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スタートレック(現在の正式名はスター・トレック)は50年の歴史があるうえに、1話完結のエピソードが多い。シリーズの入門ガイドの意味もこめてやってみた。
はてな界隈でスタートレック全話追っかけてる人は少ないだろうし、シリアスなファンははてななんて見てないだろうから、自分の価値基準で好き勝手書かせてもらう。
すごく偏ってると思う人もいるだろう。私もそう思う。海外のこの手のランキングでは常連のエピソードも入ってない。思うところがあれば、ぜひ書いてほしい。
なお、全938話は2024年9月末時点での話で、10月から『ローワー・デッキ』の新シーズンが始まったので話数はまた増えている。
スタートレックがSFドラマとして最も輝きを放つのは、銀河に存在する人間以外の存在を通じて、人間とは何かを描くときだ。それはあらゆるSF作品の共通の魅力でもあるが。
本作は人間に造られたアンドロイド、データが、自らの子孫を造ろうとする物語。AIの子供との「ファーストコンタクト」を通じて、子供を持つということが、個人にとって、種にとってどういうことなのかが描かれる。
本作には、派手なアクションシーンもSFXもない。しかし、その物語は喜びとユーモア、発見に満ち溢れ、重い悲劇として幕を閉じる。それは家族を描くキャラクター劇であり、SFであり、力強い人間ドラマだ。
スタートレック立ち上げ最初の年に、スタートレックらしさというものを決定づけた重要な一篇。怪生物の住む惑星に不時着したクルーが脱出するために取る行動を描く。
スタートレックの原型は西部劇(幌馬車劇)と言われるが、これはまさにインディアンに囲まれた幌馬車の設定を宇宙にしたもの。
しかしポイントは、主役がミスタースポックであるという点。感情がなく論理で動くヴァルカン人(と地球人のダブル)である彼は、助かるために論理に従うか、あるいは……。
本作は異星人の視点で人間の感情と理性の葛藤を描き、このモチーフは以降繰り返されることとなる。また作品にシャトルのセットを導入し、物語の舞台を増やした一作でもある。
宇宙大作戦の打ち切り後、少々品質を落としたアニメで継続となった本シリーズだが、名作はいくつかあった。しかし本エピソードはちょっと違う視点で選出している。
これ、実はラリィ・ニーヴンというSF小説家が書いた『ノウン・スペース』というSF小説群のにある短編の一つを、そのまんま映像化しているのだ。出てくる異星人も借りてきたもの。
ニーヴンを知る人も少なくなっただろうが、アシモフやハインラインの後の世代で、ハードな科学設定とエンタメとしての面白さを融合した作品を書き、SF界の潮流を作った人と言える。
本作は、スタートレックの世界観が他作品をまるごと呑み込んでも成立しうる、緩く、包容力のあるものだと示した。ローワーデッキのハチャメチャコメディスタイルが可能になったのも、ある意味この作品のおかげ。
宇宙大作戦にはTV史上初めて白人と黒人とのキスシーンを描いた『キロナイドの魔力』という記念碑的作品があるが、人種問題を深く描いた作品というと、こちらを推したい。
黒人の天才科学者が自らの知能と感情を転写し開発した自動航行AI。それに船を委ね、演習に参加したエンタープライズだが、AIは次第に狂いだす。
本作のAIは自らの判断に絶対の自信を持ち、誤りを認めようとしない。博士もAIを擁護し、次第に我を失っていく……と言うプロット。
AIの恐怖を描いた先進性はともかく、本作が人種問題の作品であることは、日本に生きる我々には少々理解が難しい。
この物語が暗喩するのは、飛び抜けた能力で社会から評価を受け、地位を得たマイノリティの苦しみだ。常に完璧を求められ、ひとつの失敗で社会から振り落とされてしまう、隠れた差別を描いている。
この複雑な問題を1968年のTVドラマに持ち込んだことこそ、評価されるべきだと思う。
「タイムループもの」といえば誰もが1作ぐらい頭に浮かぶだろう。映画『恋はデ・ジャ・ヴ』など様々な傑作がある。
しかし、それらの作品の多くは、「なぜ」タイムループが起きるのかを説明しない。なぜか寝て起きるとループしてたり、なぜか恋が成就するとループを抜けたり……。
スタトレ世界でタイムループを描いた本作が優れているのは、その「なぜ」が明確に定義されており、それを解決することが物語の目的になっている点だ。
突如として起こる反物質爆発で時空ループが生成されると、キャラ達は過去に戻される(都合よく前のループの記憶を保持したりしない)。
そこから毎回、艦のクルーたちは僅かな違和感から少しずつ状況を理解し、「なぜ」かを探り、回避するための答えに近づいていく。
ご都合主義的な「ふしぎな現象」はなく、戦うべき悪役もいない。ハードSF的な状況で、知力に頼ってロジカルに物語を進めていく。しかしこれが最高に面白いのだ!
舞台は艦のセットのみ、登場人物もレギュラーのみというミニマルな作品だが、スタートレックのSF性、センス・オブ・ワンダーを代表する1作だと思う。
スタートレックのフランチャイズ化は、TNGによるリバイバルを経て実質このDS9から始まった。いままでと違ったスタトレを作ろうという意欲に富んでおり、非常に作家性の強いシリーズだ。
未知の世界を訪れる宇宙船でなく、未知の存在が訪れる宇宙ステーションを舞台とし、全7シーズンの後半では巨大な宇宙戦争を連作として描いた。最近の『ディスカバリー』などのシリーズも、本シリーズがなければ成立しなかった。
その総決算と言うべきこのシリーズ最終話は、単体で観るとなると評価が難しいが、173話の積み重ねの末の1話としてみると、ずっしりとしたものが心に残る。
DS9はシリーズで初めて黒人俳優を主役とし、戦争犯罪や植民地主義のもたらす被害をストレートに描き、舞台となる異星の宗教と重ね合わせることで人間の信仰心をも題材にした。
更には、「これは一人の狂った黒人の観た夢なのではないか……」というメタレベルの視点すら取り入れ、多様な視点と重層的な葛藤、その先にある善とは何かを描こうとした。
シリーズに長く付き合うことでもたらさせる重い感動を体験してほしい。
ヴォイジャーはハードSF的な物語よりも、キャラクターの成長やモラルに焦点を当てた傑作が多いが、敢えてSF的なセンス・オブ・ワンダーに満ちた本作を推す。
ネタバレしてしまうが、これは「恐竜人類」の物語であり、「ガリレオ・ガリレイ」の物語だ。
遥か昔に宇宙に出て進化したある種の恐竜と、銀河の反対で出会ってしまった宇宙船ヴォイジャー。それを、なんと恐竜人類側の視点で描く。
故郷の星に、自分たちとは異なる知的種族がいたという事実を知った科学者の知的興奮と、その発見を社会から拒絶され、迫害される恐怖。
SFの根幹である科学そのものを主題にし、人間と科学の関係性に向き合った、ひとつの到達点。深い感動をもたらしてくれる傑作だと思う。
『スタートレック:エンタープライズ』以降停止したTVシリーズを、配信に適した連続劇フォーマットで復活させ、『ピカード』などのシリーズの端緒になった『ディスカバリー』の最終話。
連続劇で見せるスタトレにはまだ課題が多く、特にディスカバリーのシーズン4,5、ピカードのシーズン2などは間延びして物語の行先がわかりづらいという批判があった。
しかし、それらの連続劇も、最終話に来ると、そこまで迷走していたテーマが急にシャンと鮮明になり、ああ、なるほどこういうことだったのか、という感動をもたらす。
特に本エピソードはディスカバリーのグランドフィナーレとなるだけあって、描かれるものも壮大だ。銀河の知的生命の発祥の謎を求めて行われるトレック(旅)である。
しかしその結末、謎は解明されることはない。その代わりに提示されるのは、「真実を求めるトレック」とは何なのか、という命題だ。
スター・ウォーズやマーヴェル作品、ガンダムのような複数作品がひとつの歴史を形作るシリーズの楽しみは、クロスオーバー、そして「設定の穴が埋まる瞬間」だろう。
子供向けのCGIアニメシリーズとして作られた最新作であるプロディジーは、この設定の穴埋めを、他のどんな作品よりも見事にやって見せた。
新スタートレック、ヴォイジャー、ディスカバリー、ピカードなどの実写作品の設定を少しずつ掬い上げ、時に大胆にプロットに取り込んで、独立して楽しめる作品になっている。
その頂点がこのエピソードだ。シリーズを通じてのマクガフィンであったヴォイジャーのキャラクター、チャコテイの姿が見えた時は、その絵だけで感涙してしまった。
実にオタク的な楽しみだが、フランチャイズ作品に長く付き合ってきたものだけが味わえる、究極の悦楽がここにある。
プロディジーの日本語版は、2024年10月時点では製作されていない。英語版だけならNetflixで子アカウントを作り、基本言語を「English」」に設定することで観られる。
はっきり言ってシナリオの全体的な完成度は高いとは言えない。その質についても、表現手法についても注文の付く作品である。しかしどうしても外すことができない一篇がこれ。
1960年代、宇宙大作戦で人種や性別による差別のない理想世界を描いたスタートレックは、1990年代になりその理想のほころびを正直に描くように変化した。
本作で暗喩されるのは、性的マイノリティの直面する差別であり、同時に女性の権利でもある。
物語では、両性具有の種族の星に生まれた「女性」が、女性であると言うだけで罪とされ、矯正を施されようとする。
それは90年代に入るまで見過ごされてきた同性愛者への差別と、「治療」という名の暴力の告発である。
矯正の場へと連れていかれる彼女が最後に、法廷の場で叫ぶ。「私は女だ!」と。
自らの性を自らの物として誇れない、自由に語ることもできない、あらゆる属性の、抑圧された人々の叫びが、そこに込められている。
新スタートレックの日本語吹き替えは名優揃いで品質が高いが、これだけは英語版で観てほしい。その叫びは、魂の演技だ。
今回入れていないランキング定番としては、タイムトラベルの古典的傑作『危険な過去への旅』(TOS)や、エミー賞にノミネートされた世界でもっとも儚いロケットの打ち上げシーンが見られる傑作『超時空惑星カターン』(TNG)がある。
SFらしさが感じられるエピソード中心なので、人気の高いボーグのような強大な敵との対決とか、クルー同士のファミリー劇的な人情エピソードはあまり入らなくなってしまった。
また、『エンタープライズ』(ENT)、『ローワーデッキ』(LD)、『ストレンジ・ニュー・ワールド』(SNW)の作品も入らなかったが、もちろん傑作、快作はいくつもある。
ENTはバルカン人の設定を完成させた『バルカンの夜明け』3部作、LDはアニメならではの手法で連邦、バルカン、クリンゴンの若者たちの生活を描き交錯させた『wej Duj』、SNWは過去作の設定を活かしつつ現実の21世紀の社会情勢を24世紀の世界へと繋いで見せた第1話『ストレンジ・ニュー・ワールド』や、アースラ・ル・グインの小説『オメラスから歩み去る人々』のオマージュである『苦しみの届かなぬ高さまで』を推す。
……ではないけれど。スタートレック:ディスカバリーは素晴らしい。
いままでのスタートレックを踏まえつつ
後の時代では失われているトランスワープ技術を搭載した実験艦など、
新しい試みに挑戦しており、それがちゃんとドラマとしての楽しさに結びついている。
ただ4話現在のところストーリーがずっと連続しており、オムニバスで様々なネタを取り上げる
形式になっていないところが、すこし批難されている。
たしかにこれまでのスタートレックのドラマ・シリーズは基本的にオムニバス形式であり、
フォーカスする話の多様さも大きな魅力だと言えると思う。そろそろ、
USSディスカバリー号の主要メンバーの登場も終わったと思うのでオムニバス形式に
してくれないだろうか……。
自分的にはバーナムが里帰りして義理の兄弟であるスポックと会うとか、サルーの故郷の星の生態系の話に
まるまる1話注ぎ込んでくれるとか、タイムトラベルネタでUSSシェンジョウの船長が再登場してくれるとか、
そういうエピソードも見たい。
あとスタートレックのお決まりネタであるボーグとかQとか鏡面世界とか艦隊の誓いのジレンマとか。