はてなキーワード: 三羽烏とは
プログラミング未経験から1ヶ月ほどで、将棋の評価値の新たな方法でのグラフ化を行うPythonツールを作った。
https://github.com/k-the-p/notherscore
この記事は2本立てです。結果のグラフや将棋よりプログラミングに興味がある方はもう一方のプログラム編から読むことをおすすめします。
未経験から1ヶ月!Pythonで観る将ライフを向上させた話(プログラム編)
一局全体において、AIの示す第1候補手と第2候補手の評価値の差をグラフ化するツールを作った。
評価値は強力で便利なものだ。それを否定できる人はいないでしょう。しかし評価値が絶対に正しいものかといと、それは怪しい。単にAIが今も強くなり続けていることは多かれ少なかれ現在のソフトが間違っていることを意味するし、そこまで極端なことを言わなくても、評価値はそもそもAIのための数字であって、それを人間の将棋にどれだけ活かせるのかという問題もある。
こうした考えは、私が振り飛車党であるということが影響しているのかもしれない。AIは飛車を振った瞬間に、相居飛車戦であれば若干形勢を損ねているぐらいの評価値を出すのだが、いくらなんでもそれはないだろうと思う。そうした思いを抱えている中で、もう一つの記事でも紹介した藤森哲也先生の「AIの一手は最強の一手なんです。確かにプラス1000点になるけど一手間違えた瞬間にマイナス何百点になるような綱渡りの手。それよりもアマチュアの皆さんにはプラス数百点で得は少ないけど安全な道、最善の一手を学んで欲しい」(大意)という言葉や、佐藤天彦先生の振り飛車転向以降のインタビューを読むにつけ、「それをAIを使って調べてみると面白いんじゃないか?」と思うようになりました。
なのでプログラミングを覚えるところからやってみた。その辺りはもう片方の記事で詳しく書いたので、以下では分析してわかったことを書いてみます。
まずは、1995年に行われた藤井猛六段-井上慶太六段戦(段位はいずれも当時)、有名な藤井システムの第一号局を見ながらグラフの見方を確認しましょう(以下全て使用エンジンは水匠4、1手10万局面)。
このグラフを見ると、30手ごろから井上六段のグラフが下方向に向かって大きく傾いているのが見て取れます。30手ごろと言えば、まさに桂馬が跳ねて角道を開ける、藤井システムが炸裂した瞬間とも言える場面ですが、評価値自体はやや藤井有利程度で、すぐに大きく開いているわけではありません。
しかしこの局面でグラフが下に振れているということは、井上六段は「一手間違えると大きく不利になる局面」に連続して立ち向かわなければならなかったということがわかります。結果として井上六段は徐々に不利に陥っていきます。
他方の藤井六段のグラフは中央から大きく離れることがなく、一見すると「何を指しても大勢に影響はない」ように見えますが、不安定な藤井システムの将棋においてそうした均衡を保つのにこそ超絶的な技量と研究が必要とされることは言うまでもありません。
佐藤康光・山崎隆之・糸谷哲郎、はい、今期A級へんt…力戦派三羽烏ですね。「力戦派」の定義って今まで定量的に分析されたことが無かったと思うのですが(見れば分かるので)、今回分析してみてそれができそうだな、と思いました。ここで3枚のグラフを見てみましょう。
それぞれの共通点があることがわかりましたか? ここでは序中盤に着目してみましょう。どれも評価値自体は互角なのに、力戦派の方だけグラフが振れているのがわかるでしょうか。これを言葉で言うと、「相手は何を指してもいいのに序盤から自分だけ綱渡りしながらも互角を保っている人」ということになります。
自分で言うのもなんですがこれ、けっこう面白い知見ではないでしょうか。言われてみれば確かにそうだけど、というのが数字で表せるということは、「山崎糸谷佐藤康光みたいな将棋を指すAI」という可能性が決して夢物語ではないことを意味しています。だいたい互角の手の中で、綱渡りの手を選ぶようにすればいいわけですから(上手くいくかは知りませんが)。
では、正統派(3人の先生申し訳ありません)の将棋はどんなグラフを描くのだろうか?
1枚目は棋聖戦第2局の藤井渡辺戦ですが、これはある意味でとても典型的な藤井四冠のグラフです。自分だけ選択肢が多い状態にしながら、相手だけを間違えたら危ない状態に置く。その後に行われた棋聖戦第3局のグラフ(2枚目)を見ると、渡辺三冠も藤井四冠と同じ方針をとって食らいつこうとしているのがわかります。3枚目の王位戦挑戦者決定リーグ戦における藤井豊島戦も、藤井四冠の方だけグラフが落ち着いているのが目に付きます。4枚目の竜王戦第4局豊島藤井戦は、豊島竜王が藤井四冠のお株を奪うような指し回しをしていましたが、最終的には崩れてしまった。この指し方はそれだけ難しいということでしょう。
自分だけ選択肢を残しながら相手に難しい必然手を指さざるを得ない状況にさせるということは、藤井四冠からすると相手の反応を予測しやすく、相手からすれば最善手を見つけるのみならず藤井四冠の多様なありうる応手を調べなければならないということを意味します。言葉にすれば簡単ですが、これはまさに超絶技巧でしょう。単にAIの評価値が右肩上がりになるのを眺めているだけでは分からない、藤井四冠の強さを示すことが出来たと思います。
ここではいちいちグラフを示しませんが、振り飛車のグラフは、評価値はもちろん若干悪いのですが、中盤で居飛車側のグラフだけが振れる傾向にあるように思いました。すなわち、中盤になると振り飛車はまったり指せるのに対して、居飛車党は間違えると形勢を損ねやすくなるということです。これが、AIが評価しないのに反して、人間同士ではまだまだ振り飛車が有力である一つの理由であると私は思いますし、これは多くの振り飛車党の先生が言っている「評価値は若干悪くてもねじり合いになれば美濃囲いが固くて有利」という見解にも一致します。
私は評価値だけを見て悪手だの名局だの言う傾向には嫌気がさしていましたが、今回は自分で作った愛着もともなって、ろくに指し手の意味も考えずに多数の対局をグラフだけ眺めて面白がる、という行為につい耽溺してしまいました。
あなたもぜひ楽しんでみては、というには導入のハードルが高いのですが、きっとここまで読んでくださった方には価値があるのではないかと思うので、暇な方はトライしてみてください。ただ、導入方法についての質問にはお答えできません。これは意地悪でも手抜きでもなくて、単に人に教えられるだけの知識を私が持っていないからです。頑張ってください。
トヨタならT、ホンダならH、といった具合に頭文字のアルファベットで振り分けていったときに、
最も多くの企業が属するアルファベットはどれか、という企画です。
売上高ランキングはこちらの1位から100位までのデータを用いました。
A: イオン アイシン アルフレッサ 旭化成 アサヒ ANA
小売の最大手・イオンを筆頭に、自動車部品、医薬品、化学、飲料、航空と個性豊かな面々を取り揃える「A」。
JRとJTのツートップに石油のJX・鉄鋼のJFEと重量級を並べる脅威のJapan軍団、「J」。
彼らと戦うときは鉄道を使えないことはもちろん自動車もガソリンを失うことを覚悟せねばならないだろう。
N: 日産 日本郵政 NTT NTTドコモ NEC 日本郵船 日鉄住金物産 日本通運 NTTデータ
「N」が単独で5位にランクイン。「N」ihonをその名に頂く九つの企業が並ぶ。
物流、海運、郵便、通信、……情報と兵站を奪われた敵はもはや自滅するしかない。
M: 丸紅 三菱商事 三井物産 三菱電機 三菱重工 三菱ケミカル マツダ メディパル 三菱食品 三菱自動車 三井不動産
K: KDDI 関西電力 キリン コマツ 九州電力 神戸製鋼 鹿島建設 クボタ 川崎重工 京セラ 花王
現代においても日本を支配するのは彼らなのか、恐るべし三菱・三井グループの登場だ。
いざ戦いとなれば、かつて大財閥として鳴らしたその力を見せつけてくれるだろう。
業種は多岐にわたっているのでそれぞれの連携が勝負のカギとなるか。
T: トヨタ 豊田通商 東京電力 東芝 東燃ゼネラル 豊田織機 東レ 東北電力 東京ガス 武田薬品 大成建設 凸版印刷
日本一の巨大企業トヨタ、そして「東」軍団がずらりと並び、12社で「T」が2位となった。
まともなら横綱相撲で押し切れそうだが、苦しい立場に置かれる東電・東芝が弱点になりそうだ。
S: ソフトバンク ソニー セブン&アイ 新日鉄住金 住友商事 スズキ 住友電工 シャープ スズケン 昭和シェル 住友化学 積水ハウス 商船三井 清水建設 双日
個人的にも意外な結果だったが、なんと「S」が15社でダントツの1位となった。
ソフトバンク、ソニー、セブン&アイの三羽烏に、「結束」の住友グループを加え、質量ともに他を圧倒する。
スマホとコンビニという現代社会の二大基盤をがっちりと掴み、さらには住宅、家電、自動車と、もはや人々の生活を「S」が支配していると言って過言ではない。
彼らが連合すれば「T」でさえも恐れるに足りないだろう。
タイトル獲得経験者(通算1期)。羽生善治七冠王を崩した棋士である。
顔つきは朴訥とした雰囲気が有るかもしれない。野武士という異名をとったこともある。なぜかニコ生で人気(だった?)。
ソフト指しが疑われているA級順位戦の三浦ー渡辺戦は角換わりの序盤早々にポンと▲4五桂を跳ねる将棋であった。前例はあって無いようなもの。話題になったお陰で棋譜は検索すれば簡単に見つかる。ちなみに将棋の棋譜に著作権は無い。素人目にはこの桂馬は、後手が△4四歩と伸ばせば簡単に取れそうである。プロから見てもそうであったらしく、順位戦の渡辺はそう指した。その後は後手は期待通りに桂馬を取り、引き換えに先手は馬を作り2歩を得た。以降は10手ほど穏やかに進み、先手が戦端を開き一気に後手陣を攻め潰した。馬と歩得の時点で形勢は先手が良かったようだ。実際、今日の竜王戦第一局(対丸山九段)で渡辺はほぼ同局面から△4四歩を見送り、ponanzaはこの選択をそんなに悪くないと評価した。
三浦の▲4五桂にはソフトによる研究が伺える。駒損して歩得と馬を主張するところがソフトっぽいと言われる。同時に三浦の棋風も伺える。端的に言えば研究将棋とはハメ手であり、毒饅頭を目の前にチラつかせる将棋なのだ。渡辺はまんまと引っかかり、自然と思われる桂取りの△4四歩からほぼ一直線の流れで、気づけば形勢を損なった。
行方尚史八段は三浦を表して「局地戦になると異常に力を発揮する人」「狭いところでの三浦君の計算力はすごい」と評した*1。一見して選択肢の狭い局面に誘導し、そこで相手を罠に嵌め、自身の計算力を頼りに仕留めるのが得意である、というわけだ。そして三浦はこの棋風を維持するために、自身の研究に加えて他の棋士の研究をも吸い出してきた。圧倒的な研究量が三浦のウリなのだ。
第68期名人戦(2010年)において三浦は羽生善治名人(当時)に挑戦した。梅田望夫「羽生善治と現代」ではこのシリーズの第二局を通じて、三浦の棋風すなわち研究将棋の極北について論じている。三浦はここでも羽生相手に罠を仕掛けた。当時流行の横歩取り8五飛戦法の、その最新型に一撃必殺の罠を仕掛けた、のだが、この罠は関西有力若手棋士(行方は豊島将之現七段か糸谷哲郎現八段か、誰かは知らないが、と言う)を二晩ホテルに缶詰にして聞き出した研究の成果であると言われる。
自分が出席しない研究会の成果をその日の夜に電話で聞き出したりもする。後日有力棋士に公に批判された。
三浦の将棋脳の特性と、それを活かせる狭く罠を仕掛けやすい展開を収集する研究力・人脈、これによって三浦はトップ棋士たりえた。
近年ではソフトが鬼強いので、誰でも棋力に関係なく高度な研究ができるハズだ。では三浦の強みが無くなったかというとさにあらず。現に順位戦で渡辺は三浦の研究手▲4五桂に対応できず、自然な手に乗って形勢を損ねた。プロより強いソフトが行き渡った現代でも、三浦の研究力は存分に発揮されている。
つまりカンニングしなくても、三浦は十分強い。序盤は優秀な研究があるので仮にカンニングするとしたら中終盤だが、この将棋は優勢な局面から一方的な攻め将棋で終わった。カンニングが必要とは、個人的には思えない。
ちなみに羽生との第68期名人戦、三浦は4タコで無残に敗退した。形勢良しの将棋を勝ちきれず、善悪不明の将棋を手品のように負けた。
第二局で羽生は三浦の罠を看破し、三浦の研究の隙の隙を掻い潜り、見事勝利した。
中学生でプロになった。20歳で棋界最高峰の竜王を取った。タイトル通算17期、史上初の永世竜王資格保持者。名人挑戦者に未だなれない。
生え際は若くして後退した。歯に衣着せぬ実直な物言いも人気。
自玉を固めて細い攻めを繋げて一方的に殴るのが一般に渡辺っぽいとされるが、最近はどんな将棋でも単純に強い。
研究家。ソフトを使用しているがソフトの評価値はあんまり重用していないとも語る*2。
渡辺は単純に強い棋士である。2000年以降、渡辺は将棋界のトップ3以上の実力者でありつづけた。研究家であっても、三浦のような極端さは無い。
人望の厚さが伺われるエピソードも多い。佐藤天彦新名人にも慕われている。
渡辺は正義と公正の棋士である。ゆえに、三浦の若手搾取が許せないらしい。村山慈明現七段から三浦に電話で研究会の成果を根掘り葉掘り何時間も訊かれたと愚痴られた渡辺は、NHK将棋講座誌上で三浦を名指しで、質問三羽烏として痛烈に批判した。
とばっちりを受けた残り二羽の烏は深浦康市九段と丸山忠久九段である。深浦は「羽生善治と現代」にて三浦の研究将棋を擁護し、丸山は今回の将棋連盟の決定に不服ととれるコメントを出した。前述の通り、丸山ー渡辺で開幕した今期竜王戦第一局の序盤は、件のA級順位戦三浦ー渡辺戦とほぼ同じ将棋であった。丸山の意趣返しであるが、渡辺の対策が良く封じ手時点では丸山苦戦の模様。
三浦のカンニング疑惑の聞き取りに、渡辺は理事に混じって同席した。
5人前後の三浦に負かされたと推察される棋士が三浦を告発したという。根拠はつまりプロの直感である。正義の棋士渡辺は告発者の一人であり、卑劣なカンニングを許せず、またタイトル戦の直接の対決者であるから、聞き取りに同席したのだろう。
聞き取りは聞き取りだけで終わり、証拠は一切示されないが、あるともないとも知れない。
三浦からしたら、タイトル戦の直前にタイトルホルダーが連盟を味方につけて、盤外戦術を仕掛けてきたようなものである。
三浦がカンニングしていたのなら、怖くて大舞台には出れないだろう。
三浦がカンニングしていなくても、怖くて大舞台には出れないだろう。
つまり三浦相手に連敗中の渡辺が三浦を竜王戦欠場に追いやったとも言える。
まさしく陣屋事件に勝るとも劣らぬ怪奇事件。なんと命名したらよいだろうか。
将棋界を震撼させた三浦九段の疑惑だが、将棋ファンの間には様々な憶測が飛び交っている。
三浦九段の替わりに竜王戦の舞台に登場することになったのは、同じくトップ棋士のひとりである丸山九段だ。その丸山九段による「日本将棋連盟の決定には個人的には賛成しかねますが」とのコメントは、三浦の潔白を信じての抵抗を意味するのか、それとも、年末までの公式戦出場停止処分が軽すぎるという意味なのか。
ネット上の棋士たちの多くの第一声には、どちらかといえば擁護の色が見られた一方で、橋本八段のような黒断定派も現れた。しばらくして連盟記者会見からの「告発者が5人ほどいる」という追加情報が流れると、三浦九段の直近の対局者リストや夏以降とされる告発の時期、対局の重要度などから、竜王への挑戦をかけて三番勝負を戦った丸山九段も告発者のひとりではないかとの憶測も生まれた。
仮に丸山九段が告発者のひとりだとすれば、「日本将棋連盟の決定には個人的には賛成しかねますが」という発言の真意は、処分が軽すぎるという意味に受け取れる。
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いっぽう、その丸山九段を迎え撃つことになった渡辺竜王も、当初はブログでの「詳細は各種報道に任せて、ここでは省略します。」と言葉少ないコメントだけが発表されていたため、三浦九段に対してどのような思いでいるのか判然としなかった。しかし「三浦九段への聴取が行われたとされる常務会には、渡辺竜王も出席していた」という追加情報、そして渡辺竜王の「疑わしい要素がいくつか出ている状況で、やむを得ない措置ではないかと思う」というコメントがもたらされると、渡辺竜王こそが告発者の筆頭格だったのではないかと思われた。
その前提に立てば、今回の疑惑を語る上で、先に挙げた三浦九段と丸山九段の三番勝負と同じくらい重要な一局として、三浦九段と渡辺竜王のA級順位戦での一局が俄然、注目を浴びることになる。
なにより対局が10月3日と直近であったこと、そして棋士人生に大きく影響する順位戦であること、極めつけに三浦九段が「驚愕」とも評された手を放った上で勝利したことから、この対局が決定打となって、渡辺竜王が「行動」したのではないかと思われた。
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そして、本日の竜王戦開幕である。公式のニコニコ生放送も大きく荒れることなく、将棋ファンは塚田親子によるほっこり解説を楽しんでいたが、対局開始からまだ間もない午前中、その心はにわかに揺さぶられることになった。
丸山九段が、直前の、そして「疑惑」の三浦vs渡辺戦をなぞるように手順を進め、1筋の歩の突き合いこそ省略したものの、ついには三浦の放った4五桂という「驚愕」の手までをも踏襲したのである。
もちろん、前例のある手順を途中まで踏襲することは、プロの対局ではまったくめずらしいことではない。また、4五桂というのも某棋士によれば「先手の▲4五桂跳ねは昔指されていたんですが軽すぎるというので先手いいとは思われてませんでしたがここ半年位に研究されていた形です」とされ、決して想定外の手ということでもない。しかしその前例というのは、今回の大騒動の当事者であり、いま自分がいる場所に座っているはずだった三浦九段が、いま目の前にいる渡辺竜王に対して指した手なのである。竜王戦の大舞台で、指せば誰もが三浦戦を思い起こす。よほどの覚悟がないと、指せるものではない。
「日本将棋連盟の決定には個人的には賛成しかねますが」という発言の真意は、やはり三浦九段の処分に対する反抗だったのだ——
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棋士は盤上で語る。
丸山の三浦への思いはあくまで憶測であるし、「純粋によい手だったから指しただけ」とする意見や、渡辺竜王を心理的に動揺させるための狡獪な戦術とする向きもある。しかし、そのいずれにしても、丸山九段は大勢の将棋ファンや棋士を前に、盤上で語ったのだ。
ニコ生も、2chも、ついったも、男、丸山の4五桂に沸き返った。
◆
渡辺と三浦・丸山の間には、深い因縁がある。渡辺が最初に竜王位を獲得してまだ年の浅かった2006年、NHK将棋講座のテキスト誌上にて渡辺竜王は、当時の三浦八段・丸山九段・深浦八段の研究姿勢に対して「若手にメールや電話で聞くのはA級棋士としての自覚に欠けると思います。そういう人たちの将棋は並べる気もおきませんね。目新しい手を指しても、どうせ誰かに聞いたんだろ、と思ってしまいますので。こういう人には負けたくないです」とこき下ろした。将棋界に言う「質問三羽烏」事件である。
その直後にも渡辺は、NHK杯戦で丸山に対して初手3六歩という、プロの対局でめったに指されない手を指して丸山を挑発し、局後に解説の米長から「相手が相手だからこのくらいでいいと」と水を向けられると「そうですね」と応じ、聞き手の千葉女流を慌てさせている。
温厚で口数少ない丸山が、渡辺をどう見ていたかはわからないが、三浦に対しては、同じ「烏」として、ひょっとしたらシンパシーを感じていたかもしれない。
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重苦しくなるかとみられた七番勝負の竜王戦を、挑戦者の丸山九段は、いきなりまさかの形で盛り上げてくれた。また、避けることもできた手順を受けて立った渡辺竜王もまた、堂々たるものである。名勝負に期待したい。
NHK杯戦準決勝の観戦記(「NHK将棋講座」5月号64頁)の冒頭に記された渡辺明竜王の痛烈な三浦八段批判である。
「若手にメールや電話で聞くのはA級棋士としての自覚に欠けると思います。そういう人たちの将棋は並べる気もおきませんね。目新しい手を指しても、どうせ誰かに聞いたんだろ、と思ってしまいますので。こういう人には負けたくないです」(渡辺)。
三浦八段は、若手棋士から最新の序盤情報を入手しており、「三浦八段の得意な脇システムや相横歩取りは、実はすべて若手の研究なのです」(事情通)と言われるほどだ。こうしたことから、渡辺竜王は、三浦八段の他、丸山九段、深浦八段の3人を「質問三羽烏」と呼ぶなど、こうした行動をとる棋士を厳しく批判している。
こうした最近の渡辺竜王発言について、「先輩をなで斬りにする辛辣な口調は若き日の升田幸三のよう」と懐かしむオールドファン声も。いずれにしても、「質問三羽烏」とは、なんともユニークな呼称であり、読んでいて微笑ましくなる。
観戦記は、「現代将棋と情報は切っても切り離せない。画一的な内容は面白味に欠けるというファンの声も少なくない。だから、渡辺は棋界を代表する竜王として、序盤偏重の傾向に危惧を抱いている。冒頭の言葉はそういう観点から発せられたものだ。決して個人的中傷ではないことを断っておきたい」とこの話を結んでいる。