はてなキーワード: カーテンとは
毒親、いや毒家族というものからなんとか逃れてみたもののいつも何かしらの強迫観念はつきまとう。
例えばカーテンがほんの少し埃っぽいことに対しカビが撒き散らされているのではと恐怖してみたり。
大切で唯一確かだと言える持ち物がカビで傷んでしまったらどうしようとかそんな事を考えたり。
数少ない友達よりもこの一冊が大切なのだと感じる自分すら嫌で、でもやはりそれは大切だ。
抗うつ剤を飲んで家事をしようとしても動機がして動けないなんてこともある。
休日は無理に出かけずにのんびりと掃除をしている。少なくともここには私を邪魔するものや嫌味を浴びせる人はいないのだ。
それでも一つでも失敗したら取り返しがつかないのでは?という強迫観念にどうしてもとらわれてしまう。
それでも以前よりはマシになったとは思う。
結構なコミュ障で吃音もちょこちょこでる私が生活費とガチャ代欲しさに営業職についてみたが案外なんとかなった。
長くコミュニティを維持するのは非常に苦痛だけれどその場限りなら案外なんとかなるのだ。でも期待はされたくないのだ。その場にいるのを許容されるぐらいがいい。
辛いことは忘れてしまえばいい。
でもそうやって仕事をして稼いで大好きなゲームをしているが、ああどうしたらいいんだろうか何か何かいい方法はないのかと不安がタールのようにこびりついて離れない。
正常な幸せな家庭は存在する。その事実を度々確認するたびにとても辛い気持ちになるのだ。
あぁ、私がこの地区の近くで実家暮らしを楽しくしていたのならきっと今以上に楽しく遊んでいたのだろう。
もし、もし、あそこで生まれていなければもっと違う人生だっただろう。
周りにもっと助けを求められる環境があったならばもっと違う人生だっただろうなどと。
大学にはとりあえず行くものだからと気楽に(努力をして、勉強をして)人生を歩めたらとそんな夢想をしては内臓が引き裂かれるような思いになる。
そんなものは与えられなかった。与えられたかもしれないがそれは選ばなかった。今も選べるかもしれないがそれでもやはり選べないのだ。
いやその時手に入れることが重要で後からそれを手に入れても意味がないのだ。
大島行きを検討してるみたいだからチェック済みかもしれんけど、三宅、御蔵、八丈航路はどう?
特等室だとちょっと高いけど、施設はホテル並みだから、海が荒れない&船に弱くないなら、快適でおすすめかと。
個人的には、特一等や特二等のベッドがリーズナブルだと思うけど、特二等は団体室にカーテン仕切りの個室ベッドなのでダメな人はダメかも。
一等以上だとほとんど人が居ないので貸切状態にすることもでき、鍵もかかるので入船してからの部屋変更するのもあり。
三宅はなーんもないけど、鳥好きなら鳥の密度が他の伊豆諸島に比べて高いので鳥見ながらハイキングみたいな感じかしら。
御蔵は、春~秋のシーズン内なら朝一でイルカと泳ぐ(遊んでもらう)のはどう? 体験した人の話によると随分癒されるらしく、リピート率高いみたい。
八丈は他の島に比べて宿の選択肢が色々あるのと、温泉が多いのがいいよね。個人的には裏見ヶ滝とかみはらしとかが好きだなぁ。
三宅と八丈は空路が比較的安定してるので、空路で帰りやすいのもいいよね。
https://anond.hatelabo.jp/20181207102517
ワイ遅漏アラフォー、数ヶ月に一度くらいの頻度で名古屋某ソープに行くマン。先日も行ってきたんやが、大変満足したのでレポっておくで。風俗行くオッサンの話なんて気持ち悪いって思う方がうっかり見ちゃったらスマンな。
ワイ、業務的に年明けは大変忙しいマンである。連日の残業残業&残業で疲れきったワイは、ある日の仕事後、誰かにスッキリさせてもらいたいモードオンになったのだった。個人的にヘルスは使わないマンワイ故に、そうすると中華エステかハンドジョブの店かソープということになる。めっちゃ疲れてたから中華エステに行くとガチ寝してしまいそうやったし、懐も暖かかったから、いつもの泡風呂に入りに行こう! ワイは決心した。
早速、某ヘブンで出勤情報をチェック………むむむ! 前から気になってたけどタイミング合わなかったベテランさんが出勤してらっしゃる。ちなみにワイは太くないことと接客(愛想)の良い嬢であれば基本OKマンであるが、やはり疲れていたので俗に言うフルアシストの嬢を求める気分やった。某ラブとか某掲示板とかをチェックしても、そのあたりは問題無さそうだったので今回はこの姫(以後、仮にKちゃんとしておく)にお願いすることにした。
お目当てを◯カップKちゃんに定めたワイは店に予約の電話をした。遅い時間だったので枠が埋まっていることも覚悟していたんやが、平日だったせいかすんなり予約が取れ一安心。余談やが、こういうタイミングでお目当てに決めた嬢の予約取れなかった場合、素直に諦めて帰るべきや。他に誰でもいい、どの店でもいいってノリやと高確率で地雷引くやで。
予約の10分前に店に到着。店員さんの対応はいつも通りやった。入泉料12Kを払ってからトイレ→待合室で備え付けの茶をいただき、時間までぼーっと待つ。アカンめっちゃ眠くなってきたなと思い始めた頃にお呼び出し。カーテン向こうのKちゃんとご対面。おほ~☆ プロフ等から恐らく40代半ば以上のご年齢だと思われるんやが、キレイにしてらっしゃる。考えてみれば明らかに自分より年長の嬢とのプレイは人生で3度目やな~、などと思いつつ部屋に移動。
「初めまして、だよね?」-そうです初めましてです。今日はよろしくお願いします。Kちゃんはフフッと笑った。
脱がしてもらって脱がせて、おお~体も引き締まってらっしゃるし○カップも偽り無し。想定されるご年齢でこんなにキレイにしてる女性も珍しいんちゃうかと内心ちょっと感動しつつ洗体してもらう。ああっワイの玉筋が! アナルが! ああっ! 風呂での潜望鏡でワイの愚息はもう有頂天や! マットなんかされたら、いったいどうなってしまうのか!? あ、ああ~~~めっちゃ声出てまう! アナルなめヤバイ! 超気持ちいい! そんな風にガチでビクンビクンしていたワイにKちゃんが言ったんや。
「フフッ………もう、挿れたい?」
あっやばいめっちゃ甘やかし口調や。まさかアラフォーになって甘やかされるとは思わんかった。めっちゃママ感ある。完全に甘やかされ弄ばれていたワイはこう言う事しかできんかった。
「挿れたいです…っ!」
その後、マット→ベッドに移行してもKちゃんの騎乗位のスタミナすげえ! 超エキサイティン! 搾り取られるぅ~! 超・満・足。
ほぼ時間一杯搾り取っていただいたのであんま時間も無かったんやが、ちょっぴりトーク等もしていると、会話のテンポが若干合わないこともあったが、まあご愛嬌やろう。ベテラン嬢の妙技を味わわせてもらった。すごいテクやった。また行きますご馳走様でした………ワイはそう思いつつ、家路についたのだった。
ちゅうわけで仕事するやで………ほな、また。
何か知らんけど総額12kというトラバがあったので、確かにそこは書き忘れたわ。総額30k前後やで。書き忘れてすまんかった。
すげえ分かる。
田舎だったら自分の車でカーテン引いて寝るんだけど、都会は休める場所には大抵すでに休んでる人がいるし、今はいなくてもすぐ来るし、全然プライベートがない。休まらない。
投稿可能文字数は感覚として染み付いていたし、十分に注意もしていたはずだった。だがそれでも、死神のワイヤーの速度に煽られる形で、つい記事の一つが一線を超えてしまった。
もちろん、短縮や分割をした上で投稿し直すことは可能であり、取り返しのつかないミスではない。だがどのみち、今のような記事のままでは黒帽子を退けるイメージが〝増田〟にはどうしても湧いてこなかった。一瞬とはいえ立ち止まったことで、その現状を自覚してしまったのだ。
手の止まった〝増田〟を前に黒帽子は、今度こそ必殺の一撃を放とうとでもいうのか、妙にゆったりとした動きでワイヤーを構える。
「……………………!」
迫りくる「死」を前にして、これまで匿名ダイアリーという修羅の空間を支配してきた圧倒的な異能が、限界を超えて稼働する。
「!」
打鍵音がひとつながりに聞こえるほどの神速で記事を執筆し、投稿した。
『口笛を吹いて現れる黒帽子の死神だけど、笑顔の素敵なJKを飛び降り自殺に追い込んだ時の思い出を語るよ』
投稿するやいなや、凄まじい大炎上が巻き起こった。100、200、300、500……みるみるうちに1000ブクマの大台を超えて炎上、すなわちバズは拡大し続けている。
それは、たとえどんな「設定」であれ強固に定着させるのに申し分ないほど巨大な「承認」だった。
「――というわけさ。こんな形で浮かび上がることになるとは、僕も思っていなかったがね」
澄んだボーイソプラノが〝増田〟、いや、「黒帽子の〝増田〟」の口からこぼれる。
「ほう?」
一応は声を上げたものの、黒帽子はこの特異な状況――自分と寸分たがわぬ姿をした〝増田〟を前にしても、ほとんど驚いた様子がなかった。
だが、これで少なくとも戦闘力に関しては互角のはずだ。仮に相討ちになったところで、〝増田〟の方は「設定」が消えるだけ。〝増田〟は勝利を確信した。
「それで君は――『僕』は、どうするのかな?」
そこで黒帽子は、なんとも奇妙な顔つきをしてみせた。笑っているような泣いているような、左右非対称の表情だった。
〝増田〟は、いつの間にか自分の顔も、鏡写しのように同じ表情を浮かべているのを感じた。
〝増田〟の意思とは無関係に口から言葉が吐き出される。そして、黒帽子の〝増田〟の右手が持ち上がり、肩の上あたりで止まった。
(……?)
「仕上げはよろしく頼むよ、『僕』」
そう言うと黒帽子の〝増田〟は、さよならをするように右手を軽く振った。その直後、耳元で空気を切る音がしたかと思うと、
(!?)
ワイヤーが〝増田〟の首にしっかりと絡んでいた。しかも、そのワイヤーは目の前の黒帽子ではなく、〝増田〟であるはずの黒帽子自身の右手から伸びているものだった。
なぜこんなことにと考える暇も与えず、ワイヤーは〝増田〟の首の皮を、肉を、骨を切り裂き、黒帽子自身の「設定」を破壊した。
「……!?」
黒帽子の「設定」を失い混乱する〝増田〟の首に、今度は前から飛んできたワイヤーが巻き付いた。遂に「本体」を捉えられた今、もはや〝増田〟に逃げ場はない。
黒帽子のワイヤーは、これまでのように一気に切断することはせず、しかし着実に〝増田〟本体の首をギリギリと締め付けていく。
「……! ……!」
「『自分』をないがしろにして、死神なんかに頼るからそうなるんだよ。お別れだ、〝増田〟君。いや、〈アノニマス・ダイアリー〉……」
黒帽子が、世界の敵としての〝増田〟に名前を付けた、まさにその時、ワイヤーの圧力がとうとう限界を超え、〝増田〟という存在に決定的な傷を付ける音が鳴った。
「…………うぅん?」
土曽十口(つちそ・とぐち)は、パソコンデスクの上にだらしなくうつ伏せになっていた上半身を起こした。
締め切っていたはずのカーテンが何かのはずみでわずかに開いており、そこから差し込む朝日に目を灼かれる。不健康な生活をしている女子大生には、その爽やかな光は眩しすぎた。
どうやら、ネットをしながらいつの間に寝落ちしていたらしい。付けっぱなしにしていたヘッドホンからは、午後から日暮れにかけて軽い夕立ちが降ったことを歌う、ハスキーな男性ボーカルの声が流れている。
「んんー……痛っ?」
しつこい眠気を振り払うように大きく伸びをしていると、首の周りに妙な痛みを感じた。
スマホのインカメラで確認すると、寝ている時にヘッドホンのコードがからまったのか、首をぐるりと一周する赤い痕がついていた。それは、本来平凡な容姿のはずの十口が人混みの中でも目立って浮いてしまいそうなぐらい、はっきりとした線だった。何かの目印のようでもある。
「うわ、この痕しばらく残りそう……」
あるいは、一生消えないのかもしれない。なぜかそんな風にも思えた。
それから急に、2年になってからサボりがちで4年間での卒業が怪しくなっている単位のこと、入学直後に一度参加して以来まったく顔を出していないサークルのこと、この前の正月に帰省しなかったせいでしつこく電話をかけてくる両親のことなどが、一度に思い出された。
――なんで突然、こんな当たり前のことばかり? たしかに、私自身の問題ではあるけど……
そんなことを考えながらふとディスプレイに目を向けると、ブラウザには最後に開いていたらしいニュースサイトが表示されていた。見るともなくページをスクロールしていく途中、
という文字が目に入った。
「……」
『岩……海氏の来社時にお茶を出さなかった事実が明らかとなり……』
『消息筋によれば、この一連の動きには二人組の犯罪者、通称“ホーリィ&ゴースト”の関与があるとも……』
「…………」
しかし、それを見てももはや十口の胸には何の想いも湧き上がってはこないのだった。いや、もともと「想い」などというものは無かったのかもしれない。
ただ、自分がひどく無駄なことに時間を費やしていたような、途轍もない徒労感だけが泡のごとく浮かび上がったが、それもすぐに弾けて消えた。
「……よし!」
無理やり声を出して、十口は気持ちを切り替えた。
今までがどうであれ、これからは充実した実生活を目指して生きていけばよい。そのために必要な指針も既に示されているのだから。
すなわち、
『十分な睡眠』
『適度な運動』
『瞑想』
この4つだ。
それらを実践すべく、まず第一歩として十口は、人生の時間を無駄に奪うだけの箱であるパソコンの電源を――ためらいもなく落としたのだった。
今さらセカイ系(笑)の出来損ないみたいな90年代ラノベ引っ張りだしたところで、ガキが食いつくわけもないと分かりきってるのがクソ。どうせ昔のファンも大半はとっくに趣味変わってるだろ。
無意味に時間が行ったり来たりするのがクソ。カッコイイとでも思ってんのか?分かりにくいだけだわアホ。
キャラデザ全員モブ過ぎて誰が誰だか分からないのがクソ。ブギーポップは分からない(爆笑)
ラノベ業界もそろそろ弾切れで苦しいのは分かるけどさあ、さすがにこんなもん引っ張り出してくるぐらいなら、他にもっといい原作あるだろ。たとえば……お留守バンシーとか!
そこまで打ち込んだところで〝増田〟は確認画面に進み、実際に表示される際の見え方をチェックする。特に問題のないことを確認して「この内容を登録する」ボタンをクリックした。
大きく息を吐き、しばし目を閉じて時間が過ぎるのを待つ。ヘッドホンからは、路地裏の秘密クラブについて女性ボーカルが歌うハスキーな声が流れているが、別に〝増田〟の趣味ではない。無音よりは多少の「雑音」があった方が集中しやすいという程度の理由で、適当にまとめて違法ダウンロードしたファイルをランダム再生しているだけだ。
曲が終わったのを合図に目を開き、さきほど投稿した「記事」のページをリロードした。夜の10時過ぎというお誂え向きの時間だけあり、セルクマなどという姑息な真似をせずともブックマークが既に30ほど集まり始めている。トラックバックも、上から目線の傲慢な評価への反発が7割、同意が2割、元記事とほとんど無関係の独りよがりのつまらないネタが少々という予想通りの傾向で、活発に反応してくれている。
たった今書き込んだ記事で扱ったアニメにも、その原作のライトノベルにも、〝増田〟は特に興味がなかった。ただ、SNSなどでの他人の発言を眺めていて、こういうことを書けば「バズる」だろうなというイメージが、なんとなく頭に浮かんだのだ。あとは、このアニメを叩きたい人間の「設定」に自分を重ねるだけで、溢れるように文章が湧き出してくるのだった。
「……」
自分がそれを書いたという証が何一つない文章が、回線の向こうで人々の注目を集めるさまを、〝増田〟は静かに見つめた。
自己主張が少なく控えめな性格、という程度の話ではない。何が好きで何が嫌いなのか、何が得意で何が苦手なのか、人に聞かれるたびに例外なく言葉に詰まった。単にそれを表現するのが下手というだけではなく、自分がどんな人間なのか〝増田〟自身どうしてもよく分からないのだった。
そのため、自己紹介ではいつもひどく苦労させられた。胸の内を語ることのない秘密主義の人間と見なされ、親しい友人を作ることも難しく、いつも孤独に過ごすこととなったが、それが嫌なのかどうかすら〝増田〟には判断ができなかった。
その感覚は、対面での音声によるコミュニケーションだけではなく、ネットでの文字を介したやり取りでも特に変わりがなかった。たとえ単なる記号の羅列に過ぎないとしても、自分を表すIDが表示された状態で、何か意味のあることを言おうという気にはどうしてもなれなかった。
そんな〝増田〟がある時、一つの匿名ブログサービスと出会った。
良識のある人間ならば眉をひそめるであろう、その醜悪な売り文句に、増田はなぜか強く引きつけられた。
そこに書き込まれる、誰とも知れぬ人間の手による、真偽のさだかならぬ無責任な言葉たち。数日の間、寝食を忘れてむさぼるように大量の匿名日記を読みふけった後、それらのやり方を真似ることで、〝増田〟は生まれて初めて自発的に文章を書き出したのだった。
特に書きたい内容があったわけではない。ただ、睡眠不足と空腹でからっぽになった頭を満たす、得体の知れない衝動に従いキーボードを叩いた。
出来上がったその文章は、保育園への子供の入園申し込みをしていたが落選してしまった母親、という「設定」で、政治批判もまじえつつ全体としてはどうにもならない怒りを乱暴な口調で八つ当たり気味にぶつける、といった感じの記事になった。
実際には、保育園への申し込みどころか、当時から現在に至るまで〝増田〟は結婚すらしてはいないのだが。
これを軽い気持ちで匿名ブログに投稿したところ、予想外の爆発的な大反響を呼んだ。ブクマは2000以上付き、「記事への反応」は100を超え、ニュースサイトどころか国会で取り上げられる事態にさえ発展した。
遂には記事タイトルがその年の流行語大賞のトップテンにまで入ってしまったこの一連の動きに、もちろん驚きはあった。だがそれ以上に、自分の指を通して生まれ落ちた自分のものではない言葉、という捩れた存在自体に、〝増田〟は震えるような感動を覚えたのだった。
その確信を得てからは、坂を転がり落ちるように、この匿名ブログへとのめり込んでいった。
様々な立場の人間になったつもりで書いた記事を投稿し続けるうちに、〝増田〟は奇妙な現象に気がつく。ひとたび題材を決めて書き始めてしまえば、それまで全く知識も関心も無かったどんな分野についても、どういうわけか淀みなく言葉が湧き出すのだ。
ある時は、新人賞を受賞してデビューしたものの限界を悟って引退を決意した兼業作家だったり。
〝増田〟は、記事を書くたびにありとあらゆる種類の人間に「なった」。そしてそれらの「設定」の元に、このwebサービスの読者たちに、感動や、怒りや、笑いを提供してきた。〝増田〟にとって、読者から引き出す感情の種類はなんでもかまわない。自分の書いた言葉が、多くの人間に読まれることだけが重要なのだ。
実際、〝増田〟の書いた記事には、著名人気ブロガーですら不可能なほどの高確率で100を超えるブクマが次々と付いた。SNSでも拡散され、ネット上の話題を取り上げる(といえば聞こえは良いが他人の褌で相撲を取るしか能がない)ニュースサイトの元ネタにもなり、つまり――「バズって」いた。
本格的に活動を始めてから、〝増田〟は毎日多数の記事を投稿し続けている。〝増田〟以外の利用者は誰一人気づいていないが、今ではこの匿名ブログサービスにおける人気記事の、実に九割以上が〝増田〟一人の手によるものなのだった。もはやここは〝増田〟のしろしめす王国なのである。
そして、〝増田〟の支配は電脳空間にとどまらずより大きく広がろうとしている。〝増田〟の記事が読者から引き出す強い感情。これを利用し、流されやすい一部の読者の行動を誘導することで、〝増田〟は既に現実でも大小さまざまな事件を引き起こす「実験」を成功させていた。だが、それぞれの事件自体に関連性は全くなく、膨大な投稿量を多数のIDに分散しているため、運営会社ですら事件の背後にいる〝増田〟の存在には手が届いていなかった。
この影響力の、深く静かな拡大。これが順調に進めば、いずれはサービスの運営会社の中枢に食い込むことすら時間の問題だった。
匿名ブログ支配の過程で〝増田〟の掴んだ情報によれば、この運営会社はただのIT企業ではない。その実態は、途方もなく巨大なシステムの下部組織なのだ。そこを足がかりに、「世界」にまで手が届くほどの――
「……っ……っ」
果てのない野望の行く先に思いを馳せ、〝増田〟は声もなく笑った。
そこに、
――♪
「……?」
ランダム再生にしていたメディアプレイヤーから、奇妙な曲が流れ始めた。
口笛である。
音楽に興味のない〝増田〟でさえ聴き覚えがあるほど有名なクラシック曲を、どういうわけかわざわざ口笛で演奏しているのだった。それは、アップテンポで明るく力強い原曲を巧みに再現してはいたものの、しかしやはり口笛としての限界で、どこか寂寥感のある調べとなっていた。
「……」
これのタイトルはなんだっただろうかと〝増田〟にしては珍しく気にかかり、プレイヤーの最小化を解除して現在再生中の曲名を表示した。そこにはこうあった。
「!!」
その事実に気づいた〝増田〟はヘッドホンを頭からむしり取り、音の出どころを探った。
「――♪」
耳を澄ますまでもなかった。口笛は、明らかに〝増田〟の背後から聴こえてきている。それも、ごく至近距離で。
「……!」
背筋を貫く寒気を振り払うように、〝増田〟は回転式のデスクチェアごと素早く振り返った。
片付いているというより極端に物の少ない部屋の中央。そこに、それは立っていた。
金属製の丸い飾りがいくつか付いた、筒のような黒い帽子。全身を覆う黒いマント。男とも女ともつかない白い顔に浮かぶ唇までが、黒いルージュで塗られている。
まったく見覚えのない顔であり、衣装だった。
普通に考えれば、異常な格好をした不法侵入者ということになる。今すぐに警察に通報するべきだ。だが〝増田〟は、そんな常識的な思考をこの黒帽子に適用することが、なぜかできなかった。
部屋のドアには鍵を掛けておいたはずだが、こじ開けられた様子もなくきれいに閉じている。いくらヘッドホンから音楽が流れていたとはいえ、人間がドアを開け閉めして部屋に侵入した物音に全く気づかないということがあるだろうか?
カーテンを閉め切り照明の消えた部屋の中、ディスプレイの微かな灯りに照らし出された黒帽子の姿は、床から突然黒い柱が生えてきたようにも見えた。
〝増田〟の当惑をよそに、黒帽子は口笛を止めて言葉を発した。黒い唇からこぼれる声は澄んだボーイソプラノで、やはり性別を特定することはできなかった。
「人には、自分にとって切実な何かを伝えるために、敢えて何者でもない立場をいっとき必要とすることもある。だが、『匿名』こそが本質であり立ち返るべき『自分』を持たない存在――それは『自分』という限界に縛られないが故に、無目的にただ領土だけを広げ続け、遠からず世界を埋め尽くすことだろう。その新世界では、根拠となる体験を欠いた空虚な感情だけがやり取りされ、真の意味での交流は永遠に失われる……間違いなく、世界の敵だな」
人と世界について語りながらその声はどこまでも他人事のようだったが、最後の断定には一点の迷いも無かった。
世界の敵、という言葉が指す意味の本当のところは分からない。だがこいつは、〝増田〟こそが「それ」だと言っているのだった。
なぜ初対面の異常者にそんな決めつけをされるのか。そもそもこいつは一体何者なのか。
そんな疑問を込めて、〝増田〟は目の前の怪人物を睨み付けた。黒帽子にはそれだけで意図が伝わったらしい。
〝増田〟の耳にその言葉は、それができるものなら、という挑発を含んで聞こえた。
できないわけがない。変質者に名前を教えるのは危険だが、自宅に押し込まれている時点で大差ないだろう。
〝増田〟は椅子から立ち上がって息を吸い込み、自分の名前を告げようとした。
しかし、
「…………!」
声が出なかった。いくら喉に力を込めても、最初の一音すら形にならずに、ただかすれた吐息が漏れるばかりだ。
そう言った黒帽子が肩ほどの高さに上げた右手を、ついっと振った。その指先から細い光の線が伸びてきて、空気を切るような鋭い音がしたかと思うと、〝増田〟の首の周りに熱い感触が走った。
「?」
次の瞬間には、〝増田〟の視界はゆっくりと下降――いや、落下し始めていた。
途中で回転した視界の中で〝増田〟が目にしたのは、頭部を失ったまま直立する、肥満した成人男性の身体だった。
「……っ!?」
直前までまとっていた「自称アマチュアアニメ批評家」の「設定」が霧散したことで、〝増田〟は意識を取り戻した。思わず首の周りに手をやるが、傷一つ付いてはいない。
「なるほど。君の能力にはそういう働きもあるわけだ」
感心したように言って、黒帽子は宙空をかき混ぜるように右手の指を動かした。そこにまとわりつくように、光の線が見え隠れする。目を凝らして見れば、それは極細のワイヤーだった。
〝増田〟の首に巻き付けたあれを素早く引くことで、瞬時に切断を行なったのだと、遅れて事態を把握する。
「……」
いま首を斬られたのは、あくまで〝増田〟の「設定」に過ぎない。だが、味わった「死」の感覚は本物だった。それを実行した黒帽子は、今も平然とした顔をしている。
目の前の怪人が何者であろうと、もはやこれだけは間違いがない。こいつは〝増田〟を殺しに来たのだ。無慈悲に、容赦なく。
「……!」
黒帽子と向き合ったまま〝増田〟は、後ろ手に恐るべき速度でキーボードを叩いた。わずか数秒で4000字超の記事を書き上げると、そのまま確認もせず匿名ブログに投稿する。
記事はすぐさま炎上気味に100オーバーのブクマが付き、新たな「設定」が〝増田〟の全身を覆った。そこに立っている姿は既に、制服を着た男性警察官そのものだった。
実のところ〝増田〟にとっても、匿名ブログのこのような使い方は初めてのことだった。だがその事実を意識することすらなく、〝増田〟はこの応用をごく自然に行っていた。まるでこれが本来の用法だったかのように。
警察官の〝増田〟は、いかにも手慣れた動きで腰のホルスターから素早く拳銃を引き抜いて安全装置を外すと、黒帽子の頭に狙いをつける。この距離なら外すことはないだろうし、さすがに銃弾を正面から受けても平気ということはあるまい。
しかし弾丸が発射されるより早く、引き金にかけた〝増田〟の指をめがけて光が走った。
「そんな危ないものは下ろした方がいい」
切断された指がぽろぽろと床に転がり、〝増田〟は拳銃を取り落とした。重い金属が床に叩きつけられる、ごとん、という音が響く。
「!」
失った指の痛みにのたうち回る間もなく、再び飛び来たワイヤーが〝増田〟の首に絡みついた。鋼糸はそのまま、いともたやすく肉に食い込み――
「……!」
一瞬のブラックアウトの後、警察官の「設定」もあえなく消え去ったことを〝増田〟は悟る。
〝増田〟は、次の「設定」を求めて、慌ててキーボードを叩き始めた。殺されないためにはそうするしかない。
黒帽子がワイヤーを一振りするたびに、現在の〝増田〟の「設定」が消滅する。〝増田〟は超スピードで匿名ダイアリーに記事を書き込み、新たな「設定」を得る。その繰り返しが続いた。
格闘家、ヤクザ、猟師、力士、刃渡り50センチの牛刀で前足を切り落として熊を倒した撮り鉄、1200万ドルの機械義手を身につけ「捕らわれざる邪悪」の二つ名を持つ元アメリカ特殊部隊員……
考えうる限りの、個人戦闘能力の高い人間の立場で書かれた記事を投稿し、その「設定」を使って制圧を試みる。だが、いずれの力をもってしても、〝増田〟は黒帽子の体に触れることさえできなかった。
「……」
異常なまでの適性ゆえに普段は意識せずに済んでいたが、この匿名ブログサービスは本来、少しでも油断すると「あれ?増田さん、この話前にもしませんでしたっけ?」と指摘を受ける、投稿者に厳しい場だ。いかに〝増田〟の記事とはいえ、短時間に似たようなネタを続けて投稿したのでは、ブクマやPVを稼ぐことなどできない。「設定」を定着させるためには、読者からのそういった「承認」を得なくてはならないのだ。
少なくとも同じ職業をネタにすることは避ける必要があった。とすれば、「設定」を潰されるたびに書ける記事の選択肢は少しずつ限られていく。
〝増田〟は、徐々に追い詰められつつあった。
その焦りが引き金となったのか。
「!!」
――字数制限。
澤部「そうですね、未だに根強い人気ですね」
「やはりこの二つが王道ですよね。異世界ものの双璧ジャンル。あとはクラス転移とかですかねー」
「羨ましいですね。僕もハーレム作りたいな! なんつって」
「ああ、定番ですね。土とか泥でできて大きい、門番に最適な。固てえぞ、こいつ、水だ! 水魔法が弱点だ! 激流よ! 敵を飲み込みたまへ!」
「うーん、あれもまあ異世界っていえば異世界なんですかね。転生要素はないですけど。狂戦士になって攻撃しちゃうぞ! みたいなね」
「あと、場違いゴージャス」
「あれ? ほんとに? 平服で来てくださいって真に受けて良かったパターンだったの? なんか僕だけ浮いてるなーって。パーティ感出てるの僕だけじゃない? 場違いにゴージャスなの僕だけ?」
「あと、物乞いじいさん」
「3日も何も食べてないんじゃ。なんか恵んでくれー。可愛そうなじいさんですね。これでなんか食いな。情けは人のためならずってね」
「あと、物乞いばあさん」
「あたしは4日も何も食べてないんじゃ。ってね。そりゃばあさんにもお金渡しますよ。そこは平等にしないと」
「あと物乞い兄さん」
「あー、こないだのじいさん、またお腹すかせてるんだな。え? てっきりじいさんだと思ってたけど意外と若いんじゃないですか? 26歳? 26歳でその容姿? 苦労したんですね。これでなんか食べてください」
「あと、見せたいカーテン」
「いやー、いい柄みつけたな。これで一気に部屋が明るくなったよ。誰か呼んじゃおうかな? それかインスタにでもアップしようかな、なんてね」
「あと、見せたい兄さん」
「みんなもっと貧困問題について真面目に考えるべきだ! 26歳でこんなにも老けてしまって。毎日お腹を空かせてるんですよ! 社会保障どうなってんの!」
「あと、知らないじいさん」
「え? 誰? 誰なの? このじいさん。確かにカーテンは誰かに見て貰いたいと思ったけど、家に帰ってドア開けたら見知らぬ爺さんが。あー、見間違いかな? 一旦閉めて、ガチャ、やっぱりいる! 誰なの? 怖い怖い!」
「あと、よくばりローソン」
「え? コンビニですよね? 魚市場じゃなくって。凄い品ぞろえですね! あっちにはブランド牛のコーナーですか? しまむら的なゾーンもあるんですか!? よくばりだなあ。まさに便利!」
「あと、いきなりローション」
「うわっ! やめて! ぬるぬる! そんな! いきなり!」
「あと、勢いステーキ」
「ざっと切って! ジャっと焼いて! 切って食ってごちそうさま!」
「取材の結果ね、判明したんですよ。あの例のステーキ屋、ローソンが吸収合併するみたいですよ。大人気店と大人気店の合併。明日の新聞の一面はこれで決まりだ! ってね」
「あと、負けない兄さん」
「おじいさん、じゃなかったお兄さん。貧困なんかに負けないでくださいね。え? 就職が決まった? 良かったじゃないですか? ステーキ屋なんですか。あの例の? そりゃね、大躍進ですからね。求人募集も追いつかないでしょう。いやー良かったですね。あの時のお礼、それはまあじゃあ出世払いで。とにかく頑張って働いてくださいよ! 負けるな!」
「あと、勝てないゴーレム」
「固い! 剣が効かない! 魔法も! なんだこのゴーレムは? 無敵か!? 駄目だ。一旦逃げよう」
「あと、負けないゴーレム」
「弱いなー、さっきの奴に比べたら月とすっぽん。一瞬焦りましたけどね。またさっきの奴だーって。見た目は同じだけどゴーレムにもいろいろあるんですね」
「へー、改良に改良を重ねてね、今の味になったわけですか。これがその初代? あーパサパサしてますねー。でこっちが2代目、逆にちょっと脂っこいかな。3代目、これは美味しいですね。今のも好きですけど私は3代目が一番合うかな。いえ、もちろん今も美味しいですよ」
「あと、御手洗潔」
「知ってますよ。みたらいって読むの。探偵さんですね。占星術殺人事件で有名な」
「あと、6枚のとんかつ」
「これはね、先に占星術殺人事件を読まないとね」
「あと、7枚のとんかつ」
「今ので7代目ですからね。歴代を並べると7枚になりますね。やっぱり私は3代目かなー」
「便利ですねー。たったの100円でなんでも買いに行ってくれるんですかー。いや、いいサービスだと思いますよ、だけど僕は利用しないかなー。となりにでっかいローソン出来たんで。あれ? お兄さん、ステーキ屋に就職した人じゃないですか? え? クビになって、起業してこのサービス立ち上げたんですか。それは立派ですね。さすが負けない兄さん。でも、僕にはこのサービスは合わないかなー。また風邪引いた時とかに検討しますね。その時は是非僕の家のカーテン見てください。すごいいい柄なんで」
「関係なくない? 結構序盤から異世界ハーレム関係なくなっっちゃたよ」
「何?」
「お前が異世界ハーレムに憧れてるって話だったでしょ? ほんとに憧れてるの?」
「今は悪役令嬢ものが好きかな」
「うわぁ、いい加減にしろ!」
1階の増築した部屋に案内される、そこそこ広さのある正方形の形だ。床には芝生調のマットが敷かれている。
入り口以外の三方は、鉄パイプを支柱に真っ白なブルーシートで覆われて壁の役割を果たしている。
天井は吹き抜けで高い。今日は風が強いのかバサバサと波打つようにシートが揺れている。
鉄パイプも特にきちんと固定されているわけではなく、風に合わせてグラグラと所在無く揺れてる。
部屋にいる父親と弟に大丈夫なのか、と訊ねると大丈夫と返ってきた。
直後、私の背中側にあった支柱が一本、バランスを崩して私に寄りかかってきた。
この部屋の完成度を更にあげて快適なものとするため、百均に行くことになった。
私は部屋に敷く大きなマットと、隙間を埋める油粘土か何か目地剤のようなもの、猫専用出入り口を作るための材料を買うことにした。
この店舗の品揃えはエゲツないほどで、
田舎のドンキホーテやニトリを想像してもらうといいのだが、とにかく品数が多く店舗が広い。
目当ての物が見つからないが、そこそこしっかりした作りのカーディガンまで100円なのかと驚いた。大きなカーテンも100円、服の種類も数多いがすべて100円。驚いたのが2液混合タイプの大容量レジン液まで100円なのだ。普通に買うと1000円は超える。
きっと安いのには理由がある、裏の商品説明には鉛の容器が必要と書かれていた。はたして家にあっただろうか?
店内放送でそろそろ閉店のお時間です、のアナウンスとともに蛍の光がスピーカーから流れてきた。
まだ目当ての物は見つけられてないし、売場の4分の1も見れていない。急いで探さねば。
ない、ない。もっと長くいたいのにもう閉店かあ。もっとペースを決めてさっさとみれば良かった。
前から店員さんが歩いてきたので、大きなマットはどこにあるか、と訊いた。
1階にございます。このフロアだけじゃないんだ?!今はどうやら3階にいるらしい。
階段を降りようとしたら2階は既にネットがかけられていた。大人のひざ丈まである観葉植物が並んでる。あれも100円か、あのフロアも見たかったな。
1階に降りた、大きなマットを見つけた!これだ!
渋々外に出ると、家族がいたのでそのまま車に乗って帰る。
エレベーターから様子のおかしな若者が出てきた。危ないのでぶつかって転ばせる。
附近にあった何かを拾って投げる。
そこで若者が四角い包丁を振り回していることに気づいた。どうしよう危ない。
目が覚めた。
ぼくは探偵
というよりぼくの中に
探偵を飼っているというべきだ
だから ぼくは立ち上がる というより
ぼくの中の探偵が立ち上がる
これは誰かのお母さんが、その昔書いたお話の一部。
今度の事件にしたって そうだ
ナイフを突き刺され絶命
なんてことも恐れずにやらなければならないんだぜ!
と いつもぼくの背中を押すんだ
でも、母も私もいまひとつ踏み込めない。
すべての暗号は解読されなければならない
こころだろうと なんだろうと
でも! と
ぼくは大声をあげた
あの中に
あのカーテンの中にもしも
なにもなかったら?
ぞっとする
こころがないなんて
探偵はふるえた
ぼくもふるえた
二人とも体をぴったり寄せ合って
じいっと窓を見あげたんだ
このお話の終わりはこんな感じ。
するとその時だ
突然目かくしされたのだ
と思ったがそいつもちがった
つまりだ
消えてしまったんだ
窓のあかりが
正確にいえば
すべてはふたたび闇の中
って わけさ
私はいまだに闇の中。
君は今、ベッドで横になりながらこれを読んでいるな。しかも寝起きとかちょっと横になったとかではなく、6時間とか、下手したら12時間以上、浅い眠りと覚醒を繰り返して、夜も昼も区別のないカーテンの締め切った部屋で、ろくな食事もしないままいるのだろう。喉が渇けばベッド脇に置いたペットボトルの水を飲み、トイレには這って行く。ろくな栄養を取れていないから立ち上がったままで2分と居れず、すぐさまベッドに倒れこむことも珍しくなく、時々出るものもないのに吐く。意味もなく泣く。頭は動かない。
僕はそんな生活をしていた事がある。体重は落ち、頰はこけて、髪は白くなった。けれど、自分が自殺できる人間でないことは分かっていたから、生存する努力をしなければならなかった。
喉が渇いたら無理にでも起き上がって、箱買いしたウイダーを取りに行き、そのままベッドへ戻る。呼吸を整えたら、横になったままウイダーを口に流し込む。一口を数十秒もかけてゆっくり胃に送り込む。そうやって十分ほどかけて飲みきる。すると、さすが消化吸収の早いウイダーだけあって、なんだか少しだけ元気が出てくる。けれどこの元気は20分と持たない。ウイダーのゴミを捨てるためだと自分に言い聞かせながらベッドから出る。そのままキッチンへ行き、春雨を適量を大きめのスープ皿に入れ、鶏ガラスープの素小さじ1、チューブ生姜を少し、胡椒一振り、水を適量入れて電子レンジにぶち込む。待ち時間の間、ベッドに戻りたい強烈な衝動を我慢して電子レンジの前で体育座りして待つ。春雨スープが出来上がる。ウイダーを飲んでちょっと元気になった状態で、目の前には捨てるのも面倒な春雨スープがある。腹のなかに入れるのが一番楽な処理方法だ。椅子に座って、現実を見ないためにパソコンで適当な動画を無感動に眺めながら、1時間ほどかけて冷めた春雨スープを食べきる。ここで栄養補給が終わったかというとそうではない。塩分は摂れたが糖分がまだだ。春雨?たしかにデンプンだけど、あれは消化に時間がかかる。この時点で肉体は、なけなしのエネルギーを春雨の消化に使うため、身体を休めようとする。要するに眠くなる。君もよくやるんだろう?さすがにやばいと思って炭水化物と塩分を摂取するものの、ダイレクトに糖分を摂らないからすぐ眠くなって、寝ている間に炭水化物が消化吸収されそのまま使われてしまって、結局起きても元気が出ないってやつを。そういう事態を避けるために、甘い物を食べないといけない。なので僕はまるごとバナナを食べる事にしていた。強烈な甘味とバナナのカロリーは最適だった。これを数十分かけて食べきる。これで2時間近くかけた食事が終わる。
糖分ブーストもかかって比較的身体が動くようになるので、翌日分のまるごとバナナを近くのスーパーに買いに行ことになる。人の少ない時間を狙ってだが。今思えば、これが外出のきっかけになっていたのかもしれない。数百メートルを歩く程度だが運動にもなり、心なしか食欲も回復していった。この食生活は決して健康的ではなかったが、身体を起こす事さえままならないほど衰弱した状態からは脱することはできた。けれど、僕が社会復帰するのはここからまだまだ先の話。
僕は自殺できない人間だという事は先に述べたが、そんな人間ですら死ぬしかない状態に追い込まれることがあることは理解している。そういう人のことを僕は理解する事は叶わない。僕は運が良かっただけなのだろう。
僕が辛かった時、この世の中のあらゆるものが辛くて苦しく感じたが、その中でも、自称鬱病、自称元鬱病、自称身内が鬱病、自称鬱の専門家(医師免許なし)の人たちが言う、アドバイスや励ましや、鬱で無い人に向けた”鬱の人にはこう接してほしい”的な意見が、とにかく嫌だった。鬱を知らない人からの無自覚な攻撃よりも、鬱を知っている(つもりの)人からの無自覚な攻撃の方が辛かった。「それができないことで苦しんでるんだよ。お前はそれを知っているはずの人間だろう。」とベッドで泣きながら、それでも何かにすがるように、そういうツイートだとかニュース記事やブログ記事を読んでいた。自傷行為だったんだと思う。
僕は、君の身体にナイフを突き立ててまでして、自分より軽いか同程度の鬱の人間だけを助けようと思えるほど、鬱の苦しみを忘れられてはいない。鬱予備軍や、鬱に関わっていくであろう人たちを大勢救うために、少数の重たい鬱の人を切り捨てるような社会性を持っていない。だから、僕は君を励ませないし、アドバイスもできない。やり方が分からない。もし君が数年単位でずっとベッドの上で生きているのなら、君は多分運が悪いんだと思う。君に必要なのは、励ましでもアドバイスでもない。治療だ。病院へ行け。でも分かってる。君は病院へは行けない。だって君は鬱だから。僕もそうだった。
初対面で抱っこしたら恐怖のあまりお漏らしした猫。
数カ月ぶりに猫と再開し、今度は徐々に距離を詰めることにした。
・1日目…警戒しているのかカーテンの隙間からずっとこちらを伺っている。近づくと大慌てで逃げる。
・2日目〜3日目…相変わらずカーテン裏に隠れてる。時々姿を現す事もあったが、瞬きもせず眼をカッと見開いて常にこちらを警戒していた。
・4日目〜5日目…少し慣れてきたのか、椅子の上に座っている事も多くなった。近づくと逃げる。
・6日目…手渡しでおやつをあげる。受け取って食べるがやっぱり警戒しているらしく撫でようとすると逃げる。でもちょっと慣れてきたらしい。
・7日目…朝起きて目があったらすごい勢いで逃げられた。誰だか覚えて無いらしい…昨日おやつもあげたでしょ。しばらくしたら思い出したらしくちょっと落ち着いてた。カメラで写真を撮ったら全部眼を見開いてびっくりした顔だった…。
・8日目〜10日目…時々忘れられるものの、以前より距離が近くなってきた。一応もう大丈夫らしい。
・11日目…ソファに箱座りしてたので、隣に座ったらそそくさ逃げてった…。
・13日目…何か期待した目でこちらを見てたのでレーザーポインタで遊んでやる。
・14日目〜15日目…期待した目でこちらを見てるのでねこじゃらし、レーザーポインタで遊んでやる。部屋の中を歩くと後ろをついてくるようになってきた。一応抱っこもされる。
・16日目〜…すっかり「遊んでくれる人」の認識らしく遊びたい時に目で訴えてくるようになった。撫でても逃げなくなったし、眠そうな目でこちらを見てまばたきをすることも多くなった。ソファに座ってると真横に座りにきたりもする。
猫と和解した。
鏡のように磨かれたタイルの上に電話ボックス程の機体が一台置かれている。
見た目は真っ白なただの箱かな。
4面のうち1面にカーテンが取り付けられていて、その奥にタッチパネルとタッチペンが用意されている。
液晶に「画面にタッチしてね」の文字がピンクで点滅していて、タッチすると画面が切り替わった。
画面の左側には三頭身ほどの人間の素体が表示されていて、のっぺらぼうでばんざいの格好をしている。
画面の右側には目、口、鼻、顔の形、のボタンと、その下に顔のパーツが複数並んでいる。そのスクロールバーがどえらく小さくて大分下までスクロールできる事がわかる。
ただ、中には選択できないパーツもあるみたいでグレーアウトしてるパネルもチラホラあった。
そして画面の右上端には60の数字が。
この数字は刻々と変化していて、59、58……どうやら制限時間らしい。
初めは目のパーツ、口のパーツと選んでいたがなにぶん数が膨大で選びきれそうも無い。
画面の数字が30を切ったところで諦めておまかせボタンで作ることにした。
が、これもくせ者でなかなか思った顔にならない。作った顔の一時保存もできないので次にいい顔が出る保証もない。
制限時間が終わり、画面に「この顔でいいですか?」のピンクの文字と「はい」のボタンが表示された。
あ、これキャンセルとか無いんだ。