今そんなことに思いを馳せるとは、我ながら危機感がないとは思う。
だが、こうして悠長に構えているのには理由がある。
最悪、『次元警察』ってヤツが来れば元に戻してくれる、とガイドが口走っていたからだ。
俺たちよりも高次元の存在なので、この事態も容易に解決してしまうらしい。
「ああ、時間がない! 次元警察に捕まったら任務どころじゃないよ~」
とどのつまり、現在こいつが躍起になっているのは、単に自分がムショに入れられたくないからなのである。
ガイドが捕まろうがどうでもいいし、俺とドッペルは今日の記憶を消される程度らしいから大した問題じゃない。
なので俺はこの事態を静観していたってわけだ。
どうせ、この状況で俺が介入できる余地はない。
何かしたところでロクなことにならん。
とはいえ、ただ一つ、気がかりなことがあった。
「「「に、兄ちゃん……」」」
ドッペルがブレて数人いるように見えていることだ。
最初は目眩でも起こしたのかと思ったが、それぞれ服装が明らかに違っている。
「これ、目眩のせいじゃないな……」
「世界が分裂しかけているから、“別の可能性”がダブって見えているんだよ」
なるほどな。
ドッペルだけがそうなっているのは、ガイドは別世界の住人で、俺は“普遍的存在”だからってことなのだろう。
「まあ、世界が再結合されれば、ちゃんと元に戻るから大丈夫だよ」
ガイドはああ言っているが、ドッペルの様子を見ていると不安が募る。
「な「なん「だか「怖」いよ」」」
世界線のズレが大きくなってきているのだろう。
同時に聴こえていたドッペルたちの声がズレてきている。
ドッペルの不安感が、こちらにまで折り重なって伝わってくるようだ。
俺はこのまま何もしなくて本当にいいのか。
とはいえ、ここで頭をフル回転させたところで、解決の道が見つかるはずもない。
時間の設定がズレた原因が分かればいいらしいが、ガキの頃にSFをかじった程度の俺が分かるわけがないからだ。
「ああ、くそっ。服が張り付く」
しかも、この暑さだ。
寝起きは解消したが、この暑さでは頭が回らない。
「夏の昼は本当にあっちいなあ……ん?」
まさか、“そういうこと”なのか。
「おい、ガイド……つかぬことを聞くが、お前“あの可能性”を考慮していなかったりしないよな?」
「え、なんのこと?」
「……なにそれ」
マジか、こいつ……。
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