「マーフィーの法則ね」
タイナイが言うには、マーフィーの法則というのは“推測可能なことは起こりうる”って前提に基づいている。
そこから失敗の可能性を掘り下げ、ひいては日常で起こりうる不幸や不運について解析するのが、この法則ってことらしい。
例えば、置き傘をしていない時に雨が降るだとか、ニキビは一番カッコ悪いところにできる、なんてのもそうだ。
「うん、マーフィーの法則だね。僕の場合だと、深夜に書いてしまったブログ記事ほどバズりやすいかな」
しかし、挙げられた例の多くは法則というには大袈裟で、言ってしまえば“あるあるネタ”のようなものだった。
どちらかというと、認知バイアスに基づいた経験則といった方が正しい。
「うーん、こんなものを法則っていうのは、少々おこがましくないか?」
「けどマスダの言っていたことも、ほとんど似たようなもんだよ」
確かに、今日の俺の出来事で、いくつかは当てはまるものもあるだろう。
だが、それだけだ。
現時点では、俺の体験には「マーフィーの法則」っていう如何にもな呼称があり、それを知ったに過ぎない。
あの馬面教師のありがたい言葉から拝借するなら、「学んでなくても出来ること」ってやつだ。
計算式を学び、解き方を勉強しなければ答えは導き出せないんだ。
それでも俺は、この法則に自分の求める“何か”が隠されていると感じていた。
その“何か”は、かかっている靄を晴らすには頼りなく、あってもなくても変わらないかもしれない。
精々、ペンライト程度の頼りない光だ。
だが、そんなものでも、目的地の道しるべくらいは見えるだろう。
そんな予感があったんだ。
言葉をオウムのように繰り返しながら、自分の中で咀嚼していく。
そして、ふと違和感の在り処に“あたり”をつけた。
それはマーフィーの法則そのものではなく「法則」という一部分だった。
その糸を手繰り寄せられるかは疑問だったが。
「うーん……やるだけ、やってみるか」
俺は緩く決心した。
「ねえ、結局マスダは何に悩んでいたの?」
「その答えは、これから、だ」
「え、どういうこと」
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チャンネルを10にして、音量も10にする。 俺がテレビの電源を消す前に必ずしていることだ。 なぜ、そんなことをするかって? さあ、俺にも分からない。 お気に入りの番組が10チャン...
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久しぶりに見たわ
もうみんなつまんないって思ってるしやめよ?
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昔にくらべてけっこう読みやすくなってない?
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≪ 前 我ながら、何とも支離滅裂な夢を見た。 夢とは得てしてそういうものだが、寝覚めの悪さは否定できない。 思考速度が鈍り、倦怠感は体全体にのしかかる。 この気だるさは低...