サバイバル部の同好会への格下げを阻止するため、縦ロールのお嬢様は生徒会本部に乗り込んだ。
生徒会室に待ち受けていたのはディーゼル排気音に聞こえた生徒会三人衆。すなわち、
「リフトの書記!」
「そして、ユニックの副会長!!」
乗り物ごと待ちかまえていた三人に、お嬢様は肩をすくめた。
「自己紹介ご苦労様ですわ。でも、きちんとフォークリフトや高所作業車と言わないと一部でしか通用しませんわ」
「おだまり!!」
「ひだまり」スヤァ
「あと、ユニックはインシュロックさんと同じく商h」
重量級の作業機械を前にしても、つとめて優雅に縦ロールのお嬢様はかぶりを振った。
「いいえ。でも、ここでは貴方たちの乗り物にそぐいませんから、
さわりがなければ、それぞれわたくしの指定した場所に来ていただきたいですわ」
「姑息な手段を弄しても、結果は変わりありませんが……いいでしょう。
あえて受けて立つことで格の違いを見せつけてさしあげます!」
書記のフォークリフトは砂場で待ちかまえる縦ロールお嬢様に突進した直後、思いっきりスタックした。
「フォークリフトの接地圧は意外と高いのですわ。
十分に転圧していない地面での走行は要注意ですわ。おーほっほっほ」
「なぜです!ちゃんと入構申請はだしてあるはずです!!」
「すまんのう。垂直に伸び縮みするタイプの高所作業車だと思っておったもんで
副会長のユニックはコンクリート敷きのピロティに進入して先生に怒られた。
黒タイヤじゃコンクリートに跡が残るでしょう。消えるまでお掃除よ!!」
副会長「ひーん」
「ブルーシートがなければ絨毯を敷けばよろしくてよ。おーほっほっほ」
「これで残すは生徒会長のみですわね」
「壮絶な戦いだった」
「貴方、ずっと生徒会室のミニクローラークレーンに目を輝かせていただけでなくって?」
生徒会長室のドアが内側から開いた。ボーイッシュで浮き名をはせた生徒会長(アフロ+螺髪)が飛び出してくる。
「その話、まぜてもらおうか!!」
「つれない!?ならば、自慢の100トンクレーンで吊ってやる。増田だけに!!!」
「お待ちなさいっ!!戦う前にひとつ言っておくことがありますわ。
わたくしたちお嬢サバイバル部の正式名称はお嬢様DIY部のような気がしていましたけど、
「私もひとつ言っておくことがある。殴り込みを掛けてきたお嬢サバイバル部員は君たちで三組目だ!
もう勘弁してくれ!!」
「ならば格下げを撤回するヨロシ(すでに部員って言っているし)」
ポニテの提案に生徒会長(アフロ+螺髪)は身震いのように首を振り、クレーンの操縦室に飛び乗った。
「いいや、仏の顔も三度目の正直だ。
まずは私がこの10トンクレーンで100トンクレーンを組み立てるのを見守っているがいいっ!!!」
うぃいいいいいいいいい……
青ランプがくるくるくる。
「そんなの待てと言われて待っているお間抜けさんはいませんわーーっ!!!」
粘性の高いスラリーも干渉しないように同調して回転するスクリュー同士の働きで搬送されるっ!!
生徒会長は錐揉みしながら美しく上衣の破片を待ち散らし、クレーンのフロントにスタイリッシュなポーズで仰向けに倒れた。
「革命をするお嬢様とはなんであるのか。それは誰も知らない。めでたし…めでたし…たし」
本編1話
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実は前回
「見事増田お嬢サバイバルを勝ち抜いたウェーブロングお嬢様には優勝賞品のサッバトルテを献呈ですわ」
優勝したお嬢様の前に事実上のサッバトルテと称するモザイクの掛かった何かが提示された。
「もちろん作ったのは負けたわたくしたちで、調理器具はそれぞれがいちばん使い慣れた道具ですわ」
絶句から復帰したウェーブロングお嬢様はようやっと口を開いた。
「ふたつほど申し上げたいことがありますわ。
ひとつ、わたくしが聞いていた賞品はザッハトルテであってサッバトルテではありませんわ。
ふたつ、ヒルティもチェーンブロックもサンダーもインパクトドライバも
断じてっ!
「ひどいですわ」
「みんなで一生懸命つくったですのに」
「ポニテさん優勝賞品をお口にしてはだめよ」
「わたくしたちの純情を踏みにじるんです?」
「味見はしていませんけど……」
「そ、そんな嘘泣きには騙されませんわ~!」
「「お待ちになって!サッバトルテを召し上がれ!!」」
サッバトルテの副作用でウェーブロングお嬢様の縦ロールはめでたく再生されたそうです。
それではごきげんよう。
次回(嘘)
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前回
彼女の一日は日頃の感謝と安全祈願を込めて愛用する道具のお手入れから始まる。
縦ロールは自律でセット。
お支度を済ませてお嬢様は軽やかに言った。
「それでは行って参ります」
決戦場となる体育館に三名のサバイバリストがつどう。彼女たちは一辺が5mの正三角形の頂点に立った。
「最後の戦いが二対一なんて酷くありませんの?」
縦ロールのお嬢様はやんわり抗議する。
ルール上、禁じられた行為ではないが、今までタイマンばかりだったのに唐突な感は否めない。
しかし、姫カットお嬢様とセミロングお嬢様にも言い分はあった。
「あなたが「ふつう」でしたら、こんな戦い方はしませんけど……」
「おわかりですね?」
縦ロールのお嬢様は物憂げにうなづいた。
「そうですわね……分かっていますわ。美しさは罪、ということですわね?」
「ぜ、ぜんぜん分かっていませんね!!」
セミロングのお嬢様は脱力した。姫カットのお嬢様には彼女よりも耐性がある。
「あと、これは最後の戦いではありませんよ。
「私のはナイr……」
最初に武器――ねじ込みクロスを使って作った十字槍だ――を構えたお嬢様に、
「なかなか安定感がありますわね」
セミロングお嬢様の持つ500mmのSGP25Aパイプは1本で1.2kgになる。
服の中はもう少し短いものも多いが、これらを14本と多数の継ぎ手を抱えた彼女は20kg以上嵩増しされていた。
彼女が戦いを急いだ背景には重くてしんどいという切実な理由もあったりする。
「力で引けないならば!」
両縦ロールが地面に打ち込まれ、チェーンブロックのレバーが引かれる。
「ぐぅ……!」
有無をいわさぬ機械のパワーにセミロングお嬢様は顔をしかめた。
「私のことを忘れすぎです!」
戦闘態勢を整えた姫カットのお嬢様が鉄鎖引きの横合いから参入する。
「忘れてなどいませんわ!」
チェーンブロックのロックがいきなり外され、踏ん張っていた鉄パイプさんは自分の力で後ろに吹っ飛ぶ。
「えいっ!」
さらに工具の本体側が迫る姫カットお嬢様の左手に投げつけられる。
さきほどまで熱心にお手入れしていたのに酷い仕打ち。
それでも物言わぬチェーンブロックは健気にお役目を果たし、姫カットお嬢様に攻撃回避の労をとらせた。
その眼前に縦ロールお嬢様は駆け寄っている。
「いただきですわ」
いつもなら接近戦は姫カットお嬢様の望むところだが、回避直後は流石に体勢が悪い。
膝を突かんばかりの彼女に、掌底が打ち下ろされる。それを跳ね上げて袖を絡めようとする動きを許さず、右のミドルキック。
ガードをしてもダメージが加算される。
「ぐぅ!」
今度は姫カットお嬢様が下から右貫手を繰り出すが、左縦ロールが一閃。
貫手を弾き飛ばして、巻き毛が背後に回り込む。
インシュロック使いの首筋に死に神に鎌を突きつけられたような寒気が走る。
予感が現実にならなかったのは、セミロングお嬢様が槍を投げて敵を後退させてくれたおかげだった。
「わずらわしいですわ」
さきほど伸ばした左縦ロールが巻き戻ると同時にチェーンブロックを姫カットお嬢様の背中に肉迫させている!
「……っ!」
鉄鎖に背中を強打され、姫カットお嬢様の息が詰まった。一対一なら勝負ありであるが、
「やああああっ!」
白い鋼管を構えたお嬢様が自分に注意を向けるため、喚声をあげて突っ込んでいく。
縦ロールお嬢様は再度フックを投げつけて、敵の接近を止めた。
唇をシミターのように吊り上げた彼女は、右の縦ロールを綱引きの相手に指向する。
彼女は咄嗟に半身の構えを強くし、敵への投影面積を最小限にした。
ゴアッッ
真横にいる姫カットお嬢様は、右縦ロールが一瞬かすみ、発生した疎密波が縦ロールの前後に広がる様を目撃した。
縦ロールの中から「何か」が高速で飛び出し、セミロングお嬢様を襲う。
「きゃあっ!?」
スカートのブリーツに仕込んだスウェージロックのシームレスパイプが甲高い音を立ててひしゃげる。
ふとももと脇腹への被弾は一発ずつが肌にまで突き刺さった。
「くあっ!」
「おほほ!コイルガンのお味はいかがかしら?おかわりたーんとありますわよ?」
説明しよう!
縦ロールお嬢様は電線を断続的に仕込んだ縦ロールを次々に急速回転させ、
発生した磁場でロールに装填したニードルを順次加速させ高速で撃ち出したのだ!!
凄いね人体。
よく知らない兵器。気持ち悪い。セミロングお嬢様が青サバより血の気の引いた顔で叫んだ。
「そこ!変な混ぜっ返しをしないでください」
アホボケとクールボケに対してツッコミは自分一人。セミロングお嬢様は二対一が別の構図に思えてきた。
漫才によって敵の注意を分散させる意図は理解していたけれども。
「やっぱり三人は姦しいですわ」
縦ロールお嬢様はもう一人への隙ができるのを承知の上で、左ロール砲をセミロングお嬢様に向けた。
まずは配管工を倒す。
姫カットお嬢様が左縦ロールに結びつけた透明なインシュロックの輪かざりを引いたのだ。
彼女は事前に縦ロールのパワーとスピードを把握している。ただで真横の通過を許しはしない!
ニードルの散弾が縦ロールお嬢様にとっての二人の敵、その間に着弾する。
「今です!」
事実上1ターンに三回以上動ける天衣無縫のお嬢様を倒すためには同時攻撃が必要だった。
サバイバルゲーム開始以来はじめて、彼女の顔から余裕が失われる。至急チェーンブロックを波打たせて波動の鞭にセミロングお嬢様を襲わせる。
――はずが、標的は脱皮を済ませていた。重量級の上着をフックに巻き付けて身軽になったお嬢様が突っ込んでくる。
右縦ロールを地面に突き刺しての回転キック。
だが、今度は姫カットお嬢様が上着を脱ぎ、縦ロールの台風に覆い被せた。
大量のインシュロックが織り込まれ、末端がお嬢様の手に握られた、それはまさに投網。縦ロールお嬢様の回転は自らを縛り付ける結果に陥ってしまう。
「うきゅ~」
目がぐるぐる状態の珍獣を狩人たちは押さえつけた。姫カットお嬢様はインシュロックを通したマウントベースをいくつもいくつも床に接着しまくる。
ひとつひとつは5kgf程度の耐過重だが、何十個もつけられては、さしもの縦ロールも動かせなくなる。
「やっておしまい!」
「すみません、縦ロールさん!!」
セミロングのお嬢様は、超硬(タングステンカーバイド)のジグソーブレードを装備したレシプロソーを取り出すと、哀れな獲物に向けた。
「およしになって!何をなさるつもり!?」
至近距離からの悲鳴を浴びたセミロングお嬢様の手が危なっかしく震える。
「うう、罪悪感が……」
「反対側は私が切ります。彼女を自由にしてあげましょう、この縦ロールから」
そう言って姫カットお嬢様は本来はコンクリート切断用のダイアモンドホイールを装着したサンダーを取り出した。
戦闘前に情報交換をした二人のお嬢様は、残る一人は動く巻き毛によって、おかしくなっていると判断していた。
同様の症状を示していたポニーテールのお嬢様が、セミロングのお嬢様に倒されてから、すっかり彼女に懐いている様子からも、そう思ったのだ。
二対一で卑怯と罵られても異常をきたした仲間を放っておくわけにはいかない。
「うぅ……」
強力を通り越して凶悪なツールにざっくりと縦ロールを切り落とされたお嬢様は喪失感と開放感を同時に覚えた。
自分が縦ロールに洗脳されていたと、彼女を引き起こした二人に洗脳される。
「わたくしは今まで縦ロールに操られていましたの!?」
縦ロールあらためウェーブロングのお嬢様は憑き物が落ちた顔でつぶやいた。
「今までなんてことを……」
思わず姫カットお嬢様とセミロングお嬢様は彼女ひしと抱きしめた。
「よかったですね」
「友情の勝利です」
「ありがとう、わたくしの最高のお友達!……ところで、決着がまだですわね?」
「「え?」」
ぴちゅーん
アフロのお嬢様と同じく、縦ロールの使用に耐えてきたウェーブロングお嬢様の肉体も強靱だった。
二人まとめての裏投げという豪快な決まり手で、増田お嬢サバイバル大会は幕を閉じた。
ちなみに縦ロールは毎朝牛乳を飲んで体操していたら動かせるようになったそうな。
「残り1名!
ありがとうございました」
前回
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次回
灰色の砕石と安全柵に囲まれたアイボリーの立方体「キュービクル式高圧受電設備」
金網の内側にもたれて待っていた姫カットのお嬢様はおもてを上げた。
「待ちくたびれましたよ。おかげでオリンピックを作ってしまいました」
「オリンピックを作る?」
姫カットのお嬢様は青・黄・黒・緑・赤、五色のインシュロックをW字型に結びつけたものを示した。
「……深遠なセンスをなされているんですね」
「お褒めにあずかり光栄至極」
おさげのお嬢様は溜息を深呼吸につなげて止め、サンダーのスイッチを入れた。
金の卵をこしだめに構えて、まっすぐ進む姿はさながら古代の丸ノコ鮫ヘリコプリオン。
渦を巻く歯に噛まれたら、ただではすまない。
機械の牙を突きつけられた姫カットお嬢様は遠慮なく金網を盾にした。
もろちん金卵で切り裂きに掛かるが、インシュロックを指に挟んだ手はそこを上から狙う。
あわただしい攻防は、おさげお嬢様が予備の金の卵を手裏剣にしたことで均衡が崩れる。
「それ、何枚もっているんですか!?」
サンダーだけにサンダーが落ちるに等しい事故が起きない算段が必要だ。
姫カットお嬢様は新手を投入する。それはインシュロックを数珠繋ぎにして作った、七夕飾りによくある奴(輪飾り)だ。
「るろっ!」
顔に迫る鞭は切断されたが、反対側の腕も別の鞭を繰り出していた。
「うにっ!?」
紙一重でかわせそうな一撃は、眼前で伸びてサンダーを持つ手にヒットする。
そいつは黒と白のインシュロックで作られた遠近を狂わすしましまの鞭だった。
痛みよりも見えるものが当たった驚きに思わず取り落としたサンダーが即座に蹴り飛ばされる。
だが、あきらめの悪いおさげのお嬢様は腰の後ろから二つのインパクトドライバを抜いた。
「何ですってっ!?」
突き出されたドリルとホールソーが、すんでのところで下から五色に跳ね上げられた!
姫カットお嬢様は相手の腕をひねり上げながら、鋭く低い足払いを繰り出した。回転体使いは地面に叩きつけられる。
「……降参です。あと、武器を奪っていいのは本当に公式のルールですからね?」
委員長っぽい娘に言われると、そんな気もしてくる。
最初からインシュロック以外を使う気のなかった姫カットお嬢様は失念していた。
彼女は、卑怯と思ったおわびに、おさげを結びなおしてあげた、インシュロックで。
そして、サンダーを蹴ったときに靴紐が切れていたので、インシュロックを代わりにした。
彼女の小指の赤いインシュロックに繋がった未来の旦那様は誰だ。
残り3人!
前回
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次回
ぶぶぶぶぶぶ
室内から巨大な羽虫が飛び回っているような音がする。
古代の巨大昆虫メガネウラが乱舞していれば、こんな感じかもしれない。
扉の前に立ち尽くしたセミロングのお嬢様はつぶやいた。
「とっても嫌な予感がします。でも……」
室内にはレシプロソー(電動ノコギリ)を両手にたずさえたポニーテールのお嬢様が無言で立っていた。
彼女の得物は短いノコギリの分数千回におよぶ高速前後振動によって、
小さな力でも硬く大きなものが楽々解体できるかなり禍々しい代物だ。
対するセミロングお嬢様の武器はお召し物の中から取りだしたるSGP鋼管25A(B1)-500L、2本!
二刀流であることは同じだが、文明度では大きく水を開けられている。
「甘く見ないで!」
これはこれで怖い。ザ鈍器といった風情だ。
「……」
このシチュエーションで彼女が一番おそれるのは鋼管の投擲攻撃だった。
鳶道具もとい飛道具は使わなかった。
「ふっ!」
鋼管の先端には螺旋の溝が切ってある。すなわち長ニップルになっていた。
そのため、六角形やトゲ突きの棍棒と同じく対象へのダメージを広げる効果が期待できた。
ちぃぎゅぃんっ!
耳を聾する音を響かせて、長ニップルが弾かれる。ポニーテールのお嬢様がはじめて口を開いた。
チャンバラがはじまった。
お互いの得物にダメージが蓄積していくが、その程度が視認できるのは
鉄パイプの側のみ。絶えず震動するノコギリはなかなか把握しづらい。
(それに……)
ポニーテールのお嬢様は替え刃を持っていると鉄パイプウーマンは確信していた。
「……!」
ぢゅいぃいいいんっ!
高々と宙を舞ったのは鉄製ちくわの方だった。
もう片方の鉄パイプを挟み込むように切って上下のつながりを完全に断ったのだ。
「鉄パイプに魂はありませんでしたわ……」
わずか2コマの出来事にがっくりとうなだれるセミロングお嬢様の胴体を震動しつづける刃が強襲する!
彼女は吹き飛ばされ地に転がった。
「!?」
それなのに高速度鋼製ノコギリが破断するのは異様である。
彼女はあわてて替え刃をベルトにつけたホルスターから引き出した。
そして――」
鉄パイプ使いは、短ニップル付きのねじ込みチーズを取り出すと、新しい鋼管のねじにシールテープを巻き、ねじ込みフランジにねじ込んだ。
二本の長ニップルをユニオンやソケットでつなげば長い棒になり、
同時にレシプロソーの刃を付け替えたポニテお嬢様は首をかしげる。
「日頃の心がけが大切ですの!!」
トンファーの軌道は大きく弧を描き、先ほどのように挟み込んで斬るのは難しい。
その上、セミ様はただの棒ならウェアラブル武器庫の中からすぐさま取り出せた。
「ここまでよ!」
ところが今度はセミロングお嬢様が驚いた。
「この髪は使いたくなかった……痛むから」
ポニーテールがまるでサソリの尾のごとく立ち上がり、鉄パイプを受け止めたのだ。
思いもしない三本目の腕の存在にあわてて配管工は距離をとる。その前にレシプロソーが袖をさくが、かえって袖下のニップルに刃を損ねる。
「しかたありません……」
マリオ兄弟の同業者は瞑目すると、トンファーを手前に放り白銀に輝く鋼管を取りだした。
「聞いて驚きなさい。この鉄パイプはSUS310S製なのよ!」
ご家庭から化学工場まで幅広く使われているステンレスの基本種。
対してSUS310Sは見た目なんかはSUS304とほとんど変わりませんけど
使いこなせませんとS35Cより弱いお高い鉄滓みたいなものですのに
どうして武器に?」
「説明ごくろうさま。同材の”やくもの”が市場にない点が残念ですの」
セミロングお嬢様は急に多弁になったポニテ星人にほほえみ返すと、
話の合間にSCS14A製ねじ込みフランジの護拳とSUS316Lニップルの柄を鋼管に取り付けた。
組み上げたオーステナイト系ステンレスのレイピアをセミロングお嬢様は構え、一礼する。
「参ります!」
その一撃は速く、そして、硬い。
通常のステンレスは炭素鋼より強靱で、旋盤加工にも特別な設定が必要とされる。
無意識にさきほどまでの加減で刃をふるったポニテお嬢様は数合で鋸歯を消耗させてしまう。
だが、まだ動くポニーテールがある。いったん時間を稼いで刃の付け替えとスピコン設定を――
セミロングお嬢様はさりげなく狙った場所においておいたトンファーを安全靴が蹴り飛ばしたのだ。
「うくっ?」
これをポニテでなんとか弾いたお嬢様だが、次の一歩ですってんころりん転倒する。
「足下がお留守でしてよ?」
摺り足によってセミロングお嬢様は敵の足下に、パイプや継ぎ手をまき散らしていた。
音で薄々把握はしていても、ここまで攻撃を畳みかけられると回避しきれない。
ポニーテールのせいもあって意識が上に偏っていたお嬢様は、まんまと敵の罠に掛かってしまったのだった。
セミロングお嬢様は勝ち誇らない。
条件次第では1000℃にも耐えるステンレス鋼にレシプロソーが吹き飛ばされ、
最後の抵抗を試みるポニーテールに向けて、棍棒が打ち下ろされる。
「っ!!?」
倒れたお嬢様は思わず目をつぶった。彼女の自慢の髪は衝撃をうけ、しおしおのパーになった。
「いったい、なんだったんですの?この髪は……あら、手触り素敵」
たぶん何か原因があるでしょう。だがその他一切のことはわかりません!
残り4人。
前回
http://anond.hatelabo.jp/20160411184413
次回
http://anond.hatelabo.jp/20160414193717
幕間
チェーンブロックはもちろんちゃんと水中に持ち込んでいた(ステンレス製のサニタリー仕様のものを使用しています)ものの、
自慢の縦ロールは水に濡れて元気がない。
「ごきげんよう。おかくれあそばせっ!」
案の定、飛び込み台からスク水のお嬢様が濡れロールのお嬢様めがけて水面に飛び込んできた。
熱水生物群集のスケーリーフットならともかく、乙女の柔肌には使ってはいけない道具である。
電動組と違って圧縮空気のエネルギーを使っているため水中でも使用が可能だ。
「あわわ……泡はあわ」
スク水お嬢様はそう思っていたのだが針周辺から漏れ出す圧縮空気の泡がすさまじく、
あっという間に視界はゼロに。
「何をなさっているのかしら……」
バレルロールでかわした濡れロールお嬢様は呆れた。
「それに、水中ならわたくしのおぐしが使えないなんて考え違いもはなはだしいですわ」
ぎゅーいぃいいいん
縦ロールはひと震えすると、ミドリムシの鞭毛のごとく回転。
巨大な推進力を生み出した。
「オホホホホホホ!!ゴガゴボボボッ!!」
高速回転する鞭毛は突然座屈を起こすことで本体の急旋回を可能にする。
しかも、縦ロールお嬢様はチェーンブロックを繰り出して敵の身体に巻き付けた!
ニードルスケーラー使いはチェーンでぐるぐる巻きにされると共に、
プールにできた巨大な渦によって無理矢理水中から引き上げられる。
再び水が戻ってくるころには彼女は完全に行動の自由を失っており、
哀れおぼれてしまうのであった。
ひとりだけ世界観の違うお嬢様はザパァとプールサイドに上がった。
それはヴィスワ川。
残り5人。
前回
http://anond.hatelabo.jp/20160410150805
次回
「縦ロールさん」
姫カットお嬢様が欄干に手をついて下々を見下ろす縦ロールお嬢様に声をかけた。
いきなり刺し貫かれないための用心である。
「貴方とここで事を構えるつもりはありませんわ。
それよりあちらをご覧になって」
姫カット様が手のひらで示される方をご覧になると、
「手の内を知っておけば、のちのち有利でしてよ?」
「……」
猛者は見えないところで周到なものだ。インシュロック使いのお嬢様も下々を見下ろした。
戦っているのはアセチレン溶断器(切断器)使いのアフロのお嬢様と、
恐ろしげな蒼炎を吹き出している。
アフロのお嬢様が圧縮酸素のバルブを操作するたびに炎が白く輝き、キュゴーと轟音を吐き出す。
彼女の威嚇は効果的だった。顔に火を向けられれば本能的に避けられずにはいられない。
実際、ツーサイドアップお嬢様は腰が引けていた。
「てやっ!」
気合いと共に、安全帯のフックがフックにふさわしい軌道でアフロに向かって飛んでいく。
「うふふ……このフックは外側を研いであるのよ」
そのまま金物を舐めそうな厄い表情でツーサイドアップお嬢様は言った。安全要素がどこにもない。
くさり鎌そのままの用法で、自爆に注意して、彼女は連続攻撃を繰り出す。
それには事前の加熱が必要であり、高速移動する状況では非現実的だった。
アフロのお嬢様は何度か試すそぶりを見せたものの時間の浪費に終わる。
だがそれは伏線だった。
「フックが切れないならスリングを切ればいいじゃない!」
いつもより一歩踏み込んだ火が化学繊維のスリングを焼き溶かす。
高熱に劣化したスリングはフックの遠心力に耐えきれず、危険な金物は接線方向に飛んでいった。
「ちっ!」
かんばせに焦りの色を浮かべて後退するお嬢様を、青い炎が追いかける。
そこに一閃、銀色の光が走り、褐色と黒のボンベから伸びる二本のホースを切断した。
「ふふふふ!わらわの安全帯は安全なダブルフック(ランヤード)でし!!」
外野のお二方は品評された。
「アフロさんの真の恐ろしさは、二つのボンベを抱えて動き回る、その膂力!」
アフロお嬢様はすかさず武器をボンベそのものに持ち替えて振りかぶった。
ごちん!
鈍い音に続いて、爆音がとどろく。
が、どぅーん!!
アセチレンは空気中分量2.5~81%の広い爆発範囲をもつ、とても危険な物質である。
酸素については言うまでもない。
アフロお嬢様の安全処置より攻撃を優先させる果敢な精神が裏目に出た。
ホースが切断されたまま戦闘を続けた二人は起こるべくして起きた事故に遭ったのだった。
「……し、獅子奮迅の爆発でしたわね」
「突っ込みませんわよ……」
爆煙たなびく中、まなびたいことのなくなった姫カットのお嬢様は
髪をなびかせて観戦席をたった。脇腹をさりげなく庇っている。
二人の戦闘中も縦ロールのお嬢様に仕掛ける機会をうかがっていたのだが、
ついに決定的な隙は見つけられなかった。
ただ一矢を報いてもいた。
止められた一房の巻き毛を見つめて一笑する。
残り6人!
前回
http://anond.hatelabo.jp/20160409213124
次回
「てやぁああっ!」
三つ編みお嬢様が掛け声と共に刈払機(草刈機)を振り回す。
間合いの内側に切り込まれるよりも早く、三つ編みお嬢様は次の攻撃を繰り出す。
くるくるとまるで踊っているように、チップソーと身体の共通重心の中心を回り続ける。
息切れによってターン制バトルのように、自分のターンが来ることを姫カットお嬢様は冷静に待っていた。
「ステビアよりも甘くてよ!」
彼女はわざと刈払機を地面に叩きつけ、石つぶてを姫カットに浴びせた(真似しないでください)
「くっ!!」
殺せと言わんばかりに動きを止めてしまった姫カットお嬢様はつぶてから目をガードしたものの、
反動で手が痺れていなければ、一撃で胴体を捉えていただろう。
(勝った!)と思った三つ編みお嬢様の顔に、血飛沫の目潰しが浴びせられる。
「なっ!」
姫カットお嬢様はインシュロックで右腕を締めあげて出血を抑えた。
「過ぎたるステビアは苦し……インシュロックメリケンサックパンチ!」
主に必殺技名絶叫の恥ずかしさに三つ編みが力を失って崩れ落ちる。
「およよ……」
※あとでちゃんと病院に行きました。
残り8人!
前回
http://anond.hatelabo.jp/20160408204006
次回
「死ぬがいいです。貴方の敗因は、その無駄に華美な縦ロール!」
おかっぱお嬢様の得物であるヒルティのコンクリートドリルが縦ロールお嬢様の高慢な顔面に突き出される。
紙一重でかわしたはずの一撃は、自慢の縦ロールを巻き込み、頸骨をへし折る……かに思われた。
「オホホホホ!」
縦ロールお嬢様のもう一方の縦ロールが雨後の竹の子の勢いで地面に突き刺さり、ドリルへの頭部の巻き込みを阻止した!
「なんですって!」
「その程度のトルクでわたくしのおぐしを巻き取ろうなんて無謀でしってよ!」
縦ロールお嬢様のチェーンブロックがおかっぱお嬢様の首に巻きつき、細身の体を鉄骨の梁に吊るしあげた。
残り10人!!
次回