はてなキーワード: 法則とは
https://orangestar.hatenadiary.jp/entry/2020/10/01/222627
まあ書かれているイライラポイントにはほとんど納得するんだけれども、
ドラえもんが「科学的には正しい部分を提供する」漫画だったことなんて全然なくて
タイムパラドックスめちゃくちゃ起こすし
イヌの国は作るし
科学的にやっちゃいけないこといっぱいやってるんだけど、
ドラえもん(をはじめとする藤子Fまんが)の素晴らしいところは
宇宙のスケールや分子のスケールを六畳間に持ってくるところだと思う。
それは、登場するのが魔法じゃなくて未来の道具(キテレツなら過去の発明)
だからというのもあるだろうけど、単に現実にないものをポンと出すんじゃなくて
現実世界の科学法則を少し変えたらどうなる?日常にどんな変化が起きる?という感じで
その舞台に乗っかったら、主にのび太やジャイアンが調子に乗って舞台をめちゃくちゃにして
そういう意味では、「科学的には正しい部分を提供する」どころか
「科学的な正しさをぶっ壊す」のがドラえもんの面白さであって、
「恐竜が進化して空を飛んで現在の鳥になった」のような「ただの正しい科学」は
ドラえもんのお話の1ページ目、出木杉くんがしゃべって終わる程度のネタでしかないはずで
それを映画ドラえもんのストーリーの根幹に持ってきちゃう企画自体が
もう致命的にズレていたんじゃなかろうか。
ちなみに書かれている通りだとするとキューは生まれたときから普通には飛べず
羽ばたきをしようとしていたという点で突然変異した種のようだから
「努力で羽ばたきを獲得した」ように受け取るのは作劇手法に騙されてるように思う。
あと「今までのドラえもんでは、そういうラスボスっていうのはいなくって」ってのも違くて、
ドラえもんの、特に映画原作には、ドラえもんの道具が創り出す日常が非日常になる舞台に
わかりやすい悪党が出てきてわかりやすく倒されるわかりやすい勧善懲悪ストーリーがあって
最後にその舞台と、出会った友だちにお別れをして日常に戻るというのがドラえもん映画のお約束で
だから本来今回のお話なら、ケツァルコアトルスは時空犯罪者か恐竜ハンターに操られていて
そいつらをぶっ倒して気持ちよく現代に帰るはずだと思うんだけども、
それじゃ「のび太の恐竜」と同じやんけっていうのとは別で
ドラえもんの、というか昭和時代の創作物を現代で作るときに難しいのが
ドストレートな勧善懲悪が作りにくくなってしまったという点で、
悪人にも悪人なりの矜持とかバックグラウンドみたいなものが要求されてしまって
なんか敵対してくる怪異のような、現象のような扱いにされてしまったんじゃないかな。
いやまあ映画見てないんだけど。
春アニメが嵐のように過ぎ去っていったのに、夏アニメはなんだかパッとしなかったなあ
宇崎母をもっと前面に出して大学生アニメはメジャーになれないの法則を破ってほしいところ
何も考えずバカになってみるのに丁度よかった
我ながら、何とも支離滅裂な夢を見た。
夢とは得てしてそういうものだが、寝覚めの悪さは否定できない。
昨日の疲労、冷凍諸君、エナジードリンクが体に残っているからだ。
“あの時”に限りなく近い、最悪の状態。
「あー……そうだ、これこれ、この感じ」
それが絶不調という形であれ、目論見どおりであることには変わりない。
課題レポートのように掲げるならば『バロメーターとバイオリズムの因果関係・相互作用』といったところだろうか。
まあ、これは超個人的な究明でしかないので、ここでは“マスダメーター”だとか“マスダイズム”とでも呼ぼう。
このマスダメーターは調子の良し悪しを指標する、いわば基準値のようなものだ。
大まかに「身体」・「精神」・「神経」などに分類しているが、これらは相互に作用している。
今の俺が正にそうだな。
疲れているのに重たい料理を食べたから消化不良を起こし、その消化不良とエナジードリンクが睡眠不足に繋がる。
それぞれの要素が絡み合って今朝の不調に繋がり、その不調が更なる不調を生む。
これがバイオリズム……じゃなくて、マスダイズムにも悪影響を及ぼす。
マスダイズムとは、個人的に「何となく気になること」や「何となくやっていること」を概念的に纏めたものだ。
俺が毎日やっている、テレビのチャンネルと音量を10にするというのもコレに含まれる。
気になっても引きずらないし、やらなかったとしても後悔に値しない、そんな些細なものだ。
一瞬、体の中を通過していくだけ。
しかし、マスダメーターが不調だと、この“通過”が円滑に行えなくなる。
どうでもいいことを必要以上に気にしたり、悪い方に考えたりする。
占いを信じてもいないのに、やたらと気にしていたのも、そのせいだろう。
やらなくてもいいことに対して成功・失敗の二元論で判定してしまう。
あの時、俺が「しまった」と思ったのも、それが原因だ。
それに悩んだところで、不調で思考も働かなかったのだから、納得のいく結果・結論なんて出てくるわけがない。
そうして最初に抱えていた不調を解消できないまま不平不満が重なり、負の連鎖へと繋がる悪循環が生まれたってわけだ。
噛み砕いていうなら「調子の悪い人間が何かをやれば、それは悪い結果になりやすい。そして悪い結果を出してしまった人間は、更に調子が悪くなる」みたいな話さ。
そして、結果というものは、結果を出した人間というものは他者にも影響を及ぼす。
それが授業中にやたらと名指しされる因果へと繋がったってわけだ。
つまり俺の思うまま、この日は最悪だったってこと。
「心ここにあらずといった感じだな」
「そんなに悠々としているとは、私の話を聞くまでもなく解答できるというアピール……そう解釈してよろしいかな?」
ボーっとしていたので主語は聞き逃してしまったが、その言葉が誰を指しているかは明白だった。
もちろん、授業の内容は頭に入っていないので答えられるわけがない。
これから俺は的外れな解答をして、先生に嫌味たっぷりの説教を聞かされるのだろう。
しかし気負いはなかった。
馬面教師の宣告と共に、俺は“答え合わせ”を終えていたのだから。
この癖を仲の良いクラスメートは知っているが、いま俺の口元がどのような感情を表しているか、そこまでは分からないに違いない。
だが、それでいい。
この法則と同じで、これは個人的で、誰も共感しなくていいことだ。
だからこそ、せめて自分が納得できる結論を求めなきゃいけない。
それこそが俺の、俺による、俺のための法則と、その証明なんだ。
その日の俺は学業を終えた後、夜遅くまでバイトに従事していた。
家路に着く頃には、肉体的にも精神的にも神経的にもクタクタだ。
時間も真夜中近く、明日も学校が待っているから今すぐ寝てしまいたい。
しかし、この時の俺は空腹だった。
寝たいのに腹が減っているというのは、日常における最も煩わしい状態だろう。
空腹感は微睡みを掻き消すが、そのくせ食欲は判然としない。
何か食べる必要はあったが調理する気力なんて残っていないため、インスタント食品しか選択肢はなかった。
となると、自宅にあるもので手早く作れるのはプレートの冷凍食品だ。
しかし手軽に作れるからといって、軽い料理であるかは別の話である。
1つの皿に押し込められた料理群は腹を満たしてはくれるが、いずれも消化に悪い。
これだけでも堪ったものではないが、ダメ押しは就寝前に流し込んだエナジードリンクだろう。
ケミカルな味わいはホットミルクの代替品としては不適切であり、カフェインと砂糖が織り成すハーモニーは本末転倒だ。
そこに、いまだ腹に残ったままの未消化物が合わさるのだから強力無比といえよう。
しかし人体というものは意外と丈夫なのか、これが若さというやつなのか。
俺はそのままベッドに横たわり、十数分ほどで夢の世界へ迷い込んでいった。
俺は地平線に立っている。
見たことも来たこともない場所だったが、ここは地平線という確信があった。
地平線上には、人がまばらに行き交っている。
人々は互いに目もくれず、俺の視界を右から左へ過ぎ去っていく。
なぜか誰も服を着ていなかったが、俺は意に介さない。
ふと、自分も服を着ていないことに気づく。
鏡がないので全体像は分からないが、その裸体はマネキンのように無機質に見えた。
突如、風が吹きすさぶ。
纏わりつく空気を阻むものはなく、俺はただ逃げるしかなかった。
しかし体が上手く動いてくれない。
何も着ていないはずなのに、何だこの鈍さは。
脳からの「動け」という命令に、四肢が渋々と従っているような感じだ。
このままでは風に殺されてしまう。
危機を感じ、俺は近くにあった川辺へ倒れこむように潜り込んだ。
水の中ならば風にはやられないだろう。
呼吸ができず息苦しくなっていく。
かといって、水面から顔を上げれば風が待ち構えている。
たまらず水を吸い込んだ。
なんと、水中でも呼吸ができている。
これならば逃げられるぞ。
俺は風をやり過ごすため、更に奥深くへと潜っていく。
いつの間にか、川は海となっていた。
潜る、潜る、どんどん潜る。
だが、その最終地点に待っていたのは太陽の光だった。
深海の果ては地上。
俺は潜っているんじゃなくて上がっていたんだ。
その事実に打ちひしがれる間もなく、海から高負荷の斥力が襲いくる。
抗う術もなく、俺は地上へと放り投げ出された。
その先には“無”が溢れており、自分が落ちているのか、それとも昇っているのかすら分からない。
何も分からなかったが、もう助からないという諦念だけはあった。
俺はそっと目を瞑る。
その時、ふと一つの考えが浮かんだ。
「あ……夢か」
テネット見たんだんだけどさ
ムズくね?
いや俺はわかるよ?大学院で物理学の勉強をしたゴリゴリの理系だから
でも文系にはムズくね?
俺は大学の基礎物理学の講義で勉強したけど、理系の高等教育を受けないと普通はエントロピー増大の法則なんて知らないでしょ?なんで知ってるの?知らなかったけど解説を読んで理解した?それはそれですごくね?
祖父殺しのパラドックスの話も理解できた?無理じゃね?俺もそんなによくわかってないのに
祖父殺しとかさあ、わかった?パラドックスって何かわかる?俺もよくわからないんだけど
アルゴリズムとかわかる?アルゴリズム。聞いたことある?馬鹿にしてないぞ、俺も大学入ってから聞いたから。ゴルゴでもリズムでもなくアルゴリズム。テネットって「アルゴリズム」の意味がわからないと全く理解できない話だと思うんだけど、なんで知ってるの?
いや、テネットは面白いよ?メチャクチャ面白い。でもあれは理系の高等教育を受けた俺みたいな選ばれた人間か、SFばっか見てる人間にしか読めないハイソな映画だろ?なんでお前ら読めてんの?おかしくね?お前が未来人だろ。
目処は立った。
こういうのには慣れている。
シマウマ先生の授業において、課題レポートの評価は成績の5割を占めるからだ。
補習を避けるための小手先(ノウハウ)は、望むと望まざるに拘わらず鍛えられる。
「さて、まずは条件Aから始めるか」
ここでBマイナスは手堅く取れる、レポートの作り方を説明しよう。
まずはテーマを決める。
いわば俺はそのテーマ探しから漠然としていたので苦戦していた。
ここをハッキリさせておけば、そのための資料集めや、最終的なゴール地点も自ずと見えてくるだろう。
例えばシマウマ先生は、現代社会にも根付く普遍的な問題提起が好物だ。
後は関係のありそうな歴史的背景を添え、科学的根拠で味付けすればいい。
そのゴマすりこそが、ウマ目のホミノイドを満足させるのに欠かせないウマ味調味料なんだ。
それでも建前上は科学や社会のためっていうお題目があるから書けるけれど、今回はそうもいかない。
より繊細で、より大雑把な作り方が要求される。
「いや、この寝起きの低血圧は条件Aではなく、どちらかというと条件aだな。だから、これは、ここと……」
パズルを組み立てるのに大事なのは、ピースの形を把握することだ。
記憶の断片を探り、それらの何が、何と関係があり、どのように繋がるか。
「あの日は何時ごろだっけ、確か……レバノン料理を食ったよな。いや、レバー料理だったけ。あと飲み物は何だったっか……」
集めた情報を憶測に基づいて取捨選択し、打ち立てた仮説を状況証拠で裏付ける。
そして実際に起きたことと結びつければ、その原因には可能性が広がっているんだ。
だが、この超個人的な答え合わせに、権威ある体系やエビデンスは必須ではない。
この法則を利用して、テレビのチャンネルと音量を10に合わせる人間は俺しかいないのだから。
こうしてパズルを組み立てること30分。
出来上がったレポートを、しみじみと眺める。
何気なく利用している公式や理論も、見た目に反して試行錯誤の末に生まれたのかもしれない。
だが達成感に浸るのは、もう少し先だ。
それには実証が不可欠だ。
俺はカレンダーをめくり、来月の日付にデカデカと星形の印をつけた。
というか、そもそも俺が質問したのはシマウマ先生の教育スタイルについてではない。
生徒が自分の意図を理解していないと嘆く割に、あっちも生徒を理解できていないじゃないか。
「先生、代数学の意義についても結構ですが、それで丸印をつけてくれるテストを俺はやっていません」
俺は彼のコンテクストを真似つつ、改めて本題に対する答えを要求した。
「計算式だけ書いてテストで100点取れるならば、解答用紙なんて資源の無駄でしょう。先生を環境主義者だと思ったことはありませんが、少なくとも浪費家ではない。そう思いたいです」
この意趣返しは予想以上に効いたようで、シマウマ先生は得意の言い回しを介さず答えた。
「あの時のマスダには覇気があった。明らかに答えられる自信に満ちて、教師を出し抜こうという強かさも垣間見えた。私の授業はやる気がない生徒に釘を刺し、学ぼうとする姿勢と考える力を研ぎ澄まさせる。その必要がない生徒に、わざわざ労力を課さない」
彼の挙げた理由は実際のところ誤解で、俺にはそんな気概も意図もなかったのだが、重要なのは“彼にはそう見えた”という点だ。
行動の模倣に意識が向きすぎて、俺はあの時あったような無気力さ、倦怠感まで再現できていなかった。
それが周りにも何となく伝わっていたんだ。
「あと……」
とどのつまり、後付けでそれっぽいことを言ってはきたが、実際は大した理由がないってことらしい。
尋ねた際の過敏な反応にも納得がいく。
回りくどさを好む彼からすれば、大した理由もない選択に答えを求められるのは煩わしかったのだろう。
しかし、そんな単純な理由にこそ、根源的な手がかりは隠されている。
「昨日、昨日か……なるほど!」
この検証で見落としていた要素も、気づいてみれば単純だ。
俺は昨日の出来事を再現することにばかり固執していたが、一昨日のことを、ひいては過去の出来事を過小評価していた。
こうなってくると、より徹底して遡る必要がでてくる。
俺は少し高揚した。
考えなければいけないことは増えたが、分からないままじゃなかったからだ。
「まず最初に断っておくが、私はあの方法を良いやり方だとは思っていない」
俺は先ほど自分を当てなかった理由を知りたかっただけで、やり方そのものについては構わないことだった。
それでも彼が開口一番そう言ったのには少し驚いた。
「では、なぜやるのか。本当の目的は“剪定”にこそあるからだ」
「せんてい、ですか?」
「選び定める方の“選定”じゃないぞ。まあ、そちらの方が楽なのは確かだがな」
剪定とは、樹の形を整えるために枝を切ったりするアレだ。
ここでいう「樹」とは俺たち「生徒」のことで、「枝」は恐らく「意欲」だとかを指しているのだろう。
「複数の生徒を同時に教えなければならない環境。そこで教師に求められるのは、平均的な習熟度を高めることだ」
だから黒板に書いた問題を特定の生徒にだけやらせるのは、不公平だし非効率といえた。
シマウマ先生はそのことを重々承知していたが、それでもやる必要があるとも思っているらしい。
「テストで、クラスの平均点を上げる最も効果的な方法が何なのか分かるな?」
「……点が取れない生徒を除外する、ですか」
「はあ、私の話を半分しか把握できていないな。まあ個人的には正解にしてやりたいがな」
彼の授業を受けているのは俺を含めて20人。
仮に、クラスの平均点が76点だったとしよう。
この中に0点を取っている生徒がいた場合、そいつ一人で平均点を4も下げていることになる。
そいつがいなければ平均点は80になっていたと考えれば、決して無視できない比重だ。
0点というのは極端にしても、赤点を取る生徒が2人いれば結果は似たようなものになるだろう。
「富豪層が平均年収を上げているから、大半の人間はそれ以下になっていると宣う輩がある。しかし私から言わせれば貧乏人が平均年収を下げているという点を甘く見積もり過ぎている」
シマウマ先生にとって最も困った生徒というのは、そういう存在だった。
「ここに入学できた時点で、最低限の学習能力は備わっているはずだ。それで赤点をとるのはな、個人的な能力差だとか、予習復習が足りないだとか、そういったレベルじゃない」
けれど、そんな生徒でも見捨てることはできない。
学習意欲のない生徒は怠惰だが、そんな生徒を安易に切り捨てるのは教師の怠慢になるからだ。
つまりクラスの平均点を上げる最も効果的な方法、その答えは「そういった生徒に赤点を取らせない」こと。
そのためには「自分の授業を真面目に受けなかった者の末路は悲惨」という意識を植え付けるのが手っ取り早いわけだ。
「そして、私が生徒に勤勉さを求めた旨は、これまでの授業で何度も繰り返してきたことだ」
態度は示したのだから、授業中にやっている言動もそれに基づいているのは推察できるだろう、わざわざ言わせるなってことらしい。
理屈は分からなくもないが、自分のことを他人に理解してもらっている前提で是非を求めてくるのは些か横暴な気がする。
「カジマ」
しかし呼ばれたのは、その視線を突き抜けた先、俺の真後ろの席にいたクラスメートの名前だった。
「お前がやってみろ」
「えー、自分っすか?」
目が合ったというのに、明らかに俺を当てるのを避けた。
何らかの力が働いたってことだ。
再現の失敗に落胆こそしたが、結果として大きな成果を得られた。
ここに来て明確な謎が、ようやっと目の前に浮かび上がったんだ。
「はあ……カジマ、もう書かなくていい。前途ある若者の手を、無駄にチョークで汚したくない」
「えー、まだ書ききってないっすよ」
「そもそも2次方程式で、その問題は解けない。更に言うと計算も間違ってる」
前回と同じように行動したにも関わらず、全く異なる結果。
これは何らかの要素、或いは条件に過不足があるからだろう。
まずは不確定要素となりやすい外的要因の精査だ。
「ちょっと、よろしいですか。先ほどの授業について質問があるのですが」
「ほう、質問しなければ分からないような教え方をした覚えはないが、君の向上心を尊重して貴重なハーフタイムを割いてあげよう」
「ありがとうございます。では先ほどの問題をカジマに答えさせたのは何故ですか。直前で俺と目が合ったのに」
シマウマ先生は怪訝な表情をすると、これ見よがしに大きい溜め息を吐いてみせた。
「教師人生20余年、生徒が私にしてきた質問の中でも五指に入るナンセンスさだな。大した意図も目的もなく人にモノを尋ねるのは無知無学以前の問題だ」
よほど俺の質問が期待はずれだったらしく、彼は嫌味たっぷりの説教を披露する。
「ちなみに1位は『バナナはおやつに入りますか』だ。おやつに入らなかったら遠足で1房もってくるのか? それ全部、食べきれるのか?」
こんなことを喋ってるくらいなら、さっさと答えた方が手っ取り早いだろうに。
まあ、彼の反応も分からなくはない。
科目に関する補足説明を求めてくるかと思えば、直接的には関係のない質問をしてきたのだから。
俺が教師の仕事を邪魔する、大人をおちょくるしか能がない不健康優良児に見えたのだろう。
否が応でも答えてもらわねばならない。
「先生、どー、どー」
捲くし立てるシマウマ先生の顔前に、俺は勢いよく手を突き出し、彼の言葉を無理やり静止した。
「な、なんだそれは」
「落ち着いてください。あなたにとってクダらないことも、誰かにとっては意外と重要だったりするんです。俺の向上心を本気で尊重するつもりがあるのなら、皮肉じゃなく回答に言葉を尽くしてくれませんか」
俺がそう言うと、彼はバツが悪そうに「ふん」と鼻を鳴らし、渋々と理由を説明し始めた。
私は日本で100世帯以下、常用漢字ではあるけれど、知らない人は絶対読めない読み方の当て字タイプのレア苗字だ。
レア苗字もそれなりにとしを重ねると気にならなくなってくるが、結婚するときは「配偶者や子供にこの苗字の面倒くささを一生味合わせるのか」と悩んだ。私は長男で相手も長女だったので結婚後の苗字について話し合ったが、相手にそれほどこだわりがない上に、私が相手の名字に変えるとあるお笑い芸人と同姓同名になるという事情から特に議論にならずに私の苗字が採用されることになった。
レア苗字のメリットはほとんどない。子供の頃も別にかっこいいと言われたことはないし、大人になるとよく言われるけど嬉しくはない。ただメリットがあるとすると何かの物語の主人公かもしれない、何か特別な存在なのかもと思えることがあるかもしれない。もちろん真剣に考えるほどではないが「もしかしたら何者かになれるかも、だって苗字だって変わってるし」みたいなぐらいに少し勇気づけてくれるぐらいの効果は何回はあったと思う。でもまあそれぐらいのもので、数日に1度感じるストレスに比べたらやはりデメリットの方が大きいと感じる。
あと細かいことだけど私の苗字を間違えて読んでくる人は100%仕事ができない人という法則があってそれは便利に使っている。賢い人は読めないものを知っているし、そういう可能性があるということを常に意識して仕事ができている。
それから昨日のようにバス停につくと、俺は日課を怠ったことを思い出し、後悔する素振りをした。
「あー、しまった」
前は自然と出てきた言葉だったので、意図的にやった今回はぎこちない。
役者を目指してやってるわけじゃないから、多少の白々しくなるのは許容しよう。
ふと、待合室に備え付けられた時計を覗く。
よし、ほぼ同じ時間、同じように行動できた。
その時、「プシュー」という音が近くで聴こえる。
大型の車はブレーキに空気圧を使っているらしく、それがあの独特の音を生み出しているらしい。
「えっ」
聴き慣れた音だったが、この時の俺は少し戸惑った。
来るのが予定よりも早かったからだ。
いや、前回が遅かったのだから、本来ならば予定通りというべきだろうけれど、今の俺からするとそっちの方が困る。
まだ家に戻ろうとするのを堪えつつ、自分の間抜けな姿を想像するという行動をやっていないのに。
求めていない時に限って、真面目に仕事しやがる。
心なしか、エアブレーキ音も俺をおちょくっているように聴こえる。
やり場のない怒りに思わず舌打ちをした。
それと同時に、これで状況が大きく変わってしまうんじゃないかと不安にもなった。
あまりに状況が違うと条件の特定も難しくなるが、ここは大人しくバスに乗るべきだ。
俺の不安は的中した。
前回はあれだけ授業中に当てられたのに、今回は明らかに頻度が減っていた。
というより全くと言っていいほど呼ばれない。
あえてボーっとしながら、教師の話をダルそうに聞いてもみても名指しされない。
「では、この問題を解き明かす栄誉を……」
彼の授業は選択科目なのだが人気がなく、第一希望や第二希望からあぶれた者たちが押し込められる。
そのため他よりも人が少なく、生徒達は不真面目って程じゃないが、この授業に対する意識は低くなりがちだ。
「今、この黒板に書かれていることは断片的だ。しかし私の話を50%以上インプットしているとしよう。そして、お前達の脳みそは最低でも50%以上は活動しているはず。ということは実質100%答えられる問題というわけだ」
建前上は俺たちへの牽制球らしいが、実際は彼の邪悪さからくるボークだろう。
観客がいればブーイングものだが、残念ながらこれは野球じゃない。
「進んで答えて欲しいものだが……それとも、この程度の問題に自信満々というのは、己のプライドが許さないのかな?」
仮に答えられるとしても、生徒たちは手をあげない。
もしイージーミスでもしてしまったら、説教+嫌味の2乗=ストレスで俺たちの免疫細胞は0になるからだ。
「ふーむ、そうだな。では僭越ながら、この私めが指名させていただくとしよう」
待ちに待っていない、運命の瞬間。
馬面教師の淀んだ瞳が、生徒達を一人ひとり値踏みし始めた。
パタ、パタ、パタ……
シマウマ先生の履いているスリッパが、静かな教室内に響き渡る。
そして、みんな目線を逸らす中、あの時のように俺と目が合った。
今朝から俺の身に降りかかっている謎の不調、不幸。
それらに対する漠然とした気がかりは、放課後になっても俺の中で燻り続けている。
原因がハッキリしていないからだ。
なので何が問題かも、何をどうすればいいのかも分からなかった。
逆に言えば、原因さえ判明すれば、解消方法も自ずと見えてくるってわけだ。
そして、その解法は「法則」にある。
だから俺は、この出来事に何らかの法則を見つけなければならない。
決して簡単なことではないし、そもそも可能なことかすら怪しいだろう。
それでも、この得も言われぬ“何か”を、得も言える“何か”にするんだ。
俺は決心を鈍らせないよう、そそくさと家路についた。
特定の要素で構成されていて、それを一定の条件で行ったのなら同じ現象にならないといけない。
だから法則を見つけ出すには、その「特定の要素」と「一定の条件」を探し出す必要があるんだ。
翌日、俺は起床すると、すぐさま昨日の出来事をシミュレーションしてみた。
「思い立ったが吉日」ってやつだ。
まあ、俺のやってることは吉日というよりは凶日の再現といえるが、大事なのはそこじゃない。
これは、その吉凶にどれだけの意味を持たせられるかという検証なんだ。
「ごー、ろく、しち、はち……っと、次は弓引きサイドランジだ」
俺は今朝の行動を同じように再現する。
意外なところに要因があるかもしれないので、関係ないであろう行動も出来る限り模倣した。
「母さん、この歯磨き粉もうすぐ無くなりそうだ」
「ええっ? 昨日、変えたばかりなのに」
「うん、キトゥンの餌はもうやったよ」
「今の流れで、なぜその話にシフトするの」
家族に奇異の目で見られつつも、セリフも出来る限り同じにした。
噛み合わないところが出てくるかもしれないが、それで結果に違いがあるならば要素や条件を絞ることに繋がる。
さて、これが吉と出るか、凶と出るか。
「マーフィーの法則ね」
タイナイが言うには、マーフィーの法則というのは“推測可能なことは起こりうる”って前提に基づいている。
そこから失敗の可能性を掘り下げ、ひいては日常で起こりうる不幸や不運について解析するのが、この法則ってことらしい。
例えば、置き傘をしていない時に雨が降るだとか、ニキビは一番カッコ悪いところにできる、なんてのもそうだ。
「うん、マーフィーの法則だね。僕の場合だと、深夜に書いてしまったブログ記事ほどバズりやすいかな」
しかし、挙げられた例の多くは法則というには大袈裟で、言ってしまえば“あるあるネタ”のようなものだった。
どちらかというと、認知バイアスに基づいた経験則といった方が正しい。
「うーん、こんなものを法則っていうのは、少々おこがましくないか?」
「けどマスダの言っていたことも、ほとんど似たようなもんだよ」
確かに、今日の俺の出来事で、いくつかは当てはまるものもあるだろう。
だが、それだけだ。
現時点では、俺の体験には「マーフィーの法則」っていう如何にもな呼称があり、それを知ったに過ぎない。
あの馬面教師のありがたい言葉から拝借するなら、「学んでなくても出来ること」ってやつだ。
計算式を学び、解き方を勉強しなければ答えは導き出せないんだ。
それでも俺は、この法則に自分の求める“何か”が隠されていると感じていた。
その“何か”は、かかっている靄を晴らすには頼りなく、あってもなくても変わらないかもしれない。
精々、ペンライト程度の頼りない光だ。
だが、そんなものでも、目的地の道しるべくらいは見えるだろう。
そんな予感があったんだ。
言葉をオウムのように繰り返しながら、自分の中で咀嚼していく。
そして、ふと違和感の在り処に“あたり”をつけた。
それはマーフィーの法則そのものではなく「法則」という一部分だった。
その糸を手繰り寄せられるかは疑問だったが。
「うーん……やるだけ、やってみるか」
俺は緩く決心した。
「ねえ、結局マスダは何に悩んでいたの?」
「その答えは、これから、だ」
「え、どういうこと」
「正直、自分でも確信がないんだが……気がかりなことがあったんだ」
あまりにも個人的なことだったから気恥ずかしかったが、俺は思い切って言った。
「俺はテレビのチャンネルを10に、音量を10にしてから電源を消すんだが」
「え? なんで?」
「自分でも分からん。ともかく、それを今朝やり忘れたから気になっていたんだ。ほんの少しだけどな」
意外にもタイナイの反応は澄ましていた。
笑われるよりはマシだが、少しだけ鼻につく。
「スポーツ選手とかも、よくやるよね。特定の動作をすることでパフォーマンスの安定化を図るんだ」
「まあ……それはいいんだが」
タイナイの癖だ。
気取った言葉を散りばめて、何かを分かった気になってる節がある。
けれど自分のやっていることを横文字ひとつに押し込めても、全て綺麗に収まるわけじゃない。
その言葉のリズムや心地よさが、そのまま答えに直結するわけではないからだ。
ハンバーグをミートローフって言ったり、ホットケーキをパンケーキって言うのと同じさ。
緻密な言葉選びや言い換え自体に、求めている本質は存在しない。
だから俺は話を続けた。
「マスダって、そういうの信じるタイプだっけ」
「信じてない。だから途中で消したよ。けど……」
「けど?」
「きっと運勢は最悪だった。そう感じてもいる」
「占いを信じてもいないし、結果を見たわけでもないのに?」
「ああ、何だか今日はツイてないって感じるんだ。因果関係もあったもんじゃないが、さっきシマウマに嫌味を言われたのだってそうだ」
「他にも何かあったの?」
「売店で目当てのパンを買おうとしたら俺の番で売り切れたり、仕方なく買ったパンも落としちまったんだよ」
「落としたのはマスダの不注意だろ」
「それはそうなんだが、よりによってジャムがついてる方が地べたについたんだよ。おかげで掃除に手間取って、昼飯どころじゃなかった」
朝から起きた出来事を順繰りに話し、その都度感じたことをコメントし、適当な相槌を打つ。
肝心な部分を掴めていないまま話しているため、やり取り含めて宙ぶらりんの状態が続いた。
女子の会話は纏まりがないなんて言われがちだが、この時の俺たちよりは遥かにマシだろうな。
だが、そんな1対1の会議も、踊り続ければ多少の身にはなるらしい。
「オカルトじみたことを言いたくはないけど、何か変な力が働いている気がするんだよな。確率論だとか統計学だとかはサッパリだが、嫌なことが嫌なタイミングで起きて、失敗が最悪の形で重なってる感じなんだ」
「うーん……つまり今のマスダは『マーフィーの法則』に引っ張られて、物事をそういう風に見てしまってるんじゃないか?」
先ほどと同じで、タイナイの気取った言葉遣い、その延長線上だろう。
「なんだよ、その法則」
だが、その未知の法則には、自分の気がかりを解消するための手がかりが隠されている。
「ああ、しまった」
忘れていたのもそうだが、そのことを「しまった」と思ったのも腹立たしい。
ふと、待合室に備え付けられた時計を覗く。
全速力で家に戻れば、次のバスには間に合うだろう。
だが逸る気持ちをグッとこらえた。
個人的かつ些細な決まりごとで、わざわざ帰るなんて馬鹿げているからだ。
気にしている時点で癪なのに、そのために行動するなんてもっと癪だ。
戸締りや、ガス栓の開け閉めを確認するのとはワケが違う。
慌てて家に帰ってやることは、テレビのチャンネルと音量の変更。
その時、「プシュー」という音が近くで聴こえた。
まるで今の俺をあざ笑うかのような吹き出し音だったが、あれはバスの停まる音だ。
予定の時刻より少し遅れていたが、まあ許容範囲か。
後ろ髪を引かれる思いはあったが、それを振り払うかのように小走りでバスに乗り込んだ。
この、ささやかな“気がかり”は俺の頭をもたげ続けた。
なぜか授業中、回答役に俺がやたらと選ばれた。
よりによって集中が途切れていた時や、授業を話半分に聞いていた時に限ってだ。
「おお、マスダよ! 間違えてしまうとは情けない!」
耳障りの悪い嘆声が教室内に響く。
まあ察しの通り、そんな渾名をつけられる人なので生徒ウケのいいタイプではない。
かく言う俺もそうだった。
「板書をノートに丸写しして、それを綺麗に出来たと満足気にする生徒は無知無学だ。なぜだか分かるか?」
「……『学んでなくても出来ることだから』でしょう?」
こんなことを言われて生徒が発奮すると思っているのなら、この教師は人の心がない。
その後の休み時間、うな垂れている俺を見かねて隣席のクラスメートが話しかけてきた。
「ああ、タイナイ……お前か」
「心ここにあらずだね……夏バテ?」
「いや、そういうんじゃないんだ」
そうは言ったものの、具体的な原因が何なのかは自分自身でも捉えきれていなかった。
「朝、起きた時にさ、学校行くのが途轍もなくダルいなあって感じる時あるだろ。病気とかじゃなくて」
「まあ、あるね。寝起きの血圧とかが原因で」
「ああ、だから調子は戻るんだ。家を出る頃には完全に消えてる」
“それ”を上手く言葉にできない俺は、漠然としたまま説明を試みた。