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ここからは海運系船乗りがどんな日常生活を送っているか紹介しよう。
その1はこちら
http://anond.hatelabo.jp/20130925025344
船乗りは当然毎日自宅へ帰れるわけはない。まとめて働いて、まとめて休むという形で生活を送ってる。
その比率は年間の2/3働いて、1/3休むという形になっており、3ヶ月間連続で乗船して1ヶ月間休暇をもらうスパンの会社が多い。
ただここで勘違いしてはならないのは3ヶ月乗船していると言っても絶対に上陸はしないわけではなく、港に入れば地に足を付けることもある。
たいてい1ヶ月に1度くらいは運行予定が無い日があり、そのタイミングで借りバース(岸壁のこと)して交代で上陸し遊びに行くのだ。
まあそれでも例えば北米まで約10日はかかるので、その間はずっと海の上ではある。
乗船中は甲板部へ所属しているか?機関部へ所属しているか?で仕事の内容が当然違う。
甲板部と機関部の双方へ所属したことのある筆者の感覚では、荷役などで極端に忙しい事のある甲板部、いつも同じくらいの忙しさである機関部という違いがある。
当然、不意に予測してない業務が発生することもある(機械故障とか)から何処が一番楽ってことはない。
集中して忙しい方が良いのか、万遍なく忙しい方が良いのかという好みの差だ。
甲板部は航海士系の部署だ。
船乗りとしてイメージされやすいのがこちらで、航海術を駆使し実際に船舶を操縦して目的地まで予定通りに荷物や旅客を運ぶ。
現代の船舶の多くの船体素材は鉄鋼かFRPである。FRPは漁船で採用されることが多い。
海運に使う船舶はたいてい鉄鋼であり、塩水に使っている状態なので錆びにくい対策が取られているとは言え、船体は時間が経つに連れて錆びていく。
そこで甲板部は「錆打ち」という作業を行う。
錆という物は化学変化によって錆びていない部分へ伝播する。
その伝播を抑えるために錆びてしまった部分を機械ヤスリ(ハンドグラインダーなど)を使って削り取るのだ。
削り取った部分は錆止めを塗り、いわゆる「船体色」ペンキを塗って錆が進行しないようにする。
「あんな大きな船の全体をやるの?」という疑問はあるだろうが、その通りである。
正確には海中へ沈んでいる部分(喫水線より下)は物理的に作業ができないので喫水線より上を錆打ちする。
「高いところとか足場がないところはどうするの?」という疑問にも答えよう。
「ジャコブスラダー」という空中ブランコみたいなものを使って作業をする。詳細はググってくれ。
船舶は安全運航するために様々な法定書類や会社が求める書類がある。
甲板部に所属する者の作業スケジュールなども考えたりもするので肉体労働っぽい船乗りにも頭脳労働があるのだ。
と言うよりも現代の船舶は頭脳労働の比率が船舶の高性能化によって増えて行っている。
肉体労働の部分は決して無くならないだろうが比率は減少傾向にある。
現代はだいたい頭脳労働が70%、肉体労働が30%と思えば良い(船の操縦は肉体労働じゃなく頭脳労働である)。
荷物は積めば終わりというわけでもなく、積んでいるものによって航海中も様々な作業が発生する。
例えば普通のコンテナならばしっかり固定されているか?を確認したり、冷凍コンテナなら更に温度管理をしなければならない。
オイルタンカーであれば積む油種の違いによって「タンク洗い」という作業が発生する。
例えばいわゆる「重油」であっても「A重油」「B重油」「C重油」と3種類ある。
重油というカテゴリーではA重油が一番キレイでC重油が一番汚い。
C重油が入っていたタンクへA重油を入れるとA重油が汚れてしまい価値が下がる。
そこでC重油を揚げ荷役した後にタンクを掃除してA重油を積み荷役するのだ。
甲板部の仕事はこれだけでは無いが、最後に階級を記しておこう。
上から並べるとこうだ。
経験量や知識量が豊富なのは当然として人格的にもよく出来た人がかなり多い(人格に問題ある人が居ないわけじゃない)。
船では出世するほど仕事量が減る傾向にあるのだが、出世するほど責任が物凄く重くなる。
どれくらいの責任かと言えば船舶自体が億円単位の物だし、一度に荷物を多く運べるため荷物も億円単位。その責任を持っている。
実は警察権も持っており、合理的な理由があれば乗組員を逮捕拘束監禁しても良い事になってる。
更に船長は裁判権も持っている。船内で起きた揉め事に対して合理的な理由があれば采配を下し強制させることが可能。
もっと言えば立法権もある。合理的な理由があれば必要に応じて(既存の法律の範囲内で)新たなルールを追加できる。
何故こんな船長独裁とも言える制度になっているかといえば船舶は閉鎖的環境だからだ。
最高権力者を2人にすると派閥が出来てしまい争いのもととなる。なので船長の権力は絶大なのだ。
航海士はそれ以下の直属の上司という考えで間違いない。
船舶には「職員」と「部員」という職種に分かれており、部員が普通の社員ならば職員はいわばキャリア社員だ。
当然、会社や船舶の規模によって人員の数が変わるので例えば三等航海士という階級が無い会社もあるので注意が必要だ。
現代の船はオートメーション化も進み、それだけシステムとしては複雑化をしている。
過去の時代のように航海士だけ居れば船舶を運航できるということは現代の船舶ではあり得ない。
そこで活躍するのが船舶の機械を専門に学んだ機関部人員である。
シリンダー経が100cmを超えるものも珍しくなく馬力も数万と一般的な感覚で言うと超大型のものがほとんである。主機だけで2階建てアパートくらいのものも存在。
当然、非常に熱を放出し室温は40℃を超える。騒音も大きいため機関士たちは耳栓などをして整備作業をする。耳栓がないと難聴になってしまう。
燃料は始動時にA重油を使い、安定したらC重油へ切り替えるタイプがほとんど。
始動は自動車で言うセル方式であり、セルモーターではなく圧縮空気を送り込んでピストンを回転させて始動する。
セルというと勘違いされやすいがディーゼルエンジンが大部分を占めていて毎周点火プラグで着火するわけではない(ディーゼルエンジンは圧縮によって発生する熱で燃料へ着火する。詳細はググれ)。
少数ながらタービンエンジンも存在し、こちらはボイラーから発生させた蒸気でタービンを回転させプロペラを連動させるというものだ。
主流のディーゼルエンジンと比べて構造は複雑化するが船舶の速度が出やすいという利点はある。
高速船や軍艦などで採用されている事例が多い。
電力を失った船舶を「デッドシップ」というくらいで電力を失った船舶は死んだ船扱いされる。
各機器は電力によって制御されているので電力消失すると全く動かなくなってしまうのだ。
補機の大きさはこれまた一般的な感覚の「エンジン」と見るとこれまた超大型であり、普通自動車一台分はある。
船舶の規模が大きくなれば発電機も大きくなり、トラックサイズになったり、コンテナサイズにもなったりする。
まだまだこれ以外にもあり機関部はこの全てを運用整備修理する。
機関部もまた事務的業務が結構あり、法定書類や燃料の管理、整備日程、各種データ計測(故障早期発見のため)など多彩だ。
書類作成や各種データ管理にパソコンを使ったりもするため船乗りは以外なほどに事務能力が高かったりする(筆者は就職してからExcelマクロを組めるようになった)。
甲板部であれば変わりゆく天候や他の船舶の位置、揺れる船の中で小難しい運航を考える。
機関部は高温という過酷な環境の中で、科学と経験から故障原因などを探ったりする。
「ガハハハ!」と脳筋的に笑ってるイメージは本当にイメージであり、実際は文武両道なスキルを求められるのが船乗りという職業である。
もちろんトップは機関長であり、職員は機関士、それ以下が部員だ。三等機関士が無い会社もある。
各人員は担当の機器が配分され、何も問題が起きない場合は損担当機器を整備する事が多い(故障などがあれば皆で修理する)。
就職した直ぐの段階ではあまり複雑ではないオイルストレーナー辺りが配分され、徐々に管理が難しい機器を与えられる。
一般人にはわからない感覚だが人員によって機器の好き嫌い、得手不得手があったりもするので機関長はそれに合わせて配分する(プログラマの感覚で言うOSの違い、言語の好き嫌いみたいなものか)。
「原因がわからん。V型の空気圧縮機なら増田が詳しかったな。休暇中で悪いが電話するか」と稀に休暇中の得意な人員へ電話することもある。
最近ではメールで画像が送られてきたりもするのでIT化が何気に進んでる。
機関部の最高権力者は機関長であるが、船舶という閉鎖環境と考えるのならば船長のほうが機関長より法律では上の立場になっている。
ただし現場では殆どの場合、船長と機関長は同位であり、甲板部のことは船長が最終判断し、機関部のことは機関長が最終判断をする。
事実上、同位の二人は方針の違いによって口論することもあるので下の者は気が気でない。
船長としては、運行スケジュールに遅れが発生すると会社の信用に関わるためスピードを上げたい。
機関長としては、機器へ過剰な負担を与えると主機故障などで運航自体が止まってしまうので過剰な負担は避けたい。
双方の意見とも正しいためどっちの味方へ付くこともできず板挟みである。
たいていは機関長のほうが「アンタは最高権力者だから」と折れる場合が多いが、どうしても解決しない場合は会社へ意見を仰ぐ。
「最初から会社に意見を仰げよ」と思うかもしれないが会社はよく無茶ぶりをしてきて船長機関長から怒られることも多く、簡単には会社へ相談しないのだ。
「俺は一回会社に南側の低気圧が不安だって言ったぞ今更突っ込めったって行けるかアホウ」「クソみてえな部品使わせやがってコストダウンって言えば良いと思ってやがる」
こういう愚痴を下の者は酒の席で延々と聞かされるわけである。
消火など緊急想定訓練など法律で定められているやらなければならない訓練がある。
船舶が事故を起こすと人命的にも経済的にも大きな被害が出ることが多い。
そこで国連は加盟国へ緊急時の訓練を定め、日本国法でも国際法に則り定期的な緊急時の訓練が定められている。
現場としても比較的熱心にこういう訓練は行うが、運航スケジュールの兼ね合いで簡易的に行う場合もある(それでも最低限はする死にたくないし)。
むしろ海難を起こす船舶は会社側がこういった法定訓練が出来ないほどの過密スケジュールを組んでる場合が多く、会社の体制に問題があると現場は思う。
昔の船舶はそうじゃなかったが現代の船では乗組員の殆どへ個室があてがわれる。
「ボンク」と呼ばれるベットに、書類作成などで使える簡易的な机が配備されることが多い。
TVもある。当然地デジ視聴は不可能なので衛星放送を楽しむ。番組は周回遅れになるが無いよりマシである。
パラボラアンテナは自動追尾方式であり、船舶がどんな方向を向いてても受信できるが荒天時など揺れが大きいと画面にノイズが走りまともに視聴できなくなる。
太っ腹な会社ではスカパー!の基本パックを契約してくれていて有料チャンネルも観れる。ちなみに何故か筆者の会社はAT-Xも観れる。
3ヶ月間もの間、さすがに風呂へはいらないのは日本人としてキツイ。船舶には風呂もある。
浴室はたいてい大浴場でありぱっと見は銭湯と変わらない。
船舶によって浴槽の水の種類が2種類あり、普通の真水を温めたものと、最近は少なくなったが海水を温めたものである。
船舶では真水が貴重であり、昔の船舶は造水機を持っていなかったり、持っていても造水性能が低かったりして浴槽に使うのは勿体なかったのだ。
浴槽の水が海水でもシャワーの水は真水なので、身体が海水だらけになっても大丈夫である。
船舶によっては船長や機関長の居室に専用の浴室があるものも存在する。羨ましい・・・。
最近では温水便座化してることも珍しくなく快適に「いたす」ことが可能だ。
娯楽室がある船舶も珍しくない。娯楽室が畳である場合も結構ある。
将棋や麻雀、トランプなどのゲーム、大型テレビでの映画鑑賞などを楽しめる。
たいていは上級職員の昼寝の場と化しているので下っ端は将棋や麻雀のカモ、酒の相手とされる時以外は近寄らない(入ったらダメなわけではなく下っ端なので忙しくそんな暇がない)。
ごはんを食べるところ。現代の船舶には司厨人員(調理師)が乗っているのでおいしいごはんが食べられる。
ベテラン司厨になると転びそうになるくらいの荒天時でも何故かスープなど汁物が出てくることがある。どうやって調理しているかは不明。
職人芸は純粋にすごいと思うが、荒天時に汁物を出されると非常に飲みにくいので、出来るのならば控えて欲しいけれども乗組員はそれを口に出してはいけないという暗黙の了解がある。
船内設備では無いが、一般的に知られていない文化として紹介する。
つまり海のコンビニエンスストアであり、食料品からお菓子、新聞雑誌、衣類、事務機器、医療品、オーディオ家電、AVエロ本まで何かと色々揃う船乗りにとって便利な存在。
意外と結構融通が聞く存在であり「次までに○○用意しといて」と伝えておくと用意してくれてたりする。
通話料が非常に高く、過去の船乗りはこの衛星電話で散財していた。
どれくらい高いかといえば時間帯で変動はするが平均約1秒/1円である。テレホンカードの度数が面白いくらいに減っていく様を見ることが出来る。
ただ近年は公衆電話を備えている船舶が激減しているため若い船乗りはこのことを知らない。
まだまだ希少な設備ではあるがインターネット環境を備えている船舶もある。
海洋ブロードバンドという人工衛星を経由したサービスであり、上り64kbps/下り3Mbpsでインターネットが使える。
月額が60,000円(定額)もする上に設備設置費用も高額なので積極的な普及には至っていない。
筆者の会社では船内WLAN化しており船内に居れば何処でもネットが使えるが、これも衛星放送と同様にあまり船が揺れるとネットの接続が切れたりする。
船舶は24時間動いているため交替制である。
「0-4時(ゼロヨンワッチ)」「4-8時(ヨンパーワッチ)」「8-12時(パーゼロワッチ)」と3交替制で一度の労働時間は4時間働き、8時間休憩と繰り返す。
パーゼロワッチは特に人間らしい時間帯で働けるので「殿様ワッチ」とも呼ばれたりする。実際に船長機関長がここへ入ってる場合が多い。
船舶が海難を起こす時間帯は統計として日出日没時が多く、経験を多く積んだ一等職員や部員長がヨンパーワッチへ入る場合が多く、新人も難しい時間帯で経験を積ませるためここが多い。
その間であるゼロヨンワッチは中間管理職が入ることが多く、初めてその時間帯の責任者になることも多いため結構いつもドキドキしている(上司からは気楽にな何かあったら呼べば良いとは言われるけれども)。
先程から出る「ワッチ」という言葉は「Watch」のカタカナ英語だ。つまり見る監視するという意味で見張り番ってことだ。
その3へ続く