はてなキーワード: ピアスとは
もう十数年も前だが、私の周りで面接落ちまくっていたのは二人いた。
一人は任天堂とかゲーム会社の有名どころばっかり志望した人だった。私達の学部学科はゲームに必要な分野には掠りもしないし、マニアック方向性な文系なので事務方としても使えそうにない。ひょっとすると商業ビジネス学部みたいなとこの学生の方がチャンスあるんじゃないかと思った。
もう一人は、面接に受けにいくときの服装がヤバすぎる女子だった。茶金に染めた髪を夜会巻きにして、青いアイシャドウに真っ赤なルージュ、きらっきらのピアスとネックレス、胸元までざっくり開いて胸の谷間が丸見えで肩丸出しの袖無しシャツに、太ももの付け根までスリットの入ったミニスカート、きらっきらのアンクレットに何cmか知らんが踵のめちゃ高いピンヒール。そんな格好で「どうしてあたし採用されないのかな?」ってため息吐かれても、むしろお前何でそれでイケると思ったの? と聞き返すしかない。
逆に一人で何社も内定もらった人はなんというか、普通オブ普通な人だった。大学事務局に置いてあった求人票から適当に選んだ会社を志望して、言われるがまま・就活本の通りにエントリーシート書いたり、面接受けたりしていた。
早稲田行きの荒川線がほとんど空っぽなまま夜の王子駅に入ってくるのを見ると、東十条の夜を思い出す。
真夜中に電話をかけてくるのはだいたい振付師で、出ると必ず「寝てた?」と聞く。こちらが寝ていたとしても別に対応を変えようとはしていない。挨拶がわりに今どこと聞くと、永福町のアパートからかけていることもあれば、聞いたこともない名前の街にいることもあった。
新潟の燕市から夜中の二時過ぎにかけてきた日、東十条にクルド料理のレストランができたのと振付師はいった。半分寝ながら「ああ、ああ」と返事しているうちに、翌週の夕方に同行することになっていた。
レストランは駅近くの雑居ビルにあった。細い階段を登ると、青い壁に赤を基調としたタペストリーがかけられ、トルコ製らしいランプが天井から吊るされた店内は薄暗かった。
二人とも果実の蒸留酒を飲みながらピーチ味のシーシャを吸って馬鹿話をした。振付師は蔦の模様がついたノースリーブのワンピースを着て、耳には銀色のチェーンピアスが揺れていた。
「ね、知ってる? カニコーセンの人」
「カニコーセン?」
「あの、小説の」
「小林多喜二?」
「……?」
「お客さんの事務所の子がね、今度カニコーセンの舞台に出るからって、マネージャーさんが招待券くれて。で、帰りに駅ビルで原作の文庫本買って、バスの中で読んでたのね」
「読んだんだ。どうだった?」
「やばかった。いろいろ。で結局、タキジって殺されちゃうんだよね」
「うん、遺体の脚を見るとね、釘か畳針でグサグサ刺した痕だらけだったんだって。いったいどんだけ憎まれてたんだっていう」
「あの人の書いたものが、それだけ当時の警察機構を動揺させた、ということでもあるのかもね」
「30歳だよ。タキジ死んだの。今の私たちよりも若かったんだよ。それでどれだけの仕事をした? どれだけの人に影響与えた? タキジが生きてる間にカニコーセンは何か国語にも翻訳されて、世界の人が読んでるんだよ? あの時代だって、今だって、20代でそれだけのインパクト出せた作家って、そんなにいないんじゃない?」
「うん、いないだろうね」
「燃え方が足りない」
「足りない?」
「もっとたくさんの人に、私が伝えるはずのことを、私の仕事で、全力で伝えたい。そのためには死に物狂いでいまやってなきゃいけないのに、なにやってるんだろって、思うことがあるんだよ。もう無我夢中で、身体が自分の熱で焼き切れて無くなってしまうくらいに、全力でやってなきゃいけないはずなのに、私はまだなにもやってない」
「毎日家と会社を行ったり来たりしてるだけの僕からすると、日本中を飛び回ってるきみは、ものすごく燃えてるように見えるんだけど」
振付師は無言で何度も頭を振った。と思うとこちらの手を取って、荒々しくかぶりつく犬のような真似をした。
東十条の商店街には縁日が出て、りんご飴、ヨーヨー釣り、プラスチックのお面が裸電球の光を反射していた。振付師は金魚すくいの水槽を見つけると、やりたいと言ってその前にしゃがんだ。出張が多いのに世話できるのかと聞くと、預けるから大丈夫だもんと言った。
西日暮里のホテルに入ると、洗面所のシンクに水を溜めて、小指の先ほどしかない緋色の魚が入ったビニール袋を静かに沈めた。そうするのが金魚にとってよかったのか、二人ともわからなかったけれど、ホテルの部屋に篭っている間に死んで欲しくはなかった。
その後のことはよく覚えていない。いつも通りだったかもしれないし、もっと強く噛んで欲しいと執拗に懇願されたのはそのときだったかどうか、また別の時だったか、いまとなってははっきりしない。
そのときの金魚はいまだに元気で、振付師が熊本に一か月行ってくるといって置いていってから、結局預かりっぱなしになっている。冷蔵庫脇の水槽で年を追うごとに肥えて、握りこぶしほどの大きさになった。
かたくなにピアスを拒む人がいる。金属アレルギーではなくて耳たぶにピアスを開けた時のしこりが残るのが気になるらしい。
それは個人の勝手だから好きにしてほしいんだけど、それなのにイヤリング落としたっていって探すタイムが設けられるのがイライラする。
その子自身は「大丈夫」って言うんだけど「そう」って言ってスルーするわけにもいかないので「さっき行ったとこ戻る?」「マフラーとかに引っかかってない?」「カバンの中は?」とか一通り確認する。
いつも私は心が狭いんだなって思う。
別に毎回会うたびにこのやり取りがあるわけでもないんだけど、五回に一回くらいあると嫌になるしピアスにすればいいじゃんってイライラしてしまう。
友人は不治の病である。
体はとても元気そうだが、助かるようには思えない。
もはや誰も彼女を治す事などできないと思う。私はもう見ていられなくなった。
だから、彼女は不治の病だと思うことにする。彼女は私の中で、死んだ。
私は彼女の持つ、曖昧な受容性みたいなものが大好きだった。テキトーだけど、意思がある。芯があるけれど人を受け入れている。けれど、時たま驚くぐらい大胆だったりもする。そのアンバランスさが面白かった。派手な人物じゃないけれど、周りにたくさん人がいる人間だった。古い関係も多い。本人はそれを時たま嫌だというようなことも言っていたけれど、それもそれで私にとっては魅力的に映った。私は嫌な人間とは綺麗さっぱり終わってしまうたちだ。
大学で出会って、何となく仲良くなって、そしたらいつの間にか同じ趣味を持つようになった。
初めて行ったコンサートは彼女が当ててくれた某4人グループのコンサートだった。当時就活で死にかけていた私を救ったのは、間違いなく彼女と某4人グループだ。アイドルも美味しいものも好きだった。少なくとも彼女とは趣味が合ってたなと思う。
大学生の大したことない収入で精一杯美味しいものを食べて飲んで、美しいものを見て夜更かしして、いろんなことを話した。
大学を卒業して住んでいる県が離れても、コンサートや舞台を観に行くために会ってその度に色々な話をしながら美味しいものを食べたよね。
その度に、あなたが職場の上司のことを楽しそうに話すのが羨ましかった。
大好きな上司の下で、活きいきと仕事している様子が伝わってくるあなたの話、好きだったよ。心底楽しそうな顔してたもん。本当に羨ましかった。でも一方でそれってなんかヘンじゃない?って思ってた。妻子ある中年の男性が、新卒の女の子と週に何度も2人っきりで夜ご飯行ったりするの?コミュニケーションが良好なお勤め先では普通のことですか?冗談で「不倫に発展したら教えてね」って言うのが別れ際の定番みたいになっていた。
そしたら、本当の不倫に発展しちゃった。
SNSの動画にはどっからどう見ても同年代じゃない男の手が映っているし、動画の中で楽しそうにはしゃぐあなたの声に答えるのは知らない歳を取った男の声だ。
「物理的な不倫に発展したよ」ってあなたの口から聞くよりずっと前に知ってたよ。私めちゃくちゃTwitterもインスタも見てるもん。忘れた?あなたの鍵アカウントの数少ないフォロワーだよ私。あなたが嬉々として不倫の証拠残してるアカウント、見てるよ、いつも。
ねぇ、鍵アカウント見てる他の人達どう思ってるの?私、正直めちゃくちゃ怖いし気持ち悪いよ。
表の垢で、その話について通話で盛り上がったみたいなリプ飛ばしあってるの見て、びっくりしちゃったよ。
この子の言う"好きな人"が、中年の、妻子ある職場の直属の上司なの、みんな知ってる?知ってて「応援してる」なんて言ってる?そうだとしたら意味分かんないよ。お前らもみんな狂ってる。
学生の頃から毎年一緒に通った大好きなアイドルのドーム公演。2公演入るために泊まって豪遊するのがお決まりだった。
自担は誰が何と言おうと、誰と見ようと最高のアイドルだった。ステージのあまりの眩しさと、隣に立つヲタクに自分が抱いている後ろ暗い気持ちとのコントラストがキツすぎて、2曲目で泣いた。
私は知っている。
一緒に泊まるホテルで彼女が延泊料金を払っていること。2日間有休で、遠征先を満喫するのだと言った彼女が、私には濁す「用事」というのが、不倫相手との待ち合わせだということ。このコンサートが終わって、私が新幹線に乗って居住地へ帰れば、彼女もまた下らない世界に帰ってしまうこと。
翌日、2公演目に入る前に、去年と一緒に行ったお店に偶然2人で立ち寄った。ちょっと名の知れたパティスリーだ。学生の頃は気軽に買えなかったであろうチョコレートを私たちは楽しそうに選んだ。大人になったね。
そのチョコを家で食べながら、今私は泣いている。
彼女はそのあと、やはり"好きな人"と会ったのだそうだ。ピアスホールを開けてもらったと喜ぶ投稿がInstagramに上がっていた。去年までは私と自担と過ごしていた特別な日に、不倫相手と泊まって体に穴開けちゃったかぁ。
なんなんだろう。
私の気持ちはなんなんだろう。
数少ない友人を取られたことに対して?
私が職場の男性を憎みながら生きている同じ瞬間にも、彼女は上司と愛を囁き合っていることに対して?
私は友達が少ない。
偏屈で、すぐに人との間に壁を作る。
大学を出てからもこんなに会っている友人は本当に片手で数えるくらいだ。長く続けたいと思ってたよ。
彼女はそんな言葉求めてなかっただろうけど、コンサートに入る前、お花が乗ったびっくりするくらい可愛いケーキを一緒に食べながら、私言ったよね。
「うーん、まぁそうだよね。でもバレるってある?万一ヤバくなったら私が転職しようかな」
ダメだこりゃ。そう思ったよ。
ご臨終です。ご愁傷様でした。何もできませんで。
長年仲の良かった(と少なくとも私は思っている)人間に、こんなにがっかりするなんて思わなかった。
今となっては、これまで彼女と過ごしてきた思い出もどうしていいか分からない。私程度の人間には、もうなす術がないのだ。
だから、もう死んだと思うことにする。
私をアイドルに出会わせてくれてありがとう。一緒に飲んだお酒も、背伸びして食べた料理も全部美味しかったよ。
このチョコもすごく美味しい。あなたが探してくれたお店だよね。「来年もまた来たいな〜」なんて言ってたけど、もう来ないよ。あなた、私の中で死んだから。
チョコを食べ終わった。
綺麗な箱をゴミ箱に放り込んで、もうこの思い出は捨てることにする。箱代だけで200円くらいしてそうだな。
さよなら。
気持ちの悪い素敵な夢の中でずっと眠ればいい。
大好きだった友人へ。
どうか安らかに。
まあ小陰唇ピアスは痛そうだよね
ここからは、もし何かの間違いで沖縄の那覇に無一文で放り投げ出された時、人はどうやって生きていくのか、その方法を指南していこうと思う。
まず、寝床の確保だ。寝袋とか、テントとかそんなもんもちろん持って来ちゃいない。我々が今から行うのは“攻め”の野宿である。主戦場は主に公園である。
3月の那覇は夜でも14℃くらいで、半袖一枚でも余裕で暮らせると思うが、大きな間違いである。風による気温低下を計測できていない。
ざっとの計算だが、公園といった何も障害物がないところだと、その温度差はなんと-10℃にもなる。これを頭に叩き込んでおいてください。
さて、もう野外で寝るのが無理だと思ったみなさん。ご安心ください。逃げ道を用意しております。沖縄はゲストハウスが発達しているので、初回が何と400円で泊まれるところが二カ所があります。「CamCam沖縄」と「ゲストハウスけらま」です。
特に前者は刺青だらけで、七色の髪の毛、おまけに拳大のピアスを開けているスタッフがいるのでおすすめです。
(場外から400円もないぞ!の激しいヤジが飛び交う)
失礼いたしました。無一文でしたね。それでは、あなたが次に向かうべきは国際通りにあるドン・キホーテです。なんとここには各階にベンチがあり、24時間開放されています。
国際通りにはドンキーの黄色いレジ袋が乱舞していますので、それにゴミを入れて買い物客風を装えば、座っている分には特に声かけをされません。
(いい加減にしろ!俺たちは横になりたいんだ!の怒声が飛び交う)
なるほど、ではそんなあなたが選択すべきは「マクドナルド ひめゆり通り店」一択です。入り口が二カ所あり、中央口の方は21時に施錠されますので、レジの前を通りたくないよという方はこちらからどうぞ。
ここのマクドナルド、とにかくすごいのです。最近、マクドナルドもコンセントのある席が増えてきましたが、よくあるタイプは背もたれもなく早く帰れといわんばかりの意地悪タイプのものばかりです。
というか、僕の見てきた限りこのタイプしかありません。しかし、ここのマクドナルドは違います!なんと6人がけの広々ソファタイプのところに付いているのです!しかも、国道沿いで夜の訪問客も多く、夜の見回りも比較的少ないです。これは沖縄だからこそ言えることなのですが、本土と比べある種のゆるさがチェーン店・個人店を問わず存在しています。ここは勇気を出してふかふかのソファに寝転びましょう!(待て、100円マックでも頼まないと店員に何か言われるのではないかとの声が上がる)Fuck You ぶち殺すぞ‥‥‥ゴミめら‥‥‥そんなもの、ゴミ箱の中でも漁って手に入れればいいではないか?世間の目が気になる?バカがっ‥‥‥お前らには見えんのか?まさに今地獄の釜の蓋が開けられようとしているところを‥‥
閑話休題、では公園での野宿の実践法をお教えいたしましょう。僕の人生観ですが、人を判別する点はたった一つです。「あなたは野宿をしたことがありますか?」
本当にこれだけ。僕は野宿をしたことのある人しか信用しません。地位も名誉も金持ちも関係ありません。それぐらい僕にとっては重要な事項なのです。さて、初心者のために大きく四点に分けてお伝えしていきたいと思います。
①人の往来はどうか
まず、我々が一番気にすべきなのは人の視線です。よく街中で堂々とダンボールを広げて寝ておられる方々がいらっしゃいますが、あの人たちは仙人なのでお間違いなく。あそこに行かれるまで、彼らは多くの喜怒哀楽を脱ぎ捨てておられます。では、全く人の来ないところではどうか?ここはここで犯罪に巻き込まれたとき丸腰になるしかありません。夜でも住宅地にほど近く、コンビニが見えるくらいの場所がベストでしょう。
②水回りはどうか
公衆トイレのあるかなしかは重要なポイントの一つです。障害者用トイレで朝まで過ごせるじゃん!と思われるでしょうが、残念ながら夜間はロックされていることが多いです。もしもの腹痛に備えて行動範囲の中に確保しておくようにしましょう。
③虫が多いかどうか
我々にとって一番の大敵は蚊、ぶよといった類です。こやつらは、我々が寝ているのをいいことに恐ろしいくらい刺してきます。彼らにとって我々はストⅡのボーナスステージの車みたいなものですから、しょうがないの一言に尽きるのですが。当然、池や湖の周りには多い傾向があるので避けた方がよろしいでしょう。時々、蚊のいなくなるスプレーを発射して対策した気になる方がいますが間違いです。あれは壁や天井に付着した液体に蚊が触れることにより、殺傷するものです。屋外では意味をなしません。もし、余裕があるかたは塗るタイプの虫よけスプレーがあるのでそれをうまく利用しましょう。
④いい感じのベンチはあるか
これが一番の要といっても過言ではないかもしれません。最近みなさんも感じておられると思いますが、多くのベンチに柵が付いています。当然、我々が横になることを防止するためですが、これではお母さんが赤ちゃんのおしめを変えることもできません。何という皮肉でありましょう。ここで、我々の活動を紹介しておきましょう。ホームセンターで六角レンチを買い求め、柵を外すことを目的にしております。素人には難しいと思われるでしょうが、女性会員もおりますので、きっとあなたにもできるはずです。名を「ベンチを平らに!市民連合」略して「ベ平連」と言います。よろしければご参加のほどを。そんな中でも我々が狙うべきは健康器具が置いてある公園となる。腹筋を鍛えるためのベンチは柵がなく、ある程度のゆとりがあるものが多いので活用していきましょう!
次回は、実際に①~④を考慮した上での狙い目公園と、どう腹を満たしていくかについて考察していこうと思います。
乞うご期待!
ライブの内容についていうことは何もない。最高だ。最高のライブだった。
私が待ち望んだ彼の姿がそこにはあった。大満足だ。
今回私が言いたいのはその内容ではない。
言いたいことが山ほどある。
まず結論から言うと、”スタンディングに初めて参加するのにどうしてそのルールを少しでも学んでこないのか?”
かさばるジャケットを着っぱなしで、
じゃらじゃらとアクセサリーをつけて、
あげく棒立ち。
きっと知らない人がたくさんいるんだろうなとは思っていた。
特に幕張なんて初っ端の公演だ、今まで座席指定のコンサートしか入ったことのないオタクがいることは仕方のないことだし、
しかし回数を重ねるごとに何となく現場の空気などを感じ取って最終的にはそこらのスタンディングさながらになっていくんだろう、と。
でかい鞄はその分のスペースに人ひとり詰められる、
かさばるジャケットは邪魔になるものそうだが本人が熱いし汗まみれだし会場に不必要、
高いヒールはもみくちゃになったときに他人の足を怪我させてしまうので論外、
アクセサリーはどこかに引っかかって引きちぎられたり(ピアスは耳のほうがちぎれる可能性がありつけないほうがいい)、
両手を高く上げ、ジャンプをして、体全部でアーティストに声援を送る。
整理券番号が遅い人は死ぬ気で前を目指し、早い人は死ぬ気で柵最前をキープする。
肘鉄を食らい食らわせ、足を踏み踏まれ、もみくちゃにされ汗だくになって、ぐっちゃぐちゃになりながら全力で手を伸ばす。
柵を陣取っていた親子おふたり。
双眼鏡を持ち、隣人の腕を片腕で押さえつけていたお姉さん。
知らないことは悪いことではないと、もちろん思う。
しかし、何も知らないまま参戦するのは”良いこと”では決してないだろう。
ここで最後に、私が耳を疑った話を聞いてほしい。
二日目、私は整理券番号が遅く入場の時点で負けていた。
だがブロック入ってみると案外センター寄りが空いており私は喜んでその隙間に滑り込んだ。
周りはやはり不慣れな方ばかりのようでなぜか列のようになって前の人の真後ろに付いている人が多い。
こうなっているとこちらからすれば好都合で、この列になっている間から柵近くまで進めるな、と考えていた。
開演直前、場内が真っ暗になったとき、満を持して人波をかき分けようとしたその時だ。
「あなた私より後ろにいましたよね?あなたが前に詰めてきたから私も前に出ちゃって、隣の人にも迷惑が掛かってます。後ろに下がってください」
私より少しセンター寄りの前方から、そんなおばさんの声が聞こえたのだ。
は? である。何を言っているんだと。本気で耳を疑った。
スタンディングは座席指定のドームライブではない。列もなければ、前の人も後ろの人もない。
言われた人がどのような人だったのか見えなかったが、おそらく若そうな女性の声で返事があった。
そりゃそうだ。しかしそれではおばさんは納得しなかったようで何かを言って食い下がっていた。
女性は「じゃあこれ以上は動かないようにするので」と言い、
それを聞いたおばさんがもういいと言ったように後ろに下がっていくのが分かった。
周囲の方がどう思っていたのかは知らないが、どうして女性のほうが悪者扱いなのか。
ルールを知らないのはこの際仕方がない。
しかしスタンディングをわかっている人が我慢しなければならないのは、どう考えてもおかしい。
みなさん、知ってほしい。調べてほしい、少しでもいいから。
これからツアーが進むにつれ、みんな分かってきて、きっと周りの空気も変わってくる。
その時に必要のない争いを生まないために、どうか、知ってほしい。
短い期間で消えゆくメイドがいる一方、5年10年とお給仕を続けるメイドもいます。
本格的エスプレッソマシンのあるそのカフェには、私たちの他に、誰もいませんでした。閑散とした店内で子供のようにけらけらと笑う私たちですが、実際は互いに、少し長い間メイドをしている大人同士です。
私と彼女が知り合ってから4年ほどでしょうか。同じお店でお給仕したことはありませんが、共通の趣味も多く、とても仲良しな友人同士です。
「メイドを長く続ける秘訣ってさ、誰かのイチ推しにならないことだよね」
彼女はシナモンラテの泡に唇を付けました。私はアフォガードを混ぜ溶かすスプーンを置き、彼女に握手すら求めたくなりました。
「それ」
救世主イエス・キリストは、人々の罪を背負ってゴルゴタの丘を登ったと言われています。
誰かのイチ推しになってしまうと、その人の感情を背負わされる、そんな面倒を伴うと友人は言いました。イチ推しと離せなくて不機嫌になるご主人様、不安な気持ちをあらわに『病む』ご主人様。そういえば私も見たことがあります。
友人はくすんだ亜朝色の柔らかな髪を揺らして笑います。カフェには大きな窓がありますが、お天気があまりよくないため、鬱蒼とした雰囲気を醸し出していました。そんな中で彼女は店内に灯る明かりのようでした。
「メイド側も、イチ推しのお客さん作らないと、って身構えるのも消耗しそう」
私がアフォガードを知ったのは、初めてお帰りしたメイドカフェでした。小洒落たこの街にはもう、メイドカフェはありません。甘すぎる食べ物に疲れてしまったころ、エスプレッソに溶けたバニラアイスの味がちょうどよく感じられるのです。
まだ慣れない匂いが鼻先を擽ります。実は彼女の髪色に憧れていると打ち明けたところ、愛用のヘアケアを教えてもらったのです。自分から友人の香りがするのが少し不思議に思えました。なんだか気恥ずかしくて跳ねた毛先をつまみます。染めたばかりのアッシュグレーの髪色はまるで自分じゃないみたいで、それにもまだ不馴れでした。友人の背後の、硝子窓に写った自分のシルエットを見上げます。
「みんな話が合うのが楽しくて、そればっかりに夢中だったな。このご主人様はあの子が一番なんだろうな、っていうのは薄々わかってたけど、そこに自分が入るイメージとかなかったし」
「わかる。君は派手な割にそんな感じ」
友人は目を細めました。がむしゃらに走るばかりの私は、時折、自分のことがわからなくなるのです。淀んだ自我に沈んだ私を不意に掬い上げてくれる、そんな友人のことを『理解者』と呼ぶのでしょう。
にびいろのアスファルトに染みが落ちます。白い雪が降るにはまだ寒さが足りません。窓を伝う雨の筋はひどくよごれた色に見えました。
「奪ったり、のしあがったり、そういうのってめちゃくちゃ消耗しそう」
「そんな感じにしてたら私たちも保たなかっただろうね」
「それで獲得した『オタク』には結局クソデカ感情押し付けられてさ」
テキパキと働くこと、笑顔を絶やさないこと、毎日さらさらの前髪を一糸も乱さずくるくるしたツインテールを揺らすこと。
どんなに忙しくても、絶え間なく貴方に関心を向けること。
その姿に貴方は救われるのでしょう。見つめているだけで救われるあの子は、まさしく貴方にとっての救世主なのでしょう。
貴方の罪・咎・憂いを取り去り、背負ってくれて、導いてくれる救世主。
そんな彼女が、怒りに顔を歪めたとき、ツインテールをほどいたとき、貴方以外の誰かに関心を向けたとき。
激しく光って一瞬で消える流れ星は美しいのです。ただ、あなたの感情が、彼女の身を焦がす苦しみとなり得ることも、知って下さい。
「私は星座になりたいなと思った」
友人の細めた目が見つめたのは私のピアスでした。乙女座をかたどったピアスで、一等星としてこぶりなパールがあしらわれています。
「星座?」
「眩しい光じゃないけどそれぞれに魅力的な物語があって」
普段はふざけあうばかりの友人が静かに話す物語が、私にはいつも、たまらなく魅力的に感じられるのです。考え事をするように、思いを巡らせるように、虚空を追う彼女の視線。まるで星座をなぞっているようにも見えました。
「空を見ると思い出すときがあって、雲が出れば隠れるし、季節によっては全然見えない」
友人はシナモンラテのマグを掌で包みのみ、にっこりと微笑みます。
「でもまたひょっこり会えるような、そんな星座になりたいな」