2021-04-17

[] #93-2「栄光の懸け箸」

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今にして思えば、きっかけは何気ないものだ。

よく連れ立つ仲間達と、自宅で軽い昼食を摂っている時だった。

「袋麺を作るだけで、妙に自信満々だった時点で怪しく思うべきではあった」

「何でだよ。おいしいだろ」

「余計なアレンジをしても美味いのは、そもそもが美味いからであって、決して貴様の手柄ではない」

「まー、タイナイの気持ちも分かるよ? どこぞの情報サイトレシピ見かけて、試してみたくなったんでしょ。でも、オイラ達を巻き込まないでほしい」

仲間の一人にタイナイって奴がいて、こいつの調理したインスタントラーメン賛否両論だった。

まあ、“賛否両論”という表現をするときは、大抵“否”の割合が多かったりするんだが。

「基本インスタントラーメンは、袋に書かれてる通りに作るのが一番いいのだ。メーカー商品開発に試行錯誤して、この通りに作ることを想定して世に出したのだから

「茹で時間に関しては工夫すべきだろうけどな」

「なぬっ?」

それを皮切りに、インスタントラーメン談義が始まった。

「器に移して、テーブルに持っていく間にも麺はスープを吸い続ける。それを計算して、早めに火を止めた方がいいんだよ。もしトッピングをするなら尚更だ」

「いや、ちゃんと茹でるべきだよ。小麦粉はしっかり熱を入れないと消化吸収しにくいんだから

「その指摘は的外れだ。基本インスタントラーメン油揚げ麺だから、既に熱を加えてある状態だ。極論、茹でずに食べても問題ない」

「えー? それはさすがに……」

あくまで極論だと言っただろ!」

交わした内容は、突き詰めれば突き詰めるほど、どうでもよいものとなっていった。

だが、どうでもいいことほど仲間内では熱を帯びやすい。

インスタントで洗い物が増えると、なんか嫌じゃないっすか? だからイラは鍋に入ったまま食う」

「それだとスープが飲めないだろ」

レンゲを使えばいいじゃないっすか」

「洗い物が増えてるぞ」

「というか、スープなんて飲むべきじゃないよ。あれにどれだけの塩分が含まれいるか、それに溶け出した油も……」

「そんな健康面まで気にするなら、もうインスタントラーメン食べない方がいい」

そうして熱を帯びた議論は、茹で過ぎた麺のようにグダグダになっていく。

挙句、当初の目的からどんどん外れていくわけだ。

もしかしてタイナイはあれっすか? ヌーハラとか言い出すタイプ?」

「なんだよ、そのイメージ

「なあ、ヌーハラってなんだ?」

ヌードルハラスメント。麺をずるずる啜る音が不快だという指摘だ」

「なんだそりゃ。落語蕎麦しぐさとか見たことないのか。あれは文化、むしろ音をたてるのがマナーだろ」

「そこまで言い出すと、些か主語が大きすぎる気もするけど」

ここで文化だのマナーだのの話にシフトしたのがマズかった。

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