はてなキーワード: 煙草とは
新宿駅西口側の、どこか栄えてる感じの商店街から、一本裏道に入ったところに、その二階建てアパートはあった。住人の方は変に記憶にこびりつくような癖のある人ではなかったが、とにかく部屋が!特殊過ぎて記憶に残った。
どんな部屋なのかというと、間取りは普通のワンルームで台所とユニットバス付な何の変哲もない部屋だったのだが、部屋全体がとにかく湿気っぽかったのだ。湿気てるというより、びしょびしょ、みたいな。
そこに呼ばれたのは1月の下旬頃。関東地方が一番乾燥しているシーズンだというのに、そのアパートは梅雨以上のジメジメだった。まずドアノブを触ると、ビッチャァ……ってする。シャワーを使うと、部屋全体が霞みがかったようになる。ガラスと金属の表面に結露がびっしり着く。そんな室内で、そこの住人は普通に洗濯物を部屋干ししていた。
と、その人は言った。いやいやいやいや、そういう問題じゃなくない?と思った。湿度の高い部屋の高い所にある本棚に、六法全書とか会社法の専門書などか並んでいた。これらも猛烈に湿気を含んでいるのだろうなあ、と思って眺めていると、「弁護士ではなくて普通の会社で法務関係の仕事をしているんだ」と教えてくれた。弁護士や裁判官検察官以外でも法律の勉強をしなければいけない人がいる、ということを、私は初めて知った。
スッパマンとDr.マシリトを足して二で割ったような容貌の人だった。まだ商店街には沢山人が歩いている時間に、部屋の明かりを消してプレイするというのは中々乙なものだった。明かりを消しても外が明るいのであまり暗くないし、外が賑やかなのだ。
ところで、ある女性エッセイストでやっぱり西新宿に住んでいた人が、部屋の湿気が凄かったとエッセイに書いてたような気がしたが、同じアパートあるいは同じ商店街に住んでいたのだろうか。
1月下旬ですでに花粉症にかなりやられている人だった。演奏中にくしゃみをする訳にはいかないので、きつめの薬を飲んでいるが、そうすると今度は眠くて仕方ないと言っていた。
弦楽器をいくつも持っていて、それらを見せてくれた。楽器の名前を当ててみてって言われたので、左からヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスですって答えたら、感心された。どこで教わったのって聞かれたので、中学の音楽の教科書に載ってましたって答えたらなんかガッカリされた。
鰻の寝床状のやたら細長ーい部屋に住んでいた。騒音をとても気にしていた。部屋の一方の端にテレビ、もう一方の端にソファー、その裏手にマットレスとお布団を敷くという、変わったレイアウトのお部屋だった。棚の横に弦の張られていないエレキギターが三本くらい飾られていたので、ギターを弾くのですか、と聞いたら、いや全然弾けないから、という答え。後に気づいたが、部屋にエレキギターを飾ってる人って大抵、エレキに言及されるのを、何故か嫌がる。
その人は喫煙者で、煙草の吸殻を円筒形の灰皿に捨てていた。その灰皿は蚊取線香の入れ物にちょっと似ていて、そして蓋の中央に黒いボタンがあって、それをポチっと推すとプロペラみたいなものがビューンと回って、吸殻を缶の中に落とす。そんな仕組み。
初めて呼ばれた時に、その人はソファーに座って煙草を一本吸い、灰皿に押し付けて揉み消し、ボタンを押した。吸殻がビューンと灰皿の中に消えたあとで、その人は言った。
「楽しい?」
「何が?」
と、私は答えた。
「日々」
と、彼は言った。
日々!?なんかよくわかんないけど凄くカッコいい!!私はこくりと頷いた。
そして、お竿があまりにも大きくて太すぎるのに苦労しているようだった。なんとか本番をしたいといって頑張っていたが、どうやっても私の中に巨大なお竿は先端数センチも入らず、最終的にはおしっこ飲ませてくれればそれでいいよ、みたいな妥協をしていた。
(どう見ても明らかに入らない巨大さなので、私はあえて本番を断らなかったのだ。どうせ無理だから)
その人はドライバーさんに女の子の尿を飲みたいとオーダーしていたらしく、その人からの指名が入ると、私はドライバーさんから、さあ沢山お茶飲んで!と急かされた。
でも、お茶を大量に飲んでもいざプレイになると緊張して一滴も排尿出来ず、プレイ後にマンションを出た途端にトイレに行きたくなって、ドライバーさんにトイレくらいお客さんのとこで済ましなよー!と文句を言われたのだった。
一体何でそんなにギターは弾けないと強調するのか謎。別に弾いてって無茶ぶりした訳でもないのに。
「ただ聞きたいってだけで他意はないのだけど、その傷って何?」
と私に聞いてきた唯一の人である。子供の頃に病気の手術をしたときの痕で、結構目立つのに、お客さん達はその人以外は誰一人としてツッコミを入れて来なかった。
私が正直に手術の痕だと答えると、
「ほー。これまたただの素朴な疑問だけど、気にしたりとか全然したことないの?」
というので、
「赤ちゃんの頃についた傷なので、あるのが当たり前で気にしたことないです。お客さんとしては気になるものですか?」
と聞き返したら、
「いや全然気にしないよ!」
とのこと。
気にしないのかぁ。
あるものを拵える職人さん。何を作る人だったかは、身バレしそうなくらい珍しいものなので、内緒。
お部屋の調度品がオリエンタルな感じだった。中国のものか韓国のものかよくわからなかったがとても良いもののように見えた。
私がお絵かきをすることが好きな癖にアートに関する知識をサッパリ持っていないと知るや、ビアズリーの版画の画集を出して見せてくれた。世の中には観るべきアートが沢山あるよ、と。
オリエンタルな家具を置いた部屋の隣の寝室にはロードバイクが突っ込まれているという謎。しかも本人は運動とは全く縁の無さそうなポヨポヨ体型だった。万引き常習犯と同じくらい腹筋がない。でも七十歳前後のお爺さんなので腹筋がなくても別におかしくはないのかもしれないが。
こうの史代の『夕凪の街、桜の国』を絶対に読むべきだといって、無理矢理押し付けるようにして貸してくれた。
「君には化粧なんか不要だ」
といって顔面にシャワーかけるのは迷惑以外の何ものでもなかった。風俗嬢が素っぴんで出勤して、誰が喜ぶんだよぉ。
その人は過去にお気に入りの嬢をドライバーのNさんに寝取られた(?)とかで、Nさんをやたら敵視していた。
私は指名されただけで、実際会ったことはない。指名をされた日、丁度私は休みだった。
当時私はその小説家の大ファンで著作の殆どを読んでいるほどだったが、かといって作家本人には会いたいと思わないので、指名された日に丁度休みだったのは、運が良かったかもしれない。
店長は、その小説家を常連客だというのに嫌っていた。一方的にライバル認定していた。
「そんなヤツより、増田ちゃん誰か他に有名人で会いたい人っていないの?」
と店長が言ったので、
「んー、強いて言えば、Gackt」
と答えたら、
と店長はぷりぷり怒り出した。何でそんなにGackt嫌われているのか謎。お笑い芸人なら結構会わせられるツテがあるよっていうから、
「じゃあレイザーラモンHG」
って答えたら、「無理。」って即答された。
悲喜こもごもを抱えた背中を見送ってから、大学の一室では無名戦士たちの戦いが繰り広げられいるのを知っているだろうか。
ビシッとスーツを着た事務屋がガラガラと台車を押しながら戦場に入ってくる。それが開戦の合図。
待ち受けるはラフな格好をした歴戦の猛者、ニコニコ顔の志願者、騙されて連れてこられた無表情の新人。
誰もが等しく山のように積み上げられた紙片に向き合う時間が始まる。
ここから一週間、ひたすら紙に書かれた論理を追う。そしてそれが正しいのか考え続ける。
綺麗に述べられた論理は癒しである。極まれにそういうものを見つけると、ハッカのような爽やかさが頭を駆け抜けるようだ。
ミミズのような字ならまだ良い。
脈絡のない記述、楔形文字のような乱文、何か言っているようで何も言っていない小泉構文など無意味から意味を見出すことほど苦痛はない。
たかが紙束と侮るなかれ、たくさんの記述を読めば読むほど、自信、あきらめ、焦燥感などの情景が思い浮かぶ。
戦いも始めのほうは新鮮さがある。
ときどき、意表を突かれる良いアイデアが書かれている。そんなときは野球の審判よろしく部屋の中心に輪になって審議する。
紙片との格闘が進んでいくとカフェインでドーピングする。煙草休憩が多くなる。
あるものは「もう無理じゃ~」といって部屋を飛び出ししばらく帰ってこないこともある。
別のものは、紙片を見ながら「センスねえなぁ~」と嘆きのためいきが出る。
そんな戦いも終わりが見えてくれば、希望を感じ、最後の一枚を終えたときには拍手喝采となる。
再びスーツを着た事務屋が押す紙束を乗せた台車を見送れば戦いは終わる。
だが、その数字の裏側にある戦場を誰も知らない。感謝されることもないが文句を言われることはある。
それでも、無名戦士たちがほとんどタダ同然の報酬にもかかわらずこの戦場を辞めないのはなぜか。単なる義務感かもしれないし、サービスの精神からかもしれないし、自らの頭脳に対する矜持かもしれないがその答えは誰も知らない。
感謝してくれとは言わない、気づいてくれとも言わない。ただ、あなたが文字を書くとき、記号を書くとき、数式を書くとき、それを読む無名の人々がいることを忘れないでほしい。
祖父と私は、地元にあるがゆかりはないマンションの非常階段前にいて、祖父は煙草を吸っていた。祖父は10年前に胃がんを悪くして亡くなったのだった。10年ぶりに煙草を吸う祖父は、マイセンがメビウスになったことに驚いていた。
私は普段煙草を吸わないが、久しぶりに祖父に会えたのが嬉しくて、一本もらうことにした。しかしすぐに、おもむろに咳き込んでしまった。咳は全然止まらず、呼吸が苦しくなり、そこで目が覚めた。
目覚めてしばらくして、ようやく咳は収まった。
祖父が吸っていた煙草はハイライトだったことを思い出した。非喫煙者の私には大して執着もない煙草の銘柄が、わざわざ夢で差し変わったのはどういう理屈なのか。
ここのところ体調不良が続いている。
私の仕事はそこらのよくあるSIerなのだが、残念ながら、体調不良でおいそれと休めるホワイトな社風ではない。他者を虐げる力だけで出世した上司は、部下の自己管理の怠慢を責めこそするが、体調不良を労るようなことはない。
とはいえ、うかつに休んで、万が一例の感染症であることが発覚、そのまま拠点初の感染者になんて、それこそ死んでもなりたくない。自分がきっかけで拠点閉鎖、想像もしたくない。死ぬか、せめて他の感染者が出るまでは、耐えなければ。
経営トップ、そして経団連、ひいては国や政治家は、やはり労働者は使い捨てで、ギリギリまでまともな対策はせず、現場の裁量にまかせ、結果として自己責任な空気をあえて作っているのではないか。最悪のチキンレース、どんなに感染が広がっても出勤を続けさせ、感染すれば拠点閉鎖の責任が、個人に重くのしかかる。
くだらないことを考えていると、また咳が止まらなくなってきたのだった。今度は咳き込んでも何かから目が覚めることはなかった。早く眠ってしまいたいが、眠気も遠ざかってきた。明日も仕事だ。
「旅の恥はかき捨て」とは言うが、出張先でデリヘルを呼ぶときは、解放感と寂しさが同居する言うなれば旅情ともいうべき感情を覚えることがある。
その当時、私は首都圏の零細編プロに勤めるしがないライターだった。出張先が能登半島と決まった時には、久しぶりの遠征に心躍る反面、アクセスの悪さにやや辟易したことを覚えている。何を隠そう、その当時、私は素人童貞であった。肩書きの解説は他の文献に譲るとして、端的に言えば、ごくありふれた、さえない彼女なしの三十路前の男であった。
無事現地でクライアントと合流後、取材自体は滞りなく進んだ。関係者と軽い打ち上げをした後、事前に予約してもらっていた七尾市のホテルに泊まることとになった。七尾市は和倉温泉という高級温泉街を有し、バブル経済華やかなりし頃は北陸有数の歓楽地であったそうだが、少なくとも駅前の景色からはその面影は全く感じられなかった。
ホテル備えつけの温泉に浸かった後、外気にあたりたくなり外へ出る。能登の地酒と熱い湯にあてられ、火照った身体に冬の外気が心地よい。時間はちょうど0時を回ったところ。ポケットの煙草を取り出そうとしたところで、ふと、デリヘルを呼んでみようかと思い立った。
旅先の開放感と、久々の出張先で仕事を全うしたことへの安堵感がそうさせたのか。気づけば私はgoogleではじめにヒットしたお店に電話をかけていた。
すぐにボーイと思しき男性が電話口に出た。七尾市のホテルにいることを伝えると、10分ほどでやってくるという。慌てて財布を取り出すと、諭吉がたったの一枚寂しそうにこちらを見ている。速やかに嬢の派遣を依頼すると同時に、最寄りのコンビニまで走る。現金を調達して帰ってくると、ホテルの前には既に一台の黒いセダンが停まっていた。
近づいていくと、「〇〇さんですか?」と声をかけられ、車の中から二十代と思しき可愛らしい女性が現れた。彼女は、自分のことを『春華』と名乗った。連れ立って足早にホテルに入る。クライアントに鉢合わせしたら最悪首が飛ぶなーと考えつつ、フロント男の若干の視線を感じながらそそくさとエレベーターに乗りこんだ。
無事に何事もなく部屋へ入って安堵する。春華が時間を確認しタイマーをセットする。素人童貞とは言え、私はどんな時にも紳士さを忘れない男だ。ホテルの一室で、互いに知らない者同士が邂逅するとき特有の気まずさのなか、精一杯何かしてあげようと彼女のコートをかけようとしたが無難に断られる。間を持て余した私は、無意味に自分の荷物を移動したりバッグの中身を整頓したりした。そんなことをしている間に春華は速やかに全裸になりユニットバスへと消えていった。
程なくして「どうぞ~」という声が聞こえ、そこではじめて、私は思い出したように全裸になり、ユニットバスの扉を開けると、そこには全裸の春華がいた。
バスの中で体を洗ってもらう。特に、愚息の洗い方は丁寧だった。年齢を聞くと「二十歳です。」短く答える。実際には22,3だろうと思ったが、それ以上の詮索をしないのが紳士たるもの。
さて、ベッドに身体を仰向けによこたえ、非常にスムースな流れで、春華は私の愚息を口に含んだ。極めてスタンダードなフェラチオである。愚息がぬらぬらとしたあたたかいものに包まれ、大変に心地が良い。ただ、少々打ち上げで飲みすぎてしまったようだ。それなりの硬度には至るものの、一向に射精する前兆・気配がない。春華も焦りを感じはじめたのか、次第にストロークが大きくなり、それに伴い彼女の歯が軽く当たるようになったことで、愚息はいっそう前立腺の門番を奥へと押しやってしまうのであった。
体勢に限界を感じた私は、体を横に倒し、極めて紳士的な態度で自分の手のひらに春華の頭をのせてやった。そうすることで、彼女がよりリラックスした体勢で愛撫に集中することができ、私も腰を動かすことで刺激をコントロールできる、一石二鳥の策略である。これで多少はマシになったものの、射精の神様はまだ一向に降りてくる気配がない。
すでに彼女が口淫をはじめてから体感でおおよそ15分が経とうとしていた。それが意味することをデリヘル未経験の諸兄姉にもわかりやすく説明するのも紳士たる者の務めである。今回のプレイ時間は契約上60分間の予定だが、実際のプレイ時間はその半分がせいぜいといったところ。タイマーは部屋に入った瞬間からスタートし、そこから互いの身を清め、ベッドインするのにおよそ15分、終了15分前にはタイマーが鳴り延長の是非を判断するので、実際のプレイ時間は30分にも満たないことも多い。したがって、その時点ですでにプレイ時間の半分が経過しようとしてた。
このまま続けてもらって射精できる可能性は低い。おそらくはやってできないことはないのだが、万が一逝けなかったときに、嬢の自尊心を著しく棄損してしまったり、自分の心に黒部の峡谷ばりに深いわだかまりを残すことになる。そんな未来は絶対に避けたかった。
果たして私はそれを打破するイデアを持っていた。そして恥甲斐もなく、それを言葉にする軽薄さをも持ち合わせていたのだった。
「あの、、ちなみに、お金積んだら挿れさせてくれるとかってあります?」
彼女は即答した。
「ゴムありなら一万でいいですよー」
「あ、それじゃ、お願いしまーす」
かくして私は令和はじめのセックスを七尾のデリヘル嬢と修めることとなったのである。なぜ私がコンドームを持参していたのかという点についてここでは触れないが、プレイの内容自体は、とりたてて特筆すべきことはなかったということを書き添えておく。
正常位で射精にいたり、そのままゆっくりと倒れ込む。いくばくかの満足感と虚脱感に身を委ねたのも束の間、終了のアラームが鋭く鳴り響いた。
「すごいタイミングですね。」と笑いながらユニットバスへ導かれ、再び火照った身体と愚息を丹念に洗ってもらう。ふと、春華の首元に光るネックレスが目に入った。無事に時間内に射精に至った達成感と、形だけとはいえ、挿入事後の妙な連帯感も手伝い、バスの中で少し雑談をした。以前は新宿のソープランドで働いていたこと。昨日に初めて七尾で出勤したが指名が一件も入らず店のボーイにめっちゃ謝られたこと。
そこで私には不覚にも、邪な思いが芽生えたのだった。それはすなわち、春華が七尾にきて初めてセックスした相手が私だったのはないかと。
恥を忍んで聞いてみた。
「もしかして、七尾にきてから初めてのセックスだったりします?」
「いや、はじめてではないですね。」
と言った。
なんと。ということは本日すでに同様のケースが少なくとも1回はあったということか。内心動揺を隠せず、「そっか~。そうだよね〜」といった感じのとりあえずのリアクションを返しながら、どう繕ったものかと必死に思案していたところ、彼女は少しの沈黙の後、くしゃっと表情を崩して、こう言った。
「私、素直だから言っちゃうんですよねー。お店の人には、必ずそういう時は”はじめて”って答えた方がお客様は喜ぶからって言われてるのに。風俗嬢向いてないんだわー」
そのあけすけな笑顔に一瞬で引き込まれ、あまりの可笑しさに思わず、私はユニットバスはおろか部屋の外まで響き渡ろうかという声で大笑いしてしまった。彼女も「そんなに笑うことありますかー!?」と気恥ずかしそうに笑ってくれた。その時たしかに、彼女はどこにでもいる二十歳前後の女の子の顔に戻っていた。
それからいろんな話をした。家族のこと、5人兄弟の長女であること。首のネックレスは二十歳の誕生日に弟からプレゼントされたものであること。以前は飲食店で働いていたこと。好きな音楽のこと。
彼女がback numberが好きと言ったので、Spotifyで人気順に再生した。まったく聞かない流行りの曲も、嘘をついて一緒に聞いて、いいねと言って笑った。
2回目の終了アラームが鳴り、春華を外まで送る。送迎の車がきていることを確認し、手を振った。
30になった今も素人童貞の肩書きは消えないが、確かにあの瞬間彼女はどこにでもいる二十歳の女の子だったし、いち素人女性と一緒に体を洗い、身体を拭き合い、家族の話や好きな音楽の話をして一緒に笑った経験は、確かな現実のものとして記憶に刻まれている。
大学生の時にできた初めての彼女は韓国出身だった。かなり逞しいというか負けん気の強い子で、学校の課題グループをきびきび引っ張って進めるような性格。僕の方から惚れて何度も告白し、ようやく付き合ってもらえることになった。
いわゆる整形顔でもなく、芸能人のように美人というわけではなかったが、とにかく僕にとっては最高の時間だった。初めての恋愛だったこともあるとは思う。
最高に近い彼女には、僕にとって気になるところが二つあった。
食事で音を立てても気にしない(いわゆるクチャラー)ところと煙草を吸いながら唾を吐くところである。
お国柄・文化の違いなのか彼女個人の問題なのか、知り合いに他の韓国の方が多いわけでもないからわからなかったが、とにかく僕はその二点だけは本当にやめてほしかったんだけども、何度注意しても笑って聞かないような子だった。Sだったのかもしれないし、僕自身もそういう欠点を差し引いても好きなので仕方がないというか、とにかく目を瞑って付き合っていた。
繰り返しになるが、彼女と付き合っていた時間はやはり無条件に幸せだったと思う。
過去形で書いている通り、それとは関係ないことから別れてしまい、僕もその後の人生で数人と恋愛関係を持った。
ただ、誰しも素敵な女性や彼女に元カノの面影を重ねてしまうことはあるだろうが、僕の場合は綺麗に物を食べる子や煙草を吸わない子を見ているとどうしても彼女を思い出してしまう。元カノと比較するなんて最低だとはわかっているが。
それも、そういうところが元カノより良いなと感じるのではなく、やはり元カノとの時間は楽しかったなと、つまりいい記憶として思い出してしまう。トリガーはいつも僕が苦手だった二点なのに。
彼女は2人いたと思う
1人は気位が高いというか、いい意味で冷めているというか、渇いているというか、ドライというか、とにかく気高に振る舞っていた
もう1人は酒に酔っている時と風邪をひいたときに現れて、好きな人に好かれないことを嘆いて涙で枕を濡らすような人だった
愛して止まない男がいるのに俺に抱かれる気持ちはわからなかったが、彼女の心と身体はばらばらなのだと思っていた
そう思いながら抱いていた
俺は恋人がいたけれど、だからといって何一つ悪いと思うことはなかった
俺もまた、心と身体がばらばらだったようだった
どうやらそれは真面目な話ではなく、会話の中で生まれたノリのようで、海の中で息を吐いたときに出てくる泡のように自然なものだったのだろうけれど、それでも彼女は飴を食べたりガムを噛んだりしてニコチンとタールから離れる努力をしていた
なのに禁煙しろだなんて、ムシのいい話だと、少なからず情が湧いてしまっていた俺は、そう思ったのを覚えている
ある金曜日、事の後に彼女はベイプの水蒸気を吐きながら俺にこう語った
「いつも会う前に思うんですよね、会ったら諦めきれるんだって」
温泉か台所か、あるいはシーシャカフェでしかお目にかかれないような量の水蒸気が彼女と俺を包んだ
「でも諦められないんですよ、不思議なことに。そしてまた会う前に会ったら諦めきれるからって思っちゃって。人間って学習したくないことはできないようにできてるんです」
泣いているのかどうかはよくわからなかった
彼女を呪って止まない例の男の顔を、俺は知らなかった
ヒトが学習できない生き物だというのは俺もよく知っていた
この時の恋人も、その前も、その前も、なんていうか生まれてからこれまでずっと、俺は同じような顔、髪型、背格好、性格の女と付き合っていた
エキゾチックな顔立ちで
髪の毛は肩くらいのロングボブにしていて
少しおしゃれさんで
160センチを少し越えるくらいの、少しムチッとしている
それでいて、連絡が途絶えると何度も電話をかけてくるような女と
湿っていたと思っていた彼女はそのあとこう呟いた
「ま、学習できている証拠があるとすれば、セックスのたびに精度が上がっているところくらいですかね」
あばらの浮いている華奢な体も
それらすべて美しいと感じる彼女だけれど、俺との間に色恋はなかった
お互い割り切って楽しんでいた
・
ただの先輩後輩だった俺たちを繋いだのは喫煙所
それでしかなかった
ある寒い日の「ウチは喫煙可物件ですよ」の一言がきっかけだった
2人でいると変な気を起こさずにいられない彼女に対して、(彼女の中ではきっと)俺も例外ではなく変な気を起こした
不思議と後悔しなかった
彼女の好きな人は、大阪の営業マンだと、初めての時に聞かされた
だから割り切れた
東京にいながら大阪の男を想えるような器があるくせに、違う男とひっきりなしに寝ることができる彼女だからこそ、割り切れた
・
彼女と会った回数がわからなくなったくらいに、俺は恋人に振られた
俺としては浮気のつもりはなかったけれど、あの子と寝たんでしょと言われた
まあその通りだったので、黙ってうんと言うしかなかった
少しわがままなところがかわいくて、シンプルに顔が好きで、いい子で、まあまあ好きだったけれど、ダメージは少なかった
それどころか、恋人(元)と彼女の間柄を心配する余裕すらあった
珍しいタイプの子だから、あんまり不仲にならない方が、恋人(元)のためにもいいのではないかと思ったのだが、わかりやすく不仲になっていた
恋人(元)が騒いでいるだけのようにも思えたけれど、それでも彼女は渇いた空気を絶やさず普通に振る舞っていた
・
その恋人(元)と別れて最初に会った彼女は、背中くらいまでの髪の毛をショートボブにしていた
別れてから1ヶ月ほど経っていた
これがまた違和感しかなかったけれど、不思議とめちゃくちゃに似合っていた
恋人(元)が、ショートが似合う女でロングが似合う女はなかなかいないんだ、だから私はこれ以上伸ばせない、そう話していたことがあったので、割と呆気にとられた
「やったね、いよいよ」
「ライターで毛先焦がしちゃって。めんどくさくなっちゃったから切ったんですよ」
と、オプションに火をつけた
ベイプは持っていないようだった
「そろそろ学習できる人間にならなきゃと思って。違う方向から攻めてみようかなって」
学習できる人間は、遠く離れたよくわからない人間への思いを捨てることなんて容易いと思うよ、と、言うことはしなかった
できなかった
「彼女ちゃん、いい女ですね。私の悪口言いふらさずに噛みしめてる」
「確信がなかったんじゃないですか? 根も葉もない、でも自分の中では間違いない。そういうときは黙って恨むのが吉だって知ってる賢い子だ」
それをいい女だと言える度胸は、俺にはなかった
そうか、いい女なのか
彼女が言うならそうかもしれない、と、漠然と思ったとき、少しずつ罪悪感が出てきた
「下ネタ?」
彼女が一本吸い終わったところで、注文したコーヒーとクリームソーダがきた
「振られるのなんか慣れてるんだけどね」
と言う俺に、彼女はにやりと笑った
また次も、ロングボブで中肉中背の、少しおしゃれさんで、少しわがままで、少し心配しすぎる女の子と付き合う気がした
彼女がいつまで大阪の男を好きでい続けるかも、わからなかったけれど
その日のベッドで彼女はまた泣いていた
彼女が泣かなくなるまでは、会い続ける気がした
今日は昨日の人とシフト交換をしての勤務だった。出勤するなり、今日の相棒であるフリーター男子が、
「昨日も例の客来てましたよ。やっぱり増田さんの言う通り、増田さんの出勤日に合わせて来てるんですねぇ」
と言った。
例の客というのは、私に「お願いします!」の一言で、全ての注文を出させる人だ。私が以前勤めていた、六キロ以上離れた所にあるコンビニの常連客だったのだけど、私が移ったのを知って以来、こっちに通うようになった。そんなお客さん。
その人は、煙草やコーヒーなど、毎回同じ注文をするのだが、かといって私以外のバイトに注文を覚えてもらおうとは思わないらしい。
一、二ヵ月くらい前は、その人が「お願いします!」で注文を済ませることに、特に何とも思わなかったのだけど、正月のちょっと暇な時期に、暇なせいで気付いた。この人、わざわざ私のレジが空くまで待ってるのか、と。
確か、以前は私のレジが空いてなかったらもう一つのレジで会計済ませて帰っていってたんだけど、今は私の手が空くまで店内をうろうろしている。そして、この間、かなり忙しかった日は、店内をそうとうな時間うろうろした挙げ句にお茶一本余分に買うという謎行動をしていた。隣のレジでフリーター男子が「どぞ!」って呼んだのを断ってまで、こっち来た。
それくらい、私に「お願いします!」の一言で全て出させることに執着している人だが、かといって、私のことは別に好きな訳ではなさそうだ。
そのお客さんは、去年、私が以前働いていたお店のバイト仲間だった、若くて可愛い女の子をめちゃくちゃ可愛がっていて、その子の為に恵方巻を大量注文した。なお、女の子はその後、意味不明な理由で店を唐突に辞め、失踪した。(といっても他のバイト仲間とLINEで繋がっていたので、消息はふつうにわかっていた)
そんなことが、あったのだ。
そんなことがあったので、もしかしてあのお客さんは、隙あらば私から失踪した女の子の行方を聞き出そうとか、企んでいるのだろうか?
と、私は想像している。
今日はあのお客さんは来なかった。フリーター男子は、「きっと来ない」と予想していたので、予想が当たってちょっと嬉しそうだった。
好きなアーティストの名前でtwitter検索をするとたまに感想ツイートを見かけていたアカウント。どんな人なんだろうかとプロフィールページに飛んでみると「国語のノートが綺麗に書けた!」と写真を載せているツイートが一番上にあったから、おそらく高校生なんだと思う。「あなたの煙草の匂いが好きです」「今月はあんまり渡せなくてごめんなさい」ツイートの大部分は、恋人への想いを吐き出したもののようだった。「私の貯金からじゃ駄目なんですか、私の体をお金に換えないとあなたにもう会えないんですか」「怖い、学校や電車で会う人が私の写真を持っているかもしれない」「こんな写真撮りたくない、あなただけのものでいたかった」ツイートを遡ると、こんな言葉が並ぶ。「ごめんなさい、私に勇気がなくて」「でもあの人は母親と違って私を本当に叱ってくれる」「私が本当に自殺して自分のせいにされたら厄介だからですか?」「ごめんなさい捨てないで。お願いします」
途中から辛くなって、バックボタンを押した。彼女のツイートが実際の内容なのか、そもそもあのツイートで描かれている「私」である"彼女"が実在するのかすら本当のところはわからない。なりきりや釣り用のアカウントだったのかもしれない。そうであって欲しい気持ちと、彼女の悲鳴から自分は目を背けてしまったという罪悪感が、いま心の中で渦巻いている。
>なんでか?
色々あって俺にも簡単には説明できないし、それが分かれば誰も苦労しない。(だって原因が分かればそれを解決したら流行らせられるんだろ?)
そんな事よりどうしたいのかって話だよ。
それで、どうしたら流行らせられると思う? って話だとしたら、たぶん日本じゃ今はアニメを使うのが一番いいと思うぜ?
ラッパーちゃんアニメとか漫画とか作ってさ。歌詞提供でもすりゃいいんだよ。無償でガンガン。
ただ、ラップって下からの物だからハイカル的な上からのムーブメントとは相性が悪いってのは意識しといた方がいい。
国立演芸場でピコ太郎が消費されたように、ハイカルも内容的に無意味な流行は取り入れるけど、思想とか反体制が入ってきたらそういう仕掛けも効かないしスポンサーもつかないしメディアで取り上げられる可能性も低いって話だよ。左翼的な流れで渋谷デモみたいに使われるとネガキャンにしかならないし、ダボパンドレッドでローライダー周辺に溜まってコロナ叩き割ったり煙草だの唾だの吐きながら街頭でハンドサイン決めたって「ナニコノヒトタチ近寄りたくない」って思われてSNS辺りで炎上するのが関の山ってなw
そもそも小さい箱でウェイ乗りしてたって大抵はバカが葉っぱとか持ち込んできて、オマエラ「そういうヤツもいるかもしれないけど全員がそうじゃない!」とか反論するんだろ?
どうせダンス規制とかの法規や抗議方もベンキョーしてねぇんだろ?
ガード下で一緒に身体動かしてヨーヨー言っててもオマワリさん来たらすぐ謝っちゃうか逃げちゃうだろ?
オマワリさん来たら巻き込んで一緒に楽しく躍らせちゃうくらいの実力を付けろよ。
この歌詞なら警官が踊ってもいいかなって感じさせるくらいのリリックも脳に焼きつけとけよ。
「ボクたち(だけは)葉っぱなんかやってません」じゃなくて楽しく一緒に歌って踊りたいだけですってのを伝えられて、いつ動画に撮られても平気なくらいの立ち回りを身に付けろよ。
極論言えばガンガンステマ掛けられてパトロンになってゴリ押しできるくらい資産があればどんなクソでも流行る。それくらい分かってんだろ?
オマエは金も技術も度胸もない。オマケに知恵もないんじゃ誰がついてくる?
ニコにでも行ってボカロPやVチューバーの靴でも舐めながら曲でも流して貰った方がマシだと思うぞ。
いや悪いがマジに。
家を出て数年。
私はこの父がめちゃくちゃ苦手だった。
今も苦手。
別に悪い人じゃない。高卒で就職して立派に勤めあげて、私と弟の大学の学費まで出した。
酒は嗜む程度、煙草も吸わないしギャンブルもしない。浮気も知る限り無い。
真面目。で立派。冗談も言わない。
そんな立派な父は、私を褒めてくれた事が一度もない。
どれだけ良い成績を取ろうが稼ごうが。
それどころか、よくもまあそんな、っていうくらい細かいところにいちいち文句を付けてくる。たまに怒鳴る。
何も悪いことはしていないはずなのに、次は何を言われるんだろうと常に後ろめたかった。性格が暗くなるのが自分でも分かった。
会うとまた何か言われるから。
それでもたまに文句を言われると、それだけで泣いてしまうようになった。こっそり、自室でね。
そんな感じのまま家を出た。もっと早くにこうしていれば良かった。
暫くして結婚した。
旦那は「お義父さん、一人で寂しくて可哀想だからご飯にでも誘おう」と言う。
毎回その提案を私が潰す。
でも、自業自得だとも思う。
娘を気遣って言った事も多々あったと思う。
感謝はある。でもそれ以上に憎しみもある。
私は、父が生きている間にこの人を許せるんだろうか。
父さん、心の狭い娘でごめんね。
香川県のゲーム利用制限条例、あまりにも問題が多いと考えています。来週以降、香川県現地に入り県庁や関係者から徹底的に調査、打てる手を打っていきたいと考えています。
得られた情報や動きが有れば、適宜続報していきます。まずは、今後予定されるパプコメに香川県民の皆様の声を県に寄せて下さい https://t.co/P7gdLhhAZB— 山田太郎 ⋈(参議院議員・全国比例) (@yamadataro43) 2020年1月10日
前から懸念していた香川県ゲーム利用制限条例、いよいよ現実に。ゲーム依存症対策とする条例、依存症外の人にも幅広く90分以内、夜も制限、親にも義務を課すのは誰の何の為なのか甚だ疑問!香川県民の方は是非県にパブリックコメントを!今後他府県や国への波及も懸念されますhttps://t.co/CSyHncBDQI— 山田太郎 ⋈(参議院議員・全国比例) (@yamadataro43) 2020年1月10日
時代錯誤も甚だしい代物だねぇ…。
大方この条例を作ったのは当時はファミコンが悪いとかゲーム脳だとか喚き散らす様な脳みそが化石みたいな人間なのだろうよ。
今だとネット依存症だとか言ってネット叩きをしている様な人間だろう。
最近ではこの手の規制は逆に余りにもゲームが悪いだの規制だの言いすぎたせいで、結果、この手の物全般が嫌煙され、そのせいで人材が育たず、日本のITやら取り残されたと言う弊害が指摘され出しているのにね。
普通にゲーム自体、創作やらプログラムやらに興味を持つきっかけになる代物だからね。
なのにこんなアホみたいな条例を施行しようとしているんじゃそりゃ日本が衰退するのも必然だよ。
本来ならば、取る手がなくなって、最終的に止む無く行う代物であるのにここ数十年特に短絡的に考えもなく、弊害がある等の指摘をガン無視して、安易に規制を乱発してきたのだから、そりゃ国自体の勢いも削がれて当然。
どうせこの手の規制を見る限り、あの手の人間がロビーした結果、こんな愚かな代物が出てきたって所なのだろう。
国政では漸く山田太郎議員の頑張りがあって、規制に慎重的な動きが出来始めたけど、地方ではまだまだこの手のお気持ちを優先する方々が大暴れしているのはこの動きを見ても事実なのであろう。
しかしいい加減法律で施行できなかったら、条例から規制を行い、国政に圧力をかけようとする様な流れそのものを見直す時期にきているんじゃないかなとこう言うのを見ていると本当に思う。
寧ろ条例自体と言う存在そのものを見直す契機にすべきだと考えるよ。
そもそも法律でダメなものを条例で先にする方がおかしいからね。
過去には児童ポルノ禁止法の一件や青環法の一件からの都条例と言う国家に規制をさせようとして、地方から規制を押し進める動きがあったし、最近でもヘイトスピーチ禁止法に罰則をつけようとして、川崎市でヘイトスピーチ条例を成立させる様な動きもあったのは事実だしね。
少なくとも一部の人達が地方条例を悪用しているのは事実だと考える。
そう言えば当時のGTAやPOSTAL2とかの規制をやらかしていたのも松沢成文議員が当時神奈川県知事の時だったなぁ…。
ヘイトスピーチ条例と言い、神奈川は変な条例に縁がある地域だと思うよ。
上記の香川と言い、基本的に地方条例自体おかしな代物が非常に多すぎるが。
良くある歩き煙草禁止条例と言った煙草関係の条例にしろ、逆に街中では喫煙所をぶっ潰しまくっているから、歩き煙草するしかなくなる様な状況に陥らせているのも本当にどうかと思うしね。
もう何年も前の話になる。仕事が忙しくストレスが溜まる生活を繰り返していた俺は、週に1、2度都内のあるバーで飲んで帰ることが習慣化していた。繁華街からは少し外れたところにある特徴のないショットバーで、特におもしろいメニューも嗜好ももないが、質の悪い酔っぱらいも居らず、1時間程滞在しても自分以外に客がいないことも珍しくないことが魅力のバーだった。
ある金曜日の夜、多分22時くらいだったと思う。流石にこの条件で他に客がいないことは珍しいのだが店は空っぽだった。半ば指定席と化しているカウンターの一番奥に私が座ると、店を一人で切り盛りするマスターは慣れた手つきで私におしぼりと灰皿を出しながら「タイミングが良かったですね。さっきまで戦場のようでしたよ。もう今日は静かだと良いのですが」と語っていた。
しかし、私の最初のオーダーが手元に届き煙草に火をつける時、もう一人客が入ってきた。大学生くらいの若い女性だった。派手さは感じないが華やかさを感じさせる美しい女性で、失礼ながらこんな小さな雑居ビルに入っているバーが似合うような女性ではなかった。おそらく恋人か何かと待ち合わせだろうと思いながら、私は驚きのあまり不躾にも凝視してしまった目線をバックバーに移した。カウンターしかない小さな店だから、普通こういう状況ではマスターは私とは反対の、入り口に近い席を進めるはずだ。俺にできることは、後から来る連れが騒がしい男でないことを祈るだけだった。
ところが、どうやら驚いて一瞬固まっていたのはマスターも一緒だったらしい。なぜか一度俺と目を合わせたマスターが「いらっしゃいませ」と言い切るころには彼女は私と一席空けた隣に座ろうとしていた。奥から詰めたほうがいいだろうと考えたのだろうし、これだけならそれほどおかしいことでもないのだが、何だか少しドキドキしたことを覚えている。
マスターもそれは同じようで、どこかぎこちない動きで彼女にお絞りを渡した。この店はマスターの気配りだけは一流と言って差し支えないため、一見の若い女性が一人で入ってきたら、さも常にそうしていますという素振りでメニューを渡しそうなものだが、マスターは彼女にお絞りを渡したまま姿勢を正して硬直するようにオーダーを待っていた。妙なことになってきたぞ、とそう思った。
私とマスターがそうして硬直していると、彼女は小さな、それでいて良く通る声で「ザンシア」と呟き、私とマスターをもう一度硬直させた。居酒屋やダイニングバーで出るようなカクテルではないし、スタンダードであるかも怪しい。私もショートカクテルということ以外はどういうものかは記憶にないカクテルだった。流石のマスターは「はい」とだけ答え慣れた手付きでオーダーを作り始めたが、私は混乱し始めていた。彼女は確かに華美ではあるが水商売には見えないし、偏見だろうが女子大生がこんなカクテルに詳しいというのも不自然だ。見た目通りの年齢ではないのかもしれないと思いながらチラリと彼女を横目で見ると、バックバーを眺める彼女からはどこか幼さも感じ、余計に俺は混乱することになった。
彼女の正体について私が思いを巡らせながらマスターがカクテルを作る様子を見ていると、ザンシアというのはかなり強いカクテルのようだった。シェイクする分を考えても、40度はあるかもしれない。それがカクテルグラスになみなみと継がれる様子を見ると、本当にあのあどけなさの残る女の子がこんなものを飲めるのだろうか、という余計なおせっかいを考えざるを得なかった。
しかし私の心配は杞憂に終わったようで、横目で見ていると彼女は一息でカクテルグラスを半分ほど開けていた。私も酒に弱いわけではないが、真似できる気はしなかった。少なくとも試したところで酒を楽しめないだろうことは間違いなかった。ますます混乱する私がこの後彼女に声をかけられて、挙動不審にならなかったことは奇跡だと思う。
「ねぇ」彼女は俺のことを見て確かにそう言った。「煙草、分けて下さらないかしら」、と。一字一句間違いない。確かに彼女はそう時代がかった口調で私に煙草を求めたのだ。混乱に次ぐ混乱の中、重ねて言うが私がどもらなかったことは奇跡でしかない。
「どうぞ」と言いながら私は彼女に箱を開けた煙草を差し出した。彼女は慣れた手付きで私の持つ箱から煙草を一本取り出し「ありがとう、火もいいかしら」と答えた。またしても「かしら」だ彼女はいったいどこの世界からやってきたのだろう。
ごめん書くの飽きた
家って変だな〜と思う。
私は母親とその祖父母と暮らしていて、父親という存在の事を全く知らない。顔も名前も知らない。「お父さんが〜」とかそういう話を聞く度になんか不思議な気分になるけどそれはまぁよくて、自分の父親にはさしたる興味もない。知ろうとも思わないし、会いに行こうとも思わない。向こうも困るだろうし、新しい家庭とかもあるだろうし。知らない存在は知らないままの方がいいと思う。
夕飯の時間もバラバラだし、朝に至っては同じ家に暮らしてるのに誰とも会わない。同じ屋根の下で、マンションみたいな暮らしをしている。ご飯を食べろとも言われないので今日の私の夕飯はそこら辺に買ってあったピザパンとクラッカーだった。母親とは普通に仲がいいので母親の部屋でテレビ見ながら1人で食べた。
食育という言葉と縁遠いから、個食で孤食だ。家族の温かみとかそういうものに真っ向から喧嘩を売る生活をしている。
産まれてこの方、休日に揃って昼食を食べた記憶も無い。これでも小学生の頃は夏休みには家族で旅行に行っていた。でもそれも私の従姉妹がいたからだと思う。彼女が忙しくなってからというもの、旅行という言葉は出なくなった。反抗期というわけでもないような気がする。ほぼ関心がないというのが本当のところで、祖父母ももう私のことを諦めているんだと思う。
同じ家に暮らしているだけで家族だというならそうなんだろうけど、別に絆とかそういうものはない。
綺麗な言葉で言えばそれぞれの生活を尊重しているということになるだろうし、あけすけに言えば誰も他人に興味を持っていない。本当に時々夕飯の時間が被ると内心めんどくさいと思っている。多分それは母親もそうで、揃って夕飯を食べなきゃいけないときの私と母の暗黙の了解は話を広げようとしないことだ。
面倒なのだ、老人が概ねそうなるように同じ話がループする。「○○さんが〜今日は〜……」知らないし。誰だそいつ。機嫌を損ねるような事をするのも面倒なので聞き流す。右から左にふわ〜っと。ひたすら目の前のブツを胃に流し込む作業。めんどうだからほっとこう、ってよくアイコンタクトしてる。
こうなった事に特に理由はないんだと思う。物心ついた時には、そういう風になっていた。疑問を抱いたこともない。
理想の家族って、正しい家族の形ってなんなんだろう。多分、一生私とは縁がないんだろうな。同じ考え方ができるか、差異を認めて丁度いいぬるま湯みたいな場所を見つけられる人じゃないと一緒に暮らすこともできないと思う。ご飯の時くらい、とか言われても私は知らないからだ。家族の団欒とか言われても、揃ったら会話はほぼゼロだから。私は、祖父母といるとなんだか緊張するのだ。下手なことを言ってはいけない、自分のことを話すのは悪手、言いたいことは言わない。面倒を避けることに労力を割いた方がマシ。
なんだかよくわからなくなってきてしまったのでやめる。1人でクラッカー食べながら飲むお酒は美味しいしくっそ寒いベランダで吸う煙草もいいものだ。もしこの取り留めもない下手な文章を読んでくれた人がいたらありがとう。文字にできて良かった。ばいばい。