるのなら、今の状況は完全に“モリアミマンゾウの構え”の無駄遣いという点だろうか。

結局、部屋の中は俺一人。

“モリアミマンゾウの構え”の反動で、俺は無意味に関節を痛めることになった。

だが、未だ違和感が拭いきれない。

自分の住家のはずなのに、言い知れぬ居心地の悪さが気になって仕方なかった。

実家での、とある出来事を思い出す。

俺が知らない間に、親が自分の部屋をこっそり掃除したことがあった。

モノの位置は一切変わっていないため、帰ってきた俺は気づかないのが普通だ。

だが、その部屋に入った瞬間に異変を感じ取った。

部屋の様相はパっと見ほぼ同じ。

細部の違いが分かるほど、俺の記憶力は高くない。

にも関わらず、自分テリトリーを脅かされたような不快感に襲われた。

後にその不快感の正体を知った時、俺はとても驚いた。

部屋を勝手掃除されたこともそうだが、何より自分にそんな繊細さがあったということに、だ。

今のこの状況、感覚を、あえて例えるならソレに近い。

(#61-6へ続く)

2018-08-30

[] #61-4「一人暮らしバイト

なぜオカルトを信じないのか。

客観的説明をここでする必要はないだろう。

説明されきっているからだ。

そういうことは説明書に任せるべきで、俺がすることじゃない。

真面目に語れる領分じゃないしな。

まあ、俺だってそういうのを信じる、無邪気な時代もあったさ。

だが、そういった気持ち心霊番組ホラーものを観れば観るほど、むしろ薄まっていった。

だって、ああいうので出てくるもの人間か、動物なら犬猫ばかりだ。

キリンだとかゾウだとか、オオアリクイだとかも出てくればいいのに。

絶滅した動物とか、何なら古代生物とかでもいい。

そういった話がない時点で作り手の都合がミエミエだし、それらがフィクションだってことも暗に示している。

結局、子供へ恐怖を通じて学ばせたり、嘘だと分かりきった上で大衆が楽しむ、都合のいい存在しかないってことだ。

とはいえ俺は、今回の件をわざわざこうやって話している。

まりオカルトかどうかはともかく“何か”が起きるってことだ。


…………

最初異変は、それから数日後に起きた。

深夜で小腹が空いていた俺は、夜食を求めてコンビニに行った。

道中は特に何もなかったが、問題は帰りだ。

エレベーター自分の階へ上がっている時、思わず身震いした。

このマンションエレベーターは扉にガラスがついており、外の様子が窺えるようになっている。

そこでガラス越しに人が見えた。

“見え続けて”いた。

5階、6階、7階……同じ様相人間が、そこに佇んでいるのがハッキリと見える。

事態が上手く飲み込めていないが、自分の中で危険信号が鳴っていることだけは確かだ。

俺がエレベーター内で出来ることは、1階にもいるであろう“奴”に備えて身構えることだけだった。

この時、エレベーターは9階まできていた。

俺の部屋がある階は次だ。

拳に力が入る。

……だが、窓の外に“奴”は見えなかった。

扉が開く。

やはり、いない。

その状況に握った拳の力が弱まるが、まだ解かない。

ゆっくりエレベーターから出て、外の様子を見回す。

左右はもちろん、念のため上と下も見た。

気になって後を振り向くなんてこともしてみたが、やはり何もない。

ワケが分からない。

だが、もし“奴”がこの階に向かっている最中だとしたら……と頭をよぎる。

俺は逃げるように自分の部屋に滑り込んだ。

今になって思えば、完全な取り越し苦労である

他の階にはエレベーターに追いつける程のスピードで来ているわけだから、俺の階にだって既に追いつけているはずだからだ。

じゃあ、なぜそうならなかったのか。

この時点で、その不自然さについて考えていれば、もう少し早めに核心に近づけただろう。

あの時に、そんな余裕がなかったのが我ながら恥ずかしい。

(#61-5へ続く)

2018-08-29

[] #61-3「一人暮らしバイト

するとタケモトさんは容赦なく露骨きな臭いバイトを紹介してきた。

「じゃあ、これだな。近くに『スペースハウス』ってマンションあるだろ? そこに一定期間住むだけでいい、簡単仕事だ」

タケモトさんの言うとおりなら確かに簡単バイトだが、さすがに鵜呑みにはできない。

人を住まわせた上に賃金まで出すなんて、雇う側にメリットがないからだ。

どう考えても“裏”がある。

「部屋内の不備とか、使い心地とかのアンケートを書く、とかですか?」

俺はあえてバカっぽく質問をして、タケモトさんから答えを引き出そうとする。

「うーん……まあ、そうだな」

歯切れの悪い返答。

この時点で、何か裏があることはほぼ確定だ。

今度はやや強気に出てみよう。

「タケモトさん。俺は多くを要求するつもりはありませんが、説明責任は果たすべきだと思いますよ」

「そうは言ってもなあ、オレが説明できるのはそこまでなんだよ。そこの管理人が具体的な説明をしなくてなあ」

どうやらタケモトさんも、このバイトを怪しんでいたようだ。

だが、それが何かは分からないらしい。

「さすがに、そんなものを紹介するのはどうかと思いますよ……」

普段はこんなの絶対に紹介しねえよ。お前がテキトーに余ってるもんでいいと言ったから、ダメもとで出してみただけだ」

大分ストレスが溜まっているんだな。

今後、職業斡旋所で働くことがあったとしても絶対にやめておこう。

俺はタケモトさんを見て、そう思った。

「まあ、いいや。やりますよ、それ」

何はともあれ、俺はそのバイトをやることにした。

キトーものでいいと言ったのは事実だし。

それに、このバイト意味する“裏の目的”、その見当はついていた。

「え!? マジか、お前……」

「何かあったときは“斡旋”してくれればいいんで」

「おいおい……もしかして、“それ”狙いで請け負ったとか言わないよな?」

「違いますって」


…………

こうして俺は『スペースハウス』のとある一室にて住み始めた。

俺が生まれる前からある程度には古いマンションなので警戒していたが、意外にも中は小奇麗だ。

間取りワンルーム長方形で、一人で暮らす分には十分。

しろ実家では兄弟で一部屋を使っている状態だったので広いとすら感じる。

“裏の目的”よりも、住みやすさの方が俺にとっては問題だったので、これで安心だ。


ああ、もったいぶる必要もないので説明しよう。

まあ、あからさまに怪しいから、俺じゃなくても勘付いたと思うが。

俺がいま住んでいるここは、恐らく「事故物件」ってやつだ。

バイト仲間にオサカってのがいるんだが、そいつからいたことがある。

事故物件に住み、そこで何の問題も起きなかった場合には事故物件扱いじゃなくなるらしい。

そうすれば、他の部屋と同じ家賃にできる。

このバイトは、それが目的なのだろう。

雇う側が仕事の内容について最低限しか説明しなかったのも、雇われた側がウソをつく可能性を恐れたからと考えるなら辻褄は合わなくもない。

というわけで、タケモトさんが言ったとおりこれは簡単仕事ってわけだ。

俺はオカルトだとか、そういった類のモノは信じちゃいないからな。

(#61-4へ続く)

2018-08-28

[] #61-2「一人暮らしバイト

俺は適当アルバイトを見つけるため、近所にある職業斡旋所に来ていた。

入り口近くには掲示板があり、そこに貼り付けられた求人チラシに目を通していく。

夏休みボケを治す一環で働くだけだから、面倒くさそうだったり疲れるようなものは出来れば避けたい。

そうして探していき、最初に目に入ったのはラインバイトだった。

ライン……流れ作業かあ」

このご時世、機械化も進んでるだろうに、こういうのも未だあるんだな。

作業じゃないと難しいモノ、とかなのだろうか。

それとも人材を買い叩いて安く済まそうってハラか?

気になったので、そのチラシを読み込む。

すると、『スプラインの製作』と書いてあった。

「いよいよ分からん……」

馴染みのない固有名詞が出てきて、余計に理解できなくなってしまった。

しかも「スプライン」と「ライン」で言葉が被っててややこしいのが、更に俺を混乱させる。

理屈じゃないんだが、俺はそれを理由候補から外した。


それ以降もチラシを見ていくが、目ぼしいものが見つからない。

ジップラインアシスタント……」

これは色々と覚えなきゃいけないことが多そうだな。

つーか、また「ライン」被ってる。

そんな風に一度気になり出すと、もうダメだ。

エアライン……これもライン……」

俺は「ライン」と名のつくバイトに謎の拒否感を覚え始めていた。

「お、ブラインド製作。これはラインじゃ……いや、あるな」

それにつけても「ライン」が多すぎる。

そういうコンセプトでチラシを並べているのかと思えるくらいだ。

「なんなんだ今日バイトラインナップは」

ああ、くそっ……。

ラインがオレにまで伝染し始めている。

このままじゃ夏休みボケどころか、ノイローゼまで併発しそうだ。

ここからバイトを探すのはやめよう。


俺は相談窓口に行くと、担当のタケモトさんに他にいいものがないか尋ねた。

「マスダよお……オレが近所のよしみで何か都合してくれる、だとか思ってないだろうな? 『頼りにする』のと『アテにする』のはワケが違うぞ」

タケモトさんが不機嫌そうに喋っているのはいものことだ。

だが、発せられる言葉には覇気がなく、眉の角度もいつもより低いのがすぐに分かった。

「疲れてますね」

普段バイトをしない奴らが、夏休みかになると駆け込んでくるからな……」

となると、条件のいいものは余ってなさそうだな。

タケモトさんもかなり疲れているようだし、あまり粘るのも忍びない。

色々とグダグダやってきたが、ここはもう観念しよう。

「俺が出来そうなのをテキトーに見繕ってくださいよ。余っているのでいいですから

「……後悔すんなよ?」

タケモトさんはそう言ったのに、俺は二つ返事で承諾してしまった。

こういう場合、最終的には後悔することが多いというのに。

(#61-3へ続く)

2018-08-27

[] #61-1「一人暮らしバイト

残暑文字通り暑さが残る時期だ。

この暑さにしつこさを感じたとき、その頃に妙ちきりんバイトをしていたのを思い出す。

バイトの内容自体もそうだったが、そこで起きた出来事特に印象的だった。

今日はそのことについて話そう。

少しだけ怪談っぽい話なので、季節的にも丁度いいだろう。

ただ、本当に“少し”だけなので余計な期待はしないでくれ。

忠告はしたぞ。


…………

夏休みも終わりかけの頃、俺は時間を持て余していた。

有り体に言えば暇だった。

「あー、暇だ」

誰が聞いているわけでもないのに、わざわざ口に出して言うほどだ。

「やることがねえ」

夏休みってのは、俺から言わせれば“やるべきことを減らし、やりたいことに割く期間”のことだと思っている。

学生の俺でいうなら、学校で励む勉学とかが“やるべきこと”になるだろう。

当然、学校から出された課題は数日前に完成済みだ。

まり、存分に“やりたいこと”に時間を割ける状態だといえる。

だが、マンネリってやつだろうか。

俺はアンニュイな気分になっており、自分にとって“やりたいこと”が何なのかが漠然としていた。

今までの“やりたいこと”も自分にそう言い聞かせているだけじゃないのか、なんていう実態のない自問自答が頭の中をグルグルと巡る。

ゲームやったり、どっか遊びにでも行けばいいじゃん」

俺があまりにも暇だ暇だと呟いていたからなのか、同じ部屋にいた弟が鬱陶しそうな顔をしながら提案してきた。

未だ課題を完成できていないことからくる焦燥感からなのか、語気も少し荒々しい。

暑い中、ノープランで、気持ちが追いつかないまま行っても時間無駄だ」

この時の俺は堕落しきっていた。

“やりたいこと”の中に多少含まれている“やりたくないこと”が、やたらと悪目立ちしているように感じ、俺から更に気力を奪っていく。

友達でも誘えば、大抵の場所は楽しめるよ」

「しょっぱい上に、月並みなことを言うなよ。個人的暇つぶしに巻き込むなんてマネはしたくない」

それにつけても、この時の俺の態度は酷いもんだ。

個人的かつ迂遠な不平不満を垂れ流し、その解消法を提案されても暖簾に腕押し。

SNSでクダをまいているような輩と同じことを現実でしているわけだ。

弟がイラつくのも無理はない。

だが、そういった身内の機微理解できないほど、俺は心身ともにダラけきっていた。

「……ったくよ~、兄貴はどうしたいのさ」

「それが分からいから、こうなっている。でも、このままじゃ良くないとは思っているんだ」

夏休みが終わってもこの精神状態が続くようなら、かなりツラい新学期を迎えることになるだろう。

その危機感が、俺を取り留めのない抗いに駆り立てているのだと思う。

「じゃあ、無理やりにでも何かやれば? 俺は課題っていう、“やるべきこと”が残っているんだからさ」

「だから、それが見つからいから……いや、待てよ」

不毛なやり取りが続きかけたその時、俺は弟の言葉からヒントを見つける。

「そうだよ。この際、“やりたいこと”である必要はないんだ」

そして打開法を導き出した。

今のこの状態も“やりたいこと”ばかり享受しすぎた弊害、とも解釈できる。

“やるべきこと”を無理やり作り、それで予定を埋めればメリハリもできるかもしれない。

「となると、短期アルバイトだな。金も稼げるし一石二鳥だ」

「むしろ金を稼ぐのが第一目的じゃないの?」

(#61-2へ続く)

2018-08-13

[] #60-6「タメになった気の経営ごっこ」

こうして俺たちは、ふてくされているカジマを尻目にサイクルを回していく。

しかし、そのサイクルが数ターン続いた後、タイナイがこんなことを言い出した。

「ねえ、これって結局しょっぱい状況になってるのは変わらなくない?」

みんな薄々そんな気はしていたので、誰も反論しなかった。

トップがカジマからタイナイに変わっただけで、本質的にやっていることは同じ。

ゲームとしては完全に膠着している。

競争ゲームでみんなが手を取り合ったら、それが競争がでなくなるのは自明の理だ。

「まあ、確かにしょっぱい状況だが……しょっぱさのベクトルが違う、というか」

「どういうこと?」

「カジマが優勢だったときのしょっぱさは、海水を舐めた感じ。今は塩おにぎりを食べているようなしょっぱさだ」

「マスダ、その例えは益々分からない」

「……まあ、つまり美味しく食べられるしょっぱさなら良いだろってことだ」

何はともあれ、こうして経営ごっこは、タイナイがトップということで幕を閉じたのであった。


…………

とはいえ、しょっぱい結果だったことは否定できない。

担任がこのゲーム内容に納得できる気がしなかった。

「……感動した」

だが、意外にも担任の反応はすこぶる良かった。

「お前たちはブラック企業の何が問題だと思う?」

「……へ?」

そして、この突然の問いかけ。

俺たちの返答を待たず、担任は話を続けていく。

ブラック企業の最大の強みは、労働力を安く買い叩ける点にある。つまり大幅な節約だ。そして、その分を他のところに回せるから商品クオリティ維持しつつ値段を抑えることも出来る。消費者から見れば嬉しいことだ。つまり正当な対価や労働条件のある会社と、労働力を買い叩く会社がほぼ同じ条件で競争すれば、後者のほうが有利になりやすいのは当然ということ」

俺たちはついていけてないのに、それを無視するかのようにどんどん持論を展開していく。

「時に、『クリーンかつ向上に励めば勝てる』なんてことをいう経営者もいる。だが、それはたまたま経営が上手くいっている人間ポジショントーク強者論理しかなく、それが白か黒かの違いだけ。大事なのはブラックを許さない、絶対に潰そうという強い意志。お前たちは団結し、それをこのゲームを通じて体現したんだ!」

そのとき、授業終了のチャイムが鳴る。

「よし、じゃあ今日はここまで!」

担任は満足げな顔をしながら教室から後にした。

不満足な顔をした俺たちを残して。

「えーと……イイ話、だよね?」

「そうだな。あれを担任がイイ話だと思って語っている点を除けば、だが」

「いや、もう率直に言おうよ。アレはない。白ハゲ漫画ツイッター嘘松の方が、まだタメになった気になれる」

この担任の語りを聞いて、俺たちは完全に白けていた。

あんなので授業を無理やり締めくくられたら、そうなるに決まっている。

聞こえのいいお題目を唱えつつ、その実はゲームとして破綻しているものを無理やりこじつけているだけなんだから

「たぶん、オイラたちがどう立ち回っても、ほぼ同じ教訓を語ってた気がするっす」

これは教師の考えた盛大な茶番だ。

俺たちはそれに付き合わされただけ、という思いが募っている。

強いて学べることがあるとすれば……「教師のやる茶番は大抵クサいか出来が悪い」ってことぐらいだ。

(おわり)

2018-08-12

[] #60-5「タメになった気の経営ごっこ」

「じゃあ、どうすればいいんだ。ほぼ詰んでなくないか?」

この時点でかなり厳しい状況だった。

現状、カジマが有利になる方法しかできない。

俺たちがそれぞれ持っている手札ではその結論になってしまう。

まあ、実を言うと、他の方法がなくはない。

多分、俺以外の奴も何人か思いついている。

ただ、僅かばかりの良心が痛むから提案しにくいのだろう。

「早くしてよ~、悩んでる暇あるならさ~」

カジマが余裕綽々といった具合に急かしてくる。

少し癇に障るが、ゲームで優位に立っている人間は得てして“ああいう風”になりがちだ。

それにカジマの人格を顧みれば、そこまで腹は立たない。

とはいえ、今の態度で確実に俺たちの僅かばかりの良心は消えたが。

「みんな、聞いてくれ。一つ方法がある」


…………

まず俺たちがやったことは、数ターンかけてそれぞれの消費物を売買することだった。

「え、ちょっと! オイラんとこで作ったものっすよ!」

生憎、今は俺たちのもんだ。どうするかは俺たちが決める」

当然だが、この間カジマは蚊帳の外である

「オイラんところで働きたくないからって、そんな無意味なことしなくても……」

カジマはまだ気づかないようだが、当然この行為は単なる遅延行為ではない。

まあ、気づいたところで大したことは出来なかっただろうが。


そして、数ターン経過。

一人が買える消費物には制限があるから、随分と“調整”に時間がかかってしまった。

だが、これでひとまずは完了だ。

「……え~」

カジマはうな垂れている。

どうやら、やっと俺たちの作戦に気づいたらしい。

この時点で、俺たちは同じ数の消費物を持っている状態

ただ、消費物がない人間がいる。

カジマもいるが、そっちじゃないぞ。

タイナイだ。

その代わり、あいつには大量の金があった。

俺たちから掻き集めた金だ。

「そこまでしてオイラを勝たせたくないんすか!?

これが作戦だ。

カジマのもとで働くのが嫌だが、他に経営できる個人はいない。

だったら団結して、カジマ以外に経営が出来る奴を作り出そうってわけだ。

当然、この方法には問題がある。

意図的に金を一人のもとへ集めるため、それ以外はトップいから外れることを覚悟しないといけない。

まり、個々人の勝負としては破綻するわけだ。

しかも、これは露骨にカジマをハブっている。

実質的ゲームに参加させないことで勝つという、かなりエグいやり方だ。

だが、それでもカジマにやりたい放題させるよりはマシ。

そう結論付けた上での作戦だった。

「途中で裏切り者が出ないかとヒヤヒヤしたが、意外と上手くいったな」

「それやったらカジマみたくハブられるのがオチだろうからね」


後は流れである

俺たちはタイナイのもとで労働と消費を繰り返す。

カジマは消費物を持たないため何も出来ない。

経営か、俺たちから買うことによって増やせるが、もちろん俺たちはどちらも拒否する。

良い条件を提示したとしても、だ。

カジマの“やり口”を知っている俺たちは、それが甘言でしかないと思っているからだ。

「みんな、酷くないっすか? 確かにイラは悪どいやり方をしたけど、あくまゲームとして戦術的に立ち回っただけなのに……」

カジマがいじけ始めたので、仕方なく俺はフォローに入る。

「尤もな主張だ、カジマ。だが、お前のやったことが戦術だっていうのなら、俺たちのやったこだって戦術範疇だって認めるべきだ」

「いや、でも、こんなの面白くないっすよ~!」

そりゃあ、面白くないに決まっている。

得てしてゲームにおける勝負というものは、“相手面白くならないように立ち回る”ものからだ。

そして、カジマが面白くないからといって、そこまで気遣う理由は俺たちにはない。

(#60-6へ続く)

2018-08-11

[] #60-4「タメになった気の経営ごっこ」

そして3ターン目。

このターンは消費物を買って金が減ったので、カジマのもとで労働だ。

タイナイもその内の一人だった。

なぜなら、この時点でほとんどの労働者は消費物が潤沢。

タイナイは売りたくても売れない。

経営をしたくても労働者に払える金がないし、そもそも消費物をこれ以上作っても無駄になるのは分かりきっている。

必然、ここで稼ぎたい場合はみんな労働するしかないんだ。

そして、カジマはこれをチャンスと考えて勝負に出た。

「あ、今回は10ポイントで働いてもらうんで」

この宣言に一同は騒然。

「おい、ふざけんな! なんでポイントを下げる!?

「持ち金が少ないとかならまだしも、僕たち全員に払える分は余裕であるだろ。さっきカジマのところで買い物したんだから

「そうだよ。なんなら増やして欲しいくらいだ」

だがカジマの態度はふてぶてしいままだった。

「嫌ならオイラのところで働かなくていいっすよ?」

カジマの目線で考えれば当然といえば当然だ。

この時点で経営ができる程度の金を持っているのはカジマのみ。

このターンで俺たちが出来ることはほぼ労働一択

なら、わざわざ高い金を俺たちに払っても仕方ないんだ。

「どうする……?」

「いや、だが、これは……」

からといって、俺たちはそれに大人しく従うことはできない。

このあたりになると、さすがに皆もゲーム展開をちゃんと考えるようになってくる。

すると、ここでの泣き寝入り危険だってことはすぐに分かった。


もし、このターンで俺たちがカジマのもとで働いたとしよう。

カジマは少ないコストで大量の消費物を手に入れる。

当然、次のターンで消費物の減った俺たちはそれを買わざるを得ない。

同じく消費物を持っているタイナイから買うことも可能だが、まず間違いなくカジマのほうが安く売る。

労働であまり稼げなかった俺たちは、カジマの方で買うしかないってわけだ。

そして、このサイクルが続けば、カジマの圧勝である

この頃になると、俺もさすがに本気でゲームに参加する必要があった。

忘れちゃいけないが、これは授業の一環でやっているものだ。

このゲームトップを取る気も、取れる気もしないが、さすがにこの展開はしょっぱすぎる。

評価点をある程度とっておきたいなら、もう少し盤面を盛り上げないとマズい。

くそっ……やむを得ないか

だが、ここでカジマのもとで労働をしようとする人間が出てきた。

タイナイだ。

あいつは大量の消費物が余っているので、それを使えば多く労働することができる。

タイナイからすれば、ここから稼ぎを増やそうと思えば、それしかない。

「待て、タイナイ。お前が行くのが一番マズい」

俺たちは慌ててタイナイを止める。

少ないポイントで多く労働する人間なんて、カジマにとっては最も都合がいいからだ。

ましてや俺たちはタイナイより消費物を持っていない。

タイナイより労働選択できないため、先に息切れする。

そうなれば、後はカジマの一人勝ちはほぼ確定だ。

(#60-5へ続く)

2018-08-10

[] #60-3「タメになった気の経営ごっこ」

個人がやったことは月並みだ。

「なあ、こっちで働いた場合は何ポイントくれるんだ?」

カジマ側とタイナイ側に、それぞれ報酬を尋ねた。

労働で稼ぐ場合、より金を出してくれる方が得なのは分かりきっている。

から俺みたいに、今まで様子見をしていた人間も同じようにしていた。

「えーと……20ポイント?」

「少ないな。タイナイの方は25ポイントだが」

労働者一人につき、作れる消費物の数は決まっている。

から経営で稼ぎたいならば、労働者は出来る限り欲しいと考えるだろう。

ここは少しでも高めに設定しようとするはず。

「それが嫌ならタイナイの方にいけばいいっしょ?」

にも関わらず、カジマは強気だった。

その理由は察しがつく。

初めにカジマが声かけした時点で、既に一定数の労働者は確保できていたからだ。

消費物を使ってしまった労働者は、もう途中で鞍替えすることができない。

タイナイ側の方が稼げても、カジマのもとで働くしかない。

当然、俺はタイナイのほうで稼ぐことにした。

こうして1ターン目は終了。

何となく予想していた通りの流れだし、俺以外の奴らも半分以上はそうだったろう。

だが、問題は次のターンからだ。


…………

2ターン目、この時点では、俺が暫定トップだ。

だが、別に有利という状況ではない。

タイナイのもとで労働選択した奴らと同率だからってのもあるが、俺たちはこのターンは金を増やせないからだ。

消費物がなくなったから、このターンは労働で稼げない。

消費物を持った労働者がほぼいないので、経営も無理。

実質的に、俺たちが出来るのは消費物を買うこと一択なんだ。

カジマとタイナイもそれは分かっているだろうから、ここは前のターンで得た消費物を売りに出す。

「は~い、ひとつ15ポイントで売るっすよ~」

「よし、こっちも売っていこう。1個15ポイントね」

タイナイは消費物の値段はカジマと同じにしたらしい。

カジマよりも労働者に払った分、高めにしないと1つあたりの儲けは少なくなる。

だが、同じ値段じゃないと俺たちは買わないから、この値段設定にせざるを得ない。

はいえ消費物の数は上なので、その分たくさん売って儲けようという計算なのだろう。

「じゃあ、こっちは14ポイントで売るよ~」

「ちょっ……おい、カジマ!」

だが、タイナイの価格設定を聞いて、カジマは露骨に値下げをしてきた。

当然、労働者的には安い方がいいのでそっちに群がる。

その中には俺もいた。

ルール上、お一人様三点までっすよ~。はいはい、毎度あり~」

タイナイも値段を下げたいところだったが、そうもいかなった。

これ以上、値段を下げても儲けはほとんど出ない。

仮に値下げをしても、またカジマはそれより下げてくるだろう。

そしてカジマの方が労働者を安く雇えた分、値下げ合戦で先に音を上げるのはタイナイなんだ。

結果、このターンはカジマが売り切り。

タイナイは多くの消費物と、少ない金を抱えたまま次のターンを迎えることになった。

そして、このゲームはここからどんどん雲行きが怪しくなってくる。

(#60-4へ続く)

2018-08-09

[] #60-2「タメになった気の経営ごっこ」

経営ごっこ」のルールを詳細に説明する意義はないので、ざっくりと語ろう。

断っておくが、あくまで話の雰囲気を最低限は理解できるようにするための説明だ。

まあ人狼並にユルい割には、なぜかゲームとしては盛り上がらなかったので、あまり真面目に読まなくていいと思う。

で、勝負内容は金を一番持っている奴が勝ち。

これを経営労働で増やしたりするのが基本だ。

ただし経営をするためには労働者が必要で、その労働者は消費物をコストにしなければ労働できない。

要は金を稼ぐために働いて、働くためには食わないといけなくて、その食うものを作るために経営をして……ってサイクルを回すわけだな。

そのサイクルの中で上手いこと立ち回り、資金を増やしていけってことなのだろう。


…………

金、消費物として設定されたカウンター各自に渡された。

あらかじめ、いくつかのポイントが加算されれている。

ポイントは、金も消費物もないという詰み防止のために毎ターン少しだけ加算されるらしい。

かくして、経営ごっこの火蓋は切って落とされた。

まずは1ターン目、みんな勝手が分からず、しばらくの間はまごついている。

なにせ「経営」、「労働」、「売買」の3つの行動は同じターン内に両立できない。

なので慎重に動かなければ……と皆は考えていたのかもしれない。

俺もすぐには動かず、様子見をしながら周りに合わせる姿勢をとっていた。

まあ、このゲームに対してやる気が起きなかったというのもあるが。

どうせ、この状況で取るべき行動はほぼ決まっているから、俺が口火を切る必要はない。

「よし、みんな集まれ! 経営やっていきまっしょい!」

最初提案したのはクラスメートのカジマだった。

まずは誰かが経営しないと金を増やせない状況なのだから、当然そうなるだろう。

そして経営しないで金を増やす場合労働しかないので、何人かはカジマのもとへ集まっていく。

だが、俺はその中にいない。

「あれ? マスダはこないの?」

「もう少し様子見だ」

出来る限りサボりいからってのが大きいが、一応それなりの理由はある。

経営者は労働者に金を支払う必要があるが、そうなると消費物も相応の値段にしないと儲けが出ない。

その消費物が労働者は必要なわけだが、当然それを買って、働いて……ということをやっていたらあまり稼げない。

俺は経営をやる気がないので、この時点では何もしないほうがマシってわけ。

はいえ、ターン毎に必ず何らかの行動はしないといけないので、ずっとこのままってわけにもいかないが。

「よし、こっちは違う経営をやろう!」

このままだと経営をやっている奴が圧倒的に有利。

それに気づいたクラスメートタイナイも経営をやるようだ。

残りの労働志望の奴らも、そっちに集まっていく。

これ以上、経営をしようって奴は出てこなさそうだな。

じゃあ、俺もそろそろ動くか。

これ以上は担任サボりだって言われそうだしな。

……何か“秘策のありそうな奴”みたいな振る舞いになってしまっているが、別にそんなのはないぞ。

(#60-3へ続く)

2018-08-08

[] #60-1「タメになった気の経営ごっこ」

俺の通っている学校は、特に公民カリキュラムに力を入れている、らしい。

その公民とやらは更に学部とか科目が分かれていて、選択制となっている。

だけど、そもそも公民」というもの漠然しか学生理解していないので、この選択に大して意味はない。

ちゃんと考えて選んでいるのは、一部の意識が高い奴らだけだ。

俺はというと意識が低いので、入っているのは……えーと……うんちゃら部の、メディアかんちゃら文化のなんちゃら項……

……とどのつまり正式名称が長すぎて覚えていない。

から、みんな「文化部」って言っている。

その程度の認識しかないものを選んだ理由簡単

授業内容が基本的に楽だからだ。

ドキュメント番組映画を観たり、漫画小説を読んだりして、それのテキトー感想を書けばいいだけ。

それで簡単合格点をくれる。

だが、半端に真面目な奴や、要領が悪い奴は苦戦するらしい。

そいつらに何度かコツを尋ねられたが、俺が言えることはいつも一つ。

「ああいものを通じて社会を分かった気になればいい」

正解のない事柄で正解するには、自分の正解を押し付けることだ。

もちろん「正解でしょ?」という顔をしながらな。

まあ、そんなわけでユルい選択科目なんだが、あくまで“基本的に楽”なんだ。

たまに面倒くさいことをやらされることがある。

しかも面倒くさいだけじゃないってのが、尚更ゲンナリするというか……。

ちょっと愚痴っぽくなるかもしれないが、今回はその時の話をしよう。


…………

文化部の授業は、視聴覚室で行われる。

他の教室より座り心地のいい椅子もあって快適な場所だ。

エアコン温度肥満の奴に合わせていることは少し不満だが。

その肥満代表格が、文化担任教師から余計にな。

「みんな、おはよう!」

そんな室内の冷え込みを中和するかのように、担任は暑苦しい挨拶を響き渡らせた。

「で、今日の授業だが、別のことをやりたいと思う」

続けて飛び出た不穏当な言葉に、室内が冷え込むのを感じた。

その冷え込みのせいなのか、クラスメートのカジマが震えながら担任に尋ねた。

「せ、先生。“別のこと”ってのは何スか?」

「『経営ごっこ』だ!」

まだ概要すらロクに分からない状態だったが、俺たちはこの時点で嫌な気配を感じ取っていた。

(#60-2へ続く)

2018-07-25

[] #59-7「誰がためクーラー

帰路の途中、すごい光景が目に映った。

その時間、辺りは暗くなり始めていたのだが、あまりにも暗すぎた。

どうやら停電はあの施設だけじゃなく、町全体の規模でなっていたらしい。

「すっげえ、こんなに真っ暗な町は初めて見た」

ここまで大規模となると俺たちの充電のせいというより、もっと別の理由だな、これは。

実際の所どうかは分からないが、そう思うことにしよう。

「ああ、あそこのスーパー見てよ! あいつら停電に乗じて盗みをするつもりだ!」

そう言って弟が指差す。

その先を見ると、数人が商品らしきものを大量に抱えて店から出て行くのが分かった。

「いや、恐らく店員商品避難させてるだけだろ。電気が切れて、冷蔵庫が使えないから……」

「でも、あの人たち店員に見えなかったよ」

弟の言うとおり、その人たちは明らかに普段着だった。

「あー、控え室にいた係の人たちとかだろう。まあ仮に盗みだったとして、予備電源とかで監視カメラは動いているだろうからすぐにバレるだろうさ」

「もし予備電源とか、監視カメラちゃんと動いてなかったら?」

「そりゃあ……まあ対策を怠った側の問題だな」

さっき『システム側で対処すべきってのが、この社会での模範解答』と言った手前、俺はそう返さざるを得なかった。

「やっぱり、それって大した理屈じゃないよな。対策する側に落ち度があったとしても、盗みが正当化されるかは別の話だと思うんだけど」

さすがに弟も詭弁だと理解したようで、尤もな指摘をしてきた。

「“盗み”じゃない。“略奪”だ」

「その“略奪”って絶対マジックワードじゃないよ、兄貴……」

俺も内心そう思っているが、マジックワードだと思い込める程度の効力があるのも確かだ。

弟もそれは分かっているので、ツッコミが弱弱しかった。

「急ぐぞ、父さんと母さんが待ってる」

俺たちは何かを振り切るように、自転車を漕ぐスピードを上げた。


…………

何はともあれ、こうして母は修理され、余った電気で俺たちは暑さをしのぐことができた。

飼っている猫も、いつも通り俺の足元に寄ってくる。

「あー涼しいクーラーがない生活なんて考えられないよ」

弟も最初のうちはブーたれていたが、結局クーラーの前では無力だったことを思い知ったらしい。

結局、俺たちの慈しみの心はワガママ構成されている。

人はまず自分自身にゆとりがなければ、自分以外を、綺麗事を優先できないんだ。

真夏に汗をダラダラ流しながら、他人に優しくする余裕を持つのは難しい。

もしも無理をして優しくしようとすれば、母のようにブっ倒れてしまうだろう。

そういった優しさをアテにするような社会が、本当に生きやすいかって話だ。

市長は『資源を大切に』だとか『地球に優しく』だとか言ってたけど、結局クーラーを使わない分、他のエネルギーを大量に使っていたら本末転倒だよ」

「まあ、俺たちが地球に優しくしようが、地球は俺たちに優しくないしな」


余談だが、停電事件から察しの通り、今度は隣の市が電気不足に陥っていた。

そこで俺たちの町の市長は、なんと電気を分け与えたんだ。

「我々は資源の再分配について、もっと考えるべきです。飽食の国は、飢えに苦しむ国へ食物を分け与えるように。電気だって余っているなら、足りないところへ送るべきでしょう」

そう言って市長は、テレビを通じて如何にもな理屈を並べていた。

その姿は、綺麗なスーツに覆われており、汗は一滴も流れていない。

「それに余らせるように作るから、使い方も雑になるんです。本当に資源を大切に思っているのなら、それこそ有効活用すべきです」

普段なら政治家特有のええカッコしいで済ませるのだが、今回は事情が違う。

そもそも分け与えられるだけの電気が、俺たちの町にはないはずなんだ。

から少し前まで、この町の住人は四苦八苦していたのに。

どこにそんな余裕が……まあ、あるけど。

俺たちは、そしてこの町の住人は、そのことを何となく分かっている。

(おわり)

2018-07-24

[] #59-6「誰がためクーラー

俺たちは目ぼしい施設を間借りする。

借りる際、係の人間から節電を“お願い”された。

当然、このテの“お願い”に大した効力があった試しはない。

俺たちは充電に使えそうな電源を見つけると、すぐさまバッテリーに繋いだ。

「なあ、兄貴。こんな方法で手に入れた電気で直ったとして、母さんは喜ぶのかなあ」

心根では、この状況ののっきぴならなさを理解しているはず。

にも関わらず、弟は今更そんなことを言い出した。

兄弟から、こいつの言動意味するところは察しがつく。

弟のこの言葉は「罪悪感を覚える程度の良心自分にはあると言っておきたい」という習性からきたものだ。

その場その場で物事の是非を問えば善い人間でいられる、少なくとも悪くない人間はいられるっていう防衛本能がそうさせるのだろう。

「もしそう思うんだったら、こんな方法で手に入れたって言わなきゃいいだけの話だろ。後はお前個人気持ち問題だ」

「えー?」

「言わなくていいと思ったのなら、わざわざ言わなくていいんだよ。母さんだって、俺たちが心配すると思ったか冷却装置を使っていたのを黙ってたわけだし。そういう気遣い社会は回っているんだ」

内心、俺にも多少の罪悪感はあったが、結局やることは変わらなかっただろう。

背伸びをしてまで清廉潔白でなければならない理由を、生憎だが俺は持ち合わせていない。

それに、このためだけに借りたようなものなのだから、むしろ元を取るために必要行為だとすら考えるようにした。

から俺は、弟に対して毅然と振舞った。

道義的よろしくないのは分かりきっている。だが、そういうことをする人間一定存在する。その可能性を排除できない以上、システム側で対処すべきってのが、この社会での模範解答だ。つまり、その対処を怠った側の問題って言っとけばいいんだよ」

「でも、俺たちがその理屈を使うのは盗人たけだけしくない?」

「だから盗みじゃない、ただの略奪だ」

「正直、その言い換えも意味ないと思うんだけど……」

「まあ、仮にバレたとしても、母さんは優しく諭してくれるだろうさ。コロンブス奴隷を送られたときのイザベル女王みたいに」

「その例えもどうかと思う」

そうやって不毛なやり取りをしている内に、電気が十分すぎるくらいに貯まったようだ。

だが、その時である

「うわ、停電だ!」

なんと、施設内の照明が落ちてしまった。

どうやらこのバッテリー、よほど大喰らいだったらしい。

或いは、この施設もかなりギリギリ電気運営していたのだろうか。

あいい、充電は終わった。

「さっさと引き上げよう」

しろ好都合だ。

この停電施設全体がパニックの筈。

これに乗じて、さっさと逃げてしまおう。

俺たちはバッテリー自転車に乗っけて、母と父の待つ家へ漕ぎ出した。

(#59-7へ続く)

2018-07-23

[] #59-5「誰がためクーラー

連絡をすると父は急いで帰ってきた。

父にとっても、母がそのような状態になることは初めてだったらしい。

すぐさま工具室で母の検診が始まった。

俺たちは自分の汗が垂れないよう、一歩離れた所から見守る。

「うーん……恐らくラジエーターが不調なんだと思う」

父の説明によると、母の体温管理はその装置が担っているらしい。

少なくとも人間暑いと思うレベルなら、それだけで問題ないのだとか。

まり何か別の要因で、その装置負担が行くほどの熱を持ってしまったってことか。

しかし、おかしいな。ラジエーターだけで放熱し切れなかったとしても、緊急冷却装置もあるのに……まてよ、ということはそっちが原因か!」

父の推察通り、母の緊急冷却装置は停止していた。

どうやら、そのせいでラジエーターに負担が行き過ぎていたらしい。

「あまりの暑さで、その冷却装置が壊れたってこと?」

「いや、その程度では壊れない。もっと無茶な使い方をしない限り……まさか

父がそう呟くと、俺たちはハッとした。

昨日まで、家の中だけが妙に涼しい理由が分かったからだ。

母は自分を冷やすための緊急冷却装置を、周りを涼しくするために常時開放していた。

例えるなら、冷蔵庫の扉をずっと開けっ放しにしている状態なわけだ。

そんな冷蔵庫がどうなるかは想像に難くない。

想定されていない用途で使い続けた物が壊れやすい、ってのは大抵のことに言えるからな。

当然、母がそんなことを知らずにやっていたとは考えにくい。

承知の上で母は俺たちのために、少しでも暑さをしのげるならばと思ってやったのだろう。

そのことを、母がこうなるまで気づけなかった自分たちが不甲斐なかった。

「……何はともあれ、これで原因が分かったんだし。後は母さんの冷却装置を修理なり、交換すればいいんだろ?」

「やり方は分かるが……そこまでやるためには電気がいる」

ちくしょう! また“電気”かよ」

どうしてこう、何でもかんでも電気必要なんだ。

「仕方ない。隣の市まで行って電気調達してこよう」

母を父に任せると、俺たちは全速力で自転車を走らせた。


…………

しかし、俺たちの焦燥をあざ笑うかのように、問題がまた立ちはだかった。

どこの店に行っても、俺たちに電気を売ってくれなかったのだ。

生憎、今はバッテリーや充電の販売はやっていないんですよ。最近、この市の電気が減りすぎているとかで……」

人ってのは悲しいものだ。

大衆の考えることなんて概ね同じなのに、自分たちがその“大衆”に含まれている可能性を甘く見積もる。

俺たちと同じように、みんな隣の市から電気を買っていたんだ。

そのせいで、この市の電気は減りすぎて結果こうなっている、と。

「こうなったら、そのまた隣の市に行こう!」

「いや、ダメだ。いくらなんでも遠すぎる。これ以上は母さんが耐えられないかも」

ちくしょう、これじゃあ母さんがスクラップなっちまう!」

そのとき俺は、今日カン先輩とのやり取りを思い出した。

「……一つ手がある。“略奪”だ」

「ええ!? 盗むってこと? さすがにそれは……」

「違う、ただの“略奪”だ!」

ない袖は振れない。

ならば袖を引っ張って伸ばすまでだ。

(#59-6へ続く)

2018-07-22

[] #59-4「誰がためクーラー

翌日、俺はカン先輩に誘われて、移動販売車でアイスを売っていた。

売り時だからだと、すぐに行動に移せるカン先輩のフットワークの軽さには感心する。

暑いなあ。去年よりも暑い、一番の猛暑ちゃうかなあ」

「そのセリフ来年も言ってそうですね」

それにしても、この移動販売車。

よく見てみると、アイスを冷やし続けるためのバッテリーが繋がれている。

予備らしきものも近くにあった。

車を動かすのだって電気がいる筈だが、どこからこれだけの量を……。

話題が尽きかけていたこともあり、俺はカン先輩にその疑問をぶつけた。

「よくバッテリーがこれだけありましたね」

「んなもん、別のところから貰ってこればええねん」

ああ、なるほど。

かに他の市ならバッテリーとかも売ってそうだし、充電も可能だろう。

「でも、そこまでの移動にかかる費用とか考えると、割に合わなくないですか?」

「ああ、そこんとこは大丈夫。ほぼタダやから特定施設とか、コンセント使えるところあるやろ? そこから貰ってん」

思いの外ヤバい答えが返ってきた。

それって、ほぼ電気泥棒じゃないか

カン先輩、それはさすがに盗みになるんじゃあ……」

ちゃうちゃう、強いて言うならタダの略奪」

「じゃあ、ダメじゃないですか」

「えーと……つまりな、道義的にはダメやけど、必要からやらざるを得ないってことや」

「いや、先輩が今やってることは個人的営利目的でしょ」

「ワイ目線から見たらそうやけど、もっと視野を広げーや。こうやってアイスを売れば、それを食べる人たちは暑さを凌げるやろ。ワイのおかげで、何人かは熱中症を防げたかもしれへん」

物は言いようって表現があるが、カン先輩はそれを良く乱用する。

相変わらず、この人は利己的な行為正当化するのが好きだな。

「な、なんやねん。マスダだって学校コンセント使ってケータイの充電とかようするやろ。それと一緒や」

「そんなことしてませんけど。というか、その例えだとやっぱりダメって結論になるんですが……」

だが本人も自分の言ってることが、その場しのぎの誤魔化しだという自覚がある。

このようにバツが悪くなって、最終的に自爆することも多い。

その後、何だかんだでアイスは売り切れた。

といっても、その内の数%は俺たちが食ってしまったと思うが。


…………

「ただいまー……うわっ」

家に帰ると、ムワっとした熱気が襲ってきた。

「ああ、兄貴……今日暑いって言ってたからな。部屋の中もすごいよな……」

それにつけても、家の中が暑すぎる。

なぜだろう、昨日とは明らかに違う。

「おかえりなさい……」

母の声が返ってくるが、その声は気だるい

サイボーグの母さんでも、あの調子だよ。今日はほんとすごい暑さだ……」

……いや、妙だぞ。

母の身体は、かなりの高温でも耐えられるように出来ている。

人間が音を上げるレベルなら余裕のはずだ。

不振に思った俺は、母に近づく。

「あつっ……」

近づいただけで分かるほど、母の身体は熱を帯びている。

おもむろに手を額に当てた。

「あっっっっっっつ!」

俺が思わずそう叫んでしまうほど、熱かった。

にも関わらず、母の反応は鈍い。

こりゃ、明らかにおかしいぞ。

「弟よ、父さんに連絡しろ。俺はひとまず母さんをマシな場所に寝かせる」

(#59-5へ続く)

2018-07-21

[] #59-3「誰がためクーラー

弟はというと、涼める場所を求めて仲間たちと各地を行脚していた。

だが、人ってのは悲しいものだ。

大衆の考えることなんて概ね同じなのに、自分たちがその“大衆”に含まれている可能性を甘く見積もる。

弟の行くところはいずれも人だらけだったんだ。

流れるプールだけど……これ流れの力発生してる? 人の力じゃない?」

そして、その大勢の人によって発生する熱気によって、納涼は焼け石に水と化していた。

トイレに行くのも一苦労だね……」

「おい、間違ってもプールの中でするんじゃねえぞ」

「僕はそんなことしないよ。まあ、どうせプールの水の3割は人の小便などの体液だけどね。色んな薬剤がプールに入れられているのも、それが理由なわけだし……」

「今の話でちょっと寒気を感じた。ありがとよ」


…………

父のほうは、今日スタジオアニメ制作

企業などでは一般家庭より多くの電気を扱えるようになっていたが、それでも全体量が足りないため冷房に割ける余裕はほとんどなかったらしい。

「おい、さすがにこれは崩れすぎじゃないか? 確かに表現手法として、特定カットをあえてゆらがせることもあるけどさあ」

シューゴさん……その絵は普通ですよ。というより、この現場空間自体が揺らいでいる気が……」

「はあ? いくら暑いからってそんなわけねえだろ」

「いや、シューゴさん、本当に揺らいでますって!」

「何……言って……んだ、マスダさん」

「か、監督まさか自分自身が揺らいで……」

今までにないスタジオ空気がそうさせたのか、現場スタッフたちの精神状態は独特になっていた。

意思疎通は困難を極め、監督が熱でダウンしてしまたこともあり、今週は総集編すら作れなかったらしい。


…………

「ただいまー……兄貴すげえ格好だな」

暑いんだよ……で、お前の方はどうだった?」

反応から察するに聞くまでもなかったが、俺は一応尋ねてみた。

ダメダメ兄貴みたいに、家で大人しくしてたほうがまだマシ」

やはりそうか。

「でもホント、俺たちの家は思ったより暑くないな。何でだろ」

そうかあ? まあ、人や家具が少ないとか、立地的に涼しい場所なのかもな」

俺はテキトーにそう返すが、確かにそこまで暑くない気もする。

ずっと家にいるから分からなかったが、気のせいじゃなくて実際に家の室温は低かったんだ。

その要因が何なのか知るのは、もう少し後になってからである

なにせ、その時の俺たちは暑さにばかり気を取られ、頭が回らなかった。

いつもなら気づいたかもしれない、何かしらの“違和感”に気づけなかったんだ。

(#59-4へ続く)

2018-07-20

[] #59-2「誰がためクーラー

あらゆるモノの価値一元的ではない、とセンセイはよく言っていた。

かにとっては無価値でも、誰かにとってはとても価値のあるモノだってある。

大局的に見れば、モノの価値順位などつけられないと。

逆に言えば、そこまで俯瞰して物事を見なければ、モノの価値には大抵ランクがつけられる、とも言っていたが。

特殊精神状態でもない限り、腹が減っている人には食べ物が、寝たい人には安眠できる場所、服がない人には衣服が上位になるだろう。

まり、今の俺たちにとっては電気、より具体的には冷房が上位になっているってことだ。

そして市長はそのランク付けを間違えた。

このご時世、「健康で文化的な最低限度の生活」にはクーラーも有力候補になっている。

それを使えない程度の電気しかない中、日々を生活するのは困難だった。


それは市長ですら例外ではなかった。

市長ともあろう者が、そんな格好……」

市長はいものスーツ姿から、くたびれたタンクトップに半パンという、恥や外聞二の次にした中年オッサンスタイルになっていた。

暑いのに、あんなのピッチリ着るのはバカげていますよ。ふさわしい、場所にあった格好だなんて考え方は時代錯誤です。汗ダラダラで、ビショビショのスーツ着たほうがふさわしい格好だとでも?」

「一理ありますが、汗ダラダラ服ビショビショ、かつラフな格好していると説得力に欠けますね」

クールビズ月間を打ち出した者として、「格好は気にするな」ってことをメッセージにしたかったらしいと市長は語る。

自分政策に率先して乗り出すのは、この市長の数少ない評価点だ。

だが、そもそもの話をするなら、今そんなことをしなければならない原因は市長にあるわけだが。

周りは、その姿に呆れるしかなかった。

市長の今の状態は表面的にではなく、本質的にみっともない姿だからだ。


…………

俺は家の中で比較的暑くない場所に座して、とにかく時間が過ぎるのを待つしかなかった。

団扇を片手に、水の張られたタライに足を浸し、少しでも体温が上がらないようにする。

他にできることなんてない。

現代で、電気を使わず出来る余暇の過ごし方なんて限られている。

その限られた候補も、「暑い」という答えで全て一蹴した。

それにしても、まさかこのご時世にこんな古臭い納涼をする羽目になるとは思わなかった。

だがこれが、案外バカに出来ないのが癪だ。

フィクションとかでやっているのを見たことがあるから試してみたが、確かに幾分かマシなのである

だが、それでも都会の夏は暑い

そして暑さの弊害は熱だけではない。

汗で身体がベトベトになる、この不快感も厄介だ。

俺の座っている椅子は皮製品なのだが、自分の体が付箋のように張り付く。

いや、もしかしたら、今の俺は付箋よりも粘着力があるかもしれない。

まらず俺は椅子から剥がれる。

そういえば、飼っている猫もいつもなら足元に寄ってくるが、今日は来ないな。

まあ、お互い暑苦しくなるだけなのは分かりきっているから当たり前だが。

猫は床に寝そべっているだけだ。

恐らく、あのあたりが比較的マシな場所なのだろう。

「涼しそうだな……」

俺はおもむろに、猫の真似をして床に寝そべった。

なるほど、かろうじて床がヒンヤリするような気がしないでもない。

しかし今の自分の姿はいくら家の中とはいえ、かなり不恰好だろうな。

だが、そんな体裁を気にしていられる余裕は、今の俺にはなかった。

(#59-3へ続く)

2018-07-19

[] #59-1「誰がためクーラー

資源が有限だってことを、俺たちは時に忘れる。

だけど有限かどうか気にするのは、それが必要ものであることの証明だ。

この夏、俺たちの世界ではそれを意識せざるを得なかった。

厳密に言うなら、ここでいう“世界”とは「俺たちの住んでいる市」のことで、“資源”とは「電気」のことだが。

俺たちにとっては誇張表現ではない。


この町の市長は思いつきでロクでもない政策を度々行うのだが、そのせいでいつも予算はカツカツだった。

そこで議題に挙がったのが電気

この市に使われていない発電所があったことに、市長は気づいた。

から、それを再稼動して市の電気を全て賄おうと考えたんだ。

あわよくば他に売り込もうという目論見もあったらしい。

しかし、これは皮算用もいいところだった。

なにせ、その発電所は風力。

かなり昔に、原子力に代わるクリーン発電所というアピールのため、突発的に作られたものだった。

この町の風土も考えずに出来たそれは生きた化石だ。

……いや、この例えだと化石に失礼か。

化石だって燃料になって、発電に貢献できるからな。


そんなわけで、俺たちの町では電気がまるで足りていなかった。

「我が市は資源エネルギーを大切に扱う市としてアピールするべきです。『地球に優しく!』……これをテーマしましょう」

そこで市長苦肉の策として出したのが、「クールビズ月間」という名の強制的電気節約案だった。

「ですが、今は夏真っ盛りですよ! クーラーなどの冷房のために、電気は大量に必要です」

当然、周りは反対したが、市長は無理くり理由をつけて強攻するしかなかった。

「いや、クーラーがなかった時代もあるのです。つまりクーラー必要な今の環境こそが間違っている!」

大した理屈じゃない。

今の環境じゃあクーラー実質的必要なのは自明なんだから、もしも解決したいなら環境のものを変えてからだ。

現状をただ非難したり、今あるものを取っ払っただけでは何も解決しない。

しろ悪化することだってある。

(#59-2へ続く)

2018-07-05

[] #58-7「罪罰メーター」

理解に苦しむよ。どうしてこの機械よりも、自分たちの方が罪の重さを正しく推し量れると思えるんだ」

ガイドのその言葉に、兄貴は深い溜め息を吐いた。

その溜め息は呆れからくるものじゃなく、どちらかというと諦めに近いものだったように思う。

「やっぱりな。この機械が正しく罪と罰推し量れることが、全面的に正しいことだって思ってる。それが問題本質的解決できる魔法の粉だと信じているわけだ」

このとき、ミミセンは兄貴の思惑が分かったらしい。

「なるほどね……」

「あ、何が?」

「マスダの兄ちゃんにとって、罪罰メーターが実際にちゃんと計測できているかどうかは重要なことじゃなかったんだ。罪罰メーターに対する考え方を通じて、ガイド無知無理解傲慢さを露わにしたかったんだよ」

あー、それなら俺も分かる。

そういう人間を家から追い出すって形の方が、後腐れがなくなるもんな。

そしてミミセンの予想が正解であることは、その後すぐに分かった。

「では、お気をつけてお帰りください」

兄貴が再び木刀を手に取り、構えに入った。

ガイド危険を察知して咄嗟ステルス機能を使ったけど、これは悪手だった。

木刀を構えた兄貴に対して、まずやるべきことは回避か防御だ。

迷いなく振り下ろされた木刀を、ガイドはほぼ無防備状態で肩から喰らった。

「い、いきなり何するんだよ」

「お前はまるで分かっていなかったようだが、俺にとっては全然“いきなり”じゃないんだよ。むしろ待ってやったほうだ」

スーツ耐久性のおかげか、ガイドはそこまで痛そうなそぶりは見せない。

だけど、それがかえって兄貴が手加減しなくていい理由を与えた。

ガイドは様々なアイテムを使ってこの場を乗り切ろうとするが、それよりも早く兄貴攻撃するため何もできない。

「あ、兄貴ちょっとやりすぎじゃない?」

生憎、この家では治外法権なんだよ。相手が身元不明自称未来人なら尚更な」

「どういうこと?」

「今この場においては裁くのは俺で、裁かれるのはあいつだってことだ。それは俺に罪があろうとなかろうと関係ない」

なんか兄貴がスゲえこと言ってる。

完全にキレてんな。

「うわあっ! 次元警察に追いかけられた時よりも怖い!」

にじり寄る兄貴に恐怖を覚えたガイドは、たまらずその場から逃げ出す。

「他をあたるんだな。まあ、その罪罰メーターには致命的な“欠陥”があるから、結果は同じだろうがな」

から追い出されたガイドに、兄貴はそう吐き捨てた。


…………

その後もガイドは色んな人に罪罰メーターを使って見せたけど、兄貴の言うとおり誰にも信じてもらえなかった。

「ええ? これで罪が帳消しなんて納得いかない。もっと罰を与えろよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。むしろやりすぎだよ。何でここまでされないといけないんだ」

ある人はそれでは足りないといい、ある人はそれではやりすぎだと意見バラバラ

「何で今ので自分の罪メーターが増えるんだよ。悪いのはあいつじゃないか

時には罪として計算されること自体を不服に思う人もいたんだ。

結局、ガイドアイテムインチキだとして、誰も相手にしなかった。

「なぜだ、なぜ誰も『罪罰メーター』の力を信じない……」

何となく感じていたことだけど、この頃になると俺たちも罪罰メーターに“欠陥”に気づいていた。

ガイドはまだ気づいていないようだけど。

「仮にそのアイテムが本物だとしても、結果は同じだ」

ガイドにそれを伝えたのは、意外にもシロクロだった。

いつものシロクロは言動がユルいけど、たまにやたらと喋り方がガラリと変わることがある。

どういうきっかけでああなるのか、あれが本来のシロクロなのかは分からない。

考えるだけ無駄なので、俺たちは持病の発作みたいなものだと思っている。

「マスダのお兄さんも言っていたけど、一体どういうこと?」

因果に人が繋がれているならば、罪と罰についての妥当性を判断するのもまた人なのだ。その機械が人の気持ち理解できない以上、いくら正確に検出できてもポンコツなのだよ」

そう、罪罰メーターの致命的な欠陥。

それは計測が正確であるかどうかを判断できる人間が、ほぼ存在しないってことだ。

理解できないよ。どうしてこの時代人間たちは、自分感情を優先させて是非を語ろうとするんだ。そんなので正しく裁けるわけがない」

「正しく裁けるかってのは、必ずしも重要な事じゃない。時には他の事を優先することもある。そして、そのメーターにそんな判断は出来ないだろう」

こうして、ガイドの協力者探しはいつも通り失敗に終わった。

シロクロの言うことをガイド理解できないようだけど、結果が何よりも物語っている。

まり機械が裁くにしろ、人が裁くにしろ、納得できない結果になるってことなんだろうな。

俺は今回の出来事を、その解釈で納得したつもり。

(おわり)

2018-07-04

[] #58-6「罪罰メーター」

この時点で俺たちは、ガイドが家から追い出される未来を予見した。

キトゥンもそれを察したのか、兄貴の膝上からそそくさと降りる。

だけど、兄貴木刀をまだ手に取らない。

「……その罪罰メーターについて、いくつか質問していいか?」

「ん? なにかな?」

「さっき、罰は違う手段でもいいと言っていたが、それは間接的であっても計算されるってことだよな。じゃあ殴られた当事者以外の第三者が殴った場合、それは罰として計算されるのか?」

「状況や性質によるね。その第三者当事者と何の縁もなく、別のシチュエーションで殴った場合、それは本件とは関係ない。ただ、一見すると関係がないようでも、因果的に関係があった場合ちゃん計算されるんだ」

「んー? じゃあ個人的な、第三者による私刑行為OKってことか? それって司法国家的にどうなんだ」

どうやら兄貴質問にかこつけて、ダメ出しをするつもりのようだ。

ガイドの持ってきた罪罰メーターを扱き下ろしてから、お帰りいただくつもりらしい。

いや、兄貴は当初からそのつもりだったろうけど。

ガイド兄貴を不機嫌にさせたせいで、より容赦がなくなってる気がする。


キレた兄貴の怖さを知っている俺たちは間に入ることができず、ただその質疑応答を見ているしかなかった。

「もちろん、そういった私刑を行った人物独善的行為だとして罪メーターが別途貯まるけど、対象者への罰としても成立はするね」

「成立しちまうのかよ」

俺たちでは上手く言葉にできなかった罪罰メーターの欠点を、兄貴はどんどん指摘していく。

ガイドは坦々と返していくけど、その答えは何か“大事もの”を削ぎ落としている気がした。

「他にも気になるところがあるんだが、そういった罰は合算なのか?」

「そりゃそうだよ。もし被害者から同じくらい殴られて、その上で部外者にまで殴られたら、罰としては重くなっちゃう」

「ということは、被害者加害者に何の罰も与えず、部外者の罰だけでメーターが減るってこともあるのか。その場合被害者は納得するのか?」

当事者が納得するかどうかと、罪に対しての罰が適切かどうかは別の話だろ。罪と罰において重要なのは意図”ではなく“行動”なんだから当事者が『殴った罰として、あいつを死刑にしてくれ。じゃなきゃ納得しない』って言われても、それは無茶な話になるだろう」


そうしたやり取りに飽きてきたのか、ミミセンが俺に耳打ちをする。

「マスダの兄ちゃんちょっとイチャモンじみてない?」

キレ気味とはいえ、確かに今回の兄貴ちょっとしつこい気がする。

結局この状況は、最終的に兄貴ガイドを追い出したら、それでおしまいだ。

それを先送りにして、まだ問い詰める理由があるのだろうか。

(#58-7へ続く)
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