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2018-04-19

[] #54-7「誰も期待していない宗教裁判

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この聖書基準に、教祖はどんどんニセ教祖を追い詰めていく。

ニセ教祖聖書を手に対抗する。

「えーと あ 我々がやっていた免罪符ランダム性についてですが 第12項によると『賭博にあたる行為を推奨していない』と書かれています なので禁止もしていない と解釈することもでき」

生活教の七戒の一つ、『営利を介した宗教活動を禁ずる』。是非が明記されていないものについては、生活教の基本信条と七戒を参考にします」

だけど、どうもニセ教祖は話についていけてない。

俺たちと同じで、聖書をマトモに読んでいなかったっぽいな。

「え それって矛盾しませんか どうして こんな曖昧表現にするんですか」

賭博抵触するもの全面的禁止すると、娯楽だったり、保険などに入ることすら広義的にはダメだとなってしまうからです。それは心身の健全さや、生活における安寧を、かえって損なうことになります


その後も応酬が続く。

あ、このあたりのやり取りは話の構成上、読み飛ばしても何ら支障はないぜ。

有償であることについてもそうですが、免罪符の中に“転生”という概念を持ち込んでいるのも看過できません。生活教は、原則として“今”を重視した体系であり、確証のない未来約束するものではないからです」

ちょっと待って 生活教は死生観について言及していない これは否定もしていないってことで 輪廻転生解釈次第では」

肯定否定もしていないものについては、基本信条と七戒を柱に考えます

「えー では 死生観については えー」

生活教の時間概念は、基本“今”とそれに直接繋がる“身近な未来”を重視しています免罪符は、そのどちらでもないですよね」

「でも 保険否定しないということは 遠い未来保証についても 否定していないのでは」

「それは“今”を生きる糧に繋がるという、可能性を考慮した場合においては、です。もし、あなた免罪符無料であるか、輪廻転生が何らかの補償約束するものであるなら話は別ですが」

「うーん うーん」

「どちらも満たせていませんよね? あなたのやり方は、確証のない未来担保にして“今”を搾取している。明らかな教義違反です」

ニセ教祖は手元の聖書現在進行形で読みつつ弁明する。

だけど、付け焼刃ではどうにもならず、教祖に「都合のよい解釈だ」と論破され続けている。

「更に、あなた免罪符販売の際、『主の降臨日』だとか『主の生誕日』記念だと言っていましたが、これもおかしい」

「え いや あるじゃないですか 世間でも期間限定の催しは 多少の開きは認められているはず それに生誕日や降臨日といったもの解釈が分かれ」

「そうじゃなくて。そもそも生活教に“主”といったもの存在しません。生活教は体系そのもの信仰しているため、神の存在を認めこそすれ、崇拝しているわけではないですし」

え、そうなの?

宗教って、大抵そういうのに祈ってるイメージなんだけど。

「え、そうなんすか?」

「そういえば、現象について説明するとき、いつも精霊がどうとかって言ってた気がする……」

信者のカジマとタイナイも、知らなかったらしい。

「まあ教祖が言ってるんだから、そうなんだろう。どっちでもいいよ」

仮にも信者名乗ってるのに、そんな反応でいいのか。


…………

こうして十数分に及ぶ応酬は終わった。

パッと見、教祖側が一方的だった形だけど、俺たちの目線では違っていた。

自治体教義を知らないから是非を判断できなかった。

そこで、傍聴していた信者投票によって判決を下すことになったんだけど、信者たちも判断できなかったんだ。

教義がどうのこうの言われても、その場で理解している人間教祖しかいなかったってわけ。

馴染みのないスポーツ観戦の、解説を聞かされているような状態だ。

みんな、大体の雰囲気で観ていた。

「んー、免罪符を売ってた人がニワカだったのは明らかだし、有罪確定っぽいよね」

「話の流れとしては、そうなんだけど、何か普通の展開過ぎて面白みに欠けない?」

生活教の信者たちは、面白半分で入信しているから、当然この期に及んでも「面白さ優先」だ。

司法国家なんて知ったことではない世界で、道理なんてもの判断基準にはならない。

そのせいで形勢は、変な方向に傾きつつあった。

「でもなあ、オイラあの免罪符にかなり金使っちゃったから、擁護したくないんだよなあ」

だけど、ここでカジマが何気なく放った言葉が、信者たちに新しい風を送り込んだ。

「……ん? 待てよ。あいつが有罪になったら、返してもらえるんじゃないか免罪符に出したお金

その可能性に気づいた信者たちは、いきり立った。

万札つぎ込んだカジマはまだ分かるけど、小銭しか出していない他の人たちまで賛同している。

みんな、自分たちで金をドブに捨てたって認識はあるけど、実のところ後悔も未練もタラタラだったんだ。

汚水まみれになってまで拾いたくはないが、労せず拾えるなら話は別ってことか。

投票の結果、満場一致で『有罪』となりました。免罪符を売っていた者は、自治体に引き渡された後、個人的制裁を受けます

「こ 個人的制裁って なに」

みんなが、その結果に拍手をしている。

俺も同じ穴のムジナだけど、さすがについていけない。

何はともあれ、生活教の危機は去った、ってことかな。

こうして、誰も期待していない宗教裁判の幕が閉じた。


…………

これで、めでたしめでたし

……でもよかったんだけど、この話には続きがある。

なんとニセ教祖が別の宗教を立ち上げ、活動継続させたんだ。

「おい、教祖。いいのかよ、あんなことさせといて」

生活教ではない以上、私が介入できる範疇を超えています生活教は他の宗教ダメはいいませんし、改宗は迫れませんよ」

教祖他人事になった途端、こんな調子だ。

釈然としねえ。

やっぱり宗教って、くっだらねえと改めて思った。

でも、くっだらねえものほど、人はなぜか面白がりたいのかも……とも思った。

(#54-おわり)

2018-04-18

[] #54-6「誰も期待していない宗教裁判

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異端審問』?

なんだ、そりゃ。

俺には馴染みのない言葉だったけど、それを聞いていた信者たちは色めきだった。

「おい、聞いたか? “異端審問”だってよ!」

まさか、このご時世に、こんな所で拝めるなんて!」

みんな、その場から離れるのをやめて、再び渦中に集まってくる。

俺はイマイチついていけてないけど、みんなの興奮ぶりを見ていると、ただごとじゃないのは肌で感じる。

気になって、タイナイとカジマに尋ねた。

「ねえ、異端審問って何?」

「オイラも詳しくは知らないっすけど、要は宗教テーマにした裁判って感じ」

「その目的は様々だけど、今回の場合だと免罪符を売っていたあの人を、生活教の人間ではないって証明するための裁判ってところだろうね」

なるほど、話が見えてきたぞ。

ニセ教祖のやっていたことは、そもそも生活教とは何ら関係のないことだと、その裁判で断定したいわけだ。

そうすれば教祖はもちろん、生活教の名誉も守られる。

信者たち目線では、単なる内輪モメが“異端審問”なんていう物珍しさによって、ちょっとしたエンターテイメントっぽく見えるようになる。

教祖にそんなつもりはなかったのだろうけど、結果として名誉挽回と信者の確保を両立する、ベターな回答を出したわけだ。

もちろん、信者たちにとってはどう結果が転ぼうと、構わない。

ただ、なんとなく刹那的に盛り上がればいい。

興味のない人間からすれば、心底どうでもいい。

そんな宗教裁判が、いま正に始まろうとしている。

俺のくすぶっていた野次馬根性も再燃してきた。


…………

急遽、始まった裁判は、公共体育館によって行われた。

こういうのって、あらかじめ予約しておかないと借りられない気がするんだけど。

当日に都合がつくなんて、変な力が働いてないか

いや、超常現象とか、そういう意味ではなく。

俺の疑問をよそに、裁判粛々と進む。

信者たちや俺は、“証人”という名の野次馬

裁判所みたく厳かな雰囲気もなく、みんなが同じパイプ椅子に座っている。

まるで、大人の学級会だ。

「えー……これより第一回、生活裁判を執り行います


本日、昼ごろ。免罪符を売る、生活教徒が出没。ですが、この者が、生活教を騙る人間ではないかという指摘が入ります

自治体中立的裁判官、および“執行者”として参加していた。

俺たちや当事者はともかく、自治体は余計な仕事を増やされてるからとばっちりだ。

異議あり 私は敬愛なる生活教徒 ライフチャンです」

生活教、教祖。彼が生活教徒ではないことを証明するものはありますか」

証明するものっつたって、信者の多くが自己申告で成立しているような、ユルい宗教だぞ。

当人生活教徒だと宣言した時点で、水掛け論にしかならない気がするけど。

生活教の基本教義が書かれた聖書、『ワーク・ライフバランス』の3ページ目をご覧ください」

聖書!?

そんなの、いつの間に作ってたんだ。

「あー、そういえば、そんなのいつも配ってた気がするっす」

「流し読みした限りでは、底辺ブロガー自己啓発みたいな感じだったから、マジメに読む気が起きなかったんだよね」

この日のためにでっちあげたとかいうわけでもなく、当初から一応あったらしい。

信者の大半は、存在すらうろ覚えだったようだけど。

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2018-04-17

[] #54-5「誰も期待していない宗教裁判

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「なんですか あなたは」

「おや、ご存知ではない? 生活教も、随分と普及したものですね。私の顔を知らない人間まで布教活動をするほどとは」

そう言うと、教祖はおもむろに羽織っている上着を脱ぎ捨てる。

普段活動をしている時の、如何にもな宗教家っぽいコスチュームが露わになった。

それを目にし、辺りがザワつく。

「ああ! 教祖様だ!」

実際に見比べて分かったことだけど、ニセ教祖は装飾品が多くて、教祖のほうはむしろ質素服装だった。

自分でも思っていた以上に、大体の雰囲気しか記憶していなかったらしい。

アニメとかマンガの、バレバレ変装シーンを馬鹿にできないな。

或いは、時代劇の印籠とか、主人公の正体がお偉いさんのパターンとか。

「そうでしたか これは失礼しました わたしは ここ一帯で 生活教の布教活動を しているものです」

だけど、ニセ教祖はたじろがない。

何か、この場を逃げ切る打算でもあるのだろうか。

生活教による営利行為は禁じられているはずですが?」

「違います これは“寄付”です」

「それと引き換えに免罪符提供している時点で、明らかな商売です」

「違います お金では ありません この“ライフポイント”という 石を用いています

ライフポイント?」

そういってニセ教祖は、カラフルな石を見せた。

見た目こそカラフルだが、駄菓子屋とかで売っていそうな、チャチな安物っぽい。

これでカード自動販売機を動かすから、金を使ってはいない、という主張だろうか。

「ええ 貨幣ではないので 問題ありません」

無意味なオタメゴカシはやめなさい。結局そのライフポイントを換える際に金銭を使っているでしょうが

だけど、大した理屈じゃないことは、誰の目を見ても明らかだった。

しろ『金を使っている』という意識を逸らすために、あえてワンクッション挟むという姑息なやり口でしかない。


その後もニセ教祖は様々な理由を展開していくが、どれも言い逃れとしてはかなり苦しかった。

こりゃあ、もう時間無駄じゃないか

だけど、周りから漏れてくる声は、俺以上に素っ気無いものだった。

「なんというか、興醒めっすね……」

「よく分からないけど、生活教はクソっていう認識OK?」

「もう帰ろうーぜ。つまんねーよ」

ここにきて、俺はニセ教祖抵抗する意味理解した。

今のこの状況は、傍から見れば単なる“内輪モメ”だ。

面白半分で入信している人が多い生活教において、彼らを求心するのは結局「面白さ優先」。

内輪モメなんてのは、楽しむ上でノイズしかならない。

このまま問答を続けても、世間には悪評が広まったまま、そして信者にはそっぽを向かれる。

宗教に限らず、世間でそういった流れができたときイメージ払拭することがどれだけ大変なのかは言うまでもない。

そのことに、教祖はまだ気づいていない。

いや、気づいたところでもう手遅れだ。

教祖自身に非がなくても、“その後”のことについて「生活教」という看板と、「教祖」という立場があまりにも重くのしかかる。

ニセ教祖を見逃すか、或いはケチがつくことを覚悟断罪するか。

一見すると有利なはずなのに、試合をとるか、勝負をとるか、みたいな戦いになっていた。

まあ、いずれにしろ泥仕合消化試合だ。

俺も飽きてきたので、その場から離れようと思った、その時。

教祖は、切り札を切った。

あなたのやっていることは“生活教”ではありません!」

「どうやって それを証明すると?」

「いま、ここで、ハッキリとさせましょう。“異端審問”です!」

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2018-04-15

[] #54-3「誰も期待していない宗教裁判

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俺は野次馬根性継続させ、ハイク町に赴いた。

自分で言うのもなんだけど、その日は本当にヒマだったんだ。

「あれ、マスダの弟くん。こんなところで会うなんて、奇遇っすね」

そいつ布教活動をしているらしい場に着くと、見知った人物出会った。

確か、兄貴クラスメートのカジマとタイナイだ。

この人たち、確か“自称信者”だった気がする。

「ああ、たぶん奇遇でも何でもない。似たような理由だと思うよ」

「あ、やっぱり、そうなんだ。教祖布教方法を変えたっていうから、“信者”としては見ておかないとね。ブログネタにもなるし」

どうも生活教ってやつは、ヒマな人間を引き寄せる力があるらしい。

それにしても、教祖もどこかにいるはずだけど、まだ来ていないのだろうか。

辺りを見回すが、それらしき姿は見当たらない。

その時、数メートルからカン高い声が聞こえた。

「皆さん こんにち は!」

いた、教祖だ。

……いや、背格好は似ているけど、よく見てみると別人だ。

というか声も、喋り方からして違う。

たぶん、あれが自治体の言っていたヤツだろうな。

便宜上、「ニセ教祖」と呼ぼう。

教祖も中々に胡散臭い奴だが、ニセ教祖は輪にかけて胡散臭い雰囲気を纏っていた。

カン高い声も相まって無駄に目立ち、独特な存在感を放っている。

スイカ野菜ですが 果物でも あります

まあ、声の強さの割に、言ってる内容がしょーもないのは教祖と同じだけど。

教祖を知ってる地元人間や、信者でもない人からすれば、確かに間違えそうだ。

だけど、決定的に違っていたのは、“その後”だった。


「さて 今日は皆さんに 生活を授ける 素晴らしいものを持って参りました」

頭にまるで入ってこない説教を数分ほどすると、ニセ教祖はおもむろに見覚えのある機械を取り出した。

確か「カードデス」っていう、ゲームカード自動販売機だっけか。

免罪符 それを授かる道 身体を軽くして ください」

イマイチ言ってることが分かりにくいけど、たぶん「“寄付”すればカード自動販売機から免罪符が出るよ」って言いたいのだろう。

「よーし、じゃあオイラが!」

怪しさ満点にも関わらず、カジマが機械に小銭を放り込んだ。

興味本位でやっているだけなんだろうけど、だからこそ抵抗がないのだろうか。

「さーて、何が出るかなあ、と」

レバーを捻ると、パスポートサイズの安っぽい厚紙がニュルリと出てきた。

あれが免罪符なのだろう。

「『輪廻転生』って書いてるっすけど……」

「これは善い免罪符 引き当てましたね しかも 希少な方です」

ニセ教祖いわく、“当たり”ってことらしい。

免罪符に、妙な光沢があるのはそのせいなんだろうか。

「いや……良く分かないんすけど、どう希少なんすか?」

「これを創造主に お渡しすれば 平行世界や 異世界でも 転生することが できます

「ああ、“聖書”で読んだことある! 転生前神様からステータス設定とか、スキル付加してもらえるんすよね!」

その“聖書”って生活教とは関係ないやつじゃないか

「いえ その場合は 他の免罪符が 別途 必要です」

種類が複数あるのかよ。

「ええ……じゃあ、その免罪符は、どうすれば」

「5分 5厘の 確率で 手に入り ます

5分5厘……えーと、何%だっけ。

いや、それも気になるけど、ツッコミどころが多すぎるぞ。

免罪符のものがどうかってのもあるし、百歩譲っても金を払った挙句ランダムってどういうことだよ。

「あまり高い確率では ありませんが 本日は主の生誕した日 つまり免罪符が出やすい日 なのです なんと 2倍!」

「へえ~」

全体の出る確率が上がってたら、目当てのものが出にくいままなのは同じじゃねえか。

「……あれ、でも昨日も似たようなことやってると聞いたけど?」

「先週は主が降臨なされた日です。生誕日とは似て非なるものです」

「あ、なるほど」

違いがよく分からんし、わざわざ別にしないとダメなのか、それ。

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