「……分かりました」
あくまで個人的な推測でしかないと念を押して、男は話を続けた。
「この両社が行っている戦いにおいて、勝負の決め手とは何だと思いますか」
だが、一企業がテナント戦争で国家戦争レベルの武器なんて使ったら大問題だろう。
そして耐久を上げすぎれば、決着が一向につかない。
この戦いはプロモーションの側面もあるため、多少の競技性を持たせる必要があった。
そのためには、ほどほどの威力、ほどほどの耐久力でなくてはならない。
技術的なアプローチをしすぎるとウケが悪いから、レギュレーションを設けているってわけだ。
「じゃあ、何が勝負の決め手になるんです?」
「瞬発力、反応速度でしょうね」
反応が早ければ攻撃までのタイムラグも減るし、回避もしやすい。
武器の威力や耐久力で差をつけられないなら、的確な攻撃こそ重要になってくる。
では、その反応速度を上げるには、どうすればいいのか。
「方法は色々とありますが、最も効果的なのは識別コードの単純化でしょう。複雑な処理を介さなければ、対象をスキャンしたと同時に攻撃が開始できます」
だが、それは敵や味方はもちろん、スキャンした対象を大雑把にしか判別できないことを意味する。
あの時、あの場所に母がいなかったとしても、いずれ誰かが被害に遭っていただろう。
「ロボットの反応速度を上げるために、わざと誤爆上等の作りにしていたってことですか!?」
「何度も言いますが、これは自分の推測でしかありません。何らかのバグ、設計ミスという可能性も大いにあります」
というより、真実がどうあれ“そういう結論”にしてくるに違いない。
そんなことを言ってしまえる企業に、誰も金なんて払いたくない。
それは企業側も分かっているだろう。
取り返しのつかない状況になったのなら、せめてマシな言い訳をして傷を浅くするしかない。
最も深い傷を負った母にとっては、堪ったものではないだろう。
いま自分の中でフツフツと煮えくり返る腸すら、機械に取って代わられている。
そのことを思うと、尚さら怒りが湧いてきた。
「ですが医療関係の技術はラボハテが専攻していたので、マスダさんの治療は我が社の主体で行い、金銭面での補償についてはシックスティーンが……」
そこから、医者らしき男は詳しい補償や母の容態について説明を始めたが、まったく耳に入ってこなかった。
この時、母の頭の中はシックスティーンへの暗い情念で溢れていたからだ。
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