2015-04-09

あなたはまっすぐで

あなたはいつもまっすぐで

穏やかな春の太陽のように誰に対しても優しい人だった

あなたは優しすぎるがために

ときどき静かに傷ついた

そんなときあなたはわたしにだけそっと弱音をはい

それでもまっすぐであろうとし続けるあなたにわたしは惹かれた。

私はどこか曲がっていて

壊れたラジカセのように不完全な存在だった

できることなあなたのようにまっすぐな人になりたかった

それでも私はどこか曲がっていた

そんな曲がった私にあなたは惹かれた

あなたと初めて結ばれたのは4月の冷たい雨の降る夜だった

あなたの部屋で酒を飲んでいたわたしたちは、どちらからともなく自然キスをした

あなたの少し緑がかった瞳はまっすぐに私を見つめていた

私は目を閉じてあなたに全てをゆだねた

最初はお互いの唇の感触を確かめるように、そして次第にねっとり深いキスをした

かすかな雨の音と、2人の深い息遣いけが部屋を包み、まるでこの世界には私達2人しかいないかのような錯覚に陥った

あなたはわたしの腰を抱き、服の中に手を入れて背中を優しくなぞった

わたしはあなたの頬から首筋、背中へと指を這わせた

2人の呼吸はだんだん荒くなり、あなたはわたしのカーディガンブラウスボタンをそっと外した

あなたの指がわたしの背中をなぞり、首筋に優しくキスされると、ぞくぞくするような昂りを感じた。

2人は狂ったように抱き合い、互いに欠けたものを探し求めるように愛しあった

あなたは潮の満ちたわたしの海に潜り、わたしは全身であなたを受け入れた

それはもう絶望するぐらい幸福時間だった

一生分の幸せを使い果たしてしまったような気分で、死んでもいいと本気で思った

その夜を境にあなたと私の間には何かが生まれ、同時にそれは崩壊に向かって時を刻みはじめた

北極海氷河が少しずつ溶けるように、ゆっくり

世界ほとんどのものは前と何も変わらなかった

相変わらずあなたはまっすぐで

わたしはどこか曲がっていて

冷たい雨の音はあなたが果てたあとも当たり前のように続いていた

それからわたしはいつも土曜日の夜にあなたの部屋を訪ね、2人で酒を飲んでセックスをした

それはいつも絶望するぐらい幸福時間だった

あなたはは毎回新しい発見を与えてくれて、けしてわたしを飽きさせなかった

欲するままにあなたはわたしを求め、わたしはあなたを求めた

身体を重ねるたびにわたしたちはどんどん惹かれ合った

セックスのあとわたしたちは裸のまま眠くなるまでいろんな話をした

好きな映画音楽のこと、昔の恋人のこと、近所のまずいラーメン屋のこと、行ってみたい国のこと、上司不倫相手の話とか

わたしはあなたとそうして過ごす土曜日の夜が大好きだった

夏と秋が過ぎ去って冬がきて、また春がきた

相変わらずあなたはまっすぐで

わたしはどこか曲がっていて

あなたとのセックス絶望するぐらい幸福時間だった

ただそれだけだった

相変わらずセックスのあとにわたしたちはいろんな話をした

妹が留学したこと、近所の野良猫事故で死んだこと、宇宙の端っこはどうなってるかということ、いちばん美味しいパスタの食べ方は何かということ、上司不倫がばれて離婚した話とか

思いつくかぎり、ありとあらゆる話をわたしたちはした

でも不思議とわたしたちは、2人の未来についての話は全くしなかった

1度だけあなたはわたしに聞いたことがあった

君が未来のことを考えるときに、少しでも僕の姿があるのかと

わたしはそれにうまく答えることができなかった

わたしにはあなたとの将来を想像することができなかった

もちろんあなたのことは狂おしいほど愛していた

心も身体もあなたを求めて、壊れてしまいそうなほど

でも、2人が互いを求めて愛し合うほど、あなたとの間にある目に見えない透明な壁のようなものをわたしは感じた

あなたのことを知ればしるほど、惹かれれば惹かれるほどその壁は重く、冷たくわたしとあなたあいだを阻んだ

なんというかそれは、2人の力ではどうしようもない種類のものだった

わたしは、あなたのX軸にどれだけ近づいても、永遠に交われない反比例曲線のように

あなたの隣で虚空を彷徨った

あなたはあまりにまっすぐすぎて

どこか曲がったわたしはどうやってもあなたと寄り添えなかった

あの冷たい雨の降る夜、あなたとそうなるべきでなかったのは、わたしには最初からなんとなくわかっていた

でもそれはどうあがいても変えようのない運命であったような気がする

近所の野良猫事故で死んだことのように


人間は欲望の奴隷である


あなたはどこまでもまっすぐで

あなたとのセックス絶望するぐらい幸福時間だった

さようなら

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