2023-06-19

自滅の裁断 〜遊郭編〜

今、この文章新幹線自由席で書いている。この自由席本来であれば1週間後に乗っていたはずのものだ。今日とは言わずもう少し後に乗っていたはずだった。


6月。俺は現在転職の節目に立っている。

大学卒業してから新卒として入った会社に3年ほど勤め、退職を決意。

次の職場も何とか決まり、そこに移籍する前の有休消化期間。謂わば今は少し早めの夏休みだ。


そうなるとさすがに旅に出たくなるもの

自身そんなアクティブ人間ではないと思っているが、有休消化期間が長ければ長いほど旅に出ないと勿体無いよねという風潮も何となくある気がする。

そうなってくると自分にはちょうど良い当てが1つあった。それは大学時代の友人。


かつて学科が同じだったそいつとは大学に入ってすぐに打ち解け、恐らく大学生活の中で一番一緒に遊んでいた。

大学1年からの付き合いで現在社会人3〜4年目辺りなのでもう何だかんだ7〜8年の付き合いにはなる。

そいつはと言うと、当初は俺と近しい地域社会人をやりつつ彼女同棲していたのだが、個人的事情等もあってその仕事退職現在彼女を連れて自身故郷に帰り、そこで別の仕事をしている。


友人が前職を退いたのが今年の頭くらい。そして故郷に帰る直前の別れのタイミング、俺は友人にとある約束をした。

「俺も仕事辞めて時間取れたらそっち遊びに行くわ」

正直今言うとこれは冗談半分だった。その頃の自分立場はと言うと、現職にブーブー文句を言いながらも怒られつつ何だかんだ仕事を辞める気配は無い人間

転職活動はしていたものの、一向に次が見つかる気配が見えない。というか活動をする余裕もないくらいに精神仕事にすり減らされていた。

そんな状況のため、転職できてももうしばらく先の話だろうなと考えていた。


ただ、事態は一回動いてしまえばあっさりと進んでいくもの

春頃に次の会社とご縁があり、思いがけずに内定を頂いてしまった。本当にありがたい話。

そして現職から身を引く作戦始動させる必要が出てきたため、何人かの人とお話をした後に退職手続き完了

立つ鳥跡を濁さずって言葉があるけど正直俺はその逆。割とウンコぶち撒けてその場を去るような辞め方をしたクソ害鳥だったが、それは今回の本題ではないので割愛

とにかくにも有休休日出勤をしていた分の代休が合計1ヶ月は溜まっていたため、さすがに何か特別いたことをしないと勿体無いなという状況になった。


ここまで読んでお察しの方はいるかと思うが、俺には彼女がいない。悲しい悲しい独り身。

有休消化期間の旅に行こうぜ!なんてノリにフットワーク軽めで付き合ってくれる友人がすぐ見つかる程の陽キャでもない。

そこで先述の言葉に戻る訳だ。俺は友人にコンタクトを取り、そいつ地元に遊びに行かせていただく運びとなった。


この友人の彼女さんというのがすごい出来た性格の方で、俺なんかともニコニコ愛想良く仲良くしてくれる存在

友人が引っ越す際に「遊びに来るなら新居の部屋は複数あるから是非泊まりに来てくれ」と言ってくれた際も彼女さんはその言葉に乗せて「楽しいんで是非来てください!」と言ってくれるほど。

もちろんそこには男女の一つ屋根の下での生活があるため、幾ら無神経クソ害鳥の自覚がある俺でも宿泊の予定を立てる前に最終確認の連絡をする。

それでも結局前向きな返事は変わらずだったのでお言葉に甘えさせて頂き、宿泊の用意をして友人の故郷に足を伸ばすことに決定。

大まかな遊びプランLINEグループ作成の上で話し合い、俺は1週間程度滞在させていただくことに。

滞在期間に友人カップル休みである土日は計4日訪れるため、その4日で故郷故郷近辺の地域観光することになった。


休み期間の前半を家の片付けや家から足を伸ばした範囲で満たせる趣味、数少ない俺と飲んでくれる後輩等との食事、そして脳死ダラダラタイム等で消化。

そして月半ばくらいの金曜日旅行の支度をし、家を飛び出して野暮用の買い物を済ませる。

電車新幹線電車というルートで友人宅を目指し、夜分遅くに何とか人生初めての地へ到着した。

早速快く出迎えてくれた友人カップルささやかお土産引越し祝いを渡し、その日はチビチビお酒を飲みながらボードゲームをして大いに盛り上がった空気感のまま就寝。


最初土曜日は友人の故郷の有名な観光地を車で巡ろうということになっていたため、某動物園や海沿いの市場に出向いた。

動物園への道すがらの車内で音楽を流して楽しくお話しながら目的地を目指した。

動物園に到着するちょっと前には00年代ドラマ話題になってそのドラマたちの主題歌を流したり、友人の彼女さんが好きな00年代ジャニーズアイドルの曲を流してノスタルジックになったり。

彼女さんが鬼滅の刃が好きという話から現在主題歌がそこまで評判良くないという話題にもなり、その曲を流したり。(俺は嫌いじゃないからね。マンウィズとmiletファンの方すみません。)

彼女さんは今の曲も別に嫌いじゃないけど私は遊郭編が好きで良い話だったからその時の主題歌ハードルとして高すぎた、みたいなことを言っていた。確かに

到着した動物園では多種多様な生き物に目を輝かせ、もうしばらく人間以外の生き物は見なくてええわと言うくらい堪能した。ちなみに俺が一番好きな動物体調不良でお休みだった。泣いた。

海沿いの市場でも買い物と簡単食事をさせていただき、そこで実家や後輩に対してのお土産を送ったりもした。


その日の夜はみんなで酒を飲みながら楽しくゲーム桃鉄をやって争いになりかけた。若干なっていた。友人がベロベロに酔って彼女煽りすぎていた。

こればっかりは他人との仲を引き裂く桃鉄が全部悪いです。僕たちは何も悪くありません。


そして翌日。日曜日は友人故郷の隣の地域がその地区屈指の大都市であるため、電車で向かってそこの街をぶらぶらしての観光

詳しい経緯は説明を省くが友人のお母様とも合流して食事をご一緒させていただいたり、有名な観光地を巡ったり。

そして繁華街の中にある有名なご当地のお店で晩御飯。某有名漫画家の方も度々訪れるというその店でご当地の味を楽しみ、「いや俺今旅人だわ〜〜〜」という心地良い感覚ビールの泡と共に胃に流し込む。

間違いなくその瞬間の俺は社会人としての苦しみ等嫌なことを全て忘れ、心地良い空気感の中に包まれていた。

友人と友人の彼女さんも翌日月曜日であるにも関わらず、俺の旅に付き合ってくれてご当地飲食を堪能していた。良い旅のムードが確実に出来ていた。



出来ていたんですけどね。その時までは。



食事を終え、店を出る。時間的にもちょうど良い。このまま故郷に帰還し、お二人は翌日仕事等で外出。その時間帯俺は独りぼっちで外をブラつき、二人が帰ってくるまで外にいるという段取りの予定。

このまま帰っても良かったのだが、その考えは友人の悪魔の囁きによって打ち砕かれる。


「ここから徒歩で行ける距離に◯◯(日本屈指の風俗街)と××(日本屈指の趣がアレな地区)があるけど行ってみない?」


心踊った。全然金あるなら普通に1人で風俗行きたい。ただその時の俺はそうそう余裕がある訳ではなかった。だからそこの風俗街がどんな空気感なのか見るだけになるが、それでも心踊る。

後々調べたらそこって利用する気も無いヤツのひやかし歩き禁止らしい。マジで反省しています


ただ、大きな問題がある。

友人の彼女を連れて行くのはいかがなものか。いかがなものかっていうか普通にダメだろ。

恐らく大多数の女性が見たら不快感を抱く光景であることは間違いないだろうし、同性愛者でもないその友人彼女さんに何のメリットも無いし。

ちなみにこちらも後で調べたら女性の方がひやかし目的で歩くことは禁止だったみたい。色々ダメじゃん俺たち。


後で振り返ればこういった妥当判断を幾らでもできるのだが、その時はダメでした。酒ゲキ弱男の俺はアルコールに飲まれていました。

勇み足で◯◯と××に歩みを進める友人に向かって「Aちゃん(友人彼女)連れて行くのもアレだしさ、2人は帰って俺だけ見に行くか3人で見に行くか、Aちゃんの顔色見て判断した方がいいんじゃない??」と提案

夜分遅くの繁華街から故郷までの電車での遠い道のりを女性1人で帰らせるのも宜しくないと思った俺と◯◯や××を見に行きたいという気持ちの俺が脳内で話し合った結果、そのような提案に。

ただ、そもそもこの見物の言い出しっぺは友人。友人がその勇み足簡単に止めて「じゃあ、俺は彼女と先帰ってるわ。好きに見に行ってきな」と俺だけを送り出すはずもなく。普通に食い気味で「Aも連れて行きます」と判断

というか何なら最低な話、アルコールまれモードの俺も普通にノリノリだったので「私は一応最低限の提案しましたよ。その上で友人が彼女をこの俗人甚だしい歩みに付き合わせるのであればそれはお二人同士の問題です」というニュアンスを含んだ責任転嫁の丸投げ行為に等しい建前だけの薄っぺら気遣いモドキな発言しかなかった。

最低限の提案通り越してもうほぼ友人に3人で行くって言わせるための誘導尋問に近いよねもはや。


シラフの今思う正解は何かって?

そんなん「そんなもの見ずに3人で帰りましょう」に決まっておるじゃろ。


常連客どもの歌声がお構いなしに路上に響くスナック街を抜け、少し歩くとそれは見えてきた。

暗闇の中、幻想的にボヤァっと光る街灯。店の名前が書かれた質素看板が通りに無数に連なっている。

風俗街って言うか遊郭って感じなのかな、表現としては。前日ちょうど鬼滅の刃遊郭の話をしていたが、まさか翌日に本物を目にするとは。


そこの通りは各店オープンな感じで女の子が呼び込みをしている賑やかな空気感。その地域を知っている方はもうこの一文でどこに行ったのかお分かりだとは思う。

目を輝かせて首を激しく左右に振る俺。うわレベル高え〜、と高揚感が止まらない。性欲に対する行動がキショ中学生すぎる。死んだ方が良い。金無い社会人がこれやっているという状況がそもそも情けない。


ふと、横をチラッと見る。友人のテンションが意外と上がっていなかった。言い出しっぺの割におとなしいなと思った。その答えはすぐ横を見たら明白だった。



友人の彼女さんが怖い目をして俯いて歩いていた。



後濁しまくりクソ害鳥は察した。俺たちやってしまった。

察した頃にはその通りも終盤に差し掛かる時。そして少しばかり歩いて完全にそこを抜けた後、彼女さんは友人に対してキレた。


「こういう場所とは思わなかった。何でこんなところ連れてくるのか。お前らだけで行けば良いだろこれ。」

そんな感じの内容でキレていた。前日に鬼滅の刃遊郭編のことを嬉々として語っていた子が遊郭見させられてキレている。


それを聞いた時点で俺と友人は内心「風俗街ってことは今日の会話の中で何回も言ってたやん」とは思った。なんなら思ったというか友人は口に出して彼女にそう言った。

そしたらそんなこと聞いていない、私が認識していたのは××(趣がアレな地区)の方だけだとキレ返された。

そもそも悪ノリ女の子付き合わせてる時点で何言おうと俺と友人サイドが100%悪いんだけどね。100:0でこちらの過失だよ完全に。


気まずい空気のまま最寄りの駅まで歩みを進める。俺は友人に「××は行かないの?」と小声で聞いた。この空気で行くわけねえだろバカかこいつは。

道中、その地域名物建物があったので「そういやこの建物出張でこの都道府県来てた親父が嬉々として写真送って来たわ」的な話をした。

それが琴線に触れたのかその直後、友人彼女は俺に顔を向けて「増田さんも共犯ですからね!悪いのはコイツ(友人)ですけど!!」とキレてきた。初めてこの子にキレられた。怖い。

さっきからこのバカ害鳥はマトモなムーブ出来ないのか。


引き続き気まずい空気感の中、最寄り駅に到着。そしてそこで死の宣告に等しい一言が友人彼女の口から発せられた。


増田さん。すみませんが今晩のところはどこかホテル泊まってくれませんか?私はコイツ(友人)に話があるので。」


俺は何も考えず二つ返事で「ハイ」と口にした。怖かった。普段怒らない人が怒ると怖いとはこのことか。


そして友人宅まで長い時間をかけて帰還し、何とかホテルを確保できた俺は一旦荷物をまとめるために一時的に寄らせてもらうことに。

ただ、俺は酔いが冷めてきていた帰り道すがらで考えていた。

多分もうこれ以上の滞在は無理だろうな、と。

きっとこの荷物まとめ作業一時的撤収のためのものでは無いだろう。完全なる帰り支度となるだろう。

友人は一応コッソリと「何とか説得するわ」とは言ってくれたものの、何となくここで旅はおしまいだなという空気感がその場にそこはかとなく漂っていた。


一応友人彼女感情的になっていた先刻とは打って変わり、表面上は落ち着きを取り戻していた。そして俺に告げる。

「一応増田さんが旅を楽しんでくれるよう最大限考えて話し合いはしますけど…。すみません、正直もう帰ってもらう前提で考えといてください。」

完全に同じ認識でいたので逆にホッとした。間違いなく俺は帰ったほうがいい。

こちらが100%悪いのに終盤まで気遣いをして頂ける辺り、改めて性格良い方なんだなと実感する。ホンマ何でこの性格の人を怒らせられるねんこのバカ男2人は。


荷物をまとめ終わり、玄関のところで帰る前提の挨拶を2人に済ませる。一応念のため翌朝にでも話し合いの結果を報告ちょうだい、の一言も付け加えた。

仮に話し合いで状況が大逆転して予定通りもう少し泊まっていて良いですよとなったところで、もう俺にそこから更に1週間泊まるバイタリティは残されていなかったような気はするけど。


そしてホテルに向かいフカフカで寝心地良いはずの布団で寝付きも悪く、翌朝5時台に目が覚めた。

無意識LINEを開くと、友人からの連絡が入っていた。

寝ぼけ目で見たLINEでも状況を飲み込むことに迷いは無かった。やっぱ話し合いした結果、無理でしたの報告。

女性性的商品みたいになっている光景にショックを隠せなかったとのこと。

友人からは全部俺が悪い、お前はむしろ被害者からごめんという謝罪文章が書かれていた。お前が俺を許してくれるなら付き合いは切れないと思うので、と。

また、今晩サシで飲めないかという提案も書かれていた。


許すも何も普通にこっちが悪いので別に謝られる道理もない。

ただ、帰ることが決まった以上は電車新幹線時間、あと何より予算的にも遅くまでの滞在はできない。

俺もサシで飲んでその場の気持ちだけでも清算しておきたかったが、それは断念した。

その日、ホテルのチェックアウトを済ませた後に1人でその地域歴史的なお城を少しばかり観光し、ご飯を軽く食べて立ち去った。

全ては自業自得故の裁断。そこに名残惜しいとか怒りとかそんな簡単言語化できる気持ちは残っておらず、とりあえず家に早く帰りたいとの思いだけで電車に乗った。


そして新幹線に辿り着いてから書き始めたこ文章も終盤となった今。無事に自宅の最寄駅に到着した。


楽しさと罪悪感が入り混じった数奇な初夏の思い出がそこには残っている。

終盤が怒涛の展開すぎてもしかたらこれは全部夢だったのかもとさえ思っている。俺はハナっから友人と遊んでなどいなかったのかもしれない。

でもそれでも良い。そんな悲しい結末だったとしても俺は耐えられる。何故なら俺は長男から。厳密には姉がいるから炭治郎と違って一番上じゃないけど。


そういえば。帰りの新幹線で例の鬼滅の刃主題歌を聴いていたが、曲が二番のサビに差しかるとマンウィズがこんな歌詞を歌っていた。



“解き放て今 僕らが起こした火を 舞い上げ走れば明日が変わるはず”



起こした火を舞い上げた結果、明日スケジュール強制帰還に変わってしまったなあ…。

ちょっと炭治郎に首切られてきます

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