2021-03-04

[] #92-1「サイボーグ彼女

近しい間柄でも知らなくていい、聞きたくもない身の上話ってのはある。

俺も語りたがりな性分ではあるが、それでも明け透けってわけではない。

そういうものは誰にだって一つや二つ、三つや四つあるものさ。

だが世の中の人間は星の数ほどいる。

そして数多の星は無理やり並ばされ、こじつけられて星座になっていく。

……今の喩えは我ながら意味不明すぎたな、忘れてくれ。

まー、つまりだな、そういう事柄抵抗なく話せる奴もいるだろうなってことを言いたいわけだ。

なんなら嬉々として語る輩もいるだろうな。

しかし、それが両親ともなると、身内としては居心地が悪いったらありゃしない。

特に馴れ初め混じりの昔話なんて最悪だ。

「その馴れ初めの結果として、お前たち子供が生まれたんだ」って、そう遠まわしに言われているようなものからな。

そりゃあ、俺の思考回路が繊細すぎるのもあるが、やっぱり親のイチャコラなんて聞きたくない。

話の内容が興味深いかどうか以前の問題だ。

ほら、言うだろ、夫婦の組んず解れつなんて犬も食わないって。

いや、もしかしたら犬は食うのかもしれないな。

じゃあ、今回は個人的羞恥心を捨てて、飢えた畜生向けに両親の昔話をしようじゃないか



話は20年ほど前まで遡る。

当たり前だが俺たち兄弟は生まれていない。

そして両親たちも誰かと結ばれ、子供を授かる可能性なんて想像していなかった。

そういった願望が自身にあるかどうかすら真剣に考えたことはなかったという。

それは、この当時の“忙しなさ”も理由としてあった。

なにせ、今でも社会の授業とかで長々と学ばされるほど激動の時代だ。

他に気にしなければならないことが多すぎて、大半の人にとって子供だの結婚だのは二の次ですらなかったのである

特にしかったのが技術革新であり、それに伴う社会意識改革アップデート)だった。

俺の視点から現代を顧みるに、その結果は間違いなく一定の成果をあげているように見える。

しかし変化とは必ずしも進化意味せず、その経路は綺麗に整備されてもいない。

新しいパソコンOSが使いにくく感じたり、サイトデザインが変わって見づらくなったりするのと同じだ。

今まで確かだと思われていた価値観が根元から崩れ落ち、改悪を嘆く者も多くいた。

もちろん、必要性理解している人も多くいたが、新しく不確かな価値観は慣れるまで時間がかかる。

なのに日夜、行われるメンテナンス

意味があるのか分からないまま迫られるアップデート

人々はその激流に身を任せるか、必死にもがくことしかできない。

そうして蓄積される不安、不堪、不可、不穏、不軌、不平、不満……

それらは渦となり、新たな渦を呼び、より大きな渦を巻く悪循環を生む。

ある時、いよいよ、その“渦”が明確に形となり、若かりし母と父は巻き込まれることになる。

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