はてなキーワード: 幽霊とは
夏の話ですが、活動を休止していた推しの復帰ライブがありました。まだ感情がぐちゃぐちゃです。なんでこんな気持ちになっているかというと、推しがそのライブの告知を一切せず、突発的に行ったからです。ぐちゃぐちゃな理由はもっとたくさんあるんですが、特定を避けるためここでは明言しません。とにかく推しがものすごくたくさんの人に迷惑をかけて、たくさんの人に本気で怒りを向けられているということは確かです。ほんとうに、心から悔しいです。推しが推しに殺されました。
私は休日には好きなアイドルのライブに通ういわゆるアイドルオタクです。
私が学生時代から推していたアイドル、Hくん(仮名)はある時から活動を休止していました。
アイドルオタクと書きましたが私が好きになったアイドルは後にも先にもHくんだけです。人に連れられて行ったライブで好きになって、それからどっぷりハマってしまいました。休止になった時はこれからどうやって生きていけばいいのかわからないと思いましたが、案外生きていくことができました。Hくんは何となく戻ってくる気がしていたからです。Hくんを信頼していました。
Hくんは戻ってきましたが、いつのまにかユニットに所属していました。ここ数年のユニット制度の台頭は凄まじく私と同じく推しのユニット所属によって複雑な気持ちになったオタクは少なくないと思います。私だってちょっと路線が変わったくらいなら我慢できます。でもHくんが入ったユニットはかなり過激な売り方をしていて、デビューと同時にすぐに話題になりましたがそれは度重なる炎上が原因でした。
私がHくんを好きだった理由の一つに、アイドルとして信頼できる、ということがあります。他のアイドルオタクたちが「推しがこんな風に迂闊だ!」と嘆いている時、私は「でもHくんはちゃんとしてるから」と余裕綽々でした。Hくんは文春砲を喰らったことも炎上したこともなかった(してもファンが勝手に燃えたとかでした)し、なんというか「アイドル」というものをちゃんと理解している子でした。これは思い込みかもしれませんが、私と同じオタク気質だったんだと思います。だからHくんはオタクの心を守ってくれました。
そんなHくんがたった一年ぽっちの休止を経て別人のように変わってしまったことが、自分で思っていた以上にショックでした。炎上してるっていうのは色んな人に怒られているってことです。Hくんのいるユニットが嫌い!と大声で言ってる人がたくさんいました。炎上は炎上でも、他のアイドルを傷つけるタイプの炎上だったのも大きいと思います。私の推しが人に嫌われていくのを見ました。みんなに愛されるのがアイドルだと思ってたし、Hくんもそう思っているんだと思っていました。アイドルが何か別の目的のための手段に使われていることがわかりました。アイドルのHくんはどこにもいなくなっていました。(正直本当に違う人になっているんじゃないかと疑っています。別人に見えるのは私だけなのか……)
私はHくんのファンを辞めました。Hくんにあの頃に戻って欲しいわけではないです。本音を言うと戻って欲しいけど、今更絶対に無理だと分かるので、ただ私が降りるだけです。疲れました。
分かる人には誰の話かわかってしまったかと思うんですが、私はHくんを責める気も、Hくんのユニットに怒る気も、Hくんのファンを批判する気もないです。もしかしたら私と同じようにHくんが死んじゃったように感じている人がいるかもしれない、と思ってこの文を書いています。恨んでないけどただ悲しいです。
何より悲しいのが、Hくんが死んでしまったのを見てHくんのことがどんなふうに好きだったのか思い出せなくなってきたことです。あのライブで私の好きだったHくんと一緒にHくんのことが好きだった私も殺されたんだと思います。死にたくなかったです。
少しずつCDやグッズの整理をしていますが、本当に遺品整理の気持ちです。おんなじCDが何枚も何枚も出てきて、何回も握手会の列に並んだことを思い出して泣きました。Hくんに会いたいです。
ここまで読んでくれた人に一つお願いがあるとしたら、今後Hくんの現場で複雑な表情をしているオタクがいてもどうか見ないふりをしてあげてほしい、ということです。その人も多分私と同じ殺された人です。幽霊です。
繰り返しになりますが、一アイドルオタクの個人的な意見・感情であり、アイドル自身やそのファンを批判する意図は一切ありません。
※追記です
この文はフィクションであり、Hくんは実在しません。私も実在しません。Hくんのユニットに傷つけられたオタクがいることは本当です。読んで頂きありがとうございました。
百合ジャンルは成り立ちからして女性向けジャンルであると同時に女性向けジャンルであることを装った男性向けジャンルでもあって、だから所謂男性百合オタみたいなのを幽霊であるかのように扱ってきたわけ。
それが『ゆるゆり』のアニメ化辺りから後者の存在が可視化されるようになって、それに伴ってあらゆる女性間の関係性を百合と呼んできたジャンルの那珂でガチレズだのガチ百合だと言う言葉を使ったりしてあれは百合だこれは百合じゃないみたいな感じで百合ジャンルを細分化しようとする動きも活発化したんだよね。
その辺から百合オタの尖鋭化が始まったというか殊更男をdisったり貶したりして笑いのネタにする連中が増えた感じ。百合に挟まる男は許されないみたいなネタが広まったのもその辺からじゃないかな。
四時から今朝けさも やって来た。
つめたい水の 声ばかり。
凍こごえた砂利じゃりに 湯ゆげを吐はき、
火花を闇やみに まきながら、
蛇紋岩サアペンテインの 崖がけに来て、
やっと東が 燃もえだした。
鳥がなきだし 木は光り、
青々川は ながれたが、
丘おかもはざまも いちめんに、
まぶしい霜しもを 載のせていた。
やっぱりかけると あったかだ、
僕ぼくはほうほう 汗あせが出る。
もう七、八里り はせたいな、
今日も一日 霜ぐもり。
軽便鉄道けいべんてつどうの東からの一番列車れっしゃが少しあわてたように、こう歌いながらやって来てとまりました。機関車きかんしゃの下からは、力のない湯ゆげが逃にげ出して行き、ほそ長いおかしな形の煙突えんとつからは青いけむりが、ほんの少うし立ちました。
そこで軽便鉄道づきの電信柱でんしんばしらどもは、やっと安心あんしんしたように、ぶんぶんとうなり、シグナルの柱はかたんと白い腕木うできを上げました。このまっすぐなシグナルの柱は、シグナレスでした。
シグナレスはほっと小さなため息いきをついて空を見上げました。空にはうすい雲が縞しまになっていっぱいに充みち、それはつめたい白光しろびかりを凍こおった地面じめんに降ふらせながら、しずかに東に流ながれていたのです。
シグナレスはじっとその雲の行ゆく方えをながめました。それからやさしい腕木を思い切りそっちの方へ延のばしながら、ほんのかすかに、ひとりごとを言いいました。
「今朝けさは伯母おばさんたちもきっとこっちの方を見ていらっしゃるわ」
シグナレスはいつまでもいつまでも、そっちに気をとられておりました。
「カタン」
うしろの方のしずかな空で、いきなり音がしましたのでシグナレスは急いそいでそっちをふり向むきました。ずうっと積つまれた黒い枕木まくらぎの向こうに、あの立派りっぱな本線ほんせんのシグナル柱ばしらが、今はるかの南から、かがやく白けむりをあげてやって来る列車れっしゃを迎むかえるために、その上の硬かたい腕うでを下げたところでした。
「お早う今朝は暖あたたかですね」本線のシグナル柱は、キチンと兵隊へいたいのように立ちながら、いやにまじめくさってあいさつしました。
「お早うございます」シグナレスはふし目になって、声を落おとして答こたえました。
「若わかさま、いけません。これからはあんなものにやたらに声を、おかけなさらないようにねがいます」本線のシグナルに夜電気を送おくる太ふとい電信柱でんしんばしらがさももったいぶって申もうしました。
本線のシグナルはきまり悪わるそうに、もじもじしてだまってしまいました。気の弱いシグナレスはまるでもう消きえてしまうか飛とんでしまうかしたいと思いました。けれどもどうにもしかたがありませんでしたから、やっぱりじっと立っていたのです。
雲の縞しまは薄うすい琥珀こはくの板いたのようにうるみ、かすかなかすかな日光が降ふって来ましたので、本線シグナルつきの電信柱はうれしがって、向こうの野原のはらを行く小さな荷馬車にばしゃを見ながら低ひくい調子ちょうしはずれの歌をやりました。
「ゴゴン、ゴーゴー、
酒さけが降ふりだす、
酒の中から
霜しもがながれる。
ゴゴン、ゴーゴー、
ゴゴン、ゴーゴー、
霜がとければ、
つちはまっくろ。
馬はふんごみ、
人もぺちゃぺちゃ。
ゴゴン、ゴーゴー」
それからもっともっとつづけざまに、わけのわからないことを歌いました。
その間に本線ほんせんのシグナル柱ばしらが、そっと西風にたのんでこう言いいました。
「どうか気にかけないでください。こいつはもうまるで野蛮やばんなんです。礼式れいしきも何も知らないのです。実際じっさい私はいつでも困こまってるんですよ」
軽便鉄道けいべんてつどうのシグナレスは、まるでどぎまぎしてうつむきながら低ひくく、
「あら、そんなことございませんわ」と言いいましたがなにぶん風下かざしもでしたから本線ほんせんのシグナルまで聞こえませんでした。
「許ゆるしてくださるんですか。本当を言ったら、僕ぼくなんかあなたに怒おこられたら生きているかいもないんですからね」
「あらあら、そんなこと」軽便鉄道の木でつくったシグナレスは、まるで困こまったというように肩かたをすぼめましたが、実じつはその少しうつむいた顔は、うれしさにぽっと白光しろびかりを出していました。
「シグナレスさん、どうかまじめで聞いてください。僕あなたのためなら、次つぎの十時の汽車が来る時腕うでを下げないで、じっとがんばり通してでも見せますよ」わずかばかりヒュウヒュウ言いっていた風が、この時ぴたりとやみました。
「あら、そんな事こといけませんわ」
「もちろんいけないですよ。汽車が来る時、腕を下げないでがんばるなんて、そんなことあなたのためにも僕のためにもならないから僕はやりはしませんよ。けれどもそんなことでもしようと言いうんです。僕あなたくらい大事だいじなものは世界中せかいじゅうないんです。どうか僕を愛あいしてください」
シグナレスは、じっと下の方を見て黙だまって立っていました。本線シグナルつきのせいの低ひくい電信柱でんしんばしらは、まだでたらめの歌をやっています。
「ゴゴンゴーゴー、
やまのいわやで、
熊くまが火をたき、
あまりけむくて、
ほらを逃にげ出す。ゴゴンゴー、
田螺にしはのろのろ。
うう、田螺はのろのろ。
本線ほんせんのシグナルはせっかちでしたから、シグナレスの返事へんじのないのに、まるであわててしまいました。
「シグナレスさん、あなたはお返事をしてくださらないんですか。ああ僕ぼくはもうまるでくらやみだ。目の前がまるでまっ黒な淵ふちのようだ。ああ雷かみなりが落おちて来て、一ぺんに僕のからだをくだけ。足もとから噴火ふんかが起おこって、僕を空の遠くにほうりなげろ。もうなにもかもみんなおしまいだ。雷が落ちて来て一ぺんに僕のからだを砕くだけ。足もと……」
「いや若様わかさま、雷が参まいりました節せつは手前てまえ一身いっしんにおんわざわいをちょうだいいたします。どうかご安心あんしんをねがいとう存ぞんじます」
シグナルつきの電信柱でんしんばしらが、いつかでたらめの歌をやめて、頭の上のはりがねの槍やりをぴんと立てながら眼めをパチパチさせていました。
「えい。お前なんか何を言いうんだ。僕ぼくはそれどこじゃないんだ」
「それはまたどうしたことでござりまする。ちょっとやつがれまでお申もうし聞きけになりとう存ぞんじます」
「いいよ、お前はだまっておいで」
シグナルは高く叫さけびました。しかしシグナルも、もうだまってしまいました。雲がだんだん薄うすくなって柔やわらかな陽ひが射さして参まいりました。
五日の月が、西の山脈さんみゃくの上の黒い横雲よこぐもから、もう一ぺん顔を出して、山に沈しずむ前のほんのしばらくを、鈍にぶい鉛なまりのような光で、そこらをいっぱいにしました。冬がれの木や、つみ重かさねられた黒い枕木まくらぎはもちろんのこと、電信柱でんしんばしらまでみんな眠ねむってしまいました。遠くの遠くの風の音か水の音がごうと鳴るだけです。
「ああ、僕ぼくはもう生きてるかいもないんだ。汽車が来るたびに腕うでを下げたり、青い眼鏡めがねをかけたりいったいなんのためにこんなことをするんだ。もうなんにもおもしろくない。ああ死しのう。けれどもどうして死ぬ。やっぱり雷かみなりか噴火ふんかだ」
本線ほんせんのシグナルは、今夜も眠ねむられませんでした。非常ひじょうなはんもんでした。けれどもそれはシグナルばかりではありません。枕木の向こうに青白くしょんぼり立って、赤い火をかかげている軽便鉄道けいべんてつどうのシグナル、すなわちシグナレスとても全まったくそのとおりでした。
「ああ、シグナルさんもあんまりだわ、あたしが言いえないでお返事へんじもできないのを、すぐあんなに怒おこっておしまいになるなんて。あたしもう何もかもみんなおしまいだわ。おお神様かみさま、シグナルさんに雷かみなりを落おとす時、いっしょに私にもお落としくださいませ」
こう言いって、しきりに星空に祈いのっているのでした。ところがその声が、かすかにシグナルの耳にはいりました。シグナルはぎょっとしたように胸むねを張はって、しばらく考えていましたが、やがてガタガタふるえだしました。
ふるえながら言いました。
「あたし存ぞんじませんわ」シグナレスは声を落として答えました。
「シグナレスさん、それはあんまりひどいお言葉ことばでしょう。僕ぼくはもう今すぐでもお雷らいさんにつぶされて、または噴火ふんかを足もとから引っぱり出して、またはいさぎよく風に倒たおされて、またはノアの洪水こうずいをひっかぶって、死しんでしまおうと言うんですよ。それだのに、あなたはちっとも同情どうじょうしてくださらないんですか」
「あら、その噴火や洪水こうずいを。あたしのお祈りはそれよ」シグナレスは思い切って言いました。シグナルはもううれしくて、うれしくて、なおさらガタガタガタガタふるえました。
「シグナレスさん、なぜあなたは死ななけぁならないんですか。ね。僕ぼくへお話しください。ね。僕へお話しください。きっと、僕はそのいけないやつを追おっぱらってしまいますから、いったいどうしたんですね」
「ふふん。ああ、そのことですか。ふん。いいえ。そのことならばご心配しんぱいありません。大丈夫だいじょうぶです。僕ちっとも怒ってなんかいはしませんからね。僕、もうあなたのためなら、眼鏡めがねをみんな取とられて、腕うでをみんなひっぱなされて、それから沼ぬまの底そこへたたき込こまれたって、あなたをうらみはしませんよ」
「あら、ほんとう。うれしいわ」
「だから僕を愛あいしてください。さあ僕を愛するって言いってください」
五日のお月さまは、この時雲と山の端はとのちょうどまん中にいました。シグナルはもうまるで顔色を変かえて灰色はいいろの幽霊ゆうれいみたいになって言いました。
「またあなたはだまってしまったんですね。やっぱり僕がきらいなんでしょう。もういいや、どうせ僕なんか噴火ふんかか洪水こうずいか風かにやられるにきまってるんだ」
「あら、ちがいますわ」
「そんならどうですどうです、どうです」
「あたし、もう大昔おおむかしからあなたのことばかり考えていましたわ」
「本当ですか、本当ですか、本当ですか」
「ええ」
「そんならいいでしょう。結婚けっこんの約束やくそくをしてください」
「でも」
「でもなんですか、僕ぼくたちは春になったら燕つばめにたのんで、みんなにも知らせて結婚けっこんの式しきをあげましょう。どうか約束やくそくしてください」
「わかってますよ。僕にはそのつまらないところが尊とうといんです」
すると、さあ、シグナレスはあらんかぎりの勇気ゆうきを出して言いい出しました。
「でもあなたは金でできてるでしょう。新式でしょう。赤青眼鏡あかあおめがねを二組みも持もっていらっしゃるわ、夜も電燈でんとうでしょう。あたしは夜だってランプですわ、眼鏡もただ一つきり、それに木ですわ」
「え、ありがとう、うれしいなあ、僕もお約束しますよ。あなたはきっと、私の未来みらいの妻つまだ」
「ええ、そうよ、あたし決けっして変かわらないわ」
「結婚指環エンゲージリングをあげますよ、そら、ね、あすこの四つならんだ青い星ね」
「ええ」
「あのいちばん下の脚あしもとに小さな環わが見えるでしょう、環状星雲フィッシュマウスネビュラですよ。あの光の環ね、あれを受うけ取とってください。僕のまごころです」
「ワッハッハ。大笑おおわらいだ。うまくやってやがるぜ」
突然とつぜん向むこうのまっ黒な倉庫そうこが、空にもはばかるような声でどなりました。二人はまるでしんとなってしまいました。
ところが倉庫がまた言いいました。
「いや心配しんぱいしなさんな。この事ことは決けっしてほかへはもらしませんぞ。わしがしっかりのみ込こみました」
その時です、お月さまがカブンと山へおはいりになって、あたりがポカッと、うすぐらくなったのは。
今は風があんまり強いので電信柱でんしんばしらどもは、本線ほんせんの方も、軽便鉄道けいべんてつどうの方もまるで気が気でなく、ぐうん ぐうん ひゅうひゅう と独楽こまのようにうなっておりました。それでも空はまっ青さおに晴れていました。
本線シグナルつきの太ふとっちょの電信柱も、もうでたらめの歌をやるどころの話ではありません。できるだけからだをちぢめて眼めを細ほそくして、ひとなみに、ブウウ、ブウウとうなってごまかしておりました。
シグナレスはこの時、東のぐらぐらするくらい強い青びかりの中を、びっこをひくようにして走って行く雲を見ておりましたが、それからチラッとシグナルの方を見ました。シグナルは、今日は巡査じゅんさのようにしゃんと立っていましたが、風が強くて太っちょの電柱でんちゅうに聞こえないのをいいことにして、シグナレスに話しかけました。
「どうもひどい風ですね。あなた頭がほてって痛いたみはしませんか。どうも僕ぼくは少しくらくらしますね。いろいろお話ししますから、あなたただ頭をふってうなずいてだけいてください。どうせお返事へんじをしたって僕ぼくのところへ届とどきはしませんから、それから僕の話でおもしろくないことがあったら横よこの方に頭を振ふってください。これは、本当は、ヨーロッパの方のやり方なんですよ。向むこうでは、僕たちのように仲なかのいいものがほかの人に知れないようにお話をする時は、みんなこうするんですよ。僕それを向こうの雑誌ざっしで見たんです。ね、あの倉庫そうこのやつめ、おかしなやつですね、いきなり僕たちの話してるところへ口を出して、引き受うけたのなんのって言いうんですもの、あいつはずいぶん太ふとってますね、今日も眼めをパチパチやらかしてますよ、僕のあなたに物を言ってるのはわかっていても、何を言ってるのか風でいっこう聞こえないんですよ、けれども全体ぜんたい、あなたに聞こえてるんですか、聞こえてるなら頭を振ってください、ええそう、聞こえるでしょうね。僕たち早く結婚けっこんしたいもんですね、早く春になれぁいいんですね、僕のところのぶっきりこに少しも知らせないでおきましょう。そしておいて、いきなり、ウヘン! ああ風でのどがぜいぜいする。ああひどい。ちょっとお話をやめますよ。僕のどが痛いたくなったんです。わかりましたか、じゃちょっとさようなら」
それからシグナルは、ううううと言いながら眼をぱちぱちさせて、しばらくの間だまっていました。
シグナレスもおとなしく、シグナルののどのなおるのを待まっていました。電信柱でんしんばしらどもはブンブンゴンゴンと鳴り、風はひゅうひゅうとやりました。
シグナルはつばをのみこんだり、ええ、ええとせきばらいをしたりしていましたが、やっとのどの痛いたいのがなおったらしく、もう一ぺんシグナレスに話しかけました。けれどもこの時は、風がまるで熊くまのように吼ほえ、まわりの電信柱でんしんばしらどもは、山いっぱいの蜂はちの巣すをいっぺんにこわしでもしたように、ぐゎんぐゎんとうなっていましたので、せっかくのその声も、半分ばかりしかシグナレスに届とどきませんでした。
「ね、僕ぼくはもうあなたのためなら、次つぎの汽車の来る時、がんばって腕うでを下げないことでも、なんでもするんですからね、わかったでしょう。あなたもそのくらいの決心けっしんはあるでしょうね。あなたはほんとうに美うつくしいんです、ね、世界せかいの中うちにだっておれたちの仲間なかまはいくらもあるんでしょう。その半分はまあ女の人でしょうがねえ、その中であなたはいちばん美しいんです。もっともほかの女の人僕よく知らないんですけれどね、きっとそうだと思うんですよ、どうです聞こえますか。僕たちのまわりにいるやつはみんなばかですね、のろまですね、僕のとこのぶっきりこが僕が何をあなたに言ってるのかと思って、そらごらんなさい、一生けん命めい、目をパチパチやってますよ、こいつときたら全まったくチョークよりも形がわるいんですからね、そら、こんどはあんなに口を曲まげていますよ。あきれたばかですねえ、僕の話聞こえますか、僕の……」
「若わかさま、さっきから何をべちゃべちゃ言いっていらっしゃるのです。しかもシグナレス風情ふぜいと、いったい何をにやけていらっしゃるんです」
いきなり本線ほんせんシグナルつきの電信柱でんしんばしらが、むしゃくしゃまぎれに、ごうごうの音の中を途方とほうもない声でどなったもんですから、シグナルはもちろんシグナレスも、まっ青さおになってぴたっとこっちへ曲げていたからだを、まっすぐに直なおしました。
「若わかさま、さあおっしゃい。役目やくめとして承うけたまわらなければなりません」
シグナルは、やっと元気を取り直なおしました。そしてどうせ風のために何を言いっても同じことなのをいいことにして、
「ばか、僕ぼくはシグナレスさんと結婚けっこんして幸福こうふくになって、それからお前にチョークのお嫁よめさんをくれてやるよ」と、こうまじめな顔で言ったのでした。その声は風下かざしものシグナレスにはすぐ聞こえましたので、シグナレスはこわいながら思わず笑わらってしまいました。さあそれを見た本線ほんせんシグナルつきの電信柱の怒おこりようと言ったらありません。さっそくブルブルッとふるえあがり、青白く逆上のぼせてしまい唇くちびるをきっとかみながらすぐひどく手をまわして、すなわち一ぺん東京まで手をまわして風下かざしもにいる軽便鉄道けいべんてつどうの電信柱に、シグナルとシグナレスの対話たいわがいったいなんだったか、今シグナレスが笑ったことは、どんなことだったかたずねてやりました。
ああ、シグナルは一生の失策しっさくをしたのでした。シグナレスよりも少し風下にすてきに耳のいい長い長い電信柱がいて、知らん顔をしてすまして空の方を見ながらさっきからの話をみんな聞いていたのです。そこでさっそく、それを東京を経へて本線シグナルつきの電信柱に返事へんじをしてやりました。本線ほんせんシグナルつきの電信柱でんしんばしらはキリキリ歯はがみをしながら聞いていましたが、すっかり聞いてしまうと、さあ、まるでばかのようになってどなりました。
「くそっ、えいっ。いまいましい。あんまりだ。犬畜生いぬちくしょう、あんまりだ。犬畜生、ええ、若わかさま、わたしだって男ですぜ。こんなにひどくばかにされてだまっているとお考えですか。結婚けっこんだなんてやれるならやってごらんなさい。電信柱の仲間なかまはもうみんな反対はんたいです。シグナル柱の人たちだって鉄道長てつどうちょうの命令めいれいにそむけるもんですか。そして鉄道長はわたしの叔父おじですぜ。結婚なりなんなりやってごらんなさい。えい、犬畜生いぬちくしょうめ、えい」
本線シグナルつきの電信柱は、すぐ四方に電報でんぽうをかけました。それからしばらく顔色を変かえて、みんなの返事へんじをきいていました。確たしかにみんなから反対はんたいの約束やくそくをもらったらしいのでした。それからきっと叔父のその鉄道長とかにもうまく頼たのんだにちがいありません。シグナルもシグナレスも、あまりのことに今さらポカンとしてあきれていました。本線シグナルつきの電信柱は、すっかり反対の準備じゅんびができると、こんどは急きゅうに泣なき声で言いいました。
「あああ、八年の間、夜ひる寝ねないでめんどうを見てやってそのお礼れいがこれか。ああ情なさけない、もう世の中はみだれてしまった。ああもうおしまいだ。なさけない、メリケン国のエジソンさまもこのあさましい世界せかいをお見すてなされたか。オンオンオンオン、ゴゴンゴーゴーゴゴンゴー」
風はますます吹ふきつのり、西の空が変へんに白くぼんやりなって、どうもあやしいと思っているうちに、チラチラチラチラとうとう雪がやって参まいりました。
シグナルは力を落おとして青白く立ち、そっとよこ眼めでやさしいシグナレスの方を見ました。シグナレスはしくしく泣なきながら、ちょうどやって来る二時の汽車を迎むかえるためにしょんぼりと腕うでをさげ、そのいじらしいなで肩がたはかすかにかすかにふるえておりました。空では風がフイウ、涙なみだを知らない電信柱どもはゴゴンゴーゴーゴゴンゴーゴー。
十代半ば、実家にアレコレが起こり、数年で家を失うことが確定していた。
実家はそれなりに商売で成功しており、数年前に家は建て替えられ、わたしには念願の自室が与えられていた。
自室には天窓があり、屋上への出入り口があり、屋上からは外に降りる階段も設置されていたので、ここぞと自由を謳歌していた矢先。
両親は怒声を上げながら責任を押し付けあう喧嘩をし、子どもたちは仲裁をしながら泣いた。
この頃、わたしは眠れなくなった。明け方頃にやっと眠れたと思うと、一瞬で目覚ましベルが鳴った。授業中も意識が朦朧とし、学業の成績は下がった。
眠れないと、夜の時間は長い。布団に入ったまま、天窓から何も見えない空を眺め続けた。
そうしていると、キシッ、ピシッ、と階段が軋むような音がする。
パキリ、カリッ、と窓に何かが当たるような音がする。
そうしてついには金縛りにあう。それまでに体験したことのない現象に、わたしは恐怖した。これはもしかして心霊現象、怪奇現象、そういうものに襲われているのではないか、と。
自室を失ってしばらくすると、そうした現象は収まった。一家それぞれのベッドルームはなくなり、すぐ隣で家族の寝息が聞こえた。煩かったが、金縛りよりはだいぶマシだった。
ローマのホテルに泊まった時(ツアーで女2人部屋だよ念のため)
パチン、パチンとガラス窓の外で音がするんだ。
私はちょっと気圧のせいで飛行機に酔ってて調子が悪かったので起きていて
友人はたぶん隣のベッドで寝かけてた。
ね、窓の外で音がしてるよー窓の外って何あったっけ
近づいて窓まで行くと、まだ音がする。
綺麗な街並み。まるで映画だよ。
そのおとはずっとやまなくて、友人は疲れてて寝ころんだまま。
音、聞こえるけどそれが何か?みたいだし
しかしもし幽霊なら私ら日本人だしトラベルイタリア語くらいしかわからん
もしあなたが幽霊でも私らあなたの言葉が判りませんゴメンネーと
手を合わせて、疲れてたし朝早いので寝てしまった
時間 | 記事数 | 文字数 | 文字数平均 | 文字数中央値 |
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00 | 100 | 13388 | 133.9 | 32 |
01 | 110 | 14491 | 131.7 | 50.5 |
02 | 88 | 9129 | 103.7 | 58.5 |
03 | 43 | 5649 | 131.4 | 36 |
04 | 17 | 2867 | 168.6 | 80 |
05 | 19 | 2556 | 134.5 | 104 |
06 | 25 | 2060 | 82.4 | 42 |
07 | 36 | 2555 | 71.0 | 39.5 |
08 | 76 | 5900 | 77.6 | 34.5 |
09 | 101 | 10009 | 99.1 | 63 |
10 | 136 | 13890 | 102.1 | 39.5 |
11 | 157 | 14511 | 92.4 | 47 |
12 | 151 | 12627 | 83.6 | 41 |
13 | 178 | 18012 | 101.2 | 37 |
14 | 129 | 11801 | 91.5 | 38 |
15 | 119 | 21733 | 182.6 | 51 |
16 | 161 | 10720 | 66.6 | 41 |
17 | 199 | 21751 | 109.3 | 50 |
18 | 215 | 26807 | 124.7 | 47 |
19 | 186 | 17904 | 96.3 | 37.5 |
20 | 194 | 17288 | 89.1 | 44.5 |
21 | 160 | 13708 | 85.7 | 39.5 |
22 | 200 | 16035 | 80.2 | 34 |
23 | 260 | 32969 | 126.8 | 33 |
1日 | 3060 | 318360 | 104.0 | 42 |
パルスオキシメータ(4), 強産(4), 黒瀬陽平(3), 抜糸(3), 4000人(3), 道路族(3), 超正統派(3), きらー(9), confidence(3), テスカトリポカ(3), 触ん(3), 自炊(32), コスプレ(20), 五輪(14), 下方婚(23), 外食(31), 繁殖(8), 味付け(7), ハマり(6), 幽霊(6), 精神病(7), 映画館(14), 産ま(13), 物件(10), 自分語り(9), マウンティング(10), ワクチン(23), 出産(31), メンヘラ(18), メンバー(18), コロナ禍(14), 牛(16), 娘(31), 野菜(17), 妊娠(20), オリンピック(15)
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