2021-03-06

[] #92-3「サイボーグ彼女

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「……邪魔だなあ」

目的地に向かっていた途中、野次馬の壁に進行を阻まれた。

その壁の中で何をやっているのかは見えず、ただ轟音が頻繁に聴こえてくるのみ。

大規模な工事なのかと思ったが、そのために人が集まっているとも考えにくい。

判然としないが、いずれにしろやるべきことは決まっていた。

はいちょっとゴメンナサイよ~」

母は怯むことなく、人の波を泳いでいった。

観衆が何を見ているかなんて興味はない。

だがルート上にある横断歩道橋を渡らないと、目的地まで酷く遠回りになってしまうのである

それではタイムセールに間に合わないかもしれない。

この時に自分がした判断、一連の出来事を、母は今でも夢に見ることがあるらしい。

「はあ……遠まわり覚悟で走った方が良かったかな」

息を切らしながら横断歩道橋を渡っていた時、遠くから何者かの声が聞こえた。

「そこにもいたか!」

「え?」

その声の主がいる方へ振り向くと、視界に広がったのは目映ゆい閃光。

その光に包まれた瞬間、凄まじい衝撃が走ったような気がした。

それが気のせいなのか気のせいじゃないのか確認する間もなく、そこで母の意識は途切れた。

…………

次に目覚めた時、母がいたのは病室だった。

おはようございます、マスダさん」

医者らしき人物の声が聴こえる。

そうか、自分事故に遭ったんだ。

少し混乱していたが、現状の把握に時間はかからなかった。

気を失う前の記憶から、かなりの大事故だったことが推測できる。

だが意外にも、身体問題なく動くのが分かった。

シチュエーション的に手足の一本でも捥げているんじゃないか不安だったが、どうやらあの閃光と衝撃は記憶違いだったのか。

「どこか、身体に異常は感じませんか?」

「ええ、特には……」

そう言って上半身を起こした時、強烈な違和感を母が襲った。

「……ん?」

問題なく動ける、いや“動けすぎる”のである

その割に自分の体じゃないような、チグハグ感覚

「なに……これ」

得体の知れない気色悪さに吐き気がこみあげてくる。

わず、手で口を押さえた。

その際の感触で、違和感の正体に気づいた。

「なんか、固い……」

自分の腕を、まざまざと擦ってみる。

肌の質感は柔らかかったが、強く握ってみると鉄のような芯があるのが分かる。

「どうやら、触覚認証機能しているようですね」

医者らしき男が、ふと聞きなれない言葉を発した。

母は、その言葉意味何となく理解できてはいたが、それでも聞き返さずにはいられなかった。

「あの、これ私の身体なんでしょうか?」

「どう答えればいいか……」

男は適切かつ穏当な表現ができないかと唸っていた。

だが、しばらく考えて無理だと思ったのか、歯切れが悪そうに言った。

「……少なくとも、半分は」

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