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2018-03-25

現実活動している時間よりも夢の中にいる時間の方が長いという話

しかしたら同じ経験がある人がいるかもしれないので、ここに記そうと思う。

まず始めに、私と夢について。

私は幼少期から夢を見るのが好きだった。

小学生になる前に好きだったのは、足や腕が伸びる夢。布団から飛び出し、ぐにゃぐにゃとどこまでも伸びる。

小学校低学年の時好きだったのは、校舎の屋上から飛び降りる夢。大体地面に着地すると同時に目が覚める。

小学校卒業するくらいになると、自宅の周辺を歩いている殺人鬼(みたいな何か)に追いかけられるという夢が好きになる。スリルがあっていい。

ここまでは、普通の夢が多かった。

どれも短めで、感覚としては5分アニメのようなもの

中学生になると、徐々に夢の内容に変化が見られた。

思春期になって視野が広がり、色々なことを考えるようになったのが原因な気がする。

その変化というのは簡単に言うと「夢の中の体感時間」の変化。ここで初めてタイトルと繋がってくる。

夢の中にいる時間が、明らかに伸びていく。

とは言ってもこの頃はまだ30分から1時間くらいのものである

そして次に、内容が変化していく。

中学生から高校生になるというあたりから、私は夢を見るのがもっと楽しくなってしまった。

理由は「夢の中に出てくる人物」。

その人物出会うたびに容姿が違う。身長髪型が違ったり、自分との関係性が違ったりする。

ただ唯一、声だけはいつも同じであった。

そして自分はこの人物を見るたびに、なぜかすぐにその人物だと分かる。感覚的に分かる。

判断基準は見た目ではない。なぜなら毎回変わるからである

では声で判断しているのかというと、そういうわけでもない。声を聴くから、その人物だと分かる。

友達だったり、同居人だったり、所属している超能力者集団の仲間だったり、遠く離れた場所に住んでいる親戚だったりする。

そしてこの人物は、19歳になった今もなお夢の中に現れ続ける。

そして、その人物に会いたいと思えば思うほど、どんどん夢の中にいる時間が長くなっていく。

3時間くらい。

半日くらい。

丸一日。

3日間。

そして1週間…

現在、最長で2ヶ月ほど夢の中にいた記憶がある。

その時の関係性は恋人であった。結婚しているのかどうかは分からなかった。

一面金色麦畑しかない、周りにはだれも住んでいないような場所に二人で住んでいた。

岡のようなものがあり、その上に家があった。

楽しい生活だった。毎日二人で話しながら何やら作っていた。編み物の類だと思う。

目が覚め、一瞬で今までのものが夢だったと気付く。少し残念に思う。

そしてその残念な気持ちは消えることはなかった。何日か経っても、思い出すたびに悲しくなった。

あんなに楽しかったのに。あんなに一緒にいたのに。

私は思ってしまった。

もっと夢の中にいたい」

精神がどんどん不安定になった。

現実友達と話している時よりも、趣味に向かっている時も、夢は魅力的だった。

そしてある時、ひとつ事実が発覚する。

から朝にかけてみる夢よりも、朝から夕方にかけて見る夢の方が体感時間が長いことに気付いたのだ。

私は昼夜逆転を治せなくなってしまった。

しばらくの間昼夜逆転生活が続いた。

さて、この記事を書いている今私はどうなっているかというと、だいぶ落ち着いている。

夜に寝て朝起きている。普通生活に戻った。

夢の長さも、少しずつではあるが短くなってきている。

毎回のように現れた「その人物」も、少しずつ現れなくなってきている。

目が覚めた時のショックも以前より小さくなっていた。

から離れることができたきっかけは、ここでは書かない。

でもこれだけは言える。

下手な絵があるから上手な絵が綺麗に見えるように、つまらない現実があるから夢が楽しいのだ。

同じことの繰り返しである変化のない現実よりも、毎回違う話の主人公になれる刺激だらけの夢の方が楽しいに決まっている。

でも夢はあくまでも夢だ。

息を吸っている、心臓が動いている場所はずっと変わらず現実である

理想的ではない現実での生活を補うように、自分が心を病まないように、私の脳が見せてくれた夢。

自分の脳に感謝する。ありがとう

まらない私を、数え切れないほどの物語主人公にしてくれてありがとう

勢いで書いてしまいました。誰かに話したかった。

もし、かつての私のように夢に操られている人がいたら、私は伝えたい。

夢の中の空よりも、現実の空の方が綺麗だと。

長くなってしまい、申し訳ありません。

2016-12-28

ガールズ&パンツァー同人誌オブジイヤー2016

はじめに

今年も一年ありがとでした。

年の瀬京子も迫り、各所で続々と2016ランキングが発表されていますね。自分も今年の統括的なモノをしたためたく、2016年一番励んだことってなんだろうと考えてノータイムで浮かんできたのが、ガールズ&パンツァー同人誌を買い集めることでした。

劇場版公開から怒涛のようにリリースされた2016年発行のガルパン同人ベスト10をお送りします。

筆者は一部好きなキャラに偏りがあること・百合オタクであることを踏まえた上で読んでいただけると幸いです。

(各本にリンクを貼ろうとしたのですが9個までしか貼れないと書いてから気づいたため一部を除き割愛しました。作品の詳細についてはおググり願います。また、18禁はここには書けないので除外しています

10位『ダージリン様は紅茶戦車道ドランクドラゴン塚地武雅を嗜んでおります逸見エリカびっくりドンキーに初めていく本』作者:キサラギキサラ(幸福発見セミナー こころうつわ)

  • 初出:ぱんっあ☆ふぉー!7 (2016/6/26)

これを貼りたくてランキングを書き始めたと言っても過言ではない一品逸見なだけに逸品です。ガルパン公式よりもびドンに怒られるのではというほどに作中ふんだんにっンー店内及びハンバーグの実写(しかもなぜか画素が超粗い)が使用されています。「なぜエリカナカジ!?」と一瞬考えてしまキラーカップリング百合的みどころです(書いてる途中で気づいたけど普通に決勝で乗った乗られた仲でした)。

第9位『不器用な好きのかたち』作者:match(20twenty)

もともとお酒を飲むシーンが気軽に描ける(そして大学生百合では出せないしっぽり感がある)社会人百合が割と好きというのもあり、しほ千代のこうしたババア…年増百合ってほんと最高ですね……。『西住しほが高校生だった頃』という二次創作伝家の宝刀である過去百合連作として進行中で目が離せません。

第8位『きみの名の日』作者:ミヤカワ(Lid_of_pan)

  • 初出:ぱんっあ☆ふぉー!7 (2016/6/26)

最強のノンカチュ本です。公式でも結構大概なのに二次創作では過剰にクレイジーサイコレズ(すっかり死語)として描かれがちなノンナ・そしてその煽りを受けてレズギャグ要員にされがちなカチューシャですが、そんなふたりでここまでエモーショナルに振り切って描けるのかと甚く感激しました。あとこの本に限った話ではないのですが、A5の百合同人誌って佳い打率8割くらいなので買うだけでドキドします。

第7位『ライラック』作者:高橋むぎ(麦畑)

意外と少ないももゆず本、大変貴重な一冊です。というか、筆者の観測範囲だと序盤の強引かつ高圧的なやり口のせいで、一部ファンから生徒会の評判が悪いようです。そういった悪評を『生徒会を快く思っていない一般生徒』に担わせるところからまり当事者である西住みほのひとことで締めることで、生徒会および河嶋桃の懊悩と救いが短いながらに描かれており、欲しいやつぜんぶきちゃったな~という一冊でした。リンク先調べてて気づいたのですがこの御方、響ユでなかよし川も描いてたのですね、アレもとても佳かったです……!

第6位『どうあがいてもあいしてる』作者:ぱいしぇん(チームタテガミ)

  • 初出:ぱんっあ☆ふぉー!7 (2016/6/26)

にわかに活気づいている(と思いたい)さおまこ界のスラッガーです。武部沙織という乙女キャラクター百合で動かす際に、こういうレディコミ風の絵柄と一人称モノローグを使うとバツグンに佳くなります。あとこれもこの本に限った話ではないのですが、ラブライブ百合やってる人がガルパン百合に来ると確実にホムーランなんだよね……ラブライブ同人地力がもともとすごいという話でもあるけど……。

第5位『角谷杏は虚栄に乾いている』作者:勇魚、表紙:じゅかい(虫魚グラディエーター)

  • 初出:ぱんっあ☆ふぉー!8 (2016/9/11)

角谷杏メインの同人誌は良作が非常に多く、どれをベスト10として選出するか熟考しました。この本、飲みの席に持っていってその場で読んでもらったのですが、人がまんがを読みながら涙ぐんでいるところを初めてリアルタイムで見てしまいました(心当たりのある方申し訳ない…)。なお、冬コミまでの期間限定フリーリリース(https://chu-gyo-g.booth.pm/items/389763)されているので未読の方はリンク先を今すぐご参照あれ! このランキング年末までに急いで書いてるのもそのためなんだけど、冬コミまでっていつだ、開催までなのか、冬コミ終了までなのか、どっちなんだ……?

第4位『少女戦車6 轢け!タンニアム』作者:岡昌平(黒汐物産)

過去百合といえば大人キャラだけの特権ではなかったですね、幼馴染であるさおまこにも為せました。長年ガルパン二次創作を描いてきた岡先生の筆致に泣く『ゆめのかよいじ』ですが、実は激突!女子高生お色気戦車軍団6巻にも収録されているため、厳密に言えば2015年末が初出と言えなくも……でもこの本は今年の夏コミが初出だからOK!

第3位『西住 おまえがナンバーワンだ!!』作者:藪ぐぐる(クラタスポーツ)

  • 初出:ぱんっあ☆ふぉー!8 (2016/9/11)

河嶋桃メインの同人誌というだけでなく、そこに西住みほをぶつける超爆発のガルパンまんがです。これはもうサンプルを読んだ時点で涙を流してしまいました。なんというか、桃ちゃんを描く人って桃ちゃんが考えそうなことを考えるのが本人かよってレベルで上手いし描きっぷりも尋常じゃないのでこれからもどんどこ桃ちゃんメインの同人誌出てほしい……ほんまみんなたのむで……。

第2位『ミュージック・アワー』作者:なな(腰洗荘)

  • 初出:ぱんっあ☆ふぉー!8 (2016/9/11)

この方は他にも『Ladyspiker』『バトルクライ』などのエモーショナルガルパンまんがを描いていますが、その中でも特にキドキしながら読んでいた『ミュージック・アワー』がついに紙媒体リリース! その当時は鼻息がとても荒くなっていました。ウサギさんチームはもちろん大好きなのですが澤梓の佳さがここまでやるかってくらいに全開で引き出されています。ちなみに筆者がガルパンまんがを描こうと思い立ったのはこのガルパンまんががきっかけでした。

第1位『喇叭は今日も鳴る』作者:チョモラン(夢と狂気のチョモラン王国)

叙情的な表紙の通り最初の一編は継続メイン回なのですが、最後に西住みほと河嶋桃の最強タッグ『冬来たりなば』が収録されていますこたつシーンやヨッパライシーンがあるため、冬場に読み返すとまたいちだんと空気が澄んできます夏コミときにこれをスッと買えたからよかったけれど、ぱんっあ8ではオンリーイベントで見たことのない長蛇の列が数時間続いていた光景が目に焼き付いており、これを書いている今も冬コミのさおまこ新刊が買えるのか不安で眠れません。

おわりに

以上、駆け足ですがガールズ&パンツァー同人誌オブジイヤー2016をお送りしました! 見事に百合同人ばっかりになってしまいましたね……冬コミもいっぱい買えるといいけど! なんで2日目なの!!

アレがないとかガルパン同人モグリかよなどのご意見お待ちしております。できるだけ買っていきたい。

2016-01-13

Leaving the City / 街を離れて

関連:「 Sapokanikan /サポカニカン(タバコ畑)」

干し草と清潔な牛小屋

それと庭の壁を覆うツタ

それと「売却済」の札

それと古いコートと悪い風邪

私はあなたを信じている

あなたは私を信じていますか?

あなたは何をしたい?

一緒に街を出ようか?

黒い歩道を歩き

黄金色麦畑を抜けて

その畑が耕されるあいだに

私たちに許されしことのほうへ

ろくに働かない手が馬勒をひく

そしてあなたキャンターからトロット

ゆっくりと停止するために

もつあいきれなくて、私たちは早馬に揺られて不能になる

強く打てば打つほど、深く深く窪んでいく

私たち名前を捜し、名声を求める

私達の心に、嵌めこまれた窓ガラス

すべてを支配しようとする

から色を落として、お金を吸い上げて

私達の財布から*1

あなた長生きすればするほど、家賃も高く高くなっていく

ほの暗い空のもと

赤い納屋のそば

白い雲のし

すべては私たちに許されしもの

ああ、光が見える

大鎌が振るわれ、

魂を刈り取るだろう*2

終末まで残りを指折り数えて

今年の十二月

天啓がここにいた彼女のことを告げた*3

陽が短くなってきていた

彼女が地に降りてきていたのなら

私は私の地を抱擁しただろうに

彼らが告げたのは

過ぎゆく時の変化

それに春には牧場に茂る草*4

それに眠れない夜明

すべては私の冬の窓に積もる

そして私は裂かれた光を見たせいで

もつけなくなった

逃走する彼女割れ目*5は空へと離陸する

溢れ続ける陽光、輝いて漏れだす光*6

夜を漂白して迎える払暁

私たちの奮闘ののち、陽が高く昇り

魂を刈り取る

終わるべき命と知るならば

それが私の望むすべて

私の痩せこけた魂がひきずられていく

私たちに許されしことのもとへ

私たちに許されしことのもとへ


---

*1.Bleach a collar, leech a dollar/From our cents: 「襟を漂白する(Bleach a collar)」とは、ブルーワーカーからホワイトカラーへ職替えするという意味

*2.死神イメージ

*3.ここでいう「彼女」はおそらく前出の死神を指す。一般に死神代名詞として「彼女」は用いないが、その昔ペストだけは例外的に「彼女」と呼ばれたという。

*4.weeping grass オセアニア東南アジア原産

*5. fissure 明らかに女性器を指している

*6. unstaunched daylight, brightly bleeding 陽の光を出血と重ねあわせている

2014-08-25

幻想世界より

 空は奇妙な色に霞んでいた。

 夕焼けと青が混じり合ったような色だ。一体何でこんな色合いになるのかは僕には分からない。

 それぐらい奇妙な色だった。


 ところで、僕のことについて語ろうと思う。

 僕は、一つの人形だった。

 いつのまにか、僕はこの世界存在していて、そして、今もなお存在し続けている。

 どれくらいの間、こうしているのかは分からない。


 ともかくも、僕は今麦畑の中を進んでいた。

 麦畑は、僕の身長よりも高い穂で埋め尽くされていて、とてもじゃないけれど遠くまでを見ることはできなかった。

 だから、僕はその茎の一つ一つを掻き分けながら進まなければならなかったのだ。

 そんな作業を、ずっと前から続けていた。

 どれくらい昔から続けているのかもやはり分からない。

 この世界では、時間なんてもの存在していないのとほとんど同じなのである


 そんな具合に僕が麦を掻き分ける作業を続けていると、どこか遠くから、ぱきぱき、ぱきぱき、という、聞き覚えのある音が聞こえてきていた。

 その音は、どんどんと僕の方に近付いてくるようだった。

 音は大きくなりつつあった。

 僕には、一体この後何が起こるのかがはっきりと分かっていた。

 彼女がこちらへと近付いているのだ、と僕は思う。これもまた、何度となく繰り返したことだった。

 そして、その音は遂に間近へと迫った。

 僕は、ゆっくり視線を上げて、そこに存在している影の方を眺めた。

 そこには予想通りの光景存在している。

 麦と麦の穂の間から彼女は、いつも通りの笑顔を浮かべて、こちらを見下ろしていた。

 いつも通りに、白いワンピースを着た少女だった。栗色をした長い髪が、ほとんど腰のところにまで達している。ブラウンの大きな瞳をしていた。

 彼女は僕の方を暫く眺めていたのだけれど、その後、彼女一方的に踵を返して、僕へと背を向けた。そして、僕から遠ざかる形で歩き始めた。

 でも、その歩みはゆっくりとしたものだ。

 十分に僕が付いてこれるくらいの、それぐらいの歩調で、僕の視界を覆っている麦を倒しながら彼女は歩いていた。

 その度、ぱきぱき、ぱきぱき、という音が断続的に響き渡っていた。


 僕達はそれをずっと続けていた。

 ずっとだ。

 歩き続けていた。

 ずっと歩き続けていた。


 いつになれば、辿り着けるのだろう、と思う。

 いつかはきっと、辿り着けるのだろうか、と思う。

 でも、とにかく僕達は歩き続けている。

 ゆっくりゆっくりと歩き続けていた。

2014-07-17

幻想世界より

 空は奇妙な色に染まっている。

 茜色のようで、そうではなく、かといって青でもなく、茜と青の中間でもない――そういう色だった。

 天頂は青なのだが、その周囲に赤が時折交じる、というパターンの色合いだった。

 その空の下に、見渡すばかりの麦畑が広がっている。

 ――いや、正確に言うならば、僕はその麦畑を見渡すことはできないのだけれど。


 ところで、この世界が一体何なのかについて敢えて僕は語るまいと思う。

 何故なら、そもそも僕自身それをきちんと理解できていないし、それに、仮に理解できたとして、それは誰かに説明できるような代物ではないことくらい、僕にだって分かるからだ。

 だから、この世界がどういう存在なのかについて語る代わりに、僕は僕自身のことについて語ろうと思う。


 僕の身長はとても低い。

 だから、僕はその麦の穂をすら、見上げることしかできない。

 というか――そもそも僕にはほとんど何もできない。

 僕には、できることの方が少ない。

 僕には様々なものが欠けていた。

 例えば、周囲に立ち込めているであろう、麦の香を嗅ぐこともできなかった。

 僕は不完全なのだ

 僕は、この視界を埋め尽くしている麦の茎の間を、すり抜けるようにして歩いていた。

 だから、度々僕は立ち止まることになった。目の前を塞いでいる麦の所為で、先に進むことができなかったのだ。

 そんな折には、僕は方向を変えて、別のルートで進むことができるかを試すのだった。それを何度も続けていた。どれくらいの時間そうしていたのかは、分からない。元より、時間などあってないのと同じようなものだった。

 だから、僕が自分の作業に没頭していた状態から目覚めたのは、ぱき、ぱき、という麦の茎の折れる音を聞いてからだった。

 僕は、長い間その足音を見失っていた。

 そして、その足音に追いつこうとしていた。

 それほど長い時間ではなかったけれど、とにかく僕は一人ぼっちになっていた。この麦畑に足を踏み入れたのと、ほとんど時を同じくして僕達ははぐれたのであった。

 そういうことだったので、麦の穂と穂の間の空間――そこからは奇妙な色の空が見える――から彼女が顔を出した時、僕は正直なところほっとしていた。

 そして、それは多分彼女の方でも同じだったのではないか、と思う。彼女は、笑みを浮かべていた。柔らかく目を細めて、僅かに口角を緩めていた。

 彼女は、僕の前にまでやってくると、丁度、僕の眼前を塞いでいた麦の穂を、ぱきぱきと折ってくれた。

 そうやって、彼女は僕の前の道を開いてくれた。

 僕は、素直に感謝しながら、続けざまに道を作ってくれている彼女の後ろに、付いていった。

 ずっと昔からこんなことを続けていた。

 麦畑に入ったのは、それほど前のことではない。

 本当に大した時間ではない、それこそ、一粒の露が乾く程度の時間しかない。

 それでも、僕達はどこにも行けない存在だった。

 歩いているけれど、歩いてなどいないのだ。

 僕達は不完全だった。

 彼女もそうだった。

 僕達は。


 でも、いつかは、僕達はこの麦畑を抜けることができる。

 その確信は常にあった。

 僕達は別の世界に渡ることができるのだ。

 彼女も、僕も、そう信じていた。

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