「ウエルベック」を含む日記

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2022-06-24

■過労死 ラインを超えた時に感じたこと

先日過労死ラインを超えた（残業 240時間/月）ので、日記を読み返しながら、当時感じたことを、出来事と共に書いておきます。

その前後の月も含めて書いておきます。

70時間/月の月（過労死 ライン越えの前々月）

平日は半分くらいは22時まで業務。月に2回は休日出勤していた。当時は、アドレナリンが出ているためか、疲労感というよりもむしろ高揚感があった。自分が献身しているという充実感さえあった。
納期まで残り2か月だが、納期を3か月以上オーバーする見込み。しかも業務の消化ペースより新たな仕事が増えるペースのほうが早いため、完了が遠のいていく。毎日のミーティングで上に報告しているが支援は特になし。
チームの、わたしが関わっていないし内容すら知らない失敗について、なぜかわたしが代表して他部署に謝罪させられた。何を謝罪しているのか分からないまま謝罪のメールを書かされて嫌な気分になった。他部署からは無責任だとか顧客への納期はどうするのかといった苦情が届いたので、チームのリーダーにどう回答すべきか尋ねたら嫌な顔をされた。
協力会社に休日出勤を依頼することになった。立場上はチームのサブリーダーから依頼すべきだが、サブリーダーは朝9時から夜20時まで会議室に缶詰だとのことで、私から依頼することになった。協力会社のマネージャーから「あなたから依頼されるのは適切なルートではない」「わたしたちは既に深夜まで残業している」などと苦情を言われたが、何とか承諾してもらった。私の交渉術ではなく、発注側と受注側という力関係の賜物だろう。
帰宅中、22:30ごろ、協力会社から電話で仕事の質問をされる。色々指示していると、歩くペースが遅くなったため、電車を一本逃した。それにより23:30帰宅になった。明日は07:00から出社だ。夕食を食べずに寝た。疲れた。
上司から、「あなたが協力会社の成果物のレビューをしていないから仕事が回らないんですよ！自分の仕事よりもレビューを優先してください」とみんなの前で叱責される。「22時までずっとレビューばかりしている。私自身の仕事はしていない」と答えると「スピード感を上げて対応してください」と言われる。既にスピード感 MAXなのでこれ以上は上がりません、と答えようと思ったが、上司は興奮しているようだったのでやめた。
人員が3名追加投入され、教育に手間を取られる。なお、のちに、3名のうち1名が担当した部分に初歩的な不具合が大量にあることが発覚する。

60時間/月の月（過労死 ライン越えの前月）

人と話したり顔を合わせたりするのが嫌になる。話しかけられると乱雑な物言いで応答していしまい、そのあとで、「すみません、分かりやすくもう一度説明すると…」といったことが、ある日は3度あった。
半年に一度の考課。上司から「頑張ってるけど残業が多いのでマイナス評価」と伝えられる。「残業は減らしたほうが良いですか？」と確認したところ、今のペースで残業してほしいとのこと。「それじゃあ必ずマイナス評価になりませんか」と聞くと、「今の仕事に関してはその通りだ」とのこと。仕事のスケジュールや内容は私がコントロールしているわけではないのに、厳しい
会議で決まったことを覚えていられない。記憶力の低下を感じる。なので、後日、議事録で逐一確認しながらコミュニケーションをとっていると、「それは議事録が間違っている」とか「議事録とは本当はニュアンスが違う」と言われた。さらに、チームリーダーから会議に集中するよう注意された。何のための議事録だと、通常ならば怒りを覚えそうだが、その元気がないので、「わかりました」とだけ言って流した。
立ち眩みがある。食欲がない。視力が低下した気がする。体重が落ちた。
協力会社の担当者の負担が大きいとのことで、別の方に代わった。またわたしが教育することになった。協力会社の都合での人員交代なので、本来は協力会社の中で引継ぎのための教育をしてほしいが、前の担当者の方はコミュニケーションがちょっと難しい方なので教育はできないだろう。だから私が教育を担当するのは仕方がない。
納期の達成が絶望的になる。マーケティングや営業から苦情が入る。顧客への説明資料をうちのチームで作ることになり、余計に時間を取られる。
チームリーダーから「〇〇の仕事はいつまでにできそう？」と見込みを聞かれたので正直に答えると、毎回、「えー」と嫌な顔をされる。以前は、なんとか短縮できないか検討していたが、その元気がないので無視するようになった
チームリーダーから新スケジュールが発表される。私がこれまでに上げた見込みは全く反映されていなかった。しかも明らかに実行不可能な計画になっていた（担当者別に記載したガントチャートでなぜか私のラインが2つあった）ので、そのことを指摘したが、「とりあえずやってみましょう」という結論になった。スケジュールに従うのがばかばかしい。
風呂の中でも、寝る直前にも、トイレの中でも、気が付いたら仕事のことを考えている。気が休まらない。

240時間/月の月（過労死 ライン越えの月）

25時まで勤務が当たり前になる。毎日18時、20時、22時の会議で上司やチームリーダーからダメ出しを受ける。22時のダメ出しの後は、日付が変わるまで修正して、翌朝上司やチームリーダーが確認するという流れが連日続いていた。常に追われているので物事を考える余裕がない。言われた通りに修正することしかできない。会議中、10秒前に何を言われていたかを忘れ、叱責される。
ダメ出しでは上司は抽象的なことばかり言ってくる。「もっと広い視野で考えて」とか「本当にこれでいいのかなあ？」など。具体的な指示をしない理由は、「軽々に答えを与えるとあなたのためにならないから」とのこと。そのようなことを考えるべき局面ではないと思ったのだが、「はあ、そうなんですね」と答えた。上司がむっとしていたが、その理由や適切な応答を考える元気はない。
コロナの大きな波の影響で一時在宅勤務。これまでは、「コロナ禍が猛威を振るっていますが、業務の緊急性を鑑みて、スピーディなコミュニケーションのために出社してください」と言われていた。朝8時ごろに起床して即パソコンを開き、25時まで仕事をして、寝るという生活。休日は体力を養うために9時～23時。今になって思えば9時～23時で体力を養うことはできない。
ある日毎朝のミーティング（ビデオ会議）の後で上司から「これが終わったら昇進を推薦するから頑張って」と言われたが、喜ぶ元気がない。むしろ、コミュニケーションのために時間を取られることがもったいないので、黙って推薦してくれればいいのに、そもそもわたしは既に頑張っているのだが、とイラっとした。なお、この後、昇進はできなかった。上司は「直近2年間ほどでマイナス評価がついていると推薦しても昇進しづらいから…」と言っていたが、そもそも無理な指示のせいで前期がマイナス評価になったのだし、上司はそのルールが予め分かっていたはずなので不誠実だと思った。
ベッドで横になるとき、胃から食道のあたりがヒリヒリする。息苦しさも感じる。気が付いたら運動した後の犬のようにハッハッハッと呼吸していた。
昼休みに食料品を買いに出かけるとき、マンション（9F）の廊下から下を見下ろして、「飛び降りて、目をつむったまま数秒待てば、それだけで楽になるのか…」と自殺が頭によぎったが、「それじゃ仕事が進まない」と思ってやめた。
連日37度オーバーの熱。上司は「コロナの検査はしなくて良い」とのこと。

60時間/月の月（過労死 ライン越えからしばらくの間）

当時の記憶が本当にない。当時わたしが書いた文章を見ても見覚えがない。文章は支離滅裂な言い回しが多く、言語能力が低下していたことが今ではわかるが、当時は自覚がなかった
日記の内容が事実の羅列になっている。何も感じないようにしつつ機械的に仕事をしていたのだと思う。

20 時間/月の月（平常ペースに戻ってから）

平常ペースに戻ってからも、何もやる気が起きない。仕事以外はぐったりとテレビを眺めている。上司は「残業が減ってこれでみんな元気ですね。良かった良かった」ということを言っていた。
『いやな気分よ、さようならコンパクト版: 自分で学ぶ「抑うつ」克服法』という書籍で、どうやら自分は鬱病に近い状態だとわかった。通読して、書いてある対処法を実践したが、効果はあまりなし。
同じ著者の『もういちど自分らしさに出会うための10日間自尊感情をとりもどすためのプログラム』も通読した。どうやら私は自分に厳しすぎるということが分かってきたので、認知行動療法の「ダブルスタンダード法」を試した。大いに効果があった。自分の判断基準を客観視し、補正でき始めた。
ある土日に、両方、12 時間以上寝た。これほど長時間寝る必要はないと思っていたのだが、体力が回復した。
プライベートの時間で仕事のことを考えないように、小説を読んだ。ウエルベックの『セロトニン』『地図と領土』等。『服従』は数年前に読んでおり、なんでもオイルマネーで解決という印象で低評価だったのだが、この2つはよかった。『地図と領土』は芸術論をはじめ衒学的な描写に満ちており、仕事を忘れるにはちょうど良かった。他には日本の小説やアメリカの小説も読んだが、フランス文学によくあるくどくどしい文体が、仕事を忘れるには最も適していた。
仕事を頑張りすぎても昇進しなかったし、体調を崩す。そのことを認識してからは以前よりも残業を抑えることにしているが、いまだに全身の倦怠感がある。この倦怠感は一生続くのではないかという予感がある。

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2021-12-08

■闘争領域の拡大ミシェル ウエルベック 感想

何これ、面白い！又吉と若林の「わがままな本棚」という番組で平野啓一郎氏が紹介し、ふたりが食いついた本。彼の薦め方がウマくてそそられた。非モテ男子の話って紹介、言い得て妙。主人公はとにかく人生に悲観的。だけどその分析がいやに冷静かつ的確で笑えるのです。自分もイケてないけど非モテ同僚のあがきと潰され続ける描写が、それはもう救いようがなさすぎて見事。仕事だ、休暇だと一見普通の日々に、いちいち文句をつけ、哲学的解釈をし、たまに逃避する主人公。悲劇なのに笑ってしまい、暗いのになんだか爽やか。