はてなキーワード: ポケットとは
6、7年前のこと。
当時、私は大学を1年休学し、アルバイトで貯金を貯めては発展途上国に旅に出るという生活を送っていた。
いわゆるバックパッカーという奴で、当時はうだつの上がらない大学生を中心にとても流行っていた。
国民からの支持も厚きプミポン国王陛下(大変偉大だった。名前の響きも良い)がまだご存命であらせられた頃の微笑みの国で、途上国と言っても過ごしやすい場所だった。
主な活動拠点であった首都バンコクにはそこら中にコンビニがあるし、バンコクでなくても観光地ならそこら中にコンビニがあった。
短距離の移動も楽で、自動車やバイクやトゥクトゥクなんかのタクシーが車道を(適宜信号を無視しながら)縦横無尽に行き交っていた。
足に自信があればレンタル自転車でも移動できたし、自信がなくてもレンタルエレファントに騎乗することによってなんか自分がとても偉くなった気分にもなれた。
だが、長距離の移動は辛かった。
何十キロも移動する場合、貧乏学生に与えられた選択肢は乗合バスか国有鉄道の2択になる。
私はこの1年後、南国フィジーで偶然出会った黒人と雰囲気でビガップするまで乗合バスというものを食わず嫌いしていたのでタイで乗ったことはない。乗り込んだら最後、ギャングが鮨詰めになったファベーラっぽい場所に連れて行かれるような気がしていたからだ。
なので国有鉄道ばっかり乗っていた。
国有鉄道は大変安価で、バンコクから国中に放射状に線路が伸びていたっぽい。バンコクのなんか名前の長い駅からどこへでも行けるし、どこからでもバンコクに戻れた。
だだ、乗り心地は酷かった。
座面も背もたれも材質不明の硬い何か(プラスチックっぽい)で長時間乗るとケツが割れる。
窓はいつも半開きなくせになぜか換気能力が低く、どの車両に乗っても独特の臭いがした。しかもこの窓は出入り口でもあった。車両が駅に停車すると野生の物売りたちが華麗な身のこなしで窓から乗り込んでくるのだ。なので泥とか砂とかがいろんなとこについてた。
最も難儀したのは、夕方夜にかけて、バンコクから地方に向かう鉄道の車内である。
一つ考えてほしい。我々日本人は、夜にへとへとで電車に乗りこんだものの、座席が空いていなかったらどうする? 観念して空いている場所に立つか、次の電車を待つかするだろう。
タイの疲れた人々はどうだろうか。そんな非効率的なことはしない。
何故なら、電車には床があるのだ。そして疲れているのだ。疲れている人は、座るか、寝るのだ。
そう、電車の床に座って、寝るのである。それも、スペースがあればあらゆる場所に。
座席の肘置きはもちろん、座席の下に潜り込んで疲れを誤魔化す。始発のバンコクならまだスペースに余りもあるが、途中の街から乗り込もうものなら、扉をあければもうみっちみちである。
しかも、地方に行くほど駅が減る。1時間停車しないということもあった。つまり、長時間、めちゃ揺れる車内に、みちみち。
私はその日の夕方、とある観光地から別の観光地に向かう鉄道に乗り込んだ。そして、普通に行き先を間違えた。
動揺を押し隠して途中下車し、優しい駅員の指示のもと折り返しの電車を待った。折り返しの電車が来るころには、空は暗く、月が輝いていた。
やたら笑顔の駅員にはにかみながら、私はやってきた車両に乗り込んだ。
扉を開けると、わぁ……人がみっしりしていたぁ……。
足の踏む場もないほどの人の密集具合に、育ちのいい小学生ほどもあるバカみたいにでかいリュックを背負っていた私は、車両にいることさえ不可能なのではないか思った。
行き場所を失い、半分外みたいな場所に追いやられた私は、そこが電車の連結部であることに気づいた。(賢いので)
日本の電車の連結部は大抵、人間がおっこちて線路脇のゴミにならないように何かしらで覆われている。だがその車両は違った。
連結部の左右は吹き抜けで、端的に言うとめちゃくちゃ危なかった。
だが、私の居場所はそこにしかなかった。私は肩の荷を慎重に下ろし、それに腰掛ける形で車両入り口の扉に向かい合った。バランスを崩すとそのまま車両から脱落する可能性が大いにあったので、足を広く開き、腕は胸の前で組んだ。RPGのボスみたいな座り方だな、と思った。
それからしばらく、私は連結部の主だった。
どれぐらい動的不動の時間が過ぎたか、12、3歳の少年が、扉を開いて入ってきた。
続きはまた今度書く。
さて、続き。
少年の年齢は私の推測である。見慣れた日本人ならともかく、他人種の正確な年齢など私にとっては一目見て分かるものではない。
ただ、少年は成人男性の顎ぐらいの身長でスポーツ刈りだった。よれよれのシャツを着て、よれよれのズボンを履いていた。
少し話は逸れるが、私がタイを訪れ、タイ人と出会って抱いた強い印象の中に『なんか目がキラキラしている』というのがある。これは漫画的な表現ではあるけれど、これが一番適切な表現だと信じている。涙袋のせいだとか二重がどうこうといった美容的なことは知らないので詳しくはわからないが、タイ人の多くはどことなく目が大きく、それでいて黒目が抱き込んでいる光がたくさんあるように見えたのだ。今昔の写真で見返すとそんな風にも感じないのが不思議だが、とにかく、当時の印象としては、大人から子供まで、とにかくキラキラした瞳を持った人間が多く、特に子供たちはだいたいキラッキラだった。屈託のないとか、卑屈な感じじゃないとか(実態はともあれ)そんな感じだったのだ。ちなみに、現地でインド人もたくさん会ったが(外人にスーツを仕立てさせる押し売りが流行ってたっぽい)特にそんな印象はなかった。
さて、話を戻すと、その少年もまた瞳がキラキラしていた。表情は特に無かったと思う。連結部は車両の光で明るく、顔はよく見えたはずなのだが、今思い出せるのは瞳の印象だけである。
少年は私を見ると、なんか言った。タイ語は全くわからなかったので、私は唯一知っているタイ語で挨拶をした。
「サワディカ」どこでも使えて便利な挨拶だった。
すると少年は少し笑って、挨拶を返してくれた。浮かれた様子はまったく無かったので、彼にとっては電車の連結部で見知らぬ外国人がふんぞり返ってる状況など慣れたものだったのかもしれない。
私は気が楽になって、アイフォン(当時はオンボロの5を使っていた)を取り出してイヤフォンを耳に入れると、昨日ホテルのWi-Fiでダウンロードしていたアニメを見始めた。
画面に青白い顔でピンク色の制服を着た女子高生がウロウロしたり電気をつけたりするオープニングが流れ出すと、少年が近づいてきてそれを覗き込んだ。
私は少年の顔を見た。少年は、驚きとか、興奮とかそういう表情を浮かべてはいなかった。ただ、じっとアニメーションを見ていた。私は途中からイヤフォンのコードを抜いて、音量をあげた。
そのオープニングが終わると、別のアニメのオープニングを流した。それから、アイフォンに入れていた日本のアーティストのMVや、ディズニー映画のミュージカルシーンなんかをいくつか再生した。
私は映像を流し見しながら、少年を見た。少年はだいぶ負担のかかりそうな首の角度で、画面を凝視していた。
海外の反応集みたいな大きな反応を期待したが、そういうものはなかった。だが、私には分かるような気がしていた。幼い頃、実家で兄が怪物と戦うゲームを遊んでいた時、たぶん私もこんな風に画面を凝視していた気がする。
しばらくして、私は再生するのをやめて、アイフォンをしまおうとした。少年に見えるように持っているのが普通にしんどかったからである。
すると、少年がなにやらそれを止めた。
まだ何かが見たいのかと思ったが、どうやらそれも違う。自分の写真を撮ってほしいということを身振りやら表情で伝えてきた。
そんなことならとカメラを向けると、少年はポケットから小さな箱を取り出した。
それはたばこだった。
真っ黒な内蔵の写真が雑にプリントされた、やたらグロテスクなパッケージのタバコである。当時、タイのたばこは全て買う気が失せるようなパッケージをしていた。(今もかもしれない)
私は少しだけ衝撃を受けた。少年は明らかにタバコを吸っていい年齢ではない。タイではそういうものなのかもと思ったが、そんなわけないなとすぐに思い直した。
が、一介の腐れ大学生で、この国のことを何も知らない観光客である私には、目の前の未成年喫煙を止めるような義務も、権利もない。
少年は慣れた手つきでたばこを取り出すと火をつけて、口元に持っていって、動きを止めた。
どうやらポーズが決まったらしい。私は写真を撮り、それを見せた。
少年は素人のブレブレで光の加減も適当な写真を見て、口の片方だけを上げるやたらニヒルな笑い方をした。私も真似した。
それが気に入ったのか、少年は私にタバコの箱を差し出した。吸うか? ということらしい。
私は普段タバコを吸わない上に、未成年からこんなものを勧められるとは、などと色々と迷ったが、こんな経験も貴重だろうと一本いただいた。
少年にライターを借り、私はタバコに火をつけた。そして一口吸った。普通の煙たいタバコだった。
私と少年は少しの間、揺れる車両の連結部で煙をふかした。吐いた煙もタバコの先から出る副流煙も、すぐに飛ばされていった。
少年は私がたばこを吸い終わるのを待って、吸い殻を引き取ってくれた。そして、車両の外に放った。私はポイ捨てとかが嫌いな人間だったが、それをここで誇示してもしょうがないなと思ったのを覚えている。
私は車両に戻ろうとする少年の肩を少し叩いて、アイフォンの内カメラを見せた。一緒に写真を撮ろうという意思表示である。
少年は少し照れくさそうにしていたが、写真を撮る瞬間だけ何故かすごいハードボイルドな顔をしていた。たばこを吸っている写真を撮らせたり、なにかそういうのが流行っていたのかもしれない。
私は車両連結部の主に戻った。
私は時折車両の揺れによって荷物経由でケツを叩かれてバウンドしながら、ぼんやりと思った。
この電車は、私が乗り込んだ駅から、まだどこにも停車していない。私が乗り込んだ駅にはあの少年はいなかった。つまり、彼はどこか遠くからずっとこの電車に乗っているのだ。連結部で少しの時間を過ごしたが、親や兄弟と思しき誰かが様子を見に来ることも無かった。時刻はとっくに夜だった。平日だった。少年の様子は、何も特別なものではなかった。
あの子は家から離れた場所に働きに出ているのだろう。と結論づけた。
翻って白状すると、私は就職活動から逃げるためにバックパッカーをしていた。
ただし、当時の私は反省などしなかった。今もしていない。自分がやっていることは間違いじゃないし、こういうことしていたからこういう経験ができたわけだし。
だが、瞳だけはキラキラで、貧乏な風体の、サラリーマンみたいな貫禄の少年に、思うところがないわけでは無かった。
少年と自分を比較して、自分の子供時代を評価していたことにも気づいた。
意味のないことをした。と思ったと同時に、何かとても価値のあるイベントに参加したような気もした。
それから、電車はいくつかの停車地を経て、私を目的地へと運んだ。
電車を降りる時、さりげなく少年を探したが、彼は見当たらなかった。
私は何故かさらに少しだけ気分が良くなり、意気揚々と宿を探すことにした。
宿を探すのにはさらに1時間近くかかり、しかも宿のベッドで南京虫と格闘することになったため、私は激怒した。
結局、特に何かを伝えたい話ではない。
犯人が女性であることが(ほぼ確実に)分かっている未解決事件,という結構珍しいかもしれない事件。事件について調べてみると,迷宮入りするような事件にはあまり感じられないものの,発生からもう24年になるがいまだ解決していない。
愛知県警のページ(名古屋市西区稲生町5丁目地内における主婦殺人事件)。
https://www.pref.aichi.jp/police/anzen/sousa/houshoukin/nishi/nishi-199911.html
Wikipediaにも記事があるけど,コンパクトにまとめすぎていて却って分かりづらいかも。
https://ameblo.jp/maeba28/theme-10101274847.html
・年齢は40~50歳位(当時)
・頭髪は肩までの長さの黒色で、パーマが伸びたような感じ
犯人は左利きの可能性が高い。被害者が首の右側を刺されており,目撃証言によると左手を負傷していると見られる=左手で凶器を振るっていたと思われる。※一応,警察発表では「左右どちらかの手に怪我をしていた」とされているが,まあ目撃情報も絶対ではないし(見間違いとか),前提条件を限定しすぎると情報提供の幅が狭まっちゃうからね。
出血量から判断して手の怪我は静脈を傷つけており,自然止血はしないだろうと言われていた。おそらく治っても傷跡が残るレベル。
「左手に大けがをした(跡がある)左利きのおばちゃん(なお血液型はB型)」ってそんなにありふれた存在ではないと思うので,犯人の近所の人とかはピンときてもおかしくないと思うのだが…。
犯人の血痕が道路に点々と残っており,逃走経路が途中まで明確に分かっているというのもこの事件の珍しい点である。
犯行現場からまっすぐ最短距離で稲生公園を目指すのではなく,少しだけ遠回りしながら向かっている点が,後述する土地勘の有無について見解が分かれる一因となっているようである。
個人的には,「逃走中に進もうとした方向に人影が見えたので,別の道に進んだ」みたいな単純な理由かもしれないので,あまり土地勘の参考にはならないような気がしている。
2件の目撃情報は服の色が違っているのだが,さすがに手を大怪我して歩いている中年女性がたまたま同地域同時間帯に2人もいる可能性はほぼないと思うので,どちらかが記憶違いであって目撃されたのは同一人物なのであろう。
なお,凶器は現場に残されておらず犯人が持ち去ったとみられるが,目撃情報では「右手で左手を押さえながら歩いている」姿が目撃されており,一方でカバンを持っていたとか背負っていたという情報はない。どうやって持ち帰ったのかという感じだが,腰にウェストポーチみたいなものを身に付けていたのかもしれない。
犯人が現場アパートから徒歩で逃走したことは間違いない(血痕や目撃情報から)。分かっていない点は,近所に住んでいる犯人が家まで徒歩で帰ったのか,あるいは遠方から車で来てどこかに駐車しており,そこまで歩いて車に乗ったのかという点である。
警察は稲生公園付近で車に乗って逃走したのではないかという見方らしい。おそらく近隣住民の捜査は重点的に行ったであろうから(他に糸口も少なかっただろうし),警察がそう言うならそうかもしれない。なお公園付近の道路は路上駐車も珍しくはないらしく,車を停めていても不審ではなさそうである。
しかし車で来ているなら,公園で手を洗った後に無駄に公園をウロウロしたりしないのでは?という気もする(しばらく公園付近にいたことが分かっているらしい)。ただ,公園から協力者に電話して迎えに来てもらったという可能性はあるか(そもそも協力者がいるのか全く不明だが。いるなら2人で襲撃した方が確実に殺害できるだろというツッコミはある)。
現場に残されていた乳酸菌飲料(ミルミル)について,犯人が持ち込んだ可能性が高いと言われているが,人を殺しに行くのにわざわざミルミル持っていくやつおるんか…?という気もしてしまう。よく分からない。たまたまポケットに入れっぱなしだったんか?
ちなみにミルミルを飲んだのは犯人だとされている。なんで分かるのかと思ったが,玄関に少量のミルミルを吐き出した痕跡があったとのことなので,そこから唾液でも採取できているのかもしれない。まあミルミルが元々被害者宅に置いてあったものだとしても,なんで人を殺した後に勝手に人んちのミルミル飲んどんねん…とはなるが。
当該ミルミルの販売エリアが西三河地区限定だったことで,犯人が遠方から来た説の後押しになっているかもしれないが,個人的には,ミルミルに惑わされたせいで捜査が暗礁に乗り上げたのでは?という疑念も持っている。さすがにそんな単純ではないとも思うけど。
捜査は行き詰っているように見えるので,よほどの新情報がないと解決するのは難しそうだが,犯人のDNAは押さえられているので,急転直下で逮捕される可能性はある。まだ逮捕されていないということは余罪がないのだと思われる(実際,動機が怨恨っぽい(逆恨みや人違いも含め)ので,余罪がない可能性は高い)。
犯人が生きていれば60~70代くらいであるが,死亡している可能性ももちろんある。その場合は解決される可能性は極めて低そうである。
https://b.hatena.ne.jp/entry/s/anond.hatelabo.jp/20231030212810
ここで話題になってたので今クールの主演俳優の年齢をチェック!
けむたい姉とずるい妹 栗山千明(39)
家政夫のミタゾノ season6 松岡昌宏(46)
くすぶり女とすん止め女 西田尚美(53)
ぼさにまる 上白石萌音(25)
君となら恋をしてみても 日向亘(19)
キス×kiss×キス~LOVE ii SHOWER~ 赤羽流(21)
たそがれ優作 北村有起哉(49)
十代 3人
二十代 18人
三十代 15人
四十代 11人
五十代 6人
六十代 1人
七十代 1人
計 55人
https://service.smt.docomo.ne.jp/portal/special/life/entertainment/src/drama_89.html
ここに名前が出ている俳優をドラマの主要格と見なし年齢を調べてみた
二宮和也(40)中谷美紀(47)大沢たかお(55)江口洋介(55)中川大志(25)
おいしい給食 season3
市原隼人(36)大原優乃(24)六平直政(69)高畑淳子(69)小堺一機(67)
橋本環奈(24)沢村一樹(56)佐藤二朗(54)松本まりか(39)JP(40)
ミワさんなりすます
松本穂香(26)堤真一(59)恒松祐里(25)片桐はいり(60)高岡早紀(50)
けむたい姉とずるい妹
栗山千明(39)馬場ふみか(28)栁俊太郎(32)桜田通(31)雛形あきこ(45)
Maybe 恋が聴こえる
大和奈央(16)橋本涼(22)醍醐虎汰朗(23)坂本彩(15)木村昴(33)
君が死ぬまであと100日
髙橋優斗(23)豊嶋花(16)咲耶(23)新井舞良(22)井上瑞稀(22)
家政夫のミタゾノ
松岡昌宏(46)伊野尾慧(33)桜田ひより(20)余貴美子(67)平田敦子(60)
大奥 Season2
時をかけるな、恋人たち
くすぶり女とすん止め女
相棒 season22
コタツがない家
ぼさにまる
いちばんすきな花
帰ってきたらいっぱいして。
君となら恋をしてみても
キス×kiss×キス~LOVE ii SHOWER~
うちの弁護士は手がかかる
アオハライド Season1
きのう何食べた? Season2
たそがれ優作
ゼイチョー~「払えない」にはワケがある~
ギフテッド Season2
単身花日
泥濘の食卓
あたりのキッチン
猫カレ -少年を飼う-
どうする家康
たとえあなたを忘れても
フィクサー Season3
それを拾おうとして屈むと、鯖のにおいが鼻につく。
顔を上げると10寸ほど先に、錨に座る麦わら帽をかぶった男が居た。
タイトなデニムのオーバーオールを着ており、中には黒の半袖シャツ。
黒髭の懐にはにきびのような突起がぽつぽつとあり、じろりとこちらを一瞥すると海の方へと目を向けた。
私は彼に近づき、「釣れますか?」と聞いた。
彼は小声で「やれやれ」とつぶやいた。
私は何か気に障るようなことを言ったのかと訝しりながら焦り、右のポケットからくしゃくしゃの千円札を取り出すと彼に見せた。
じっと無言で、彼は私が摘まんだ千円札を見つめた。
それから竿を地面において、半身を翻すと私の方へと身体を向けた。
彼は左手を水平にまで擡げ、真っ直ぐに伸ばすと私の後方を指さした。
振り返ると千円札は無くなっていた。
彼も消えており、竿が大きく撓った。
バケツを覗くと鯖が一匹。
今まさに、釣り上げられようとしていた。
手帳も年金ももらっていないが診断済み、処理速度ひくめのかわいい無職のアラフォーだ(実家暮らし)。
私の持ってるかわいい欠点は多動というより先送り癖が強くて、髪の毛を洗うのに3日くらいかかったりするところ。な?くさそうでかわいいだろ?
あと古着をヤフオクやメルカリで売って糊口を濡らしているが、今年のはじめに夏物の柄シャツを買ったのに出品する前に夏が終わってしまった。
これは私の想像だが太宰も夏物の着物をもらったものの着ることなく秋がきたんじゃないかと思う。私だって夏前に出品するって思ったし。結果そうならなかっただけだし。
精神科に通って20年、診断が下りて2年、どうにかしたいというよりは新しい薬を試してみたいって好奇心で主治医に「わさわさ〜?」って聞いてみた。ドクターはどんなことで困ってるの?というので上記のような話をしたら出してくれた。
んで今週の月曜の朝、飲んでみた。溜まってた古着が目に入ったのでセットを組んで撮影をした。午前中に作業が進むなんてほとんどなかったから自分でもびっくりした。
「あー、アレやんなきゃなぁ…」
みたいな気持ちが
「なんかアレ、やっておこうかな…」
くらいに能動的になった。
あとは家から出る時に何度も戻らなくて済むようになった。今までは細かい忘れ物が多くて玄関とクルマの間を2、3回往復してから出かけていたけど、靴を履く前に必要なものがポケットに入ってる。
頭の中が静かになったりはしていない。ずっと脳内で私が喋ってるのは変わらないのだが、どんどん悪い方向や嫌な過去を掘り起こす感じはなくなって「えー、まぁ…そのぉ〜、んーと…ですから、いや、というよりは…」みたいに何かを話そうとして話せないみたいなまとまらない思考が回っている。それが気持ち悪いっちゃ気持ち悪い。前みたいに嫌な気持ちに支配されて爪を噛むような自分もかわいかった気がしてくる。まぁ今も掛け値なしにかわいいのだが。
何が言いたいかわかりにくいだろうがこれは私からコンサータに送るラブレターだ。(個人的な定義で申し訳ないが好意を伝達するメディアではなく、気持ちを認めた文字列のことを私はそう呼んでいる。)あなたのおかげで20年間追い求めてきた「ちょっとだけマシな状態」が手に入った。
何かが変わったわけじゃないし、IQは低いままだし、今も金に困っている。父の介護、母の介護、水はすでに膝下まできている。
未来は未だ夜明け前だが「ちょっとだけマシ」を積み上げていけばいずれマシマシになれるかもしれない。そうなればオーデイオーナイマシマシエブリデイだ。
いやー、薬とか脳内物質ってすごいね。何が本当の自分かわかんなくなっちゃうよ。まぁ偽物の私も比肩するものがないほどかわいいのだが。