ブコメとかツイッター見てるとGoogleのレイオフおよび労働組合の話について、誤解されている部分が少なくないようなので、需要あるかわかりませんが、中の人がすこしだけ書きなぐってみます。できるだけ中立的に書くことを試みますが、多様性のある社員のなかの、あくまで一社員🔡の主観ですので、Single Source of Truthではなく参考程度でお願いします。

レイオフ＝クビなの？

解雇規制のゆるいアメリカならレイオフ＝クビです。Googleは米国以外では各国の法律にのっとって、レイオフに相当する処置を行うと伝えており、会社の現状を考えると日本で解雇（整理解雇）を行うのは相当な法的リスクを伴います。

そのためGoogle Japanは解雇ではなく、退職パッケージ（退職金と退職に伴う様々なサポートのセット）を提供する「退職勧奨」という形で対象となる人に通知を行いました。

勧奨なので、同意して退職するのも、拒否して退職しないのも個人の自由です。勧奨に２週間以内に同意するなら、退職金にかなり大きな上乗せが加えられることが約束されているので、同意しない人が少なくなるように調整されています。拒否した場合にどうなるのかは不透明です。

ちなみに日本は解雇の規制が強い方ですが、欧州や他のアジア各国と比べてとくに強いというわけでもありません。欧州にはレイオフできなかった国もあります。米国だけがズバ抜けて解雇規制がゆるい印象です。

能力が低かったからレイオフされたんじゃないの？

Googleによると、今回のレイオフの直接の原因はここ数年に人を過剰に採用しすぎたため、そして現在の経済的現状が予想外であったためとしています。そして、会社の優先度を鑑みて削減対象となるロールを決定するというのが表向きの発表です。

社内での説明でも業務内容やパフォーマンスも考慮するとされていますが、直近の社内評価が悪くないと判断された人も対象になっているようなので、ポジションや運による部分が大きいように見えます。パフォーマンスといっても、本人の能力と同じくらい、仕事内容や上司との相性、そして時勢に大きく左右されるので、今回レイオフされた中で本当に「能力が低かった」といえる人は多くないと思います。

レイオフされるリスク込みでの高給高待遇だったんじゃないの？

Googleの日本法人は、当然ながら日本の労働基準法を遵守しながら雇用を行っているので、「レイオフのリスク前提」ということはありません。たしかに日本の中では高給だと思いますが、世界のIT 産業の給与体系の競争で比べるなら適切（あるいはむしろ低め）な範囲かと思います。IT 産業、とくにエンジニアの給与がバブり気味という点は否定しませんが、そこもレイオフとは直接関係ありません。

「レイオフされるリスク」に対する金銭的補償は、普段もらう賃金の中ではなく、レイオフに伴った「退職パッケージ」の一部として、今回は提示されています。そして、日本法人の提示した退職金は上記の２週間以内ご成約キャンペーンを考慮すると、各国の対応の中でも相当手厚い方です。（日本以外の国も、同業他社のレイオフに比べると十分手厚いと思うのですが。）

労働組合つくったりして、会社にしがみつくのに必死じゃね？

たしかにレイオフを機に労働組合ができましたが、成立過程を眺めている限り、これは会社にしがみつくためというよりは、社員を大事にするというGoogleのカルチャーを守りたいという動機をもった人がほとんどです。例えば、これまで社内でかなりの優先度で大事にされてきた「心理的安全性」は、今回の米国のレイオフ通知に伴って、一晩で吹き飛んでしまいました。会社の側には最大限の説明責任を果たしてもらいたい、雇用契約を解消するならそのプロセスはきちんと日本の法令に遵守して、日本語や日本の法務に弱い外国人社員が不利にならないようにしてほしい。そういう公平性を会社に訴える対抗手段としての労働組合である、と私は受け取っています。

加えて、組合員に過剰な「退職勧奨」を呼びかけることは違法ですので、たとえばどうしても離職したくない人や、ビザステイタスや日本での環境変化に心配のある外国人社員を、一旦法的に守る仕組みとしても期待できます。さらに組合ができることによって、会社が将来に更なるレイオフを行う可能性を低減させられるかもしれません。

実際、労働組合の立ち上げはレイオフ対象者の発表より前に行われており、労働組合を立ち上げた人とレイオフ対象者はまったくの独立です。組合成立の記者会見に出た人＝レイオフ対象者ではない（むしろレイオフ対象者の方が遥かに少ないと思われる）ので、労働者の権利を目に見える形でのオプションにした彼らの行動力を私は評価します。

社内の雰囲気はどうなん？

1/20に米国のレイオフが発表されてから時間がたつので、自分の見える範囲では皆ある程度は心の準備はできていた模様です。先行する国ではなぜか優秀な人や必要そうに見えるポジションの人も切られているところを見ると、数％の確率とはいえ自分は大丈夫と確信できた人はあまりいないと思います。

ただし、日本では３月中に発表としかアナウンスされず、具体的にどのような人に、いつ通知がくるのかわからないなど、情報が与えられない部分に関する不満は大きいです。

日本では対象者に対して即日アクセス遮断にはならなかったので、発表後も誰に通知が行ってるのかは本人が言わない限りわからないので、お互いどう声をかけはじめたらいいのかも正直戸惑っている状態です。

組合は２つできましたが、その中でのディスカッションや加入するメリットについてはよく見えておらず、自分含め、該当者であってもやや静観している社員が少なくない気がします。組合に入る自由も入らない自由も両方十分に尊重されています。

えー現場からは以上です。

Permalink | 記事への反応(19) | 14:34

2023-01-11

■イギリスのスタートアップでRedundancy（人員整理）の対象になった話

2022年 11月24日付で、半年間働いてきた欧州拠点の某スタートアップ企業からRedundancyを言い渡された。永住権を持たない国で働く女性として、この経験はシェアしておくべきだろうと判断したので、文章にまとめて公開する。将来的に、自分自身でもこの経験を振り返ることがあるとも思う。

なお、Redundancyととはこの文脈では「会社都合による余剰人員の整理」を意味する。基本的に、Redundancyは個人の能力やパフォーマンスと関係なく、財政的都合に拠って行われる（Fire、いわゆるクビは個人の能力が会社で求められる基準に満たないため起こるので、Redundancyとは異なる…とイギリス人上司に言われた。実際、退職金の扱いなどもFireかRedundancyかでは違う）。アメリカ英語ではLayoffと呼ぶらしい。最近 TwitterやMetaで行われているのもこれではないかと思う。

【当事者の基本情報】

当事者: 29歳日本人女性、イギリス在住（執筆時）。Youth Mobility Scheme（30歳以下の候補者のための2年間の就労ビザ）を所持、マネージャーからは、会社がスポンサーとなって今後5年間の就労ビザへ切り替えを行う可能性があると告げられていた。

会社全体の状況: 創業 10年以下、本社はオランダだがロンドンにも支社あり。私の勤務地はイギリス。社員の人数は100程度のスタートアップ。一般の人には知られていないものの、業界内ではある程度名前を知られている会社だったのではないかと思う。

当事者の会社での役割: 主に日本語を話すクライアントとの関係構築。所属部署の中でも特にAPAC（アジア太平洋地域）担当チームに配属されていた。当該部署に日本人は私のみ。数字だけで見れば業務成績は悪くなかったし、日本語スピーカーかつ前職でも当該分野での経験を積んでいたため、会社内ではユニークなポジションにいたと思う。

【解雇 前後のタイムライン】

11/23

通常業務。業務終了後、会社主催のパーティーに出席。

11/24（午前）

9時の始業前にSlackをチェックしようとすると、エラーメッセージが出て入れない。会社のメールアドレスとSlackのパスワードを入れても動かない。
Whatsappに、別チームのリーダーから「プライベートのメールアカウントをチェックしてください」というメッセージが入っている。メールボックスを開いてみると、24日の午前7:34に、CEOのうちの一人から「予算の関係で会社を縮小するため、チーム全体で15人の役割を削減対象とする。あなたのポジションはもうない」という趣旨のメールが来ているのを見つける。
続いて、HR 担当者から「本日 12時から説明のための面談を組みました」という趣旨のメールが来る。
同じチームからは他のアドバイザーと、直属の上司でありチームリーダーの社員もRedundancyに処されたことが判明する。どのようなアクションを取るべきか上司に相談したかったが、上司も人員削減対象となってしまったため、誰にも相談できないままとりあえずCEOとの面談。

11/24（午後）

CEOのうちのひとり（イギリス人）＋最近会社に入ってきた役員（アメリカ人）と面談。
CEOいわく「今回のRedundancyは完全に会社の責任であり、あなた自身のパフォーマンスや能力とは全く関係がない」と告げられる。「あなたの能力は会社にとってかけがえのないもので、私たちはあなたの貢献に感謝している。だから、解雇対象になったからといって落ち込んだり、自分を責めないで」と神妙な面持ちで言われ、思わず笑いそうになってしまう。会社ではCEOかもしれないが、私の人生の中であなたは脇役だ。心配しなくても、私の知識と経験、そして自信を奪えるようなポジションにあなたはいない。
別チームのマネージャーからメールがあり、引き継ぎミーティング。とはいえ、部署内には私しか日本人がおらず、日本のクライアントとのやり取りができる人もいないので、ほぼ何も進展なく終了。
Redundancy Package（退職手当のようなもの）をまとめたドキュメントが送られてくる。前述の通り、今回は、解雇通知よりもSlack から追い出されるのが先というノーティス無しのRedundancyが行われた。終身雇用制が強い日本の常識からすると違法では？と感じるかもしれないが、実は勤務期間に合わせた解雇予告手当（payments in lieu）さえ支払えばこのような解雇方法は罪に問われない。今回解雇になった人の多くが入社1年以下だったのだが、これは会社が支払わなければいけない手当の金額が少ないからだろうと想像している。

11/25

朝から何もすることがないので、とりあえず日本の家族に電話。流石に、外国にひとりで引っ越した娘がこのインフレ下のロンドンで会社から放り出されたと知って親が困惑していた。心配をかけて申し訳ない。
落ち込んでいる暇はないので即CVをアップデート、LinkedInのステータスを求職中にして、プロフィール写真に#opentoworkのフレーム追加。
HR 担当者に連絡し、業界内で有名な関係者に私のCVやLinkedInページをシェアしてもらうよう依頼。ここから鬼のようにアプライしまくるが、クリスマス直前かつQ4の終わりなので、現時点でなしのつぶて。

【よかったこと】

特になし。

【悪かったこと】

Redundancyに告知期間がなく、まさに青天の霹靂で行われたこと。これまで一緒に働いてきた同僚にさよならを言うことすらできなかった。
クリスマスまで1か月を切った時期にRedundancyが行われたこと。クリスマス、欧州の会社は日本以上に休む。単に不景気だけではなく、アルバイトの募集すら全くないので、その場しのぎの職に就くことすらできない。
Cost of Living（生活費の高騰）の真っ只中かつ、近年稀に見る寒い冬にRedundancyが行われたこと。ウクライナ侵攻の影響もあり、現在のイギリスでは生活費、特にガス代が歴史的な上昇を見せている。毎日気温が氷点下になるので健康上ヒーターをつけないわけにもいかず、退職手当はあっという間に光熱費に消えてしまう。
永住権を持たない状態で解雇対象になったこと。前述した通り、私はこの会社から就労ビザをサポートしてもらう予定があった。そのため、私の人生計画は全て来年中に就労ビザを得て5年後にイギリスの永住権へ申請する、という前提に基づいていた。現在のビザには年齢制限があるため更新はできず、また残り期間が7か月半しかないことから、再就職には圧倒的に不利な状況（このような話を女性がすると「イギリス人の彼氏を見つけて結婚したら？」というアドバイスをする人が出てくるのが常だが、簡単にこのようなことを言うべきではないと思う。就労ビザの取得は茨の道だが、結婚ビザの取得も負けず劣らす大変で、莫大な申請費用と時間を要する。イージーな道など絶対にありえないのがイギリスのビザである）。
上司と同僚を同時に失ったこと。私の場合は、所属部署が丸ごと消滅するような形で会社を追われてしまった。リファレンスを貰おうにも、入社からずっと私を見てくれていたマネージャーはもういない。愚痴を言おうにも、一緒に頑張ってきた同期はもういない。同じチームで働いていたメンバーが急に誰もいなくなり、コミュニケーションがとれなくなってしまったことは、私のメンタルヘルスに悪影響を及ぼした。
精神的に不安定になったこと。私はもともと切り替えの早い性格で、つらいことがあっても長期的に落ち込むことは少ない。しかし、今回は「解雇＋時期的に再就職が困難＋就労ビザの可能性が絶たれた＋信頼していたチームを失った」ということがあまりにもショックで、やはり最悪の選択を考えた。解雇当日の記憶はところどころ無いのだが、ふと気づくと車道の真ん中にいて自分で自分にびっくりした（車の少ない道路でよかった）。 The Smithsの「There Is a Light That Never Goes Out」という曲に「If a double-decker bus crashes into us, to die by your side is such a heavenly way to die」という一節があるが、やはりイギリスではこういう気持ちになった時に飛び込む相場は電車よりバスなのだな、と実感した。

【Redundancyを経て得た気づき】

私の役割がRedundancyの対象となったことを仕事上で繋がりのあった方々に連絡した際、非常に多くの方がとても暖かい言葉をかけてくれたこと。一緒に悲しんでくれる方、会社に対して怒ってくれる方、明るい言葉で励ましてくれる方など様々だったが、どの言葉も本当に嬉しかった。ただ書類を転送しあったり、モノを売り買いするだけの関係性ではなく、私の仕事をある意味では会社以上にきちんと見てくれていた方が多かったのだと改めて感じた。ここでお世話になった方々にまたお会いしたいので、転職活動を頑張ろうと思える。
友人やパートナーの大切さ。私がRedundancyに遭ったことを話すと、みんなが心から優しい言葉をかけてくれた。日本から励ましの言葉を送ってくれたり、就職情報のリンクを送ってくれたり、心を尽くしてくれることが嬉しかった。外国に一人で暮らすことと孤独はセットだが、たくさんの友人や優しいパートナーが私の味方をしてくれることに気づき、そのこと自体が私を元気づけてくれた。
自分が自分の仕事を思った以上に愛していた、ということに気づいた。端的に言ってひどい目に遭っているので、例えばもうこの業界は去って全く新しい仕事を…という可能性もあった。しかし、こんな状況になってもまだ、就職活動の合間を縫って前職に関係するイベントを見学している自分がいる。よくよく考えてみれば、私は高校生の頃からこの業界で働くことを目指し、大学の学部でも修士でもずっとこの分野の研究に携わってきた。サッカーにもハリーポッターにも興味がない私が、友達も家族もいないイギリスに一人ぼっちで移住した理由は、この国がこの業界のトップを走っているからだ。私には、この仕事を諦めることはまだできない。

【会社に対して思うこと】

会社自体は全くブラックではなかった。前述したように、非常に良い上司と同僚に恵まれ、仕事内容にも給与にも大きな不満はなかった。現在会社に残っている人たちはもちろん、今回のRedundancyで影響を受けた人も皆それぞれの分野のエキスパートで、非常に優秀な人材ばかりだった。
しかし、通知期間なしで11月末にRedundancyを行った上層部の判断は、非人道的だと考えている。ほんの数人を除いて、ほぼ全ての社員が今回のRedundancyについて全くもって知らされておらず、何の前触れもなかった。また、クリスマス前というのは1年で最も就職がし辛い時期であり、このタイミングで従業員を追い出すことは人間の所業とはいえない。
Redundancyは、現在の経済状況ではそう珍しいことではない。しかし、1年に何度もこういう采配を揮っていくことが会社の持続可能性に貢献するのかどうかは疑問である。この最初のRedundancyは、若い会社にとって大きな転機だ。変わるなら今だ、よく考え直してほしい。解雇された私たちが「昔は一本筋の通った良い会社だったのに…」とがっかりしてしまうような経営だけはしないでほしい。この調子で様子を見ていていいのか、こっちがハラハラしてしまう。

【今後の筆者の動向】

イギリスには2023年 8月まで合法的に滞在・就労できるビザを持っているため、とりあえずそれまではこの国でもう一度仕事が見つかるかどうかチャレンジしてみようと思う。幸い、フリーランスで仕事を受けられる体制が整っているので、当面の間は個人の仕事で食いつないでいくと思う。
この記事をここまで読んでくださった私の知人・友人の方は、ぜひ私に仕事の機会やプロジェクトを教えてほしい。イギリス国内のものはもちろん、日本での仕事にもリモートで対応できる。

Permalink | 記事への反応(0) | 16:15

2022-12-16