2021-04-22

[] #93-7「栄光の懸け箸」

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こうして、弟の学校で箸の持ち方が徹底的に教えられることに。

「まず、一本目の箸を鉛筆を持つ時みたいにして。この部分が動かないよう固定させるのがベスト」

「鉛筆の持ち方って?」

「じゃあ親指の付け根と、薬指の第一間接で支えてみて」

「それって鉛筆の持ち方です? ちょっと違うような」

「分かりやすいよう似てる持ち方を例にしただけで、今やってるのはあくまで箸の持ち方なのを忘れちゃダメですよ。あと話が逸れた分だけ授業が延びていきますからね」

「う、バレてたか……」

大人たちほど拗らせているわけではないが、その分ガキ共は感情に忠実だ。

以前から正しく持てている生徒にとっては分かりきったことをやっていて退屈。

できない生徒も完璧とはいかずとも何となく使えているレベルではあったから、わざわざ授業で矯正されるのは億劫。

箸の持ち方よりも、生徒たちのやる気のなさが難度を押し上げるといえた。

「手首は寝かせないで、2本目の方は親指と人差し指と中指で持ってみて」

「先生の中指が立ってる」

「それが正しい持ち方なんですか? それとも今の心境に対するジェスチャー?」

「すいません、先生も練習中で……みんなで一緒に学んでいきましょう」

しかも弟のクラスに至っては、教える側もマトモに持てていない状態。

先生は上手く教えられないしで、余計に生徒の意識は高まらないしで授業は難航した。

尤も、ちょっとマジメにやっただけで矯正できないからこそ、この手の問題は苦慮するのだが。

「おい、タオナケ。また超能力が暴発してんぞ。この世の箸全て破壊する気か」

「私、言われたとおりやってるんだけど、箸先がズレてムカつくのよ」

「タオナケは下側の支えが甘いから“クロス箸”になるんだよ。親指を動かしすぎてる。動かすのは基本的に人差し指と中指だけでいいんだよ」

いくら説明した所で、こういった矯正は最終的に日々の積み重ねしかない。

だが問題は、その“積み重ねる価値”を皆が理解しきれないことにあった。

ちゃんと箸を持てている側も、本質的な部分は説明できなかったから尚更だ。

「私、疑問なんだけど、この持ち方って本当に“正しい”の? 確かに、これだと小さいものは掴めるけど、大きいものとか無理でしょ」

「そういう場合は、箸で適度な大きさに切り分けるんだよ。少しずつ食べていく方が行儀よく見えるし」

「あと、満腹感も増して間接的なダイエットにもなるぞ」

「私、太ってないと思うんだけど、それは遠まわしな“デス&バースト宣言”かしら」

「で、デス&バーストってなに?」

「僕も知らない。話の流れ的に、体重に関することじゃないかな」

「いや、たぶん体重じゃないと思う」

「なんでそう思うんだい?」

「箸の持ち方(スタイル)を他人にどう思われようが気にしてこなかった奴だぞ。そんな奴が自分の体重(スタイル)を気にするか?」

「い、言われてみると確かに」

「さすが、マスダは目の付けどころがシャープだね」

「……キイィ!」

「おい、タオナケ。俺たちの箸まで壊すなよ」

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