はてなキーワード: 休火山とは
「はー、やれやれ。ある意味で尤も重要なのに、尤も簡単な仕事なんですよね。政治システムのバグだと思うんですよ。放置せずデバッグすべきです」
「その話、何回目ですか。もし本当に問題と考え、解決すべきと思っているのなら、ここでおっしゃらず議会で“デバッグ報告”してみては?」
「他に優先したい議題があるとかで、スルーされるのがオチですよ。いち市長の意見なんて、上は都合のいいときしか聞いてくれません」
「でしたら、せめて目の前の書類と戦ってください」
最近の市長はというと、これといった目新しい政策を打ち出すこともなく、良くも悪くも“市長らしいこと”に従事していた。
だが、その状態はいわば休火山のようなもので、政治魂が噴火するのは時間の問題といえた。
「えーと、なになに……『授業に使う矯正用の箸を、大手メーカーに受注・依頼するための予算』……」
「義務教育で箸の持ち方……」
「予算的に問題ないので、後は認可だけ……市長、いかがしました」
少なくとも、呟いたダジャレを自嘲する程度には落ち着いていた。
「いや、箸の持ち方についても賛成派、ということにはなると思います。私自身、箸はちゃんと持てていますし、ちゃんと持てた方がいいとも思っています、けれども……」」
市長の歯切れは悪かった。
いつもの強弁は鳴りを潜め、ひとつひとつ言葉を選ぶように喋っている。
「幼少時代、親に厳しく指導されましてね。ちゃんと持てるようになって良かったと今は思いますし、親の教育にも感謝はしています、けれども……」
「なにか嫌な思い出が?」
「そりゃあ当時の心境を顧みると、決して愉快とは言えませんよ。意味すら分からない歳で親に言われるがまま、慣れない食事を強要されるわけですから。大好きなひじきの煮物を、ちびちびと時間をかけて食べていた時は妙に悲しかったのを覚えています」
「その教育の賜物、“反動”というべきなのでしょうか。私の中では箸を正しく持つことへの信念と同じくらい、それを相手に求めることへの抵抗感もあるんです」
その歴史を背負っている市長も、この件ばかりは普段の向こう見ずな姿勢を正すしかなかった。
「市長のお気持ちは理解しますが、皆が皆そう思うわけではないですから」
「むしろ“逆”かと。誰が、何に対して、どう思っているか分からないからこそ様式に則り、規範を形作るのです。でなければ人々は何を正しいと思い、行動すればいいか分からなくなります」
しかし、市長一人が頭を抱えたところで、書類の段階では突っぱねることも難しい。
福島第一原発はおそらくなるべく小さくしてから石棺で覆うことになるだろう。
それは石炭の採掘がつくったボタ山のような、原子力発電がつくる人工的な山だ。
そして一定期間ごとに再度コンクリートで覆うということを繰り返すことになる。
定期的に工事費が消費される。
日本にいくつもある休火山・活火山もある程度定期的に噴火を繰り返している。
その度に人が亡くなったり、集落が破壊されたりという不可逆的な変化を引き起こす。
もちろんまとまった額のお金も消費される。
日本の歴史のある時期に出現した巨大な人工物。
それは日本の発展に寄与したかもしれないし、していないのかもしれない。