はてなキーワード: エレベーターとは
それじゃあ行こうか、といつものトーンで言った彼女について歩いたのは、十分にも満たない時間だったと思う。五階建の、綺麗でもなければ汚くもない一般的な建物の前で足を止めた彼女は、こちらを振り返って「じゃーん、ここが私の城です」と笑って見せた。
「いいところだね」と中身のない返事をして、建物に入る彼女を追いかける。よく晴れた空には雲ひとつなくて、広い国道を車が走る音が遠くに聞こえた。
岸田さんの部屋は3階にあって、僕らはそこまで階段をのぼった。エレベーターもあるのだけれど彼女はできるだけ階段をつかうことにしているらしい。「大学生は不摂生だからね」と言って複雑なジェスチャーをしてみせたあと、彼女はコンクリート打ちっぱなしの廊下に並んだ小豆色のドアのひとつの前で立ち止まった。
「ここが私の城です」ともう一度言って少し照れたように笑う。「さっきも言ったけど」
岸田さんの部屋にはひとつ大きな水槽があった。よく整頓された中性的な部屋の中で壁際にこぢんまりと収まったその水槽はなんとなく目を惹くものだったから、僕は思わず「水槽」と口に出してしまう。
「ん、ああ、水槽」と、彼女は気のない返事をして、部屋の中央に置かれたテーブルの上を手で払った。「まあ、座ってよ」。
毛足の短い薄いベージュのカーペットにあぐらをかこうとしたあと、思いなおして正座にした。一息ついて頭に浮かんだ疑問を口にしてみる。
「何か飼ってるの?」見た感じ、水槽の中に動くものはない。しかしポンプはどこか好ましい慎ましやかな間隔で小さな泡をあげているし、岩場のようなセットもある。何かはいるんだろう。
そうそう、と言いながら岸田さんは顔を水槽に向け、瞬きをふたつした。まつ毛が長いな、と感心しながら続きを待つ。
「カキだよ」と彼女は言った。
「カキ?」言葉が像を結ばないまま、ひとまずおうむ返しに口に出す。
「そう、カキ。あー、あの、海にいるやつ。貝の、ええと、岩みたいな……」
ひしゃげた岩のようなビジュアルが頭に浮かぶ。牡蠣。食べるものだとは思っていたが、飼っている人がいるとは思わなかった。なんで飼ってるの?と思ったままを口にだす。
「いや、どうしてって言われると難しいんですけどね」彼女は細い指を顎にあて、はにかみながら視線を彷徨わせる。「飼えるのかなーと思って調べたら飼えるってわかって、飼ってる自分を想像してみたら、なんか……良かったから」
「なるほどねえ」なるほど。
2年に満たない、それもけっこう浅い付き合いの中でうすうす感じてはいたが、彼女はやはりかなり変な人なのかもしれない。しかしそういう気付きは往々にして表に出さないほうがいいものだから、適当に話を合わせることにする。
「でも牡蠣って海の生き物でしょ?結構大変そうだけどな、海水の管理とか」
そうなんだよ、と言ったあと少し間をおいてちょっと待ってね、と謎めいた手振りをした彼女は、ゆっくりと立ち上がって部屋の隅に向かう。
その間に水槽に目を向けてみると確かに牡蠣がいるようだ。二匹。匹って数え方でいいのかな。牡蠣と言われてみると確かに岩ではなくて生き物だなあと思えるから不思議なものだ。とはいえほとんど動きはなく、岩に似ていることは否定できないのだが。
ほどなく、岸田さんがなにやら大きな袋をもってきた。「これ、海水……のもと。買ってるんだ」
「海水の……もと。そういうのがあるんだ」
あるんだよ、と言って岸田さんは袋をひっくり返し、包装を読みながらいろいろと説明してくれた。一袋がいくらで、そのうちどのくらいを一度に使うのか、水換え作業はどのようにして行っているのか……などなど。
最初は大変だったけど今は日課だからそんなにかな、と締めくくって、彼女はひとつ息をついた。
「飼っててここが楽しい、みたいなのってある?……牡蠣って動かなそうだからさ」
愚問ってやつかもしれないなあと思いつつ、つい聞いてしまった。岸田さんは相好を崩し、やっぱそうなるよねえと楽しそうに言う。
「楽しいっていうか、愛着かな。彼ら見た目は岩みたいだけどちゃんと生きてるし、泡吹いたりもするんだよ。見てると案外愛しいんだなあ」
しみじみとそう言う彼女を見るとそういうものなのかと思わされたので、「そういうものなんだね」と素直に言った。「そういうものなのです」と受けて、岸田さんは視線を水槽に向ける。
横断歩道、ホームから見る線路、エレベーターの扉の先、道路の真ん中、車道の先
私は、それを死が香る場所と言っている
何故なら、時間という位相がずれた隣の「空間」には、死があるからだ
そこにいれば、人間には確実に死が待っている
私が死んでいないのは、その時にそこに居なかったからに過ぎない
5秒前にそこにいれば、私はこの世界に居なかった
5秒後にそこにいれば、私はこの世界に居なくなる
たったそれだけの違いが、私をあっけなく(この世|枠組み)から追放する
じっと、じっと、永くじっと、ひたすらその香りを、漂い移ろうそれを眺め続ける
そして、ふと考える、思い浮かべる
そこにいなかったのは、偶然に過ぎない
私の頭の中の一個の神経細胞が、一個の軸索が、一個の伝達物質が、一筋の電流が、発火が、発作が、偶然が
そよ風一つで揺らぐような偶然が、私の(死と生|死/渡世)を分けたに過ぎない
私は幼稚園、小学生と幼い頃に団地のエレベーターで痴漢被害にあった。幼稚園の時は同乗してた友達が親に報告して親の知るところとなった。小学生の時は、3回遭遇したけど1回しか報告できなくて、それもあったこと全てを親に言えなくて隠さなきゃいけないような気がしてた。
大学生になってからよく知らない男とも気軽にヤってしまうようになった。それが10年くらい続いたけど今は旦那としかやってない。
単に承認欲求が強いだけかと思ってたけど、幼少期の性被害が影響していた可能性を最近考えてる。心理学はよくわからないけど、あの時被害にあった自分を正当化したいため、性行為に重大な価値を持たせたくない、みたいな。
あと一息で東京都も緊急事態宣言が解除されそうだ、と期待してた矢先のニュースだった。
スタバが再開するのはまあ受け入れようと思った。
首都圏はテイクアウトだけだし、さすがに良識のある客層が多そうだし。
でも百貨店は違う。
だから、まだまだ地下食料品売り場だけ営業を続けるとタカをくくっていた。
私がよく利用する都内某百貨店も地下食品売り場以外は軒並み閉店している。
しかも高島屋と言えば国内有数の高級百貨店、私のような庶民は年に数回、都内ではそこでしか買えない食品をそそくさと買ってそそくさと帰るくらい敷居が高いイメージがある。
だから再開も鷹揚に「しょうがないなあ。そろそろ開けてやるか」ぐらいの大物感を勝手に期待していた。
そう、勝手に思い込んでいた。
入店人数を制限するとか、エレベーター内の係員はフェースガードをするとか、来店者や従業員を守る姿勢は理解できる、というか当たり前。
けど、それでは感染は防げないことはもう誰でも知っていること。
さっそく来店している人の映像なり画像を見る限り、圧倒的に高齢の女性が多い。
言ってはなんだけど、私の周りでマスクをせずに話しかけてくる知人で「あ、あんまり近くでお話しないほうが良いですよね」とこちらが後ずさりしても「あー、大丈夫よー、そんなの」って言ってくるのがこの層。
差別したくないけど、年齢での危機感や知識の差は大きいと感じる。
その人たちのせいではないけど、やっぱり開店したら真っ先に行くのはある程度決まった客層。
企業イメージってあるじゃないですか。
なんか急落しました、私の中で。
もうわざわざ買いに行かないと思う。
グーグルマップはだいたい正しい。
マンション名・アパート名があれば間違えないは、8割正しい。同一区画に3棟あると迷う。
同一名のマンション・アパートで後ろに「ABCD」で区別されてるけど、並びになくて道の反対側とか線路の向こうとか、ある。
建物に建物名が書いてる表札あるけど、場所が分からないことある。あと読めない字だったり、夜暗いと見えない。
アプリのピンずれは、本当に悩む。一戸建てだとよく隣の家にピンが立ってる。表札本当に大事。ありがたい。
住所検索すると、隣や向いの家が出る。お客さんの入力した住所だとその人の家にはたどり着けない。住所が謎。
番地全体再開発でマンション・アパート・一戸建て全部微妙にピンがずれる住所もずれる。
間違えた家に行って完全に不審者は一回やった。
「同じ建物が3つあるので、その真ん中です」と言われて行ったら4つ並んでる。暗くて分からなかったけど一番奥が違う建物だった。
届けるまで「どこだここは?」とスマホとにらめっこしてるけど、届けて通りに出ると「ここか!」となる。道と道がつながる。
置き配は不安。あってるのか分からない。写真もなかなか撮れないし。
大規模マンションはエントランス抜けてから迷う。エレベーターはどこにある。
小さい川がある、橋を探す、線路がある、踏切を探す、意外と大変。え、通れないの?狭いけど通れる・・・?
地元だからと言って住所が分かるわけでないし、道を知ってるわけでもない。行き止まり多い。
ピン近くまで来て「そこじゃなくて〇〇の何号室」てメッセージくる。そのマンションはどこだと地図チェック。たまにある。
「ピン間違ってます、交差点すぐの〇〇ってアパートです」、その〇〇は地図に出ない、交差点すぐにアパート4つぐらいある大変。
地方でも外国人はたくさん。店員さん、注文した人、夜道で集団で歩いてる中国人、解体現場にいる黒人とか。
インド・ネパール料理店の数が多い。異国の地で頑張ってる人おおい。すごい。
道がボコボコ、自転車だと無茶苦茶ゆれる。足も痛いけど手も痛くなる。
車道を走れとはいうけど、車は配慮してくれないよね。歩道ひろいところが多いのが救い。
交差点で左折する車は巻き込み防止で寄せてくるのは分かるけど、歩道に戻れない直進できない、止まってスペースできたら歩道にあがってる。
警察車両めちゃくちゃ走ってる。自転車止められてる人おおい。路駐怖い。
夕方から帰宅時間帯はスマホ歩きの人がすごい多い。道の真ん中で蛇行しながら歩いてる人いる。
タバコ吸いに家の前でプラプラしてる人、電話してる人、スマホいじってる人、けっこういる。
交通法規を順守しているとは言わないけど、安全大事と思ってスピードは出さなくなった。人をひかない、車にひかれない。たまにあるけどヒヤリハット。
届けて「ありがとう」と言われることもある、うれしい。チップというのもあって、もらうとやる気でる。
背中のバッグを見て「あーウーバーだー」と口に出すのはだいたい子どもかカップル。地方で珍しいのは分かる。
お店まで10分、15分はよくある。あの分数は、けっきょく、何の時間なのか謎。20分はとったことがある。遠かった。
寿司難しい、気を遣う。意外と牛丼屋が汁気強い、ラーメンは自転車には向かない。
時給800円以下だった。月収40万も不可能じゃないだろうけど、難しいと思う。
クエストという〇〇回運んだら〇〇円ボーナスみたいな制度があるので、たくさん運べば時給はアップする。
鳴るか鳴らないかは配達員は決められないので、暇なときは暇。ケツだけ痛くなる。
お店から配達先までの距離を足すと月に350kmぐらい走ったらしい。きっとすごい少ない。
ダイエットにはなる。月に3kgぐらい痩せた。もとが太かった。
本業でとなると適性があって体力に自信ある人、または自転車やめてバイクで配達になると思う。
パッとピックアップして、パパッとドロップしてと要領よく配達できる人はすごいと思う。
要領悪くてもどんくさくても、形にはなる。なった。
ウーバーのビジネスですごいのはリスクをアウトソーシングしてトラブルはカネで解決して、小銭を集金するシステムをアプリで提供してること。
このコロナ禍でテレビ局は収録を行えず、音楽番組は歴代のヒットソングを流し続けている。
私はこの手の音楽番組は嫌いじゃない。小中学生時代にうんざりするほど聴いた曲を「懐かしむ」という新鮮な感覚で聴けるようになった今は、テレビの中の歌手と大合唱するのが楽しくて、つい観てしまう。
この日もまた、その手の音楽番組で盛り上がっていた。学生時代、熱心に聴いていた00年代のヒットソングメドレーとなると、私は息つく暇もなく歌声を重ねる。
歌詞を見ずとも完璧に歌えるその数々に酔いしれ、天井を仰ぐご機嫌な私の歌声は、ある曲がかかった途端ピタリと止んだ。
2005年のヒットソング、レミオロメンの「粉雪」。この曲は、当時14歳だった私の「初体験」を彩るテーマソングだ。仰いだ天井とそのイントロが、あの日のラブホテルの天井をだんだんと思い出させる。
中学校生活の終わりをもうすぐ迎える私は焦っていた。その焦りとは、受験や、進学で離れ離れになる友達との別れに対するものではない。「初体験」を済ませていない自分に対する、ハッキリとした焦りだった。
私の周りの女の子たちは皆早くて、それぞれどこかで仕入れた「年上の男」とさっさと初体験を済ませていた。
中には「2回目は公園でヤった」とか、「毎日学校のトイレでパコってる」と語る者もいて、私は公園やトイレに行く度に「ここでパコパコ…」と感心していた。
一方私は、友達の家でファミチキを食べて帰るだけの中学生。身なりはギャルで、毎日公園やトイレでパコっていそうなのに、処女なのだ。
私は心底情けなかった。親からも毎日公園やトイレでパコっていると思われているのか、夕食の時に突然「コンドームは付けなさい」と注意される自分が。「まだパコってねえよ!」とも言い返せず、部屋にこもってeggのアニマルトークを読む日々が。
そもそも、中2の時に「塾に行きたい」と親に頼んだのが間違いだった。周りの女の子たちと同じように、夜中にどっかの年上の男にナンパされ、雑木林で初体験を済ませることを夢見ていた私は、夜遊びをするために塾に通うことを思いついたのだ。
それで私は、親に「高校に通いたいから塾に通わせてくれ」と懇願した。雑木林でパコりたい私の目論見を知ってか知らずか、親は「そうか、そうか!」と快諾し、私に2人の家庭教師を付けた。
高校に通いたいなんて嘘をつかずに、「雑木林でパコりたいから塾に行くフリをしたいんだ」と正直に言えばよかった。バカだからと2人も家庭教師を付けられ、週4日、16時から始まる授業に間に合うように、家に帰る生活を送ることになるとは。
だからといって、親に反発することはなかった。「お金がない」と言いながら月謝を払う親を裏切ることはできなかったし、口火を切ったからにはやってやるというギャルの意地があったから。
そうして夜遊びと無縁な日々を送った私は、2人の優しい先生のおかげもあって、中3の夏頃に実施された定期テストで89点という高得点を数学で叩き出した。
それ以外は50点前後というしょっぱい点数で、この奇跡の89点は功を奏さず、成績の5段階評価がオール1からオール2に上がる程度だったが、私の中にはいつしか「高校に行きたい」という思いが芽生え始めていた。噓から出た実とはまさにこのことである。
そうなると志望校を決めなければならない。しかし、私の学力でいける校則のゆるい高校を探すのは困難を極めた。いくらページをめくっても、「ゥチの高校は鬼ギャルの格好ができるょ↑↑」とか、「ルーズは120センチまでォッケー⭐︎」と、eggのノリで高校を案内しない『首都圏高校受験案内』に何度失望したことか。
選べる身分ではないことに気付き始めた頃、私はインターネットの力に頼った。すると早速、OBが受験生の質問に答えてくれるという優しい掲示板を探し当て、「ゥチの行ってた高校はギャルの格好ができるょ↑↑って人L lますヵゝ??」と書き込んでみた。
しばらく経って、スレッドが埋まりかけた頃、ようやく1件のレスがついた。「教えてあげるから、会わない?」という、見るからに怪しいレスだった。
その怪しさに、私は戸惑うよりも先に沸き立った。「この怪しいレスをつけた人に会えば、初体験を済ませられるかもしれないぞ」と。このバカは、いくら優秀な家庭教師でもなおせなかったのだ。
私はうぶなふりをして、20歳の男のメールアドレスを聞き出し、「静かなところで話したいから、ホテルで会わない?」という誘いに乗った。ああ、お父さんごめんなさいなんて、一瞬も考えなかった。
私にもついにこの時が来たかと思うと、感慨深いばかり。土曜の昼間のラブホテルだなんて、夜中の雑木林より立派じゃないか。誕生日を間近に控えた14歳の冬にして、ようやく初体験を済ませることになったのだ。
いつもより濃い化粧と派手な服に身を包んだ私は、待ち合わせ場所の改札前で20歳の男を待っていた。あと10分もすれば、初体験の相手が改札の向こうから現れる。
周りの女の子たちには、インターネットで出会った男と昼間にパコったなんて恥ずかしくて言えないから、夜中にナンパしてきたギャル男とラブホでパコったと言おう。そういろいろと考えていると、後ろから「あの…」という細い声が聞こえた。
振り向くと、うつむいた男が立っている。私は、その男が何者かということより、「私より髪が長いなあ」というぼんやりとした感想を抱いて、返事もせずにその長髪を眺めていた。
すると男は「…行こうか」と言って歩き出した。私はようやく「この男が私の初体験の男なのだ」ということに気付き、何とも言えぬままなびく髪を追いかけた。
道すがら、男は何かを話しかけてくるのだが、喧騒に遮られて聞こえない。その何かが物騒なことだったらどうしようと、この期に及んで恐怖を感じた。
それでも私は、時々見える男の表情が笑顔であることだけを頼りについて行く。男の声がはっきりと聞こえたのは、ラブホテルのロビーに入ってからだった。
男は「どこでも良いよね」と言って光るボードのボタンを押すと、小さな窓から鍵を受け取り、エレベーターのボタンを押した。その一連の流れを見て、こう言っちゃなんだが、こんなもさい男でも慣れているんだなと変に安心した。
部屋に入り腰掛けた瞬間、私はどんな顔をしていればいいのかわからなくなって、一気に緊張した。もしかしたら本当に高校について教えてくれるだけかもしれないけれど、黙ってテレビを眺める男の様子からはその気配を感じられない。
男が突然、「俺、宮崎あおいが好きなんだよね」と呟いた。テレビを見ると、宮崎あおいが何かの新商品をとびっきりの笑顔で宣伝している。そして、「シャワー浴びてくる」と言って風呂場へ消えていった。
その時、なぜかわからないけど落ち込んだ。この感情は、同級生の男の子に告白をした時、「今は勉強に集中したいから」と言ってフラれた悲しみに似ている。だけど、それとは全く違う。なぜかわからないけど、泣きそうになった。
タバコの匂いとシャンプーの香りが入り混じる部屋で、私はシャワーの音が止むのを待った。そして、揺れる長い髪と、かすめるラブホテルの天井を、私はぼんやりと見つめていた。
別れ際、男の顔が聖徳太子に似ていることに気付いた。参考書でよく見た顔だからか、それとも肌を重ねた相手だからか、この時になってようやく男に親近感が湧く。しかし男は名残惜しむことなく、私の「ありがとうございました」をかき消すように「じゃあ」と言って、改札を抜けていった。
私は、股が痛くて歩きづらいことや血は意外と出ないという、ありきたりな初体験の事後を実感したけれど、この心と体にしっくりくる初体験の感想は見つからず、モヤモヤした。
それからしばらくして、いよいよ志望校が決まった頃、私はまだ何かに焦りながら音楽番組をよく観ていた。誰かの曲の歌詞や声、MVの演出といった美しいものに、あれからずっと見つからなかった初体験の感想を当てはめて、早く落ち着きたかったのかもしれない。
そして私は、「粉雪」を歌うレミオロメンのボーカルを見て「聖徳太子に似ているな」という感想を抱いた時、ようやく落ち着いた。求めていた美しいものではない、その味気ない感想が、初体験の感想としてしっくりくるものだったのだ。
揺れる長い髪やかすめた天井、宮崎あおいや最後になぜか聖徳太子に似ていることに気付いて沸いた親近感、「何がありがとうございますだったんだろう」と考えながら歩いた帰り道、全てが無色だったことに気付いたのだ。
聖徳太子に似ているような気がするレミオロメンのボーカルが、私の初体験を彩る色はなかったことを知らせるように、心と体の深いところで鳴り響いただけなのだ。
天井をぼんやりと見つめている間に、音楽番組は10年代のヒットソングメドレーを流していた。初体験を白く染められたなら、この天井よりももっと高いところに返せるのになあ、などと考えている間に。
このコロナ禍でテレビ局は収録を行えず、音楽番組は歴代のヒットソングを流し続けている。
私はこの手の音楽番組は嫌いじゃない。小中学生時代にうんざりするほど聴いた曲を「懐かしむ」という新鮮な感覚で聴けるようになった今は、テレビの中の歌手と大合唱するのが楽しくて、つい観てしまう。
この日もまた、その手の音楽番組で盛り上がっていた。学生時代、熱心に聴いていた00年代のヒットソングメドレーとなると、私は息つく暇もなく歌声を重ねる。
歌詞を見ずとも完璧に歌えるその数々に酔いしれ、天井を仰ぐご機嫌な私の歌声は、ある曲がかかった途端ピタリと止んだ。
2005年のヒットソング、レミオロメンの「粉雪」。この曲は、当時14歳だった私の「初体験」を彩るテーマソングだ。仰いだ天井とそのイントロが、あの日のラブホテルの天井をだんだんと思い出させる。
中学校生活の終わりをもうすぐ迎える私は焦っていた。その焦りとは、受験や、進学で離れ離れになる友達との別れに対するものではない。「初体験」を済ませていない自分に対する、ハッキリとした焦りだった。
私の周りの女の子たちは皆早くて、それぞれどこかで仕入れた「年上の男」とさっさと初体験を済ませていた。
中には「2回目は公園でヤった」とか、「毎日学校のトイレでパコってる」と語る者もいて、私は公園やトイレに行く度に「ここでパコパコ…」と感心していた。
一方私は、友達の家でファミチキを食べて帰るだけの中学生。身なりはギャルで、毎日公園やトイレでパコっていそうなのに、処女なのだ。
私は心底情けなかった。親からも毎日公園やトイレでパコっていると思われているのか、夕食の時に突然「コンドームは付けなさい」と注意される自分が。「まだパコってねえよ!」とも言い返せず、部屋にこもってeggのアニマルトークを読む日々が。
そもそも、中2の時に「塾に行きたい」と親に頼んだのが間違いだった。周りの女の子たちと同じように、夜中にどっかの年上の男にナンパされ、雑木林で初体験を済ませることを夢見ていた私は、夜遊びをするために塾に通うことを思いついたのだ。
それで私は、親に「高校に通いたいから塾に通わせてくれ」と懇願した。雑木林でパコりたい私の目論見を知ってか知らずか、親は「そうか、そうか!」と快諾し、私に2人の家庭教師を付けた。
高校に通いたいなんて嘘をつかずに、「雑木林でパコりたいから塾に行くフリをしたいんだ」と正直に言えばよかった。バカだからと2人も家庭教師を付けられ、週4日、16時から始まる授業に間に合うように、家に帰る生活を送ることになるとは。
だからといって、親に反発することはなかった。「お金がない」と言いながら月謝を払う親を裏切ることはできなかったし、口火を切ったからにはやってやるというギャルの意地があったから。
そうして夜遊びと無縁な日々を送った私は、2人の優しい先生のおかげもあって、中3の夏頃に実施された定期テストで89点という高得点を数学で叩き出した。
それ以外は50点前後というしょっぱい点数で、この奇跡の89点は功を奏さず、成績の5段階評価がオール1からオール2に上がる程度だったが、私の中にはいつしか「高校に行きたい」という思いが芽生え始めていた。噓から出た実とはまさにこのことである。
そうなると志望校を決めなければならない。しかし、私の学力でいける校則のゆるい高校を探すのは困難を極めた。いくらページをめくっても、「ゥチの高校は鬼ギャルの格好ができるょ↑↑」とか、「ルーズは120センチまでォッケー⭐︎」と、eggのノリで高校を案内しない『首都圏高校受験案内』に何度失望したことか。
選べる身分ではないことに気付き始めた頃、私はインターネットの力に頼った。すると早速、OBが受験生の質問に答えてくれるという優しい掲示板を探し当て、「ゥチの行ってた高校はギャルの格好ができるょ↑↑って人L lますヵゝ??」と書き込んでみた。
しばらく経って、スレッドが埋まりかけた頃、ようやく1件のレスがついた。「教えてあげるから、会わない?」という、見るからに怪しいレスだった。
その怪しさに、私は戸惑うよりも先に沸き立った。「この怪しいレスをつけた人に会えば、初体験を済ませられるかもしれないぞ」と。このバカは、いくら優秀な家庭教師でもなおせなかったのだ。
私はうぶなふりをして、20歳の男のメールアドレスを聞き出し、「静かなところで話したいから、ホテルで会わない?」という誘いに乗った。ああ、お父さんごめんなさいなんて、一瞬も考えなかった。
私にもついにこの時が来たかと思うと、感慨深いばかり。土曜の昼間のラブホテルだなんて、夜中の雑木林より立派じゃないか。誕生日を間近に控えた14歳の冬にして、ようやく初体験を済ませることになったのだ。
いつもより濃い化粧と派手な服に身を包んだ私は、待ち合わせ場所の改札前で20歳の男を待っていた。あと10分もすれば、初体験の相手が改札の向こうから現れる。
周りの女の子たちには、インターネットで出会った男と昼間にパコったなんて恥ずかしくて言えないから、夜中にナンパしてきたギャル男とラブホでパコったと言おう。そういろいろと考えていると、後ろから「あの…」という細い声が聞こえた。
振り向くと、うつむいた男が立っている。私は、その男が何者かということより、「私より髪が長いなあ」というぼんやりとした感想を抱いて、返事もせずにその長髪を眺めていた。
すると男は「…行こうか」と言って歩き出した。私はようやく「この男が私の初体験の男なのだ」ということに気付き、何とも言えぬままなびく髪を追いかけた。
道すがら、男は何かを話しかけてくるのだが、喧騒に遮られて聞こえない。その何かが物騒なことだったらどうしようと、この期に及んで恐怖を感じた。
それでも私は、時々見える男の表情が笑顔であることだけを頼りについて行く。男の声がはっきりと聞こえたのは、ラブホテルのロビーに入ってからだった。
男は「どこでも良いよね」と言って光るボードのボタンを押すと、小さな窓から鍵を受け取り、エレベーターのボタンを押した。その一連の流れを見て、こう言っちゃなんだが、こんなもさい男でも慣れているんだなと変に安心した。
部屋に入り腰掛けた瞬間、私はどんな顔をしていればいいのかわからなくなって、一気に緊張した。もしかしたら本当に高校について教えてくれるだけかもしれないけれど、黙ってテレビを眺める男の様子からはその気配を感じられない。
男が突然、「俺、宮崎あおいが好きなんだよね」と呟いた。テレビを見ると、宮崎あおいが何かの新商品をとびっきりの笑顔で宣伝している。そして、「シャワー浴びてくる」と言って風呂場へ消えていった。
その時、なぜかわからないけど落ち込んだ。この感情は、同級生の男の子に告白をした時、「今は勉強に集中したいから」と言ってフラれた悲しみに似ている。だけど、それとは全く違う。なぜかわからないけど、泣きそうになった。
タバコの匂いとシャンプーの香りが入り混じる部屋で、私はシャワーの音が止むのを待った。そして、揺れる長い髪と、かすめるラブホテルの天井を、私はぼんやりと見つめていた。
別れ際、男の顔が聖徳太子に似ていることに気付いた。参考書でよく見た顔だからか、それとも肌を重ねた相手だからか、この時になってようやく男に親近感が湧く。しかし男は名残惜しむことなく、私の「ありがとうございました」をかき消すように「じゃあ」と言って、改札を抜けていった。
私は、股が痛くて歩きづらいことや血は意外と出ないという、ありきたりな初体験の事後を実感したけれど、この心と体にしっくりくる初体験の感想は見つからず、モヤモヤした。
それからしばらくして、いよいよ志望校が決まった頃、私はまだ何かに焦りながら音楽番組をよく観ていた。誰かの曲の歌詞や声、MVの演出といった美しいものに、あれからずっと見つからなかった初体験の感想を当てはめて、早く落ち着きたかったのかもしれない。
そして私は、「粉雪」を歌うレミオロメンのボーカルを見て「聖徳太子に似ているな」という感想を抱いた時、ようやく落ち着いた。求めていた美しいものではない、その味気ない感想が、初体験の感想としてしっくりくるものだったのだ。
揺れる長い髪やかすめた天井、宮崎あおいや最後になぜか聖徳太子に似ていることに気付いて沸いた親近感、「何がありがとうございますだったんだろう」と考えながら歩いた帰り道、全てが無色だったことに気付いたのだ。
聖徳太子に似ているような気がするレミオロメンのボーカルが、私の初体験を彩る色はなかったことを知らせるように、心と体の深いところで鳴り響いただけなのだ。
天井をぼんやりと見つめている間に、音楽番組は10年代のヒットソングメドレーを流していた。初体験を白く染められたなら、この天井よりももっと高いところに返せるのになあ、などと考えている間に。
👨⚕️「魚を食え」
👨⚕️「3食規則正しく食べろ」
👨⚕️「腹八分目でやめろ」
👨⚕️「21時以降食べるな」
👨⚕️「塩分と脂は摂りすぎるな」
👨⚕️「ジャンクフードは食べ過ぎるな」
👨⚕️「暴飲暴食やめろ」
👨⚕️「毎食後30分以内に歯磨きしろ。デンタルフロスもしろ」
👨⚕️「歯磨きした後はうがいしすぎるな」
👨⚕️「タバコ吸うな、酒はほどほどに控えろ」
👨⚕️「睡眠前の2時間はテレビ・スマホ・PCモニタを見るな」
👨⚕️「乗り物使わず徒歩で移動しろ。エレベーター使わず階段使え」
👨⚕️「毎日9時間以上椅子に座るのは健康に悪いからやえろ」
👨⚕️「ゲーム・スマホを使う時は1時間たったら15分休憩しろ」
👨⚕️「髪は二日おきに洗えば十分。メリットは使うな」
👨⚕️「手で顔を触るな」
👨⚕️「帰ったら手洗いうがいしろ。手洗いは爪の間や肘までやれ」
👨⚕️「虫刺されはかくな」
👨⚕️「耳かきはするな」
👨⚕️「首バキバキ指ポキポキはやめろ」
👨⚕️「オナニーは男女関係なく健康に良いからやれ。男なら月に21回以上の射精が目安」
👨⚕️「ネットの医療情報を鵜呑みにするな。自己診断するな。信用できる所だけ見て参考程度にしろ」
🙎♂️「はい」
30代後半で独身で同い年で同じ派遣社員で真面目で下ネタ嫌い系の女性に、
2、3回拭いてもトイレットペーパーに少し汚れるし、
その時はもう一回水洗いするか、諦めます」と言った。
僕は歩きながらやエレベーターの中でもおならをすることがある、
ただそういうことを「言わない、話題にしない」だけで。
高校生の時、全身麻酔の手術をしたとき、事前に浣腸で便を出しておかなきゃいけない。
トイレの個室で壁に手をつき、若い看護婦さんから後から浣腸された。
「ちゃんと出たか確認しなきゃいけないの。私は慣れてるから」。
こっちが慣れてないんだ。して、トイレットペーパーでちょっと隠れるようにして、
最初の優等生は、部屋に男性が居てもトイレはドアを開けたままするんだって。