「どこからそんな情報が? 寄付そのものを募ったことすら一度たりとてありませんよ。金銭が少しでも絡むと悪目立ちしてイメージを損ないやすいですから、そういうのは特に気をつけているんです」
俺から見れば、さっきの布教活動自体も悪目立ちしているように見えるんだけど。
それとも俺が知らないだけで、裏ではこっそりやってたりするんだろうか。
宗教なんてのは布団と一緒で、叩けば埃が出てくると相場が決まっている。
「ハイク町? 何かの間違いではないのですか?」
ちょっかいをかけられることに慣れていたので、教祖はそれをイタズラの報告ではないかと指摘した。
「連絡が一つや二つ、特定の人物から来るようなら我々もマトモに取り合う気はなかったんですが……それが多数の人たちから、いくつも来ていましてね」
だけど、自治体だってそういったイタズラには慣れていたから、いつもなら建前上の対応をするだろう。
つまり、わざわざ詰問するってことは、それなりの理由があるってことだ。
「自分たちはハイク町に赴いて、実際にその様子を目撃しているんです」
「なんですって!?」
おっとお、これは決定的だ。
一つの宗教が崩壊する瞬間を目撃するなんて、今日は最高の野次馬日和だな。
「待ってください! 私は本当に身に覚えが……では、その頃の時間を言ってください」
話が進展していくにつれて、事態は俺が思っていたよりも複雑なことが分かった。
教祖はその時間帯、ハイク町ではなく、別の街で布教活動をしていたことが目撃者の証言で判明。
自治体の組員は最初、その目撃者が実は信者で、口裏を合わせているのかもと疑った。
だけど生活教の信者は、教祖が不利になるようなことしか言わず、しかも内容は明らかにデタラメだと分かるものだった。
つまり、ハイク町で商売紛いのことをしていたのは別人ということだ。
だけど、これで教祖への疑いが晴れたわけじゃなかった。
なにせハイク町で布教活動をしていた人物は、“生活教”を掲げていたからだ。
それに、もし本当に教祖自身が与り知らなかったとしても、同じ宗教の人間による行動であるとすれば、当然その責任は発生する。
教祖は自分の名誉と、生活教の名誉を懸けて、“自浄”の必要に迫られていた。
「疑わしきは罰せず」なんてのは司法国家の話であって、こういう事柄は疑いをかけられた側が晴らすしかない。
自分のせいでサイフから小銭がこぼれ落ちたわけじゃないとしても、落ちた小銭は持ち主が拾うしかないんだ。
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