はてなキーワード: 彷徨とは
「ふぇぇ…うぇぇえぇん……ひっぐ……ブクマカお兄ちゃんのバカバカっ」
増田は泣きべそを書いていた。新年早々気合を入れて10本の記事を投稿したのだが、トラックバックはおろかブクマのひとつもつかない。
承認に飢えていた。承認されれば承認されるほどにその悦楽が大脳に刻み込まれ、ブックマを求めることから逃れられないのだった。
「あたし、がんばったんだょ。ぐーぐる先生が、お顔を真っ赤にして逃げ出すくらいの、こんしんの下ネタ記事を、投稿したのに」
空を見上げた。天上には無数のはてなスターが煌々と輝いていた。手を伸ばしても届かない。雲の上ではブクマ御三家たちがお茶会を開いていた。
増田は地面に落ちているうんこを投げ飛ばすくらいのことしかできなかった。
増田もかつては、はてなブロガーのひとりだった。しかし、PVが伸びない。収益が伸びない。
毎日のようにホッテントリ入りする人気ブロガーの収益PV報告やマネタイズ理論を読むたびに、心は嫉妬の炎で燃え上がり、頭はストレスで禿げ上がる。
やがて増田はブログを書くことに疲弊して辟易して、ふらふらと彷徨うようにして、ぬらぬらと血迷うようにして、はてな匿名ダイアリーに辿り着いたのだった。
はてな匿名ダイアリーには、今まで増田を苦しめてきたPVや収益はいなかった。
増田は自分の書きたいことを書きたいように、思うことを思うままに書き始めた。
すると、ブロガー時代は喉から手が出るほどに渇望し、しかし決して得ることの出来なかった【ブクマ】が、次から次へと増田に集まるようになった。
「やった、ようやくあたしったら、認められるようになったんだわ」
35歳。
20代にトラブルに巻き込まれていままでずっと実家に引きこもり。
精神病院に行ったことがないので、自分が精神病なのかすら分からない。いや精神病なのかも知れないがそれを分かってしまうのが怖いので病院にはいかない。
おれの貯金10000円ぐらい。低所得者給付金高なんだかでもらったお金だ。
今は体のうちから病気のようで寝るのも起きるのも起きてる間も内蔵が苦しくて肉体的にきつい仕事は体が持たない。
ホームレスとして渋谷か新宿周辺を彷徨っていればNPOやら貧困ビジネス屋さんに拾ってもらえるかも知れない。
いかにもホームレスみたいな汚れた服がないのでまあ声は書けてもらえないだろう。
落ちるところまで落ちたわけではないけど自力で立ち上がれない。
アニメ映画は、ジブリや大長編ドラえもんくらいしか観に行った事はなかったのだが、
このたびガルパンを観に行った。
いいぞーいいぞーという声に押されたわけでも無かったが、
まあ、「少なくともハズレではなかろう」と安心感を貰えた事も事実だった。
で、内容についてだが・・・
不満。
なんだこの無難な内容。
強い敵が出てきて、力を合わせて戦って勝っただけじゃないか。
お祭り回と変わらないじゃん。
いっそ本物の戦争が始まって、学園艦が撃沈されたり自衛隊に徴発されたりして旧式戦車で何とかしようとした歴女チームとかバレー部とかが戦死して、
キレて復讐の鬼と化した主人公たちが自衛隊に入隊して暗い目で人格が一変しちゃったケイ辺りと再会して、5年後に最新鋭戦車で戦場でオラついてるとか、
そんくらいやっても良かっただろせっかく原作が無いんだからさ・・・
劇場版の何が不満かって、
やる気なかっただろ監督。
この劇場版観に行った人で、作り手のドヤ顔が見えたって人いる?
スローモーションとかをほぼ使わずに、敵も味方も主要キャラをつまらん解説抜きでバタバタ薙ぎ倒した所には、作り手のプライドの一端を垣間見たが、
良い所と言えばそこだけだった。
TVシリーズ観てた時は、そりゃもうドヤ顔が見えまくったよ。
序盤では戦車の知識なんて無いだろって視聴者に誰得のトリビア山積みにしたし、
中盤ではキャラも戦車も成長しまくって、何より彷徨ってる主人公が最終的にどういう方向に進みたいのかというテーマも生きてたよ。
次に仲間になるのがどんな戦車かって楽しみもあったよ。
確かに戦車戦は凄かったけど、
なぜあの戦車戦が凄かったかと言えば、主人公がやる気なかったからだろ。
敵は強戦車と精鋭揃い。味方はポンコツ戦車と素人集団。主人公は戦車道好きじゃないし、気質的にも向いてない。そもそも大してやる気も無い。
でも将棋盤に向かえば指してしまう将棋指しのように、戦うと勝ち筋が見えてしまって、やってるうちに勝ってしまうという、引っ込み思案の呂布みたいな所が戦車戦を面白くしてたんじゃん。
あれが戦車は友達ってキャプテン翼みたいな主人公だったら、あそこまで面白くならなかったよ。
決勝戦までは行けるだろうとは思ってたけど、決勝戦で勝つかどうかは予想が分かれてハラハラしたよ。
負けてもいいって展開でそれでも勝つから、最終回の満足度が半端なかったんだよ。
誰にもドラマがねーし、あの展開じゃ負けるわけないだろ。
そりゃ2期とか考えたらね、
新キャラとか新戦車とかを大洗に追加しちゃったら、劇場版観てない人を置いてきぼりにしちゃうよなーとか考えて二の足を踏むのかもしれが、
結果的に「観ても観なくてもガルパン観が変わらん」なんて映画作っちゃ意味ないだろうが。
一本の映画が成功するなら、世界観なんてどうだっていいだろうが。
パト2とか劇ナデとか見ろ。
それをやっちゃお終いだろって所にガンガン来るから、あれらが今でも語り草になるんだよ。
誰もが誰かの揚げ足を取り合ってお互いに底なし沼へと人生を投げ込んでいるだけだ。
そうして人生がズブズブに砕け散った人間は健全な精神を失ったままそれでもなお沼を彷徨い獲物を求める。
どれも「ツッコミどころがある」「一言言いたくなる」「気に食わない事が書いてある」「俺の正しさを皆に教えてやりたくなる」「自分が素晴らしい人間であることを宣伝するチャンス」そういったロクでもない感情を喚起する要素があるはずだ。
何でそうまでして己の斧の切れ味を試したがる。
そうやって戦い続ければやがて思考する力は完全に失われ体が記憶したままに斧を振り回す沼地の狂戦士としてヴァルハラ送りだ。
日々君たちが磨いてきた能力は自分を幸せにするためのものだろう。
何故その力を斧を研ぎ澄ませ振り下ろすことにばかり使いたがるんだ!
もうやめるんだ!こんなことは!
葬儀も済み、気持ち的にもようやく落ち着いてきたのでこの場で吐き出す。
八つ当たりにしか聞こえないかもしれないが、どこかにぶつけなきゃ気が済まない。
急な出来事だった。その日、母親と二人で森を彷徨って歩いていたのだが、急に母親の持病である心臓発作が起きた。周りに助けを求めようが、森の中では誰もいない。また、森の中で彷徨っていたので自分の居場所すら分からない。
そうこうしている内に母親の苦しみは増すばかり。せめてここがどこなのか、病院はどこなのか、藁をもすがる思いでスマホを開いた。通信制限がかかっていた。マップの読み込みは実用の域に達せず、私のイライラは募るばかり。苦しむ母親。私は自分の無力さを呪った。
そして母親は死んだ。深い森の中、残されたのは通信制限がかかったスマホと私だけ。私の母親は携帯の通信制限に殺されたのだ。
葬儀が一通り済んだ時、私はスマホをへし折った。こんなものがあるから母親は死んだのだ。そして同じ苦しみを他人にも味わってほしくない。そんな思いで増田を開いたのだ。
小学生の頃、3駅ほど離れた所にある大きな塾に通っていた。
「アーさん」は俺が勝手に付けた名前だ。大きな声でアーアー喋るからアーさん。
…つまりそういう人だった訳だが、当時の俺はそんなこと知る由もなかった。
ある日、俺はアーさんがどういう人なのか知りたくなった。
アーさんはいつも花柄のシャツを来ていた。水色の柄が多かったように思う。
肌は少し黒くて、背の高さは担任の先生と同じくらいで、ちょっと太ってる。それくらいしか知らなかった。
帰りの電車の中、アーさんはいつものようにアーアー言いながら、俺が降りる駅の一つ手前で降りた。
俺はその後を追った。隣の駅では一度も降りたことがなく、全てが新鮮だった。
塾は土曜の昼から夜にかけてまとめて受講するコースだったので、その時点で夜8時半くらいだったか。
駅を出たアーさんは、あまりアーアー言わなかった。片足を引きずるように、結構な速さで歩いていく。
俺はドキドキしながら、アーさんを見失わないように小走りでついていった。アーさんしか見えていなかった。
はっと気付いた時には、周囲に人のいない、静かな住宅街にいた。振り向いた先に駅の明かりはなかった。
目に入った電灯に、大きな蛾がバチバチと体当たりしていたことを覚えている。
急にドキドキが大きくなってきた。これはまずい、迷子になった?このトシで?今すぐ戻った方がいい?
アーさんの方に視線を戻す。するとアーさんは、ちょうどどこかの家に入るところだった。
何となくホッとした。これ以上知らない道を進まなくて済む。
全然事態は解決していないが、とにかく心に余裕が生まれて、へえこれがアーさん家か~とじろじろ見回した。
アーさんが入ってから2,3分が過ぎただろうか。突然アーさんの叫び声が響き渡った。
俺は漫画みたいに跳び上がった。本当に驚くと「ビクッ」という動きで体が宙に浮くことを知った。
電車の中でのアーさんを「アァ―――、アァ――――」だとするなら
この時のアーさんは「ア゙ァァアア゙アアァァ―――――――!!!!!!!!」だった。
ドタンバタンと、何か重い物が引っくり返るような音も聞こえた。
その後、今度はアーさんではない誰かの怒鳴り声が聞こえた。心臓がまた跳ねた。
何を怒鳴っているのかはアーさんにかき消されてよく聞き取れなかった。
とにかく俺がぶつけられたことのないような、強烈な怒りだということは分かった。
こんなに怖いのに、その場から動くことができなかった。視界の端が歪んで、全部真っ暗になる気がした。
ドタンバタンの音はだんだん激しさを増して、こちらに近付いてきた。それでも動けない。
ドアノブが勝手に上下する。誰かが出て来る。俺、逃げなきゃ。逃げないと殺される。
ようやくズリズリと足を下げたところで、聞いたことのない音を立ててドアが飛んだ。
大きくなった視界の中心に、見慣れたシャツが転がり込んでくる。アーさんだ。
今考えてもバカだと思うが、俺はその時「アーさん大丈夫?」と声をかけようとした。
が、それは喉に詰まった。代わりに、自分でもどこから出したかよく分からない女子みたいな悲鳴が飛び出した。
アーさんは俺の知ってるアーさんじゃなかった。いつもより妙に白い肌で、バラバラに動き回る両目。
体育のストレッチにある「くびまわし」のように、首だけがぐるんぐるんとゆっくり回転している。
すべてがチグハグだった。
俺はキャアアアア!!と叫びながら、変な体勢で走り出した。腕がクロールのようだった。
そこからはもう、よく覚えていない。とにかく来た道を引き返すように、無我夢中で走った。
すぐ後ろをアーさんが目と首をぐるぐるさせながら追いかけて来ている気がして、
たぶん後ろには誰もいないのに、嫌だ!嫌だ!と叫びまくったことだけ覚えている。
次の記憶は、自宅の玄関前。電車で一駅移動したのだろうが、全く覚えていない。
今からアーさんのようにひどく親に怒鳴られたらどうしようという恐怖が混じって、
俺は素直にドアを開けられずにぶわああああああと泣き出した。
ぐわっと腕が伸びてきて、肩をつかまれた。ものすごい力だった。
殴られる!と思ったら違った。怪獣のように泣く俺の声がくぐもるくらい、強く抱きしめられた。
母親は怒ったように泣いていた。でもアーさんの家から聞こえてきた怒りとは全然違った。
嗚咽で吐きそうになりながら、ごべんな゙ざい、ごべんな゙ざい、としか言えなかった。
さらに記憶が飛んで、俺は家の中で震えながら親にウソをついていた。
なぜかこの記憶だけ、まるで幽体離脱をしたかのように空中から見下ろした視点になっている。
塾から帰る途中、ボーッとして隣の駅で降りて、改札まで出てしまった。
あわてて戻ろうとしたときに男の人から声をかけられ、道案内をしてほしいと言われた。
断ろうとしたけどとても困っているみたいだったから、一緒に地図を見て歩くことにした。
でも駅からだんだん離れるにつれて、何だかおかしい、よく分からないけどおかしいと感じた。
急に地図を振り回して怒鳴りはじめた。目と首がぐるぐるしててすごく怖かった。
なんとか駅まで逃げてきて、やっと家に帰り着いた。
知らない人についていってごめんなさい。もう絶対に寄り道はしません。
当時道を訊ねるフリをして子どもを誘拐する事件が流行っていたので、何とかその話と結びつけた。
父も母も俺がウソをついていることに気付いていたと思う。ただ、特にお仕置きされることはなかった。
その後、塾は母が車で送り迎えをしてくれることになった。
電車に乗ることがなくなった俺は、二度とアーさんに会うことはなかった。
いや。正確に言うとつい先日、アーさんによく似た老人を見かけた。この文章を書いたのもそれがきっかけだ。
花柄のシャツに、ぐねぐねに曲がった杖。ショッピングモールの真ん中をアーアー言いながら彷徨っていた。
違いないと頭では分かっていても、十数年間忘れていた記憶が堰を切ったように溢れ出てきた。止まらなかった。
思わずあの時のように、アーさん、と声をかけそうになった。もちろん思い留まったが。
アーさんは人波を割りながらフラフラと足を引きずっていき、やがてエスカレーターの奥に消えた。
昔の俺がやったことは、バカな真似だ。この時代にやったら炎上必至、例え殺されても俺の方が叩かれるだろう。
タイムスリップできるなら、あの時隣の駅で降りようとした俺を力尽くでも阻止したい。
この話は、これで終わり。アーさんとの思い出話というのもおこがましい、アーさんの話。
昨夜少し遅い時間、行きつけの大衆寿司屋にいくと、「もうネタが切れちゃったよ」と言われた。
よくよく考えると、この付近に馴染みの店はその寿司屋と、お気に入りのバーしかない。
頼りない感性を使って、できて間もない感じの、小綺麗な和食を出すお店に飛び込んだ。
とりあえず瓶ビールを注文。
はじめてのお店では瓶で頼むに限る。
きんぴらにハモ天の南蛮漬け…あとなんだかよくわからない貝が出てきた。
おお。これは美味い。
かなり美味い。
ビールがこの時点で空いたので、熱燗二合を注文。
もしかして、この店当たりかも?
この時点で日本酒終了。
締めに天むすを注文。
へぇ、巻きずしにして天つゆをつけるのね…。
うん、可もなく不可もなし。
なかなか落ち着いたいいお店だったので、料理長の名刺を頂いてごちそうさま。
話を聞くと、9年目のお店だそうな。
やはり新しいお店は開拓しないとね。
身体の不調じゃないことだけは分かって、イライラするとかムカつくとか悲しいとかそういうことじゃなくて、
なんだか「やばい」って感覚だけはハッキリ分かる。前にもあったんだけど、今回のは特にひどかった。
耐えられない感じがして、毛布ひっかぶったり電気消したり、光の入らない風呂場で仮眠をとったりしたけどどうもダメで、
つらいとか怖いに似た感覚にずっと支配されてた。親にも友達にもなんていって電話したり連絡したりすればいいのか分からないし、
なにより電話をとってもらえなかったり返信が来ないのが怖くてできなかった。
本当にダメで、耐えられなくなってタオルを口に押し当てていると呼吸が荒くなるみたいなどうしようもない状態で、
腹を切ったら大丈夫になるだろうかって思うほどだった。指先の感覚が奇妙になって、暗い中で近くの材質の違うものを延々と触り続けたけど、それでもだめだった。
本はだめだった。そんな余裕は無いし、音楽もこの状態になるとむしろリズムが合わなくて気色の悪い状態になるんだよ。
とにかく家の中に居てはいけないと深夜に家を飛び出した。
頭の中がすごくごちゃごちゃして、考え事のスピードが多分恐ろしく早くなってたんだと思う。
考えてることを口でなぞろうとしても、全然間に合わなかった。脳内に三つ子がいるんじゃないかってぐらいに
一つ考え事をすると「そうだね」「それでいいんじゃないかな」「どうしようもないよね」みたいな言葉が文字を流し読むレベルのスピードで勝手に浮かんできて、
「うるさい」って強く考えるしかなくなった。
知り合いがいそうなファミレスに一人で行くのもなんだか嫌になって、延々と一人で食べることが出来る場所まで歩こうとしたんだけど、
田舎だからさ、小さな小道を通ろうとしたら真っ暗なところにぽつんと街灯があって、それが丸く地面を照らしてるみたいな所があるんだよ。
へろへろふらふらしながら歩いてたオレはそれを見てSIRENみたいだ、って思った。
それも画像みたいな。pngで出来てますみたいな、はっきりとした一枚の絵なんだ。
オレは人と視線が合わないって言われるし事実そうで、歩いてるときとかもかろうじで左下を見たりピントをぼやかしたり、極力人の顔を認識しないように歩いてるんだけど
(顔をじっと見てたら何見てんだよって言われた経験とかもあるんだけど)歩いてるときもそうなのな。
普通の車道の横の歩道でも後ろから車が音を伴って来る、道がこんな風にある、ってのはあるけど、決して風景みたいなものじゃないんだよ。
映画館で3Dを見てるときの違和感みたいなのが外に出ると四六時中ある。
それが、街灯を見たときはまったくなかったんだよ。一枚の絵みたいで、完璧で、ああ、ゲーム画面みたいだなって思った。
FPSっていうのかな、主人公視点で進むやつ。本当にあんな画面みたいだった。ピントがバラバラになりうることがない、ただ一枚の平面的な世界。
街灯の所を抜けるとオレはまたやっぱり「だめな」感覚に支配されて、メガネをはずして乱視の強すぎる世界をふらふらとゾンビみたいに彷徨ったりしたわけだけど、
なぁ、他の奴は、オレ以外は、あんな、ゲーム画面みたいに世界が見えてるの?
歩いてるときに視線を向けられずにずっとストレスを感じたりしないのか?俯きながら歩き続けるのも変だからって無理やりピントをぐちゃぐちゃにして歩かなくて済むのか?
ゲーム画面みたいに世界が見えるのか?眼鏡の度があってないとかそういう話じゃないんだよ。
外に出るのも人が多い場所を歩くのも、全部の光景はゲーム画面みたいに見えるのか。
オレ、映画を見るときは端から端まで何もかも見てもよくって、本当に気分が良いんだよ。みんなは近くに来た人間が視界の端すぎて老婆だか少年だか分かんなかったら確認できるのかよ。
みんな立体視をやってるみたいな、なんか気持ち悪い感覚が街中を歩くときにないのか?
それともオレが感じてる見え方ってみんなと同じなのか?
俺みたいな人生どうしようもなくなったピータパン症候群のオッサンが共感するような歌だと思うんだよなあれ。
まず出だしからして
「
乱反射する眼差し
鏡越しに誰かが見てるの?
ビロードの重い空
ざわめく風が昨日までとは違うのよ
」
だぜ?
単語の意味を知ってもそこからイメージされる滑らかで儚く冷たくそれでいてどこかドッシリとした質感が分かるのだろうか。
薄く重々しい布に天蓋のように自分の世界を覆い尽くされたかのような感覚が幼女先輩に分かるのだろうか。
昨日とは違う特別な今日、その閉じられた世界から解放される日が訪れるような錯覚を幼女先輩は感じたことがあるのだろうか。
「
声を聞かせて 姿を見せて わたしを逃がして
ねえ、鍵が壊れた 鳥籠の中ひとり ずっと
」
何者か分からない誰かにすがり、もはや逃げ出す方法も分からない場所から連れだされることを望むのだろうか。
それが本当は己の中にいるはずの勇気を持った自分自身であることを知っているのか。
本当に来るとは思わないヒーローの登場を望むのか。
「
夢を彷徨ってる 待ちくたびれた顔の 硝子の瞳がふたつ
もうやめにしたいのに 終わりが怖くて
またくりかえすの
」
自分を縛るものが己の生み出した幻であるという感覚を幼女先輩は理解できるのだろうか。
酔生夢死の日々の中、鏡越しに映る鎖になど縛られていない自分が呆れた顔で自分自身を見つめ返す感覚。
それを終わらせたい自分の気持ち、恐怖とのぶつかりあい、そして敗北する勇気、何万回も負け続ける心の戦い。
「
引き裂いて欲しいこの世界ごと
窓を打つ雨音に
耳をすまして朝の気配を探してる
」
終わらない夢を打ち切るための知らせ。
それは何でもいい、どんな無機質なものでももはやかまわない。
ただその時が来るのを待ち続ける。
終わらない夜と降りしきる雨の中でただ時が過ぎるのだけを待ち続ける。
「
夜は明けるの? 時は満ちるの? あなたは来ないの?
ねえ、錆びた扉が 光を連れて来るわ 今日も…
」
夜明けはこない、時が過ぎても問題は解決しない、誰も助けてはくれない
「
永い物語ね 深い森の奥で目覚めて眠りにつくの
夢にたゆたうように 守られていることも 守られていないことも
全部わかっているけれど 本当はどこか安心している
」
それが他人との関わりの中で成り立っているのは分かっている。
それが他人と関わっていないからこそこうなっていることも分かっている。
だけど抜け出せない。
「
ああ、このままここで朽ちてしまえたなら…
うらはらに何故 消せない予感
旅立つわたしがいる、いつか
」
このままを続けて人生の終わりまでたどり着きたい。
本当は踏み出したい。
本当は踏み出したくない。
「
夢を彷徨ってる 待ちくたびれた顔の 硝子の瞳がふたつ
もうやめにしたいのに 終わりが怖くて
またくりかえすの
」
あやふやな人生を終わらせたいと願っている自分が心のなかで背中合わせに立っている。
それでも踏み出せない。
積み上げすぎた惰性に埋もれた人生から抜け出せないままいつかそこから抜け出す自分を夢見る感覚が。
自分の殻の中でニヒリズムとセンチメンタルに浸って少しだけ優雅な気分を味わうことで無聊を慰めるのか。
なんなんだ幼女先輩は。
夢というのは一体なんだったんだろうか。
いつ夢を見なくなったのだろうか。気付けばもう年齢だけが過ぎてしまっていた。
夢というのは目標だ。
生きる指標というのは暗闇の中を照らす灯りだ。
夢というのは暗闇の中を照らす灯りで、それをあざ笑う人間はニヒルぶった暗闇を彷徨う蛆虫と同じだ。
よく覚えているのは幼稚園の時に夢を描くという題材で僕は何かに遠慮して「宇宙飛行士」と描いてしまったことがあった。本来の夢は「世界を旅してまわる人間」だった。
そんなものは幻想だと頭の中で思っていた。食い扶持の無い自分のやりたいように生きる人間なんてのを憧れに描いてしまうことはとても恐ろしいことのように思えた。
だから「この年齢の子ならこんなの描くだろう」くらいのつもりで「宇宙飛行士」と描いた。
大人になった今となればどっちの方がなりづらいかで言えば宇宙飛行士の方がなりづらいのである。
そして、そういう比較的なりやすい「旅人」の夢から逃げた幼稚園児は、夢を語ることから逃げた大人に変わり果ててしまったのだ。
単なる自己否定が齎すものは賢者などではなく、只の臆病者だった。
「夢を教えてください」という言葉を聞く度にしかめっ面していたのは、その日の自分を睨み付けているからだった。
大人になった今ではわかる。
なんとか自分の力で折りたたんでやるのが本当になすべきことなんだ。
現実とかいうものは見つめれば見つめるほど頭のおかしくなる産物なんだから、それを人が過ごしてどうやるかを思うより、まずは自分が生きてどうやるかを考えなければ、そんなもの取り込まれてしまうに決まっているんだ。
そして、夢を忘れてはいけない。
故に、夢は叶えなければならない。
そしてその夢が叶ったなら、今度は別の夢を見ることを忘れてはいけない。
そして、俺はもう一度夢を見ることは出来るのか。
いや、見るのか。
穏やかな春の太陽のように誰に対しても優しい人だった
あなたは優しすぎるがために
ときどき静かに傷ついた
それでもまっすぐであろうとし続けるあなたにわたしは惹かれた。
私はどこか曲がっていて
それでも私はどこか曲がっていた
そんな曲がった私にあなたは惹かれた
あなたの部屋で酒を飲んでいたわたしたちは、どちらからともなく自然にキスをした
あなたの少し緑がかった瞳はまっすぐに私を見つめていた
私は目を閉じてあなたに全てをゆだねた
最初はお互いの唇の感触を確かめるように、そして次第にねっとり深いキスをした
かすかな雨の音と、2人の深い息遣いだけが部屋を包み、まるでこの世界には私達2人しかいないかのような錯覚に陥った
あなたはわたしの腰を抱き、服の中に手を入れて背中を優しくなぞった
2人の呼吸はだんだん荒くなり、あなたはわたしのカーディガンとブラウスのボタンをそっと外した
あなたの指がわたしの背中をなぞり、首筋に優しくキスされると、ぞくぞくするような昂りを感じた。
2人は狂ったように抱き合い、互いに欠けたものを探し求めるように愛しあった
あなたは潮の満ちたわたしの海に潜り、わたしは全身であなたを受け入れた
一生分の幸せを使い果たしてしまったような気分で、死んでもいいと本気で思った
その夜を境にあなたと私の間には何かが生まれ、同時にそれは崩壊に向かって時を刻みはじめた
相変わらずあなたはまっすぐで
わたしはどこか曲がっていて
冷たい雨の音はあなたが果てたあとも当たり前のように続いていた
それからわたしはいつも土曜日の夜にあなたの部屋を訪ね、2人で酒を飲んでセックスをした
あなたはは毎回新しい発見を与えてくれて、けしてわたしを飽きさせなかった
身体を重ねるたびにわたしたちはどんどん惹かれ合った
セックスのあとわたしたちは裸のまま眠くなるまでいろんな話をした
好きな映画や音楽のこと、昔の恋人のこと、近所のまずいラーメン屋のこと、行ってみたい国のこと、上司の不倫相手の話とか
夏と秋が過ぎ去って冬がきて、また春がきた
相変わらずあなたはまっすぐで
わたしはどこか曲がっていて
ただそれだけだった
妹が留学したこと、近所の野良猫が事故で死んだこと、宇宙の端っこはどうなってるかということ、いちばん美味しいパスタの食べ方は何かということ、上司の不倫がばれて離婚した話とか
思いつくかぎり、ありとあらゆる話をわたしたちはした
でも不思議とわたしたちは、2人の未来についての話は全くしなかった
わたしはそれにうまく答えることができなかった
もちろんあなたのことは狂おしいほど愛していた
でも、2人が互いを求めて愛し合うほど、あなたとの間にある目に見えない透明な壁のようなものをわたしは感じた
あなたのことを知ればしるほど、惹かれれば惹かれるほどその壁は重く、冷たくわたしとあなたのあいだを阻んだ
なんというかそれは、2人の力ではどうしようもない種類のものだった
わたしは、あなたのX軸にどれだけ近づいても、永遠に交われない反比例曲線のように
どこか曲がったわたしはどうやってもあなたと寄り添えなかった
あの冷たい雨の降る夜、あなたとそうなるべきでなかったのは、わたしには最初からなんとなくわかっていた
でもそれはどうあがいても変えようのない運命であったような気がする
あなたはどこまでもまっすぐで