はてなキーワード: 実務者協議とは
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ここでは、レーダー照射事案での防衛省の対応について述べたいと思います。「韓国の主張は正しいか」は論点にしません。
「なぜ、韓国の主張を責めないのか」というご批判はあるかと思います。それは、極端に言えば、「韓国政府のことを考えるのは無意味」と思っているからです。
台風で被害が出たとき、「原因は台風なんだから、政府の防災対策を検証しても無意味だ」と言う人はいません。
それに近い感覚で「各国は自国の利益のために動く。『そういうもの』なんだから、日本政府がそれにどう対応するかの方が大事」というのが自分の価値観です。
さらに、ここでは、「「低空飛行」問題への防衛省の対応」に絞って考えます。
もちろん、今回の事案の唯一最大の論点は「レーダー照射」です。しかし、その点については日韓双方の主張が食い違っており、また、防衛省がどのような証拠(=交渉材料)を握っているかも不明です。
一方、「低空飛行」問題については、防衛省が動画を公開したこともあり、基本的な事実関係は、ほぼ明らかになっています。防衛省の対応について外部からでも評することが可能なはずです。
また、1月21日に防衛省が「最終見解」を出した後に生じた「低空飛行」問題についても、ここでは述べません。
末尾に、「低空飛行」に対する日韓両国の発信を時系列でまとめましたので、そちらをご覧になりながら読んでください。
韓国側の「威嚇飛行」の筋が通らないことは、各所で検討・指摘されているとおりです。
一般的な軍事行動として危険性があるものではなく、また、過去の同じ行為に対する抗議がなかったことも1月21日に防衛省によって主張されています。
(ただ、これについては、「人命救助活動中だった」という反論があることは留意が必要です)
そもそも、「威嚇されたからレーダーを照射した」ならともかく、「レーダー照射はしていない。それはそれとして威嚇はおかしい」というのは主張として不可思議です。
韓国側としては、今回の事案の中で一定の「落ち度」が自国側にあったことを認識しており、それとの交換材料にするために持ち出したと考えるのが合理的です。
(その「落ち度」が、「レーダー照射」なのか「無線に応答しなかったこと」なのかはわかりません)
しかし、言うまでもなく、今回の事案の最大の問題は「レーダー照射」です。「(防衛省が示唆するような形で)レーダー照射をした」ことが確定すれば、他のことは誤差の範囲です。
韓国側が「低空飛行」を持ち出しても、大した問題にはならないはずでした。ただし、威嚇飛行を論点として戦線が拡大していくと「どっちもどっち」という状況になりかねません。韓国はそれも狙っています。
防衛省は、12月25日という比較的早い段階で、具体的な反論をしました。結果、戦線は拡大し、韓国に付け込む隙を与えました。今日に至るまでグダグダが続く原因です。
本来なら、「低空飛行」はまともにとりあわず、「我が国は適切に飛行していた」の一点張りで、「レーダー照射」のみを取り上げ続けるべきでした。
…というか、「韓国が問題をすり替えようとしてくる」ことぐらい、過去の経験から、わかってたと思うんですが。
防衛省が12月28日に動画公開した際、「参考資料」としてPDFファイルが公開されています。
このPDFファイルの2ページ目には「航空法規における船舶と航空機の離隔距離規定」として「航空法施行規則」「国際民間航空条約第2付属書」の引用が書かれています。
しかし、この引用が、今回の事案にどう関わるのか、あるいは同時に公開された動画とどう関わるのかは、何も記述されていません。
この時点で、この事案は、国際世論に対する広報戦の様相を持ち始めていました。
公的な発信がなくても、国内メディアは、防衛省の言いたいことを忖度して、あるいはリーク等で得た情報から、防衛省の主張を伝えます。しかし、海外メディアが、防衛省のためにそこまで労を取ってくれるとは限りません。
国際世論へのアピールを考えたとき、公的な発信は必須です。しかし、防衛省が出している表(末尾にURL)を見てもわかるように、12月28日から1月21日まで、約3週間にわたって公的な発信はありませんでした。
その間、韓国国防部は、1月4日の動画で「軍用機には適用されない」と反論しています。防衛省から、それに対する反論は1月21日まで出ませんでした(その間の1月14日に実務者協議があったというのはありますが)。
国内メディアの報道に触れていると、「日本はこれだけ主張しているのに…」という印象を受けます。しかし、実際には、防衛省は「ほとんど主張してない」のです。上に書いたように、1ヶ月間、ほぼ沈黙し、その発信でも、主張が明確に述べられていません。
「国際的な発信と国内向け発信に齟齬がある」ことは、「国際世論と国内世論に齟齬が生まれる」という事態を生みます。
これは、非常に由々しき事態です。「国民が国際世論から切り離された国」がどのような姿になるかは、古今東西、様々な例が思い浮かぶと思います。
このことは、防衛省だけでなく、国内メディアも含めた大きな問題だと考えています。
防衛省は12月25日に「低空飛行」への最初の反論をします。その中で、「国際法や国内関連法令」という言葉が登場します。
これに対しては、すぐに韓国メデイアから「国際法と国内法が何か分からない」というツッコミが入ります。実際のところ、軍用機の飛行を制限する国際法はないので当然のツッコミです。
(本来、国内メディアこそツッコむべきだと思いますが、そうした報道は無かったと思います)
それに対して、上に書いたように、12月28日に「国際法」が「国際民間航空条約第2付属書」のことだと示されます。
この条約では、「地水面から150m(500ft.)未満の高さ」での飛行の禁止が決められています。
すなわち、これを持ち出した時点で、「自衛隊機は高度150m未満では飛ばない」と明確な数字で線を引いて宣言したことになります。
つまり、その宣言以降に、もし150m未満で飛べば、韓国から抗議が来る形になるわけです。
そして、実際、1月24日には「60mで飛行した」という抗議が行われ、泥沼化してるのが今の状態です。
実際に60mで飛行したかはわかりません。しかし、数字を出して線を引いた段階で、遅かれ早かれ、こうなることは充分に想定できたはずです。防衛省は、自分から、難癖を付けられるポイントを作りに行ったのです。
難癖を付けられまいとすれば、本来なら守らなくて良かったはずのルールを守ることになります。
おそらく、自衛隊内の規定として「高度150m」が決まっていて、普段から遵守しているのでしょう。しかし、「組織内の規定」と「外交案件」では重みがまったく違います。
北朝鮮の「瀬取り」監視のために、朝鮮半島周辺海域の監視が重要なこの時期に、自衛隊機に要らぬ枷をはめてしまった大愚策です。
上で書いたように、そもそも、具体的に反論したこと自体が失敗でした。まして、民間機向けの条約を持ち出しても、何の根拠にもならないどころか、ツッコミどころを増やすだけです。そして、同時に、自衛隊機の飛行に要らぬ制限を加えます。一言で言えば「何がしたかったかわかりません」
(12月25日の時点で、「150m」の根拠が国際法にあると誤解してたと考えるとスジは通るのですが、さすがにそんなことは無いと信じたいです)
以上、「低空飛行」問題に対する防衛省の対応について語ってみました。
もちろん、2度にわたって非公開の実務者協議が行われており、そこで何が話し合われたかは、我々には知る余地もありません。しかし、ここで書いたように、表に出た部分ではマズい対応が多いです。そして、実際、事態を収められず、泥沼化させています。
韓国の術中に見事にはまった…いや、韓国の想定以上に自分から泥沼にツッコんでいったように見えます。
さらに、今回、防衛省は、最前線にいる自衛隊に対しても、後ろ弾を撃つようなことをしています。
こんな防衛省に、大切な自衛隊員の命、日本の国土、そして自分たちの命を任せられるのでしょうか。
「本番」の敵は韓国とは限りません。中国・ロシアは、国力・軍事力を背景に、より狡猾に立ち回ってくるかも知れません。
…とは言っても、僕たちは、「もっと頑張って!」と応援するしかないんですけどね。
基本的には双方の公的な発信に絞っていますが、報道を踏まえた発信については、元となった報道も記述しました。