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2017-06-25

[] #28-5「超絶平等

挿入歌:「差別主義者の歌」

歌・作詞作曲:ウサク その他

音が聞こえるか 差別主義者の音が

二足歩行ドラムが 響き合えば

足が不自由な人への 抑圧になるか

差別の始まり 誰か目線での

何が傷つけ 何が守られてるか

何が悪くて 悪くないとか 足踏みばかり

進め 或いは肩を貸せ それが道

天秤がゆらめく 音が聞こえるか

皿一杯に オモリの乗った天秤だ

天秤があっても 天秤にはなれない

誰も夢見ない 明日が来るよ

ah...ah...



……

この日を境に、『超絶平等』に対する反対意見は徐々に大きくなっていった。

中には「むしろ五体満足な人たちが、そうじゃない人たちの真似事をするって方が、かえって差別になるんじゃないか」なんて意見もあったほどである

そういった意見に対して市長も聞こえないフリをするわけにもいかず、程なくしてこの政策は取り下げられるのであった。

それを発表したときの、市長が放った一言がコレである

「この『超平等』を取り下げることは真に遺憾ではございますが、皆さんに何らかの“理解”を深めさせた側面はあったと確信しています

酷い詭弁だと感じたが、ウサク曰く「政治屋自分のやったことに『全くの無駄でした』なんて口が裂けても言うわけにはいかないので、全くの嘘でなければ大体はこういった文言になる」らしい。

俺には市長思想信条の是非なんて分からない。

だが何にしろ、マトモな筋道で実行するということを“理解”してほしいと思ったのだった。

(おわり)

2017-06-24

[] #28-4「超絶平等

俺たちのそんな鬱屈とした思いを、誰が真っ先に爆発させるか。

裸の王様に、裸だと伝える必要に迫られていた。

だがシガラミで雁字搦めになった大人に、そんな役目はあまりにも重たすぎた。

いつ、自分が反逆者として後ろから刺されるか、それに怯えていたんだ。

社会に順応した大人たちは刺される人間にはならないし、場合によっては刺す側にだってなることも厭わない。

そんな強迫観念に捉われないのは、いつだって社会をよくも知らぬ子供だ。

例えるなら俺の弟である


おかしい……こんなのは納得できない!」

弟は市長のやり方がどう間違っているのか分かっているわけではなかった。

あいつの持っている反骨精神がそうさせただけなのだろう。

弟はたまたま目に付いた足の不自由な人に駆け寄る。

公衆面前で、杖は使わずスタスタと。

すると、その場に居合わせた俺ですら恐れ多いことを口にした。

「俺のやってることは差別?」

言葉にしにくい、なんとも奇妙な光景だった。

それは他の人たちも、弟に尋ねられたその人も同じだったに違いない。

その人はどう返すべきか、迷っていた。

いくら自分関係者だとはいえ、あくまでその中の一人でしかないという自覚があるからだ。

なまじ自分第一声が『差別』という概念象徴するものになってしまうのも如何なものか、と感じていたのかもしれない。

だが、ここで有耶無耶になってしまうと、このバカげた政策はしばらく続いてしまう。

その割を、これ以上食わされるのは俺もゴメンだ。

それに、弟にばかり“差別主義者”を負わせるわけにもいかないしな。

二人の間に入ると、新たなアプローチをした。

「ひとまずシンプルに考えてみよう。俺たちがあなたの真似事をして、あなたは救われたのか、守られたのか。『理解をされた』と感じるか?」

設問は些か誘導じみたものだったが、その人にとって答えやすものであったのも事実だ。

市長のやっていることがおかしいと確信に至るものであればよかった。

「うーん……全くないとは言えないですけど……そんなことで“理解”されるよりも、快適に生活が出来る環境にするだとか、ちょっと困った時に手を貸してくれるだとか、そういった“理解”のほうがいいです……」

その人の言葉は、別にこの政策定義する差別の是非を、根源的に批判するものではなかったかもしれない。

だが、今回の政策鬱屈とした思いを抱えていた人たちを奮起させ、団結させるには十分なものであった。

「そうだ! これは差別じゃない!」

「ああ、そうだ。仮に差別だっていうんなら、もう自分差別主義者でいい。存分に後ろ指をさせばいい!」

人々は杖を武器へと変え、口々にこの政策への不満を吐き出し始めた。

俺はおもむろに持っていた杖を壁に立てかけ、その不可思議光景を溜め息交じりに眺めていた。

もはや俺の頭では何が差別でそうじゃないのか、よく分からなくなっていた。

そもそも差別かどうのとかで語ることかどうかすら、それに思考リソースを割く気になれない状態だった。

ただ、まとわりついていた妙な倦怠感が、徐々に離れていく心地を味わっていた。

(#28-5へ続く)

2017-06-23

[] #28-3「超絶平等

貴様遅刻とは珍しいな」

俺はウサクにその時の出来事を話す。

「それは……あの市長もまた妙なことを」

おかしくないか? 二足歩行で歩いただけで、足が不自由な人を差別していることになるのか?」

「そうだなあ、時と場合による……」

「ウサク、この会話は俺とお前だけだ。そういうのはいいから」

「ふむ……まあ、それだけでは差別ではないだろうな。仮になったとして、その解決方法が『自分たちも同じような移動方法をする』ってのは、すごく間抜けな話ではある」

まり市長の態度や、周りの対応不可思議だったか不安になったが、やはり俺の違和感は気のせいではなかったか

「そうか……だが、どうしてみんな市長のやり方に大人しく従うんだ」

俺みたいに面倒くさいから建前だけ従ったりする人ばかりでもないだろう。

まさか市長のやり方に賛同しているわけでもないだろうし。

「みんな“差別主義者”にはなりたくないのだろう」

ウサクの言っている意味がよく分からない。

差別にはならないはずなのに、それでは辻褄が合わないじゃないか

俺の怪訝な表情を察したのか、ウサクはそれを補足するかのように言葉を続ける。

とある至言があってな。『相手差別されたと思ったら差別』なんだよ」

「おいおい、それが大した理屈じゃないってこと位さすがに分かるぞ」

字面通りに受け取るもんじゃあない。この至言本質は、『差別じゃないかどうかを安易に決められない』という点だ」

ウサクの言いたいことが何となく分かってきた。

みんな慎重になっているってことか。

「ああ、はいはい。いわゆる“デリケート問題”ってやつだ」

「そういうことだ。何かを『差別じゃない』って明言することは、シガラミの多いこの社会ではかなり難しいことなのだ」

市長みたいな人から言わせれば、俺たちがそうやってオカシイと考えるのも差別的からってなる。

恐らく他の人たちも、それを踏まえた上で批判しにくいわけだ。

ウサクのいう「差別主義者になりたくない」ってのはそういう意味なんだろう。

「この調子だと、『ヘテロセクシャル差別的から全員バイセクシャルになれ』とか言ってきそうだな」

ウサクは乾いた笑い声をあげながら、冗談めかしてそう言う。

冗談ではないが、このままだと冗談にもならない。

その説得力が今回の市長にはあったのだ。

実の所、俺には差別がどうのとかはよく分からないが、今回の市長のやっていることがおかしいってことだけは分かった。

ただ、いかんせん今回は“デリケート問題”な分、声を大にして反対することが憚られたのだ。

そして、それは俺やウサクだけではなく、他の住人たちも漠然と抱えていたものだった。

例えそれが市長定義した頭でっかちものだったとしても、みんな差別主義者になることや、その予備軍の疑いをかけられることすら恐れていたんだ。

(#28-4へ続く)

2017-06-22

[] #28-2「超絶平等

俺はその日寝坊してしまい、学校遅刻しそうだった。

少し焦ってはいたが、それでも急げばギリギリ間に合うレベルだし、何より俺には打算があった。

いつもの通学路を途中で切り替え、大通りのある方へと向かう。

喧騒が煩わしくて普段は避けているが、そこの交差点を利用すれば余裕で間に合うのだ。

だが、この判断逆効果だった。

ちょっとそこのあなた。止まりなさい」

呼び止めてきたのは市長だった。

どうやら政策の一環で外回りしていたらしい。

市民に対するアピールも多分にあるのだろう。

市長は怪我でもしていたのか、杖をつきながらこちらに向かってくる。

しかし、なぜ呼び止められたのだろうか。

急いでいたとはいえ、交通ルールは守っていたはずだが。

二足歩行で歩くなんて、何て差別的な!」

「え!?

まりにも予想外な言葉に俺は面食らう。

差別的』ってどういうことだ。

「杖や車椅子での移動を余儀なくされている、足が不自由な人もいるのですよ。だのに、あなたは公の場で何も考えず悠々と歩いている」

理屈がこれまた分からない。

どうしてそれで俺の行動が差別的ってことになるんだ。

「えーと、あの、市長さん?」

「そして、自分のしていることにまるで無頓着だ。よくない、ああ、これはよくない、よくありませんよ、よくない、よくない、全くもってよくないよ」

まずい、市長こちらの話を聞かない体勢だ。

このままでは遅刻する。

俺はテキトーに話を合わせて、この場を切り抜けることにした。

「はあ、ではどうすれば」

「これです、わたしのやっている通り。杖をつくなり、車椅子に乗るなりしなさい」

市長は杖を差し出してきた。

俺は引きつる顔をさとられないように手で覆い隠しつつ、もう片方の手でそれを受け取る。

「どうです。これで多少なりとも“理解”は深まることでしょう」

「そうですね」

「これからもそうやって移動するように」

恐る恐る杖をつきながら、市長から逃げ出すように歩き出す。

周りを見渡すと、他の人たちも似たような様子だった。

俺は市長のやっていることは理解に苦しむのだが、みんな何も言わないで従っている。

奇妙な光景だと感じるが、それは俺が差別主義者だからなのだろうか。

結局、学校遅刻した。

(#28-3へ続く)

2017-06-21

[] #28-1「超絶平等

その日、友人のウサクに誘われて、俺は何らかの会場に足を運んだ。

市長が何か大事な発表をするらしいので、見ておくべきだろうとのことだ。


「お集まりの皆さん、社会に生きる我々にとって重要事柄であり、何度も取り沙汰されているにも関わらず、未だ解決されていない問題が何かお分かりでしょうか」

市長大仰な語り口調で、記者や住人たちの注目を集めさせる。

常套手段だなと、ウサクはニヤつきながら俺に耳打ちする。

ウサクが何をそんなに面白がっているのか、俺にはよく分からなかった。

「それは……『差別問題』です!」

間を存分にためて市長が放った言葉に、会場がざわつく。

市長のこれまでの“実績”を知っている住人たちからすれば、「これは碌なことにならない」という予感が真っ先に出てきたからだろう。


この町の市長普段はまともな人なのだが、精力あふれる政治屋の血が流れていた。

その血が騒ぐのか、突発的に崇高な志が暴発してしまうことがある。

しかも大抵それが頭でっかちな内容なので、住人たちはウンザリしていたのだ。

そんな住人たちの警戒心を知らないのか、或いは知らないフリをしているのか、調子を崩さず市長スピーチを続ける。

「我々は差別はいけないことだと分かっていながら、時に過ちを犯してしまます。なぜか? それは『差別』という概念に知見が足りないからではないでしょうか」

一見それっぽいことを言っているように感じるが、ウサク曰く「それっぽいことを言っているときこそ、むしろ警戒すべき」らしい。

「我々は差別がどのようなもので、どのような問題を孕んでいるのか理解を深められていないのです。なので、ここに一つの政策を打ち出すことを宣言します。テーマは『超絶平等』です!」

ウサクの警戒心を的中させるように、何だか胡散臭いテーマを打ち出してきた。

なんで『超』とかつけるんだ……。

その後も市長は色々と何か語っているが、完全に興味の失せた俺はその場から離れることにした。

「おや、帰るのか。市長の話は?」

「興味ない」

「おいおい、まるで他人事だな」

「この手のは大局的に見ればそれなりの影響があるのかもしれないが、往々にして俺たち個々人が実感するような代物じゃない」

実際、あの市長が時々やる政策は大した成果を上げられたタメしがない。

大衆に向けた「仕事やってますアピール」という側面が強く、俺たちの認識も概ね同じだった。

「うぅむ、貴様のその無関心ぶりはどうかと思うが、主張をあながち否定しきれないのが悲しいところだ」

マツリゴトが大好きなウサクですらこの反応である

どうせ大したことない、俺も他の人たちもそう思っていたはずだ。

だがそれから程なくして、今回の政策は一味違っていたことを俺たちは身をもって知ることになる。

(#28-2へ続く)

2017-06-14

[] #27「ファイナルアンサー

母が以前の同僚から悩み相談を持ちかけられたときの話だ。

正確には母とは別にもう一人いたらしいが。

相談の内容自体は何てことはない。

いや、傍から見れば極めて個人的な内容で、相談されたところで答えるのが難しいものだった。

知り合いとはい所詮他人なのだから、言えることも限られている。

それでも母のすごい所は、自身サイボーグであることをここでも存分に活用している点だ。

母の体内に搭載されたメモリーボードは、脳で思考した様々な事柄を高速で処理し、綺麗に整頓していく。

こうして導き出した母の回答は、実に理にかなったものだった。

物事客観的分析し、社会通念上の是非を踏まえた上で、かといって角が立たないように穏和な口調で、くれぐれも強制しないような論旨で、理路整然と合理的アドバイスをしたのである

しかし、もう片方の人の回答は、お世辞にも良い解答とはいえなかった。

主観的判断が多分に含まれており、口調も強めで断定的な物言いと、傍から見てもどちらの回答が論理的かつ優れているかは明白であった。


数日後、同僚はおかげさまで悩みが晴れたらしい。

この“おかげさまで”というのは、母ではなくてもう片方の人を指す言葉だったが。

ネタバラシをすると、元々その人は母ではなくてもう片方の人に相談していた。

そして、その同僚と本来相談相手は互いによく見知った中で、一見強引にも感じた回答は相手事情や心情もよく分かっていたためであることが後に分かった。

母はその場に居合わせたオマケだったのだ。

そもそも悩みというものは、相談する段階で当人の中ではいくつかの「どうすればいいか」は既に出てきている。

しかし様々な動機欲求感情が渦巻いて身動きがとれない状態なのだ

そこから解放なり弛緩を求めるが故に、人は時に他人に悩みを吐露する。

いくら理路整然として、客観的に見れば尤もな言動であったとしても、それで相手に寄り添えなければ一人よがりなのと変わらない。

母は後にそう分析した。

「私は自分が間違った回答をしたとは思っていないけど、最終的な結論を出すのは相手からもっともらしい、取り繕った言葉を良いと思っていたのは言われた相手じゃなくて、それを言っている側だけだった……ってことなのかもね」

そう言って話を締めくくる。

しかし納得がいかない俺は、母がその人の気持ちをちゃんと理解できる関係性だったら、また違ったんじゃないかと尋ねた。

母は自嘲気味に苦笑すると、こう答えた。

「どうかなあ。悩みって、心の中に色んなものが渦巻いて生まれものから。何がベターか分かっていて、実際に選択できる意志があるなら悩まないもの。“悩みなき者”に、本当の意味他人に寄り添える言葉をかけることは難しいのかも」

母は儚げにそう語るが、そこまで寂しそうには見えなかった。

それも母が自分を“悩みなき者”と称する理由の一つなのだろう。

身内びいきするわけではないが、母のアドバイス姿勢も含めてベターものだったと俺は思う。

だが、それがベストになるかは、また別の話なのかもしれない。

(おわり)

2017-06-07

[] #26-5「オサカレビュー

総評

総評としては、これもニワカがよく言う“イマドキの映画”にカテゴライズされてしまうのであろう。

残念ではあるが、今のこの国にこれ以上の出来のゾンビサイバルを求めるのは酷ということは知っておかなければならない。

しかし、自分のような他作品に多く触れてきた人間からすれば、満足に足る代物ではないことも確か。

不出来なパスタを美味しく食べられるのは、腹が減っているか無類のパスタ好きな人間だけなのである

限られた手札でスタッフたちはベタークオリティを目指し、スポンサーや想定している顧客の期待に可能な限り応えようとした。

その努力の跡は窺えるのではないだろうか。

自分映画に点数をつけるスタイルでは評論しないが、今回はレビューを読んで映画を観た気になりたい特定の読者の期待に応え、点数をつけてみたいと思う。

この『ウメダ・オブ・ザ・デッド』は「50点」!

何点満点中?

自分で考えろ!


…………

レビュー読み終わったよ」

「お、どうだった?」

俺はオサカほど色々考えて観るタイプじゃないので、どうもこうもない。

だがそうも言ってられないので、気になるところを何とか捻り出す。

「このレビュー共感できる人って少ないんじゃないか。お前を多少は理解している人間からすれば、熱意は伝わるかもしれないが」

「ははは、それは顛末問題だよ、マスダ。レビュー大事なことは意見を発露したり、共有しようとすることさ。人と意見を一致させることではないし、違う意見人間を言い負かすために必死になることでもない」

「じゃあ、カジマみたいなのが賞賛したり、或いは批判していても構わないと?」

「そりゃあ、個人的感性からくる拒否反応はでるけどね。他人意見あくま他人意見だし、所詮は全て主観だ。それは大前提さ。自身が響けば名作、響かなければ駄作他人押し付ければそれ以前の問題になる」

俺には行き過ぎた言論の自由傲慢区別イマイチつかないのだが、オサカ曰くほとんどの人間健全謳歌している範疇ということらしい。

から見たらどう取り繕ったところで、主観を各々が垂れ流すだけの環境では不毛しかならないと思うのだが、オサカみたいな人間にとってはそれは必要ことなのだろうな。

(おわり)

2017-06-06

[] #26-4「オサカレビュー

ストーリー構成キャスト

さて、自分はこれを「テンプレものゾンビサバイバル」と評したが、これは要所要所のツボは抑えていることを指しているだけだ。

この作品ある意味で「顧客の求めているもの」を提供しているとも言えるし、提供していないとも言える。

どういうことか説明していく。

まず、この映画を“豪華なキャスト”目当てで観たい人は、ぜひ映画館に足を運んで欲しい。

カメオ出演俳優のために予算を使い果たしたんじゃないかという豪華っぷりである

また彼ら豪華なキャストの掛け合いもたっぷりである

主演のマッピーもしっかり絡むので、彼の美声に終始酔いしれることだろう。

逆にゾンビサバイバルものを目当てに観に行くならば、あまり期待しない方がいい。

ゾンビサバイバルもの個人的に好きな箇所は、「パニック状態になって、人間社会崩壊する前段階」である

日常が徐々に壊れていくような、でもそれがまだ原型を留めているような段階のことである

そこを丁寧に、上手く描いたゾンビサバイバルものは、個人的にそれだけでワンランク評価を上げたくなる。

本作も、その前段階にたっぷり尺を使う。

なんと1時間

上映時間のおよそ半分である

いくら自分が前段階が好きだからといって、モノには限度がある。

見せ方も無駄だという印象が強く、ただ登場人物たちがくっちゃべっているシーンが長々と続く。

パンデミックを想起させるニュースを挟んだり、ゾンビになりかけた様子のおかしい人が映るシーンなんてもの申し訳程度にしかない。

ゾンビサバイバルを観たい人は、後半の部分だけ観ても差し支えないレベルだ。


だが、これもある意味でわざとやっている節がある。

なぜかというと、主演のマッピー声優業が主な俳優なのだ

『ヴァリアブルオリジナル』の主人公を筆頭に、その他のアニメでも青年役、少年役で彼の声を聴かない日はない。

からマッピーを目当てに観に行く人にとっては、彼が長々と話しているのはそれだけで至高なのだ

だが、このマッピーという俳優が、ある意味作品全体の雰囲気を歪にしている側面もある。

大根というわけではないのだが、これまで声優業ばかりやってきたせいなのか、その癖が抜け切っていない。

或いは、マッピーも実写向けの演技が出来たのかもしれないが、彼のファンアニメから入ってきた人間ばかりなので、ファン向けの演技指導をさせたのだろうか。

マッピー発声は本作でもすごくアニメっぽくて、実写向けの演技路線である周りの俳優とは明らかに浮いている。

一人だけ吹き替えなんじゃないかってくらい。

ヒロインが「バリケード突破された!」とリアル路線で喋り、周りの俳優エキストラもそれに合った演技をする中、マッピーけが雑音が全く無い環境で「ヤバいよ、本当にヤバい!?」と言っている場面の脱力感といったら筆舌に尽くしがたい。

マッピーは主演なので、それが起承転結ずっと続くのである


本作のコンセプトとは?

これは自分勝手憶測だが、この映画監督は元々コッテコテゾンビサバイバルを撮りたかったのだと思う。

でもスポンサー問題で、予算が足りなかった。

なのでマッピー所属する事務所関係する企業出資を募ったら、出してきた条件がこの前半のかったるい展開だったのではないだろうか。

或いは広告担当が、俳優を前面に出して集客しようとした結果、それを極端にやりすぎたというか。

映画監督俳優目当てとゾンビサバイバル目当ての人間をハッキリさせたかったので、前半は開き直って俳優劇場にして、後半でゾンビサバイバルを詰め込んだ、と自分妄想している。

特に監督のこだわりが感じられたのは、子供ゾンビが出てくることだ。

しかもこの子ゾンビが……(ネタバレというほどの展開ではないが、個人的な見所ではあるので伏せておく)。

本作のゴア描写は大したことはないのに、レーティングが高めなのはこれが原因だと考えられる。

それでなお“善良な人間からクレーム”も覚悟しなければならない。

周りからカットしようと意見されたに違いない。

監督も色々譲歩し続けたと思われるが、ゾンビサバイバルシビアさを表現するため、これは残そうとしたのだと思う。

自分としては、今回でこの監督も注目せざるをえない一人になった。

(#26-5へ続く)

2017-06-05

[] #26-3「オサカレビュー

あらすじ

さて、いよいよ本編について語っていきたい。

あらすじは、こうだ。

何の変哲もない田舎町。

そこで、いまいちパっとしない毎日を送る主人公

しかし、パンデミックが発生。

主人公同級生、道中で出くわす仲間たちと共に、ゾンビの襲撃から逃げ延びようと奮闘する。

CMPVなどで分かってはいたが、本作はテンプレ通りのゾンビサバイバルものである

立てこもる舞台の一つにショッピングモールがあるし、ゾンビはゆったりと動く、いわゆる口〆口タイプだ。

もしも「ゾンビサバイバルとは」という授業があったとしよう。

不器用先生教科書に載っていることを黒板にそのまま書いていき、そして不器用な生徒がそれをそのままノートに書き写す。

例えるなら、この映画はそういったものだ。

主な登場人物役割、展開、ストーリー

どれをとってもテンプレすぎて、逆にここまでゴテゴテなものを、このご時世に見れたことを感謝したいレベルである

もちろん、これをパクりだなんて言うつもりはない。

お約束鉄板踏襲……どう表現すべきかは各々で判断すればいいが。

期待と予想は紙一重といわれるが、まるで自分はそれを試されているようだった。

それでも自分に正直になって語っていくならば、ややウンザリしていたというのが本音である

お約束鉄板踏襲、どう取り繕ったところで、同じことはやればやるほどツマラなくなる側面があることは事実で、自分のような人間が見ても前時代的なものを垂れ流されている印象は拭えない。

結局、そういう印象を拭いきるならば既存作品群よりどこかが優れているか、何らかの差別化が成されていなければならない。

この時代ならではの表現を駆使したり、特殊効果などを高クオリティ提供してくれていたならばまだしも、今日び可もなく不可もない出来に満足はできない。

その点で、ゾンビサバイバルを見慣れていない女子などの若者ターゲットに、前面に宣伝していることは正解といっていいのかもしれない。

(#26-4へ続く)

2017-06-04

[] #26-2「オサカレビュー

レビューにおいて踏まえておくべきこと

本作のレビューをする前に、踏まえておいて欲しいことがある。

評価基準の是非についてだ。

近年放映された、アニメ実写化作品を例に話をしたい。

あれも出来は悪くないのだが、はっきり言ってアニメに抵抗感がない人は素直にそっちを観ることを強く推奨したいのが本音である

ミュージカル一つとってもアニメのほうが歌唱力演出、どれをとっても上だといわざるを得ない。

そもそも何十年も前の作品と優劣で勝負しなきゃいけないレベルの時点で、この実写化を手放しで褒めることはとてもじゃないが無理がある。

だが、そもそもアニメと実写を完全に同じものとして評価することも無理があるというのも確かだ。

ましてやアレは“翻案された作品を更に翻案したものであるから尚更だろう。

いくら原作だとか翻案元があるとはいえ、それはそれとして割り切って観ることも一つの評価の仕方だ。

当然、受け手の中には翻案元にそこまで思い入れのない人や、日が経ち過ぎて記憶が薄れてしまった人、そもそも観ていない、把握していない人だっている。

受け手側の前提に幅がある以上、評価に幅が生じることも当然で、そこに是非を求めることは難しいだろう。

はいえ、評価する人間の中にはそれぞれ何らかの“基準”があり、だからこそ優劣を判断できることは踏まえておかなければならない。

でなければ、あらゆる作品個人にとっても全て傑作になるか、全て駄作になるかのどちらかにしかならない。

作品比較する手法を毛嫌いする人もいるが、評価とは得てして相対的ものである

比較対象があり、自分の中に評価基準がある以上、それを無視して評価することこそ無理な話なのだ

何を言いたいかというと、今回のレビューもそういった部分を理解して読んでいただきたいということだ。

いくら客観的に見えるような書き方や評価方法をしたとしても、あらゆる感想は最終的には主観収束する。

自分いくら酷評しようが絶賛しようが、他人にとっての傑作、駄作は脅かされない(もしも脅かされたと感じたのなら、それは被害妄想である)。

また、書いても大丈夫範囲で内容を説明していくつもりだが、念のためネタバレ注意も喚起しておく。


…………

読んでいる途中だったが、ヤキモキしたので指摘せずにはいられなかった。

「なあ、前置きクドくないか? 今回のレビューとは直接関係のなさそうな話だし……」

レビューだとか感想というものが何かってことを深く考えたことがない人や、それらの距離感のとり方を自覚していない人もいるんだよ。それくらい書いておかないと、“ウブ”な反応をする人たちが出てきてしまう」

なんだか、俺にはオサカのその気配り自体無駄なようなものに思えて仕方がなかった。

特定の読者を想定して書いたものを、不特定人間が見れる可能性のある場所に公開すれば、必然的にそういうことだって起こりうるだろうし、恐らくそれは不可避だ。

そもそもオサカのいうことを理解している人間ならば語るまでもないだろうし、理解していない人間ならば説明したところで理解できないだろう。

「そういう“ウブ”な人間を、お前の裁量でどうにかできるとも思えないんだがなあ」

「そりゃそうだろうけどさ。例えば説明書に書くまでもないようなことを『書くまでもない』といって書かず、それでポカをやらかし人間が出てきたら、そこに多少の落ち度はでてくる可能性があるんじゃないか

なるほど、何となく意図が分かってきた。

どうやらこの長い前置きは受け手への気配りであること以上に、書き手保険のようなものも多分に含まれているのか。

「まあ、次の項目から本編の感想入るから。続けてくれ」

オサカに諭され、俺は気を取り直して読み進める。

(#26-3へ続く)

2017-06-03

[] #26-1「オサカレビュー

バイト仲間であるオサカは、映像コンテンツフリークである

ブログもやっており、古今東西さまざまなものレビューしている。

以前、試写会で俺と観た映画も、早速レビューを書いたらしい。

「マスダ、読んでみてくれないか

オサカは俺に読んで欲しいようだが、そこまで気乗りはしなかった。

俺は映画を観ること自体は割と好きではあるが、正直なところレビューだとか他人評価にはさして興味が湧かない性質なのだ

はい試写会チケットを手に入れたのはオサカだし、その分の借りは返してもいいかもしれない。

俺は何も言わず、オサカのレビューサイトアクセスした。


ウメダ・オブ・ザ・デッド』試写会での感想

試写会チケットが当たったので、観に行ってみることにした。

観客は如何にも映画普段観ない層ばかりで、いわゆる“淑女”っていうかね(反感を買いたくもないので、大分ボカした表現にしている)。

それでも驚きだったのが、老若男女もそれなりにいたことだ。

試写会には、割と節操のない映画フリーク評論家が潜り込むことが多いと聞いたが、まさか本当だとは思わなかった。

試写会には自分友達も一緒に行った。

また、その友達が人数合わせに連れてきた人もいたのだが、映画概要情報も調べずに来たとか言うのだ。

最初は事前情報なしで、フラットで新鮮な気持ちで観たいタイプかと思ったんだが、そういうわけではなくて、どうやら主演俳優目当てらしい。

いや、それ自体は驚きはしない。

好みの俳優が出ていることが、観ることの理由の一つになるケースがあることは理解している。

他の観客にもそういう人はいるのだろう。

作っている側や広告側とかだって、そこを推し出しているケースは少なくないわけだから当然ではある。

だが、それ「だけ」を目当てにして、わざわざ2時間弱も席に座っていることを臨むというタイプを目の当たりにしたのは始めてだったもので、思わずここに書かずにはいられなかったのだ。

実績も実力も微妙な人を主演に置くやり方が減らない理由、その極端な例を目の当たりして納得せざるを得なかったというか(この映画俳優たちがそうだとは言っていないので誤解なきよう)。

いっておくが、別にこの映画が嫌いだからこんなことを書くわけではない。

自分評価と売り上げは反映させるべきと思っている人間なので、本当に心から嫌いな映画レビューもしなければ観にも行かないし、出来る限り話題にすら出さないようにしている。

なのでその段階をクリアしている時点で、自分はこの映画に対してそこまで悪印象は抱いていないことは明らかにしておく。

…………

まだ読んでいる途中だが、気になる点があったためオサカに尋ねずにはいられなかった。

「なあ、カジマが観たいと言っていたので連れてきたんだが、やはりマズかったか?」

「いやいや、そんなことはない。自分と違う世界圏を知るのに、丁度いいサンプルになってくれた」

「そうか。『マッピー最高』、『カッコいい』くらいしか言わないカジマを、オサカがすごい剣幕で見ていたから。映画よりそっちにハラハラしていた」

「ああ、そうなのか。自覚はなかったが、それはすまないことをした。まあ、そこまで重要なことじゃないから気にせず続きを読んでくれ」

オサカの今の様子から察するに本当に気にしてはいないようだが、どうにも釈然としなかった。

俺の周りの文化人は、難解な人格の持ち主ばかりだ。

(#26-2へ続く)

2017-05-27

[] #25-6「ライトクイズ

それに対し、センセイはこの土壇場でも落ち着いた物腰で、坦々と問題を口にした。

だが、その出題に俺は自分の耳を疑った。

「答えは350です」

いや、出題というよりは、正解発表をしてきたのだ。

俺は面食らった。

一応、その後にセンセイは問題の内容を語っていくのだが、あまりの衝撃に俺は頭に入ってこなかった。

それでも、無理難題ではない。

しろ、とても簡単なのだ

なぜなら答えは分かりきっているから。

だが、俺は答えを出すのに数秒以上の時間をかけてしまう。

センセイの考えた「最も簡単問題」に、完全に不意を突かれたからだ。

「そんなのありかよ……」

そう呟かずにはいられなかった。

結局、この問題が決め手となり、俺は自分の持ち点をゼロにしてしまうのであった。


今回の大会はセンセイの優勝で終わった。

賞金は惜しいが、俺の負けであることは認めざるをえない。

何より、最後あん問題を出してくるセンセイの胆力を称えずにはいられなかった。

「いやー、やられました。あん問題の出し方をするなんて」

「まあ、一度限りの方法だがね」

「確かに、もう一回やってきたらすぐに答えるでしょうしね」

「それもあるが……」

「他にも何か?」

「まあ……出る杭は打たれるものさ」

センセイが言っていたことは、それから後に分かった。

以降の「ライトクイズ」では、参加者はセンセイと同じ問題の出し方を真似し始めたのである

結果、答えをあらかじめ明言して問題を出し合うだけという、混沌を極めつつも膠着の一途を辿ったのだ。

番組サイドはマンネリにならないよう、ルールを細かく変えてそれを防ごうとした。

しか参加者はその都度ルールの穴を突いて、如何に“答えを知っている問題を出し合う”ことにのみ注力する。

それは“簡単問題を出し合う”という「ライトクイズ」とは似て非なるものだったのだ。

そんなことが数回続いた後、とうとう番組サイドはこの「あらかじめ答えを言う」という問題方式のもの禁止することを決めたのだった。


それからしばらく経った、とある日。

番組の方はマンネリ気味になりつつあったが、俺とセンセイは飽きもせず「ライトクイズごっこ」に興じていた。

サッカーオフサイドはなぜ反則になったか分かるかい

「うーん……オフサイドゲームになるからでしょうか」

「まあ、悪くない答えだ」

「では次は俺から。最も簡単問題とは」

「最もつまらない問題だ」

「……というか俺たちのやってる『ライトクイズ』、何だか趣旨が変わってしまってませんか?」

「……そうだな、ハハハ」

(おわり)

2017-05-26

[] #25-5「ライトクイズ

はいよいよ決勝戦

そして最後相手は、またも俺にとって知っている人物でありながら、未知数の相手でもあった。

「やあ、マスダ」

「……センセイ。どうも」

センセイは1回戦、2回戦ともに派手さはないが堅実な出題と解答をしており、中々の実力者であることが窺える。

それに、まだ“何か”を隠し持っている気もした。

こちらも手の内をまだ全ては見せていないとはいえ、かなり厳しい戦いになる予感がした。


俺の予想通り勝負拮抗していた。

……傍目にはすごくレベルの低い戦いにしか見えないのがツラいところだが。

お互い隙を見せない迅速な解答を徹底し、一定簡単度を保った出題をし続けるも決め手には欠けていた。

こうして膠着状態が続き、あと1問か2問でお互いの持ち点は0になるというところまできていたである

「それではマスダさん、問題をどうぞ」

切り札をきるならばここだ、と俺は判断した。

「これは算数問題です。なぞなぞではありませんし、引っ掛け問題でもありません。また、自己啓発じみた概念的な話でもありません。では問題です、1+1は?」

センセイはすぐさま答える。

「2だ」

「正解です」

センセイが答えるの自体は予想通り。

大事なのは簡単度」だ。

このクイズバトルのセオリーは、コンセプト通り「如何に簡単問題を出すか」ってことなのは明らかだ。

だが、それを考えること自体簡単ではない。

それは問題の内容自体もそうだが、もう一つは問題の出し方。

まり簡単問題を“どれだけ簡単に見せるか”ってことだ。

例えばこの「1+1」という問題は、普通に考えるなら答えは「2」だし、実際その通りではある。

だが簡単すぎたり陳腐すぎるが故に、かえって付け入れられる可能性があるのだ。

例えば「田んぼの田」だとか、或いは「3にも4にもなる」だとか哲学的な答えを出す奴もいる。

その可能性を低くする戦術が、この「誘導問」だということだ。

サイコロで目当ての数字を出したければ、重りをつけるだなんてことをするより、他の数字を消せばいいのだ。

解釈に悩む余地すら与えない、たった一つの答えにたどり着かせる、整備された道を作ってやったのだ。

「解答までにかかった時間1秒。そして簡単度は……」

簡単度85以上でセンセイの持ち点はゼロになる。

次にセンセイがどんな問題を出してくるか見当がつかない。

できればこれで終わらせたい。

「……76!」

ちぃっ!」

思いのほか点数が伸び悩み、俺は思わず舌打ちをする。

かなり自信のある問題だったが、どうやら内容の念押しをしすぎたせいで、かえってややこしいと思われてしまったようだ。

ここで決めることができなかったのは無念だが、まだ勝負は決まっていない。

センセイの問題を最速で答えれば、簡単度がよほど高くない限り俺の持ち点はギリギリ残る。

そして次の俺の出題でチェックメイトだ。

俺はまばたきや呼吸すら忘れそうなほど、ただ問題に答えることに全神経を集中させた。

賞金は、絶対に俺が貰う!

(#25-6へ続く)

2017-05-25

[] #25-4「ライトクイズ

「それでは後攻、マスダさん。問題をどうぞ」

またも敵の自滅で大きくリードできてしまった。

せっかくだからちょっと遊んでやろう。

あらかじめ出そうと思っていたものを取りやめ、俺は急遽テキトー問題を出すことにした。

「今年、『No.1』と謳われていた映画は?」

我ながら雑な出題である

No.1を謳う映画なんて、解釈次第ではいくつも候補があるからだ。

だが、その中でも巷で最も話題になった映画ならば、自ずと選択肢は絞られる。

簡単度はほどほどには行くだろうし、タイナイは間違えるか解答に時間がかかる可能性が高い。

「え~と、『オ・ド・ラント』?」

「マスダさん、いかがですか?」

「そうだなあ、じゃあ不正解で」

「『じゃあ』ってなに!?

「あ、正解は『複雑な社会問題の詰め合わせ。ノンフィクションに基づく我が半生』ね」

遊びの域を出ないが、このライトクイズにはこういった戦術もある。

そう、このゲーム絶対的な正解である必要がない。

出題者の裁量で、割とアバウトな正解でも構わないのだ。

当然、そんなことをすれば観客や審査員に支持されず簡単度は下がるので、基本的にはやらないほうがいいのだが。

「解答までにかかった時間5秒。不正解ペナルティ。そして簡単度は40。計75点のマイナスとなります

それでも、タイナイよりはマシな点数にできるわけだ。

それに、あまりにも良質な問題を出すと次の相手の番や、更には他の対戦者たちも真似してくる可能性がある。

あえて雑な問題を出し、手の内を見せすぎないことも戦術なのだ

まあ、試合前のタイナイの不敵な笑みが癪だったので、ちょっとした意趣返しもあるが。


その後、タイナイはあわてて出題内容を軌道修正する。

だが、俺は最初リードを奪えないことを思い知らせるため、タイナイを真似るように同じレベル問題を出してみせる。

後攻はこういった風に傾向を探れるし、先攻有利を防ぐために持ち点も高めに設定されているから、俺からすればむしろ好都合だったりする。

こうして数週するとタイナイの持ち点が先に尽き、俺の勝利となった。

「デス・ゲームギャンブルもの主人公みたいにはいかないか……」

タイナイが悔しそうにそう呟く。

そういうのは機転と運に恵まれていることは勿論、ルールをちゃんと把握しているからこそ出来ることだろう。

(#25-5へ続く)

2017-05-24

[] #25-3「ライトクイズ

2回戦。

相手クラスメートタイナイであった。

またも知り合いで、この番組の規模の小ささに他人事ながら不安になる。

「マスダ、生憎だが僕には勝てないよ。このゲーム必勝法に気づいたからね」

タイナイは相対すると俺にそう言い放つ。

どうやら何か秘策があるようだ。

だが、それを2回戦で、しかも対戦相手にわざわざ言うメリットがあるのだろうか。


「では先攻、タイナイさん。問題をどうぞ」

「十二星座干支、両方にいる動物を答えよ」

「それではマスダさん。解答をどうぞ」

会場がざわつく。

タイナイはそれでも得意気といった様子だ。

俺はなるほどと思いつつも、緩む頬を手で覆い隠す。

考えれば分かる問題だが俺はそんな気はさらさらなく、解答タイムが始まるとすぐさまデタラメな解答をする。

このゲームにおいて、分からない問題を解くことに時間を割くほどリスキーなことはないからだ。

「分かりません」

「残念、不正解!」

タイナイの戦法は読めた。

まり簡単度による減点は捨てて、難しい問題を出すことで不正解ペナルティを狙ったのだ。

仮に答えられるにしても、考える時間がかかるものにすることで減点を大きくできるというわけだ。

タイナイはどうだと言わんばかりに、俺に不敵な笑みを浮かべる。

どうやら、これがタイナイの秘策だったらしい。

肩透かしもいいところである

「解答までにかかった時間1秒。不正解ペナルティ。そして簡単度は5で、計40点のマイナスとなります

「……え、減点それだけ?」

タイナイも自分の浅知恵にやっと気づいたようだ。

解答による減点はペナルティを加味しても、簡単度より低めに設定されている。

今回の俺のように不正解覚悟ですぐさま答えれば、このとおり減点は大したことない。

まり難しい問題を出して不正解を狙うというタイナイの戦法は悪手なのだ

まあ、このゲームのコンセプトは「簡単問題を出し合うこと」であるのだから当然の話だが。

ルールをちゃんと把握していれば、タイナイのような発想は絶対にしない。

タイナイは裏をかいたつもりだったのだろうが、詰めが甘い。

裏をかきたければ、表が何かってことをちゃんと知っておかなければならないのだ。

(#25-4へ続く)

2017-05-23

[] #25-2「ライトクイズ

さて、俺が参加した理由はもう一つあり、それは勝算の高さだ。

この『ライトクイズ』という番組、始まってから間もないことや所詮ローカル番組ということもあって、出場選手レベルがあまり高くない。

テレビに映れれば儲けもん位のミーハー人間ほとんどだからな。

からこそ俺は狙い目だと感じて、あらかじめルールの把握や対策、準備をしっかりとしてきたのだ。

それにしても、初戦の相手バイト仲間であるオサカとはな。

町内規模での試合はいえ、世間は狭いものである

バイト仲間とはいえ手加減はしないからな、マスダ」

それはこちらも同じだ。

油断もしないし手心も加えない。


「先攻、オサカさん。問題をどうぞ」

こいつが出してくるなら映像作品に関するものだと思うが、どんな風に出してくるつもりだろうか。

それとも、虚を衝いて意外なジャンルのものを出題してくるか?

ドラマランニングデッド』で、ゾンビ役のエキストラが水を飲んでしまっているシーンがあります。そのシーンは何話?」

オサカは自信満々に出題するも、会場はざわついていた。

俺も思わず頬が緩み、それを隠すために左手で口元を覆った。

まりにも問題ピンポイントすぎるだろ。

オサカは他人の話より自分が何を話すかばかりに頭を使うタイプオタクだが、まさかここまでとはな。

「そ、それではマスダさん。解答をどうぞ」

司会者の声に続くように、キィーンと珍妙な音が会場に響きわたる。

この音が解答可能になる合図なのだ

そして俺はすぐさま答える。

1話

「さて、いかがでしょう、オサカさん」

「……正解です」

オサカはなぜか満足気だが、どうもこのライトクイズ趣旨をあまり理解できていないようだ。

そりゃあ、オサカにとっては簡単だ。

そしてオサカの話をよく聞かされる俺にとっても。

だが、審査員や観客にとっては簡単ではない。

「さて、簡単度の集計結果が出ました……やはりゼロです! マスダさんの持ち点はほぼ減りませんでした」

「ゼ、ゼロ!?

自分自分の周りにとっては今さらなことであっても、他の誰かにとっては新たな知見かもしれないということは往々にしてあることだ。

相手に難なく答えられ、周りには簡単問題だと思われない。

このゲームにおいて最悪のパターンである

オサカの失態は大きく、それを取り戻すことは不可能に近かった。

彼が番組趣旨自分趣味理解していないおかげで、俺は難なく2回戦に進出することができたのであった。

(#25-3へ続く)

2017-05-22

[] #25-1「ライトクイズ

俺たちの地元には、最近人気のローカル番組がある。

名前は「ライトクイズ」といって、番組内で行われるゲームからとられている。

そして今回、その放送場所に俺たちの住んでいる町が選ばれたのだ。

この番組ロケ地に住む一般人ゲームに参加するタイプで、リーグ戦を勝ち抜いて優勝すれば10万の賞金がもらえる。

値段の絶妙さに、ローカル番組の苦悩が窺えるな。

はいえ俺からすれば、バイト給料およそ1か月分。

狙わない手はないよな。

「さあ、今週も始まりました。第5回、『ライトクイズ選手権! 今回の選手たちはこちら!」

俺を含めた選手の入場、紹介が粛々と進む。

だが、ここは放送の際に毎回カットされるか、ちょろっと流される程度。

まり身内の間で盛り上がるため、ささやか自己顕示欲を満たすためだけの、テレビからすれば実質的無駄時間だ。

そして賞金目当ての俺にとっても煩わしいだけの時間である

兄貴~! 俺の分まで勝ってくれ~!」

家族応援に来ているなら尚更だ。

どうやら弟も応募していたようだが、年齢制限のせいでハジかれたらしい。

やりにくい相手が減って、俺は内心ホッとしていた。


「では、『ライトクイズ』のルールをこれから説明します」

このルール説明だが、選手たちには事前の打ち合わせで説明がされており、その時に細かい部分での決まり含めて入念に行う。

構成必要なこととはいえ、俺たち出場選手にとっては手持ち無沙汰な時間でもある。

「バトルは1対1。

先攻、後攻をランダムに決め、交互に問題の出題側と解答側を入れ替えて戦います

出題者の問題に対し、解答者は出来る限り早く答えましょう。

解答に要した時間によって持ち点が減り、もし制限時間内に答えられなかったり間違った場合は大きく減るので注意してください。

そして減点要素はもう一つあり、それが問題の『簡単度』です。

これは審査員と観客の投票で決まり、それによって持ち点は更に減ります

そうして続けていき、先に持ち点がなくなった方が負けです」

要は解答者のときは早く答えて、出題者のとき簡単問題を出せばいいということだ。

解答だけではなく、問題の内容すら一般参加人間やらせるっていうのが、ローカル番組ならではの工夫を感じられるな。

「では第1回戦、開始! 先攻はオサカさん、後攻はマスダさんです」

かったるい説明時間が終わり、いよいよ“本番”だ。

(#25-2へ続く)

2017-05-15

[] #24-5「あの音楽歌詞

「この曲は流行ったこともあって、広く普及しているものらしいじゃないか

「そうらしいな。それがなんだ」

「つまり歌詞意味が分からなくても、この曲の良さを感じ取っているってことだよね。でも、それは歌詞意味を知っても不変たりえるものかい?」

ガイドがまだるっこしい言い回しをしてくる。

「なんだ? 実は酷い歌詞ってことか?」

「いや、全部しっかりとは聞いていないから、これからさ。けど、もし鬼が出ても蛇が出ても問題はないのか、確認はしておくべきだと思ってね」

未来人のくせに随分とナンセンスなことを言うんだな。そんなの“やってみなくちゃ分からない”だろ」

弟たちの意志は揺らがない。

ここにたどり着くまで散々遠回りをした。

さら、うやむやにするというのは、弟たちの答えではないのだ。

「……じゃあ、翻訳してみるよ」


こうして書き起こされた歌詞だったが、弟たちの予想を悪い意味で裏切った。

やたらと詩的で難解というわけでも、かといって下品低俗歌詞でもなかった。

何というか……すごく単純というか、月並みな、淡々とした。

有り体に言えば下らない、とても陳腐歌詞だ。

「これは翻訳問題とかではないの?」

「フュ○メッ△ゲ語は覚えやすく、分かりやすく、使いやすいよう開発された共通言語だ。故に構造も非常にシンプルになっている。だから誰が翻訳しても、ほぼ同じになるよ」

「凡百のJポップでも、もう少しマシな表現で取り繕っているぞ」

「あと、ボーカルは恐らく合成音声だね。それにイントネーションが、ボクの時代のフュ○メッ△ゲ語の教材映像のように忠実だ」

まり棒読みってことらしい。

「一応フォローしておくと、コード自体はとてもキャッチーだよ。フュ○メッ△ゲ語は覚えやすいための一環として、非常に小気味よい単語が多いし」

いや、それは多分、みんな何となく分かってる。

「まあ、歌詞意味なんて分からなくても、音楽は聴けるよ」

ガイド発言は、ここまで探し求めてきた弟たちにとっては無神経なものではあったが、俺は何も言う気にはなれなかった。

弟たちにとっては待望の知見であったが、その後で仲間たちと話し合った結果、この音楽歌詞秘密にしようということになったらしい。

この曲はそれでいい、と弟たちは思ったのだろうか。


それから数日が経ち、俺たちの世界は何事もなく進行している。

俺はタイナイを自宅に招き、課題遂行にいそしんでいた。

はいってもタイナイはスマホ片手に雑談を交えてという、ほとんど遊びにきたようなものであったが。

「『人気アイドルグループ世界へ』かあ」

どうやら、どこぞのネットニュースを眺めているようだった。

「このアイドルグループ歌詞って、正直つまらいからなあ。世界ウケるもんなのかなあ」

「へー、ほーん」

この一丁噛みはタイナイの十八番である

なので、俺もいつもの調子で応対する。

だが、同じ部屋にいた弟の癇にさわったようで、タイナイが続けて語ろうとするのをぶった切るようにして話に入ってくる。

あんたの気にしている“世界”ってのは、一体どこの“世界”なんだよ」

そう吐き捨てるように言うと、弟は部屋から出て行ってしまった。

突然の横槍にタイナイは、それを呆然と見つめていることしかできなった。

そして戸惑いながら、なぜか俺に尋ねだす。

「え? え? どういうこと?」

「“分かるからこそ見える世界”があるように、“分からいからこそ見える世界”ってのもあるんだろう。たぶん」

「うーん?……」

「まあ分からないなら、それはそれでいいんじゃないか。そういう話だ」

俺はそれっぽく答えるが、タイナイは要領を得ないといった様子だった(もとから理解させるつもりがない前提で言ったので当たり前なのだが)。

「じゃあ……君はどうなの、マスダ」

「どうもこうもねえよ。是非もなし、だ」

音楽に何を求めるかってのは様々だが、それらを深く考えないまま享受する人間だって勿論いるのである

(おわり)

2017-05-14

[] #24-4「あの音楽歌詞

着いた場所は、人通りの少ない場所にポツリと一軒家が存在しているという不気味ものであった。

そこそこ都会だと思っていた俺たちの町に、こんな閑散とした場所があったこと自体が驚きである

その一軒家も、廃屋すれすれの様相を呈している。

というか、シロクロなら本物の廃屋に住んでてもおかしくないイメージがあるから、なおさら身構えずにはいられない。

だが弟たちは怯むそぶりもなく、シロクロについて家に入っていく。


ガイドがいるという部屋の扉を、シロクロは勢いよく開ける。

部屋の中は意外にも普通であり、想定の範囲内家具が、想定の範囲内場所に置かれているのみである

そして、その部屋の真ん中でガイドが佇んでいた。

ガイドは慌てた様子で、部屋の中を観られたくないのか俺たちを遮るように近づいてくる。

「な、なんだ、シロクロ。今日は随分と大勢で帰ってきて……」

貼りついたような笑顔で取り繕うが、俺の顔を見た途端にバツの悪そうな顔になる。

「マ、マスダ……どうしてまた」

「俺だって関わらなくていいなら一生そうしたかったさ。今日は付き添いだ。弟たちが用があるみたいでな」


弟はガイドに経緯を話すと、携帯端末から件の音楽を流す。

「これは……フュ○メッ△ゲ語に非常に近いな」

弟たちは色めきだつ。

ダメでもともとだったが、ガイドから意外な答えが返ってきたのだ。

だが上手く聞き取れない。

「フュル……メレンゲ?」

「フュ○メッ△ゲ語だ。どうやら、この時代の人たちではネイティブ発音するのは難しいようだが」

ネイティブどころではない。

「それはどういう経緯で生まれ言語なんだ」

自分たち時代では英語とは別に、他の共通言語が普及しているんだ」

「それがフ……フュ……」

「フュ○メッ△ゲ語。それにしても、こんな時代からあったなんて新発見だな。アーティファクトなのか、未来から何かの拍子でこの時代に流れてしまったのだろうか……」

正直、こいつの言うことは話半分で聞くべきだと思うが、弟たちに水をさすのも忍びないので俺も建前上は乗っかることにした。

「まあ、何語でもいいが本題だ。その歌詞は、俺たちにも理解できる言葉では何ていうんだ」

「……本当に知りたい?」

「なんだその質問は。俺たちにそれを教えることで、未来に何か不都合でも? それとも、お前自身も実は分からなくて誤魔化してるのか?」

「本当、君は疑り深いねそもそも自分過去干渉をするためにここに来ているんだ。だから、これもその一環になりえる。そして歌詞翻訳だが、勿論できるよ」

「じゃあ、何が問題なんだ」

(#24-5へ続く)

2017-05-13

[] #24-3「あの音楽歌詞

だがそんなことを口にすれば、弟たちは俺を巻き込んだ上で面倒くさいことに発展する予感がした。

なので知らないフリを決めこうとしたのだが、弟の仲間の一人であるドッペルは目ざとかった。

「マスダの兄ちゃん、何か思いついた?」

「……いや、別に?」

「本当にぃ?」

弟たちの眼光が鋭い。

いつその視線物理的に刺さってもおかしくない。

観念した俺は白状することにした。

「……本当に大したことじゃないぞ」

「それを決めるのは俺たちだ」

「……ガイドと名乗る、未来から来たとかい人間がいるのは知っているか?」

「ああ、あの人? 見たことある

キテレツな格好ですごい胡散臭いよね」

だが、あいつの持っているアイテムの力が本物であることは、みんな薄々分かっていた。

或いは、と考えたのだ。

「なるほど……だめでもともとか」

「でも、今度はその自称未来人さんを探さなきゃいけないのかあ……」

「もしその人が本物なら、下手すれば既に未来に帰っているかも」

微かにさした光明も、その筋道のなさに弟たちの表情は曇るばかりだ。

どうやら、灯台下暗しであることを知らなかったらしい。

「何だお前たち、知らなかったのか。その未来人は、いまシロクロのとこに居候しているんだぞ」

「ええ!? 本当かよ、シロクロ」

イエス! ザッツ! ライト!」

弟たちにとって、それは意外な人物だったようだ。

まあ、シロクロは身の上話をロクにしない上に、言動が怪しくてコミニケーションが難しい人物である

なので、それを当たり前のように受け入れていた弟たちにとってはむしろ意外だったのかもしれない。

「なんで、今まで言わなかったんだよ」

プライバシーポリシー!」

シロクロが分かるような分からないことを言う。

「そ、そうか……」

俺たちは適当に相槌をうつ


未来人は俺に門前払いされた後も何件か周ったらしいが、結局信じてもらえなかったようだ。

任務が終わるまで帰ることができないので途方に暮れていたところを、通りがかったシロクロに拾われたらしい。

まあ、シロクロは“アレ”だから信じるだろうな。

或いはシロクロ自身、謎の多い人間から波長が合うのかもしれない。

ただ信じてもらえてもシロクロに話が通じているわけではないから、任務遂行できず宙ぶらりん状態、といったところだろう。

「シロクロも大概だよな。そんな胡散臭い奴を住まわせてやってるとか」

アイマスト! ゴードゥ! グッドシングス!」

シロクロが分かるような分からないことを言う。

「あー、はいはい

弟たちはシロクロの発言を受け流す。

その後、十数秒かけてそれっぽい理屈を並べてシロクロを言いくるめ、自宅へ案内してもらうことになった。

そしてガイドと知り合いであった俺は、仲介役ということで付き添う羽目となった。

(#24-4へ続く)

2017-05-12

[] #24-2「あの音楽歌詞

調査から時間、弟たちは行き詰りを感じていた。

「んー、何でみんな曲は聴いたことあるくせに、歌詞は知らないんだろう」

「ここまで知らない人ばかりってのは変だよ。みんな気にならないのかなあ」

今のままではロクに成果を上げられないか、酷く時間がかかると感じ始めていた。

何らかの打開策が求められていたのだ。

アプローチを変えたほうがいいかもしれないね……」

ミミセンの提案に一同はうなずく。

「私も賛成だけど、具体的にはどうするの?」

「僕たちだけじゃ情報を集めるのも、その手段にも限界があると感じた。だからもっとそれが上手い人に聞けばいいんじゃないかな」

「なるほど……でも、それって誰だ?」

「マスダの兄ちゃんのクラスメートに、タイナイって人がいるだろ。あの人はインターネットをよく利用するらしい」

インターネットなら、私たちも調べてみたじゃない」

「僕たちの調べ方はすごく初歩的だっただろ。でもその人なら、もっと上手く調べてくれるんじゃないかな。或いは既に調べ済みかも」

「よし、分かった。その人に尋ねてみよう」


家を訪ねると、タイナイに用件を話す。

「ふーん、なるほど。それで、なんて曲なんだい」

ミミセンは携帯端末から件の音楽を流す。

曲のタイトルすら分からないため、これが最も手っ取り早かった。

「あー、これか。僕が小さい時にも流行っていたなあ」

そう答えつつ、タイナイは足でリズムを取っていた。

いよいよ歌詞の謎に迫れたことで、弟たちの期待は高まる

「じゃあ、その歌詞が何かって分かる?」

「それが……分からないんだ。というか多分、誰も知らないと思う」

しかし返ってきた答えは絶望的なものであった。


「この音楽流行った時にもね、この歌詞翻訳しようとしたんだ。

でも聴いたら分かる通り、文字に起こすのも難しい代物だったんだよね。

そこで絶対音感の人たちを集めて、文字に起こしてもらうという企画が立ち上がった。

それで文字に起こすこと自体成功したんだけど……その歌詞はやっぱり意味不明だった。

何らかのアルゴリズムで作られた架空言語なのか、ボーカルの歌い方のクセの問題なのか、結局は分からずじまいとなった。

で、その時の最終的な結論としては、この歌詞は何か意味の通ったものではなく、デタラメものだったということになったんだ。

からその後も、みんな何となく歌詞も、そしてその意味も分からず歌っていたんだよ」


弟たちは、煮え切らなかった。

彼らが得た答えは、期待に応えたものではなかったからだ。

「なーんか、納得いかないんだよなあ」

弟たちはそのことを俺に愚痴っていた。

「そんなこと言っても、一応の結論は出たんだろ。お前たちがいくら文句を言ったところで何も変わらんぞ」

「何か……何か、まだありそうな気がするんだよ。この歌には」

「仮にあったとして、もうそれを見つけるものが……ないだろ」

俺は途中、言いよどんだ。

そう言い切る前に、とある可能性に気づいてしまたからだ。

(#24-3へ続く)

2017-05-11

[] #24-1「あの音楽歌詞

音楽というものは俺たちにとっても馴染み深い文化だ。

そして、時に人は音楽というものに何を求めるか、それは何かであるかということで苦心する。

個人が望むと望まざるとかかわらず、意識の差こそあれ、だ。

今回はとある音楽にまつわる、ちょっとした話をしよう。


弟の友人であるミミセンは、そのあだ名の通り耳栓を愛用している。

大きい音や、雑音などが苦手だからだという。

その一環で、彼は家でもヘッドフォンをつけて音楽聴くことも多かった。

それ自体は弟たちにとって慣れたものであったが、最近そこから漏れてくる謎の曲に不思議と引き付けられた。

「ミミセン、最近はその曲をよく聴いているよね」

「ああ、掃除をしていたら、物置にCDがあってさ。一昔前の曲だと思うんだけど、聴いてみたら中々いい感じの曲なんだ」

気になった弟たちは、その音楽スピーカーから聞かせてもらう。

ミミセンの言うとおり、その曲はとてもキャッチーで、歌は思わず口ずさみたくなる小気味良さがあった。

弟たちは思わず体が動き、リズムを刻む。

「ユールネバー! ゲットイット! アウト、ヨア、ヘッド!」

シロクロが曲にノりながら、分かるような分からないようなことを言う。

らくだが、曲を褒めているのだろう。

「うん……いい音楽だね」

「クセになりそうだ」

だが弟たちには、一つの疑問が浮かんでいた。

「私もいい音楽だと思うけど、これ何て歌ってるの? どこの国の歌?」

その歌は弟たちの意味の分かる言語ではなく、少なくとも自分たちの国のものではなかった。

「それが分からないんだ。この音楽の入っているCDにも、ケースにも、タイトル歌手すら書いてなくて」

最初はそれほど気にしていなかったが、ここまで謎が謎を呼ぶと逆にどんどん気になってくる。

「よし、この音楽歌詞が何か、暴いてやろう!」

「賛成。歌詞意味が分かったほうが、よりこの曲が好きになれるだろうしね」


こうして弟たちは調査を始めるが、成果は芳しくなかった。

道行く人の答えは共通していた。

意外にも音楽自体は聴いたことがあるという人がほとんどだったが、その他のことは誰も分からないのである

そこそこ期待していた魔法少女すら、答えは同じであった。

「なんで分からないんだよ」

「むしろ何で分かると思ったの」

魔法少女でしょ」

「だから何。魔法は万能ではないし、その使い手もまた然りよ」

「じゃあ、サイドキックペット君は?」

「……」

魔法少女肩に乗っている動物は、いつもならせわしなく動くのだが、今日は完全な置物のようだった。

どうやらペット遠隔操作していた人が、席を外していたようだ。

「……本当、掘り下げれば掘り下げるほど夢も希望もない存在になっていくよね、この魔法少女

あなたたちが必要以上に期待しすぎなのよ」

(#24-2へ続く)

2017-05-04

[] #23-6「ヴァリアブルオリジナル

エンディングテーマ曲:「リミテッド・フィナーレ」

歌:ポリティカルフィクションズ 作詞マーク・ジョン・スティーブ 作曲:サトウスズキ

一枚絵 一枚絵

一枚Yeah Yeah Yeah Yeah...

横に動かしたり 縦に動かしたり

近づけてみたり 遠ざけてみたり

さすがにしょっぱいので

レイヤーくらいは工夫しておく


歩かせるなり 走らせるなり

道中に 主な登場人物

2頭身なミニキャラ化は著しく

背景だけの絵で間を繋いだり

何らかのエフェクトで味付け

本編の映像切り貼り

セピアな感じで

色褪せているね

今週のジャストコーズ

「今回紹介するジャストコーズは『イダテン』。どんな相手も逃がさなスピードを持つとされている。しかも、そのスピードの余波で周りに迷惑をかけないようにする力も持ち合わせている」

「今回はやりすぎてしまっているように見えるが、演出上の都合でそう見えるだけだ。だから俺のことを嫌いにならないでくれ」

視聴者のみんな。たとえ正当な理由があっても、正しい筋道で行うことが大事であることを忘れないでください。そしてやりすぎないこと」

「良い子も、悪い子も、その二つを持ち合わせている子も、自分が何者かで悩んでいる子も、心身に刻み込んでね」

「俺たちとの約束だぜ!」

次回のヴァリアブルオリジナルはーー

とうとう港町に着いた俺たち。

早速、船を出してくれる人を探すのだが、その時に現れたのは明らかに嫌な奴だった。

また貴様か、イノウ。

見え透いた挑発をしてくるが、だからといって不当な物言いを見過ごしていいわけではない。

不用意な発言をする人間は、時と場所関係なく裁かれて然るべきなのだ

俺がこらしめてやる、溜飲を下げさせてもらうぜ。

次回、「船酔いは痛覚で上書きできる」

来週もジャストコーズ、オン!

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この物語フィクションです。

登場する人物団体名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

(おわり)

2017-05-03

[] #23-5「ヴァリアブルオリジナル

大丈夫ですか。野菜泥棒はかなりの俊敏さを持ち合わせております

心配するな。俺には正当な理由があります

改めて説明しなければならない。

ジャストコーズ、オン」

ヴェノラには独特のパワーが備わっており、彼は正当な理由があるとき目的を最大限遂行するための力を一時的にその身に宿すことができるのだ。

ジャストコーズ・イダテン」

まるでテレポートするかの如く、ヴェノラは野菜泥棒に接近する。

まりにも予想外な出来事に不意を突かれた野菜泥棒は赤子同然。

拘束することは、ヴェノラの実力ならば造作もないことであった。

覚悟しろ野菜泥棒ジャストコーズは俺にある」



まさか犯人が村人だったとはな」

まいった、助けてくれ。どうしても野菜もっと食べたかったんだ」

「こんなにたくさん、お前一人でか?」

「余った野菜は売るつもりだった。なあ、許してくれよん」

ダメだ。法の裁きを受けよ」

野菜泥棒正義の鉄槌が下ろうとしていたそのとき

「ヴェノラさん。私からもお願いします。許してやってください」

間に入ってきたのはこの村の長であった。

村長さん、しかし……」

「確かにルールを守り、正しく生きようとすることは大切です。ですが、正しさだけでは人は生きていけないこともある。時には許容と順応を促すことも、社会において大切なことなのです」

理解しました。村には村のルールがあるならば、それを優先し、尊重しましょう。ですが、何らかの処罰は与えることを推奨します」

「すまない、村長。これからはそこらへんにある廃棄物を拾って、それを売って生計を立てるよ」

「捨てられたものからといって、お前の自由にしていいわけではないんじゃぞタワケ」


翌日。

おはようございます。ヴェノラ」

「ああ、おはよう。野菜泥棒はこらしめておいたぜ」

「すごいぜ、ヴェノラ。これでこの町にも野菜が潤沢に供給されたな」

「さすがです、ヴェノラ……しかし」

「分かってるよ、ウロナ。『ここの野菜は葉物ばかりです。いくら野菜はいえ、これではバランスがよいとはいえません』。だろ?」

「さすがです、ヴェノラ。あと……」

「『できれば果物も欲しいところです』。だろ? 朝食は果物中心でいこう」

「さすがです、ヴェノラ」

ヴェノラは大地の恵みと農家の人々に深く感謝し、作物を噛み締めることを改めて心身に刻み込むのであった。

(#23-6へ続く)

2017-05-02

[] #23-4「ヴァリアブルオリジナル

不届き者を成敗したことでヴェノラの溜飲は下がる。

「いやあ、溜飲が下がった、下がった」

だが、体温まで下がってはいけない。

ヴェノラたちは、いそいそと風呂から上がった。


風呂が豪華だったので、食事についてもヴェノラたちは期待していた。

そして、その期待に応えられる豪勢さを確かに持ち合わせていたのである

「この宿の食事は美味しいな」

宿屋提供された料理はヴェノラたちの満足のいくものであった。

だが、仲間の一人であるウロナのみ、表情は曇っていた。

「確かに味と質はいいかもしれません。ですがバランスがよくありません。肉の量に対して野菜が少なすぎます。できれば果物も欲しいところです。あと塩分過多です」

ウロナのクレームを見越していたのか、近くにいた宿屋の主は語り始める。

「実はその件なんですが、のっぴきならない事情がありまして。最近ここいらの村で野菜泥棒が出没しているんです。おかげで野菜は質や量の割に値段が上がって困っております

なんと、それはよくない。

ウロナを筆頭に、ヴェノラたちの正義の心に火が灯る。

魔王退治も大事だが、まずはこれを解決しよう」

「その前に、出された料理を食べてしまいましょう。食べた後は消化するまで激しい運動は控えましょう」

腹が減っては戦は出来ぬというが、満たしすぎても戦は出来ないのである

ウロナはそのことを説き、ヴェノラたちも静かに頷いた。



準備を調えたヴェノラたちは、野菜が盗まれたという現場で張り込みをしていた。

しかし……

野菜泥棒は中々来ませんね……」

現世の時間計算すると、およそ午後9時になろうとしており、ヴェノラたちは痺れを切らしていた。

それはヴェノラたちの前回の睡眠から、十数時間が経つことを意味していたかである

「これ以上の夜更かしは体によくありませんので、帰って休みましょう」

「そうだ。あまり疲れた状態で寝てしまうと、睡眠コスパが悪くなり明日に響く」

「そうしよう。あと寝る前に歯を磨こう……うん?」

帰ろうとしていたその時である

まるでそれを狙いすましたかのように、暗闇の中で明らかに怪しい人物不審な行動をするのが目に入った。

「来たぞ」

相手もこちらに気づいたようで、高らかに宣言しだした。

夜も遅いのに大声で喋る、不届きなヤカラである

野菜泥棒だぜ。この世界でも泥棒はよくないことだが、それでなお実行する意志があるんだぜ」

「なんですって」

夜も遅かったが、野菜泥棒が登場した以上、見過ごすわけにはいかない。

ヴェノラは戦闘態勢に入る。

だが野菜泥棒相手がかなりやる奴だと勘付いた途端、踵を返して逃げ出した。

まりにも予想外な俊敏さに、ヴェノラたちは面食らう。

「ここは我がやろう」

そこで真っ先に気を取り直し、名乗り出たのは歴戦の勇士であるイセカだった。

歴然たる経験の差に、ヴェノラは羨望の眼差しを向けざるをえない。

大丈夫ですか?」

大丈夫だ。あくま身体能力客観的分析した結果、我こそが最適と判断したまで。別に女性から特別庇護しようだとか、そういう意図ではない。差別ではない、差別ではないのです」

しかし、あなたはそこまで俊敏な人間ではありません。あの野菜泥棒に追いつけるのですか」

「その必要はない。チョウナ・ブーメランなら遠くの敵に届く」

「イセカ、それはいけません。チョウナ・ブーメラン野菜泥棒の命が危ぶまれる」

「ではリ・イチ。魔法あいつを拘束してくれ」

「これ以上の時間外労働拒否します。よろしくありません」

こうなると頼れるのは一人しかいない。

ヴェノラである

「では仕方ない、皆は先に帰って休んでいてくれ。俺一人で野菜泥棒を捕まえる。個人経営だ」

(#23-5へ続く)
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