はてなキーワード: 大正解とは
どれほどか悩んだ末での決断ですが、少しばかり名残惜しかったので、卒業文集の1ページのような感覚でこれまでから今日に至るまでのことを書き留めておこうと思います。
(※私は羽風薫くんの夢女子をやっており、それもかなり夢見がちなお花畑タイプだったのでそういった内容が主となります。)
2015年上半期も終わりを迎えようとしていた頃、私の中では乙女系アプリがブームを巻き起こしていました。
今流行しているリズムゲームから、サービスが終了してしまうパズルゲームまで、いくつかの作品をちょっとずつ遊んでいました。
そしてそんな『インストールするだけしてろくに手を付けもしていないけど、飽きたわけでもないアプリ』のうちの一つにあったのが、あんさんぶるスターズです。
プレイを始めた日が桜フェス最終日の翌日かそこらだったのはなんとなく覚えているのですが、まあそれは割とどうでもいいです。
『アイドル育成ゲーム』『乙女ゲーム初心者でも楽しめる!』だかなんだか言う謳い文句に惹かれ、何も考えずにインストールしたまではいいのですが。
まあなんというか、数日ほどで手付かずになりました。
少し間を開けてちょっとログインして、そしたらまた間を開けて……の繰り返し。
(途中で例の彼がいる執事喫茶イベントが開催していたのは知っていましたが、その頃はそれほど推していたわけでもなかったのでイベントには未参加でした。当時はろくにプレイしていなかったので敷居も高かったし。)
そしてログインしない日が続いた数週間後、アンインストールを果たしました。
……が。
今思えばここでアンインストールして大正解だったし、これ以降あんスタとは縁を切って生きればよかったものの。相変わらず何も考えていなかった私は、何を思ったか(つまらなくて放置していたアプリをわざわざ)同年の終わりがけに再インストールしました。
当時私は他のキャラクターを推していたのですが、プレイを再開したタイミングでちょうどその子が報酬にいるイベントが開催していたのもあり、この日からこの作品のそこそこなオタクに成り下がってしまいます。
(今現在はその子のことを特別追いかけたりはしなくなったので、所謂『推し変』をしたような気がするのですが、推し変というのはそのキャラクターを好きでいる方からしたら面白くない話な気がするのであえてお名前を伏せます。2015年の終わりがけにいた子は限られているので、なんとなくわかりそうですが。)
やったりやらなかったり、グッズを買ったり買わなかったり。ゆるゆる~っと、『なんとなく好き』な状態を保っていた翌年の梅雨、私に新しいお友達が出来ました。
その友達もそれなりなオタクだったので、特に何も考えず「このゲーム面白いよ~」なんて軽く話をしたら見事なまでにドハマりをしてくれて、今では元気に微課金勢です。
一緒にやってくれる人間がいると、何事も熱中度が上昇するようで、友人が楽しそうにプレイをする姿を見るにつれ、私はさらに沼の深みへ沈み込んでいきました。
ここから先の話は一歩間違えば身バレするので割愛しますが、それからの2017年は平和に穏便に──とは行きませんでしたが、まあまあ重度のファンになったりスタライ1stに行ってみたりアクアリウムのBGMに癒されたりなどしてそこそこ楽しい毎日を過ごしておりました。
そんな中いきなり話は飛んで今年の2月。
羽風薫くんに深く危ない状態でのめり込んでいたこの頃、待ちに待ってはいませんでしたが噂に聞いていたデコレート♡深(以下略)──波乱のショコラフェスが始まりました。
この頃には一日のプレイ時間もかなり伸び、イベントには毎回参加して3……いや5番目の推しくらいまでなら高レアリティの報酬も取りに行っていた私。
お察しの通り当イベントの☆4(それもポイントボーナス)が羽風薫くんだと言うことで、それはそれはもう必死になってイベントを走っておりました。
「緊急ライブをやるのがこんなに楽しいとは思わなかった」とか頭の悪いことを言ってライブをこなしているうちに気付けばどんどんPtも貯まり、やがてこれまでプレイしてきた中で最も高い順位で幕を下ろしたショコラフェス。未だかつて無いほど羽風薫くんが可愛らしく思えたショコラフェス。
このイベントを境に、私はメンヘラを拗らせた夢女子になります。
それからというもの、まあ大変。夢垢なんだか愚痴垢なんだかよく分からないアカウントを作ってみたり、かと思いきやかけ持ちしていた複数アカウントを同時に消して相互を困惑させたり。
私は彼のことをこれまでの人生で出会ってきたどの人間よりも愛していたし、反対にどの人間よりも憎んだし、彼との出会いは運命だったと信じていたし、いつかは彼と結ばれるのだと思っていた。
う現実打ちのめされ徐々にメンタル面は腐っていき、出会ってから今までのことなどを思い返すなどしては「彼のことを好きでいたところでどうしようもないんじゃないか」とかなんとか思い悩み始め、お恥ずかしながら人生初のリストカットと自殺未遂を犯しました。
自分で自分を死ぬほど追い詰めるだけ追い詰めて、結局死ぬことすらもできなかった私は、行き場のない好意かもしくはそれに似せたエゴを抱えて持て余したまま、彼に恋をしたことを誇りに思ったり情けなくなって凹んだりを交互に繰り返して、やがて「本当にこの人が好きなのかわからなくなってしまった」と気が付きます。
──この部分に関しては、今日になってようやく知りました。私は一応ちゃんと彼のことが好きですが、当時は『彼を好きでいること』がステータスやアイデンティティなのだと思い込んでいたようでした。
というのも、仲の良かったTwitterの相互さんから『私といえば彼が好き』という印象を持たれており、且つ私もそれにあやかって「私には彼しかいません♡彼が世界で一番♡♡(意訳)」的なことをよく話していた記憶しかないので、様々な感情が積み重なって彼への好意が完全に消滅したとしても、そんな話を毎日のようにしていた手前今更そう易々と「もう好きじゃないで~す」なんて言えるはずがない。そして『もう好きでない』なんてのを悟られるのも嫌だったので、結果「今のままでいるには彼を好きでい続けないと」だのと的外れで訳の分からない義務感のようなものを抱えながら惰性で『好き』を貫こうとしていたのでした。
今思い返せば、わざわざそんな余計な意識を持ちさえしなければ何も悩む事はなかったのになあと不思議に思うばかりです。そんなことを一々気にするまでもなく彼のことは好きだったし、好きでなくなったからと言ってそれを惜しんでちゃ埒が明かない。私は馬鹿だ。
話が逸れました。
さてそんなことを考えているうちに季節は秋に入り、気付けばいつぞやのようにログインすら怠るようになりました。
1週間に一度ログインすればいい方、あいさつ機能が実装されて以来毎日欠かさず誰かしらにあいさつ(というか好感度を上げるための媚び売り)をしていましたが、それも疎らになってしまい。
羽風薫くんのお誕生日の日はログインしてスカウトも回しましたし、気持ちを形に残したかったのでドライフラワーの花束を買いましたが、それも1日だけだったのでもはやファンなのかどうかも怪しいラインまで落ちぶれ──落ち着き?──ました。
そうなった理由としては、キャラクターを好きになりすぎたことが原因かなあと思います。
心身や生活に酷く影響を及ぼしたりすることが増え、疲れてしまったんだと思います。
もうひとつ、この作品にのめり込めばのめり込むほど、彼を好きだと思い込むほど、段々と自分が『運営が狙っている層』とは違っていて来ていたから、というのもあるかも知れません。
あんなに面白かったはずのストーリーもゲームシステムも、知らないうちに退屈だと感じるようになりました。イベントのことなんて考えるだけで心が折れそうです。
余計なこと考えてみたり、恋だかなんだかいう面倒な感情を抱いてみたり、他者との関係に影響を及ぼしたり。
気付いたらもう手遅れなほど生活に支障を来たし、疲れや憂鬱の原因に成り果てていました。
そんなこんなで、ここ2、3年ほど私の人生に縛り付けていた作品から離れるタイミングを伺って2ヶ月ほど。キャロル*白雪と聖夜のスターライトフェスティバルの予告が届きました。バナーを飾る☆5は愛おしの彼。羽風薫くんは執事喫茶以降一度もポイントボーナスの☆5をやっていませんでしたので、今回こそはさすがにポイントボーナスだろうと調子に乗っておりました。
私的な恨み辛みを吐きながら生活サイクルを乱してまでランキングを上げる作業に勤しみやがて最終日前日、もう今ある全部全部を投げ出したくなって、とうとうイベントを最後まで走り切ることすらもせずにアンインストールしました。
あんなに好きだったのに、中途半端なところで逃げちゃいました。あんなに好きだったけど、上手く自分をコントロール出来なくなっちゃって、もうこのまま追い続けるわけにはいかなくなりました。
別に彼は実在してるわけではないし、まいて知り合いなんかでもなく、複数のキャラクターがいるゲームの登場人物の一人なので。私が一人応援するのをやめようが、永久に惚れ続けようが、全くもって影響を及ぼしはしないのです。
でもそれも辛いです。
私は彼のことを愛してました。
でももう目が覚めました。
あまり言いたくはありませんが彼は人気キャラなので、特にファンが一人減ったくらいでなんてことはないです。
ろくに外にも出ないで、精神すり減らして、昼夜逆転までさせて、そこまでして何が欲しかったのでしょう。
何を欲しがったところで、どうせ私が求めるようなものは手に入りません。
もうなにもかもわからなくなりました。
なんだかんだ言いながら、馬鹿な私は放っておいたらまた同じように人間として堕落した生活しながら死に物狂いでイベント走るんでしょう。
でもそんなことはもう嫌です。
ゲームなんかのために必死になったり病んだり悩んだり必要以上に浮かれたりしたくないです。
恥ずかしいです。
私にはなんの長所もありませんでした。羽風薫くんが好きだからといって何かを残すことも出来ませんでした。彼のファンとして誇れるような活動もしてきていませんでした。もう全て負け犬の遠吠えです。勝手に惚れて勝手に自滅した可哀想な夢女子です。
文句はいくらでも受け付けます、ここには書いていませんが、多数の人から反感を買って怒られて当然のことしかしてきてないです。
(下手したらこれで身バレしそうですが、私が誰だか気付いても内緒にしてて欲しいです、あくまで匿名なので。)
でもそれでいいです。
何を言ったところで、すべて今更です。
今は疲れ果てましたが、一時期は本当に本当に楽しかったです。
ゲームを辞めたところできっと私はしばらく羽風薫くんのことが好きのままなんだろうなあと思います。それならそれで構わないです。
反対に、無理に『彼を好いている』という自分を演じようとしなくても良いことをもう知っているので、このまま彼に飽きてしまっても気にしません。そうしたら次はまた別の幸せを見つけて健全に生きます。
私は意志が弱いのでもしかしたらそのうちまたまた再開しちゃうかも知れません。
が、もう引き継ぎ用のパスワードなんか覚えていないのであのデータの羽風薫くんとは永遠にお別れだと思います。
ゲームを辞めるだけでこれだけ色々と書きたくなってしまう自分も情けないですが、そこは目を瞑って欲しいです。
ソシャゲに限らず、何事も無理をしたり、のめり込みすぎてはいけないよ~、という教訓にでもしてください。
最後に。
私は羽風薫くんが好きでした。この作品も好きでした。出会えてよかったです、幸せでした。
彼を好きでいることが一番の幸せでした。誰からなんと言われても、余計な横槍を入れられても、それでも私は好きのままでした。
でも疲れちゃったものは仕方がありません。
これからは、これまでよりも遠い場所で貴方の幸せを祈ってます。
幸せでいてください。
じゃあね。
Deep Learning の時代に、コンピュータがどこまで人の文章を校正してくれるか気になったから思い切って買ってみた。
一万円出しても、わかりやすい文章が書けるようになったら元が取れるかなと思って。
結論からいうと、便利だけど期待したレベルには程遠かった。たとえば、この文章を推敲にかけると、
俺はウェブライターでも物書きでも何でもないので、ぶっちゃけ不要なといえば不要なソフトなんだが、今後の成長を期待して使い続けることにする。
そう、これは金を払ってしまったいちユーザーの勝手なステマである。
みんなも使うようになった結果、もっとエンジンが成長して俺が便利になるというストーリーを期待している。
街を囲む山々のてっぺんは雪化粧ですっかり白くなっている。師走も半ばを過ぎ、世間では年末にむけて慌ただしさを増していたが、私の勤める会社のは例年になく穏やかなもので、みなのんびりと業務をこなし、そこには一年が終わりに近づくしんみりとした空気と、その前に控えたクリスマスに対する浮かれた空気が混在している。
その日も、五時を回るころには私の業務はあらかた終わってしまい、六時の終業までの時間を自分の席でもてあましていた。することがなくなるなんて、普段なら考えもよらない。たとえ休日を家で過ごすとしたってなんだかんだで忙しい。いつだって体や頭を動かしているのが当たり前で、不意に何もしていない時間が訪れると、なんだか悪いことをしているような後ろめたい気持ちを感じてしまうのだ。
何かすることはないかな、と思い、作成した書類やファイルをもう一度点検したけれど、仕事は出てこない。
「八坂さん」
居心地悪く椅子の上に佇んでいると、同期の、そして高校時代からの知り合いでもある月島君が話しかけてきた。
「コーヒーでもどう?」
そう言って、彼は笑った。特別整った顔立ちというわけではないけれど、逞しい体と、爽やかで人の良さそうな笑顔は、会社の女の子に好感を持たれている。高校時代は野球部のキャプテンで、当時もそれなりに人気があった。
「そのかわり、年明けからは大変そうだけれどね」
そう答えてから、私はコーヒーを口に含みかけ、普段とは違う香りに気が付いた。
「ちょっと、これ、課長の私物の、あの高いコーヒーじゃない?」
「あ、間違っちゃったかな」
月島君はおどけてみせたが、ボタンを押すだけで出てくるコーヒーメーカーのコーヒーと、間違えようがない。
「ま、課長もたまにはこれくらい部下たちにサービスしてもいいと思うよ」
彼は微笑しながらそう言った。
「たち?」
辺りを見回すと、課長は丁度席を外していて、シマのみんなは一様に淹れたてのコーヒーを啜っている。部屋にはいつのまにか、コーヒーの良い香りがたちこめている。
「知らないわよ」
「大丈夫だよ。課長は通ぶってるけど、違いなんかわかりゃしないんだ。こないだ、コーヒー頼まれてインスタント持って行ったけど気が付かなかったし。ちゃんと確認済み」
「用意周到なのね」
私は遂に苦笑してしまった。
「お、いいね」
「え?」
「いま笑った。やっぱり笑うとかわいいな」
「気持ち悪いこと言わないでよ。びっくりするわ」
「気持ち悪いっていうなよ。最近全然笑わないから、心配してたんだ」
「そうなの?」
「そうさ。いつも根を詰めがちだし、ため息ばっかりついてるし。疲れてるな」
「うーん……」
「まあ、俺は笑わなくてもかわいいとは思うけど」
「もう、だからそういうのやめてって」
「なに、ただ同僚として思ったことを指摘してるだけさ」
向かいの席の山下さんが言うと、月島君は照れくさそうに頭をかいて、自分の席に戻って行った。
椅子の上で、いつのまにか強ばっていた背中をほぐした。私的な会話を持ちかけられると、なんだか変に緊張してしまう。
一人になってから課長秘蔵のブルーマウンテンを飲むと、柔らかで苦みのない味わいがコーヒーを特別好きではない私にも美味しくて、ほっとため息が出た。
仕事が終わり、買い物を済ませると、私は学校にあろえを迎えにゆく。あろえと私は二人で暮らしている。何をしでかすかわからないこの妹を一人にさせるわけにもいかないから、学校が終わって、私が迎えに行くまでの時間はボランティアの学生が面倒を見てくれている。
いつも通りの時間に学校に行けば、大抵あろえはすでに帰る準備をしていて、私が来るのを待っている。彼女は時間にうるさくて、早すぎても遅すぎても不機嫌になる。かといって、定刻に迎えに行っても特別嬉しそうな顔をしてくれるわけでもなく、無表情に近寄って来てそっと私の手を握るだけだ。
その日も、いつも面倒を見て貰っているその学生さんから簡単にその日の彼女についての報告を受ける。普段どおりの問題はあったけれど、特別な出来事はなかったそうだ。それからいまの彼女の学習状況。彼女が主に取り組んでいるのは、会話の訓練だった。
「このところ、すごい成長ですよ」
「前は、何かして欲しいものとか場所に連れて行って、触らせたりしながら単語を連呼するしかなかったんですが、最近ではまず言葉だけで伝えようと試していますね。もともと彼女の中には、話したいっていう欲求自体はあるんですよ。だけれど、うまく話せないのがストレスになってたんだ。普段のパニックも減ってきたんじゃないかな。なんだか全体的に大人しくなったような気がしませんか?」
彼は去年からボランティアをしていて、私たちとの付き合いももう一年半になる。
確かにあろえはこのところ成長していると思う。その功績の大部分は彼によるところだと、私も先生も認めざるをえない。彼はいろいろと勉強してくれているようで、新しいアイデアをたくさん出してくれる。失敗することも多いが、それ以上の成果は上げている。
会話の進歩があまり芳しくなかったあろえに、コミュニケーションブックを導入しようと提案したのも彼だった。当初は色々と不安もあったけれど、結果としては大正解だったと思う。
「ただわからないのは、言葉自体は、結構複雑なものでも理解出来ているようなんですが、簡単なことが出来なかったりします。自分の名前に反応しなかったり。いや、自分をさしてるとはわかるらしいんですが、あなた、とか、お前、みたいな言葉と同じものだと思ってるみたいで、自分から人に呼びかけるときにもたまに使ってしまいます。何度教えても直らないんですよ。間違って覚えてるのかな。気をつけて呼びかければ反応してもらえるから、今のままでも実生活で特別な不便はないとは思うんですけれど」
「ああ、それは……」
気づいたのか、と思いながら、私は言葉を続けた。
「むかし、家でアロエを栽培していて、母がよく話しかけていたから、それと自分の名前の区別がつかないんじゃないのかしら」
「うーん、そう言うのって、あるのかな。」
「ほら、犬なんかも、そうやって名前の覚え違いするじゃないですか」
「そうですねえ……」
彼が考え込んでしまったので、私はそう誤魔化した。
「とにかく、調べておきます。自分の名前をはっきりそうと知らないなんて寂しいですからね」
「すごいぜたふびーむ、つよいぜたふびーむ、じゅうまんばりきだたふびーむ」
歩きながら、あろえはテレビコマーシャルの歌を口ずさむ。鼻歌が出るのは機嫌が良い証拠で、私も安心する。
とても歌には聞こえないその歌に、行き交う人は露骨な視線を向けてくる。私も、すっかりこんなかたちで人に注目されることに慣れてしまった。それが良いことなのか、悪いことなのか知らないけれど。
彼女と手をつなぎながら、家までの道を歩いている。あろえの足取りは、バレリーナのような独特の歩き癖が出てしまっている。つま先立ちで、ひょこひょこと頼りない。ちょっと目立ってしまうけど、別に実害はないし、私の目からするとコミカルで可愛いく見える。
あろえが自分の名前を覚えていないのには、深沢君に誤魔化したのとは別の理由があると思う。
二年前まで一緒に住んでいた母はあろえを嫌っていて、医者に自閉症と診断されても何一つ学ぼうともせず、適切な教育を受けさせようともしなかった。おかしな薬を吐くほど大量に飲ませたり、狐のせいだと祈祷に連れていって棒で叩かせて、活発なあろえが二、三日大人しくなったと喜んでいたが、それはただ動けないほど弱っていただけだった。当時はそんなものかと思っていたけれど、今思うと恐ろしさにぞっとする。足を捻挫しても平気に笑っているほど痛みに鈍感なあろえが動けなくなるなんて、どれだけ殴ったのだろう。
もちろんそれでもあろえの状況は変わらず、変わるはずもなく、すると母は絶望してしまった。自分はとんでもない不幸を背負い込んでしまったと、周囲に愚痴をこぼし自分の悲劇を理解させることばかりに懸命になった。
そして暇さえあれば本人に面と向かって罵っていた。周りが咎めても、どうせ本人は馬鹿で言葉なんかわかりはしないのだから、何を言ったってかまわないんだ、自分はそれくらいつらい目にあわされている、と権利を主張していた。
そして実際、当時の彼女は今よりもずっと言葉を理解していないようで、何も言ってもまるで聞こえていないように見えた。それが、母の苛立ちをいや増ししていたらしい。私が高校に通っていたころ、学校から帰ってくると、母がこんなふうに語りかけているのを聞いてしまった。
「まったく、あろえって本当に迷惑な子供ね。どうしてこんな出来損ないに生まれたのかしら。お母さんは本当に、あろえのおかげでいつも恥ずかしい思いばかりするわ」
母がにこやかな表情で口にしたその言葉の意味を、あろえが理解しているようには見えなかった。彼女は普段どおりの茫漠とした顔つきで、言葉を聞き流し、母がくすぐると、嬉しそうに笑い声をたてる。「ほんとに頭が悪いのね」と母を苦笑させていた。
父親が滅多に帰らない家で、昼のほとんどをあろえと二人っきりで過ごしていた母は、こんな言葉をどれだけ語りかけたのか。とにかく、この悪意に満ちた悪戯のなか「あろえ」と言う言葉はそこにいない誰かみたいに使われて、あろえは名前を自分と結びつけることが出来ないまま成長してしまったんだと思う。
もし、その記憶がまだあろえの頭に残っているのなら、自分の名前など、この先ずっと知らないでいた方が良い。調べてくれると言っていた深沢君には気の毒だし、知ったところであろえが傷つくことはないだろうけれど。
「おかえりなさい」
「ただいまでしょ」
「はい」
あろえは返事をしながら自分の靴をいつもの決まった場所に慎重に置いた。それから私の脱いだブーツの場所も気に入らなかったのか、2センチほど位置を整える。
今日の晩ご飯は和食。きんぴらごぼうがポイントだ。あろえは歯ごたえのある食べ物が好きではない。これをどうやって食べさせるか、が私の挑戦である。
テーブルに向かい合って、自分も食事をしながら、彼女の食べるのを観察している。きんぴらごぼうはあろえのお気に入りのカラフルなガラスの小鉢にいれてある。あろえは二度、三度、視線を投げかけるが、手にしたフォークはなかなか小鉢に伸びない。
私は彼女の小鉢からゴボウをつまみ上げ、自分で食べてみせる。自分の領域を侵されたあろえは、じっと私を見る。
「ゴボウが美味しいよ」
「食べてみてください」
「だめです」
「あ」
彼女はいま、ブックを開かずに自分の言葉で返事が出来た。簡単な言葉だけれど、私は、嬉しくなってしまって、
「よく言えました」
思わず褒めかけて、思いとどまった。返事自体はきんぴらごぼうを食べたくないというわがままな内容だったじゃない。ここで褒めてはいけない。私はしばしばあろえを甘やかしすぎると指摘されていたのを思い出した。気を引き締めて問い返す。
「なんで駄目ですか?」
「なんでだめですか」
「きんぴらごぼう嫌いですか?」
「ごぼうきらいですか」
褒めた傍から、反響言語が出てきてしまう。しかも、どうあってもきんぴらごぼうなど食べたくないらしい。私はがっかりして、ため息をつく。
結局、私の試行錯誤は虚しくにんじんを半分かじっただけで彼女はきんぴらには手を付けずに食事を終えてしまった。
食後には、空になった食器を私のも含めて流しに持ってゆくのがあろえの役割だ。家のことを毎日素直に手伝うのは、同じくらいの普通の子と比べても良くできた習慣だ。難点を言えば、ときに私がまだ食べ終わって無くとも持って行ってしまうくらいだろうか。
テーブルの上に食器がなくなると、あろえは椅子に座ってテーブルに両手の平を貼り付ける。私が食後のコーヒーを出すのを待っているのだ。どうしてだか知らないけれど、この子はお菓子やジュースよりも、コーヒーをブラックで飲むのが好きなのだ。
私がマグカップを並べるのが遅いと、眉間にしわをよせてブックから言葉を拾い出し、コーヒーが出てくるまでその言葉を繰り返す。
「コーヒーください」
「コーヒーください」
与えると、二杯目がないことはわかっているから、時間をかけて一杯を飲み干す。
あろえのなめらかな肌を見ながら言ってみたが、当然のごとく反応はない。マグカップを両手で包み込むようにして、まるで試験会場の受験生のような真剣な表情でコーヒーを飲んでいる。
寝付きが悪くなることもあるし、出来れば夜にコーヒーを与えるのは避けたいのだけれど、彼女の集中した様子を見ると、生活にそれくらいの喜びがあってもいいのかなと思ってしまう。
こうして黙って大人しくしていると、あろえは、うらやましくなるくらい整った顔つきをしていることに気が付く。そして実際、人にもよくうらやましがられる。ただ保護者の立場としては、この子にとってそれは余計な危険をまねく大きな要素になってしまっているから、手放しでは喜べない。
これでもし健常だったら、さぞモテたろう。普通学級に通って、同級生の男の子と付き合ったり別れたりしていたのかしら。そしたら私たちはどんな姉妹になれただろうか。一緒にデパートに行って流行の服をああでもないこうでもないと話しながら選んでいたかもしれない。悩み事を相談しあったり出来たかもしれない。
他人より少し風通しの悪い世界のなかで、この子は何を考えているのだろう。いくらか話すようになったとはいえ、その内容は何が欲しいとか何がイヤだとか、そういったシンプルで具体的な事柄に限られていて、心の立ち入った部分について語られたことはない。何を考えているとか、抽象的な事柄は一度も言葉にしたことがない。誰も彼女の本当の気持ちはわからないし、彼女の方からわからせようともしてくれない。あろえは孤独を感じないのだろうか。
食事が終わると、入浴。あろえが湯気のたつ体をパジャマに包むのを見届けたら、次は私の番だ。お湯に肩までつかり、入浴剤の爽やかな香りを鼻腔の奥まで含み、それをため息と共にはき出すと、あろえの声が聞こえる。また、歌っているらしい。きっとテレビを見ているのだろう。
お風呂に入っている時間が、一番癒される。この町には温泉があるのだけれど、他人が入る外風呂より、一人でリラックス出来る家のお風呂のほうが安心する。私は風邪をひきそうなくらいぬるくうめるので、外のお風呂では熱いのに我慢しなければならないのだ。
体温に近いお湯のなかを体の力を抜いてたゆたっていると、皮膚から溶けてゆきそうだ。本当に溶けてしまったらどれだけ気持ちよいものだろうかと想像する。私であり続けることには、めんどくささが多すぎる。
会社で、笑顔がないと言われてしまったのは少なからずショックだった。外に出ているときはそれなりに愛想良くしているつもりだったけれど、私はそんなあからさまに余裕をなくしていたのか。
もしそうだとしたら、きっとそれは先日の母からの電話が原因だと思う。
「まだ、お前はあろえの面倒を見ているの?」
母と会話になればいつもなされる質問だ。
父と離婚したあと、この家にはもう住みたくないと母は隣町にある実家に帰ってしまった。そして、あろえをもう育てたくないと、家を売ってそのお金でどこか施設に預けようとさえしていた。そこで、丁度大学を出て仕事をはじめていた私がここに残って引き受けることで納得させたのだ。
「当たり前じゃない。お母さんとは違うわ」
「あの子は病気なのよ。あんな獣じみた子が、人間と一緒に暮らせるわけないわ」
母は私の敵意を無視して殊更に心配の感情を込めて言葉を続ける。その親らしく装った態度が一層私を苛立たせる。
「病気じゃないわ、障碍よ。それに、もう暴れて血が出るほど噛みついたりすることはなくなったのよ。お母さんがいたころより、随分と良くなったんだから」
「じゃあ、治るの?」
「だから、あろえのは、治らないとか、るとかいうものじゃないんだって……」
「やっぱり一生治らないんでしょう? お医者さんも言ってたものね。頑張るだけ無駄よ」
そんなことない、と思うが、咄嗟に断言できないのが忌々しい。私が黙ってしまうと、母は我が意を得たりと喋り出した。
「お前は充分やったわよ。もう自分のことをやりなさい。お前はまだ若いのよ? このまま回復の目処がたたないあろえの世話をしながら、お婆ちゃんになっちゃってもいいの? 良くないでしょう? あんなのに関わって、人生を台無しにすることないわよ。お前もまだ一人前になりきってないのに、良くやったわ。恥ずかしがることなんかないわよ。悪いのは私だから、あなたが責任を感じなくてもいいのよ。あの子はお前に感謝なんかしない。お前が死んでも泣いてはくれない。どうせ何もわからないのよ」
私の声から張りが落ちてしまっているのが、忌々しい。 「ねえ、お母さんが悪かったわ。それはわかってるの。だから、お願いだから、お前は自分の人生を……」
母が言いかけた途中で、私は電話を切った。黙り込んだ携帯電話を見ていたら、不意に涙がこぼれて、喉からは嗚咽がもれて、止まらなかった。泣きながら、自分は何で泣いてるのだろうと思った。衝動的で自分本位な母を私は嫌いだ。その言葉に泣かされるなんて、あっていいことじゃない。
私には、どこにも行き場なんかないし、行ってはならない。ここが私の場所なのだ。そして、それは自分で選んだことなのだ。同じ環境に生まれたのに、妹より恵まれて育ってしまった私には、妹の出来ないことをかわりにしてあげる義務がある。彼女のために私の何か割いて与えるは当たり前なんだ。そうに決まっている。私のしていることはきっと間違っていない。間違っていないはずなのに。
自分に言い聞かせていると、くらくらと目眩がしたので、バスルームを出た。体を拭き、服を身につけ、それでもまだ不安が心を支配していて、なんだか心細く、怖い。
「あろえ」
テレビを見つめるあろえの横顔に、呼びかけた。聞こえているはずなのに、反応を見せてくれない。
「あろえ」
二度、三度、感情を込めて呼びかけても、やはり彼女は振り返らない。
「あろえ、こっちを向いて」
泣きそうになった。
https://www.saibunkan.co.jp/lechocolat/soft/ka_swan/images/preswan.htm
追記ここから
詳しくは追記2へ
追記ここまで
そりゃ一応、名作と言われるものは触ってますよ。バーチャルコンソールとかで。
でも、いまさらストリートファイター2やら、いっきやらの話しないでくれますか。
おっさん共にとっては若かりし頃の青春なのはわかるけど、今の20代は64やGCのほうが触れている時間が長いし、触っただけで別に楽しいと思ったことはありません。この時代のゲームにしてはしっかりしてるなとか思うだけです。
懐古おっさんは「ゲームが好き」なんじゃないです。「ゲームが好きだった頃の自分が好き」なだけです。
ゲームが好きというならせめてPS4やSWITCH、もしくはWiiU、後はPCゲーで話をしてくれませんか。最悪、スマホゲーでもいいです。
はっきりいって話が合わないです。
もちろんですが、バリバリ最新ゲームの話ししてくるおっさんや、TRPGが好きで毎週やっているようなおっさんはこのおっさんに含まれません。しかし、ネット上にしかこのおっさんが居ない。
追記
なんか変なやつに言われるかなと思ってたいたら案の定言われたので言っておきますが、プレイをしまくれってわけじゃないです。
ただ、昔のゲームの話を延々とするのをやめてくれって話です。例えば、ポケモンが好きなんですよって人のところに「リザードンが空を飛ぶ覚えないのはおかしいよなw」みたいなノリで入ってきたら、マジレスしていいのかわからないです。だって、年齢だけ重ねていらっしゃるのでネットのように「おっさん今はそれ違うで」とは言いづらいです。
せめて話の時間軸を今に合わせて話してくれっていうだけの話です。そんなレベル高い話ですか?
追記2
本質的な話は
https://anond.hatelabo.jp/20180622124748
これが大正解。
「ゲームが好きです」みたいな自己紹介をしたら勝手に頭の中で「ファミコンやスーファミの話ぐらいできるだろう」と考えて話をふってくるおっさんに「せめてゲームの話をするなら現行機で話をしてくれ」と言っているだけ。
「君もそうなるぞ」みたいな話をする人がいるけど、「脳が退化して新しいものを受け入れられなくなる」って意味ならわかるけど、いきなり昔話をぶっこむようになるって意味ならハッキリとNOであると言いたい。
追記3
普通に上司・先輩から食事中や休憩中に話を振られること無いの?
いい会社ですねぇ。
あと、別に邪険に扱ってはないよ。上司や先輩だもの。適当に話合わせて、最終は「いや~、今のゲームもおもしろいっすよ」で終わる感じですわ。
最初は舐めた態度で視聴してたんだけど、意外に作り手が本気だったことに気づき途中から正座視聴させられるやつー! だった。
SNSを見渡しても基本ポジティブな感想が多くて、成功裏に終わったと言っていいと思うけど、それは作り手がアニメに対しても競馬に対しても真面目だったからかな、と。
舐めてた俺が最初に「おっ」と思ったのはOPを見たとき。ゴルシワープ(2012年皐月賞。道中ほぼ最後方に居たゴールドシップは、最終コーナーで他馬が避けるほど荒れていた内ラチ沿いを猛然と突っ切って15頭ごぼう抜き。直線を向いたときは3番手に躍り出ていた。ゴルシを語る上で外せないレースのひとつ)が描かれていて、「ひょっとして……」と思って見返すとサビに入ってからの映像は各ウマ娘の名レース集になっていた(ダスカ:右回りかつ他馬をちぎっているので2008年有馬記念、ウオッカ:左回りで他馬を縫うように進んでいるので2009年安田記念、ゴルシ:前述どおり、テイオー:右回りかつ後ろにハヤヒデ+歓喜の涙で1993年有馬記念、マックイーン:右回りかつ雨ということで1990年の菊花賞か1993年の宝塚記念、スズカ:左回りかつ4角先頭+2番手3番手の勝負服から1998年天皇賞秋(の夢の向こう側))。
ただまあモデルとなった馬の有名レースぐらいはチェックするか、とその場は納得したんだけど、1話のラストで「日本一のウマ娘とは?」と問われたスズカが「見ている人に夢を与えられるような、そんなウマ娘」と答えたとき、これはひょっとして、と初めて期待を抱いた。
ところでウマ娘はコミカライズもされているが、アニメに先駆けて始まったそっちはレースメインじゃなくキャラの内面を掘り下げるような内容になっている(『STARTING GATE!』)。オグリが怖い先輩として誤解されたり、スズカやスペがエアグルーヴと模擬レースをしたりと史実からも離れている。アニメもそういったオリジナル色の強いコンテンツに仕上げる方向もあっただろうが、おそらくいろんな考えがあって98-99年の競馬界に即した内容となった。結果的に大正解だったわけだけど、アニメファンと競馬ファンの双方を満足させることが必達というかなり難しいお題に制作スタッフは挑むことにもなった。
1-3話、つまりスペがスピカに入って皐月賞に負けるまでかなりスピーディに展開する。1話スピカ加入まで、2話は新馬戦、3話ではきさらぎ賞と弥生、そしてなんと皐月まで行ってしまう。そして穴に向かって「お母ちゃんに勝ったところを見せてあげたかったのに……!」。競馬ファンとしては「ずいぶんと早いな」、「でもアニメとして考えるなら妥当なスピード感かな」、という感触。
新作アニメが毎クール大量に作られる昨今、3話までに一つの山ぐらいないと切られてしまうだろう(遅いぐらいか?)。ウマ娘はテンポよく世界観を示し、キャラとその目標を示し、初の挫折と復活を期す姿でそれに応えた。いずれもクオリティが高く見ていて純粋に楽しめた(1話のラストのように「来週デビュー戦だ」「ふぇ? え? え? うぇ!? う"ぇ!? えーっっっ!?」のように笑いとストーリーを混ぜ込みながら話を進行させる手腕は高く評価されていいと思う)。まずはアニメとして純粋に楽しめる代物を、という制作側の意気込みをしっかりと感じられた。
なら競馬ファンとして見た時どうだったのか。これも意外や意外、思わず反応したくなる小ネタ満載でしっかり満足できる出来だった。スペが初めてナマで目撃するレースはサイレンススズカ伝説の幕開けとなる1998年のバレンタインSで「分かってるじゃないか」と思わず愉悦顔になってしまうチョイス。解説は元中央ジョッキーで日曜の15時に競馬番組をつければだいたいパドック解説をやってるホソジュンこと細江純子がまさかの本人登場での担当だし、主人公たちが話している後ろではオグリが大食いを披露する。19世紀の伝説的名馬エクリプスをぶっこんできたと思えば、タイキがプール調教で鍛えたネタをしっかりと拾う。NHKマイルCにエルコンが出走するニュースはJRAのブランドCMを意識した作りだったし、スペシャルウィークが他のウマ娘を見たことがなかったという設定も母馬キャンペンガールが出産直後に亡くなったエピソードをしっかりと踏まえてきた(育ての親が外国人ぽいのは育成を担当したスタッフがニュージーランド人だったかららしい)。
しかもただエピソードを引っ張ってきて終わりではなく、しっかりとアニメのストーリーラインに落とし込むところが好感度大。特に良かったのは1999年の京都大賞典。スペシャルウィークは7着だったから無視するかなと思ったのにちゃんと取り込んだのを見たとき、思わず唸ってしまった。
先だって描かれた1999年宝塚記念。ここでスペシャルウィークはグラスワンダーの2着に敗れる。怪我から復帰したスズカにかかりっきりで上の空だったスペはグラスワンダーの本気の前に屈してしまうのだ。これは実際に凱旋門賞への挑戦を検討していたことやグラスワンダー主戦の的場のヒットマンぶりと連動しており、このネタの取り込みっぷりもすごいのだが、もっと凄いのはこのレースに敗れたスペが2度目の挫折と復活を穴に向かって叫んだ直後のレースが京都大賞典だ、という点だ。
復活を期すスペシャルウィーク。アニメ的な展開を考えれば、ここから上り調子で大願を成就するのが普通だろう。しかし史実では単勝1.8倍のまさかの7着。スペシャルウィークが唯一複勝圏はおろか掲示板も外したレースであり、アニメの流れの中では非常に扱いづらい。だから当然なかったことになるだろうと思っていた。と同時に、スペはお母ちゃんお母ちゃん言うけれど、基本的には実家でスペの応援してるだけだよなあでもまあトレセン学園に来るわけでもなし出番ないよなあと思っていた。そこにまさかの合わせ技。スペがやる気を出しすぎでオーバーワークになって敗れた、それを見たトレーナーはスペを実家へ放牧に出した――という展開になってそうきたか、と。アニメのストーリーと相性の悪い史実もちゃんと取り込んで必然とも言えるストーリーラインに昇華していく。アニメとしても競馬としても良いものにしたい。スタッフが知恵を絞ったから両方から見て納得の展開に仕上がったのだろう。
ここまでやられてはもう認めざるを得ない。むしろ舐めてかかったみずからの不明を恥じるばかりだ。
そしてそんな魂のこもった仕事に、「夢」を見た。ここまでやってくれるスタッフなら、競馬ファンの見果てぬ夢を、見せてくれるんじゃないか――と。
そんなこちらの高ぶった感情を見抜いているかのように、トレーナーが折に触れて「夢」を叫ぶ。
「お前、日本一のウマ娘になるのが目標だと言っていたな。日本一のウマ娘ってなんだ」
「俺はお前たちがレースに出て先頭争いをしているところが見たい! それが今の俺の夢なんだ!」
「俺は全力で走るあいつらが好きだ! これからもずっと見ていたい!」
そう、夢。
牝馬でありながらG1通算7勝、そして何より64年ぶりに牝馬のダービー制覇という常識はずれをやってのけたウオッカ。
驚異的な二枚腰で数々の牡馬を屠り、生涯連対と37年ぶりの牝馬の有馬記念勝利を達成したダイワスカーレット。
配合からローテーションから馬主の情熱が注ぎ込まれた結果、世界の頂にあと一歩まで迫ったエルコンドルパサー。
夫の遺志をついだメジロのおばあちゃんの下、春の盾・親子三代制覇という前人未到の偉業を成し遂げたターフの名優メジロマックイーン。
年間8戦全勝というレジェンド。世紀末にターフへと降り立った覇王ことハナ差圧勝テイエムオペラオー。
偉大なるサンデーサイレンスの初年度産駒であり幻の三冠馬と言われたフジキセキ。
無敗で三冠という偉大すぎる戦績。強すぎて退屈とさえ言われた皇帝シンボリルドルフ。
父子三冠という夢に挑み無敗で二冠を達成するも骨折に泣き、勝つか着外かという好不調の波に悩まされ続けた末に中364日の有馬記念で奇跡の復活を果たしたトウカイテイオー。
シンボリルドルフ以来10年ぶりに誕生した三冠馬。皐月賞を3馬身1/2差、東京優駿を5馬身差、菊花賞を7馬身差と同期をまったく相手にしなかったシャドーロールの怪物ナリタブライアン。
新・平成三強の一角でデビュー以来15戦連続連対という離れ業をやってのけた、顔デカ兄貴と書いて何でもできると読むビワハヤヒデ
3歳から6歳までG1戦線で活躍し、親子二代の優駿牝馬制覇、17年ぶりの牝馬による天皇賞優勝、年度代表馬選出とウオッカ/ダイワスカーレット時代に先鞭をつけた女帝エアグルーヴ。
3歳戦を無敗で制するも骨折から始まった低迷と復活を繰り返しながらスペシャルウィークやエルコンドルパサーといった同期としのぎを削り、グランプリ三連覇を達成したワンダーホース・グラスワンダー。
世界的種牡馬の代表産駒として8戦8勝、3歳王者戦を大差勝ち、2着馬につけた着差の合計は61馬身など数々の伝説を打ち立てるも持込馬という生い立ちからクラシックに参戦できなかったスーパーカー・マルゼンスキー。
クラシック初戦は荒れた内馬場を通ってワープし、春の盾は2角からというまさかの超々ロングスパートで勝ってしまい、三連覇に挑んだ春のグランプリではゲートで立ち上がり信じられないほど出遅れとターフ内外での茶目っ気でファンを魅了した新・芦毛の怪物ゴールドシップ。
牝馬は牡馬に勝てないという時代にあって対等以上に渡り合い、94年の有馬記念では絶頂期のナリタブライアンに真っ向勝負を挑んだ脅威の追込馬・女傑ヒシアマゾン。
地方笠松から殴り込んで中央競馬界を席巻。先輩タマモクロスとの競演で芦毛伝説をつくり、連闘(!)で挑んだジャパンカップにて2分22秒2という世界レコードの前にタイム差なしのクビ差2着に敗れるなど数々の死闘で身体をボロボロにしながらも有馬記念で見事に引退の花道を飾って多くのファンに大きな夢を見せたスーパーアイドルホース・オグリキャップ。
武豊もダービーだけは勝てない。そう言われていた天才に悲願のダービー制覇をもたらし、凱旋門賞馬モンジューも降した日本総大将スペシャルウィーク。
そして、サイレンススズカ。
1000mを57秒台という無謀とも言えるラップで逃げながらもそれが本馬のペースとジョッキーに言わしめた異次元の逃亡者。
しかし大欅の向こう側に散って悲運の最期を遂げてしまったサイレンススズカ……。
ウマ娘は、1998年の競馬ファンが抱いた夢、志半ばで霧散したその夢にまっこうから挑んだ。始まる前の俺なら「いやいやスズカの伝説ってのはそんな簡単なもんじゃないんだ」と言っただろう。しかしウマ娘のアニメとしての面白さ、そして制作陣の競馬に対する真摯な態度の前に「夢」を見せてくれることを期待するようになった。
そしてウマ娘は見せてくれた。競馬ゲームで生産した「サイレンススズカ」を走らせ、ひとりこっそりそして虚しく見ていた夢ではない、ある意味で本物の夢の続きを。
いや分かってる。所詮アニメじゃないか、それこそ本物のサイレンススズカは大欅の向こうで散ったじゃないか。その通りだ。それがまごうことない真実だ。でもあの時に涙を流した競馬ファンみんながいっしょにサイレンススズカの夢の続きを見られるとしたら、これが最初で最後じゃないか――そんなふうにも思える。
それぐらいアニメウマ娘は馬鹿正直に、大真面目に、こっ恥ずかしいほどに競馬が見せる「夢」に挑み、そしてやり遂げてくれた。
トレーナーは夢を叫ぶ。そしてときには叱り、ときには励ましながらウマ娘たちを応援する。「俺がついてるぞー! どこまでも走れー!」
競馬ファンが自分の好きな馬を応援するときの気持ちをトレーナーは代弁してくれた。彼は競馬ファンそのものだった。そして競馬を知らないアニメファンにも競馬を好きになってもらえるんじゃないかという期待を抱かせるほどカッコ良かった。
こんな未来があるなんて、大欅の向こうに散ったスズカを見たとき思いもしなかった。
そして何より、オタクであってもちょっと引いてしまうようなアレなコンテンツに愛馬の出走を許した権利者の皆様に心からの感謝を。
あなたたちの勇気ある決断のおかげで本当にいいものが見れました。ありがとうございました。
※おまけ
あんまり競馬に詳しくない人がもしここまで読んでいるのなら以下の動画をぜひ見ていってください。もうちょっとウマ娘と競馬が好きになれるかもしれないから。
[ウマ娘]OPにプロの実況と解説を付けてみた - nicovideo.jp/watch/sm33239562 ※サビにご注目。東日本G1ファンファーレで始まる構成も秀逸
ブランドCM 「夢の第11レース」 120秒編 - youtube.com/watch?v=kcv3D26GjWA ※最終話WDTの元ネタ
【ウマ娘】JRA・CM 夢の第11レース ウマ娘Ver. - nicovideo.jp/watch/sm33399077 ※この人の動画ほんと好きなんだ……
【ガチ実況】ウマ娘:ウィンタードリームトロフィー - nicovideo.jp/watch/sm33385387 ※最終話ネタバレ
【THE WINNER】グラスワンダー ウマ娘ver. - nicovideo.jp/watch/sm33232892 ※かっちょいい
【ウマ娘】JRA・CM キングヘイロー ウマ娘Ver. - nicovideo.jp/watch/sm33252425 ※かっちょいい
【競馬CM】2012年JRA G1レースCM上半期総まとめ - nicovideo.jp/watch/sm18106839 ※↑2つの元ネタ。そしてライスシャワーがかっこよすぎて痺れる
【競馬CM】2013年JRA G1レースCM上半期総まとめ - nicovideo.jp/watch/sm21202474 ※テスコガビーが曲のマッチ具合も含めて最高。ちなこれと↓はポプテピピックの神風動画制作
【競馬CM】2013年JRA G1レースCM下半期総まとめ - nicovideo.jp/watch/sm22387914 ※オペラオーの「その馬は完全に包囲された。道は、消えたはずだった」からの流れが激熱
【競馬】第49回毎日王冠 サイレンススズカ - nicovideo.jp/watch/sm4584692 ※あのエルコンに影も踏ませないスズカ
1999年 第78回凱旋門賞 日本語実況版 - youtube.com/watch?v=IrIH0SNUt2M ※世界の頂への挑戦
1999年(平成11年) ジャパンカップ スペシャルウィーク - nicovideo.jp/watch/sm16283421 ※エルを降したモンジューを、日本総大将が迎え撃つ
【競馬】第44回有馬記念 グラスワンダー(画質向上) - nicovideo.jp/watch/sm4026592 ※最後は最強の二頭
2008.11.02 第138回 天皇賞(GI) - nicovideo.jp/watch/sm5198792 ※ダイワスカーレットが差し返すところ泣いてしまう……
(競馬) トウカイテイオー 1993第38回 有馬記念 (奇跡の復活) - nicovideo.jp/watch/sm5913 ※364日(1年)ぶりのレースでG1制覇は史上初
【競馬】1990年 有馬記念(オグリキャップ) - nicovideo.jp/watch/sm1170176 ※オグリ燃え尽き……からの復活ラストラン。なんてご褒美だよまったく
※おまけのおまけ
【競馬】根岸S ブロードアピール - nicovideo.jp/watch/sm998264 ※すごい追込+青嶋バクシンオー渾身の実況
1997 エリザベス女王杯 エリモシック - youtube.com/watch?v=Q0R2cQ2kJ1E&feature=youtu.be&t=249 ※グラス主戦の的場のすごいレース+馬場さんの実況がかっちょいい
私がマッチングアプリで彼女を探すようになったのは、転職がきっかけでした。実は転職するまでは教師をしてまして、「自分は人に教えるのが好きだから、向いているだろうな」と最初は思っていたのですが…いざやってみると、全然ダメでしたね。
生徒に勉強を教えるのは楽しいし、熱心に質問してくる生徒は本当に可愛くて、私もみんなの成長を楽しみにしていました。しかし、先輩はお小言が多いし、一部の生徒の親は理解に苦しむことを言ってくるし、「教師って、こんなことまで請け負うのか…」と思うようになったのです。
結局はそういう人間関係のしがらみが嫌で、教師を辞めることになりました。ただ、辞める少し前に「今、塾の講師を募集しているんだけど、良かったらどう?教えるの上手いし、教師よりも仕事に集中できるよ」と知り合いにスカウトされまして、そっちに行ったのです。
その結果は、大正解でした。塾の講師は教師よりも勉強を教えることに集中できるし、子供を塾に通わせる親は良識のある人が多いのか、そういうクレームを気にすることもありません。また、塾には学ぶ意欲の高い学生が多く、こちらも教え甲斐がありました。
こうして私は仕事にも慣れ、気持ちにも余裕ができたので、やっと念願だった『彼女探し』を始めたのです。マッチングアプリのことは教師のうちから知っていましたが、あんな仕事をしているときだと気持ち的な余裕はなくて、彼女ができても優しくすることはできないでしょう。
その点、今は「彼女を作って、いつかは結婚もしたい…」と思えるようになったので、マッチングアプリの利用にも乗り気です。乗り気なまま使うとさらに相手と仲良くなりやすいのか、同い年のA(仮名)という女性と仲良くなりまして、とても会話が弾みました。
Aの仕事は普通の会社員でしたが、実は教員免許も持ってまして、「実際に教師をしてみて、どうだった?」と聞かれたのです。その際に自分の体験談を話すと「そっかぁ、やっぱり大変なんだね…」と納得してくれて、これがきっかけで仲良くなれた感じですね。
Aとはその後も順調に仲良くなり、何度かデートをしたら、そのままお付き合いもできました。昔なら女の子とデートしていてもイライラしていたかもしれませんが、今は余裕もあるので、ちゃんとAにも優しくできています。
マッチングアプリはいつでも使い始めることができますが、精神的な余裕がないと相手にも優しくできないので、利用の際はそういう点も考慮すると良さそうです。