はてなキーワード: 藤井猛とは
https://anond.hatelabo.jp/20231027224113
将棋にはゾルトラーク的なものがいっぱいある。猛威を振るったけど対策が研究されて下火になった、あるいは陳腐化した戦法たち。
横歩取り戦法で一時期猛威を振るった後手番の戦法。先手番が3四飛車で歩を取った後に、3三角として飛車を2筋に戻りにくくする戦法。
飛車が序盤から高いところで動くので空中戦法とも。90年代後半から2000年代のタイトル戦でよく指された戦法。
後に先手番の対策が進んで、後手番が不利になったこともあり横歩取り自体が下火になった。
穴熊自体は江戸時代からある古い戦法だけど、居飛車穴熊は意外と新しくプロが使うようになったのは1970年代。
振り飛車側の振り飛車穴熊や美濃囲いに対して更に硬さで対抗する戦法。
渡辺明はこの戦法と上記の横歩取り戦法で若くして竜王になった。
振り飛車側も下記の藤井システムを始めとする対抗策を開発したが、それでも長いこと主流戦法だった。
振り飛車自体が指されなくなったことに加え、将棋の質自体が玉の硬さから盤面のバランスや広さが主流となったことにより下火に。
四間飛車の戦法。藤井システムの藤井は藤井猛九段から。藤井聡太ではない。そもそも藤井聡太が生まれる前の戦法。
四間飛車は本来玉を早い段階で美濃囲いなどに囲って戦うものだったけど、居飛車穴熊戦法に対抗するために四間飛車から居玉のまま美濃囲いの形に進み、角筋を使って居飛車穴熊を妨害する構想。
開発者の藤井猛の竜王戦3連覇の原動力ともなったが、居飛車側の対策が進んで使われなくなった。
後手番が角道を明けたまま飛車を序盤に5筋に振る戦法。開発者の近藤正和七段がいつもニコニコごきげんだったからこの名前に。
それまで振り飛車といえば角道を止めて戦うのが当たり前だったが、序盤から角交換も厭わない攻撃的な戦法で革命的だった。
この戦法の恩恵を最も受けたのは久保利明九段で、先手番の石田流とあわせてタイトル戦や順位戦での活躍の原動力となった。
これも居飛車側が超速▲3七銀や超急戦など対策を開発、トップ棋士の振り飛車党減少もあり下火に。
ちなみにこれらの戦法は、羽生会長が全盛期によく指していた。一方で藤井八冠は公式戦ではほぼ指したことがない。
AI以降の将棋はゾルトラーク的な戦法開発というよりも、以下の序盤から終盤にかけて間違えないかという方向になっているので、
もうこういう画期的な戦法や新手は出てこないだろう。藤井聡太が藤井と名の付いた新手を出すことはおそらく無い。
「藤井八冠は公式戦ではほぼ指したことがない」なんて書いたけど、対抗型の居飛車穴熊は指していて負け無しだった。
あとこれらの戦法はプロの棋戦ではゾルトラークだけど、女流やアマチュアではまだまだ主流戦法。
プログラミング未経験から1ヶ月ほどで、将棋の評価値の新たな方法でのグラフ化を行うPythonツールを作った。
https://github.com/k-the-p/notherscore
この記事は2本立てです。結果のグラフや将棋よりプログラミングに興味がある方はもう一方のプログラム編から読むことをおすすめします。
未経験から1ヶ月!Pythonで観る将ライフを向上させた話(プログラム編)
一局全体において、AIの示す第1候補手と第2候補手の評価値の差をグラフ化するツールを作った。
評価値は強力で便利なものだ。それを否定できる人はいないでしょう。しかし評価値が絶対に正しいものかといと、それは怪しい。単にAIが今も強くなり続けていることは多かれ少なかれ現在のソフトが間違っていることを意味するし、そこまで極端なことを言わなくても、評価値はそもそもAIのための数字であって、それを人間の将棋にどれだけ活かせるのかという問題もある。
こうした考えは、私が振り飛車党であるということが影響しているのかもしれない。AIは飛車を振った瞬間に、相居飛車戦であれば若干形勢を損ねているぐらいの評価値を出すのだが、いくらなんでもそれはないだろうと思う。そうした思いを抱えている中で、もう一つの記事でも紹介した藤森哲也先生の「AIの一手は最強の一手なんです。確かにプラス1000点になるけど一手間違えた瞬間にマイナス何百点になるような綱渡りの手。それよりもアマチュアの皆さんにはプラス数百点で得は少ないけど安全な道、最善の一手を学んで欲しい」(大意)という言葉や、佐藤天彦先生の振り飛車転向以降のインタビューを読むにつけ、「それをAIを使って調べてみると面白いんじゃないか?」と思うようになりました。
なのでプログラミングを覚えるところからやってみた。その辺りはもう片方の記事で詳しく書いたので、以下では分析してわかったことを書いてみます。
まずは、1995年に行われた藤井猛六段-井上慶太六段戦(段位はいずれも当時)、有名な藤井システムの第一号局を見ながらグラフの見方を確認しましょう(以下全て使用エンジンは水匠4、1手10万局面)。
このグラフを見ると、30手ごろから井上六段のグラフが下方向に向かって大きく傾いているのが見て取れます。30手ごろと言えば、まさに桂馬が跳ねて角道を開ける、藤井システムが炸裂した瞬間とも言える場面ですが、評価値自体はやや藤井有利程度で、すぐに大きく開いているわけではありません。
しかしこの局面でグラフが下に振れているということは、井上六段は「一手間違えると大きく不利になる局面」に連続して立ち向かわなければならなかったということがわかります。結果として井上六段は徐々に不利に陥っていきます。
他方の藤井六段のグラフは中央から大きく離れることがなく、一見すると「何を指しても大勢に影響はない」ように見えますが、不安定な藤井システムの将棋においてそうした均衡を保つのにこそ超絶的な技量と研究が必要とされることは言うまでもありません。
佐藤康光・山崎隆之・糸谷哲郎、はい、今期A級へんt…力戦派三羽烏ですね。「力戦派」の定義って今まで定量的に分析されたことが無かったと思うのですが(見れば分かるので)、今回分析してみてそれができそうだな、と思いました。ここで3枚のグラフを見てみましょう。
それぞれの共通点があることがわかりましたか? ここでは序中盤に着目してみましょう。どれも評価値自体は互角なのに、力戦派の方だけグラフが振れているのがわかるでしょうか。これを言葉で言うと、「相手は何を指してもいいのに序盤から自分だけ綱渡りしながらも互角を保っている人」ということになります。
自分で言うのもなんですがこれ、けっこう面白い知見ではないでしょうか。言われてみれば確かにそうだけど、というのが数字で表せるということは、「山崎糸谷佐藤康光みたいな将棋を指すAI」という可能性が決して夢物語ではないことを意味しています。だいたい互角の手の中で、綱渡りの手を選ぶようにすればいいわけですから(上手くいくかは知りませんが)。
では、正統派(3人の先生申し訳ありません)の将棋はどんなグラフを描くのだろうか?
1枚目は棋聖戦第2局の藤井渡辺戦ですが、これはある意味でとても典型的な藤井四冠のグラフです。自分だけ選択肢が多い状態にしながら、相手だけを間違えたら危ない状態に置く。その後に行われた棋聖戦第3局のグラフ(2枚目)を見ると、渡辺三冠も藤井四冠と同じ方針をとって食らいつこうとしているのがわかります。3枚目の王位戦挑戦者決定リーグ戦における藤井豊島戦も、藤井四冠の方だけグラフが落ち着いているのが目に付きます。4枚目の竜王戦第4局豊島藤井戦は、豊島竜王が藤井四冠のお株を奪うような指し回しをしていましたが、最終的には崩れてしまった。この指し方はそれだけ難しいということでしょう。
自分だけ選択肢を残しながら相手に難しい必然手を指さざるを得ない状況にさせるということは、藤井四冠からすると相手の反応を予測しやすく、相手からすれば最善手を見つけるのみならず藤井四冠の多様なありうる応手を調べなければならないということを意味します。言葉にすれば簡単ですが、これはまさに超絶技巧でしょう。単にAIの評価値が右肩上がりになるのを眺めているだけでは分からない、藤井四冠の強さを示すことが出来たと思います。
ここではいちいちグラフを示しませんが、振り飛車のグラフは、評価値はもちろん若干悪いのですが、中盤で居飛車側のグラフだけが振れる傾向にあるように思いました。すなわち、中盤になると振り飛車はまったり指せるのに対して、居飛車党は間違えると形勢を損ねやすくなるということです。これが、AIが評価しないのに反して、人間同士ではまだまだ振り飛車が有力である一つの理由であると私は思いますし、これは多くの振り飛車党の先生が言っている「評価値は若干悪くてもねじり合いになれば美濃囲いが固くて有利」という見解にも一致します。
私は評価値だけを見て悪手だの名局だの言う傾向には嫌気がさしていましたが、今回は自分で作った愛着もともなって、ろくに指し手の意味も考えずに多数の対局をグラフだけ眺めて面白がる、という行為につい耽溺してしまいました。
あなたもぜひ楽しんでみては、というには導入のハードルが高いのですが、きっとここまで読んでくださった方には価値があるのではないかと思うので、暇な方はトライしてみてください。ただ、導入方法についての質問にはお答えできません。これは意地悪でも手抜きでもなくて、単に人に教えられるだけの知識を私が持っていないからです。頑張ってください。
一昨日、渡辺明名人が衝撃的な動画をYoutubeにアップした。
https://www.youtube.com/watch?v=kO_NB9AaYEI
内容的には渡辺名人も語るとおりアマ高段向け、あるいは全て理解できるならプロになれるレベルでかなり難しい。ただ雰囲気を掴むだけなら、観る将でも楽しんでいる人は結構いるようである。個人的にはなるべく多くの人に観てほしい。渡辺名人の軽妙明快な語り口は、「よく分からないけど何かすごいものの一端に自分は今触れている!」というセンスオブワンダーを与えてくれるはずである。
動画では、先の名人戦第3局で現れた矢倉(戦法・囲い)で端歩(先後合わせて計4個ある一番端の歩)を突く一手について30分にもわたって語っている。断片的には渡辺名人自身感想戦および将棋世界2021年7月号の観戦記、朝日新聞の動画(https://www.youtube.com/watch?v=NnNchRwnCCQ)でも語ってきたことではあるが、ここまで分かりやすく展開して話されたことは初めてである。
名人が30分間特定の一局面の端歩の意味を解説する(しかも直前の名人戦で現れた新鮮な局面で!)。これに将棋ファン達(プロも?)は震えたのである。一般的に将棋は端よりも中央、歩よりもその他の駒の方が価値が高いので、飛車角金銀とか、歩にしても中央付近の歩を動かした方が価値の高い手になりやすい。アマチュア向けの指南では端歩は「心の余裕」とか「挨拶」とか言われている。今は一手損するけどもしかしたら中終盤で得になるかもね、相手に突かれたらこちらも突いておきましょうね、ぐらいの意味である。
一方プロ棋戦の解説では「この局面の端歩の意味を説明しようと思うと本が一冊書ける(だから説明省略しますね)」などと言われることもしばしばある。しかし、結局その説明がアマチュアに向けて開陳されることはまずない。その理由はもちろん特定戦型の端歩を延々扱う本なんて売れないからである(強いて言えば例外は連載が1章で終わり10年以上経ってから刊行された伝説の羽生善治『変わりゆく現代将棋』くらい?)。
それを渡辺明という、時の名人が30分も説明するのである。渡辺名人は何度も、「AIが局面を点数化してくれるのが大きい」と言う。端歩の関係は突く突かない2つ突くの組み合わせで36通りあるのだが(端歩三十六景という言葉がある)、プロでさえその36通りはAIが登場するまで、ほとんど雰囲気や経験から語っていた(例外的にそこまで考え抜かれた戦法は「システム」と呼ばれた)。しかし36通り全てを点数化することが可能となったAI以降の現代将棋では、端歩によって景色が大きく変わってくるようになった。評価値ディストピアという言葉を生み出した佐藤天彦九段が「予想されてなければAIでマイナスがついてもいいけど予想されてるマイナスはきつい」と言ったように、現代のトッププロは想定局面の端歩36通りぐらいは全て研究した上で対局に臨むからである。
また渡辺名人は「AIは点数を教えてくれるけどなぜその点数なのかは教えてくれない。それを考えるのが研究」とも言う。ここで思い出すのは『銀河ヒッチハイクガイド』のスーパーコンピューターが導き出した、「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」すなわち「42」である。現在の将棋AIはある局面における疑問の答えを「123点」などと教えてくれるが、なんでそうなるのかは教えてくれない。我々はすでに『銀河ヒッチハイクガイド』の世界に生きている!
以下で考えたいのは、将棋AIの評価値が神託のように見なされている事態についてである。
羽生九段は「将棋の神様と指すなら角落ちでいい勝負では」と言い、藤井二冠は「将棋の神様がいるなら一局お願いしたい」と言った。棋士も、将棋ファンも、将棋の神様についての話は大好物である。
将棋の神様。それがいるとしたらどんな存在だろうか。どうも、みんな将棋を完全解析した存在と、それに限りなく近いが完全解析したわけではない存在の間を無意識に想像しているように思える。
読者の中にも、「9マス○×ゲームの神」を名乗る資格がある人は多いように思う。○×ゲームは両者最善手を指し続ければ引き分けになることが完全解析されていて、それを達成できる(そして相手が悪手を指せば必ず勝てる)人は結構いるだろう。それでも、「○×ゲームの神」を名乗りたい人はそんなにいないようにも思う。それは、○×ゲームが自分にとっては既に退屈なものと成り果てているからである。「○×ゲームの神」を名乗るにふさわしいのは、両者引き分けという小賢しい結論に達せず、同級生に無邪気に無双している小学生とかではないか。
そういう、無邪気にその対象を楽しんでいて、かつすさまじく強い存在。将棋においてもそんなものが神様であって欲しいではないか。神様はいるけどとっくに下界への興味を失っているなんて悲しすぎるではないか。どうせ神様なんていないのだから、想像するのも希望するのも自由である。
そこで、AIである。AIは無邪気である。無邪気というか、少なくとも人間の棋士が持っていそうな邪気はない。そしてすさまじく強い。それは、人間の名人を破ってなお強くなり続けていることからも明らかだろう。
しかし、AIは将棋を楽しんでいるのだろうか? 常識的な考えと、そして私の考えは同じくNOである。AIは単に、何億手を探索し、何万種類とかのパラメーターを組み合わせ評価し、最善手を選択し続けるだけである。
振り飛車という戦法がある(以下、将棋に詳しい人は「振り飛車」を「山崎流パックマン」および「康光流この……何?」などに置き換えても良い)。振り飛車は、序盤数手目で飛車を左に「振り」、玉を右(相手の飛車の反対側)に囲う戦法である(振り飛車党総帥である藤井猛九段[藤井二冠とは別人]があるとき「振り飛車は玉を右に囲う戦法。名前になってるけど飛車の位置は実はどうでもいい」と説明していて蒙を啓かれた気分だった)。逆に居飛車は飛車が元の位置(か周辺数マス)に「居」るまま、玉を自分の飛車の反対である左側に囲う戦法である。振り飛車より一手早く攻めることはできるが、相手の飛車角という大砲の射線上に玉を配置せざるを得ないなど、それぞれメリットデメリットがある。両者それぞれを指す人は振り飛車党、居飛車党と分類され、阪神ファンと巨人ファンぐらいの意味を持っている。
この振り飛車であるが、プロおよびアマすなわち人類の見方としては「有力」で完全に定まっている(ここ数十年、という話ではなく記録に残る最古の江戸時代における達人同士による棋譜も居飛車対振り飛車である)。しかしそれに反して、AIによる振り飛車の評価は極めて低い。飛車を振る手は、ソフトにもよるが大抵-100~-200点と、一手パスよりも厳しい評価を付けられることが多い。そしてAIが自然に振り飛車を指すことはまずないという。
この200点という数字の評価が難しい。定義として一歩の価値が+100点とされているが、お互いに居飛車すなわち相居飛車の序盤で+200点は、プロ的には作戦勝ち気味~やや指しやすい、藤井二冠であればこのまま間違えず有利を拡大して勝ち切っても不思議ではない、ぐらいの数字である。渡辺名人が目指した、「両方の端歩を付き合っていて急戦になった後手有利の局面」は手元で確認すると後手+180点くらいであった。アマチュアでもよく研究している高段者であれば「よしよし」と思うぐらい。しかし、振り飛車対居飛車の対抗形の場合、相手が振り飛車にしてきたからといって、相手に-200点がついたからといって、作戦勝ちなどと考える人類はいない。それは相居飛車の+200点の局面と、対抗形の初期状態+200点の局面から、それぞれ勝ったり、そこまで行かずとも有利な局面まで導いた経験的な確率があまりに異なるからだ
確かに、振り飛車をAIに対して指せばほぼ必ず負けるのだが、それって実は居飛車で指しても(トッププロであれ)同じことである。さらに、AIが教えてくれる「振り飛車ワクチン」は極めて難解である。振り飛車の囲いがしっかりしているのに、居飛車のペラペラの舟囲いから金銀が旅立って王様が一人で戦うような。いわゆる「人間には指せない手」というやつである。なぜ人間に指せないかというと、人間は間違えるからだ。終盤間違えないなら確かに王様が一人ぼっちでも詰まされさえしなければ勝てるのだろう、でも人間には無理だよね、という。
結局人間同士の戦いであれば、アマであれトッププロであれ対抗形は序盤の-200点とは特に関係ないように思える終盤の勝負になりやすい。逆に言えばプロの相居飛車は、序盤で即死魔法をどちらが掛けられるかの研究勝負になりやすい。佐藤天彦九段はその理由を次のように語っている。
「相居飛車は玉の囲いが盤上の対角線上に近い場所にあることが多く、それゆえに相手の攻撃陣が自分の玉の直上にいるので、すぐに玉が危なくなります。感覚で指していると、ぴったり詰む変化に入ってしまうこともよくある。しっかり読まないといけないし、必然手が多いから誰が指しても同じ将棋になりやすいです。
でも振り飛車にすれば、今度は攻撃陣同士が向かい合っているので、すぐに玉が詰む、詰まないの変化にはなりにくい。だから、最善手じゃなくても、致命傷になりづらいんです。」
AI的な、あるいは神様的な最善手でなくても勝てる戦法。あるいは、将棋を指す人間の地力が試される戦法。それこそ人間による人間のための人間の戦法ではないか。などと考えたかは分からないが、生粋の居飛車党で居飛車で名人も獲った佐藤天彦九段は「評価値ディストピアをどう生きるか」という問題提起を行った後、振り飛車を指すようになった。
神様と振り飛車について。ひょんな例えだが、たとえばアリが人間とは違うけど結構ちゃんとした社会を作っていると、何か感動を覚えると思う(参考: | 東京ズーネット)。我々はアリにとって、ある意味では神に等しい存在であると思う。生かすか殺すかは我々の自由であるし、アリの一生よりもずっと長い時間を生きることができる。そう考えると、将棋の神様は振り飛車を指さなさそうだし、振り飛車の棋譜を伊勢神宮とかに奉納すると「おお、全然最善じゃないけど意外とちゃんとしてて面白いじゃん」などと喜んで貰えそうだな、と馬鹿馬鹿しくはあるが思う。
AIこと将棋の神様、とまではいかない……将棋天使?はとても言葉少なだ。「42」としか言ってくれない。たしかに、神様がどう考えているかのヒントにはなる。しかしその数字は間違っているかもしれない(将棋AIは日進月歩で強くなり続けているが、それは今までの将棋AIが間違い続けていたということも意味する)し、人間が出来ることとはあまりにかけ離れた目線からのものかもしれない。しかも天使が饒舌になることは、ディープラーニングの隆盛などを見ると当分なさそうである。それでも、である。人間は、神様の言うことを無視できない。ならば神様の言うことをそのまんま信じようとか、いや神様の言うことを人間に合わせてチューニングしようとか、いや俺は人間の生き方で生きるとか、色々な生き方が出てくるのは当然のことである。
これって多分今後多数の分野で起こることである。経理天使とか自動運転天使とかが、こうした方がいいよとは言ってくれるしそれは正しそうだが、なぜかは全く教えてくれない。その「神々の意図」を読み解くシャーマンみたいな仕事は当分不可欠なものとされるだろうし、これまでの人類史においてもほとんどの期間不可欠なものとされてきた。「神が死んだ」とされていたのは近代の100年ぐらいの特殊現象で、「やっぱり生きてたわ」となるのかもしれない。
シャーマンが何をしている(きた)のかといえば、「物語」の提供である。過激な哲学者(彼らもまたシャーマンであると思う)によれば、近代科学の基礎である因果関係すらも人間が世界を簡単に理解するための「物語」であるらしい。
棋士たちは、今日も神ならぬ身に生まれた人間として、「物語」を紡いでいく。私は、シャーマンならぬ身として生きるただの人間として、シャーマン達が紡ぐ物語をただただ享受するばかりである。
おまいらが「これはすごい」のタグをつけてブクマした記事を教えてちょーだい。
ちなみにわしがここ最近「これはすごい」つけた記事。どれもめっちゃ濃くて面白い記事です
〇小林まこと×増田俊也【対談】我が柔道部物語!! : 増田俊也公式ブログ|
http://blog.livedoor.jp/masuda_toshinari/archives/52112360.html
『柔道部物語』の作者小林まこと先生と、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』『七帝柔道記』の著者・増田俊也が柔道の魅力について、存分に語り合った2万字対談。「ゴング格闘技」掲載記事。
〇佐藤康光九段、藤井猛九段、菅井竜也王位座談会「創造の原動力」
https://book.mynavi.jp/shogi/detail/id=77983
将棋プロ棋士、升田幸三賞受賞者であり序盤のパイオニアとして知られる3人が「新手」について存分に語る。「将棋世界」掲載記事。将棋のことが少しはわからないと、内容はわからないかも。
〇小人プロレスと都市伝説 - 男の魂に火をつけろ! ~はてブロ地獄変~
https://washburn1975.hatenablog.com/entry/2021/03/25/150654
小人プロレスの歴史のまとめ。けっこうブクマついてるので、読んだ人は多いかも
〇いま囲碁界で起きている“人間とAI”の関係──「中国企業2強時代」「AIに2000連敗して人類最強へと成長」将棋界とは異なるAIとの向き合いかた
https://bunshun.jp/articles/-/43711
『りゅうおうのおしごと』の白鳥士郎が囲碁棋士と、囲碁のAIソフトについて対談。囲碁は詳しくないのだけど、面白かった。
〇“真空飛び膝蹴り”沢村忠はリアルに弱かったのか? 全241戦「フェイク試合だった」疑惑を検証する - 空手 - Number Web - ナンバー
https://number.bunshun.jp/articles/-/846495
『沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝』の著者が、キックボクサー沢村忠(ポケモン・サワムラーの名前の元ネタ)の裏側を探る。
〇『御意見無用』復刊記念・ありま猛氏インタビュー あだち兄弟にギャンブル漬けにされたお陰で『連ちゃんパパ』は生まれた? | - マンバ
昨今の藤井聡太さんの活躍でもって「現実がフィクションを超えてくる!」とはしゃいでるラノベ作家がいるが、
ぶっちゃけ藤井さんの活躍くらいのこと、棋界では別に珍しくもないんだよなあ。
・名人に香車を引いて(香車を落とすハンデありで)勝った升田幸三
・69歳で病死するまで棋界の頂点、A級に在籍し続けた大山康晴
・打倒大山に闘志を燃やし、研究に研究を重ねタイトルを奪取し、しかし36歳という若さで夭折した山田道美
・最年少プロとなり、C2からA級まで順位戦を1期抜けして、最年少名人戦挑戦まで止まらなかった加藤一二三
・自身が編み出した前代未聞の新戦法「藤井システム」を引っ提げ、最高峰の竜王戦でストレート勝ちし3期連覇した藤井猛
・天才羽生善治に先んじて永世名人資格を得た、羽生の小学生からのライバル森内俊之
・幼いころから難病を患い、病体ながらもプロになりA級まで登りつめ、羽生に6勝6敗の成績を残し、30を待たずに他界した怪童・村山聖
・7冠達成他、数多くの記録を打ち立て、現在も更新中の羽生善治
升田・大山時代から羽生世代までで、ちょっと思いつくだけでもこれくらいは書ける。
いずれも「話ができすぎ」または「ありえないと思われていた」ことである。
戦前から令和に至るまで細かく記せば、まあ軽くこれの20倍は書ける。
永世称号保持者
タイトル5期以上
カッコが付いている人は稼働していた時代が違いすぎて単純に比較できない人
あと何期かでS級4組に昇格する現役棋士
タイトル戦3期で竜王戦のみ現役となっている桐山清澄九段は事実上不可能なのでここに入れない。年齢や近年の実績から豊島と天彦以外は4組昇格厳しい。
藤井聡太は挑戦中の王位と本戦トーナメントに残っている竜王をダッシュし三冠になれば今年中にS級奨励会に入会、更に来年これらを防衛するか王将・叡王・王座のいずれかを奪取でタイトル2年目でS級4組に昇格。羽生善治ですらS級4組は4年かかっているのに(それでも充分化物)!
(なお、データはけんゆう様作成の「将棋棋士成績DB」を参照しています。けんゆう様には感謝を申し上げます)
年齢 | 棋士 |
---|---|
67 | 大山康晴(A級/27位) |
66 | |
65 | |
64 | |
63 | |
62 | |
61 | |
60 | |
59 | |
58 | |
57 | |
56 | |
55 | |
54 | 有吉道夫(A級/22位) |
53 | |
52 | |
51 | |
50 | 加藤一二三(B1/13位)内藤國雄(A級/17位) |
49 | |
48 | |
47 | 米長邦雄(A級/8位) |
46 | |
45 | |
44 | |
43 | |
42 | 中原誠(名人/3位) |
41 | |
40 | 淡路仁茂(B1/18位) |
39 | |
38 | 真部一男(A級/50位) |
37 | 青野照市(A級/7位) |
36 | |
35 | |
34 | |
33 | |
32 | |
31 | |
30 | 高橋道雄(A級/12位)福崎文吾(B1/20位) |
29 | |
28 | 谷川浩司(A級/1位) |
27 | 南芳一(A級/5位)島朗(B2/14位) |
26 | 神崎健二(C2/19位) |
25 | 塚田泰明(A級/11位)中田宏樹(C2/16位) |
24 | 森下卓(C1/2位) |
23 | |
22 | 阿部隆(C2/10位) |
21 | |
20 | 佐藤康光(C1/5位) 先崎学(C2/15位) |
19 | 羽生善治(B2/6位) |
18 | 屋敷伸之(C1/9位) |
中原誠(名人・棋聖・王座:この直後8/1に屋敷伸之に棋聖位を奪取されます)谷川浩司(王位)羽生善治(竜王)米長邦雄(王将)南芳一(棋王)
このシリーズで一番の縦長ですが、その原因は言うまでもなく大山康晴です。この2年後69歳でA級在位のまま死去。ほんの数年前までは羽生善治ならそれに並びうるのではと思われていましたが、さてそれが達成できるかは見ものです。私も健康に気をつけてせめてその歳までは健康に生きていたいと願っております。あと、有吉道夫・内藤國雄の西の両巨匠もまだまだ指し盛りですね。ご両名はそれぞれ74歳、75歳まで現役を務めました(内藤は規定による引退を待たずの自主引退)。このお二人が関東在住でしたら、2020年において長老格として加藤一二三だけがメディアを独占する、ということもなかったのではないかなあ、とも。
この表だけ見ると谷川浩司の周りにずらっと名前があって多士済々。しかもタイトルホルダーやタイトル経験者、A級在位者が多い。特に南芳一にいたってはこの前後数年でタイトル5期を重ねるなど最充実期といっていい活躍。にもかかわらず「谷川世代」という呼ばれ方はついにされず、しかもその後の歴史を見るに多分それは正しかった。1991年を最後に、福崎文吾まで含めてこの年代の棋士は谷川以外誰一人タイトルに届きませんでした。そういう意味では、棋界の「見る目」というのは冷徹なほどに的確です。また、もしかしたら2020年における30歳前後の棋士たちへの評価に重なる部分があるのかもしれません。
この表だと塚田泰明とは1つしか年齢が違いませんが学年では2つ、プロ入りでは3年度下なので、55年組よりは「羽生世代」に近い位置づけをされる森下卓。昨年木村一基が初タイトルを奪取するまでは「無冠の帝王といえば森下か木村か」と言われる存在でした。この年24歳、C1在籍ながら準タイトル戦格の全日本プロトーナメントを制しています。棋界一の律儀者とも称される物腰の柔らかさとじっくりとした矢倉を得意とする棋風で人気も高く、一般棋戦優勝8回、タイトル挑戦6回を数えながらついに54歳の今日までタイトルに手が届いていません。そのことについては本人の口からも幾度か語られてはいますが、それを判定できる人はだれもいないのでしょう。書かずもがなの無内容なことながら、それでも一筆書かずにおれないところがあります。
はい、30年前にもうこうやって出てくるわけですよ。この表の中には名前ないですけど村山聖と森内俊之はレート的にはすぐこの下にいますし、郷田真隆と丸山忠久はこの年の4月に新四段になったばかり、翌91年4月には藤井猛が、同10月には深浦康市が四段に上がってきます。そして屋敷伸之が上記の通り、2回目のタイトル挑戦中で中原から棋聖を奪取し史上最年少タイトルホルダーに輝く。上は大山から下は屋敷まで、そして中原・谷川・羽生の3人のスターを抱えるこの時期の「幅の広さ」はその前後には見られない豊穣さといえましょう。
レーティングという指標で見るなら、実は羽生は藤井聡太よりもほんの少しだけ早い17歳6ヶ月で全棋士中1位になっています(88年3月、藤井聡太は2020年2月に17歳7ヶ月。この比較こそ数字遊びに過ぎませんが羽生のほうが藤井よりプロ入りが遅く勝率も低いのに対局数と勝数の要素でこうなっています※追記:eloにせよglickoにせよ「将棋棋士の場合は」全体のレートがマイルドにインフレする(対して大相撲力士のレーティングは目立ってインフレしない)ので攻略する頂の高さは羽生より藤井の方がずっと高いのでした。その分藤井のほうが増やしやすくはありますが)。この時期は、ちょうど羽生にしては珍しい「不調」といえる時期で、もしかすると当時史上最年少でのタイトル獲得に伴う環境の激変の影響が出ていたのかもしれません。この年の秋には谷川の挑戦を受けた竜王戦で防衛を果たせず、年明けの棋王戦で南から棋王位を奪取してすぐにタイトルホルダーに復帰するものの、「前竜王」の呼称がなくなった現行の方式であれば、この4ヶ月弱ほど「羽生七段」になっていたということになります。そういう意味では、藤井聡太のここから1年ほど、あるいは高校を卒業したあとの1年くらいの動向には注目すべきでしょう。これまでは学業優先で免除されていた普及活動、将棋連盟主催のイベント、タイトル戦主催者企画のシンポジウムや講演会の依頼、単著の執筆依頼、テレビ出演への依頼などがそれでなくても多い対局の合間に豪雨のように降ってくるわけですから。
ここまで来たら羽生世代でとことん笑ってみよう。20年前までさかのぼっても全然動かないんだもの。
年齢 | 棋士 |
---|---|
60 | 加藤一二三(A級/30位) |
59 | |
58 | |
57 | |
56 | |
55 | |
54 | |
53 | |
52 | 中原誠(B1/17位) |
51 | |
50 | |
49 | |
48 | |
47 | 青野照市(A級/31位) |
46 | |
45 | |
44 | |
43 | 田中寅彦(A級/40位) |
42 | |
41 | |
40 | |
39 | |
38 | 谷川浩司(A級/2位) |
37 | 島朗(A級/23位) |
36 | |
35 | 塚田泰明(B2/18位) |
34 | 森下卓(A級/8位) |
33 | |
32 | 中川大輔(B2/19位) |
31 | |
30 | 佐藤康光(A級/6位)先崎学(A級/26位) |
29 | 羽生善治(A級/1位)藤井猛(B1/3位)森内俊之(A級/4位)丸山忠久(名人/5位)郷田真隆(B1/10位) |
28 | 深浦康市(B2/9位)屋敷伸之(C1/14位) |
27 | 木村一基(C1/11位)野月浩貴(C2/20位) |
26 | 三浦弘行(B1/7位)行方尚史(C1/15位)鈴木大介(C1/16位) |
25 | 堀口一史座(C1/13位) |
24 | 久保利明(B2/12位) |
23 | |
22 | |
21 | |
20 |
羽生善治(王位・王座・王将・棋王:四冠の平常運転、直後に谷川から棋聖を奪取して五冠)谷川浩司(棋聖:この直後無冠に)丸山忠久(名人)藤井猛(竜王:やっぱり竜王といえば藤井)
順位戦のシステム上、ベテランが上位クラスで奮闘と粘りを見せやすいという特性があります。中原十六世名人は00年3月にA級から陥落し引退も囁かれていたのですが引き続き順位戦にとどまり、むしろそれまで以上の自由な棋風に変貌しました。ただ、やはり競争は厳しく、この年度で田中と島が、その次の年度で加藤(とベテランではありませんが先崎も)が陥落し以後A級には復帰できませんでした(加藤の62歳A級は史上2位の高齢で実に見事なものです)
96年3月に羽生の七冠独占を許した谷川ですが、その年のうちに羽生から竜王位を奪取、さらに9年には羽生から名人位も奪取し羽生より先に永世名人資格を取ります。98年には佐藤康光に名人位、藤井猛に竜王位を奪われてまた無冠になりますが99年に郷田真隆から規制位を奪取、上記の通りその棋聖位も1年で羽生に奪われるものの2年後の02年には40歳で羽生から王位を奪取。分厚い羽生世代と40歳で伍していく気迫と覚悟には、全盛期とはまた異なる谷川将棋の魅力として輝くものがありました。
id:BigHopeClasicです(元増田ではない)
ブコメの中に「10年前はどうだったんだろう」というのがあったので、ちょうど10年前のを同じ基準(レーティングトップ20+A級棋士)で作ってみました。
年齢別の方がわかりやすい面もあるのでそちら基準で(名前の横のカッコ内は順位戦クラスとレーティング順位です)
年齢 | 棋士 |
---|---|
50 | 高橋道雄(A級/31位) |
49 | |
48 | 谷川浩司 (A級/15位) |
47 | |
46 | |
45 | |
44 | |
43 | |
42 | |
41 | |
40 | 佐藤康光(B1/6位) |
39 | 羽生善治(名人/1位)丸山忠久(A級/4位)森内俊之(A級/9位)藤井猛(A級/12位)郷田真隆(A級/14位) |
38 | 深浦康市(B1/7位) |
37 | 木村一基(A級/18位) |
36 | 行方尚史(B1/16位)三浦弘行(A級/17位) |
35 | |
34 | 久保利明(A級/2位) |
33 | |
32 | |
31 | |
30 | 松尾歩(B1/11位) |
29 | 山崎隆之(B1/5位) |
28 | 阿久津主税(B2/13位) |
27 | |
26 | 渡辺明(A級/3位) |
25 | |
24 | |
23 | 広瀬章人(C1/8位)戸辺誠(B2/10位) |
22 | 佐藤天彦(C2/20位) |
21 | |
20 | 豊島将之(C1/19位) |
羽生善治(名人・棋聖・王座:三冠なので不調と半ばマジ気味にネタにされてた時代ですね)/深浦康市(王位:ちょうどこの時期広瀬章人と王位戦を戦い広瀬が初タイトルを獲得します)/渡辺明(竜王:敵なしの6連覇中)/久保利明(棋王・王将)
十七世名人の谷川については多くを語る必要もないですが、50歳でA級を堅持していた高橋道雄については説明を。
昭和55年度(1980年度)は、今とはシステムが違うとはいえ1年度で8人もの棋士が四段に昇段し、かつその中で5名ものタイトルホルダー(高橋道雄、中村修、島朗、南芳一、塚田泰明)を輩出するという将棋史上でも空前のビンテージイヤーとなりました。そこでついた名前が「55年組」です。ただ、彼らとほぼ同じ年齢の谷川浩司は彼らより4年も早くプロ入りしていたためか「谷川浩司と同じ世代」というくくり方にはされることがありませんでした。この辺は「実年齢でくくるのか」「プロ入り年度でくくるのか」というくくり方で「羽生世代」と大きく異る部分ですね(ありていにいえば「くくる側の願望や思惑」が出るところでもあります)。
さて、谷川には及ばないものの17歳18歳で早々に四段昇段した他の4人と比べると、高橋は一歩遅れて20歳で四段昇段となりました。将棋界は面白いもので、このわずかな昇段年齢の差がその後のキャリアで大きな差を生むことが知られていますが、高橋は他の誰よりも早く23歳で初のタイトルを獲得し、そしてやや早枯れの傾向のあった同期たちの中では一人熟年まで力を保ち、48歳でA級に復帰し52歳までA級にとどまりました。「棋界における世代」の一挿話として特筆した次第です。
いやもう、さすがに呆れるしかないですよね、森内こそ順位戦から撤退してフリークラスに転籍しましたが、10年後の表から名前が消えたとはいえ行方はB1にとどまっていますし藤井猛もB2でまだまだ力強さを見せています。この分厚さと力強さが、20歳年下の豊島の世代まで重い蓋になったのがよくわかると思います。
この時点ですでに、松尾・山崎・阿久津(と橋本崇載)の4人は「もう若くないぞ、そろそろ一花咲かせないとあまり時間の余裕がないぞ」と言われ始めていたはずです。とはいえ、この4人でタイトル獲得どころか挑戦に届いたのさえ山崎1人、A級昇級すらままならないことになるとはまださすがに予測されていませんでした(松尾と山崎はA級に上がれず、橋本は1回、阿久津は2回昇級したもののすべて1年でB1に送り返されています)。それでも山ちゃんを諦めない。
上記の通り、この年のこの直後に広瀬が初タイトルを獲得するのですが、その翌年羽生に奪い取られてしまいます(なお「魂を抜かれた」のはさらにその4年後になります)。
もちろん天彦、豊島は渡辺に続く新鋭としてひとかたならぬ期待はありましたけど、初タイトルはともに28歳のときでした。広瀬も含め30歳手前で「実力と実績の均衡が取れて充実の盛りを迎えた」のですが、特に豊島についてはそれでも「遅れてしまった」感はあります。
というわけで、10年前にさかのぼってみると、「渡辺の孤独」により見えてくる部分があるのではないでしょうか。というかむしろ「谷川浩司の孤独」のほうが浮かんでしまうのかもしれないなこれ、とここまで書いて思いました。
ググったら既に存在していたみたいなのでトラバしておく https://anond.hatelabo.jp/20170614144018
こんにちは。ほんの思いつきで書いた「観る将」入門記事( https://anond.hatelabo.jp/20170623083815 )が怒涛のブクマをいただきましたこと、厚く御礼申し上げます。増田で1000どころか20もついたことないのに!
なるべく平易に、軽く、それでいて軽薄にならないように書いたつもりでしたが、「本当にこれで分かりやすいか?」「飯の話しかウケないんじゃないか?」などの葛藤もあったのでこの反響は素直に嬉しく思います。
Twitterを見ると将棋漫画の作者様や本職の将棋ライター・観戦記者の皆さんに怒涛のごとくシェアされており、極度の緊張で1日8時間しか眠れません。
さて、29連勝ですね。何が何やら分かりませんが、ともかく未知の領域です。
対局の雑感や今後の展望を語るとともに、前回の記事にいただいた質問等、私に分かる範囲でお答えしたいと思います。
仕事の合間に中継をチラチラ見ていました。夕方頃には増田四段が勝ちやすそうな局面に見えたのですが、その後の藤井四段の角と桂を生かした反撃が鮮やかでしたね。
私のへっぽこ棋力では増田優勢に見えても、プロ的にはまだまだ難しかったということなのでしょう。
増田四段も持ち味を見せましたが中終盤にかけて藤井四段の強さが際立ったといった印象です。はてなの皆さんはもちろん増田推しでしたよね?残念でした~。
竜王戦本戦は比較的持ち時間が長い(各5時間)ので、昼夜2回の出前チャンスがあります。
藤井四段→昼:豚キムチうどん 夜:五目炒飯品切れのためわんたんめん変更
増田四段→昼:ミニとんかつ定食 夜:ヒレカツ定食ライト(+肝吸い)
不本意な注文変更を強いられた藤井四段に対し、増田四段が気合のカツ連投で藤井四段の作戦変更を咎めていく展開となりました。
しかし藤井四段が得意の麺類に切り替えて頑強に抵抗したため、最終的には増田四段にミニ+ライトという軽い打撃のツケが回ってきた格好です。
歩は将棋で最も重要な駒だが、歩のみで勝つことはできない。同様に、ジャブだけで飯対決には勝てないのだ。
ちなみに私が確認した中で藤井四段は本対局を含めこれまでに出前を22回、うち15回麺類を含むメニューを注文しています。特に多いのはうどん(6回)や日本そば(6回)などの和麺であり、みそ煮込みうどんなど熱々系の注文も辞さない構えです。
これは「鍋焼きうどんも好きなのですが、熱いので、冷めるまで待っていると15分ぐらいかかる」とうな重に転向した加藤一二三 九段とは対照的ですね。
いつも対局料とか賞金見ると将棋界のお金の回り方がよくわからなくて、スポンサーってどのくらいいてスポンサードすることでどれだけ利益があるのだろう
スポーツにも囲碁・将棋にも言えることですが、競技へのスポンサードは広告だけでなく文化振興という意味合いも少なからずあるので、スポンサードすることでこれくらい利益がありますというような定量化が難しい側面があります。
分かりやすい例としては出版関連事業でしょうか。報道各社は主催する棋戦の観戦記等を出版したり、本紙に棋譜を掲載しています。またマイナビ女子オープンを主催するマイナビも棋書を多く出版しています。
このような事例はスポンサードしたことによって直接的な利益を得ているとも言えるでしょう。
ちなみに日本将棋連盟の「棋戦一覧」( https://www.shogi.or.jp/match/ )から各棋戦の「詳細情報」を見ると主催者(スポンサー)が分かります。
主要タイトル戦は全国紙主催や地方紙の共催が多いですね。他には囲碁・将棋チャンネルやNHKなどの放送局、リコーなど民間企業、加古川市や倉敷市など自治体主催のものもあります。
日本将棋連盟の収益が実際どうなってるのか気になる!という方は財務諸表(https://www.shogi.or.jp/about/information_disclosure.html )などを眺めてみるのも面白いかもしれませんね。
「プロ入り28連勝の棋士を5敗もさせる3段リーグとかいう地獄があるのか」
そうなんですよね。前回もさらっと説明しましたが、三段リーグは年に2回開催され、奨励会三段たちが各18局を戦って上位2名が四段昇段・プロデビューを果たすという地獄のリーグ戦です。
これまでに60回開催されたものの未だに全勝で突破した三段はおらず、現時点では16勝2敗(5名)が最高成績です。
中には11勝7敗で辛くも昇段した者(2名)もいれば、14勝4敗という好成績を挙げながら昇段を逃した者(4名)[注1]もおり、年齢制限と相まってこの辺りも地獄とされる所以でしょう。
三段リーグで5敗してるってことは、やっぱこの連勝中に飛躍的に強くなってるってことだろうか。それともいまの三段に化け物の卵がひしめいているのか。
これはどちらとも言えるかなと思います。前回の記事でも触れましたが、棋士の力のピークは30代半ばまでとされており、例えばそれを過ぎた棋士が絶賛修行中の三段とまみえれば敗れることもあるでしょう。
新人王戦では都成竜馬三段(現四段。イケメン)が奨励会員でありながら優勝を勝ち取った例もあります。インターネット対局や棋譜データベースの発達で研究の障壁が下がった点も無視できません。
このあたりは現役棋士・大平武洋六段のブログ( http://oohira243.blogspot.jp/2017/06/blog-post_36.html )が現場の肌感覚として参考になる気がします。
ただ、その一方で藤井四段が急速に成長しているのもまた事実だと思います。ここで彼の奨励会時代の成績を見てみましょう。奨励会ウォッチャー情報の継ぎ接ぎなので多少ずれがあるかもしれませんがご了承ください。
段級位 | 勝敗 | 規定 |
6級 | ○○○●○○●○○○○昇 | 9勝2敗 |
5級 | ○●○○○○○●○●●○○●○●●○●●○○●●○○○●○○●○○○●○昇 | 9勝3敗 |
4級 | ○●●○○○○○○昇 | 6連勝 |
3級 | ○●●○●●●●●●B○○○A●○○○○○○昇 | 6連勝 |
2級 | ●●○○●●○●○○○●●○○○●○○●○●○●●○○●○○○○○●○●○昇 | 9勝3敗 |
1級 | ○●●○○○○○○●○○○○○昇 | 12勝3敗 |
初段 | ○●○●○●○●●●○●●●○○○○○●●○○●○休○○○●○昇 | 12勝4敗 |
二段 | ●●○●○●●●○●○○●○○○○○○●○●●○●○○○●○○○昇 | 14勝5敗 |
三段リーグ | ○●○○○○○●○●○○○●○○●○ | 13勝5敗・1位 |
通算208局132勝76敗(.634)
ご覧の通り昇級・昇段ペースはかなり早い部類ですが、プロデビュー後の彼ほど圧倒的ではない、というのはお分かりいただけるでしょうか。
3級まではあっという間でしたがここで少し足踏みをします。6連敗してるんですよ!6連敗!【アルファベットの補足:成績が悪いと「B」を取り、Bを保持した状態で再びBを取ると降段級、という仕組みです。規定の成績でA(通常の状態)に復帰します。】
初段・二段あたりが顕著ですが、昇級・昇段直後に少し黒星を重ねたのち、ぐっと勝率を上げています。カテゴリが上がるごとに成長曲線を描いてきているというわけですね。
二段で白星を重ね始めた頃から新たな成長曲線を描き始め、その勢いのまま三段リーグを突破し、プロデビューしたとすれば…?今の大ブレイクも決して不思議ではないのかもしれません。いや十分不思議だけども。
"三浦弘行九段の騒動で揺れる将棋界に一時の安寧をもたらしました。"三浦九段は冤罪被害者である事を今や将棋連盟も認めているのでここだけ訂正して欲しい
この件に関しては記事の本題から外れていたので詳細への言及を避けただけであり、三浦九段へ嫌疑をかける意図がないことは当該段落から十分読み取っていただけると思っています。
したがって文章自体の訂正はしませんが、三浦九段への処分は明確に不当であったという事実はこの場で申し添えておきます。(「訂正」ではなく「補足」してほしい、という趣旨ならば理解できます。)
ほんとだ……え、ほんとだ!すごい!気づかなかった!ちなみに18の下は17連勝(佐藤天彦、佐藤康光、丸山忠久)なのでたぶん偶然です…たぶん…。
これはニコニコ(ドワンゴ)がというより、インターネット環境それ自体の普及がもたらした現象であると言えるでしょう。もともと観戦記などで棋士の食事が話題にあがることはありましたが、
ネット中継が始まると盤上・盤外問わずあらゆる情報がコンテンツとして逐一伝えられるようになりました。中でも画像情報は非常に訴求力が大きい。その流れにぴったりハマったのが食事・おやつではないでしょうか。
各々の将棋スキルが観戦の満足度を左右していた将棋中継において、初心者も上級者も一緒になってあれが旨そう!これが旨そう!と楽しめるものができたということは、昨今のブーム形成にとって非常に大きかったと私は思います。
このあたりは観戦記者・松本博文氏の記事( https://cakes.mu/posts/12986 https://cakes.mu/posts/16722 )が参考になります。
どちらも圧巻の記録ですね。四冠時の18連勝(2005~2006)を例にすると
日付 | 勝敗 | 先後 | 氏名 | 棋戦 |
9月10日 | ○ | 後 | 藤井猛 | 第64期順位戦 A級 3回戦 |
9月12日 | ○ | 先 | 佐藤康光 | 第46期王位戦 タイトル戦 第6局 |
9月16日 | ○ | 先 | 佐藤康光 | 第53期王座戦 タイトル戦 第2局 |
9月21日 | ○ | 後 | 佐藤康光 | 第46期王位戦 タイトル戦 第7局 |
10月1日 | ○ | 後 | 佐藤康光 | 第53期王座戦 タイトル戦 第3局 |
10月6日 | ○ | 後 | 鈴木大介 | 第64期順位戦 A級 4回戦 |
11月25日 | ○ | 先 | 谷川浩司 | 第64期順位戦 A級 5回戦 |
12月2日 | ○ | 先 | 井上慶太 | 第77期棋聖戦 最終予選 1回戦 |
12月11日 | ○ | 後 | 中村修 | 第55回NHK杯戦 本戦 3回戦 |
12月14日 | ○ | 後 | 郷田真隆 | 第64期順位戦 A級 6回戦 |
1月12日 | ○ | 先 | 佐藤康光 | 第55期王将戦 タイトル戦 第1局 |
1月16日 | ○ | 先 | 久保利明 | 第64期順位戦 A級 7回戦 |
1月19日 | ○ | 先 | 佐藤康光 | 第55期王将戦 タイトル戦 第2局 |
1月24日 | ○ | 後 | 先崎学 | 第19期竜王戦 1組 ランキング戦 1回戦 |
1月26日 | ○ | 先 | 佐藤康光 | 第55期王将戦 タイトル戦 第3局 |
1月30日 | ○ | 先 | 村山慈明 | 第77期棋聖戦 最終予選 2回戦 |
2月1日 | ○ | 後 | 佐藤康光 | 第64期順位戦 A級 8回戦 |
2月12日 | ○ | 先 | 谷川浩司 | 第55回NHK杯戦 本戦 準々決勝 |
◎王位戦・王座戦・王将戦(全棋士参加棋戦を勝ち抜いた1名とタイトル防衛戦)
以上の5棋戦で驚異の14勝(!)を挙げています。ちなみにそのうち8勝を挙げた相手が佐藤康光ですが、当時の彼はA級に所属し、棋聖のタイトルを保持し、王位・王座・王将の3棋戦全てを勝ち抜いて羽生四冠への挑戦権を得た強豪中の強豪です。
その他の棋士たちも皆当時の一線級ばかりです。もう何が何だかわかりません。一体何なんだよ。将棋星人かよ。
次の対局は前回と同じ竜王戦決勝トーナメント2回戦!勝てば77万円!
https://www.shogi.or.jp/match/ryuuou/30/hon.html
相手は佐々木勇気五段(4組予選優勝)です。ジュネーブ生まれ埼玉育ち、ピュアで熱い好青年です。レーティングは1779で全棋士中14位。(2017/7/1)
昨年藤井四段が最年少(13歳2ヶ月)で奨励会三段となってちょっとした話題になりましたが、実はそれまでの最年少三段記録保持者(13歳8ヶ月)が彼、佐々木勇気です。
1回戦の増田四段と同じく16歳でプロデビュー。竜王戦4~6組予選は若手の登竜門であり、若手有望株はやはりデビューが早い傾向にありますね。
そうした経緯もあってか、彼自身藤井四段に対しては胸に秘めたものがあるのかもしれません。
叡王戦(藤井聡太四段vs梶浦宏孝四段)では定刻前の対局室に現れて並外れた存在感を放ち話題になりました。おそらく彼は秘めてもバレるタイプですね。(参考: http://www.nicozon.net/watch/sm31378949 )
そしてこの二人がいつ戦うのか?という話になるわけですが…なんと明日です!
https://www.shogi.or.jp/news/2017/06/72_12.html
将棋連盟ライブの他にもニコニコ生放送やAbemaTVで中継されます。日曜日なので視聴者数がすごいことになりそうですね。
いい機会なので将棋よく分からない…という方も少し覗いてみてはいかがでしょうか。おすすめ時間帯はお昼前と夕方です。昼前にはどういう戦いになるかがおおよそ定まり、昼食予想でコメント欄が賑わいます。
また夕方以降は一手一手が形勢を左右するスリルがあり、飯だけでない真剣勝負の一面を垣間見ることができるでしょう。
本当は昨日書き上げるつもりでしたが、プレミアム残業フライデーで無理でした。
藤井四段の連勝はいずれ止まります。それは明日かもしれないし、ひょっとしたらあと何ヶ月も続くかもしれません。それまでの間、将棋界の外をも巻き込んだ狂騒を楽しみたいと思います。
ちなみに私の今日の昼食はベーコンを大量に入れたペペロンチーノでした。シンプルで奥深い棒銀のような料理ですね。では。
[注1]14勝で昇段を逃した4名は全員その後のリーグで四段昇段を果たしているため、14勝できるほど強ければいずれは上がれるとも言えます。4名の中にはあの豊島将之八段も!
【将棋速報】 王座戦の三手目で将棋板騒然となってるけど何で?
http://blog.livedoor.jp/goldennews/archives/51738005.html
という記事が多数ブクマされていましたが
ドラゴンボールでもガンダムでもなんとなくうまく例えられていないので騒然とした理由について軽く説明してみます。
騒然となった理由については、複数の要素が混ざっている上に基礎知識をどこまで説明するのか大変難しいですが。もう少し短くまとめる才能があればよかったです。
さて、件の羽生さんが飛車を振ったとは、正式には「角交換四間飛車」という振り飛車戦法を採用したことについての反応です。
将棋には、大きくわけて2つの戦法があり、1つは飛車をそのままの位置で使う居飛車、もう1つは飛車を序盤すぐに動かして使う振り飛車という名前で区別されています。
そして、羽生さんは、基本的に居飛車を採用している居飛車党と呼ばれる棋士ですが、
と同時にその時に流行している戦法を居飛車振り飛車問わずに採用するオールラウンドな棋士で、
1つの戦法にこだわらずその時その時の最新戦法に目を付け、いち早く指しこなすこと、それが長年にわたって活躍する羽生さんの強さの1つでもあります。
そのような事情もあり、羽生さんが採用した新しい戦法は、その定まらない評価にお墨付きがつくというような現象もしばしば起こることになります。
では、今回採用した「角交換四間飛車」とはどのような戦法なのでしょうか。
それには振り飛車という戦法の位置づけについてさらっと説明しなければなりません。
現代将棋において、振り飛車という戦法は、将棋の王道と言われている居飛車に比べて少し分が悪く、工夫を常にしなければ基本的にはやや苦しい戦法であると言われています。
それゆえ、革新的な戦法も生まれやすく、新しい振り飛車戦法が生まれて流行し勝ちまくると、しばらくして居飛車側が対策を出しその戦法が衰退するという歴史を何度か繰り返しています。
現在流行している振り飛車戦法である「ゴキゲン中飛車」に対しても、昨年ごろから優秀な対策が出されはじめ、
振り飛車党は、現在進行形で新たな戦法を模索し出しているところです(画期的な発明がなかなか生まれないように、振り飛車の新しいアイディアも簡単には生まれません)。
そこで、今年に入って新たな振り飛車党の主力戦法となるのでは?とささやかれているのが、今回羽生さんが採用した角交換四間飛車です。
この戦法は、昔からごくたまに指されてはいたのですが、その一見棋理に反するような構想とあまりよくない勝率もあいまって
良い評価を得られてはおらず、一方でゴキゲン中飛車などの勝てる流行戦法があったのもあり
振り飛車党にとっても好んで採用する戦法ではないとほとんど見向きもされていませんでした。ここ一番の奇襲戦法という感じでしょうか。
そんな中、いち早くその優秀性に目をつけ、そのアイディアを1つ1つ肉付けし、数年かけて一つの体系的な戦法に育て上げたのが
今回の王座戦の前に行われた王位戦で羽生さんと熱戦を繰り広げた藤井猛という棋士です。
しかし、産みの苦しみというものでしょうか、藤井さんが1局1局手順を工夫し1局1局その戦法を修正して行く中で
A級というトップリーグから2年連続の降級してしまったのもあり、特に勝率の良くない後手番において藤井降級の戦犯戦法と揶揄する将棋ファンもあらわれていました。
(もちろん、その一方で竜王戦2組優勝や2年前の王座戦挑戦、そして王位戦2度のリーグ優勝、今回の王位戦挑戦と
藤井さんがまたタイトル戦に絡むようになった原動力の1つともなっています。あくまで一部のファンの空気を説明する必要があったので書いてみました。)
そんな角交換四間飛車も昨年からのゴキゲン中飛車の苦戦の影響を受けて、
今年に入ってからは、このままゴキゲン中飛車がダメになったとすれば、
次に流行するのはこの戦法なのでは?という声が少しづつ聞こえてきはじめています。
そのような空気の中で振り飛車党の棋士の採用率も少しづつ増えて来ました。
先の王位戦では、藤井さんが手塩にかけて育てた角交換四間飛車を羽生さんが受けて立つという構図で
結果は羽生さんの4-1防衛、角交換四間自体も1勝2敗1千日手(後手番は1敗1千日手)でしたが
戦法としては面白い戦法なのではないかという感触が羽生さんにも得られたのかもしれません。
(実は、羽生さんは2年前の王座戦で藤井さんと戦った時も、次の棋戦で角交換四間を1度だけ採用しています。)
話はこれだけには終わりません。
渡辺さんは、初代永世竜王、将棋史上初の永世7冠がかかる竜王戦や20連覇をかけた王座戦など
これまで羽生さんの大記録がかかる重要な勝負に現れ、ことごとく勝ち続けるという、まさに天敵、羽生キラーの名をほしいままにしている棋士です。
それゆえ、将棋ファンにとって羽生vs渡辺戦というのは屈指の黄金カードでもあるわけですね。
そんな渡辺さんにもほんの少しだけ弱点があると言われており(ほんとにほんの少しです)、対振り飛車勝率が対居飛車勝率より少し悪いと言われています。
そして、これまで羽生さんと渡辺さんの重要な勝負は、居飛車対居飛車の戦いだけでした。
昨年20連覇がかかる中で渡辺さんに奪われた王座戦は、羽生さんにとって格好のリベンジの機会となります。
さて、ようやく小難しい話は終わりました。
「第1局は、また渡辺さんが勝った。羽生さんは第2局どうするんだろう。」
「渡辺さんは振り飛車が苦手。羽生さんもゴキゲン中飛車をやればいいのに。去年1回ゴキゲン中飛車で渡辺さんに勝ってるじゃないか。」
「いやいや、羽生と渡辺の戦いは居飛車に限る。お互いの真っ向勝負をみてみたいよ。」
「そうだよな。羽生さんはここ最近ほとんど振り飛車を採用してないし今回も居飛車だよ。」
↓
「初手7六歩、2手目3四歩、3手目2六歩、、、よしよし居飛車の将棋の出だしだ。どんな将棋が見られるかな。」
↓
↓
「まさかの!」
「まじかよwwwwwwwwww」(←一部では角交換四間飛車は戦犯戦法とネタにされていたりします)
「後手番の角交換四間飛車で勝てるのかよ!」
「王位戦で対戦してやってみたくなったんだな。実際、王位戦ではなかなか苦しめられていたし」
「藤井の戦法をどう羽生が解釈したかみてみたいな。羽生さんから新手は出るの?」
「研究の行きとどいてない振り飛車だと渡辺さん1発はいっちゃうんじゃないか、これ」
などと騒然となったのでした。
わかりにくかったでしょう。自分でもどう説明したらいいのか、あの空気をどうまとめていいのかわからなかったです。
とりあえず、将棋板やニコ生やtwitterが騒然となった背景には色んな立場から色んな理由があって、将棋好きにはたまらない瞬間の1つだったのです。
そして、ドラゴンボールやガンダムでどう例えるのが良いんでしょうw
最後に、王座戦第2局は序盤中盤終盤とお互いの持ち味が発揮された大熱戦となり、どちらが良いのかわからない難解な中盤戦を抜けだした羽生さんが144手で勝利しました。
羽生さんが採用したことで振り飛車の新戦法角交換四間飛車の評価にどのような影響がでるのか、それはまだ誰にもわかりません。
具体的な手はわからないけど、戦法の流行やそれをとりまく人間模様、ドラマを追う。将棋はこのような楽しみ方もできるかもしれませんね。
ちなみに、以前書いたフォロー記事です。
羽生の神の一手?について
id:essaさんのエントリーにあるように、竜王戦(羽生vs渡辺明)がいま盛り上がってるのね。
流れを簡単にまとると、
→いつもは旦那に対して辛辣or無関心(を装ってる?)な渡辺夫人がブログ上で異例の励ましメッセージ
「めぐみが流れ変えたん?」
このワクテカを増田のみんな(15人くらい?)で分かち合いたいと思って、
将棋を知らない増田のために、わかりやすく棋士をドラゴンボールで例えてみたんだけど……
逆にわかりにくいかな。
梅田望夫 = ヤジロベーで雰囲気だけ掴んでもらえたらと思う。