はてなキーワード: キッチンとは
独り暮らしでこれからもずっと独りで生きていくのに、やたらに広い部屋を借りてしまった。
年齢制限で会社の独身寮を追い出され、部屋を探す必要があった。趣味の料理を楽しみたかったので、広いキッチンのある部屋を探したのだ。ところがさすが田舎だ。独身向けのアパートは独身寮とほぼ変わらない6-9畳間+しょぼいキッチン、みたいな学生向けワンルームみたいな部屋しかない上に、大学すらないから球数が少なく、クソ田舎のくせに、月5万。5万以下は築45年とかだ。流石にそんなとこには積極的には住みたくない。そして、キッチンがある程度広い部屋となると、ファミリー向けの2DK以上になってくる。だがさすが田舎だ。それでも、前述の独身向きアパートに数千円足す程度の家賃で借りれる。私が居た大学周辺なんて、学生向け物件なら4万、ファミリー向けは6.5万からだった。この田舎の家賃ギャップの無さは、ずっと独身で暮らす奴が本当に少ないっていう田舎特有のアレだろう。
ともあれ、私は広い部屋を借りたのだ。大学の学部を短縮卒業、修士号とって田舎に就職。仕事の同期の中でも最速で出世して、同年代の雇われの中じゃかなり良い条件で働いてると思う。独身寮で家賃も激安だったので、金だけはあるのだ。これは数少ない私の自慢だから盛大に褒めてくれ。キッチンも私の使いやすいように可逆改造したし、1部屋丸々趣味の部屋にした。自転車2台を室内保管した上でスピンバイク置いてもまだスペースが有るし、寝室と分けられる。寝室にはセミダブルベッド置いて横幅140cmのPCデスク置いて室内ハンガーラック置いても、まだスペースが有る。トイレもUターンするスペースがあるからちゃんと座ってションベンできる。独身寮でのトイレ、ドアと便器が近すぎてUターンするとズボンが便器に擦ってすごい不快だった。独立洗面台もあって、室内に洗濯機も置ける。浴室も十分な広さがある。広い部屋は掃除が面倒くさい、って言ったやつは誰だ。十分なスペースが有る、すなわちバッファがあるから掃除は多少時間がかかっても、心理的にはかなり楽になったぞ。なんなら最近ルンバ買ったからそれすらも無い。たまにルンバじゃ難しいところを掃除するくらいで済む、めっちゃ楽だ。そして靴箱!これは独身寮のほうの問題がデカいのだが、靴箱がなかった。靴箱を置く場所もなかった。靴箱よ!靴箱!一番必要だったのは靴箱!そんで傘立て!玄関舐めてた。玄関広いってマジでストレスフリー。さらに駐車場付きだ。車好きの私としては、もう東京に住むなんて選択肢は完全になくなってしまった。金ためてスキルつけて都会に転職、なんて考えてたけど、仕事もそこそこ楽しいし田舎でも車さえあれば全く苦労しない。関東に戻る理由が皆無になってしまった。
というわけで、心にめちゃくちゃ余裕ができた。広くなった心にだいぶ虚無が入りこんだが、まあええやろ。私は独りでこの広い部屋を好きなように使えるのだ。年収が3倍になるくらいのオファーでもないかぎり、多分関東には帰らないだろう。帰ったとしても、母校の周辺くらいのちょうどいい田舎だろう。
広い部屋、めちゃくちゃいい投資だった。私の顔のデカさを考えれば、そりゃ2LDKは必須だった。それ以下で暮らすのは、1Lの容器に2Lの水を入れようとするがごとき愚かな行為だったのだ。私の心や器が広く、大きくなったのではない、今まで圧縮されていたのだ。ちゃんと正しいところに住めば、小指の爪くらいまで圧縮されていた心は私の額くらい広くなるし、器はおちょこの裏から私の足くらいデカくなる。
寒い寒いと言いながら、三時のおやつでも食べようかとリビングに降りてきた私に、キッチンから父がボソッと声をかけた。
「エアコンなら、母さんが業者呼んで清掃してからじゃなきゃ使わん言ってたから、つけたら怒られるぞ」
はぁ?という顔をしている私に、いらんといったのが聞こえなかったのか、みかんを手渡しながら父が言う。
「なんで寒くなる前にやっとかんかったんだって話よな。そんなこと言ったら、怒られるから絶対言わんけど」
からからと笑う父。手に持つマグカップには湯気の立つコーヒー。テーブルに目をやると、みかんの皮が散乱している。
ソファの背もたれにかかっていたひざ掛けを腰に巻いて、リビングのテーブルにつく。渡されたみかんを揉みながら、
頼むより先に父はグラインダーに豆を入れていた。ブィーンという無機質な音が部屋に響く。
「みさちゃん、昨日の夜酔っぱらって、そこまで聞けんかったけど。この後どうすんの。そこらへん、母さんとは話したんか?」
「うーん」
どうしたものかと私は少し考えた。昨夜、久々に帰省した私のために、自宅ではささやかな歓迎会が催された(とはいっても少し豪華な寿司の出前をとったくらいだが)。食事を終えて、家族三人テレビを見ながらダラダラとお酒を飲んでいたのだが、父は早々かつ静かにリビングのソファに沈んだ。腹に猫を乗せて、スマホのバイブほどの小さな音量でいびきをかきながら寝る父をそのままに、母とは今後の話をある程度した。正味二時間ほどかかったその話を、今父にするにはまだ話をまとめ切れていない。母からは同姓として理解は得られても、父にはこの冗長な割に何も決まっていない私の現状を伝えても、ただ心配を駆り立てるだけではと不安になったのだ。
「まぁ暫くは休むよ。貯金もあるし。今はまだ動けん気がするし、何より少し疲れたわ」
みかんの皮をむきながら、はぐらかすようにそう答えると、コーヒーを入れる父の手に視線を移した。暫く見ない間にまた年季が入ったなぁと、ふとそんなことを考えた。
ここ数年、私(輝く三十代独身)はアメリカ西海岸の小さな広告代理店で仕事をしていた。小資本の飲食店や小売店なんかがメイン顧客だったので、今回のコロナによる各種制限後はほどんと仕事がなく、一部制限解除後もほとんどの店はコマーシャルを打つ余力はなかった。片手間に作っていた無料情報誌なんかは、コロナ対策のコラム等を差し込みつつほそぼそと発行を続けていたけれど、いつしかそれも限界に。結果、私はあえなく「状況が良くなったらまた声をかけるから、必ず戻ってきて」とお決まりのコメントと共にレイオフの網にかかったのである。こんな状況ですら私を限界まで雇い続けてくれた会社には感謝しかないが。
解雇後「とりあえず一旦リセットだな」と考えた私は、実家に帰ることにした。異性関係は、現地で交際していた男性と二年ほど前に別れた後はパッタリだったし、行きつけのチャイニーズレストランもコロナで潰れたので、かの地に私を繋ぎ止めるものはもう何もなかった。大卒後から今までずっと海外でもがいてきたこともあり、このひっくり返った世界を口実に、このタイミングで実家でゴロゴロしてやろうと、そういうことである。しかし状況が状況なので、帰国を決断した後も、やれ渡航制限だ、やれチケットの予約だと色んなことがうまく繋がらず、なかなか出国することができなかった。ようやく帰国の日取りが決まったころ、
「帰るで」
ポッと送ったLINEに、
「車で迎え行く!楽しみ!おめかししてく!」
と還暦も半分過ぎた母はノリノリで返信したにも関わらず、当日派手に寝坊した。私が期待していた、到着ロビーでの感動の再会(BGM:青春の輝き/The carpenters)は叶わず。実に四年ぶりの帰国はなんとも味気のなく、一人公共交通機関でと相成ったのである。
「あれな、『コロナだし、やっぱ行かん方がいいと思って』って言い訳しとった」
私の分のコーヒーを手渡しながら、けらけらと父は笑った。
「ほんと昔から適当な人。あんなんと結婚した意味が分からん。初恋の人とか言わんでよ?」
私が次のみかんに手を伸ばしながら言うと、
「初恋かぁ……」
ギリギリ聞き取れるくらいの声でボソッと言った後、父は一人モジモジしながら下を向いた。思えば父と母がイギリスで出会ったという話は聞いたことがあるが、初恋話となると聞いたことがない。恐らくこの人の初恋は母とは別の人と思うが、どうせ時間もあるし、掘れば面白い話が聞けるかも知れないと思った私は、
「そしたら、父さんの初恋っていつよ?」
別に話したくなければいいですよ、ええ。と二個目のみかんの皮をむきながら、興味なさげに聞いてみた。暫く返答がないので視線を上げると、相変わらずモジモジしながら、父は照れくさそうに顔を上げた。
「お墓に持っていくほどのものでもないし、話してもいいか。母さんには内緒だぞ?」
言うと父はテーブルの上のみかんの皮をまとめてゴミ箱に入れると、ゆっくりと向かいの席に着いた。
(結局話したいんでしょうに……)
「みさちゃんも墓参りの時に行った叔父さんの家、まぁあれは父さんの実家でもあるわけだけど、裏手に階段あったやろ。急なやつ。あそこを登ると昔図書館があったんよ。市立だか県立だか忘れたけど、そこそこ立派なやつがね。父さんは大学の受験勉強を毎日そこでしてたんだ。家だと兄弟たちがうるさいから」
父の実家は西日本の某所。坂の多い海辺の町だった。遠方であることもあり、私は小学校高学年の時に祖父母の墓参りに行ったのが最後、以来そこには行っていない。
「そこの自習室がさ、海に向かって大きな窓があって。部屋にストーブがあったけど、やっぱり窓が大きかったせいかな。冬場はすごい寒かった。でもそのおかげで利用者が少なくてね。少し寒いくらいの方が頭も冴えるし、父さんはそこを好んで使ったんだ。あともう一つ、別の理由もあったんだけど」
父はそわそわと立ち上がると、コーヒーのおかわりだろうか、電気ケトルに水を入れて沸かし始めた。ケトルがお湯を沸かし始める音が、私の想像の中の自習室のストーブの音と重なる。父はそのままケトルのそばから離れず、窓の外に目をやりながら続けた。
「父さんともう一人、その自習室を使う女の子がいたんだ。とても綺麗な、束ねた長い髪が印象的な子だったよ」
突如文学的な表現をし始めた父をみて(これはキモイな……)と思った。初恋話を聞くのにある程度の覚悟はしていたものの、父の口から語られるそれは、なんとも中途半端な恋愛小説のようで、
(これは、脳内でキレイどころの女優さんでもキャスティングして、程よく補完しながらでないと聞くに堪えないな)
そんなことを考えながら、みかんを口に放り込んで聞いた。
「それが初恋の人?思ったよりチープな感じ」
「最後まで聞けよ。みさちゃんが聞いたんだし、父さんにとっては大切な青春の1ページだぞっ!」
父はムッとした表情で言った。
「隣の高校の女の子だったんだ。同じく受験生だった。頭のいい子でね。その部屋で一緒になった最初の数回は会話がなかったんだけど、ある時勇気を出して話かけたんだ。『どこの大学を目指してるんですか』ってね」
「ほうほう。で?」
「目指してる大学が一緒だったんだ。まぁ、彼女は余裕の合格圏内。父さんは相当な努力を要するくらいの差はあったけれどね。彼女は英語系の学部に進みたいと言っていた。将来は海外に行きたいと。当時ボーっと生きていた父さんと違って、明確な夢を持っていた彼女はとても輝いていてね。ほら、男って単純だから、一発で惚れちゃったんだ。同じ大学を目指す二人。一緒に勉強する自習室。これは、もう、そういうことだろうってね」
「馬鹿なのではなかろうか」
「いや、馬鹿でなくて!」
父は鼻息荒く私を遮り、
「たしかに最初は一方的なものだったさ。けれど、一緒に勉強……というかほぼ父さんが教わるだけだったけれど、毎日のように、約束して、同じ時間を過ごして、そういう感じになったんだ。『一緒に合格しようね』とか『一人暮らしする時は、近くに住もう』とか、これはっ!もうっ!そういうことでしょうがっ!」
若干の金八先生口調になりながらまくし立てた。
「彼女の教え方が本当にうまいもんだから、ギリギリの成績だった父さんも合格圏内に入るくらいになったんだ。夢の大学生活は目の前だった。ある雪の積もった日、勉強を教えてくれたお礼に、図書館の近くでラーメンを奢ったんだ。温かいものでも食べようってね。その帰り道、初めて手を繋いだんだ。女の子と手を繋いだのは、その時が初めてだ。さっき食べたラーメンが胃から飛び出そうだった。家まで送ると言ったんだけど、ここまででいいと。途中で分かれたんだ。次の日も、いつも通り会えると思った。でもなぁ……」
突然、演技派女優のようにうなだれる父。いや、でもこれは結構シリアスな展開なのでは。私は我慢できず、恐らく一番ビンビンに立っていたフラグを掴むと、
「……し……死んだとか?その才色兼備さんは……事故に遭ったとかで……」
ゴクリと唾を飲みながら聞いた。少しの間、静寂がリビングを包む。父は顔を上げると、
「あっ、忘れてた」
と言って、電気ケトルのスイッチを入れ直した。ズッコケる私を一瞥しながら続ける。
「いや、死んでない」
「おい」
「死んでないんだけど、消えた」
は?という私の顔に腕を組みながらうんうんと頷くと父。
「次の日から、もう試験も近いのにパッタリと来なくなった。いなくなって三日後くらいかな、その子の高校に行ったんだ。名前は知っていたけれど、家は知らなかったし、当時は携帯なんてないからな。それしか方法がなかった。今ほど個人情報にうるさくないからな、聞いたらサラッと教えてくれたよ」
ケトルからサーっとお湯の沸く音がする。部屋が寒いからか、注ぎ口から湯気が濃く立ち上る。
「夜逃げしたらしい。母親がいない家庭で、親父さんがあまり真面目な人じゃなかったようでな。突然いなくなったってことだった。仕事で失敗したんだか、博打なのか知らんが……。家の前にも行ったんだけどな。バラック小屋ってわかるかな?そこまで酷くはないけれども、それに近いような、貧相な家だった。当然、明かりもついてないし、扉を叩いても誰も出てこなかった。家の前には、彼女が図書館まで来るのに使っていた、見覚えのある自転車がそのまま置き去りにされてたよ」
そこまで言い切ると、父は黙りこくった。そのまま暫く何も言わず、再び沸騰したケトルのお湯でコーヒーを入れ始める。
私は恐る恐る聞いた。父はいつの間に私のコーヒーが空になっているのに気付いたのだろうか。二人分入れていたコーヒーの片方を私に差し出しながら、
「父さんは合格したよ?」
知ってるだろ?と言わんばかりのとぼけた顔で答えた。
「いや、父さんでなくて、才色兼備さんは?合格発表で奇跡の再会をしたとか」
興奮する私とは対照的に、父は再び、一人冷静にモノローグに入る。
「あの日、合格発表の日。始発で発表を見に行ったよ。大学は遠かったからな。張り出された番号より先にまず彼女を探した。どこにもいなかった。一通り探した後、掲示板を見た。自分の受験番号があった。でも全く喜ぶことができず、父さん、そこでずっと立ってた」
(ヤバイ、泣きそうだ)
目の前でセンチメンタルに語られるオジさんのモノローグに、不覚にも目頭が熱くなる。
「当然彼女の番号はおろか、受験したかどうかさえ知らないからね。その日は大学の門が閉まるまでそこにいたよ。掲示板は何日張り出されてたんだっけな、もう覚えてないけど、もしかしたら今日これなかっただけで、明日見に来るのかも知れない。そう思った父さんはなけなしの金をはたいて近くの民宿に泊まって、翌日も一日中待ってたんだ」
「……でも、来なかったんでしょ」
ティッシュで目頭を押さえながら私が聞く。指先についたみかんの酸が目に染みる。
「うん。来なかった。そして大学に入ってからも、彼女の姿を見ることはなかった」
自分の話なのに、ウルウルとなく娘にもらい泣きでもしたのだろうか。ズビッと鼻を一度ならすと、
「きっと、受験できなかったんだなぁ。だって受験してたら、彼女なら絶対受かってるもの。あんなに行きたがってた大学だったんだから」
父はしみじみそういうとコーヒーをスッとすすり、一つ残ったみかんを、テーブルの上のカゴから取り出した。
(なんて切ない話だ……)
還暦もとうに過ぎたオジサンのコイバナに、悔しいけれど胸を打たれた私は、鼻水をかみながら劇場を退席しようとした。脳内で有村架純あたりを勝手にキャスティングしていた才色兼備の不憫さも去ることながら、そこにいない初恋の人を必死に探す父の哀れさを思うと、今はすっかり禿げ上がった父にも、そこそこかっこいい俳優をキャスティングしてやらねば。そう思いながら、ソファで眠る猫を抱えて二階に上がろうとした。その時。
「でも、この話には続きがあってな」
ニヤニヤとしたり顔で笑いながら、父は私を引き止めるように言った。
「父さん結婚前にイギリスで単身赴任したことあるって言ったろ。そこで彼女と再会したんだ」
私は慌てて猫をソファに戻すと、前のめりになりながら席に戻った。と同時に私は焦った。父と母はイギリスで出会ったという話を思い出したからだ。そうすると、有村架純をキャスティングした才色兼備の役を再考しなければならない。あの母親は……明らかな才色不備だ。
「あ、母さんじゃないぞ」
私の焦りを察したのか、落ち着かせるように父は釘をさした。
「日本人の駐在員が集まるパブがあってな。仕事終わりにそこで飲んでいたら、隣に二人組の日本人女性が来たんだ。その片方が彼女だった。一目でわかったよ。向こうもそうだったと思う。『もしかして、○○さん?』って聞かれた時、夢でも見てるんじゃないかと思ったよ」
「うわぁ、本当にそんなことってあるんだ。もうそこから話が止まらなかったでしょ」
「いや、お互いとても驚きつつも、一言二言交わしてその日は別れたんだ。向こうは連れがいたしね。翌日は休みだったから、また明日改めて会いましょうと、向こうから番号を渡された。その番号を見て色々悟って、嬉しくなったね」
「なにを悟ったん?」
「電話番号だけで、ホテルの名前とか部屋番号とかは書いてなかった。つまり定住しているってこと。ちゃんと夢を叶えたんだと」
「なるほどねぇ」
そんなに長いこと話したつもりはなかったが、いつの間にか部屋は薄っすらと暗くなっていた。父がパチッと部屋の明かりをつけると、猫が呼応するように二階へ駆けていった。
「でもさ、そんな感動の再会したら、もうそれは運命の人じゃないの?どうしてその人と結婚しなかったのさ」
話が一周して戻ってきたが、単純にそう思ったので聞いてみた。そりゃあ、今の母と結婚したから私がいてとか、そういう御託はあれど、普通ならそこでくっつくだろうと、そう思ったからだ。
「あら、そういうパターン」
「あの後、働きながら勉強して、渡英して、仕事についたと言っていた。そこで出会った人と結婚したそうだ」
それを聞いて、世の中うまくはいかないのだなと思ったのはもちろんだけれど、ふとその時父は何を思ったのかが気になった。初恋の人との運命的な再会と同時に、自分の恋が終わった時、悲しかったのだろうか。悔しかったのだろうか。私だったらグシャグシャになってしまうかも知れない。しかし、そんな私の疑問は、次の父の言葉ですぐに解消した。
「心から嬉しかった。父さん、みっともないけど、そこで泣いちゃったんだよ」
照れくさそうに笑いながら父は続けた。
「良かった。良かったってね。ずっと心につっかえていたものが取れたような気がした。『ありがとう』っていう父さんに、あの人は『なんで?』とは聞き返さなかった。わかってくれたんだろうね。『こちらこそありがとう』と」
「どういうこと?」
今までの話の中で、父がその人に感謝することはあっても、父が感謝されるようなことがあっただろうか。
「『君が海外に行ったら、そこに僕も必ず行くから、その時はバッチリの英語で観光案内してほしい。約束しよう』父さん、そう言ったんだと。全く覚えてなかったけどね」
「そんな約束してたんだ」
「『私が海外に行くことに、きちんと意味を持たせてくれたのはあなただった。約束を守るために、頑張ったから今ここにいるの』と言われた。父さんも、彼女の役に立ててたんだ」
一昔前のトレンディ俳優のようにフッと小さく笑うと、そのまま父はトイレへと消えた。
(お前はすっかり忘れてたわけだけどな)
父の背中に心の中で柔らかく突っ込みながら、私もニッコリ笑った。
「ああ。会ってない。連絡先も特に交換しなかったんだ。まぁ色々あってね」
キメ顔で答える父に、久方ぶりに(気持ち悪い)という素直な感情が戻ってくる。
「ただいまぁ」
「あら。何仲良く話てるの珍しい」
リビングに入ってきた母は、そう言いながら、みっちり膨らんだエコバックをキッチンに置いた。それを見て、先ほどまでの話題のせいで居心地が悪いのか、父が二階へ避難しようとする。
「なになに?なんの話してたん?」
トイレに行こうとする有村架純とは程遠い母が、リビングの出口で父に聞く。
「いや?たわいもない話だよ」
父は道を譲りながら誤魔化した。訝しげな視線を投げながら、母がトイレに入ったのを見計らって、
「ちなみにな」
父は私の耳元に口を寄せると最後にコソッっと
「彼女と再会したとき、パブに彼女と一緒に来てたのが母さんだ」
そう付け足して、ニヤニヤしながら駆け足でリビングを後にした。
「えぇー!?なにそれぇ!」
「ねぇー!何の話なのー?」
あの人との馴れ初め話は、また後日みかんでコーヒーを飲みながらでも聞こうと思う。
色んなコーヒーの淹れ方があるんだな、ではなくインスタントを反射で恥ずかしいと感じる不思議。幼くてもピンクは女の子の色だと思うのと似たものを感じる。
出汁をちゃんと取るとかカップメンやレトルト常備してない家とかでも感じるのかな。出汁をコーヒーメーカーで作る家はどうだろ。あと挽いてある豆で淹れる家とか、カプセル式のコーヒーメーカーを使ってる家とか、手抜き系家電である食洗機とか乾燥機とか、価値観次第の電気ケトルとかIHコンロとかウォーターサーバーとか使ってるの見た場合は。どう感じるんだろ。キッチン系ではないけどリビングの隅にうっすら埃かぶったルームランナー置いてある場合とかも。
気になる。
中学生の頃に、仲良くなったクラスメイトがいた。Aちゃんと呼ばせてもらう。
Aちゃんと私は趣味が近くて、お互い小説を読むのが好きだった。買った本の貸し借りなんかもしていて、借りた本の感想の手紙なんかもやりとりするくらいだった。
ある日、Aちゃんの家に誘われた。ある小説がゲーム化したのを買ったから、一緒にプレイしようって話だった。
Aちゃんの家は適度にさっぱりしていて、暮らしやすそうなお部屋だった。そこで私がキョロキョロしていると、Aちゃんが飲み物はコーヒーでいいかと尋ねてきた。私はコーヒーが好きだったので、ありがたく了承した。
じゃあちょっと待ってて、とAちゃんがキッチンに入っていくと、ガリガリという大きな音と、コーヒーのいい香りがしてきた。その音は何かを削っているかのような音で、何が起きたか分からなかった私は無作法にもキッチンに踏み込み、大丈夫?とAちゃんに声をかけていた。
一方のAちゃんはキョトンとした顔で、大丈夫って何が?と訊き返してきた。彼女の手元には、鉄で出来た砂時計みたいな道具があった。
彼女が豆を挽くところから煎れてくれたコーヒーは、とても美味しかった。
と同時に、私は彼女との間に壁を感じた。
私はコーヒーというと、マグカップに細かいチップ状の素を放り込んで、直接お湯で溶かして作るものしか知らなかった。
私がコーヒーを飲んでいる間に、「豆から出すコーヒーは初めて飲んだよ、美味しいね」と言うと、Aちゃんは「今まで缶コーヒーしか飲んだことなかったの?」と訊いてきたので、「いや、ウチのコーヒーは直接お湯を注ぐヤツだからさぁ」と答えたら、なんかよくわからない様な顔をされてしまったからだ。
だから、ああ、壁がある、って思った。
たぶん、この暮らしやすそうな家の調度品とか、彼女は塾に通わせてもらえるとか、そういうのを支える根底が何か違うんだな、って思ってしまった。
その日から私は、Aちゃんから少しずつフェードアウトしていった。彼女は何も悪くない。悪いのは、醜い嫉妬心を持つ私だ。
でも、あのコーヒーの味が感じさせた壁を目にして、それでも笑ってられる強さはなかった。
4月から独り暮らし始めて、別に料理好きでもないからカップラーメンが主食になるかなと思ってちょっと買い溜めした。
でも意外に食べる機会ないな。
冷蔵庫とキッチンが自由に使えるなら、適当になんか鍋に突っ込んで煮ればカップラーメンより満足度高いものができちゃうんだよねぇ。
実家のすぐ裏に、こちらのキッチンの窓にピッタリ付きそうに密着した家がある(仮名U)。
こちらのキッチンの換気扇が、U家のリビングの窓に面しているらしい。
私がまだ幼い子供だった頃、母が揚げ物をしていたら
「嫌だ!なにこの臭い!部屋の中が油臭くなるじゃない!今すぐやめろよ!」と
母は慌てて調理を中止し、晩のおかずは他のものに変更となった。
服に、醤油や脂の移り香が酷くなった。
あれから何年経っても十数年経っても、
扉を開けると、「うっ、またか…」となる。
私の母はU家の主婦の機嫌を損ねるのを怖がって、
見て見ぬ振りを続けてきた。
「うるっせーな!なんだよてめぇはよぉ!」
「何回同じこと言わせんだよ、このクソ野郎が!」
U家の換気扇の吹き出しは、私の家に入り放題だが、こちらは換気扇を点けられない。
向こうのテレビの音は漏れても、こちらの音は聞こえよがしに文句を言ってくる。
その為には、私が頑張らなければ。
テレワークの昼休憩でリビングに来たところ、父がサーターアンダギー4人前を作ろうとしていた。
ドアを開けた私の目に飛び込んできた光景
・溢れそうなほど粉が入ったボウル
・そこからちまちま卵の入ったボウルに粉を混ぜ入れる父
・エプロンつけてない父
地獄絵図というのを人生初めて見た気がする。胸のざわつきがすごい。
初めてのお菓子作りがサーターアンダギー…ハードル高すぎないか?
父はレシピをちゃんと見ないことで有名で、ナポリタン作りでソースやらチョコやらを入れた物を錬成した経歴がある。
サーターアンダギー…。うーん、どうだろう…。
昼ごはんを用意する傍ら、「エプロンつけて」「レシピは半量にしなかったの?(※卵は5個使っている)」「泡立て器に入り込んだのはボウルの下の方に叩きつけると出るよ」など、世話を焼いてしまった。焼かずにいられようか。いや、無理だ。(反語)
沖縄旅行で食べたサーターアンダギーにいたく感銘を受けたそうで、ケンミンショーのレシピをメモって、今回実施に至ったそうな。
本当に悪いんだけども、ケンミンショー、そのレシピだけは放送しないでほしかった。ケンミンショーに罪はないのはわかってるんだけど。
揚げの段階に入ったようで、油を小鍋にダバダバ入れたところでリビングを離れた。
怖い。怖すぎる。だれか助けてほしい。
【追記】サーターアンダギー、無事に作れました。爆発もせず本当によかった…。
増田家では揚げ物は数年行われておらず私も未経験のため、過剰に心配してしまったところもあります。
お騒がせしました。炎上しそうならすみませんが消させていただきます。
【追記その2】ホッテントリ入り!?まさかそんなことが。ありがとうございます。
炎上(ネット)ではなく炎上(物理)でしたか…ご心配ありがとうございます。家は無事です。
父は作り慣れた料理(チャーハン、スクランブルエッグ等)は上手で、後片付けも手慣れたものでした。今はキッチンぴかぴかです。
わかります。火加減等のテク不要、油も出ないので安心ですよね。
>ドーナツは下手すると爆発(誇張でなく爆発)する〜
これです。これが不安でした。小型爆弾作ってるぐらいの気持ちでした。
>4人前というとことろが泣ける。“お父さんは家族全員を喜ばせちゃうぞー“〜
単純にうっかりのようでした。増田家、父・母(小食)・増田(小食)の3名なので食べ切れるかな…。
>サーターアンダギーにも罪はない
ごもっとも。
【追記その3・ラスト】サーターアンダギーは母にも好評でした。
父がブコメで人気(かわいい、和む)らしい、と母に伝えると、ニヤニヤしながら父の元に向かい背中をわしゃわしゃなでてました。平和です。
そろそろ寒くなって牡蠣が美味しい季節になってきたな
まず買ってきた牡蠣を水で良く洗え
牡蠣を洗ったらキッチンペーパーで水気を切って、全体に軽く塩をしろ
そしてフライパンで炒っていくんだ、油はいらない。牡蠣自らの水分で煮ていくのだ
生煮えにならないようにしっかり火は通せよ
加熱完了後牡蠣を冷ましたら適当な保存用な瓶に牡蠣を詰めて、全体が浸かるようにオリーブオイルを入れろ
後は冷蔵庫に入れて1日〜2日漬けて完成だ、大体1週間ぐらいで食べ切ってくれ
それ以上は多分ヤバいと思うが、牡蠣好きならどんなに大量に作っても1週間で余裕で消費し尽くしてしまうだろう
パスタやスープに入れても良し、バケットに挟んでも良し、酒のつまみにそのまま食べて良し、
私は夜はナッツをつまみながら酒を飲むことになっているのだが、噛み砕いたくるみの破片が喉に詰まった。「喉に詰まる」という状態がどのような状態を指すのかは私は私の喉を客観的に見たことがないのでわからないのだが、とにかく喉に違和感を感じるのが先か、生体反応が先か、激しく咳が出た。
よくあることだ。私は物をあまり噛まないで飲み込むことが多いので、ナッツ類のような固形物はよく喉に詰まって咳き込む。そう、いつものこと。咳をしていれば落ち着く。そう思っていた。
かなり激しく生体反応という名の咳が出続けたが、いつもと違うことは、息苦しくなってきたことだった。息が吸えない。
息を大きく吸っているのだが、生命を維持するための量に全然足りないらしく、どんどん苦しくなっていった。普段、呼吸なんて意識をしないで行っているが、私はこの時、かなり意識して息を大きく吸い続けた。しかし、苦しくなるばかり。息を吐くのはスムーズに出来るのに、吸うのがいつも通りにできない。たった一つのくるみの破片で、である。
このままでは死ぬな、と強く思った。生まれて初めて外部的要因による死を意識した。パニックになる寸前だったと思う。はたから見たらパニックだったかもしれない。息が思うように吸えない。苦しさは死活問題で増していく。
私はたまたまその時キッチンにいて、たまたまグラスがシンクの傍に放置されていた。水だ、と思った。グラスに水を注ぎ、一気に勢いよく飲み干した。これで呼吸ができるようになってくれ、と祈りながら。
水のおかげで呼吸が戻った。良かった。本当に死ぬかと思った。しばらくは咳き込みが続いたが、息はいつも通りにできる。
私はたまたま家にいて、たまたま水を飲むという発想ができたから良かったものの、仮に外で歩きながらナッツか何かを食べてこの症状になっていたら、おそらく苦しみながら死んでいた。
正月にお年寄りが餅を喉につまらせたというニュースが良くあって、私は「餅を喉につまらすって何だね」と失笑していた。そんな自分をぶん殴りたい。餅ではなく、くるみの破片でさえ喉につまらせて死にかけることがあるのだ。
なぜくるみの破片などという喉に詰まらないように思えるものが、喉に詰まってこういうことになるのか、詳しい人がいたら教えてほしいです。それと、何かを喉に詰まらせて死にかけることは、日常生活の延長線上に普通にあるのだということを知ってほしい。
うちも共働きで、子供を育てながらずっとやってきた。妻はそれほど家事が得意ではない。
すぐできる対策を考えてみた。
だまされたと思って、まずは3食くらい頼んでみろ。
どこも栄養がきちんと考えられているし、味も自分で作るよりずっと美味しい、見た目も悪くない。
宅配弁当は、料理を作らなくていいだけじゃなくて、洗い物をしなくてもよくなるんだ。夜の家事が本当に楽になるぞ。
ここは値段が少し高めなんだが、料理もやわらかくておいしいし、季節のメニューも気が利いている。
俺は「気くばり御膳 若鶏のグリル トマトソース仕立てとおかず5種」が好きだ。美味しいぞ。
ご飯がついているバージョンとついてないバージョンがあるんだが、当然ついていないほうが値段がやすい。
7食で5000円なので、夕飯を全部これにすると、ふたりあわせて月に4万だ。
もちろん、探せばもっと安いものもあるから、いろいろとりよせて試してみるといいだろう。
ただ、注意しなくてはいけないのは、冷凍弁当を買うと結構冷凍庫の場所をとるので、そのあたりは考えて注文しろ。
つぎは洗濯についてだが、うちでは導入していないが、周囲の共働きの家庭ではみんなドラム式洗濯機を使っている。
うちも、次に洗濯機を買い換えるタイミングで買おうと狙っている。
うちでも、忙しくてどうしても家事がまわらないときに、「風呂場だけ」とか「キッチンだけ」とか、スポットで頼んでいる。
たとえば、「ダスキンメリーメイド」では、週に2時間頼んで、一回あたり6600円。
「リビングを片付けて欲しい」とか、「全体的にきれいにして欲しい」とか、その時に応じて依頼できる。
なにより、気持ちが楽になるぞ。
これもいろんなところでやっているので、お試していくつか頼んでみるといいだろう。
週に一回頼めば月に26000円、2週に一回で月に13000円だ。
掃除代と料理代をあわせて月に66000円。(ドラム式洗濯機の代金はのぞく)
これを高いと思うか、安いと思うか。
俺は安いと思うぞ。
どちらかが職をやめてしまったら、それ以上の損失だ。
(給料は書いてなかったが、66000円よりは高いだろう?)
また、もし離婚になって、新しい相手を探す場合、お互いにまた数年を無駄にするし、数年無駄にしても結婚できる保証はない。
(ただ、俺のおすすめは、アウトソーシングの量を減らすより、収入をあげて、よりアウトソーシングを増やすことだ。)
今ならコロナで不動産も安くなっているし、子供がうまれると保育園や学校でひっこしづらくなるから今のうちだ。
稼ぐ嫁はだいじにしろ。
できれば子供ができてもずっと働いてもらえ。
将来子供ができた場合、大学入学の年は、一年で300万円くらいかかる。
一人でそれを稼ぐのはつらい。
でも共働きならなんとかなる。
そして、共働きなら、どちらかが病気になっても、メンタルをくずして鬱になっても、職場がいやになって転職したくなっても、会社が倒産しても余裕で対応できる。
最初はなにごとも大変だが、慣れたらなんとかなる。がんばれよ。
初めて気が付いたのはもう半年くらい前のこと。
同居人といっても寝室は別になっているので彼の部屋に入ることはないのだが
お香に近い甘い匂いではあるものの、どこか草のような青っぽさもある匂いだった。
数回嗅ぐうちに、これはもしかしたら大麻かもと思うようになった。
外国人が多いエリアなのでそういう話も稀に聞く場所ではあるのは確かだ。
実際自分も、一度だけ他人が吸っているシーンを見たことがある。
ただ、良い気がしない。
海外では合法の国もあるし、酒やタバコと大きくは変わらない依存度であることも知っている。
でもここは日本だ。
どうしようか悩んでいる。
正直な気持ちとしては外部に訴えて、吸引をやめさせるか追い出したい。
会社に訴えるという手もあるが、会社の上層部も染まってる可能性があるのでそれは悪手だと思ってる。
(残念ながらここはそういう噂が回っているエリアだ)
警察にいきなり行くという手もあるが、
ここはかなりの田舎なので警察といえど自分が漏らしたことがばれないか心配である。
また、そもそもこの不思議な匂いが本当に大麻なのかも分からないのでそこが一番のネックでもある。
どうしたら良いだろうか。