はてなキーワード: 敗血症とは
うちにも引きこもりの義弟がいた。
10月末に義父と連絡がとれなくなり、家に入ったところ、浴室であおむけに倒れて意識ないままの義父を発見した。
向いの部屋には引きこもりといわれ、「誰にも会わせたくないから」という義父に言われて結婚して以来7年間全くあったこともない(もちろんそれ以前にもあったことはない)
義弟がいるはず。おそるおそる部屋をノックして中をのぞくと、腰まで届く髪、恐ろしく長く伸びた爪、部屋の壁は四方とも穴だらけで長い年月かけて積み上げられた土壁で覆われて廃墟のようになっていた。テレビも本もパソコンも何もない。きっと誰にもいえない苦しみをぶつけていたのだろう。
彼は何もない壁に向かって座っていた。初めて言葉を交わす私と顔を合わすのがつらそうだ。声は全くでない。かすかにうなずくか首を振る程度の反応しかうかがうことはできない。
「お義父さん、倒れてるけど、いつから?気づかなかった?」尋ねるわたしにかすかに首をふるだけの彼。
大急ぎで救急車を呼んで義父を病院に運んた。体重は20キロ台になって衰弱しており、おそらく2日間ほど風呂場で倒れたままになっていたようだ。
真向いの部屋にいた義弟がそれを本当に知らなかったのか、それとも「なんとなくわかったけど、自分は何もできない、したくない」と放置していたのか、それはわからない。
けれど、2日間もトイレにすらいかないなんてことはないだろうから、おそらく倒れている義父の姿は見ていたはずだ。だけど、なにもしなかった(できなかった)に違いない。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131230/waf13123010560008-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131212/waf13121213220024-n1.htm
引きこもり、あるいは無職でお金もないため、高齢の親の死に瀕しても葬儀も出さず放置していたというニュースをみて、彼のことを思わずにはいられない。
彼の場合、幸い「父親を死後放置」するまえに、父が救出された。
そして、彼自身も強硬に他人に見せたがらなかった当の父親自身が倒れたことによって、家庭裁判所に保護者選任の手続きをとったわたしたちが病院に運んだ結果、統合失調症とわかり、長期間発話もなかったために脳が委縮しているとわかり、精神科に入院している。
引きこもりと言われる人の中には、彼のように統合失調症の症状のひとつとして、誰ともコミュニケーションをとらず、引きこもっている人も少なくないように思う。
彼の場合は、高校卒業頃から徐々に引きこもるようになったようで、その頃に専門医療機関の受診をしていれば、と思わずにはいられない。
彼の実母は彼が2歳の時に自殺、うちの夫は年の離れた異母兄にあたり、早くに家を出ていたため、家族らしい心の交流はなかった。母親の死後、父親が一人で育ててきたものの、父と息子の二人の生活ではたいしたコミュニケーションもなかったらしく、食事は作ってあれば誰もいないときに出てきて勝手に食べてまた部屋に引っ込むという生活が中高生頃からずっと続いていたようだ。 そして、高齢でもある父親は、妻が自殺したことの子供への影響を懸念して、「精神科を受診させたら、かえって自殺してしまうかもしれない」などと言って、周囲が受診を勧めても頑なに首を縦に振らなかった。そういう懸念もあったのかもしれないが、その精神的な病への偏見や知識のなさ、そして特に男の子が家にこもり、仕事にも行かないことを恥じる考えもあっただろう、結局は彼を放置することになってしまった。そしてその結果、統合失調症という本物の精神的な病にさせてしまったのかもしれないと思うとまだ30歳になったばかりの彼の人生が不憫でならない。
ひきこもり、これは「症状」にすぎない。 どこかに原因がある。きっかけがある。
何もない部屋で崩れ落ちた壁に向かって日がな座っている生活のどこが「好き好んでしている」ひきこもりだと?
つらくて長い年月だっただろう。
せめていえることは、彼を「死亡した親をそのまま放置した」と新聞に書き立てられる当事者にせずにすんだこと、それだけだ。
(以下追加)
障害年金を受け取ることができるのは、きちんと年金を払ってきたか、免除の申請手続きをしていた人。
あるいは「未成年の時期に病院で診察をうけた」証明ができる人。
彼は高卒あたりからひきこもってしまって、その頃以降外部との連絡もほとんど取らず、郵便物もおそらく見もしなかったか、見ても理解できなくなっていたのかもしれない。
免除の手続きもしないまま、一度も年金を払ったことがなく、また医療機関に一度もかかることなく、30歳になってしまっていた。
統合失調症の場合、症状が出てから病院を受診するまでに何年もブランクがある人が少なくないらしい。また18、19歳あたりで発症して判断力が低下して年金の手続きなど何もわからないまま数年経ってしまい、障害年金の受給資格を失う人も。彼の場合はまさにそれ。
入院中の医療費は毎月10万(限度額申請してようやくこの金額)と、それ以外に病院でお世話してもらう費用が別途数万円かかっている。
それも父親の扶養で保険に入れている今月までの話。1月で父親が後期高齢者になると、自分で国民健康保険に加入しないといけなくなるが、そんなお金は彼にはない。
私たちもこれ以上の金銭的負担をする余裕がなく、途方にくれていたとき、後見人の手続きをすること、生活保護の申請をすることなどを教えてもらった。
そして先日ようやくそれらが認められて、これでなんとか年を越せる、とほっと一息ついたところ。
義弟の症状は相変わらずで、退院の目途は全くたっていない。
※義父のことが中心の日記ではないので深く書かなかったら釣りだとかかかれてるので一言。
もともと体が小さい人でしたが、1か月ほどまともに食事ができなかったらしく、入院させたときには敗血症で20キロ台になっていました。
20キロとは書いてません。20キロ台です。骨と皮ってこういうことか、とおもいました。今は要介護2で運よく空きがあった老人ホームに入居しています。
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「ワタミの介護」に賠償命令 入居男性死亡で2千万円 横浜地裁
ワタミグループの「ワタミの介護」(東京)が経営する川崎市高津区の介護付き有料老人ホームの入居男性=当時(87)=が2006年、敗血症で死亡したのは施設が適切な処置を怠ったのが原因として、遺族が約6700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、横浜地裁は23日、同社に約2100万円の支払いを命じた。
江口とし子裁判長は判決理由で「清潔に保たず、速やかに医師に受診させるなどの対応もしなかった」と指摘。「敗血症を発症させており、介護の過誤と男性の死亡との間に因果関係がある」と認定した。
川崎市高津区の介護付き有料老人ホーム「レストヴィラ元住吉」で2006年、入所中の男性(当時87歳)が死亡したのは不適切な介護が原因だったとして遺族が運営会社「ワタミの介護」を相手取り、計約6700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、横浜地裁であった。
江口とし子裁判長は、同社に計約2160万円の支払いを命じた。
男性は06年1月4日に入所し、同16日に横浜市の病院に救急搬送され、同21日に敗血症で死亡した。遺族側は、入所中に床ずれが悪化して敗血症が発症したと主張し、同社側はホームでの介護と男性の死亡に因果関係はないと主張していた。
判決は、ホームは、男性のかかりつけの医師から、床ずれに注意を要するとの情報を得ていたにもかかわらず、床ずれの部位を清潔に保つなど適切な管理が不十分だったと指摘。床ずれが悪化した際、医師に速やかに受診させず、男性が敗血症で死亡したと認定した。
「ワタミの介護」が運営する介護老人ホーム「レストヴィラ元住吉」(川崎市高津区)の入居者の男性が死亡したのは、施設が適切な介護を行わなかったことが原因として、男性の遺族が同社に対して約6750万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、横浜地裁(江口とし子裁判長)は23日、介護過誤と男性の死との因果関係を認め、同社に約2160万円の支払いを命じた。
男性=当時(87)=は2006年1月に施設に入居し、約2週間後に敗血症で死亡した。入居時、男性は寝たきりの状態で、皮膚組織が壊死(えし)する「褥瘡(じょくそう)」を発症していた。
江口裁判長は「ホームは患部を洗浄して清潔な状態を保つなど、褥瘡を悪化させないよう注意する義務があったが、それを怠り、医師にも受診させなかった」と、施設の注意義務違反と債務不履行を認定。その上で「男性は褥瘡からの細菌感染が原因で敗血症を発症し、死亡した」とした。
症状
悪寒、全身の炎症を反映して著しい発熱、倦怠感、鈍痛、認識力の低下、血圧低下が出現する。進行すれば錯乱などの意識障害を来たす。DICを合併すると血栓が生じるために多臓器が障害(多臓器不全)され、また血小板が消費されて出血傾向となる。起炎菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされる。また代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの混合性酸塩基平衡異常をきたす。敗血症性ショック症状を起こすと患者の25%は死亡する。
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ワタミ レストヴィラ元住吉|介護付有料老人ホーム【介護施設レストヴィラ】
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お問い合わせ・資料請求・見学予約 | 老人ホームのワタミの介護
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「ワタミの介護」ホーム運営サービスに関する、ご入居者様・ご家族様からの様々なご相談・ご要望・苦情については、以下の相談窓口にて承り、適切に対応させていただきます。
フリーダイヤル0120-65-1192 午前9時~午後7時 土・日・祝日も受付可
お電話がつながりにくい場合は、03-5735-4165(本部運営サービス部)でも承っております。
メールでもお問合せいただけます。取材等のお問合せはこちらにお願いいたします。
watami_kaigo_info@watami.net
まず、この主張はまったく個人的なものであり、厚生労働省の見解でもないし、
仲間の医系技官のコンセンサスでもありません。このことをご了承いだけますと幸いです。
私は現在、臨床現場を離れ、医系技官をしております。臨床は4年ほどたずさわっておりました。つたない経験ですが、小児の診療にかかわる機会に多少恵まれたこと、また自分自身に娘がいることから、小児診療のあり方については興味を持っているところでした。そこで、ツィッターで小児の夜間休日診療について、意見交換をしていたところ、私のツィートをYosyanさまがブログにてまとめていただきました。
URL:http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20110225
このブログは昔から注目をしているブログでしたので、御意見をいただき光栄でもあり、大変興味深く思っております。内容についても示唆に富むご指摘であり、私自身の理解も深めることができました。大変ありがとうございました。感謝しております。そこで、Yosyanさまの御意見も踏まえ、いろいろ考えてみましたので、そのことをこの日記にまとめたいと思います。
Yosyanさまの主張は2つに整理できると思います。それは次のとおりです。
① | 「一部の児の親の受療行動によって小児科医は疲労しており、制度として介入すべきである」 |
② | 「小児の緊急性の評価は不可能であるため、全てのタイミングで小児科医が対応する必要がある。しかし、実際にそのようなリソースは無いので、夜間休日診療は制度として抑制すべきである」 |
① | 「一部の児の親の受療行動によって小児科医は疲労していることには同意、共感。しかし、介入の方法には検討が必要であり、制度的な介入よりも普及啓発を重視すべき。そのためには普及啓発を促進するためには緊急性の判断の基準を示す必要がある。」 |
② | 「小児についても緊急性の評価は可能。緊急性の評価を小児科医師以外の人間にデリゲーションすることによって、夜間休日診療を適正化でき、小児科医の疲弊を防ぎたい」 |
では、次の章からYosyanさまの2つの主張に対してそれぞれ、検討をしてまいります。
Yosyanさまは夜間・休日診療を受ける児の親を以下のように分類しております。
類型 | 説明 |
---|---|
1群 | 救急の本当に必要な群 |
2群a | 親が心配して救急にかかる群(前向き群) |
2群b | 親が心配して救急にかかる群(後ろき群) |
3群a | リピーター群(社会的背景あり) |
3群b | リピーター群(親の意識に問題あり |
この中で3群(とくに3群a)の存在によって、物理的にも精神的も小児科医が疲弊をしているので、3群のリテラシーの改善が必要である。そのためには時間外料金の値上げとか、救急車有料化などの制度的な仕組みが必要であると主張されています。
まず、「Yosyanさまらの児の親の類型化」ですが、いわゆるMECEになっておらず、不思議な感じがします。1群か否かは医学的評価なのに、2群や3群やリテラシーや受療行動について類型化をしているからです。3群のリピーターの中にだって救急の本当に必要な群もいるはずです。そこで、「医療が公共財であるかどうかの認識の有無」「緊急性の判断能力の有無」にしたがって、つぎのように類型化してみました。
公共財の認識あり | 公共財の認識なし | |
---|---|---|
緊急性判断能力あり | 1群 | 3群 |
緊急性判断能力なし | 2群 | 3群 |
このように捉えれば、いわゆる「3群」に対処するには、「医療は公共財であるという」という認識を持ってもらう方法を考えればいいことになります。
つぎに、介入方法を検討しようと思います。3つの方法枠組みから考えてみました。それは次のとおりです。
ア | 法律、罰則などを用いた強制的な方法 |
イ | インセンティブ(+も-も)を使う方法 |
ウ | 普及啓発、教育を用いる方法 |
この枠組みで考えるとYosyanさまは「時間外料金の値上げとか、救急車有料化(主体は国)をすべき」と主張されていますので、主にイの方法を用いるべきと主張されていることになります。
Yosyanさまの主張に対して、私は「ウの普及啓発を重視・先行すべき」だと考えます。理由としては次の4つの点を挙げます。
・共有認識がができていない現在の状態では、アやイを導入すること自体が政治的に困難。 |
・時間外料金の値上げは病院単位で可能であり、それをしないことを病院や自治体が選択している。病院や自治体のが選択していることをを頭ごなしに国が否定するのはおかしい。 |
・普及啓発ができていない状態では、値上げをすることによって、お金さえ払えばみだりに夜間休日に受診してもよいという価値観を誘導する。 |
・普及啓発の余地があると思っていて、一番実効性があると思っている。 |
実はこの中で私がもっとも言いたいことは、最後の「普及啓発の余地があると思っていて、一番実効性があると思っている」というものです。特にこのことについて、つぎに補足します。
まず、3群の中でも、緊急性の判断ができている者(マトリックスの右上の部分)は「確信犯」ということになります。たしかにそんな方はいて、現場の先生方を脱力させているもの理解しています。しかし、3群の中では、緊急性の判断もできない者(マトリックスの右下の部分)がいて、この群は「ひたすらイノセント」な者です。実は、「確信犯」よりも「ひたすらイノセント」な方が多いのではと私は思っているのです。つまり先ほどの分類に従えば、夜間休日に外来を訪れる親御さんは、実は右下の「イノセント」な群がいちばん多いのではと思っています。
公共財の認識あり | 公共財の認識なし | |
---|---|---|
緊急性判断能力あり | 「賢い人」 | 「確信犯」 |
緊急性判断能力なし | 「遠慮深い人」 | 「イノセントな人」 |
もし、「イノセントな人」の群が一番多いという私の仮説が正しければ、普及啓発をする余地がまだあるのだと思うのです。
では、「イノセントな人」の群に対して、どのような普及啓発が有効かを考察します。普及啓発の方法は次の2通りがあると思います。それは次のとおりです。
ア | 緊急性の評価のやりかたを伝える(上を目指す) |
イ | 医療は公共財であることを伝える(左を目指す) |
私は、ア→イの順番で普及啓発するのが有効だと思います。これは完全な自分の体験ベースですが、「イノセント」な群に緊急性の判断の方法を理解してもらうと、そのまま上に行かずに、左上の「賢い人」になる印象があるからです。一方で、「イだけ」もしくは「イ→ア」と説明をしたらどうなるでしょうか。つぎのようになると思います。
イだけ説明した場合 | 「公共財なのはなんとなくわかるけど、いつ病院につれていけばいいのかわからない。なんだかんだで、夜診てくれるなら連れて行きたい」となりそう。 |
イ→アの順番で説明した場合 | 「医療が公共財といってもそんなの提供側の問題。消費者としてはしったこっちゃないよ。とってつけたように病院に連れて行かなくてもいいパターンを教わっても、それって夜間休日診療を抑制するために方便じゃないのか」となりそう |
ですから、ア→イと説明することによって次のようになってくれるとありがたいと思っています。
「なるほど、夜間休日にわざわざ連れて行く必要があるとき、連れて行かなくていいときがわかった。自分自身や子供の負担も少ないし、これで先生方にもご負担をおかけしなくてもよくなりますね。」 |
ア | 「確信犯」よりも「イノセント」群の方が多く、普及啓発の余地がある |
イ | 「緊急性の評価のやりかた」がそもそも存在しするし、小児科以外の人間も担うことができる |
というのが、前提条件となっています。Yosyanさまはおそらく、アとイの両者とも、私との見解の相違がありそうです。アについては定量的な議論が必要ですが、おそらく水掛け論になりそうな気がします。イについては、ある程度、実のある議論ができるような気がしています。この部分については次の章で論じたいと思います。
「児の親をどのように類型化しても結局どの群にも重症者が含まれているため、何かしら症状を持つ児の親は、緊急性があり小児科受診が必要である」というのが、Yosyanさまの主張だと理解しております。Yosyanさまはほかの部分でも次のように述べられています。
「それと表を良く見て欲しいのですが、2群でも3群でも重症者は確実に含みます。正直なところ実際に診察してもこれを全員確実に見抜けるかと言えば、私如き の技量では自信はありません。「発熱性疾患」で「見た目上元気そう」の保護者判断で、「2日ぐらいは様子を見る」の対応が全員に適用できるなんて事は、経験を重ねた小児科医(小児科医でなくとも)まず口にしません。ましてや電話相談で安請け合いなどしようとも思いません。」
つまり、まとめると、
小児科医でも重症者を見抜くのは不可能。ましてや保護者判断なんか意味がない。電話相談も意味が無い |
ということです。それゆえ、
重症者を見逃さないためには、24時間365日、小児科医が根こそぎ診察するしかない」 |
ので、
「実際にそのようなリソースは無いので、夜間休日診療は制度として抑制すべき」 |
Yosyanさまの主張はロジック(論のつながり)としては矛盾が無いものであると思います。ただ、私の意見との最大の違いは、議論の前提となっている「小児の緊急性の評価は不可能である」の部分にあります。私は「小児の緊急性の評価は可能」だと思っているのです。この前提から私の論を展開しようと思います。私の論の骨子は、
ア | 小児についても緊急性の評価は可能 |
イ | 緊急性の評価は小児科医師以外の人間にデリゲーションすることができる |
ウ | 夜間休日診療を適正化し、小児科医の疲労を軽減することができる |
まず、医学的な見地からの緊急性を要するものは疾患と病態の2つの軸で整理することができると思います。
疾患の軸 | :(例)敗血症、髄膜炎、重症肺炎など重症感染症、腸重責など急性腹症、、、、 |
病態の軸 | :(例)脱水、呼吸不全、意識障害、痙攣(単純な熱性痙攣を除く)、、、 |
この2軸を判断するためには結局、次のようなという3つのポイントを判断すればいいと思います。
緊急性の評価の3つのポイント |
---|
a 身体症状(水が飲めない、ぐったりしている、呼吸が速いなどのRED FLAGSの有無) |
b お母さんからみてwell doingか否か |
c 既往歴や年齢 |
なぜ、わたしがこのように理解するように至ったかというと私の初期研修医のときの経験からです。私は初期研修医を完全な北米型ERシステムの病院で過ごしました。この病院では、小児のwalkinも救急車も全ての救急受診をまずは初期研修医が対応し、必要に応じて小児科医にコンサルトする体制をとっています。初期研修医は2年間の間、小児科ローテート以外の期間もER勤務をしますので、2年間、常に小児の夜間休日診療に携わることができました。そのときに先輩から最初に教わったことが「救急外来でやることは帰宅させられるのか、小児科の先生にコンサルトすべきかを判断することであって、必要なのは正確な診断ではなく緊急性の判断だ」|というものでした。
私はたった2年間の初期研修で小児診療ができるようになったなどとおこがましいことは全く思いません。しかし、小児の緊急性を判断する方法論については整理することができたし、小児科の先生を深夜でも呼び出さないといけないときの判断はできるようになりました。この経験は3年目以降にも生きていて、しばしば小児診療をする機会にも、小児科の先生を頼るかどうかを判断することができるので、多忙な小児科の先生に丸投げしなくて済んでいました。
私はさきほど、緊急性の評価はつぎの3つのポイントに集約することができると述べました。そして、これらの判断を小児科以外の人間にデリゲーション(権限の委任や委譲)することができると思っています。
・児の親御さん |
・電話相談対応者(看護師さんなど) |
・小児科以外の夜間・休日担当医(初期研修医など) |
まず、児の親御さんについては、リテラシーを高めていただくのがいいと思います。緊急性の判断の方法論をあらゆるチャンネルから伝えるべきだと思っています。また、補助ツールも有効であり、次のようなサイトも有用だと思います。
ちなみに、このサイトの発熱はボタンを押すと、チェックリストとして次の項目が現れます。これってまさに「緊急性の評価はつぎの3つのポイント」なのだと思います。
発熱時のチェック項目 |
---|
・生後3ヶ月未満である |
・元気はある |
・無表情で活気がない |
・おしっこが出ている。オムツがいつものとおり濡れいている |
・あやすと笑う |
・1日中ウトウトしている |
電話相談も有効だと思います。「緊急性の評価の3つのポイント」は問診が必要であって、詳細な身体診察や血液検査が必要ありません。ですからトレーニングを受けた看護師さんなどの医療者であれば、電話でお話を伺いながら判断することができます。電話相談など医療職による相談でも不安がとれない場合は、「お母さんからみてwell doingでない」ということですから、夜間でも休日でも受診をしていただくのがいいと思います。ただ、この際もできれば小児科の先生が最初から診察するのではなく、きちんとトレーニングを受けた救急担当の研修医が診るようになればいいのにと思っています。
なお、初期研修のときにあまり小児の緊急性の評価についてのトレーニングを受けていない医師でも、3年目から小児科の医局に入局すれば1人で当直をしていると思います。私は、このような3年目の小児科の先生と比較すると、トレーニングを受けた初期研修医の方がより安全な医療を実践していると思っています。
アとイで述べたように、緊急性の評価の方法を小児科医以外の人間に普及啓発し、緊急性の評価の主体者をにデリゲーションすることができれば、小児科の先生は、夜間休日には本当に緊急性のある場合にのみ診察をすればいいことになると思っています。それが、私の思う「夜間休日診療を適正化でき、小児科医の疲弊を防ぎたい」ということなのです。
私は文中に述べたように初期研修の2年の間に同年代と比べると比較的に、小児診療の経験に恵まれました。また、3年目以降も、院内にPICUが無いことから小児科の先生と一緒に仕事をする機会にも恵まれました。自分自身にも娘がいるし、PALSなどを学ぶ機会がありましたので、小児医療にはずっと興味を持っています。
つたないながらも3年目以降にはオカルトバクテレミアや劇症型の敗血症、インフルエンザ脳症など経験しました。元気だった児が半日ぐらいの経過で一気に具合が悪くなり、24時間程度で亡くなるケースでした。ですから、いくら緊急性の評価をきちんとしても、半日後の転帰を100%確実に予測する方法が無いことも理解はしているつもりです。
ただ、だからこそ、受診をした際には、医療者はきちんと緊急性の評価をし、説明し、カルテに記載することが大事だと思います。また親御さんに対しては次のようなというメッセージを伝えたいと思っています。
「病院に頻回に受診さえすれば安全・安心というわけでなくて、どうやっても急性の経過をたどることがある。でも、いたずらに不安になるのではなく、知識を整理したうえで、自分自身の判断力を向上させてほしい。自分自身で判断できなくても、電話相談を受けることもできるし、いざとなれば受診もできるようになっているから安心してほしい。なにより、実は緊急性の評価はお母さん自身のwell doingがどうかの判断が一番重要であって、それを見極められるようになってほしい。」 |
私は、小児医療にはまだまだ行政が寄与できる部分がたくさんあると思っています。たとえば、ワクチンです。オカルトバクテレミアに対する最大の対策は頻回の受診でも検査でもなくてワクチンであると認識しています。このワクチンは子供を守るだけでなく、小児科の先生方を訴訟リスクから守るものでもあると理解しています。そのほかにも、自分の居住県は人口が600万人いるのに、PICUが存在しません。そんなことにも問題意識を持っています。また、大学の同級生や研修時代の仲間や先輩方にも小児科の医師がたくさんおります。みな真摯にとりくみながらも疲弊していることも理解しているつもりです。ですから医系技官という仕事を通じて、機会があれば、いつか小児医療の発展に寄与できればと思っています。