2021-04-24

[] #93-9「栄光の懸け箸」

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箸の持ち方を授業で徹底的に教えるというニュースは市内に轟き、そして他の学校も見切り発車気味に真似しだしたんだ。

そして広がりを見せると授業内容は最適化されていき、次第に抱えている欠点も見えてきた。

「あの、矯正用の道具とか、専用の矯正箸とかあった方が授業も捗ると思うんですが」

「そういえば、そうですね。こういう専門的な授業って、それ用の教材とか準備するものなのに。予算の都合とかでしょうか」

「え、矯正用の箸なんてものがあるんですか」

「知らなかったんかい……」

箸がこの国に定着してからかなり経つが、それを助けるための補助ツールが普及したのは割と最近だ。

だけど今まで、そういった意見が出てこなかったのには理由がある。

人は関心外事柄に対し、著しく知能が低下するんだ。

嘘だと思うなら、行きつけのスーパー普段は利用しないコーナーを巡ってみるといい。

パッと見だと、こんなもの何に使うんだって商品が並んでいるように見えて、実際はちゃんとした使い時あるものばかりだ。

箸を矯正するためのツールも、その一つだ。

箸を正しく持てている大人は、小さい頃から家庭での教育や、周りの環境などによって補助具なしで身につけた。

矯正用の箸が既に必要のない立場で、経験上そんなものがない前提で生きてきたので、存在認識できない。

箸を正しく持てないまま大人になったら尚さらだ

それを考える時がきても、矯正用の箸というもの存在し、それを使った方がいいなんて発想が出てこない。

当然、ガキは自力で箸を正しく持とうって気概がないので矯正用の箸なんて興味外。

そのため、今まで矯正用の箸を用意した方がいいという、考えてみれば当然の発想が出てこなかったんだ。

…………

しかし、いざ用意するとなると、これが中々に大変だった。

俺はその足跡を把握できていないが、たぶん箸の矯正のものより過酷だろう。

なにせ箸の持ち方について、これまでは個人問題、せいぜい小さな枠組みでの課題だった。

そんな中で巷にあった矯正用の箸は、ないならないでどうにかなる代物で、実際どうにかしてきたという現状もある。

そもそも正しく持てている人間には必要ないし、正しく持てるようになれば必要なくなる物だ。

から本腰入れて売ろうという大手メーカー存在しない。

それを学校規模で用意しようとなるとメーカーに依頼し、ほぼ一から作り始める必要があった。

当然それなりの資金必要なので、政治レベルで金を動かさなければならない。

まり、この件が、いよいよ市長の耳にまで届くということだ。

市長がこれまでにやってきた政策を顧みれば、書類にただ判を押すだけでは済まないだろう。

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