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はてなキーワード: 嘆息とは

2020-04-09

anond:20200409170340

ファクト:増田は髪の毛を見送ることに慣れ、嘆息することもなくなった46歳である

2020-02-25

翳(原民喜

センター試験話題になったけど、全文読めるところが見つからなかったので)

底本:原民喜戦後小説 下(講談社文芸文庫1995年8月10日第1刷発行

     I

 私が魯迅の「孤独者」を読んだのは、一九三六年の夏のことであったが、あのなかの葬いの場面が不思議に心を離れなかった。不思議だといえば、あの本——岩波文庫魯迅選集——に掲載してある作者の肖像が、まだ強く心に蟠(わだかま)るのであった。何ともいい知れぬ暗黒を予想さす年ではあったが、どこからともなく惻々として心に迫るものがあった。その夏がほぼ終ろうとする頃、残暑の火照りが漸く降りはじめた雨でかき消されてゆく、とある夜明け、私は茫とした状態で蚊帳のなかで目が覚めた。茫と目が覚めている私は、その時とらえどころのない、しかし、かなり烈しい自責を感じた。泳ぐような身振りで蚊帳の裾をくぐると、足許に匐っている薄暗い空気を手探りながら、向側に吊してある蚊帳の方へ、何か絶望的な、愬(うった)えごとをもって、私はふらふらと近づいて行った。すると、向側の蚊帳の中には、誰だか、はっきりしない人物が深い沈黙に鎖されたまま横わっている。その誰だか、はっきりしない黒い影は、夢が覚めてから後、私の老い母親のように思えたり、魯迅の姿のように想えたりするのだった。この夢をみた翌日、私の郷里からハハキトクの電報が来た。それから魯迅の死を新聞で知ったのは恰度亡母の四十九忌の頃であった。

 その頃から私はひどく意気銷沈して、落日の巷を行くの概(おもむき)があったし、ふと己の胸中に「孤独者」の嘲笑を見出すこともあったが、激変してゆく周囲のどこかにもっと切実な「孤独者」が潜んでいはすまいかと、窃(ひそ)かに考えるようになった。私に最初孤独者」の話をしかけたのは、岩井繁雄であった。もしかすると、彼もやはり「孤独者」であったのかもしれない。

 彼と最初に出逢ったのは、その前の年の秋で、ある文学研究会の席上はじめてSから紹介されたのである。その夜の研究会は、古びたビルの一室で、しめやかに行われたのだが、まことにそこの空気に応(ふさ)わしいような、それでいて、いかにも研究会などにはあきあきしているような、独特の顔つきの痩形長身青年が、はじめから終りまで、何度も席を離れたり戻って来たりするのであった。それが主催者の長広幸人であるらしいことは、はじめから想像できたが、会が終るとSも岩井繁雄も、その男に対って何か二こと三こと挨拶して引上げて行くのであった。さて、長広幸人の重々しい印象にひきかえて、岩井繁雄はいかにも伸々した、明快卒直な青年であった。長い間、未決にいて漸く執行猶予最近釈放された彼は、娑婆に出て来たことが、何よりもまず愉快でたまらないらしく、それに文学上の抱負も、これから展望されようとする青春とともに大きかった。

 岩井繁雄と私とは年齢は十歳も隔たってはいたが、折からパラつく時雨をついて、自動車を駆り、遅くまでSと三人で巷を呑み歩いたものであった。彼はSと私の両方に、絶えず文学の話を話掛けた。極く初歩的な問題から再出発する気組で——文章が粗雑だと、ある女流作家から注意されたので——今は志賀直哉のものノートし、まず文体研究をしているのだと、そういうことまで卒直に打明けるのであった。その夜の岩井繁雄はとにかく愉快そうな存在だったが、帰りの自動車の中で彼は私の方へ身を屈めながら、魯迅の「孤独者」を読んでいるかと訊ねた。私がまだ読んでいないと答えると話はそれきりになったが、ふとその時「孤独者」という題名で私は何となくその夜はじめて見た長広幸人のことが頭に閃いたのだった。

 それから夜更の客も既に杜絶えたおでん屋の片隅で、あまり酒の飲めない彼は、ただその場の空気に酔っぱらったような、何か溢れるような顔つきで、——やはり何が一番愉しかったといっても、高校時代ほど生き甲斐のあったことはない、と、ひどく感慨にふけりだした。

 私が二度目の岩井繁雄と逢ったのは一九三七年の春で、その時私と私の妻は上京して暫く友人の家に滞在していたが、やはりSを通じて二三度彼と出逢ったのである。彼はその時、新聞記者になったばかりであった。が、相変らず溢れるばかりのもの顔面に湛えて、すくすくと伸び上って行こうとする姿勢で、社会部入社したばかりの岩井繁雄はすっかりその職業が気に入っているらしかった。恰度その頃紙面を賑わした、結婚直前に轢死(れきし)を遂げた花婿の事件があったが、それについて、岩井繁雄は、「あの主人公は実はそのアルマンスだよ」と語り、「それに面白いのは花婿の写真がどうしても手に入らないのだ」と、今もまだその写真を追求しているような顔つきであった。そうして、話の途中で手帳を繰り予定を書込んだり、何か行動に急きたてられているようなところがあった。かと思うと、私の妻に「一たい今頃所帯を持つとしたら、どれ位費用がかかるものでしょうか」と質問し、愛人が出来たことを愉しげに告白するのであった。いや、そればかりではない、もしかすると、その愛人同棲した暁には、染料の会社設立し、重役になるかもしれないと、とりとめもない抱負も語るのであった。二三度逢ったばかりで、私の妻が岩井繁雄の頼もしい人柄に惹きつけられたことは云うまでもない。私の妻はしばしば彼のことを口にし、たとえば、混みあうバスの乗降りにしても、岩井繁雄なら器用に婦人を助けることができるなどというのであった。私もまた時折彼の噂は聞いた。が、私たちはその後岩井繁雄とは遂に逢うことがなかったのである

 日華事変が勃発すると、まず岩井繁雄は巣鴨駅の構内で、筆舌に絶する光景を目撃したという、そんな断片的な噂が私のところにも聞えてきて、それから間もなく彼は召集されたのである。既にその頃、愛人と同居していた岩井繁雄は補充兵として留守隊で訓練されていたが、やがて除隊になると再び愛人の許に戻って来た。ところが、翌年また召集がかかり、その儘前線派遣されたのであった。ある日、私がSの許に立寄ると、Sは新聞第一面、つまり雑誌新刊書の広告が一杯掲載してある面だけを集めて、それを岩井繁雄の処へ送るのだと云って、「家内に何度依頼しても送ってくれないそうだから僕が引うけたのだ」とSは説明した。その説明は何か、しかし、暗然たるものを含んでいた。岩井繁雄が巣鴨駅で目撃した言語に絶する光景とはどんなことなのか私には詳しくは判らなかったが、とにかく、ぞっとするようなものがいたるところに感じられる時節であった。ある日、私の妻は小学校の講堂で傷病兵慰問の会を見に行って来ると、頻りに面白そうに余興のことなど語っていたが、その晩、わあわあと泣きだした。昼間は笑いながら見ものが、夢のなかでは堪らなく悲しいのだという。ある朝も、——それは青葉と雨の鬱陶しい空気が家のうちまで重苦しく立籠っている頃であったが——まだ目の覚めきらない顔にぞっとしたものを浮べて、「岩井さんが還って来た夢をみた。痩せて今にも斃れそうな真青な姿でした」と語る。妻はなおその夢の行衛を追うが如く、脅えた目を見すえていたが、「もしかすると、岩井さんはほんとに死ぬるのではないかしら」と嘆息をついた。それは私の妻が発病する前のことで、病的に鋭敏になった神経の前触れでもあったが、しかしこの夢は正夢であった。それから二三ヵ月して、岩井繁雄の死を私はSからきいた。戦地にやられると間もなく、彼は肺を犯され、一兵卒にすぎない彼は野戦病院殆ど碌に看護も受けないで死に晒されたのであった。

 岩井繁雄の内縁の妻は彼が戦地へ行った頃から新しい愛人をつくっていたそうだが、やがて恩賜金を受取るとさっさと老母を見捨てて岩井のところを立去ったのである。その後、岩井繁雄の知人の間では遺稿集——書簡は非常に面白いそうだ——を出す計画もあった。彼の文章が粗雑だと指摘した女流作家に、岩井繁雄は最初結婚を申込んだことがある。——そういうことも後になって誰かからきかされた。

 たった一度見たばかりの長広幸人の風貌が、何か私に重々しい印象を与えていたことは既に述べた。一九三五年の秋以後、遂に私は彼を見る機会がなかった。が、時に雑誌掲載される短かいものを読んだこともあるし、彼に対するそれとない関心は持続されていた。岩井繁雄が最初召集を受けると、長広幸人は倉皇と満洲へ赴いた。当時は満洲へ行って官吏になりさえすれば、召集免除になるということであった。それから間もなく、長広幸人は新京文化方面役人になっているということをきいた。あの沈鬱なポーズ役人の服を着ても身に着くだろうと私は想像していた。それから暫く彼の消息はきかなかったが、岩井繁雄が戦病死した頃、長広幸人は結婚をしたということであった。それからまた暫く彼の消息はきかなかったが、長広幸人は北支で転地療法をしているということであった。そして、一九四二年、長広幸人は死んだ。

 既に内地にいた頃から長広幸人は呼吸器を犯されていたらしかったが、病気の身で結婚生活飛込んだのだった。ところが、その相手資産目あての結婚であったため、死後彼のものは洗い浚(ざら)い里方に持って行かれたという。一身上のことは努めて隠蔽する癖のある、長広幸人について、私はこれだけしか知らないのである

     II

 私は一九四四年の秋に妻を喪ったが、ごく少数の知己へ送った死亡通知のほかに満洲にいる魚芳へも端書を差出しておいた。妻を喪った私は悔み状が来るたびに、丁寧に読み返し仏壇ほとりに供えておいた。紋切型の悔み状であっても、それにはそれでまた喪にいるものの心を鎮めてくれるものがあった。本土空襲も漸く切迫しかかった頃のことで、出した死亡通知に何の返事も来ないものもあった。出した筈の通知にまだ返信が来ないという些細なことも、私にとっては時折気に掛るのであったが、妻の死を知って、ほんとうに悲しみを頒ってくれるだろうとおもえた川瀬成吉からもどうしたものか、何の返事もなかった。

 私は妻の遺骨を郷里墓地に納めると、再び棲みなれた千葉借家に立帰り、そこで四十九日を迎えた。輸送船の船長をしていた妻の義兄が台湾沖で沈んだということをきいたのもその頃であるサイレンはもう頻々と鳴り唸っていた。そうした、暗い、望みのない明け暮れにも、私は凝と蹲ったまま、妻と一緒にすごした月日を回想することが多かった。その年も暮れようとする、底冷えの重苦しい、曇った朝、一通の封書が私のところに舞込んだ。差出人は新潟県××郡××村×川瀬丈吉となっている。一目見て、魚芳の父親らしいことが分ったが、何気なく封を切ると、内味まで父親の筆跡で、息子の死を通知して来たものであった。私が満洲にいるとばかり思っていた川瀬成吉は、私の妻より五ヵ月前に既にこの世を去っていたのである

 私がはじめて魚芳を見たのは十二年前のことで、私達が千葉借家へ移った時のことである私たちがそこへ越した、その日、彼は早速顔をのぞけ、それから殆ど毎日註文を取りに立寄った。大概朝のうち註文を取ってまわり、夕方自転車で魚を配達するのであったが、どうかすると何かの都合で、日に二三度顔を現わすこともあった。そういう時も彼は気軽に一里あまりの路を自転車で何度も往復した。私の妻は毎日顔を逢わせているので、時々、彼のことを私に語るのであったが、まだ私は何の興味も関心も持たなかったし、殆ど碌に顔も知っていなかった。

 私がほんとうに魚芳の小僧を見たのは、それから一年後のことと云っていい。ある日、私達は隣家の細君と一緒にブラブラ千葉海岸の方へ散歩していた。すると、向の青々とした草原の径をゴム長靴をひきずり、自転車を脇に押しやりながら、ぶらぶらやって来る青年があった。私達の姿を認めると、いかにも懐しげに帽子をとって、挨拶をした。

「魚芳さんはこの辺までやって来るの」と隣家の細君は訊ねた。

「ハア」と彼はこの一寸した逢遭を、いかにも愉しげにニコニコしているのであった。やがて、彼の姿が遠ざかって行くと、隣家の細君は、

「ほんとに、あの人は顔だけ見たら、まるで良家のお坊ちゃんのようですね」と嘆じた。その頃から私はかすかに魚芳に興味を持つようになっていた。

 その頃——と云っても隣家の細君が魚芳をほめた時から、もう一年は隔っていたが、——私の家に宿なし犬が居ついて、表の露次でいつも寝そべっていた。褐色の毛並をした、その懶惰な雌犬は魚芳のゴム靴の音をきくと、のそのそと立上って、鼻さきを持上げながら自転車の後について歩く。何となく魚芳はその犬に対しても愛嬌を示すような身振であった。彼がやって来ると、この露次は急に賑やかになり、細君や子供たちが一頻り陽気に騒ぐのであったが、ふと、その騒ぎも少し鎮まった頃、窓の方から向を見ると、魚芳は木箱の中から魚の頭を取出して犬に与えているのであった。そこへ、もう一人雑魚(ざこ)売りの爺さんが天秤棒を担いでやって来る。魚芳のおとなしい物腰に対して、この爺さんの方は威勢のいい商人であった。そうするとまた露次は賑やかになり、爺さんの忙しげな庖丁の音や、魚芳の滑らかな声が暫くつづくのであった。——こうした、のんびりした情景はほとんど毎日繰返されていたし、ずっと続いてゆくもののようにおもわれた。だが、日華事変の頃から少しずつ変って行くのであった。

 私の家は露次の方から三尺幅の空地を廻ると、台所に行かれるようになっていたが、そして、台所の前にもやはり三尺幅の空地があったが、そこへ毎日八百屋、魚芳をはじめ、いろんな御用聞がやって来る。台所の障子一重を隔てた六畳が私の書斎になっていたので、御用聞と妻との話すことは手にとるように聞える。私はぼんやりと彼等の会話に耳をかたむけることがあった。ある日も、それは南風が吹き荒んでものを考えるには明るすぎる、散漫な午後であったが、米屋小僧と魚芳と妻との三人が台所で賑やかに談笑していた。そのうちに彼等の話題は教練のことに移って行った。二人とも青年訓練所へ通っているらしく、その台所前の狭い空地で、魚芳たちは「になえつつ」の姿勢を実演して興じ合っているのであった。二人とも来年入営する筈であったので、兵隊姿勢を身につけようとして陽気に騒ぎ合っているのだ。その恰好おかしいので私の妻は笑いこけていた。だが、何か笑いきれないものが、目に見えないところに残されているようでもあった。台所へ姿を現していた御用聞のうちでは、八百屋がまず召集され、つづいて雑貨屋小僧が、これは海軍志願兵になって行ってしまった。それから豆腐屋の若衆がある日、赤襷をして、台所に立寄り忙しげに別れを告げて行った。

 目に見えない憂鬱の影はだんだん濃くなっていたようだ。が、魚芳は相変らず元気で小豆(こまめ)に立働いた。妻が私の着古しのシャツなどを与えると、大喜びで彼はそんなものも早速身に着けるのであった。朝は暗いうちから市場へ行き、夜は皆が寝静まる時まで板場で働く、そんな内幕も妻に語るようになった。料理の骨(こつ)が憶えたくて堪らないので、教えを乞うと、親方は庖丁を使いながら彼の方を見やり、「黙って見ていろ」と、ただ、そう呟くのだそうだ。鞠躬如(きっきゅうじょ)として勤勉に立働く魚芳は、もしかすると、そこの家の養子にされるのではあるまいか、と私の妻は臆測もした。ある時も魚芳は私の妻に、——あなたそっくり写真がありますよ。それが主人のかみさんの妹なのですが、と大発見をしたように告げるのであった。

 冬になると、魚芳は鵯(ひよどり)を持って来て呉れた。彼の店の裏に畑があって、そこへ毎朝沢山小鳥が集まるので、釣針に蚯蚓(みみず)を附けたものを木の枝に吊しておくと、小鳥簡単に獲れる。餌は前の晩しつらえておくと、霜の朝、小鳥は木の枝に動かなくなっている——この手柄話を妻はひどく面白がったし、私も好きな小鳥が食べられるので喜んだ。すると、魚芳は殆ど毎日小鳥を獲ってはせっせと私のところへ持って来る。夕方になると台所に彼の弾んだ声がきこえるのだった。——この頃が彼にとっては一番愉しかった時代かもしれない。その後戦地へ赴いた彼に妻が思い出を書いてやると、「帰って来たら又幾羽でも鵯鳥を獲って差上げます」と何かまだ弾む気持をつたえるような返事であった。

 翌年春、魚芳は入営し、やがて満洲の方から便りを寄越すようになった。その年の秋から私の妻は発病し療養生活を送るようになったが、妻は枕頭で女中を指図して慰問の小包を作らせ魚芳に送ったりした。温かそうな毛の帽子を着た軍服姿の写真満洲から送って来た。きっと魚芳はみんなに可愛がられているに違いない。炊事も出来るし、あの気性では誰からも重宝がられるだろう、と妻は時折噂をした。妻の病気は二年三年と長びいていたが、そのうちに、魚芳は北支から便りを寄越すようになった。もう程なく除隊になるから帰ったらよろしくお願いする、とあった。魚芳はまた帰って来て魚屋が出来ると思っているのかしら……と病妻は心細げに嘆息した。一しきり台所を賑わしていた御用聞きたちの和やかな声ももう聞かれなかったし、世の中はいよいよ兇悪な貌を露出している頃であった。千葉名産の蛤の缶詰を送ってやると、大喜びで、千葉へ帰って来る日をたのしみにしている礼状が来た。年の暮、新潟の方から梨の箱が届いた。差出人は川瀬成吉とあった。それから間もなく除隊になった挨拶状が届いた。魚芳が千葉へ訪れて来たのは、その翌年であった。

 その頃女中を傭えなかったので、妻は寝たり起きたりの身体台所をやっていたが、ある日、台所の裏口へ軍服姿の川瀬成吉がふらりと現れたのだった。彼はきちんと立ったまま、ニコニコしていた。久振りではあるし、私も頻りに上ってゆっくりして行けとすすめたのだが、彼はかしこまったまま、台所のところの閾から一歩も内へ這入ろうとしないのであった。「何になったの」と、軍隊のことはよく分らない私達が訊ねると、「兵長になりました」と嬉しげに応え、これからまだ魚芳へ行くのだからと、倉皇として立去ったのである

 そして、それきり彼は訪ねて来なかった。あれほど千葉へ帰る日をたのしみにしていた彼はそれから間もなく満洲の方へ行ってしまった。だが、私は彼が千葉を立去る前に街の歯医者でちらとその姿を見たのであった。恰度私がそこで順番を待っていると、後から入って来た軍服青年歯医者挨拶をした。「ほう、立派になったね」と老人の医者は懐しげに肯いた。やがて、私が治療室の方へ行きそこの椅子に腰を下すと、間もなく、後からやって来たその青年助手の方の椅子に腰を下した。「これは仮りにこうしておきますから、また郷里の方でゆっくりお治しなさい」その青年の手当はすぐ終ったらしく、助手は「川瀬成吉さんでしたね」と、机のところのカードに彼の名を記入する様子であった。それまで何となく重苦しい気分に沈んでいた私はその名をきいて、はっとしたが、その時にはもう彼は階段を降りてゆくところだった。

 それから二三ヵ月して、新京の方から便りが来た。川瀬成吉は満洲吏員就職したらしかった。あれほど内地を恋しがっていた魚芳も、一度帰ってみて、すっかり失望してしまったのであろう。私の妻は日々に募ってゆく生活難を書いてやった。すると満洲から返事が来た。「大根一本が五十銭、内地の暮しは何のことやらわかりません。おそろしいことですね」——こんな一節があった。しかしこれが最後消息であった。その後私の妻の病気悪化し、もう手紙を認(したた)めることも出来なかったが、満洲の方からも音沙汰なかった。

 その文面によれば、彼は死ぬる一週間前に郷里に辿りついているのである。「兼て彼の地に於て病を得、五月一日帰郷、五月八日、永眠仕候」と、その手紙は悲痛を押つぶすような調子ではあるが、それだけに、佗しいものの姿が、一そう大きく浮び上って来る。

 あんな気性では皆から可愛がられるだろうと、よく妻は云っていたが、善良なだけに、彼は周囲から過重な仕事を押つけられ、悪い環境機構の中を堪え忍んで行ったのではあるまいか親方から庖丁の使い方は教えて貰えなくても、辛棒した魚芳、久振りに訪ねて来ても、台所の閾から奥へは遠慮して這入ろうともしない魚芳。郷里から軍服を着て千葉を訪れ、晴れがましく顧客歯医者で手当してもらう青年。そして、遂に病躯をかかえ、とぼとぼと遠国から帰って来る男。……ぎりぎりのところまで堪えて、郷里に死にに還った男。私は何となしに、また魯迅作品の暗い翳を思い浮べるのであった。

 終戦後、私は郷里にただ死にに帰って行くらしい疲れはてた青年の姿を再三、汽車の中で見かけることがあった。……

2020-02-13

anond:20200213205735

500人以上ブクマしてるなかのたった2・3人分のコメントを取り上げて「最近の若者」論を語っちゃう奴が他人認知バイアス嘆息する図

2020-01-12

今日も負けちまったか・・・嘆息の息が漏れ

今月どうやって暮らそうか?・・・疑問が首をかしげ

2019-10-16

弱者に優しくすること

丁度他人攻撃的なある弱者属性に対して優しくしたらというツイートへの反応を見てたけど

被害者意識が強すぎていじめをしている人がどうにもならない時でも、いじめ被害者いじめ加害者に優しくなるのはやっぱり厳しいか治療にせよケアにせよ第三者が関わらないと難しい気がする。

DV加害者漫画を書いている人がある案件について加害的になっているのを見て嘆息したい気持ちはよくわかるけど、相手にお前が変われとは言いにくい。

でも被害者意識ルサンチマン からものすごい攻撃性を発揮するのは古くからそうだけど、最近世界トレンドであり、マジョリティに余裕がなくなっていることでもある。

2019-07-02

anond:20190702000913

最後の一文は疑問文として読者に問うているというより、嘆息のようなものだろう。

それにそもそもメールなどでもない自由日記なのだからタイトルを本文の要約とし主旨を一致させておく必要はない。

だが、双方問いかけだとして「ポロシャツネクタイダメか」と「(ポロシャツネクタイは)そんなに許容できないものか」を比較したところで、意味そもそも大差がなく、表現のブレ程度で意図は完全に同じだと言える。

なぜ「別にした」と感じたのかが気になる。

2019-01-17

コンビニバイトを始めてそろそろ9ヶ月

・思ったよりも続いている。入った当初は3ヶ月持たないんじゃないかと思った。

人間関係的には今まで勤めてきた職場の中で最もぬるま湯

・でも、お店の責任者である経営者一家がかなりのズボラなせいで、困る事がよくある。

経営者から一方的に、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」を押し付けられている気がする

あんまりにも従業員教育がいい加減なので、このままこの店に勤め続けると、コンビニアルバイトの最低限の水準にも達せずに月日だけが過ぎてしまい、後で何かあって他店に転職してから大恥をかくことになりそうな予感がする。

・けど、もう三十路はとっくのとうに過ぎ、四十路にもあと数年で手が届くという歳になったくせに、働きやす環境を与えて貰う事を期待しているばかりなのは、どうなの?とも思うのである

・ 昨年末に、イケメン正社員氏が唐突に、愚痴とも進路相談もつかない事を私に話した事があった。

イケメン正社員には、子供の頃からどーしてもなりたい職業があって、一度はその業界に飛び込んでみたものの、しょうもない失敗を繰り返して先輩に嫌われたとか何とかで、リタイアした経験があるらしい。

・でも、一度は諦めたけど、やっぱりその仕事自体はすごく面白かったので、再挑戦したいという気持ちが抑えられないのだそうだ。

・その憧れの仕事とは、例えばお笑い芸人とか声優とかそういう、あまりにも狭き門過ぎて突飛な職業ではなく、世のため人の為に必要仕事だし、人手不足の今なら採用され易いと思われるし、ちゃんと勤まれさえすれば、経済的にはわりかし安定出来そうな職ではあるけど、ブラックみの強い職であるというのは世間によく知られている。そんな職業だ。

イケメン正社員氏はひとしきりその仕事の楽しさを語ったが、実はオーナー転職の話をまだしていないんだけど、どう切り出したらいいのかわからない、と嘆息した。

オーナーイケメン正社員氏の事を孫みたいに可愛がっているし、オーナー自身脱サラ夢追い人なので、イケメン正社員氏の希望を聞いてカンカンに怒るとか、すごい勢いで引き留めて来るとかいう事はないんじゃないかなぁ。むしろ応援してくれそうじゃん?

・そう言ったら、イケメン正社員は、

「だったらいいんすけどねー……」

と、しょんぼりしていた。

問題は、イケメン正社員氏が抜けると夜勤担当者がいなくなってしまうことだ。オーナーがいいと言っても、店長の奥様が反対しそう。

イケメン氏が憧れの職業の素晴らしいところを列挙するのを聴いていて思ったのは、この子はその仕事に一度は就いた事があるといっても、結局それは「お客さん状態」に過ぎなかったという事だ。お客さんとして先輩方からおもてなしを受けていただけだもの、そりゃ楽しいに決まっている。

イケメン正社員氏も、若いったってオッサンバサンばかりの社内では飛び抜けて若いってだけで、よその会社ならそろそろ責任ある仕事や後輩の指導を任されたりするようなお年頃なんだし、転職したら最初から先輩達から気を遣われまくって甘やかされるばかりではいられまい。きっと楽しいだけでは済まないだろう。

・ちっとは頼られる自分になろうという意識を持たないとね。

・盛大なブーメランである

イケメン正社員氏には「池面さんならきっとなれるよ」とだけ言った。

・その後、イケメン正社員転職が決まったかどうかは、知らない。

新人ちゃんが体調を崩したらしい。働き過ぎのせいだと相棒は言った。

・一昨日、超忙しい時間帯に、オーナー経営の他店舗(新人ちゃんは掛け持ちでその店舗でも働いている)の店長が、当店に電話をかけてきた。新人ちゃんが具合が悪いと言っていたが、新人ちゃんは今夜のシフトちゃんと出られそうか?と聞かれた。

・知らねーそんなの。本人に聞け。

・と思ったけど、前半だけやんわりした言葉遣いで申し上げ、丁寧に電話を切った。忙しかったので。

新人ちゃん病気で来ないかもしれない!ああどうしようどうしよう!と、騒いでいたわりに、他店舗店長はその件をこっちの店長には連絡しなかったらしく、昨日は新人ちゃんドタキャンにより、夕勤の出勤時間五分前になって私に出勤要請が来たが、私用で出られなかった。

・ほんといい加減だよな。

年末に『コンビニ人間』を読んだ。以前書いた日記に「コンビニ人間だ!」というブコメがいくつかついたかである

コンビニ人間は、主人公コンビニ妖精みたいになっちゃう話だけど、私は最近、逆にこの店は自分の働く所としてどうなのか、という事をよく考える。

・お店の歯車になるのではなく、お店を多少自分の為に変えたい、という事。

・具体的に言えば、自分職場が当店だと人に話した時に「あんな店で働いてるの?」とドン引きされたくないので、誰もやろうとしない掃除自分がやり、愛想の良い接客もしようとか、そういう事。

・当店のパートバイト人達殆どは、当店を働き易い職場として使い捨てる気しかないんだな、と思う。

・皆、給料さえ貰えればそれでよくて、勤務時間が過ぎるのをただ待っているだけだから、当店はやたら汚ないのだ。

店長オーナー殆ど文句を言わない。言って辞められるよりはマシなのだろう。

・私も、もっとマシな職場転職する事を考えたけど、そうやって逃げ回って、マシな職場とは、一体どこにあるのだろう?永久にたどりつけないのではないかと思うのである

・あてもなくマシな職場とやらを探すよりも、自分の力で私が働くに価する職場に変えてはどうかと。ただ、勤務時間中一度も立ち止まらずに働けばいいだけの事なのだから

・店の売上も私の給料もびた一文上がらないんだけれども、お天道様に向かって恥のない生き方ではある。

2018-11-08

今更「萌え絵定義をいたしましょう」とか

http://lastline.hatenablog.com/entry/2018/11/08/083414

lastline氏をdisってるのではなく、

lastline氏がやるまで学者教授だと呼ばれてた連中がこの程度のことすら放置して愚にもつかない駄論を積み重ねてきたのかと思うと嘆息するばかり。

ネットから定義なんかそっちのけで燃やすだけ燃やして喜ぶ愉快犯大勢いるのは仕方がないとして、

言論でメシ食ってる連中がこの程度の交通整理もしないでネットの爛れた炎上祭りに加担してバカ踊りに明け暮れてたっての、

日本アカデミズムオワコン感をこれでもかと滲み出しててもののあはれだわ。

2018-10-05

キン肉マンウォーズマンに寄せて

息も絶え絶えにリングの上に転がりながら、ウォーズマンロビンマスクにこう尋ねた。

「だれかオレの顔を見て笑ってやしないか?」

ロビンマスクは彼を見つめ、力強く声をかける。

「だれも笑ってやしないよ」

から安堵すると同時にウォーズマンの全身から力が抜けていく。

それを抱きとめながらロビンマスクは涙をこぼす。



こんな感動的な場面から始めたい。

これは漫画キン肉マン」に登場する一人の超人ウォーズマンについての一つの考察である



ウォーズマンロビンマスク弟子として、漫画キン肉マン」の第8巻、

『第二十一超人オリンピック編』から登場する超人だ。

人間ロボットの間に生まれ、そのどちらにも属さない「ロボ超人である彼は登場時、

その残酷さによって読者に強烈なインパクトを与える。

針状の爪を発射する武器ベアクローを使って対戦相手を惨殺、

練習のためにグラウンドを走る死刑囚149人のうち148人を殺害

キン肉マンの仲間であるラーメンマンの側頭部を抉って脳漿に穴を開け、

植物状態にするなど、攻撃残酷さでいえば作中随一ともいえるだろう。



しかし、そのような残虐さに反して、転んだ子供に手を差し伸べて助けようとしたり、

前述した149人の死刑囚の中でも老人だけは見逃したりといった優しさが

時折垣間見えるのもウォーズマンの特徴である

性根は優しい彼を残虐な戦いに駆り立てたのは一体何だったのだろうか。


ロビンマスクは作中、「超人オリンピック」のリング上でキン肉マンへの攻撃の手を止めたウォーズマン

「また くうものもくえず きるものもろくにない すさんだ生活にもどりたいのか」と尋ね、

ウォーズマンはそれに応えるように激しい攻撃を再開した。

ここから想像されるのは、彼が故郷ソ連で置かれていた厳しい状況である

この後、キン肉マンとの闘いを通して彼は残虐さを捨てたクリーンな戦い方の大切さに気付く。

そして、対戦相手マスクを剥いだ方が勝ちというルールの中で、

みずからそれを脱ぎ捨てると共に自分過去を語るのだ。



ウォーズマン自身が単なる超人でもロボットでもない「ロボ超人であることを嘆き、

どこにいっても爪弾きにされ、いじめられ続けた日々を回想して「地獄生活」だったと称した。

そのような彼を唯一救ったものこそが格闘技であり、

いつしか自分超人ロボットを「血まつりにあげることがいきがいとなった」のだと彼は語る。


やがて雷鳴に照らされた彼の素顔は、人間でも均整のとれたロボットでもない、

極めて歪なもの、恐ろしいものとして描かれ、

それを見つめるキン肉マンとその婚約者ビビンバの顔も稲光の中で無言にこわばっている。

彼の素顔から受けた、誰も何も発せないような衝撃、

それが登場人物の表情のみを並べることで読者に鋭く突き付けられるのだ。

ウォーズマンの「素顔」は非常にドラマチックなやり方で我々に提示される。

醜い、恐ろしい、そう思ったとしても彼を気遣えば口に出すことができない、

いわば配慮リアリティとでも呼ぶべきものがこの場面には備わっており、読者ですら、

ウォーズマンの顔からどのような印象を受けたかをあえて言葉にしないように努めてしまうのである



彼の生い立ちや素顔についての問題はここで一度大胆に明かされたのち、しばらくはその影を潜めている。

残虐を捨て、キン肉マンら「アイドル超人」の一員となったウォーズマンは、

「七人の悪魔超人編」においては戦士として、

黄金マスク」編においては作品舞台として(「黄金マスク」を巡る戦いはウォーズマンの体内で行われる)活躍し、

仲間を支えながら友情を深めていく。

そして、もはや誰もが彼にまつわる悲劇を忘れ去った頃、冒頭の事件が起きるのである



コミックス17巻に始まる「夢の超人タッグ編」において、

彼は師であるロビンマスクとタッグを組み、共闘することとなった。

この時の対戦相手ネプチューンマンキング・ザ・武道の二人が結成した「ヘル・ミッショナルズ」であり、

ロビンマスク仮面をつけたネプチューンマンの正体がかつての好敵手、

喧嘩男(ケンカマン)」なのではないかと疑っている。

やがてそれは証明されるが、ネプチューンマンは正体を知られたことを理由ロビンマスクを殺そうとする。

ウォーズマンは師を助けるためにリングに上がるも技を決め損ね、ネプチューンマン仮面を外されてしまう。

彼の素顔を見た観客は衝撃を顔に浮かべ、ウォーズマンはなんとか仮面を奪い取って、再び顔に装着する。

彼が仮面を外され、再び装着するまでの間に挟まる以下のセリフは注目すべきだろう。



ネプチューンマン「(注:ウォーズマンに対し)醜い顔を隠すために覆面超人の道を選んだのであろう」

ロビンマスク「これ(注:仮面)をウォーズマンからとりあげることはあまり残酷だ!!」



ネプチューンマンウォーズマンの素顔を「醜い」と指摘したときロビンマスク特にそれを否定しない。

それどころか、仮面をつけずに戦い続けることはウォーズマンにとって残酷だと断定的に語る。

これはなぜか。ロビンマスクもやはりウォーズマンを醜いと感じ、

それでいて庇うこともせず受け入れているのだろうか。


当然そうではない。再び仮面をはぎ取られたウォーズマンロビンマスクに、

「だれかオレの顔を見て笑ってやしないか?」と問いかける。

そして、「だれも笑ってやしない」という言葉に安堵しながら命を落とすのである



この場面において我々が再確認しなければならないのは、

ウォーズマン自分のロボ超人としての素顔を見せること、

そしてそれを“笑われる”ことをいか忌避しているかということだ。


超人オリンピックのなかでロビンマスクウォーズマンに対し、

過去に過ごしてきた「くうものもくえず きるものもろくにない すさんだ生活」について指摘し、

ウォーズマンは当時の暮らしぶりを取り巻く貧困生活の困窮とを思い返し、それを恐れているかのように見える。

しかし、この時ウォーズマンが真に恐怖していたのは単なる生活苦ではなく、当時の自分が置かれていた立場

すなわち、周囲からいじめられ、疎まれ続ける「地獄生活」の中で精神的なダメージを与えられることだったのだ。



ロボ超人であることが理由で受けた誹りや嘲りは彼の心に未だ深く陰を落としていた。

アイドル超人として仲間たちと友情を深めようと、戦いを乗り越えようと、

その陰を完全には取り除けていなかったことが、この場面では悲しみと共に明らかになる。

彼の陰を知るロビンマスクウォーズマンから仮面を取り上げることを「残酷」だと指摘したのは、

仮面をつけずに生きていくことがウォーズマンにとって、自分がロボ超人であることを

突きつけられながら暮らすことと同義であると考えていたためではないだろうか。

彼はここで一度命を落とし、超人墓場で長く労働をすることになる。



それから少しの時が流れ、「キン肉マン24巻に始まる「王位争奪編」において

ウォーズマンキン肉マンとの再会を遂げる。

彼は超人墓場に追いやられたキン肉マン脱出させるために、

脱出必要な「生命の玉」と呼ばれる宝珠をキン肉マンに分け与えた後、

超人専門の医師であるドクターボンベに人工心臓をもらうことで生き返り、

自身墓場から生還成功する。

この時の手術のミスのせいで彼は一度ほぼ戦闘能力を失ってしまうが、

であるロビンマスク指導を受けることで戦闘技術回復

再び登場時のような残虐な戦い方へ、そこからクリーンな戦い方へ、と復活を遂げる。



この「王位争奪編」は、キン肉マンがキン肉星の王として戴冠する場面で幕を下ろした。

平和になった世界の中、ウォーズマンアイドル超人の一人として、

メディカルサスペンション」と呼ばれる特別治療を受けることになり、長らくの療養生活を送る。

そして順調に体力を回復した彼は、「完璧超人始祖編」で再びリングに立ち、

宇宙から襲来した「完璧超人」たちを迎え撃つことになるのである



しかし、ここで再び悲劇が起こる。ウォーズマンとその対戦相手

ポーラマンとの戦いの直前、ロビンマスクが命を落とすのだ。

対戦相手であった”完璧超人ネメシスロビンマスクを破った後、

塔状に組まれリングからその体を突き落とし、砂丘に埋めてしまう。

墓穴を掘る手間を省いてやったのだ」と語るネメシス言葉を聞き、

慟哭しながら懸命に砂を掘り起こすキン肉マンの姿は非常に印象的なものである



この場面において、ロビンマスクを失った悲しみをこれまでの感謝に代え、

続く戦いに向けて決意を固めていくキン肉マンと、

戦闘が始まろうとする中にあって敵に背を向け、

もはや姿の見えない師を思って涙をこぼすウォーズマンの姿は対置され、

ライバルとして出会ったキン肉マンロビンマスク

対して師匠弟子関係にあったウォーズマンロビンマスクとの関係の違いを示している。



その違いは続くポーラマンとの戦いからも読み取ることができる。

ウォーズマンはこの戦いの中でロビンマスクを失った悲しみから暴走し、自身の戦法を見失ってしまう。

テリーマンは彼を見て、普段の「計算され尽くしたクレバーな戦いぶり」とは逆の、

ガムシャラに向かっていくだけの戦闘本能の塊」のようだと口にするが、それも当然のことである


キン肉マンにとって、ロビンマスクあくま自分と共に成長していく超人の一人であり、

彼を失ったとしても彼はそれをバネに立ち上がって自分なりの戦いを続けることができる。

しかし、ウォーズマンにとってのロビンマスクは戦い方の土台や軸作りに大きく貢献した人物なのだ

結果として彼はここで師と共に育ててきた「計算」や「クレバーさ」を失い、

積み上げてきたものを一度壊すことになるのである



ポーラマンに追い詰められ、ウォーズマンは「オレの命などどうでもいい」、

「刺し違えてでもこの戦いに勝利しなければ…ロビンに合わせる顔がない」とまで言う。

ポーラマンは彼の様子を見て、恐怖心を持たず、

ひたすらプログラムとして戦い続けるだけの「ファイティングコンピューター」だと笑った。


その時、ウォーズマンリングロビンマスクの姿を見る。

実体のない、いわば幻影のような彼はウォーズマンにこう語りかける。

「お前はいつも自分のことをロボ超人だと気にしているようだが」

「私はおまえをロボだと思ったことは一度もない」


回想の中で、ロビンマスクウォーズマン攻撃の仕方を教えている。

森の中で木を次々と攻撃、倒していくウォーズマンだが、

もう少しで目標を達成するという時になってぴたりと攻撃の手を止めてしまう。

ロビンマスクは彼を叱りつけるが、よく見るとウォーズマン攻撃しようとしていた木の陰には子鹿がいる。

ウォーズマン意図に気付き嘆息するロビンマスクの前で、子鹿は森の奥へと駆けて行く…



そのような思い出を証拠に、ロビンマスクは続ける。

「おまえは血肉の通ったわが弟子だ」

「そのことに誇りを持てる超人になってほしい」



「オレハキカイナンカジャナイ」

師の言葉を聞いたウォーズマンは、こう言って立ち上がる。

彼の言葉はこの場面で、機械人間が何を基準として分けられるのか、

この場面において“機械である”ということが何を示すか、

そのような大きなテーマをも巻き込みながら読者の方を向く。



倒されかけたところからウォーズマンは再び立ち上がり、

普段のような冷静な戦いぶりを発揮するが、

その背後にある考えを、彼はこのように説明した。



「今までオレはロビンの恩に報いようとするあまり自分の命を捨てるつもりで戦っていた」

しかロビンはこんなオレに生きろと言った!」

「だからオレはもう死ぬために闘わない!」

「生きるために…ロビンがオレに託してくれた大事な魂を守るために闘う!」



この場面で機械人間の間に置かれるのは、

戦いの中にあって「生きる」ために奮闘することはできるか、

また相手を「生かす」ことを考えられるか、ということである

ロビンマスクとの練習中、子鹿を逃がし、

「生かす」ことを考えていた時点でウォーズマン

作中における「機械」の定義を脱していたことになるが、

自身が「機械でない」との自覚もつにはまだ足りないものがあった。



それが、ロビンマスクウォーズマンに伝えた、「誇り」である

彼は自分という存在に誇りをもって初めて、

体は機械であっても心までは機械でないと宣言できるようになった。

「オレハキカイナンカジャナイ」、

そう宣言する彼の言葉があえて機械的にカタカナ表記されているのは、

あくまでも彼の体は機械でできているが、“それでも”」、という

“それでも”の先、逆説のその先を読者に想像させるためではなかったか



ここで物語は、生まれ持った肉体の性質を変えることはできないけれど、

心は変えることができるのだと我々に伝えるが、

これは奇しくも「超人オリンピック編」の中、

残虐超人として現れたウォーズマン正義に目覚め、

アイドル超人に加わったときと同様のメッセージである



そして、「友情」と「信じる心」をもって自身の体の欠点

すなわち活動限界存在を乗り越えてポーラマンを倒した後、

彼は自分がロボ超人であることを以下のように語る。



ロビンはオレのなかで永久に生き続ける このオレが死なない限り

それが寿命のない 半分機械でできた超人のいいところだ」



幼少のころ、自身を「地獄生活」に追い込んだロボットの体に対する複雑な思い

――憎しみ、悲しみ、怒り――、

それをロビンマスクが与えた誇りによって乗り越え、肯定することに、

ウォーズマンはこの場面でついに成功するのである



最終決戦としておかれたネメシス戦の直前、

ウォーズマンは自らの師を倒したネメシス報復することなく、

その立場キン肉マンに譲る。



弱気キン肉マンの自信のなさに対してウォーズマンは一度、

「半分機械からオレにはわからないのか」と口にするが、

すぐにその発言を打ち消し、「生身である半分」では理解できると語る。

自分人間的な面と機械的な面の双方を理解した彼はここで、

ロボ超人である自分理解するとともにしっかりと受け入れている。



ポーラマン戦で彼は、「超人オリンピック編」を彷彿とさせる雷雨の中、

ポーラマンマスクをはぎ取られ、

「醜いツラだ」、「みんなおまえのツラをみて笑っているぜ」と嘲笑されるが、

彼はその言葉を「それがどうした」と打ち消し、師のために戦いを続ける。



自分の顔を見られること、

そして笑われることを臨終の間際にすら恐れていたあの彼はもはや存在しない。

ロビンマスクを失った代わりに自分のロボの体に誇りを持ち、

敵を「生かし」、自分を「生かす」ことに注力する。

ウォーズマンは変わったのである



キン肉マン」という物語においては、「人は変わる」ということが繰り返し語られる。

正義の側から悪の側へ、反対に悪から正義へ、

そしてそれを超越する新たな勢力へと超人たちはその立場を次々と転じ、

その度に誰かが喜んだり悲しんだりする。

それがウォーズマンにおいて特に顕著に現れるのは彼自身が、

自分の”機械的”な外見を誰よりも気にしていたからだ。



から敬遠されるのは嫌だ、疎まれるのも怖がられるのも嫌だ。

しかし、生まれ持った体だけはどうしても変えることができない。

そんな葛藤劣等感、「変わる」ということに向けた諦観交じりの強い欲求

ウォーズマンは常に抱えているが、

そのような「変わらない」ロボットの体が他方、

物語を通した彼の精神的な成長を浮き彫りにしてもいるのだ。



今の彼は逃れようのないものに対して抗うことをせず、

かに受け入れるだけの強さを持っている。

そして、その強さが一朝一夕に獲得されたものでないと知っているからこそ、

我々はウォーズマンという超人に、より一層強く魅きつけられるのではないだろうか。

2018-06-26

Hagex-day.Infoが「故人サイト」になってしまたことを受け入れられない

「故人サイト」という本がある。

 慣れ親しんだブログサイトが突然更新されなくなっても、多くの場合理由など分からないが、その本に出てくるサイトは、タイトル通り、管理人の死去によって「故人サイト」になったものばかりである

 例えば主が病没した場合家族などがその旨を報告すれば、読者は悲しいけれどブログ主との別れを受容することになる。

 刑事事件や不慮の事故海外旅行先の病気などで命を落とされても、報道された人物と、ブログに綴られた情報とのシンクロに誰かが気づくことによって、多くの読者がブログ終焉理由を知るに至るケースもある。

 まさか、私が最も長い期間読んでいたブログが、これ以上ない衝撃的な形で、NHKトップニュースになるような(6/26朝)経緯で、「故人サイト」の仲間入りをしてしまうなんて。


 6月25日朝7時、いつものように「Hagex-day.Info」をチェック。更新されていない。予約投稿であろう「本日一曲」もない。

 いつだったか、数日単位更新がなかったときは、「Hagex心配する人の声まとめ」みたいなのもできる位マメに、精力的に更新されていたブログなのだが、朝イチでは更新されていないことは時にあるので、この時点ではいもの朝だった。

 25日の朝9時前、Twitterトレンドに「hagex」を発見し、「へ~、何で?」と見に行ってみたら、とても信じられない、悪夢のような文字が。字は読める、意味は分かるのだが頭が理解しなかった。

 確かに地元福岡で24日夜に勉強会をする旨を彼は告知していたが、まさか

 Twitterで「この被害者Hagexさんでは」という書き込みを読み進め、「福岡セミナー講師が刺された」「講師とはHagexさんだったらしい」ということは飲み込めたが、「刺殺」ってなんだ。もう生きてないのか、死んじゃったのか。

 どうしても飲み込めなかった。とてもじゃないが咀嚼できる情報じゃなかった。

 刺された人がいたとしても、「人違いでした」というオチ絶対にあると思っていた(”ロング・グッドバイ”みたいに、仕組まれ替え玉じゃないか…と。代わりに死ぬ人がいなければ成立しない、酷い願望なのに本気で考えた)。

 タブレットに表示されたHagexさんのお顔、お名前、知りたくなかった。知る必要なんてなかった。Hagexさんが自ら開示されるならともかく、いったい誰が、こんな形で彼の素顔を知りたいと考えるだろうか。

 25日は他の事が手につかなかった。たまたま仕事を休んでいたのは幸いだった。26日の朝も、目覚めてすぐに「あれは夢だったのでは?」と思った。

 

 夢ではなかった。


 Hagexさんのブログは04年4月から始まったらしい。

 私が読み始めたのはいつ頃だっけ?と、記憶に残る最も古い記事検索してみたら05年のこれ。

  http://hagex.hatenadiary.jp/entry/20050813/p1

 この少し前から読み始めていると思うので、約14年間の「Hagex-day.Info」の歴史のうち、約13年間、ほぼ毎日読み続けていたことになる。

 きっかけは発言小町だったと思う。

 その頃よく発言小町を読んでいたのだけど、Hagexさんやトピシュさんの言うところの「もやもや」を抱くことが多い。

 「いや、これ創作でしょ」「これ、トピ主が変でしょ」等々、突っ込みを入れて楽しみたかった私が見つけたのが「Hagex-day.Info」だったのだ。

 その他、発言小町まとめサイト複数あったのだけど、小町運営会社から抗議があったらしく、ある時期に全てなくなってしまった。

 Hagexさんも、「小町運営会社からはてな削除依頼があったが、削除依頼があってもきちんとユーザーサイドの意見を聞いてくれるのは大変嬉しかった。」と仰っていた。

 その後、ブログ批判したサイト運営会社から名誉毀損信用毀損」を理由削除要請があった際も、即削除することなく、ユーザー意見を聞いてくれたはてなに対し、「ユーザーに対して誠実な対応をしてくれた、はてな感謝!」と綴られている。

 それらを読んでいたので、私も「はてな」には良い印象を持っていた。


 Hagexさんのブログ、ごく初期は普通日記、その後は発言小町から抜粋発言小町から転載が禁じられて以降は2ちゃんねるからコピペが多くの割合を占める。

 事件で初めてHagexさんのブログを訪れた人は、「ただのまとめサイト管理人じゃん。何を騒ぐことがあるのか」と思ったりするのだろうか。

 そういう方(はてなにそんな人はいいか…)は、是非右側の「人気記事」に並ぶエントリークリックしてほしい。特にFacebookバカばかり」とか。

 私は、2ちゃんから転載別に嫌いじゃないし、読み物として読んでいた。面白いと思ったものブックマークもした。

 しばらくの間は、「Hagexさんは、時折投入する渾身のエントリーをより多くの人に読んでもらうために、せっせとまとめサイト的な投稿をしてるのだろう」と思っていたのだけど、「三度の飯よりインターネットが大好き」な彼は、まとめ的投稿結構楽しんでいるのだろう、と考えるようになった。

 でも、Hagexさんの真骨頂は、やはり時折アップされる舌鋒鋭いネット批評

 Hagexさんのお蔭で、仕事子育てに追われる私も、「デマは怖い。デマは、面倒でも火消ししなければすぐに広がってしまう」とか、「これ、掘って行ったらココと繋がるのか。やばいよね」等、ネットと、それに連なる世間の怖さを垣間見ることができた気がする。

 あるいは、TwitterRTされてきて、「何これ、こんな安い話によく食いつくよね」と鼻白む思いで見たサイトが、Hagexさんによってコテンパンに貶されているのを読んでスッキリしたり。

 「“落としどころ”なんて言葉はオレの辞書にはない」と言わんばかりの、どこまでもしつこく、容赦ない筆致に、「これ、食いつかれたら大変だわ…」と嘆息することもしばしばだった。

 一方、Hagexさんの映画音楽評は実にユーモラスで、「観て(聴いて)みようかな」と思わせるものだった。Hagexさんのエントリーが切っ掛けで観た映画は少なくない。

 その中でも最も素晴らしく、紹介してくれたHagexさんに感謝しているのは「ザ・フォール 落下の王国である

 ハゲ子の社畜ぶりを自嘲するエントリー最近飼い始めた「猫先生」を含む、Hagexさんの身辺雑記も楽しかった。

 そういえば、「古本屋さんで買った本にかなり昔の写真が入っていた。アップしたら持ち主が見つかるかな?」というエントリー写真とともにアップされていたこともあった。「写真、アップしちゃって大丈夫?」と思う一方、「Hagexさんロマンチストなのかな」と微笑ましく感じたエピソードだった。


 Hagexさんは福岡出身で、貶しながらもこよなく故郷博多弁を愛していること、タバコが大嫌いなこと、小児を性の対象にする行為断じてさないこと(当たり前の事ではあるけど、これに関しては殊に強いHagexさんの意思を感じた。)など、ブログを通じてHagexさんの人となりが、断片的にだけど見えてきたような気もしていた。



 そんなHagexさんが、故郷で開催する初めての勉強会、その終了直後に問答無用で殺されてしまうなんて。

 あれほどネット上の戦いに精通し、危機管理に自信を持っていたように見えた彼が、理不尽暴力の前にはあまりにも無力だった(というか、誰だって無力だ)。

 Hagexさんは、容疑者とされる人物が、自分と同郷だということを知っていたのだろうか。


 酷すぎて、酷すぎて。

 使い古された言葉だけど、これまでの人生で使う機会もなかった言葉だけど、「神も仏もないものか」という叫びが、私の中で暴れ続けている。

 心中で叫ぶだけでは、やりきれなくて辛いので、心の赴くままにだらだらと綴ったのがこのエントリーです。

 東京で行われた一回目の勉強会結構本気で行きたかったのだが、幼い子を持つ身なので諦めていた。「これから勉強会を定例化するのであれば、いつか行く機会もあるだろう」と思っていたが、その機会はもう訪れない。私はHagexさんに会えない。

 「落下の王国、素晴らしくてソフトも買っちゃいました!」と、なぜコメントを入れなかったのか。

 明日明後日も、ずっと続くはずの日常は、いとも簡単に、あっけなく断ち切られるものでもある。その理不尽さに、恥ずかしながらこの歳になって初めて接した気がする。

 十数年の間、ブログへのアクセスが毎朝の日課だったので、今朝もつアクセスしてしまった。「注目記事」のトップにある記事タイトルにまた悲しい気持ちになる。

 「お前は一体彼の何だからこんなに湿っぽい記事をアップするのだ」と問われれば、「スミマセン、コメントも1~2度つけただけの一読者です」としか言えないのだけど、「それなのに、どうしてこんなに辛いのかな、悲しいのかな。」と自問自答しながら、べそべそと泣きながら、Hagexさんにこの駄文を捧げます


 日常どころか人生を、あっという間に断ち切られてしまったHagexさんはどれほど無念だろう。「安らかに」なんて白々しく言える心境じゃない…と思いつつも、それでもHagexさんの眠りが安らかであることを祈らずにはいられない。

「長い間、本当にありがとうございました。どうか安らかにお眠りください」

2018-05-18

デレマスをやめてミリマスPになったという話1

馬鹿なので文字数制限に気付かなかった。他に尻切れトンボの変なものが残ってるが、改めて分割投下とする

はじめに

はてな匿名ダイアリーに書く、つまり俺の話を皆にも聞いて欲しい、だが発言者としての責任は負いたくないという時点で

うそれが碌でもない文章なのは半ば明らかというものだ。

実際この文章にはデレとミリ対立煽り的な側面があると思う。

まりそういうのが嫌な真っ当なデレP(嫌味ではなく、心の底からそう思う。この文章を書いた増田は完全な碌でなしだ)はここで読むのをやめたほうがいいだろうということだ。

ではさっさと本題を始めることにする。まあ生産性皆無の愚痴自分語りなのだが…

自分デレマス歴、或いはデレマスをやめるに至る経緯

まず最初に言っておくが、自分デレマスをやめたのはPがどうのこうの、声優がどうのこうのとかいう外的な要因ではない。

デレはそういうきな臭い話がちょいちょいあるが、そんなこと露程も気にならなかった。

総選挙もやる度に相当の量の怨嗟が溢れてるが、結局辞めるまで完全に対岸の火事気分だった

(後で分かるが、実はこれは自分デレマスを辞めた要因の一つの表れである。いつも総選挙怨嗟を吐き出してるデレPとは、しかし全く真逆の要因だ)

自分はデレアから入った。厳密には愚かな増田なのでデレアニ終わってデレステが始まった時にはガラケーしか持っておらず

しばらく経ってようやく自分の愚かさを認めてスマホに換えた時、デレアニ楽しかったなぁとデレステを入れたというものだ。

二度目になるがこの増田は愚かなので家にWifiがなく、スマホ回線ケチってクソ細いのを使っていたため、リセマラも大してせずにSRで始めることになった。

最初は楽しかった。今でも音ゲーってのはソシャゲとして非常に優れた形式だと思っている。

理不尽な運任せということにも基本的には(いやデレステにも運任せになる形式はあるが)ならないし、カードの性能が壊れだの産廃だので騒ぎになることもそうそうない。

(何の因果かしらないが、この二つは往々にして同じゲームで同時に発生する)

ボーダー運営が適切に設定すれば、真面目にやったやつが報われるというやさしい世界だ。

実際、モバマスは垢作って最初SR引いただけで後は何もしていない。まあ過去羅生門時代の話を聞いて尻込みしたというのもあるだろうが。

イベ曲も楽しかった。カードの性能なんかどうでもいいと先に言ったことでも分かるように、この増田音ゲーは大して上手くない。

しか回復ダメSRを積むというやり方を学んだので、イベ曲ならMASTERも普通にクリアできた。

ガシャも引いた。結局辞めるまで課金はしなかった。10連1回分でFallout4本体の値段と同じことは忘れるべきじゃない

しかし、これも後で分かるが自分デレマスを辞めた要因の一つの表れである。)

無償ジュエルでやる分にはガシャというのは楽しいものだ。そら勿論理不尽な運ゲーではあるが、10連1回引くのには30秒もかからない

10分も15分もかけてプレイして結局運が悪くてダメ、なんていうのよりは遥かにストレスフリー

コンシューマならセーブロードストレスを最小限化できるだろうが、ソシャゲでそんなことしたら即BANだろう。

無論引いたのはフェスの時だ。1回めはジュエルが足りなくてフェス限は引けなかったが

2回めはそれに備えてジュエルを溜め、フェス限3枚の内2枚を取れた。最後までこの2枚は自ユニットセンターとして活躍することになる。

しかしその内マンネリ化し始めた。音ゲー上手くないのでMASTERフルコンとか一番簡単譜面でまぐれで出来るぐらいだ。

普通にやればスコアSは出る。フルコンは完全なるまぐれ。つまるところ音ゲーやるのが作業化してしまったのだ。

まあデレステは優しいゲームなので、とりあえずイベSRコンプしようというのがモチベになった。そこからも割と続いたのだ。

で、確かYPTイベだったと思う。気を抜いて最後追い込みかけるのを忘れてしまったのだ。で、上位SRは取れなかったのだ。

そこで完全に燃え尽きてしまった。デレステをやる頻度は減り、今やキャッシュまで削除して無償10連ある度にデータDLして起動、という有様だ。

なぜ自分デレマスをやめるに至ったのかの原因分析という名の言い訳

さてここまではこの増田以外には何の意味もない自分語りだったが、もうちょっと抽象化して思考をして見ようと思う。

一般論とは到底言えないような代物になるだろうが、流石にこれで終わりでは文章を書く労力にも見合わないというものだ。

で、考えてみたのだが、大きく二つの理由があると思う。

一つは半ばは俺のせいで半ばは運営のせい、もう一つは外的要因というか、どうしようもない現実が一つ(ただ究極的には運営のせいとは言える)だ。

担当アイドルの不在

まず最初のものだが、要は自分担当アイドルをついぞ見つけられなかったのだ。

先に始めて2回目のフェスフェス限を2枚引けたといったが、天井ができてから担当が出来た時のためにひたすらジュエルを溜めていたのだ。

だがついぞ担当のできることはなかった。課金しなかった、総選挙に興味がなかったというのものそのせいだ。

まあ単純な話である。多分殆どのデレPは自分担当のためにゲーム課金し、総選挙マーケティングしているのだろう。

担当がいなければモチベが続かないのも当たり前の話だ。

だが、それは自分デレマスに入ったルートがデレアニ経由だったこともあると思う。具体的に言えば武内Pだ。

いや、武内PダメなPだったからというわけではない。

彼は少々口下手ではあるが、誠実で、何よりアイドルプロデュースする強い情熱を持った魅力的なキャラクターだ。

まさにそうだからこそ問題なのだキャラが立ちすぎていて、あれが自分だとはどうしても思えなかったのだ。

アニマスのバネPはそうではなかった。好青年ではあったが、どこまでもプレーンで、キャラが薄かった。自分分身として見ることができたのだ。

(参考までに言っておけば、SideMアニメ石川Pも、野郎なのに長髪というアレな所があったにも関わらず、自分分身として感情移入できた

優しいが無個性な顔立ちと、やはり石川くんの癖のない優しい演技のお陰だったろう。

念のため言っておくが自分武内くんのことも好きである最近のイキってる風にも取られかねない態度も含めてであるアーティストなんてあれぐらいやってなんぼだ。)

俺TUEEE系だの散々バカにされてきたが、ギャルゲゲームであるアイマス於いて主人公感情移入できるかどうかは重要問題だと思う。

ここまで言ってなんだが、武内PとバネPの違いはいい悪いの問題ではないと思う。それはあくま製作者の判断に過ぎないし、創作としてその判断尊重されるべきだ。

ただあのアニメを経由したことが、ついぞ自分がPであるという自覚を持ちきれなかった要因の一つなのは確かだと思う。

そしてミリマスを始めていや増しになっていった想いなのだが、デレマスアイドルキャラって薄っぺらくないか?ということだ。

これは多分俺だけの思い込みではないと信じているのだが、デレマスアイドルというのはコンセプト先行だと思う。

森ガールドSヤンデレパン狂、ドーナッツ狂…そういうのがいっぱいいる。その中には正直頭おかしいのかというようなやつもいっぱいいる。

そしてキャラを深める段になると、実はこの子はこんなイカれたキャラの様に思えますが実は普通女の子ですよ

こんなダメな子の様に思えますけどやればできる子なんですよと来る。

それで終いである。そこから話が広がっていかない。いやイベコミュには出てくるが、そのキャラが動いている以外の感想が出てこない。

というか変なキャラクター性で売り出したのに実はそうじゃなくてっておかしくないか

確か「普通じゃないキャラでもそれでいいってはずだったのに、みんな普通女の子にされてしまった。それは否定と同じことだ。今のデレステおかしい。」

って内容をやたらポエティックな文体告発していた増田がいた記憶がある。

ミリマスは(ああ始まった対立煽りだとこの文章を書いている増田もそう思って嘆息している)そうではない。

例えば天空橋朋花というアイドルがいる。しばしば財前時子と同じドSキャラとして扱われるが、財前時子は21だがこの子はまだ若干15歳である

15歳がSMクラブに出入りしていたら当人性格や態度がどうであれ速攻補導である。Pへの態度も完全な下僕というよりは小悪魔的と言ったほうがいいものだ。

そのうち水族館でキャッキャしていたり、草花を眺めながらニコニコしている絵が出てくる。あれこいつ本当にSなのか?となってくる。

最終的にはこの子はいつの間にか女王様的な立場祭り上げられてその立場を健気にこなしているだけの年相応の少女なのではないか?という結論になってくるのだ。

しかも以上の推測は、あくまで推測でしかない。答えは未だに公式から提示されていないのだ。全て完全なる俺の妄想である可能性も十分にありえるのである

自分が求めているのはこういうキャラの深さである。「実は…」とかではない、もっと微妙で繊細で、一言では言い表せない人間性の襞なのだ

からこそ、自分担当し、向き合い、追求する価値があるのだ。

(ここまで言っといてなんだが、自分は朋花Pではない。まあスカチケで次の次ぐらいに彼女SSRが欲しいと思うぐらいには好きだが)

じゃあデレにそういうアイドルはいるかと聞かれると、いると思う。島村卯月渋谷凛本田未央…ようはデレアニで繊細に描かれた面々である

特に渋谷凛の、思春期自分は何者なのか?という言いようのない不安定感、実にいいではないか

じゃあ彼女たちを担当すればいいじゃない!と言われるかもしれないが残念ながらそれはできない。

彼女自分の中であまりにデレアニと強く結びつきすぎているのだ。要はデレステキャラじゃなくて、デレアニのキャラになってしまっているのだ。

じゃあ二次創作補給すればいいじゃないかという言に対しては、それは違うと断言できる。

二次創作とは、作者当人が如何にそのキャラを愛していたとしても、基本的には作者がそのキャラを使ってやるお人形遊び以上のものではないことが殆どだ。

キャラ内面にまで切り込んだ二次創作というのは本当に少ない。それはデレマスに限らずそうだ。当然ミリマスでも少ない。ほぼないかもしれない。

要はキャラに新たなエピソードを付け加えることは出来ても、新たなイデアを付け加えることな不可能なのだ

いやまあ当然の話だ。そもそもそれは公式しかできない聖なる行為なのだから

まあ話は長くなったが、デレマスでは担当を見つけられなかったがミリマスでは見つけられた。要はそういうことだ。

過半は運営のせいと言ったが、やはり俺自身のせいなのだろう。

アイドルが多すぎる

もう一つの理由を端的にまとめるとこうなる。少なくともデレマスアイドルが多すぎるのがこの増田のせいでないことだけは間違いないだろう。

だが具体的に書くと、もうちょっと違う風になる。つまり「興味のないアイドルデレステに出てきすぎてコンプモチベがダダ下がりした」だ。

ほうら、これで一気にこの増田性格がクソなせいだとなった。やっぱりな(呆れ)まあ結局そういうことである

というかこの一言で声ありPの半分を敵に回したようなもんだろう。やっぱりこんなことを自分の名を出して言えたもんではない。

先で担当はいないと言ったが、好きなアイドルは何人もいた。俗に言う「全部推し」に近いやつだろう。しかデレマス200人近くいるその「全部」ではなかったのだ

だが……これを表で堂々と言うと袋叩きの目に遭うから口を謹んでるだけで、正直大なり小なり似たようなことを思っているやつは他にも結構いるのではないだろうか。

今回のガシャこそ、今回のイベこそ担当SSR、イベ報酬だ!と待ち構えていたら、どこの馬の骨とも知らんやつが出てきたとか、正直そんな経験がないと断言できるか?

正直デレマスアイドル推しなんか物理的に不可能だと思う。まず全員の名前と顔を一致させてどちらか出されたらもう一方を即座に思い浮かべられるだけで相当なもんだろう。

更にデレマスでこれに輪をかけてアレなのは「明らかに不快生理的に無理なアイドルがいる」ということである

"自分場合"(ここは強調しておく、この増田の心が哀れなほど狭いということでもあるからだ)例として上げると、さっき出たパン狂いアイドル大原みちるである

パン狂いでも、日がなオシャンティーイタリア風だかフランス風だかのパン屋に通い、

オランジーナを飲みながら聞かれもしないのにパンの薀蓄を滔々と語る面倒くさい女ならまだやりようがあったろう。

だが現実は、パンガツガツ喰らう、いかにも頭の悪そうなブスという絵である

正直どう好きになれという話である。いやこういうタイプを好きになる男がいるのも分かるが、俺は無理である

というか、このコンセプトにこのキャラ絵を渡されて魅力的なキャラしろと言われたら俺は頭を抱えるだろう。

正直彼女についてはそれをさせられた運営が気の毒ですらある。いや、コンセプトと絵を作ったのも運営から自業自得なのだが。

まあ上の話は多分にこの増田個人的な好悪だ。

松原早耶とか他にもそういうアイドルはいたが、話を進める上で例として上げただけで、必要以上に貶める必要はないし、何より彼女らのPに申し訳ない

(奇妙なことだが、これもこの増田本心であるいかに人に優しくあろうとしてもやはり好き嫌いだけはどうしようもないものがあるのだと思う)

というわけでもっと一般的な例を上げる。これも上に出てきた財前時子だ。

彼女は完全無欠の女王様キャラだ。Pにデレることなど一切ない。常に下僕として扱う。登場以来それがブレたことはまったくない。

実際それはまこと素晴らしいことと自分も思うのだが、じゃあ皆が皆下僕になれるのか?と言われると、それはNOと言っていいと思う。

何が言いたいかというと、コンセプトの時点で致命的にダメ、或いは人を選びすぎて

もう修正しようのないアイドルデレマスには沢山いるのではないかということだ。

「明らかに不快生理的に無理」というタイプ以外にこれに関わってくるのは「キャラとして全然面白くなくて興味も持てない」というタイプである

具体例は、残念ながら挙げられない。なぜならそういうアイドルそもそも覚えられないからだ。そういう点でこっちの方がある意味タチの悪いタイプだと思う。

後半は、というか最初からそうだったが、そういうのをコンプのために取らなきゃいけないのが苦痛しょうがなかった。

コンプなんか辞めりゃいいだろ馬鹿と言われれば、まさにそうなのだが、担当がいなかったのでこれしかモチベがなかったのだ。

YPTイベまでだったから、まだイベSRの復刻がなかったのもの大きかっただろう。まあ今さら復刻取りに行こうとも思わんが。)

自分は声なしアイドルの、はっきり言って半分ぐらいをそういうのに分類している。(上述の通り正確な数なんか分からんが印象として)

レアから入った人間からレアニに出てたアイドルしかきじゃないんだろうと言われるかもしれないが、自己分析してみるとどうもそうでもない。

例えば佐藤心さんとかは好きである。多分に花守ゆみり姉貴の芸が凄いというのもあるがそれを差し引いても好きと言っていいだろう。

それゆみり姉貴とBMBのせいだろうと言われそうだし、実際自分でもそんな気がしてきたから、もう一つ上げる。鷹富士茄子である

今度声が付いたからだろうと言われるかもだが、これはいつぞやの限定で変なセンタースキルSSR茄子さんが出てきた時に引きに行ったか

声の有り無しは関係ない。いや、じゃあなぜって言われたら完全に面食いで我ながら笑えてくるのだが、まあ例としてはこれで大丈夫なはずだ。

(その時はなぜか10連一発目で引けてしまい、更に焼けばちで10連したらその時一緒に出ていたかな子の限定やらまで出てしまった。

ミリ担当が出た時は大いに苦しむ羽目になっていたから仏様というものはやはりちゃんと見ているのである。)

そしてそういう興味がある方の半分の声なしにここまで色々と声が付いてきたように思う。

はっきり言ってしまえば、そういうコンセプトからダメアイドルを量産してしまったのは間違いなく運営責任だろう。

アイドルを減らせと言っている手合も時々見るがアイマスにおいてそれはあり得ない決断である

竜宮小町プロデュースできなくなった時に起こったことをPなら知らないはずがあるまい。

からこそアイドルもっと慎重に作らなければならなかったのだ。

ミリマスが出来る際、アイドルもっと増やせとの上の命に元ディレ1が必至に抵抗したのも当然のことだろう。

(どうでもいいが、ディレ1の顔が年老いライオンみたいに見えるなと思うのは自分だけだろうか。昔は金髪だったし)

要は構造問題なのである解決もできないし、このままどうしようもないコンセプトをなんとかしてものにするしかない。

まあでもそれは運営の話であり、俺達の話ではない。寸法の狂ったプラモを渡されて自分でどうにかして完成させるほど暇でもないのだ。

そういうわけでこの増田運営立場に同情を覚えつつもデレマスを去ったのだ。

続きはそのままデレマスをやめてミリマスPになったという話2だから物好きは探してくれ

デレマスをやめてミリマスPになったという話

はじめに

はてな匿名ダイアリーに書く、つまり俺の話を皆にも聞いて欲しい、だが発言者としての責任は負いたくないという時点で

うそれが碌でもない文章なのは半ば明らかというものだ。

実際この文章にはデレとミリ対立煽り的な側面があると思う。

まりそういうのが嫌な真っ当なデレP(嫌味ではなく、心の底からそう思う。この文章を書いた増田は完全な碌でなしだ)はここで読むのをやめたほうがいいだろうということだ。

ではさっさと本題を始めることにする。まあ生産性皆無の愚痴自分語りなのだが…

自分デレマス歴、或いはデレマスをやめるに至る経緯

まず最初に言っておくが、自分デレマスをやめたのはPがどうのこうの、声優がどうのこうのとかいう外的な要因ではない。

デレはそういうきな臭い話がちょいちょいあるが、そんなこと露程も気にならなかった。

総選挙もやる度に相当の量の怨嗟が溢れてるが、結局辞めるまで完全に対岸の火事気分だった

(後で分かるが、実はこれは自分デレマスを辞めた要因の一つの表れである。いつも総選挙怨嗟を吐き出してるデレPとは、しかし全く真逆の要因だ)

自分はデレアから入った。厳密には愚かな増田なのでデレアニ終わってデレステが始まった時にはガラケーしか持っておらず

しばらく経ってようやく自分の愚かさを認めてスマホに換えた時、デレアニ楽しかったなぁとデレステを入れたというものだ。

二度目になるがこの増田は愚かなので家にWifiがなく、スマホ回線ケチってクソ細いのを使っていたため、リセマラも大してせずにSRで始めることになった。

最初は楽しかった。今でも音ゲーってのはソシャゲとして非常に優れた形式だと思っている。

理不尽な運任せということにも基本的には(いやデレステにも運任せになる形式はあるが)ならないし、カードの性能が壊れだの産廃だので騒ぎになることもそうそうない。

(何の因果かしらないが、この二つは往々にして同じゲームで同時に発生する)

ボーダー運営が適切に設定すれば、真面目にやったやつが報われるというやさしい世界だ。

実際、モバマスは垢作って最初SR引いただけで後は何もしていない。まあ過去羅生門時代の話を聞いて尻込みしたというのもあるだろうが。

イベ曲も楽しかった。カードの性能なんかどうでもいいと先に言ったことでも分かるように、この増田音ゲーは大して上手くない。

しか回復ダメSRを積むというやり方を学んだので、イベ曲ならMASTERも普通にクリアできた。

ガシャも引いた。結局辞めるまで課金はしなかった。10連1回分でFallout4本体の値段と同じことは忘れるべきじゃない

しかし、これも後で分かるが自分デレマスを辞めた要因の一つの表れである。)

無償ジュエルでやる分にはガシャというのは楽しいものだ。そら勿論理不尽な運ゲーではあるが、10連1回引くのには30秒もかからない

10分も15分もかけてプレイして結局運が悪くてダメ、なんていうのよりは遥かにストレスフリー

コンシューマならセーブロードストレスを最小限化できるだろうが、ソシャゲでそんなことしたら即BANだろう。

無論引いたのはフェスの時だ。1回めはジュエルが足りなくてフェス限は引けなかったが

2回めはそれに備えてジュエルを溜め、フェス限3枚の内2枚を取れた。最後までこの2枚は自ユニットセンターとして活躍することになる。

しかしその内マンネリ化し始めた。音ゲー上手くないのでMASTERフルコンとか一番簡単譜面でまぐれで出来るぐらいだ。

普通にやればスコアSは出る。フルコンは完全なるまぐれ。つまるところ音ゲーやるのが作業化してしまったのだ。

まあデレステは優しいゲームなので、とりあえずイベSRコンプしようというのがモチベになった。そこからも割と続いたのだ。

で、確かYPTイベだったと思う。気を抜いて最後追い込みかけるのを忘れてしまったのだ。で、上位SRは取れなかったのだ。

そこで完全に燃え尽きてしまった。デレステをやる頻度は減り、今やキャッシュまで削除して無償10連ある度にデータDLして起動、という有様だ。

なぜ自分デレマスをやめるに至ったのかの原因分析という名の言い訳

さてここまではこの増田以外には何の意味もない自分語りだったが、もうちょっと抽象化して思考をして見ようと思う。

一般論とは到底言えないような代物になるだろうが、流石にこれで終わりでは文章を書く労力にも見合わないというものだ。

で、考えてみたのだが、大きく二つの理由があると思う。

一つは半ばは俺のせいで半ばは運営のせい、もう一つは外的要因というか、どうしようもない現実が一つ(ただ究極的には運営のせいとは言える)だ。

担当アイドルの不在

まず最初のものだが、要は自分担当アイドルをついぞ見つけられなかったのだ。

先に始めて2回目のフェスフェス限を2枚引けたといったが、天井ができてから担当が出来た時のためにひたすらジュエルを溜めていたのだ。

だがついぞ担当のできることはなかった。課金しなかった、総選挙に興味がなかったというのものそのせいだ。

まあ単純な話である。多分殆どのデレPは自分担当のためにゲーム課金し、総選挙マーケティングしているのだろう。

担当がいなければモチベが続かないのも当たり前の話だ。

だが、それは自分デレマスに入ったルートがデレアニ経由だったこともあると思う。具体的に言えば武内Pだ。

いや、武内PダメなPだったからというわけではない。

彼は少々口下手ではあるが、誠実で、何よりアイドルプロデュースする強い情熱を持った魅力的なキャラクターだ。

まさにそうだからこそ問題なのだキャラが立ちすぎていて、あれが自分だとはどうしても思えなかったのだ。

アニマスのバネPはそうではなかった。好青年ではあったが、どこまでもプレーンで、キャラが薄かった。自分分身として見ることができたのだ。

(参考までに言っておけば、SideMアニメ石川Pも、野郎なのに長髪というアレな所があったにも関わらず、自分分身として感情移入できた

優しいが無個性な顔立ちと、やはり石川くんの癖のない優しい演技のお陰だったろう。

念のため言っておくが自分武内くんのことも好きである最近のイキってる風にも取られかねない態度も含めてであるアーティストなんてあれぐらいやってなんぼだ。)

俺TUEEE系だの散々バカにされてきたが、ギャルゲゲームであるアイマス於いて主人公感情移入できるかどうかは重要問題だと思う。

ここまで言ってなんだが、武内PとバネPの違いはいい悪いの問題ではないと思う。それはあくま製作者の判断に過ぎないし、創作としてその判断尊重されるべきだ。

ただあのアニメを経由したことが、ついぞ自分がPであるという自覚を持ちきれなかった要因の一つなのは確かだと思う。

そしてミリマスを始めていや増しになっていった想いなのだが、デレマスアイドルキャラって薄っぺらくないか?ということだ。

これは多分俺だけの思い込みではないと信じているのだが、デレマスアイドルというのはコンセプト先行だと思う。

森ガールドSヤンデレパン狂、ドーナッツ狂…そういうのがいっぱいいる。その中には正直頭おかしいのかというようなやつもいっぱいいる。

そしてキャラを深める段になると、実はこの子はこんなイカれたキャラの様に思えますが実は普通女の子ですよ

こんなダメな子の様に思えますけどやればできる子なんですよと来る。

それで終いである。そこから話が広がっていかない。いやイベコミュには出てくるが、そのキャラが動いている以外の感想が出てこない。

というか変なキャラクター性で売り出したのに実はそうじゃなくてっておかしくないか

確か「普通じゃないキャラでもそれでいいってはずだったのに、みんな普通女の子にされてしまった。それは否定と同じことだ。今のデレステおかしい。」

って内容をやたらポエティックな文体告発していた増田がいた記憶がある。

ミリマスは(ああ始まった対立煽りだとこの文章を書いている増田もそう思って嘆息している)そうではない。

例えば天空橋朋花というアイドルがいる。しばしば財前時子と同じドSキャラとして扱われるが、財前時子は21だがこの子はまだ若干15歳である

15歳がSMクラブに出入りしていたら当人性格や態度がどうであれ速攻補導である。Pへの態度も完全な下僕というよりは小悪魔的と言ったほうがいいものだ。

そのうち水族館でキャッキャしていたり、草花を眺めながらニコニコしている絵が出てくる。あれこいつ本当にSなのか?となってくる。

最終的にはこの子はいつの間にか女王様的な立場祭り上げられてその立場を健気にこなしているだけの年相応の少女なのではないか?という結論になってくるのだ。

しかも以上の推測は、あくまで推測でしかない。答えは未だに公式から提示されていないのだ。全て完全なる俺の妄想である可能性も十分にありえるのである

自分が求めているのはこういうキャラの深さである。「実は…」とかではない、もっと微妙で繊細で、一言では言い表せない人間性の襞なのだ

からこそ、自分担当し、向き合い、追求する価値があるのだ。

(ここまで言っといてなんだが、自分は朋花Pではない。まあスカチケで次の次ぐらいに彼女SSRが欲しいと思うぐらいには好きだが)

じゃあデレにそういうアイドルはいるかと聞かれると、いると思う。島村卯月渋谷凛本田未央…ようはデレアニで繊細に描かれた面々である

特に渋谷凛の、思春期自分は何者なのか?という言いようのない不安定感、実にいいではないか

じゃあ彼女たちを担当すればいいじゃない!と言われるかもしれないが残念ながらそれはできない。

彼女自分の中であまりにデレアニと強く結びつきすぎているのだ。要はデレステキャラじゃなくて、デレアニのキャラになってしまっているのだ。

じゃあ二次創作補給すればいいじゃないかという言に対しては、それは違うと断言できる。

二次創作とは、作者当人が如何にそのキャラを愛していたとしても、基本的には作者がそのキャラを使ってやるお人形遊び以上のものではないことが殆どだ。

キャラ内面にまで切り込んだ二次創作というのは本当に少ない。それはデレマスに限らずそうだ。当然ミリマスでも少ない。ほぼないかもしれない。

要はキャラに新たなエピソードを付け加えることは出来ても、新たなイデアを付け加えることな不可能なのだ

いやまあ当然の話だ。そもそもそれは公式しかできない聖なる行為なのだから

まあ話は長くなったが、デレマスでは担当を見つけられなかったがミリマスでは見つけられた。要はそういうことだ。

過半は運営のせいと言ったが、やはり俺自身のせいなのだろう。

アイドルが多すぎる

もう一つの理由を端的にまとめるとこうなる。少なくともデレマスアイドルが多すぎるのがこの増田のせいでないことだけは間違いないだろう。

だが具体的に書くと、もうちょっと違う風になる。つまり「興味のないアイドルデレステに出てきすぎてコンプモチベがダダ下がりした」だ。

ほうら、これで一気にこの増田性格がクソなせいだとなった。やっぱりな(呆れ)まあ結局そういうことである

というかこの一言で声ありPの半分を敵に回したようなもんだろう。やっぱりこんなことを自分の名を出して言えたもんではない。

先で担当はいないと言ったが、好きなアイドルは何人もいた。俗に言う「全部推し」に近いやつだろう。しかデレマス200人近くいるその「全部」ではなかったのだ

だが……これを表で堂々と言うと袋叩きの目に遭うから口を謹んでるだけで、正直大なり小なり似たようなことを思っているやつは他にも結構いるのではないだろうか。

今回のガシャこそ、今回のイベこそ担当SSR、イベ報酬だ!と待ち構えていたら、どこの馬の骨とも知らんやつが出てきたとか、正直そんな経験がないと断言できるか?

正直デレマスアイドル推しなんか物理的に不可能だと思う。まず全員の名前と顔を一致させてどちらか出されたらもう一方を即座に思い浮かべられるだけで相当なもんだろう。

更にデレマスでこれに輪をかけてアレなのは「明らかに不快生理的に無理なアイドルがいる」ということである

"自分場合"(ここは強調しておく、この増田の心が哀れなほど狭いということでもあるからだ)例として上げると、さっき出たパン狂いアイドル大原みちるである

パン狂いでも、日がなオシャンティーイタリア風だかフランス風だかのパン屋に通い、

オランジーナを飲みながら聞かれもしないのにパンの薀蓄を滔々と語る面倒くさい女ならまだやりようがあったろう。

だが現実は、パンガツガツ喰らう、いかにも頭の悪そうなブスという絵である

正直どう好きになれという話である。いやこういうタイプを好きになる男がいるのも分かるが、俺は無理である

というか、このコンセプトにこのキャラ絵を渡されて魅力的なキャラしろと言われたら俺は頭を抱えるだろう。

正直彼女についてはそれをさせられた運営が気の毒ですらある。いや、コンセプトと絵を作ったのも運営から自業自得なのだが。

まあ上の話は多分にこの増田個人的な好悪だ。

松原早耶とか他にもそういうアイドルはいたが、話を進める上で例として上げただけで、必要以上に貶める必要はないし、何より彼女らのPに申し訳ない

(奇妙なことだが、これもこの増田本心であるいかに人に優しくあろうとしてもやはり好き嫌いだけはどうしようもないものがあるのだと思う)

というわけでもっと一般的な例を上げる。これも上に出てきた財前時子だ。

彼女は完全無欠の女王様キャラだ。Pにデレることなど一切ない。常に下僕として扱う。登場以来それがブレたことはまったくない。

実際それはまこと素晴らしいことと自分も思うのだが、じゃあ皆が皆下僕になれるのか?と言われると、それはNOと言っていいと思う。

何が言いたいかというと、コンセプトの時点で致命的にダメ、或いは人を選びすぎて

もう修正しようのないアイドルデレマスには沢山いるのではないかということだ。

「明らかに不快生理的に無理」というタイプ以外にこれに関わってくるのは「キャラとして全然面白くなくて興味も持てない」というタイプである

具体例は、残念ながら挙げられない。なぜならそういうアイドルそもそも覚えられないからだ。そういう点でこっちの方がある意味タチの悪いタイプだと思う。

後半は、というか最初からそうだったが、そういうのをコンプのために取らなきゃいけないのが苦痛しょうがなかった。

コンプなんか辞めりゃいいだろ馬鹿と言われれば、まさにそうなのだが、担当がいなかったのでこれしかモチベがなかったのだ。

YPTイベまでだったから、まだイベSRの復刻がなかったのもの大きかっただろう。まあ今さら復刻取りに行こうとも思わんが。)

自分は声なしアイドルの、はっきり言って半分ぐらいをそういうのに分類している。(上述の通り正確な数なんか分からんが印象として)

レアから入った人間からレアニに出てたアイドルしかきじゃないんだろうと言われるかもしれないが、自己分析してみるとどうもそうでもない。

例えば佐藤心さんとかは好きである。多分に花守ゆみり姉貴の芸が凄いというのもあるがそれを差し引いても好きと言っていいだろう。

それゆみり姉貴とBMBのせいだろうと言われそうだし、実際自分でもそんな気がしてきたから、もう一つ上げる。鷹富士茄子である

今度声が付いたからだろうと言われるかもだが、これはいつぞやの限定で変なセンタースキルSSR茄子さんが出てきた時に引きに行ったか

声の有り無しは関係ない。いや、じゃあなぜって言われたら完全に面食いで我ながら笑えてくるのだが、まあ例としてはこれで大丈夫なはずだ。

(その時はなぜか10連一発目で引けてしまい、更に焼けばちで10連したらその時一緒に出ていたかな子の限定やらまで出てしまった。

ミリ担当が出た時は大いに苦しむ羽目になっていたから仏様というものはやはりちゃんと見ているのである。)

そしてそういう興味がある方の半分の声なしにここまで色々と声が付いてきたように思う。

はっきり言ってしまえば、そういうコンセプトからダメアイドルを量産してしまったのは間違いなく運営責任だろう。

アイドルを減らせと言っている手合も時々見るがアイマスにおいてそれはあり得ない決断である

竜宮小町プロデュースできなくなった時に起こったことをPなら知らないはずがあるまい。

からこそアイドルもっと慎重に作らなければならなかったのだ。

ミリマスが出来る際、アイドルもっと増やせとの上の命に元ディレ1が必至に抵抗したのも当然のことだろう。

(どうでもいいが、ディレ1の顔が年老いライオンみたいに見えるなと思うのは自分だけだろうか。昔は金髪だったし)

要は構造問題なのである解決もできないし、このままどうしようもないコンセプトをなんとかしてものにするしかない。

まあでもそれは運営の話であり、俺達の話ではない。寸法の狂ったプラモを渡されて自分でどうにかして完成させるほど暇でもないのだ。

そういうわけでこの増田運営立場に同情を覚えつつもデレマスを去ったのだ。

ミリPになって

注:以下、もう完全にミリシタとデレステ対立煽りと化している。酷い。耐えられない人は速攻ブラウザバックしたほうがいい。

と一応言っておく。正直になるというのはやはり角が立つというか、単純に碌でもないことである。やはり婉曲や嘘とは社交なのだ

というわけで、デレステをやらなくなったこ増田は、ミリマスに目を向けた。

から隙間 Permalink | 記事への反応(1) | 22:23

2017-06-15

生きている理由がない、だが、死ぬ勇気もない

たぶん、ここ数十年で幾度となく繰り返されてきたであろう話題。そして、これからも何度となく同じ話をして行くであろう話題。だけど、この先に幾星霜の年月を重ねようとも、決して人類が回答を得ることはかなわないであろう話題

「このような増田を書く際には適度な自分語り必要である」との先人の教えに倣い、私も自身人生を少し顧みる。

とは言え、特にこれといって語れるような、起承転結栄枯盛衰の激しいエピソードはない。期待に沿えず申し訳ない。

私は、凡庸な働き者である両親の下に産まれ大学まですべて可もなく不可もなしと言ったレベルの国公立で通し、東証一部ではないが倒産寸前でもないと言ったどこにでもある企業就職し、今に至る。要は平和謳歌していたわけで、「幸せかどうか」という尺度で測れば、私は十二分に幸せなのだろうと思う。


先日、同級生の友人らと一席設ける機会があった。私の交友範囲は、狭いようでいて結構広い、まあ所謂普通」の範囲内だ。私ほどの年齢になると、このような場でだいたい出てくる話題と言えば、増田諸氏にもお馴染みの「子供の話」である

子供習い事は何がいいか、今どきは中学受験をさせるべきか、保育園になかなか受からない、・・・語らいの場を彩るには事欠かない。

私自身は独り身だが、そう言う話題は端的に言えば好きである同級生の、愚痴のような自慢のような我が子の話を聞くのも好きだし、独りやもめが一丁前に進言することも吝かではない。

だが、そう言う話題をしていると避けて通れないのが「増田結婚しないの?」「増田の子供、見てみたいよ」等の友人の無邪気な言動である

もう何度となく聞かれたので回答が半ばトークスクリプト化しているが、私自身は結婚する気が全くない。子供を作る気もない。

友人らの結婚式に持参した祝儀袋は50枚ではきかないし、友人らの華燭の典の末席に私の椅子を加えてもらえるのは悪くない。幸せのおすそ分けがあった数年後に、友人らの間に生まれた新しい命に触れる栄誉に浴した機会も両手両足では足りないだろう。

そんな友人達の子供の相手をするのも、また楽しい。先日も友人宅で友人の子供たちとゲームで盛り上がった。そういった私の姿を見てきている友人達はいつも怪訝そうな顔をして、お決まり言葉を投げかけてくる。

曰く、「増田絶対にいいお父さんになれるよ。」と。

しかし、残念ながらそんな姿を友人たちに見せる機会は、永遠に実現する事はないだろう。なんだかこちらが申し訳なくなってくるが、こればかりはどうしようもない。

結婚出産をしない事の仔細については伏せさせていただくが、私自身はLGBTという訳でもないし、病気等によって子供が作れない身体という訳でもない。過去交際した異性がいない訳でもないが、結婚するというビジョンは当初から皆無だった。




・・・さて、長々と私の宴席話を綴ってしまったが、ここまでが枕詞である。以下より表題の件となる。

最近発生したとある些事によって、私は自身の今後の人生を考える機会を得た。それは老後の事であったり、貯蓄の事であったり、人間関係の事であったりする。

不思議不安はない。「少くとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である。」と言ったのは太宰だったか芥川だったか。或いは川端だったかも知れない。

老後を一人で支えていく貯蓄は作れる。今現在のところは十分な資産が無い為「ある」とは胸を張って言えないが、仮に70歳定年制度が導入されようとも、食べていけるだけの資産形成するだけの資力はあるものと自負している。

加齢による孤独との付き合いも、それなりにこなしていくつもりだ。とは言え、老境に達した事もない若輩が悟ったような事を口にするのも軽々しい。鋭意努めるといった表現に留めておこう。

そのような事を独りごちること数日、ようやっと私は「自身に生きている理由がない」と言う平々凡々な結論に至った。

却説そうなると困ってしまう。理由もないのに生きていくには、あと数十年という年月は些か長すぎる。排泄物生産する装置として延々と過ごしていくには動機けが心許ない。

人生に対しての意味を考えるのは、数多く存在する宗教という団体が約二千年ほど前から継続して取り組んでいるようだ。詳しくは知らない。

彼の団体が世に出している成果物を拝見したこともあるが、私には意味を見出すだけのものはなかった。

理由も無い、意味もない。そうなると次の段階として「可及的速やかに、かつ周囲の迷惑を最小限にとどめる形で自殺する方法考察する」ということになるが、私にはそれを実行するだけの胆力が備わっていなかったようである。自ら命を絶つという行動を想像するとき自身の玉袋が萎びていく感覚が如実にそれを証明している。

安田講堂演説をぶった後に割腹して果てたのは誰だったか筋骨隆々とした当時の写真を見るに、グラビアモデルか何を生業としていた人だと推察しているが、どうだろうか。職業はともかく、その胆の据わりようはまさに驚嘆に値するが、私には到底真似のできない所業である

理由も無く、勇気も無い。理想も無かった。願望もこれといって無かった。意味のある無しは私自身が決定するものではない。後世の人間理由付けしたもの意味だ。

かと言って「無い」状態を維持していくのも据わりが悪い。回答でも解答でも一向に構わないのであるが、「ある」状態にしたい。ふとそう思い至って有休申請をしたのが昨日の午後、目の前のキーボードを叩いては嘆息する作業に飽きてきたのがつい先ほどの話だ。

先人の知恵を生かす事こそが人類であり、その事を辞書で引くと即ち「英知」である。ならば私も人類の英知の恩恵に与ろうと「はてな匿名ダイアリー」なるサイトの中に設置されている検索窓で「人生 理由」と入力してENTERキーを叩いたところ、検索結果は0件だった。平日の昼間から人生 理由」や「人生 意味」といったワード検索をかけている中年男性という絵面も大変に珍妙ではあるのだが、ここで膝を折るわけにもいかない。

Google検索で「人生、宇宙、すべての答え」で検索すると「42」という解が得られるというのは割合に有名な話ではあるが、できれば証明過程のほうも見せていただきたいので、「人生 理由」や「人生 意味」などのワードGoogle検索をかけても、有象無象が多くて選り分けるのに四苦八苦しているうちに時間けが過ぎ去っていく。回顧するに到底建設的な所作とは言えない。

※ちなみに、「人生 理由 anond」等とGoogle検索すると、先人への英知に到達する作業が捗ったという事実も申し添えておく。


・・・結局、特段の進歩もなく、たまっていた有休を消化して終わるだけの一日となりそうだが、髪の毛一本分、まさに寸毫ほどの厚さだけでも遺物があれば、後進増田諸氏の灯台となり得る可能性はあると考えた。

可能性に賭けることは好きではない。そもそも賭け事が嫌いだ。だが、この愚かな人間がしたためた理由意味もない駄文が、誰かにとっての灯火となれば幸甚である

大海原の中のマッチ一本分にも満たない、本当に小さな灯り火であるが。

ここまでお付き合い頂き、かつ増田諸氏の人生の貴重な時間をも少々頂けた事に深謝する。増田諸氏の人生に幸多からん事を祈念して、ここで筆をおく。

2016-10-05

二重国籍

自民党から二重国籍議員が出た、とサヨク界隈が喜んでいるが、彼女蓮舫だと全然話の内容が違う。

ずっと意図的二重国籍を隠しながら議員を続けていた蓮舫と違い、彼女立候補時に自分二重国籍者だと有権者説明していた。

その上で、アメリカ国籍放棄日本国籍を選ぶと宣言までしていたのだから彼女にはなんら非も問題もないと有権者として納得できる。

最も愚かなのは、内容を読まずに記事タイトルだけ見て「自民党pgr」と煽るバカネット民だろう。相変わらず屑が多いと嘆息せずにはいられない。

2016-08-07

ジェラルド・ジーメンズ寄稿 『柿と杮の違い』 抄訳

東アジアの不可解さを感覚的に理解したいのならば、柿(Kaki)と杮(Kokera)の違いについて知るのが最も近道だ。

日本人は秋になると甘味の強い「柿(Kaki)」と呼ばれる濃いオレンジ色のフルーツを楽しむ。

このフルーツを天日で干してドライフルーツにして楽しむことあり、これを「アンポンタン(日本方言知的障害者を指す)」と呼ぶ地域もある。

(日本の伝統菓子は、このドライ柿以上の甘さにしてはいけないという不文律がある)

一方、迷信深い日本人は、新築建物を建てると「杮(Kokera)」と呼ばれるモンスター駆除すると称して、何らかのイベントを催す。

すなわち、人が入る前の建物には必ずコケラという怪物が住み着くので、これを多数の来客者による迫力で追い払おうとするのである

私たち西洋人には、この Kaki と呼ばれる漢字と、Kokera と呼ばれる漢字は全く同一に見える。

しかし、高度な形象文字文化圏の住人である日本人には、これらの文字は全く別の文字であることが明らかだという。

京都市に住む Keiko Wanatabe (78) が嘆息して言うには、

「近頃、日本が好きといって外国人さんがたくさん京都にお見えになりますけど、

Kaki と Kokera の違いもわからずに日本をわかったつもりになってもらっては困ります

このように、日本人には極めて微小な差異に対する感受性が受け継がれている。

私たち西洋人には「ワビ・サビ(Wabi and Sabi)」や「萌え(Moé)」は深遠で理解に及ばぬもの、というイメージがあるが、

それは無理からぬことで、こうした概念日本人の持つ独特な「差異感性sense of disctinction)」に依るものなのである

フランスの偉大な哲学者アレクサンドル・コジェーヴは、日本の持つ独特な感性体系を「日本的スノビズム」として称揚したが、

この点において私たち西洋人がこの多神教精神性を感覚的に理解するのは、不可能か、

あるいは少なくとも数多くの障害が立ちはだかっていると言えよう。

はいえ、このような障害があるにも関わらず、

私たち西洋人日本人の持つ奇異な性文化 --- 例えば Gokkun や Bukkake --- を受け入れつつあるし、

Baby Metal のような「萌え(Moé)」に対する強い渇望も存在する。

それ故、私たちゆっくりと、しかし確実に日本的差異感性」を身に着けつつあると言えるし、

彼らが西洋発祥文化を上手く取り込んで世界TOYOTA を作ったように、

今度は私たちが彼らを驚かせるような「萌え(Moé)」を提示できるようになるだろう。

個人的には --- これはあくまで私見だが --- 「Pokémon Go」はその一つの返答になると思う。

2016-07-22

ポケモンGO散歩

面白いよー、何て言われて試しに初めてみましたよ。

てくてく10分ほど外を出回ってみる。酒飲みながらだとあれだね、足元が、いかんね。

都会だったら死んでた。多分、車とかにひかれて。田舎住まいでよかったね。車通らねえんだもん。びっくりした。消耗してないね

クソ田舎なのに3人ほど、プレイ中と思われるトレーナーを見かけた。いずれもチャリンコ乗りながらスマホいじいじ中高生

気いつけろよ。

しかしこの調子では、オラが町のトレーナー、軒並み中高生なのでは。

というか、この町のポケモングランドオーダー、俺が一番年寄りトレーナーなのではなかろうか。

勝てる。

これは勝てる試合だ。

社会人マネーをつぎ込めば。

スカサハとギャラドスだったらギャラドスの方が取るの楽でしょ。

金にものを言わせれば、俺がこの町のチャンプになれる。

この町の誰よりも強い男に。

こぶしが震え、嘆息漏れる。

まさか

まさか32にして、ポケモンマスターに。

この俺が。

左手の中で温んでいく金麦の500ML缶さえ、アレキサンダー大王の乾かした盃のように感ずる。

俺が。

俺がポケモンマスターに。

2016-03-03

ワーキングクラス諦観

労働者階級の子供は芸能人にもサッカー選手にもなれない時代

http://bylines.news.yahoo.co.jp/bradymikako/20150226-00043362/

日本のことかと思った。増田の住む中核市周辺では、ここの所フットサルコートとそれに付随するスクールものすごい勢いで増えている。

経済力のある保護者達は公文式語学教室と同列に各スクールの育成について熱心に情報交換を行い、4種(小学生)強豪チームのあの子はどこのスクールだったとか、今3種(中学生)Jリーグジュニアユースにはあのチームから行っただの育成シーンにおいては、かなりマニアックな展開を呈している。

昔ながらの小学校に1つずつあった少年団チームは、各スクール運営されるNPO法人格のクラブチームやその市の最強チームに、主だった選手たちが集まるので今や複数小学校区で1つのチームをなんとか維持し、ようよう8人制にエントリーできるかどうかくらいの縮小や、チーム統合でしのいでいる状況。JFAを頂点とする協会組織は、くまなく草の根にも広がっていてこれは功績だと思うのだが、市内の各チーム指導者も割と細かく情報交換や指導技術研鑽を行っている。

しかしだ、少年団チームには、専任指導者を置けるところがほぼ無い。月5千円以下の会費で細々やってるチームの財政的な理由が大きいのだ。当たり前のことだが、「増田のお父さん」達が集まって細々運営してるチームだから。いわんや、指導の内容も、よほどアツい、競技経験のあるコーチが在籍しない限り推して知るべしの内容。週末や祝日日中大会や対外試合が入れば、練習はお休み

一方で強豪チームや、NPOクラブはそれなりのコストをかけながら、競技経験のある人材を確保し、平日の日中、夜間を練習時間に宛て、休日地方遠征など充実した育成内容。同じ年の子どもで、こんなに違うのかと愕然とさせられたこともしばしば。もちろん、それなりの技術を持っていなければ試合にも出られない選手層の厚さがあるので、それなりのスクールに通わせられる世帯収入可処分所得のあるご家庭がそこに行ける資格を持てる。選手本人の気持ちや、持って生まれた才能、たゆまない努力、これを大切にできる環境と言う意味を含めて。

レベルの高いサッカーをするチームにはより選手が集まる。スタメンを確保するために、スクールに通って更に技術を高めないと。日本代表に、プレミアへ。リーガへ。子どもが描く夢のために、経済力のある保護者たちは力の限り応援する。否定しない。どんどんやってくれ。指導者ホント良い人ばかりで羨ましい。オレもワールドカップを掲げる日本(男子)を見たい!!

さて、増田の子所属する少年団も、いよいよ学年で1チーム作るのが厳しく最近は2学年合同で毎週活動している。こちらは、以下のご家庭から選手構成されている。基本的には、競技レベルでの選手育成までは考えていない。

①→身体機能発達を促したい(ダイエット、足が遅い、全身運動etc)

②→中学受験前提の、高学年時は休部見込みのレクリエーション

③→学校休日も両親勤務あり、体よく預かってくれそうなので

④→よく分かっていないけど、地元サッカーチームで一番近かった

まさに玉石混淆。ここがお父さんコーチの楽しみ、楽しさではあるのだけど。

ここにサッカーというスポーツ面白さを伝える醍醐味があるわけで、だからハマってるんだけど。しかし、ごくたまに、1学年に1人か2人は「玉」が。当然のように高学年時には上記のクラブチームステップアップしていくわけだけど、ここでもワーキングクラスかそうでないかで展開が違う。

結論:金持ってなけりゃ少年サッカーは勝てない。

(小さなローカル大会や、フットサル大会なら、可能性くらいはある)

さっきの、①~③に該当するご家庭の選手たち、勝てないけど上手くはなれないかも知れないけど、楽しそうに通ってきてくれてる。この子たちは日本代表にはなれないと思う。10年後、20年後にまたチームの父親コーチに戻ってきてくれるくらいが良いトコだろう。それですらたぶん、「良かった例」。

混雑するターミナル駅の夜。某Jリーグ下部組織のバッグを背負った高学年の選手たちがくたびれた大人の列を無視してかきわけバスに乗り込む。大人たちも、もうこのチームの選手たちの振る舞いには諦めて声もかけない。それとも、おらが街のJチームを応援する気持ちなのかな?そのわりには視線は冷たいけど。彼らは座席を確保して、周囲を無視したような振る舞いで過ごしている。そうだね、あんたたち勝ち組だもんね、将来のJリーガー日本代表だもんね。特別扱いは当たり前だよね。嘆息

貧困、とまでは行かないにしても、L系ワーキングクラス連鎖諦観している。

2016-01-31

ケツがでかいオトコの悩み

大声で言うことではないが、ケツがでかい野球選手のようで小さい頃からからかわれてきた。

スポーツしたことないのに「野球してたんですか?」とか「なにか格闘技でも?」などと言われるのは日常茶飯事。

先日など内科医注射を打たれたのだが尻をむいて見せた瞬間に「ほほぅ」と嘆息が聞こえた。その内科医にとってもかなり珍しいレベルでのでかいケツだったようで、同じように雑談ネタに使われた。

恥ずかしいんだよねーぶっちゃけ男でプリケツなの。

同じ悩みの人居ない?

2016-01-22

ピアノの音、カレのー臭い豆腐屋の音色

帰宅途中の井の頭線踏切を渡る途中で気づいてしまった。

帰りにスーパーで何かを買ってきてくれと頼まれていたのだった。

電話して聞きたいのだが、それが出来ない事情がある。なぜなら買い物で頼まれものを忘れるのは今回がはじめてではないのだ。

まだ恋愛時代だった頃は、「そういう所も好き」といってくれていた彼女も、今では忙しい、妻であり、母であり、そして頼もしい戦友である

彼女の手をこれ以上煩わせたくないのだ。

はて、なんだったろうか。

スーパー記憶だともうすぐ閉店であったと思う。今買わなければ、もうチャンスはないだろう。


電話するか。思い切って。


でも彼女男性として、信頼できるパートナーではないことを意味して発するその嘆息をもう二度と聞きたくないのだ。


どうしたらいいのだ。


小さい頃は良かった。帰宅途中にはピアノのレッスンの音が聞こえ、近所の家からカレー臭いが漂い、そして豆腐屋は笛を奏でる。

からの落胆が、自分男性として不具なのであると、そう烙印を突きつけていると思えてならない。

2015-09-10

ソーセージの話

義実家へ泊まりに行ったときのこと。

トイレで大便をいたした後、いつものように水を流した。

ところが、フランクフルト並みの大きさのうんこが流れてくれない。

あれ、おかしいなと思ってもう一度水を流したところ、水が逆流してきた。

あわわ。あわてる俺。

このままじゃ溢れてしまう!と思わず股間を押さえたが、なんとかギリギリのところで踏みとどまった。

ついさっきまで俺の一部だったフランクは俺の焦りを余所にぷかぷかと水面を漂っている。

よそ様の家なので、なぜトイレが詰まったのか皆目見当がつかないし、対処方法も分からない。

困り果てた俺は、いったん尻を拭いて嫁さんに助けを求めることにした。

トイレットペーパーをがらがらっと引き出してふきふき。

あれ?

この手に持っている紙はどうしよう?

また、新たな難題が降りかかってきた。

詰まってしまったトイレにぽいっと放り込むのは何だか気が引ける。

しょうがない。尻に挟んでおこう。

え?トイレが詰まった?

驚く嫁さんをトイレに連れて行く。

ドアを開けて中を除いたとたん、嫁さんの動きが止まった。

不思議に思い嫁さんの視線を辿っていくと、そこには俺のフランクが浮かんでいた。

ああ、そうね。うんうん。俺、うんこしたって言ってなかったわ、そういえば。

「おおう」とも「あおう」ともとれる嘆息を漏らした後、私では分からないと嫁さんは義両親を呼びにいった。

ぞろぞろと義両親がやってきた。

「わああ」「こここれは」

なんだかよく分からない言葉を発しながらトイレを覗き込む義両親。

自分うんこがこんなにたくさんの人に見られたことがあったろうか。否。

これほど恥ずかしいことが世の中にあろうか。否。

こんなことになるくらいなら、うんこを尻の穴にそっと戻しておいたほうがよかったのであろうか。否。

創造主たる俺の複雑な気持ちや周囲の喧騒をよそに、フランクは我関せずといった不遜な態度でぷかりぷかりと浮かんでいる。

それにしても、なぜ詰まってしまったのだろう。そうそう頻繁に起こる出来事ではないと思うのだが。

結局、業者を呼んで調べた結果、義母トイレに流した薬のケースが詰まっていたことが判明した。

さあ、これで大丈夫。流しますよ。業者の人がレバーを倒すと、ぐるりと水流が生まれた。フランクはほんの少し水流に抗う様子を見せたが、水の勢いに飲み込まれ、消えていった。

ふう。これで一件落着。みんなにうんこを見られてしまったが、人の噂も75日。じきに忘れることだろう。

そう思っていたのだが、自宅へ戻る車中で嫁さんが遠慮がちに聞いてきた。

ねえ、いつもあれくらいなの?

あれくらいってなにが?

いや、あの、今日トイレの・・・あれ。

あれって・・・ああ、うんこのこと?

・・・・・・そう。いつもあれくらいの大きさなの?

まあ、大きさはまちまちだけど、平均するとだいたいあれくらいかな。なんで?

・・・・・・・いや、おっきいな、と思って。

え?おっきいの?あれが?

・・・うん。

まじか!?嫁子のはどれくらいの大きさなん?

え?いや、それは言えないけど、あんなにおっきくはないかな・・・。

(俺の衣つきフランクは大きいのか?)じゃあ、衣のついてないフランクフルトくらいの大きさ?

いやいやいや、そんなにおっきくないよ。

えええ?じゃあ、もしかしてシャウエッセンくらい?

・・・・・・まあ、そんな感じ//////

そ、そうなんか・・・。

今まで何の疑問も持たずに自分うんこは標準サイズだと信じていた俺にはショッキングな話だった。

それともうんこサイズには男女差があって、男性平均はやっぱり衣つきフランクフルトが正解なのだろうか。

なんなんだろう、このうんこデカいとなにやら恥ずかしく思えてくる気持ちってやつは。

2015-07-02

評価面談目標設定

金毘羅様だかコンピテンシーだか知らんけど、普段の業務では大仰にほめる癖に

いざ評価になったら辛口になるのはなぜだろう。

だったら褒めないでアドバイスしてほしい。

その場のお礼なんてなんの食いぶちにもならないんだなって今更ながら思う。

アピールが足らないって言われても、Excelシートの

数行の文面でどうやって伝えればいいんだ。

次も同じ評価だとグレードが下がるって言われたし、

給料明細を見るのがまたつらくなるわー。

年齢的に辞めにくいし。なにでやる気を保てばいいんだろうか。はぁ(嘆息)。

2015-03-06

http://oimoimomomo.sakura.ne.jp

 ねねは、清正の主たる秀吉の、糟糠の妻だ。

 清正がまだ虎之介と呼ばれた幼い頃から、正則と共に実の子のように可愛がってくれた、所謂母のような存在だった。

 ねねの存在があったからこそ、今この肥後25万石を納める加藤清正があると断言して良い。清正や正則と言った子飼いの将が、他の古参の将兵を差し置いて高禄を食める身分になれたのは、一重にねねによる推挙があったからだ。

 だからこそ清正は、大坂城登城する機会があればねね――いや、北政所となった彼女のご機嫌伺いを欠かさなかった。

 この度の出仕もそうだったはずだ。

 しかし、実はいつもといささか様子が違った。

「清正、今日あなたに紹介したい人がいるのよ」

 簡単な挨拶を済ませた(と言っても、ねね自身が堅苦しい挨拶を好まないので、形式だけのものでさえなかったが)すぐ後に、ねねが言った。

 一体なんだと訝る清正だが、それを面には出さずにただ頷くいた。

 ねねが名を呼ぶ。

 はい、と返事があって、軽い衣擦れの音が耳に入った。「……清正」

 聞いたことのない声が、清正の名を呼ぶ。しかも呼び付けで。

 何事だ、と眉をしかめて声の方向を無遠慮に見た清正は、ますます仏頂面になった。

 現れたのは、年若い娘だった。全くもって見覚えもなければ、呼び捨てにされる筋合いもない。

 とっさにねねの方に視線をやったが、彼女はただにこにこと笑っているだけで何の説明もなされない。

 そうこうしているうちに、娘が清正に駆け寄ってきた。

「清正!?え、本物…」

「おねね様」

 娘の手が清正の身体に触れようとした瞬間、耐えかねて清正は声を上げた。

 清正の拒絶する態度がわかったのか、そう言った瞬間娘は手を引っ込めてぴたりと止まる。

「…あの、説明していただけますか」

 少し不機嫌そうに清正が言うと、ねねはやや困ったような顔をした。ついで苦笑を浮かべて、おいで、と娘に向かって手を差し伸べる。

 すると娘は何の疑問もなくねねの隣に座った。ねねの隣…つまり上座だ。

 いよいよもって清正は訳が分からなくなる。

 恐らくこの天下で二番目に権力を持っているのは彼女関白秀吉の正室、北政所だ。

 余談ながら、秀吉が小身だった頃から夫をよく助けていた彼女に、秀吉は頭が上がらない。また、ねねは豊臣政権の内政や人事も把握し、秀吉によく助言している。秀吉の目に見えないところをねねがカバーしているような格好で、彼女によって取りたてられた者も少なくない。

 雌鳥歌えば家滅ぶという故事もあるが、ねねはそんなものは知らぬとばかりに、秀吉を、国政を支えたのだ。

 ともあれ。

 そんな女性の隣に、図々しくも座れるようなこの小娘とは一体何だ。清正の疑念ますます膨れ、とどまることを知らない。

 さまざまな想像をする清正に、ねねが弾けるように笑い声を上げた。

「やだよ、清正。そんなに怖い顔をしちゃ」

「いえ、…そのようなことは」

「ごめんね、何も説明しないで。紹介したかったっていうのは、この娘のこと。夢子っていうのよ」

 その夢子が一体何なのだと、清正は喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。

 無意識視線を動かすと、娘が清正を凝視しているのが目に入る。

 居心地の悪さを覚えて目を逸らすと、清正はねねの次の言葉を待った。

 若干いらいらとする清正に、ねねはどこまでもマイペースかつ笑みすら浮かべて楽しげだ。

「実はね、清正。もの相談なんだけど――」

 紡ぎだされたねねの言葉に、清正は絶句した。

 *** ** ***

 意味が分からない。

 というのが清正の正直な本音だった。納得出来ない。出来るわけがない。

 何故こうなった、と清正は頭を抱え込みながら――隣を歩く娘をちらりと盗み見た。何も考えてなさそうに、少し楽しげに、弾むようにして歩くこの娘。

 着物が変だ。丈が短すぎる。しかし、貧しいから丈を詰めていると言う風でもない。汚れてもいないし擦り切れてもいないし、何より露出した肌には貧困を表すものが何一つとしてなかった。思えば、南蛮人着物の形に近いものがある。

 夢子、というこの娘。

 ねねによると、突如として光の中から現れたという。そこからしてまず、信じることが出来ない。しかし、ねねは清正の大恩人。ここは素直に信じることにした。

 しかし、百歩譲ってこの娘が光の中から現れたとしよう。問題はその次だ。

 この娘が、今から4、500年先の世界からやってきたということ。

 ねねは信じたらしいが、清正には無理だ。第一、4、500年の未来がどうなっているか想像もつかない。

 秀吉やねねは、その人柄と広すぎる懐ゆえか、この怪しすぎる娘を稀なる客人としてもてなしているらしいが、清正には無理だ。

 なのに現状、清正はねねからこの娘を押し付けられてしまった。いや、“押し付けられた”というのは表現が悪い。ねねは無理にとは言わなかった。『出来れば』という表現をした。そして、他ならぬねねの頼みだから断れなかったのは、清正だ。今更この決定を覆していては男が廃るどころか、大恩をあだで返すことにもなりかねない。

 とは言っても、薄気味悪いとは思った。

 なんの変哲もない娘であるが、口を開けばおかしなことしか言わない。

 清正とこの娘が来世では恋人である、とか

 娘は初めから、清正のことを知っていた。

 ねねや秀吉との会話から発展していったらしい。どのような詳細があったかは知らないが、ともかく、娘が“会ってみたい”と言ったそうだ。

 そして今日に至った。

 ねねの言い分としては、『故郷をとても懐かしんでいるから、かりそめとは言え、知った人間の元で過ごすのが一番だろう』とのこと。暗に、その恋人とやらの役をしろと命ぜられているかのようだ。

 何より、本人の希望が強かったらしい。

 今はおとなしいが、先ほどまではうるさいくらいだった。

 清正、清正、と全く見知らぬ人間(それも小娘)から呼び捨てにされるのは、少々我慢がならない。

 しかし、ねねの頼みを断ることは出来ないし、粗略に扱うことも出来ない。お願いよ、なんて手を合わせて頼まれたら断るなんてとんでもない。

 (まったく、人がいい)

 と思わないでもないが、そんなねねが好きだからと思えばそれ以上は何も言えない清正だった。

 ともあれ、“客人の接待”と思えば良い。

 屋敷に戻れば、部屋を確保し、家臣侍女に説明をしなければならないのだが、なんと言ったものか。

 色々と考えをめぐらして、改めて面倒なことになったと思いながら清正は屋敷を目指したのだった。

 ともあれ清正の行動は早く、“北政所から客人をお預かりした。丁重に扱うように”とし、あとは黙殺していようと考えた。

 ねねは、可能ならそばに置いてあげて欲しいと言ったが、機嫌を取れとは言っていない。

 清正には他にも仕事があるし、この娘にばかり構ってはいられないのだ。

 そうやって放置して、半月まりが過ぎたときだった。

 自室にて政務を執る清正は、こっそりと忍び寄ってくる気配を察知した。

 普通なら何者だと人を呼ばうところだが、こんな白昼堂々、しかも気配だだ漏れでやってくる諜者がいるものか。何より、戦時でもないというのに。

 何だ、と思っていると障子戸の向こうから声がかけられた。

 一応返事をすると、控えめに開けられる。暫くぶりに顔を見た、あの娘だった。

 文机に向かう清正を一瞥すると、どこか忍ぶようにして部屋に入ってくる。

政務中だ」

 一言断ると、分かっていると娘はしゃあしゃあと言った。だったら早く出て行けと心の中で思った清正だ。

 娘はそんな清正など構いもせず、部屋の隅にちょこんと腰掛けると、どこから取り出したのか本を膝の上に置いて読む体勢を作った。

邪魔しない、静かにしてるから。いいでしょ?」

「…勝手しろ

 出て行く気配がないところを見ると、清正は嘆息をついてそう答えた。

 初めは娘の視線が清正に寄せられていたが、暫くするとそれもなくなる。

 しかし時折思い出したように娘の瞳が清正を見つめ、逸らされる。

 当然のように会話はなく、わずかな物音さえ許さないそこは沈黙に包まれた。

 それは、次の日も、その次の日も、その次の日もずっと続いた。

 こっそりとやって来ては声をかけ、部屋の隅で本を読む。

 読み終わっても出て行かず、ぼうっとしているか清正の後姿を眺めている。

 そんな日が、続いた。

 (何だ?)

 と清正は訝ったが、その疑問をぶつけるわけでもない。

 別に何かの邪魔になるわけでもなし、放っておくことにした。

 一度など、あまりにも静かで動く気配さえないので振り返ってみると、娘は打掛を布団代わりに部屋の隅で丸まって眠っていた。

 清正は呆れる思いだったが、これを機にと思って気配を忍ばせて近寄ってみた。観察ばかりされているので、観察し返してやろうと。

 よほど寝入っているのか気配に疎いのか、清正が近づいただけでは起きる様子も見せない。

 畳の上に、短い(当代比)髪が散らばっている。

 肌は白く、身体には傷ひとつなく、教養はないくせに読み書きは出来る。行儀作法は全くできていない(どころか常識にも乏しい)が、やはり下層民ということはないらしい。

 小さい顔だと、清正は己の掌と比べて思った。清正のそれで顔面が覆えるのではないかと、興味本位でそろそろと手を伸ばした時。

 折悪しくも娘が目を覚ました。

 慌てて清正が手を引っ込めると、娘はゆっくりと身体を起こして何をしているのかと尋ねる。

 狼狽した清正が正直に答えると、一瞬娘は目を丸くし、ついで笑った。

「同じことしてる」

 誰と、と問えば清正、と娘は答えた。清正が変な顔をして困惑を示すと、娘は手を振って違うと言った。

「私の恋人。来世のあなた?かな」

 それを境に、清正と娘は少しずつ会話をするようになった。

 といっても、大体にして娘がしゃべり清正が相槌を打つという格好。内容も大したことはない世間話から、二人の共通の人物である秀吉やねねのこと。この話題になると、清正も少しばかり言葉を話した。

 だが、一番多いのは“清正”のことだ。――娘の恋人であるという、清正のこと。これは、半ば娘の独り言のようにして語られることが多い。

 回想するように、懐かしむように。

 そして、いとおしそうに。

「……清正、今何してるのかなぁ」

 最後はいつもそれで締めくくられる。

 初めは興味なさそうに聞いていた清正であったが、次第にどんな人間なのか気になりだしてきた。娘の言うことには、清正と同姓同名で背格好人相もそっくり、声まで似ていて性格も類似しているとか。

 そして何より、娘が“清正”を愛していると言う。

 単純に、どんな男なのか気になった。

 しかしある日から、娘が清正の居室に来なくなった。

 最初は放っておいたが、こない日が三日、四日と続くと何かあったのだろうか思うようになった。

 七日連続でそれが続いたとき、とうとう清正は立ち上がった。

 それとなく家臣の者に聞いてみると、屋敷の外に出ているとのこと。供もつけずに。

 放っておこうかとも思ったが、よくよく考えてみると、あの娘は北政所から預かった客人だ。白昼、秀吉のお膝元である大坂武家屋敷で、妙な物がいるわけはないが、万が一ということがある。何より

あんな調子で他の者に話しかけていては、それが事情を知らぬ人間だったら命がいくつあっても足りない。清正は慣れたが。

 考えあぐねた末、清正は娘の部屋を訪れることにした。事情を聞いて、必要があれば供をつけさせるよう、釘をさすつもりだった。

「供もつけずに、屋敷を抜けているらしいな」

 突然の清正の来訪に、娘は驚いたようだったが、開口一番の清正の言葉もっと驚いたようだ。

 しかし驚いたのも一瞬で、はて、と言うように首をかしげてみせた。

「お供ってつけなきゃダメなの?」

 この調子だ。

 清正がため息を吐くと娘は、何よ、と戸惑ったような顔をする。

「だめも何も、普通身分の高い女性は供回りをつけずに出歩いたりしないもんだ」

「でも、私別に身分が高いわけじゃないし」

「それでも、北政所から預かった客人だろうが。お前に何かあっちゃ困るんだ」

 どこまでも暢気そのものといった娘に呆れながら清正が言うが、彼女はまるで聞いてはいない。

 嬉しそうな顔で、

「清正、私のこと心配してくれたの?」

 などと言い出す始末だ。呆れ果てたヤツだ。

 そんな言葉黙殺して、清正は話を先に進めた。

「とにかく、今度から外へ出るときは供をつけろ。世話役侍女がいるだろ」

あやのさんとお絹さん?」

「お前が勝手にふらふら出歩いて、怠慢だと叱責されるのはその二人だからな」

「え?!そんな、怒らないでね!私が勝手に…」

「これからはそうするな言ってるんだ。大体、何しに行ってんだ」

 清正の問いに、娘は、どこかもじもじしてはっきりと答えない。

 答えたくないのなら、と踵を返そうとした清正の裾を捕まえて、娘が、犬!と答えた。

「…散歩してたら、子犬が捨てられてたの。かわいそうだから、餌やりに行ってただけ」

 別に怪しいことしてないよ、と娘は付け加えたが最初から疑ってはいない。

 そうすると、確かに家臣の言葉と一致する。屋敷を出る前に厨によって、弁当を作ってもらっているというから尚更だ。


 俺も焼きが回ったかな、なんて清正は歩きながら考えた。

 供回りはなし、私的な用事で家臣を連れまわすことは出来ない。ごく軽装に身を包んだ清正は(といって、普段から質素であるが)、娘と二人で通りを歩いている。

 どんどんと入り組んだ道に入って行き、しまいには神社のようなところについた。

 こんなところもあったのか、としげしげと周囲を見渡す清正の視界の中で、娘が境内に走っていく。

 清正が娘の後を追うと、太い木の根元に、布に包まれ子犬がいた。生後三月といったくらいか、すでに顔つきは成犬のそれに近づいている。

 娘はそれを撫で、声をかけた。すると子犬の方も懐いているのか、かがんだ娘に飛びつきじゃれ付いた。

 子犬と戯れる姿は、無邪気そのものだ。そしてその笑顔は、今まで見たこともないほど輝いている。本来はこのように笑うのだろうかと清正は思った。

 むっつりと考え込む清正の名を、娘が呼ぶ。

「ねえ、清正も触ってよ。もう、可愛いんだよ、人懐っこくて」

 懐いているのは餌をもらったからだろうと思ったが、清正がアクションを起こすより先に、子犬の方から清正の足元にじゃれ付いてきた。

 今まで特別犬猫に何か思ったことはなかったが、懐かれて悪い気はしない。

 清正が屈んで手をかざすと、子犬は喜んでそれを舐める

「ほら、可愛いでしょ!名前はね、黒いからクロ」

「…まんまだな」

「いいでしょ、別に

 つっこみを入れた清正に、娘は少しばかり頬を膨らませて抗議した。

 暫く無言で犬を眺めていた清正だが、立ち上がって帰るかと娘を促す。

 一瞬、娘がなんとも言えないような瞳で清正を見たが、何も言わなかった。最後にクロをひとつ撫でて、また来るねと呟く。

 清正は腰に手を当てて、そんな様子を見ている。

 名残惜しそうにする娘に、やれやれ嘆息を吐いてから

「飼うんじゃねえのか?」

 と一言尋ねた。

 すると、弾かれたように娘が顔を上げ、清正を凝視する。

 清正がそれ以上何も言わないところを見ると、娘はありがとうと叫んだ。

「クロ、今日は一緒に帰れるんだよ!」

 娘の言葉に、クロは分かっているのかいないのか、一声鳴いた。

 *** ** ***

 ふと、通りがかった清正の目に、縁側に座り込んだ娘の姿が入ってきた。

 わざと足音を立てて近付くが、娘がそれに気づいた様子はない。相変わらず気配に疎いヤツだと清正は思う。

 娘は、縁の下に座っているクロを撫でながらぼんやりと空を見上げている。

 その視線の先、見事な満月があった。

 ――月からやって来たナントヤラ、というわけでもあるまい。

 しかしその横顔には、そこはかとない哀愁があって、望郷の念に駆られているのは明白だ。

 清正はそんなことを思って、羽織を娘の頭からかぶせるように掛けた。

 それでようやく、娘は清正に気づき、こちらを向いた。

「こんなところでぼんやりしてると、風邪引くぞ」

 清正が声を掛けると、娘は羽織を肩から掛けなおしてありがとうと呟いた。

 そして清正を見上げて、微笑む。

「優しいね

「…別に。おねね様から託された客人に何かあったら事だからな」

 嘘は言っていない。清正がむっつりとして言うと、娘は肩をゆらしてクスクスと笑った。

 そんな笑顔にほっとした己に気づいた清正は、誰から指摘されたわけでも、ましてやその安堵を悟られたわけでもないのに、

 (別に

 と心中言い訳をしている。一体誰のための弁明か。

 そんな狼狽を誤魔化すようにして、清正はどうしたんだ、と言葉を紡ぐ。

「月なんか眺めて。ゲンダイ、とやらが恋しくなったのか」

 紛らわすために適当に吐いた言葉であったが、娘は頷いた。

「分かる?さすがは清正、一心同体ね」

 なんでそうなるんだ、と清正は呆れたように口を閉じた。

 一瞬でも心配した自分が損だ。

 むすっとした清正に構わず、娘は言葉を続けた。

「あのね、考えたことがあるのよ。聞いて。…今、目の前に居る清正と、…あなたのことね。あなたと、私の恋人の清正は、やっぱり違うなって」

「当たり前だ。俺は俺以外の何者にもなった覚えはない」

「それは、そうだけどさあ」

 彼女曰く、清正は“来世の恋人”らしい。

 そして彼女の住まうニジュウイッセイキとやらには、清正とそっくりの“清正”が居て。…なんて途方もない話。

「でも、やっぱり似てる」

「…前にも聞いた」

「しゃべり方もね、むっつりした顔もね、全部全部。ご先祖様かな?それとも前世の姿かしら。不思議だわぁ…」

「俺は、俺だ」

 伸ばされた手が、清正の手に触れた。

 控え目な手つきは、清正の手の重さを測るように軽く持ち上げたあとさっと撤退していった。

「やっぱり、ここは戦国時代なのかぁ…。そうよね、あなた戦国武将で、私のことをお世話してくれたおねね様っていうのも、…北政所様ってやつみたいだし」

「だから最初からそう言ってるだろ」

「そうね。あなたは、清正!っていうよりもはや清正様って感じだもの呼び捨てなんて恐れ多いわ」

 と言うものの、娘は清正を呼びつけにする。

 当初それに抵抗があったものの、慣れとは恐ろしいものだ。今の調子で娘が“清正様”なんて言おうものなら、かゆくて仕方がないだろう。

 娘の話は続く。

「私の“清正”は、なんかちょっと尻に敷かれてる感じはあるし、似ててもやっぱり別人ね」

 どこか苦笑気味に娘が言う。

 清正はどこか違和感を覚えた。清正を呼ぶときのそれと、彼女の。。。清正を呼ぶ声音はまるで違うのだ。

 心なしか、清正の顔から表情が消えた。

「…お前の清正とやらは、よほど腑抜けらしいな」

 違和感をかき消すようにそう呟くと、娘がくわっと睨みつけてきた。

「そんなこと言わないでよ!別に腑抜けじゃない」

「女の尻に敷かれる男なんて、腑抜けだろ」

「そんなことない!っていうか、秀吉さまだっておねね様の尻に敷かれてるでしょ」

「愚弄する気か?!」

「愚弄じゃないもん、本人が言ってたの!“わしゃあねねには頭が上がらんでの~”って」

「……」

 想像するだにかたくない。それゆえ、清正は反論言葉を失った。

 黙りこんだ清正に、娘はすこしばかり申し訳なさそうにした。

「まあ、気分を害したのなら謝るけど。…でも、“清正”を他の人からそんな風に言われるのは、いやだなって」

「悪かったな」

「いいよ。そりゃあ、大名あなたから見たら取るに足らないかも知れないけど、それでも“清正”はい旦那様なんだからね。恋愛面ではちょっとヘタレだけど、それ以外だったら男らしいし、指圧うまいし、ノート超きれいに取るんだから!」

「そーかよ」

「そうよ」

 少しばかり意味の分からない言葉もあったが、清正は適当に流した。

 しかしそんな清正に構わず、娘は大いに胸を張る。自分のことのように誇らしげだ。

「まあ、オカルトちょっと苦手でちょっと照れ屋だけど、料理は出来るし、朝も起こしてくれるし、本当に結婚したいくらい最高なのよ。清正の作るモヤシ炒め、食べたいなぁ…」

「清正は、俺だ」

「そーだけど、でもあなた料理できないでしょ」

料理なんて女の仕事だろ」

ジェンダー!“清正”はそんなこと言わないもん。むしろ『お前料理、味薄すぎるんだよ。俺が作る』とか言ってくれるんだから。最高よねえ、ホント

「だから、俺が清正だ!」

 鼓膜をびびりと揺るがすような清正の声に、娘はびくりと肩を揺する。娘どころか、縁の下のクロまでもピンと耳や尻尾を立てて驚いている。

 覚えず大声を出してしまった清正は、彼女の反応でわれに返った。口をつぐみ、たまらず目を逸らした。

「…悪い」

「いや、大丈夫

 (何を馬鹿なことを)

 清正の心中、後悔の大嵐だ。こんな詮無いことで怒鳴っても仕様がないというのに。

 大体何を苛立っているのだと自問しかけて、清正ははっとした。

 一方で娘は、清正の胸中など少しも知らず悩ましげなため息を吐き、帰りたい、とこぼしながらクロを撫でている。

「お前とのお別れはさびしいけどね。きっと清正が責任持って育ててくれるから安心しな。…清正は、何してるんだろうか」

 清正は、その瞬間意識がとんだように錯覚した。

 無意識に繰り出した手が、娘の手を掴んでいる。驚いて清正を振り返る彼女の肩を、もう一方の手ががっちりと掴んで離さない。

 目を丸くした娘が何事か言葉を紡ぐより先に、清正が言った。

「俺は、ここに居る」

 清正の正面の丸い瞳の中に、清正の姿が映りこんでいる。そして、恐らく清正のそれにも彼女の姿が。

 言葉も出せずに固まっていた娘であるが、子犬が膝にもっとと言うようにじゃれ付いてきた拍子に、金縛りが解けたようだ。

 少し恥ずかしそうに目を逸らしてから、苦笑し、娘はかぶりを振った。

「…参ったな。少しドキッとしちゃった」

「清正は、俺だ。俺が清正だ。。。。。」

「でも、…私は、“清正”じゃないとダメだ。だってね、私の好きな清正は、あなたみたいにびしっと決められない。でも、そういう清正が、私は好きだから

夢子、」

 恐らく初めて、名前を呼んだ清正に娘が目を見開いた。

「…名前、知ってたんだ」

 当然だと、清正が答えようとしたまさにその瞬間。

 すっと娘の身体の輪郭がぼやけた。ぎょっとする清正の前で、娘の身体は色を失い、後ろの風景が透けて見えるまでになった。

「あ、来た。タイムリミットだ」

「どういうことだ…?」

「帰れるみたい。清正“様”、これまでお世話になりました。豊臣ご夫妻にもよろしくお伝えくださいませ。…クロ、元気でね」

 もう随分と薄くなった身体で娘はクロの身体に触れる。感触がないのか、クロは不思議そうな顔をするだけで。

 羽織が、ばさりと音を立てて廊下に落ちた。

 清正は思わず捕まえようとして手を伸ばしたが、透き通るだけで掴むことは出来ない。

ありがとう。清正の所に、帰るね」

 その言葉最後に、清正の前から人一人が消えた。「…っオイ!」

 蛍がいっせいに飛び立ったような光の残像だけを残して。

 どこか呆然として、清正は廊下に落ちた己の羽織を拾った。確かに暖かい。――体温はほのかに残っていると言うのに。

 何もなくなった虚空を見つめていると、縁の下からクロが顔を覗かせて鼻を鳴らす。主の不在を嘆いているようにも見えた。

 無意識に手を伸ばしてそんな子犬の頭をなでると、清正はぽつねんと言葉をこぼした。

「…清正って誰だよ…」








 ~fin

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