はてなキーワード: GPS将棋とは
どうも、id:BigHopeClasicです。
本当はこんな内容、自分ではてなブログに投稿したほうが見た目もきれいになるしいいんでしょうが、持続できないブログを作るのも気後れするので、増田を使います。
さて、掲題の件、はびこりそうな誤解がいくつかありそうなのが将棋ファンとして気になったので書こうと思ったものです。
「日本将棋連盟が三浦九段に対して、カンニングをしていないという悪魔の証明を求めた」
としか解釈できません。つまり、将棋連盟は三浦九段に対して、決定的な物証などを何一つ押さえないまま
この点については続報を待つ必要がありますが、あくまでも現段階での私個人の感想としては
「下策中の下策、愚の骨頂」
なるほど確かに、三浦九段が疑わしいとする複数の棋士からの申し立てはあったのでしょう。
連盟がそれを黙殺すれば、その疑惑が文春砲などで火を噴いた可能性も否定できません。
しかしながら、決定的な物証がなければ、いくら週刊誌が書きたてようが大きなダメージにはならないのは日本相撲協会と週刊ポスト、週刊現代の顛末を見れば明らかです。
大相撲八百長問題が警察からの情報提供で明らかになる前、週刊ポストは30年にわたって角界の八百長を告発する記事を書き続けてきましたが、その内容は元力士らの極めて具体的かつ迫真性のある証言に基づくものとはいえ、決定的な物証をおさえたものではなく、大相撲はそれによってはなんら決定的ダメージを負うことはありませんでした。
週刊ポストに対しては、日本相撲協会は徹底的に無視をし続けることで対応したのです。
また、週刊現代の八百長報道に関しては相撲協会と各力士は、週刊ポストとの対応とは一転して大量の名誉毀損訴訟を起こしそのことごとくに勝訴しています(週刊現代の八百長報道は週刊ポストと比較してもあまりにお粗末だった)。
日本将棋連盟は、こうした大相撲の八百長問題におけるリスクの評価と対策から何も学ぶことなく、あくまでも現段階の報道に基づくところからは、およそ愚劣な対応をしたと言わざるを得ません。
さて、上記とは別にこの問題が深刻なのは、自宅にあるパソコンを遠隔操作するまでもなく、2016年7月におけるスマホ将棋アプリの棋力は、渡辺明竜王、佐藤天彦名人、羽生善治三冠といったトップ棋士の棋力をすでに上回っているという有力な推測があるからにほかなりません。
「対局室へのスマホを含む電子機器の持ち込み禁止、昼食休憩時における将棋会館外への外出禁止」
を定め、これに違反したものは除名を含む厳しい処分を課すことを決め、さらに今週末から開幕する竜王戦では、対局者に対し対局前に金属探知機で持ち物チェックをするという対応を決めていたわけです。
(新聞報道ではこの金属探知機での調査については渡辺竜王、三浦挑戦者双方の同意の下とされています)
(なお、上記のルールは12月中旬から適用とある通り、仮にこの時点で将棋連盟が不正に関する動かぬ物証をつかんでいたとしても、それを三浦九段に対して遡及適用できないことは当然です)
この件を報じた朝日新聞の記事についていたブコメからいくつか代表的な反応を取り上げます。
b:id:temtex 仮に事実としてもだ、たかがスマホアプリでどうにかなるものなのか…と思ったら、別のとこで走らせたソフトの結果さえ判れば良いのか(但し"スマホ搭載"と記事にはある)。プロに勝てる有力なソフトってどんなの?
b:id:namnchichi スマホのアプリでタイトル取れるのか?
b:id:symbioticworm 現時点でスマホで走らせられる将棋ソフトなんてたかが知れてるから、不正があったとすれば外部との通信が必要なはずだけど。現段階では情報が少なすぎる……。
b:id:buu さすがにスマホ搭載のアプリじゃ参考にならないだろうが、協力者と連携すればカンニングは可能だろう。人間よりもソフトが強くなるとどういう将棋界になるのかと興味深かったのだが、こうきたか。
b:id:kaitoster 『対局中、スマートフォンなどに搭載された将棋ソフトを使って不正をした疑い』←スマホの将棋ゲームすでにプロのタイトルホルダーより強いソフトあるのかな?
なるほど、確かにプロ棋士とコンピュータ将棋が戦う電王戦ではコンピュータ将棋が大きく勝ち越しているとは言え、最新の事情を詳しくご存知でなければ上記のような反応は出てくるのが自然かもしれません。また、今回の当事者である三浦九段が電王戦に出場した際の対戦相手が、東大駒場の情報基盤センターの学生用iMac680台をクラスタリングしたGPS将棋であったことも、上記のような反応につながるかもしれません。そこで、これらの誤解を解消するため、コンピュータ将棋の現況について説明したいと思います。
まず、上記の三浦vsGPS将棋が行われて以降、ドワンゴ主催の電王戦では使用されるCPUが制限されています。この制限に基づき電王戦で使われたCPUは、2014年がcorei7 4960X(6コア12スレッド)、2015年がcorei7 5960X(8コア16スレッド)とここまではその時点で調達可能なcorei7シリーズのエクストリームエディションを使用していますが、今年2016年は世代こそ最新のskylakeとなったものの4コア8スレッドのcore i7 6700K、そして来年2017年の使用CPUは同じく4コア8スレッドのcorei7 6700と、使用するハードウェアの性能は年ごとに抑制されるフェーズに入りました。
ではそれによってコンピュータ将棋のパフォーマンスの伸びに制約がかかっているかというと、全くそんなことはありません。将棋ソフトponanzaの開発者の山本一成さんは、2016年電王戦開幕前に「corei7 6700K1台で動くponanzaは、iMac680台をクラスタリングしたGPS将棋より遥かに強くなった」と宣言しています。これは根拠のないことではありません。
現在フリーで入手できる将棋ソフトについては、有志が統計的に有意な手法を用いてその相互間の強さをeloレーティングを用いて計測しています。その一例として、こちらのウェブサイトがあります。eloレーティングの仕組みについては[wikipedia:イロレーティング]を参考にしていただくとして、目安としてはレート上位から見て下位に100差あれば期待勝率64%、以下同じく200差で75%、300差で85%、400差で91%、500差で95%、600差で97%、となります。
ponanzaはフリーで公開されていないため、上記のウェブサイトにはレートは計算されていません。しかし、2016年に電王戦に出場したponanzaは、このウェブサイトで「Apery twig」として掲載されているソフトに対し勝率97%を上げていることが、電王戦に出場した山崎隆之八段をサポートした千田翔太五段の調査によりわかっています。つまりこのponanzaのレートは「Apery twig」の3250に600を足した3850前後であろうと推定できます(なお、上記のサイトで検証に用いているハードウェアはIvybridgeおよびskylake世代の4コア8スレッドメモリ16GBであり、これは2016年電王戦における使用ハードと大きな差はありません)。
一方、2013年に電王戦に出場して三浦九段と対戦したGPS将棋は、この表に掲載されているGPSFish(レート2879)をスレーヴとしてこれを680台クラスタリングしたものでした(厳密に言えば電王戦に出場したGPSfishはこれより一つ前のエディションですが大きな棋力向上はないものと仮定します)。この680台クラスタリングした際の棋力向上幅については、GPS将棋開発チームの田中哲朗東大准教授が、根拠は全く無く経験に基づく推測にすぎないとしながらもレートにして400程度と語っており、これを採用します。
そうすると2013年電王戦のGPS将棋の推定レートは3279となり、2016年電王戦ponanzaとのレート差はおよそ570、ponanzaから見た期待勝率は96%となります。わずか3年の間に、コンピュータ将棋は1台のデスクトップPCで、680台のパソコンをクラスタリングした将棋システムに96%勝利する成長を遂げたのです。
(なお、コンピュータ将棋がかくも異常な速度で成長したのは、ドワンゴが電王戦において「使用ハードウェアの制限」と「提出後対局まで6ヶ月間一切のアップデート不可その間棋士は研究し放題」という条件をつけてしまったからだと考えています。こんな条件をつけなければ開発者はここまでしゃかりきに強化はしなかったはずです。ドワンゴがコンピュータ将棋の大会に出してる優勝賞金の300万円なんて開発費の元手にもなりゃしないし、強いコンピュータ将棋を作ったって売り物にはならないので、モティベーションはこんな厳しい条件のもとで恥をかかないためにはひたすら強くするしかない、ってとこだけなんですから)
もうひとつ、これらの将棋ソフトとプロ棋士の強さの関係はどうなのだということも前提として必要になります。まず、プロ棋士のレーティングについては、こちらのウェブサイトが現在最も信頼され参考にされています。eloレーティングは、基準となる値を何点に設定するかで絶対値はいくらにでも設定できますが、上記の点差と期待勝率の関係は基準値を何点にしようが変わらないので、異なる基準値をとる異なるレート表間での比較が可能になります。
さて、コンピュータ将棋の公開対局場として、GPS将棋の開発チームが開設しているfloodgateというサイトがあります。ここでも参加者の対戦成績に基づいてレーティングが計測されています。また、この対局場は、コンピュータ将棋だけでなく人間も参加することができます。このfloodgateに、一時期上記の千田五段が参戦されていました。その際に記録されたレートは2800ほどでした。千田五段が参戦されていた時期のプロ棋士レーティングにおける数値と、その当時の羽生三冠との数値の比較から、羽生三冠がfloodgateに参戦した場合の予測されるレートは3000から3100程度だろうと見込まれています。また、先に紹介したコンピュータ将棋レーティングサイトのレートは、floodgateのレートの数値と大きく変わらないようにする工夫がされています。なお、羽生三冠のここ数年のプロ棋士レーティングは時期による前後はあれど概ね1900プラスマイナス50程度であり、佐藤天彦名人や渡辺竜王の棋力もほぼこの幅に安定していて、現時点ではこの3人が名実ともにほぼ拮抗した最高レベルの棋力といえます。
ここから考えた際に、2016年電王戦ponanzaと羽生天彦渡辺といったトップ棋士の棋力差はおよそレート差800、ponanzaの期待勝率は99%超、という推測になります。第2期叡王戦本戦PVで千田五段が、羽生のponanzaに対する勝率を0.5%と仮定しているのは、まずこの推測に基づくものと考えて相違ないでしょう。もちろんすべての基準となるfloodgateでの千田五段の数値は、普通のプロ棋士の公式戦ではありえない短い持ち時間の下で行われたものであるため、実際の羽生とponanzaの実力差はこの通りではない、という反論は容易ですが、そもそも持ち時間が9時間に増えたからと言ってレート800の差は埋まるものではなく、コンピュータ将棋も持ち時間を長くすればそれだけ強くなることを考慮すれば本質的な議論とは言い難いでしょう。
ここまで長い前置きを置かないと、なかなかこの本題に説得力が出ないと思いましたが、いよいよここからが現在のスマホ将棋アプリの話題です。
これだけ強くなったコンピュータ将棋ではありますが、これまでは基本的にパソコン上で動かすものでした。スマホ用の将棋アプリも多数出てはいましたが、プロ棋士の最上位に匹敵すると見られているものはありませんでした。
ところが今年の7月、android用の将棋アプリとしてshogidroidがリリースされます。これ自体は将棋ソフトのGUIであって思考エンジンはないのですが、このshogidroidの売りは、今年の6月に一般公開された当時の最強フリー将棋ソフト「技巧」をandroidスマホの上で動かせるようにしたことでした。技巧の強さは先のコンピュータ将棋レーティングサイトで4コア8スレッドで動かした際に3578。ponanzaの3850には及ばないとは言え、今年6月当時ではponanzaに次ぐ2番めに強いソフトで、人間から見れば驚異的な棋力です。
もちろん、この技巧といえど、その棋力がCPUの能力に依存することは言うまでもありません。しかし、スマホも今日日クァッドコアは当たり前、Huawei P9のようにオクタコアを搭載してGeekbenchを用いたベンチマークテストで高い数値を出すスマホもある時代です。第4回将棋電王トーナメントで3位になったやねうら王の開発者で、皆様もよくご存知のやねうらおさんは、2016年9月時点のハイスペックのスマホに、一切のスマホ用のチューニングを行わずに思考エンジンを搭載しても、レートの落ち幅は400程度と推定しています。この推定を当てはめて技巧をshogidroidで動かした時のレートを推定すると3178。やはり羽生天彦渡辺を上回っていることになります。実際にはもちろんやってみないとわかりませんが、あくまでも推測上では、すでに電王戦はプロ棋士対スマホで十分に成立し、それでもプロ棋士の分が悪いことが予測される段階に突入しているのです。
※ちなみに、先の電王トーナメントで優勝し来年の電王戦に出場する最新のponanzaは、今年の電王戦に出場するponanzaに9割勝つとの開発者山本さんの発言がありました。これを信じるならponanzaのレートは4200となり、スマホに積んでも3800で、やはり羽生三冠の期待勝率は1%に満たないことになります。
これが2016年10月における、スマホで動かすコンピュータ将棋の現状になります。恐ろしいことには、shogidroidは無料のアプリであり、その思考エンジンの技巧もフリーウェア。それを最高スペックで動かすHuawei P9は54000円で買える、というところにあります。この状況をどう考えるかは皆様のご想像におまかせします。
さて、お気づきの方もいるかもしれませんが、疑われた三浦九段の棋譜をソフトで検証してみれば白黒はっきりするのでは?と思われるかもしれません。しかしそれは極めて困難であると申し上げましょう。
まず、Shogidroidの上で動かせるソフトは技巧に限りません。その他のソフトも動かすことが可能です。次に、同じ将棋ソフトであっても、ある局面を検討させたときに導く最善手は、CPUの性能や検討させる時間によって異なります。そもそも将棋ソフトにはある特定の局面において常に同じ結果とならないよう検討においては乱数も使用されており、一局の将棋の棋譜からではその人がカンニングしたかを導くのは容易ではありません。
さらに、将棋は二人零和有限確定完全情報ゲームである以上、ある局面における最善解というのが必ず存在します。ということは、その最善解を自力で導いたかカンニングしたかの区別は、着手から「だけ」では判定できないことになります。
以上の理由から、カンニングしたか否かの実験を第三者が行っても、その結果についてはいくらでも疑義をつけることができ、有効ではないと言えましょう。
第1回、第2回の電王戦は、始まる前からとてもワクワクして待ちきれなかった。
こう感じるのは、僕だけだろうか?
第1回、第2回はコンピュータのプロに対する強さが未知数だった。
短時間のネット将棋では人類を圧倒していても、プロが本気になれば違うとか、長時間になれば人間が有利だとかいう意見が多かった。
対するソフト開発者側も、何とか癖を読まれないように貸し出しを拒否したり、定跡を本番で指定したりして勝負に徹していた。
第4局で塚田九段が根性の粘りで引き分けに持ち込んだ後の、三浦八段対GPS将棋戦が、今から思うと電王戦のピークだった。
GPS将棋は600台程のPCでクラスタを組み、全力で棋士に挑戦したのは、相手の強さを認めていたからだろう。
三浦八段は現役A級棋士でタイトル獲得経験もあり、トップ棋士としての誇りとプライドがかかっているのが十分に伝わってきた。
三浦八段は破れはしたが、刀折れ矢尽きるまで戦ったその姿には感動し、1秒間に数億手読むクラスタと互角に渡り合える人間の頭脳に凄さを感じた。
昔の弱かったコンピュータ将棋からすれば、技術の進歩も存分に感じられた。
第3回は、ハードの統一、事前の貸し出し、ソフトの修正禁止が義務付けられた。
前年までのガチンコ勝負感は無くなったが、棋士側は期待の若手、往年のベテラン、将棋界の人気者、そして元タイトルホルダーのA級棋士と、前年以上に個性豊かで強いメンバーだった。
両国国技館や小田原城を対局場にするという試みにも注目が集まった。
電王手くんが機械らしく駒を持つ姿は、未来を感じさせつつも微笑ましかった。
後味の悪い番外戦は起きてしまったが、勝負に拘っていた事の裏返しだとも思えたし、両者の文化の違いが背景にあったとも思った。
唯一の勝利者の豊島七段の練習量に驚き、ponanzaの筋が悪くも巧みな中盤に感心した電王戦だった。
第4回は、ハードの統一、事前の貸し出し、ソフトの修正禁止のルールは引き継がれ、出場棋士は公式戦で勝率の若手で固められた。
ここまで、棋士が頑張りを見せて2連勝。
斎藤五段、永瀬六段の努力と強さは伝わるが、どうも阿部四段や豊島七段が勝った時の様な気持ちは湧いてこない。
以前の電王戦がスポーツだとすれば、今回は原作を知っている映画を見ているような、棋士が勝つ姿を応援しましょうという主催者が用意した舞台を見ているように感じる。
あれだけ驚きと興奮を与えてくれた電王戦は、きっともう見れないのだろう。
私は2018年、つまり貴方達の生きる時代の5年後からタイムスリップしてきた将棋オタクの増田です。
2018年のコンピュータ将棋界はどうなっているか、そして人間が指す将棋の世界はどう変わったのかを一足先に体験した身として書いておきたい。
2013年頃の最強ソフトの一角GPS将棋は東大のクラスタを使ってCPUを並列にしていたけど、2018年ではCPUを計算用途に使うソフトはだいぶ少なくなって、今ではGPUを使う事が当たり前になっている。これによって計算できる量は飛躍的に伸びて、2018年の最強ソフトはGPS将棋の330倍の量を計算できるようになったんだ。
東大チームのGPS将棋に触発されて全国の大学が将棋ソフトの開発に乗り出し、今や個人の開発者はほとんど日の目を浴びなくなっちゃった。大学が持つ計算リソースを贅沢に使えるチームに個人開発者が勝てるわけがないのは当然だ。東大は開発からは手を引いてしまったので、今は東工大、東京理科大、中央大学が3強だ。関東の理系に強い大学がたくさん参戦して学生を集める宣伝としてもコンピュータ将棋が使われるようになっている。箱根駅伝みたいな感じ。
Googleが世界コンピュータ将棋選手権に出場した2016年の事も書いておかなきゃね。その前年にそれまで個人が細々とやってきたあの3.1415.....の円周率桁数計算に進出してギネス記録を40000倍も更新して世界中から大人げない奴と白い目で見られたあの黒船Googleが何と将棋に興味を持っちゃったんだ。Googleが保有するクラスタのうち50000台を使っての勝負。「勝てるわけがない」「もし欧米企業に負ければ日本文化の敗北だ」ってマスコミは大いにかき立てたんだけど結果はなんと地元日本の代表、将棋に特化した100台ほどのGPUクラスタの勝利だったんだ。CPUという汎用計算リソースだけでは特化クラスタに勝てなくなってしまったという情報工学的にも大変興味深い一戦だった。
その翌年2017年にはアジア代表として中国人民解放軍が参戦して来てこれまた大いに盛り上がった。人民解放軍はなんと一般庶民のコンピュータとスマホを全て総動員、27億台のクラスタで勝負を挑んできたんだ。これにはたまげたね。「今後こそ勝てるわけがない」「もし負ければ技術立国日本の敗北だ」ってマスコミは大いにかき立てたんだけど、劣勢を跳ね返して終盤に奇跡の逆転勝ちを収めたのは何と日本代表だったんだ。終盤に日本が取られても取られても「6四 歩」を打ちまくったのが天安門事件(1989.6.4 一般民衆の蜂起)を連想させて共産党謹製のプログラムが一部クラッシュしたのが勝因とされている。心を持たないはずのプログラムなのに、結局は書いた人の何らかの思想がそこに反映されちゃうっていう情報工学的に興味深い一戦だったね。
プロも奨励会(プロの育成機関)の子らも、これだけ強くなったコンピュータ将棋を教師とはしていない。いまだに人から学んでいる。なぜなら、確かにコンピュータは強いけれど、その「理由」を説明できないからだ。
トッププロのような未知の領域に挑まなければいけない人にとってはコンピュータの指す異次元の手から少しは学ぶ事が可能だ。でも、特に奨励会の子らは一手ごとにその理由を解釈しながら強くなる段階だ。だからコンピュータ相手にいくら指しても上達しないし、棋符を見ても何も学べない。どんな世界でも、理由を解釈しなければ人は成長しないっていう良い例なんじゃないかと僕は思っている。
これはコンピュータが人間よりも遥かに強くなってしまった将棋の世界から我々が学んだ最も大きな教訓なのかもしれない。コンピュータには物事の理由を説明できない。彼らがやっているのはただの計算なんだ。何の理解も解釈もしていない。ただ計算しているだけなんだ。2018年のソフトの主流手法はDeepLearningと呼ばれる人の脳のニューロンを模倣した機械学習なんだけど、これはもう中で何をやってるのか作ったエンジニアですらもわからないブラックボックスだ。何をやってるのかわからないけど、強い。強いのは間違いないし誰も勝てない。でも彼(ソフト)は教師にはなれない。そこから何も生まれない。ただ彼自身が強いだけ。それだけなんだ。それにいったい全体、何の意味があるのだ?優秀な人間は優秀な人間を生み出す。そうやって人類は繁栄してきた。他の生き物だってそうだ。でも機械はそれ自体から何も次に繋げないんだ。
ああ、そろそろ帰らなきゃ2018年に。言いたい事は全て書いたよ。とにかく何が言いたいかって、やっぱり将棋は最高だってことなんだ。ハッシーのお陰で今は渋谷の女子高生の間でも将棋が大ブームだから、僕みたいなオタクな風貌での将棋が強ければチョベリグな思いができるってわけさ☆まだルールぐらいしか覚えてないって言う人は今からでも遅く無いよ。
ということで、これまでの4局を振り返ってみた。
阿部光瑠(こーる)は訛りがかわいらしい18歳。プロ棋士チームでは三浦、船江に次ぐ三番手の実力の持ち主で、船江に次いで勝つ可能性が高いと目されていたが(三浦は相手が強いので……)、それでも率直に言って彼が勝つと本気で予想していた将棋ファンは多くはないだろう。
つまり、プロ棋士チームは5連敗か、よくて1勝4敗だろうと思われていた。そのくらいの圧倒的な実力を、コンピュータはインターネット上の対局サイト将棋倶楽部24などにおいて見せつけていたのだ。
そんな下馬評を、こーるはこれ以上ないくらい鮮やかに覆した。習甦の桂跳ねからの無理攻めを誘い、圧勝。
局後のインタビューによれば、こーるは提供された習甦での事前の練習将棋をかなり入念に行っており、今回の将棋も練習で発見したコンピュータの穴のようなものを突いた、という側面もあったようだ。そのため、純粋な実力でなくバグを利用しただけ、という評価もないわけではない。
しかしともあれ、(少なくとも団体戦としては)勝敗は見えていると考えていた将棋ファンの横っ面を思いっきりひっぱたくような衝撃的な圧勝であり、これによって一気に電王戦が盛り上がったことは間違いがないだろう。
第1局の圧勝で、軽薄なる我々将棋ファンはあっさり手のひらを返し、意外とコンピュータはたいしたことないのではないか、という空気も生まれつつあった。
電王戦開幕前にはほとんど勝ち目がないだろうと考えられていた佐藤慎一(サトシン)だが、対局当日には案外あっさりサトシンが勝つのではないか、という声もそれなりにあったように記憶している。ここで実際サトシンがあっさり勝ってしまえば、それはそれで電王戦は盛り上がりに欠けるものとなっていただろう。
しかしponanzaは、忘れっぽい将棋ファンにコンピュータの強さをしっかりと再認識させてくれた。少々拙い序盤ながら決して形勢に大きな差をつけられることなく追走してゆき、圧倒的な終盤力できっちり差し勝つ。ponanzaの将棋は、我々が見てきた「強いコンピュータ」の将棋そのものであった。
この対局で、現役プロ棋士はコンピュータに初の黒星を喫することとなった。歴史的な一敗。そして序盤の拙さも含めあらゆる意味でコンピュータらしいponanzaの将棋は、この一敗をもたらすに相応しいものであった。
1勝1敗で迎えた第3局。既に述べたとおり船江恒平は三浦に次ぐ実力者で、人間・コンピュータ双方ともに力を尽くした戦いとなることが期待されていたが、はたして本局はそうした期待にたがわぬ名局となった。
上位棋士の実力を発揮して優位を築く船江。傍目にはかなりの大差と見えたのだが、68手目△2二金打がコンピュータの面目躍如たる一手だった。
受け100パーセント。
将棋では、こうした反撃の味を含まない手を指すようでは基本形勢が悪いとしたものであり、実際厳密には船江の方が良いのかもしれない。だが(プロ棋士も含む)観戦者の多くが楽観していたほどの大差でなかったことは明らかであり、人間の盲点を突く74手目△5五香以下ツツカナが逆転した点をとってみても、コンピュータの読みの確かさが改めて裏づけられた形である。
さらにこの後、いわゆる水平線効果(コンピュータは特定の手数で読みを打ち切るため、打ち切り後に好手がある場合にそれを考慮に入れられず悪手を指してしまう現象)でツツカナは敗勢に陥るものの、粘り強い指し手を続けて再逆転を果たす。
コンピュータのこれでもかという程の中終盤の強さと、それに追随できるだけの船江の高い実力があってはじめて実現した、まさに名局であった。
第2局・第3局とコンピュータが連勝したことで、将棋ファンの空気は再び「コンピュータ強し」へと変わっていった(まったく調子のいいものである)。そしてその強いコンピュータに対し塚田では勝てないだろう、との見方が大勢を占めていた。
対局はそんな大方の予想どおりに推移した。Puella αが攻めをうまくつなげ、塚田は74手目△1五と以下入玉をめざすもののその代償として飛車角を失う。相入玉となった場合(Puella αが入玉できることは確実な情勢であった)大駒(飛車角)各5点、小駒(それ以外)各1点として24点に達しないと負けとなるが、10点分の大駒を失った塚田が24点に達することは絶望的であり、つまり将棋としてはこのあたりで終わったと言ってよい。
ところが塚田はその「終わった」ところから約150手も指し続け、なんと最終的には引き分けに持ち込んでしまうのである。これは入玉将棋に十分対応できないコンピュータの自滅によるものであり、この約150手はバグ探しのような将棋とは別のゲームであったと評さざるを得ないだろう。
将棋としては大変微妙な部分もあったのだが、なんとしても大将につなげたいという塚田の執念が胸を打ち、特に将棋になじみのない一般人を中心に大きな話題となった一戦であった。
こうして見ると、どの対局も盤上にせよ盤外にせよ何らかの見所があってなかなか面白かったな。
で、数々のドラマを生み出してきた電王戦も、いよいよ最終第5局。