はてなキーワード: 百済とは
秋の静けさが漂う東京の一角で、異様な緊張が走った。歴史学者、宮内敬一と考古学者、佐伯真一の変死体が発見されたのだ。二人は、かつて共に百済本紀の存在を追い、その謎を解き明かそうとしていたが、彼らの研究は突如として闇に葬られた。
警察による初動捜査は、外部からの侵入の形跡がなく、殺人であることを示す証拠はほとんど見つからなかった。二人の遺体には目立った外傷もなく、死因は心不全とされたが、その背後には疑念が残された。まるで何かを隠蔽するかのように、彼らの死は「自然死」として処理されることとなった。
宮内と佐伯が追い続けていた「百済本紀」は、二人の死と共に消え去り、今やその存在すらも「無いもの」とされた。学術的に重要であったはずの資料も、調査に使用されていたすべての記録は抹消され、百済本紀の存在を証明するものは、どこにも残されていなかった。
「なぜ二人は殺されたのか?」
その疑問は、学界のごく一部で囁かれるだけであり、公にはまったく注目されることはなかった。二人の研究は、韓国や日本の学術界ではタブー視され、まるで百済本紀という存在そのものが、二人の死を消し去るかのように扱われた。
宮内と佐伯が見つけた百済本紀――それは、朝鮮半島南部がかつて倭人の支配下にあったことを証明する決定的な証拠だったかもしれない。しかし、その真実は深く闇に葬られ、二人の死によって全てが消えた。そして、世間は彼らの死を追うことなく、ただ静かに時が過ぎていった。
その後、韓国の学術界では新たな説が次第に台頭し、支配的な理論となっていった。朝鮮半島南部に点在する「前方後円墳」――それは、かつて日本との関係を示す重要な遺跡と考えられていたものだったが、韓国の考古学者たちによって「方墳の誤解」だという新説が唱えられ、広く支持されるようになった。
「これは、単に方墳が重なり合って造営されたものに過ぎない。倭人の影響を示すものではない」とする学説が一般化し、朝鮮半島南部における日本との関係性は次第に曖昧なものとされた。
韓国のメディアや教育機関でもこの説が広まり、前方後円墳が日本由来であるという主張は「誤り」であるとされるようになった。この新しい歴史認識は、韓国社会において広く受け入れられ、かつての日本との関係を強調する要素は薄れていった。
そして、その流れはやがて日本にも影響を及ぼす。
日本国内でも、宮内と佐伯の死後、百済本紀にまつわる話は完全に封印され、朝鮮半島に関する歴史的議論は一切なされなくなった。むしろ、日本は再び「謝罪するだけの国」としての立場を強化し始める。歴史問題については、韓国や他の近隣諸国に対して従属的な姿勢を示し、過去の過ちを認める方向へと舵を切っていった。
朝鮮半島における日本の歴史的な関与については、批判的な論調が強まり、過去の征服や影響についての議論は「日本の侵略」という一面的な見方に統一されていった。日本国内でも、戦前の行いに対する反省と謝罪が繰り返され、歴史認識をめぐる議論は沈静化した。
百済本紀に関する研究は「なかったこと」とされ、二人の学者が追い続けた真実は、学会の表舞台から消えてしまった。
宮内と佐伯が命をかけて追い求めた「百済本紀」は、表向きには消え去った。しかし、その存在が完全に忘れ去られることはなかった。わずかながらも、彼らの研究に触れたごく一部の者たちが、裏でその真実を守り続けようとしていた。
日本国内の地下の一部では、失われた資料の断片を手に入れようとする者たちが密かに動き始めていた。彼らは、百済本紀が消えた理由を探る中で、政府や国際的な影響力を持つ陰謀の存在を疑い始めた。そして、宮内と佐伯の死が、単なる偶然ではなく、何らかの計画的な犯行であった可能性が高まっていると考えていた。
この裏で動く影たちは、「なぜ彼らは殺されたのか?」という疑問に取り憑かれていた。
彼らの手に渡る断片的な資料は、百済本紀に書かれていた可能性のある、朝鮮半島南部が倭人――つまり日本人の支配下にあった事実を示唆するものだった。もしその真実が公にされれば、日韓関係、さらには東アジア全体の歴史認識が根本から揺るがされるだろう。しかし、誰かがそれを望まなかった。
「前方後円墳が倭人の影響を示すものだと証明されれば、朝鮮半島南部は日本の故郷だと認識される。だが、それは今の世界秩序にとってあまりに危険な真実なのかもしれない…」
彼らの声は、闇の中で囁かれるのみだった。
宮内と佐伯の死の真相は今も解明されていない。百済本紀は闇に葬られ、朝鮮半島南部の前方後円墳はただの方墳として再解釈され、失われた倭人の故郷は再び歴史の深淵に埋もれてしまった。
だが、どこかでその真実を求め続ける者たちがいる。彼らは、いつか再び歴史の光の中に百済本紀を取り戻し、宮内と佐伯の死の意味を解き明かそうとするだろう。
だがその日はまだ、遠い未来の話だった。
百済滅亡の報せが朝鮮半島全土を駆け巡るとき、そこには絶望だけでなく、わずかな希望が残されていた。それは、百済の地を追われた者たちが、遥か倭の国――大和への亡命の道を選んだことだった。
百済の都泗沘(しひ)が炎に包まれ、王族や貴族、そして多くの百済の民が散り散りになって逃げる中、一握りの者たちは東へ、海を越えて大和へと渡ることを決断した。彼らにとって、倭はかつて同盟を結び、文化や技術を共有してきた縁のある国だった。遠い異国ではあったが、そこに生き延びる希望があると信じていた。
夜の海は静かだったが、波は冷たく、命の危機を感じさせた。百済からの亡命者たちは、わずかな船団に身を寄せ合い、倭の地を目指した。彼らの目には、故郷を失った悲しみと、新しい土地での不安が浮かんでいた。
中でも、若き百済の貴族、武珍(ムジン)は、家族と共に海を渡ることを決断した一人だった。彼はかつて百済の王宮で官職を務めていたが、新羅と唐の連合軍が攻め込むと、命からがら国を脱出した。彼の目の前には、父祖の地であった百済が失われ、愛した仲間や民が散り散りになっていく姿が浮かび続けていた。
「いつか…いつか、この地に戻ることができるのだろうか」と、武珍は呟いたが、その声は波音にかき消された。
やがて、彼らの船は倭の大地に辿り着いた。彼らを迎えたのは大和朝廷の役人たちだった。百済からの亡命者たちが次々と上陸し、武珍もまたその一人として新たな生活を始めることとなる。だが、そこには異国の地での試練が待ち受けていた。
亡命者たちは大和王権に迎え入れられたものの、その生活は容易なものではなかった。彼らは、異国の地で自らの文化や風習を持ち込む一方で、大和の風土や習慣に馴染む必要があった。特に、故郷を失った哀しみが胸に深く刻まれている者たちは、再び自らのアイデンティティを見つけるまでに長い時間がかかった。
武珍もその一人だった。彼は大阪南部に割り当てられた土地で、新しい生活を始めることとなった。この地には既に百済からの移民が住み着いており、互いに助け合いながら新たなコミュニティを築いていた。大阪南部の河内平野は肥沃な土地であり、農業が盛んだったが、何よりも彼らにとって特別なものは、地名の中に「百済」という故国の名を残せることだった。
「ここは、我々の新たな百済だ」と、武珍は言った。
百済からの亡命者たちは、単に新天地で生活を始めるだけではなかった。彼らは百済で培った高度な技術や文化を大和王権にもたらし、その地位を高めていった。特に、天智天皇の治世において、亡命者たちは重要な役割を果たすこととなる。
天智天皇(大化の改新を主導した中大兄皇子)は、近江京を築いた際、百済からの亡命者たちを積極的に受け入れた。天智天皇自身が百済との強い同盟関係を保っていたため、亡命者たちの技術や知識を利用して、近江の地を発展させることを狙っていたのである。武珍を含む百済の貴族や技術者たちは、天智天皇の招きに応じ、滋賀県周辺へと移住していった。
「新羅に滅ぼされ、百済を失ったとしても、我々の技術や文化がこの地で花を咲かせるなら、それが我々の新しい故郷となるだろう」と、武珍は自らを励ました。
百済の技術者たちは、瓦や製陶技術、金属加工、建築技術をもたらし、近江京の発展に寄与した。その中でも、仏教文化や先進的な農業技術は、近江の人々にとって大いなる財産となった。百済からの亡命者たちは、大和王権の一部として取り込まれながらも、独自の文化を維持し続けた。そして、その痕跡は、現代の滋賀県に残る渡来系の遺伝子の多さにも反映されている。
時が経つにつれて、百済からの亡命者たちは日本列島に根を下ろしていった。大阪南部には「百済」や「加羅(伽耶)」といった故国の名を冠する地名が残され、滋賀県には亡命者たちの末裔が多く住み着いた。彼らの遺伝子は、日本列島の中で異質な文化を生み出し、後の日本文化に大きな影響を与えた。
武珍も、かつての仲間たちと共に大阪南部で新たな百済を築き上げた。そして、彼の子孫たちは、百済の血を引き継ぎながらも大和王権に忠誠を誓い、その技術と知識を後世に伝えた。
「故郷は失われたが、我々の血は生き続ける。我々の文化は、この新しい土地で栄え続けるだろう」と、武珍は亡命者たちと共に夜空を見上げ、倭の地で新しい未来を夢見た。
こうして、百済の亡命者たちの物語は、日本の歴史の中に深く刻み込まれていった。朝鮮半島を追われた彼らは、決して故郷を忘れることなく、新しい大地でその魂と誇りを守り続けたのである。
天智天皇が近江京を築いた時、百済からの亡命者たちは日本の地に根を下ろし、新しい生活を始めた。しかし、彼らの胸には常に故郷である朝鮮半島への想いが宿り続けていた。日本という国がまだ形成されつつある時代、その根底には、失われた「伽耶」や「百済」を取り戻すという強い願望が隠されていた。
天智天皇は、ただ単に新しい京を築いただけではなかった。彼の統治の下で、大和王権は次第に「日本」という国としての形を整えていった。しかし、その目標の一つには、かつて倭人が支配していた朝鮮半島南部――伽耶や百済の地を再び日本の手中に取り戻すという、壮大な夢が秘められていた。
朝鮮半島に築かれた前方後円墳の存在――それは倭人がその地を支配していたことを示す確かな証拠だ。前方後円墳は日本で発明された墓制であり、その巨大な墳墓が朝鮮半島南部にも点在している事実は、かつてその地が倭人にとっての故郷であったことを物語っている。
天智天皇の時代を過ぎても、この「朝鮮半島奪還」という目標は、日本の歴史の中で幾度となく浮上してきた。その後、豊臣秀吉の時代には、それが現実のものとして動き始める。
秀吉は、天下統一を成し遂げた後、自らの野望を東アジア全域に広げようとした。その第一歩として選んだのが、朝鮮半島への侵攻だった。1592年、秀吉は大軍を率いて朝鮮に進軍し、かつて倭人が支配していた地を取り戻し、さらには中国大陸まで征服するという壮大な夢を抱いていた。
「我が倭の祖先の地、伽耶、百済を取り戻す時が来た。朝鮮半島は、我々日本人の手に再び戻るべき土地である」
秀吉のその言葉には、単なる領土拡張を超えた、失われた故郷を取り戻すという深い信念が込められていた。だが、朝鮮戦役は厳しい抵抗に遭い、秀吉の計画は失敗に終わる。朝鮮半島の奪還は成し遂げられず、秀吉の死をもって日本軍は撤退を余儀なくされた。
しかし、この「朝鮮奪還」の試みは、単なる軍事的野心の産物ではなかった。それは、古代から続く日本人の潜在的な願望――かつての倭人の領土である朝鮮半島南部を再び自らの支配下に置くという、宿命的な思いの表れだったのだ。
大規模な侵攻が失敗に終わったとしても、歴史の中で日本と朝鮮半島との間には、常に緊張と抗争が続いていた。その中で、倭寇(わこう)と呼ばれる海賊集団が、朝鮮半島の沿岸部や中国大陸沿岸を襲撃する形で、奪還の意図を示し続けていた。
倭寇の多くは、正規の日本軍ではなく、小規模な武装集団だったが、彼らもまた、朝鮮半島南部をかつての倭人の地として捉え、そこに自らの足場を築こうとした。彼らの襲撃は、単なる略奪ではなく、失われた倭人の故郷を再び支配するための小さな試みの一環だったと言えるだろう。
倭寇の活動は14世紀から16世紀にかけて活発化し、朝鮮や中国を混乱に陥れた。特に朝鮮半島南部はその影響を強く受け、倭寇の侵略によって多くの地域が荒廃した。これは小規模ながらも、日本と朝鮮半島との長い歴史的な繋がりを象徴するものだった。
そして、最も大規模で決定的な奪還の試みが行われたのは、20世紀初頭の戦前日本だった。明治維新を経て近代化を果たした日本は、軍事力を強化し、再び朝鮮半島に目を向けるようになった。1905年、日露戦争に勝利した日本は、朝鮮半島への影響力を強め、最終的には1910年に朝鮮を併合することに成功した。
これにより、ついに日本はその「歴史的な故地」を取り戻すかのように、朝鮮半島を自らの領土として統治することとなる。豊臣秀吉が夢見た「朝鮮半島奪還」の夢は、この時に現実のものとなったかのように思われた。
しかし、この支配もまた、長くは続かなかった。第二次世界大戦の敗北と共に、日本は朝鮮半島から撤退せざるを得なくなり、再びその地は遠い存在となった。
イスラエルがユダヤ人にとって失われた故郷であったように、朝鮮半島南部は倭人――すなわち日本人にとっての歴史的な故地であり、その奪還は、古代からの目標であった。日本の前方後円墳が朝鮮半島南部に点在していることも、その歴史的なつながりを証明している。これらの墳墓は、単なる埋葬の場所ではなく、倭人がこの地に深く根を下ろしていた証拠だ。
天智天皇から始まり、豊臣秀吉、戦前日本、そして小規模な倭寇――いずれも朝鮮半島南部を取り戻すという潜在的な思いを抱いて行動していた。この「奪還の夢」は、日本の歴史の中で脈々と受け継がれてきた宿命とも言える。
現代においても、日本と朝鮮半島の関係は複雑でありながらも、歴史的な繋がりは消えることなく残っている。かつて倭人が歩んだ地、朝鮮半島南部――それは、日本にとって単なる隣国の土地ではなく、彼らの魂が宿る場所であったのだ。
金庾信が新羅の将として新たな道を歩み始めた頃、階伯(かいはく)は百済に逃れ、そこでもまた戦乱の中に身を置いていた。百済は、かつて倭人と深い結びつきを持ち、彼自身もその血を引く国だった。階伯は、伽耶を捨てる形で逃げ延びたものの、その胸の中には常に復讐と再起の思いが燃えていた。
百済に到着した階伯は、まずその地での立場を確立するために、幾度かの小規模な戦に参加した。百済もまた、新羅や高句麗と対峙し、常に領土を脅かされている国であり、戦士としての能力が高く評価される場所だった。階伯の武勇はすぐに百済の軍でも認められ、やがて彼は百済軍の指揮官として重用されるようになっていった。
百済の宮廷では、階伯の出自についても様々な噂が飛び交った。彼が倭人の血を引いていることは知られていたが、伽耶出身であること、そして伽耶を見捨てて百済に来たことについては、一部の者から疑いの目を向けられていた。しかし、階伯はその全てを跳ね返すかのように、戦場での功績を積み重ねていった。
百済の王、**義慈王(ぎじおう)**もまた、階伯に目をかけ始めていた。義慈王は、百済の衰退が進む中で、その国力を回復させるためにあらゆる手を尽くしていたが、新羅や高句麗の圧力に苦しんでいた。そんな中、階伯の実力は彼にとって貴重な戦力となっていった。
ある夜、義慈王の下に呼ばれた階伯は、広間に集まった重臣たちと共に百済の現状についての議論に加わっていた。義慈王は憂いを帯びた表情で地図を眺めながら、階伯に向かって口を開いた。
「階伯、我が国は新羅の脅威に晒され続けている。伽耶を飲み込んだ新羅は、今や我が国に対しても侵略の手を伸ばしてきている。お前の戦略と知略を借りたい。百済を守るためには、お前の力が必要だ」
階伯はその言葉を聞き、ゆっくりと頷いた。彼もまた、新羅を憎んでいた。伽耶の地を奪い、幼馴染である金庾信さえも失うことになったあの国に対しては、かつての友をも超えた強い敵意があった。
「私が百済のために戦うのは当然のことです。しかし、義慈王よ、私はただ守るだけではなく、新羅を打倒し、伽耶の魂を取り戻すためにも、この戦いを挑むつもりです」と、階伯は力強く答えた。
義慈王は満足げに頷き、「それでこそ、階伯だ。我が国には、お前のような戦士が必要だ。新羅に対抗するためには、攻めの戦略が必要だ。お前に指揮を任せることにする」と告げた。
こうして、階伯は新たな使命を受け、百済の軍を率いて新羅との対決に向けた準備を進めていった。彼の胸には、伽耶を失った者としての誇りと、新羅に対する激しい復讐心が渦巻いていた。百済の将として新羅と戦うことで、自らの失ったものを取り戻すと同時に、友であった金庾信に対する複雑な感情も彼を駆り立てていた。
時が経つにつれて、金庾信は新羅の中で将軍としての地位を確立していった。新羅の軍事戦略の中核を担い、彼の戦略的な才能と武勇は、数多くの勝利をもたらしていた。だが、心の奥底では常に伽耶のことが消えることはなかった。新羅のために戦う中で、かつての友であった階伯との再会が訪れることを、金庾信は薄々感じ取っていた。
そしてその時がやって来る。百済が新羅への侵攻を開始し、階伯が率いる百済の軍勢が新羅の領土に迫るという報が入った。新羅軍を指揮していた金庾信は、その戦場に階伯がいることを知ると、心がざわめいた。
新羅と百済の軍勢が激突する戦場。両軍の兵士たちが剣を交え、矢が飛び交う中、二人の姿が戦の煙の中から現れた。金庾信は、新羅の将として立つ自分の前に現れた男が、かつての友であった階伯であることをすぐに見て取った。
階伯もまた、金庾信の姿を見て、戦場で止まることなく近づいてきた。お互いに剣を抜いたまま、互いの目を真っ直ぐに見つめ合う。
「庾信、お前もついに新羅の犬となったか…」階伯は皮肉交じりに言った。「かつて伽耶を守ると誓っていたお前が、今や伽耶を滅ぼした新羅に仕えているとはな」
金庾信は冷静な表情を崩さずに答えた。「お前が百済に逃げたことを、俺は恨んではいない。お前なりの道を選んだのだろう。だが、俺も俺の道を選んだ。伽耶を守るためには、力を蓄えるしかなかった。そして、そのために新羅で生き延びる道を選んだだけだ」
「力を蓄えるだと?」階伯は剣を握りしめた。「お前が何を言おうと、新羅は俺たちの故郷を滅ぼした敵だ。その事実は変わらない。お前が新羅に仕える限り、俺はお前を討つしかない!」
金庾信は深いため息をつき、剣を構えた。「そうか、階伯。ならば、俺たちの運命はここで決することになるのかもしれない」
そして、二人は激しい戦いへと突入した。幼馴染であった二人は、それぞれの信念を胸に、剣を交えた。戦場の喧騒の中で、二人の刃は何度も交錯し、火花を散らす。しかし、その戦いには単なる敵対心ではなく、かつての友情の残像が宿っていた。
二人の戦いは熾烈を極めたが、やがて階伯が一瞬の隙を見せた。金庾信はその瞬間を逃さず、階伯の腕を捉えた。剣を振り下ろす寸前、二人の視線が再び交差する。
「これで終わりか、庾信…」階伯は苦しげに呟いた。
金庾信は剣を振り下ろすのをためらい、その手を止めた。「いや、終わりじゃない。お前を殺すことは、伽耶を完全に失うことになる。俺たちは、まだ生きている。だからこそ、伽耶の魂は消えていない」
階伯は金庾信の言葉に驚き、彼を見つめた。
階伯は驚きに満ちた目で金庾信を見つめた。激しい戦闘の最中、息を切らしながら、彼は刃を自分に向けたまま動かない庾信をじっと見返す。汗が額から流れ、地面にポタリと落ちる音が戦場の喧騒に溶け込んだ。
「庾信…なぜ止める?今ここで俺を斬るべきだろう。俺はお前の敵だ。お前が仕える新羅に刃を向ける百済の武将だぞ」
金庾信は静かに剣を下ろし、深く息をついた。「階伯、お前は俺の敵ではない。たしかに今、俺たちはそれぞれの国に仕えている。だが、伽耶の誇りは、お前も俺も忘れてはいない。伽耶が滅び、百済に逃げ延びたお前も、そして新羅に身を置いた俺も、同じ魂を持っている。それを無意味な血で汚すつもりはない」
階伯は一瞬、何かを言い返そうと口を開いたが、言葉が出なかった。庾信の言葉が彼の心に深く刺さっていた。彼もまた、新羅に対する憎しみの陰に、かつての伽耶への忠誠と誇りを抱いていた。だが、それを口にすることはできなかった。
「俺たちは同じ故郷を持つ者だ」と金庾信は続けた。「伽耶はもう存在しないかもしれない。だが、俺たちが伽耶を忘れなければ、その魂は消えない。お前をここで討つことが、伽耶のためになるとは思えない」
階伯はしばらくの間、無言で立ち尽くしていた。握りしめた剣を緩めることもせず、ただ金庾信の言葉を心の中で反芻していた。彼の胸には、新羅への怒りと失われた故郷への哀しみが渦巻いていた。しかし、それでも――庾信の言葉が持つ力は否定できなかった。
「…お前は、本当に変わらないな」階伯はようやく口を開いた。「幼い頃から、ずっと正しいと思うことを曲げない。新羅に捕えられ、あの残酷な敵に仕えるようになっても、お前の本質は変わっていない」
庾信は苦笑した。「俺が正しいのかどうかは分からない。だが、戦うべき理由が間違っているとは思わない」
階伯は剣をゆっくりと鞘に収めた。そして、深く息を吐き出しながら、険しい表情のまま言葉を続けた。
「…俺は百済の将だ。そして、今は百済のために戦うしかない。だが、お前が言ったことも忘れない。伽耶の誇りを守ること、それが俺たちにとって本当の意味での戦いなのかもしれないな」
その言葉を聞いた金庾信は、少しだけ安堵の表情を浮かべた。
「階伯、俺はここでお前を殺さない。だが、次に戦場で会った時はどうなるか分からない。俺たちはそれぞれの道を歩んでいるが、伽耶の魂を背負っていることだけは忘れないでいてくれ」
階伯は無言で頷いた。そして、互いに剣を引いた二人は、戦場の混乱の中に戻ることとなった。
その後、階伯は百済に戻り、百済軍の指揮官としての地位をさらに確固たるものにしていった。彼の新羅への敵意は揺るぎないものだったが、金庾信との再会は彼の内面に深い変化をもたらしていた。伽耶の誇りを守るという思いが、彼の中で新たな決意となって燃え始めていた。
一方、金庾信は新羅の将軍としての責務を全うし続けた。彼は新羅のために戦うことを選んだが、常に伽耶の魂を胸に秘め、かつての友である階伯との再会が彼に与えた影響を忘れなかった。
そして、朝鮮半島の戦乱はさらに続き、新羅、百済、高句麗、倭国の勢力が互いに争い合う時代が進む中で、二人は再び運命の交差点に立つことになる。
運命のいたずらか、二人は再び戦場で相見えることになった。新羅が百済を侵攻する中、階伯は百済の将軍として自国を守るために立ち上がり、金庾信は新羅の戦士として攻め込んでいた。どちらも国のために戦っていたが、その心の中ではかつての友情と誇りが消えずに残っていた。
激しい戦の末、二人はまたもや剣を交える瞬間が訪れた。周囲の兵士たちが倒れていく中、再び顔を合わせた彼らの間にあるのは、ただの敵意ではなく、複雑な感情が入り混じっていた。
「また会ったな、庾信」と階伯は冷ややかな笑みを浮かべた。「今度こそ決着をつけよう」
「そうだな」と金庾信もまた剣を構えた。「だが、どちらが倒れるにせよ、俺たちが背負うのは伽耶の誇りだ。それを忘れるな」
そして、激しい戦闘が再び繰り広げられた。二人の技量は拮抗し、互いに譲らぬ戦いが続いた。だが、この戦いの行方は、単に個人の勝敗だけではなく、朝鮮半島の未来をも左右するものだった。
最終的に、新羅は百済を破り、朝鮮半島の覇権を握ることになる。だが、その過程で階伯は百済の最後の希望として奮戦し、最期までその誇りを失わずに戦い抜いた。そして、金庾信もまた、新羅の将軍としてその戦いを見届け、勝利の中で何かを失ったような感覚を覚えていた。
階伯が最後に発した言葉は、金庾信の胸に深く刻まれることとなる。
「庾信、俺たちは結局、どちらも伽耶を守れなかったが…それでも、その誇りを忘れるな。お前も、俺も」
金庾信はその言葉を胸に秘めながら、新羅の将としてさらなる歴史の舞台へと歩みを進めた。そして、彼の名は後に新羅を統一へと導く英雄として歴史に刻まれることとなるが、彼の心には常に伽耶の魂と、かつての友であった階伯の存在が宿り続けていた。
新羅と百済の最終的な対決の時が近づいていた。新羅の軍勢はついに百済の首都、泗沘(しひ)へと迫り、朝鮮半島の歴史を決定づける大戦が始まろうとしていた。百済は窮地に立たされ、階伯は百済軍の中核を担う指揮官として、最後の戦いに挑むこととなった。
その一方、新羅の軍を率いるのは金庾信だった。かつての幼馴染、今は新羅の英雄として名を馳せる男が、百済の滅亡を目前にしていた。だが、金庾信の心は揺れていた。彼は新羅の将軍としての責務を果たすべき立場にあったが、階伯との再会は、彼の中に忘れられない過去を呼び覚ましていた。
泗沘の城壁を前に、新羅と百済の軍勢が激突する。無数の兵士たちが入り乱れる戦場で、階伯は冷静に戦況を見据えていた。百済は圧倒的に不利な状況にあったが、彼の士気はまだ失われていなかった。彼はその誇りと共に戦い続け、そして、その時が来た。
戦場の中央、階伯の前に現れたのは、やはり金庾信だった。互いの存在を察知し、兵士たちの波が裂けるようにして、二人は顔を合わせた。
「庾信…やはりお前か」
階伯は剣を抜きながら、低く呟いた。彼の目は鋭く、幼馴染の頃の面影を見せながらも、今は敵としての覚悟がその瞳に宿っていた。金庾信もまた、静かに剣を抜き、慎重に階伯を見つめていた。
「階伯、これ以上の戦いは無意味だ。百済はもはや滅びる運命にある。お前も分かっているはずだ。無駄に命を捨てるな」
金庾信の冷静な声に、階伯は一瞬だけ笑みを浮かべた。だが、その笑みには苦しさと怒りが入り混じっていた。
「滅びる運命だと?それを言うのがお前か、庾信。かつて伽耶を守ろうと誓ったお前が、今や新羅の将軍となり、百済を滅ぼす側に立っている。そのお前が言うか?」
庾信は言葉を失った。幼い頃、共に過ごした日々、伽耶の未来を夢見た日々が蘇ってきた。だが、現実は違っていた。自分は伽耶を守ることができず、新羅の軍人として敵国に立つことを選んだ。一方で階伯は、百済という新たな故郷を守るために戦い続けている。
「伽耶は滅んだ。だが、俺たちはまだ生きている。そして、伽耶の誇りは俺の中にある」と金庾信は静かに答えた。「新羅に仕えることは、伽耶を忘れることではない。俺は俺なりの道を選んだだけだ」
その言葉に、階伯は激しく眉をひそめ、怒りを露わにした。そして、声を強めて叫んだ。
その言葉は、まるで雷のように戦場に響いた。階伯の叫びに、金庾信は一瞬息を呑んだ。剣を持つ手が微かに震える。階伯の言葉は彼の胸を深く刺した。倭人――彼らの祖先である倭の血を引く者として、朝鮮半島の大地に根を下ろしてきた彼らの誇り。その誇りを捨ててまで、新羅に仕えることが本当に正しい道だったのか?
階伯はそのまま金庾信に歩み寄り、続けた。
「俺たちは伽耶の民だった。そして、倭の血を引く者として、この地を守ってきた。俺たちが失った故郷、伽耶を取り戻すために俺は百済に仕えた。だが、お前は新羅に膝を屈し、敵国のために戦うことを選んだ。それが倭人としての誇りを守ることなのか?」
金庾信は目を閉じ、一瞬だけ沈黙した。そして、深く息を吐き出し、再び目を開けた。その瞳には、決意と迷いが入り混じっていたが、次第にその決意が勝っていく。
「階伯…お前の言うことは理解できる。だが、俺は新羅に仕えることで、この朝鮮半島全体の平和を目指している。俺たち倭人の誇りは確かに重要だ。だが、今は新羅を通じてこの地を安定させることが俺の使命だと思っている。倭人としてではなく、新羅の将軍として、この戦いを終わらせるために」
「新羅のために…?」階伯は苦々しく呟いた。「お前はそうやって自分を正当化しているが、それは結局、新羅に魂を売り渡しているだけではないか?お前がどれだけ理屈を並べようと、俺は新羅に対して誇りを持つことはできない。俺たちの敵だ!」
二人の間に再び緊張が走り、剣を構え直す。今度こそ、決着をつけなければならない瞬間が迫っていた。金庾信は階伯に向けて静かに言葉を投げかけた。
「俺が間違っているかもしれない。だが、俺はこの道を選んだ。伽耶を守るために力を蓄え、朝鮮半島を安定させる。それが俺の選んだ運命だ」
「ならば、俺の道も貫かせてもらう」と階伯は剣を握りしめ、最後の決意を固めた。「伽耶の魂と、倭人としての誇りを守るために!」
二人は、剣を交えて激しい戦いを繰り広げた。かつての友情も、今は激しい剣戟の音にかき消される。新羅と百済の軍勢が戦う中、二人の戦いは熾烈を極め、互いに一歩も譲らない。その技術も経験も互角であり、戦いの結末がどうなるのか、誰も予想できなかった。
しかし、戦場の流れは新羅に有利に進み始めていた。百済の兵士たちは次々と倒れ、階伯の側近たちも戦死していった。孤立する百済の軍勢の中で、階伯は自らが追い詰められていることを理解していた。
そしてついに、金庾信の剣が階伯の防御を破り、その身体を貫いた。
階伯は倒れ込みながらも、最後の力を振り絞って金庾信を見上げた。その目には、後悔も憎しみもなく、むしろどこか安堵したような静かな光が宿っていた。
「庾信…お前との戦いは、これで終わりだな…だが、俺たちが背負った伽耶の誇りは…お前に託すしかないのかもしれないな…」
金庾信は剣を収め、膝をつき、静かに階伯の言葉を受け止めた。彼の心の中では、激しい葛藤が続いていたが、友の最期の言葉を前にして、何も言い返すことができなかった。
「お前の誇りも、伽耶の魂も、忘れない」と金庾信は静かに答えた。
階伯はそのまま静かに息を引き取り、百済の運命もまた、その終焉を迎えた。金庾信は新羅の将軍として、朝鮮半島の統一への道を進み続けたが、心の中には常に階伯の言葉が残り続けた。「倭人の心を忘れたか」という問い――それは彼が生涯抱え続けた内なる葛藤だった。
新羅の英雄として名を残した金庾信。しかし、その栄光の裏には、失われた故郷と、かつての友との対峙があった。伽耶と倭の誇りを守るために戦い続けた階伯。その魂は、金庾信の中で生き続けたのだった。
佐伯は冷静に外を見つめ、静かに言った。「急がなければならない。私たちだけじゃない。既に他の誰かが、この文書の存在に気づいているんだ」
宮内たちは、その暗い夜の中、重大な真実を抱えながらも、さらなる危険に直面していることを痛感した。そして、彼らの背後で静かに動く影が、その行く手を阻もうとしていることを――。
霧がかった朝の大地に、冷たい風が吹き渡る。遠くに見えるのは、伽耶の城郭――かつて繁栄を誇ったこの地は、今やその輝きを失い、四方を敵国に囲まれていた。百済との同盟は、物部氏の政治的判断により、伽耶の土地を割譲され、かつての強固な関係はもろくも崩れ去っていた。そして、北からは新羅が勢力を伸ばし、伽耶の領域は日々侵食されつつあった。
伽耶の都、金官伽耶の城内では、倭人の行政機関である「任那日本府」が、かろうじてその機能を保っていた。日本と朝鮮半島を結ぶ重要な拠点として、ここ伽耶には古くから倭人たちが駐留し、地方の統治を行ってきた。しかし、伽耶の領域が狭まり、外部からの圧力が増す中で、彼らの存在もまた危うくなっていた。
倭人たちの本拠地である任那日本府では、緊張した空気が漂っていた。府長を務める高橋宿禰(たかはしのすくね)は、伽耶の未来に対する不安を抱きながらも、冷静な目で情勢を見据えていた。彼は日本から派遣された者で、伽耶を通じて倭国と朝鮮半島の諸勢力との外交や軍事を管理する責任を負っていた。
高橋は、大陸の動向を理解していた。高句麗が依然として強大な軍事力を持ち、新羅が急速に勢力を拡大している一方で、百済は弱体化の一途をたどっていた。百済は物部氏に領土を譲る代わりに、彼らの庇護を受けていたが、それでも新羅の脅威を完全に退けることはできずにいた。
ある朝、任那日本府の本庁に、使者が慌ただしく入ってきた。新羅軍の進軍がさらに加速し、伽耶の南部まで侵入しているとの報告だった。
「高橋宿禰様、新羅が我々の国境を越えて、さらなる侵略を開始しました。彼らの勢力は日増しに増強されており、我々だけではこれ以上の抵抗は難しい状況です」
高橋はその報告を聞くと、しばし黙考した。彼の心は冷静であったが、その目の奥には深い憂慮が感じられた。新羅の勢いは予想を超えるものであり、このままでは伽耶が消滅することも現実のものとなる。
「我々が百済との同盟を維持し、かつ新羅を押し返すには、どうにかして大和朝廷からさらなる支援を得るしかない…」高橋はつぶやいた。
倭国――大和の政権――は、朝鮮半島での権益を守るため、長らく任那日本府を通じて伽耶に影響力を行使してきた。しかし、今や大和の内部でも、朝鮮半島への介入を巡って意見が分かれていた。倭国自身も国内での権力争いに忙殺されており、ここ伽耶への支援は限られていた。
高橋は、日本府の幹部たちを集め、緊急の会議を開いた。木造の広い会議室に、鎧を身にまとった武将や、文官たちが座していた。その中には、伽耶出身の有力者も混ざっている。彼らは皆、伽耶をどう守るべきか、顔を曇らせながら高橋の言葉に耳を傾けていた。
「このままでは伽耶は新羅に飲み込まれる。我々は百済に頼ることはできない。むしろ、百済自身がその存続を危ぶまれている状態だ。しかし、倭国が強力な支援を送ってくれれば、伽耶の防衛は可能だ。私は、大和朝廷にさらなる援軍と物資の提供を要請する」
「しかし、大和朝廷が動くかどうか…」ある幹部が言葉を切った。「近年、国内でも騒乱が絶えず、朝廷は伽耶に対して以前ほどの関心を示していないと聞いています。我々の声が届くかどうか…」
高橋は静かに頷いた。「その懸念は理解している。しかし、ここで引くことはできない。もし伽耶が新羅に落ちれば、次は百済、そして我々の国、日本にまで新羅の脅威が及ぶことになる。これは我が国の未来を左右する問題だ」
その言葉に、会議室内の空気がさらに張り詰めた。伽耶の運命が、彼ら一人一人の肩に重くのしかかっているのを、誰もが感じていた。
その頃、伽耶の王室でも緊迫した議論が交わされていた。金官伽耶を治める若き王、金輸(キム・ス)は、深い悩みに沈んでいた。彼の治世は短く、まだ若い王であったが、その肩には国の存亡がかかっていた。
「新羅の脅威をどうするつもりですか、王よ?」側近の一人が、焦燥感をにじませながら問いかけた。
「新羅に降伏すれば、この伽耶は新羅の属国となり、我々の独立は失われる。だが、戦いを続ければ、国が滅びるかもしれない…」王は苦渋の表情を浮かべていた。「日本府の支援を頼るしかないが、彼らもまた、我々を見捨てつつあるのではないか?」
伽耶王家の一員であり、倭国の血も引く王には、古くから日本との絆があった。しかし、その絆がどこまで続くのか、今は誰にも分からなかった。
「王よ、我々にはもう時間がありません」と重臣の一人が進言する。「新羅の軍勢は、既に国境を越えて伽耶の村々を焼き払っています。百済もまた、新羅との対立が深まり、援軍を送る余力はないでしょう。ここで戦うしかないのです」
金輸は、重圧に押しつぶされそうな思いで、目の前の地図を睨んだ。新羅の勢力が日々拡大していることは明白だった。残された選択肢は少なかった。
「もし…もしも大和朝廷が我々に背を向けたなら、伽耶は滅びるだろう。しかし、それでも私はこの地を守るために戦うつもりだ」金輸は強い決意を見せた。「この伽耶は、我々の祖先が築き上げた土地だ。たとえ新羅が押し寄せようとも、最後まで抵抗する」
彼の言葉に、周囲の武将たちは力強く頷いた。彼らは伽耶を愛し、誇りを持っていた。その土地が、たとえ消滅の危機に瀕しても、最後まで戦い抜く覚悟は揺るぎないものだった。
こうして、伽耶は最後の戦いへと向かおうとしていた。日本との絆を信じ、大和朝廷からの援軍を待ちながらも、彼らは自らの土地と誇りを守るため、剣を取る準備を整えていった。
新羅軍が伽耶の国境を越え、村々を焼き払い、伽耶の領地を猛々しく侵略していた。朝靄の中、戦火の音が徐々に近づく。剣と剣がぶつかり合う音、逃げ惑う人々の叫び声、そして馬蹄が大地を叩く音が響き渡る。伽耶の地は一瞬にして戦場と化していた。
金庾信(キム・ユシン)と階伯(かいはく)は、その混乱の中で共に逃げ延びる。二人は幼い頃からの親友であり、共に倭人の血を引く。伽耶という共通の故郷を持ちながらも、彼らの運命は今、異なる道を歩もうとしていた。
金庾信はその目に怒りを宿し、剣を強く握りしめながら周囲の景色を見つめた。焦げた木々と倒れた民衆――彼の心には怒りと無力感が入り混じっていた。
「もうこれ以上、逃げるわけにはいかない!」金庾信は立ち止まり、階伯に向かって叫んだ。「ここで新羅に挑まなければ、伽耶は滅びる。俺たちが立ち上がらなければ、この国を守ることはできない!」
階伯は、そんな金庾信の熱い眼差しを受けながらも、冷静に彼を見返した。彼の目には理性的な判断が宿っていた。階伯もまた伽耶の血を引くが、心の中では百済との結びつきを強く感じていた。百済は彼にとって、新たな拠点となり得る希望の地だった。
「庾信…」階伯は静かに言葉を紡いだ。「お前の気持ちは分かる。だが、今ここで新羅に挑んだところで、何も変わらない。新羅は圧倒的な軍勢を持ち、我々の力では立ち向かえないんだ。無駄に命を捨てることになる」
「命を捨てる?」金庾信は怒りに震える声で返した。「伽耶は俺たちの故郷だ。ここで戦わずしてどうする?この土地で生まれ、この土地を愛してきたんだ。新羅に屈するわけにはいかない!俺は戦う。たとえ一人でも!」
階伯は目を閉じ、深い息をついた。金庾信の激情を理解しつつも、彼はあくまで冷静な判断を崩さなかった。
「今、ここで命を散らすのは、愚かなことだ」と階伯は低い声で言った。「我々はまだ若い。戦をするなら、もっと力を蓄えた後にするべきだ。俺たちがこの場で戦っても、新羅には勝てない。だからこそ、一旦退いて、力を蓄え、百済で新たな拠点を築こう。そして、その時が来れば、再び新羅に反旗を翻すんだ」
金庾信は階伯の提案に苛立ちながらも、その言葉には一理あることを感じ取っていた。しかし、彼はそれを簡単には受け入れることができなかった。
「逃げてどうする?百済に逃げ込んで、いつか反抗すると?そんなことをしている間に、伽耶は完全に滅ぼされるぞ!」
階伯は毅然とした表情で金庾信に向き直った。「伽耶が滅ぼされることは悲しい。だが、今の我々ではどうすることもできないんだ。今ここで命を落とすのではなく、百済に逃れて新たな力を得る。それしか道はない」
二人の間には、一瞬の静寂が広がった。彼らは幼少期から共に育ち、共に剣を学び、共に伽耶の未来を夢見てきた。しかし、今や彼らの前には、それぞれ異なる道が現れていた。
金庾信は目を閉じ、深い溜息をついた。「俺は逃げない」と決然とした声で言った。「新羅に挑む。伽耶を守るために、ここで戦う。そして、この土地を取り戻す」
階伯は静かに頷いた。「お前の気持ちは理解した。だが、俺は百済へ向かう。力を蓄えた後、必ず新羅に反抗するつもりだ。百済の地で再び立ち上がり、我々は再び会うことになるだろう」
二人の間には、再び重い沈黙が流れた。戦乱の中、互いに進むべき道を決めたその瞬間、彼らの運命は大きく分かれることとなった。
「階伯…俺たちはいつか再び会う。その時まで、お前も生き延びろ」と金庾信は低く言った。
「お前もな、庾信。新羅に勝てることを祈っている」と階伯は静かに答えた。
こうして、二人の幼馴染はそれぞれの運命を背負い、異なる道を歩み始めた。金庾信は新羅に残り、伽耶を守るために戦うことを選び、階伯は一旦百済へと退き、後に反抗するための準備を進めることを決意した。
彼らが再び顔を合わせる時、朝鮮半島の運命が大きく動く瞬間が訪れるだろう。しかし、今はただ、それぞれの道で新たな戦いが始まろうとしていた。
金庾信は、伽耶を守るために新羅軍に最後まで抵抗したが、その圧倒的な兵力差の前に彼の軍勢は次第に追い詰められ、ついには彼自身が捕虜となってしまった。新羅の兵たちに拘束され、彼は荒れ果てた戦場を後にした。伽耶の大地に響く火の音、そして仲間たちの叫び声を背に受けながら、金庾信の胸には深い無念と怒りが渦巻いていた。
新羅の捕虜となった彼は、何度も逃亡を試みたが、その度に失敗し、監視はますます厳しくなっていった。鉄の鎖に繋がれた手首の痛みは彼の屈辱をさらに増幅させたが、それでも彼は決して屈することはなかった。伽耶の民のため、彼は新羅の服従には決して応じなかった。
だが、そんな金庾信の反抗的な態度は、ある人物の目に留まることになる。新羅軍の中でも屈指の実力者として名を馳せる将軍、**金閼智(キム・アルチ)**であった。閼智は高句麗や百済との数々の戦いで勝利を収め、戦術家としても戦士としても一流の地位に立つ将軍だった。彼は、金庾信の不屈の精神と戦士としての資質に注目し、特別に目をかけるようになった。
ある日、閼智は捕虜の監視兵に命じ、金庾信を自らの前に連れてこさせた。閼智の陣営は戦乱のさなかにあっても厳粛な空気が漂い、将軍の威厳がひしひしと感じられる場所だった。
金庾信は両腕を縛られ、堂々とした態度で閼智の前に立った。捕虜でありながら、その目には一切の恐れはなく、むしろ新羅への怒りが燃え上がっていた。閼智はそんな彼を冷静な目で観察し、静かに口を開いた。
「お前が金庾信か。伽耶の武将でありながら、我が新羅に最後まで抗った者だと聞いている」
「そうだ」金庾信は短く答えた。「俺は伽耶を守るために戦った。今もその意思は変わらない」
閼智はその言葉に微かに笑みを浮かべた。「お前のような男が伽耶を守ろうとするのは分かる。しかし、今の伽耶は滅びに向かっている。新羅の大軍勢を前にして抗い続けるのは愚かだ。いずれ滅びる運命を変えることはできない」
「滅びるのは伽耶ではない。貴様ら新羅だ」と、金庾信は強い口調で言い返した。「新羅がどれほど強くても、俺たちは絶対に屈しない。伽耶の民の誇りを貴様らに踏みにじらせはしない」
閼智はその反抗的な態度に少しも動じることなく、むしろ興味深げに彼を見つめた。しばらくの間、沈黙が続いたが、やがて閼智は少し体を前に傾け、言葉を続けた。
「金庾信、私はお前を殺すつもりはない。それどころか、私はお前の力を見込んでいる。お前の武勇と不屈の精神――それは、ただ伽耶のために使い果たすには惜しいものだ。もしお前が新羅に仕えれば、その力を存分に発揮できるだろう。我が軍の将として、共にこの地を治めるのはどうだ?」
その申し出に、金庾信の眉がぴくりと動いた。だがすぐに彼は険しい表情で答えた。「新羅に仕えるだと?俺が貴様らの犬になるとでも思っているのか?俺の忠誠は伽耶にあり、倭国にある。新羅に仕えるなど、考えたくもない!」
閼智はその言葉にも動じることなく、穏やかな口調で続けた。「お前が伽耶を愛しているのは分かる。しかし、その伽耶はもはや滅びゆく運命だ。だが、お前にはまだ未来がある。伽耶を守ることができないのなら、少なくとも自らの命と力を、より大きな目的のために使うことを考えたらどうだ?」
その言葉に、金庾信は内心揺れた。伽耶が滅びゆく現実を知りながらも、彼はそれを認めたくなかった。だが、閼智の言う通り、このまま無為に死ぬのではなく、自分の力を何かに生かす道もあるかもしれないという思いが、心の片隅で芽生えたのも事実だった。
「考える時間を与えよう」と閼智は言い、席を立った。「お前が新羅に仕えることを選べば、私はお前を軍の将として迎え入れよう。だが、それでも新羅に逆らうなら、ここで命を失うことになる。それもまた一つの選択だ」
そう言い残して、閼智は静かに去っていった。
数日が過ぎ、金庾信は深い葛藤に陥っていた。伽耶を守るために戦い続けるか、あるいは閼智の言葉を受け入れ、新羅の将として新たな道を歩むか――どちらの選択にも、彼の心は重かった。伽耶はすでに滅びつつあり、金庾信の忠誠の対象として存在する意義を失いつつあった。彼が戦い続けた伽耶の夢は、今や過去のものとなっている。
やがて、金庾信は一つの決断を下した。彼は、新羅に屈服するのではなく、その内部から自分の力を生かす道を選ぶことにした。新羅に仕えることで、いずれ伽耶の民を守り、新しい形で伽耶の精神を受け継いでいくことができるかもしれない。彼の忠誠心は揺らいではいなかったが、現実の中で最善の道を模索するしかなかった。
ある日、金庾信は閼智の前に進み出て、静かに膝をついた。
「俺は新羅に仕えることを決意した。だが、その決断は伽耶を忘れるためではない。俺は新羅のために戦うことで、伽耶の民を守り、新たな道を切り開くつもりだ」
閼智は微笑み、満足げに頷いた。「賢明な決断だ、金庾信。お前の力を、存分に発揮するがいい。新羅の将として、我々と共にこの地を統治しよう」
こうして、金庾信は新羅の軍人としての道を歩み始めた。その武勇と知略は新羅軍内で高く評価され、彼は次第に新羅の中で頭角を現していくことになる。そして、その裏には、いつか伽耶の精神を取り戻すという彼自身の静かな誓いが秘められていた。
もう10年近く前になるでしょうか。テレビで善徳女王や階伯(ケベク)を見ていました。そこで気付いたのですが、全く史実を考慮せず、ドラマを作っているところです。
両方のドラマに、階伯(ケベク)も金庾信も出てきますが、全く別人のような扱いです。それは当たり前で、記録が残っていないからです。階伯など日本書紀にしか残っていないに等しいです。
また、花郎世紀という偽書の可能性の高いものからドラマを作っているということも知りました。こんなことができるのなら、東日流外三郡誌で大河ドラマができてしまいます。韓国のドラマのすごいところです。
そこで、なぜ日本では、善徳女王や階伯(ケベク)のようなドラマができないのかと考えました。まあたぶん、歴史ドラマは大きく史実から外れられないとか、「自虐史観」があるのかなと。
紫式部なら創作もある程度許されるんでしょうかね。しかし、日本のドラマでは時代考証をある程度以上はやってます。階伯(ケベク)のように火薬が爆発したりしない。7世紀の火薬があるのか?。
ピダムの乱を起こしたピダムと善徳女王が恋仲になるなんてシナリオが許されるのなら、階伯(かいはく)と金庾信が幼馴染でも問題ないですよね?w だって、記録無いし。
イスラエルがユダヤの地だったら、朝鮮半島南部も倭人の地のはずw。
生成にはGPT-4oを使用しましたが、下記の文章は見出しを少し直し、はてな表記にしただけで、生成文そのままです。アメリカ等の歴史教科書では、朝鮮半島南部に倭人が住んでいたということを認めているので、すんなり生成されたのだと考えています。本当は、倭人とういう朝鮮半島南部から九州北部あたりに分布している海洋民族がいただけなんじゃないかと思います。そして、その人らが大和政権に取り入れられ、日本という国が成立したんじゃないでしょうか。
ということで、日本側の見解としての階伯(かいはく)と金庾信の話を作ってみました。以下に本編です。
東京の秋の夜、薄い雲が月明かりをぼやかし、冷たい風が皇居の周囲を包んでいた。歴史学者、宮内敬一は、しなやかな動きで宮内庁の厳重な警備をかいくぐり、特定の建物へと静かに忍び込んだ。彼の胸中には、ある確信があった――かつて日本に伝来し、その後散逸したとされる「百済本紀」が、ここに隠されているはずだ、と。
数年前、宮内は韓国の古書店で、偶然ある巻物の切れ端を目にしていた。その破片には「百済本紀」の名がかすかに読み取れ、彼の興味を大いにかき立てた。百済王国の歴史を記したこの書物は、日本と朝鮮半島との関係を解明する鍵となりうる、極めて貴重な歴史的資料である。しかし、日本の記録にはどこにもその存在は記されていない。宮内は、この謎を解くべく独自の調査を進め、ついにたどり着いたのが、ここ宮内庁だった。
彼の手元には、長年の研究から得た宮内庁内部の古文書倉庫のレイアウトが詳細に記されているメモがあった。限られた時間の中で、どの棚にどの文書が保管されているのか、緻密に計算されていた。
暗い廊下を抜け、幾重にも鍵がかけられた古文書倉庫の扉の前にたどり着く。宮内は冷静に暗号を解き、精密な動作で鍵を解除した。倉庫の中はひんやりとした空気が漂い、古びた紙の匂いがわずかに鼻をくすぐる。長い棚が並び、そこには時代ごとに整理された膨大な古文書が眠っている。
宮内は目的の棚へとまっすぐに歩み寄る。近づくほどに心拍数が上がり、手の平にはじっとりと汗が滲む。ついにその時が来た。彼の手が、一冊の古びた箱に触れる。箱の表面には、薄れかけた文字で「百済本紀」と刻まれている。
慎重にその箱を開け、中の巻物を取り出すと、千年以上の時を超えてその姿を現した。封が施されていたはずの巻物は、思いのほか保存状態が良く、宮内の震える手の中でゆっくりと広げられていく。巻物に記された文字は、古代の朝鮮半島の漢字表記であり、間違いなく「百済本紀」だった。
宮内は息を呑み、震える声で「これが…ついに…」とつぶやいた。目の前に広がるのは、歴史が語りたがっていた物語だった。これまで失われたとされてきた百済の記録が、自らの手の中にあるという事実に、彼はただ打ち震えるばかりだった。
だが、その瞬間、背後で微かな音が響いた。宮内は瞬時に振り返り、身構えた。
宮内の背後で響いた音は、冷ややかな静寂を切り裂くかのようだった。警備員か、それとも何者か別の存在か――宮内の心臓は、緊張のあまり大きく脈打った。
「誰だ?」宮内は小声で問いかけるが、返事はない。身を低くし、ゆっくりと視線を巡らせた。そのとき、微かな足音が再び聞こえた。かすかな光が倉庫の奥から差し込み、宮内の視界に誰かが近づいてくるのがわかった。光に照らされたその姿は、想像していたような警備員ではなかった。
スーツ姿の男が、静かに歩を進めてきた。その目は鋭く、宮内を捉えて離さない。そして、男の口元にかすかな笑みが浮かんでいた。
その声には、明らかに宮内の行動を全て見透かしているかのような冷静さがあった。驚きと同時に、背筋に冷たいものが走る。
「あなたは…誰だ?」宮内は巻物をそっと戻し、箱を再び閉じた。手は汗ばんでいたが、その目には確固たる決意が宿っていた。
男はゆっくりと近づきながら、まるで狩りを楽しむかのように言葉を続けた。「私の名前は名乗る必要はありません。ただ、あなたが何を求めてここにいるのかは、もう全て知っている。そして、それが公に出てはならないということも」
「公に出てはならない?」宮内は眉をひそめた。百済本紀の発見が、なぜそれほどまでに秘匿されなければならないのか。宮内の中で、疑念と怒りが沸き上がった。「これは、歴史を明らかにするための重要な資料だ。日本と百済のつながりを示す、そして隠されてきた真実を照らす光だ。それを隠す理由がどこにある?」
男は薄く笑い、「それはあなたが決めることではない」と静かに言い放つ。「歴史は常に勝者が書くものだ。敗者の物語は、都合よく葬られることもある。あなたがこの巻物を公表することは、今の日本の歴史観を揺るがすことになる。そう簡単にはいかない」
宮内はその言葉に心の中で反発した。歴史は真実でなければならない。たとえそれが現代の価値観や政治的な意図にそぐわないものであったとしても。しかし、目の前の男は明らかにそれを理解しない、あるいは理解しようとしない。彼はただ、今の秩序を守るために動いている。
「では、どうするつもりだ?私をここで止めるのか?」宮内はあえて挑戦的な口調で尋ねた。
男は一瞬沈黙し、次に口を開いたとき、声は低く冷たかった。「あなたがどれだけの真実を知っていようと、我々はその真実を決して外に出すつもりはない。だから、これ以上深入りしない方が身のためだ、宮内先生」
そう言いながら、男は静かに背を向けた。そして、出口に向かって歩き出す。彼が扉に手をかけた瞬間、ふと振り返り、「もしまだ、百済の歴史に興味があるのなら…もう一度考え直すことだ。あなたの研究も、命も、この国のために使えるはずだ」と含みのある口調で言い残し、倉庫から姿を消した。
宮内はその場に立ち尽くした。男の言葉の意味を考えながら、再び視線を箱に向けた。手の中に収めた百済本紀は、歴史の失われたピースを埋める貴重な証拠だ。しかし、それを公開することが、彼の命を危険にさらす可能性があることも明白だった。
だが、宮内は一度決めたことを覆すつもりはなかった。彼は再び箱を手に取り、慎重にそれを自分のバッグに収めた。何があろうとも、この真実を守り抜く。それが、彼に与えられた使命だと確信していた。
倉庫を後にし、宮内は闇の中に静かに姿を消した。彼の手の中にある百済本紀が、これから日本と朝鮮半島の歴史をどう変えるのか――その答えは、まだ誰にもわからなかったが、確かに歴史は動き出していた。
宮内は暗い夜の中、宮内庁の敷地を慎重に抜け出し、手に汗握るような緊張感を抱えながらも、自らの決意をさらに固めていた。背後で静かに扉が閉まる音を耳にし、彼は改めて周囲の安全を確認した。振り返ることなく、冷たい秋の風に身を包まれながら、ゆっくりと歩を進めた。
百済本紀は、ついにその姿を現した。しかし、この発見は彼にとって、祝福されるものであるはずがなかった。目の前の謎めいた男が口にした警告は、無視できない現実として宮内の脳裏にこびりついていた。彼は一つの歴史的真実を見つけた。しかし、それがあまりに大きすぎる秘密であったために、彼は今、新たな危険にさらされていることを知っていた。
「誰が…何を隠しているんだ…?」宮内は自らに問いかけながら、都心に戻る電車の中でじっと考え込んでいた。外の街の景色は、窓越しに次々と流れていく。煌々と輝くネオンと、高層ビルの明かりは東京の夜を彩っていたが、宮内の心の中は重苦しい暗雲が立ち込めていた。
彼は手元のカバンに視線を落とした。カバンの中には、つい先ほど手に入れたばかりの「百済本紀」が眠っている。その重みが、今の彼にとっては異様に感じられた。歴史の重要なピースを手に入れたにもかかわらず、その喜びはまるでなく、代わりに不安と恐怖が心を支配している。
「このままではいけない…」宮内は静かに呟いた。彼の頭には一つの考えが浮かんでいた。この文書を公開する前に、まず信頼できる誰かに相談し、協力を得る必要がある。単独で動くにはあまりにリスクが大きい。だが、誰にこの話を持ちかけるべきか――それが問題だった。
彼の心にまず浮かんだのは、大学時代の友人であり、今や有名な考古学者である佐伯真一の顔だった。佐伯は日本国内外の歴史的な発掘調査で多くの成果を上げており、特に日韓関係史の研究において第一人者とされている。彼なら、この資料の重要性を正しく理解し、適切に扱ってくれるはずだ。宮内はすぐに佐伯との接触を決め、駅に降り立つとスマートフォンを手に取り、連絡を取った。
「もしもし、宮内か?久しぶりだな。こんな夜遅くにどうした?」
宮内は一瞬ためらったが、意を決して口を開いた。「佐伯、急ぎで話したいことがあるんだ。今すぐ会えるか?」
佐伯は少し驚いたような声で、「今か?何か大事なことか?」と尋ねた。
「…ああ、これまでの研究人生で一番大事な発見をしたんだ。それも、とてつもない発見だ。今は詳しくは話せないが、どうしても君に見てもらいたいんだ」
佐伯はその異様な緊張感を察したのか、数秒の沈黙の後、「分かった。今すぐ都心のカフェで会おう」と返事をくれた。
宮内がカフェに着いたのは、電話からわずか30分後のことだった。深夜にもかかわらず、カフェは数名の客で賑わっていた。宮内は店内を見回し、奥の席で待っている佐伯の姿を見つけ、急いで席に向かった。
「宮内、どうしたんだ?お前がそんなに慌てるなんて珍しいな」
佐伯は心配そうな表情で宮内を見つめていたが、宮内は口を結び、静かにカバンから巻物の入った箱を取り出した。その瞬間、佐伯の目が一気に鋭くなった。
「これを見てくれ」宮内は低い声で言いながら、慎重に巻物をテーブルの上に広げた。薄暗いカフェの灯りに、古代の文字が浮かび上がる。
「そうだ」宮内は確信を込めて言った。「百済本紀だ。散逸したはずのものが、ここにある。そしてこれが、これまで語られてこなかった日本と百済の真実を証明するものなんだ」
佐伯はしばらく無言でその巻物を見つめていたが、次第に表情が険しくなっていった。そして、静かに目を閉じると、ため息をついた。
「宮内…お前、これがどれだけ危険なものか分かっているのか?」
宮内はその言葉に驚きながらも、佐伯に向き直った。「危険だと?これは歴史の真実だ。それを明らかにすることが、なぜ危険なんだ?」
佐伯は低い声で答えた。「宮内、世の中には触れてはならない真実というものがあるんだ。この文書が公にされたら、ただ歴史の教科書が書き換わるだけでは済まない。この国の根幹を揺るがすことになる。お前が巻き込まれたのは、単なる学問の問題じゃない。もっと大きな、国家の問題なんだ」
宮内は驚愕し、言葉を失った。まさか、そこまでの影響があるとは想像もしていなかった。「そんな…一体どういうことだ?」
佐伯は再び巻物に目をやり、静かに言った。「これから先、お前がどう行動するかで、お前の運命も決まるだろう。だが、その前に…もう一度この文書を精査し、何が書かれているのかを完全に把握する必要がある。私も協力するから、一緒に慎重に進めよう」
宮内はその言葉に頷き、覚悟を決めた。「わかった、佐伯。まずは真実を解き明かそう」
二人は深夜のカフェで、百済本紀の解読に取り掛かることを決意した。しかし、外では彼らを見張る影が、静かに忍び寄っていたことに、まだ二人は気づいていなかった。
宮内は佐伯と共に百済本紀の解読を進める中、ある一節に目を留めた。その古い漢字で書かれた文章は、これまでの日本と朝鮮半島の関係史を根底から覆すような内容を秘めていた。
そこにはこう記されていた。
「百済国は、倭より来たりて、王を立て、その民を治む」
佐伯は眉をひそめ、しばらくその文言を目で追った後、重々しい口調で言った。「まさか…これは、百済が日本人――つまり倭人によって建てられた王朝だということを示唆しているのか?」
宮内はゆっくりと頷いた。「そうだ。そして、これが真実なら、朝鮮半島南部――百済の領域は、かつての倭の支配下にあったということになる。竹島や対馬どころか、済州島や朝鮮半島の南半分までが、歴史的に日本の領土であった可能性が出てくる」
佐伯はしばらく沈黙した後、深いため息をついた。「これは一筋縄ではいかない話だな…。もしこの文書が公に出れば、歴史の再評価だけでなく、国際的な領土問題にまで波及する可能性がある。サンフランシスコ講和条約で定義された日本の領土が、揺るぎかねない」
宮内は焦燥感を抱えながら佐伯に問いかけた。「だが、どうしてこの『百済本紀』がここ日本で隠されていたんだ?なぜ誰も知らないんだ?」
佐伯は静かに考え込み、やがて低い声で話し始めた。「その答えは、戦後の日本の歴史にある。連合軍総司令部、つまりGHQが関与していた可能性が高い。特に、マッカーサーが日本の再建と国際関係の安定を図るために、歴史的な資料や記録を抹消または隠蔽したケースは少なくない。もし『百済本紀』に、日本が朝鮮半島南部を歴史的に支配していたという証拠が記されているとすれば…」
佐伯は目を宮内に向け、厳しい表情を浮かべた。「GHQはそれを脅威と見なして、抹消を命じた可能性がある。サンフランシスコ講和条約で日本固有の領土が定義された際、その基盤に揺らぎが生じることを恐れたんだろう。もしこの文書が明らかになれば、国際社会において、日本が朝鮮半島南部や済州島を領土として主張する正当性が浮上しかねない。それは、当時の冷戦構造の中で、極東の安定に重大な影響を与えたはずだ」
宮内はその言葉に打たれた。「つまり、これは単なる歴史の一資料ではない。戦後の日本と朝鮮半島の領土問題、そして国際政治に直接関わる爆弾だということか…」
「その通りだ」と佐伯は冷静に応じた。「だからこそGHQは、この文書を表に出させなかった。百済が倭人の設立した王朝であったという事実が認められれば、日韓の歴史認識や領土問題は根本から覆されることになる。現代の竹島を巡る領有権問題など、取るに足らないものに見えるほどの衝撃が走るだろう。済州島や釜山、そして南半分の領有権を巡って、新たな国際的な論争が生じかねない」
宮内は佐伯の言葉に深く頷いたものの、その重みを改めて感じていた。この「百済本紀」は、ただの古文書ではない。それは、日本と朝鮮半島の領土問題を再燃させ、国際情勢に大きな波紋を広げかねない爆弾だ。
「だが、これは真実だ」と宮内は力を込めて言った。「歴史を捻じ曲げてはならない。これが隠されてきた理由が何であれ、私たちの使命は、真実を明らかにすることだ。たとえそれがどれほど大きな影響を及ぼそうとも」
佐伯は厳しい表情を保ったまま、静かに宮内の目を見据えた。「宮内、お前の決意は分かる。だが、この文書を公にすることで、国内外にどれだけの波紋が広がるか、お前自身も理解しているはずだ。日本政府だけでなく、韓国政府も黙っていないだろう。いや、それどころか、国際社会全体がこの文書に注目し、外交的な大混乱を招くことになる」
宮内は一瞬言葉に詰まったが、再び口を開いた。「それでも、歴史は真実であるべきだ。この文書を隠し続けることは、日本の学問的誠実さをも裏切ることになる。それに、これまでの研究者たちが解き明かそうとしてきたことを、我々が踏みにじることになるんだ」
佐伯は深く息を吸い込み、しばらくの間、何かを考え込んでいた。そして、ゆっくりと口を開いた。「分かった。お前の信念を否定するつもりはない。ただし、慎重に動こう。急に世に出すのではなく、まずは信頼できる少数の専門家に見せ、段階的に議論を進めるべきだ。この資料が持つ意味を、慎重に検討しなければならない」
宮内はその提案に頷いた。「ああ、そうしよう。まずは、私たちの知識と経験でこの巻物を完全に解読し、それから信頼できる専門家に見せる」
二人はその場で、新たな行動計画を立てた。百済本紀の解読を進め、文書の真偽を確認した上で、専門家との協力を仰ぐ。そして、その真実を公にするための準備を進めることにした。
しかし、彼らがその場を立とうとした瞬間、外の窓に気配を感じた。宮内は一瞬、外を見やったが、何者かの姿がカフェの外にちらりと映った。黒い影――まるで監視するように、静かに彼らを見張っているようだった。
瀬川深さんという人が「ドングリ食って埴輪作ってた古代日本は誇りにならない」と言って燃えているらしい
これに限らず、日本の左派は古代日本を馬鹿にする傾向にあるが、ぶっちゃけ日本をdisる程、古代朝鮮の株も下がるので止めた方がいいと思う。
というのも古代朝鮮って日本に攻め込まれて属国にされてた時期がある。「あぁネトウヨの妄想か」と思っただろう?実はこれ朝鮮側の記録に残ってるんだよ。4世紀の高句麗の王様が「倭人が新羅と百済に攻め込んで属国にしていたので我々が倭人を打ち倒して解放してやった」って石碑残しちゃってるんだよ。これを広開土王碑という。中国や日本、朝鮮の歴史書にもこれに比定できる内容がある。
5〜7世紀に掛けて日本が朝鮮から多くのことを教わったのは事実だが、それ以前は朝鮮側もまだ文明がそこまで発達していなかったのか数と暴力でひっくり返せる程度の差だったらしく朝鮮側の記録には倭人の蛮族の被害が多く描かれている(そもそも日本に王族を人質に送ってたし)。古代日本を馬鹿にすると自動的に古代朝鮮も下げることになるので気をつけた方がいい
1世紀、前漢・後漢のあいだの20年ほど、新という国があり、亀貨が使われていた。そのころ淡路島に日本初の鉄器工場ができた。赤色塗料あり、赤眉軍あり、薩摩の隼人は顔を赤塗りしていた。そして2世紀、魏から卑弥呼と呼ばれた天照大神は亀の甲羅で政策を占ったといわれている。
ただそんな原始的な国が諸国に進出するだろうか。そこで推測してみる。
天照大神は、亀貨が戦火焼失に耐えるか試していた。天岩戸に籠ったのは鉱物を探すためだった。魏の帯方郡と赤色塗料(丹)貿易をし、帯方郡が滅びれば百済人や新羅人に鉱山開発をさせた。出雲にも銅や銀があるのを知り、大国主命を送り込んだ。