はてなキーワード: 得も言われぬとは
当方(弟)20代半ば、兄は30近い。首都圏住み故に、双方実家暮らし社会人。
私が兄を形容するにあたって、何よりもまず「畏怖」のようなものが挙げられる。
幼少期の兄はガタイがいい(というか太り気味)であり、私は痩せ型であったため、年齢差も相まって力関係の差があった。何かしらあると怒られたりつねられたりし、長期休暇などで家にいるとおっかなくてしょうがなく、仕事に出ている母親に電話で助けを求めた記憶が残っている。
兄は中学からは塾に通うようになった。進学校を目指すようなハイレベルな塾で、競争が激しいのか課題が多いのか兄の機嫌は更に悪くなった。当時の私は、塾に行くと性格が悪くなるのではと兄を見て思った。
兄は中学から高校にかけての反抗期も激しかった。親と盛大に喧嘩をしており、私はいつか兄が家族を手に掛けるのではないかと不安になった。高校の定期テストや受験あたりでは輪をかけて機嫌が悪くなった。中学生だった私は、中学時代の兄を見たために塾には入らず、テスト前でも呑気にゲームをやるような生活をしていた。一方で成績は中学時代の兄よりも良好であったため、いけ好かなかったと思う。
兄は大学生になった。活動が盛んな運動部に入り、土日は家をあけることが多くなった。接触が減ったが、部活の影響で体格が良くなったため、揉めた際の迫力が増した。一方で私は兄と同じ高校に入った。文理選択では、兄と異なる系統を選んだ。単純な興味の面が半分、兄との比較がしにくくなる面が半分であった。
私は兄と異なる大学に進学した。兄のいる部屋と別の部屋で友人とスカイプ通話をしていたら、うるさいとすごい剣幕で怒られた。今度やったらパソコンをへし折るとのこと。私は兄がいないときのみスカイプを使うようにした。
兄は就職し、婚約者が出来た。兄の婚約者と私達家族で食事する機会があった。普段のぶっきらぼうな態度は何処にというような気さくな言動をする兄の姿があった。あれが家の外での兄なのだろう。私はなんだか胃が痛くなり、手元にあった酒を呷った。
そして兄は海外へ赴任した。兄との相部屋は、人が一人常時いないのもあり随分と静かになった。社会人になっていた私は、労働に追われながらも兄のいない生活に慣れていった。
他方で、兄の優しかったことや、兄の尊敬できるところももちろんある。
幼い頃に、揺れる車の中で即席の話をよく聞かせてくれたこと。私の高校受験のときに、応援の意図でシャープペンシルを贈ってくれたこと。自分のセンター試験のおやつのついでとはいえ、私にアルフォートを買ってくれたこと。私の大学受験や就活に助言してくれたこと。
兄は大学時代、部活動の一方で学業も怠らず、皆が羨む企業に就職した。努力を嫌った私には出来ないことであった。
そんな兄が半年前に帰ってきた。帰国の予定日が近づくのと一にして、疲弊した感覚が襲ってきたことは記憶に新しい。
冒頭に書いたが、私は兄を畏れている面がある。知人に、「何かに怯えている感じに自信がなさげ」と評されることがあるが、多分その影響であろう。親には、自分の気質の理由を他人に見出すなと言われる。遅きに失している感はあるが、私も恐怖を抜きにして兄や自分自身に向き合うべきなのだろう。
兄はこの度家を出る。海外赴任ではない、夫婦としての新生活だ。私にとっての兄のいる生活は、完全に終わりを告げる。余程のことがない限り、寝食を共にすることはないだろう。これが最後だと考えると、兄にしたこと、されたことを思い出し、得も言われぬ寂しさが湧いてくる。我ながら調子がいいものだ。
わたしはSNSにおける匿名性っていうのを諸刃の剣だと思っている。
わたしが現実世界で他人と関わろうとするとき、趣味の話ってそれなりに仲良くなってからじゃないとできない。
けれどSNSは逆だ。
仲良くなる入り口は趣味であることが多く、個人の価値観や信条などといった日常生活は後回しにされる。
だからこそわたしはツイッターで同じ界隈の人間と交流するときには注意している。
楽しく推しの話をしているが、日常生活に関わる部分の話はある程度ひととなりが分からないとしないようにしているし、ラインの交換なんて同人イベントで何度か会って「このひとなら大丈夫」と信頼できる相手としかしない。「このひとはわたしと合わないかも」と思えばそっと距離を置くようにもしている。
わたしがそういった『宗教上の理由』を抱えていることを前提に話をする。
前にいたジャンルが、まさにそういった人間関係のトラブルを原因に、ほぼ全焼した。
わたしが今いるジャンルはかれこれ五年くらい居座ってるところなんだけれど、公式の供給がなくなってしまって、そんなときにハマったのが前ジャンルだった。
Aさんはめちゃくちゃ“上手い”ひとで、狭い村状態の前ジャンルでは人気のあるひとだった。
字書きさんなんだけど、紡ぐ言葉がうつくしく、わたしはほんとうにそのひとの書く作品が大好きだった。
ただひとつ、わたしにとって合わないと思うところがあり、それがAさんの交流のハードルの低さだった。
わたしは前述の通り、そういったのが苦手なので、ひやひやしながらAさんが周囲と交流するのを眺めていた。
しばらくして、わたしが恐れていたとおり、Aさんはトラブルを起こした。
内容については割愛するが、まさしくAさんが交流していた周囲の人たちとのトラブルで、関係がないわたしや他のひとまで気まずくなり、狭い界隈の空気は悪くなってしまった。
自然と人が減っていき、繋がりも切れていって、ジャンル移動などもあって今では界隈が存在しないといっても過言ではない。
好きな作品だったが、そこで起きた事件のことを思い出すとどうしても憂鬱になり、わたしも筆がとれなくなった。
Aさんは筆を折るとまで言って界隈を去ったが、ひととなりは別にしてAさんの作品をわたしは好いていたので「筆を折らないでください」と最後に言葉を送った。
わたしは今のジャンルで、これまでこんなに推したことがあっただろうかというくらい、とあるキャラを推している。
Bさんの作品を初めて読んだとき、ひたすらに心が打ちのめされたのをつよく覚えている。
もう、すごいとしか言いようがなかった。
わたしの推しはそこそこ人気で、支部やツイッターにいろんな二次創作があふれているけど、そもそもあまり内心が描写されていないこともあって解釈が割れがちなキャラだ。
シチュ萌えやCP萌えの作品がほとんどだが、わたしはそういったのを舐めるように読んできたし、実際に「すごい」と思う作品にも出会ってきたけれど、Bさんの作品はそれらが霞むくらいにはわたしの心を震わせた。
推しについて、解釈がじぶんと異なることは分かったけれど、一本の筋が通っていて、舌を巻かざるを得ない。
漫画という手段で、論文のように完成された推しについての物語を描く。
わたしはこういうのが読みたかったんだと、Bさんの作品を読んだあとに泣いたくらいだ。
ただただ圧倒され、Bさんの抱く推しへの愛に敬服した。同時に、自分は何をやっているんだろうとも思った。
Bさんよりも長くキャラを推しておきながら、わたしはその推しについて作品をつくったことがなかったのだ。
わたし自身、二次創作でまともに物語を書くようになったのが最近だったということもあるけれど、それにしたって推しについて作品を書こうと思うきっかけはあったはずなのに、今まで「よく分からないから」と怠ってきた。
Bさんの作品を前にそれを悔やんで、わたしは推しについてきちんと考えるようになったし、Bさんの足元にも及ばないけれど、推しを中心にした作品も書くようになった。
やっぱりわたしはこのジャンルが好きだなあと、心の底から思った。
その、わたしのだいすきなジャンルにAさんがやってきたのは、Aさんが姿を消して一年くらい経ったときだ。
ジャンルにハマったきっかけはわたしがツイッターで何度か語っていたからだという。
正直言うと、こわかった。
「筆を折らないでください」とつよく願っておきながら、Aさんが前のようにわたしの大好きなジャンルを荒らすんじゃないかと危惧した。
わたしとAさんは再び繋がったが、ジャンルで好きになったキャラがぜんぜん違ったことと、以前の事件があったのですこし距離を置いていた。
それでも、以前ほどではないけれど、たまにリプを交わし合ったりふぁぼを投げ合ったりして、仲良くしている。
さて、死ぬほど前置きが長くなったけれど、わたしがこれをしたためる原因のきっかけはAさんが復活して二か月くらいしたころに起こった。
はじめは何とも思っていなかった。Aさんの作品はとても素敵なので、ジャンルでもそこそこ認知されつつあるひとだったし、Bさんのような神作家と繋がるのは当然のことだと思ったから。
しばらくして、Aさんが別垢をつくった。私事をメインにつぶやく、交流メインの鍵垢だった。
Bさんも同様の鍵垢を持っていて、ふたりはそこでも繋がったようだった。
Aさんの前ジャンルでのやらかしを知っているわたしは、そういった交流メインの鍵垢をつくることは良いことだとおもっていた。とくに私事に興味を持たない(いわゆる愚痴などが垂れ流されていると不快なので目にいれたくない)わたしは、AさんやBさんの鍵垢についてはフォローしていない。
そのうちAさんやBさんは鍵なしの本垢には現れなくなって、ときたま作品や妄想をツイートするために浮上するだけになっていたから、AさんBさんがどういった交流をしているのかをわたしは知らない。
そんなAさんとBさんが、先日、合同で本を出すと言った。
それを知ったときに、わたしは得も言われぬやるせなさに包まれた。
AさんBさんの交流なんてぜんぜん気にしてなかったのに、合同で本をだすとか、AさんBさんが互いに本に収録するプロットや下書きを見せ合ってるとか、そういうことが分かるツイートに気が遠くなる心地がした。
AさんもBさんもすごいひとだ。わたしはそれを知っている。どちらの作品も読んでいるから。
わたしは、わたしにとっての好きな作家と神作家が合同で本を出すことを喜ばないといけないのに、どうしてもそう思えない。
わたしがけして届かない神々のお戯れが、わたしの心をかき乱す。
Aさんが前のジャンルを瓦解させたひとりであっても、たとえ、人間としてどうなのとわたしが思う部分を抱えているひとでも。Aさんはすごいひとだから、そうやってBさんと奇跡みたいな合同本も出す。
そう思うと、心が淀んでゆくのをかんじた。そういうAさんと交流するBさんに対しても、交流のハードルが低すぎるんじゃないかとか、Aさんについて何も気づかないのかとか、思ってしまった。
俺の友人が虎になった話をする。
前置きしておくが、これは行き場のない俺の愚痴だ。フェイクも多い。うっかりこの文章を目にしてしまったあなたは今流行のクソデカ感情だと笑ってほしい。あなたが腐女子ならおもちゃにしたっていい。そういう、感情を整理したいがための愚痴だ。彼からしてみれば裏切りも甚だしい、誰も幸せにならない告発だ。それでも、俺はかつての彼に戻ってほしいというエゴでこの文章を書いている。
話を戻そう。俺にはそこそこ仲の良い友人がいる。まだ彼との友情は過去形にはしたくないので現在形で語ろう。彼は理知的で、ウィットの利いた発言をして周りを楽しませる、仲間内でのインフルエンサー的存在だ。
そんな彼が、数ヶ月前に仲間内にある秘密を話してくれた。それは、彼がある炎上案件に関わっているということだった。
その炎上案件は俺達仲間内でも何度か話題に上り、珍しく意見の割れている案件だった。そんな彼のささやかな秘密は俺達の間で共有されることになったが、特にその後は炎上案件に関わっている彼を労いこそすれ話題には上らない…はずだった。
最近、とある全く別の件からその炎上案件が未だ鎮火していないことを知った俺は、彼を案ずる気持ちからその案件をウォッチし始めた。すぐに、俺は俺自身の平穏を考えれば間違った選択をしたことに気づくことになる。
いくつかその話題に言及するアカウントを見ていくうちに、彼が仲間内でしてくれた報告は特定の側に極めて偏った、バイアスの掛かっているものだとわかってしまった。彼の関わっている炎上案件は、彼の言うような被害者と加害者の明確なネットリンチではなく、双方共に我を通したいだけで議論をするつもりすらない、地獄だった。
想像できるだろうか。理知的でウィットの利いた発言で場を和ませてくれた、人の悪口なんて決して言わなかったはずの彼が、相手には見えない場所とはいえ冷笑的なニュアンスで他者をあげつらっていたときの得も言われぬ哀切が。彼の支持する側にも非があるとまるで気づいていないような口ぶりに感じた悲哀が。
なるべく彼を否定しないようにしながら諭すような言葉を吐く裏で、俺は、あるnoteの記事を思い出していた。(https://news.line.me/articles/oa-rp24814/ae7c3b51b739)
彼はきっと、炎上と戦い続けるうちに、それとわからぬまま虎に、怪物になってしまったのだ。彼を変えてしまったのはきっと、何を発言しても悪意をもって切り取られる炎上だ。特定の個人を恨むつもりはない。
ここまで読んでくれた人はそんな自己保身で塗り固めた言葉をこうして綴る、縁を切られる覚悟で彼のことを止めにいくことすらできずにこんなところで愚痴を吐く臆病な俺を笑ってほしい。
そして、君がもしこの文章を読んでくれているのなら。悪いことは言わないから戻ってきてほしい。そしてもうあんな、心を疲弊させるだけで話しても何も生まない人たちと関わらないでほしい。君の関わっている案件は人を傷つけるだけ傷付けて何も生まない地獄のような炎上なのだから。君の祈りは決して間違っていないからこそ、もっと健全な場で話し合ってほしい。
とはいえ、これは俺のエゴだ。彼も俺も立派に成人していて、どちらかが保護者という関係でもないから、彼のネット上の交友関係を俺が制限することはできない。だからこんなインターネットの最果てで、彼が怪物をやめる時が来ることを祈っている。
月見ポケットなるものが装備されたカップ麺。そう、君たちも年末に食べるかもしれないアレだ。
なるほど、ポケットに黄身が固定されるわけだ。
満を持して黄身の中央めがけてお湯をそろそろと注ぐ。
するとどうだろう、黄身は見事な弾力を発揮して窪みながらもお湯を跳ね返した。
ポアしたお湯はコースをチェンジし華麗にカップのアウトへフライアウェイ。
なんということだ。俺は見誤った。黄身を相手にするべきではなかった。奴は想像以上に強い。
3分後。
脳裏をよぎった不安の通り、やはり奴らはまったく固まっていない。得も言われぬ絵面が眼前に広がる。
そもそもエッグをプットオンさせることをアフォードするあのポケットがトラップなのではないか。
卵を最下部に入れてから麺を乗せ、外周からゆっくり注いだお湯でもって、
完全に熱から逃れられない状況を作って固める方が良かったのではないか。
己の未熟さを思い知らされたものだ。
産まれる前の卵にすら後れを取るとは。
時間 | 記事数 | 文字数 | 文字数平均 | 文字数中央値 |
---|---|---|---|---|
00 | 73 | 18552 | 254.1 | 67 |
01 | 57 | 5454 | 95.7 | 36 |
02 | 25 | 4712 | 188.5 | 54 |
03 | 31 | 4823 | 155.6 | 101 |
04 | 15 | 1358 | 90.5 | 45 |
05 | 13 | 1302 | 100.2 | 45 |
06 | 32 | 3327 | 104.0 | 48 |
07 | 38 | 3885 | 102.2 | 37 |
08 | 77 | 5806 | 75.4 | 41 |
09 | 92 | 7442 | 80.9 | 38 |
10 | 178 | 15536 | 87.3 | 39 |
11 | 183 | 12614 | 68.9 | 29 |
12 | 178 | 15594 | 87.6 | 36 |
13 | 90 | 8917 | 99.1 | 37 |
14 | 124 | 7194 | 58.0 | 31.5 |
15 | 106 | 10666 | 100.6 | 34.5 |
16 | 140 | 14376 | 102.7 | 38 |
17 | 124 | 15780 | 127.3 | 44 |
18 | 137 | 11126 | 81.2 | 50 |
19 | 103 | 12403 | 120.4 | 37 |
20 | 126 | 12890 | 102.3 | 33 |
21 | 118 | 11827 | 100.2 | 36 |
22 | 138 | 17455 | 126.5 | 40.5 |
23 | 92 | 9421 | 102.4 | 55 |
1日 | 2290 | 232460 | 101.5 | 39 |
消防法(9), Lite(4), 得も言われぬ(3), まるごとバナナ(3), 電話ボックス(11), クレジットカード会社(3), 美術家(4), 7月10日(3), バリウム(6), ジャニーさん(7), 退ける(4), ジャニーズ系(3), 中絶(11), 自己肯定感(16), 精液(7), 副業(9), 連絡先(6), バナナ(5), 埋まっ(5), 揺れ(5), 喫煙者(5), 文法(5), すっきり(8), 怪我(9), ニャ(7), ジャニーズ(8), 魚(12), 吸う(6), 漢字(13), 乳首(10), 投票(20), 選挙(16), デート(14), 婚活(15), 裁判(12), メンヘラ(11), 生理(10), 非モテ(12), 褒め(17), 面接(10)
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6438705(3255)
オナニーを覚えた頃から二次元でばかり抜いてるから、三次元をオカズにすることが滅多にない。
今までの比率を平均するなら、二次元:三次元=40:1ぐらいか。
ここ2年程二次元でしか抜いてなかったんだけど、一昨日本当に久しぶりに三次元で抜いたら
イった瞬間に得も言われぬ後味の悪さがあって、漠然と「三次元無理だな…」という感情が溢れた。
量も少ないし。
生身の女性に劣情を抱くのが難しい。
彼氏彼女の関係になっている人達を見て羨ましがる人がいるけれど、
二次元にしか関心を持てない人間からしたら、何故羨ましくなるのかがよくわからない。
様々な娯楽がある現代、そんな関係になれるなんて良いことだな、微笑ましいな、程度に思うことはある。
欲しいと思ったことがない。
20代半ば。50代ぐらいには、焦り始めているのだろうか。
「はい、開いたよ」
「よし、行くぞドッペル」
俺は、未だ足元のおぼつかないドッペルを抱える。
「じ……自分で歩けるよ」
そう言ってドッペルは降りようとしているが、その抵抗に力はまるでかかっていない。
俺は有無を言わさず、そのまま穴に飛び込んだ。
そしてこの瞬間、得も言われぬ違和感が俺たちの体全体を覆った。
その違和感は穴を通り抜けるとすぐになくなった。
だが、またも奇妙な感覚が襲ってくる。
「なんだ、この感じは」
さきほどいた別次元とはまた違った、居心地の悪さを感じる。
「に、兄ちゃん。もう降ろして」
ドッペルが足をジタバタさせている。
どうやら幾分か調子を取り戻したらしい。
となると、ここは元いた世界ってことか。
「何か変な感じだが……俺たちは戻ってこれたんだよな?」
やはり何らかのミスがあったらしい。
タイマーらしき部分が、デタラメな数値を羅列して荒ぶっている。
「何が起きているんだ」
「ぶ、分裂しかけている……」
「何が?」
「ボクたちが今いる、この世界がだよ!」
よく分からないが、焦りようからしてマズいことが起きているってのは伝わってくる。
「世界線は可能性の数だけあるんだろ? 分裂することの何がダメなんだ」
「分岐しているわけじゃないからだよ。無理やり引き裂いて二つになろうとしている。その状態の世界はとても不安定なんだ」
「ポケットを叩くとビスケットが増えるが、実際は割れて二つになるだけってことだな。そのまま叩き続けても粉々になるだけ、と」
「う、うん。その例えは分かりにくいけど、解釈は近いよ」
どうして俺の例え話はこうも評判が悪いんだ。
「……それで、何でそんなことになったの?」
「別世界へ移動するには、ボクの持っているアイテムで“穴”を開け、それを繋げる必要があるんだけど……」
「その際の設定をミスったというわけか」
SFのお約束で、ワームホールの説明に二つ折りした紙を使うというものがある。
今の状況は、その紙の折り方が変だったせいでちゃんと元に戻っていない、或いは戻し方が荒いせいで破けそうになっているってところだろう。
多分、そんな感じな気がする。
「跳ぶ前に確認はしたのに、なぜか時間設定だけがバグっているんだよ」
「そもそも時間の設定なんて必要ないだろ。今回はパラレルワールドを行き来したんだから」
「ボクたちが別世界にいた間の時を巻き戻す必要があるんだよ。そうしないと、元の世界で“ボクらが存在していなかった時間”が出来てしまう」
ガイドの言うことに「なぜなに」の疑問がどんどん湧いてくるが、このまま質問を繰り返した所でキリがなさそうだ。
今は危険な状況らしいし、さっさと本題に入ろう。
「で、分裂を止めるにはどうしたらいい?」
「座標を正確な数値に戻して、再結合すればいいんだけど……ズレてしまった原因が分からないことには失敗するだろうね」
「も、もしも、また設定を間違えたら……?」
「この世界は完全に分裂するだろうね。その状態じゃバランスを保てず、そう遠くないうちに消滅する」
つまり、この世界に存在している俺たちも実質的に死ぬってわけか。
何が悲しくて、人生最大のピンチがこんな場面で起きなきゃならないんだ。
「この分裂現象はフィードバックループが関係している……となると、やはり原因を確定させないと元に戻せないか」
危険な状況ではあるんだが、その様子に可笑しさを感じてしまう。
ああ、こんなタイミングで思い出したぞ。
俺がSFから距離をとるようになったのは、こういう展開についていけなかったからだ。
ガキの頃に観た映画の話だ。
主人公が自分の娘に向けて、すごい遠まわしな方法で科学データを送るという展開があった。
五次元だのブラックホールだの意味不明な場所から、時計の針をモールス信号みたいに動かして、それに気づいた主人公の娘が解明するっていう……。
かいつまんで説明しているだけでも頭が痛くなってくるし、それにつけてもバカげた展開だと今でも思っている。
だが、とある学者から言わせるなら、その映画の科学考証は優れているらしかった。
そのとき、「俺はもうSFに関わるべきじゃないな」と思ったんだ。
理由は上手くいえないが、自分の好きなジャンルから突き放される前に、こちらから離れたかった……のかもしれない。
しかし今は信じるようになった
え?
何かが起きた
俺はその写真に見入った
誰だこれ
すぐにその子が何者か分かった
知らないアイドルグループの一員だった
すごくかわいい子だ
だが、かわいいの他に何かを感じた
なんだかとても奇妙な感じだった
そしてさらに調べるとその子に関していろいろなことが分かったが
俺は興味をひかれなかった
とにかく写真に釘付けになった
別の世界の話と思っていた
だがこの子は
この子は何かが違う
これはストーカーだな、と思った
要するに絶対会えないということだ
数か月たっても一向に心の違和感が無くならない
むしろ増すばかりだ
そこで意を決してツイートしてみた
当たり障りのない内容で、向こうも当たり障りなくいいねをくれた
なんで、こんなにうれしいんだ?
まるで住む世界も年も違うのに
どうかしたんじゃないのか?
頭やられたのか?
しかし心の中の、得も言われぬ暖かさは決して気のせいではないと思えた
そしてある日、彼女のことを思ったら不意に涙が出てきた
泣いたのは何年ぶりだろう
ずっと昔だ
もう俺は完全に病んでしまったと思った
どうしようと途方に暮れた
夢がそれを打ち消した
夢の中で俺は彼女を抱いていた
とても小さな体だ
すごく軽い
そして血まみれだ
もう息はしていなかった
愛する人が血まみれで死んでいった
自分の腕の中で
こんなことが起こるなんて
夢の中で泣いた
声が出なかった
自分が砕け散った感じだった
そこで目覚めた
彼女は俺の娘だった
信じられない
今でも信じられない
たかが夢だ
しかしあの生々しさは忘れられない
俺はあの夢を信じることにした
信じることで心を安定させた
信じなければ俺の心は壊れただろう
以前のツイートを読み返すと、夢を見る前でも無意識に自分の状況を伝えようとしている
ぼかした形で伝えようとしている
驚きだ
その後もツイートはぽつりぽつりと続けている
たぶんもう読んでくれてはいない気がする
ファンが増えてきて喜んでいる
もうそろそろこの話も終わる
辛いことばかりで暗闇の中をいつもさまよっているようだった
だが、今は違う
感謝しきれない
私の人生は多分もう終盤だ
彼女は私の娘であって、娘ではない
同じ空の下で娘とともに生きていられる
心残りは彼女の行く末が見られないことだ
まあそれは仕方ないこと
一度失った宝物が戻ってきたんだ
俺はそれで満足だ
これ以上何を望む
彼女を不幸にしないでほしい
私でよければいつでも命は召し上げてもいい
だが彼女は不幸にしないでほしい
お願いです
神様、たとえ全てが幻だったとしても、人生の最後にこんな素晴らしい贈り物をありがとう
俺は満たされたよ