はてなキーワード: チンコとは
たみたいだし。
だって百合で血の繋がった実の姉妹だよ?しかも姉が成人済の妹中学生とか、やばいでしょ。近親相姦の上に未成年淫行の全部乗せ。犯罪なんだよ?なんで島とか出来ちゃうの?なんでそんな堂々と出来るの?
私は男のうちの1人、アルコールで赤くなった顔で延々と近親相姦について捲し立ててる奴の方を極力見ないように努めた。だって視界に入れることすら耐えがたい。本当に気持ち悪いから。百合なら姉妹どっちかに感情移入すれば姉と妹どっちも楽しめるってか?あーきもいきもい。最悪の近親相姦ロリコン野郎じゃん。
やっぱりそうなんだ。百合ってこういう男たちに食い物にされてるんだ。
本当にやめて欲しい。Noaさんはさ、そのもんには興味ないわけ。こうやって楽しそうに相槌打ってるけど、本当は金髪王子と茶髪従者の話がしたいだけなの。
でも急にその会話に割って入ることも出来ず、私はビールをちびちび飲むしかない。私、何してるんだろう。隣にはNoaさんがいるのに。Noaさんと話がしたくてここまできたのに。早くこんな時間過ぎ去ってくれないかな。
そんなことを考えていると、とすっと音がしてNoaさんがこちらに寄ってきた。心臓が飛び跳ねた。さっきから感じていた香水の匂いがグンと強くなる。
「う~んNoaちゃ~ん酔った~」
「ちょっともりーぬ何急に」
どうやらクソ女がNoaさんにしなだれかかっているようだった。いやまじで何してんの。
「もりーぬほんと弱いよね」
「だって飲むの久々なんだもん」
クソ女はなおもNoaさんにベタベタ触りまくる。ちょっと流石になんかヤバいのでは?
「こんなところでもりノアにお目にかかることになるとは」
「え、ソラリよんさん、表記ってもりノアなんすか。俺ずっとノアもりだと思ってた」
「あーどっちだ?支部で多い方じゃね?アハハ」
「ちょっ、検索してもどっちもヒットしないんですけどなんでっすか」
「ガチで検索すんなって!アハハ、もしかしたら別の表記あるんじゃね?mrna的な」
男共がゲラゲラいやらしく笑い、クソ女はLさらにこれ見よがしにukaさんに抱き着く。ちょっとまじでなにこれ。
私の頭の中にはっきりと”男尊女卑”の四文字が浮かんだ。これは本当にきついわ。
女が男に消費されるためにレズビアンのフリをして、悦ばせるとか男尊女卑の極みじゃん。無理無理無理。何でこんなことになってんの。Noaさんも普通に笑ってるけど何で!?ああもう私がNoaさんを守るしかない。
「そうだ、新刊と言えばNoaさんの私早速読みました!男体化めちゃめちゃよかったですー!」
私は精一杯明るい声でそう言った。するとNoaさんが満面の笑顔で「えー、やったー!」とこちらを振り返ってくれる。
「確かに男体化は新しいよね」
気持ち悪い笑いを続けていた奴らも、すぐに話題に乗ってくれた。良かった。
「え、その心は?」
「絵柄が向いてるでしょ」
「嘘、男描いた方がいいてこと?」
「かもしんない」
「え~?」
男共とクソ女は案外真剣なトーンでNoaさんにそんなことを言い始める。なんだ、ちゃんと話分かるじゃんこいつら。っていうかNoaさんまじで男専門の絵描きになって欲しい。早くこんなところから出るべき。
「やー、でもなー、実は自分でも思ってるんですよ、男根成分多い方が合ってるかもって」
Noaさんはそんなことを言いながら、スマホを弄り始めた。「ちょっとこれさっきかいた落書きで、また後日上げようと思ってた絵なんだけど」言いながら少しの間それを探して、そして私達に画面を見せた。
金髪女王と茶髪従者が裸で抱き合ってる、いわゆるエロ絵。その身体にはちゃんと二人ともに胸があって、そこだけ見てればいつものNoaさんの百合のR18絵と変わらない。私は百合エロは苦手だけど。でも、いつもと違うのは、金髪女王の方に大きなソレが生えていることだった。
「なるほどなるほど、これは……最高のエロさ」
男二人が気持ち悪い笑みを浮かべる。今日イチのキモ顔かもしれない。
「可愛すぎる~!生え女王めっちゃ可愛い~~!!イケメン従者が突っ込まれる方なのも最高~~」
クソ女も目をギラギラさせながら繰り返しそう言っていた。そしてキモ男の最悪の近親相姦ロリコン野郎の方が言う。
「いやぁ、ふたなり、Noaさんの到達点って感じだね」
その瞬間、ストンとそれを納得できてしまった私がいた。確かにその通りだった。Noaさんは、女の子を女の子らしすぎずに描くことが出来る。男体化も違和感なく描きこなしてしまう。そしてふたなりというやつは、その二つの良いところだけを掬い取ったようなものだった。
最高だった。でも私に取っては最悪の最悪だ。ふたなりなのだ。百合に、女に男が自分たちの汚らしい欲望を投影するためだけの方法ではないか。私の脳内にさっきよりももっと大きく、はっきりとその四文字が刻まれる”男尊女卑”。
そしてNoaさんは言うのだった。
「ありがと~。描いてる間にほんとにめっちゃ楽しくて、もう私生えてる女の子専門でいこうかなってちょっと思ってるんだよね」
決定的な一言だった。もうNoaさんは完全に私と違う世界に行ってしまったのだ。もうこの人を救うことなんて出来ない。
例えどんなに絵柄にふたなりが合っていても、それを選ぶなんて許されることではない。男の支配を乗り越えずにそれに甘んじるなんて、男に屈服したも同然。
この女は自ら望んで男に搾取される道を選んで、奴隷になる生き方をよしとしているのだから。
周りはハッキリ見えているはずなのに、私の視界は真っ暗で胃の辺りがキリキリと悲鳴を上げる。お腹痛いなと意識した瞬間に痛みは急速に強くなって溜まらずに私はトイレへと駆け込んだ。
胃の中の物を全部吐き出してしまい、私はひゅうひゅうと肩で息をする。
こんな、世の中はまだこんなにも男の支配下に置かれていたんだ。素晴らしい絵師さんも結局その支配から逃れられずに、その才能を汚される。
私が個室を出て、洗面所で顔を洗っていると、Noaさんが入ってきた。
私の方を見ながら首を傾げるその仕草は、やっぱり美しい。こんなひとがどうして。
思わずそう聞いていた。もう分かっているのに、それでも確かめずにはいられなかった。Noaさんは一瞬キョトンとしたけど、何でもないように言葉を返す。
「え、一番エロく描けそうだったからかな。っていうかチンコ付けたら女の子がもっと可愛いかなって」
聞くだけ無駄だった。この人はもう駄目なんだ。新たな吐き気に襲われて、私は洗面所にさっき飲んだ水を吐いてしまう。
Noaさんはそんな私を前に暫く無言でそこに立っていた。
「え……?」
顔を上げた時、急にNoaさんが私にそう聞いた。その顔は、さっきまで私に見せていたのと全然違う、どこか人を見下したような人の悪そうな顔。
「スペース来た時も、新刊より私の顔じっと見てたしさ、まぁ私顔がいいからそういうことも多いけど、貴女の視線はちょっと熱さが違ったっていうかね。だからあのマシュマロの主でそれをわざわざ言ってきたってのに納得した。私のことめちゃくちゃ見てて、そういうアピールまでしてくんの、そういうことかって」
「な、なに、なにを言って……」
「そういう女の子、可愛いなって思うよ、私。感情が大きい子は好き。そうじゅさん、私ここから近いところに宿取ってるから、一緒に行かない?」
「いえ、あの、なにいってるんですか」
わけが分からず、頭の中がグルグルしてくる。この人は違う。Noaさんなんかじゃない。私の知っているNoaさんは。いや、私Noaさんのこと、なんにも知らない……。
「あはは。警戒しないでよ。体調悪いならさ、ここ出て休憩してから帰ればってこと。ね?」
そして今、何度目かのオーガズムを彼女の指に導かれて、卑しくベッドに横たわっている。
「Noaさん、どうして……っ」
「うーん、そうじゅほんとに可愛いなぁ。私女の子大好きだから。可愛い子なら尚更。ね、まだいけるでしょ。もっかいしよ」
何にも染まらない白い肌が私の肌に重なる。ああこのひとは、少年とも少女ともつかない、儚くて、でも意思のある指先は。
※これはフィクションです。実在の人物、団体、界隈などとは一切関係ありません。
そのひとが描く、すらりと伸びた手足が好きだった。
何にも染まらない白い肌が同じように白い肌と重なっている。草原の中に佇む、少年とも少女ともつかないその姿は確かに静止画としてそこから動かない筈なのに、きっと誰にも捕まえられない。吹き抜ける風のように自由で追いかけても追いかけてもすり抜けていくだろうから。
「尊い」
そんな私の口から零れたのは、たったそれだけ。ツイッターで回ってきた、その美しすぎるイラストについて、私はそれ以上語る言葉を持たなかった。
いや、持てなかった、と言うべきだろう。私のような語彙力のない人間がありふれた陳腐な言葉で褒めちぎっても何にもならない。
だからただ「尊い」とそれだけ言っていればいいのだ、そうだそうだ、それが正解だ。
残念なのは、一回しかふぁぼが出来ないこと。見た瞬間に無意識に1回ふぁぼって、見入って息をするのを忘れて、それからやっと呼吸を再開した時に手癖でもう一度ハートマークを押したら、ふぁぼが解除されてしまった。正直あと億万回押したい。ツイッターの仕様変えられないの?
これだからツイッターはなんて思いながら、絵についてるツイートに目をやった。
なるほど、確かに見たことないキャラだと思ったけど、やっぱりオリジナルだったんだ。そして”久しぶり”という言葉から察するに、普段は二次創作をやっている人のようだ。
ツイ主のアイコンは、知らない2頭身の金髪の女の子キャラのイラストだ。アカウント名は@noanoa_hc、スクリーンネームはNoa。
初めて見る人だ。世の中にはまだまだ私の知らない素晴らしい絵師さんがいるんだなぁと思いながらその人のプロフィールページに飛んだ。
固定ツイートを見てぎょっとした。
女の子と女の子がキスをしているイラストだった。一人はアイコンにもなっている金髪ロングの女の子、もう一人の子は茶髪のポニーテールだ。
オリジナルの中世的で絵画的でもあった雰囲気とは全く印象が違う。女の子らしさを凝縮したふわふわキラキラした世界。可愛らしい色合い。
でも確かに絵柄は同じだった。すらりとした手足のタッチは同じ。間違いなくどちらもNoaさんが描いたものだということは分かる。
そうかそうか。なんだ、その、普段は百合?をやってる人、なんだ。え、それってどういうこと?
っていうか百合って男向けのだよね?そういえば時々BLとか少女漫画の作家さんが百合描いてるの見かけるけど、正直仕事として依頼されたからだよね。好き好んで男のために消費されるようなものを作る女なんていないでしょ。
だったら何?このひとは一体何なの?bio見る限り商業作家さんではなさそう。お仕事用別アカウントもないみたいだし。趣味で百合をやってる女のひと、ってこと?
ああ、そうだ、きっとそうだ。それを収入源にして本当にやりたいオリジナルやってるひとなんだ。なんかそれってすごい。女を消費したがる男を食い物にして自分の好きなことの肥やしにしてるってことだよね。格好いいな。
私は男子の絡みを主食にしているし、可愛い受けより美人で男前な受けが好きだから、こういういかにも”かわいい”を強調したイラストを見ていると少し居心地が悪い。だけどやっぱり絵柄自体は好みだから、不思議とずっと見ていられた。もうフォローするしかなかった。
Noaさんのツイート頻度はそんなに高くなかった。2~3日に一回つぶやけばいい方。おはようとか疲れたとかの一言だけだったり、突然おいしそうな飯画を上げたり、内容はまぁ普通だ。口調は結構乱暴な感じだけど、名前からしても多分女のひとだろう。あんなに繊細で美しくて尊いイラストを描ける人が男であるはずがないと思う。
そんな普通なツイートに混じって、週に1回平日(後にそれが毎週水曜日であることに気付く)に何かのアニメの実況をしているらしいことも分かった。
最初は何のアニメなのかよく分からなかったけど、ツイートがやけに熱いなと思っていたら、その日のうちにワンドロを上げたりすることも多くて、例の固定ツイートにしている女の子達が出てくるアニメのようだった。
イラストはワンドロにも関わらず、毎回クオリティが高くて、知らないアニメだけどNoaさんのは別だ。即座にハートマークを押して、でも少し考えてそれを取り消した。
内容が内容だから、自分のフォロワーさんにこんなのが回ったら絶対迷惑になる。みんな百合の耐性ないもんね。
だから私はNoaさんを追うためだけのアカウントを作り、改めてフォローし直した。ふぁぼ欄がNoaさんのイラストやツイートで埋まっていくのが嬉しかった。
Noaさんは週末には時々オリジナル絵も上げてくれた。キャラは私が初めて見た時のものと同じだったりそうじゃなかったり。とにかくもうNoaさんの絵が全部好きだった。
というかNoaさんのことを好きになっていた。低めのテンションから自ジャンルの話題に食いつくときのギャップが最高だし、普段の砕けた乱暴な口調も格好良い。何か自カプについて考察みたいなことをツイートして界隈からのふぁぼリツをかっさらっていったかと思えば、オリジナルの儚げなイラストで私達を殺しにくる。
ツイート頻度が高くないことは重々承知の上で、それでも今日は呟いているかどうかと、毎日のようにアカウントを見にいった。
そうしていると段々話しているジャンルの内容が気になってきた。気になりすぎて動画サイトで探して、アニメを前クールから全部追った。
正直そこまで私には刺さらないアニメで、男同士でやればいいのにと何回も思ったけど、ツイートの中身がスラスラ分かるようになったのは本当に良かった。
TLを読解出来るようになると、それまで見えていなかった色々なものが見えてくる。
ジャンルの界隈の人でいつもNoaさんの考察に空リプしてる人、それに丁寧に対応するNoaさん。時には長めの議論に発展することもあるけど、いつもNoaさんが綺麗に論破してしまう。
そして、Noaさんをしきりにご飯に誘ってくるのはいつも同じアイコンだった。休日の度に何度も何度も図々しい。でもNoaさんは優しいからその誘いに乗ってあげていた。
TLに流れてくる二人分のスイーツ画に吐き気がした。Noaさんはお前のSNS映えのための道具じゃないんだぞ。
無事に現行クールの話数に追いついた私は、水曜日にはリアルタイム視聴もするようになった。Noaさんの実況を見ながら見るアニメは格別だ。離れているのに、お互い顔も本名も知らない関係なのに、一緒の時を過ごしている感じがする。
そして、見ているうちに私はある思いが日に日に強くなっているのに気が付いた。
Noaさんの自カプ、BLじゃない?と。
女王様系の金髪ロングと、従者的な幼馴染の茶髪ポニーテール。BLじゃ王道中の王道の関係性じゃない?断然金髪が受け。大人っぽいのに可愛いところもあって女王様な美人受け、最高じゃん。茶髪の方は幼馴染だからってこともあって、金髪の傍若無人な振る舞いを上手いこと扱っていて、なんかちょっと熟年夫婦感があるんだよね。もしこの二人が男の子だったら私の好みどストライクだ。本当になんで男同士じゃないんだろう。もったいなさ過ぎる。
いよいよ私は我慢が出来なくなって、その思いをNoaさんのマシュマロにしたためた。Noaさんが私の考えをどう思うのかが知りたくなった。
メッセージを送った瞬間は正直冷や汗が出た。これまでイラスト好きですとか応援してますとかそんなことしか送ったことはなくて、CPについて聞くなんて初めてだったから。
百合のことなんか全然分からないけど、やっぱり男体化って話題はよくなかっただろうか。でもでもNoaさんの普段の発言じゃ、金髪と茶髪に付いて嫁とか夫だとかいう言葉だってよく出てくるし、彼氏面とかも頻繁に言ってるし。それにオリジナルの時はどちらかというと少女より少年っぽさの方が強調されたりもする。”男キャラ”についてそこまで拒否感はないはず。いやでも。そんな考えが頭の中をグルグル巡って、やっぱり送らなければよかったとさえ思った時、それは起こった。
『男体化!その手があったかー!ありがとうございます!!』
TLに現れたその文字列を見た瞬間、私の体温は5度くらい上がったんじゃないかと思う。
その後Noaさんは続けざまに男体化について3ツイートくらいのツリーを形成して思いの丈を語った。もちろんマシュマロのお返事含め、それらは全部スクショした。
Noaさんが、あのNoaさんが、私の意見を拾って、それに賛同、私と同じように萌えてくれたのだ。
自分の性癖にとことん刺さるBLを読んだ時くらい嬉しかった。嬉しすぎて文字通り部屋の床をゴロゴロ転がり回ってしまった。
数時間後に男体化イラストが上げられた時には確実に一度心臓が止まったと思う。
これだと思った。二人の少年はばっちりNoaさんの絵柄にハマっていた。そうなのだ、これが金髪女王改め王子と茶髪従者の真の姿だ。彼らはその女性性を捨てることで、真に美しい姿に、概念にまで昇華したのだ。
その後もNoaさんは度々男体化イラストをUPしてくれた。それに触発されて界隈の他の絵師が同じように描き始めたけどやっぱり全然だめ。Noaさんじゃないと、”少年”のリアルな質感は描けない。絶対に。やっぱりNoaさんは男同士を描くために生まれてきたんだと思う。これまでの百合をやってきたのは金髪王子と茶髪従者に出会うための布石だったんだ。私はそう確信してさえいた。
自ジャンルのオンリーイベントのサークル参加募集が始まったのはちょうどそんな頃だった。Noaさんがサークルカットと共に『新刊男体化漫画やります』とツイートした時は、見間違いじゃないか5度見くらいした。
大好きなNoaさんが、他でもない私が布教した大好きな男体化カプで新刊を出すのだ。信じられない思いだった。というかこんなにいいことばかり続いていいのか?とさえ思った。
そして、一番重要なことはイベントに行けばNoaさんに会うことが出来るということだった。一体どんな人なんだろう。いや素敵な人に違いないとはもちろん思っているけど。これまで飯画や上げられる写真には本人は全く映り込んでいなくて、顔もそうだが服装や雰囲気なども一切分からなかった。でも、会えるのだ。せっかくの機会、Noaさんと自カプについて話がしたい。
そのためにも私はもう一度アニメを隈なく見返した。金髪王子と茶髪従者についてやれるだけ考察を重ね、解像度を上げることに専念した。
いよいよイベント当日。
一般入場が開始された瞬間に私はまっすぐNoaさんのスペースを目指した。15分前にTLをチェックした限りでは設営完了とのこと。新刊表紙の茶髪従者にお姫様抱っこされている金髪王子を目印に人の波をかき分けて進んだ。
パンフレットとスペース番号を何度も見比べながら場所を確かめる。ああ、私Noaさんに会うんだ。そう思うと心臓はがなり立て、喉はカラカラに乾いてくる。歩みを進めながらも深呼吸してごくんと唾を飲み込んだ。
スペースには大きな列こそ出来ていなかったものの、既に5~6人並んでいた。開始直後にってすごくない?やっぱりNoaさんって人気作家なんだ。
声の主の方を視線で辿って息を飲んだ。めちゃくちゃ美しいひとがそこにいたからだ。可愛い、ではなく、キレイなどでは足りず最早「美しい」という言葉しか適さない顔の造形だ。
身長は170cm近くあるだろうか、きれいめのジャケットをクロップドデニムでカジュアルダウンしている姿が様になりすぎている。
耳が見えるくらいの明るい色のショートカットの髪が、さらさらと額の上で揺れていた。
一見して男か女か分からなかった。どっちと言われても信じることが出来そうだ。確かなのはその人が美しいということ。
そしてそのひとの胸元に名札がついているのに気が付いた。
”Noaだょ”
崩した文字だけど、確かにそう書かれている。Noaさんだ。Noaさんなのだ、この人が。この美しいひとが。
聞こえてくる「ありがとうございました」の声は見た目の印象よりも少し高め。それに何より名札から下をよくよく見ていると、柔らかそうな身体つきが見て取れた。Noaさんは女のひとだ。メンズライクだけど確かに女のひと。男装カフェとかにいても不思議じゃないタイプの。私だってあんな風に顔が良かったら男装コスだってしてみたいと思ったことが1度や2度くらいある。もちろん鏡を見てすぐに諦めたけど。
Noaさんは私の理想のひとだった。あんな風になりたかったと思えるひとだった。最高のイラストが描けて、TLでも人気者でその上顔やスタイルまで美しくて格好いいなんて。すべてが私の理想通りだ。こんな素敵なことがあってもいいのだろうか、本当に。
私はの緊張はいよいよピークに達し、息が上手く出来なくなってきた。
無情にもNoaさんの客さばきは高速で一気に私の番になってしまう。
「あ、あの、しんかん1部、くださひっ……」
噛んでしまった。
やばい恥ずかしい。一気に顔に血が上ってくるのが分かる。今すぐにでも逃げ去りたい。そんな私を気にも留めずにNoaさんは新刊1冊ですね、と私の震える手から500円玉を受け取った。
何をしているのだ。こんなことで怯んでどうするのだ。何のためにここへ来たのか、何のために夜通しアニメを見返したのかも分からなくなってしまう。
私はNoaさんのから新刊を受け取ると、「あの」と切り出した。
「あの、実は私、Noaさんに最初にマシュマロで男体化よくないですか?って言った者なんです……!」
よかった。今度は噛まずにちゃんと言えた。少しだけほっとする。
「そうなんですか!?えー、ありがとうございますー」
Noaさんは目を見開いて驚いて、すぐさまぱぁっと明るい笑顔を浮かべる。
「うわー、じゃあこの新刊出せたのもあなたのおかげじゃないですかー。えー」
「いえいえそんな全然です!あの、やっぱ二人の関係はちょっと少年的というか、男体化すると無垢な感じがめちゃくちゃ出るというか、それがNoaさんの絵柄に合うんじゃないかってずっと思ってて」
やばいなと思いながらも一気に捲し立ててしまった。やばいな、Noaさん引いてるかな。ちらりと顔を見ると、Noaさんは先程から変わらずニコニコとした笑顔のままだった。
「いやぁ嬉しいなー。マシュマロもらった時私もその手があったかー!って思って興奮しちゃって。ほんと”少年”って儚げな感じがこの二人っぽくもあっていいですよね」
なんてことだろう。私が思い描いたような展開が繰り広げられている。本当に夢かもしれない。それなら覚めて欲しくないけど。
そう思っていると、隣のスペースの人がNoaさんに声を掛けた。
「るかちゃーん、今ソラリよんさんからラインきて、今日の打ち上げ来れるかって言ってっけど、参加でいいよねー?」
「ん?ああだいじょぶー」
「りょ~!」
背中まである長い髪を綺麗に巻いたその女は、Noaさんの返答を聞くが早いかキラキラしたネイルの指先ですぐさま返事を打ち始めた。
なんだこの女。やけにNoaさんに馴れ馴れしくないか?あのNoaさんだぞ?分かってる?
隣のスペース誰だったかな、ほとんどNoaさんしか見てなかったからよく覚えてない。でもお品書きポスターの新刊表紙に見覚えがあった。
こいつ、毎週末NoaさんをSNS映えの餌食ににしているクソ女じゃないか。いつもこんな風に馴れ馴れしくNoaさんに絡んでるんだ。最悪。胸の中にモヤモヤした感情がくすぶり始める。
でも同時にそれが正しくない感情であることも私には分かっていた。だって私はオフラインのNoaさんのこと、ほとんど何も知らないのだ。隣のクソ女の方がずっとずっとNoaさんを分かってる。他にも打ち上げの連絡をしてきたソラリよんか誰か知らないけどそういうやつとか、打ち上げに来る他のメンバーなんかの方がよっぽどNoaさんを知っているはずなのだ。
それでも、それだけで私がこの人たちに負けていると思いたくなかった。私はそんなみんなから慕われている神絵師同人作家Noaさんに布教してそれをNoaさんも気に入って新刊まで出したのだ。それをさせたのは、間違いなくこの私。
気が付いたらNoaさんが再び私の方を見ていた。
「え!?」
いきなりのことにひっくり返ったような声が出てしまった。
「あ、お時間あればいいんですけど」
Noaさんは白い歯を見せながらニカッと笑った。笑顔があまりにも眩しすぎる。Noaさんはクソ女の方を振り返る。
「ねー、もりーぬさん、打ち上げもう一人追加でいいー?えーっと」
そしてもう一度私の方を振り返って聞いた。
「あ、双樹、です」
「りょーかいです。もりーぬさーん、”そうじゅ”さん、追加で。そ、1人。あ、そうじゅさん終わったら連絡するんでライン教えてもらえません?」
それが私がNoaさんと”繋がった”瞬間だった。
Noaさんのスペースを後にして、会場をぼんやり歩く。正直百合がメインのジャンルだから男体化で本まで出しているサークルは少なかった。打ち上げの時にNoaさんと話すネタになるだろうと買い込みたかったが、Noaさんに触発されて突発で出したコピー本みたいなのが数冊だけしかなかった。それでも収穫は収穫だ。
どこかでご飯食べて戦利品に目を通して、打ち上げの連絡を待つとしよう。
Noaさんのスペースは会場のだいぶ奥だったから入口まで地味に距離がある。それにまだ一般入場が始まって30分も経っていないわけで、色んな列が進路を阻み、色んなスペースに向かう人が色んな方向を目指して進むに進めなくなって新たな混雑を生んでいる。ぼーっとしていたら人の波に攫われてしまいそうだ。
そういえば今までBLのオンリーやオールジャンルには参加したことがあったけど、百合がメインなのは初めてだ。どこもかしこも女の子のイラストのポスターやらなんやらが目につく。そしてそんな会場にいるひとの8割くらいは男性なのだった。確かに女性はいるし、サークルで参加している人には女性が多いようには思うけど、客はみんな男性だ。こういう男女比のところに初めて来たから余計にそう思うのかもしれないけど。やっぱり百合は男性向けなんだ。男女ものの男性向けほど直球のエロじゃないにしても、キレイな理想の女の子と女の子の世界ってやっぱり男の考えた理想郷で、男のための消費物に他ならない。
よかった、Noaさんが男体化をやるようになって。あの美しいひとが、例え売れるからってこれ以上男のための消費物を作り続けるなんてもったいなさ過ぎる。、
そういえばさっきNoaさんのスペースに来てたのもほとんど男の人だった。男体化でもちゃんと買ってくれるってことはやっぱりNoaさんの画力と漫画の上手さだよね。
いや、待てよ。もしかしてNoaさんガチ恋勢なんじゃないの?だってあれだけ美しいひとなんだし、それもない話ではない。だって元々百合が好きなのに男体化の本を買うなんてありえない。絶対あいつら内容なんて見てないんだ。ああやっぱり男って最悪。Noaさんもこのまま男体化続けて、早くBLにきたらいいのに。
人込みの中、男がこっちにぶつかってくる度に聞こえるように舌打ちしてやりながら、私は何とか会場を出た。
連絡を受けて、打ち上げ会場となる居酒屋に集合より少し早い時間に到着した。既に店の前でNoaさんとクソ女、それからいかにもな感じの男オタクが2人いた。Noaさんはすぐに私に気付いてくれて、私をそこにいた人達に紹介してくれた。一通り自己紹介が終わるとクソ女が男達に身内的な話題を振って私以外の4人で話し出した。何これ居辛ら過ぎる。私が死んだ魚のような顔になってもクソ女と男共は全く気付いていないようだった。最悪。
するとNoaさんが、急にこちらを向いた。私は慌てて生き返った顔に戻る。ヤバイ、見られたかな。Noaさんはこちらを見てにっこり笑うと、クソ女と男共に「そろそろ時間だし先はいっとこ」と言った。流石Noaさん。きっと私を気遣ってこう言ってくれたんだ。まだ来ていない人が2~3人いるらしかったが、その人達にはクソ女が連絡することになり、私達は店の中に入った。
ビールで乾杯した後、早速みんなアニメや今日のイベントの話をしたり、戦利品について語り始めたりする。
席順は奥からクソ女、Noaさん、私。そして向かい側に男が二人。男のうち1人は赤髪と紫髪の姉妹が自カプらしくてその話をNoaさんに振ってくる。
「82話のお姉ちゃんの妹への眼差しがやっぱりすべてを表してるんすよ」
「あれはね。流石に言い逃れ出来ない」
「っていうかソラリよんさんの新刊が、全部やってくれたからなー」
「空白の8時間!!」
「いやまじで空白の8時間ってなにっていう」
そんな会話が次々と展開されていく。なにこれ。っていうか赤髪と紫髪のカップリングって何で人気あるのか不思議なんだけど何で?今日のイベントでも島が出来て
「やめて」「いやだ」「不快」って言葉は俺のチンコを盛らせてしまうから仕方ない。
そのせいで人間関係を失ったけど、ネットという場で無限に不特定多数へ嫌がらせできるから問題ない。
俺の言葉や行動で最低一人は嫌な気持ちになると思うと楽しくて仕方ない。
最悪トラウマを植え付けられるならチンコがズボン突き破ってしまいそうなぐらいに気持ちよくて仕方ない。
「好き」が許される世の中なら、俺が許されてもおかしくない。