自分で言うのもなんだけど、その日は本当にヒマだったんだ。
「あれ、マスダの弟くん。こんなところで会うなんて、奇遇っすね」
そいつが布教活動をしているらしい場に着くと、見知った人物に出会った。
「ああ、たぶん奇遇でも何でもない。似たような理由だと思うよ」
「あ、やっぱり、そうなんだ。教祖が布教の方法を変えたっていうから、“信者”としては見ておかないとね。ブログのネタにもなるし」
どうも生活教ってやつは、ヒマな人間を引き寄せる力があるらしい。
それにしても、教祖もどこかにいるはずだけど、まだ来ていないのだろうか。
辺りを見回すが、それらしき姿は見当たらない。
「皆さん こんにち は!」
いた、教祖だ。
……いや、背格好は似ているけど、よく見てみると別人だ。
というか声も、喋り方からして違う。
たぶん、あれが自治体の言っていたヤツだろうな。
教祖も中々に胡散臭い奴だが、ニセ教祖は輪にかけて胡散臭い雰囲気を纏っていた。
カン高い声も相まって無駄に目立ち、独特な存在感を放っている。
まあ、声の強さの割に、言ってる内容がしょーもないのは教祖と同じだけど。
教祖を知ってる地元の人間や、信者でもない人からすれば、確かに間違えそうだ。
だけど、決定的に違っていたのは、“その後”だった。
「さて 今日は皆さんに 生活を授ける 素晴らしいものを持って参りました」
頭にまるで入ってこない説教を数分ほどすると、ニセ教祖はおもむろに見覚えのある機械を取り出した。
確か「カードデス」っていう、ゲームカードの自動販売機だっけか。
イマイチ言ってることが分かりにくいけど、たぶん「“寄付”すればカード自動販売機から免罪符が出るよ」って言いたいのだろう。
「よーし、じゃあオイラが!」
怪しさ満点にも関わらず、カジマが機械に小銭を放り込んだ。
興味本位でやっているだけなんだろうけど、だからこそ抵抗がないのだろうか。
「さーて、何が出るかなあ、と」
レバーを捻ると、パスポートサイズの安っぽい厚紙がニュルリと出てきた。
「『輪廻転生』って書いてるっすけど……」
「これは善い免罪符 引き当てましたね しかも 希少な方です」
ニセ教祖いわく、“当たり”ってことらしい。
免罪符に、妙な光沢があるのはそのせいなんだろうか。
「いや……良く分かないんすけど、どう希少なんすか?」
「これを創造主に お渡しすれば 平行世界や 異世界でも 転生することが できます」
「ああ、“聖書”で読んだことある! 転生前に神様からステータス設定とか、スキル付加してもらえるんすよね!」
種類が複数あるのかよ。
「ええ……じゃあ、その免罪符は、どうすれば」
5分5厘……えーと、何%だっけ。
いや、それも気になるけど、ツッコミどころが多すぎるぞ。
免罪符そのものがどうかってのもあるし、百歩譲っても金を払った挙句にランダムってどういうことだよ。
「あまり高い確率では ありませんが 本日は主の生誕した日 つまり免罪符が出やすい日 なのです なんと 2倍!」
「へえ~」
全体の出る確率が上がってたら、目当てのものが出にくいままなのは同じじゃねえか。
「……あれ、でも昨日も似たようなことやってると聞いたけど?」
「先週は主が降臨なされた日です。生誕日とは似て非なるものです」
「あ、なるほど」
違いがよく分からんし、わざわざ別にしないとダメなのか、それ。
「どこからそんな情報が? 寄付そのものを募ったことすら一度たりとてありませんよ。金銭が少しでも絡むと悪目立ちしてイメージを損ないやすいですから、そういうのは特に気をつ...
「本質的な意味や目的が同じであれば、一つの体系にこだわらなくてもいい。むしろ拘ることこそ、視野を狭くする要因になる」 俺たちの町で活動している、“生活教”とかいう教祖の...
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