2021-03-10

[] #92-7「サイボーグ彼女

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「私の怪我は、両社で行われた催しが発端なんですよね」

はい、おっしゃる通りです。テナントを奪うための戦い、という体で……」

「その戦いに参加させてもらえないでしょうか」

「ええっ!?

みんな困惑していた。

この催し自体、もはや中止という方向で両社共意見が一致していた。

それを再開するどころか、被害者が自ら乗り込みたいと言い出したのである

自分をこんな目に遭わせた、いわば死地といえるような場所なのに。

しかし、母はこんなもの死地だなどと思いたくなかった。

クダラナイ茶番の幕を、自らの力でもって閉じる。

それこそが、自分が前に進んでいくのに必要なケジメだと考えていたんだ。

「いや、しかし、この戦いはロボット同士によって行われるもので……」

「今の私だってロボットみたいなものでしょう」

無理筋だったが、ここまで押しが強いと断るわけにもいかなかった。

自分たちの過失でこうなった以上、被害者要求は飲まざるを得ない。

まあ、莫大な賠償金だとか法外な訴えをされるよりはマシだという打算もあったのだろうが。


この出来事は、世間に驚きをもって迎えられた。

企業同士の争いに巻き込まれ少女が、機械身体に生まれ変わって戦いを終わらせる』

ロボットVSサイボーグ少女

……なんていうストーリーは傍から見れば分かりやすく、極上のエンターテイメントのものだ。

もちろん実在する被害者を、そのようなストーリーで消費しようとする姿勢について疑問視する声もあったが、大局的には肯定的な声が多かった。

企業側にとっても、“本人たっての希望”という建前があり、信頼回復のため催しを再開できるのは願ったり叶ったりだった。


母はシックスティーンへの復讐という名目のため、一応はラボハテ側のチームとして参加。

そうして行われた第一戦、勝負は圧倒的だった。

母の一人勝ちである

ラボハテ側に味方ロボットもいたが活躍はないに等しく、実質一人で全滅まで追い込んだ。

観客からすれば怒涛の展開に見えるだろう。

しかし、事情を知る者からすれば必然的な結果だった。

以前、説明されたように、この戦いにはレギュレーションが設けられている。

これのせいで、ロボットは程ほどの強さにしかできない。

対して、母のスペックは周りのロボットよりワンランク上だった。

更にロボット側が、母に万が一のことがないよう更に武器威力を下げていたのである

母がそうしろと言ったわけではないが、相手はこの件で大怪我を負った被害者

手加減や忖度とまではいかずとも、技術者の間で遠慮や気負いがあったのかもしれない。

また、この時点では状況判断力人間の方がまだ優れていた。

機械情報処理時間をかけている間に、母は既に間合いを詰めて攻撃を行っている。

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